(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】注射器ホルダ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/00 20060101AFI20220131BHJP
【FI】
A61M5/00 518
(21)【出願番号】P 2021126395
(22)【出願日】2021-08-02
【審査請求日】2021-12-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年7月17日に、一般社団法人海老名市医師会に於いて無償譲渡(寄贈)した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510016265
【氏名又は名称】株式会社かどや
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】波多野 康広
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0060168(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0008545(US,A1)
【文献】特表2015-505510(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0207079(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0267904(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0160723(US,A1)
【文献】実開昭59-76245(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目盛が設けられた外筒の一端側に針管が設けられ他端側から押し子が挿入された注射器を使用して集団接種する場合に、人が薬液を分注した複数の前記注射器を配置する注射器ホルダであって、
前記注射器の前記外筒に所定量の薬液を入れるのに要する所定位置まで前記押し子が引かれた状態において、前記外筒の一端側から前記押し子の先端部までを薬液収容想定部、前記外筒の他端側から前記押し子の先端部までを薬液非収容想定部とし、
平板状のホルダ基台の上面側に、断面が凹状で前記注射器を収容する注射器収容部が、複数の前記注射器が横並びに配置されるように複数設けられ、
前記注射器収容部に前記注射器が収容された状態で、前記薬液収容想定部に対向する前記ホルダ基台の第1の部位の少なくとも上面が第1の色に着色され、前記薬液非収容想定部に対向する前記ホルダ基台の第2の部位の少なくとも上面が、前記第1の色と異なる第2の色に着色され、
前記目盛が前記ホルダ基台の上面側に対向するように、前記薬液収容想定部に前記薬液が入った注射器が前記注射器収容部に収容されると、前記ホルダ基台の第1の部位において前記薬液を介して前記目盛が拡大して目視され、前記薬液収容想定部に前記薬液が入っていない注射器が前記注射器収容部に収容されると、前記ホルダ基台の第1の部位において前記目盛がそのままの大きさで目視される、
ことを特徴とする注射器ホルダ。
【請求項2】
前記第2の部位の端縁から前記注射器の押し子が突出するように、前記ホルダ基台が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の注射器ホルダ。
【請求項3】
前記注射器を前記注射器収容部に収容する際に、前記目盛が前記ホルダ基台の上面側に対向するように誘導する誘導手段を備える、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の注射器ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の注射器を収容、配置する注射器ホルダに関し、特に、各注射器に適正量の薬液が入っているか否かを確認可能にする注射器ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、COVID19(新型コロナウイルス感染症)の世界的流行・パンデミックが発生し、日本国を含めた世界各国で感染予防対策などが採られている。また、各国でワクチンが開発、接種され、日本国でもワクチンの集団接種が開始されている。集団接種では、効率的に多くの人にワクチンを接種する必要があるが、多くの注射器に適正量の薬液を入れなければならず、医療従事者への負担が大きく、作業ミスが生じるおそれがある。
