IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-有機無機複合体およびその製造方法 図1
  • 特許-有機無機複合体およびその製造方法 図2
  • 特許-有機無機複合体およびその製造方法 図3
  • 特許-有機無機複合体およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】有機無機複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/44 20060101AFI20220131BHJP
   C08L 101/10 20060101ALI20220131BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220131BHJP
   C01B 33/00 20060101ALI20220131BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20220131BHJP
   C01B 25/37 20060101ALI20220131BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20220131BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C01B33/44
C08L101/10
C01G23/00 B
C01B33/00
C01G33/00 A
C01B25/37 L
G02B1/00
G02B1/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2016176068
(22)【出願日】2016-09-09
(65)【公開番号】P2018039707
(43)【公開日】2018-03-15
【審査請求日】2019-06-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年3月10日発行 公益社団法人日本化学会発行 第96回春季年会講演予稿集 2PB-018 平成28年3月24日~27日開催 公益社団法人日本化学会主催 第96回春季年会 同志社大学京田辺キャンパス(京田辺市多々羅都谷1-3)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】藤井 和子
(72)【発明者】
【氏名】ヒル ジョナサン ピー
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】下村 周一
(72)【発明者】
【氏名】有賀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿浩
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-215106(JP,A)
【文献】FUJII, K. et al.,Applied Clay Science,2005年,29,pp.235-248
【文献】Takako Nagase et al.,Chemistry Letters,2002年,8,pp.776-777
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状無機部分の層間に位置する有機基を有し、前記層状無機部分と前記有機基は共有結合又は配位結合した層状無機-有機モノリスであって、
前記層状無機-有機モノリスに電気的に中性な有機金属錯体を包含させると共に、
前記層状無機部分が、スメクタイト類似構造、層状シロキサン、層状リン酸ジルコニム類似構造、層状チタン酸塩類似構造、及び、層状ニオブ酸塩類似構造からなる群より選択されるいずれかであり、
前記電気的に中性な有機金属錯体は、5-[4-(N―(3-トリエトキシシリルプロピルベンズアミド))]-10,15,20-トリフェニルポルフィリン亜鉛(5-[4-(N-(3-Triethoxysilylpropylbenzamido))]-10,15,20-triphenylporphinatozinc(II))の電気的に中性なポルフィリン誘導体であることを特徴とする有機無機複合体。
【化1】
【請求項2】
