(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】セラミック熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 9/02 20060101AFI20220131BHJP
F28F 21/04 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
F28D9/02
F28F21/04
(21)【出願番号】P 2017241351
(22)【出願日】2017-12-18
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】徳田 浩次郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 大輔
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-146997(JP,A)
【文献】特開昭63-041788(JP,A)
【文献】特開2015-114076(JP,A)
【文献】特開2010-271031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 1/00 - 13/00
F28F 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に貫通し、該第一方向に直交する第二方向に閉塞されている第一流路と、前記第二方向に貫通し、前記第一方向に閉塞されている第二流路とが、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向に壁体を介して隣接しているセラミック製の熱交換体を備え、
該熱交換体において、前記第三方向に交差する二つの端面に、閉じた空間内に空気が保持されている断熱層が積層されている
ものであり、
該断熱層は、隣接する平板間に、長手方向を一致させた長棒状のスペーサの複数が間隔をあけて配されることにより形成されたスリットが、長手方向の両端部で封止材により封止されていることにより形成されている
ことを特徴とするセラミック熱交換器。
【請求項2】
第一方向に貫通し、該第一方向に直交する第二方向に閉塞されている第一流路と、前記第二方向に貫通し、前記第一方向に閉塞されている第二流路とが、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向に壁体を介して隣接しているセラミック製の熱交換体を備え、
該熱交換体において、前記第三方向に交差する二つの端面に、閉じた空間内に空気が保持されている断熱層が積層されているものであり、
該断熱層は、単一の軸方向に延びた隔壁により区画された複数のセルが、それぞれ軸方向の両端部で封止材により封止されていることにより形成されている
ことを特徴とするセラミック熱交換器。
【請求項3】
前記第一流路及び前記第二流路のうち、前記断熱層に隣接しているのは前記第一流路であり、
前記熱交換体において、前記第一方向と交差する両端面の一方に第一流体を供給する第一流体供給管が接続されており、他方に前記第一流体を排出させる第一流体排出管が接続されていると共に、前記第二方向と交差する両端面の一方に、前記第一流体より高温の第二流体を供給する第二流体供給管が接続されており、他方に前記第二流体を排出させる第二流体排出管が接続されている
ことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のセラミック熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック製の熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業炉から排出される排ガスなど高温の流体から、低温の流体へ熱を与える熱交換器として、従前より、直交する二つの流路をセラミック壁が隔てている構造体が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1の構造体は、セラミック製の平板から一方向に多数のリブが突出した板体の複数を、リブの方向が交差するように積層した構造である。かかる構成では、ある平板に着目すると、その平板の一方の面側でリブとリブとの間に形成される第一の流路と、他方の面側でリブとリブとの間に形成される第二の流路とが直交しており、第一の流路を流通する第一の流体と第二の流路を流通する第二の流体との間で、平板を介して熱交換が行われる。
【0003】
特許文献2の構造体は、一方向に貫通した多数のセルを有するセラミック製のハニカム構造体において、一段おきにセルそれぞれの両端を封止して封止部を形成すると共に、封止された段のセルの隔壁を、封止部及びその近傍を除いて直角方向から穿孔することにより、セルに直交する方向に貫通するスリットを形成したものである。かかる構成では、両端に封止部を有さず貫通しているセルを流通する第一の流体と、セルに直交するスリットを流通する第二の流体との間で、隔壁を介して熱交換が行われる。
