IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人甲南学園の特許一覧

<>
  • 特許-核酸合成法 図1
  • 特許-核酸合成法 図2
  • 特許-核酸合成法 図3
  • 特許-核酸合成法 図4
  • 特許-核酸合成法 図5
  • 特許-核酸合成法 図6
  • 特許-核酸合成法 図7
  • 特許-核酸合成法 図8
  • 特許-核酸合成法 図9
  • 特許-核酸合成法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】核酸合成法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/34 20060101AFI20220131BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20220131BHJP
   C12Q 1/6865 20180101ALI20220131BHJP
   C12N 15/00 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C12P19/34 A
C12N9/12
C12Q1/6865 Z
C12N15/00 ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017120802
(22)【出願日】2017-06-20
(65)【公開番号】P2019004708
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直己
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】大倉 裕道
【審査官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504357(JP,A)
【文献】特表2001-525667(JP,A)
【文献】Nucleic Acids Research,1994年,Vol.22, No.24,5229-5234
【文献】Biotechnology Journal,2006年,Vol.1,440-446
【文献】日本化学会第95春季年会講演予稿集III,2015年,908
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 9/12
C12Q 1/6865
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)RNAポリメラーゼと、(B)ポリアルキレングリコールと、(C1)2'-修飾リボヌクレオチドと、(D)鋳型核酸とを含む(i)反応液中で、前記(D)鋳型核酸に相補的な修飾核酸を合成する工程を含み、
前記(A)RNAポリメラーゼがバクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼであり
前記(B)ポリアルキレングリコールの平均分子量が100~1000、前記(i)反応液中の濃度が10重量%以上であり、
前記(C1)2'-修飾リボヌクレオチドが、2'-ハロゲン化リボヌクレオチド及び2'-アルコキシリボヌクレオチドからなる群から選択される、核酸合成法。
【請求項2】
前記(D)鋳型核酸がプロモータ配列を含まず、前記(i)反応液が前記(D)の一部と相補的な配列を有する(E)プライマーをさらに含む、請求項1に記載の核酸合成法。
【請求項3】
前記(B)ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである、請求項1又は2のいずれかに記載の核酸合成法。
【請求項4】
前記2'-ハロゲン化リボヌクレオチドが2'-フルオロリボヌクレオチドである、請求項1~のいずれかに記載の核酸合成法。
【請求項5】
前記2'-アルコキシリボヌクレオチドにおける2'-アルコキシ基の炭素数が1~3である、請求項1~のいずれかに記載の核酸合成法。
【請求項6】
前記(E)プライマーが5'末端に修飾基を有する、請求項2~のいずれかに記載の核酸合成法。
【請求項7】
前記(i)反応液から、(C2)リボヌクレオチドを含み且つ前記(B)ポリアルキレングリコールの濃度が5重量%以下となるように希釈された(ii)反応液を調製し、前記(ii)反応液中で前記修飾核酸から前記(D)鋳型核酸に相補的なRNAを伸長する工程をさらに含む、請求項1~のいずれかに記載の核酸合成法。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の核酸合成法を行うためのキットであって、
(A)RNAポリメラーゼと、(B)ポリアルキレングリコールと、(C1)2'-修飾リボヌクレオチドと、を含み、
前記(A)RNAポリメラーゼがバクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼであり
前記(B)ポリアルキレングリコールの平均分子量が100~1000であり、
前記(C1)2'-修飾リボヌクレオチドが、2'-ハロゲン化リボヌクレオチド及び2'-アルコキシリボヌクレオチドからなる群から選択される、核酸合成キット。
【請求項9】
鋳型核酸を固定化するための固相担体及び/又はリボヌクレアーゼHをさらに含む、請求項に記載の核酸合成キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸合成法に関し、より具体的には、RNAポリメラーゼの酵素機能を簡便な方法で変換することで、変換前のRNAポリメラーゼでは取り込むことができない修飾核酸種を取り込ませる核酸合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸を用いた医薬品の開発が行われている。核酸を医薬品として用いる場合、その化学的安定性を高めるために、核酸に化学的修飾を施すことが知られている。しかしながら、本来の核酸ポリメラーゼは、化学的修飾された核酸に対する特異性がない。したがって、化学的修飾された核酸を基質として核酸ポリメラーゼによる核酸合成を行う場合、核酸ポリメラーゼを改変することで、化学修飾された核酸に対する基質特異性を獲得させる必要がある。改変の具体的手法としては、活性部位等のアミノ酸残基を変化させることで酵素内部の化学特性を変化させる方法が挙げられる。例えば、非特許文献1には、DNAの活性部位へのランダム変異導入によって変異体を作製することにより、本来のDNAポリメラーゼでは合成できない2’-メトキシ又は2’-フルオロ部分修飾されたオリゴヌクレオチドを合成したことが開示されている。また、非特許文献2には、T7RNAポリメラーゼに変異を導入することで、2’-メトキシ修飾又は2’-フルオロ修飾されたリボース部分を取り込ませることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】T. Chen et al., Nat. Chem. 2016, 8, 556
【文献】A. J. Meyer et al., Nucleic Acids Res. 2015, 43, 7480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、本来の基質ではない修飾核酸をポリメラーゼに取り込ませるためのアプローチとしては、ポリメラーゼに変異を導入することが常識とされている。しかしながらこのようなアプローチで変異を導入して目的の活性を有する変異体をスクリーニングする必要があり、所望の活性を持たないポリメラーゼから所望の活性を持つポリメラーゼを取得するまでに、多大な時間と労力とが必要となる。
【0005】
