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特許7016552組換えタンパク質の分泌を増加させる方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の分泌を増加させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220131BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/78 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220131BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/70 Z
C12N15/78 Z
C12N1/21
C12N15/31
C12N15/62 Z
C12P21/02 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020514221
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 KR2018010466
(87)【国際公開番号】W WO2019050318
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】10-2017-0114813
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0031579
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514260642
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アン ジョン フン
(72)【発明者】
【氏名】ピョン ヒョンジュン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジヨン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/125955(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0007991(KR,A)
【文献】Ryu J et al.,A vector system for ABC transporter-mediated secretion and purification of recombinant proteins in Pseudomonas species,Appl Environ Microbiol.,2015年,81(5),1744-1753.
【文献】Linhartova I et al.,RTX proteins: a highly diverse family secreted by a common mechanism,FEMS Microbiol Rev.,2010年,34(6),1076-1112
【文献】Delepelaire P,Type I secretion in gram-negative bacteria,Biochim Biophys Acta,2004年,1694(1-3),149-161
【文献】Wakeel A et al.,Ehrlichia chaffeensis Tandem Repeat Proteins and Ank200 are Type 1 Secretion System Substrates Related to the Repeats-in-Toxin Exoprotein Family,Front Cell Infect Microbiol,2011年,1: 22
【文献】Bumba L et al.,Calcium-Driven Folding of RTX Domain β-Rolls Ratchets Translocation of RTX Proteins through Type I Secretion Ducts,Mol Cell,2016年,62(1),47-62
【文献】Lawrence MS et al.,Supercharging Proteins Can Impart Unusual Resilience,J Am Chem Soc,2007年,129(33),10110-10112, Supporting Information
【文献】LENDERS MHH et al.,Molecular insights into type I secretion systems,Biological Chemistry,2013年,394 (11),1371-1384
【文献】Choi HJ et al.,Enhanced wound healing by recombinant escherichia coli nissle 1917 via human epidermal growth factor receptor in human intestinal epithelial cells: therapeutic implication using recombinant probiotics,Infection and Immunity,2012年,80(3),1079-1087
【文献】Park Y et al.,Identification of the minimal region in lipase ABC transporter recognition domain of Pseudomonas fluorescens for secretion and fluorescence of green fluorescent protein,Microb Cell Fact.,2012年,11,60
【文献】Eom GT et al.,Efficient extracellular production of type I secretion pathway-dependent Pseudomonas fluorescens lipase in recombinant Escherichia coli by heterologous ABC protein exporters,Biotechnol Lett.,2014年,36(10),2037-2042
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 細菌のタイプ1分泌システム(Type 1 Secretion system、T1SS)のATP結合カセット(ABC)輸送体をコードする核酸配列、
(ii) リパーゼBC送体認識ドメイン(Lipase ABC transporter recognition domain、LARD)をコードする核酸配列および
(iii) 目的タンパク質をコードする核酸配列
が作動可能に連結された発現カセットを含細菌における目的タンパク質の細胞外分泌用発現ベクターであって、
前記細菌は、グラム陰性菌であり、
前記LARDと目的タンパク質は、1から6のpI値を有する融合タンパク質として発現されるものであ
前記融合タンパクは、
a)目的タンパク質に6~20個のアミノ酸からなる酸性ペプチドをコードする核酸配列を付加するか、
b)目的タンパク質中の塩基性アミノ酸の少なくとも1つを欠失させるか、または
c)目的タンパク質を過負電荷化(negatively supercharged)することにより、目的タンパク質をコードする核酸配列を得ることにより、細菌から細胞外に分泌される、
細菌における目的タンパク質の細胞外分泌用発現ベクター
【請求項2】
前記細菌は、タイプ1分泌システム(Type 1 Secretion system、T1SS)のABC輸送体を含む細菌である、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項3】
前記細菌は、シュードモナス(Pseudomonas)属菌株、ディッケヤ(Dickeya)属菌株、大腸菌(Escherichia)属菌株からなる群より選択された少なくとも1つである、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項4】
前記T1SSのABC輸送体は、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)のTliDEF、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)のAprDEF(PaAprDEF)、ディッケヤ・ダダンティー(Dickeya dadantii)のPrtDEF(DdPrtDEF)、または大腸菌(Escherichia coli)のHlyBD+TolCである、請求項に記載の発現ベクター。
【請求項5】
前記酸性ペプチドは、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択された少なくとも1種のアミノ酸からなるものである、請求項に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記酸性ペプチドは、配列番号33(アスパラギン酸 10個;D10)のアミノ酸配列を含むものである、請求項1から5のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項7】
前記酸性ペプチドをコードする核酸配列は、目的タンパク質をコードする核酸配列の3’-末端または5’-末端に位置するものである、請求項1から6のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項8】
前記塩基性アミノ酸は、リシン(lysine)およびアルギニン(arginine)からなる群より選択され、請求項1記載の発現ベクター。
【請求項9】
前記目的タンパク質は、下記の工程を実施して得られた過負電荷化された目的タンパク質である、請求項1から8のいずれか一項に記載の発現ベクター:
目的タンパク質の3次元構造で官能基が外部に突出していて置換されても目的タンパク質の構造に影響を与えないアミノ酸を選別する工程、および
前記選別されたアミノ酸が塩基性ある場合、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択された少なくとも1つのアミノ酸で置換するか、
前記選別されたアミノ酸が酸性ある場合、リシンおよびアルギニンからなる群より選択された少なくとも1つのアミノ酸で置換する手動過電荷化(Manual Supercharging)技法を使用して過負電荷化する工程
【請求項10】
前記リパーゼABC輸送体認識ドメイン(LARD)は、LARD1、LARD2、またはLARD3である、請求項1から9のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項11】
請求項1~10のうちのいずれか一項による発現ベクターを含む、細胞。
【請求項12】
前記細胞は、シュードモナス(Pseudomonas)属菌株、ディッケヤ(Dickeya)属菌株、大腸菌(Escherichia)属菌株からなる群より選択された少なくとも1つである、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
請求項1~10ずれか一項に記載の発現ベクターで形質転換された細胞を製造する工程
前記細胞を培養して分泌ンパク質を生産する工程、および
前記生産された分泌ンパク質を分離または精製する工程を含む、細胞で目的タンパク質を生産する方法。
【請求項14】
請求項1~10ずれか一項のベクターを細胞に挿入する工程を含む、細胞で目的タンパク質の細胞外分泌を増加させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌のType 1 Secretion system(T1SS)を用いて、目的タンパク質の細胞外分泌で目的タンパク質のpI等電点を低めることによって、リパーゼABC輸送体認識ドメイン3(Lipase ABC transporter recognition domain、LARD3)と連結された目的タンパク質の分泌を増加させる方法および目的タンパク質を効率的に生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の大量生産は多様な産業において重要な問題になっている。通常の組換えタンパク質の大量生産方法は、大腸菌(Escherichia coli)のような原核細胞(prokaryotic cell)で組換えタンパク質を合成した後、細胞を溶解し生化学的な方法で得られた細胞抽出物を精製して組換えタンパク質を大量生産した。
【0003】
このような通常の方法に比べて、細胞内で組換えタンパク質の発現と分泌を同時に行うことができるタンパク質生産システムの場合、多くの費用がかかる抽出と精製過程の必要性が減少するので、はるかに効率的且つ経済的な方法である。
【0004】
臨床、産業および学術分野でタンパク質製品に対する需要が増加するにつれて微生物からタンパク質を効率的に大量生産する方法が開発されている。タンパク質大量生産方法中の一部は微生物を操作して生産されたタンパク質をリフォールドする(refold)過程と細胞から抽出されたタンパク質から目的タンパク質を分離するために集中的にタンパク質を精製する必要がないようにするために、微生物が培養液で目的タンパク質を生産し細胞外に分泌するようにする。
【0005】
微生物を操作して生産しようとするタンパク質を培養液に分泌するようにすれば所望のタンパク質を微生物を破壊せずに得ることができるので、遺伝子操作微生物を用いた現在商用化されたタンパク質生産システムと比較してこのような方法は微生物を破壊しないため微生物の固有タンパク質によるタンパク質生産品汚染を最小化することができ、これにより精製過程で消耗される費用を画期的に減らすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細菌のType 1 Secretion system(T1SS)を用いたタンパク質の分泌有無を決定する要素を新しく明らかにすることによって、LARD3と組換えられた目的タンパク質のpIおよび全体的な電荷を調節して目的タンパク質の細胞外分泌を向上させる方法および目的タンパク質を効率的に生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはタンパク質を効率的に大量生産する方法において、一歩進んで、細菌のT1SS(Type 1 Secretion system)を通じて細胞外部に分泌されなかったタンパク質まで細胞外に分泌させることができる新たなタンパク質分泌および大量生産方法を明らかにして、これに基づいて本発明を完成した。また、本発明者らは、細胞外に分泌しようとする目的タンパク質にリパーゼABC輸送体認識ドメイン(Lipase ABC transporter recognition domain;LARD3)を結合させた分泌用タンパク質のうち、分泌が可能なタンパク質と分泌されないタンパク質間の差異点を明らかにするための実験を行った。