【0004】
熱交換器については、より熱交換率が高いものに対する要請が常に存在する。また、上記のようにセラミックス壁を介して熱交換する熱交換器では、熱交換率を高めるためには壁の厚さを薄くすることが望ましいが、そうすると機械的強度が低下するおそれがある。機械的強度が低下すると、熱交換される二つの流体の混合や外部への流体のリークを防止するために、シーリング材を介して締め付けるように熱交換器をケーシングに収容する際、熱交換器が破損するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-35897号公報
【文献】特開昭61-24997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、直交する二つの流路をセラミック壁が隔てている熱交換器であって、熱交換率を高めることができると共に、機械的強度を高めることができるセラミック熱交換器の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるセラミック熱交換器(以下、単に「熱交換器」と称することがある)は、
「第一方向に貫通し、該第一方向に直交する第二方向に閉塞されている第一流路と、前記第二方向に貫通し、前記第一方向に閉塞されている第二流路とが、前記第一方向及び前記第二方向に直交する第三方向に壁体を介して隣接しているセラミック製の熱交換体を備え、
該熱交換体において、前記第三方向に交差する二つの端面に、閉じた空間内に空気が保持されている断熱層が積層されている」ものである。
【0008】
本構成により、第一流路に第一流体を流通させ、第二流路に第二流体を流通させることにより、第一流体と第二流体との間で壁体を介して熱交換させることができる。
【0009】
ここで、第一方向に交差する両端面は第一流路を開口させておく面であり、第二方向に交差する両端面は第二流路を開口させておく面であるのに対し、第三方向に交差する両端面は、熱交換のためには使用されない面である。本構成では、このような端面に、空気が保持された断熱層を積層している。従って、熱を与える側の高温の流体が保持している熱や、低温側の流体に与えられた熱が、熱交換器の外部に放出されることが断熱層によって抑制されるため、熱交換率を高めることができる。
【0010】
更に、第一方向に貫通している第一流路と、第二方向に貫通している第二流路とが隣接している熱交換体は、二方向に開放している構造体であって機械的強度が低いものとなりやすいところ、本構成の熱交換器は閉じた空間である断熱層を備えている。従って、断熱層の存在によって、熱交換器の機械的強度を高めることができる。
【0011】
本発明にかかるセラミック熱交換器は、上記構成において、
「断熱層は、単一の軸方向に延びた隔壁により区画された複数のセルが、それぞれ軸方向の両端部で封止材により封止されていることにより形成されている」ものである。或いは、「断熱層は、隣接する平板間に、長手方向を一致させた長棒状のスペーサの複数が間隔をあけて配されることにより形成されたスリットが、長手方向の両端部で封止材により封止されていることにより形成されている」ものである。
【0012】
このような構成とすることにより、空気を保持する大きな空間を有する断熱層を、簡易に製造することができる。
【0013】
本発明にかかるセラミック熱交換器は、上記構成に加え、
「前記第一流路及び前記第二流路のうち、前記断熱層に隣接しているのは前記第一流路であり、
前記熱交換体において、前記第一方向と交差する両端面の一方に第一流体を供給する第一流体供給管が接続されており、他方に前記第一流体を排出させる第一流体排出管が接続されていると共に、前記第二方向と交差する両端面の一方に、前記第一流体より高温の第二流体を供給する第二流体供給管が接続されており、他方に前記第二流体を排出させる第二流体排出管が接続されている」ものとすることができる。
【0014】
本構成では、熱交換体において断熱層と隣接しているのは、高温の第二流体から熱を与えられる側である第一流体を流通させる第一流路である。従って、与えられた熱がこれから使用される第一流体の熱を、断熱層によって有効に保持することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、それぞれ流体を流通させる二つの流路が直交している熱交換器であって、熱交換率が高められていると共に、機械的強度が高められているセラミック熱交換器を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第一実施形態である熱交換器の斜視図である。
【
図3】(a)
図1の熱交換器の正面図、及び、(b)
図1の熱交換器の側面図である。
【
図4】(a)A-A線断面図、(b)B-B線断面図、及び、(c)C-C線断面図である。
【
図5】(a)第一実施形態の変形例の熱交換器の斜視図、及び、(b)断熱層の効果を検討した際の温度測定位置を示す図である。
【
