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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】抗トランスサイレチン抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220131BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220131BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P25/28
A61P9/00
A61P19/00
A61P19/02
A61P21/00
A61P27/02
A61P29/00 101
C12Q1/02
G01N33/53 D
C07K16/18
C12P21/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018568216
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 IB2017053987
(87)【国際公開番号】W WO2018007923
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-06-30
(31)【優先権主張番号】15/201,416
(32)【優先日】2016-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513250798
【氏名又は名称】プロセナ バイオサイエンシーズ リミテッド
【住所又は居所原語表記】77 Sir John Rogerson’s Quay, Block C Grand Canal Docklands, Dublin 2, DO2 VK60, Ireland
(73)【特許権者】
【識別番号】507148294
【氏名又は名称】ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ニハル,ターロチャン エス.
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバーティー,アビジット
(72)【発明者】
【氏名】ヒガキ,ジェフェリー エヌ.
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0056904(US,A1)
【文献】国際公開第2016/120809(WO,A1)
【文献】Amyloid, 2016.3, Vol.23, No.2, pp.86-97
【文献】Synovial deposition of wild-type transthyretin-derived amyloid in knee joint osteoarthritis patients,信州医誌, 2014, Vol. 62, pp.329-330
【文献】Modern Pathology, 2015, Vol.28, pp.201-207
【文献】JCI insight, 2016.2, Vol.1, No.2, #e85633
【文献】Human Pathology, 2011, Vol.42, pp.1259-1264
【文献】Scientific Reports, 2016.4, Vol.6, #25080
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00 - 39/44
C07K 1/00 - 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを治療または予防するための、医薬組成物であって、前記医薬組成物は、抗体を含み、前記抗体は、トランスサイレチンを特異的に結合するヒト化抗体であり、かつ前記抗体は、配列番号9の成熟重鎖可変領域と配列番号17の成熟軽鎖可変領域とを含み、前記トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスは、運動選手もしくは有酸素運動を実施している他の者における心筋症または心肥大、脊柱管狭窄症、変形性関節症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、加齢黄斑変性、および靭帯または腱障害のいずれかから選択される病態と関連する、医薬組成物。
【請求項2】
前記抗体は、ヒトIgG1アイソタイプを有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体は、ヒトIgG2アイソタイプまたはヒトIgG4アイソタイプを有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗体は、インタクト抗体である、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗体は、結合フラグメントである、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記結合フラグメントが一本鎖抗体フラグメント、Fabフラグメント、またはFab’ フラグメントである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ヒト化抗体の成熟軽鎖可変領域が軽鎖定常領域に融合されており、かつ前記ヒト化抗体の成熟重鎖可変領域が重鎖定常領域に融合されている、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記重鎖定常領域が、天然ヒト重鎖定常領域に比してFcγ受容体への低下した結合を有する前記天然ヒト重鎖定常領域の変異体である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記重鎖定常領域がIgG1アイソタイプのものである、請求項またはに記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ヒト化抗体の成熟重鎖可変領域がC末端リジンの有無を問わず配列番号26の配列を有する重鎖定常領域に融合されており、かつ/または前記ヒト化抗体の成熟軽鎖可変領域が配列番号28の配列を有する軽鎖定常領域に融合されている、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
対象中のトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを検出するin vitroの方法であって、前記方法は、前記対象由来の生体試料を有効量のトランスサイレチンを特異的に結合する抗体と接触させ、トランスサイレチンへの抗体の結合を検出し、かつ前記生体試料への前記抗体の結合を対照試料への前記抗体の結合と比較することを含み、それにより前記対照試料に比して前記生体試料への前記抗体の増大した結合が、前記対象がトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有することを示し、前記抗体は、トランスサイレチンを特異的に結合するヒト化抗体でありかつ配列番号9の成熟重鎖可変領域と配列番号17の成熟軽鎖可変領域とを含み、前記トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスは、運動選手もしくは有酸素運動を実施している他の者における心筋症または心肥大、脊柱管狭窄症、変形性関節症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、加齢黄斑変性、および靭帯または腱障害のいずれかから選択される病態と関連する、方法。
【請求項12】
前記生体試料と前記対照試料が同じ組織起源の細胞を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生体試料および/または前記対照試料が血液、血清、血漿、または固形組織である、請求項11または12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記固形組織が心臓、末梢神経系、自律神経系、腎臓、眼球、または消化管由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスが前記対象の心臓、末梢神経系、自律神経系、腎臓、眼球、または消化管でのアミロイド蓄積と関連する、請求項1114のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年7月2日に出願された米国特許出願第15/201,416号に対する優先権を主張し、2015年1月28日に出願された米国仮特許出願第62/109,001号および2015年12月11日に出願された米国仮特許出願第62/266,557号の利益を主張する、2016年1月28日に出願された米国特許出願第15/009,666号に関連するものであり、上記出願はそれぞれ、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
配列表の参照
本願には、ファイル名498968_SEQLST.txt、作成日2017年6月29日、容量70,737バイトの電子配列表が含まれ、この配列表は、その全体があらゆる目的において参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
疾患特異的タンパク質のフォールディングおよび凝集の異常が原因であると考えられている疾患がいくつかある。このようなタンパク質は、アミロイドとして知られる病理診断的な蓄積物として蓄積することがあり、特定の組織学的染色によって可視化される。アミロイドは、炎症性応答を誘発すると考えられており、関係のある組織に複数の負の結果をもたらす。さらに、フォールディングが異常なタンパク質の小さい凝集体が存在し細胞毒性効果をもたらすこともある。
【0004】
トランスサイレチン(TTR)は、ミスフォールドして凝集する(例えば、アミロイドを形成する)ことが知られている多数のタンパク質の1つである。トランスサイレチン関連アミロイドーシスには、変異TTRまたはバリアントTTRのミスフォールディングによって生じる家族性疾患および野生型TTRの不適切な凝集を原因とする孤発性非遺伝性疾患の2つの形態の疾患が含まれる。TTRアミロイド形成の過程で、神経系および/または心臓ならびにそれ以外の組織に病態が生じることがある。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本発明は、実質的に抗体6C1に由来する3つの重鎖CDRと3つの軽鎖CDRとを含む、トランスサイレチンを特異的に結合する抗体を提供する。いくつかの上記の抗体は、抗体6C1の3つのKabat重鎖CDR(それぞれ配列番号10~12)と3つの軽鎖CDR(それぞれ配列番号18~20)とを含む。いくつかの抗体では、重鎖CDR-H1はKabat-Chothia CDR-H1複合体(配列番号63)である。いくつかの上記の抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの上記の抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ベニヤ化(veneered)抗体、またはヒト抗体である。いくつかの上記の抗体はヒトIgG1アイソタイプを有する。いくつかの上記の抗体は、ヒトIgG2アイソタイプまたはヒトIgG4アイソタイプを有する。
【0006】
いくつかの上記の抗体は、トランスサイレチンに特異的に結合するヒト化6C1抗体またはキメラ6C1抗体であり、6C1は配列番号1の成熟重鎖可変領域および配列番号13の成熟軽鎖可変領域を特徴とするマウス抗体である。
【0007】
いくつかの抗体では、ヒト化成熟重鎖可変領域は6C1の3つの重鎖CDRを含み、ヒト化成熟軽鎖可変領域は6C1の3つの軽鎖を含む。いくつかの抗体では、ヒト化成熟重鎖可変領域は6C1の3つのKabat重鎖CDR(配列番号10~12)を含み、ヒト化成熟軽鎖可変領域は6C1の3つのKabat軽鎖CDR(配列番号18~20)を含む。
【0008】
いくつかの抗体では、ヒト化成熟重鎖可変領域は配列番号9に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有し、ヒト化成熟軽鎖可変領域は配列番号17に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、H77位がTによって占められている。いくつかの上記の抗体では、H49位がAによって占められている。いくつかの上記の抗体では、H76位およびH82(a)位がSによって占められている。いくつかの上記の抗体では、H49位がAによって占められている。いくつかの上記の抗体では、H19位、H44位、H83位、およびH89位が、それぞれK、R、K、およびMによって占められている。いくつかの上記の抗体では、H49位がAによって占められている。いくつかの上記の抗体では、L45位がKによって占められている。いくつかの上記の抗体では、L2位がVによって占められている。
【0009】
いくつかの抗体は、配列番号9に少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する成熟重鎖可変領域と、配列番号17に少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する成熟軽鎖可変領域とを含む。いくつかの抗体は、配列番号9に少なくとも98%同一のアミノ酸配列を有する成熟重鎖可変領域と、配列番号17に少なくとも98%同一のアミノ酸配列を有する成熟軽鎖可変領域とを含む。
【0010】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号4のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号5のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号6のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号9のアミノ酸配列を有する。
【0011】
いくつかの上記の抗体では、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0012】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号4のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号4のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0013】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号5のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号5のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0014】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号6のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号6のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0015】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0016】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0017】
いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号9のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域が配列番号9のアミノ酸配列を有し、成熟軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0018】
いくつかの抗体では、抗体はインタクト抗体である。いくつかの抗体では、抗体は結合フラグメントである。いくつかの抗体では、抗体は一本鎖抗体フラグメント、Fabフラグメント、またはFab’2フラグメントである。
【0019】
いくつかの抗体では、成熟軽鎖可変領域が軽鎖定常領域に融合され、成熟重鎖可変領域が重鎖定常領域に融合される。いくつかの上記の抗体では、重鎖定常領域は、天然ヒト重鎖定常領域に比してFcγ受容体への結合が低下した天然ヒト重鎖定常領域の変異体である。いくつかの上記の抗体では、重鎖定常領域は、IgG1アイソタイプのものである。いくつかの上記の抗体では、成熟重鎖可変領域は、配列番号26の配列を有する重鎖定常領域に融合し、かつ/または成熟軽鎖可変領域は、配列番号28の配列を有する成熟軽鎖可変領域に融合している。
【0020】
いくつかの抗体では、それぞれ配列番号1および13由来の成熟重鎖可変領域および成熟軽鎖可変領域CDRでの差はいずれも、H60位~H65位にある。
【0021】
別の態様では、本発明は、上記のいずれかの抗体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、上記のいずれかの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸を提供する。別の態様では、本発明は、このような核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。別の態様では、本発明は、このような組換え発現ベクターで形質転換した宿主細胞を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、抗体をヒト化する方法であって、
(a)アクセプター抗体を選択することと、
(b)保持されるべきマウス抗体のアミノ酸残基を特定することと、
(c)マウス抗体重鎖のCDRを含むヒト化重鎖をコードする核酸およびマウス抗体軽鎖のCDRを含むヒト化軽鎖をコードする核酸を合成することと、
(d)核酸を宿主細胞内で発現させてヒト化抗体を作製することと
を含み、
マウス抗体が配列番号1のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と配列番号13のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含む、方法を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはベニヤ化(veneered)抗体を作製する方法であって、
(a)細胞が抗体を分泌するように、抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸で形質転換した細胞を培養することと、
(b)細胞培地から抗体を精製することと
を含み、
抗体がヒト化型、キメラ型、またはベニヤ化(veneered)型の6C1である、方法を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはベニヤ化(veneered)抗体を産生する細胞系を作製する方法であって、
(a)細胞内に抗体の重鎖および軽鎖と選択マーカーとをコードするベクターを導入することと、
(b)ベクターのコピー数が増加した細胞を選択する条件下で細胞を増殖させることと、
(c)選択された細胞から単一の細胞を単離することと、
(d)抗体の産生量に基づいて選択された単一の細胞からクローン化した細胞をバンク化することと
を含み、
抗体がヒト化型、キメラ型、またはベニヤ化(veneered)型の6C1である、方法を提供する。
【0026】
いくつかの上記の方法は、細胞を選択条件下で増殖させることと、24時間で細胞10個当たり少なくとも100mg/Lを天然に発現し分泌する細胞系をスクリーニングすることをさらに含む。
【0027】
別の態様では、本発明は、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有するかこれを発現するリスクのある対象中のトランスサイレチンの凝集を阻害または軽減する方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施し、それにより対象中のトランスサイレチンの凝集を阻害または軽減することを含む、方法を提供する。
【0028】
上記のいずれかの方法では、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスは、心筋症または心肥大、家族性アミロイドニューロパチー、中枢神経系選択性アミロイドーシス(CNSA)、老人性全身性アミロイドーシス、老人性心アミロイドーシス、脊柱管狭窄症、変形性関節症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、黄斑変性症および靭帯または腱障害のいずれかから選択される病態と関連し得る。
【0029】
本発明はさらに、心筋症または心肥大、家族性アミロイドニューロパチー、中枢神経系選択性アミロイドーシス(CNSA)、老人性全身性アミロイドーシス、老人性心アミロイドーシス、脊柱管狭窄症、変形性関節症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、黄斑変性症および靭帯または腱障害のいずれかを有するか、またはそれらのリスクがある対象を治療する方法であって、いずれか1つの請求項の抗体の有効なレジメンを対象に実施することを含む、方法を提供する。
【0030】
別の態様では、本発明は、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有するかこれを発現するリスクのある対象中のトランスサイレチン原線維形成を阻害または軽減する方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施し、それにより対象中のトランスサイレチン蓄積を阻害または軽減することを含む、方法を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有するかこれを発現するリスクのある対象中のトランスサイレチン沈着物を減少させる方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施し、それにより対象中のトランスサイレチン沈着物を減少させることを含む、方法を提供する。
【0032】
別の態様では、本発明は、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有するかこれを発現するリスクのある対象中の凝集トランスサイレチンを除去する方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施し、それにより、抗体を投与していないトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有するかこれを発現するリスクのある対象に比して対象から凝集トランスサイレチンを除去することを含む、方法を提供する。
【0033】
別の態様では、本発明は、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスを有するかこれを発現するリスクのある対象中の非毒性立体構造のトランスサイレチンを安定化させる方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施し、それにより対象中の非毒性立体構造のトランスサイレチンを安定化させることを含む、方法を提供する。
【0034】
別の態様では、本発明は、対象中のトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスの治療または予防する方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施することを含む、方法を提供する。
【0035】
別の態様では、本発明は、対象中のトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスの発症を遅らせる方法であって、対象に上記のいずれかの抗体の有効なレジメンを実施することを含む、方法を提供する。
【0036】
別の態様では、本発明は、対象中のトランスサイレチン介在性のるアミロイドーシスを診断する方法であって、対象由来の生体試料を有効量の上記のいずれかの抗体と接触させることを含む、方法を提供する。いくつかの上記の方法は、トランスサイレチンへの抗体の結合を検出することをさらに含み、結合した抗体の存在が対象にトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスがあることを示す。いくつかの上記の方法は、生体試料への抗体の結合を、対照試料への抗体の結合と比較することをさらに含み、生体試料への抗体の結合が対照試料に比して増大していることが対象にトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスがあることを示す。
【0037】
いくつかの上記の方法では、生体試料と対照試料は、同じ組織起源の細胞を含む。いくつかの上記の方法では、生体試料および/または対照試料は、血液、血清、血漿、または固形組織である。いくつかの上記の方法では、固形組織は、心臓、末梢神経系、自律神経系、腎臓、眼球、または消化管に由来する。
【0038】
いくつかの方法では、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスは、家族性トランスサイレチンアミロイドーシスまたは孤発性トランスサイレチンアミロイドーシスである。いくつかの上記の方法では、家族性トランスサイレチンアミロイドーシスは、家族性アミロイド心筋症(FAC)、家族性アミロイドニューロパチー(FAP)、または中枢神経系選択性アミロイドーシス(CNSA)である。いくつかの上記の方法では、孤発性トランスサイレチンアミロイドーシスは、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)または老人性心アミロイドーシス(SCA)である。
【0039】
いくつかの方法では、トランスサイレチン介在性のアミロイドーシスは、対象の心臓、末梢神経系、自律神経系、腎臓、眼球、または消化管へのアミロイド蓄積と関連する。
【0040】
別の態様では、本発明は、対象中のトランスサイレチン沈着物の有無を検出する方法であって、アミロイド蓄積を有することが疑われる対象由来の生体試料を、有効量の上記のいずれかの抗体と接触させることを含む、方法を提供する。いくつかの上記の方法は、トランスサイレチンへの抗体の結合を検出することをさらに含み、結合した抗体の検出がトランスサイレチン沈着物の存在を示す。いくつかの上記の方法は、生体試料への抗体の結合を、対照試料への抗体の結合と比較することをさらに含み、生体試料への抗体の結合が対照試料に比して増大していることが、対象にトランスサイレチン介在性のアミロイドーシスがあることを示す。いくつかの上記の方法では、生体試料と対照試料は、同じ組織起源の細胞を含む。いくつかの上記の方法では、生体試料および/または対照試料は、血液、血清、血漿、または固形組織である。いくつかの上記の方法では、固形組織は、心臓、末梢神経系、自律神経系、腎臓、眼球、または消化管に由来する。
