(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】歩行車椅子及びその走行システム
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20220131BHJP
A61G 5/02 20060101ALI20220131BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
A61G5/04 707
A61G5/02
B60L15/20 S
(21)【出願番号】P 2018078806
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】393011038
【氏名又は名称】リョーエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌司
(72)【発明者】
【氏名】五升目 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】平野 卓哉
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0330402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0164717(US,A1)
【文献】特開2013-085716(JP,A)
【文献】特開2015-228997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/04
A61G 5/02
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子を跳ね上げて歩行器としての使用を可能とした歩行車椅子であって、車体の背面に、電気駆動される主車輪の接地面近傍の床面を撮影するカメラと、このカメラの画像を処理するオンボードコンピュータとを搭載し、また車体には、人力走行、電動走行、無人走行の3モードを切替可能な駆動部を搭載したことを特徴とする歩行車椅子。
【請求項2】
オンボードコンピュータは、遠隔操作可能な無線通信部を備えたものであることを特徴とする請求項1に記載の歩行車椅子。
【請求項3】
請求項2に記載の歩行車椅子の走行システムであって、
左右の主車輪の電動モータを個別に制御する駆動制御部と、
主車輪の接地面近傍の床面を撮影したカメラの画像から進行経路を判断し、駆動部に走行指示信号を送る自走処理部と、
使用者の操作手段からの入力を処理する電動処理部と、
車体から分離されオンボードコンピュータと無線通信可能な遠隔操作部とを備えたことを特徴とする歩行車椅子の走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行器としても使用することができる電動式の車椅子、及びその走行システムに関するものである。本明細書においては、歩行車としても使用することができる車椅子を「歩行車椅子」と記す。
【背景技術】
【0002】
通常の車椅子は使用者が椅子に座って使用するものであり、椅子を跳ね上げたとしても車体を構成する左右のサイドフレーム間を連結するクロスバーなどの部材が存在するため、使用者が車椅子の中心に立つことはできない。このため車椅子をそのまま歩行器として使用するには不都合であった。
【0003】
そこで本発明等は、椅子のある位置の前方及び下方の連結部材を車体からなくし、椅子を跳ね上げて使用者が車椅子の中心に後ろ向きに立てば、そのまま歩行器として使用することができる歩行車椅子を先に開発し、特許文献1として提案済みである。
【0004】
しかし特許文献1の歩行車椅子は手動式の車椅子であるため、手で主車輪を回動操作できる力がある人でないと自力では走行させることができなかった。
【0005】
また特許文献1の歩行車椅子は折りたたみができないため、不使用時に病院や養護施設のベッド脇においておくと場所を取り、邪魔になるという問題があった。そこで歩行車椅子を室外の廊下等に置いておくと、使用したい場合には看護師や介助者に頼んでベッド脇まで移動させてもらう必要があった。このためトイレに行きたい場合にも、他人を煩わせねばならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した問題点を解決し、電動走行が可能であるのみならず、待機位置からベッド脇まで無人走行させることもできる歩行車椅子及びその走行システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明の歩行車椅子は、椅子を跳ね上げて歩行器としての使用を可能とした歩行車椅子であって、車体の背面に、電気駆動される主車輪の接地面近傍の床面を撮影するカメラと、このカメラの画像を処理するオンボードコンピュータとを搭載し、また車体には、人力走行、電動走行、無人走行の3モードを切替可能な駆動部を搭載したことを特徴とするものである。なお、オンボードコンピュータは、遠隔操作可能な無線通信部を備えたものである。
【0009】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の歩行車椅子の走行システムは、上記の歩行車椅子の走行システムであって、左右の主車輪の電動モータを個別に制御する駆動制御部と、主車輪の接地面近傍の床面を撮影したカメラの画像から進行経路を判断し、駆動部に走行指示信号を送る自走処理部と、使用者の操作手段からの入力を処理する電動処理部と、車体から分離されオンボードコンピュータと無線通信可能な遠隔操作部とを備えたことを特徴とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歩行車椅子及びその走行システムによれば、使用者が椅子に座って操作手段を操作し、通常の電動車椅子として使用できることはもちろん、椅子を跳ね上げて歩行器として使用することもできる。さらにカメラにより主車輪の接地面近傍の床面を撮影しながら自走させることが可能であるので、遠隔操作部を用いて待機位置からベッド脇まで無人走行させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】モード切替処理フローを示すフロー図である。