【0008】
具体的に、大部分植物の表面に住んでいるシュードモナス・フルオレセンスは長い間人間によって消費されてきたため生物学的安定性が立証されており、シュードモナス・フルオレセンスは高濃度の細胞培養条件で多様な発酵条件に耐えることができ、多量の組換えタンパク質を生産することができる。また、シュードモナス・フルオレセンスは自然にタイプ1分泌システム(type I secretion system、T1SS)からタイプ6分泌システム(T6SS)まで多数の分泌システムを有し、特にシュードモナス・フルオレセンスはATP-結合カセット(ATP-binding cassette、ABC)運搬体であるTliDEFを通じて耐熱性リパーゼ(TliA)を輸送する分泌システム類型1を有している。シュードモナス・フルオレセンスはこのような組換えタンパク質分泌の応用の可能性のため、いくつかの他の組換えタンパク質の輸送能力が証明され、分泌信号も研究されてきた。
【0009】
以前のP.fluorescensを用いたタンパク質大量生産研究の結果、多数のタンパク質の場合、リパーゼABC輸送体認識ドメイン3(Lipase-ABC-transporter 3;LARD3)を接合させて組換えタンパク質を製造した時、TliDEF輸送体を通じて細胞外分泌が向上するのを確認した。しかし、一部タンパク質の場合、LARD3を付着しても細胞外部に大部分タンパク質が分泌されず、細胞質のみに限定されて存在した。
【0010】
よって、LARD3を付着したタンパク質がABC輸送体によって分泌され得るか否かを決定する基準を明らかにし、LARD3を付着してもタンパク質の分泌が増加しなかったタンパク質のABC輸送体を通じた細胞外分泌を可能にする方法に関する研究が必要であるのが実情である。
【0011】
このために、LARD3と結合された多様なタンパク質遺伝子をP.fluorescensに導入し、多様なタンパク質を培養したそれぞれの培養液の上清と細胞ペレットでそれぞれの該当タンパク質の濃度を分析した。その結果、タンパク質のPIがP.fluorescensのTlSS輸送体であるTliDEFを用いた分泌に重要な役割を有するのを確認し、P.fluorescens以外の他の微生物に由来した多様なT1SS輸送体でも特定PIを有するタンパク質が分泌が促進されるのを明らかにすることによって本発明を完成した。
【0012】
具体的に、本発明者らはタンパク質にLARD3を便利に付着するために以前の研究で開発したpDARTプラスミドベクターを活用した(Ryu、J.、Lee、U.、Park、J.、Yoo、D.H.、and Ahn、J.H.(2015)A vector system for ABC transporter-mediated secretion and purification of recombinant proteins in Pseudomonas species.Appl Environ Microbiol 81、1744-1753)。pDARTプラスミドはin-frame LARD3遺伝子が直接後続する多重クローニング部位(MCS)を有し、pDARTの多重クローニング部位に挿入された遺伝子はそのカルボキシル末端にLARD3を付着したまま発現される。
【0013】
前記LARD3配列は、Pseudomonas fluorescens TliDEF、Pseudomonas aeruginosa AprDEF(PaAprDEF)、Dickeya dadantii PrtDEF(DdPrtDEF)、およびEscherichia coli HlyBD+TolCなどの細菌のType 1 Secretion system(T1SS)のABC輸送体によって認識されて、組換えタンパク質がT1SSのABC輸送体によって分泌されるようにする配列である。
【0014】
また、pDARTはクローン選択のためのカナマイシン耐性遺伝子を含み、Escherichia coliおよびP.fluorescens間のシャトルベクターとして機能するための広範囲宿主対象複製原点を有しており、TliDEF複合体の遺伝子を発現するtliD、tliE、tliF遺伝子を含んでいる。
【0015】
その次に、本発明者らは人為的にpI値を低め負電荷を追加するためにオリゴペプチド(oligopeptide)配列をこれらタンパク質に付着した。この作業を行うために、本発明者らはアスパラギン酸ポリペプチド(oligo-aspartate)配列を貨物タンパク質に付着させる二つのプラスミドを作った。実験後、本発明者らは目的タンパク質に正電荷を帯びたアミノ酸を添加した時の効果を調査するためにアルギニンポリペプチドを付着させるプラスミドを作った。
【0016】
最後に、本発明者らは以前の研究で開発された緑色蛍光タンパク質(GFP)の過電荷化された(supercharged)変種の分泌を実験して、タンパク質の過電荷化された変種が元来のタンパク質と異なる分泌様相を示すか否かを確認した。
【0017】
タイプ1分泌システム(Type I secretion system、T1SS)は、細菌に存在するABC transporterを使用したポリペプチド分泌体系を意味し、HlyおよびTol遺伝子クラスターを使用するシャペロン(chaperone)非依存性分泌システムである。前記分泌過程は、HlyAリーダー配列が認識され、膜にHlyBが結合することによって始まる。この信号配列は、ABC輸送体(transporter)に非常に特異的である。具体的に、HlyAB複合体は、HlyDを刺激してコイルを解き始め、TolCがHlyDの末端分子または信号を認識する外部膜に到着する。HlyDは内部膜にTolCを引き込み、HlyAは長い-トンネルタンパク質チャネルを通じて外部膜の外に排出される。
【0018】
細菌のT1SSは、イオン、薬物、多様な大きさ(20~900kDa)のタンパク質まで多様な分子を運搬する。分泌される分子は、small Escherichia coli peptide colicimV(10kDa)から520kDaのシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)細胞付着タンパク質に至るまでその大きさが多様である。最も特徴がよく分析されたものは、RTX毒素とリパーゼ(lipases)である。Type1分泌はまた、cyclin β-glucansおよびpolysaccharidesのような非-タンパク質性基質の分泌にも関与する。
【0019】
TlSSは主にグラム陰性菌に存在し、T1SSを有する細菌としてはシュードモナス属菌株、ディッケヤ属菌株、または大腸菌などを含み、さらに好ましくはシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、ディッケヤ・ダダンティー(Dickeya dadantiiまたはErwinia chrysanthemi)、大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)などがある。
【0020】
グラム陰性細菌であるシュードモナス・フルオレセンスは、酢酸を蓄積しないため発酵条件によって引き起こされる高い細胞濃度に耐性を有し、一般に人間を相手に非病原性を帯びるので分泌を通じたタンパク質の生産技術に適した候補である。また、シュードモナス・フルオレセンスは、グラム-陰性低温バクテリア(psychrotrophic bacterium)であり、組換えタンパク質生産のための様々な優れた特徴を有している。
【0021】
本発明者らはタイプI分泌システム(T1SS)に属するポリペプチドABC輸送体が認識する信号配列(Signal Sequence)と目的タンパク質を融合して微生物のABC輸送体が目的タンパク質を培養液上に分泌するようにする研究を行い、その結果、タイプI分泌システム(T1SS)に属するポリペプチドABC輸送体が輸送タンパク質の等電点(pI)、即ち、pH7での電荷属性に比例する組換えタンパク質分泌効率を示すという事実を明らかにした。即ち、生産しようとする目的タンパク質のpIを低めるように製造した過負電荷化された組換えタンパク質の場合、タイプI分泌システムのABC輸送体を用いた分泌の効率を高めることができ、実験的にpIはタンパク質の電荷量と密接な関係を有するのを確認した(図6参照)。
【0022】
また、本発明は、シュードモナス・フルオレセンスのTliDEF輸送体以外のタイプ1分泌システムでも過負電荷化の効果があるのを確認した(図19、20、21参照)。T1SSはABC輸送体を使用したポリペプチド分泌体系を意味し、TliDEF輸送体も典型的なT1SSである。
【0023】
本発明は、Pseudomonas fluorescens微生物以外の他の微生物から様々なT1SS輸送体の遺伝子を分離し、具体的にPseudomonas aeruginosa AprDEF(PaAprDEF)、Dickeya dadantii(Erwinia chrysanthemiと呼ぶこともある)PrtDEF(DdPrtDEF)、Escherichia coli HlyBD+TolC(大腸菌が本来TolCタンパク質を発現させる)の三つのT1SS輸送体を追加的に分離した。前記三つのT1SS輸送体は、Pseudomonas fluorescensのTliDEF輸送体とそれぞれ60%、59%、27%の塩基配列同一性を有している。本実施形態を通じて、LARD3信号配列が付着された分泌用組換えタンパク質が前記三種類の輸送体を通じてそれぞれ分泌されることを確認した(図19参照)。よって、タンパク質過負電荷化の分泌増進技術がPseudomonas fluorescens微生物TliDEF輸送体に限定されず、TliDEFと塩基配列同一性が27%程度に達するT1SS輸送体でも広範囲に適用できるのを確認した(図20図21図22図23参照)。
【0024】
本発明は、リパーゼATP結合カセット(ABC)輸送体ー認識ドメイン(Lipase ABC transporter recognition domain、LARD)をコードする核酸配列および目的タンパク質をコードする核酸配列が作動可能に連結された発現カセットを含み、前記LARDと目的タンパク質は酸性pI値を有し細胞外に分泌される融合タンパク質として発現されるものである、細菌で目的タンパク質の発現および細胞外分泌用発現ベクターを提供する。
本発明の一例によれば、前記発現ベクターは、細菌のT1SSのABC輸送体をコードする核酸配列を追加的に含むことができる。
【0025】
前記用語“目的タンパク質”は、生物学的に細菌で生産し細胞外部に分泌させて大量生産しようとする目的タンパク質を意味する。前記目的タンパク質は、その種類を特に限定せず、サイトカイン、成長ホルモン、 産業用酵素、免疫関連タンパク質、結合タンパク質などであってもよく、例えば、Mannanase、MBP、NKC-TliA、Eg1V、GFP、thioredoxin、phospholipase A1、alkaline phosphatase、EGF、TliA.MAP、Capsid、Hsp40、M37 lipase、Cutinase、Chitinase、およびCTP-TliAからなる群より選択されたいずれか一つ以上であってもよい。
【0026】
前記LARDと目的タンパク質のpIを7未満の酸性pIを有するようにするために多様な方法を使用することができる。例えば、目的タンパク質に酸性アミノ酸を追加するか、目的タンパク質から塩基性アミノ酸を除去するか他のアミノ酸で置換する方法を使用することができ、タンパク質アミノ酸配列中のタンパク質の3次元構造で外部に突出したアミノ酸であってタンパク質の構造に影響を与えないアミノ酸を選別して酸性アミノ酸で置換して過電荷化して手動過電荷化(Manual Supercharging)するか、Average Number of Neighboring Atoms Per Sidechain Atom(AvNAPSA)(1.Lawrence MS、Phillips KJ、Liu DR.Supercharging Proteins Can Impart Unusual Resilience。Journal of the American Chemical Society 2007;129:10110-10112.)アルゴリズムを用いてタンパク質を過電荷化する方法を使用することができる。但し、この場合、タンパク質の構造と機能に影響を与えないように組み換えることが好ましい。
【0027】
前記用語“融合タンパク質”は、LARDをコードする塩基配列と目的タンパク質をコードする塩基配列が連結されて発現されるタンパク質であって、酸性pI値を有する細胞外に分泌されるタンパク質を意味する。
【0028】
本発明の一例によれば、前記融合タンパク質のpI値は7未満であってもよく、好ましくは1~6、さらに好ましくは2~5.5、最も好ましくは3.0~5.5、例えば4.0~5.5であってもよい。
【0029】
前記融合タンパク質のpI値が7を超過する場合、LARDを付着したタンパク質でもT1SS ABC輸送体を通じて細胞外部に分泌されるタンパク質の量が顕著に少なく、大部分細胞内部に存在するようになる。前記融合タンパク質のpI値が1未満であるタンパク質はその構造が非常に不安定であるため、前記範囲のpI値を有するのが好ましい。
【0030】
本発明のまた他の一例によれば、前記T1SSのABC輸送体は、通常の塩基配列同一性計算法によってPseudomonas fluorescens TliDEFと塩基配列が類似した部分に限って計算した時、20%以上の塩基配列同一性または同一性を有するT1SS輸送体に属するタンパク質複合体であってもよい(図23参照)。一例によれば、前記20%以上の塩基配列同一性を有するT1SS輸送体は、例えば、Serratia marcescensのHasDEF、Bordetella pertussisのCyaBDE、Escherichia coliのCvaBA+TolC、Caulobacter crescentusのRsaDEFなどがあり得るが、これに限定されない。好ましくは、Pseudomonas aeruginosa AprDEF(PaAprDEF)、Dickeya dadantii PrtDEF(DdPrtDEF)、およびEscherichia coli HlyBD+TolCであってもよく、さらに好ましくはPseudomonas fluorescens TliDEF自体であってもよい。
【0031】
前記TliDEFは、ATP結合カセット(ABC)、膜融合タンパク質(membrane fusion proteins、MFP)、外膜因子(OMF)であるTliD、TliE、TliFの三つのタンパク質多量体から構成されている。ABCタンパク質は、選択的に目的タンパク質のC-末端部分の分泌ドメインを認識しATPを加水分解して目的タンパク質を分泌する。膜融合タンパク質は、細胞膜(cytoplasmic membrane)に刺さっており、ABCタンパク質と外膜タンパク質を連結する。外膜タンパク質は、外膜(outer membrane)に位置し、目的タンパク質が分泌されるチャネルを形成する大部分の細胞間隙(periplasm)にかかっている。