図6】本発明の第二実施形態である熱交換器の斜視図である。
【
図8】(a)
図6の熱交換器の正面図、及び、(b)
図6の熱交換器の側面図である。
【
図9】(a)D-D線断面図、(b)E-E線断面図、(c)F-F線断面図、及び、(d)G-G線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態であるセラミック熱交換器について説明する。まず、第一実施形態の熱交換器1、及びその変形例の熱交換器1bについて、
図1乃至
図5を用いて説明する。
【0018】
第一実施形態の熱交換器1は、熱交換体40と断熱層50とを主な構成とする。熱交換体40はセラミック製であり、第一方向Xに貫通し第一方向Xに直交する第二方向Yに閉塞されている第一流路P1と、第二方向Yに貫通し第一方向Xに閉塞されている第二流路P2とが、第一方向X及び第二方向Yに直交する第三方向Zに壁体を介して隣接している構成である。また、断熱層50は、内部に空気が保持されている閉じた空間を有する層であり、熱交換体40において第三方向Zに交差する両端面にそれぞれ積層されている。
【0019】
具体的には、熱交換体40は、単一の軸方向に延びた隔壁11a,11bにより区画された複数のセル15が一列に配列されたセル列10を、軸方向を同一として複数備えており、隣接するセル列10の間に、セル15の軸方向と直交する方向に貫通したスリット25を有している。
【0020】
ここでは、セル15の形状(軸方向に直交する断面の外形)が正方形で、各セル15が二対の隔壁11a,11bで囲まれている場合を図示している。複数のセル15が隔壁11aを介して一列に並んでいる一段のセル列10は、隣接するセル列10と、それぞれの軸方向を一致させた状態で、セル列10とセル列10との間に配されたスペーサ21によって接合されている。スペーサ21は細長い四角柱状で、その長手方向はセル15の軸方向に直交している。また、ここでは、隣接するセル列10それぞれの両端部が、一対のスペーサ21で接合されている場合を図示により例示しているが、隣接するセル列10を接合するスペーサ21の数は、三以上であっても良い。
【0021】
このような構成の熱交換体40において、セル15の軸方向を第一方向Xとし、セル列10においてセル15が並んでいる方向を第二方向Yとすると、各セル15が、第一方向Xに貫通し隔壁11aによって第二方向Yに閉塞されている第一流路P1である。一方、隣接しているスペーサ21間と、隣接しているセル列10それぞれの隔壁11bとの間に形成されているスリット25が、第二方向Yに貫通しスペーサ21によって第一方向Xに閉塞されている第二流路P2である。そして、第一流路P1であるセル15と第二流路P2であるスリット25が、第三方向Zに隔壁11bを介して隣接している。従って、本実施形態では、隔壁11bが、第三方向Zに隣接する第一流路P1と第二流路P2との間に介在する「壁体」に相当する。
【0022】
なお、一段のセル列10は、一般的な押出成形によって成形された、単一の軸方向を有するセル列10が複数段、積層されているハニカム構造体を、一段ごと切断して得ることができる。或いは、単一の軸方向を有する複数のセル15が一列に並んでいる一段のハニカム構造体を、押出成形により成形しても良い。また、スリット25は、単一の軸方向を有するセル列が複数段、積層されている一般的なハニカム構造体において、一段おきにセルの両端部を封止して封止部を形成し、両端部が封止されたセルからなるセル列について、封止部及びその近傍を除いて、セルの軸方向に直交する方向に隔壁を切除することによっても、形成することができる。
【0023】
一方、断熱層50は、単一の軸方向に延びた隔壁により区画されており、それぞれ軸方向の両端部が封止材17により封止されている複数のセル15からなる。セル15の隔壁11a,11bと両端部の封止材17との間に閉じた空間が形成されており、その内部に空気が保持されていることにより、断熱層50は空気の層Sを複数備えている。なお、断熱層50を構成するセル15の軸方向は第一方向Xであっても第二方向Yであっても良いが、ここでは第一方向Xを軸方向とし両端部を封止されているセル15が第二方向Yに並んでいるセル列10が、複数段積層されて断熱層50を形成している場合を例示している。
【0024】
なお、熱交換体40を構成するセル列10においても、第二方向Yに交差する両端部近傍のセル15のいくつかが、全長にわたり封止材17によって封止されている。これにより、極めて厚さの薄い隔壁のみによって支えられる構造体であるセル列10の機械的強度が、高められている。
【0025】
また、熱交換器1は、第一流体供給管、第一流体排出管、第二流体供給管、及び第二流体排出管を備えている(何れも図示を省略)。熱交換体40において第一方向Xと交差する両端面、すなわちセル15が開口している両端面の一方に第一流体供給管が接続されると共に、他方に第一流体排出管が接続される。一方、第二方向Yと交差する端面、すなわちスリット25が開口している両端面の一方に第二流体供給管が接続されると共に、他方に第二流体排出管が接続される。本実施形態の熱交換器1では、熱交換体40において断熱層50と隣接しているのは第一流路P1であるセル15であり、第一流体供給管には、熱を与えられる側の流体、つまり低温側の流体が供給される。従って、第二流体供給管には、熱を与える側の流体、つまり第一流体より高温の流体が供給される。