【
図6】電動モード処理フローを示すフロー図である。
【
図8】自走モード処理フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0013】
(車体構造)
図1は本発明の歩行車椅子の側面図であり、歩行車椅子の車体10は、左右のサイドフレーム11と、それらの背面を接続するバックフレーム12とを備えている。サイドフレーム11には大径の主車輪13と、小径の前方補助輪14及び後方補助輪15が設けられている。左右の主車輪13の車軸部分には駆動部を構成する電動モータ16がそれぞれ搭載されており、主車輪13を左右個別に回転させ、前進、後進、走行方向の変更などを行える構造となっている。これらの電動モータ16はそれぞれクラッチを備えたものとしておく。この駆動部は、人力走行、電動走行、無人走行の3モードで走行可能なものであるが、その詳細については後述する。
【0014】
バックフレーム12の前側には、椅子17が取り付けられている。
図2に示すように、椅子17はその後端部を回転軸17aとしてバックフレーム12の側に跳ね上げることができる構造であり、常時は椅子17の前部の両側をサイドフレーム11の支持部18に係合させて水平に支持されている。また
図2に示すように、右側の肘掛け19もガルウィング式に跳ね上げ可能となっている。このように椅子17を跳ね上げた状態では、車体10の前方及び下方には連結部材がなく、使用者が車椅子の中心に後ろ向きに立って歩行器として使用することができるようになっている。この点は特許文献1と同様である。
【0015】
車体10の背面、すなわちバックフレーム12の背面には、バッテリー20を備えた制御ボックス21とカメラ22とが搭載されている。バッテリー20は前記した駆動用の電動モータ16の電源であり、また制御ボックス21とカメラ22にも電源を供給するものである。このようにバッテリー20、制御ボックス21、カメラ22を車体10の背面側に搭載したので、歩行器として使用する際にこれらが障害となるおそれがない。
【0016】
カメラ22は制御ボックス21の下側に取り付けられ、主車輪13の接地面近傍の床面を撮影する。より正確には、左右の主車輪13の接地面間の床面を撮影し、床面に貼られたラインの画像を制御ボックス21に送る。
【0017】
なお左側の肘掛けには、使用者が歩行車椅子の走行や停止を操作する操作手段23が取り付けられている。本実施形態では操作手段23はジョイスティックであり、レバーを倒すことにより前進、後退、方向変換、走行速度などを制御できるほか、電源のオンオフも行えるようになっている。さらにこの操作手段23は、人力走行、電動走行、無人走行の3モードを切替えることが可能な切替スイッチ32を備えている。この実施形態では左側の肘掛けは固定式であるが、跳ね上げ式としてもよい。
【0018】
(制御システム)
次にこの歩行車椅子の制御システムについて説明する。
図3は制御システムの全体を示す概念図であり、
図4は制御システム全体のブロック図である。前記した制御ボックス21の内部には、カメラ22の画像を処理する画像処理部38を備えたオンボードコンピュータ25が搭載されている。このオンボードコンピュータ25には、自走処理部26、電動処理部27、各部を統括制御する統括管理部28などが搭載されている。統括管理部28は無線通信部45を備えている。またオンボードコンピュータ25には、バッテリー20、駆動制御部29、操作手段23が接続されている。操作手段23には電動処理部27が搭載されている。このほか、車体10から分離された遠隔操作部30があり、無線通信部44と無線通信回線を介して通信可能となっている。
【0019】
自走処理部26は、無人走行モードが選択された際に、歩行車椅子を無人のまま後ろ向きに自走させる機能を有するものであり、主車輪13の接地面近傍の床面を撮影したカメラ22の画像から進行経路を判断し、駆動制御部29に走行指示信号を送る。進行経路は床面にテープを貼り付けて指示する。このようにすれば、コンピュータ操作の知識を持たない者であっても、テープを貼りかえるだけで、容易に走行経路の設定や変更が可能となる。なお、自走処理部26の詳細な機能については後述する。
【0020】
駆動制御部29は駆動部に制御信号を送り、左右の主車輪13の車軸部分にそれぞれ搭載された電動モータ16を駆動させ、前進、後進のほか、右回転、左回転などの動作をさせることができる。主車輪13の接地面の上方に重心を位置させ、左右の主車輪13を互いに逆方向に回転させれば、主車輪13の接地面を中心として、すなわち曲率半径ゼロの状態で車体10の進行方向を変えることが可能である。
【0021】
電動処理部27は、操作手段23から入力された手動信号に応じて、駆動制御部29に前進、後進、停止などの走行指令信号を送る機能を有する。また操作手段23には人力走行、電動走行、無人走行の3モードを切替えるモード切替スイッチ32が設けられているので、電動処理部27は統括管理部28のモード切替部31にモード切替信号を送り、走行モードの切替が行われる。
【0022】
