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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】下水道本管補修方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 63/34 20060101AFI20220131BHJP
【FI】
B29C63/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017159909
(22)【出願日】2017-08-23
(65)【公開番号】P2019038128
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-207663(JP,A)
【文献】特開平06-297574(JP,A)
【文献】特開2007-176096(JP,A)
【文献】特開2017-154450(JP,A)
【文献】特開平1-188326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00-63/48
F16L 1/00- 7/02
E03F 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付管が接続された下水道本管の内面をライニングすることにより下水道本管を補修する下水道本管補修方法であって、
前記下水道本管と前記取付管との接続部における前記取付管の開口部を覆うことが可能な大きさを有し、且つ光硬化性を有するライニング材の未硬化状態よりも硬い硬さを有するシート部材を前記下水道本管内に導入するシート部材導入工程と、
前記下水道本管に管状の前記ライニング材を未硬化状態で導入するライニング材導入工程と、
前記ライニング材の外周面を空気圧で前記下水道本管の内周面側に押し当てる押当工程と、
前記押し当てられた状態で光照射することにより前記ライニング材を硬化する硬化工程と、
を含み、
前記押当工程は、前記下水道本管と前記取付管との接続部において前記ライニング材と前記下水道本管との間において、前記シート部材が前記取付管の開口部を覆うように配置された状態で行うことを特徴とする下水道本管補修方法。
【請求項2】
前記シート部材及び前記ライニング材を組み合わせた状態で前記下水道本管に導入することにより、前記シート部材導入工程及び前記ライニング材導入工程を同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シート部材導入工程及び前記ライニング材導入工程を別に行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シート部材は、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンからなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記シート部材の厚さが0.2~0.4mmであり、前記シート部材の曲げ弾性率が800~4000N/mmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水管が老朽化した場合等に、管内面をライニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水管等の既設管は長年の使用により劣化し、耐用年数を超えた既設管は年々増加している。特に、老朽化した下水管は変形や亀裂等が生じており、下水の流下機能が低下するだけでなく、下水管周囲の地下水や土砂が下水管内に流入することによって地中に空洞が生じることから地面陥没の原因になる。また、地中に埋設される下水管は地震等の地盤変動による影響を受けやすいこともあり、所定の時期に何らかの補修が必要となるのが現状である。
【0003】
下水管は一般に、人孔管に接続された下水道本管と、下水道本管に接続された取付管とを有する。家庭用などの枡に流入した下水は枡に接続された取付管を介して下水道本管に流入する。
【0004】
このような下水道本管と取付管との接続部を含む下水管路の補修方法としては、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1の方法では、下水道本管と取付管の内周面をそれぞれライニング材でライニングする方法が記載されている。ライニング材としては光又は熱で硬化する硬化性樹脂を用いて作られたライニング材が使用される。例えば、下水道本管のライニングは、ライニング材を下水道本管内に導入した後、ライニング材の両端を密閉して形成した密閉空間に空気を供給することでライニング材を下水道本管内面側に押し当て、この状態で光又は熱による硬化作業を行うことにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-225990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、下水道本管用のライニング材の内側に空気を供給してライニング材を断面円形に成形する際、そのライニング材の一部が取付管と上記の接続部において取付管側の空間に押し出されてしまい、その状態で硬化が行われることから、当該部分においてライニング材が取付管側に引き込まれたような歪な形状となってしまう。そうすると、ライニング材による適正な補修効果が得られない恐れがある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、下水道本管と取付管との接続部において下水道本管用のライニング材が、取付管の空間に押し出されることを防止し、ライニング材による適正な補修効果を得ることができる下水道本管補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するため、請求項1に記載の下水道本管補修方法は、