【0041】
別の態様では、本発明は、対象中のトランスサイレチン沈着物のレベルを決定する方法であって、上記のいずれかの抗体を投与することと、対象中の結合した抗体の存在を検出することとを含む。いくつかの上記の方法では、結合した抗体の存在を陽電子放射断層撮影法(PET)によって決定する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】マウス6C1抗体、マウスモデル抗体、ヒトアクセプター抗体、およびヒト化型6C1抗体の重鎖可変領域のアライメントを示す図である。Kabatによって定義されるCDRが四角で囲われており、例外的に最初の四角で囲われた部分はChothia CDR-H1とKabat CDR-H1の複合体であり、下線が施された太字の部分がKabat CDR-H1である。
図2】マウス6C1抗体、マウスモデル抗体、ヒトアクセプター抗体、およびヒト化型6C1抗体の軽鎖可変領域のアライメントを示す図である。Kabatによって定義されるCDRが四角で囲われている。
図3A図3Aは、ph4処理TTRに対するマウス5A1抗体、6C1抗体、9D5抗体、および14G8抗体の結合曲線を示す図である。
図3B図3Bは、ph4処理TTRまたは天然TTRに対するマウス5A1抗体、6C1抗体、9D5抗体、および14G8抗体の結合曲線を示す図である。
図4A図4Aは、mis-TTR抗体によるTTR-Y78F線維形成の阻害を示す図である。
図4B図4Bは、14G8によるTTR-V122I線維形成の阻害を示す図である。
図4C図4Cは、対照抗体によるTTR-V122I線維形成の阻害を示す図である。
図5A図5Aは、9D5 mis-TTR抗体を用いた、V30M ATTRが確認された患者由来の血漿試料(試料番号21、22、23、24、25および27)および正常対象由来の試料(試料番号11、12、15、18、19、20)のウエスタンブロット解析のデンシトメトリー解析を示す図である。
図5B図5Bは、5A1 mis-TTR抗体を用いた同じ試料のウエスタンブロット解析のデンシトメトリー解析を示す図である。
図6】6C1抗体を用いた、V30M ATTRが確認された患者由来の血漿試料(試料番号21、22、23、24、25、27)および正常対象由来の試料(番号11、12、15、18、19、20)のMesoScale Discovery(MSD)プレートアッセイを示す図である。
図7A図7Aは、THP-1細胞によるF87M/L110M TTR取込みに対する抗体14G8の効果を示す図である。
図7B図7Bは、THP-1細胞によるV30M TTR取込みに対する各mis-TTR抗体の効果を示す図である。
図8】TEMおよびAFMを用いて評価されるように14G8がTTR-V122I原線維末端におよびオリゴマー凝集体に結合することを示す図である。14G8による免疫金標識がTTR-V122Iオリゴマー凝集体および原線維末端で観察された(図8A)のに対し、抗TTR pAbによる免疫金標識は、TTR線維の長さに沿った結合およびオリゴマークラスターへの結合を示した(図8B)。IgG1アイソタイプ対照mAbは免疫金標識を示さなかった(図8C)。AFMを用いてTTR-V122I線維を単独で、および14G8±6nmコロイド金コンジュゲート二次抗体の存在下で評価した。金標識は線維末端で観察された(図8D)。
図9A】ITCを用いて評価される14G8と成熟TTR-V122I原線維の相互作用が2結合部位モデルに一致することを示す図である。凝集TTRバリアントへの14G8の結合に関するITCデータおよび結合等温線を図8Aに示す。
図9B】結合は2結合部位モデルにフィットし、示されるKD値を有した(図8B)。
図10】TTR-V30M変異に起因するATTRアミロイドーシスの患者の神経束の線維間に存在する14G8で免疫標識されたTTRアミロイドを示す図である。図10Aのパネル1および2は、ATTRアミロイドーシスの患者に由来する組織での神経束の線維間のアミロイドを示し、それはコンゴー赤(図8Bのパネル1および2)およびチオフラビンT(図10Cのパネル1および2)による染色、ならびに全TTR抗体による免疫標識(図10D)と重複した。2種類のアイソタイプ対照抗体の使用では染色がみられなかった(図10E~10F)が、TTRアミロイド沈着物が含まれる領域での軸索変性(シュワン細胞核の欠如)も観察された(図10E~10F[6E中の赤色の領域])。健常対照からの末梢神経は、14G8を使用しても全TTR抗体を使用しても標識されなかった(図10Gのパネル1~3)。
図11】抗体14G8がTTR-C30Mアミロイドーシスの患者に由来する消化管のTTRアミロイドを免疫標識することを示す図である。図11A、11Bのパネル1は、食道でのマイスナー神経叢および腺を示し、図11Cのパネル1は、粘膜下組織の豊富な脈管床を示し、図11Dのパネル1は、コンゴー赤蛍光染色(図11A~11Dのパネル2)と重ね合わせた固有筋層(MP)および粘膜筋板の14G8陽性TTRアミロイドを示す。図11A~11Dのパネル3は、アイソタイプ対照mAb 14G8免疫反応性で染色されるATTRアミロイドーシス組織が健常対照組織には存在しなかったことを示す(図11のパネル1~4)。(発明を実施するための形態)
【発明を実施するための形態】
【0043】
配列の簡単な説明
配列番号1は、マウス6C1抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を表す。
【0044】
配列番号2は、マウス重鎖可変領域構造の鋳型のアミノ酸配列を表す。
【0045】
配列番号3は、重鎖可変アクセプターアクセッション番号ADX65650のアミノ酸配列を表す。
【0046】
配列番号4は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン1(Hu6C1VHv1)のアミノ酸配列を表す。
【0047】
配列番号5は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン1b(Hu6C1VHv1b)のアミノ酸配列を表す。
【0048】
配列番号6は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン2(Hu6C1VHv2)のアミノ酸配列を表す。
【0049】
配列番号7は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン2b(Hu6C1VHv2b)のアミノ酸配列を表す。
【0050】
配列番号8は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン3(Hu6C1VHv3)のアミノ酸配列を表す。
【0051】
配列番号9は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン3b(Hu6C1VHv3b)のアミノ酸配列を表す。
【0052】
配列番号10は、マウス6C1抗体のKabat CDR-H1のアミノ酸配列を表す。
【0053】
配列番号11は、マウス6C1抗体のKabat CDR-H2のアミノ酸配列を表す。
【0054】
配列番号12は、マウス6C1抗体のKabat CDR-H3のアミノ酸配列を表す。
【0055】
配列番号13は、マウス6C1抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を表す。
【0056】
配列番号14は、マウス軽鎖可変領域構造の鋳型のアミノ酸配列を表す。
【0057】
配列番号15は、軽鎖可変アクセプターアクセッション番号ABI74084のアミノ酸配列を表す。
【0058】
配列番号16は、ヒト化6C1抗体の軽鎖可変領域バージョン1(Hu6C1VLv1)のアミノ酸配列を表す。
【0059】
配列番号17は、ヒト化6C1抗体の軽鎖可変領域バージョン2(Hu6C1VLv2)のアミノ酸配列を表す。
【0060】
配列番号18は、マウス6C1抗体のKabat CDR-L1のアミノ酸配列を表す。
【0061】
配列番号19は、マウス6C1抗体のKabat CDR-L2のアミノ酸配列を表す。
【0062】
配列番号20は、マウス6C1抗体のKabat CDR-L3のアミノ酸配列を表す。
【0063】
配列番号21は、シグナルペプチドを有するマウス6C1抗体の重鎖可変領域をコードする核酸配列を表す。
【0064】
配列番号22は、シグナルペプチドを有するマウス6C1抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を表す。
【0065】
配列番号23は、シグナルペプチドを有するマウス6C1抗体の軽鎖可変領域をコードする核酸配列を表す。
【0066】
配列番号24は、シグナルペプチドを有するマウス6C1抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を表す。
【0067】
配列番号25は、例示的IgG1重鎖定常領域のアミノ酸配列を表す。
【0068】
配列番号26は、例示的IgG1 G1m3重鎖定常領域のアミノ酸配列を表す。
【0069】
配列番号27は、例示的IgG1 G1m3重鎖定常領域のアミノ酸配列を表す。
【0070】
配列番号28は、末端アルギニンを有する例示的軽鎖定常領域のアミノ酸配列を表す。
【0071】
配列番号29は、末端アルギニンを有さない例示的軽鎖定常領域のアミノ酸配列を表す。
【0072】
配列番号30は、ヒト化6C1抗体の重鎖領域バージョン1のアミノ酸配列を表す。
【0073】
配列番号31は、ヒト化6C1抗体の重鎖領域バージョン1bのアミノ酸配列を表す。
【0074】
配列番号32は、ヒト化6C1抗体の重鎖領域バージョン2のアミノ酸配列を表す。
【0075】
配列番号33は、ヒト化6C1抗体の重鎖領域バージョン2bのアミノ酸配列を表す。
【0076】
配列番号34は、ヒト化6C1抗体の重鎖領域バージョン3のアミノ酸配列を表す。
【0077】
配列番号35は、ヒト化6C1抗体の重鎖領域バージョン3bのアミノ酸配列を表す。
【0078】
配列番号36は、ヒト化6C1抗体の軽鎖領域バージョン1のアミノ酸配列を表す。
【0079】
配列番号37は、ヒト化6C1抗体の軽鎖領域バージョン2のアミノ酸配列を表す。
【0080】
配列番号38は、アクセッション番号P02766.1(UniProt)で表されるヒトトランスサイレチンのアミノ酸配列を表す。
【0081】
配列番号39は、アクセッション番号AAB35639.1(GenBank)で表されるヒトトランスサイレチンのアミノ酸配列を表す。
【0082】
配列番号40は、アクセッション番号AAB35640.1(GenBank)で表されるヒトトランスサイレチンのアミノ酸配列を表す。
【0083】
配列番号41は、アクセッション番号およびABI63351.1(GenBank)で表されるヒトトランスサイレチンのアミノ酸配列を表す。
【0084】
配列番号42は、ヒトトランスサイレチンの残基89~97のアミノ酸配列を表す。
【0085】
配列番号43は、潜在的トランスサイレチン免疫原のアミノ酸配列を表す。
【0086】
配列番号44は、潜在的トランスサイレチン免疫原のアミノ酸配列を表す。
【0087】
配列番号45は、潜在的トランスサイレチン免疫原のアミノ酸配列を表す。
【0088】
配列番号46は、例示的IgG1 G1m3重鎖定常領域をコードする核酸配列を表す。
【0089】
配列番号47は、末端アルギニンを有する例示的軽鎖定常領域をコードする核酸配列を表す。
【0090】
配列番号48は、末端アルギニンを有さない例示的軽鎖定常領域をコードする核酸配列を表す。
【0091】
配列番号49は、重鎖定常領域シグナルペプチドのアミノ酸配列を表す。
【0092】
配列番号50は、重鎖定常領域シグナルペプチドをコードする核酸配列を表す。
【0093】
配列番号51は、軽鎖定常領域シグナルペプチドのアミノ酸配列を表す。
【0094】
配列番号52は、軽鎖定常領域シグナルペプチドをコードする核酸配列を表す。
【0095】
配列番号53は、マウス6C1可変軽鎖領域をコードする核酸配列を表す。
【0096】
配列番号54は、マウス6C1可変重鎖領域をコードする核酸配列を表す。
【0097】
配列番号55は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン1(Hu6C1VHv1)をコードする核酸配列を表す。
【0098】
配列番号56は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン1b(Hu6C1VHv1b)をコードする核酸配列を表す。
【0099】
配列番号57は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン2(Hu6C1VHv2)をコードする核酸配列を表す。
【0100】
配列番号58は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン2b(Hu6C1VHv2b)をコードする核酸配列を表す。
【0101】
配列番号59は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン3(Hu6C1VHv3)をコードする核酸配列を表す。
【0102】
配列番号60は、ヒト化6C1抗体の重鎖可変領域バージョン3b(Hu6C1VHv3b)をコードする核酸配列を表す。
【0103】
配列番号61は、ヒト化6C1抗体の軽鎖可変領域バージョン1(Hu6C1VLv1)をコードする核酸配列を表す。
【0104】
配列番号62は、ヒト化6C1抗体の軽鎖可変領域バージョン2(Hu6C1VLv2)をコードする核酸配列を表す。
【0105】
配列番号63は、マウス6C1抗体のCDR-H1複合体(残基26~35)のアミノ酸配列を表す。
【0106】
定義
モノクローナル抗体をはじめとする生物学的実体は通常、単離形態で提供される。このことは、抗体をはじめとする生物学的実体が通常、その作製または精製から生じる妨害タンパク質をはじめとする夾雑物に対し純度が少なくとも50重量%であることを意味するが、モノクローナル抗体が、その使用を容易にすることを目的とする過剰の薬学的に許容される担体(1つまたは複数)をはじめとする媒体と組み合わされる可能性を排除するものではない。モノクローナル抗体は場合によっては、作製または精製から生じる妨害タンパク質をはじめとする夾雑物に対し純度が少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%または99重量%である。多くの場合、単離されたモノクローナル抗体をはじめとする生物学的実体は、その精製後に残っている主要な高分子種である。
【0107】
その標的抗原への抗体の特異的な結合とは、親和性が少なくとも10-1、10-1、10-1、10-1、または1010-1であることを意味する。特異的結合は、強度が検出可能により高く、少なくとも1つの無関係な標的に対して起こる非特異的結合と区別可能である。特異的結合は、特定の官能基の間の結合形成または特定の空間的嵌合(例えば、鍵-鍵穴型)の結果であり得るが、これに対し非特異的結合は通常、ファンデルワールス力の結果である。特異的結合はしかし、抗体がただ1つの標的のみを結合することを必ずしも意味しない。
【0108】
抗体の基本的な構造単位はサブユニットの四量体である。各四量体にはポリペプチド鎖の同一のペアが2組含まれており、各ペアは1つの「軽鎖」(約25kDa)と1つの「重鎖」(約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分には、主に抗原認識を担う約100~110以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。この可変領域は最初、切断可能なシグナルペプチドに連結されて発現する。シグナルペプチドを有さない可変領域を成熟可変領域と呼ぶこともある。したがって、例えば、軽鎖成熟可変領域は、軽鎖シグナルペプチドを有さない軽鎖可変領域を意味する。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を担う定常領域を定める。
【0109】
軽鎖はカッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、それぞれ抗体のアイソタイプIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定める。軽鎖および重鎖内では、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって可変領域と定常領域が連結され、重鎖はまた、約10個以上のアミノ酸の「D」領域も含む。全般的には、Fundamental Immunology,Paul,W.編,第2版,Raven Press,N.Y.,1989,第7章(その全体があらゆる目的において参照により組み込まれる)を参照されたい。
【0110】
免疫グロブリンの軽鎖可変領域または重鎖可変領域(本明細書ではそれぞれ「軽鎖可変ドメイン」(「VLドメイン」)または「重鎖可変ドメイン」(「VHドメイン」)とも呼ぶ)は、3つの「相補性決定領域」または「CDR」によって分断される「フレームワーク」領域からなる。「フレームワーク領域」には、抗原のエピトープへの特異的結合のためにCDRを整列させる役割がある。CDRは、主に抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を含む。VLドメインおよびVHドメインはともに、アミノ末端からカルボキシル末端へと、以下のフレームワーク(FR)領域およびCDR領域:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。VLドメインのCDR1、CDR2およびCDR3は、本明細書ではそれぞれCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3とも呼び、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3は、本明細書ではそれぞれCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3とも呼ぶ。
【0111】
各VLドメインおよびVHドメインへのアミノ酸の割当ては、従来のCDRの定義に準ずるものである。従来の定義としては、Kabatの定義(Kabat,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,MD,1987 and 1991)、Chothiaの定義(ChothiaおよびLesk,J.Mol.Biol.196:901-917,1987;Chothiaら,Nature 342:878-883,1989);CDR-H1がChothia CDRとKabat CDRの複合体であるChothia Kabat CDR複合体;Oxford Molecular社の抗体モデリングソフトウェアで使用されるAbM定義;およびMartinらの接触定義(contact definition)(bioinfo.org.uk/abs)が挙げられる(表1を参照されたい)。Kabatは、広く用いられている慣例的な番号付け(Kabat番号付け)を提供しており、この番号付けでは、異なる重鎖同士または異なる軽鎖同士で対応する残基に同じ番号を割り当てる。抗体が特定のCDRの定義(例えば、Kabat)によるCDRを含むと言う場合、その定義は抗体に存在するCDR残基の最小数を明記する(すなわち、Kabat CDR)。それは、別の従来のCDRの定義には当てはまるが、指定される定義には当てはまらない他の残基を排除するものではない。例えば、Kabatによって定義されるCDRを含む抗体としては、考え得る抗体のなかでもとりわけ、CDRにKabat CDR残基を含み他のCDR残基を含まない抗体および、CDR H1がChothia-Kabat CDR H1複合体であり他のCDRがKabat CDR残基を含み別の定義に基づく追加のCDR残基を含まない抗体が挙げられる。
【0112】
【表1】
ChothiaによるCDR-H1はH32、H33、またはH34で終わる可能性がある(ループの長さに応じて)。これは、Kabat番号付けスキームでは、余分な残基の挿入を35Aおよび35Bに位置付けるのに対し、Chothia番号付けでは、それを31Aおよび31Bに位置付けることによる。H35AおよびH35B(Kabat番号付け)がともに存在しない場合、Chothia CDR-H1ループはH32で終わる。H35Aのみが存在する場合、それはH33で終わる。H35AおよびH35Bがともに存在する場合、それはH34で終わる。
【0113】
「抗体」という用語は、「インタクト抗体」およびその結合フラグメントを包含する。フラグメントは通常、標的への特異的結合に関して元のインタクト抗体と競合し、分離した重鎖、分離した軽鎖、Fab、Fab’、F(ab’)、F(ab)c、Dab、ナノボディ、およびFvを含む。フラグメントは、組換えDNA技術により、またはインタクト免疫グロブリンの酵素的分離もしくは化学的分離によって作製できる。「抗体」という用語はまた、二重特異性抗体および/またはヒト化抗体も包含する。二重特異性抗体または二機能性抗体とは、2種類の異なる重鎖/軽鎖ペアと2種類の異なる結合部位とを有する人工ハイブリッド抗体である(例えば、SongsivilaiおよびLachmann,Clin.Exp.Immunol.,79:315-321(1990);Kostelnyら,J.Immunol.,148:1547-53(1992)を参照されたい)。いくつかの二重特異性抗体では、2種類の異なる重鎖/軽鎖ペアは、ヒト化6C1重鎖/軽鎖ペアと、6C1が結合するものとは異なるトランスサイレチン上のエピトープに対して特異的な重鎖/軽鎖ペアとを含む。
【0114】
いくつかの二重特異性抗体では、一方の重鎖/軽鎖ペアが、のちにさらに開示するヒト化6C1抗体であり、他方の重鎖/軽鎖ペアが、血液脳関門に発現する受容体、例えばインスリン受容体、インスリン様成長因子(IGF)受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、またはトランスフェリン受容体などに結合する抗体に由来する(Fridenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4771-4775,1991;Fridenら,Science 259:373-377,1993)。このような二重特異性抗体は、受容体介在型トランスサイトーシスによって血液脳関門を通過可能である。血液脳関門受容体に対するその親和性が低下するよう二重特異性抗体を設計することによって、二重特異性抗体の脳での取込みをさらに増大させることができる。受容体に対する親和性を低下させることによって、脳内にさらに広範囲に分布するという結果が得られている(例えば、Atwalら,Sci.Trans.Med.3,84ra43,2011;Yuら,Sci.Trans.Med.3,84ra44,2011を参照されたい)。
【0115】
例示的な二重特異性抗体はまた、(1)各軽鎖および重鎖が短いペプチド結合を介して2つの可変ドメインをタンデムに含む、二重可変ドメイン抗体(DVD-Ig)(Antibody Engineering,Springer Berlin Heidelberg(2010)のWuら,Generation and Characterization of a Dual Variable Domain Immunoglobulin(DVD-Ig(商標))Molecule);(2)各標的抗原に対して2つの結合部位を有する四価二重特異性抗体をもたらす2つの単一鎖ダイアボディの融合物である、Tandab;(3)scFvとダイアボディとを組み合わせて得られる多価分子であるフレキシボディ(flexibody);(4)Fabに適用すると、異なる1つのFabフラグメントに連結される2つの同一のFabフラグメントからなる三価二重特異性結合タンパク質をもたらす、プロテインキナーゼAでの「二量体化/ドッキングドメイン」を土台とする、いわゆる「ドック・アンド・ロック(dock and lock)」分子;または(5)例えばヒトFc領域の両端に融合される2つのscFvを含む、いわゆるScorpion分子であってよい。二重特異性抗体の調製に有効なプラットフォームの例としては、BiTE(Micromet社)、DART(MacroGenics社)、FcabおよびMab2(F-star社)、Fc操作IgG1(Xencor社)またはDuoBody(Fabアームの交換に基づくもの、Genmab社)が挙げられる。
【0116】
「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続するアミノ酸または1つまたは複数のタンパク質の三次フィールディングによって並列される非連続のアミノ酸から形成され得る。連続するアミノ酸から形成されるエピトープ(直線状エピトープとしても知られる)は通常、変性溶媒に曝露しても保持されるのに対し、三次フォールディングによって形成されるエピトープ(立体構造エピトープとしても知られる)は通常、変性溶媒で処理すると失われる。エピトープは通常、固有の空間的構造の少なくとも3個、より通常には少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を明らかにする方法としては、例えばX線結晶構造解析および2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Methods in Molecular Biology,第66巻,Glenn E.Morris編(1996)のEpitope Mapping Protocolsを参照されたい。エピトープは、例えば、配列番号38の2~5、3~5、3~9、または5~9の連続するアミノ酸からなるエピトープのような直線状であり得る。エピトープはまた、例えば、配列番号38の残基89~97内のアミノ酸の2つ以上の非連続セグメントを含む立体構造エピトープであり得る。抗体がトランスサイレチン(TTR)のアミノ酸89~97内のエピトープに結合すると言う場合、例えばその意味は、エピトープが、範囲の外側の境界を定めるものを含み記載されるアミノ酸の範囲内にあるということである。それは必ずしも、その範囲内のあらゆるアミノ酸がエピトープの一部を構成することを意味するわけではない。したがって、例えば、TTRのアミノ酸89~97内のエピトープは、配列番号42の直線状のセグメントのなかでもとりわけ、アミノ酸89~97、89~96、90~96、91~96、92~96、93~96、94~96、89~96、89~95、89~94、89~93、89~92または89~93からなるか、立体構造エピトープの場合、配列番号42のアミノ酸の非連続セグメントからなるものであり得る。
【0117】
同じエピトープまたは重複するエピトープを認識する抗体は、標的抗原へのある抗体の結合に関して別の抗体と競合するある抗体の能力を示す単純なイムノアッセイで特定できる。抗体のエピトープもまた、接触残基を特定するためにその抗原に結合した抗体のX線結晶構造解析によって明らかにできる。あるいは、一方の抗体の結合を低下または消失させる抗原中の全てのアミノ酸変異が他方の抗体の結合を低下または消失させる場合、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低下または消失させるいくつかのアミノ酸変異が他方の抗体の結合を低下または消失させる場合、2つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0118】