このほか、車体10にはカメラ22の視野を照らす照明35、障害物センサ36、警告ブザー37等が搭載されている。照明35はカメラ22の近傍に搭載されており、夜間にも走行可能となっている。障害物センサ36は左右の後方補助輪15の近傍にそれぞれ搭載され、車体10が後ろ向きに自走する際に障害物の有無を検出し、テープの上に荷物が置かれていたり人が立っていたような場合には走行を停止させるとともに、警告ブザー37を鳴らして異常発生を知らせるようになっている。障害物センサ36としては、赤外線センサーや超音波センサーなどを使用することができる。これらの安全装置も自走処理部26の制御下にある。
【0023】
遠隔操作部30は、
図4に示すように指示入力部41、状態表示部42、遠隔処理部43、無線通信部44を備え、統括管理部28の無線通信部45との間で無線通信を行う機能を備えている。この遠隔操作部30は車体10から分離されて使用者の手元に置かれ、歩行車椅子を自走させるときに用いられる。状態表示部42は、歩行車椅子の現在位置や、走行可能か否かなどの状態を表示させる。
【0024】
(各モードの説明)
図5はモード切替処理フローであり、モード切替スイッチ32がどのモードにあるかを判断する。電動モードの場合には駆動部の電動モータ16のクラッチをオンとし、通常の電動車椅子と同様に使用者が操作手段23のジョイスティックを手動操作し、
図6に示すようにジョイスティックからの入力に応じて前進、後進、左回転、右回転を行わせる。クラッチがオンの状態では主車輪13は電動モータ16と接続されているため、停止させればモータブレーキが掛かった状態となる。このため使用者が椅子から立ち上がっても、車体10が反動で移動することはなく安全である。
【0025】
モード切替スイッチ32が人力走行モードにあるときは、電動モータ16のクラッチがオフとされる。この状態では主車輪13は電動モータ16から分離されて自由に回転させることができるので、使用者は椅子17を跳ね上げた状態で車椅子の中心に後ろ向きに立ち、歩行車椅子を歩行車として使用することができる。
【0026】
モード切替スイッチ32が自走モードにあるときは、歩行車椅子は床面に貼り付けられたテープをカメラ22で読み取りながら、左右の主車輪13の動きを制御することによって、テープに沿って自走する。その一例を
図7に示す。なお自走モードへの切替はモード切替スイッチ32のほか、遠隔操作部30からの無線を介した遠隔操作によっても行えるようにしておく。
【0027】
図8に自走モードの処理フローを示す。自走モードにおいて走行開始指示を受けたときには、自走処理部26が照明35を点灯し、床面を照らす。カメラ22が床面に貼られたテープの線の撮影を開始する。画像処理部は撮影された画像を2値化処理し、線の欠落部分を補間処理する。撮影された線パターンが画像の中心にあるときには直進と判断し、自走処理部26が駆動制御部29に直進信号を送り、駆動部が左右の主車輪13を同一速度で回転させて車体10を直進させる。
【0028】
しかし撮影された線パターンが
図9の(A)のように画像の左側に寄っているときには、車体10が右にずれていると判断し、右側の主車輪13を左側の主車輪13よりも少し多く回転させて車体10を左方向に走行させる。逆に撮影された線パターンが
図9の(B)のように画像の右側に寄っているときには、車体10が左にずれていると判断し、左側の主車輪13を右側の主車輪13よりも少し多く回転させて車体10を右方向に走行させる。
【0029】
また、撮影された線パターンが
図9の(C)のように画像の中心線に対して時計方向に傾いているときには、進行方向が左向きに偏っていると判断し、左側の主車輪13を右側の主車輪13よりも少し多く回転させて車体10を右方向に戻す。逆に撮影された線パターンが
図9の(D)のように画像の中心線に対して反時計方向に傾いているときには、進行方向が右向きに偏っていると判断し、右側の主車輪13を左側の主車輪13よりも少し多く回転させて車体10を左方向に戻す。
【0030】
また
図7に示すようにテープが直角に貼られている位置では、撮影された線パターンが
図9の(E)や(F)のように折れ曲がる。このときにはその位置で、車体10を折れ曲がった方向に左回転、または右回転させる。
【0031】
このようにして床のラインの方向に車体10を自走させることができる。なお前記したように、自走は車体10の後方に向かって、すなわち後向きに行われる。障害物を検出したときには停止する。またテープの端部を検出したとき、あるいは停止標識を検出したときには、走行を停止する。このようにして、歩行車椅子を待機位置からベッド脇まで無人走行させることができる。
【0032】
以上に説明したように、本発明の歩行車椅子は、電動走行が可能であるのみならず、歩行車として使用することができ、さらに待機位置からベッド脇まで無人走行させることもできるので、他人を煩わせずに車椅子に乗れるなど多くの利点がある。なお、多数台の歩行車椅子を使用する病院などの施設においては、無線通信により全歩行車椅子の現在位置や走行状態を常時監視できるようにしておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
10 車体
11 サイドフレーム
12 バックフレーム
13 主車輪
14 前方補助輪
15 後方補助輪
16 電動モータ
17 椅子
17a 回転軸
18 支持部
19 肘掛け
20 バッテリー
21 制御ボックス
22 カメラ
23 操作手段
25 オンボードコンピュータ
26 自走処理部
27 電動処理部
28 統括管理部
29 駆動制御部
30 遠隔操作部
31 モード切替部
32 モード切替スイッチ
35 照明
36 障害物センサ
37 警告ブザー
38 画像処理部
41 指示入力部
42 状態表示部
43 遠隔処理部
44 無線通信部
45 無線通信部