そこで本発明の目的は、RNAポリメラーゼの酵素機能を簡便な方法で変換することで、変換前のRNAポリメラーゼでは取り込むことができない核酸種を取り込む活性を獲得させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、T7 RNAポリメラーゼを用いた核酸合成法において、反応液中に高濃度のポリエチレングリコールを加えることで、RNAポリメラーゼの本来の基質であるRNA合成が抑制され、本来の基質ではないDNAの合成が促進されたことを発見した。つまり、反応液中にポリエチレングリコールを高濃度で加えることで、RNAポリメラーゼが、DNAポリメラーゼ様の活性挙動を示す酵素に変化することを見出した。
【0007】
本発明者は、このようなポリエチレングリコールを含む反応液中で活性挙動がDNAポリメラーゼ様に変化するRNAポリメラーゼについて検討を重ねた。その結果、驚くべきことに、ポリエチレングリコールを含む反応液中で活性挙動がDNAポリメラーゼ様に変化したRNAポリメラーゼが、2’-修飾された核酸種を取り込むという、DNAポリメラーゼにも無い活性も獲得していることを見出した。つまり、ポリエチレングリコールを高濃度で含む反応液中でRNAポリメラーゼを用いて核酸合成反応を行うことによって、上記の本発明の目的を達成できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成された。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0009】
項1. (A)RNAポリメラーゼと、(B)ポリアルキレングリコールと、(C1)2’-修飾リボヌクレオチドと、(D)鋳型核酸とを含む(i)反応液中で、前記(D)鋳型核酸に相補的な修飾核酸を合成する工程を含み、
前記(A)RNAポリメラーゼがシングルサブユニットタンパク質からなり、
前記(B)ポリアルキレングリコールの平均分子量が10~1000、前記(i)反応液中の濃度が10重量%以上であり、
前記(C1)2’-修飾リボヌクレオチドが、2’-ハロゲン化リボヌクレオチド及び2’-アルコキシリボヌクレオチドからなる群から選択される、核酸合成法。
項2. 前記(D)鋳型核酸がプロモータ配列を含まず、前記(i)反応液が前記(D)の一部と相補的な配列を有する(E)プライマーをさらに含む、項1に記載の核酸合成法。
項3. 前記(A)RNAポリメラーゼが、バクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼである、項1又は2に記載の核酸合成法。
項4. 前記(B)ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである、項1から3のいずれかに記載の核酸合成法。
項5. 前記2’-ハロゲン化リボヌクレオチドが2’-フルオロリボヌクレオチドである、項1~4のいずれかに記載の核酸合成法。
項6. 前記2’-アルコキシリボヌクレオチドにおける2’-アルコキシ基の炭素数が1~3である、項1~5のいずれかに記載の核酸合成法。
項7. 前記(E)プライマーが5’末端に修飾基を有する、項2~6のいずれかに記載の核酸合成法。
項8.前記(i)反応液から、(C2)リボヌクレオチドを含み且つ前記(B)ポリアルキレングリコールの濃度が5重量%以下となるように希釈された(ii)反応液を調製し、前記(ii)反応液中で前記修飾核酸から前記(D)鋳型核酸に相補的なRNAを伸長する工程をさらに含む、項1~7のいずれかに記載の核酸合成法。
項9. 項1~8のいずれかに記載の核酸合成法を行うためのキットであって、
(A)RNAポリメラーゼと、(B)ポリアルキレングリコールと、(C1)2’-修飾リボヌクレオチドと、を含み、
前記(A)RNAポリメラーゼがシングルサブユニットタンパク質からなり、
前記(B)ポリアルキレングリコールの平均分子量が10~1000であり、
前記(C1)2’-修飾リボヌクレオチドが、2’-ハロゲン化リボヌクレオチド及び2’-アルコキシリボヌクレオチドからなる群から選択される、核酸合成キット。
項10. 鋳型核酸を固定化するための固相担体及び/又はリボヌクレアーゼHをさらに含む、項9に記載の核酸合成キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、RNAポリメラーゼの酵素機能を簡便な方法で変換することで、変換前のRNAポリメラーゼでは取り込むことができない核酸種を取り込む活性を獲得させる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の核酸合成法の一例を説明する模式図である。
図2】試験例1における核酸合成法を説明する模式図である。
図3】試験例1の結果であり、リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)を用いた場合の変性PAGEゲル電気泳動写真(a)及び平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG200)の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ(b);T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)を用いた場合の変性PAGEゲル電気泳動写真(c)及びPEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ(d);及び大腸菌DNAポリメラーゼ(KF)を用いた場合の変性PAGEゲル電気泳動写真(e)及びPEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ(f)を示す。
図4】試験例2の結果であり、PEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ(a)(図3の(d)と同じ)、エチレングリコール(EG)の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ(b)、平均分子量8000のポリエチレングリコール(PEG8000)の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ(c)を示す。
図5】実施例1における核酸合成法を説明する模式図である。
図6】実施例1の結果であり、基質ごとの変性PAGEゲル電気泳動写真(a)及び基質ごとのプライマー伸長率のグラフ(b)を示す。
図7】実施例2における核酸合成法を説明する模式図である。
図8】実施例2の結果であり、基質ごとのプライマー伸長率のグラフを示す。
図9】実施例3における核酸合成法(1st step:修飾核酸を合成する工程、2nd step:修飾核酸からRNAを伸長する工程)を説明する模式図である。
図10】実施例3の結果であり、1st stepで用いた基質ごとの変性PAGEゲル電気泳動写真(a)及び1st stepで用いた基質ごとのプライマー伸長率又はRNA伸長率のグラフ(b)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.核酸合成法]
本発明の核酸合成法は、(A)RNAポリメラーゼと、所定高濃度の(B)ポリアルキレングリコールと、(C1)2’-修飾リボヌクレオチドと、(D)鋳型核酸とを含む(i)反応液中で、前記(D)鋳型核酸に相補的な修飾核酸を合成する工程を含む。好ましくは、(i)反応液には、(D)鋳型核酸の一部に相補的な(E)プライマーを含む。また、本発明の核酸合成法は、(i)反応液から、(C2)リボヌクレオチドを含み且つ(B)ポリアルキレングリコールの濃度が所定低濃度に希釈された(ii)反応液を調製し、(ii)反応液中で修飾核酸から(D)鋳型核酸に相補的なRNAを伸長する工程をさらに含む。(ii)反応液中での工程により、ハイブリッド型RNAが得られる。