抗体間の競合は、被験抗体が共通の抗原への参照抗体の結合を阻害するアッセイにより決定される(例えば、Junghansら,Cancer Res.50:1495,1990を参照されたい)。競合結合アッセイで測定して過剰の被験抗体(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍または100倍)が参照抗体の結合を少なくとも50%阻害する場合、被験抗体は参照抗体と競合する。参照抗体の結合を少なくとも75%、90%または99%阻害する被験抗体もある。競合アッセイによって特定される抗体(競合抗体)としては、参照抗体と同じエピトープに結合する抗体および、立体障害を起こす程度に参照抗体が結合するエピトープに近い位置にある近接エピトープに結合する抗体が挙げられる。
【0119】
構造トランスサイレチン(TTR)に関する「天然の」という用語は、正常にフォールドし正しく機能する状態にあるTTRの構造(すなわち、TTR四量体)を指す。TTRは天然にフォールドした形態で四量体であることから、非天然形態のTTRとしては、例えば、ミスフォールドしたTTR四量体、TTR単量体、凝集形態のTTR、および原線維形態のTTRが挙げられる。非天然形態のTTRは、野生型TTRのアミノ酸配列または変異を含む分子を含み得る。
【0120】
TTRに関する「ミスフォールドした」という用語は、TTRポリペプチドの単量体または多量体の二次構造または三次構造を指し、ポリペプチドが、正しく機能する状態にあるそのタンパク質には正常ではない立体構造をとっていることを表す。TTRのミスフォールディングはタンパク質の変異(例えば、欠失、置換、または付加)によって引き起こされ得るが、野生型TTRタンパク質が疾患でミスフォールドすることもあり、特定のエピトープを曝露する。
【0121】
「薬学的に許容される」という用語は、担体、希釈剤、補形剤、または補助剤が製剤の他の成分と適合し、その被投与者に実質的に有害でないことを意味する。
【0122】
「患者」という用語は、予防処置または治療処置のいずれかを受けるヒトおよび他の哺乳動物対象を包含する。
【0123】
ある個体は、既知の危険因子(例えば、遺伝学的因子、生化学的因子、家族歴、および環境曝露)であって、その危険因子を有する個体がそれをもたない個体よりも疾患を発症するリスクが統計的に有意に高い危険因子をその対象が少なくとも1つ有する場合、その疾患のリスクが高い。
【0124】
「生体試料」という用語は、生物学的供給源、例えばヒトまたは哺乳動物対象中の、またはそれらの対象から採取できる生物学的材料の試料を指す。このような試料は、器官、細胞小器官、組織、組織切片、体液、末梢血、血漿、血清、細胞、タンパク質およびペプチドなどの分子、およびそれらに由来する任意の部分または組合せであり得る。生体試料という用語はまた、試料を処理することによって得られる任意の材料を包含し得る。得られる材料は、細胞またはそれらの子孫を含み得る。生体試料の処理は、ろ過、蒸留、抽出、濃縮、固定、妨害成分の不活化などの1つまたは複数を含み得る。
【0125】
「対照試料」という用語は、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のトランスサイレチン(TTR)、例えばTTRアミロイド沈着物などを含むと知られていない、または推測されない生体試料を指す。対照試料は、TTRアミロイドーシスまたは具体的に選択した種類のTTRアミロイドーシスに罹患していない個体から得られる。あるいは、対照試料は、TTRアミロイドーシスまたは具体的に選択した種類のTTRアミロイドーシスに罹患している患者から得られる。このような試料は、TTRアミロイドーシスを含むと考えられる生体試料と同時に得ても、異なる機会に得てもよい。生体試料および対照試料はともに、同じ組織(例えば、TTRアミロイド沈着物と周囲の正常組織の両方を含む組織切片)から得てもよい。好ましくは、対照試料は実質的にまたは完全に、TTRアミロイド沈着物を含まない組織からなり、TTRアミロイド沈着物を含むと考えられる生体試料との比較に用いることができる。好ましくは、対照試料中の組織は、生体試料中の組織と同じ種類(例えば、心臓中の心筋細胞)である。
【0126】
「疾患」という用語は、生理的機能を損なう任意の異常な状態を指す。この用語は広義に使用され、病因の性質に関係なく生理的機能が損なわれる任意の障害、病気、異常、病態、疾病、状態、または症候群を包含する。
【0127】
「症状」という用語は、対象によって知覚される疾患の主観的証拠、例えば歩行異常などを指す。「徴候」は、医師によって観察される疾患の客観的証拠を指す。
【0128】
アミノ酸置換を保存的置換または非保存的置換に分類する目的で、アミノ酸を以下のグループに分ける:グループI(疎水性側鎖):met、ala、val、leu、ile;グループII(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖配向に影響を及ぼす残基):gly、pro;およびグループVI(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は、同じクラスのアミノ酸の間で置換を含む。非保存的置換は、上記のうちの1つクラスのメンバーが別のクラスのメンバーに置き換わるものである。
【0129】
配列同一性のパーセントは、慣習的なKabat番号付けによって最大に整列させた抗体の配列によって求められる。整列後、目的の抗体領域(例えば、重鎖または軽鎖の成熟可変領域全体)を参照抗体の同じ領域と比較する場合、目的の抗体の領域と参照抗体の領域との間の配列同一性のパーセントは、目的の抗体の領域および参照抗体の領域の両方で同じアミノ酸によって占められる位置の数を、2つの領域の整列された位置の総数で除し、ギャップをカウントせずに、100を乗じてパーセントに変換したものである。
【0130】
1つまたは複数の記載される要素を「含む」組成物または方法は、具体的に記載されていない他の要素を含み得る。例えば、抗体を「含む」組成物は、抗体を単独で、または他の成分と組み合わせて含有し得る。
【0131】
数値の範囲の指定は、その範囲内に含まれる整数またはその範囲を定める整数、およびその範囲内の整数によって定められる全ての部分範囲を含む。
【0132】
「約」という用語は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、記載される数値の測定標準誤差(例えば、SEM)内の数値を包含する。
【0133】
統計的に有意であるとは、p≦0.05を意味する。
【0134】
単数形の冠詞「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別の意味を表す場合を除き、複数形の指示対象を包含する。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1つの化合物」は、複数の化合物をその混合物も含んで包含し得る。
【0135】
詳細な説明
I.概略
本発明は、トランスサイレチン(TTR)の残基89~97に特異的に結合する抗体を提供する。この抗体は、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに結合する能力を有する。この抗体は、TTRの蓄積またはTTR沈着物の蓄積に関連する疾患または障害(例えば、TTRアミロイドーシス)を治療または予防するために使用できる。この抗体はまた、諸用途のなかでもとりわけ、TTRアミロイドーシスを診断するためおよびTTR凝集を阻害または軽減するために使用できる。
【0136】
II.標的分子
トランスサイレチン(TTR)は、血清中および脳脊髄液中に存在する127アミノ酸、55kDaの輸送タンパク質であり、主に肝臓で合成される。それはまたプレアルブミン、チロキシン結合プレアルブミン、ATTR、およびTBPAとも呼ばれている。その天然の状態では、TTRは四量体として存在する。ホモ接合体では、四量体は同一の127アミノ酸ベータシートリッチサブユニットを含む。ヘテロ接合体では、TTR四量体は、通常は統計的に組み合わされるバリアントサブユニットおよび/または野生型サブユニットからなる。
【0137】
血液中での確立されたTTRの機能は、ホロ-レチノール結合タンパク質の輸送である。げっ歯類の血液中でTTRはチロキシン(T)の主要な担体であり、ホロ-レチノール結合タンパク質に用いられるものと直交する結合部位を利用するが、ヒトではこのT結合部位は事実上空いている。
【0138】
TTRは、様々な凝集構造へのその細胞外でのミスフォールドおよび/または誤会合(アミロイド形成)がアミロイド疾患と呼ばれる変性性疾患を引き起こすと考えられる、少なくとも30種類の異なるヒトタンパク質のうちの1つである。TTRは立体構造変化を受けてアミロイド原性となる。部分的なアンフォールディングによって、伸長した立体構造の、大部分が非荷電で疎水性のひと続きの残基が露出し、これがほぼ不定形の球状凝集体へと効率的に誤会合し、最終的にはクロスベータシートアミロイド構造へと立体構造変換する。
【0139】
文脈上そうでないことが明らかでない限り、トランスサイレチン(TTR)またはそのフラグメントもしくはドメインへの言及は、アイソフォーム、変異体、および対立遺伝子変異体を含む天然のヒトアミノ酸配列を含む。例示的なTTRポリペプチド配列は、アクセッション番号P02766.1(UniProt)(配列番号38)、AAB35639.1(GenBank)(配列番号39)、AAB35640.1(GenBank)(配列番号40)、およびABI63351.1(GenBank)(配列番号41)で表される。残基はSwiss Prot P02766.1に従って番号付けされ、成熟タンパク質(すなわち、20アミノ酸のシグナル配列を含まない)の最初のアミノ酸を残基1と表す。他の任意のTTRタンパク質では、最大アライメントでP02766.1中の対応する残基に合わせて残基を番号付けする。
【0140】
III.トランスサイレチンアミロイドーシス
トランスサイレチン(TTR)アミロイドーシスは、病原性のミスフォールドTTRおよびTTRからなるアミロイド原線維の細胞外沈着を特徴とする全身障害である。TTRアミロイドーシスは、天然のTTR四量体形態の不安定化(環境条件または遺伝条件による)により一般に引き起こされ、TTRの解離、ミスフォールディング、およびアミロイド原線維への凝集が起こり、これが様々な器官および組織に蓄積し、進行性の機能不全を引き起こす。例えば、AlmeidaおよびSaraiva,FEBS Letters 586:2891-2896(2012);Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013)を参照されたい。
【0141】
ヒトでは、野生型TTR四量体および変異体サブユニットと野生型サブユニットとからなる混合型四量体の両方が、有糸分裂終了組織の変性をもたらすアミロイド形成の過程で、解離、ミスフォールド、および凝集し得る。したがって、TTRアミロイドーシスは、TTRにおける変異により生じるまたは変異していないミスフォールドTTRによって生じる病原性のミスフォールドTTRを原因とする疾患を包含する。
【0142】
例えば、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)および老人性心アミロイドーシス(SCA)は加齢に関連する種類のアミロイドーシスであり、心臓の心筋細胞の外側と内側に野生型TTRアミロイドが沈着することによって起こる。TTRアミロイドーシスはまた、最も頻度の高い形態の遺伝性(家族性)アミロイドーシスでもあり、TTRタンパク質を不安定化する変異を原因とする。TTR遺伝子中の点変異に関連するTTRアミロイドーシスとしては、家族性アミロイドニューロパチー(FAP)、家族性アミロイド心筋症(FAC)、およびまれな中枢神経系選択性アミロイドーシス(CNSA)が挙げられる。遺伝性(家族性)TTRアミロイドーシスの患者はほぼ例外なくヘテロ接合体であり、このことは、TTR四量体が、一般には統計的に分布する変異体TTRサブユニットおよび/または野生型TTRサブユニットからなることを意味する。遺伝性(家族性)のTTRアミロイドーシスは一般に常染色体優性であり、通常、孤発性の疾患(SSAおよびSCA)よりも早期に発症する。
【0143】
TTRをコードする遺伝子中の変異で、常染色体優性障害のFAPおよびFACに関与すると考えられているものは100を超える。例えば、米国特許出願公開第2014/0056904号;Saraiva,Hum.Mutat.17(6):493-503(2001);DamasおよびSaraiva,J.Struct.Biol.130:290-299;DwuletおよびBenson,Biochem.Biophys.Res.Commun.114:657-662(1983)を参照されたい。これらのアミロイドを生じる変異はTTRの分子全体にわたって分布している。一般に、変異体サブユニットがTTRの四量体構造をより不安定化させるほど、アミロイド疾患の発症がより早くなる。TTRバリアントが病原性となる可能性は一般に、その不安定性と細胞分泌効率とを組み合わせて求められる。TTRバリアントが引き起こす初期の病態は、TTRバリアントが心組織を選択的に破壊することによるものもあれば、TTRバリアントによって末梢神経系および自律神経系が損なわれることによるものもある。TTRアミロイド形成を原因とする組織損傷は、小さい拡散性のTTR凝集体の毒性によるものがほとんどであると思われるが、細胞外アミロイドの蓄積が一因であることもあり、その場合、TTRアミロイドーシスの後期に器官構造がほぼ確実に損なわれる。
【0144】
TTRアミロイドーシスには多数の異なる形態がみられ、表現型に相当な個体差および地域差がある。例えば、TTRアミロイドーシスは進行性の軸索性感覚性自律神経性運動性ニューロパチーとしてみられることがある。TTRアミロイドーシスはまた、浸潤性心筋症としてみられることがある。
【0145】
疾患関連症状が発現する年齢は10代~80代の間で様々であり、集団間で大きなばらつきがみられる。TTRアミロイドーシスが多系統に及ぶことは、その診断の手掛かりの1つとなる。例えば、以下に挙げるものが1つまたは複数みられる場合、TTRアミロイドーシスの診断が考慮される:(1)特に心不全に関わる、神経障害性疾患の家族歴;(2)原因不明の神経因性疼痛または進行性感覚障害;(3)原因が明らかでなく、特に両側性で外科的開放を必要とする手根管症候群;(4)原因不明の消化管運動障害または自律神経機能不全(例えば、勃起不全、起立性低血圧症、神経因性膀胱);(5)高血圧がみられず心室壁肥厚を特徴とする心疾患;(6)原因が不明であり、特に心肥大を伴う高度房室ブロック;および(6)綿花状の硝子体封入体。Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013)を参照されたい。その他の症状としては、例えば、多発性ニューロパチー、間隔消失、疼痛、下肢脱力、発汗異常、下痢、便秘、体重減少、および尿失禁/尿閉が挙げられる。
【0146】
TTRアミロイドーシスの診断は通常、標的器官の生検を頼りにし、次いで、摘出組織をアミロイド特異的色素であるコンゴー赤で組織学的に染色する。検査結果がアミロイド陽性である場合、次いでTTRの免疫組織化学染色を実施してアミロイド形成の原因である前駆体タンパク質が実際にTTRであることを確認する。家族性の疾患では、TTRをコードする遺伝子に変異があることを次いで明らかにしてから診断を下す必要がある。これは、例えば、等電点電気泳動、ポリメラーゼ連鎖反応、またはレーザー分析/液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析によって遂行され得る。例えば、米国特許出願公開第2014/0056904号;RubergおよびBerk,Circulation 126:1286-1300(2012);Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013)を参照されたい。
【0147】
IV.抗体
A.結合特異性および機能的特性
本発明は、トランスサイレチン(TTR)タンパク質に、より具体的にはTTRのアミノ酸残基89~97(配列番号42)内のエピトープに結合するモノクローナル抗体を提供する。このようなエピトープは天然のTTR四量体では埋没しており、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRでは露出している。
【0148】
6C1と称する抗体は、このようなマウス抗体の一例である。この抗体は、TTRのアミノ酸残基89~97(配列番号42)内に特異的に結合する。この抗体は、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに結合できるが天然の四量体形態のTTRには結合できないという特徴をさらに有する。さらに、この抗体は、TTR媒介性アミロイドーシスの心組織に対して免疫反応を示すが健常な心組織に対しては免疫反応を示さないという特徴を有する。特定のタンパク質またはそのフラグメントに結合する能力は、実施例に記載する例示的アッセイフォーマットを用いて示され得る。
【0149】
いくつかの抗体は、6C1と称する抗体と同じエピトープまたは重複するエピトープに結合する。6C1の重鎖成熟可変領域および軽鎖成熟可変領域の配列は、それぞれ配列番号1および13と称される。このような結合特異性を有する他の抗体は、マウスをTTRまたは所望のエピトープを含むTTRの一部分(例えば、配列番号42)で免疫し、得られた抗体について単量体TTRまたは配列番号42を含むペプチドに結合するかどうかを、任意選択でマウス6C1の可変領域を有する抗体(IgG1、カッパ)と競合させて、スクリーニングすることによって作製できる。所望のエピトープを含むTTRのフラグメントを、フラグメントに対する抗体応答を誘発しやすくする担体に連結し、かつ/またはそのような応答を誘発しやすくするアジュバントと組み合わせてもよい。このような抗体について、野生型TTR、単量体型TTRまたはそのフラグメント(例えば、配列番号38)への差異的結合を特定の残基の変異体と比較してスクリーニングできる。このような変異体に対するスクリーニングは、より正確に結合特異性を明らかにして、特定の残基の変異誘発によってその結合が阻害されかつ他の例示抗体と同じ機能的特性を有する可能性のある抗体の特定を可能にする。変異は、標的全体でまたはエピトープが存在することがわかっているその区画全体で、1回に1残基またはさらに間隔を空けて実施するアラニン(または既にアラニンが存在する場合はセリン)による系統的置換であり得る。同じ変異のセットによって2つ抗体の結合が有意に低下すれば、その2つの抗体は同じエピトープを結合する。
【0150】
選択したマウス抗体(例えば、6C1)の結合特異性を有する抗体はまた、ファージディスプレイ方法の変法を用いて作製できる。Winterの国際公開第92/20791号を参照されたい。この方法は、ヒト抗体の作製に特に適している。この方法では、選択したマウス抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のいずれかを出発物質として用いる。例えば、軽鎖可変領域を出発物質として選択する場合、メンバーが同じ軽鎖可変領域(すなわち、マウス出発物質)および異なる重鎖可変領域を提示するファージライブラリーが構築される。重鎖可変領域は、例えば、再編成されたヒト重鎖可変領域のライブラリーから得ることができる。単量体TTRまたはそのフラグメント(例えば、アミノ酸残基89~97)に対して強い特異的結合(例えば、少なくとも10-1、好ましくは少なくとも10-1)を示すファージを選択する。このファージから得た重鎖可変領域は、次いでさらなるファージライブラリーを構築するための出発物質となる。このライブラリーでは、各ファージは同じ重鎖可変領域(すなわち、最初のディスプレイライブラリーで特定された領域)および異なる軽鎖可変領域を提示する。軽鎖可変領域は、例えば、再編成したヒト可変軽鎖領域のライブラリーから得ることができる。同じく、単量体TTRまたはそのフラグメント(例えば、アミノ酸残基89~97)に対して強い特異的結合を示すファージを選択する。得られる抗体は通常、マウス出発物質と同じないし類似のエピトープ特異性を有する。
【0151】
6C1などの例示的抗体の重鎖および軽鎖をコードするcDNAの変異誘発によって、他の抗体を得ることができる。成熟重鎖可変領域および/もしくは成熟軽鎖可変領域のアミノ酸配列において6C1に少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であり、その機能的特性を維持し、かつ/または少数の機能的に重要ではないアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、欠失、もしくは挿入を有する点で各抗体と異なるモノクローナル抗体も本発明に含まれる。任意の従来の定義(ただし、Kabatが好ましい)によって定義されるCDRを少なくとも1つまたは6つとも有し、6C1の対応するCDRに90%、95%、99%または100%同一であるモノクローナル抗体も含まれる。
【0152】
本発明はまた、完全にまたは実質的に6C1に由来するCDRを一部または全部(例えば、3つ、4つ、5つ、および6つ)有する抗体も提供する。このような抗体は、6C1の重鎖可変領域に完全にもしくは実質的に由来するCDRを2つ、通常は3つとも有する重鎖可変領域および/または6C1の軽鎖可変領域に完全にもしくは実質的に由来するCDRを少なくとも2つ、通常は3つとも有する軽鎖可変領域を含み得る。抗体は重鎖および軽鎖の両方を含み得る。CDRは、4つ以下、3つ以下、2つ以下、または1つ以下の置換、挿入、または欠失を含む場合、対応する6C1のCDRに実質的に由来するが、ただし、CDR-H2(Kabatによって定義される場合)は、6つ以下、5つ以下、4つ以下、3つ以下、2つ以下、または1つ以下の置換、挿入、または欠失を有し得る。このような抗体は、成熟重鎖可変領域および/もしくは成熟軽鎖可変領域のアミノ酸配列において6C1に少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有し、それらの機能的特性を維持し、かつ/または少数の機能的に重要ではないアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、欠失、もしくは挿入を有する点で6C1と異なり得る。
【0153】
上記のようなアッセイによって特定されるいくつかの抗体は、実施例をはじめとする箇所に記載されるように、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに結合できるが、天然の四量体形態のTTRには結合できない。同じように、TTR媒介性アミロイドーシスの組織に対して免疫反応を示すが、健常組織に対しては免疫反応を示さない抗体もある。
【0154】
いくつかの抗体は、動物モデルまたは臨床試験でTTRの凝集を阻害もしくは軽減し、TTR原線維形成を阻害もしくは軽減し、TTR沈着物もしくは凝集したTTRを減少させるか除去し、またはTTRの非毒性立体構造を安定化させ得る。いくつかの抗体は、動物モデルまたは臨床試験で示されるように、TTRアミロイドーシスを治療もしくは予防し得るか、TTRアミロイドーシスの発症を遅らせ得る。TTRアミロイドーシスに対する活性を検討するための例示的動物モデルとしては、Kohnoら,Am.J.Path.150(4):1497-1508(1997);Tengら,Laboratory Investigations 81:385-396(2001);Wakasugiら,Proc.Japan Acad.63B:344-347(1987);Shimadaら,Mol.Biol.Med.6:333-343(1989);Nagataら,J.Biochem.117:169-175(1995);Sousaら,Am.J.Path.161:1935-1948(2002);およびSantosら,Neurobiology of Aging 31:280-289(2010)に記載されているものが挙げられる。
【0155】
B.非ヒト抗体
単量体TTRまたはそのフラグメント(例えば、アミノ酸残基89~97)に対する他の非ヒト抗体、例えば、マウス抗体、モルモット抗体、霊長類抗体、ウサギ抗体またはラット抗体の作製は、例えば、動物をTTRまたはそのフラグメントで免疫することによって遂行できる。HarlowおよびLane,Antibodies,A Laboratory Manual(CSHP NY,1988)(あらゆる目的において参照により組み込まれる)を参照されたい。このような免疫原は、天然源から、ペプチド合成によって、または組換え発現によって得ることができる。任意選択で、融合をはじめとする方法で免疫原を担体タンパク質と複合体形成させて投与してもよい。任意選択で、免疫原をアジュバントとともに投与してもよい。のちに記載する通り、いくつかの種類のアジュバントを用いることができる。実験動物の免疫感作には、フロイント完全アジュバント、次いで不完全アジュバントが好ましい。ポリクローナル抗体の作製には通常、ウサギまたはモルモットを用いる。モノクローナル抗体の作製には通常、マウスを用いる。単量体TTRまたはTTR内のエピトープ(例えば、アミノ酸残基89~97のうちの1つまたは複数のものを含むエピトープ)に特異的に結合する抗体をスクリーニングする。このようなスクリーニングは、単量体TTRバリアント、例えばアミノ酸残基89~97を有するかその残基内に変異を有するTTRバリアントなどの収集物への抗体の結合を決定し、その抗体にどのTTRバリアント抗体が結合するかを決定することによって遂行できる。結合は、例えば、ウエスタンブロット、FACSまたはELISAによって評価できる。
【0156】
C.ヒト化抗体
ヒト化抗体は、遺伝子操作によって非ヒト「ドナー」抗体のCDRをヒト「アクセプター」抗体配列内に移植した抗体である(例えば、Queen,米国特許第5,530,101号および同第5,585,089号;Winter,米国特許第5,225,539号;Carter,米国特許第6,407,213号;Adair,米国特許第5,859,205号;および米国特許第6,881,557号を参照されたい)。アクセプター抗体配列は、例えば、成熟ヒト抗体配列、そのような配列の複合体、ヒト抗体配列のコンセンサス配列または生殖系列領域の配列であり得る。したがって、ヒト化抗体は、完全にまたは実質的にドナー抗体に由来するCDRを少なくとも3つ、4つ、5つまたは全部ならびに、存在する場合は、完全にまたは実質的にヒト抗体配列に由来する可変領域フレームワーク配列および定常領域を有する抗体である。同じように、ヒト化重鎖は、完全にまたは実質的にドナー抗体重鎖に由来するCDRを少なくとも1つ、2つ、通常は3つ全部ならびに、存在する場合は、実質的にヒト重鎖可変領域フレームワーク配列および定常領域配列に由来する重鎖可変領域フレームワーク配列および重鎖定常領域を有する。同じように、ヒト化軽鎖は、完全にまたは実質的にドナー抗体軽鎖に由来するCDRを少なくとも1つ、2つ、通常は3つ全部ならびに、存在する場合は、実質的にヒト軽鎖可変領域フレームワーク配列および定常領域配列に由来する軽鎖可変領域フレームワーク配列および軽鎖定常領域を有する。ナノボディおよびdAb以外にも、ヒト化抗体はヒト化重鎖およびヒト化軽鎖を含む。ヒト化抗体のCDRは、各CDR間で対応する残基(任意の従来の定義、好ましくはKabatによって定義されるもの)の少なくとも85%、90%、95%または100%が一致する場合、非ヒト抗体での対応するCDRに実質的に由来する。抗体鎖の可変領域フレームワーク配列または抗体鎖の定常領域は、任意の従来の定義、好ましくはKabatによって定義される対応する残基の少なくとも85%、90%、95%または100%が同一である場合、それぞれヒト可変領域フレームワーク配列またはヒト定常領域に実質的に由来する。