【0003】
例えば、1つのバイアル(ワクチンが収容された容器)から複数の注射器にワクチンを分注する際に、まず、注射器の押し子を所定位置まで引き、注射器の針管をバイアル内に入れて押し子を外筒の先端まで押し込み、その後、再度押し子を所定位置まで引いて外筒内に所定量のワクチンを入れる場合がある。この場合、ワクチンが透明に近いと、押し子が所定位置まで引かれてワクチンが入っている注射器と、押し子が所定位置まで引かれているがワクチンが入っていない注射器(空の注射器)とを目視で識別することが困難となり、空の注射器を誤って投与してしまうおそれがある。あるいは、適正量よりも多い薬液を注射器に入れてしまったり、適正量よりも少ない薬液しか注射器に入れなかったりして、適正量でないワクチンを投与してしまうおそれがある。
【0004】
一方、患者毎に医薬品を仕分ける段階における人為的な錯誤による誤薬や患者の取り違いを未然に防止できる、というる投与剤のチェック装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このチェック装置は、医薬品名などが看護婦により読み上げられると、音声認識部によりその医薬品名などが音声認識され、認識された医薬品名などがデータベースに登録されていれば、その医薬品名などの音声データが音声合成されてスピーカから出力される。そして、スピーカから出力された医薬品名などが別の看護婦によって確認され、確認された医薬品が該当する患者用の収容体内に収容されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、COVID19に対するワクチンの集団接種においては、同じワクチンを同じ量だけ多くの人に投与する必要があり、しかも、効率的に多くの人に接種することが求められている。このため、各注射器へのワクチンの分注ミスが生じ、空の注射器を誤って投与したり、適正量でないワクチンを投与してしまったりするおそれがある。一方、特許文献1に記載のチェック装置では、患者毎に適した医薬品を定量だけ投与することを可能にはするが、同じワクチンを同じ量だけ多くの人に投与する集団接種において、各注射器へのワクチンの分注ミスを発見、防止することはできない。
【0007】
そこでこの発明は、同じ薬液を同じ量だけ多くの人に投与する集団接種において、各注射器への薬液の分注ミスを発見可能にする注射器ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、目盛が設けられた外筒の一端側に針管が設けられ他端側から押し子が挿入された注射器を使用して集団接種する場合に、人が薬液を分注した複数の前記注射器を配置する注射器ホルダであって、前記注射器の前記外筒に所定量の薬液を入れるのに要する所定位置まで前記押し子が引かれた状態において、前記外筒の一端側から前記押し子の先端部までを薬液収容想定部、前記外筒の他端側から前記押し子の先端部までを薬液非収容想定部とし、平板状のホルダ基台の上面側に、断面が凹状で前記注射器を収容する注射器収容部が、複数の前記注射器が横並びに配置されるように複数設けられ、前記注射器収容部に前記注射器が収容された状態で、前記薬液収容想定部に対向する前記ホルダ基台の第1の部位の少なくとも上面が第1の色に着色され、前記薬液非収容想定部に対向する前記ホルダ基台の第2の部位の少なくとも上面が、前記第1の色と異なる第2の色に着色され、前記目盛が前記ホルダ基台の上面側に対向するように、前記薬液収容想定部に前記薬液が入った注射器が前記注射器収容部に収容されると、前記ホルダ基台の第1の部位において前記薬液を介して前記目盛が拡大して目視され、前記薬液収容想定部に前記薬液が入っていない注射器が前記注射器収容部に収容されると、前記ホルダ基台の第1の部位において前記目盛がそのままの大きさで目視される、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の注射器ホルダにおいて、前記第2の部位の端縁から前記注射器の押し子が突出するように、前記ホルダ基台が形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の注射器ホルダにおいて、前記注射器を前記注射器収容部に収容する際に、前記目盛が前記ホルダ基台の上面側に対向するように誘導する誘導手段を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、各注射器収容部に注射器を収容すると複数の注射器が横並びに配置されるため、他の注射器に比べて状態・外観がおかしい注射器を目視で容易に確認することが可能となる。すなわち、同じ薬液が同じ量だけ入っている注射器が複数横並びに配置されていると、押し子の位置や外筒内の薬液量などの状態・外観がすべて同じになるはずだが、薬液量が違うと状態・外観が他の注射器に比べて異なるため、薬液量が適正でない注射器を目視で発見・確認することが可能となる。