【0032】
シュードモナス・フルオレセンスでABCタンパク質、膜形成タンパク質、および外膜タンパク質は、耐熱性リパーゼオペロン内tliAのアップストリーム(upstream)に位置したtliD、tliE、およびtliFによってそれぞれコーディングされる。tliAのC-末端に位置する分泌/シャペロン(secretion/chaperone)ドメインは、リパーゼABC運搬体認識ドメイン(Lipase ABC transporter Recognition Domain、LARD)と定義されている。今まで長さの異なるLARDの五つの断片が機能的に比較され、4個のRTX(repeats-in-toxin)モチーフを含んでいるLARD3がABC運搬体を通じた分泌で最も効果的なC-末端信号と確認されてきた。tliDEFとLARD3融合タンパク質コンストラクトを含むシュードモナス・フルオレセンスはLARD3融合タンパク質を効率的に分泌し、分泌されたLARD3融合タンパク質を培養液(culture broth)から直ぐ得ることができる。
【0033】
本発明の一例によれば、前記発現ベクターの目的タンパク質をコードする核酸配列は、酸性ペプチドをコードする核酸配列を追加的に含むものであってもよい。
【0034】
前記追加される酸性ペプチドの個数は特に限定しないが、本発明の一例によれば、前記酸性ペプチドを成すアミノ酸の個数は6~20、好ましくは7~15個、例えば10個であってもよい。ペプチドを成すアミノ酸の個数が6個未満である場合、融合タンパク質のpHが十分な酸性を示さないためタイプ1分泌システム(type I secretion system、T1SS)を通じた分泌が円滑に起こらないことがある。
【0035】
前記酸性ペプチドは、アスパラギン酸(aspartic acid)およびグルタミン酸(glutamic acid)からなる群より選択された1種以上のアミノ酸であってもよく、好ましくは前記酸性ペプチドをコードする核酸配列は、配列番号33(Asparatic acid 10個;D10)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであってもよい。前記酸性ペプチドをコードする核酸配列は、目的タンパク質をコードする核酸配列の3’-末端または5’-末端に位置するものであってもよく、好ましくは3’-末端に付着するものであってもよい。
【0036】
また、前記ベクターは、リンカーをコードする核酸配列を追加的に含むことができる。前記リンカーは、Gly-Gly-Gly-Gly-Serアミノ酸配列からなるペプチドが1個~3個連結されたものであってよい。
【0037】
本発明の一例によれば、前記目的タンパク質をコードする核酸配列は、目的タンパク質に含まれている塩基性アミノ酸を1つ以上を除去したものであってもよい。前記塩基性アミノ酸は、リシン(lysine)またはアルギニン(Arginine)である。
【0038】
また他の本発明の一例によれば、前記目的タンパク質は、過電荷化(supercharge)された目的タンパク質、好ましくは過負電荷化(negatively supercharged)された目的タンパク質であってもよい。本発明は、既存にグラム陰性菌細胞外に分泌されなかった目的タンパク質の電荷(charge)を過負電荷化することによって目的タンパク質の細胞外分泌を増加させることができる。
【0039】
例えば、ソフトウェアレンダリングを使用して目的タンパク質の3次元構造を肉眼で観測し、これを通じて、相対的にタンパク質の外郭に存在し、官能基が溶媒方向に突出していて変化されても構造に大きな影響を与えないアミノ酸を選別した後、前記アミノ酸が塩基性アミノ酸である場合、アスパラギン酸とグルタミン酸で置換し、前記アミノ酸が酸性アミノ酸である場合、ライシンとアルギニンで置換する手動過電荷化(Manual Supercharging)技法を使用して目的タンパク質を過負電荷化することができる。また他の例示として、前記過負電荷化された目的タンパク質は、AvNAPSA(Average Neighbor Atoms per Sidechain Atom)アルゴリズムを用いてタンパク質表面をリモデリングして製造したものであってもよい。AvNAPSAのプロトコルは知られており(WO2007/143574 A1)、具体的に前記アルゴリズムはタンパク質の各アミノ酸が該当タンパク質の他の原子とどれだけ近いか程度を数値化して示すアルゴリズムである。
【0040】
本発明者らは以下の実験例に示されているように、AvNAPSA点数が100点以下であるアミノ酸(即ち、相対的にタンパク質の外郭に存在し、官能基が溶媒方向に突出していて変化されても構造に大きな影響を与えないアミノ酸)を公開されたプロトコルによって一括的にアスパラギン酸とグルタミン酸に交替したタンパク質(過負電荷化(negatively supercharged)されたタンパク質)配列を収得し、該当タンパク質配列に対応するDNA配列を合成し、合成されたDNA配列をpDARTプラスミドに入れて分泌用タンパク質を発現させた。その結果、過負電荷化されていないタンパク質と比較して過負電荷化したタンパク質の細胞外分泌の効率が非常に増加するのを確認した。
【0041】
本発明の一例によれば、前記リパーゼABC輸送体認識ドメインは、LARD1、LARD2、またはLARD3であってもよい。前記LARDは、シュードモナス・フルオレセンスの耐熱性リパーゼオペロン内tliAのC-末端に位置する分泌/シャペロン(secretion/chaperon)ドメインを意味することができる。具体的に、LARDペプチドはその配列によってLARD1~LARD5ペプチドに分けられ、本発明で使用するLARDはLARD3であってもよく、好ましくは配列番号22のアミノ酸配列からなるLARD-3ペプチドであってもよい。
【0042】
LARDペプチドは機能的に疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて精製を行うことができる精製配列を含んでおり、この精製配列はVLSFGADSVTLVGVGLGGLWSEGVLIS(配列番号29)であって、本発明者らの以前登録特許KR10-1677090で明らかにしたことがある。前記精製配列を含むタンパク質は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて容易に精製できる。したがって、前記精製配列を含んでいるLARD3ペプチドは、目的タンパク質の精製用途として使用できる。
【0043】
また、LARDペプチドは機能的に細胞内から細胞外に分泌を誘導する信号配列も含んでおり、この分泌信号配列はGSDGNDLIQGGKGADFIEGGKGNDTIRDNSGHNTFLFSGHFGQD(配列番号30)であって、これも本発明者らの以前登録特許KR10-1677090で明らかにしたことがある。前記分泌信号配列を含むタンパク質は細胞内から細胞外への分泌が行われ得る。LARDの中でも、LARD1~LARD3ペプチドは本発明の分泌信号配列および精製配列を全て含んでいるので、目的タンパク質の細胞内から細胞外への分泌および精製の用途として使用できる。好ましくは、分泌信号配列はLARD3ペプチド(配列番号22)を使用することができる。
【0044】
前記LARDをコードする塩基配列は、組換え目的タンパク質をコードする塩基配列の3’-末端に位置するものであって、組換え目的タンパク質のC-末端に融合されたタンパク質をコードする形態であってもよい。前記組換え目的タンパク質のC-末端に融合される場合、細胞外分泌によって加水分解されるN-末端の信号配列と対照的に、C-末端信号配列は加水分解されない長所を有することができる。
【0045】
【表1】
本発明の具体的一例によれば、前述の発現ベクターを含む細胞を提供する。
【0046】
具体的に、前記細胞に含まれている発現ベクターは、組換え目的タンパク質をコードする核酸配列、およびリパーゼABC輸送体認識ドメイン(LARD)をコードする核酸配列が作動可能に連結された発現カセットを含み、酸性pI値を有する分泌用タンパク質を発現することを特徴とする、細菌で目的タンパク質を発現し分泌するための発現ベクターであってもよい。
前記細胞は、追加的に細菌のT1SSのABC輸送体をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含むことができる。
【0047】
前記細胞はグラム陰性菌であってもよく、例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属菌株、ディッケヤ(Dickeya)属菌株、大腸菌(Escherichia)属菌株、キサントモナス(Xanthomonas)属菌株またはバークホルデリア(Burkholderia)属菌株であってもよいが、これに制限されない。例えば、本発明で目的タンパク質の細胞外分泌はABC輸送体の機能によって行われ、ABC輸送体は二重膜を有するグラム陰性菌で作動するため、グラム陰性菌に該当する場合、制限なく本発明の範囲に含まれ得る。
【0048】
前記シュードモナス属菌株は、シュードモナス属に該当する菌株であれば全て含まれ得るが、例えば、シュードモナス・フルオレセンス、シュードモナス・フラギ、シュードモナス・プチダ、シュードモナス・シリンガエまたはシュードモナス・エルギノーザであってもよく、好ましくはシュードモナス・フルオレセンス、シュードモナス・エルギノーザであってもよい。
【0049】
前記細胞がシュードモナス・フルオレセンスである場合、シュードモナス・フルオレセンスに導入された目的タンパク質はTliAのC-末端信号伝達部位に結合して融合タンパク質形態で細胞外部に分泌され得るが、シュードモナス・フルオレセンスの内在的リパーゼおよびプロテアーゼもABC運搬体の媒介として細胞外部に分泌される。これによって、野生型シュードモナス・フルオレセンス、または完全なリパーゼまたはプロテアーゼを生産する菌株を用いて目的タンパク質を発現する場合、前記目的タンパク質が細胞外部に分泌されてもリパーゼおよびプロテアーゼが不純物として混入されて以後精製工程を複雑にするだけでなく、プロテアーゼは生産された目的タンパク質を加水分解するようになる問題点がある。
【0050】
したがって、前記シュードモナス属菌株はシュードモナス・フルオレセンスのリパーゼ遺伝子(tliA)およびプロテアーゼ遺伝子(prtA)からなる群より選択された一つ以上の遺伝子の一部領域が欠失され、前記遺伝子の一部欠失は遺伝子の少なくとも一つの末端に少なくとも100bp以上大きさの断片を残すように遺伝子領域を欠失させたものであり、機能的リパーゼおよび機能的プロテアーゼからなる群より選択された1種以上の機能的タンパク質を生成しないシュードモナス・フルオレセンス変異菌株であってもよい。前記変異菌株の例としては、リパーゼ単独欠失(変異菌株ΔtliA)、プロテアーゼ単独欠失(変異菌株ΔprtA)およびリパーゼ/プロテアーゼ二重欠失変異菌株(変異菌株ΔtliAΔprtA)であってもよい。これら変異菌株に関する内容は、韓国特許公開10-2014-0041159に詳しく記述されている。
【0051】
前記シュードモナス・フルオレセンス変異菌株が機能的プロテアーゼタンパク質を生成しないことは、プロテアーゼ遺伝子の全部または一部欠失、またはプロテアーゼ阻害剤遺伝子(inh)の全部または一部欠失によってなされたことであり得る。
【0052】
前記シュードモナス・フルオレセンス変異菌株は例えば、寄託番号KCTC12276BP、KCTC12277BP、またはKCTC12278BPを有するシュードモナスフルオレセンス変異菌株であってもよいが、これに制限されない。
【0053】
本発明の具体的一例によれば、本発明は前記前述のベクターで形質転換された細胞を製造する段階、前記細胞を培養して分泌用タンパク質を生産する段階、および前記生産された分泌用タンパク質を分離または精製する段階を含む、細胞で目的タンパク質を生産する方法を提供する。
前記細胞は、追加的に細菌のT1SSのABC輸送体をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含むことができる。
【0054】
前記細胞はグラム陰性菌であってもよく、前記細胞で目的タンパク質を生産する方法で、前記発現ベクターで形質転換されたグラム陰性菌細胞を製造する方法は通常の遺伝子導入方法を使用することができ、例えば、目的タンパク質をコーディングする遺伝子をベクターに導入した組換えベクターをグラム陰性菌内部に導入するか、導入されたベクターに挿入された目的タンパク質をコーディングする遺伝子がゲノム内部に相同組換えによってゲノム内に挿入され得る。
【0055】
前記ベクターはプラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクターおよびウイルスベクターなどを含む通常の全てのベクターを含み、特にこれに限定されない。前記グラム陰性菌へのベクター導入は、電気衝撃遺伝子伝達法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、PEG、デキストランスルフェート、リポフェクタミンなどの公知された方法で行うことができる。
【0056】
前記細胞の培養において、培地性分、培養温度および培養時間などの条件は適切に調節でき、具体的に培養培地は炭素源、窒素源、微量元素成分などのような微生物の成長と生存に必須の全ての栄養素を含むことができる。また、培地のpHを適切に調整することができ、抗生剤などの成分を含むことができる。また、誘導剤(inducer)を処理してタンパク質の発現を誘導することができ、処理される誘導剤の種類はベクターシステムによって決定でき、誘導剤投与時間および投与量などの条件は適切に調節できる。
【0057】
野生型菌株および変異株ΔtliAで目的タンパク質を効果的に発現するためには2xLB培地を使用しなければならないが、変異株ΔprtAおよび変異株ΔtliAΔprtAでLB培地を使用することができるため、培地濃度を緩和することができる。また、前記変異株ΔtliAΔprtAは細胞外でTliAの妨害がなくPrtA加水分解から保護される目的タンパク質を生産し、リパーゼまたはプロテアーゼ-由来信号配列とABC運搬体と競争をせず、LB培地を使用することができる長所があるため、外来タンパク質の生産、分泌および精製を簡便に行うことができ、タンパク質生産量をさらに高めることができるので、目的タンパク質大量生産に有用に使用することができる。
【0058】