【0157】
ヒト化抗体はマウス抗体由来の6つのCDR(好ましくはKabatによって定義されるもの)を全て組み込むことが多いが、マウス抗体由来のCDRが全部に満たない(例えば、CDRが少なくとも3つ、4つまたは5つである)ヒト化抗体を作製することもできる(例えば、Pascalisら,J.Immunol.169:3076,2002;Vajdosら,J.of Mol.Biol.,320:415-428,2002;Iwahashiら,Mol.Immunol.36:1079-1091,1999;Tamuraら,J.Immunol.,164:1432-1441,2000)。
【0158】
いくつかの抗体では、ヒト化抗体での結合を保持するためにCDRの一部、すなわち、SDRと呼ばれる結合に必要なCDR残基のサブセットのみを必要とする。抗原と接触せずSDRにも存在しないCDR残基は、これまでの研究に基づき、分子モデリングおよび/または経験的に、またはGonzalesら,Mol.Immunol.41:863,2004に記載されている通りに、Chothia超可変ループ(Chothia,J.Mol.Biol.196:901,1987)の外側に存在するKabat CDRの領域から識別できる(例えば、CDR H2の残基H60~H65は多くの場合必要とされない)。このようなヒト化抗体では、1つまたは複数のドナーCDR残基が存在しない位置またはドナーCDR全体が除去されている位置で、この位置を占めるアミノ酸は、アクセプター抗体配列での対応する位置(Kabat番号付けによるもの)を占めるアミノ酸であり得る。CDR中に含まれるべきこのようなドナーアミノ酸からアクセプターアミノ酸への置換の数は、相容れない考慮事項のバランスを反映する。このような置換は、ヒト化抗体中のマウスアミノ酸の数を減らし、その結果、潜在的免疫原性を低下させるのに有利である可能性がある。しかし、置換によって親和性が変化する可能性もあり、親和性の大幅な低下は回避するのが好ましい。CDR内の置換の位置および置換するアミノ酸は、経験的に選択することもできる。
【0159】
ヒトアクセプター抗体配列は任意選択で、ヒトアクセプター配列の可変領域フレームワークとドナー抗体鎖の対応する可変領域フレームワークとの間に高い配列同一性(例えば、65~85%の同一性)が得られるよう多数の既知のヒト抗体配列のなかから選択できる。
【0160】
重鎖のアクセプター配列の例は、NCBIアクセッションコードADX65650(配列番号3)のヒト成熟重鎖可変領域である。このアクセプター配列は、マウス6C1重鎖と同じカノニカル形態を有する2つのCDRを含む。軽鎖のアクセプター配列の例は、NCBIアクセッションコードABI74084(配列番号15)のヒト成熟軽鎖可変領域である。このアクセプター配列は、マウス6C1軽鎖と同じカノニカル形態を有する2つのCDRを含む。
【0161】
ヒト可変領域フレームワーク残基からの特定のアミノ酸が、CDRの立体構造および/または抗原への結合に及ぼすそれらの予想される影響に基づき、選択され得る。そのような予想される影響の調査は、モデリング、特定の位置でのアミノ酸の特徴の検討、または特定のアミノ酸の置換または変異誘発の影響の経験的な観察による。
【0162】
例えば、あるアミノ酸がマウス可変領域フレームワーク残基と選択したヒト可変領域フレームワーク残基との間で異なっている場合、ヒトフレームワークのアミノ酸をマウス抗体からの同等のフレームワークのアミノ酸で置換可能であり、その場合、そのアミノ酸は、
(1)直接抗原と非共有結合する;
(2)KabatではなくChothiaによって定義されるCDR領域に隣接するか、そのCDR内にある;
(3)別の方法でCDR領域(例えば、CDR領域の約6Å以内にある)、(例えば、相同な既知の免疫グロブリン鎖で明らかになった構造上で軽鎖もしくは重鎖をモデル化することによって同定される)と相互作用する;または
(4)VL-VH界面に関与する残基である
ことが合理的に予想される。
【0163】
Queenの米国特許第5,530,101号によって定義されるクラス(1)~(3)のフレームワーク残基は、カノニカル残基およびバーニヤ残基と代わりに呼ばれることがある。CDRループの立体構造を規程するのに役立つフレームワーク残基は、カノニカル残基と呼ばれることがある(ChothiaおよびLesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987);ThorntonおよびMartin,J.Mol.Biol.263:800-815(1996))。抗原結合ループの立体構造を支え、抗体と抗原の嵌合の微調整に何らかの役割を果たすフレームワーク残基をバーニヤ残基と言うことがある(FooteおよびWinter,J.Mol.Biol 224:487-499(1992))。
【0164】
置換の候補となる他のフレームワーク残基は、潜在的なグリコシル化部位を形成する残基である。また別の置換の候補は、ヒト免疫グロブリンのその位置には通常みられないアクセプターヒトフレームワークアミノ酸である。これらのアミノ酸は、マウスドナー抗体の同等の位置からのアミノ酸またはより典型的なヒト免疫グロブリンの同等の位置からのアミノ酸で置換できる。
【0165】
例示的ヒト化抗体は、Hu6C1と称されるヒト化型のマウス6C1抗体である。このマウス抗体は、配列番号1を含むアミノ酸配列および配列番号13を含むアミノ酸配列をそれぞれ有する成熟重鎖可変領域および成熟軽鎖可変領域を含む。本発明は、6種類の例示されるヒト化成熟重鎖可変領域、すなわち、Hu6C1VHv1(配列番号4)、Hu6C1VHv1b(配列番号5)、Hu6C1VHv2(配列番号6)、Hu6C1VHv2b(配列番号7)、Hu6C1VHv3(配列番号8)、およびHu6C1VHv3b(配列番号9)を提供する。本発明はさらに、2種類の例示されるヒト成熟軽鎖可変領域、すなわち、Hu6C1VLv1(配列番号16)およびHu6C1VLv2(配列番号17)を提供する。6C1、マウスモデル抗体、ヒトアクセプター抗体、およびヒト化抗体型6C1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアライメントをそれぞれ図1および2に示す。
【0166】
CDRの立体構造および/または抗原への結合に対する予想される影響、重鎖と軽鎖との間の相互作用を仲介すること、定常領域との相互作用、望ましい翻訳後修飾または望ましくない翻訳後修飾の部位であること、ヒト可変領域配列のその位置には通常みられない残基でありしたがって免疫原となる可能性がある、凝集能を獲得すること、および他の理由などのため、実施例でさらに明記する以下の10個の可変領域フレームワーク位置を、6種類の例示されるヒト成熟軽鎖可変領域および2種類の例示されるヒト成熟重鎖可変領域での置換の候補として考慮した:L2、L45、H19、H44、H49、H76、H77、H82(a)、H83、およびH89。
【0167】
別の箇所と同じくここでも、1番目に記載される残基は、Kabat CDRまたはCDR-H1の場合はChothia-Kabat CDR複合体をヒトアクセプターフレームワーク内に移植することによって形成されるヒト化抗体の残基であり、2番目に記載される残基は、そのような残基を置き換えるのに考慮される残基である。したがって、可変領域フレームワーク内では、1番目に記載される残基はヒト残基であり、CDR内では、1番目に記載される残基はマウス残基である。
【0168】
例示される抗体は、例示される成熟重鎖可変領域と軽鎖可変領域の任意の順列または組合せ(例えば、Hu6C1VHv1/VLv1またはH1L1、Hu6C1VHv1b/VLv1またはH1bL1、Hu6C1VHv1/VLv2またはH1L2、Hu6C1 VHv1b/VLv2またはH1bL2、Hu6C1VHv2/VLv1またはH2L1、Hu6C1VHv2b/VLv1またはH2bL1、Hu6C1VHv2/VLv2またはH2L2、Hu6C1VHv2b/VLv2またはH2bL2、Hu6C1VHv3/VLv1またはH3L1、Hu6C1VHv3b/VLv1またはH3bL1、Hu6C1VHv3/VLv2またはH3L2、およびHu6C1VHv3b/VLv2またはH3bL2)を含む。
【0169】
本発明は、ヒト化成熟重鎖可変領域が配列番号4~9に少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を示し、ヒト化成熟軽鎖可変領域が配列番号16または17に少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を示す、ヒト化抗体のバリアントを提供する。いくつかのこのような抗体では、配列番号4~9、16 および17の復帰変異をはじめとする変異が少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個とも保持されている。
【0170】
いくつかの抗体では、V領域のH19位、H44位、H49位、H76位、H77位、H82(a)位、H83位、およびH89位の少なくとも1つをそれぞれK、R、A、S、T、S、K、およびVが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VHv1でのように、V領域のH77位をTが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VHv1bでのように、V領域のH49位およびH77位をそれぞれAおよびTが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VHv2でのように、V領域のH76位、H77位、およびH82(a)位をそれぞれS、T、およびSが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VHv2bでのように、V領域のH49位、H76位、H77位、およびH82(a)位をそれぞれA、S、T、およびSが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VHv3でのように、V領域のH19位、H44位、H77位、H83位、およびH89位をそれぞれK、R、T、K、およびMが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VHv3bでのように、V領域のH19位、H44位、H49位、H77位、H83位、およびH89位をそれぞれK、R、A、T、K、およびMが占める。いくつかの抗体では、V領域のL45位をKが占める。いくつかの抗体では、V領域のL2位をIが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VLv1でのように、V領域のL2位およびL45位の一方または両方をそれぞれVおよびKが占める。いくつかの抗体では、Hu6C1VLv2でのように、V領域のL2位およびL45位の一方または両方をそれぞれIおよびKが占める。このようなヒト化抗体のCDR領域は、6C1マウスドナー抗体のCDR領域と同一または実質的に同一であり得る。CDR領域は、任意の従来の定義(例えば、Chothia、またはChothiaとKabatの複合体)によって定義され得るが、Kabatによって定義されるのが好ましい。
【0171】
可変領域フレームワークの位置は、特に明記されない限りKabat番号付けに従う。他のこのようなバリアントは通常、少数(例えば、通常1個以下、2個以下、3個以下、5個以下、10個以下、または15個以下)の置換、欠失または挿入により例示されるHu6C1抗体の配列と異なる。このような差は通常、フレームワーク内にみられるが、CDRにみられることもある。
【0172】
ヒト化6C1での追加の変異として考えられるものは、可変領域フレームワーク中の追加の復帰変異である。ヒト化mAbにおいてCDRと接していないフレームワーク残基の多くは、ドナーマウスmAbまたは他のマウス抗体またはヒト抗体の対応する位置からのアミノ酸の置換を受け入れることができ、多くの潜在的なCDR接触残基もまた置換に適している。CDR内のアミノ酸でさえ、例えば、可変領域フレームワークを供給するのに使用されるヒトアクセプター配列の対応する位置にみられる残基で改変され得る。さらに、代替のヒトアクセプター配列を、例えば重鎖および/または軽鎖に使用できる。異なるアクセプター配列を使用する場合、上で推奨した復帰変異の1つまたは複数は、復帰変異がなくても対応するドナー残基とアクセプター残基が既に同じであることを理由に実施されない。
【0173】
好ましくは、Hu6C1バリアントにおける置換または復帰変異(保存的であるかどうかを問わず)は、ヒト化mAbの結合親和性にも力価にも、つまり、単量体TTRに結合するその能力に何ら実質的な影響を及ぼさない(例えば、バリアントヒト化6C1抗体の本発明の実施例に記載されるアッセイのいくつかまたは全部における力価は、マウスの6C1抗体の力価と実質的に同じである、つまり、実験誤差の範囲内にある)。
【0174】
D.キメラ抗体およびベニヤ化(veneered)抗体
本発明はさらに、キメラ型およびベニヤ化(veneered)型の非ヒト抗体、具体的には実施例の6C1抗体を提供する。
【0175】
キメラ抗体は、非ヒト抗体(例えば、マウス抗体)の軽鎖および重鎖の成熟可変領域がヒト抗体の軽鎖定常領域および重鎖定常領域と組み合わされた抗体である。このような抗体は、マウス抗体の結合特異性を実質的にまたは完全に保持しており、約3分の2がヒト配列である。
【0176】
ベニヤ化(veneered)抗体はヒト化抗体の一種であり、いくつかの、通常は全部のCDRおよび非ヒト抗体の非ヒト可変領域フレームワーク残基の一部を保持しているが、B細胞エピトープまたはT細胞エピトープに寄与し得る他の可変領域フレームワーク残基、例えば露出残基(Padlan,Mol.Immunol.28:489,1991)がヒト抗体配列の対応する位置からの残基に置き換わっている。その結果、抗体はCDRが完全にまたは実質的に非ヒト抗体由来であり、非ヒト抗体の可変領域フレームワークが置換によってさらにヒト抗体様にされる。本発明にはベニヤ化(veneered)型の6C1抗体が含まれる。
【0177】
E.ヒト抗体
以下に記載する様々な技術によって単量体TTRまたはそのフラグメント(例えば、TTRのアミノ酸残基89~97(配列番号42))に対するヒト抗体が得られる。いくつかのヒト抗体は、特定のマウス抗体、例えば実施例に記載されるマウスモノクローナル抗体の1つと同じエピトープ特異性を有するように、上記の競合結合実験により、Winterのファージディスプレイ法により選択される。ヒト抗体はまた、TTRのフラグメント、例えばTTRのアミノ酸残基89~97のみを含むTTRバリアントのみを標的抗原として使用することによって、および/またはTTRバリアントの収集物、例えばTTRのアミノ酸残基89~97内に様々な変異を有するTTRバリアントに対する抗体をスクリーニングすることによって、特定のエピトープ特異性に関してスクリーニングされ得る。
【0178】
ヒト抗体を作製する方法としては、Oestbergら,Hybridoma 2:361-367(1983);Oestberg,米国特許第4,634,664号;およびEnglemanら,米国特許第4,634,666号のトリオーマ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含むトランスジェニックマウスの使用(例えば、Lonbergら,国際公開第93/12227号(1993);米国特許第5,877,397号;同第5,874,299号;同第5,814,318号;同第5,789,650号;同第5,770,429号;同第5,661,016号;同第5,633,425号;同第5,625,126号;同第5,569,825号;同第5,545,806号;Neuberger,Nat.Biotechnol.14:826(1996);およびKucherlapati,国際公開第91/10741号(1991)を参照されたい)ならびにファージディスプレイ法(例えば、Dowerら,国際公開第91/17271号;McCaffertyら,国際公開第92/01047号;米国特許第5,877,218号;同第5,871,907号;同第5,858,657号;同第5,837,242号;同第5,733,743号;および同第5,565,332号を参照されたい)が挙げられる。
【0179】
F.定常領域の選択
キメラ抗体、ベニヤ化(veneered)抗体またはヒト化抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、ヒト定常領域の少なくとも一部分に連結できる。定常領域の選択は部分的に、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性、抗体依存性細胞食作用および/または補体依存性細胞傷害を所望するかどうかに左右される。例えば、ヒト同位体のIgG1およびIgG3には補体依存性細胞傷害性があり、ヒトアイソタイプのIgG2およびIgG4にはない。ヒトIgG1およびIgG3はまた、ヒトIgG2およびIgG4よりも強力な細胞仲介性エフェクター機能を誘導する。軽鎖定常領域はラムダまたはカッパであり得る。
【0180】
軽鎖および/または重鎖のアミノ末端またはカルボキシ末端で1つまたは複数のアミノ酸、例えば重鎖のC末端リジンは、分子の一部または全部で欠損しているか、誘導体化されていてよい。定常領域に置換を施して、補体仲介性細胞傷害性またはADCCなどのエフェクター機能を低下または増大させたり(例えば、Winterら,米国特許第5,624,821号;Tsoら,米国特許第5,834,597号;およびLazarら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:4005,2006を参照されたい)、ヒトでの半減期を長くしたり(例えば、Hintonら,J.Biol.Chem.279:6213,2004を参照されたい)してもよい。例示的な置換としては、抗体の半減期を増大させるための250位のGlnおよび/または428位のLeu(この段落では定常領域にEU番号付けを用いる)が挙げられる。234位、235位、236位および/または237位のいずれかまたは全部での置換は、Fcγ受容体、特にFcγRI受容体に対する親和性を低下させる(例えば、米国特許第6,624,821号を参照されたい)。エフェクター機能を低下させるために、ヒトIgG1の234位、235位および237位のアラニン置換を用いることができる。いくつかの抗体は、エフェクター機能を低下させるために、ヒトIgG1の234位、235位および237位にアラニン置換を有する。任意選択で、ヒトIgG2の234位、236位および/または237位をアラニンで置換し、235位をグルタミンで置換する(例えば、米国特許第5,624,821号を参照されたい)。いくつかの抗体では、ヒトIgG1のEU番号付けによる241位、264位、265位、270位、296位、297位、322位、329位、および331位の1つまたは複数の位置での変異を用いる。いくつかの抗体では、ヒトIgG1のEU番号付けによる318位、320位、および322位のうちの1つまたは複数の位置での変異を用いる。いくつかの抗体では、234位および/または235位をアラニンで置換し、かつ/または329位をグリシンで置換する。いくつかの抗体では、配列番号27でのように、234位および235位をアラニンで置換する。いくつかの抗体では、アイソタイプはヒトIgG2またはIgG4である。
【0181】
例示的ヒト軽鎖カッパ定常領域は、配列番号28のアミノ酸配列を有する。配列番号28のN末端アルギニンが除去されていてもよく、その場合、軽鎖カッパ定常領域は配列番号29のアミノ酸配列を有する。例示的ヒトIgG1重鎖定常領域は、配列番号25のアミノ酸配列を有する(C末端リジンの有無を問わず)。抗体は、2つの軽鎖と2つの重鎖とが含まれる四量体として、分離した重鎖、軽鎖として、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvとして、または重鎖と軽鎖の成熟可変ドメインがスペーサーを介して連結される一本鎖抗体として発現させてもよい。
【0182】
ヒト定常領域は個体間でアロタイプ変異およびイソアロタイプ変異を示し、つまり、定常領域は1つまたは複数の多型位置で個体によって異なり得る。イソアロタイプは、イソアロタイプを認識する血清が1つまたは複数の他のアイソタイプの非多型領域に結合するという点でアロタイプとは異なる。したがって、例えば、別の重鎖定常領域はIgG1 G1m3アロタイプのものであり、配列番号26のアミノ酸配列を有する。IgG1 G1m3アロタイプの別の重鎖定常領域は、配列番号27のアミノ酸配列を有する(C末端リジンの有無を問わず)。ヒト定常領域への言及は、任意の天然のアロタイプまたは天然のアロタイプでの位置を占める残基の任意の順列を含む。
【0183】
G.組換え抗体の発現
抗体発現細胞系(例えば、ハイブリドーマ)を用いてキメラ抗体およびヒト化抗体を作製する方法が多数知られている。例えば、周知の方法を用いて抗体の免疫グロブリン可変領域をクローン化し配列を決定できる。1つの方法では、ハイブリドーマ細胞から調製したmRNAを用いるRT-PCRにより重鎖可変VH領域をクローン化する。翻訳開始コドンを含むVH領域リーダーペプチドに対しては、5’プライマーおよびg2b定常領域特異的3’プライマーとしてコンセンサスプライマーを用いる。例示的なプライマーはSchenkによる米国特許公開第2005/0009150号(以下「Schenk」)に記載されている。別個に得た複数のクローンの配列を比較して、増幅の際に変化が導入されないことを確実にできる。VH領域の配列はまた、5’RACE RT-PCR法および3’g2b特異的プライマーによって得られるVHフラグメントの配列のシーケンシングによって、決定または確認することができる。
【0184】
軽鎖可変VL領域は同じようにクローン化できる。1つの方法では、翻訳開始コドンを含むVL領域にハイブリダイズするよう設計した5’プライマーおよびV-J連結領域下流のCk領域に特異的な3’プライマーを用いるVL領域の増幅のために、コンセンサスプライマーセットを設計する。第二の方法では、5’RACE RT-PCR法を用いてVLをコードするcDNAをクローン化する。例示的なプライマーは上記のSchenkに記載されている。次いで、クローン化した配列を、ヒト(またヒト以外の種)の定常領域をコードする配列と組み合わせる。ヒト定常領域をコードする例示的な配列としては、ヒトIgG1定常領域をコードする配列番号46、ならびにヒトカッパ軽鎖定常領域をコードする配列番号47および48が挙げられる。
【0185】
1つの方法では、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれのVDJ連結部またはVJ連結部の下流にスプライスドナー配列をコードするよう再設計し、哺乳動物発現ベクター中に、例えば重鎖はpCMV-hγ1中に、軽鎖はpCMV-Mcl中にクローン化する。これらのベクターは、挿入した可変領域カセットの下流のエキソンフラグメントとしてヒトγ1およびCk定常領域をコードする。配列を検証した後、重鎖および軽鎖の発現ベクターをCHO細胞中に共トランスフェクトしてキメラ抗体を産生させることができる。トランスフェクションから48時間後に、馴化培地を収集し、ウエスタンブロット解析により抗体産生に関してアッセイするか、ELISAにより抗原結合に関してアッセイする。キメラ抗体は上記のようにヒト化される。
【0186】
キメラ抗体、ベニヤ化(veneered)抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体は通常、組換え発現によって生産される。組換えポリヌクレオチド構築物は通常、プロモーターなどの天然に結合している発現制御エレメントまたは異種の発現制御エレメントを含む、抗体鎖のコード配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む。発現制御配列は、真核宿主細胞または原核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトできるベクター中のプロモーター系であり得る。ベクターをしかるべき宿主内に組み込んだ後、ヌクレオチド配列の高レベル発現ならびに交差反応抗体の収集および精製に適した条件下で宿主を維持する。
【0187】
上記の発現ベクターは通常、エピソームとしてまたは宿主染色体DNAと一体になった部分として宿主生物体内で複製できる。発現ベクターは通常、所望のDNA配列で形質転換された細胞を検出できるよう選択マーカー、例えばアンピシリン耐性またはヒグロマイシン耐性を含む。
【0188】
大腸菌(E.coli)は、抗体、特に抗体フラグメントの発現に有用な原核宿主の1つである。酵母などの微生物も発現に有用である。サッカロミセス(Saccharomyces)は、所望に応じて発現制御配列、複製起点、終止配列などを有する適切なベクターを持つ酵母宿主の1つである。典型的なプロモーターとしては、3-ホスホグリセリン酸キナーゼをはじめとする糖分解酵素が挙げられる。誘導性の酵母プロモーターとしてはとりわけ、アルコールデヒドロゲナーゼ、イソシトクロームC、ならびにマルトースおよびガラクトースの利用を担う酵素に由来するプロモーターが挙げられる。
【0189】
免疫グロブリンまたはそのフラグメントをコードするヌクレオチドの発現に、哺乳動物細胞を用いることができる。Winnacker,From Genes to Clones,(VCH Publishers,NY,1987)を参照されたい。インタクトの異種タンパク質を分泌できる適切な宿主細胞系が多数開発されており、CHO細胞系、様々なCOS細胞系、HeLa細胞、HEK293細胞、L細胞ならびに、Sp2/0およびNS0を含む非抗体産生骨髄腫を含む。細胞は非ヒト細胞であってよい。これらの細胞に用いる発現ベクターは、複製起点、プロモーター、エンハンサーなどの発現制御配列(Queenら,Immunol.Rev.89:49(1986))ならびに、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列などの必要なプロセシング情報部位を含み得る。発現制御配列は、内在遺伝子、サイトメガロウイルス、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルスなどに由来するプロモーターを含み得る。Coら,J.Immunol.148:1149(1992)を参照されたい。
