(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】脳由来神経栄養因子を発現する間葉系幹細胞およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220131BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220131BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20220131BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220131BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220131BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220131BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N5/10
C12N5/0775
C12N7/01
A61K38/22
A61P9/00
A61P9/10
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61K35/76
A61K35/28
(21)【出願番号】P 2020562062
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 KR2019001007
(87)【国際公開番号】W WO2019147036
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】10-2018-0008569
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520278413
【氏名又は名称】エスエルバイジェン インコ―ポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SLBIGEN INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヨンチョル
(72)【発明者】
【氏名】イ スンミン
(72)【発明者】
【氏名】ギム ヘヨン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102174578(CN,A)
【文献】国際公開第2017/135800(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105255836(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104593421(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0288160(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラサイクリン応答因子(tetracycline response elements;TRE)プロモーター遺伝子及び脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor,BDNF)タンパク質をコードする遺伝子を含
むレンチウイルスベクター
を備えたレンチウイルスでトランスフェクションされた不死化した間葉系幹細胞(MSC)。
【請求項2】
前記BDNFタンパク質が配列番号1のアミノ酸配列を
含む、請求項1に記載の
不死化した間葉系幹細胞。
【請求項3】
前記BDNFタンパク質をコードする遺伝子が配列番号2の塩基配列
を含む、請求項1に記載の組み換えレンチウイルスベクター。
【請求項4】
前記
不死化した間葉系幹細胞は、hTERTおよび/またはc-Myc遺伝子が導入されたものである、請求項
1に記載の
不死化した間葉系幹細胞。
【請求項5】
請求項
1~4のいずれか1項に記載の
不死化した間葉系幹細胞を含む神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記神経疾患が、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease,PD)、ルー・ゲーリック病(Amyotrophic Lateral Sclerosis,ALS)、脳梗塞、慢性脳損傷(chronic brain injury)、脊髄損傷、ハンチントン病(Huntington’s disease,HD)、レット症候群(Rett’s disease,RD)、虚血性脳疾患、脳卒中および外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)、多発性硬化症よりなる群から選ばれるものである、請求項
5に記載の神経疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
神経疾患の予防または治療
のための薬剤を製造するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の不死化した間葉系幹細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年1月24日に出願された韓国特許出願第10-2018-0008569号を優先権として主張し、前記明細書の全体は、本出願の参考文献である。
【0002】
本発明は、BDNF(brain-derived neurotrophic factor)タンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えレンチウイルスベクター、および前記ベクターを用いて製造されたレンチウイルスによりトランスフェクションされた細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)は、人体の脳、網膜、運動神経細胞、腎臓、唾液、前立腺などで発現し、脳の海馬(hippocampus)、大脳皮質(cerebral cortex)、視床下部(hypothalamus)、基底前脳(basal forebrain)などで発現する。BDNFは、長期記憶(long-term memory)において重要な部分を占めるが、学習が生じた動物においてBDNF mRNAは、脳の海馬部位で高い水準で発現する。このような海馬部位で発現が増加することは、学習水準も関連があると報告された。
【0004】
また、BDNFは、神経細胞の生成を促進するニューロトロフィンに対して最も優れた活性を示す物質である。実際にBDNFが遺伝的に完全に除去されたマウスの場合には、出生後に深刻な死亡率を示し、小脳、嗅球(olfactory bulb)、視覚皮質(visual cortex)と渦巻管(cochlear)などで神経細胞の損失が観察される。反面、部分的にBDNF遺伝子が除去された場合には、ニューロトロフィンの発現が減少して海馬部位の長期強化(long-term potentiation,LTP)と感覚および痛覚システムの変化が観察され、行動学的な問題とともに精神学的な問題まで観察される。
【0005】
一方、BDNFは、神経退行性疾患(neurodegenerative disorder)を治療するための薬の開発において標的物質として活用されている。BDNFが、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease,PD)、ハンチントン病(Huntington’s disease,HD)、ルー・ゲーリック病(Amyotrophic lateral sclerosis,ALS)のような神経退行性疾患に関与するという実験的な証拠は、1990年代初期から報告されてきた。多様な研究においてBDNFの遺伝子的異常が疾病と関連があると報告されたことがある。実際にこのような神経退行性疾患を有している患者では、BDNFの量が正常ヒトより減少している。特に、ハンチントン病と関連して、多様な細胞および動物実験を通じて、疾患が進行されれば、BDNFの輸送に問題が生ずるという点が報告された。減少したBDNFを外部に供給する方法を通じて疾患を治療しようとする試みがなされているが、現在まで効果的にBDNFを脳に伝達することが難しいという問題がある。