前記目的タンパク質は、精製配列を含むLARDを用いて疎水性相互作用クロマトグラフィーを行うことを除いては通常の方法で回収および精製できる。例えば、遠心分離方法で回収した細胞を、フレンチプレス、超音波破砕機などを用いて破砕することができる。培養液にタンパク質が分泌される場合には培養上澄み液を収集することができる。過発現によって凝集される場合、適切な溶液でタンパク質を溶解および変成させリフォールディングさせて得ることができる。グルタチオン、ジチオトレイトール、β-メルカプトエタノール、シスチンおよびシスタミンの酸化および還元システムを使用し、尿素、グアニジン、アルギニンなどのリフォールディング剤などを用いることもでき、リフォールディン剤と共に塩の一部を使用することができる。
【0059】
一例として、前記グラム陰性菌で目的タンパク質を生産する方法で、目的タンパク質を分離または精製する段階以後に、Factor XaあるいはTobacco Etch Virus(TEV)protease、Enterokinase(EK)などのタンパク質分解酵素認識部位を挿入して前記目的タンパク質に結合された酸性ペプチドとLARDを切断する段階を追加的に含むことができる。
【0060】
本発明の一例として、目的タンパク質の精製は疎水性相互作用を用いることができる。この時、本発明の精製配列は精製タグとして使用できる。例えば、前記疎水性相互作用クロマトグラフィーはアルキルセファロースを用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー法であり、前記アルキル基はメチル、エチル、プロピルまたはブチル基であってもよい。好ましく、前記アルキル基はメチル基であってもよい。アルキル基としてメチル基を使用する場合、他のアルキル基を使用する場合に比べて精製配列を含むタンパク質を優秀に精製することができる。
【0061】
一般に、カラムを用いたタンパク質の精製においてはHis-tagを用いた精製を多く行い、His-tag精製のためのカラム(column)は高価なだけでなく、大容量を精製を行うためには適合しない面がある。また、NTAカラムを多く使用するが、再使用すればNi2+あるいはNTAが脱落するため反復的な使用に制限が発生するという問題点がある。これに反し、疎水性相互作用クロマトグラフィーに使用される疎水性カラム(hydrophobic column)は低価のカラムであって、経済性が高く大容量分離に使用するに適しており、再使用率が高いという長所がある。
【0062】
本発明のまた他の一例は、前記前述の本発明のベクターを細胞に挿入する段階を含む、グラム陰性菌で分泌用タンパク質の細胞外分泌を増加させる方法を提供する。
【0063】
前記細胞は、追加的に細菌のType 1 Secretion system(T1SS)のABC輸送体をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含むことができる。
【0064】
本発明者らは細菌のType 1 Secretion system(T1SS)のABC輸送体を通じた目的タンパク質の分泌率は負電荷に荷電された目的タンパク質で上昇し、よって、タンパク質のpIとT1SS ABC輸送体による分泌が可能かどうかの間には質的相関関係があるのを確認した。
【0065】
即ち、強い酸性pIおよび強い負電荷を帯びるタンパク質はT1SS ABC輸送体によって分泌された反面、負電荷が少なくpIが高いタンパク質はほとんど分泌されなかった。一例として、遺伝子がpFD10に導入された時、一部タンパク質は分泌が増加し、pBD10の場合、発現減少なく分泌が増加した。
【0066】
本発明で下記の実施例および実験例で行ったpFD10、pBD10実験および過電荷化されたタンパク質の分泌パターン比較の結果を総合してみた時、結局、より多い負電荷を運搬するように操作されたタンパク質の分泌効率が増加したのを確認した。これは細胞質と細胞外空間の間の電位エネルギー障壁を克服するに必要なエネルギーを減少させるためである。
【0067】
一般にグラム陰性バクテリアは内膜の膜電位を約150mV程度に維持し、細胞質側は膜間空間(periplasm)よりさらに負に帯電される。この分極された電荷分布は膜を横切る能動的陽子輸送を含んで多様な細胞メカニズムによって維持される。外膜の電位も負の値を有し、膜間空間(periplasm)はそこに分布する負に荷電された膜由来オリゴ糖によって細胞外空間よりさらに負に帯電される。しかし、外部膜の多少孔が多いという特性によって外膜の膜電荷はその大きさが相対的に小さくて一般に30mV未満である。
【0068】
このような全ての事実を考慮する時、負に荷電されたタンパク質を分泌することがエネルギーの面から見た時一般に有利であり、これは分泌反応の平衡に影響を与える。膜電位は生化学的水準で非常に強力であり、ABC輸送体を通じて輸送される間の自由エネルギーの変化に重要な影響を与える。-150mV電位を帯びた内膜を横切ってポリペプチドを移動させることは、ポリペプチドが運搬する電荷当り約3.5kcal/molのエネルギーを必要とする。一定の圧力、温度および濃度での計算は以下の通りである。
w=-nFV=14.47n kJ/mol=3.5n kcal/mol
【0069】
ここで、nはポリペプチドの総電荷であり、Fはファラデー定数である。総電荷が+10であるタンパク質(N=+10)を分泌させる状況ではw=35kcal/molであり、分泌はそれだけさらに不利になる。生体の濃度下でATP加水分解の自由エネルギー変化(ΔG)の一般的な値は11.4kcal/molである。ABC輸送体のメカニズムに関して提案されたモデルはABCタンパク質がATP加水分解と結合された“内向”形態と“外向”形態間の連続的な転換を通じて作用すると分析する。このモデルによれば、ABC輸送体の主要動力源の一つはこの過程で起こる“駆動打撃(power stroke)”の力である。負電荷を帯びた膜電位は帯電されたポリペプチドに静電気力を加えてこの駆動打撃によって加えられる力を相殺させるか、甚だしくは逆転してしまって窮極的に分泌平衡に影響を与える。
【0070】
この“膜電位”仮説は、多様な分泌類型にわたる多くの以前の研究によって裏付けられた。E.coli脂質タンパク質(lipoprotein)に突然変異を誘発する正の電荷を追加する変異が原核生物および真核生物の両方で膜付近のタンパク質の折りたたみを妨害することによって分泌を減少すると報告され、またE.coli autotransporter(タイプVa輸送システム)のパッセンジャードメインの正味負電荷を中和または逆転させる時、同様に内側がさらに負電荷を帯びる外膜を通過する過程が中断されるのが明らかになった。
【0071】
T1SS輸送体の一例のうちのTliDEFの場合、考慮しなければならない他の要素はTliDの荷電状態である。TliDはTliDEF運搬体の内膜部分の構成要素であるABCタンパク質である。このタンパク質は、短いドメイン間配列によって連結されたヌクレオチド結合ドメイン(NBD)および膜横断ドメイン(TMD)を有している。特に、TliD ABCタンパク質が特にTMD(pI 9.43)とドメイン間配列(pI 8.14)周囲で理論的なpIが非常に高い。
【0072】
次いで行ったTliDの相同性基盤構造予測モデルで、このタンパク質の二量体(dimer)はその通路内部面に正電荷分布を有することが確認された(図9AおよびB)。この予測モデルは、配列同一性が40.98%に達するAquifex aeolicus PrtD(PDB ID5l22)を鋳型にして製作された。また、TliDのConSurf同族体保存性分析はチャネルの中間部分にあるこの正電荷分布が実際に進化的に保存されたものであるのを示した(図9CおよびD、黄色円)。また、TliDの基質進入入口を形成する折れたアルファ螺旋には、入口の孔側に突出してTliDのADP結合状態で基質進入入口を遮断する正に帯電された残基があり、ConSurf結果から見る時、同様に50個の全ての同族体でこの位置にアルギニンまたはライシンがあったためこの残基の正電荷が保存されるのを確認することができた(図9C、黒い矢印)。本発明者らはこの正電荷を帯びた通路の内部表面がタンパク質輸送中に貨物タンパク質の負電荷残基と相互作用して分泌を促進すると推定する(図9E)。
【0073】
また、チャネルの内部表面および基質進入入口上の正電荷は(アルギニンポリペプチド付着した下記実験の結果から分かるように)ポリペプチドの正電荷セクションを押し出して通路に入ることを防止し窮極的に分泌されるのを遮断することができる。ここで、本発明者らはタンパク質が輸送過程で(少なくとも部分的でも)折りたたみ(folding)状態が解かれると仮定し、これはE.coli TolC(PDB IDの1tQQ)と非常に類似の構造を有すると予想されるTliFの孔が19.8Åの平均内部直径を有するためである。これは確か24ÅのGFPバレルを含む大部分の球形タンパク質の平均直径である20-30Åより小さい。TliFは比較的に固いβ-バレル形態の膜貫通構造を有しているため輸送中に孔が拡大されることがほとんど不可能であると推定される。
【0074】
また他のT1SSのABC輸送体も同様にこれらのABCタンパク質が正電荷を帯びるTMDを有している。E.coli haemolysin輸送複合体であるHlyB-HlyD-TolCもTliDの相同体であるABCタンパク質HlyBのTMDにおいて相当な正電荷分布を有している。Dickeya dadantii PrtDも同様である。この事実は、T1SS ABC輸送体分泌機序の電荷依存性を強力に裏付ける。
【0075】
結論的に、本発明者らは高度に酸性であるタンパク質のみがABC輸送体を通じて輸送され、塩基性であるか弱い酸性であるタンパク質はABC運搬体を通じて分泌できないのを新しく明らかにし、目的タンパク質にアスパラギン酸ポリペプチドを付着するか負電荷に過電荷化することによってpIを人為的に低めることによって細胞外部への目的タンパク質の分泌を向上させる方法を提供する。また、簡単なpI確認を通じてABC輸送体が関心タンパク質を分泌できるか否かを確認する方法を提供することができ、窮極的にABC伝達体依存性分泌を通じて効率的に生産可能なタンパク質種類の範囲を該当タンパク質の過電荷化を通じて広げることができる。
【発明の効果】
【0076】
本発明は、酸性pI値を有する分泌用タンパク質を製造して、細菌のType 1 Secretion system(T1SS)のABC輸送体を通じて目的タンパク質を効果的に細胞外に分泌させる方法を提供する。前記方法を使用して特別な精製過程を経なくても簡単且つ効率的にタンパク質を大量生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1a】実施例6によって選択されたタンパク質の分泌を確認したものであって、目的タンパク質の発現および分泌を示すウェスタンブロットイメージを示す。
図1b】実施例6によって選択されたタンパク質の分泌を確認したものであって、目的タンパク質の発現および分泌を示すウェスタンブロットイメージを示す。
図2a】実施例6によって目的タンパク質の分泌率およびこれらの等電点の間の相関関係を示す。目的タンパク質のpI値は、付着されたLARD3を含む配列から計算した。
図2b】実施例6によって目的タンパク質の分泌率およびこれらの等電点の間の相関関係を示す。目的タンパク質のpI値は、付着されたLARD3を含む配列から計算した。
図3a】実施例7によってP.fluorescens発現と分泌システム内でoligo-アスパラギン酸配列の最適長さを決定するために、Lunasinとoligo-アスパラギン酸尾の長さが互いに異なるLunasinの誘導体をLARD3付着を経由して発現し分泌を確認した結果である。
図3b】実施例7によってP.fluorescens発現と分泌システム内でoligo-アスパラギン酸配列の最適長さを決定するために、Lunasinとoligo-アスパラギン酸尾の長さが互いに異なるLunasinの誘導体をLARD3付着を経由して発現し分泌を確認した結果である。
図4】実施例8によって本発明に使用したプラスミドの構造を示し、MCSを含むpDARTプラスミドの構造を示す。tliD、tliE、tliF、およびLARD3が融合されたタンパク質は単一オペロンで制御される。(A)の場合、MCS直後にLARD3遺伝子があるため、挿入された目的遺伝子はC-末端に付着されているLARD3と共に発現される。(B)N-末端にD10配列が付着されているプラスミドであるpFD10の構造を示す。D10遺伝子は開始コドンに直接後続し、MCSとLARD3の直ぐ以前に位置する。(C)C末端に位置するが、LARD3以前にD10配列を付着させるpBD10プラスミドの構造を示す。D10遺伝子はMCSとLARD3の間に位置する。
図5】実施例9によってNKCとCTP配列がそれぞれ付着されたTliAリパーゼ二種類(NKC-TliA、CTP-TliA)のN-末端部(FD10)とC-末端部(BD10)にアスパラギン酸10個(D10)を追加してpDARTプラスミドを通じて発現させた後、ウェスタンブロットおよびリパーゼ活性度を測定培地で検出した結果を示す。
図6】実施例10によって緑蛍光タンパク質(GFP)、マンナナーゼ(Mannanase)、マルトース結合タンパク質(MBP)、チオレドキシン(Thioredoxin)のN-末端部(FD10)とC-末端部(BD10)にアスパラギン酸10個(D10)を追加してpDARTプラスミドを通じて発現させた後、ウェスタンブロットで検出した結果を示す。
図7】実施例11によってTliAリパーゼと緑蛍光タンパク質(GFP)のC-末端部にそれぞれアスパラギン酸10個(D10)またはアルギニン10個(R10)を追加した後、ウェスタンブロットとリパーゼ活性培地で検出した結果を示す。
図8】実施例12によってAvNAPSA方式で過電荷化(Supercharging)させた緑蛍光タンパク質(GFP)をpDARTに入れて発現させウェスタンブロットで検出した結果を示す。
図9】実施例5によってTliDEF複合体のABCタンパク質であるTliD構造の電荷分布を示す。図9のA、B、Cで円形で表示された部分は正電荷を帯びる部分を示し、図9のDに円形で表示された部分は輸送体内部空洞を示したものであり、円形内部の白色矢印は相対的に負電荷を帯びる原子を、黒色矢印は相対的に正電荷を帯びる原子を表示したものである。
図10a】実施例9によってTliA、CTP-TliA、およびNKC-TliAの分泌比較を示し、図10aはTliA、CTP-TliA、およびNKC-TliAの酵素プレート分析結果であり、図10bはTliA、CTP-TliA、NKC-TliAのウェスタンブロット結果を示す。
図10b】実施例9によってTliA、CTP-TliA、およびNKC-TliAの分泌比較を示し、図10aはTliA、CTP-TliA、およびNKC-TliAの酵素プレート分析結果であり、図10bはTliA、CTP-TliA、NKC-TliAのウェスタンブロット結果を示す。
図11】実施例5によってpH7.0でタンパク質pIと電荷の関係を示す。
