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特許7016629ポンプ装置の診断方法及びポンプ装置の診断評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ポンプ装置の診断方法及びポンプ装置の診断評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220131BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20220131BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
F04B51/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017139194
(22)【出願日】2017-07-18
(65)【公開番号】P2019020264
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-06-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(73)【特許権者】
【識別番号】593207846
【氏名又は名称】クボタ機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
(72)【発明者】
【氏名】古高 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳田 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】小松 一登
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 和哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 高嗣
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-077111(JP,A)
【文献】特開2008-151046(JP,A)
【文献】特開2006-161790(JP,A)
【文献】国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課 施工安全企画室,「河川ポンプ設備点検・整備標準要領(案)」,[オンライン],第3章 点検,2016年03月,12-26頁,[令和3年3月26日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/common/001123630.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045、99/00
F04B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸に取り付けられた羽根車と、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記羽根車と前記軸受を収容するポンプケーシングと、を備えて構成されるポンプ装置の診断方法であって、
前記ポンプ装置の作動時の状態を点検して動的点検データを得る動的点検ステップと、
前記ポンプ装置の停止時の前記ポンプ装置で搬送される流体と直接接触する前記ポンプケーシングの内部の状態を、前記ポンプケーシングの一部となる吐出曲管の周壁に形成された開口部から前記ポンプケーシング内部へ挿通した内視鏡カメラを用いて撮影した画像データを含む静的点検データを得る静的点検ステップと、
前記動的点検データと前記静的点検データの双方に基づいて前記ポンプ装置の状態を診断する診断ステップと、
を実行し、
前記診断ステップは、
前記動的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換する動的点検評価値変換ステップと、
前記静的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換する静的点検評価値変換ステップと、
前記動的点検評価値と前記静的点検評価値とから前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める総合点検評価ステップと、を含むポンプ装置の診断方法。
【請求項2】
前記総合点検評価ステップは、予め設定されたテーブルデータを用いて前記動的点検評価値と前記静的点検評価値から前記総合点検評価値を求めるように構成され、前記テーブルデータは前記動的点検評価値に基づく劣化程度より前記静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている請求項1記載のポンプ装置の診断方法。
【請求項3】
前記動的点検ステップを実行して、前記動的点検データに異常データが含まれる場合に前記静的点検ステップを実行するように構成されている請求項1または2記載のポンプ装置の診断方法。
【請求項4】
前記静的点検ステップを実行して、前記静的点検データに異常データが含まれる場合に前記動的点検ステップを実行するように構成されている請求項1または2記載のポンプ装置の診断方法。
【請求項5】
前記動的点検データは、前記ポンプ装置に取付けた加速度センサ、圧力センサ、変位センサの何れかの時系列的な測定データをフーリエ変換して得られる特定周波数のスペクトル強度を含む請求項1から3の何れかに記載のポンプ装置の診断方法。
【請求項6】
回転軸と、前記回転軸に取り付けられた羽根車と、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記羽根車と前記軸受を収容するポンプケーシングと、を備えて構成されるポンプ装置の診断評価装置であって、
前記ポンプの作動時の状態を点検して得られる動的点検データ及び前記ポンプ装置の停止時の前記ポンプ装置で搬送される流体と直接接触する前記ポンプケーシングの内部の状態を、前記ポンプケーシングの一部となる吐出曲管の周壁に形成された開口部から前記ポンプケーシング内部へ挿通した内視鏡カメラを用いて撮影して得られる画像データを含む静的点検データを入力するデータ入力部と、
前記データ入力部に入力された動的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換する動的点検評価値変換部と、