【0006】
なお、全世界的に細胞を用いた治療方法が開発されており、成体幹細胞を用いた細胞治療剤について多くの研究が進行中にある。成体幹細胞である間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cell;MSC)は、骨、軟骨、筋肉、脂肪、線維芽細胞などに分化しうる多能性(multipotent)細胞である。前記MSCは、骨髄、臍帯血、脂肪など多様な成体組織から比較的容易に得ることができる。MSCは、炎症または損傷部位に移動する特異性があるので、治療薬物を伝達するための伝達体としても大きい利点がある。また、T細胞、B細胞、樹枝状細胞および自然殺害細胞のような免疫細胞の機能を抑制したり活性化させて、人体の免疫機能を調節することができる。それだけでなく、MSCは、試験管内(in vitro)で比較的容易に培養することができるという利点がある。このような特性によって、MSCを細胞治療剤として用いるための研究が活発に進行されている。
【0007】
しかしながら、このようなMSCの利点にもかかわらず、細胞治療剤として臨床に使用できる等級のMSCを生産することは、に次のような問題がある。第一に、MSCの増殖には限界があるので、これを大量で生産し難い。第二に、収得したMSCは、多様な種類の細胞が混合されていて、生産時に同じ効果を維持し難い。第三に、MSCのみを用いる場合、治療効果が高くない。最後に、人体に注入されたMSCが体内で癌細胞になる可能性もある。
【0008】
なお、韓国登録特許第1585032号公報には、ハイドロゲルで培養した間葉系幹細胞を含有する細胞治療剤を開示している。前記文献には、細胞治療剤として使用するための間葉系幹細胞を分離する工程で前処理過程を短縮して、すぐに投与可能な組成物を提供しているが、前記のような間葉系幹細胞の問題点およびこれを解消するための方案については、全く言及していない。したがって、細胞治療剤として使用できる安全でかつ効果的な間葉系幹細胞に対する研究が必要である。
【0009】
特に、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor,BDNF)を発現するように、アデノウイルスを用いて間葉系幹細胞を形質転換させた研究が行われたことがある(Kari Pollock et al.,Molecular Therapy,vol.24 no.5:965-977,2016)。しかしながら、前記研究で使用された間葉系幹細胞は、組織から収得した一般的な間葉系幹細胞であって、MSCの増殖には限界があるため、大量生産しにくい問題点がある。それだけでなく、BDNF遺伝子の発現程度が均一でないため、生産時に同じ効果を期待し難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これより、本発明者らは、大量生産が可能であり、同じ効果を維持できる幹細胞治療剤を開発するために研究した結果、本発明のトランスフェクションされたMSCは160日以上継代培養(増殖)が可能であることを確認した。また、本発明のトランスフェクションされたMSCが160日以上BDNF遺伝子を安定的に発現し、このような間葉系幹細胞が神経細胞の保護および再生などの効果を示すことを確認することによって、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、BDNFタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えレンチウイルスベクターを提供する。
【0012】
また、本発明は、BDNFタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えレンチウイルスを提供する。
【0013】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスがトランスフェクションされた宿主細胞を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスを有効成分として含む神経疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0015】
しかも、本発明は、前記トランスフェクションされた宿主細胞を有効成分として含む神経疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスまたは前記組み換えレンチウイルスでトランスフェクションされた宿主細胞を個体に投与する段階を含む神経疾患の予防または治療方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスまたは前記組み換えレンチウイルスでトランスフェクションされた宿主細胞の神経疾患の予防または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のBDNFタンパク質を発現する間葉系幹細胞およびこれを有効成分として含む神経疾患の予防または治療用薬学組成物は、大量生産が可能であり、同じ効果を維持できる幹細胞治療剤としてBDNFを発現して神経細胞の保護および再生を誘導することによって、脳組織の形成を促進させ、神経系の機能を向上させる。また、本発明の間葉系幹細胞は、不死化した間葉系幹細胞であって、高い細胞増殖率を有し、異常分化および増殖の可能性が低いため、安全性が高い。したがって、本発明の薬学組成物は、神経疾患の予防または治療用薬学的組成物として有用に活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、不死化されたMSC(imMSC)と不死化しないMSC(MSC)の細胞増殖率を比較したグラフである:X軸:培養期間;およびY軸:累積細胞集団倍加数(population doubling level,PDL)。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例で製造した#1~#50のクローンのBDNFタンパク質発現量を示すグラフである。
【
図3】
図3は、BDNFタンパク質発現量に優れたクローンのドキシサイクリン存在の有無によるBDNFタンパク質発現量を示すグラフである。
【
図4】
図4は、BDNFタンパク質生産に優れた細胞クローンである#14、#22、#23および#41クローンの染色体分析結果を示す図である。
【
図5】
図5は、BDNFタンパク質を生産する菌株で選別した#14、#22、#23および#41クローンの140日間累積細胞集団倍加数を示すグラフである。
【
図6】
図6は、BM-01A細胞株の遺伝子操作以後のMSCが持つ固有な特性である表面抗原タンパク質CD90、CD44、CD105、CD73などの発現と骨髄由来MSCの表面抗原タンパク質の発現を比較して示すものである。
【
図7】
図7は、BDNF遺伝子を含むレンチウイルスでトランスフェクションされた不死化したMSCの細胞増殖率を確認したグラフである:X軸:培養期間;およびY軸:累積細胞集団倍加数(population doubling level,PDL)。
【
図8】
図8は、BM-01A細胞株の140日間継代培養時に形態学的に細胞の特性が維持されることを確認した図である。
【
図9】
図9は、ドキシサイクリン処理の有無によるBM-01A細胞株のBDNFタンパク質発現量を示すグラフである。
【
図10】
図10は、BM-01A細胞株の継代培養時に各継代別にBDNFタンパク質発現量が一定に維持されることを示す図である。
【
図11】
図11は、BM-01A細胞株に遺伝子が導入されたことを確認した図である。
【
図12】
図12は、キノリン酸(QA)の注入によるハンチントン病誘発ラット内側前脳束(lateral ventricle zone,LVZ)の体積変化を示す図である。
【
図13】
図13は、BM-01A細胞株をハンチントン病誘発ラットの脳に注入して一週間後に、脳内にBM-01A細胞株が存在するかを確認した図である。
【
図14】
図14は、ロータロッド実験(Rota-rod test)を通じてBM-01A細胞株の注入によるハンチントン病誘発ラットの行動改善効果を確認したグラフである。