【0190】
あるいは、抗体コード配列を導入遺伝子に組み込んで、トランスジェニック動物のゲノム内に導入した後トランスジェニック動物の乳の中に発現させてもよい(例えば、米国特許第5,741,957号;米国特許第5,304,489号;および米国特許第5,849,992号を参照されたい)。適切な導入遺伝子としては、カゼインまたはベータラクトグロブリンなどの乳腺特異的遺伝子由来のプロモーターおよびエンハンサーと作動可能に連結された、軽鎖および/または重鎖のコード配列が挙げられる。
【0191】
目的とするDNAセグメントを含むベクターは、細胞宿主の種類に応じた方法により宿主細胞に導入できる。例えば、原核細胞には塩化カルシウムトランスフェクションがよく用いられ、他の細胞宿主にはリン酸カルシウム処理、エレクトロポレーション、リポフェクション、遺伝子銃、またはウイルスベースのトランスフェクションを用いることができる。哺乳動物細胞の形質転換に用いられる方法としては、ポリブレンの使用、プロトプラスト融合、リポソーム、エレクトロポレーション、およびマイクロインジェクションが挙げられる。トランスジェニック動物の作製には、導入遺伝子をマイクロインジェクションにより受精卵母細胞内に注入するか胚性幹細胞のゲノム内に組み込み、そのような細胞の核を除核卵母細胞内に移入できる。
【0192】
抗体の重鎖および軽鎖をコードするベクター(1つまたは複数)を細胞培養物中に導入した後、細胞プールを無血清培地中で増殖力および産物の品質についてスクリーニングできる。次いで、最も産生量の多い細胞プールをFACSベースの単一細胞クローン化に供して、モノクローナル系を作製できる。培地1L当たり7.5g超に相当する、1日当たり50pg/細胞または100pg/細胞超の具体的な産生量を用いることができる。単一細胞クローンにより産生される抗体を濁度、ろ過特性、PAGE、IEF、UVスキャン、HP-SEC、炭水化物-オリゴ糖マッピング、質量分析ならびに、ELISAまたはBiacoreなどの結合アッセイについて試験できる。次いで、選択したクローンを複数のバイアルに貯蔵しのちの使用のために凍結保存する。
【0193】
発現後、抗体をプロテインA捕捉、HPLC精製、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む当該技術分野の標準的方法に従って精製できる(全般的には、Scopes,Protein Purification(Springer-Verlag,NY,1982)を参照されたい)。
【0194】
コドン最適化、プロモーターの選択、転写エレメントの選択、ターミネーターの選択、無血清単一細胞クローン化、細胞バンキング、コピー数増幅のための選択マーカーの使用、CHOターミネーター、またはタンパク質力価の向上を含む、抗体の商業的生産の方法論を用いることができる(例えば、米国特許第5,786,464号;同第6,114,148号;同第6,063,598号;同第7,569,339号;国際公開第WO2004/050884号;同第2008/012142号;同第2008/012142号;同第2005/019442号;同第2008/107388号;同第W02009/027471号;および米国特許第5,888,809号を参照されたい)。
【0195】
H.抗体スクリーニングアッセイ
抗体に結合アッセイ、機能スクリーニング、TTR沈着物による疾患の動物モデルを用いるスクリーニング、および診療試験を含むいくつかのスクリーニングを実施できる。結合アッセイでは、単量体TTRまたはそのフラグメントに対する特異的結合ならびに、任意選択で親和性およびエピトープ特異性を試験する。例えば、結合アッセイによって、天然のTTR四量体では埋没しており単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRでは露出しているエピトープである、TTRのアミノ酸残基89~97(配列番号42)に結合する抗体をスクリーニングできる。抗体はまた、天然のTTRの立体構造ではなく前原線維性の非天然の立体構造のTTRおよびTTRアミロイド原線維を結合する能力についてスクリーニングされる。例えば、抗体は、実施例その他に記載されるように、天然の四量体TTRの解離または脱凝集によって生じる単量体型TTRに結合する能力についてスクリーニングされ、かつ天然の四量体TTRに対してカウンタースクリーニングされる。同じように、抗体はまた、健常組織に対してではなくTTR媒介性アミロイドーシス組織に対するそれらの免疫反応性についてスクリーニングされる。このようなスクリーニングは場合によっては、6C1またはIgG1カッパアイソタイプの可変領域を有する抗体などの例示的抗体と競合して実施する。このようなアッセイでは、任意選択で抗体またはTTR標的を固定化する。
【0196】
機能アッセイは、天然にTTRを発現する細胞またはTTRもしくはそのフラグメントをコードするDNAをトランスフェクトした細胞を含む細胞モデルで実施できる。適切な細胞としては、TTRアミロイド形成が認められる心組織または他の組織に由来する細胞が挙げられる。細胞は、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRのレベル低下について(例えば、細胞の抽出物または上清のウエスタンブロッティングまたは免疫沈降によって)または単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに起因する毒性低下に関してスクリーニングされる。例えば、抗体は、TTRの凝集を阻害もしくは軽減する能力、TTR原線維形成を阻害もしくは軽減する能力、TTR沈着物を減少させる能力、凝集したTTRを除去する能力、またはTTRの非毒性立体構造を安定化する能力について試験される。
【0197】
その他の機能アッセイを溶液中で実施でき、例えば、溶液中の単量体TTRまたはミスフォールドTTR中間体を抗体と接触させたとき、抗体がTTR原線維形成を妨害または軽減することができるかどうかなどを試験できる。原線維の形成度は、例えば、温度制御ユニットを備えた紫外可視光分光光度計で400nmでの濁度測定によって調べることができる。チオフラビンTもまた、アミロイド原線維の形成度の評価に用いることができる。例えば、5倍モル過剰のチオフラビンTをTTR試料に加え、室温で30分間放置した後、測定を実施できる。チオフラビンTの蛍光は蛍光光度計を用いてモニターできる。米国特許出願公開第2014/0056904号を参照されたい。
【0198】
動物モデルを用いるスクリーニングでは、TTRまたはTTR沈着物の蓄積に関連するヒト疾患を模倣する動物モデルにおける徴候または症状を治療または予防する抗体の能力を試験する。このような疾患としては、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)、老人性心アミロイドーシス(SCA)、家族性アミロイドニューロパチー(FAP)、家族性アミロイド心筋症(FAC)、および中枢神経系選択性アミロイドーシス(CNSA)などの各種TTRアミロイドーシスが挙げられる。モニターし得る適切な徴候または症状としては、消化管または心臓などの様々な組織でのアミロイド沈着物の存在および程度が挙げられる。アミロイド沈着物の減少度は、しかるべき対照、例えば対照抗体(例えば、アイソタイプが一致する対照抗体)、プラセボを投与した対照動物、または治療を一切実施していない対照動物中のTTRアミロイド沈着物のレベルなどとの比較によって求めることができる。TTRアミロイドーシスに対する活性を試験するための例示的動物モデルは、内在性マウスTtr遺伝子座でのヌル変異と、家族性アミロイド性多発性ニューロパチーと関連するV30M変異を含むヒト変異型TTR遺伝子とを有するマウスモデルである。例えば、Kohnoら,Am.J.Path.150(4):1497-1508(1997);CardosoおよびSaraiva,FASEB J 20(2):234-239(2006)を参照されたい。同様のモデルも存在し、家族性のTTRアミロイドーシスの他のモデルおよび孤発性のTTRアミロイドーシスのモデルがこれに含まれる。例えば、Tengら,Lab.Invest.81(3):385-396(2001);Recent Advances in Transthyretin Evolution,Structure,and Biological Functions,pp.261-280のItoおよびMaeda,Mouse Models of Transthyretin Amyloidosis(2009)(Springer Berlin Heidelberg)を参照されたい。トランスジェニック動物は、ヒトTTR導入遺伝子、例えばTTRアミロイドーシスに関連する変異を有するTTR導入遺伝子または野生型TTR導入遺伝子などを含み得る。動物モデルでの試験を容易にするため、動物モデルに適した定常領域を有するキメラ抗体を使用できる(例えば、ラットでの抗体の試験にはマウス-ラットキメラを使用し得る)。あるヒト化型の抗体は、対応するマウス抗体またはキメラ抗体がしかるべき動物モデルで効果的であり、かつそのヒト化抗体が同程度の結合親和性(例えば、1.5倍、2倍または3倍などの実験誤差の範囲内で)を有する場合、効果的であると結論付けることができる。
【0199】
臨床試験では、TTRアミロイドーシスに関連する疾患を有するヒトを対象に安全性および有効性を試験する。
【0200】
I.核酸
本発明はさらに、上記の重鎖および軽鎖のいずれかをコードする核酸(例えば、配列番号4~9、16、および17)を提供する。このような核酸は任意選択で、シグナルペプチドをさらにコードし、定常領域に連結されたシグナルペプチド(例えば、配列番号50(重鎖)および配列番号52(軽鎖)によってそれぞれコードされ得る配列番号49(重鎖)および配列番号51(軽鎖)のアミノ酸配列を有するシグナルペプチド)とともに発現させることができる。コード配列を確実に発現させるため、核酸のコード配列はプロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、転写終止シグナルなどの制御配列と作動可能に連結され得る。重鎖および軽鎖をコードする核酸は、分離形態で存在しても、1つまたは複数のベクター中にクローン化されていてもよい。核酸は、例えば固相合成または重複するオリゴヌクレオチドのPCRによって合成できる。重鎖と軽鎖をコードする核酸は、例えば発現ベクター内で、1つの連続する核酸として連結されていてもよく、または例えばそれぞれの発現ベクター中にクローン化されて、分離していてもよい。
【0201】
J.コンジュゲート抗体
病原性形態のTTRでは露出しているが、天然の四量体形態のTTRでは露出していない抗原、例えばTTRのアミノ酸残基89~97(配列番号42)に特異的に結合するコンジュゲート抗体は、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、もしくは原線維形態のTTRの有無の検出;TTRアミロイドーシスと診断された患者の治療に使用される治療剤の有効性のモニタリングおよび評価;TTRの凝集の阻害もしくは軽減;TTR原線維形成の阻害もしくは軽減;TTR沈着物の減少もしくは除去;TTRの非毒性立体構造の安定化;または患者のTTRアミロイドーシスの治療もしくは予防に有用である。例えば、このような抗体は別の治療部分、別のタンパク質、別の抗体、および/または検出可能な標識とコンジュゲートできる。国際公開第03/057838号;米国特許第8,455,622号を参照されたい。
【0202】
コンジュゲートされる治療部分は、患者の望ましくない病態または疾患、例えばTTRアミロイドーシスを治療、対処、寛解、予防、または改善するために使用し得る任意の薬剤であり得る。治療部分としては、例えば、抗体の活性を促進または増強する免疫調節物質または任意の生物学的に活性な薬剤が挙げられる。免疫調節物質は、免疫応答の発現または維持を刺激または抑制する任意の薬剤であり得る。このような治療部分を単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに特異的な抗体、例えば本明細書に記載される抗体にカップリングすると、カップリングされた治療部分は、非天然の病原性形態のTTRに対して天然の四量体形態のTTRを上回る特異的親和性を有するようになる。このため、コンジュゲート抗体の投与は病原性形態のTTRを含む組織を直接標的とし、周囲の正常な健常組織への損傷は最小限である。これは、毒性が強すぎてそのものを投与できない治療部分に関して特に有用である。さらに、より少量の治療部分を使用できる。
【0203】
適切な治療部分の例としては、TTRレベルを低下させる薬物、TTRの天然の四量体構造を安定化させる薬物、TTRの凝集を阻害する薬物、TTR原線維もしくはTTRアミロイドの形成を妨害する薬物、または細胞毒性を打ち消す薬物が挙げられる。例えば、AlmeidaおよびSaraiva,FEBS Letters 586:2891-2896(2012);Saraiva,FEBS Letters 498:201-203(2001);Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013);RubergおよびBerk,Circulation 126:1286-1300(2012);ならびにJohnsonら,J.Mol.Biol.421(2-3):185-203(2012)を参照されたい。例えば、抗体をタファミジス、ジフルニサル、ALN-TTR01、ALNTTR02、ISIS-TTRRx、ドキシサイクリン(doxy)、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、Doxy-TUDCA、エピガロカテキンガラート(EGCG)、クルクミンまたはレスベラトロール(3,5,4’-トリヒドロキシスチルベン)にコンジュゲートできる。他の代表的な治療部分としては、TTRアミロイドーシスまたはTTRアミロイドーシスの症状の治療、管理、または寛解に有用であることが知られている他の薬剤が挙げられる。例えば、よくみられるTTRアミロイドーシスの臨床症状およびその症状の治療に使用される典型的な薬剤については、Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013)を参照されたい。
【0204】
抗体はまた、他のタンパク質とカップリングできる。例えば、抗体はフィノマーとカップリングできる。フィノマーは、ヒトFyn SH3ドメインに由来する小さい結合タンパク質(例えば、7kDa)である。それらは安定かつ可溶性であり、システイン残基およびジスルフィド結合を欠くこともある。フィノマーは、抗体と同じ親和性および特異性で標的分子に結合するよう設計できる。フィノマーは、抗体をベースとする多特異性融合タンパク質の作製に適している。例えば、フィノマーを抗体のN末端および/またはC末端に融合して、異なる構造を有する二特異性FynomAbおよび三特異性FynomAbを作製できる。最適な特性を有するフィノマーを効率的に選択できるFACS、Biacore、および細胞ベースのアッセイを用いるスクリーニング技術によりフィノマーライブラリーを用いて、フィノマーを選択できる。フィノマーの例は、Grabulovskiら,J.Biol.Chem.282:3196-3204(2007);Bertschingerら,Protein Eng.Des.Sel.20:57-68(2007);Schlatterら,MAbs.4:497-508(2011);Bannerら,Acta.Crystallogr.D.Biol.Crystallogr.69(Pt6):1124-1137(2013);およびBrackら,Mol.Cancer Ther.13:2030-2039(2014)に開示されている。
【0205】
本明細書に開示される抗体はまた、1つまたは複数の他の抗体にカップリングまたはコンジュゲートできる(それにより例えば、抗体ヘテロコンジュゲートを作製する)。そのような他の抗体は、TTRもしくはその一部分の中の異なるエピトープに結合するか、異なる標的抗原に結合できる。
【0206】
抗体はまた、検出可能な標識とカップリングできる。このような抗体は、例えば、TTRアミロイドーシスの診断、TTRアミロイドーシスの進行のモニタリング、および/または治療効果の評価に用いることができる。このような抗体は、TTRアミロイドーシスに罹患しているか罹患しやすい対象中で、またはそのような対象から採取したしかるべき生体試料で上記のような決定を実施するのに特に有用である。ヒト化6C1抗体にカップリングまたは連結し得る代表的な検出可能な標識としては、様々な酵素、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β‐ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼ;ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンなどの補欠分子族;蛍光物質、例えばウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリトリン;ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンなどの発光物質;放射性物質、例えばイットリウム9090Y)、放射性銀-111、放射性銀-199、ビスマス213、ヨウ素(131I、125I、123I、121I)、炭素(14C)、硫黄(S)、トリチウム(H)、インジウム(115In、113In、112In、111In)、テクネチウム(99Tc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(133Xe)、フッ素(18F)、153Sm、177Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、186Re、188Re、142Pr、105Rh、97Ru、68Ge、57Co、65Zn、85Sr、32P、153Gd、169Yb、51Cr、54Mn、75Se、113Sn、および117Tin;様々な陽電子放射断層撮影法を用いる陽電子放出金属;非放射性常磁性金属イオン;ならびに放射標識した分子または特定の放射性同位元素にコンジュゲートした分子が挙げられる。
【0207】
抗体への放射性同位元素との連結は、従来の二官能性キレートを用いて実施し得る。放射性銀-111および放射性銀-199の連結には、硫黄系リンカーを用い得る。Hazraら,Cell Biophys.24-25:1-7(1994)を参照されたい。銀放射性同位元素の連結は、免疫グロブリンをアスコルビン酸で還元することを含み得る。111Inおよび90Yなどの放射性同位元素には、イブリツモマブチウキセタンを用いることができ、イブリツモマブチウキセタンは上記の同位体と反応して、それぞれ111In-イブリツモマブチウキセタンおよび90Y-イブリツモマブチウキセタンを形成する。Witzig,Cancer Chemother.Pharmacol.,48 Suppl 1:S91-S95(2001)を参照されたい。
【0208】
治療部分、その他のタンパク質、その他の抗体、および/または検出可能な標識は、当該技術分野で公知の技術を用いてマウス抗体、キメラ抗体、ベニヤ化(veneered)抗体、またはヒト化6C1に直接カップリングまたはコンジュゲートしても、介在物(例えば、リンカー)を介して間接的にカップリングまたはコンジュゲートしてもよい。例えば、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeldら(編),pp.243-56(Alan R.Liss,Inc.1985)のArnonら,「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」;Controlled Drug Delivery(第2版),Robinsonら(編),pp.623-53(Marcel Dekker,Inc.1987)のHellstromら,「Antibodies For Drug Delivery」;Monoclonal Antibodies 84:Biological And Clinical Applications,Pincheraら(編),pp.475-506(1985)のThorpe,「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」;Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwinら(編),pp.303-16(Academic Press 1985)の「Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」;およびThorpeら,Immunol.Rev.,62:119-58(1982)を参照されたい。適切なリンカーとしては、例えば、切断可能なリンカーおよび切断可能でないリンカーが挙げられる。酸性または還元性の条件下で、特定のプロテアーゼに曝露したとき、またはその他の定められた条件下で、カップリングした治療部分、タンパク質、抗体、および/または検出可能な標識を放出する様々なリンカーを用いることができる。
【0209】
V.治療応用
上記の抗体は、トランスサイレチン(TTR)により少なくとも部分的に、および特に単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRにより媒介される疾患を有するか、そのような疾患のリスクのある患者における疾患の治療または予防に使用できる。実施にあたって機序を理解する必要はないが、上記の抗体を用いるTTRアミロイドーシスの治療に以下の機序:TTR凝集および原線維形成の抗体介在性阻害、TTRの非毒性立体構造(例えば、テトラマー形態)の抗体介在性安定化、または凝集TTR、オリゴマーTTR、もしくは単量体TTRの抗体介在性除去のいずれかまたは全部が寄与するものと考えられる。抗体-薬物コンジュゲートは、コンジュゲート部分によって決まるさらなる作用機序を有し得る。
【0210】
抗体は有効なレジメン、つまり、発症を遅らせ、重症度を軽減し、さらなる増悪を抑制し、かつ/または治療する障害の少なくとも1つの徴候もしくは症状を寛解する用量、投与経路および投与頻度で、投与される。患者が既に障害に罹患している場合、そのレジメンを治療上有効なレジメンと呼ぶことができる。患者が一般集団よりも障害のリスクが高いが未だ症状を認めない場合、そのレジメンを予防上有効なレジメンと呼ぶことができる。いくつかの場合には、治療有効性または予防有効性が、個々の患者において既存対照または同一患者での過去の経験と比較して観察され得る。別の場合には、治療有効性または予防有効性は、前臨床試験または臨床試験で、治療を実施した患者の集団と未治療患者の対照集団とを比較して明らかにできる。
【0211】
投与頻度は、様々な因子のなかでもとりわけ、循環血中の抗体の半減期、患者の状態および投与経路によって決まる。頻度は、患者の状態または治療する障害の進行度の変化に応じて、連日、週1回、月1回、年4回、または不規則な間隔であり得る。静脈内投与の例示的な頻度は、治療の連続的な原因にわたって週1回~年4回であるが、より多いまたは少ない頻度も可能である。皮下投与では、例示的な投与頻度は連日~月1回であるが、より多いまたは少ない投与頻度も可能である。
【0212】
投与回数は、障害が急性であるのか慢性であるのか、および障害の治療に対する応答によって決まる。急性障害または慢性障害の急性増悪には、多くの場合1~10回で十分である。急性障害または慢性障害の急性増悪には、任意選択で分割形態での、単回ボーラス投与で十分なこともある。急性障害または急性増悪の再発に対しては治療を反復し得る。慢性障害には、抗体を少なくとも1年間、5年間または10年間、ないし患者の生涯にわたって定期的な間隔で、例えば週1回、隔週、月1回、年4回、6か月に1回、投与し得る。
【0213】
VI.医薬組成物および使用方法
本明細書では、トランスサイレチン(TTR)により少なくとも部分的に、および特に単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRにより媒介される疾患または病態(例えば、TTRアミロイドーシス)を診断、モニタリング、治療または予防するいくつかの方法が提供される。このような疾患の例としては、家族性アミロイド心筋症(FAC)または極端な有酸素運動を実施している運動選手もしくは他の者における心筋症もしくは心肥大、家族性アミロイドニューロパチー(FAP)、または中枢神経系選択性アミロイドーシス(CNSA)などの家族性TTRアミロイドーシス、および老人性全身性アミロイドーシス(SSA)または老人性心アミロイドーシス(SCA)などの孤発性TTRアミロイドーシスが挙げられる。TTRアミロイドーシスは、組織または器官の変性を特徴とする様々な疾患および病態の原因または結果として関連することもある。TTR沈着物の蓄積が疾患または病態と関連する器官または組織の機能不全の一因となる。本発明の薬剤および方法による治療または予防が可能なこのような病態の例は脊柱管狭窄症である(Westermarkら,Upsala J.Medical Sciences 119,223-238(2014)およびYanagisawaら,Modern Pathology 28,201-207(2015))。同じように治療または予防が可能な別の疾患は変形性関節症である(Takanashiら,Amyloi 20,151-155(2013),Guら,Biomed & Biotechnol.15,92-99;Takinamiら,Biomarker Insights 8,85-95(2014);Akasakiら,Arthritis Rheumatol.67,2097-2107(2015))。同じように治療または予防が可能な別の疾患は関節リウマチである(Clementら,JCI Insight 1 epublish(2016))。治療または予防が可能な別の疾患は若年性特発性関節炎である(Sharmaら,PLOSone 9,1-12(2014))。治療または予防が可能な別の疾患は加齢黄斑変性(ウェット型またはドライ型)である。同じように治療または予防が可能な別のクラスの病態は靭帯障害および腱障害、例えば回旋筋腱板の障害である(Sueyoshiら,Human Pathol.42,1259-64(2011))。
【0214】
上記の抗体は、上記のいずれかの疾患および病態の治療または予防に使用する医薬組成物中に組み込まれ得る。一般に、抗体または抗体を含有する医薬組成物が、それを必要とする対象に投与される。治療に適する患者としては、TTRアミロイドーシスのリスクはあるが症状を認めない個体ならびに、現時点で症状を呈する患者が挙げられる。患者によっては、TTRアミロイドーシスの前駆段階の間に治療され得る。
【0215】