前記データ入力部に入力された静的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換する静的点検評価値変換部と、
前記動的点検評価値と前記静的点検評価値とから前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める総合点検評価部と、
前記総合点検評価部で求められた総合点検評価値を出力するデータ出力部と、
を備えているポンプ装置の診断評価装置。
【請求項7】
前記総合点検評価部は、前記動的点検評価値と前記静的点検評価値から前記総合点検評価値を求めるテーブルデータを備え、前記テーブルデータは前記動的点検評価値に基づく劣化程度より前記静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている請求項6記載のポンプ装置の診断評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポンプ装置の診断方法及びポンプ装置の診断評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水機場に設置された多くのポンプ設備は設置後30年以上経過し、整備・更新時期に差し掛かっている。そのために要するコストを抑制しながら最適な整備・更新を行なうために、事前の精度の高い点検と診断が必要になっている。
【0003】
国土交通省による河川ポンプ設備の点検・整備・更新マニュアル(案)の維持管理の項には、以下のように記載されている。
【0004】
排水機場のポンプ設備は、大雨等の自然現象に対応して必要なときに確実に始動でき、かつ必要な時間中故障なく十分な排水機能が発揮できなければならない。日常はほとんど運転されないため稼働時間は少ないが、一旦出水となると連続運転が要求され、また、運転時は高温多湿、気圧低下があり、非出水期は低温下での長期休止となるなど、通常の常用系設備とは異なった環境下にある。
【0005】
一方、揚水機場のポンプ設備は、一旦稼働期に入ると確実に連続運転できることが要求され、設備を機能させながらの点検・整備の実施が求められるなどの特性を持っている。さらに、河川ポンプ設備共通のものとして、設備が多くの装置・機器等で構成されていて、一つが故障しても排水機能に何らかの影響を及ぼし、場合によっては機能停止という事態を招くことになるため、システム全体として確実に機能することが求められる。
【0006】
例えば、ポンプ装置の一例である立軸ポンプ装置は、回転軸と、回転軸に取り付けられた羽根車と、回転軸を回転自在に支持する水中軸受と、羽根車と水中軸受を収容するポンプケーシングとを備えて構成されている。立軸ポンプ装置は、ケーシング、羽根車及び水中軸受が水中に没水した状態で運転され、運転時間の経過とともにこれらの部材が徐々に腐食、摩耗していく。
【0007】
そのため、立軸ポンプ装置の点検作業を定期的に行って羽根車や水中軸受の摩耗具合やケーシングの腐食具合を確認し、必要に応じて補修または交換を行うことが必要となるが、部品の摩耗具合を確認するために、立軸ポンプ装置を解体し、クレーンなどにより立軸ポンプを引き上げて点検を行なうと、点検作業に要する設備費及び人件費が嵩むばかりか、長い点検時間を要するという問題がある。
【0008】
そこで、特許文献1には、ポンプの振動に応じた信号を出力する振動センサと、該振動センサが出力した信号に応じたアナログ信号をデジタル信号へ変換するA/D変換器と、該A/D変換器の変換によって得られたデジタル信号に対してフーリエ変換を行うフーリエ変換器とを備える振動測定装置において、ポンプの回転軸の回転速度に応じた周波数を有する信号を出力する回転センサを備え、前記A/D変換器は、前記回転センサが出力した信号の周波数に応じたサンプリング周波数で、前記アナログ信号をデジタル信号へ変換すべくなしてあることを特徴とする振動測定装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、回転軸に固定された羽根車と、回転軸を回転自在に支持する軸受と、回転軸を収容するポンプケーシングと、水中カメラやファイバースコープなどの画像取得手段をポンプケーシング外部からポンプケーシング内部の所定の消耗部材まで案内する導管とを備えたことを特徴とするポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-48633号公報
【文献】特開2006-161790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されたような振動測定装置を用いれば、ポンプ装置を解体してクレーンなどを用いてポンプを引き上げるような手間の掛かる点検作業は不要になり、実負荷運転を行なう際に同時にポンプ装置の劣化度合いを測定及び診断することができる。
【0012】
しかし、測定対象となる水中軸受けや羽根車などに振動センサなどの測定用のセンサを直接取り付けることが困難なため、その近傍のポンプケーシングなどに取付けたセンサの出力を用いて間接的に測定せざるを得ない結果、検出されたデータから異常の程度を正確に診断することが困難な場合があり、また異常発生個所をピンポイントで特定することが困難であるという問題があった。
【0013】
また、降雨時の定格での排水運転や揚水量を制限した管理運転などの実負荷運転時に測定することが不可欠となるため、渇水期など実負荷運転が困難な時期にはタイムリーな点検が困難になるという問題もあった。
【0014】
また、特許文献2に記載されたような画像取得手段を用いる場合には、水中カメラやファイバースコープなどで得られた画像を目視確認することができるので、腐食の状態や破損の程度を確認できるが、ポンプ装置を停止した状態での外観からの観察であるため、部品の内部に生じた異常を把握できないという問題があった。
【0015】
同様の問題は、立軸ポンプ装置に限るものではなく、横軸ポンプ装置などの他のポンプ装置全般に生じる。