取付管が接続された下水道本管の内面をライニングすることにより下水道本管を補修する下水道本管補修方法であって、
前記下水道本管と前記取付管との接続部における前記取付管の開口部を覆うことが可能な大きさを有し、且つ光硬化性を有するライニング材の未硬化状態よりも硬い硬さを有するシート部材を前記下水道本管内に導入するシート部材導入工程と、
前記下水道本管に管状の前記ライニング材を未硬化状態で導入するライニング材導入工程と、
前記ライニング材の外周面を空気圧で前記下水道本管の内周面側に押し当てる押当工程と、
前記押し当てられた状態で光照射することにより前記ライニング材を硬化する硬化工程と、
を含み、
前記押当工程は、前記下水道本管と前記取付管との接続部において前記ライニング材と前記下水道本管との間において、前記シート部材が前記取付管の開口部を覆うように配置された状態で行うことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、押当工程において、取付管と下水道本管との接続部において、取付管の開口部を覆うようにシート部材が下水道本管とライニング材との間に配置されているので、ライニング材を下水道本管の内面側に押し当てる作業を行ったとしても、ライニング材より硬いシート部材の存在により、ライニング材の一部が取付管の内部に押し出されることを防止することができる。したがって、本発明の方法により形成された硬化されたライニング材は、下水道本管の内周面の形状に沿ったきれいな管形状となる。
【0010】
請求項2に記載の下水道本管補修方法は、前記シート部材及び前記ライニング材を組み合わせた状態で前記下水道本管に導入することにより、前記シート部材導入工程及び前記ライニング材導入工程を同時に行うことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、シート部材とライニング材とを別々に導入する場合よりも導入する作業工程を短時間化することができるので、効率的に本発明の下水道本管補修方法を実施することができる。
【0012】
請求項3に記載の下水道本管補修方法は、前記シート部材導入工程及び前記ライニング材導入工程を別に行うことを特徴とする。この構成によれば、シート部材とライニング材とを組み合わせる場所や作業を必要とせずに本発明の下水道本管補修方法を実施することができる。
【0013】
請求項4に記載の下水道本管補修方法は、前記シート部材は、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンからなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることを特徴とする。これらの材質であれば、押当工程においてライニング材が取付管内への押し出されることを確実に防止することができる。
【0014】
請求項5に記載の下水道本管補修方法は、前記シート部材の厚さが0.2~0.4mmであり、前記シート部材の曲げ弾性率が800~4000N/mmであることを特徴とする。この範囲であれば、押当工程においてライニング材がの取付管内への押し出されることを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、下水道本管と取付管との接続部において下水道本管用のライニング材が、取付管内部の空間に押し出されることを防止し、適正にライニングすることができる管ライニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】下水道本管にシート部材を導入している状況を示す概略図である。
図2】シート部材が導入された状態の断面図(a)とその詳細図(b)である。
図3】下水道本管にライニング材を導入している状況を示す概略図である。
図4】ライニング材が導入された状態を示す断面図である。
図5】押当工程及び硬化工程を示す概略図である。
図6図5の下水道本管部分の断面図である。
図7】本発明の補修方法が完了した状態を示す縦断面図である。
図8図7の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一つの実施形態において、下水道本管にシート部材を導入している状態を示しており、図2(a)は下水道本管内にシート部材が導入された状態の下水道本管部分の断面図である。図示されているように、2つのマンホール100-1、100-2間に下水道本管102が設けられ、マンホール100-1、100-2と下水道本管102は流体連通接続されている。下水道本管102には取付管104が接続されており、家庭用などの枡106に流入した下水は、取付管104を介して下水道本管102に流入することにより下水の排出が行われる。
【0021】