【0012】
この際、薬液収容想定部に対向するホルダ基台の第1の部位の上面が、第2の部位と異なる第1の色に着色されているため、薬液が入っているべき外筒の部分(薬液収容想定部)を一目で認識することができ、外筒に所定量の薬液が入っているか否かをより容易かつ的確に確認することが可能となる。
【0013】
しかも、目盛がホルダ基台の上面側に対向するように、薬液収容想定部に薬液が入った注射器が注射器収容部に収容された場合には、ホルダ基台の第1の部位において薬液を介して目盛が拡大して目視される。これに対して、薬液収容想定部に薬液が入っていない注射器が注射器収容部に収容されると、目盛がそのままの大きさで目視される。すなわち、薬液が入っていれば薬液が凸レンズと同様に作用して、ホルダ基台の第1の部位において目盛が拡大して目視される。これに対して、押し子が所定位置まで引かれているがワクチンが入っていない注射器(空の注射器)が間違って注射器収容部に収容された場合、ホルダ基台の第1の部位において目盛が小さく目視される。このため、他の注射器に比べて目盛が小さく目視されるか否かを確認することで、空の注射器を目視で容易かつ適正に発見、確認することが可能となる。しかも、薬液が微量であると重量計による計量が困難であるが、本注射器ホルダによれば注射器を配置して目視確認するだけであるため、薬液が微量であっても空の注射器を発見、確認することが可能となる。
【0014】
このように、同じ薬液を同じ量だけ多くの人に投与する集団接種において、薬液を分注した複数の注射器(分注したと誤解等した注射器を含む)を本注射器ホルダに配置することで、分注ミスを容易かつ適正に発見することが可能となる。しかも、薬液のなかには衝撃や紫外線などに脆弱なものもあるが、注射器を本注射器ホルダに配置するだけでよいため、このような薬液を損傷させることがなく、安全性を確保することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、第2の部位の端縁から注射器の押し子が突出するように、ホルダ基台が形成されているため、第2の部位の端縁からの押し子の突出量を比較することで、薬液量が不適正な注射器を容易に発見・確認することが可能となる。すなわち、薬液量が所定量よりも少ないと他の注射器に比べて押し子の突出量が短く、薬液量が多いと他の注射器に比べて押し子の突出量が長くなるため、薬液量が適正でない注射器を目視でより容易かつ確実に発見・確認することが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、注射器を注射器収容部に収容する際に、誘導手段によって目盛がホルダ基台の上面側に対向するように誘導されるため、目盛をより確実にホルダ基台の上面側に向けて注射器を注射器収容部に収容させることが可能となる。そして、目盛がホルダ基台の上面側に対向して注射器が収容されることで、薬液が入っている場合には薬液を介して確実に目盛が拡大して目視されるため、上記のようにして空の注射器をより確実に発見、確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施の形態に係る注射器ホルダを示す一部平面図である。
【
図3】この発明の実施の形態に係る注射器を示す図(a)と、その押し子側の側面図(b)である。
【
図4】
図1の注射器ホルダに複数の注射器を配置した状態を示す概略平面図である。
【
図5】
図1の注射器ホルダに注射器を配置した状態で、注射器の薬液収容想定部に薬液が入っている場合と入っていない場合における目盛の目視状態(見え方)を示す図である。
【
図6】この発明の他の実施の形態に係る注射器ホルダを示す一部平面図である。
【
図7】
図6の注射器ホルダをB-B方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説端明する。
【0019】
図1~