【0016】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、点検作業を簡便にしながらも精度の高い診断が可能なポンプ装置の診断方法及びポンプ装置の診断評価装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するため、本発明によるポンプ装置の診断方法の第一の特徴構成は、回転軸と、前記回転軸に取り付けられた羽根車と、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記羽根車と前記軸受を収容するポンプケーシングと、を備えて構成されるポンプ装置の診断方法であって、前記ポンプ装置の作動時の状態を点検して動的点検データを得る動的点検ステップと、前記ポンプ装置の停止時の前記ポンプ装置で搬送される流体と直接接触する前記ポンプケーシングの内部の状態を、前記ポンプケーシングの一部となる吐出曲管の周壁に形成された開口部から前記ポンプケーシング内部へ挿通した内視鏡カメラを用いて撮影した画像データを含む静的点検データを得る静的点検ステップと、前記動的点検データと前記静的点検データの双方に基づいて前記ポンプ装置の状態を診断する診断ステップと、を実行し、前記診断ステップは、前記動的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換する動的点検評価値変換ステップと、前記静的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換する静的点検評価値変換ステップと、前記動的点検評価値と前記静的点検評価値とから前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める総合点検評価ステップと、を含む点にある。
【0018】
動的点検ステップによってポンプ装置の作動時の状態を示す動的点検データが得られ、静的点検ステップによってポンプ装置の停止時の状態を示す静的点検データが得られる。ポンプ装置の構成部品が経年的に劣化すると、各構成部品の外観からその程度が視認できる。内視鏡カメラを用いることで、例えば羽根車に付着した異物の量や種類、羽根車の腐食の程度、羽根車に生じたクラックの程度、羽根の部分的欠損などの劣化の程度が静的点検データとなる画像で客観的に把握できるようになる。診断ステップによって動的点検データと静的点検データの双方に基づいて劣化程度が診断される。診断ステップでは、動的点検データで明確に診断できない異常が静的点検データで補完され、静的点検データで明確に診断できない異常が動的点検データで補完される結果、診断精度が向上するようになる。動的点検評価値変換ステップによって動的点検データがポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換され、静的点検評価値変換ステップによって静的点検データがポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換され、総合点検評価ステップによって動的点検評価値と静的点検評価値とから総合点検評価値が求められ、総合点検評価値に基づいてポンプ装置の構成部品の劣化程度が客観的に把握できる。
【0019】
同第二の特徴構成は、前記総合点検評価ステップは、予め設定されたテーブルデータを用いて前記動的点検評価値と前記静的点検評価値から前記総合点検評価値を求めるように構成され、前記テーブルデータは前記動的点検評価値に基づく劣化程度より前記静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている点にある。
【0020】
動的点検評価値よりも静的点検評価値の方が劣化程度の判定に大きく寄与するように重み付けされたテーブルデータが準備されている。総合点検評価ステップでは、動的点検評価値と静的点検評価値に基づいて当該テーブルデータを参照すると動的点検評価値と静的点検評価値の個別の値に関連付けられた総合点検評価値が導き出される。
【0021】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記動的点検ステップを実行して、前記動的点検データに異常データが含まれる場合に前記静的点検ステップを実行するように構成されている点にある。
【0022】
動的点検ステップで得られた動的点検データに異常データが含まれる場合に、静的点検ステップを実行して静的点検データを得ることにより、診断精度の高い総合診断を行なうようにすれば、例えばポンプ装置がさほど劣化していない時期に動的点検ステップと静的点検ステップの双方を毎回行なう無駄を省くことができるようになる。
【0023】
同第四の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記静的点検ステップを実行して、前記静的点検データに異常データが含まれる場合に前記動的点検ステップを実行するように構成されている点にある。
【0024】
静的点検ステップで得られた静的点検データに異常データが含まれる場合に、動的点検ステップを実行して動的点検データを得ることにより、診断精度の高い総合診断を行なうようにすれば、例えばポンプ装置がさほど劣化していない時期に静的点検ステップと動的点検ステップの双方を毎回行なう無駄を省くことができるようになる。
【0025】
同第五の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記動的点検データは、前記ポンプ装置に取付けた加速度センサ、圧力センサ、変位センサの何れかの時系列的な測定データをフーリエ変換して得られる特定周波数のスペクトル強度を含む点にある。
【0026】
ポンプ装置の構成部品が経年的に劣化すると、実負荷運転時に特定周波数領域でスペクトル強度が大きくなるといった特有の傾向が発現する。そのような傾向に基づいてポンプ装置の構成部品の劣化度合いを間接的に評価できるようになる。
【0027】
本発明によるポンプ装置の診断評価装置の第一の特徴構成は、回転軸と、前記回転軸に取り付けられた羽根車と、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記羽根車と前記軸受を収容するポンプケーシングと、を備えて構成されるポンプ装置の診断評価装置であって、前記ポンプの作動時の状態を点検して得られる動的点検データ及び前記ポンプ装置の停止時の前記ポンプ装置で搬送される流体と直接接触する前記ポンプケーシングの内部の状態を、前記ポンプケーシングの一部となる吐出曲管の周壁に形成された開口部から前記ポンプケーシング内部へ挿通した内視鏡カメラを用いて撮影して得られる画像データを含む静的点検データを入力するデータ入力部と、前記データ入力部に入力された動的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換する動的点検評価値変換部と、前記データ入力部に入力された静的点検データを、前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換する静的点検評価値変換部と、前記動的点検評価値と前記静的点検評価値とから前記ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める総合点検評価部と、前記総合点検評価部で求められた総合点検評価値を出力するデータ出力部と、を備えている点にある。