図12】実施例5によってTliDの構造予測結果を示す。
図13】実施例5によってモデル化されたTliDの膜横断螺旋(transmembrane helices)の予測結果を示す。四角形箱部分がサーバーを通じて予測された膜通過部分に該当する。
図14】実施例5によってモデリングされたTliDのConSurf相同体保存分析結果を示す。濃い黒色で表示された部分はよく保存された部分であり、色が浅くなるほどよく保存されていない部分である。
図15】実施例13によってpDAR-TliA、-NKC(-)、NKC-L1、-NKC-L2、NKC-L3、-NKC-TliAでタンパク質分泌を示す。(A)TliAのウェスタンブロット。(B)他のplasmidsでTliAの酵素プレート分析結果を示す。
図16】実施例14によって-10SAV、wtSAV、+13SAVおよび2-10GST、wtGST、+19GSTの分泌有無の分析結果を示す(SAV:streptoavidin/GST:glutathione S-transferase)。
図17】実施例14によってAvNAPSA(Average Number of Neighboring Atoms Per Sidechain Atom)方式を使用せず、任意に構造を見ながら突出したアミノ酸をアスパラギン酸またはアルギニンに交替して過電荷化させたグルタチオンS-伝達酵素(GST)とストレプトアビジン(SAv)をpDARTに入れて発現させウェスタンブロットで検出した結果を示す。
図18】実施例15によってMelC2チロシナーゼ、クチナーゼ(Cuti)、キチナーゼ(Chi)、そしてM37リパーゼをAvNAPSA方法で過負電荷化させた後、過負電荷化がされたタンパク質(赤色)とそれに対応する過電荷化されていない自然タンパク質(黒色)をそれぞれpDARTプラスミドに入れて発現させウェスタンブロットで検出した結果を示す。
図19】実施例16によってTliAタンパク質(TliDEF輸送体の本来の基質)と三種類の互いに異なる細菌から分離されたT1SS輸送体を大腸菌で同時発現させた後、酵素活性測定培地でタンパク質分泌程度をコロニー周辺部培地の色変化を通じて測定した実験結果を示す。
図20】実施例17によってクチナーゼ(Cutinase)タンパク質(Cuti)と過負電荷化されたクチナーゼタンパク質(Cuti(-))にLARD3信号配列を付着した後、三種類の互いに異なるT1SS輸送体タンパク質と共に大腸菌で発現させて酵素活性測定培地で分泌程度をコロニー周辺部培地の色変化を通じて測定した実験結果を示す。
図21】実施例18によってクチナーゼタンパク質(Cutinase、Cuti)と過負電荷化されたクチナーゼタンパク質(Cuti(-))にLARD3信号配列を付着した後、三種類の互いに異なるT1SS輸送体タンパク質と共に大腸菌で発現させて液体培養した後、ウェスタンブロットで細胞内および細胞外の該当タンパク質濃度を検出した実験結果を示す。
図22】実施例19によってM37リパーゼタンパク質(m37 Lipase、M37)と過負電荷化されたM37リパーゼタンパク質(M37(-))にLARD3信号配列を付着した後、三種類の互いに異なるT1SS輸送体タンパク質と共に大腸菌で発現させて液体培養した後、ウェスタンブロットで細胞内および細胞外の該当タンパク質濃度を検出した実験結果を示す。
図23】TliDEF輸送体と多様なT1SS輸送体間の塩基配列同一性(Sequence Identity)および全体塩基配列で配列類似部分が占める比重を示す。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記実施例によって限定されるのではない。
【実施例
【0079】
[実施例1]バクテリア菌株および成長培地
プラスミド製作および遺伝子クローニングは、E.coli XL1-BLUEで行った。タンパク質発現および分泌は、P.fluorescens SIK-W1(Son、M.、Moon、Y.、Oh、M.J.、Han、S.B.、Park、K.H.、Kim、J.G.、and Ahn、J.H.(2012) Lipase and protease double-deletion mutant of Pseudomonas fluorescens suitable for extracellular protein production.Appl Environ Microbiol 78、8454-8462)の二重遺伝子削除誘導体(double-deletion derivative)であるΔtliAΔprtA菌株で観察された。微生物は、30μg/mLのカナマイシン(kanamycin)を含んでいるLB培地(lysogeny broth)で培養した。リパーゼ活性を有する目的遺伝子(TliA、NKC-TliA、CTP-TliA)に対する酵素プレートアッセイ(enzyme plate assay)はミキサーで混合された0.5%コロイド性グリセリルトリブチレート(glyceryl tributylate)を含有するLB寒天培地で製造した。E.coliとP.fluorescensは、それぞれ37℃と25℃で培養した。E.coliの形質転換は標準熱ショック(heat-shock)方法に沿って行い、P.fluorescensは電気穿孔互換性(electrocompetent)細胞を作って標準電気穿孔(electroporation)プロトコルを使用し、2.5kVの125Ω、50μFで(Ausubel、M.F.(2014)Escherichia coli、Plasmids、and Bacteriphages.in Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、Inc.pp)電気穿孔で変換した。形質転換されたP.fluorescensは60μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地5mlを含む試験管で静止期(stationary phase)に到達するまで25℃180rpmの振盪培養機で培養した。上記条件で形質転換された細胞を液体LBに播種するか、または固体プレート活性アッセイにストリーキング(streaking)することによって、目標タンパク質の発現および分泌の両方に対して分析した。
【0080】
[実施例2]プラスミドベクター製作
プラスミドpDARTは、本発明者らの以前に他のタンパク質の分泌生産に使用したプラスミドを使用した(Ryu、J.、Lee、U.、Park、J.、Yoo、D.H.、and Ahn、J.H.(2015)A vector system for ABC transporter-mediated secretion and purification of recombinant proteins in Pseudomonas species.Appl Environ Microbiol 81、1744-1753)。プラスミドベクターpFD10およびpBD10は、前記pDARTのMCSの上流または下流位置に目的タンパク質に10個のアスパラギン酸コドンを付加して製造した、pDARTの誘導体である。十個のアスパラギン酸のDNA配列は合成されたGlycine max lunasin遺伝子(Galvez、A.F.、Chen、N.、Macasieb、J.、and de Lumen、B.O.(2001)Chemopreventive Property of a Soybean Peptide(Lunasin)That Binds to Deacetylated Histones and Inhibits Acetylation.Cancer Research 61、7473-7478)を鋳型として使用してPCRを通じて増幅した。pFD10およびpBD10に対してそれぞれ2個の異なるPCR産物を収得し、この時、それぞれ一つまたは二つの任意の塩基がプライマーの上流または下流に挿入されて翻訳フレームを維持させたためpFD10-とpBD10-に挿入されたタンパク質間に若干の大きさおよびpI差が存在する。
【0081】
その後、In-Fusionクローニングキット(Clontech In-Fusion HD cloning plus CE)を使用してpDARTにPCR産物を組み換えてpFD10およびpBD10を製作した。pDARTを線状化するために、XbaI(pFD10構造)またはSacI(pBD10)で消化させた。次いで、線状化されたpDARTと相応するPCR産物をIn-Fusion 3’-5’エキソデオキシリボヌクレアーゼ(exodeoxyribonuclease)で分解し、In-Fusionキットの標準プロトコルによって組み換えた。これらDNA断片と相補的な~15塩基5’突出部を連結して目的遺伝子挿入が可能なpFD10およびpBD10プラスミドを完成した。pDART、pFD10およびpBD10のMCS付近の配列は表2に明示されている。
【0082】
下記表2で下線で表示したアミノ酸配列はLARD3信号配列を示し、太字で表示した“IEGR”は目的タンパク質とLARD3信号配列を連結する残基であって、Factor Xaが認識して切断する部分である。
目的タンパク質は、His-tagのような精製tagによってFactor XaおよびLARD3から追加的に精製できる。
【0083】
下記表2の塩基配列の各部分に関する説明は、図19a~図19gに開示した。図19a~図19fはFASTAフォーマット内でターゲットタンパク質の全体配列を示し、図19gは酵素部位およびポリペプチド特徴を表示するための色コードを示す。
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
[実施例3]目的遺伝子が挿入されたプラスミドの製作
pDARTに挿入するために13個の目的遺伝子を選択した。抽出されたゲノムDNAサンプル(TliA、MBP、TrxおよびHsp40)、全体cDNA(EglV)、合成されたDNA生成物(NKC-TliA、CTP-TliA、MAP、lunasin、lunasin誘導体、GFPおよび過電荷化されたGFP)、他のプラスミド(この他のタンパク質)などからPCRで遺伝子を増幅させた。
【0086】
これらのN-末端信号ペプチドをSignalP4.1ウェブ基盤予測アルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)(Petersen、T.N.、Brunak、S.、von Heijne、G.、and Nielsen、H.(2011)SignalP 4.0:discriminating signal peptides from transmembrane regions.Nature methods 8、785-786)で予測した後、クローニングおよび発現過程から除外させた。合成遺伝子のコドンはE.coli(過電荷化GFP)またはP.fluorescens(TliA誘導体)での発現のために最適化させた。
【0087】
lunasin遺伝子は、合成された後、pDART挿入のためのPCRで増幅させた。lunasin-D0、lunasin-D5、lunasin-D15およびlunasin-D20などC-末端のAspポリペプチド尾の長さが異なる誘導体を多様なプライマーで増幅し、分泌生産のためにpDARTと組み換えた(図3B)。NKC-TliAおよびCTP-TliAは、TliAの誘導体である。NKCは以前に開発された抗生剤ポリペプチドであり、CTPは以前に細胞質輸入タグとして開発された細胞質伝達ペプチドである。この二つの遺伝子をP.fluorescensでの発現に最適化されたコドンを有するように合成した。
【0088】
以前に、GFPの溶媒に露出された残基を負電荷または正電荷を帯びたアミノ酸に交替して負に過電荷化されたGFP(-30)および陽性で過電荷化されたGFP(+36)を開発したことがある。本発明者らは二つの過電荷化タンパク質をコーディングする遺伝子をE.coli発現に最適化されたコドンを有するように合成した。
【0089】
PCRに使用されたプライマーは、プラスミドのMCS(pDART、pFD10およびpBD10)に目的遺伝子を挿入するために使用された制限酵素部位を有している。PCR産物およびプラスミドベクターをXbaI、KpnI、SacIまたはSpeI(これはXbaIと互換可能)のうちの二つの制限酵素で二重分解させた。各遺伝子に使用された酵素の特定対は、表2に提供された全体配列から直接確認することができる。
【0090】
その後、T4 ligaseを用いて制限酵素処理されたプラスミドと遺伝子を連結した。構築されたプラスミドをクローニングのためにE.coliに導入し、クローニングされたプラスミドを標準プラスミド精製方法を使用して得た。精製されたプラスミドは、発現と分泌を分析するために、P.fluorescensに導入した。
【0091】
[実施例4]ウェスタンブロット条件
48時間細胞を成長(分泌は成長過程全体で起こる)させれば、液体培養物が固定成長期に到達し、細胞密度が約1.5×109細胞/ml(OD600)=~3)程度に到達する。この時、液体培養液400μLを取って18,000rcfで10分間遠心分離して上清と細胞ペレットを分離した。その次に細胞ペレット抽出物と上清16μL-培養液(~0.048OD)をそれぞれ10%ポリアクリルアミドゲルにローディングした。大きさによってタンパク質を分離するためにSDS-PAGEを使用した。
【0092】
次いで、タンパク質をウェスタンブロットするためにニトロセルロースメンブレン(Amersham)に移した。一次抗体としてはPolyclonal anti-LARD3 rabbit immunoglobulin G(IgG)とanti-neomycin phosphotransferase 2(Abcam、ab33595)をそれぞれ1:3000と1:500に希釈して使用し、抗ウサギ組換え塩素IgG-peroxidase rIgG塩素IgG-ペルオキシダーゼ)を1:1000希釈して2次抗体として使用した。その次にバンドを化学発光製剤(Advansta WesternBright Pico)を使用して検出し、最後にAzure C600自動感知システムを使用してWestern blotイメージを獲得した。全ての含まれているウェスタンブロットイメージは、独立的なP.fluorescensコロニーと共に細胞培養から少なくとも三つの互いに異なる反復実験から得られた大目的の結果である。
【0093】
イメージを得た後、その次にImageJソフトウェアを使用して実験1(図1)の結果を定量化した。その後、この実験の目的タンパク質の%分泌を計算した。%分泌量は次の通り計算した。
%secretion=Ssupernatant/(Ssupernatant+Scell)×100%
ここで、Sはウェスタンブロットイメージの各帯域の標準化された信号の強度であり、下付き添え字はレーンのサンプルタイプを示す。
【0094】
[実施例5]ポリペプチド特性およびタンパク質構造の分析