図5は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る注射器ホルダ1を示す一部平面図であり、
図2は、
図1の注射器ホルダ1のA-A断面図である。この注射器ホルダ1は、注射器101を使用して同じ薬液を多くの人に集団接種する場合に、人・医療従事者が薬液を分注した複数の注射器101を配置するホルダ・トレイである。つまり、所定量の薬液を入れた注射器101を複数並べて配置、保持して集団接種に備えるためのホルダであり、この実施の形態では、薬液がCOVID19のワクチンである場合、つまり、新型コロナワクチンを集団接種する場合について、主として説明する。また、ワクチンは、ほぼ無色透明であるとする。
【0020】
ここで、注射器101は、
図3に示すように、略透明で円筒状の外筒(シリンジ)102の一端側に針管103が設けられ、外筒102の他端側から略棒状の押し子(プランジャー)104が挿入されている。外筒102の外周面には、長手方向に沿って目盛Gが設けられ、この実施の形態では、目盛Gは略黒色で記されている。また、外筒102の他端側の端縁には、縦長のツバ状で指を掛けるためのフィンガーフランジ102aが形成されている。このフィンガーフランジ102aは、長辺の長さがd2、短辺の長さがd1で、この実施の形態では、フィンガーフランジ102aの一方の短辺と略対向して目盛Gが設けられている。押し子104の外筒102内の端部(先端部)にはガスケット105が装着され、押し子104の他端部には略円盤状のストッパー104aが形成されている。一方、外筒102の一端側には、針管103をカバーするプロテクター(キャップ)106が装着されている。
【0021】
また、注射器101の外筒102に所定量のワクチンを入れるのに要する所定位置まで押し子104が引かれた状態において、外筒102の一端側から押し子104の先端部までを薬液収容想定部102A、外筒102の他端側から押し子104の先端部までを薬液非収容想定部102Bとする。すなわち、例えば、投与・接種すべきワクチンの量(所定量)が0.3mLの場合、目盛Gの0.3mLの位置(所定位置)まで押し子104・ガスケット105が引かれた状態において、外筒102の一端側からガスケット105までの外筒102の部位を薬液収容想定部102A、外筒102の他端側からガスケット105までの外筒102の部位を薬液非収容想定部102Bとする。
【0022】
ところで、この実施の形態では、1つのバイアルから複数の注射器101にワクチンを分注するものとし、その際、まず、第1のステップとして、注射器101の押し子104を所定位置(例えば、目盛Gの0.3mLの位置)まで引く。次に、第2のステップとして、注射器101の針管103をバイアル内に入れて押し子104を外筒102の先端まで押し込み、その後、第3のステップとして、再度押し子104を所定位置まで引いて外筒102の薬液収容想定部102A内に所定量(例えば、0.3mL)のワクチンを入れるものとする。
【0023】
従って、第1のステップを経ただけで薬液収容想定部102Aにワクチンが入っていない空の注射器101が、注射器ホルダ1に収容、配置されてしまう場合があり得る。そして、ワクチンが透明に近いため、押し子104が所定位置まで引かれて薬液収容想定部102Aにワクチンが入っている適正な注射器101と、押し子104が所定位置まで引かれているが薬液収容想定部102Aにワクチンが入っていない空の注射器101とを、目視で識別することが困難であるとする。
【0024】
注射器ホルダ1は、樹脂製のホルダ基台2の上面側に、注射器101を収容するための注射器収容部3が複数設けられたものである。
【0025】
ホルダ基台2は、
図4に示すように、横長の略長方形の平板状で、
図1、2に示すように、後述するようにして注射器101が配置された状態で薬液収容想定部101Aに対向する第1の部位21の上面(ホルダ基台2の一方の長辺側の上面)が、他の部位つまり第2の部位22の上面よりも低く形成されている。この第2の部位22の上面に、断面が凹状の溝である注射器収容部3が複数形成されている。
【0026】
この注射器収容部3は、ホルダ基台2の長手方向に対して垂直に延び、平面形状が縦長の略長方形で、第1の部位21側の短辺が第1の部位21との境を形成している。また、第1の部位21側の溝幅(
図1中3aの幅)は、注射器101の外筒102を挟持・保持できるように設定され、その他の幅(