【0028】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記総合点検評価部は、前記動的点検評価値と前記静的点検評価値から前記総合点検評価値を求めるテーブルデータを備え、前記テーブルデータは前記動的点検評価値に基づく劣化程度より前記静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている点にある。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した通り、本発明によれば、点検作業を簡便にしながらも精度の高い診断が可能なポンプ装置の診断方法及びポンプ装置の診断評価装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】立軸斜流ポンプ装置及び立軸斜流ポンプ装置に備えた動的点検データ取得用の各種センサの設置位置の説明図
図2】(a),(b)は立軸斜流ポンプ装置のポンプケーシングに設けられた点検窓及び静的点検データ取得用の内視鏡カメラの説明図
図3】ポンプ装置の診断方法を示すフローチャート
図4】(a)は動的点検データの一例の説明図、(b)は動的点検評価値の説明図
図5】静的点検データ及び静的点検データの評価値の説明図
図6】(a)は総合点検評価値を求めるテーブルデータの説明図、(b)は総合点検評価値と故障特性との関係の説明図
図7】ポンプ装置の診断評価装置の機能ブロック構成図
図8】破砕装置の概略図
図9】破砕装置の側面図
図10】破砕装置の平面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明によるポンプ装置の診断方法及びポンプ装置の診断評価装置を、立軸斜流ポンプ装置を例に説明する。
なお、本発明が適用されるポンプ装置は立軸斜流ポンプ装置に限るものではなく、立軸軸流ポンプ装置などの立軸ポンプ装置全般に適用可能であることはいうまでもなく、縦軸ポンプ装置以外の横軸ポンプ装置などの他の種類のポンプ装置にも適用可能である。
【0032】
[立軸斜流ポンプ装置の構成]
図1には、立軸斜流ポンプ装置P(以下、「ポンプP」と記す。)が示されている。ポンプPは、下端部に羽根車3が取り付けられた主軸2が、鉛直姿勢の揚水管6に複数の水中軸受1を介して回転可能に支持され、揚水管6の先端に羽根車3を収容する吐出しボウル4が接続され、さらに吐出しボウル4の先端に吸込ベル5が接続されて構成されている。
【0033】
揚水管6の上端側には、主軸2が水密かつ回転自在に貫通される吐出曲管7が接続され、主軸2はカップリング8を介して駆動機11の出力軸に接続されている。
【0034】
主軸2の上方の吐出曲管7との接合部にはラビリンスシール等を用いた上部軸封装置10が設けられている。
【0035】
主軸2は、保護管13で被覆され、水中軸受1は保護管13に供給された冷却水により冷却されるように構成されている。
【0036】
主軸2が本発明の回転軸となり、羽根車ケーシングとして機能する吐出しボウル4と揚水管6と吐出曲管7が鋳鉄製のポンプケーシングとなる。
【0037】
本発明では、当該ポンプPに対する最適な整備・更新のために、ポンプPの作動時の状態を点検して動的点検データを得る動的点検と、ポンプPの停止時の状態を点検して静的点検データを得る静的点検が実行され、主に水中軸受1、羽根車3、羽根車3と吸込ベル5との隙間の各状態が点検評価される。
【0038】
[動的点検用の各種センサの配置]
動的点検のために、ポンプPにはスラスト軸受部にそれぞれ加速度センサ(黒丸印)D1が設けられ、吐出曲管7に揚水圧力を検出する圧力センサ(黒四角印)D2が設けられ、主軸1のX方向(平面視で吐出曲管7の延出方向)及びY方向(平面視で吐出曲管7の延出方向に直交する方向)の変位を計測する二つの変位センサ(黒三角印)D3が設けられている。
【0039】
ポンプ装置の構成部品が経年的に劣化すると、実負荷運転時に特定周波数領域でスペクトル強度が大きくなるといった特有の傾向が発現する。そのような傾向に基づいてポンプ装置の構成部品の劣化度合いを間接的に評価することができるようになる。
【0040】
具体的には、各センサD1,D2,D3により検出された時系列的な測定データをフーリエ変換して得られる周波数スペクトルデータに含まれる特定周波数のスペクトル強度の変化の程度からその劣化の程度が把握される。
【0041】
例えば、ポンプPの回転数をN、羽根車の羽根枚数をZとしたときに、周波数N近傍のスペクトル強度によりアンバランス力の程度が評価され、周波数NZ近傍のスペクトル強度により流体力の脈動の程度が評価され、アンバランス力及び脈動の変動傾向から羽根車3の損傷、羽根車3と吸込ベル5との隙間の増大、水中軸受1の摩耗の程度が把握される。
【0042】
アンバランス力の程度が増して流体力の脈動の程度が減少すると羽根車の損傷であると評価でき、アンバランス力の程度が変化せず流体力の脈動の程度が減少すると羽根隙間が増大していると評価でき、アンバランス力の程度が増して流体力の脈動の程度が変化しないと水中軸受の摩耗が進んでいると評価できる。
【0043】
[静的点検用の内視鏡カメラの配置]
さらに、図2(a),(b)に示すように、静的点検のためにポンプケーシングの一部となる吐出曲管7の周壁に開口部12が形成され、当該開口部12に点検窓ユニット20が装着されている。
【0044】
点検窓ユニット20は、アルミニウム合金や鋼材等の金属を用いて成形された窓枠体21と窓本体22とで構成され、開口部12の周部に形成されたフランジ部に環状の窓枠体21が着脱自在に複数本のボルトで締付固定され、さらに窓枠体21に窓本体22が複数本のボルトで締付固定されている。
【0045】