【0013】
本発明において相補的とは、ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を有することをいう。ここでいうストリンジェントな条件とは、既知の条件から選定可能で、特に限定されるものではないが、例えば、42℃において、50%(v/v)のホルムアミド、0.1%のウシ血清アルブミン、0.1%のフィコール(商品名)、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが共存する条件等が挙げられる。
【0014】
本発明の核酸合成法の一例を説明する模式図を図1に示す。図1では、(A)RNAポリメラーゼの表示を省略し、(B)ポリアルキレングリコールとしてポリエチレングリコール(PEG)を例示し、(C1)2’-修飾リボヌクレオチドをXで表記し、(C2)リボヌクレオチドをNで表記し、(D)鋳型核酸としてRNAを例示し、(E)プライマーとしてRNAを例示する。
【0015】
[1-1.(A)RNAポリメラーゼ]
本発明に用いられる(A)RNAポリメラーゼは、シングルサブユニットタンパク質からなるRNAポリメラーゼである。シングルサブユニットタンパク質からなるRNAポリメラーゼは、進化的観点で配列が類似していることから核酸合成時における作用メカニズムが同等であるため、特に制限なく用いることができる。シングルサブユニットタンパク質の中でも、RNA合成効率の観点で、バクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼであることが好ましい。バクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼとしては、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、K11 RNAポリメラーゼ、及びSP6 RNAポリメラーゼが挙げられ、好ましくはT7 RNAポリメラーゼが挙げられる。
【0016】
(A)RNAポリメラーゼは、RNAに対する基質特異性を有し、且つ、本発明で用いられる所定の(B)ポリアルキレングリコール不存在下で(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を有していないものであれば、野生型であっても遺伝子工学的に変異を導入したものであってもよいが、好ましくは野生型が挙げられる。
【0017】
(A)RNAポリメラーゼの(i)反応液中の濃度としては、(B)ポリアルキレングリコールの量などによって決定されうるが、たとえば、0.01~10μM、好ましくは0.1~1μMが挙げられる。
【0018】
[1-2.(B)ポリアルキレングリコール]
本発明に用いられる(B)ポリアルキレングリコールは、(A)RNAポリメラーゼの基質特異性を変化させるために用いられる。好ましくは、(B)ポリアルキレングリコールは、(A)RNAポリメラーゼの基質特異性を可逆的に変化させるために用いられる。(B)ポリアルキレングリコールは、下記式(I)で表される化合物である。
【0019】
【化1】
【0020】
式(I)中、nは整数でアルキレンオキサイド単位の付加モル数を表し、Rはアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数は、好ましくは2又は3、より好ましくは2である。つまり、(B)ポリアルキレングリコールとしては、好ましくはポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールが挙げられ、より好ましくはポリエチレングリコールが挙げられる。(B)ポリアルキレングリコールは、1種単独で用いられてもよいし、複数種の組み合わせで用いられてもよい。付加モル数nとしては、例えば2~50、好ましくは3~20が挙げられる。
【0021】
(B)ポリアルキレングリコールの平均分子量は、10~1000である。平均分子量は、ピリジン無水フタル酸法にて測定された水酸基の濃度(JIS K1557に準拠)から計算される。平均分子量が10以上であることにより、(i)反応液中で所定高濃度で存在させた場合には、RNAポリメラーゼの(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を獲得させることができ、好ましくは、RNAポリメラーゼの(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を獲得させるとともに、(C2)リボヌクレオチドに対する基質特異性は本来的な基質特異性よりも低くすることができる一方で、(ii)反応液中で所定低濃度で存在させた場合には、RNAポリメラーゼの(C2)リボヌクレオチドに対する本来的な基質特異性を生じさせることができ、好ましくは、RNAポリメラーゼの(C2)リボヌクレオチドに対する本来的な基質特異性を生じさせるとともに、(C1)に対する基質特異性は低くすることができる。平均分子量が1000以下であることにより、(i)反応液中で所定高濃度で存在させても、RNAポリメラーゼの変性及び凝集を防止することができる。これらの効果をより良好に得る観点から、ポリアルキレングリコールの平均分子量としては、好ましくは50~800、より好ましくは50~400、さらに好ましくは100~300、一層好ましくは150~250が挙げられる。
【0022】
(B)ポリアルキレングリコールは、(i)反応液中、所定高濃度で含有される。本明細書において所定高濃度とは、具体的には(i)溶液中10重量%以上の濃度をいう。これによって、(i)反応液中でRNAポリメラーゼの(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を獲得させることができ、好ましくは、RNAポリメラーゼの(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を獲得させるとともに、(C2)リボヌクレオチドに対する基質特異性は本来的な基質特異性よりも低くすることができる。このような効果をより良好に得る観点で、(B)ポリアルキレングリコールの(i)反応液中の濃度は、好ましくは12重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは18重量%以上であってもよい。(B)ポリアルキレングリコールの(i)反応液中の濃度の上限は特に限定されないが、たとえばRNAポリメラーゼの変性及び凝集を防止やすくする観点から、例えば40重量%以下、好ましくは35重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下であってよい。
【0023】
[1-3.(C1)2’-修飾リボヌクレオチド]
(C1)2’-修飾リボヌクレオチドは、(i)反応液中において基質として用いられる。(C1)2’-修飾リボヌクレオチドは、(A)RNAポリメラーゼの本来的な基質ではない。(C1)2’-修飾リボヌクレオチドは、リボースの2’位に修飾基を有するリボヌクレオシドの5’-リン酸エステルをいう。具体的には、(C1)2’-修飾リボヌクレオチドは、2’-ハロゲン化リボヌクレオチド及び2’-アルコキシリボヌクレオチドからなる群から選択される。
【0024】
2’-ハロゲン化リボヌクレオチドとしては特に限定されず、たとえば化学的安定性(生分解耐性)、細胞膜透過性、分子認識性の向上などの目的で核酸医薬の用途において有効とされているものを当業者が適宜選択することができる。例えば、2’-ハロゲン化リボヌクレオチドとしては、2’-フッ化リボヌクレオチド、2’-塩化リボヌクレオチド、2’-臭化リボヌクレオチド、及び2’-ヨウ化リボヌクレオチドが挙げられ、基質特異性等の観点から、好ましくはフッ化リボヌクレオチドが挙げられる。