目的タンパク質の理論的なpI値は、ExPASy Compute pI/Mwツール(Wilkins、M.R.、Gasteiger、E.、Bairoch、A.、Sanchez、J.C.、Williams、K.L.、Appel、R.D.、and Hochstrasser、D.F.(1999)Protein identification and analysis tools in the ExPASy server.Methods Mol Biol 112、531-552)を使用して計算した。全体配列を使用し、LARD3と酵素部位から追加された任意の残基も含ませた。タンパク質のPI値とタンパク質の残基当り電荷密度の強い相関関係を分析した相関度を図11に示した。
【0095】
図11は、pH7.0でタンパク質pIと電荷の関係を示す。等電点およびLARD3付着組換えタンパク質の100残基当り電荷が高い線形相関関係を示す。野生型TliAは青色で表わし、細胞外培養に対する分泌が観察されなかったタンパク質は赤色で表わした。その結果、明確な線状相関関係が観察され、pH7.0で測定された折りたたまれなかったタンパク質電荷はProtein Calculator v3.4(http://protcalc.sourceforge.net/cgi-bin/protcalc)で計算した。
【0096】
その次に、SWISS-MODEL構造的相同性モデリング(https://swissmodel.expasy.org/)(Arnold、K.、Bordoli、L.、Kopp、J.、and Schwede、T.(2006)The SWISS-MODEL workspace:a web-based environment for protein structure homology modelling。Bioinformatics 22、195-201)を用いてABC輸送タンパク質構造を研究した。
【0097】
本発明者らはAquifex aeolicusのPrtD(PDB ID 5l22)(Morgan、J.L.W.、Acheson、J.F.、and Zimmer、J.(2017)Structure of a Type-1 Secretion System ABC Transporter.Structure 25、522-529)を鋳型として使用し、鋳型とTliDの配列同一性は40.98%に達した。TliDの構造予測結果を図12に示した。
【0098】
図12は、QMEAN4点数によって彩色されたテンプレートと整列(alignment)を基準にして、TliDの構造予測結果を示す。QMEAN4点数によって低い品質の予測(図12の明るい色部分)される残基は主に外面に位置し、一般にランダムコイル(random coil)および突出部に位置する。QMEAN4点数と着色の計算はSWISS-MODELを使用した。
【0099】
構造モデルの膜横断螺旋はDAS-TMfilter(http://mendel.imp.ac.at/sat/DAS/)(Cserzo、M.、Eisenhaber、F.、Eisenhaber、B.、and Simon、I.(2002)On filtering false positive transmembrane protein predictions.Protein Engineering、Design and Selection 15、745-752)で検証され、その結果を図13に示した。
【0100】
図13は、モデル化されたTliDの膜横断螺旋(transmembrane helices)の予測結果を示す。前記予測は、DAS-TMfilterウェブサーバーを使用して行った。(A)TliD二量体の予想構造を示し、transmembrane helicesが異なる色で表示されている。(B)(A)と同一な色コードで強調表示されたTliDシークエンスを示す。
【0101】
得られた3Dモデルの表面をSwiss PdbViewer(spdbv)(http://spdbv.vital-it.ch/)で計算した後、電荷によって着色した。本発明者らはまた、TliDとその相同体を比較してTliDの構造(Ashkenazy、H.、Abadi、S.、Martz、E.、Chay、O.、Mayrose、I.、Pupko、T.、and Ben-Tal、N.(2016)ConSurf 2016:an improved methodology to estimate and visualize evolutionary conservation in macromolecules.Nucleic Acids Research 44、W344-W350)を確認するために、ConSurfウェブサーバー(http://consurf.tau.ac.il/2016/)を使用した。図14がTliDの保存された残基に関する情報を含んでいる。
【0102】
図14は、モデリングされたTliDのConSurf相同体保存分析結果を示す。本発明者らはTliDに対するConSurf相同体保存分析を実施した。多重配列整列(Multiple Sequence Alignment)はMAFFTを使用して作成し、同族体(homologues)はUniProt、相同検索アルゴリズムBLAST、PSI-BLAST E-value 0.001、PSI-BLAST反復回数5、配列の間のID25-95%順に収集した。197個の独特のタンパク質がスキャンされ、そのうちのqueryに最も近い50個の配列を使用した。系統隣(Phylogenic neighbors)をML距離でスキャンし、保全点数はBayesianアルゴリズムで計算した。(A)TliD二量体はBayesian conservation scoreによって着色された。図14は、保全点数が高ければ濃く、保全点数が低ければ浅く着色された。TliDのtransmembrane helicesは同族体間に保存されている。具体的に、TliDの中心チャネル内部に直面する残基は高度に保存され、中央チャネル外部にある残基(燐脂質または細胞質に向かった)は非常に可変的であった。
【0103】
ConSurf相同性分析はまた、横断螺旋の残基のうちの通路内面に向かっている残基が高い保存度を有しているということを示し、これは私たちの構造予測の説得力をさらに高める。最後に、本発明者らは潜在的に重要な位置で高度に保存されたアルギニンとライシン残基の側鎖(side chain)のpKa値をウェブ基盤サーバーPDB2PQR(http://nbcr-222.ucsd.edu/pdb2pqr_2.0.0/)を用いて予測し、これらが実際に当該構造内で正電荷を帯びているという事実を検証した(図9のC、DおよびF)。
【0104】
次いで行ったTliDの相同性基盤構造予測モデルで、このタンパク質の二量体(dimer)はその通路内部面に正電荷分布を有することが確認された(図9のAおよび図9のB)。この予測モデルは、配列同一性が40.98%に達するAquifex aeolicus PrtD(PDB ID 5l22)を鋳型にして製作された。また、TliDのConSurf同族体保存性分析は、チャネルの中間部分にあるこの正電荷分布が実際に進化的に保存されたものであるのを示した(図9のCおよびD)。また、TliDの基質進入入口を形成する折れたアルファ螺旋には、入口の孔側に突出してTliDのADP結合状態で基質進入入口を遮断する正に帯電された残基があり、ConSurf結果から見る時、また50個の全ての同族体でこの位置にアルギニンまたはライシンがあったため、この残基の正電荷が保存されるのを確認することができた(図9のC、黒い矢印)。本発明者らは、この正電荷を帯びた通路の内部表面がタンパク質輸送中に貨物タンパク質の負電荷残基と相互作用して分泌を促進すると推定する(図9のE)。
【0105】
図9は、TliDEF複合体のABCタンパク質であるTliD構造の電荷分布を示す。(A)TliD単量体の電子反発表面(Electron repulsion surface)を示し、表面電位によって青色(+7kBT/e)から赤色(-7kBT/e)まで色を指定した。高度の正電荷を帯びている中心通路(channel)の内部表面は上段の円で表示された。(B)リボンモデル(ribbon model)で提示された単量体のうちの一つである、TliD同種二量体(homodimer)を示す。中心通路の正電荷を帯びた内部表面は上段の円で、Substrate entry windowは下段の円で表示された。(C)Tlid、チャネルの内部表面の中間地点にある保存された正電荷クラスター(cluster)は円で表示した。また、Substrate entry windowを形成する二つのα-螺旋は楕円で表示した。当該螺旋に含まれている二つの保存された正電荷残基の中で、Arg316(黒い矢印)は気孔の外に突出している。(D)周辺細胞質側から見たTliD二量体を示す。負電荷がチャネル(channel)の外にある反面、正電荷はチャネル(黄色円)の中間に位置する。(E)LARD3が付着された高度の負電荷に荷電された組換えポリペプチドを運搬するTliD二量体の図式モデルを示す。NBD(nucleotide-binding domain)およびTiDのtransmembrane domain(TMD)をこれによって分類した。内膜(OM)を貫通する電位は-150mVであり、細胞質(CP)は周辺細胞質(PP)よりさらに負電荷を帯びた。この電位差は、正電荷を帯びるタンパク質よりさらに外側に運搬された負に荷電されたタンパク質を輸送することをさらに有利にする。
本発明者らはパイモルソフトウェアで結果を視覚化し、分析に使用した全てのシークエンスは表2および表3に示した。
【0106】
[実施例6]組換えタンパク質の分泌およびpIの交差分析
多様な大きさ、柔軟性、体積、重量などを有する13個の目標タンパク質の遺伝子(表4)にpDARTを通じてC-末端LARD3信号配列を付着してP.fluorescensΔtliAΔprtAに導入した。表4は遺伝子のリストとこれらの出所を示し、*で表示した遺伝子は本実験では使用しなかったが、以前の研究で分泌された遺伝子を示す。その後、当該細胞を液体培養した後、上清と細胞ペレットをウェスタンブロットで分析した(図1aおよび図1b)。
【0107】
【表4】
【0108】
図1aおよび1bに示したように、この中のMannanase、MBP、NKC-TliA、EglV、GFPおよびthioredoxinは細胞ペレットと上清の両方で検出可能であって、細胞外培地で成功的な発現および分泌を示した。しかし、MAP、cutinase、chitinase、capsid、Hsp40およびCTP-TliAは細胞ペレットでは検出されたが、上清では検出されず、これはこれらが分泌されなかったということを意味する。
【0109】
図1aおよび図1bは、選択されたタンパク質の分泌を確認したものであって、目的タンパク質の発現および分泌を示すウェスタンブロットイメージを示す。細胞サンプルは、細胞質と上清サンプルに残っているタンパク質の量が細胞外空間に限定されるタンパク質の量を示す。比較のために、細胞抽出物と培養上清の当量(16mL)をゲルにローディングし、ウェスタンブロットを通じて分析した。50NG TliAは基準としてゲルの中間に積載した。他の二つの互いに異なるウェスタンブロットは、異なる培養サンプルから収得した。その他提示していない結果の全てが類似のパターンを示した。下記イメージは、cytosolic Neo、the neomycin/kanamycin phosphotransferase 2 proteinに対する一次抗体を有する同一なサンプルのウェスタンブロット結果である。カプシド(capsid)を除いた全てのサンプル内で非特異的な溶解または漏出を最少化した。
【0110】
前記分泌されなかったタンパク質は比較的に高い理論的pIを有した。これら全ては(一つの例外はCTP-TliA)pIが~5.5以上であり、正電荷を帯びているか、微細な負電荷を帯びた。一方、分泌タンパク質は相対的に非常に強い酸性pIを有しており、そのpIも5.5(図2aおよび2b)を超過しなかった。
【0111】
図2aおよび2bは、ターゲットタンパク質の分泌率およびこれらの等電点の間の相関関係を示す。目的タンパク質のpI値は付着されたLARD3を含む配列から計算した。分泌されなかったタンパク質は赤色棒で示した。AP、EGFおよびPLA1以前の研究で分泌されると明らかになったものである。図2bはSecretion percentageをpIに追加した。百分率値は、上澄み液信号を上澄み液と細胞信号の合計で割ることによって計算した。図1の実験の三つの互いに異なる生物学的複製(独立培養サンプル)は定量分析に使用した。二つの分泌されない二つの高度に特異な特異タンパク質であるMAP(PI=9.61)およびカプシド(=9.25)はプロットから除外した。タンパク質等電点とこれらの%分泌の間には負の相関関係があった。
【0112】
図1bと図2bから分かるように、NKC-TliAおよびCTP-TliAの分泌は本来のTliAの分泌と比較した時、劇的に減少した。これらはTliAの誘導体であって、N-末端に短いながらも非常に強い正電荷を帯びた配列が付着されている(表2)。CTP-TliAは全く分泌されなかった。CTPは、表2に示したように、中間にアラニン一つが入ったことを除けばひたすらアルギニンのみから構成された、非常に正電荷を帯びる短い配列(RRARRRRRR)を有しているという事実を留意しておく必要がある。
【0113】
次いで、タンパク質のウェスタン信号の強度を定量した後、本発明者らはタンパク質の分泌量対発現されたタンパク質の総量の百分率をpIと対比してプロット(plot)し、その結果を図2bに示した。
図2bに示したように、タンパク質pIと分泌効率間には弱い否定的相関関係があると見られるが、いくつかの例外もあることが確認された。
【0114】
[実施例7]lunasinとその誘導体分析
lunasinは、大豆Glycine maxから分離された抗癌ペプチドである。このタンパク質は、カルボキシル末端に9個の連続したアスパラギン酸(aspartic acid、Asp)配列があるという独特の特徴を有している。本発明者らはこれに霊感を受けて、アスパラギン酸ポリペプチド尾の長さが互いに異なるlunasinの誘導体を複数個製造した。
【0115】
その後、P.fluorescensにpDARTを使用してlunasinおよびその誘導体を導入し、これらの発現および分泌をウェスタンブロットを通じて観察し、その結果を図3aおよび図3bに示した。
【0116】
図3aおよび図3bは、P.fluorescens発現と分泌システム内でoligo-アスパラギン酸配列の最適長さを決定するために、Lunasinとoligo-アスパラギン酸尾の長さが互いに異なるLunasinの誘導体をLARD3付着を経由して発現し分泌を確認した結果である。
【0117】