前記層状無機部分は、層状ケイ酸塩類似構造であって、下記一般式(2)で表され、
(M )(Si )O(OJ) (2)
前記式(2)で、Rはホストとなる層状無機-有機モノリスの有機基、aは0.01以上4以下の数であり、bは0以上2/z以下の数であり、cは0以上2/z以下の数であり、dは4/z以上6/z以下の数であり、eは3以上4以下の数であり、fは0以上1/z以下の数であり、M:Li、Naその他1族に含まれる元素、Mgその他2族に含まれる元素、Feその他遷移金属に含まれる元素、M:Li、Naその他1族に含まれる元素、Mgその他2族に含まれる元素、Feその他遷移金属に含まれる元素、M: Mg、Al、Fe、M:Mg、Al、Fe、M~M列記した内の1種類または複数種類の元素が入り、J:H又はF、z:Mの価数、z:Mの価数、z:Mの価数、z:Mの価数であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記層状無機部分は、層状ケイ酸塩類似構造であって、下記一般式(3)で表される
(M )(Si )O(OH) (3)
前記式(3)で、Rはホストとなる層状無機-有機モノリスの有機基、a=0.43、b=0.009、c=0.009、d=2.99、e=3.22、f=0、M=M:Li、M:Mgであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機無機複合体。
【請求項4】
記有機基Rは、直鎖状または分岐状のアルキル基、直鎖状または分岐状のハロゲン化アルキル基、エチレングリコール鎖、エチレングリコールのオリゴマー、ポリマー鎖、芳香族基、複素芳香族基、複素環基、エステル基、エーテル基、環状エーテル基、アミド基、アルケン、アルキン、ケトン基、アミン基、環状アミン基、アルコキシ基、ビニル基、チオエーテル基、スルホン基、シアノ基、ニトロ基、フェニル基、tert-ブチル基、4-ジメチルアミノフェニル基、2,6-ジ-tert-4-ヒドロキシフェニル基および4-ピリジル基、直鎖状または分岐状のアルキルアミン基(第一級、第二級及び第三級)、直鎖状または分岐状の第四級アルキルアンモニウム基、第四級アリールアンモニウム基、およびそれらの誘導体からなる群から選択されることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機無機複合体。
【請求項5】
記有機基Rは、下記一般式で表され、
(C2k+1(C2m+1(C2n4-x-y (4)
前記式(4)で、kは4以上22以下の自然数であり、mは1以上4以下の自然数であり、nは1以上6以下の自然数であり、鎖長はx+y≦4であって、xが1以上4以下の自然数であり、yが0以上3以下の自然数であると共に、当該鎖長は当該範囲内の1つ以上の値(複数でも可)であることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機無機複合体。
【請求項6】
記有機基Rは、下記一般式(5)で表されるN,N-ジメチル-1-プロピル-1-オクタデシルアンモニウム基であることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機無機複合体。
(C1837(CH (5)
【請求項7】
前記有機金属錯体が所定波長での発光を生じる有機色素であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項8】
請求項7に記載の有機無機複合体を用いた発光性固体又は発光素子。
【請求項9】
請求項7に記載の有機無機複合体を用いた人工光合成素子又は光捕集素子。
【請求項10】
電気的に中性な有機金属錯体の溶液を調製する工程と、
前記溶液に層状無機-有機モノリスを添加する工程と、
前記層状無機-有機モノリスの添加された混合溶液に対して、攪拌した後、ろ過、洗浄、乾燥させ、請求項1~7のいずれか1項に記載の有機無機複合体を生成する工程とを有し、
前記層状無機-有機モノリスが、層状無機部分の層間に位置する有機基を有し、前記層状無機部分と前記有機基は共有結合又は配位結合し、前記層状無機部分が、スメクタイト類似構造、層状シロキサン、層状リン酸ジルコニム類似構造、層状チタン酸塩類似構造、及び、層状ニオブ酸塩類似構造からなる群より選択されるいずれかであり、