窓本体22は、窓枠体21に対して第1軸心P1周りに回動可能な第1回動機構及び第1軸心P1と直交する第2軸心P2周りに回動可能な第2回動機構を介して窓枠体21に支持されている。
【0046】
窓本体22を第1回動機構の第1回動軸心P1周りに回動させることにより開口部12が開放された開放姿勢となり、窓本体22の裏面が上を向くように、窓本体22を第2回動軸心P2周りに略90°回動させ、その状態で窓本体22を第1回動軸心P1周りに回動させることにより、窓本体22が窓枠体21に接触した検査姿勢となる(図2(b)参照)。
【0047】
検査姿勢で窓本体22の内側面に設けられた取付具にケーブル支持竿32が取り付けられ、ポンプケーシングの内部を点検する静的点検装置となる内視鏡カメラ30のケーブル31がケーブル支持竿32の内部に挿通される。窓本体22の内側面上でのケーブル支持竿32の振れ角度及びポンプケーシングの内部への挿入程度並びにケーブル支持竿32を介したケーブル31の繰り出し量を調整することにより、ケーブル31先端の内視鏡カメラ30が検査対象位置に誘導操作され、羽根車3などの各部品の外観が撮影される。
【0048】
内視鏡カメラ30による撮影画像から羽根車3の腐食の程度、クラックの有無とその程度、羽根車3の破損の有無、羽根車3と吸込ベル5との隙間の程度、水中軸受1の破損の有無などが把握される。
【0049】
[ポンプ装置の診断方法の詳細]
ポンプ装置の診断方法は、ポンプPの作動時の状態を点検して動的点検データを得る動的点検ステップと、ポンプの停止時の状態を点検して静的点検データを得る静的点検ステップと、動的点検データと静的点検データの双方に基づいて劣化程度を総合診断する診断ステップとを備えている。
【0050】
図3にはポンプ装置の診断方法の手順が例示されている。数か月単位或いは年単位で予め設定されたポンプの点検時期になると(S1)、その後最初にポンプPの実負荷運転が行なわれるタイミングで(S2)、動的点検ステップが実行され、ポンプPに設置された加速度センサD1、圧力センサD2及び変位センサD3の各値が信号線を介して接続されたデータ収集装置に取り込まれる(S3)。
【0051】
実負荷運転には、ポンプPにより実際に揚水される運転をいい、実際の降雨時の排水運転のみならず定期的或いは不定期に行なわれるポンプPの異常の有無を確認するための揚水量を抑制した管理運転などが含まれる。
【0052】
データ収集装置に取り込まれた動的点検データに対して動的点検評価値変換ステップが実行されて、動的点検データからポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換される(S4)。
【0053】
動的点検評価値に基づいてポンプPに何らかの異常が認められると、静的点検ステップが必要と判断される(S5)。何らかの異常が認められるとは、動的点検評価値が正常範囲を僅かでも逸脱した状態をいい、完全に異常状態であると判断される場合に限るものではない。
【0054】
実負荷運転が終了してポンプPが停止された後に(S6)、点検窓ユニット20の窓本体22を開放して検査姿勢に姿勢切替して内視鏡カメラ30を操作して羽根車3等の検査対象部品の外観を撮影する静的点検ステップが実行される(S7)。
【0055】
内視鏡カメラ30で得られた静的点検データである画像データに対して静的点検評価値変換ステップが実行されて、静的点検データからポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換される(S8)。
【0056】
さらに、動的点検評価値と静的点検評価値とからポンプPの構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める総合点検評価ステップが実行され(S9)、総合点検評価ステップで得られた総合評価値に基づいて部品交換が必要と判断されると(S10),該当部品の交換作業が行なわれる(S11)。
【0057】
上述したステップS4,S8,S9が、動的点検データと静的点検データの双方に基づいて劣化程度を総合診断する診断ステップとなる。診断ステップでは、動的点検データで明確に診断できない異常が静的点検データで補完され、静的点検データで明確に診断できない異常が動的点検データで補完される結果、診断精度が向上するようになる。
【0058】
動的点検評価値及び静的点検評価値はともに同一の最小値と最大値の間でステップ的または連続的に変化するように設定される値であり、評価値が大きくなるほど異常の程度が大きく、劣化が進んでいることを示す値となる。従って、評価値が小さくなるほど健全度が高いことを示す指標となる。
【0059】
評価値を単に異常の有無の二値で示すと、動的点検評価値及び静的点検評価値の双方で評価値が異なる場合に判定困難となるが、このように同一の最小値と最大値の間で多値に設定されることにより、劣化程度を適切に評価できるようになる。つまり、動的及び静的点検ステップそれぞれの長所を生かして短所を補う点検が可能となる。
【0060】
動的点検ステップを最初に実行し、その結果に基づいて静的点検ステップを実行する場合には以下の作用効果が奏される。
動的点検ステップはポンプの稼働中に発現する異常の判定に長けており、摩耗や摺動傷などがなく停止時には判定できず見過ごしてしまう可能性のある異常を適切に検出することができる点で優れている。
【0061】
しかし、動的点検ステップで異常が生じたと判定できる場合であっても異常の発生部位や程度を明確に特定できない場合がある。具体的に羽根車に異常が生じていると判定された場合でも、それが羽根車そのものの異常であるか、羽根車に巻き付いた異物による異常であるのか、羽根車ケーシングに起因する異常であるかを特定することは困難である場合もある。
【0062】
そのような場合に静的点検ステップを実行すれば、異常の発生部位や程度を正確に特定することが可能となる。具体的に動的点検ステップで羽根車に異常が生じていると判定された場合に、静的点検ステップでそれが羽根車の欠損であるのか、羽根車に異物が巻き付いているのか、羽根車ケーシングのライニング層がはがれているのかを特定することができる。
【0063】
静的点検ステップを最初に実行し、その結果に基づいて動的点検ステップを実行する場合には以下の作用効果が奏される。
静的点検ステップは画像判定の実施例にある通り、視覚的な情報により、現時点での問題はなくとも故障への発展前の予兆を検出でき、将来的なリスクを予測することができる点で優れている。