TTRアミロイドーシスに罹患している個体は、(1)特に心不全に関わる、神経障害性疾患の家族歴;(2)原因不明の神経因性疼痛または進行性感覚障害;(3)原因が明らかでなく、特に両側性で外科的開放を必要とする手根管症候群;(4)原因不明の消化管運動障害または自律神経機能不全(例えば、勃起不全、起立性低血圧症、神経因性膀胱);(5)高血圧がみられず心室壁肥厚を特徴とする心疾患;(6)原因が不明であり、特に心肥大を伴う高度房室ブロック;および(6)綿花状の硝子体封入体の1つまたは複数を含むTTRアミロイドーシスの臨床症状から認識されることもある。Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013)を参照されたい。しかし、TTRアミロイドーシスの確定診断は通常、標的器官の生検を頼りにし、次いで、析出組織をアミロイド特異的色素であるコンゴー赤で組織学的に染色する。検査結果がアミロイド陽性である場合、次いでTTRの免疫組織化学染色を実施してアミロイド形成の原因である前駆体タンパク質が実際にTTRであることを確認する。家族性の疾患では、TTRをコードする遺伝子に変異があることを次いで明らかにしてから診断を下す必要がある。
【0216】
対象の特定は、臨床現場で実施しても、あるいはそれ以外の場所で、例えば対象の自宅で、例えば対象自身が自己検査キットを用いて実施してもよい。例えば、末梢性ニューロパチー(感覚性ニューロパチーおよび運動性ニューロパチー)、自律神経性ニューロパチー、胃腸障害、心筋症、腎障害または眼内沈着などの様々な症状に基づいて対象を特定できる。Andoら,Orphanet Journal of Rare Diseases 8:31(2013)を参照されたい。対象はまた、実施例に開示されるように、対照試料に比して対象からの血漿試料中の非天然形態のTTRのレベルが上昇していることによっても特定できる。
【0217】
家族歴、遺伝子検査、または医学的スクリーニングによってTTRアミロイドーシスが裏付けられると、任意の年齢(例えば、20歳、30歳、40歳、50歳、60歳または70歳)で治療を開始し得る。治療は通常、一定期間にわたる反復投与を必要とし、治療剤(例えば、アミノ酸残基89~97を含む短縮形態のTTR)に対する抗体または活性化されたT細胞もしくはB細胞の応答を経時的にアッセイすることによってモニターできる。応答が低下した場合、追加投与が適応される。
【0218】
予防応用では、疾患(例えば、TTRアミロイドーシス)に罹患しやすいか、または疾患のリスクがある対象に、疾患のリスクを軽減する、疾患の重症度を軽減する、または疾患の少なくとも1つの徴候または症状の発現を遅らせるために有効なレジメン(投与の用量、頻度および経路)で、抗体またはその医薬組成物を投与する。治療応用では、疾患(例えば、TTRアミロイドーシス)が疑われるか、または既に疾患に罹患している対象に、疾患の少なくとも1つの徴候または症状のさらなる増悪を寛解するか少なくともそれを抑制するために有効なレジメン(投与の用量、頻度および経路)で、抗体または抗体を誘導する免疫原を投与する。
【0219】
レジメンは、治療を実施した個々の対象が、本明細書に開示される方法による治療を実施していない同等の対象からなる対照集団での平均転帰よりも良好な転帰を達成した場合、あるいはあるレジメンで治療を実施した対象が、対照臨床試験(例えば、第II相、第II/III相または第III相試験)での対照対象または動物モデルよりもp<0.05もしくはp<0.01、場合によってはp<0.001のレベルで良好な転帰を示した場合に、治療上または予防上有効であると見なされる。
【0220】
ある抗体の有効なレジメンは、例えば、TTR蓄積に関わる病態を有するかそのリスクのある対象中のTTR凝集を阻害もしくは軽減する;TTR蓄積に関わる病態を有するかそのリスクのある対象中のTTR原線維形成を阻害もしくは軽減する;TTR蓄積に関わる病態を有するかそのリスクのある対象中のTTR沈着物もしくは凝集TTRを減少もしくは除去する;TTR蓄積に関わる病態を有するかそのリスクのある対象中のTTRの非毒性立体構造を安定化する;TTR蓄積に関わる病態を有するかそのリスクのある対象中のTTR凝集体、原線維もしくは沈着物の毒性作用を阻害する;アミロイド蓄積を有することが疑われる組織中へのTTRアミロイド蓄積の有無を診断する;抗体投与後の対象中の結合抗体の有無を検出することにより対象中のTTR沈着物レベルを決定する;対象中の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、もしくは原線維形態のTTRの存在を検出する;TTRアミロイドーシスと診断された患者を治療するために使用される治療剤の有効性をモニタリングおよび評価する;対象中でTTRに対する抗体を含む免疫応答を誘導する;対象中でTTRアミロイド蓄積に関わる病態の発症を遅延する;または患者中のTTRアミロイドーシスを治療もしくは予防するために使用できる。
【0221】
有効量は、多数の異なる因子、例えば投与手段、標的部位、対象の生理的状態、対象がヒトであるのか動物であるのか、投与する他の薬剤、および治療が予防的であるのか治療的であるのかなどによって異なる。
【0222】
抗体の例示的な用量範囲は、約0.1~20mg/kg体重、もしくは0.5~5mg/kg体重(例えば、0.5mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kgまたは5mg/kg)または固定用量として10~1500mgであり得る。用量は、様々な因子のなかでもとりわけ、患者の状態および、もしあれば以前の治療に対する応答、治療が予防的であるのか治療的であるのか、および障害が急性であるのか慢性であるのかによって決まる。
【0223】
抗体は上記の用量で連日、隔日、週1回、隔週、月1回、年4回、または経験的解析によって定められる他の任意の計画に従って投与し得る。例示的な治療は、例えば少なくとも6か月間の長期間にわたる反復投与を必要とする。追加の例示的な治療レジメンは、2週間に1回、1か月に1回または3~6か月に1回の投与を必要とする。
【0224】
抗体は末梢経路により投与できる。投与経路としては、局所、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、鼻腔内または筋肉内が挙げられる。抗体の投与経路は、静脈内または皮下であり得る。静脈内投与は、例えば30~90分などの時間にわたる注入によるものであり得る。この種の注射は、腕または脚の筋肉でもっとも典型的に実施される。いくつかの方法では、薬剤を沈着物が蓄積した特定の組織の中に直接注射し、例えば頭蓋内に注射する。
【0225】
非経口投与用の医薬組成物は、無菌で実質的に等張(250~350mOsm/kg水)であり得、GMP条件下で製造できる。医薬組成物は、単位用量形態(すなわち、単回投与のための用量)で提供できる。医薬組成物は、1つまたは複数の生理的に許容される担体、希釈剤、補形剤または補助剤を用いて製剤化できる。製剤は、選択する投与経路によって決まる。注射用に、抗体を水溶液中、例えばハンクス液、リンガー溶液、生理食塩水または酢酸塩緩衝液などの生理的に適合する緩衝液中で製剤化できる(注射部位の不快感を軽減するため)。溶液は、懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの製剤用剤を含有し得る。あるいは、抗体は、使用前に適切な媒体、例えば無菌無発熱物質水で構築するための凍結乾燥形態であり得る。
【0226】
レジメンは、治療される疾患の治療または予防に効果のある別の薬剤と組み合わせて投与され得る。このような薬剤としては、TTRの発現を阻害するsiRNAまたは四量体形態のTTRの安定剤であるVyndaqelが挙げられる。
【0227】
治療後に、対象の状態を評価して、そのような治療の進行状況または有効性を決定できる。このような方法は好ましくは、TTRアミロイドのレベルまたは非天然形態のTTRのレベルの変化を検査する。例えば、TTRアミロイドのレベルを評価して、治療前の同等の状況下での対象のTTRアミロイドのレベルに比する改善を決定し得る。対象のTTRアミロイドのレベルもまた同等の状況下の対照集団と比較できる。対照集団は、(様々な対照対象のなかでもとりわけ)同じように罹患した未治療対象または正常な未治療対象であり得る。同じように罹患した未治療対象に比して改善がみられる場合または諸レベルが未治療の正常対象のレベルに近づいているか到達している場合、それは治療に対する正の応答を示す。
【0228】
TTRアミロイドのレベルは、イメージング技術を含む多数の方法によって測定できる。適切なイメージング技術の例としては、放射標識したそのフラグメントのTTR、TTR抗体またはそのフラグメント、コンゴー赤系のアミロイド造影剤、例えばPIB(米国特許出願公開第2011/0008255号)、アミロイドイメージングペプチドp31(Biodistribution of amyloid-imaging peptide,p31,correlates with amyloid quantitation based on Congo red tissue staining,Wallら,Abstract No.1573,2011 ISNM Annual Meeting)など、およびその他のPET標識を用いるPETスキャンが挙げられる。非天然形態のTTRのレベルは、例えば、実施例に記載されるように、対象からの血漿試料または生検試料に本明細書に開示される抗体を用いてSDS-PAGE/ウエスタンブロットまたはMeso Scale Discoveryプレートアッセイを実施し、対照試料と比較することによって測定できる。
【0229】
A.診断およびモニタリングの方法
TTR沈着または病原性形態のTTR(例えば、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態または原線維形態のTTR)に関連する疾患に罹患しているか罹患しやすい患者中でTTRに対する免疫応答を検出する方法も提供される。この方法は、本明細書に提供される薬剤による治療的処置または予防的処置の経過をモニターするのに使用できる。受動免疫後の抗体プロファイルは通常、抗体濃度の直後のピークとそれに続く指数関数的減衰を示す。さらなる投与を実施しなければ、投与した抗体の半減期に応じて数日~数か月以内に減衰が治療前のレベルに近づく。例えば、いくつかのヒト抗体の半減期は20日程度である。
【0230】
いくつかの方法では、投与前に対象中のTTRに対する抗体のベースライン値を測定し、投与直後に2回目の測定を実施して抗体レベルのピーク値を求め、かつ間隔を空けてさらに1回または複数回の測定を実施して抗体レベルの減衰をモニターする。抗体レベルがベースライン値またはピーク値とベースライン値の差の所定の割合(例えば、50%、25%または10%)に低下したとき、追加の用量抗体を投与する。いくつかの方法では、ピーク値またはその後に測定したレベルからバックグラウンドを減じた値を、予め求めた参照レベルと比較して、他の対象に有益な予防処置または治療処置のレジメンを設定する。測定した抗体レベルが参照レベルよりも有意に低い(例えば、治療から利益を得る対象の集団での参照値の平均マイナス1または、好ましくはマイナス2標準偏差よりも低い)場合、追加の用量の抗体の投与が適応される。
【0231】
対象中の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRを、例えば、対象由来の試料中のTTRアミロイドまたは病原性形態のTTR(例えば、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTR)を測定することによって、または対象中のTTRのin vivoイメージングによって検出する方法も提供される。このような方法は、上記の病原性形態のTTR(例えば、TTRアミロイドーシス)に関連する疾患、またはそれに対する易罹患性の診断または診断の確定に有用である。この方法はまた、無症候性の対象に用いることができる。単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの存在は、今後症候性の疾患に罹患しやすいことを示す。この方法はまた、既にTTRアミロイドーシスであると診断されている対象における疾患の進行および/または治療に対する応答をモニタリングするのに有用である。
【0232】
TTRアミロイドーシスを有する、有することが疑われる、または有するリスクのある対象から採取した生体試料を、本明細書に開示される抗体と接触させて、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの有無を評価することができる。例えば、上記の対象中の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRのレベルを健常対象中のものと比較し得る。あるいは、疾患に対する治療を受けている上記の対象中のTTRアミロイドまたは病原性形態のTTR(例えば、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTR)のレベルを、TTRアミロイドーシスに対する治療を実施していない対象のものと比較してもよい。いくつかのこのような検査は、上記の対象から採取した組織の生検を含む。ELISAアッセイもまた、例えば液体試料中の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRのレベルを評価するのに有用であり得る。いくつかのこのようなELISAアッセイは、正常な四量体形態のTTRと比べて単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRを優先的に結合する抗TTR抗体を含む。
【0233】
in vivoイメージング法は、試薬、例えば対象の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに結合する抗体を投与した後、その試薬が結合してからそれを検出することによって実施できる。このような抗体は通常、TTRの残基89~97内のエピトープに結合する。必要に応じて、完全長の定常領域を欠く抗体フラグメント、例えばFabを使用することによって除去応答を回避できる。いくつかの方法では、同じ抗体が治療試薬および診断試薬の両方の役割を果たし得る。
【0234】
診断試薬は、対象の体内への静脈内注射によって、または妥当であると考えられるその他の経路により投与できる。試薬の用量は、治療方法のものと同じ範囲内に収めるべきである。通常、試薬を標識するが、いくつかの方法では、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRに対する親和性を有する一次試薬は非標識であり、二次標識剤を用いて一次試薬に結合させる。標識の選択は検出手段によって決まる。例えば、蛍光標識は光学的検出に適している。常磁性標識の使用は、外科的介入のない断層撮影による検出に適している。放射性標識もまた、PETまたはSPECTを用いて検出され得る。
【0235】
診断は、標識部位の数、大きさ、および/または強度を対応するベースライン値と比較することによって実施する。ベースライン値は、未罹患の個体の集団での平均レベルであり得る。ベースライン値はまた、同じ対象で以前に求めたレベルであり得る。例えば、治療開始前に対象におけるベースライン値を求め、測定した値をその後にベースライン値と比較することができる。値がベースライン値に比べ低下していることは一般に、治療に対する正の応答を示す。
【0236】
IX.キット
本発明はさらに、本明細書に開示されるヒト化6C1抗体と、それに関連する材料、例えば使用指示書(例えば、添付文書)とを含む、キット(例えば、容器)を提供する。使用指示書は、例えば、抗体および任意選択で1つまたは複数の追加の薬剤の投与に関する指示を含み得る。抗体の容器は、単位用量、バルク包装(例えば、複数用量包装)、または小単位用量であり得る。
【0237】
添付文書は、治療用製品の市販の包装品に慣例的に含まれ、そのような治療用製品の使用に係る適応症、用法、用量、投与、禁忌および/または注意事項に関する情報を含む指示書を指す。
【0238】
キットはまた、薬学的に許容される緩衝液、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液およびブドウ糖溶液を含む、第二の容器を含み得る。それはまた、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジを含む商業上の観点および使用者の観点から望ましい他の材料を含み得る。
【0239】
X.その他の応用
抗体は、臨床診断、臨床治療または研究において単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、もしくは原線維形態のトランスサイレチン(TTR)またはそのフラグメントを検出するのに用いることができる。例えば、抗体を用いて、生体試料がTTRアミロイド沈着物を含むことの指標として生体試料中の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの存在を検出できる。生体試料への抗体の結合を、対照試料への抗体の結合と比較できる。対照試料と生体試料は、同じ組織を起源とする細胞を含み得る。対照試料と生体試料は、同じ個体または異なる個体から同じ機会または異なる機会に採取され得る。必要に応じて、複数の生体試料と複数の対照試料を複数の機会に評価して、試料間の差とは無関係のランダムな変動から保護する。次いで、生体試料(1つまたは複数)と対照試料(1つまたは複数)とを直接比較して、生体試料(1つまたは複数)への抗体の結合(すなわち、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの存在)が対照試料(1つまたは複数)への抗体の結合に比して増大しているのか、減少しているのか、同じであるのかを決定できる。生体試料(1つまたは複数)への抗体の結合が対照試料(1つまたは複数)に比して増大していることは、生体試料(1つまたは複数)中に単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRが存在することを示す。いくつかの場合には、抗体結合の増大は統計的に有意である。任意選択で、生体試料への抗体の結合は、対照試料への抗体の結合の少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、または100倍高い。
【0240】
さらに、抗体を用いて、TTRアミロイドーシスと診断された患者を治療するために使用される治療剤の有効性をモニタリングおよび評価するために生体試料中の単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの有無を検出できる。治療剤で治療を開始する前に、TTRアミロイドーシスと診断された患者からの生体試料を評価して試料への抗体の結合のベースライン値(すなわち、試料中に単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRが存在するときのベースライン値)を設定する。いくつかの場合には、患者からの複数の生体試料を複数の機会に評価して、ベースライン値および治療とは無関係のランダムな変動の測定値の両方を設定する。次いで、治療剤をレジメンに従って投与する。レジメンは、一定期間にわたる薬剤の反復投与を含み得る。任意選択で、患者からの複数の生体試料中の抗体の結合(すなわち、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの存在)を複数の機会に評価して、ランダムな変動の測定を行い免疫療法に対する応答の傾向を明らかにする。生体試料への抗体結合の様々な評価を次いで比較する。評価を2回のみ実施する場合、2回の評価を直接比較して、抗体結合(すなわち、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態または原線維形態のTTRの存在)が2回の評価の間で増大したのか、減少したのか、同じままなのかを決定できる。評価を3回以上実施する場合、治療剤で治療する前に始まり治療過程を進行する経時変化として測定値を解析できる。生体試料への抗体の結合(すなわち、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、または原線維形態のTTRの存在)が減少した患者では、患者におけるTTRアミロイドーシスを治療するのに治療剤が効果的であると結論付けることができる。抗体結合の減少は統計的に有意であり得る。任意選択で、結合は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少する。抗体結合の評価は、TTRアミロイドーシスの他の徴候および症状の評価とともに実施できる。
【0241】
モノクローナル抗体6C1を産生するハイブリドーマ細胞系は、2017年4月4日、American Type Culture Collection 10801 University Boulevard Manassas,VA 20110 USAにてブダペスト条約にアクセッション番号PTA-124077で寄託されたものである。
【0242】
抗体はまた、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、もしくは原線維形態のTTRまたはそのフラグメントを検出する際の研究用の研究試薬として使用できる。このような用途では、抗体は蛍光分子、スピン標識分子、酵素、または放射性同位元素で標識され、検出アッセイを実施するのに必要な全試薬を収納したキットの形態で提供され得る。抗体はまた、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって、単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態もしくは原線維形態のTTRまたは単量体形態、ミスフォールド形態、凝集形態、もしくは原線維形態のTTR結合パートナーを精製するのに使用できる。
【0243】
抗体はまた、生体試料のTTRの凝集を阻害もしくは軽減する、TTR原線維形成を阻害もしくは軽減する、TTR沈着物もしくはTTR凝集体を減少もしくは除去する、またはTTRの非毒性立体構造を安定化するために使用できる。生体試料は、例えば血液、血清、血漿、または組織(例えば、心臓、末梢神経系、自律神経系、腎臓、眼球、または消化管由来の組織)を含み得る。いくつかの場合には、TTR凝集、TTR原線維形成、またはTTR沈着は少なくとも10%、20%、25%、30%、40%、50%、または75%(例えば、10%~75%または30%~70%)阻害または軽減される。原線維形成を検出するアッセイについては本明細書の別の箇所に記載する。米国特許出願公開第2014/0056904号も参照されたい。
【0244】
これまでに、またはのちに引用される特許出願、ウェブサイト、その他の刊行物、アクセッション番号などはいずれも、個々の項目の全体があらゆる目的で参照により組み込まれることが具体的かつ個別に明記された場合と同様に組み込まれる。ある配列の様々なバージョンを様々な時点のアクセッション番号と関連付ける場合、本願の有効出願日の時点のアクセッション番号と関連するバージョンとする。有効出願日は、該当するアクセッション番号に関して実際の出願日または優先出願の出願日のうち早い方を意味する。同じように、刊行物、ウェブサイトなどの公開時期が版によって異なる場合、特に明記されない限り、本願の有効出願日の時点で最新版のものとする。特に明記されない限り、本発明の任意の特徴、段階、要素、実施形態、または態様を他の任意のものと組み合わせて用いることができる。ここまで、本発明を明確に示し理解させることを目的に、説明および具体例によってある程度詳細に記載してきたが、添付の「特許請求の範囲」の範囲内で何らかの変更および修正を施し得ることは明らかであろう。
【0245】
実施例
実施例1.mis-TTRモノクローナル抗体の同定
材料および方法(a~d)に記載する通りに単量体形態、ミスフォールド形態、原線維形態または凝集形態のTTR(mis-TTR)に対する立体構造特異的モノクローナル抗体を作製し、スクリーニングし、発現させ、精製した。mis-TTRモノクローナル抗体を作製するため、ヒト四量体TTRの結晶構造を調べて、四量体では埋没しているが、四量体を単量体サブユニットに解離すると露出するタンパク質の領域を明らかにした。特定された領域は、TTRのF鎖内に位置し四量体タンパク質の二量体界面で隔離されている残基89~97(EHAEVVFTA)(配列番号42)であった。タンパク質データベースのBLAST検索を実施したところ、この配列を有する他のヒトタンパク質は見出されなかった。
【0246】
この配列を含むペプチド(ggEHAEVVFTAggkg)(配列番号43)を合成した。大文字はTTRの残基89~97を表す。小文字は、抗原性ペプチドの溶解度を増大させ、内部配列として9アミノ酸のフラグメントを確立するために付加した追加のリンカー残基を表す。このペプチドをポリ-リジン樹状コアに連結して、リジン残基のコアを含み複数の分岐がTTR89-97ペプチドに連結された多抗原性ペプチド免疫原(TTR-MAP)を作製した。表2に記載する抗体はTTR-MAPに対して作製したものである。
【0247】
この多抗原性ペプチドに加えて、N末端およびC末端のシステイン残基を介して同様のTTR89-97ペプチド(Ac-cggEHAEVVFTA-アミド(配列番号44)およびAc-EHAEVVFTAcgg-アミド)(配列番号45)をキーホールリンペットヘモシアニンに共有結合させることにより、同じTTRフラグメントを含む別の免疫原を2つ作製した(TTR89-97-N-KLHおよびTTR89-97-C-KLH)。
【0248】
抗体を作製し、スクリーニングし、発現させ、精製した後、表2に示すように、組換えヒトTTR F87M/L110Mに対する表面プラズモン共鳴(SPR)により、リードmis-TTR抗体の詳細な結合動態パラメータ(結合速度(k)、解離速度(k)、および結合親和性定数(K))を求めた。抗マウスIgG(GE Healthcare社)を、GE Healthcare社の抗マウスキットに添付された指示書に従って、アミンカップリングによりセンサーチップC5(デキストラン鎖を欠く)上に固定化し、mis-TTR mAbを、分析物の結合最大値が確実に30~50RUとなるレベルまで捕捉した。様々な濃度の分析物(組換えヒトTTR F87M/L110M)を、3倍希釈でランニング緩衝液(HBS+0.05%P-20、1mg/mL BSA)中30μl/分にて捕捉したリガンド上を通過させた。各濃度について、会合時により高濃度の分析物が平衡状態に達するような、かつ解離時にシグナルの少なくとも10%が減衰するような時間の間、反応を進行させた。少なくとも1種類の濃度(最高濃度でも最低濃度でもない)を二重反復で実施した。分析物の濃度範囲は、予備実験に基づき少なくともKの10倍~Kの10分の1に渡るよう選択した。
【0249】
リードmis-TTR mAbのSPR解析の結果を下の表2に示す。
【0250】
【表2】
【0251】
実施例2.mis-TTR抗体のTTR抗原への結合
4種類のリードmis-TTR mAb(9D5、14G8、6C1および5A1)を0.31~2.5μg/mlの範囲の濃度で、コーティング抗原としてpH4.0処理TTR(pH4-TTR)および天然TTRの両方を用いるELISAによりアッセイした。TTR抗原の調製およびELISAのプロトコルについては、材料および方法(e~g)に別途記載する。
【0252】
得られた結合曲線および表形式のK値およびBmax値を図3および下の表3に示す。図3の結果は、y軸上に任意単位(a.u.)で表されている。いずれのmAbも、pH4-TTRへの有意な結合を示し、K値の範囲は16nM(6C1)~282nM(9D5)であった。pH4-TTRへの結合のBmax値は、最小値0.65a.u.(14G8)~最大値2.02(9D5)の範囲であった。pH4-TTRへの結合とは対照的に、天然TTRへの有意な結合を示した抗体はなく、作製したTTR抗体が全て非天然形態のTTRに対して特異的であったことを示唆する。