【0025】
2’-アルコキシリボヌクレオチドとしては特に限定されず、たとえば化学的安定性(生分解耐性)、細胞膜透過性、分子認識性の向上などの目的で核酸医薬の用途において有効とされているものを当業者が適宜選択することができる。2’-アルコキシリボヌクレオチドにおける2’-アルコキシ基の炭素数としては、基質特異性等の観点から、たとえば1~3、好ましくは1及び2、より好ましくは1が挙げられる。
【0026】
(C1)2’-修飾リボヌクレオチドの核酸塩基としては特に限定されず、鋳型核酸に相補的となる核酸塩基が適宜選択される。具体的には、アデニン、チミン、グアニン、ウラシル、シトシンなどが挙げられる。
【0027】
(C1)2’-修飾リボヌクレオチドは、一種が単独で用いられてもよいし、修飾基が異なる複数種が組み合されて用いられてもよいし、塩基が異なる複数種が組み合されて用いられてもよいし、修飾基も塩基も異なる複数種が組み合わされて用いられてもよい。
【0028】
(C1)2’-修飾リボヌクレオチドの(i)反応液中の濃度としては、たとえば、5~100μM、好ましくは10~50μMが挙げられる。
【0029】
[1-4.(D)鋳型核酸]
(D)鋳型核酸としては特に限定されず、任意の起源、塩基長、及び配列等が選択される。また、一本鎖及び二本鎖を問わず、DNA及びRNAも問わない。たとえば、生物のゲノムDNA、ゲノムRNA等のゲノム核酸;当該ゲノム核酸を物理的手段又は制限酵素消化により切断した核酸断片;核酸断片を、プラスミド、ファージ等のベクターに挿入した核酸構築物;核酸を含む可能性のある試料から単離した核酸;核酸自動合成機等を使用して合成された合成核酸などが挙げられる。
【0030】
本発明の核酸合成法では、RNAポリメラーゼを用いるにも関わらず、(E)プライマーを用いることによって(D)鋳型核酸にプロモータ配列を含まなくても核酸合成を開始することができる。したがって、本発明の核酸合成法により得るべき産物の5’末端の配列の自由度を獲得する観点から、(i)反応液に(E)プライマーを含ませて、(D)鋳型核酸がプロモータ配列を含まないことが好ましい。プロモータ配列は、RNAポリメラーゼのプロモータ配列であり、(i)反応液中で共に用いられる(A)RNAポリメラーゼに対応した配列をいう。たとえば、(i)反応液中で(A)RNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いる場合は、T7プロモータをいう。
【0031】
(D)鋳型核酸の核酸長としては特に限定されず、本発明の核酸合成法により得るべき産物の核酸長に応じて当業者が適宜決定することができる。たとえば、核酸医薬を産物として得る場合などにおいては、(D)鋳型核酸の長さとしては、例えば20~110mer、好ましくは20~70merが挙げられる。また、(E)プライマーを用いる場合は、(E)プライマーの長さよりも長ければよく、例えば21~110mer、好ましくは21~70merが挙げられる。
【0032】
(D)鋳型核酸の(i)反応液中の濃度としては、たとえば、0.01~10μM、好ましくは0.1~1μMが挙げられる。
【0033】
[1-5.(E)プライマー]
本発明の核酸合成法においては、RNAポリメラーゼを用いるにも関わらず、産物の5’末端の配列の自由度を獲得する観点から、本来的にRNAポリメラーゼとは共に用いられない(E)プライマーを用いることが好ましい。本発明の核酸合成法では(E)プライマーの3’末端から核酸伸長させるため、(E)プライマーは、本発明による産物の一部を構成する。
【0034】
(E)プライマーは、(D)鋳型核酸の一部と相補的な配列を有する。当該相補的な配列の5’末端は、(D)鋳型核酸上の任意の位置(但し(C1)2’-修飾リボヌクレオチドを相補結合すべき位置よりも3’末端側)、好ましくは(D)鋳型核酸上の3’末端の位置に対応し、当該相補的な配列の3’末端は、(D)鋳型核酸上の(C1)2’-修飾リボヌクレオチドを相補結合すべき位置よりも3’末端側、好ましくは(D)鋳型核酸上の(C1)2’-修飾リボヌクレオチドを相補結合すべき位置の3’末端側の隣接位置に対応する。プライマーの配列設計は、(D)鋳型核酸の配列を予め調査して決定することができる。(D)鋳型核酸の塩基配列の調査には、GeneBank、EBI等のデータベースを用いることができる。
【0035】
(E)プライマーは、ホスホアミダイト法等による化学合成や、(D)鋳型核酸の相補核酸の制限酵素消化によって得てよい。(E)プライマーの塩基長は、(D)鋳型核酸を特異的に認識する程度に短すぎず、且つ、非特異的反応を誘発しない程度に長すぎない長さが当業者によって適宜選択される。(E)プライマーの長さは、GC含量等の(D)鋳型核酸の配列情報、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定することができるが、たとえば20~50merが挙げられる。
【0036】
(E)プライマーは、上述の基本的な相補的配列を有していれば、得るべき産物に応じて自由に設計することができる。たとえば、(E)プライマーは、DNAであってもよいしRNAであってもよいし、DNAとRNAの混合配列でもよい。また、(E)プライマーは、5’末端に修飾基を有してもよい。修飾基としては特に限定されず、たとえば、シグナル基及び反応性官能基などが挙げられる。
【0037】
シグナル基としては、たとえば、蛍光物質、放射性元素含有物質、磁性物質等に由来する基が挙げられる。検出容易性等の観点から、上述のシグナル物質としては蛍光物質であることが好ましい。蛍光物質としては、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素などのシアニン系色素、ローダミン系色素などの蛍光色素;GFPなどの蛍光タンパク質;金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子などが挙げられる。上述の放射性元素含有物質としては、18Fなどの放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸などが挙げられる。上述の磁性物質としては、フェリクロームなどの磁性体、フェライトナノ粒子、ナノ磁性粒子などが挙げられる。
【0038】
反応性官能基としては、本発明の核酸合成法によって得られた産物を化学修飾等に付す場合に、修飾試薬と化学反応可能な共有結合性基が挙げられる。より具体的には、反応性官能基としては、アミノ基、チオール基などが挙げられる。
【0039】
(E)プライマーの(i)反応液中の濃度としては、(D)鋳型核酸の濃度などにより決定しうるが、たとえば、0.01~10μM、好ましくは0.1~1μMが挙げられる。
【0040】
[1-6.他の成分]
(i)反応液は、上述の成分を緩衝液中に含む。緩衝液としては、一般的には、適当な緩衝成分およびマグネシウム塩等を水中に含む溶液が挙げられる。緩衝成分としては、トリス酢酸、トリス塩酸、リン酸ナトリウム、及びリン酸カルシウム等のリン酸塩等が挙げられる。緩衝成分の最終濃度としては5mM~100mM、pHとしてはpH6.0~9.5、より好ましくはpH7.0~8.0が挙げられる。また、マグネシウム塩としては塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。更に、必要に応じて、KCl等のカリウム塩、DMSO、ベタイン、ゼラチン、Triton等の界面活性剤等が含まれていてよい。
【0041】