前記電気的に中性な有機金属錯体は、5-[4-(N―(3-トリエトキシシリルプロピルベンズアミド))]-10,15,20-トリフェニルポルフィリン亜鉛(5-[4-(N-(3-Triethoxysilylpropylbenzamido))]-10,15,20-triphenylporphinatozinc(II))の電気的に中性なポルフィリン誘導体である、有機無機複合体の製造方法。
【化2】
【請求項11】
前記溶媒が、トルエン、THF、1-オクタノール、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、これらの混合溶媒、並びにこれら溶媒又は混合溶媒に少量の酸性水溶液を添加した溶媒から選択されることを特徴とする請求項10に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11の製造方法で製造された有機無機複合体を用いた膜を基板上に作製することを特徴とする発光性固体、発光素子、人工光合成素子又は光捕集素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ナノ二次元空間に電気的に中性な機能性有機金属錯体を担持した構造を有する有機無機複合体に関する。
また、本発明は、電気的に中性な機能性有機金属錯体を固体ナノ二次元空間に固定することを用いた有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、本出願人の提案にかかる特許文献1では、層状ケイ酸塩と有機物とからなる有機無機複合体であって、蛍光発色団であるクマリン等の色素を有機物とするものが提案されている。また、特許文献2では、層状ケイ酸塩とアルキルアンモニウム基からなる複合体の層間にエタノールアミンを共存させてなる層状無機/有機複合体が提案されている。このような上記の特許文献1、2の技術を前提として、さらに機能性有機金属錯体を固体に担持する技術を開発することは、発光性固体の波長領域の拡張や人工光合成の実現などに必要な技術領域である。
【0003】
しかし、上記の特許文献1、2では、カチオン型の機能性有機金属錯体の固体ナノ二次元空間への固定は達成されているが、電気的に中性な機能性有機金属錯体の固定は困難であると考えられていた。また、機能性有機金属錯体の固体結晶を得ることはできるが、この固体結晶からの発光は非常に弱い。有機溶媒などに溶解して、溶液にすれば強く発光するが、実用化を睨むと溶液では不利な点が多く、発光する固体材料が望まれている。
【0004】
ポルフィリンは、可視光を広い波長範囲で吸収し、発光もするため、発光素子、人工光合成などへの応用が期待されている。例えば、本出願人の提案にかかる特許文献3では、親水性供与体のポルフィリン含有基を有するシクロブテン含有化合物(モノマー)と、疎水性受容体のフラーレン含有基を有するシクロブテン含有化合物(モノマー)とを用いて、ジブロック共重合体の自己集合により、一次元の光伝導性ナノワイヤが形成されることを開示している。また、特許文献4では、アキラルなポルフィリンと被検物質との間の錯体化が促進され、被検物質が結合したプロトン化ポルフィリンである錯体を確実に生成することによって、酸性官能基を有するキラルな物質の絶対配置が決定されることを開示している。絶対配置としては、例えば、立体異性体としての、エナンチオマー(enantiomer)とジアステレオマー(diastereomer)の峻別がある。
ポルフィリンは、溶液にすると強く発光するが、固体(微結晶粉体)では発光しない。そこで実用にあたっては、固体材料が便利であり、ポルフィリンの固体への担持が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5540302号公報
【文献】特開2014-172777号公報
【文献】特許第5476561号公報
【文献】特許第5665043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決したもので、電気的に中性な機能性有機金属錯体を、固体ナノ二次元空間を有する固体に担持する構造を有し、当該機能性有機金属錯体が固体中で発光する有機無機複合体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機無機複合体は、層状無機部分の層間に位置する有機基を有し、当該層状無機部分と当該有機基は共有結合又は配位結合した層状無機-有機モノリスであって、