シート部材10は地上からマンホール100-1を介して下水道本管102に導入される。導入作業は、他方のマンホール100-2側の地上に設置された引き込み機49に接続されたワイヤー50によりシート部材10を下水道本管102内に引き込むことにより行われる。シート部材10は帯状の部材であり、その長さはマンホール100-1、100-2間に位置する下水道本管102の長さと同じか若干長く形成される。シート部材10の幅は、下水道本管102と取付管104との接続部における取付管104の開口部104aを覆うことができる幅があればよい。具体的には、下水道本管102における取付管104の接続位置に依存し得る。図2の断面図に示すように、取付管104は一般に下水道本管102の断面の上方向を基準として10~40°の位置に接続されるので、そのような位置に配置される取付管104の開口部を覆うことができる大きさとなるようにシート部材10の幅が決定される。図2に示されているように、シート部材10を導入した状態でシート部材10が取付管104の開口部104aを覆っている。また、図2(b)に示すシート部材10余裕長さL、すなわち、シート部材10の幅方向一端10bから取付管104の内径の最も上に位置する箇所104cの長さは、取付管の内径の1/4の長さよりも長いことが本発明の効果の観点から有利である。
【0022】
シート部材10の材質としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリブテンが挙げられる。シート部材10の厚さは、例えば、0.2~0.4mmであり、曲げ弾性率は800~4000N/mmであることが好ましい。シート部材10の厚さは、シート部材10の硬さや下水道本管102の大きさなどに応じて適宜調節される。
【0023】
次に、ライニング材の導入工程について説明する。図3はライニング材を下水道本管102内に導入している状態を示しており、図4は下水道本管内にライニング材を導入した状態を示す下水道本管部分の断面図である。ライニング材20の導入作業は、シート部材10の導入作業と同じように、地上からライニング材20を引き込んでマンホール100-1を介して下水道本管102内に導入する。ライニング材20は、先に導入されたシート部材10の上(内側)に配置される。
【0024】
使用するライニング材20は従来から使用されているものでよく、ライニング材20の外径が下水道本管102内径と同じかほぼ同じものを使用する。ライニング材20の厚みは適用される下水道本管102の管径に応じて適宜選択することができるが、一般的に3mm~30mmである。一般に、下水道本管102の管径が大きいほど、厚みが大きいライニング材を使用する。配置された状態では、ライニング材20の長さは、下水道本管102の長さよりも若干長い状態とされる。導入時においてライニング材20は未硬化状態にあり、断面円形状態ではなく、折りたたまれた状態とされている。
【0025】
次に、ライニング材20を下水道本管102の内面側に押し当てる押当工程について説明する。図5は、ライニング材20を下水道本管102の内面側に押し当てた状態を示しており、図6はその下水道本管102部分の断面図(照射装置は図示せず)である。図示のように、ライニング材20の一端20aは空気導入管28と接続され、他端20bを閉塞部材で閉塞することにより、ライニング材20の内側に密閉空間200を形成する。その密閉空間200に空気導入管28から空気を供給することにより、導入時の折りたたまれた状態から断面円形状態となり、ライニング材20が下水道本管102の内面側に押し当てられる。密閉空間に導入された空気はライニング材20内を矢印300方向に移動し、ライニング材20の他端20bから排出されつつ、密閉空間200は所定の圧力に保たれる。排出された空気はマンホール100-2上に配置された脱臭装置110により、生成したスチレンなどの有害物質が取り除かれる。
【0026】
そして、下水道本管102と取付管104との接続部において、ライニング材20と下水道本管102との間においてシート部材10が取付管104の開口部104aを覆っている。
【0027】
次に、硬化工程について説明する。図5に示すように、上記の押当工程において、ライニング材20を下水道本管102内面側に押し当てた状態で、硬化作業を行う。硬化作業は従来から行われている方法でよい。ライニング材20が電磁波、特に紫外線などの光により硬化するものの場合、図示されているように、複数のランプ62が直列的に接続されて構成された照射装置60を使用して、硬化するために必要とされる電磁波、特に紫外線などの光を照射することにより未硬化状態のライニング材20を硬化させることができる。照射装置60は矢印400の方向に移動しながら照射を行う。なお、ライニング材20が熱硬化性樹脂を用いて形成されている場合、ライニング材20を加熱することにより硬化することができる。硬化後に管口処理や上記接続部におけるライニング材20の取付管104の開口部に対応する領域を切り取る等の処理が行われる。
【0028】
以上のようにして本発明のライニング方法が終了する。図7は、補修が完了した後の縦断面図であり、図8はその横断面図である。図示のように、下水道本管102と取付管104との接続部分においてライニング材20がきれいに形成されている。本発明によれば、下水道本管102と取付管104との接続部において下水道本管102とライニング材20との間にライニング材20よりも硬いシート部材10を介在させることにより、押当工程の気体供給時に、ライニング材が接続部の取付管内部へ押し出されることを防止することができる。したがって、ライニング材が歪んだ形状で硬化されることはなく、硬化形状のきれいなライニングを行うことが可能となる。
【0029】
上述した実施の形態では、シート部材10とライニング材20とを別々に下水道本管102内に導入する方法を示したがこれに限られず、下水道本管102内に導入する前にシート部材10とライニング材20とを組み合わせて一緒に導入してもよい。この場合には、シート部材10が外側、ライニング材20が内側となるように組み合わせられる。
【符号の説明】
【0030】
10 シート部材
20 ライニング材
100 人孔
102 下水道本管
104 取付管
106 枡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8