(i)反応液中には、基質としてさらにデオキシリボヌクレオチドも含んでよい。(i)反応液中の(A)RNAポリメラーゼは、(A)RNAポリメラーゼの本来の基質ではないデオキシリボヌクレオチドに対しても基質特異性を有するため、産物中の構成塩基として組み込むことができる。
【0042】
[1-7.(i)反応液中での修飾核酸の合成]
(i)反応液は、例えば10~45℃、好ましくは20~37℃で、2~48時間、好ましくは12~24時間の条件に供されることによって、(D)鋳型核酸に相補的な修飾核酸を合成することができる。(E)プライマーを用いて合成する場合は、(E)プライマーの3’末端から修飾核酸が伸長する。(i)反応液中で合成される修飾核酸の塩基長(つまり(i)反応液中で1個の(A)RNAポリメラーゼに取り込ませる基質の数)は、たとえば1以上、好ましくは1~50であってよく、基質である(C1)2’-修飾リボヌクレオチドの濃度や反応時間によって適宜調整される。
【0043】
[1-8.(ii)反応液の調製]
本発明では、(i)反応液中で合成された修飾核酸から、さらにRNAを伸長させることができる。この場合、(i)反応液から(ii)反応液を調製する。(ii)反応液は、(i)反応液中に存在していた(A)RNAポリメラーゼ及び(D)鋳型核酸と、基質として(C2)リボヌクレオチドを含む。また、(ii)反応液中では、(B)ポリアルキレングリコールの濃度が5重量%以下の低濃度となるように希釈されている。これによって、(i)反応液中で(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を獲得した状態にあった(A)RNAポリメラーゼを、当該基質特異性を失わせ、本来の基質特異性つまり(C2)リボヌクレオチドに対する基質特異性を有する状態に回復させることができる。このような回復効果をより好ましく生じさせる観点から、(ii)反応液中の(B)ポリアルキレングリコールの濃度は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下であってもよい。さらに、(ii)反応液のpHは、(i)反応液中で合成された修飾核酸と(D)鋳型核酸との相補的結合状態を維持するために、pH7.0~8.0であることが好ましい。
【0044】
(i)反応液から(ii)反応液を調製する方法としては特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。例えば、(B)ポリアルキレングリコールを含まず(C2)リボヌクレオチドを希釈用の緩衝液中に含む調製用液を用意し、修飾核酸が合成された後の(i)反応液と混合することによって、(ii)反応液を調製することができる。緩衝液としては、上述と同様の緩衝液が用いられる。なお、(ii)反応液調製において、修飾核酸が合成された後の(i)反応液から未反応の(E)プライマーは除去する必要はなく、(ii)反応液中に引き続いて混在させてもよい。
【0045】
また、(D)鋳型核酸を予め固相担体に固定化された状態で用意して(i)反応液中で反応を行い、反応後、固相担体を取り出して上述の調製用液と混合することによって(ii)反応液を調製することもできる。固相担体の素材としては特に限定されず、たとえば、ガラス、金属、高分子ポリマー(たとえばポリスチレン等)等が挙げられる。固相担体の形状としても特に限定されず、板状(基板担体)、粒子状(ビーズ担体)などが挙げられる。好ましくは、ポリスチレン等の高分子ポリマーで構成されたビーズ担体が挙げられる。また、固相担体と(D)鋳型核酸との固定態様としても特に限定されず、共有結合及び非共有結合を問わないが、例えば、固相担体に(D)鋳型核酸を結合させる固定化条件が(D)鋳型核酸への影響が無く、操作が容易である等の観点から非共有結合であることが好ましく、さらに強い結合力も得る等の観点から、ビオチン-アビジン類(例えば、アビジン、ストレプトアビジン等)の結合であることが好ましい。(D)鋳型核酸を固相担体に固定化する方法としては、3’末端にビオチニル基などの固定化用官能基が付された(D)鋳型核酸と、表面にアビジン等の固定化用物質又は固定化用官能基が化学結合された固相担体と、を緩衝液中で混合する方法が挙げられる。
【0046】
[1-9.(ii)反応液中でのRNAの合成]
(ii)反応液中では、(B)ポリアルキレングリコールの濃度が5重量%以下に希釈されることで、(i)反応液中で獲得した(C1)2’-修飾リボヌクレオチドに対する基質特異性を失い、(A)RNAポリメラーゼの本来の基質特異性を回復する。従って、本来の基質特異性を回復した(A)RNAポリメラーゼは、(ii)反応中の本来の基質である(C2)リボヌクレオチドを取り込むことができるようになる。従って、(ii)反応液を、例えば10~45℃、好ましくは20~37℃で2~48時間、好ましくは12~24時間の条件に供することによって、修飾核酸の3’末端から(D)鋳型核酸に相補的なRNAを伸長することができる。これによって、合成産物としてRNA鎖の一部に修飾基を有するハイブリッド型RNAを合成することができる。
【0047】
なお、図示されないが、(ii)反応液中でRNA伸長をある程度まで(具体的には(D)鋳型核酸の5’末端の位置まで伸長が至る前まで)行った後に、さらに(B)ポリアルキレングリコールと、必要に応じて非本来的な基質としての(C1)2’-修飾リボヌクレオチド及び/又はデオキシリボヌクレオチドと、を反応液(ii)に加えてもよい。この場合、(B)ポリアルキレングリコールを再び10重量%以上の濃度に上昇させることで、(i)反応液と同様に(A)RNAポリメラーゼに対し(C1)2’-修飾リボヌクレオチド及び/又はデオキシリボヌクレオチドに対する基質特異性を獲得させることができる。従ってRNA伸長鎖の3’末端からさらに非本来的な基質に由来する核酸塩基を伸長することもできる。このように、(B)ポリアルキレングリコールの濃度を変動させることで(A)RNAポリメラーゼの活性を変化させ、非本来的な基質(2’-修飾リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド)の合成と本来的な基質(リボヌクレオチド)の合成とを交互に行うこともできる。このようにして得られる合成産物は、RNA鎖中の複数個所で非本来的な基質(少なくとも1か所では2’-修飾リボヌクレオチド)に由来の核酸塩基を有するハイブリッド型RNAである。
【0048】
このように、本発明の方法によると、 (A)RNAポリメラーゼの配列を変えることなく、(B)ポリプロピレングリコールの濃度を変動させて反応液中の化学的環境を変化させるという極めて簡便な手法で基質の反応効率を変化させ、単純な試薬の組み合わせで容易にハイブリッド型RNAを合成するうことができる。
【0049】
反応終了後の(ii)反応液中からのハイブリッド型RNAの回収は、(ii)反応液中のpHを上げる等により(D)鋳型核酸とハイブリッド型RNAとの二重鎖を解き、クロマトグラフィーなどでハイブリッド型RNAを分離精製する等によって行うことができる。二重鎖を解くためには、例えばリボヌクレアーゼHなどの酵素を用いることができる。また、分離精製を行うためには、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動等、任意の核酸精製法が挙げられる。(D)鋳型核酸を予め固相担体に固定化させた状態で用いた場合は、二重鎖を解いた後、固液分離によって固相を除去した後、上述の任意の核酸精製法を行うことができる。本発明によって得られるハイブリッド型RNAの核酸長さは用途により異なり得るため特に限定されないが、たとえば数mer~数百mer、具体的には10~100mer、好ましくは10~60mer、より好ましくは10~40merが挙げられる。
【0050】
[1-10.ハイブリッド型RNA]