図3aは、細胞と上清でLunasinとその誘導体の発現はウェスタンブロッティングを通じて検出し、具体的に細胞抽出物および上清36μL当量をゲルにローディングし、ウェスタンブロットを通じて分析した。図3bは、アスパラギン酸尾の長さが変形されたlunasinおよびその誘導体のタンパク質配列およびドメイン構造を示し、それぞれをlunasin-D0、lunasin-D5、original lunasin(D9)、lunasin-D15およびlunasin-D20と命名した。
【0118】
図3aに示したように、本来のlunasinが最も分泌効率が高く、アスパラギン酸ポリペプチド尾の長さが減少するに連れて、分泌されたタンパク質の相対的比率が減少した。本発明者らはまた、lunnasin-D15で分泌および発現水準の減少するのを観察した。Lunasin-D20は、細胞または上清で観察されなかった。lunasinポリペプチドおよびその誘導体の正確な配列は図3bに示した。
【0119】
この実験に基づいて、本発明者らはABC輸送体を通じた分泌においてアスパラギン酸ポリペプチド配列の最適長さが約9程度であろうと決定し、下記追加実験を行った。
【0120】
[実施例8]アスパラギン酸ポリペプチドを添加したpFD10およびpBD10の製作
20個の最も普遍的なアミノ酸の中で、アスパラギン酸は最低pKa値を有する(Mathews、C.K.(2013)Biochemistry、4th ed.、Pearson、Toronto)。前記実施例7でのlunasinタンパク質配列によって霊感を受けて、本発明者らはLARD3信号配列だけでなくアスパラギン酸ポリペプチド配列も共に付着させる二つのプラスミドを開発した。
【0121】
本発明者らは、lunasin遺伝子のアスパラギン酸ポリペプチド尾のDNA配列に基づいてアスパラギン酸10個重合体(decamer)をコーディングするDNA配列を合成した後、D10(DDDDDDDDDD:配列番号33)と命名した。その後、本発明者らはこのD10遺伝子をpDARTプラスミドに挿入してそれぞれMCSに挿入された遺伝子のN末端とC末端側にD10を付着する二つのプラスミド(それぞれpFD10とpBD10と命名)を製造し、これを図4に示した。
【0122】
図4は、使用したプラスミドの構造を示し、MCSを含むpDARTプラスミドの構造を示す。tliD、tliE、tliFおよびLARD3が融合されたタンパク質は単一オペロンに制御される。(A)の場合、MCS直後にLARD3遺伝子が位置するため、挿入された目的遺伝子はC-末端に付着されているLARD3と共に発現される。(B)N-末端にD10配列が付着されているプラスミドであるpFD10の構造を示す。D10遺伝子は、開始コドンに直接後続し、MCSとLARD3の直前に位置する。(C)C末端に位置するが、LARD3以前にD10配列を付着させるpBD10プラスミドの構造を示す。D10遺伝子は、MCSとLARD3の間に位置する。
【0123】
その次に、選択されたタンパク質を新たに製造したプラスミドであるpFD10とpBD10に挿入した。前記pFD10またはpBD10に挿入された遺伝子をpDARTに挿入されたバージョンと共にP.fluorescensに導入し、これらの分泌効率をウェスタンブロットを通じて共に分析した。
【0124】
[実施例9]TliA由来組換えタンパク質をpFD10およびpBD10に挿入
NKC-TliAおよびCTP-TliAは両方ともTliAの誘導体であり、それぞれのN-末端には塩基性ペプチドが付着されている。TliDEFを通じた分泌効率は野生型TliA(図1bおよび図10a、b)より顕著に低い。
【0125】
図10aはTliA、CTP-TliAおよびNKC-TliAの酵素プレート分析結果を示し、TliAは予想通り分泌された(TliAは、TliDEF運搬者に対する天然基質である)。しかし、CTP-TliAの分泌は遮断され、NKC-TliAの分泌はTliAより多少弱く示された。
【0126】
図10bはTliA、CTP-TliA、NKC-TliAのウェスタンブロット結果を示し、酵素プレート分析から分かるように、TliAは強く分泌され、NKC-TliAは弱く分泌され、CTP-TliAは分泌されなかった。NKCは非常に大きい正電荷を有し、CTPはそれよりさらに大きい正電荷を有した。CTPは中間にただ一つの例外としてアラニンを有するだけであり、アルギニンのみから構成された連続的な9個の残基を有している。
【0127】
しかし、pFD10またはpBD10によるアスパラギン酸ポリペプチド付着時、NKC-TliAとCTP-TliAの分泌が再び増加した。前記実験結果を図5に示した。
【0128】
図5は、NKCとCTP配列がそれぞれ付着されたTliAリパーゼ二種類(NKC-TliA、CTP-TliA)のN-末端部(FD10)とC-末端部(BD10)にアスパラギン酸10個を追加してpDARTプラスミドを通じて発現させた後、ウェスタンブロットおよびリパーゼ活性度測定培地で検出した結果を示す。
【0129】
図5の(A)で、分泌はpDARTと比較してpFD10およびpBD10の両方で大きく向上した。(B)は他のプラスミドでのNKC-TliA酵素プレート分析結果を示し、(C)はpFD10およびpBD10でのCTP-TliAのウェスタンブロット結果であり、pBD10で分泌が大きく増加するのを確認した。(D)は他のプラスミドでのCTP-TliA酵素プレート分析結果を示す。pBD10で分泌が大きく増加することが分かる。二つの互いに異なるウェスタンブロット結果は互いに異なる培養サンプルから得たものであるが、類似のパターンを示した。二つの異なる酵素プレート分析法は異なるコロニーから収得し、これら全てが類似のパターンを示した。
【0130】
分泌比率(分泌されたタンパク質versus細胞内タンパク質)の観点から、NKC-TliAは図5の(A)および(B)に示したように、上流または下流のうちの一つにD10が付着された後、分泌が劇的に増加した。
【0131】
CTP-TliAの場合、図5の(C)および(D)に示したように、pBD10によって下流にD10配列が追加された時、ウェスタンブロットおよび活性分析プレートの両方で急激な分泌増加を示した。酵素プレート活性実験で、pDARTまたはpBD10に挿入されたNKC-TliAおよびCTP-TliAのハロー(halo)大きさは一般にそれぞれのウェスタンブロッティング結果で上清サンプルのバンド強度と一致する。しかし、pFD10はこれらのバンド強度から期待されるものより若干さらに小さなハローを有し、これは酵素活性の減少可能性を示す。
【0132】
[実施例10]負電荷を帯びたタンパク質のpFD10およびpBD10挿入
緑蛍光タンパク質(GFP)、マンナナーゼ(Mannanase)、マルトース結合タンパク質(MBP)、およびチオレドキシン(Thioredoxin)遺伝子をpDART、pFD10およびpBD10に導入して得られた組換えプラスミドをP.fluorescensに導入して形質転換されたタンパク質を製造した。生成されたタンパク質はTliDEF輸送体によって分泌され、前記実験結果を図6に示した。
【0133】
図6は、負に荷電されたタンパク質のpFD10およびpBD10での分泌を示す。(A)GFPのウェスタンブロット結果を示し、pFD10およびpBD10の両方とも上清でタンパク質分泌の増加を示す。(B)Mannanaseのウェスタンブロット結果を示し、Mannase分泌において二つのpFD10およびpBD10の両方ともが少しずつ増加した。(C)MBPのウェスタンブロット結果を示し、分泌率の増加がpFD10とpBD10の両方で観察された。(D)thioredoxinのウェスタンブロット結果を示し、信号は全体的に弱かったが、pFD10とpBD10の両方で分泌が増加した。全般的にpBD10でさらに負に荷電されたタンパク質のバンドは若干上側に移動した位置で現れた。pDARTとpBD10に対する三つの互いに異なるウェスタンブロット結果は異なる培養サンプルから得られ、反面、pDARTとpFD10に対する二つの互いに異なるウェスタンブロット結果がある。これら全ては類似のパターンを示した。
【0134】
図6に示したように、分泌の増加において、GFPで最も大きい増加を示した。pDARTとpBD10に挿入されたGFPのバンド強度の比較は、上清対発現比率の顕著な変化を示した。pFD10-GFPは、上清と細胞ペレットの比率の観点から、分泌が少しだけ改善された(図6の(A))。
【0135】
Mannanaseの場合は多少曖昧であったが、pBD10-MannanaseはpDART-Mannanaseより優れた分泌を示すという結論を得ることができた。また、pFD10によって上流にD10配列が添加された時、絶対発現量自体は低下するが、分泌比率自体は向上した(図6の(B))。
MBPの分泌もpDARTに比べて上清/細胞比率の観点から見る時、pFD10およびpBD10で全て向上した(図6の(C))。
Trx(チオレドキシン)の場合、上清/細胞信号強度比率がpFD10とpBD10の両方で改善された(図6の(D))。
【0136】
結果的に、ウェスタンブロット結果、N-末端部やC-末端部にアスパラギン酸が追加されたタンパク質は細胞外(Supernatant)対細胞内(Cell)のタンパク質濃度比率が高まり、FD10の場合、発現量が大幅減少するパターンを示すのを確認した。
【0137】
[実施例11]正電荷を帯びたアミノ酸ポリペプチドの添加-pBR10の製作および分析
本発明者らは追加的に、pBD10と類似しているが、一つ差異点を有するプラスミドを製作した。このプラスミドは、MCSの次にアスパラギン酸ポリペプチドをコーディングするD10の代わりにアルギニンポリペプチドをコーディングするDNA配列であるR10が導入されている。
【0138】
本発明者らはTliAとGFP遺伝子をpDART、pBD10、pBR10プラスミドに挿入し、酵素活性培地(これはTliAのみ)とウェスタンブロットを通じて分泌を検査し、その結果を図7に示した。
【0139】
図7は、TliAリパーゼと緑蛍光タンパク質(GFP)のC-末端部にそれぞれアスパラギン酸(D)10個またはアルギニン(R)10個を追加した後にウェスタンブロットとリパーゼ活性培地で検出した結果を示す。二つの負電荷タンパク質、TliAとGFPを信号配列(pDART)、oligo-aspartate(pBD10)およびoligo-arginine(pBR10)以外には何も付着しないプラスミドに挿入した。図7のAは、前記プラスミドでのTliAのウェスタンブロット結果を示す。pDARTおよびpBD10のTliAは優れた分泌を示す。しかし、R10が付着された場合、分泌が遮断された。図7のBは、前記プラスミドでのTliA酵素プレート分析結果を示す。TliA分泌は、pBR10が挿入された時、遮断された。図7のCは、前記プラスミドでのGFPのウェスタンブロット結果を示す。これと同様に、pDARTとpBD10は優れた分泌性を示した反面、R10が付着された時の分泌が遮断された。
【0140】
TliAのウェスタンブロットで、pDARTおよびpBD10は良好な分泌効率を示したが、pBR10は分泌が減少した(図7のA)。類似のパターンがプレート酵素分析でも観察され、pBR10はハローを示さなかったが、他の二つは示した(図7のB)。GFPのウェスタンブロットで、pDARTおよびpBD10の両方とも分泌されることが確認されたが、pBR10はTliAと同様にGFPの分泌が遮断された(図7のC)。
【0141】
[実施例12]過電荷化されたタンパク質のウェスタンブロット分析
緑蛍光タンパク質(GFP)とAverage Number of Neighboring Atoms Per Sidechain Atom(AvNAPSA)(Lawrence MS、Phillips KJ、Liu DR.Supercharging Proteins Can Impart Unusual Resilience.Journal of the American Chemical Society 2007;129:10110-10112)方式で前記タンパク質を過電荷化(Supercharging)させたGFP誘導体であるGFP(-30)とGFP(+36)をpDARTを通じてLARD3と結合させ、P.fluorescensΔtliAΔprtAに導入してタンパク質を発現させた後、サンプルをウェスタンブロットで分析し、その結果を図8に示した。
【0142】
図8は、GFPと過電荷化されたGFPsの分泌を示す。過負電荷化されたGFP(-30)は細胞外(Supernatant)対細胞内(Cell)のタンパク質濃度比率が確実に高まり、本来のGFPより顕著に高い分泌率を示した。
【0143】
反面、過正電荷化されたGFP(+36)は細胞内で高濃度に検出された反面、細胞外(Supernatant)には全く検出されなかった。たとえ過電荷化GFPsのバンドは若干上側に移動したが、互いに異なる培養標本から互いに異なる二つのウェスタンブロット結果が得られ、これらは全て類似のパターンを示した。
【0144】
図8から分かるように、GFPとGFP(-30)は細胞ペレットと上清で全て検出され、これは前記タンパク質が発現された後、効果的に細胞外空間に分泌されたのを意味する。ここで、GFP(-30)は元来のGFPより上清に一層強く発現されたのを確認することができた。
【0145】
反面、GFP(+36)は細胞ペレットに限定されて強く発現され、細胞外空間に分泌されなかった。このような組換えタンパク質のpI値は、GFP(-30)の場合に4.64、操作されなかったGFPの場合に5.36、GFP(+36)の場合に10.42であった。
【0146】
[実施例13]タンパク質分泌効率を高める最適リンカー長さ確
Model proteinとしてNKC-TliA選定した。NKCは21個のアミノ酸から構成されており、両親媒性(amphiphilic)α-helixを形成するpeptideである。21個のアミノ酸はLysineを多く含んでおり、pI=10.78であってpI=5.01のTliA lipaseにfusionされてNKC-TliAを作ればpI=5.34になり、タンパク質の分泌が減る。
【0147】
本発明者らはNKCタンパク質のLysineを全てAspartateで置換(NKC(-))して分泌程度を確認し、これと共にNKC(-)とTliAに様々な長さのlinkerを連結させて様々なリンカー長さを通じてNKC(-)の分泌効率をウェスタンブロットと活性分析プレートを通じて比較し、その結果を図15に示した。Linkerの長さは何もないNKC(-)からGGGGSが一つ入ったL1、2つ入ったL2、3個入ったL3と示した。
【0148】
図15は、TliA、NKC(-)、NKC-L1、NKC-L2、NKC-L3、NKC-TliAでのタンパク質分泌を示す。図15の(A)はTliAのウェスタンブロット結果であり、図15の(B)は他のplasmidsでのTliAの酵素プレート分析結果を示す。
【0149】
図15の(A)のウェスタンブロット結果、一番右側のNKC-TliAの場合は全く分泌がされないが、Lysineを全てAspartateで置換したNKC(-)および負電荷NKCにlinkerを付着したタンパク質は分泌が顕著に増加するのを確認することができた。