【0253】
【表3】
【0254】
実施例3.SDS-PAGEおよびネイティブPAGEによるmis-TTR抗体の分析
9D5および14G8をSDS-PAGE/ウエスタンにより分析し、単量体形態/変性形態のTTRに対する結合特異性を天然TTRと比較して示した。SDS-PAGE、ネイティブPAGE、およびウエスタンブロットのプロトコルについては、方法および材料(h~j)に別途記載する。
【0255】
非変性のTTRまたはpH4-TTRを、SDS-PAGEゲル上で熱変性TTRおよび熱変性pH4-TTRと並べて泳動させた。電気泳動後、ゲルをニトロセルロース上にウエスタンブロットし、TTR mAbの9D5および14G8で染色した。両抗体は、TTRがpH4で処理されるか、TTRまたはpH4-TTRがSDS-PAGEを実施する前に最初に熱変性された場合に、TTRのみを認識した。したがって、これらの9D5および14G8は、TTRの変性、またはpH4でのTTRの処理によって作製したTTR配座異性体に対して特異性を示す。
【0256】
6C1および5A1ならびに全TTR mAb(7G7、8C3)およびSigma社の市販のポリクローナル抗体をまた、SDS-PAGE/ウエスタンにより分析した。各ブロットは、染色した分子量マーカー、天然TTR、およびpH4-TTRを含んだ。
【0257】
染色したSDS-PAGEゲルから、天然TTR試料中に存在する主要な種は約38kDaの二量体であることがわかった。これに対し、pH4-TTR試料中に存在する主要な成分は、約35kDaの二量体と約15kDaの単量体からなる少量の二量体として泳動した。この二量体は、天然TTR試料中に存在する二量体よりわずかに小さいタンパク質として泳動し、これらの2つのTTR二量体種の立体構造に差があることを示唆する。
【0258】
4種類のmis-TTR抗体を用いたTTRおよびpH4-TTRのウエスタンブロットから、これらのmAbは天然TTRを認識しないが、pH4-TTR試料中に存在する変性単量体および二量体の両方に結合することがわかった。したがって、この4種類のmis-TTR mAb(9D5、14G8、6C1、および5A1)は、SDS-PAGE/ウエスタンにより分析した場合、TTRの非天然の立体構造に対して同様の特異性を示す。
【0259】
4種類のmis-TTR mAbとは対照的に、マウスをインタクトのTTRで免疫して作製した2種類のTTR対照mAbである7G7および8C3は、四量体TTR種を含む、TTR試料およびpH4-TTR試料中に存在する全TTR種を認識した。したがって、mis-TTR mAbとは異なり、これらの対照mAbはTTRを結合するが、立体構造特異性はない。Sigma社のポリクローナル抗体は、対照mAbの7G7および8C3と同様の挙動を示した。
【0260】
TTRおよびpH4-TTRをネイティブゲル上でも泳動させ、4種類のmis-TTR mAbが未変性ゲル条件下で立体構造特異性を示すことができるかどうかを確認した。染色したネイティブPAGEゲル上では、TTRは約35kDaの天然の二量体および少量の四量体として泳動した。これに対し、pH4-TTRは主として高分子量のスメアと微量の約35kDaの二量体として泳動した。Sigma社の非特異的ポリクローナル抗体は、TTR試料およびpH4-TTR試料の両方に存在する全TTR種を認識した。これに対し、9D5は、pH4-TTR試料中に存在する高分子量TTR種のみを認識した。SDS-PAGE/ウエスタンの実験で観察された通り、9D5は天然TTR種をいずれも認識しなかった。
【0261】
次いで、4種類全部のmis-TTR mAbをネイティブPAGE/ウエスタンブロットにより解析した。予想された通り、9D5と同じく、他のmis-TTR mAb、すなわち14G8、6C1、および5A1はpH4-TTR試料中に存在する高分子量の非天然形態のTTRに特異的に結合した。上記の抗体のいずれも約35kDaの天然TTR二量体を認識しなかった。以上の結果は、4種類のmis-TTR mAbが同様に挙動し、天然TTRと立体構造の異なる非天然のTTR種のみを認識することを示唆する。
【0262】
実施例4.mis-TTR抗体によるTTR線維形成の阻害
TTR-Y78Fは、タンパク質配列中の78位にTTR四量体を不安定化させる点変異を含むTTRバリアントである。このTTRバリアントは、時間の経過および弱酸性条件下にてその単量体サブユニットへと解離し、次いで凝集して、チオフラビンTに結合できる線維を形成し得る。このため、480nmでチオフラビンTの蛍光を測定することによって線維形成の程度をモニターできる。解離したTTR単量体または凝集体に特異的なmis-TTR抗体を導入すれば、TTR線維の集合が妨げられ、無抗体対照の反応に比してチオフラビンTの蛍光が減少すると考えられる。TTR線維形成の阻害を検討するプロトコルについては、材料および方法(k)に別途記載する。
【0263】
mis-TTR抗体は4種類とも、チオフラビンT反応性TTR-Y78F線維の形成をアイソタイプ対照に比して強力に阻害した(その結果を図4Aのy軸上に任意単位(a.u.)で示す)。mis-TTR抗体5A1は線維形成をほぼ完全に阻害した。これらの結果は、mis-TTR抗体が単量体形態および/または凝集形態のTTRを結合し、それによりTTR線維の形成を妨げるという考えと一致する。
【0264】
非天然形態のTTRに対して優れた立体構造選択性を示した4種類のmis-TTR抗体(9D5、14G8、6C1、および5A1)の組から得た特徴付けデータを表4にまとめる。これらの抗体は、pH4-TTRに対する親和性(K)の範囲が14.5nM(6C1)~257nM(9D5)であり、Bmax値の範囲が0.65a.u.(14G8)~2.02(9D5)であった。いずれの抗体も天然TTRを認識しなかったが、SDS-PAGE/ウエスタンでpH4-TTRに結合し、ネイティブPAGE/ウエスタンで高分子量TTR凝集体に結合した。上記の抗体はまた、リードアウトとしてチオ-Tを用いる原線維形成アッセイでTTR原線維の形成を阻害した。
【0265】
【表4】
【0266】
TTR-V122Iは、122位に四量体を不安定化させる単一点変異を含むTTRバリアントである。原線維形成はThT蛍光の増大と関連した。14G8 mAb濃度が増大するとThT蛍光が単調に減少し、TTR原線維形成の準化学量論的阻害を示唆した(IC50=0.028±0.009mg/mL;n=3;図4Bおよび表4a)。アイソタイプ対照mAbがTTR原線維形成を阻害しなかった(図4C)ことは、14G8介在性の阻害の特異性を示唆する。
【0267】
5A1および6C1について決定された同等の準化学量論的IC50値(表4a)は、これらのmis-TTR mAbそれぞれの類似した原線維阻害機序を示唆した。これに対し、9D5は、非天然TTRに対して同様の特異性および親和性を示したものの、TTR-V122Iの原線維形成を予想外にも阻害できなかった。9D5が、用いるアッセイ条件に対してより感受性であるのかを今後検討する必要がある。
【0268】
【表5】
【0269】
実施例5.mis-TTR mAbを用いるATTR組織の免疫組織化学的(IHC)特徴付け
トランスサイレチンタンパク質のTTR89-97フラグメントに対して産生したリードmis-TTR mAbを、TTR心アミロイドーシスが確定された患者からの新鮮な凍結組織およびパラフィン処理組織を用いて、免疫組織化学的に検討した。心組織試料の採取および調製、免疫組織化学(IHC)、ならびに画像解析のプロトコルについては、材料および方法(l~o)に別途記載する。IHCに使用した抗体を表5に記載する。
【0270】
【表6】
【0271】
ATTR変異が確定診断された患者から心組織試料を採取した。免疫組織化学的検査を実施した症例の背景は下の表6にまとめた通りであった:FAC=家族性アミロイドーシス心筋症;FAP=家族性アミロイドーシス多発性ニューロパチー;1oAL=軽鎖アミロイドーシス;ATTR=トランスサイレチンによるアミロイドーシス;Unk=不明
【0272】
【表7】
【0273】
トランスサイレチンタンパク質の89-97フラグメントに対して産生したマウスモノクローナル抗体(mis-TTR mAb)を、TTR心アミロイドーシスが確定された患者からの新鮮な凍結組織およびパラフィン処理組織を用いて、免疫組織化学的に検討した。mis-TTR抗体はそれぞれ、ATTR心組織に対して免疫反応性を示した。心筋および血管系全体にわたる沈着物に濃い染色が観察された。免疫反応性をチオフラビンTのコンゴー赤による染色と比較したところ、組織での免疫反応性の大部分がコンゴー赤の複屈折およびチオフラビンT陽性染色との高い一致を示した。このことは、この組織中に沈着したTTRアミロイドがベータプリーツシートの性状を有することを裏付ける。上記のmis-TTR抗体はまた、TTR免疫陽性であるがコンゴー赤もチオフラビンTも陰性である心筋の領域に局在する前アミロイドTTRを検出した。IgG-アイソタイプ対照抗体の切片および一次抗体を省略した切片はともに、全被験組織にわたる染色について陰性であった。他のアミロイドタンパク質(ラムダ軽鎖およびカッパ軽鎖またはアミロイドA)に対して反応を示した抗体は、この分析に用いたATTR心組織に対しては反応を示さず、沈着物が本来特異的にTTRであったことであったことを示唆する。
【0274】
mis-TTR抗体の染色パターンを、十分に特徴付けられた市販のTTR参照抗体(プレアルブミン、A0002;Dako社;カーピンテリア、カリフォルニア州)を用いて得たものと比較した。DAKO社の参照抗体は、mis-TTR抗体と同じ領域で罹患した心筋を染色したが、より散在性の染色パターンが得られた。DAKO社の参照抗体は、血管系に存在するコンゴー赤親和性TTRアミロイド沈着物をmis-TTR抗体ほど強く染色しなかった。
【0275】
mis-TTR抗体は、正常な非罹患組織を染色しなかった。さらに、予想された通り、アイソタイプ対照抗体6F10での染色も陰性であった。
【0276】
mis-TTR抗体の反応性がTTR沈着物に特異的であるかどうかを明らかにするため、原発性ALアミロイドーシスと診断された患者由来の心組織に対するこれらの抗体の交差反応性を検討した。予想された通り、ALアミロイド組織の染色は観察されず、TTR抗体がATTR患部組織に対して特異的に反応することが裏付けられた。
【0277】
老人性全身性アミロイドーシスと確定診断された患者由来の心組織またはFAC、もしくはTTR遺伝子中の点変異を原因とするFAPが確定された患者由来の心組織もまた、14G8、9D5、6C1、および5A1により陽性に染色された。以上の結果は、mis-TTR抗体がATTR遺伝子型に関係なく心組織のTTR沈着物を認識する能力を有することを示唆する。
【0278】
TTRを発現することがわかっている他の非心組織についても、14G8、9D5、6C1、および5A1による染色を検討し、DAKO社の参照抗体を用いて得た染色と比較した。予想された通り、肝臓、膵臓および脈絡叢は全て、Dako社の参照抗体を用いてTTRについて陽性に染色された。これに対し、mis-TTR抗体は、ランゲルハンス島にある膵アルファ細胞および脈絡叢のみを染色し、これらの器官に局在するTTRの一部は肝臓に発現するTTRとは立体構造が異なることが示唆された。肝臓でmis-TTR mAbの免疫反応性がみられなかったことは、肝臓に多量に発現するTTRが主として四量体の天然TTRであり、露出したmis-TTRエピトープを持たないことを示唆している。
【0279】
実施例6.SDS-PAGE/ウエスタンブロットおよびMeso Scale Discovery(MSD)プレートアッセイによるATTRヒト血漿と正常ヒト血漿の比較解析
V30M ATTRが確定された患者由来の血漿試料6例(試料番号21、22、23、24、25、27)および正常対象由来の試料6例(番号11、12、15、18、19、20)をM.Saraiva氏(ポルト大学、ポルトガル)から入手した。試料番号C6は商業的供給源(BioreclamationIVT社)から入手した正常ヒト血清試料である。試料をSDS-PAGEとウエスタンブロットにより、またはMesoScale Discovery(MSD)プレートアッセイにより解析した。これらのアッセイのプロトコルについては、材料および方法(p~r)に別途記載する。6C1を用いてMSDプレートアッセイの標準曲線を作成した。
【0280】
9D5 mis-TTR mAbまたは5A1 mis-TTR mAbのいずれかを用いたウエスタンブロットでは、正常血漿試料とTTR-V30M罹患血漿試料との間の差が明らかであった。全血漿試料に、pH4-TTR参照試料中に存在する非天然のTTR単量体と共泳動した約14kDaのTTRのバンドが含まれていた。全般的に、TTR-V30M患者由来の血漿試料(番号21、22、23、24、25、および27)にこのmis-TTR種がより多くみられた。さらに、V30M患者由来の血漿試料には、参照試料中に存在する非天然のTTR二量体と共泳動する約30kDaのバンドも含まれていた。正常個体由来の血漿試料では、試料番号12および18を除いて、この二量体種はより少なかった。
【0281】
得られたウエスタンブロットをスキャンし、各試料について9D5反応性TTRまたは5A1反応性TTRの二量体と単量体のバンドの合計強度をプロットした(その結果を図5A(9D5)および5B(5A1)のy軸上に任意単位(a.u.)で示す)。血漿試料番号15および18を除く正常個体由来の血漿試料(11、12、19および20)は、V30M患者由来の試料(21~25および27)よりも9D5反応性の二量体および単量体をより少なく含んだ。
【0282】
9D5および5A1のウエスタンブロットにより解析した血清試料12例をまた、mis-TTR捕捉抗体として6C1および検出抗体としてDako-SulfoTag抗体を用いるMSDプレートアッセイにより分析した。これらのMSDアッセイの結果を図6のy軸上に任意単位(a.u.)で示す。試料11、12、15、18、19、および20は正常血漿を表す。試料21~25および27はV30M罹患血漿を表す。
【0283】
正常個体由来の血漿試料中に存在する6C1反応性TTRの量は、血漿試料番号15および18を除いて、TTR-V30M罹患個体由来の血漿中で観察された量よりも少なかった。MSDアッセイによって測定した6C1反応性のレベルは、上でSDS-PAGE/ウエスタンにより観察された9D5反応性の二量体および単量体の量と極めてよく相関していた。
【0284】
血漿試料中に存在する反応性TTR種の濃度を求めるため、捕捉抗体として6C1および検出抗体として8C3-SulfoTagを用いて同じ試料を再アッセイした。上で作成したTTR F87M/L110M標準曲線を用いてMSDシグナルを反応性TTR種のng/ml濃度に変換した。この解析に基づくと、対照試料中に存在する6C1反応性TTRの平均濃度は271+/-185ng/mlであった。これに対し、V30M罹患血漿試料中に存在する反応性TTRの平均濃度はより高く、331+/-95ng/mlであった。以上のMSDの結果を考え合わせると、mis-TTR抗体はATTR疾患血漿と正常血漿とを識別できることが示唆される。このことは、ATTR疾患の診断検査で使用するためのmis-TTR抗体の開発をさらに進める根拠となる。
【0285】
実施例7.ヒト化6C1抗体の設計
ヒト化の出発点、すなわちドナー抗体はマウス抗体6C1であった。成熟m6C1の重鎖可変アミノ酸配列を配列番号1で表す。成熟m6C1の軽鎖可変アミノ酸配列を配列番号13で表す。重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号10~12で表す。軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号18~20で表す。この実施例全体を通じてKabat番号付けを用いる。
【0286】
m6C1の可変カッパ(Vk)は、ヒトKabatサブグループ2に対応するマウスKabatサブグループ2に属する。m6C1の可変重鎖(Vh)は、Kabatサブグループ3に対応するマウスKabatサブグループ3dに属する。Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版.NIH Publication No.91-3242,1991を参照されたい。Vkでは、16残基CDR-L1はカノニカルクラス4に属し、7残基CDR-L2はカノニカルクラス1に属し、9残基CDR-L3はカノニカルクラス1に属する。MartinおよびThornton,J.Mol.Biol.263:800-15,1996を参照されたい。10残基CDR-H1(Chothia CDR-H1とKabat CDR-H1の複合体、表7に示される残基26~35)はカノニカルクラス1に属し、17残基CDR-H2はカノニカルクラス1に属する。MartinおよびThornton,J Mol.Biol.263:800-15,1996を参照されたい。CDR-H3にはカノニカルクラスは存在しない。
【0287】
VkドメインとVhドメインの間の界面にある残基は、共通してみられる残基である。
【0288】
6C1の大まかな構造モデルとなり得る構造を見つけるため、PDBデータベースのタンパク質配列を検索した(Deshpandeら,Nucleic Acids Res.33:D233-7,2005)。Vkの構造には、解像度に優れ(1.95A)全体的な配列が6C1 Vkと類似し、6C1と同じループのカノニカル構造を保持していることから、抗体fab(pdbコード3EYS)の結晶構造(Gardbergら,Biochemistry(2009)Vol.48(23),pp.5210-5217)を用いた。Vhの構造には、配列類似性および解像度(1.68A)に優れ、6C1 VHのものと同じCDR-H1およびCDR-H2のカノニカル構造を有することから、二量体抗体(pdbコード2OTU)(Liら,Submission to GenBank(2007))を用いた。6C1の大まかな構造のモデル化にはBioLuminateソフトウェア(Schrodinger社のライセンスを取得)を用いた。
【0289】
NCBIの非冗長タンパク質配列データベースを検索することにより、マウスCDRを移植するのに適したヒトフレームワークを選択できた。Vhには、ヒトIg重鎖ADX65650(GI:323432015)(配列番号3)を選択した(Shrinerら,Submission to GenBank(2010))。この重鎖は6C1と同じカノニカル形態を有する。Vkには、NCBIアクセッションコードABI74084のヒトカッパ軽鎖(GI:114385652)のヒトカッパ軽鎖を選択した(配列番号15)(Shrinerら,Submission to GenBank(2006))。この軽鎖は、親Vkのものと同じCDR-L1およびCDR-L2のカノニカルクラスを有する。
【0290】
様々な順列の置換を含んでヒト化重鎖可変領域バリアント6種類およびヒト化軽鎖可変領域バリアント2種類を構築した(Hu6C1VHv1、Hu6C1VHv1b、Hu6C1VHv2、Hu6C1VHv2b、Hu6C1VHv3、およびHu6C1VHv3b(それぞれ配列番号4~9)およびHu6C1VLv1~2(それぞれ配列番号16および17))(表7および8)。選択したヒトフレームワークに基づく復帰変異および他の変異を有する例示的なヒト化Vhおよびヒト化Vkの設計を、それぞれ表7および8に示す。表7および8中の第1列の灰色の影を付けた領域は、Chothiaによって定義されるCDRを示し、表7および8中の残りの列の灰色の影を付けた領域は、Kabatによって定義されるCDRを示す。配列番号4~9、16および17は、表9に示すように復帰変異および他の変異を含む。Hu6C1VHv1、Hu6C1VHv1b、Hu6C1VHv2、Hu6C1VHv2b、Hu6C1VHv3、およびHu6C1VHv3b中の、ならびにHu6C1VLv1~2中のL2位、L45位、H19位、H44位、H49位、H76位、H77位、H82(a)位、H83位、ならびにH89位でのアミノ酸を表10に記載する。
【0291】
【表8】
【0292】
【表9】
【0293】
【表10】
【0294】
【表11】
【0295】
マウス6C1 Vh配列(配列番号1)とマウスモデル配列(2OTU_B.pro;配列番号2)、ヒトアクセプター配列(ADX65650;配列番号3)、ならびにHu6C1VHv1、Hu6C1VHv1b、Hu6C1VHv2、Hu6C1VHv2b、Hu6C1VHv3、およびHu6C1VHv3b配列(それぞれ配列番号4~9)とのアライメントを図1に示す。Kabatによって定義されるCDR領域には影が付けてある。カノニカル残基、バーニヤ残基、または界面残基がマウス配列とヒトアクセプター配列とで異なっている位置が置換の候補である。バーニヤ/CDR土台残基の例としては、表7中のKabat残基2、49、69、71、75、78、および94が挙げられる。カノニカル/CDR相互作用残基の例としては、表7中のKabat残基24、48、および73が挙げられる。界面/パッキング(VH+VL)残基の例としては、表7中のKabat残基37、39、45、47、91、93、および103が挙げられる。
【0296】
マウス6C1 Vk配列(配列番号13)とマウスモデル配列(3EYS_L_St.pro;配列番号14)、ヒトアクセプター配列(ABI74084;配列番号15)、ならびにHu6C1VLv1およびHu6C1VLv2配列(それぞれ配列番号16および17)とのアライメントを図2に示す。Kabatによって定義されるCDR領域には影が付けてある。カノニカル残基、バーニヤ残基、または界面残基がマウス配列とヒトアクセプター配列とで異なっている位置が置換の候補である。バーニヤ/CDR土台残基の例としては、表8中のKabat残基4、35、46、49、66、68、および69が挙げられる。カノニカル/CDR相互作用残基の例としては、表8中のKabat残基2、48、64、および71が挙げられる。界面/パッキング(VH+VL)残基の例としては、表8中のKabat残基36、38、44、87、および98が挙げられる。
【0297】
置換の候補として表9および10に示した軽鎖可変領域の位置を選択した根拠は、以下の通りである。
【0298】
I2V:これはカノニカルCDR相互作用残基の1つである。Ileのかさの大きい方の側鎖がCDR L1およびCDR L2のパッキングに干渉する可能性がある。Hu6C1VH1では、この残基をValに復帰変異させている。
【0299】
Q45K:ヒト配列中のこの位置でGlnよりもLysの方が頻度が高い。したがって、これは頻度に基づく復帰変異である。
【0300】
置換の候補として表9および10に示した重鎖可変領域の位置を選択した根拠は、以下の通りである。
【0301】
R19K:Lysは隣接残基とH結合を形成するのに対し、ArgはH結合を形成しない。
【0302】
G44R:Argは軽鎖中の界面残基Phe98とH結合を形成するのに対し、GlyはH結合を形成しない。
【0303】
S49A:SerはCDR-H2中のHysとH結合を形成する可能性がある。
【0304】
N76S:この残基で脱アミド化を受けやすい。ヒト生殖系列中のこの位置で、Serが2番目に頻度が高い。
【0305】
S77T:ヒト関連重鎖フレームワーク中では、この位置でのセリンは極めてまれであるのに対し、トレオニンは77位で最も頻度が高い。この復帰変異は、免疫原性となる可能性を軽減するために施した。
【0306】
N82(a)S:この残基で脱アミド化を受けやすい。ヒト生殖系列中のこの位置で、Serが2番目に頻度が高い。
【0307】
R83K:この位置でLysは隣接残基と複数の相互作用を形成し、ループに対して安定化作用を発揮すると考えられるのに対し、Argはそうではない。
【0308】
V89M:Metは界面残基Tyr91とH結合を形成し、界面を安定化させると考えられるのに対し、ValはTyr91と相互作用しない。
【0309】
2種類のヒト化軽鎖可変領域バリアントおよび5種類のヒト化重鎖可変領域バリアントは、以下の通りである:
【0310】
Hu6C1VLバージョン1(I2VおよびQ45Kの復帰変異を小文字で表す):
DvVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSIVHSNGNTYLEWYLQKPGQSPkLLIYKVSKRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCFQGSHVPLTFGGGTKVEIK(配列番号16)
【0311】
Hu6C1VLバージョン2(Q45Kの復帰変異を小文字で表す):
DIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSIVHSNGNTYLEWYLQKPGQSPkLLIYKVSKRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCFQGSHVPLTFGGGTKVEIK(配列番号17)
【0312】
Hu6C1VHバージョン1(S77Tの復帰変異を小文字で表す):
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMSWVRQAPGKGLEWVSYISIDGNNIYHPDSVKGRFTISRDNAKNtLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDSDYGYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号4)
【0313】
Hu6C1VHバージョン1b(S49AおよびS77Tの復帰変異を小文字で表す):
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMSWVRQAPGKGLEWVaYISIDGNNIYHPDSVKGRFTISRDNAKNtLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDSDYGYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号5)
【0314】
Hu6C1VHバージョン2(N76S、S77T、およびN82(a)Sの復帰変異を小文字で表す):
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMSWVRQAPGKGLEWVSYISIDGNNIYHPDSVKGRFTISRDNAKstLYLQMsSLRAEDTAVYYCARDSDYGYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号6)
【0315】
Hu6C1VHバージョン2b(S49A、N76S、S77T、およびN82(a)Sの復帰変異を小文字で表す):
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMSWVRQAPGKGLEWVaYISIDGNNIYHPDSVKGRFTISRDNAKstLYLQMsSLRAEDTAVYYCARDSDYGYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号7)