【
図15】
図15は、歩行実験(Stepping test)を通じてBM-01A細胞株の注入によるハンチントン病誘発ラットの行動改善効果を確認したグラフである。
【
図16】
図16は、階段実験(Staircase test)を通じてBM-01A細胞株の注入によるハンチントン病誘発ラットの行動改善効果を確認したグラフである。
【
図17】
図17は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの脳組織内Iba-1およびED1を免疫染色した写真である。
【
図18】
図18は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの脳組織内ED1および炎症マーカーであるiNOSを免疫染色した写真である。
【
図19】
図19は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの脳組織内神経膠細胞を染色した写真である。
【
図20】
図20は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットのLVZの体積を撮影した写真である。
【
図21】
図21は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットのLVZの体積を測定したグラフである。
【
図22】
図22は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの線条体内の欠失部分を測定した写真である。
【
図23】
図23は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの線条体内の欠失部分の体積を測定したグラフである。
【
図24】
図24は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの線条体内の密度を測定した図である。
【
図25】
図25は、細胞の凍結剤形バッファーまたはBM-01A細胞株を注入した後、ハンチントン病誘発ラットの脳組織内DCXを免疫染色した写真である。
【
図26】
図26は、ロータロッド実験(Rota-rod test)を通じてBM-01A細胞株の注入による脳卒中誘発ラットの行動改善効果を確認したグラフである。
【
図27】
図27は、歩行実験(Stepping test)を通じてBM-01A細胞株注入による脳卒中誘発ラットの行動改善効果を確認したグラフである。
【
図28】
図28は、修正された神経学的重症度スコア実験(Modified neurological severity scores test)を通じてBM-01A細胞株の注入による脳卒中誘発ラットの行動改善効果を確認したグラフである。
【
図29】
図29は、細胞の凍結乾燥剤形(vehicle)またはBM-01A細胞株を注入した後、脳卒中誘発ラットの神経膠瘢痕部位を染色した写真である。
【
図30】
図30は、細胞の凍結乾燥剤形(vehicle)またはBM-01A細胞株を注入した後、脳卒中誘発ラットの皮質と線条体部位での瘢痕面積の減少を測定したグラフである。
【
図31】
図31は、細胞の凍結乾燥剤形(vehicle)またはBM-01A細胞株を注入した後、脳卒中誘発ラットの皮質と線条体部位での瘢痕厚さの減少を測定したグラフである。
【
図32】
図32は、BM-01A細胞株の遺伝子操作後にも腫瘍原性がないことを確認したグラフである。
【
図33】
図33は、BM-01A細胞株を注入した10週目のハンチントン病誘発ラットの脳組織内BM-01A細胞株の生存有無を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、BDNFタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えレンチウイルスベクターを提供する。
【0022】
本明細書において使用される用語「脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor,BDNF)」タンパク質は、脳に最も豊富に分布しているニューロトロフィン(neurotrophin)である。これは、 ニューロン(neuron)の成長を促進し、神経伝達物質の合成、代謝、遊離およびニューロンの活性を調節すると知られている。また、BDNFタンパク質は、うつ病患者の前頭葉皮質または海馬で減少し、その濃度を増加させて、うつ病を治療できることが知られている。
【0023】
本発明によるBDNFタンパク質は、ヒト由来のタンパク質でありうる。前記タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドでありうる。前記BDNFタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列と約80%、90%、95%または99%以上の相同性を有することができる。一方、前記BDNFタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号2の塩基配列でありうる。また、前記BDNFタンパク質をコードする塩基配列は、配列番号2の塩基配列と約80%、90%、95%または99%以上の相同性を有することができる。
【0024】
本明細書において使用される用語「レンチウイルスベクター」は、レトロウイルスの一種である。前記ベクターは、レンチウイルストランスファーベクターと混用して称されることがある。前記レンチウイルスベクターは、感染対象である細胞のゲノムDNAに挿入されて安定的に遺伝子を発現させる。また、前記ベクターは、分裂細胞および非分裂細胞に遺伝子を伝達することができる。前記ベクターは、人体の免疫反応を誘導しないので、発現が持続的である。また、従来使用されるウイルスベクターであるアデノウイルスベクターに比べて大きいサイズの遺伝子も伝達可能であるという利点がある。
【0025】
本発明の組み換えレンチウイルスベクターは、プロモーターにより、これに積載された遺伝子の発現を調節することができる。前記プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒト伸長因子-1アルファ(human elongation factor-1 alpha,EF-1α)またはテトラサイクリン応答因子(tetracycline response elements;TRE)プロモーターでありうる。一実施例によれば、組み換えレンチウイルスベクターは、一つのプロモーターによりBDNFタンパク質の発現を調節することができる。前記プロモーターは、発現させようとするタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結される。
【0026】
一実施例によれば、前記BDNFタンパク質は、TREプロモーターに連結され得る。前記TREプロモーターは、tTA(tetracycline transactivator)タンパク質によりプロモーターと連結された遺伝子の転写を活性化させることができる。具体的に、tTAタンパク質は、テトラサイクリン(tetracycline)またはドキシサイクリン(doxycycline)が存在しないとき、TREプロモーターに結合して転写を活性化させる。反面、これらが存在する場合には、tTAタンパク質がTREプロモーターに結合しないので、転写を活性化させない。したがって、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンの存在有無によってBDNFタンパク質の発現を調節することができる。
【0027】
前記用語「作動可能に連結された」は、特定のポリヌクレオチドがその機能を発揮することができるように、他のポリヌクレオチドに連結されたことを意味する。すなわち、特定タンパク質をコードする遺伝子がプロモーターに作動可能に連結されたというのは、当該プロモーターにより遺伝子がmRNAに転写されてタンパク質に翻訳され得ることを意味する。
【0028】
本発明は、BDNFタンパク質をコードする遺伝子を含む組み換えレンチウイルスを提供する。
【0029】