図1中3bの幅)は、第1の部位21側3aの溝幅よりもやや大きく設定され、これにより注射器101の外筒102を注射器収容部3に出し入れしやすいようになっている。また、注射器収容部3の深さは、注射器101の外筒102を安定して収容でき、かつ、出し入れがしやすいように設定され、第1の部位21の上面の高さは、注射器収容部3の底面(溝の底面)と略面一に(やや低く)設定されている。
【0027】
このような注射器収容部3がホルダ基台2の長手方向に沿って並列に複数形成され、各注射器収容部3に注射器101を収容することで、
図4に示すように、複数の注射器101が横並びに配置されるように(真っ直ぐ延びる複数の注射器101のプロテクター106の先端が一直線上に並ぶように)なっている。また、この実施の形態では、1つのバイアルから6本の注射器101にワクチンを分注するものとし、4つのバイアル分の注射器101、つまり、24本(=4バイアル×6本)の注射器101を注射器ホルダ1に配置できるようになっている。すなわち、1つのホルダ基台2に24の注射器収容部3が形成されている。
【0028】
また、
図1、2に示すように、各注射器収容部3の反第1の部位21側の端部には、平面形状が略四角形のフランジ挿入孔(誘導手段)3cが形成されている。このフランジ挿入孔3cは、その幅(注射器収容部3の長手方向に直交する長さ)がフィンガーフランジ102aの短辺の長さd1よりもやや大きく長辺の長さd2よりも短く設定され、フィンガーフランジ102aの短辺側のみを挿入可能(長辺側を挿入不可)となっている。
【0029】
そして、フランジ挿入孔3cにフィンガーフランジ102aの短辺側を挿入して、注射器収容部3に注射器101の外筒102を収容すると、ホルダ基台2の第1の部位21が薬液収容想定部102Aに対向し、ホルダ基台2の第2の部位22が薬液非収容想定部102Bに対向するように、ホルダ基台2が形成されている。換言すると、薬液収容想定部102Aに対向するホルダ基台2の部位が第1の部位21で、薬液非収容想定部102Bに対向するホルダ基台2の部位が第2の部位22となっている。このような収容状態では、各注射器101が略水平に延びるように配置され、第2の部位22の端縁(ホルダ基台2の他方の長辺)22aから注射器101の押し子104が常に(押し子104が外筒102の先端側に位置していても)突出するように、ホルダ基台2が形成されている。
【0030】
また、この実施の形態では、ホルダ基台2全体が略黒色(第2の色)で、第1の部位21の上面に略白色(第1の色)の薄いテープが張り付けられている。これにより、ホルダ基台2の第1の部位21の上面が第1の色である略白色に着色・彩色され、第2の部位22の上面が第1の色とは異なる第2の色である略黒色に着色・彩色されている。ここで、着色・彩色の手法は、どのようなものであってもよく、素材そのものの色でもよいし、後塗りしてもよいし、色が付いたテープなどを貼ったりしてもよい。
【0031】
このように、第1の部位21の上面が略白色に着色されているのは、目盛Gが略黒色で記されており、黒色と非類似色・非同系色である略白色に着色することで、目盛Gをはっきり、正確かつ容易に目視確認できるようにするためである。これにより、後述するように、目盛Gが大きく見えるか小さく見えるかを容易かつ確実に確認できるようになっている。一方、第2の部位22の上面が略黒色に着色されているのは、目盛Gが略黒色で記されており、黒色と類似色・同系色である略黒色に着色することで、目盛Gを目視確認しにくくし、第1の部位21における目盛Gがより際立って見えるようにするためである。
【0032】
そして、目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向するように(目盛Gをホルダ基台2側に向けて)、薬液収容想定部102Aにワクチンが入った注射器101が注射器収容部3に収容されると、
図5の左側に示すように、ホルダ基台2の第1の部位21においてワクチンを介して目盛Gが大きく目視される。すなわち、液状であるワクチンが凸レンズと同様に作用して、目盛Gが拡大して見えるようになる。一方、目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向するように、薬液収容想定部102Aにワクチンが入っていない空の注射器101が注射器収容部3に収容されると、
図5の右側に示すように、ホルダ基台2の第1の部位21において目盛Gがそのままの大きさで(拡大されずに)目視される。このような目盛Gの大きさの変化をはっきり容易に目視確認できるように、上記のように、第1の部位21の上面が略白色に設定されている。
【0033】