【0316】
Hu6C1VHバージョン3(R19K、G44R、S77T、R83K、およびV89Mの復帰変異を小文字で表す):
EVQLVESGGGLVQPGGSLkLSCAASGFTFSNYYMSWVRQAPGKrLEWVSYISIDGNNIYHPDSVKGRFTISRDNAKNtLYLQMNSLkAEDTAmYYCARDSDYGYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号8)
【0317】
Hu6C1VHバージョン3b(R19K、G44R、S49A、S77T、R83K、およびV89Mの復帰変異を小文字で表す):
EVQLVESGGGLVQPGGSLkLSCAASGFTFSNYYMSWVRQAPGKrLEWVaYISIDGNNIYHPDSVKGRFTISRDNAKNtLYLQMNSLkAEDTAmYYCARDSDYGYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号9)
【0318】
実施例8.ヒト化6C1抗体の結合動態の解析
バージョン3bから選択した重鎖とバージョン2から選択した軽鎖とを含むヒト化6C1抗体の結合動態の特徴をBiacoreによって明らかにし、下に示した。
【0319】
【表12】
【0320】
実施例9.材料および方法
a.抗体作製プロトコル
マウスをRIBIアジュバント中の抗原性ペプチドTTR-MAP、TTR89-97-N-KLHもしくはTTR89-97-C-KLHで週1回、またはTiterMaxアジュバント中の上記の抗原性ペプチドで月1回免疫した。融合の3~4日前に、選択したマウスに生理食塩水中の免疫原で最後のIV追加免疫を実施した。脾臓をホモジナイズして脾細胞を調製し、標準的な電気融合プロトコルを用いてSP2/0ミエローマ細胞と融合した。選択培地中の融合細胞を96ウェルプレートに播き、7~10日後にスクリーニングを実施した。
【0321】
b.抗体スクリーニングプロトコル
ハイブリドーマ選択は以下のELISAスクリーニングに基づいた:96ウェルELISAプレートをニワトリ抗His(1μg/mL PBS)でコートし、1時間インキュベートした。プレートを1%BSA/PBS溶液(200μL/ウェル)で15分間ブロックした後、0.5μg/mLのpH4-TTR(50μL/ウェル)を加え、1時間インキュベートした。pH4-TTRは、解離/凝集させるために低pH(50mM酢酸ナトリウム、pH4.0)に置かれ、TTR89-97エピトープを露出するTTRである。プレートをTBS-Tで2回洗浄した。融合プレートからの上清を50μL/ウェルで加え、1時間インキュベートした。プレートをTBS-Tで2回洗浄した。0.5%BSA/PBS/TBS-Tで1:5,000に希釈した検出抗体のヤギ抗マウス(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3特異的)-HRPを50μL/ウェルで加え、1時間インキュベートした。最後に、プレートをTBS-Tで5回洗浄し、TMB基質(100μL/ウェル)を加えた。15分後、2N硫酸(50μL/ウェル)で基質の発色を停止させた。プレートを450nmで読み取った。O.D.が1.0を上回るウェルを選択し、細胞を24ウェルプレートに移した。3日間増殖させた後、上記のアッセイによりクローンにカウンタースクリーニングを実施して結合を確認し、陰性カウンタースクリーニングとしてpH4-TTRを天然TTRに置き換え、非天然型のTTRに特異的なTTR mAbを産生するクローンを選択できた。
【0322】
c.抗体発現プロトコル
ヒト化モノクローナル抗体配列を保有しCMVによって駆動される軽鎖および重鎖のプラスミドをCHO-S1細胞(Life Technology社)中にトランスフェクトした。二重選択を実施して選択プールを作製した。馴化培地の力価および結合をアッセイし、SDS-PAGE/ウエスタンブロット法により解析した。選択プールを、Clonepixシステム(Molecular Devices社)を用いるクローン作製に使用した。抗体価に基づきクローンに順位を付けた。選択したクローンを拡大しバンク化した。
【0323】
産生量の最も多いクローンを振盪フラスコで拡大し、その培養物を10~25LのWaveバッグ培養物の接種に用いた。振盪フラスコおよびWaveバッグ培養には、Glutamaxを添加したFreeStyle-CHO、CD OptiCHOおよびFreeStyle F17発現培地(培地およびGlutamaxはLife Technology社製)を使用した。Wave Bioreactor(GE Heathcare社)を用いて、常時攪拌しながら37℃、7%COでバッチ培養を実施した。定期的に試料を採取して細胞数、生存率および抗体産生量をモニターした。必要に応じてCell Boost(HyClone社)を添加した。細胞生存率が90%未満に減少し始めたとき(5~7日)、バッチ培養物を回収した。
【0324】
d.抗体精製プロトコル
浮遊している細胞を4℃にて重力でWaveバッグの底に最初に沈降させた後、細胞培養物を回収した。回収した培地をデプスフィルター(Millistak Pod COHC、Millipore社)で清澄化し、タンジェンシャルフローろ過(Pelicon 2PLC 30K、Millipore社)により10倍に濃縮し、0.2μmフィルター(Opticap XL、Millipore社)で滅菌ろ過した。次いで、FPLC(Akta Avant、GE Lifesciences社)を用いて、1×PBS(pH7.4)で予め平衡化させたProtein G Sepharose Fast Flowカラム(GE Lifesciences社)に濃縮した馴化培地を負荷した。未結合タンパク質を、OD280がベースラインに達するまでカラム体積の5~10倍の1×PBS(pH7.4)でカラムから洗い流した。結合抗体を、カラム体積の2倍のIgG Elution Buffer(Thermo Scientific社)でカラムから溶出させた。溶出画分を収集し、2Mトリス(pH9.0)(溶出物1ml当たり60μL)でpHを中性にした。
【0325】
抗体含有画分をプールし、4℃で一晩、1×PBS(pH7.4)に対して透析した。次いで、透析した試料を0.2μmのPESフィルターで限外ろ過することにより滅菌し、4℃で保管した。最終タンパク質濃度を、タンパク質標準物質であるウシガンマグロブリン(Thermo Scientific社)を用いてビシンコニン酸(BCA)により求めた。
【0326】
e.組換えTTRの発現および精製プロトコル
大腸菌(E.coli)(BL21-A1)細胞を、TTRインサート(Met-hTTR-(His)またはF87M/L110M二重変異を有するTTRバリアントを含むpET21a(+)プラスミドで形質転換した。細胞を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2YTブロスで増殖させた。TTRの発現を、1mM IPTGおよび005%アラビノースの存在下にて20℃で一晩誘導した。
【0327】
細胞を、4000×gで10分間の遠心分離により収集し、使用するまで-80℃で保管した。細胞ペレット10~15gを解凍し、LV-1高剪断プロセッサ(Microfluidics社)で処理することにより緩衝液A(500mM NaCl、20mMイミダゾールを含有する1×PBS)50ml中に溶解させた。溶解した細胞を12,000×gで15分間遠心分離し、0.2μmのPESフィルターでろ過した後、His-Trap HPカラム(GE Lifesciences社)で精製した。負荷後、カラムをカラム体積の10倍の緩衝液Aで洗浄し、緩衝液B(500mM NaCl、500mMイミダゾールを含む1×PBS)で溶出させた。TTRに対応するピーク画分を収集し、1×PBSに対して透析し、使用するまで-80℃で保管した。
【0328】
f.TTR抗原の調製
組換えTTR-6Hisの濃縮ストックを1×PBSで最終濃度2.5μg/mlに希釈することにより、天然TTR抗原を調製した。組換えTTRを50mM酢酸ナトリウム(pH3.95)中、濃度0.2mg/mlで72時間、室温でインキュベートすることにより、pH4処理TTRを作製した。この条件下では、TTRが解離して、天然TTRとは構造的に異なるTTR単量体と凝集形態のTTRとの混合物になる。次いで、pH4-TTRを、アッセイで使用する直前に1×PBSで最終濃度2.5μg/mlに希釈した。96ウェルプレート(Costar社、番号3690)を、1×PBS中1.0μg/mlのニワトリ抗hisポリクローナル抗体(Abcam社、番号Ab9107)50μl/ウェルで室温にて1時間コートした。コーティング溶液を捨て、プレートを1×PBSで希釈した体積250μl/ウェルの1×BSA含有ブロッキング緩衝液(G-Biosciences社、番号786-193)でブロックした。
【0329】
g.ELISAプロトコル
コートしブロックした96ウェルプレートを室温で1時間、2.5μg/mlのTTR抗原(天然TTRまたはpH4-TTRのいずれか)50μl/ウェルで処理した。次いで、プレートを250μl/ウェルの洗浄緩衝液(0.05%Tween-20を含有する1×トリス緩衝生理食塩水)で2回洗浄した。次いで、洗浄したプレートを1時間、0.31~2.5μg/mlの範囲の濃度のしかるべき抗TTRモノクローナル抗体50μl/ウェルで処理した。
【0330】
処理したプレートを250μl/ウェルの洗浄緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、1×PBSに1:5,000希釈のペルオキシドコンジュゲートヤギ抗マウス(Jackson ImmunoResearch社、番号115-035-164)を含む検出抗体50μl/ウェルで、プレートを1時間処理した。次いで、プレートを3回洗浄した後、100μl/ウェルのTMB基質(Rockland社)を加えた。室温で15分間、HRP反応を進行させた後、堆積体積50μl/ウェルの1N HSOで反応を停止させた。分光吸光度を波長450nmで測定した。
【0331】
h.SDS-PAGE
SDS-ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動を以下の通りに実施した。1×LDS試料緩衝液(Life Technologies社)中0.1~1μgのTTRまたはpH4.0-TTRを10%NuPAGEビス-トリスゲル上に負荷し、MES緩衝液中、一定電圧90Vで105分間電気泳動させた。電気泳動後、ゲルをInstant Blue(Expedeon社)で染色するか、ニトロセルロースフィルターに転写してウエスタンブロット解析に供した。
【0332】
i.ネイティブPAGE
未変性トリス-グリシンゲルでの電気泳動を以下の通りに実施した。1×トリス-グリシン試料緩衝液(Life Technologies社)中0.1~1μgのTTRまたはpH4.0-TTRを10~20%のトリス-グリシンゲル上に負荷し、1×ネイティブトリス-グリシンランニング緩衝液中、一定電圧120Vで105分間電気泳動させた。電気泳動後、ゲルをInstant Blue(Expedeon社)で染色するか、ニトロセルロースフィルターに転写してウエスタンブロット解析に供した。
【0333】
j.ウエスタンブロット
SDS-PAGEゲルまたはネイティブ-PAGEゲルをニトロセルロースフィルターペーパー(iBlot、P7 Program)上にブロットし、ブロッキング緩衝液(Licor社)で30分間ブロックした。次いで、フィルターをブロッキング緩衝液中の0.5μg/mlの一次抗体中にて、室温で1時間(または4℃で一晩)インキュベートした後、1×TBSで10分間、3回洗浄した。フィルターをブロッキング緩衝液中の1:20,000希釈のIRDye 800CWコンジュゲートヤギ抗マウス二次抗体中でインキュベートした。フィルターを二次抗体溶液中、室温で1時間インキュベートした後、フィルターを洗浄し、Odyssey CLx赤外線撮像装置(Licor社)で撮像した。
【0334】
k.TTR線維形成アッセイのプロコトル(Procotol)
50mM酢酸ナトリウム(pH4.8)中の3.6μM(0.2mg/ml)のTTR-Y78Fの溶液を1.4μM(0.2mg/ml)のmis-TTR抗体またはアイソタイプ対照の存在下にて、37℃で72時間インキュベートした。インキュベーション後、混合物に5倍モル過剰のチオフラビンTを加え、30分間結合させた。励起波長を440nmに設定し、発光波長480nmでの蛍光定量的測定値を測定した。0%阻害をアイソタイプ対照抗体存在下での蛍光強度(83a.u.)として設定し、100%阻害点をTTR-Y78Fタンパク質不在下での蛍光(38a.u.)として設定した。
【0335】
l.心組織試料
ATTR変異が確定診断された心組織の新鮮な凍結ブロックおよびパラフィン処理ブロックを、インディアナ大学のMerrill Benson博士から入手した。試料は新鮮な凍結試料8例およびFFPE試料6例を含み、各試料はATTRまたは何らかの他の心アミロイドーシスのいずれかと診断された。TTR抗体による特徴付けの前に、Prothena社にてカッパ軽鎖およびラムダ軽鎖ならびにアミロイドAに対する抗体でIHC染色を実施することにより、組織の診断をさらに裏付けた。
【0336】
m.免疫組織化学
免疫組織化学を、パラホルマルドヘイド(paraformaldheyde)で軽く固定しスライドに載せた10μmの凍結切片および5μmのパラフィン切片に実施した。免疫ペルオキシダーゼ法が主な検出系であり、Leica Bond Rx(Leica Biosystems社、バッファローグローブ、イリノイ州)にBond Polymer Refine Detection Kit(DS980、Leica Biosystems社)を用いて実施した。一次抗体を1時間インキュベート(表2の濃度に従って)した後、抗体マウスおよび抗ウサギポリマーHRP-リンカー抗体コンジュゲートとインキュベートした。染色をDAB色素で可視化し、これは褐色の沈着物を生じた。スライドをヘマトキシリンで対比染色し、上昇アルコール系列で脱水し、キシレンで透徹し、CytoSeal 60(Richard Allen Scientific社;カラマズー、ミシガン州)を塗布してカバーガラスをかけた。陰性対照は、非免疫IgGアイソタイプ対照を用いるか一次抗体を省いて、隣接する切片に免疫組織化学的手順全体を実施した。
【0337】
n.アミロイドの実証:コンゴー赤染色およびチオフラビンT染色
American MasterTech社(ローダイ、カリフォルニア州ローダイ、カリフォルニア州)のキットを用いてコンゴー赤染色を実施し、組織中のTTRアミロイドの存在を明らかにした。染色は製造業者の手順に従って実施した。スライドをコンゴー赤溶液で1時間染色した後、1%水酸化ナトリウムで約15秒間分別した。次いで、スライドを流水で洗浄し、濃度を漸増させたアルコール系列で脱水し、キシレンを3回交換して透徹し、CytoSeal 60を塗布してカバーガラスをかけた。
【0338】
改変チオフラビンT染色プロトコル(Schmidtら,1995)を用いて組織中のTTRアミロイドの存在を決定した。簡潔に述べれば、スライドをマイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、流水で洗浄し、50%エタノール中の0.015%チオフラビンT(T3516-25G;Sigma-Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州)のろ過溶液で10分間染色した。次いで、スライドを流水で洗浄し、1%(v/v)酢酸で10分間分別し、水で3回洗浄した。スライドを空気乾燥させた後、ProLong Gold(Life Technologies社)を塗布してカバーガラスをかけた。
【0339】
o.画像解析
スライドを、Olympus BX61顕微鏡、Hamamatsu Nanozoomer 2.0HTデジタルスライドスキャナまたはLeica SPEスペクトル共焦点システムのいずれかで撮像した。画像を収集し、TIFFファイルとして保存した。
【0340】
p.SDS-PAGE/ウエスタンによるヒト血漿試料の解析
V30M ATTRが確定された患者由来の血漿試料6例(試料番号21、22、23、24、25、27)および正常対象由来の試料6例(番号11、12、15、18、19、20)を、M.Saraiva氏(ポルト大学、ポルトガル)から入手した。試料番号C6は、商業的供給源(BioreclamationIVT社)から入手した正常ヒト血清試料であった。上記の血漿試料を以下の通りにSDS-PAGEによって分離し、9D5でウエスタンブロットした。体積1.4μlの血漿を、還元剤を含まない1×LDS試料緩衝液(Life Technologies社)中に1:8で希釈した。試料を、既に記載した通りにSDS-PAGEで分離し0.5μg/mlの9D5でウエスタンブロットした。
【0341】
q.MesoScale Discovery(MSD)プレートアッセイによるヒト血漿試料の分析
96ウェルMSDプレートを、PBS中4μg/mLの濃度のモノクローナル抗体6C1でコートし、振盪しながら室温で2時間、または4℃で一晩インキュベートした。プレートを1×TBSTで3回洗浄した後、振盪しながら3%MSD Blocker A溶液(150μL/ウェル)で1時間ブロックした。ヒト血漿試料を0.6%無グロブリンウシ血清アルブミンと、1.5mMリン酸二水素ナトリウムと、8mMリン酸水素ナトリウムと、145mM塩化ナトリウムと、0.05%Triton X-405と、0.05%チメロサールとからなる試料緩衝液中に1:10で希釈し、ブロックしたMSDプレートに体積30μl/ウェルで1時間加えた。プレートを1×TBSTで3回洗浄した。試料緩衝液中の1μg/mlのスルホタグ化検出抗体(Dakoポリクローナル抗体のいずれかの8C3全TTR抗体)を体積50μl/ウェルで加え、室温で1時間振盪した。プレートを1×TBSTで3回洗浄した後、1×Read Buffer T溶液(Meso Scale Discovery社)を150μl/ウェルで加えた。次いで、プレートをMSD Sector撮像装置で読み取った。
【0342】
r.MSD標準曲線の作成
ヒト血漿試料中に存在する非天然の6C1反応性TTRタンパク質の量を定量するため、組換えTTR-F87M/L110Mを6C1反応性TTR標準物質として用いてMSD標準曲線を作成した。このTTRバリアントは、四量体形成を妨げタンパク質を単量体状態に保つ2つのアミノ酸置換を含む(Jiangら,(2001)Biochemistry 40,11442-11452)。したがって、このTTRバリアントは全てのmis-TTR mAbに認識され、このため、MSDアッセイでの参照標準物質としての使用によく適している。
【0343】
標準曲線を作成するため、96ウェルMSDプレートをPBS中4μg/mLの濃度のmis-TTR抗体6C1でコートし、室温で振盪しながら2時間、または4℃で一晩、インキュベートした。プレートを1×TBSTで3回洗浄した後、3%MSD Blocker A溶液(150μL/ウェル)で1時間、振盪しながらブロックした。次いで、ブロックしたプレートを、1:5で連続希釈し最後の希釈物が緩衝液ブランクである25μg/mLのTTR-F87M/L110M(50μl/ウェル)で1時間処理した。プレートを1×TBSTで3回洗浄した後、1μg/mlのSulfoTag-検出抗体(8C3-SulfoTagまたはDako pAb-SulfoTag)を体積50μl/ウェルで添加し、室温で1時間振盪した。8C3 mAbおよびDako抗体はいずれも、全TTRに結合し立体構造特異的ではないため、SulfoTagに結合し検出抗体として使用できた。
【0344】
検出抗体で処理した後、プレートを体積150μl/ウェルの1×TBSTで3回洗浄し、次いで、1×Read Buffer T(MSD)を150μl/ウェルで加えた。プレートをMSD Sector撮像装置で読み取り、その結果からTTR F87M/L110M検量曲線を作成した。
【0345】
実施例10.トランスジェニックマウスモデルでのmis-TTR抗体の評価
ヒト化トランスジェニックマウスモデルV30M hTTR(Inoueら,(2008)Specific pathogen free conditions prevent transthyretin amyloidosis in mouse models.Transgenic Research 17:817-826)でin vivo研究を実施し、凝集hTTRの結合および除去における抗TTR抗体の有効性を評価する。
【0346】
標準的方法を用いてトランスジェニックマウスを飼育し、それらの循環血中hTTRレベルをELISAにより評価する。血清中hTTRレベルが200~400μg/mlのマウスをのちの有効性試験に用いる。最初の組の研究では、トランスジェニックマウス中の自然なhTTR沈着を検討する。hTTR沈着物の検出を12か月齢で開始し、その後3~6か月毎に検出を繰り返す。トランスジェニックマウス中で許容されるレベルの凝集物がみられるようになってから、有効性試験を開始する。マウスを3つの治療群に分け(n=10/グループ)、溶媒、対照抗体(アイソタイプ対照、10mpk)または抗hTRR抗体(10mpk)のIP投与で週1回、4週間にわたって処置する。最後の処置から1週間後にマウスを安楽死させ、組織を採取して処理した後、染色して残存TTR沈着物の数および大きさを評価する。定量的方法および統計学を用いて、グループ間でみられる除去の程度を求める。
【0347】
別の方法では、hTTR凝集体をin vitroで調製した後、トランスジェニックマウスの腎内に注射して、新たな凝集体の沈着を播種する。本発明者は、上記の調製物の注射が予測可能な様式で新たな凝集体の沈着を促進できることを明らかにした。上記の所見に基づき、マウスを鎮静させ、左腎を露出させ、予め凝集させたhTTR物質を腎皮質内に注射する。適切な回復期間の後、マウスを3つの治療群に分け(n=10/グループ)、溶媒、対照抗体(アイソタイプ対照、10mpk)または抗hTRR抗体(10mpk)のIP投与で週1回、4~8週間にわたって処置する。最後の処置から1週間後にマウスを安楽死させ、腎臓を採取して処理した後、染色してTTR沈着物の数および大きさを評価する。定量的方法および統計学を用いて、グループ間で変化の程度を求める。
【0348】
実施例11.マトリゲル埋植モデルでのmis-TTR抗体の評価
本発明者は、予め凝集させたhTTRをマトリゲル(BD Bioscience社、カタログ番号354263)中に懸濁させ凝固させた後、マウスの皮下に設置できることを明らかにした。移植から4週間後の時点で、マトリゲル埋植物はその構造を維持しており、凝集hTTRは依然として埋植物内に存在していた。さらに、埋植物はマウスによく許容され、抗hTTR抗体はマトリゲルに浸透し、マトリゲル中に懸濁される凝集体に結合できた。上記の所見に基づき、抗体の有効性研究を実施する。マウスを鎮静化させ、マトリゲル中に懸濁させた予め凝集したhTTRを含有する埋植物を、マウスの皮下に設置する。適切な回復期間の後、マウスを3つの治療群に分け(n=10/グループ)、溶媒、対照抗体(アイソタイプ対照、10mpk)または抗hTRR抗体(10mpk)のIP投与で週1回、2~4週間にわたって処置する。最後の処置の後、マウスを安楽死させ、埋植物が含まれている皮膚を採取して処理した後、組織学的および/または生化学的方法を用いて、残存TTR沈着物の量を評価する。定量分析および統計学を用いて、グループ間でみられる除去の程度を求める。
【0349】
実施例12.電子顕微鏡法および原子間力顕微鏡法
免疫金による透過型電子顕微鏡法(TEM)および原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて、mis-TTR mAbと凝集形態および原線維形態の両タンパク質との間の相互作用の画像を得た。等温滴定熱量測定(ITC)を、標準的方法を用いて14G8を凝集TTRの溶液中に滴定することにより実施した。TEMを用いて、14G8による免疫金標識がTTR-V122Iオリゴマー凝集体および原線維末端で観察された(図8A)のに対し、抗TTR pAbによる免疫金標識は、TTR線維の長さに沿った結合およびオリゴマークラスターへの結合を示した(図8B)。IgG1アイソタイプ対照mAbは免疫金標識を示さない(図8C)。TTR-V122I線維を、単独でおよび14G8±6nmコロイド金コンジュゲート二次抗体の存在下で、AFMを用いて評価した。金標識は線維末端で観察された(図8D)。図9Aは、凝集TTRバリアントへの14G8の結合に関する等温滴定熱量測定(ITC)データおよび結合等温線を示す。図9Bは、示されるKD値を有する2結合部位モデルにフィットした結合を示す。TEM、AFM、およびITC解析は、mis-TTR mAbが主として2つの異なる部位:オリゴマーおよび原線維末端でTTR凝集体および原線維に結合するという証拠を与える。
【0350】
実施例13:TTR-V30M変異由来のATTRアミロイドーシスの患者の末梢神経および消化管におけるTTRアミロイドへの抗体の結合
14G8および対照抗体を免疫組織化学的に評価して、V30M変異由来のATTRアミロイドーシスの診断が確定された患者から得た神経および消化管の試料でのTTRアミロイド沈着物に対するそれらの反応性を決定した。図10A~10Gは、ATTRアミロイドーシスの患者に由来する組織中で神経束の線維間に存在する14G8で免疫標識されたTTRアミロイド(図10Aのパネル1および2)を示し、これはコンゴー赤(図10Bのパネル1および2)およびチオフラビンT(図10Cのパネル1および2)による染色、ならびに全TTR抗体による免疫標識(図10D)と重複した。2種類のアイソタイプ対照抗体の使用では染色はみられなかった(図10E~10F)が、TTRアミロイド沈着物が含まれる領域での軸索変性(シュワン細胞核の欠如)も観察された(図10E~10F[10E中の赤色の領域])。健常対照の末梢神経は、14G8を使用しても全TTR抗体を使用しても標識されなかった(図10Gのパネル1~3)。
【0351】
消化管全体にわたる14G8で標識されたTTRアミロイド沈着物;食道でのマイスナー神経叢および腺(図11A、11Bのパネル1
)、粘膜下組織での豊富な脈管床(図11Cのパネル1)、ならびに空腸の固有筋層(MP)および粘膜筋板(MM)(図11Dのパネル1)が14G8で免疫標識された。コンゴー赤蛍光染色と重ね合わせた14G8陽性TTRアミロイド(図11A~11Dのパネル2)。アイソタイプ対照mAbで染色したATTRアミロイドーシス組織(図119A~119Dのパネル3)。14G8免疫反応性は健常対照組織ではみられなかった(図11Eのパネル1~4)。
【0352】
これらの観察結果は、mis-TTR mAbが、正常な四量体形態のタンパク質の機能を温存しつつ、罹患している具体的な器官(1つまたは複数)に関係なくATTRアミロイドーシスの患者においてTTRアミロイドの蓄積の防止もしくはTTRアミロイドの除去の増大、またはその両方に有用であり得るという証拠を与える。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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