前記組み換えレンチウイルスは、本発明のレンチウイルスベクター、パッケージング(packaging)プラスミドおよびエンベロープ(envelope)プラスミドで宿主細胞を形質転換させる段階;および形質転換された宿主細胞からレンチウイルスを分離する段階を通じて収得することができる。
【0030】
前記用語「パッケージングプラスミド(packaging plasmid)」および「エンベローププラスミド(envelope plasmid)」は、タンパク質をコードする遺伝子が積載されたプラスミドである。これらのプラスミドは、レンチウイルスベクターの他に、レンチウイルスを生産するために必要なヘルパー構造物(例えば、プラスミドまたは単離された核酸)を提供することができる。このような構造物は、宿主細胞でレンチウイルスベクターを製造し、これをパッケージングするのに有用な要素を含有する。前記要素としては、GAG前駆体のような構造タンパク質;pol前駆体のようなプロセッシングタンパク質;プロテアーゼ、外皮タンパク質、および宿主細胞でタンパク質を製造し、レンチウイルス粒子を生産するのに必要な発現および調節信号などを含むことができる。
【0031】
組み換えレンチウイルスの生産には、Clonetech Laboratories社のLenti-X Lentiviral Expression Systemや、Addgene社で提供するパッケージングプラスミド(例えば、pRSV-Rev、psPAX、pCl-VSVG、pNHPなど)またはエンベローププラスミド(例えば、pMD2.G、pLTR-G、pHEF-VSVGなど)を使用することができる。
【0032】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスがトランスフェクションされた宿主細胞を提供する。
【0033】
前記用語「形質導入(transduction)」は、ウイルス感染を通じて組み換えレンチウイルスベクターにロードされた遺伝子を伝達することを意味する。
【0034】
本発明による宿主細胞は、ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell,hES)、骨髄幹細胞(bone marrow stem cell,BMSC)、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)、ヒト神経幹細胞(human neural stem cell,hNSC)、輪部幹細胞(limbal stem cell)または経口粘膜上皮細胞(oral mucosal epithelial cell)でありうる。本発明の一実施例によれば、前記宿主細胞は、間葉系幹細胞でありうる。
【0035】
前記用語「間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)」は、骨細胞、軟骨細胞および脂肪細胞を含む多様な細胞に分化し得る多分化能の間質細胞をいう。間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋、神経組織、線維芽細胞および筋肉細胞など具体的な臓器の細胞に分化し得る。これらの細胞は、脂肪組織、骨髄、末梢神経、血液、臍帯血、骨膜、真皮、中胚葉由来の組織などから分離または精製され得る。
【0036】
本発明によるトランスフェクションされた宿主細胞は、不死化したものでありうる。具体的に、前記宿主細胞は、hTERTおよび/またはc-Myc遺伝子が導入されたものでありうる。
【0037】
また、本発明によるトランスフェクションされた宿主細胞は、チミジンキナーゼ(thymidine kinase,TK)遺伝子をさらに含むことができる。
【0038】
本発明において使用する用語「チミジンキナーゼ」とは、ATPのγ位置のリン酸をチミジンに結合させて、チミジンは、三リン酸の形態に変形され、チミジル酸を生成する反応を触媒する酵素を意味する。変形されたチミジンは、DNA複製に使用されることができず、したがって、これを含む細胞の死滅を誘導するものと知られている。前記TKタンパク質は、公知の配列であれば、いずれも使用が可能である。一実施例によれば、前記TKタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチドでありうる。一方、前記TKタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号4の塩基配列を有するポリヌクレオチドでありうる。
【0039】
本発明において使用する用語「hTERT」とは、テロメラーゼ逆転写酵素を意味する。前記テロメラーゼ逆転写酵素は、テロメラーゼのRNA鋳型を相補的DNAを合成して、RNA-DNAハイブリッド形態を成した後、二重鎖のDNAになって、宿主細胞の染色体に挿入される。これにより、前記宿主細胞は、テロメアの代わりに、テロメラーゼが染色体の末端小粒に付着してテロメアを続いて生成することになって、不滅化した細胞を形成することができる。
【0040】
本発明において使用する用語「c-Myc」とは、ヒトの8番染色体に位置する転写因子をコードする遺伝子を意味する。細胞内遺伝子約15%の発現を調節するc-Mycにコードされたタンパク質は、転写調節因子(transcription factor)であって、前記転写調節因子が過発現する場合、細胞活性および増殖が促進される。
【0041】
前記宿主細胞は、次のような方法で製造され得る:
1)宿主細胞にhTERTおよび/またはc-Myc遺伝子を含むレンチウイルスを1次感染させる段階;
2)1次感染した宿主細胞にtTA遺伝子を含むレンチウイルスを2次感染させる段階;
3)2次感染した宿主細胞にBDNF遺伝子を含むレンチウイルスを3次感染させる段階。
【0042】
前記段階1)でhTERTおよび/またはc-Mycは、宿主細胞を不死化させる遺伝子であって、前記hTERTおよび/またはc-Mycのほかに不死化遺伝子と知られた他の遺伝子も使用可能である。一実施例によれば、前記hTERTおよびc-Mycタンパク質は、それぞれ、配列番号7および配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドでありうる。一方、前記hTERTおよびc-Mycタンパク質をコードする遺伝子は、それぞれ、配列番号8および配列番号6の塩基配列を有するポリヌクレオチドでありうる。
【0043】
前記段階2)でtTAは、標的タンパク質の発現を調節できる遺伝子であって、テトラサイクリントランスアクチベーターを意味する。本発明において使用されたTet-offシステムは、前述したような方法でテトラサイクリンまたはドキシサイクリンの存在有無によって標的タンパク質の発現を調節することができる。
【0044】
本発明のBDNFを発現する間葉系幹細胞は、TREプロモーターによりex vivoでドキシサイクリン処理前に比べて100倍以上、110倍以上、120倍以上、150倍以上でBDNFタンパク質を発現することを特徴とする。
【0045】
本発明は、前述したような組み換えレンチウイルスまたはトランスフェクションされた宿主細胞を有効成分として含む神経疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0046】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスまたは前記組み換えレンチウイルスでトランスフェクションされた宿主細胞を個体に投与する段階を含む神経疾患の予防または治療方法を提供する。
【0047】
また、本発明は、前記組み換えレンチウイルスまたは前記組み換えレンチウイルスでトランスフェクションされた宿主細胞の神経疾患の予防または治療用途を提供する。
【0048】
本発明の組み換えレンチウイルスまたは宿主細胞は、BDNFの発現を通じて神経保護効果を示すことができるので、多様な中枢神経障害の治療に使用され得る。
【0049】
前記神経疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease,PD)、ルー・ゲーリック病(Amyotrophic Lateral Sclerosis,ALS)、脳梗塞、慢性脳損傷(chronic brain injury)、虚血性脳疾患、脊髄損傷、ハンチントン病(Huntington’s disease,HD)、レット症候群(Rett’s disease,RD)、脳卒中、多発性硬化症、外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)、および勃起不全よりなる群から選ばれる。