【0150】
図15の(B)の活性分析プレート結果によれば、既存NKCよりNKC(-)でタンパク質の分泌が増加し、リンカーが導入された時に分泌が全般的に増加し、特にリンカー3個が付着された場合に分泌が顕著に増加するのを確認することができた。この結果を通じて負電荷を帯びたNKCがタンパク質の分泌を増加させることが分かった。
【0151】
[実施例14]負電荷superchargeのタンパク質分泌増加確認
本発明者らは、タンパク質の電荷を変えて分泌効率が変わることを確認するためにタンパク質のアミノ酸を負電荷を帯びたアミノ酸で置換してタンパク質の分泌傾向を観察した。
【0152】
このために、ストレプトアビジン(SAV)wild typeタンパク質から負電荷supercharge価-10と正電荷supercharge価+13を作り、これと同様にグルタチオンS-伝達酵素(GST)も負電荷supercharge価-20と正電荷supercharge価+19電荷を帯びたsuperchargeタンパク質を作ってタンパク質の分泌を分析し、その結果を下記図16に示した。
【0153】
図16は、-10SAV、wtSAV、+13SAVおよび-20GST、wtGST、+19GSTの分泌有無の分析結果を示す(SAV:streptoavidin/GST:glutathione S-transferase)。SAV(135aa)は四量体を作り、GST(215aa)は二量体を作る。遺伝子合成で単量体の電荷を計算した(-10SAV:pI4.96/wtSAV:pI6.76/+13SAV:pI10.29/-20GST:pI4.73/wtGST:pI7.86/+19GST:pI9.87)。
【0154】
図16に示したように、負電荷superchargeタンパク質は細胞にも多く存在し分泌もよく行われるのを確認することができたが、wild typeタンパク質と正電荷superchargeタンパク質は発現および分泌が行われないことが分かり、負電荷superchargeがタンパク質の分泌を高めることを確認した。
【0155】
これと同様に、AvNAPSA方式を使用せず任意に構造を見ながら突出したアミノ酸をアスパラギン酸またはアルギニンに交替して過電荷化させたグルタチオンS-伝達酵素(GST)とストレプトアビジン(SAv)をpDARTに入れて発現させウェスタンブロットを行い、その結果を図17に示した。
【0156】
図17から分かるように、過負電荷化されたタンパク質(赤色で表示)は細胞外(Supernatant)対細胞内(Cell)のタンパク質濃度比率が確実に高まったのを確認することができる。反面、過正電荷化されたタンパク質は細胞内で非常に高濃度に検出された反面、細胞外(Supernatant)では全く検出されないか、低濃度のみ検出された。
【0157】
[実施例15]AvNAPSA方法を用いた過負電荷化したタンパク質の細胞外分泌増加確認
MelC2チロシナーゼ、クチナーゼ(Cuti)、キチナーゼ(Chi)、そしてM37リパーゼをAvNAPSA方法で過負電荷化させた後、過負電荷化されたタンパク質(赤色)とそれに対応する過電荷化されなかった自然タンパク質(黒色)をそれぞれpDARTプラスミドに入れて発現させウェスタンブロットで検出し、その結果を図18に示した。
【0158】
具体的に、AvNAPSAを用いた過負電荷化方法は次の通りである。まず、AvNAPSAアルゴリズム(1.Lawrence MS、Phillips KJ、Liu DR.Supercharging Proteins Can Impart Unusual Resilience.Journal of the American Chemical Society 2007;129:10110-10112)でアスパラギン酸とグルタミン酸が適正な位置に置換されて入って過負電荷化が成されたタンパク質配列を得た。その後、該当タンパク質配列に対応するDNA配列を合成し、この合成されたDNA配列をpDARTプラスミドに入れた後、過負電荷化されたタンパク質を製造した。
【0159】
過負電荷化されたタンパク質は、細胞外では全く検出されなかった自然タンパク質と異なり、細胞内部(C)だけでなく細胞外部(S)でも非常に高濃度に観測され、分泌が確実に増強されたのを確認することができる。MelC2チロシナーゼ(Tyrosinase)タンパク質の場合、His-tagをはじめとする若干の配列差によって過電荷化されたタンパク質と自然タンパク質間に大きさの差が少量存在する。
【0160】
即ち、前記実験を通じて本発明者らは、既存の技術では分泌生産法が適用不可能であったチロシナーゼ(Tyrosinase)、クチナーゼ(Cutinase)などのタンパク質をAvNAPSAアルゴリズムを用いて過電荷化させることによって既存の分泌されなかったタンパク質を相当な効率で細胞外分泌させることができるのを確認した。
【0161】
[実施例16]三種類の互いに異なる細菌から分離したT1SS輸送体を発現した細胞でTliAタンパク質分泌確認
16-1.Escherichia coli HlyBD+TolC、Dickeya dadantii PrtDEF、Pseudomonas aeruginosa AprDEF分離
【0162】
本発明者らは、Escherichia coli CFT073菌株の分離されたゲノム(Genbank AE014075)からHlyB、HlyD遺伝子が含まれているオペロンの特定の部分をhlyBD-s(配列番号34:GGGGAGCTCGGATTCTTGTCATAAAATTGATT)、hlyBD-a(配列番号35:GGGGGATCCTTAACGCTCATGTAAACTTTCT)の二つのプライマーを使用したPCRを通じて増幅させ、これをpSTVプラスミド(pACYCプラスミドの誘導体のうちの一つ)に各菌株のゲノムから輸送体遺伝子をそれぞれPCRで増幅して開始コドン(Start Codon)およびコザック配列(Kozak Sequence)と共に順次に挿入したプラスミドpSTV-HlyBDを製作した。HlyB、HlyCと共に輸送体を成すTolCは大腸菌が自主的に生産するため別途に含まなかった。
【0163】
また、本発明者らは、Dickeya dadantiiのPrtD、PrtE、PrtFの三つの遺伝子を発現させるプラスミドであるpEcPrtDEF(Delepelaire P、Wandersman C.Protein secretion in gram-negative bacteria.The extracellular metalloprotease B from Erwinia chrysanthemi contains a C-terminal secretion signal analogous to that of Escherichia coli alpha-hemolysin。J Biol Chem.1990;265:17118-17125)とPseudomonas aeruginosaのAprD、AprE、AprFの三つの遺伝子を発現させるpAGS8(Duong F、Soscia C、Lazdunski A、Murgier M.The Pseudomonas fluorescens lipase has a C-terminal secretion signal and is secreted by a three-component bacterial ABC-exporter system.Mol Microbiol.1994;11:1117-1126)を準備した。
【0164】
16-2.三種類の互いに異なる細菌から分離したT1SS輸送体を発現した細胞でタンパク質分泌確認
本発明者らは、pQE184プラスミドにTliAタンパク質(TliDEF輸送体の本来基質)の遺伝子を挿入したプラスミド一つと前記で製作した三種類の互いに異なる細菌から分離されたT1SS輸送体のうちの一種類を発現するプラスミド(即ち、Escherichia coli HlyBDを発現するpSTV-HlyBD、Dickeya dadantii PrtDEFを発現するpEcPrtDEF、Pseudomonas aeruginosa AprDEFを発現するpAGS8)のうちの一つを大腸菌に同時に熱衝撃法(Heat Shock Method)で導入してTliAと三つの輸送体のうちの一つを同時発現させた後、リパーゼ酵素活性測定培地で細胞外部への組換え目的タンパク質の分泌程度をコロニー周辺部培地の色変化を通じて測定し、その結果を図19に示した。
【0165】
図19に示したように、Escherichia coli HlyBD+TolC(大腸菌が本来TolCタンパク質を発現させる)、Dickeya dadantii PrtDEF、Pseudomonas aeruginosa AprDEFの三つの輸送体全てTliAタンパク質を成功的に分泌させるのを確認することができた。これは大腸菌で輸送体タンパク質の追加発現なく(空のpACYCプラスミドをその代わりに入れる)TliAタンパク質のみを発現させた菌株(TliA only)ではhaloが観測されないという事実から類推することができる。前記結果からシュードモナス・フルオレセンス以外のEscherichia coli、Dickeya dadantii、Pseudomonas aeruginosaのT1SSタンパク質がTliAのLARD3信号配列を認識することができるということを意味する。
【0166】
[実施例17]三種類の互いに異なる細菌から分離したT1SS輸送体を発現した細胞でクチナーゼタンパク質分泌確認
17-1.過負電荷化したクチナーゼタンパク質製造
クチナーゼ(Cutinase)タンパク質(Cuti)にAvNAPSA方法を使用して過負電荷化されたクチナーゼタンパク質(Cuti(-))を製造した。
【0167】
17-2.三種類の互いに異なる細菌から分離したT1SS輸送体を発現した細胞でクチナーゼタンパク質分泌確認
クチナーゼ(Cutinase)タンパク質と過負電荷化したクチナーゼタンパク質にpUC19プラスミドを基盤として多重制限酵素部位(Multiple Cloning Site)直後にLARD3信号配列の遺伝子を挿入したpLARD3プラスミドにクチナーゼ遺伝子を挿入する方式でLARD3信号配列を付着した後、
【0168】
実施例16の方法で得られた三種類の互いに異なるT1SS輸送体タンパク質(Escherichia coli HlyBD+TolC、Dickeya dadantii PrtDEF、Pseudomonas aeruginosa AprDEF)を発現するプラスミドと共に実施例16の方法と同様に二つのプラスミドを同時に大腸菌細胞内に導入して同時に発現させ、クチナーゼ酵素活性測定培地で37℃で3日間培養した後、大腸菌外部へのタンパク質分泌程度をコロニー周辺部培地の色変化を通じて測定し、その結果を図20に示した。
【0169】
図20に示したように、三種類のT1SS輸送体タンパク質全てで、過負電荷化されたクチナーゼの分泌程度が過負電荷化されなかったクチナーゼに比べて確実に高いのを観察することができる。同様に、空のプラスミドを輸送体プラスミドの代わりにに入れた対照群(Cuti(-) only、Cuti only)との比較を通じて類推することができた。
【0170】
[実施例18]ウェスタンブロットを用いたクチナーゼタンパク質の細胞外分泌確認
クチナーゼタンパク質(Cuti)と過負電荷化されたクチナーゼタンパク質(Cuti(-))にLARD3信号配列を付着した後、実施例16の方法で得られた三種類の互いに異なるT1SS輸送体タンパク質と共に大腸菌で発現させて液体培養した後、ウェスタンブロットで細胞内および細胞外の該当タンパク質濃度を検出し、その結果を図21に示した。
【0171】
図21に示したように、三種類のT1SS輸送体タンパク質全てで、過負電荷化されたクチナーゼの分泌程度が過負電荷化されなかったクチナーゼに比べて確実に高いのを観測することができる。同様に、分泌事実は、輸送体プラスミドの代わりに空のプラスミドを入れた対照群(Cuti(-)only、Cuti only)との比較を通じて類推することができた。
【0172】
[実施例19]ウェスタンブロットを用いたM37リパーゼタンパク質の細胞外分泌確認
M37リパーゼ(Lipase)タンパク質と過負電荷化されたM37リパーゼ(M37(-))にLARD3信号配列を付着した後、実施例16の方法で得られた三種類の互いに異なるT1SS輸送体タンパク質と共に大腸菌で発現させて液体培養した後、ウェスタンブロットで細胞内および細胞外の該当タンパク質濃度を検出し、その結果を図22に示した。
【0173】
図22に示したように、三種類のT1SS輸送体タンパク質全てで、過負電荷化されたM37の分泌程度が過負電荷化されなかったM37に比べて確実に高いのを観測することができる。同様に、分泌事実は、輸送体プラスミドの代わりに空のプラスミドを入れた対照群(M37(-)only、M37 only)との比較を通じて類推することができた。
【0174】
[実施例20]T1SS ABC輸送体の配列同一性評価
シュードモナス・フルオレセンスのTliDEF輸送体のTliDとEscherichia coli HlyBD+TolC、Dickeya dadantii PrtDEF、Pseudomonas aeruginosa AprDEFのT1SSABC輸送体およびその他の種類のT1SS輸送体のABCタンパク質と配列同一性(Sequence Identity)を測定し、その結果を図23に示した。図23は、TliDEF輸送体と多様なT1SS輸送体間の塩基配列同一性(Sequence Identity)および全体塩基配列で配列類似部分が占める比重を示す。
【0175】
具体的に、輸送体タンパク質の間塩基配列同一性はNCBI BLASTpアルゴリズムを用いて計算し、表示された塩基配列同一性は前記アルゴリズムの正常的な計算方式によって配列が互いに大きく異なる一部配列は省略し、残った部分(Query Coverage)内に限定して計算した。その結果、省略された配列部分はどの場合にも10%に達しないので前記配列同一性計算の信頼性が非常に高かったということを示唆した。
【0176】
TliDEF輸送体のTliDと多様なT1SS ABC輸送体との配列同一性は、比較的に高いものから比較的に低いものまで多様に示された。このうちの実施例16、17、18、19で例として挙げたAprD、PrtD、HlyBの三つのT1SS輸送体の配列同一性は、それぞれ60%、59%、27%であった。
【0177】
よって、本発明者らは、タンパク質過負電荷化の分泌増進技術がPseudomonas fluorescens微生物TliDEF輸送体に限定されず、TliDEFと27%程度の核酸配列同一性を有する多様なT1SS輸送体でも広範囲に適用できるのを確認した。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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