本発明の核酸合成法により合成されるハイブリッド型RNAは、修飾を有さない場合に比べ、化学的安定性(生分解耐性)、細胞膜透過性、及び/または分子認識性等の点で向上した機能を有する。たとえば細胞内において内因性ヌクレアーゼに対する安定性を有し、相補的ターゲット配列に対し高いアフィニティを示す。特に、ハイブリッド型RNAが2’-フルオロ化された塩基を含んでいると、アフィニティ及び安定性が顕著に向上する。ハイブリッド型RNAは、リボザイム、アプタマー、オリゴヌクレオチド等の核酸医薬として有用である。また、ハイブリッド型RNAは、リサーチツールとしても有用である。したがって、本発明の核酸合成法を用いて様々な配列を有するハイブリッド型RNAを調製して非天然核酸ライブラリを作製することで、非天然型核酸の有用性をスクリーニングすることもできる。
【0051】
[2.核酸合成キット]
本発明の核酸合成キットは、上述の核酸合成法を実施するためのキットであり、(A)RNAポリメラーゼと、(B)ポリアルキレングリコールと、(C1)2’-修飾リボヌクレオチドと、を含む。これらの成分は、(D)鋳型核酸、または(D)鋳型核酸及び(E)プライマーとともに(i)反応液を構築するために用いられる。
【0052】
本発明の核酸合成キットには、上述の核酸合成法を実施するための任意の他の成分が更に含まれていてもよい。更に含まれてよい他の成分としては、(D)鋳型核酸を固定化するための固相担体、リボヌクレアーゼH、(D)鋳型核酸、及び(E)プライマー、並びに、(ii)反応液を構築するための、(B)ポリアルキレングリコールを含まない希釈用の緩衝液、及び(C2)リボヌクレオチド等から1種または複数種が挙げられる。この中でも、少なくとも(D)鋳型核酸を固定化するための固相担体及び/又はリボヌクレアーゼHを含むことが好ましい。なお、核酸合成キットの汎用性を考慮すると、(D)鋳型核酸、及び(E)プライマーは核酸合成キットに含ませずにユーザが用意できるように構成することが好ましい。これによって、ユーザは任意の(D)鋳型核酸及び/又は(E)プライマーを自由に選択し、本発明の核酸合成キットを用いることで、選択された(D)鋳型核酸及び/又は(E)プライマーに応じた所望の修飾核酸を得ることができる。
【0053】
本発明の核酸合成キットにおいて、上述の成分は、それぞれ別個別個に個装されたアイテムの態様で含まれていてよい。あるいは、1個のアイテム中に、上述の成分から選択される複数の成分が混合されていてもよい。固相担体以外については、それぞれ液体状態(たとえば、緩衝液中に成分を溶解させた溶液、グリセロールストック等)又は固体状態(たとえば、結晶、凍結乾燥物等)であってよい。例えば、(A)RNAポリメラーゼと(B)ポリアルキレングリコールとを混合溶液として1個のアイテムを構成することができる。(A) RNAポリメラーゼの安定性を考慮すると、別個のアイテムとして構成することが好ましい。
【0054】
(B)ポリアルキレングリコールを含むアイテムは通常液体状態(ポリアルキレングリコール溶液)である。当該ポリアルキレングリコール溶液中の(B)ポリアルキレングリコールの濃度は、本発明の核酸合成キット使用に際し他の成分と混合されて(i)反応液を構築した時に、当該(i)反応液中で(B)ポリアルキレングリコールの濃度を容易に所定濃度(10重量%以上)とすることができるように調整されている。たとえば、ポリアルキレングリコール溶液中では、(B)ポリアルキレングリコールの濃度が、(i)反応液中で設定される所定濃度の2倍の濃度であってよい。この場合、他の成分を含む同体積量の液体と混合することで、所定濃度の(B)ポリアルキレングリコールを含む(i)反応液を容易に調製することができる。
【0055】
また、(ii)反応液を構築するための、(B)ポリアルキレングリコールを含まない希釈用の緩衝液と(C2)リボヌクレオチドとは、それぞれ別アイテムとしてキットに含まれていてもよいし、両成分が混合された1個のアイテム(調製用液)としてキットに含まれていてもよい。この場合、ユーザは、(i)反応液に(B)ポリアルキレングリコールを含まない希釈用の緩衝液と(C2)リボヌクレオチドとを加えることによって、(B)ポリアルキレングリコールが所定濃度(好ましくは5重量%以下)に希釈された(ii)反応液を容易に調製することができる。
【0056】
本発明の核酸合成キットに含まれる、又は含まれてよい上記の(A)RNAポリメラーゼ、(B)ポリアルキレングリコール、(C1)2’-修飾リボヌクレオチド、(D)鋳型核酸、(E)プライマー、(C2)リボヌクレオチド、固相担体、リボヌクレアーゼH、緩衝液、調整用液の詳細及び使用方法については、上述の「1.核酸合成法」で記載した通りである。
【実施例
【0057】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0058】
[試薬]
RNAポリメラーゼについては、T7 RNAPはタカラバイオ株式会社から購入し、KFはニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社から購入し、tC9YはPCR増幅によりDNAからin vitro転写することで調製した。
EG、PEG200、及びPEG8000は和光純薬工業株式会社から購入し、精製せずに用いた。 2’-F NTPs、及び2’-OMe NTPsはTrilink社から購入した。
NTP溶液はサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、dNTP溶液は東洋紡株式会社から購入した。
鋳型RNA鎖はin vitroでDNA鎖を鋳型としたin vitro転写法によって得た。すべてのDNAはHPLCグレードのものをユーロフィンジェノミクス株式会社より購入した。
FITC標識プライマーは株式会社日本バイオサービスから購入した。
その他の試薬は和光純薬工業株式会社から購入した。
【0059】
[試験例1:異なるRNAポリメラーゼ及び異なる濃度のPEG200を用いた核酸合成]
リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)、T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)、及び大腸菌DNAポリメラーゼ(KF)について、図2に示すように、39merのRNA鎖(5'-GUCAAUGACACGCUUCGCXCGGUUGGCAG(配列番号1))を鋳型に、FITC標識された10merのRNA(5'-CUGUUAACCG(配列番号2))をプライマーに用い、プライマー伸長アッセイを行った。なお、鋳型の名称(鋳型X)は、鋳型配列中の塩基Xに対応する。すなわち、鋳型配列中の塩基XがA(アデニン)であれば、鋳型の名称は鋳型Aとする。
【0060】
ポリメラーゼ(0.5μM)を、0~20重量%のポリエチレングリコール200(PEG200、平均分子量200)、0.5μMのFITC標識されたRNAプライマー(鋳型に相補的)、0.5μMのRNA鋳型A、並びに50mM Tris-HCl(pH8.0)及び10mMのMgCl2中100μMのNTPs又はdNTPsとともに25℃で12時間インキュベートした。生成物に、5μLのローディング溶液(3xローディングダイ)、125mMのEDTA、4.8Mの尿素及び2.6ng/μLの競合鋳型を加え、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(変性PAGE)を用いて分離した。伸長したプライマー及び未反応のプライマーにそれぞれ相当するバンドを、蛍光強度を測定することにより定量した。
【0061】
図3に結果を示す。図3(a)及び図3(b)は、それぞれ、リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)を用いた場合の変性PAGEゲル電気泳動写真、及びPEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフを示す。