当該層状無機-有機モノリスに電気的に中性な有機金属錯体を包含させると共に、
前記層状無機部分が、層状ケイ酸塩類似構造(モンモリロナイト、ヘクトライト、スティブンサイトなどのスメクタイト類似構造)、層状シロキサン、層状リン酸ジルコニム類似構造、層状チタン酸塩類似構造、層状ニオブ酸塩類似構造の群から選択されるいずれかであることを特徴とする有機無機複合体。
ここで、層状無機部分における層状ケイ酸塩類似構造、層状リン酸ジルコニム類似構造、層状チタン酸塩類似構造、層状ニオブ酸塩類似構造は、通常の層状ケイ酸塩、層状リン酸ジルコニム、層状チタン酸塩、層状ニオブ酸塩とは、厳密には同じ構造ではない。即ち、本願発明の無機部分は、有機部分と結合しているため、通常の層状ケイ酸塩等と比較すると、層表面の構造が一部異なるため、類似構造と称している。
【0008】
前記電気的に中性な有機金属錯体は、以下の化学式
【化1】

で表され、ここで、X~Xは、水素、直鎖状または分岐状のアルキル基、直鎖状または分岐状のハロゲン化アルキル基、トリアルコキシシリルアルコキシフェニル基、トリエトキシシリルプロピルベンズアミド基、エチレングリコール鎖、エチレングリコールのオリゴマー、ポリマー鎖、芳香族基、複素芳香族基、複素環基、エステル基、エーテル基、環状エーテル基、アミド基、アルケン、アルキン、ケトン基、アミン基、環状アミン基、アルコキシ基、ビニル基、チオエーテル基、スルホン基、シアノ基、ニトロ基およびそれらの誘導体の群から選択され、
~Rは、水素、直鎖状または分岐状のアルキル基、直鎖状または分岐状のハロゲン化アルキル基、トリアルコキシシリルアルコキシフェニル基、トリエトキシシリルプロピルベンズアミド基、エチレングリコール鎖、エチレングリコールのオリゴマー、ポリマー鎖、芳香族基、複素芳香族基、複素環基、エステル基、エーテル基、環状エーテル基、アミド基、アルケン、アルキン、ケトン基、アミン基、環状アミン基、アルコキシ基、ビニル基、チオエーテル基、スルホン基、シアノ基、ニトロ基、フェニル基、tert-ブチル基、4-ジメチルアミノフェニル基、2,6-ジ-tert-4-ヒドロキシフェニル基および4-ピリジル基およびそれらの誘導体の群から選択され、
Mは、水素、Zn、Co、Ni等の遷移金属、又はMg、Sr等のアルカリ土類金属の群から選択されるとよい。
【0009】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、前記電気的に中性な有機金属錯体は、電気的に中性なポルフィリン及びポルフィリン誘導体、電気的に中性なフタロシアニンからなる群から選択されるとよい。
【0010】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、前記電気的に中性なポルフィリンは、5,10,15,20- テトラフェニルポルフィナート亜鉛(5,10,15,20-tetraphenylporphinatozinc(II))、
【化2】

であるとよい。ここで、[化2]の組成物は、[化1]の組成物において、X~Xが水素、R~Rがフェニル基、MがZnの場合に相当している。
【0011】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、電気的に中性なポルフィリン誘導体は、5-[4-(N―(3-トリエトキシシリルプロピルベンズアミド))]-10,15,20-トリフェニルポルフィリン亜鉛(5-[4-(N-(3-Triethoxysilylpropylbenzamido))]-10,15,20-triphenylporphinatozinc(II))、
【化3】

であるとよい。ここで、[化3]の組成物は、[化1]の組成物において、X~Xが水素、R~Rがフェニル基、Rがトリエトキシシリルプロピルベンズアミド基、MがZnの場合に相当している。
【0012】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、前記層状無機部分は、下記一般式(2)で表され、
(M )(Si )O(OJ) (2)