ところで、注射器収容部3のフランジ挿入孔3cとフィンガーフランジ102aは、注射器101を注射器収容部3に収容する際に、目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向するように誘導する誘導手段として機能する。すなわち、上記のように、フランジ挿入孔3cには、フィンガーフランジ102aの短辺側のみを挿入可能(長辺側を挿入不可)となっているため、目盛Gに略対向しているフィンガーフランジ102aの短辺側をフランジ挿入孔3cに挿入することで、目盛Gをホルダ基台2の上面側に対向させて、注射器101を注射器収容部3に収容することができるものである。これに対して、フィンガーフランジ102aの一方の長辺と略対向して目盛Gが設けられている場合には、フィンガーフランジ102aの長辺側を挿入可能にフランジ挿入孔3cの幅を設定することで、誘導手段として機能する。なお、フィンガーフランジ102aをフランジ挿入孔3cに挿入することで、注射器101が長手方向に対して固定される。
【0034】
このような構成の注射器ホルダ1を使用して新型コロナワクチンを集団接種する場合、上記のような3つのステップを経て、医療従事者がバイアルから各注射器101にワクチンを分注し、各注射器101を注射器収容部3に収容していく。これにより、
図4に示すように、ホルダ基台2の長手方向に沿って24本の注射器101が並列に横に並んで注射器ホルダ1に配置されるものである。
【0035】
以上のように、この注射器ホルダ1によれば、各注射器収容部3に注射器101を収容すると複数の注射器101が横並びに配置されるため、他の注射器101に比べて状態・外観がおかしい注射器101を目視で容易に確認することが可能となる。すなわち、同じワクチンが同じ量だけ入っている注射器101が複数横並びに配置されていると、押し子104の位置や外筒102内のワクチン量(ガスケット105の位置)などの状態・外観がすべて同じになるはずだが、ワクチン量が違うと状態・外観が他の注射器101に比べて異なるため、ワクチン量が適正でない注射器101を目視で発見・確認することが可能となる。
【0036】
例えば、ワクチン量が多いと、
図4の左から4本目の注射器101のように、押し子104が他の注射器101に比べて長く突出したり、ガスケット105の位置が他の注射器101に比べて第2の部位22側にずれたりするため、容易に発見・確認することが可能となる。同様に、ワクチン量が少ない場合にも、
図4の右から3本目の注射器101のように、押し子104が他の注射器101に比べて短く突出したり、ガスケット105の位置が他の注射器101に比べて第1の部位21側にずれたりするため、容易に発見・確認することが可能となる。
【0037】
この際、薬液収容想定部102Aに対向するホルダ基台2の第1の部位21の上面が、第2の部位22と異なる第1の色(略白色)に着色されているため、ワクチンが入っているべき外筒102の部分(薬液収容想定部102A)を一目で認識することができ、外筒102に所定量のワクチンが入っているか否かをより容易かつ的確に確認することが可能となる。例えば、所定量のワクチンが入っている場合には、ホルダ基台2の第1の色がすべてワクチンを介して目視確認できる。これに対して、
図4の右から3本目の注射器101のように、所定量よりも少ないワクチンしか入っていない場合には、第1の色の一部しかワクチンを介して目視確認できないため、容易に確認することが可能となる。
【0038】
しかも、目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向するように、薬液収容想定部102Aにワクチンが入った注射器101が注射器収容部3に収容された場合には、
図5の左側に示すように、ホルダ基台2の第1の部位21においてワクチンを介して目盛Gが拡大して目視される。これに対して、薬液収容想定部102Aにワクチンが入っていない空の注射器101が注射器収容部3に収容されると、
図5の右側に示すように、目盛Gがそのままの大きさで目視される。すなわち、ワクチンが入っていればワクチンが凸レンズと同様に作用して、ホルダ基台2の第1の部位21において目盛Gが拡大して目視される。これに対して、押し子104が所定位置まで引かれているがワクチンが入っていない空の注射器101が間違って注射器収容部3に収容された場合、ホルダ基台2の第1の部位21において目盛Gが小さく目視される。
【0039】