【0050】
前記薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。前記担体は、薬品の製造時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどを含むことができる。
【0051】
また、本発明の薬学組成物は、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤およびこれらの組合せよりなる群から選ばれる薬学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができる。
【0052】
前記担体は、本発明の薬学組成物の総重量を基準として約1重量%~約99.99重量%、好ましくは約90重量%~約99.99重量%で含まれ得、前記薬学的に許容可能な添加剤は、約0.1重量%~約20重量%で含まれ得る。
【0053】
前記薬学組成物は、通常の方法によって、薬学的に許容される担体および賦形剤を用いて製剤化することによって、単位用量の形態で製造されたり、または多用量容器内に内入させて製造され得る。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液の形態であるか、または、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であり得、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0054】
また、本発明は、本発明の薬学組成物を個体に投与する段階を含む、前述したような神経疾患を予防または治療する方法を提供する。
【0055】
前記個体は、哺乳動物、具体的にヒトでありうる。前記薬学組成物の投与経路および投与量は、患者の状態および副作用の有無によって多様な方法および量で対象に投与され得、最適な投与方法および投与量は、通常の技術者が適切な範囲で選択することができる。また、前記薬学組成物は、治療しようとする疾患に対して治療効果が公知の他の薬物または生理学的活性物質と併用して投与されたり、他の薬物との組合せ製剤の形態で剤形化され得る。
【0056】
前記薬学組成物を非経口的に投与する場合、その例としては、皮下、目、腹腔内、筋肉内、口腔、直腸、眼窩内、脳内、頭蓋内(intracranial)、脊椎内、脳室内、髄腔内、鼻内、静脈内投与がある。
【0057】
前記投与は、1回以上、1~4回投与され得、具体的に2回に分けて投与され得る。これを反復投与する場合には、12~48時間、24~36時間間隔、1週、2週~4週間隔で投与することができ、具体的には、24時間または1週以上の間隔で投与することができる。前記投与は、レンチウイルスの場合、成人基準1日1.0×106~1.0×1012TU、具体的に1.0×108~1.0×1010TUの量で投与され得る。一方、細胞の場合、成人基準1日1.0×105~1.0×1011cells、具体的に1.0×107~1.0×109cellsの量で投与され得る。投与量が多い場合には、一日に数回にかけて投与され得る。
【0058】
以下、本発明を下記実施例により詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明がこれらにより制限されるものではない。
【0059】
実施例1.不死化した間葉系幹細胞(MSC)の製造
実施例1.1.不死化遺伝子を含むレンチウイルスベクターの製造
MSCを不死化させるために、不死化遺伝子であるc-Mycおよび/またはhTERTをそれぞれ含むレンチウイルスベクターを製造した。この際、Tet-offシステムを使用するために、tTAタンパク質を発現する遺伝子コンストラクトを共に挿入した。
【0060】
まず、pWPTベクター(Addgene、米国)の発現カセット内にEFプロモーターをCMVプロモーターで置換し、その下位にRSVプロモーターを追加連結して、pBDレンチウイルスベクターを製作した。
【0061】
前記pBDレンチウイルスベクターに、c-Myc遺伝子(配列番号6)およびチミジンリン酸化酵素(thymidine kinase,TK)遺伝子(配列番号4)をIRESで連結して、CMVプロモーターにより発現が調節され得るように挿入した。前記製作されたベクターは、pBD-1と命名した。
【0062】
一方、pBDレンチウイルスベクターに、hTERT遺伝子(配列番号8)をCMVプロモーターにより発現が調節され得るように挿入した。これに、ゼオシン(zeocin)に対する抵抗性を有する遺伝子(ZeoR;配列番号14)は、RSVプロモーターにより発現が調節され得るように挿入した。前記製作されたベクターは、pBD-2と命名した。
【0063】
また、pBDレンチウイルスベクターに、tTA(tetracycline trans activator)遺伝子(配列番号10)をCMVプロモーターにより発現が調節され得るように挿入した。これにピューロマイシン(puromycin)に対する抵抗性を有する遺伝子(PuroR;配列番号12)は、RSVプロモーターにより発現が調節され得るように挿入した。前記製作されたベクターは、pBD-3と命名した。
【0064】
実施例1.2.不死化遺伝子を含むレンチウイルスの生産
前記実施例1.1.で製作されたレンチウイルスベクターを用いて、次のような方法で不死化遺伝子を含むレンチウイルスを生産した。
【0065】
まず、レンチ-X細胞(Clontech Laboratories、米国)は、10%ウシ胎児血清が含まれたDMEM培地を使用して150mmディッシュ(dish)に培養した。一方、レンチウイルスベクターは、EndoFree Plasmin Maxi Kit(Qiagen、米国)を使用してDH5α大腸菌細胞から抽出および定量した。
【0066】
前記培養されたレンチ-X細胞をPBSで洗浄した後、3mlのTrypLETM Select CTSTM(Gibco、米国)を添加した。細胞を37℃で約5分間放置した後、細胞が脱離されたことを確認した。脱離された細胞を7mlの10%ウシ胎児血清が含まれたDMEM培地を添加して中和させた。中和した細胞は、50mlチューブに集めて1,500rpmで5分間遠心分離した。上澄み液を除去し、10mlの10%ウシ胎児血清が含まれたDMEM培養培地を添加して細胞を再懸濁した。
【0067】
懸濁された細胞は、ヘモサイトメーターでその数を測定した後、150mmディッシュに1.2×107個の細胞になるように分注した。前記分注された細胞の細胞飽和度が約90%程度に培養されたとき、12μgのレンチウイルスベクター、12μgのpsPAX(Addgene;gag-pol発現、パッケージングプラスミド)および2.4μgのpMD.Gプラスミド(Addgene;vesicular stomatitis virus G protein,VSV-G発現、エンベローププラスミド)混合物を前記細胞に形質導入した。形質導入を助けるために、リポフェクタミン(Invitrogen、米国)とプラス試薬(Invitrogen、米国)を使用した。形質導入6時間後、10%ウシ胎児血清が含まれたDMEMに培地を交換した。これを48時間追加培養した後、上澄み液を集めた。
【0068】
前記収得された上澄み液をレンチウイルス濃縮キット(Lenti-X concentrator,Clontech Laboratories、米国)と混合した後、4℃で一晩中培養した。これを4℃、4,000rpmの条件で2時間遠心分離してウイルスを収得し、これをFBSが含まれていない0.5mlのDMEMに再懸濁した。その結果、pBD-1、pBD-2およびpBD-3レンチウイルスベクターから生産されたレンチウイルスをそれぞれ4.0×108TU/ml、2.0×108TU/mlおよび1.2×109TU/mlの濃度で準備した。
【0069】
実施例1.3.不死化した間葉系幹細胞の製造
前記実施例1.2.で生産された不死化遺伝子を含むレンチウイルスを使用して、不死化したMSCを製造した。