式(2)で、Rはホストとなる層状無機-有機モノリスの有機基、aは0.01以上4以下の数であり、bは0以上2/z以下の数であり、cは0以上2/z以下の数であり、dは4/z以上6/z以下の数であり、eは3以上4以下の数であり、fは0以上1/z以下の数であり、M:Li、Naその他1族に含まれる元素、Mgその他2族に含まれる元素、Feその他遷移金属に含まれる元素、M:Li、Naその他1族に含まれる元素、Mgその他2族に含まれる元素、Feその他遷移金属に含まれる元素、M: Mg、Al、Fe、M:Mg、Al、Fe、M~M列記した内の1種類または複数種類の元素が入り、J:H又はF、z:Mの価数、z:Mの価数、z:Mの価数、z:Mの価数であるとよい。
【0013】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、前記層状無機部分は、下記一般式(3)で表される
(M )(Si )O(OH) (3)
式(3)で、Rはホストとなる層状無機-有機モノリスの有機基、a=0.43、b=0.009、c=0.009、d=2.99、e=3.22、f=0、M=M:Li、M:Mgであるとよい。
【0014】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、上記の前記有機基Rは、直鎖状または分岐状のアルキル基、直鎖状または分岐状のハロゲン化アルキル基、エチレングリコール鎖、エチレングリコールのオリゴマー、ポリマー鎖、芳香族基、複素芳香族基、複素環基、エステル基、エーテル基、環状エーテル基、アミド基、アルケン、アルキン、ケトン基、アミン基、環状アミン基、アルコキシ基、ビニル基、チオエーテル基、スルホン基、シアノ基、ニトロ基、フェニル基、tert-ブチル基、4-ジメチルアミノフェニル基、2,6-ジ-tert-4-ヒドロキシフェニル基および4-ピリジル基、直鎖状または分岐状のアルキルアミン基(第一級、第二級及び第三級)、直鎖状または分岐状の第四級アルキルアンモニウム基、第四級アリールアンモニウム基、およびそれらの誘導体からなる群から選択されるとよい。
【0015】
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、上記の有機基Rは、下記一般式で表され、
(C2k+1(C2m+1(C2n4-x-y (4)
前記式(4)で、kは4以上22以下の自然数であり、mは1以上4以下の自然数であり、nは1以上6以下の自然数であり、x+y≦4であって、xが1以上4以下の自然数であり、yが0以上3以下の自然数であると共に、当該鎖長は当該範囲内の1つ以上の値(複数でも可)であるとよい。
本発明の有機無機複合体において、好ましくは、上記の有機基Rは、下記一般式(5)で表されるN,N-ジメチル-1-プロピル-1-オクタデシルアンモニウム基であるとよい。
(C1837(CH (5)
【0016】
本発明の有機無機複合体は、上記の有機無機複合体であって、前記機能性有機金属錯体が所定波長での発光を生じる有機色素あることを特徴とする。この有機色素には、ポルフィリンも含まれる。
本発明の発光性固体又は発光素子は、上記の有機無機複合体を用いたことを特徴とする。
本発明の人工光合成素子又は光捕集素子は、上記の有機無機複合体を用いたことを特徴とする。
【0017】
本発明の有機無機複合体の製造方法は、電気的に中性な機能性有機金属錯体の溶液を調製する工程と、当該溶液に層状無機-有機モノリスを添加する工程と、層状無機-有機モノリスの添加された混合溶液に対して、攪拌した後、ろ過、洗浄、乾燥する工程とを有し、機能性有機金属錯体担持固体を生成することを特徴とする。
【0018】
本発明の有機無機複合体の製造方法において、好ましくは、前記溶媒が、トルエン、THF、1-オクタノール、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、これらの混合溶媒、並びにこれら溶媒又は混合溶媒に少量の酸性水溶液を添加した溶媒から選択されるとよい。
本発明の発光性固体、発光素子、人工光合成素子又は光捕集素子の製造方法は、上記製造方法で製造された機能性有機金属錯体担持固体を用いた膜を基板上に作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機無機複合体によれば、固定できる機能性有機金属錯体が中性の種にまで広がったことで、例えば様々な広い波長域で発光する多様な発光性固体を提供できる。