【0064】
ポンプに生じる異常や故障の態様は様々であり、例えば静的点検ステップを実行した結果、摺動傷や磨耗、腐食などが確認されても、機能的に支障を来さない場合にはその時点で実行される動的点検ステップで異常と判定されない場合もある。
【0065】
そのような場合には直ちに部品交換などのメンテナンス処理を行なう必要がないが、近い将来に機能に支障が現れるような異常や故障の兆候である可能性もある。
【0066】
このように、静的点検ステップで異常の疑いがあっても動的点検ステップで正常と診断されると予測されるような場合には、その都度動的点検ステップを実行することなく経過観察し、過去の同様の異常や故障の事例データに従って、次回の静的点検ステップの実行時期或いは動的点検ステップの実行時期を決定することができ、また当該事例データに従って対象部品の交換推奨時期を予測するという運用もできる点で効果的である。また動的点検ステップを継続して実行し、経過観察した結果、軽微な異常に過ぎず耐用年数間近まで正常に機能すると診断することが可能な場合もある。
【0067】
上述の実施形態では、先ず動的点検ステップが実行され、その診断結果に基づいて静的点検ステップが実行される例を説明したが、先ず静的点検ステップが実行され、その診断結果に基づいて動的点検ステップが実行されるように構成してもよい。
【0068】
なお、実負荷運転中に静的点検ステップを行なうことは不可能であり、停止中に動的点検ステップを行なうことは不可能であるから、双方の点検ステップを行なう必要がある場合には何れか一方の点検ステップの実行後に、できる限り時間を置くことなく他方の点検ステップを実行することが好ましい。
【0069】
先に実行された動的点検ステップによる診断結果で異常が認められなかった場合には基本的に静的点検ステップを行なう必要はなく、また先に実行された静的点検ステップによる診断結果で異常が認められなかった場合には基本的に動的点検ステップを行なう必要はない。しかし、一方の点検ステップの結果にかかわらず、常に動的点検ステップと静的点検ステップの双方が行なわれるように構成されていてもよい。
【0070】
[動的点検評価値変換ステップの詳細]
図4(a)には動的点検データが例示され、図4(b)には動的点検評価値特性曲線が例示されている。図4(a)の上段には、羽根車3が正常な時に時系列でサンプリングされた加速度センサD1の出力をフーリエ変換した周波数スペクトルが示され、図4(a)の下段には、羽根車3に何らかの異常が生じた時に時系列でサンプリングされた加速度センサD1の出力をフーリエ変換した周波数スペクトルが示されている。
【0071】
動的点検評価値特性曲線は、ポンプPの回転数Nに対応した周波数Nにおけるスペクトル強度の比A´/Aの値を横軸、動的点検評価値を縦軸とする特性カーブで、過去の試験データなどに基づいてスペクトル強度の比A´/Aの各値に対応して0から10迄の11段階の動的点検評価値の何れかに変換されるように構成されている。
【0072】
例えば、スペクトル強度の比A´/Aが1以下の値であれば、動的点検評価値は殆ど劣化していないことを示す0または1に設定され、スペクトル強度の比A´/Aが10以上の値であれば、動的点検評価値は部品交換レベルであることを示す10に設定され、スペクトル強度の比A´/Aが1から5の間にあれば、それぞれに対応した劣化度合いつまり寿命予測値を示す動的点検評価値に変換される。
【0073】
この例では、加速度センサD1の周波数スペクトルに対してポンプPの回転数Nに対応した周波数Nにおけるスペクトル強度の比A´/Aを指標にして動的点検評価値を求める例を示したが、指標は単一である必要はなく複数であってもよい。
【0074】
例えば、周波数Nにおけるスペクトル強度の比A´/Aと周波数NZにおけるスペクトル強度の比B´/Bの二つの値を指標に動的点検評価値を求めるように構成してもよいし、周波数NZの整数倍の周波数におけるスペクトル強度の比を加味してもよい。また、加速度センサD1の周波数スペクトルのみではなく、圧力センサD2や変位センサD3の周波数スペクトル強度の比を加味してもよい。
【0075】
複数の指標から動的点検評価値を求める場合には、各指標を入力する入力層と、各動的点検評価値を出力する出力層と、少なくとも一層の中間層を備えたニューラルネットワークを構築し、入力層に教師データを入力したときに出力層から所望の動的点検評価値が出力されるように学習する学習機構を備えておけばよい。標準的な学習アルゴリズムである確率的勾配降下法を採用した学習機構を構築してもよいし、深層学習アルゴリズムを採用した学習機構を構築してもよい。
【0076】
[静的点検評価値変換ステップの詳細]
図5の上段には静的点検データとなる羽根車3の写真画像が例示され、中段には各写真画像データに対する静的点検評価値が示されている。左端から順に、正常時画像、汚れ付着画像、塗装はがれ画像、隙間拡大画像、羽根損傷画像の5枚の写真画像に対して、過去の点検結果を参考に0から10の11段階の静的点検評価値が付与される。例えば正常時画像であれば静的点検評価値0、汚れ付着画像であれば静的点検評価値1~2、塗装はがれ画像であれば静的点検評価値3~5、隙間拡大画像であれば静的点検評価値6~8、羽根損傷画像であれば静的点検評価値9~10といった具合である。
【0077】
静的点検評価値1~2は機能に支障が生じていないが状態の経過観察が必要な状態を示し、静的点検評価値3~5は機能に支障が生じていないが、2,3年以内に措置を行うことが望ましい状態を示し、静的点検評価値6~8は機能に支障が生じる可能性が有り、予防保全の観点から早急に措置を行うべき状態を示し、静的点検評価値9~10は緊急に措置(修繕、取替)が必要な状態を示し、それぞれ密度の異なるハッチングで示されている。
【0078】
塗装はがれ画像に付される静的点検評価値は3~5の範囲となり、画像に現れる塗装はがれの程度によって3~5の何れかの値が付される。これらは例示であり、他に羽根車に生じたクラックの程度を表す画像など劣化の程度を示す他の画像が採用されてもよい。また、画像を目視確認した点検員が静的点検評価値を付与してもよいし、得られた写真画像に対して画像処理を施して、汚れの程度、塗装はがれの程度、隙間拡大の程度、羽根損傷の程度を数値化してその値に基づいて静的点検評価値を定めてもよい。評価対象部品毎にこの様な写真画像が得られ、各写真画像に対して静的点検評価値が設定される。
【0079】