【0062】
図3(c)及び図3(d)は、それぞれ、T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)を用いた場合の変性PAGEゲル電気泳動写真、及びPEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフを示す。図3(e)及び図3(f)は、それぞれ、大腸菌DNAポリメラーゼ(KF)を用いた場合の変性PAGEゲル電気泳動写真、及びPEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフを示す。なお、PAGE分析において、それぞれのレーンにおける条件は、レーン1が未反応プライマー、レーン2がNTPs及び0重量%のPEG200、レーン3がNTPs及び5重量%のPEG200、レーン4がNTPs及び10重量%のPEG200、レーン5がNTPs及び15重量%のPEG200、レーン6がNTPs及び20重量%のPEG200、レーン7がdNTPs及び0重量%のPEG200、レーン8がdNTPs及び5重量%のPEG200、レーン9がdNTPs及び10重量%のPEG200、レーン10がdNTPs及び15重量%のPEG200、レーン11がdNTPs及び20重量%のPEG200、及びレーン12が未反応プライマーである。さらに、生成物のバンド位置(n+1、2、3、4、5、6:nはプライマー塩基長を表す。)も示した。
【0063】
また、プライマー伸長率は、伸長産物のバンドの蛍光強度(LAU/mm2)を、全検出バンドの総蛍光強度(LAU/mm2)で除することによって導出した。破線で表した折れ線グラフは本来の基質であるNTPを用いた場合、実線で表した折れ線グラフは本来の基質ではないdNTPを用いた場合の結果を示す。データポイントは、T7 RNAPのデータは6サンプルの平均であり、その他のデータは3サンプルの平均(以下、全ての例においても3サンプルの平均)である。誤差は標準偏差を表す。
【0064】
図3(a)及び図3(b)が示すように、リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)によるRNA依存的RNA合成は、バッファー中にPEG200を含まない場合には不十分であり、わずか3.3%のプライマーが伸長したのみであった。PEG200存在下で反応は明らかに促進され、プライマー伸長画分はPEG200の濃度上昇に伴い増加した。PEG200が20重量%である場合、87%のプライマーが伸長され、6個のNTPsの重合に至った。
dNTPsを基質として用いた場合は、PEG200を含まない場合は僅かな伸長が観察されたのみであった。dNTPsの伸長は、20重量%のPEG200を含む場合に促進され、82%のプライマーが伸長した。
このように、リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)では、PEG200の濃度上昇に伴ってdNTPs及びNTPsのいずれも同様に重合効率が上昇した。(なお、PEG200の代わりにエチレングリコールを用いて同様に試験すると、PEG200を用いた場合に比べてプライマーの伸長度は低くなり、PEG200の代わりにPEG8000を用いて同様に試験すると、NTPs及びdNTPsいずれを基質に用いてもPEG200を用いた場合に匹敵する程度にプライマー伸長を促進したことを別途確認した。)加えて、PEGはRNAへリックスの安定性を低下させ、プライマー伸長の効率を下げる。こうして、リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)は分子環境に依存した効率でRNA及びDNAの両方を合成する。
【0065】
図3(c)及び図3(d)が示すように、T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)を用いたプライマー伸長については、PEG200が含まれていない場合は45%のプライマーがNTPsを基質として伸長し、4個以上のNTPsが重合された。10重量%のPEG200存在下では、プライマー伸長率はPEG200が含まれていない場合と同等であった。20重量%のPEG200存在下では、わずか23%のプライマーが伸長されたのみであった。これに対し、基質dNTPに関しては、プライマーの伸長画分はPEG200の濃度上昇とともに増加した。PEG200が含まれていない場合はわずか13%のプライマーが伸長されたのみであったが、20重量%のPEG200存在下では、69%のプライマーが伸長された。(PEG200によりRNA合成が抑制されDNA合成が促進されたことは、PEG200の、T7 RNAポリメラーゼのコンホメーションに対する影響、T7 RNAポリメラーゼ、プライマー、鋳型核酸、及び核酸からなる複合体の解離、及び/又は基質特異性の変化に起因すると考えられる。なお、PEG200がT7 RNAポリメラーゼを変性しないことを、円偏光二色性分析により別途確認した。さらに、反応開始前にT7 RNAポリメラーゼをPEG200存在下でプレインキュベーションしても、生成物が変わらないことも別途確認した。これらの結果から、PEG200が基質特異性に重要な影響を与えていると考えられる。)
【0066】
図3(e)及び図3(f)が示すように、大腸菌DNAポリメラーゼ(KF)によるRNAプライマーからのRNA依存的DNA伸長は、PEG200により促進された。PEG200が含まれていない場合は67%のプライマーがdNTPsを基質として伸長した。20重量%のPEG200存在下では、93%のプライマーが伸長した。一方で、PEG200がどのような条件でもNTPsの伸長は観察されなかった。
【0067】
[試験例2:付加モル数が異なるPEG(又はEG)を用いた核酸合成]
T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)について、0~20重量%のポリエチレングリコール200の代わりに、0~20重量%のエチレングリコール(EG)又は0~20重量%のポリエチレングリコール8000(PEG8000、平均分子量8000)を用いたことを除き、試験例1と同様にプライマー伸長を行った。つまり、 T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)(0.5μM)を、0~20重量%のEG又は0~20重量%のPEH8000、0.5μMのFITC標識されたRNAプライマー(鋳型に相補的)、0.5μMのRNA鋳型A、並びに50mM Tris-HCl(pH8.0)及び10mMのMgCl2中100μMのNTPs又はdNTPsとともに25℃で12時間インキュベートした。得られた生成物を試験例1と同様に変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(変性PAGE)を用いて分離し、伸長したプライマー及び未反応のプライマーにそれぞれ相当するバンドを、蛍光強度を測定することにより定量した。
【0068】
図4に結果を示す。図4(a)は、試験例1で得られた図3で示したPEG200の含有量に対するプライマー伸長率のグラフ、図4(b)は、本試験例で得られたEGの含有量に対するプライマー伸長率のグラフ、図4(c)は、本試験例で得られたPEG8000の含有量に対するプライマー伸長率のグラフを示す。いずれも、破線で表した折れ線グラフは本来の基質であるNTPを用いた場合、実線で表した折れ線グラフは本来の基質ではないdNTPを用いた場合の結果を示す。
【0069】