本発明の有機無機複合体の製造方法によれば、従来カチオン型に限られていた固体ナノ二次元空間への固定方法を、電気的に中性な機能性有機金属錯体にまで拡張できる。また、人工光合成など実用化に際しては、多種類の有機金属錯体や色素を固体に担持する必要があるため、電気的に中性な種にまで固体担持方法を拡張した本発明の有機無機複合体の製造方法による機能性物質の探索領域の拡大は顕著な効果と思われる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態による有機無機複合体の構造模式図で、(A)は層状無機-有機モノリス、(B)は有機無機複合体の全体図である。
図2】本発明の一実施の形態であるポルフィリン誘導体(ZnTPPder)-固体ナノ光反応場について、(A)は吸収スペクトル、(B)は発光及び励起スペクトルを示している。
図3】本発明の一実施の形態であるポルフィリン(ZnTPP)を層状無機-有機モノリスに固定する条件による発光スペクトル特性の説明図で、ポルフィリンとモノリスの比を変えた場合を示している。
図4】本発明の比較例としての有機無機複合体の構造模式図で、(A)は層状無機体の一例であるスメクタイト、(B)は発光性に乏しい有機無機複合体の全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態による発光性有機無機複合体の構造模式図で、(A)は層状無機-有機モノリス、(B)は有機無機複合体の全体図である。
図4は、本発明の比較例としての有機無機複合体の構造模式図で、(A)は層状無機体の一例であるスメクタイト、(B)は発光性に乏しい有機金属錯体の全体図である。
まず最初に、図4(A)のスメクタイトについて説明し、次いで図1(A)の層状無機-有機モノリスについて説明する。
【0022】
スメクタイト(smectite)は、膨潤性の粘土鉱物の総称であり、その結晶構造から、水を吸収するとふくらむ性質をもち、またイオン交換性が高い。スメクタイトには、モンモリロナイト、ノントロナイト、サポナイト(石鹸石)などがある。スメクタイトは、四面体シート(tetrahedral sheet)、八面体シート(octahedral sheet)、陽イオンの層状構造を有している。四面体シートは、層状珪酸塩を作っているSi-O四面体の2次元的なつながりを有している。八面体シートは、この四面体シートと組み合うAl-O、Mg-O等の八面体の網状のつながりを有している。
【0023】
八面体シートに入る陽イオンがAl3+など三価のイオンの場合は、八面体陽イオン位置の1/3の空席ができ、Mg2+など二価のイオンの場合はすべての八面体陽イオン位置が満席になっている。これらはそれぞれ、2八面体(dioctahedral)、3八面体(triocathedral)と呼ばれる。
【0024】
この両シートが組み合って1:1層あるいは2:1層と呼ばれる複合層(珪酸塩層、silicate layer)が形成される。1:1層が積み重なってできる構造を1:1型構造、2:1層が積み重なってできる構造を2:1型構造という。
なお、層状無機体はスメクタイトに限定されるものではなく、膨潤性を有するバーミキュライトでもよい。
【0025】
続いて、図1(A)の層状無機-有機モノリスについて説明する。層状無機-有機モノリスとは、層状の無機部分と有機物とが単一構造体を構成するものであり、当該単一構造体には触媒のような機能性組成物が一体化していてもよい。層状無機-有機モノリスの無機物層は、例えば上述のスメクタイト類似構造よりなるものである。
層状ケイ酸塩などと本願の無機部分の違いは、有機部分と結合していることである。このため、層表面の構造が一部異なり、厳密には同じ構造ではない。
例えば、層状ケイ酸塩では、SiOが頂点共有し、Si四面体シートを形成する。これに対し、層状無機-有機モノリスでは、無機部分と有機基が結合しているため、Si四面体シートの一部のSiがSiOではなく、R-SiOとなっている(Rは有機基)。この様に、厳密には、層状ケイ酸塩のSi四面体シートとは構造が異なる。このため、層状ケイ酸塩とも、厳密には、構造が異なる。
同様に、層状シロキサン、層状リン酸ジルコニム類似構造、層状チタン酸塩類似構造、層状ニオブ酸塩類似構造でも、R-MOxやR-O-M結合が層表面に存在する(ここでMは層状無機部分の中心元素)。例えば、層状リン酸ジルコニウム類似構造の場合は、R-POxが存在し、層状リン酸ジルコニウムとは構造が異なる。