【0070】
まず、骨髄由来MSCを次のような方法で準備した。具体的に、健康なドナー(donor)の腸骨稜(iliac crest)から骨髄穿刺液(bone marrow aspirate)を収得した。これを滅菌コンテナで20IU/mlのヘパリンと混合して凝固を抑制した。前記骨髄混合液を4℃、739Gの条件で7分間遠心分離した後、上澄み液を除去し、10倍体積の滅菌された水と混合した。これを同じ条件でさらに遠心分離して、細胞のペレットを収得した。収得されたペレットを20%のFBSおよび5ng/mlのb-FGF(100-18B、Peprotech、米国)が含まれたDMEM-low glucose(11885-084、Gibco、米国)培地に懸濁して、培養フラスコに分注した。これを37℃、5%CO2条件で24~48時間培養した後、新しい培地に交替した。これを3~4日間隔で新しい培地に交替しつつ継代培養し、培養2週後に蛍光細胞分析器を使用してMSCの有無を確認した。
【0071】
前記実施例1.2.で生産されたpBD-1レンチウイルスで前記準備されたMSCをレトロネクチン(Retronectin,Clontech Laboratories、米国)を使用して100MOIで感染させた。感染した細胞に前述したことと同じ方法で、pBD-2レンチウイルスベクターを100MOIで感染させた。感染後、細胞を安定化させた後、培養液に500μg/mlのゼオマイシンを添加してpBD-2レンチウイルスが感染した細胞を選別した。
【0072】
前記選別された細胞にpBD-3レンチウイルスベクターを100MOIで感染させた。感染後、安定化された細胞の培養液に1μg/mlのピューロマイシンを添加してpBD-3レンチウイルスが感染した細胞を選別した。その結果、不死化遺伝子を含むMSCおよびそうでないMSCの細胞増殖率を
図1に示した。
【0073】
図1に示されたように、不死化遺伝子であるc-MycおよびhTERTを含むレンチウイルスにより感染したMSC細胞は、培養120日以後にも高い細胞増殖率を維持した。反面、正常MSC細胞は、培養40日以後には、細胞増殖率が急激に減少した。
【0074】
実施例2.BDNF遺伝子を含むレンチウイルスの製作
実施例2.1.BDNF遺伝子を含むレンチウイルスベクターの製作
前記実施例1.1.で製作したpBDレンチウイルスベクターに、BDNF遺伝子(配列番号2)を挿入した。
【0075】
まず、BDNF発現に及ぼすプロモーターの影響を確認するために、CMVプロモーターとTREプロモーターを使用してBDNF遺伝子が発現するようにレンチウイルスベクターを製造し、これを用いてBDNF遺伝子を発現するMSCを製造した。その結果、CMVプロモーターが適用された細胞株の場合、長期継代培養時にBDNFを発現するMSCが形態学的に変化し、継代培養が進行されるほどBNDFの発現率が減少することを確認した。
【0076】
これにより、BNDF遺伝子をTREプロモーターにより発現が調節されるように挿入した。TREプロモーターは、ドキシサイクリンの添加有無によって前記プロモーターと連結された遺伝子の発現を調節することができる。
【0077】
実施例2.2.BDNF遺伝子を含むレンチウイルスの生産
前記実施例2.1で製作されたBDNF遺伝子を含むレンチウイルスベクターを用いて、前記実施例1.2.に記載されたことと同じ方法でレンチウイルスを生産した。生産されたレンチウイルスは、1.4×1012copies/mlの濃度で準備した。
【0078】
実施例3.BDNF遺伝子を含むレンチウイルスがトランスフェクションされたMSCの製造
前記実施例1.3.で製造した不死化したMSCに、前記実施例2.2.で生産したBDNF遺伝子を含むレンチウイルスを感染させて、BDNF遺伝子を発現する細胞を製造した。形質導入は、実施例1.3.に記載されたことと同じ方法で行った。感染後、細胞を安定化させた後、培養液に500μg/mlのG418を添加してpBD-4レンチウイルスが感染した細胞を選別した。選別された細胞は、1μg/mlのドキシサイクリン(doxycycline、631311、Clontech、米国)が添加された培地で培養することによって、培養中にBDNFタンパク質の発現を抑制させた。
【0079】
前記選別された細胞がコロニーを形成するように培養した。ヒトBDNF DuoSet ELISAキット(R&D systems,DY248,米国)でBDNFタンパク質発現有無を確認して形成された#1~#50のクローンのうちBDNFタンパク質を発現する#10、#12、#14、#18、#20、#22、#23、#26、#29および#41クローンを選別した(
図2)。その後、ドキシサイクリン処理時にBDNFタンパク質を発現しない#14、#22、#23および#41クローンを選別した(
図3)。前記4個のクローンをEONE医療財団に染色体分析を依頼して確認した。いずれも、正常な染色体形態を示し、140日間細胞増殖能を確認した(
図4および
図5)。その結果、安定した増殖パターンを示し、最も発現量に優れた#41クローンをBM-01A細胞株と命名し、後続実験を進めた。BM-01A細胞株は、2018年12月14日付で韓国生命工学研究院の生物資源センターに寄託番号KCTC 13778BPとして寄託した。
【0080】
実験例1.BM-01A細胞株で表面抗原タンパク質発現の確認
遺伝子を挿入する前の骨髄由来MSCとBDNF遺伝子が挿入されたBM-01A細胞株の表面抗原タンパク質発現をヒトMSC分析キット(Stemflow
TM,Cat No 562245,BD)を用いて分析した。実験は、各キットに含まれているマニュアルによって行われ、実験結果を
図6に示した。
【0081】
図6に示されたように、BM-01A細胞株は、BDNFを発現させるための遺伝子操作を経た後にも、MSCが持っている固有な特性である表面抗原タンパク質であるCD90、CD44、CD105、およびCD73の発現が骨髄由来MSCと類似していることを証明した。
【0082】
実験例2.BM-01A細胞株の増殖率の確認
前記実施例3.で確立したBM-01A細胞株の増殖率を確認した。
【0083】
T175フラスコに1.2×106~13.0×106個のBM-01A細胞株を接種して3日または4日間培養を進め、PDL(Population Doubling Level)と細胞生存率を測定した。PDLは、「PDL=X+3.222(logY-logI)」公式により計算し、Xは、初期PDL、Iは、血管に接種された初期細胞数、Yは、最終細胞数を示した。
【0084】
T175フラスコに1.2×106~13.0×106個のBM-01A細胞株を接種して3日または4日間培養を進め、PDL(Population Doubling Level)と細胞生存率を測定した。PDLは、「PDL=X+3.222(logY-logI)」公式により計算し、Xは、初期PDL、Iは、フラスコに接種された初期細胞数、Yは、最終細胞数を示した。
【0085】
実験例3.継代培養によるBM-01A細胞株の形態学的確認
前記実施例3.で確立したBM-01A細胞株の継代培養による形態学的変形を確認するために、実験例1.でBM-01A細胞株の増殖率を確認し、顕微鏡で細胞の写真を撮影した。
【0086】
その結果、BM-01A細胞は、140日以上長期継代培養をしても、形態学的に変化がないことを確認した(
図8)。
【0087】
実験例4.BM-01A細胞株でBDNFタンパク質の発現確認
前記実施例3.で確立したBM-01A細胞でBDNFタンパク質の発現をELISA分析方法で確認した。具体的に、BDNFタンパク質の発現水準は、ヒトBDNF DuoSet ELISAキットで確認した。実験は、各キットに含まれているマニュアルによって行われた。
【0088】
実験結果、ドキシサイクリンを除去した培地とドキシサイクリンを除去しない培地において約1×10
5個の細胞から48時間発現が誘導されたBDNFタンパク質の発現水準を
図9に示した。ドキシサイクリンが存在する培地では、約1.6ngのBDNFが検出された反面、ドキシサイクリンを除去した培地では、約380ngのBDNFが検出された。
【0089】
【0090】
前記表1のように、本発明のBM-01A細胞株で約380ng/10