羽根車の1枚の写真画像に汚れ、腐食、塗装はがれ、クラックなどの複数の異常が見られる場合もあり、点検員が付与する静的点検評価値に偏りが生じる場合も想定される。そのような場合に備えて、検査対象部品の複数の写真画像を指標として入力する入力層と、入力層に入力された複数の写真画像から0から10の何れかの静的点検評価値を出力する出力層と、少なくとも一層の中間層を備えたニューラルネットワークを構築してもよい。この場合も、上述したと同様の学習機構を備えればよい。
【0080】
[総合点検評価値変換ステップの詳細]
図6(a)には、上述した動的点検評価値と静的点検評価値の二つの評価値から総合点検評価値を求めるテーブルデータが示されている。テーブルデータに基づく診断方法によって、客観的な診断評価が可能となるため、従来のように点検者の経験や勘に依存しない安定した評価を顧客に提供することができる。マトリクスのハッチング部位は、図5で説明したハッチングと対応する。
【0081】
当該テーブルデータにより、0から10の11段階の動的点検評価値と静的点検評価値の組合せに対応して、0,A1からE10の11段階の総合点検評価値が得られる。図6(a)から明らかなように、当該テーブルデータは動的点検評価値に基づく劣化程度より静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている。静的点検評価値は検査対象部品の劣化度合いの客観性が動的点検評価値よりも高いことを考慮するものである。
【0082】
図6(b)に示すように、0,A1からE10の11段階の総合点検評価値は、部品の寿命曲線に対応するように設定され、A1からC5は偶発故障発生期に対応し、C6からE10は摩耗故障発生期に対応するように設定されている。
【0083】
図7には、ポンプ装置の診断評価装置40の機能ブロック構成が示されている。診断評価装置40は、タブレットタイプのコンピュータやラップトップタイプのコンピュータと、当該コンピュータで実行される点検評価プログラムで構成され、データ入力部41と、動的点検評価値変換部42と、静的点検評価値変換部43と、総合点検評価部44と、データ出力部45とを備えている。
【0084】
データ入力部41は、ポンプの作動時の状態を点検して得られる動的点検データ及び前記ポンプの停止時の状態を点検して得られる静的点検データを入力する機能ブロックで、WiFiや赤外線などの通信インタフェースで構成されている。
【0085】
動的点検評価値変換部42は、データ入力部41に入力された動的点検データを、ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換する機能ブロックで、図4(b)に示したような動的点検評価値特性曲線を表すデータテーブルを備え、或いは上述したニューラルネットワークを備えている。
【0086】
静的点検評価値変換部43は、データ入力部41に入力された静的点検データを、ポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換する機能ブロックで、静的点検データを画像処理して汚れ、塗装はがれ、隙間拡大、損傷の各程度を自動評価して静的点検評価値に変換する画像処理部を備え、或いは上述したニューラルネットワークを備えている。
【0087】
総合点検評価部44は、動的点検評価値と静的点検評価値とからポンプ装置の構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める機能ブロックで、図6(a)に示したテーブルデータを備えている。当該テーブルデータは動的点検評価値に基づく劣化程度より静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている。
【0088】
つまり、動的点検評価値が高くなるほど総合点検評価値が高くなる程度よりも静的点検評価値が高くなるほど総合点検評価値が高くなる程度が大きくなるように設定されている。例えば、動的点検評価値が高くても静的点検評価値が低ければ総合点検評価値が相対的に低く、動的点検評価値が低くても静的点検評価値が高ければ総合点検評価値が相対的に高くなるように設定されている。
【0089】
総合点検評価部44に備えたテーブルデータに基づいて、総合点検評価値を求める例に代えて、動的点検評価値と静的点検評価値の双方を入力する入力層と、総合点検評価値を出力する出力層と、少なくとも一層の中間層を備え、入力層に教師データを入力したときに出力層から所望の動的点検評価値が出力されるように学習する学習機構を備えたニューラルネットワークで総合点検評価部44を構成してもよい。この場合も、学習機構に標準的な学習アルゴリズムである確率的勾配降下法を採用してもよいし、深層学習アルゴリズムを採用してもよい。
【0090】
データ出力部45は、総合点検評価部44で求められた総合点検評価値を出力する機能ブロックで、表示部、メモリインタフェース、WiFiや赤外線などの通信インタフェースなどで構成されている。
【0091】
以下、別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、主軸2が揚水管6に水中軸受1を介して回転可能に支持された例を説明したが、軸受は水中軸受に限るものではなく、他の種類の軸受を用いることができることはいうまでもない。
【0092】
上述した実施形態では、静的点検データが内視鏡カメラで撮影された点検対象部品の外観を示す写真画像データである場合を説明したが、静的点検データは写真画像データに限るものではなく、例えば各点検対象部品に打撃を与えた際に生じる振動を計測した振動データや、超音波探傷装置を用いて計測された各点検対象部品の肉厚や空洞、クラックなどを表すデータであってもよい。
【0093】
上述した実施形態では、動的点検データが加速度センサ、圧力センサ、変位センサにより計測された周波数スペクトルデータである場合を説明したが、動的点検データはこれらに限るものではなく、他のセンサを用いることも可能である。
【0094】
例えば点検対象部品に変形や亀裂が生じたときに内部に蓄えられた歪みエネルギーが弾性波として放出される現象(アコースティックエミッション)を計測する音響センサにより計測された音響データを用いることも可能である。
【0095】