【0026】
層状無機部分は、下記一般式(2)で表される組成物を用いるとよい。
(M )(Si )O(OJ) (2)
式(2)で、Rはホストとなる層状無機-有機モノリスの有機基、aは0.01以上4以下の数であり、bは0以上2/z以下の数であり、cは0以上2/z以下の数であり、dは4/z以上6/z以下の数であり、eは3以上4以下の数であり、fは0以上1/z以下の数であり、M:Li、Naその他1族に含まれる元素、Mgその他2族に含まれる元素、Feその他遷移金属に含まれる元素、M:Li、Naその他1族に含まれる元素、Mgその他2族に含まれる元素、Feその他遷移金属に含まれる元素、M: Mg、Al、Fe、M:Mg、Al、Fe、M~M列記した内の1種類または複数種類の元素が入り、J:H又はF、z:Mの価数、z:Mの価数、z:Mの価数、z:Mの価数である。
【0027】
また、層状無機部分は、下記一般式(3)で表される組成物を用いると、特に良い。
(M )(Si )O(OH) (3)
式(3)で、Rはホストとなる層状無機-有機モノリスの有機基、a=0.43、b=0.009、c=0.009、d=2.99、e=3.22、f=0、M=M:Li、M:Mgである。
【0028】
次に、有機基の一端は、一層の無機物層に配位結合または共有結合している。このようにして、隣接する無機物層の層間には、有機基Rが、丁度すだれが二次元配置された状態のように、固定されている。有機基Rとしては、下記一般式(4)で表される組成物を用いるとよい。
(C2k+1(C2m+1(C2n4-x-y (4)
式(4)で、kは4以上22以下の自然数であり、mは1以上4以下の自然数であり、nは1以上6以下の自然数であり、x+y≦4であって、xが1以上4以下の自然数であり、yが0以上3以下の自然数であると共に、当該鎖長は当該範囲内の1つ以上の値(複数でも可)である。
【0029】
上記の有機基Rは、下記一般式(5)で表される組成物を用いると特に良い。
N,N-ジメチル-1-プロピル-1-オクタデシルアンモニウム基、
(C1837(CH (5)
また有機基は、下記一般式(6)で表される組成物でもよい。
N,N-ジメチル-1-プロピル-1-デシルアンモニウム基、
(CH-(CH-N(CH ) (6)
【0030】
電気的に中性な有機金属錯体は、当該有機基の間に包含させた状態で位置する。電気的に中性な有機金属錯体は、電気的に中性なポルフィリン及びポルフィリン誘導体、電気的に中性なフタロシアニンからなる群から選択される。
当該ポルフィリン誘導体には、5-[4-(N―(3-トリエトキシシリルプロピルベンズアミド))]-10,15,20-トリフェニルポルフィリン亜鉛(5-[4-(N-(3-Triethoxysilylpropylbenzamido))]-10,15,20-triphenylporphinatozinc(II))を用いるとよい。
【0031】
<有機無機複合体の製造方法>
次に、本発明の実施形態である有機無機複合体の製造方法について説明する。
本発明の実施形態である有機無機複合体の製造方法は、まず、電気的に中性な機能性有機金属錯体の溶液を調製した。電気的に中性な有機金属錯体は、前述の[化1]で示される組成物である。
【0032】
溶液の調製には、溶媒として、トルエン、THF、1-オクタノール、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、これらの混合溶媒、並びにこれらに少量の酸性水溶液を添加した物の溶媒を用いることができる。溶媒の濃度は、10-6~10-2Mとした。これらの溶液に、層状無機-有機モノリスを添加した。層状無機-有機モノリスと溶液の比は、10-6~10mg/mlとした。ここに、少量のHCl水溶液や有機溶媒をさらに添加しても良い。
【0033】
この混合物を、十分攪拌した後(攪拌の温度:室温を中心に溶媒の融点温度から沸点温度の間)、ろ過、洗浄、乾燥し、機能性有機金属錯体担持固体を得た。また、攪拌後、基板上に膜も作製した。膜の作製は、キャスト法及びスピンコート法を採用した。
機能性有機金属錯体担持固体及び膜の発光を調べたところ、機能性有機金属錯体の発光が観察された。