図4(b)が示すように、EGを用いた場合は含有量の上昇と共にNTPs及びdNTPsいずれについてもプライマー伸長を促進した。一方、図4(c)が示すように、PEG8000を用いた場合は、NTPs及びdNTPsいずれについてもプライマー伸長が抑制された。この結果から、PEG8000がT7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)を変性又は凝集させたことが考えられる。
(なお、このように示されたPEGの分子量の違いによる影響が、リボザイム型ポリメラーゼ(tC9Y)よりもT7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)のほうがより強く出ることを別途確認した。)
【0070】
[実施例1:2’-フッ化リボヌクレオチドを基質に用いた核酸合成]
図5に示すように、T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)、鋳型A及びFITC標識されたプライマーを用い、基質に2’-フッ化リボヌクレオチド(2’-F UTP、又は2’-F TTP)を用いて、試験例1と同様にプライマー伸長アッセイを行った。
【0071】
T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)(0.5μM)を、20重量%のポリエチレングリコール200、0.5μMのFITC標識されたRNAプライマー(鋳型に相補的)、0.5μMのRNA鋳型A、並びに50mM Tris-HCl(pH8.0)及び10mMのMgCl2中100μMの2’-F UTP又は2’-F TTPとともに25℃で12時間インキュベートした。試験例1と同様に、生成物は、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(変性PAGE)を用いて分離し、伸長したプライマー及び未反応のプライマーにそれぞれ相当するバンドを、蛍光強度を測定することにより定量した。
【0072】
図6に結果を示す。図6においては、基質に2’-F UTP又は2’-F TTPを用いた本試験例で得られた結果とともに、基質にdTTPを用いた試験例1で得られた結果(比較用)も併記する。図6(a)及び図6(b)は、それぞれ、基質ごとの変性PAGEゲル電気泳動写真、及び基質ごとのプライマー伸長率のグラフを示す。なお、PAGE分析において、それぞれのレーンにおける条件は、左レーンが反応前(比較用)、真ん中レーンがPEG200不含(比較用)、右レーンが20重量%のPEG200含有である。
【0073】
図6に示すように、2’-F UTP及び2’-F TTP共に、20重量%のPEG200によってプライマー伸長が促進された。このうちでも、DNAのカノニカルな塩基であるチミジンを有する2’-F TTPのほうが、伸長効率が良好であった。
【0074】
[実施例2:異なる2’-修飾リボヌクレオチドを基質に用い、異なる鋳型核酸を用いた核酸合成]
図7に示すように、T7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAP)、鋳型核酸(鋳型U、鋳型G、鋳型C又は鋳型A)及びFITC標識されたプライマーを用い、基質に2’-フッ化リボヌクレオチド(2’-F NTPs)又は2’-メトキシリボヌクレオチド(2’-OMe NTPs)を用いて、実施例1と同様にプライマー伸長アッセイを行った。また、参考または比較用に、基質として非修飾NTPs又はdNTPsを用いて同様にプライマー伸長アッセイを行った。
【0075】
図8に結果を示す。図8は、基質ごとのプライマー伸長率のグラフを示す。図8が示すように、非修飾UTP以外の非修飾NTPsを基質に用いた場合(比較用)は、20重量%のPEGによる伸長向上効果はほとんど見られなかったが、基質としてdNTPsを用いた場合(参考用)及び2’-修飾NTPs(2’-F NTPs及び2’-OMe NTPs)を用いた場合は、20重量%のPEGによる伸長向上効果が得られた。特に、基質に2’-F CTP、2’-OMe CTP、dGTP、2’-F GTP、2’-OMe GTP、dUTP、2’-OMe UTP、dTTP又は2’-F TTPを基質に用いた場合には、PEGを含ませない場合(比較用)と比べてポリマー伸長度が2倍以上であった。これらのデータから、T7 RNAポリメラーゼは、いずれの鋳型核酸に対しても反応液中の分子環境を単純に変えるだけで2’-修飾NTPsを取り込めるようになることが示された。
【0076】
[実施例3:ハイブリッド型RNA(キメラ核酸)の合成]
図9に示すように、20重量%のPEG存在下、T7 RNAポリメラーゼ、鋳型A及びFITC標識されたプライマーを用い、基質に2’-フッ化リボヌクレオチド(2’-F UTP、又は2’-F TTP)を用いて実施例1と同じプライマー伸長を行うことで修飾核酸合成を行い(1st step)、その後、NTPs溶液を加えて5倍希釈することで、PEGの濃度が4重量%に希釈され且つ基質としてNTPsを新たに含む反応液を調製し、調製された反応液中でプライマー伸長反応を続行することで天然核酸合成を行った(2nd step)。
【0077】
図10に結果を示す。図10(a)及び図10(b)は、それぞれ、1st stepで用いた基質ごとの変性PAGEゲル電気泳動写真、及び、1st stepで用いた基質ごとのプライマー伸長率又はRNA伸長率のグラフを示す。なお、PAGE分析において、それぞれのレーンにおける条件は、左レーンが1st step後、右レーンが2nd step後である。
【0078】
図10が示すように、1st stepではT7 RNAポリメラーゼの本来の基質ではないdTTP(参考用)、2’-F UTP及び2’-F TTPを伸長することで修飾核酸を合成した一方、2nd stepでは本来の基質であるNTPsを伸長することで天然核酸鎖を合成した。このことから、1st stepでは、20重量%のPEGが基質UTPに対して不活性な基質酵素複合体を形成していた一方で、2nd stepではPEG濃度を4重量%に希釈したことで、当該不活性な基質酵素複合体が変化して基質UTPに対して活性化され、基質UTPの取り込みが進行した。さらに、2nd stepにおけるRNA伸長の間、1st stepで形成されたような不活性な基質酵素複合体は形成されず、天然核酸鎖が伸長した。このようにして、T7 RNAポリメラーゼでは本来的に合成できない2’-F NTPsを含むキメラRNA(5'-FITC-CUGCCAACCGNGCGAAGCGUGUCAUUGAC-3'(配列番号3);配列中、Nは2’-フッ化塩基を表す。)を、同一のT7 RNAポリメラーゼを用いて得ることができた。
【0079】
なお、2nd stepを行うまでに1st stepでの未反応プライマーは除去しなかった。しかしながら、dTTP(参考用)及び2’-F TTPいずれを基質に用いた場合も、一塩基が伸長した核酸のバンドは、1st stepで得られた生成物におけるよりも2nd stepで得られた生成物において明らかに減少したことを確認した。この結果から、2nd stepで引き続いて伸長される天然核酸鎖は、本来の基質ではないデオキシリボヌクレオチド又は2’-修飾リボヌクレオチドから伸長することが示された。
【0080】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号1は、合成核酸であり、19番目の塩基はA、C、G、又はUである。
配列番号2は、合成核酸である。
配列番号3は、合成核酸であり、11番目の塩基はA、C、G、又はUであり、11番目のヌクレオチドは2’-フルオロリボヌクレオチドである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
0007016511000001.app