上述した実施形態では、ポンプ装置の作動時の状態を点検して動的点検データを得る動的点検ステップと、ポンプ装置の停止時の状態を点検して静的点検データを得る静的点検ステップと、動的点検データと静的点検データの双方に基づいて前記ポンプ装置の状態を診断する診断ステップと、を実行するポンプ装置の診断方法について説明したが、本発明による診断方法はポンプに限らず分解点検に多大な費用を要する大型の回転機器一般、例えば一軸破砕装置や二軸破砕装置さらには大型のブロワーファンなどに適用することができる。
【0096】
つまり、回転軸と、回転軸に取り付けられた被回転部と、回転軸を回転自在に支持する軸受と、被回転部と軸受を支持するフレームまたはケーシングとを備えて構成される回転機器の診断方法であって、回転機器の作動時の状態を点検して動的点検データを得る動的点検ステップと、回転機器の停止時の状態を点検して静的点検データを得る静的点検ステップと、動的点検データと静的点検データの双方に基づいて回転機器の状態を診断する診断ステップと、を実行する回転機器の診断方法である。
【0097】
当該診断ステップは、動的点検データを、回転機器の構成部品の劣化程度を示す動的点検評価値に変換する動的点検評価値変換ステップと、静的点検データを、回転機器の構成部品の劣化程度を示す静的点検評価値に変換する静的点検評価値変換ステップと、動的点検評価値と静的点検評価値とから回転機器の構成部品の劣化程度を示す総合点検評価値を求める総合点検評価ステップと、を含む。
【0098】
また、当該総合点検評価ステップは、予め設定されたテーブルデータを用いて動的点検評価値と静的点検評価値から総合点検評価値を求めるように構成され、テーブルデータは動的点検評価値に基づく劣化程度より静的点検評価値に基づく劣化程度の方が高くなるように重み付けされている。
【0099】
動的点検ステップと静的点検ステップの何れか一方を実行して、異常データが含まれる場合に他方の点検ステップを実行するように構成されていることが好ましい。何れの場合でも上述したポンプ装置の診断評価装置に相当する診断評価装置を備えていることが好ましい。
【0100】
図8から図10には、一軸破砕装置が示されている。破砕装置51は、電化製品、建築廃材、プラスチックなどの被破砕物を投入する受入ホッパ52と、受入ホッパ52に投入された被破砕物を破砕処理する破砕処理部510と、破砕処理部510に向けて水平方向から被破砕物を押圧する押込プッシャ53を備え、当該破砕装置51は、図示しない制御盤に備えられた制御部によって駆動制御される。
【0101】
押込プッシャ53は、油圧ポンプ(図示せず)からの圧油により伸縮作動する油圧シリンダのピストンに連結されたアーム53aが押込プッシャ53の後端に連結され、台盤54上を摺動かつ進退動自在に駆動される。
【0102】
破砕処理部510は、受入ホッパ52の下方に配置され、所定の軸心周りに回転する破砕ロータ55の周面に周方向に形成された溝部に固定された先端V字状の回転刃56と、破砕ロータ55の回転軸55c方向に沿って対向配置され、回転刃56と噛み合って被破砕物をせん断破砕する先端V字状の固定刃57とで構成されている。
【0103】
破砕ロータ55の周部には所定のピッチで互いに平行な多数のV字状の溝55vが形成され、この溝55v内に形成された複数個の取付座56bの夫々に刃体56aがボルトで締着されている。それぞれの回転刃56は、隣り合う溝55vに設けられているもの同士がその頂点を連ねるとジグザグ状になるように配置されている。固定刃57は、先端V字状の刃体57aが破砕ロータ55の軸心方向に沿って台盤54の端部に設けられた取付座57bにボルトで締着されている。
【0104】
破砕処理部510の下部には、回転刃56と固定刃57により所定サイズ以下に破砕された被破砕物を選択的に通過させるスクリーン機構58と、スクリーン機構58を通過した被破砕物を受け止める排出ホッパ59が設けられている。
【0105】
スクリーン機構58は、回転刃56の回転軌跡に沿った弧状に湾曲形成され、多数の開口が形成されたパンチングメタルで構成され、破砕処理部510で破砕された被破砕物のうちスクリーン機構58の開口より小さく破砕された被破砕物が、開孔から落下して排出ホッパ59に収容され、開孔を通らなかったものは、再び回転刃56と固定刃57で破砕される。
【0106】
駆動機としての電動機Mは破砕装置51下部の架台に固定され、変速機構としての減速機構530は本体フレーム511の一側部511aに組み付けた取付架台512aに固定されている。電動機Mの出力軸に取り付けられたプーリ513と、減速機構530の入力軸531に取り付けられたプーリ515はVベルト514により連結され、電動機Mの動力は、減速機構530により所定の回転速度に変速されて出力軸537から出力され被動機としての破砕ロータ5の回転軸55cに伝達されるように構成されている。
【0107】
破砕ロータ55の回転軸55cの一端側が、減速機構530の出力軸に嵌装され、他端側が本体フレーム511の他側部に組み付けた取付架台512bに装着された軸受516で支持されている。
【0108】
このような破砕装置51に対して上述した回転機器の診断方法が適用される。この場合、動的点検データは、破砕装置51の本体フレーム511や軸受516近傍に取付けた加速度センサ、変位センサの何れかの時系列的な測定データをフーリエ変換して得られる特定周波数のスペクトル強度を含む。また、静的点検データは、破砕装置51を用いて撮影された本体フレーム511の内部の画像データを含む。
【0109】
上述した実施形態は、本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。動的点検に用いられるセンサ機器やその設置位置、動的点検に用いられるセンサ機器は適宜選択可能であり、動的点検評価値変換部、静的点検評価値変換部、総合点検評価部に用いられる評価アルゴリズムも適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0110】
1:水中軸受
2:主軸
3:羽根車
4:吐出しボウル(ポンプケーシング)
6:揚水管(ポンプケーシング)
7:吐出曲管(ポンプケーシング)
12:開口部
20:点検窓ユニット
21:窓枠体
22:窓本体
30:内視鏡カメラ
31:ケーブル
40:診断評価装置
41:データ入力部
42:動的点検評価値変換部
43:静的点検評価値変換部
44:総合点検評価部
45:データ出力部
P:ポンプ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10