5cellsのBDNFタンパク質が発現することを確認した(表1)。また、確立されたBM-01A細胞株の継代別BDNFタンパク質発現量をヒトBDNF ELISAキットで測定した。その結果、BDNFタンパク質発現量が一定に維持されることを確認した(
図10)。
【0091】
実験例5.BM-01A細胞株でBDNF導入遺伝子の確認
前記実施例3.で製造したBM-01A細胞株に遺伝子が導入されたかを確認するためにPCRを行った。具体的に、前記BM-01A細胞株を9mlのPBSが含まれた15mlチューブに移した後、1,500rpmで5分間セルダウン(Cell Down)させた。PBSを完全に除去した後、1.5mlチューブに200μlのPBSでペレットを懸濁させた後に移した。その後、NucleoSpin(登録商標)Tissue(MN、740952.250)を用いてgDNAを準備し、下記表2のように混合物を作った後、下記表3の段階でPCRを行った。この際、陽性対照群として100ngのBM-01AプラスミドDNAを、陰性対照群として1μlの精製水を入れた。前記BM-01AプラスミドDNAは、韓国特許公開第2017-0093748号に記載された方法によって分離精製することができる。
【0092】
【0093】
【0094】
1%(v/v)アガロースゲルを電気泳動キットに入れた。一番目のウェルに10μlのDNA Size Markerをローディングし、次のウェルから陰性対照群、陽性対照群、3個のBM-01A検体の順にそれぞれ10μlずつローディングした。以後、100Vで20分間電気泳動を実施し、ゲル写真を撮って、その結果を
図11に示した。
図11に示されたように、3個のBM-01A細胞株が全部陽性対照群と同じサイズ(1.0kb)のPCRプロダクトを確認した。
【0095】
実験例6.BM-01A細胞株の神経細胞の保護および治療効果の確認
実験例6.1.ハンチントン病誘発ラットの製作
神経毒素であるキノリン酸(quinolinic acid,QA)を右側の内側前脳束(AP+1.0、ML -2.5、DV -5.0)に120nmol/2μlの濃度で0.2μl/分の速度で注入して、急性ハンチントン病誘発ラットを製作した。製作された急性ハンチントン病動物モデルの確認のために、QA注入2週後にDARPP-32抗体(1:100、Cell Signaling)を使用して免疫染色を行った後、LVZ(lateral ventricle zone)の体積を測定した。
【0096】
図12に示されたように、QA注入後に脳の萎縮によってLVZの体積が増加したことを確認した。
【0097】
実験例6.2.BM-01A細胞株の注入
実験例6.1.で製作したハンチントン病誘発ラットの内側前脳束2部位(AP 1.5、ML -3.0、DV -5.5および-4.5)に1×106cells/1μlの濃度のBM-01A細胞株を0.2μl/分の速度で注入した。対照群には、培養培地を同じ用量で注入した。注入1週後にhNu免疫染色を実施して、BM-01A細胞株の存在を確認した。
【0098】
実験例6.2.BM-01A細胞株の注入
実験例6.1.で製作したハンチントン病誘発ラットの内側前脳束2部位(AP 1.5、ML -3.0、DV -5.5および-4.5)に1×106cells/1μlの濃度のBM-01A細胞株を0.2μl/分の速度で注入した。対照群には、凍結剤形バッファーを同じ用量で注入した。注入1週後にhNu免疫染色を実施して、BM-01A細胞株の存在を確認した。
【0099】
実験例6.3.行動改善効果の確認
BM-01A細胞株の注入によるハンチントン病誘発ラットの行動改善効果を確認するために、BM-01A注入3週前から1週間ラットを訓練させた。BM-01A注入2週間前に正常ラットの行動実験値を測定し、BM-01A注入1週間前にQAを注入してハンチントン病を誘発した。行動実験は、ロータロッド実験(Rota-rod test)、歩行実験(Stepping test)および階段実験(Staircase test)を実施した。
【0100】
まず、基本的な感覚運動能力を確認するロータロッド実験を進めた。ロータロッド実験は、次第に増加する速度で回転する円筒からマウスが落ちるのにかかる時間を測定する方式で進めた。また、ロータロッド実験は、QA注入前、BM-01A注入直後、BM-01A注入後2週、4週、6週、8週、10週目に実施した。その結果、BM-01A注入2週後から対照群よりBM-01A細胞株を注入した実験群が円筒から落ちるのにさらに長時間がかかり、時間が経過するにつれて対照群と実験群の落ちるのにかかる時間の差異が増加した(
図14)。
【0101】
また、歩行実験は、ラットの片方の手を固定した後、他方の手でテーブルをタッチする回数を測定する方式で進めた。歩行実験は、QA注入2週間前、BM-01A注入直後、BM-01A注入後2週、4週、6週、8週、10週目に実施した。その結果、BM-01A注入2週後から対照群よりBM-01A細胞株を注入した実験群のテーブルタッチ回数が多く、時間が経過するにつれて対照群と実験群のテーブルタッチ回数の差異が増加した(
図15)。
【0102】
また、階段実験は、階段が設置された所定のボックス内に餌を5個ずつ階段にセットした後、手を使用して15分間摂取するようにし、残った餌の個数を測定して、摂取した餌の個数を計算する方式で進めた。階段実験は、QA注入2週間前、BM-01A注入直後、BM-01A注入後2週、4週、6週、8週、10週目に実施した。その結果、BM-01A注入2週後から対照群よりBM-01A細胞株を注入した実験群の摂取した餌の個数が多く、時間が経過するにつれて対照群と実験群の摂取した餌の個数の差異が増加した(
図16)。
【0103】
実験例6.4.抗炎症効果の確認
実験例6.2.で製作した10週目の対照群および実験群ラットを犠牲にさせた。ラットの脳に4%(v/v)パラホルムアルデヒドを灌流して固定させた。クリオスタット(cryostat,Microm,Germany)を使用して40μmの凍結冠状切片(frozen coronal section)を準備した。
【0104】
前記切片を休止期の小膠細胞(microglia)と活性化した小膠細胞を染色するために、ウサギ-抗-マウスIba-1抗体およびAlexa-647が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体を使用して染色した。その後、活性化した小膠細胞を確認するために、ウサギ-抗-マウスED1(CD68)抗体およびAlexa-488が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体(ED1)を使用して染色した。その後、引き続いてDAPI(4,6-diamidino-2-phenylindole)で染色した後、共焦点レーザー-走査顕微鏡イメージングシステム(LSM510,Carl Zeiss,Inc.)を使用して写真を撮影した。その結果、BM-01A細胞株を注入した実験群において対照群より少ない活性化した小膠細胞が観察された(
図17)。
【0105】
また、前記切片をウサギ-抗-マウスED1(CD68)抗体およびAlexa-488が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体(ED1)を使用して染色した。その後、活性化した小膠細胞のうち炎症マーカーであるiNOSを発現する細胞を確認するために、ウサギ-抗-マウスiNOS抗体およびAlexa-647が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体を使用して染色した。引き続いて、DAPIで染色した後、共焦点レーザー-走査顕微鏡イメージングシステムを使用して写真を撮影した。その結果、BM-01A細胞株を注入した実験群において活性化した小膠細胞のiNOS発現量が減少したことを確認した(
図18)。
【0106】
実験例6.5.神経膠症減少効果の確認
実験例6.2.で10週目の対照群および実験群ラットを犠牲にさせた。マウスの脳に4%(v/v)パラホルムアルデヒドを灌流して固定させた。クリオスタットを使用して40μmの凍結冠状切片を準備した。
【0107】