このため、他の注射器101に比べて目盛Gが小さく目視されるか否かを確認することで、空の注射器101を目視で容易かつ適正に発見、確認することが可能となる。しかも、このような目盛Gの大きさの違いをはっきり容易に目視確認できるように、第1の部位21の上面が略白色に設定されているため、より容易かつ適正に発見、確認することが可能となる。また、ワクチンが微量であると重量計による計量が困難であるが、本注射器ホルダ1によれば注射器101を配置して目視確認するだけであるため、ワクチンが微量であっても空の注射器101を発見、確認することが可能となる。
【0040】
このように、同じワクチンを同じ量だけ多くの人に投与する集団接種において、ワクチンを分注した複数の注射器101(分注したと誤解等した注射器101を含む)を本注射器ホルダ1に配置することで、分注ミスを容易かつ適正に発見することが可能となる。しかも、ワクチンのなかには衝撃や紫外線などに脆弱なものもあるが、注射器101を本注射器ホルダ1に配置するだけでよいため、このようなワクチンを損傷させることがなく、安全性を確保することができる。
【0041】
また、第2の部位22の端縁22aから注射器101の押し子104が突出するように、ホルダ基台2が形成されているため、第2の部位22の端縁22aからの押し子104の突出量を比較することで、ワクチン量が不適正な注射器101を容易に発見・確認することが可能となる。すなわち、ワクチン量が所定量よりも少ないと他の注射器101に比べて押し子104の突出量が短く、ワクチン量が多いと他の注射器101に比べて押し子104の突出量が長くなるため、ワクチン量が適正でない注射器101を目視でより容易かつ確実に発見・確認することが可能となる。
【0042】
さらに、注射器101を注射器収容部3に収容する際に、フランジ挿入孔3cによって目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向するように誘導されるため、目盛Gをより確実にホルダ基台2の上面側に向けて注射器101を注射器収容部3に収容させることが可能となる。そして、目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向して注射器101が収容されることで、ワクチンが入っている場合にはワクチンを介して確実に目盛Gが拡大して目視されるため、上記のようにして空の注射器101をより確実に発見、確認することが可能となる。
【0043】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、注射器収容部3がホルダ基台2に形成された溝である場合について説明したが、その他の構成であってもよい。例えば、
図6、
図7に示すように、断面が凹状・U字状の部材で注射器収容部30を構成し、この注射器収容部30をホルダ基台2の上面に配設してもよい。この際、図示のように、短い・小さい複数の注射器収容部30で注射器101を保持・収容するようにしてもよいし、一体の長い注射器収容部30で注射器101を保持・収容するようにしてもよい。
【0044】
また、フランジ挿入孔3cが誘導手段として機能する場合について説明したが、その他の誘導手段であってもよい。例えば、目盛Gがホルダ基台2の上面側に対向するように(目盛Gが下に向くように)注射器101を配置すべきことをホルダ基台2に記載、図示してもよい。さらに、ホルダ基台2が樹脂製の場合について説明したが、金属などのその他の材料・材質で構成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 注射器ホルダ
2 ホルダ基台
21 第1の部位
22 第2の部位
22a 端縁
3 注射器収容部
3c ランジ挿入孔(誘導手段)
101 注射器
102 外筒
102a フィンガーフランジ
102A 薬液収容想定部
102B 薬液非収容想定部
103 針管
104 押し子
105 ガスケット(押し子の先端部)
G 目盛
【要約】
【課題】同じ薬液を同じ量だけ多くの人に投与する集団接種において、各注射器への薬液の分注ミスを発見可能にする。
【解決手段】平板状のホルダ基台2の上面側に、断面が凹状で注射器101を収容する注射器収容部3が、複数の注射器101が横並びに配置されるように複数設けられ、注射器収容部3に注射器101が収容された状態で、薬液収容想定部102Aに対向するホルダ基台2の第1の部位21の上面が第1の色に着色され、薬液非収容想定部102Bに対向するホルダ基台2の第2の部位22の上面が、第1の色と異なる第2の色に着色されている。
【選択図】
図1