【0034】
<実施例1>
ZnTPPderのトルエン溶液を調製した。濃度は、2.0×10-4Mとした。この溶液に、層状無機-有機モノリス(A-Sm)を添加した。A-Smと溶液の比は、20mg/mlとした。この混合物を、室温で十分攪拌した後、基板上にZnTPPder/A-Smキャスト膜を作成した。ZnTPPder/A-Smキャスト膜の発光を調べたところ、発光が観察された。
【0035】
<実施例2>
ZnTPPのトルエン溶液を調製した。濃度は、2.0×10-4Mとした。この溶液に、層状無機-有機モノリス(A-Sm)を添加した。A-Smと溶液の比は、20mg/mlとした。この混合物を、室温で十分攪拌した後、基板上にZnTPP/A-Smキャスト膜を作成した。ZnTPP/A-Smキャスト膜の発光を調べたところ、発光が観察された。
【0036】
<有機無機複合体の発光特性>
図2は、本発明の一実施の形態であるポルフィリン誘導体(ZnTPPder)-固体ナノ光反応場について、(A)は吸収スペクトル、(B)は発光及び励起スペクトルを示している。
図2(A)に示すように、実施例1であるZnTPPder/A-Smは、ポルフィリン誘導体(ZnTPPder)とスメクタイトと有機基の有機無機複合体で、Qband(570nm付近)に小さな吸収帯を有し、Soret band(430nm付近)に大きな吸収帯を有する。
【0037】
これに対して、比較例1であるZnTPPder/Smは、ポルフィリン誘導体(ZnTPPder)とスメクタイトの有機無機複合体で、可視光帯域全体での吸収率は全般的に20%程度である。また、比較例2である層状無機-有機モノリス(A-Sm)は、層状無機-有機モノリスで、可視光帯域全体での吸収率は全般的に50%程度である。
【0038】
発光スペクトルに関しては、図2(B)に示すように、ZnTPPder/A-Smは、600nmから700nm付近の波長帯域に発光領域を有する。これに対して、比較例1であるZnTPPder/Smは、430nmから450nm付近の波長帯域に発光領域を有する。しかし、比較例1は600nmから700nm付近の波長帯域の発光強度は非常に低い。
励起スペクトルに関しては、図2(B)に示すように、ZnTPPder/A-Smは、420nmから440nm付近の波長帯域に励起領域を有する。これに対して、比較例1であるZnTPPder/Smは、400nmから600nm付近の波長帯域では励起強度は非常に低い。
【0039】
図3は、本発明の一実施の形態であるポルフィリン(ZnTPP)を層状無機-有機モノリスに固定する条件による発光スペクトル特性の説明図で、(A)はポルフィリンとモノリスの比を変えた場合、(B)は溶媒を変えた場合を示している。
【0040】
図3は、実施例2であるZnTPPder/A-Smにおいて、ポルフィリン(ZnTPP)と層状無機-有機モノリスの比が1:1のものである。実施例2では、実施例1と同様に、600nmから700nm付近の波長帯域に発光領域を有する。これに対して、比較例3であるZnTPPder/A-Smは、ポルフィリン(ZnTPP)と層状無機-有機モノリスの比が10:1のものである。ポルフィリン(ZnTPP)が多量に含まれているものの、発光強度は実施例2と比較して1/4程度に低下している。
【0041】
励起スペクトルに関しては、図3に示すように、実施例2では、ZnTPPder/A-Smは、420nmから440nm付近の波長帯域に励起領域を有する。比較例3では、420nmから440nm付近の波長帯域に励起領域を有するものの、励起強度は実施例2と比較して1/4程度に低下している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の有機無機複合体は、多種類の有機金属錯体や色素を固体に担持する構造であるため、様々な広い波長域で発光する多様な発光性固体や人工光合成などの実用化に有効である。
本発明の有機無機複合体の製造方法では、固定できる機能性有機金属錯体がカチオンばかりでなく、電気的に中性な種にまで固体担持方法を拡張しており、上記の有機無機複合体の製造に有益である。
【符号の説明】
【0043】
ZnTPP 亜鉛系ポルフィリン
ZnTPPder 亜鉛系ポルフィリン誘導体
Sm スメクタイト
A-Sm 層状無機-有機モノリス


図1
図2
図3
図4