前記切片を神経膠細胞が特徴的に発現するグリア線維酸性タンパク質(Glial fibrillary acidic protein,GFAP)をウサギ-抗-マウスGFAP抗体およびAlexa-488が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体を使用して染色した。引き続いて、DAPIで染色した後、共焦点レーザー-走査顕微鏡イメージングシステムを使用して写真を撮影した。
【0108】
その結果、BM-01A細胞株を注入した実験群において対照群より少ない神経膠細胞が観察された(
図19)。
【0109】
実験例6.6.神経細胞保護効果の確認
実験例6.2.で10週目の対照群および実験群ラットを犠牲にさせた。ラットの脳に4%(v/v)パラホルムアルデヒドを灌流して固定させた。クリオスタットを使用して40μmの凍結冠状切片を準備した。DARPP-32抗体を使用して免疫染色した後、LVZの体積、線条体(striatum)内の欠失(deletion)部分の体積および線条体内の密度を測定した。その結果、BM-01Aを注入した実験群においてLVZの体積が減少した(
図20および
図21)。また、BM-01Aを注入した実験群においてQA注入で線条体内欠失部分の体積が減少し、線条体内の密度が増加したことを確認した(
図22~
図24)。
【0110】
また、神経発生のマーカータンパク質であるDCX(Doublecortin)の発現量の変化を確認するために、前記準備した切片にウサギ-抗-マウスDCX抗体およびAlexa-647が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体を使用して染色した。共焦点レーザー-走査顕微鏡イメージングシステムを使用して写真を撮影した。その結果、BM-01A細胞株を注入した実験群のDCX発現量が増加したことを確認した(
図25)。
【0111】
実験例7.慢性脳卒中誘発実験動物でBM-01A細胞株の神経細胞保護および治療効果の確認
実験例7.1.慢性脳卒中誘発ラットの製作
BM-01A細胞株の投与による慢性脳卒中誘発ラットの行動改善効果を確認するために、BM-01A投与5週間前から1週間マウスを訓練させた。BM-01A投与4週間前に正常ラットを対象として中大脳動脈閉塞症(middle carotid artery occlusion;MACo)実験を通じて脳卒中を誘発した。
【0112】
実験例7.2.行動改善効果の確認
BM-01A細胞株の注入による脳卒中誘発ラットの行動改善効果を確認するために、BM-01A注入3週前から1週間マウスを訓練させた。BM-01A注入3週および1週間前に2回にかけた行動実験を通じて正常マウスの行動実験値を測定し、行動実験を通じて脳卒中が誘発されたラットを選別し、BM-01Aを用量(dose)別に脳内投与した後、さらに4回の行動実験を実施して、総6回の行動実験を通じて行動実験値を測定した。行動実験は、ロータロッド実験(Rota-rod test)、歩行実験(Stepping test)および修正された神経学的重症度スコア実験(Modified neurological severity scores test;mNSS)を実施した。
【0113】
まず、基本的な感覚運動能力を確認するロータロッド実験を進めた。ロータロッド実験は、次第に増加する速度で回転する円筒からマウスが落ちるのにかかる時間を測定する方式で進めた。実験は、MCAoモデリング1週前、MCAoモデリング直後、3週後、BM-01A投与後2週、5週、8週、12週目に実施した。その結果、BM-01A注入5週後から対照群より1×10
6個のBM-01A細胞株を投与した実験群が円筒から落ちるのにさらに長時間がかかり、時間が経過するにつれて対照群と実験群の落ちるのにかかる時間の差異が増加した(
図26)。
【0114】
また、歩行実験は、マウスの片方の手を固定した後、他方の手でテーブルをタッチする回数を測定する方式で進めた。歩行実験は、MCAoモデリング1週前、MCAoモデリング直後、3週後、BM-01A投与後2週、5週、8週、12週目に実施した。その結果、BM-01A注入12週後には、対照群より1×10
6個のBM-01A細胞株を注入した実験群のテーブルタッチ回数が多く、時間が経過するにつれて対照群と実験群のテーブルタッチ回数の差異が増加した(
図27)。
【0115】
また、修正された神経学的重症度スコア実験(mNSS)は、運動能力、感覚機能、平衡維持力、反射機能などを総合的に評価して点数化した。実験は、MCAoモデリング1週前、MCAoモデリング直後、3週後、BM-01A注入後2週、5週、8週、12週目に実施した(
図28)。その結果、BM-01A注入5週後から対照群より1×10
6個のBM-01A細胞株を注入した実験群の行動指数が改善され、時間が経過するにつれて対照群と実験群の行動指数の差異が増加および維持した。
【0116】
実験例7.3.抗炎症効果の確認
16週目の対照群および実験群ラットを犠牲にさせた。ラットの脳に4%(v/v)パラホルムアルデヒドを灌流して固定させた。クリオスタット(cryostat,Microm,Germany)を使用して40μmの凍結冠状切片(frozen coronal section)を準備した。
【0117】
前記切片で神経膠瘢痕(glial scar)の形成を確認するために、神経膠細胞が特徴的に発現するグリア線維酸性タンパク質(Glial fibrillary acidic protein,GFAP)をウサギ-抗-マウスGFAP抗体およびAlexa-488が標識されたヤギ-抗-ウサギIgG抗体を使用して染色した。引き続き共焦点レーザー-走査顕微鏡イメージングシステム(LSM510,Carl Zeiss,Inc.)を使用して写真を撮影した。
【0118】
その結果、瘢痕面積を測定したとき、皮質部位で対照群より1×10
6個のBM-01A細胞株を投与した実験群が瘢痕面積が減少し(
図29)、線条体の部位では、瘢痕面積が減少したが、統計的有意性は観察されなかった(
図30)。次に、瘢痕の厚さを測定したとき、皮質と線条体の部位で対照群より1×10
6個のBM-01A細胞株を投与した実験群において瘢痕の厚さが減少したことが観察された(
図31)。
【0119】
実験例8.BM-01A細胞株の安全性の確認
実験例8.1.試験管内(in vitro)BM-01A細胞株の腫瘍原性の確認
CytoSelectTM 96-well Cell Transformation Assayを用いて軟寒天ゲル(Soft Agar Gels)で骨髄由来MSC、BM-01A細胞株、陽性対照群(HeLa)および陰性対照群(NIH3T3)で非依存性増殖(Anchorage-independent Growth)によるコロニー形成の有無を確認し、MTS溶液で染色して、吸光度を測定することによって、細胞形質転換による腫瘍形成の有無を定量化した。
【0120】
その結果、陽性対照群で細胞形質転換によるコロニーが形成され、陰性対照群、骨髄由来MSCおよびBM-01A細胞株は、コロニーが形成されないことから、細胞培養時に形質転換能力がなく、試験管内(in vitro)腫瘍原性がないことを確認することができた(
図32)。
【0121】
実験例8.2.生体内(in vivo)BM-01A細胞株の安全性の確認
BM-01Aの生体内安全性を確認するために、実験例6.2.で10週目の実験群ラットを犠牲にさせてBM-01A細胞株の生存有無を確認した。具体的に、実験例6.2.で10週目の対照群および実験群ラットを犠牲にさせた。ラットの脳に4%(v/v)パラホルムアルデヒドを灌流して固定させた。クリオスタットを使用して40μmの凍結冠状切片を準備した。抗-Human Nuclei抗体および細胞死滅マーカーである抗-Caspase3抗体を使用して免疫染色した。共焦点レーザー-走査顕微鏡イメージングシステムを使用して写真を撮影した。
【0122】
その結果、Human Nucleiは、死滅した形態で存在し、Caspase 3が染色された部位が同一であった。すなわち、BM-01A細胞株が全部死滅することを立証し、これを通じて、生体内でも非正常的に分化したり増殖しないため、安全性に優れていることを確認した(
図33)。
【0123】
[受託番号]
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC13778BP
受託日付:2018年12月14日
【配列表】