【0026】
上記の構成により、第一流路P1であるセル15に第一流体を流通させ、第二流路P2であるスリット25に第二流体を流通させることにより、第一流体と第二流体との間で隔壁11bを介して熱交換させることができる。
【0027】
また、熱交換体40において、第一方向Xに交差する両端面は第一流体を通過させるために第一流路P1(ここでは、セル15)を開口させておく面であり、第二方向Yに交差する両端面は第二流体を通過させるために第二流路P2(ここでは、スリット25)を開口させておく面であるのに対し、第三方向Zに交差する両端面は流体を通過させるために開口させておく必要がない面である。本実施形態では、第三方向Zに交差する両端面という、いわば熱交換のためには従来使用されなかった端面に、断熱層50を積層している。断熱層50は、空気の層Sを複数有しており、断熱性が高い。従って、高温の第二流体が保持している熱や、低温の第一流体が第二流体から与えられた熱が、熱交換器1の外部に放出されることが断熱層50によって抑制されるため、熱交換率を高めることができる。
【0028】
更に、第一流路P1であるセル15の段は第一方向Xに貫通した空間を有しており、第二流路P2であるスリット25の段は第二方向Yに貫通した空間を有しているのに対し、断熱層50は封止材17やセル15の隔壁11a,11bで全方向を閉塞された閉じた空間であるため、機械的強度が高い。従って、断熱層50の存在によって熱交換器1の機械的強度を高めることができ、熱交換器1をシールしつつケーシングに収容する際の締め付け力等の外力に対して、耐性の高い熱交換器1となる。
【0029】
加えて、本実施形態では、熱交換体40において断熱層50と隣接しているのはセル15、すなわち、熱を与えられる側の第一流体を流通させる第一流路P1である。従って、与えられた熱がこれから使用される第一流体の熱を、断熱層50によって有効に保持することができる。
【0030】
更に、本実施形態では、第一流路P1が細密なセル15であるのに対し、第二流路P2はセル15より内部空間の広いスリット25である。従って、高温の第二流体として、排ガスや排水など不純物を含むことがある流体を使用しても、第二流路P2が詰まるおそれが低減されている。一方、低温の第一流体としては、空気や水など不純物を含まない流体を使用すれば、表面積が大きいというセル15の利点を活かして、効率的に熱を回収することができる。
【0031】
実際に、断熱層を備える熱交換器を製造し、断熱作用や熱交換率を測定した結果を示す。測定には、セル数、セル列やスペーサの段数を除き、
図1~
図4に示した熱交換器1と同じ構成の熱交換器E1を使用した。熱交換器E1の熱交換体は炭化珪素製であり、セル列の20個と19対のスペーサとが、セル列とセル列との間にスペーサを一対挟むように計38段積層された構成であり、各セル列は98個のセルからなる。熱交換体のサイズは、セル及びスリットが延びる方向の長さをそれぞれ170mmとし、セル列とスペーサとの積層方向の長さを138.7mmとした。そして、熱交換体においてセルもスリットも開口しない一対の端面に、それぞれ断熱層を積層した。それぞれの断熱層は、熱交換体を構成しているセル列と同一のセル列を8段積層して積層方向の長さを20mmとし、全てのセルの軸方向の両端部を、それぞれ長さ20mmずつ封止材で封止して形成した。なお、封止材としては、シリカ、アルミナ等のセラミックを主成分とする無機接着剤(朝日化学工業株式会社製、スミセラム)を使用した。この無機接着剤は、100℃~300℃で硬化して、硬化後は1000℃以上の耐熱性を示す。
【0032】
断熱層による効果を検討するために、熱交換器E1より断熱層が小さい熱交換器E2を製造した。熱交換器E2の構成は、セル15の数、セル列10やスペーサ21の段数を除き、
図5(a)に示した熱交換器1bと同一である。熱交換器E2と熱交換器E1とで熱交換体は共通であり、熱交換器E1ではセル列を8段積層して積層方向の長さを20mmとし、軸方向の両端部を封止して断熱層としたのに対し、熱交換器E2ではセル列を5段積層して積層方向の長さを13mmとし、軸方向の両端部を封止して断熱層とした上で、炭化珪素製で厚さ7mmの平板(
図5における符号60に相当)を接着して、合計の長さを熱交換器E1の断熱層と同一の20mmとした。
【0033】
熱交換器E1,E2のそれぞれに、第一流体として常温の空気を流通させ、第二流体として高温の排気ガスを流通させて熱交換させ、熱交換器を収容しているケーシングの外表面温度を、接触式温度計で測定した。第二流体としては、流入温度が400℃の排ガスAと、流入温度が800℃の排ガスBを使用した。流体の流量は、第一流体、第二流体(排ガスA,排ガスB)の何れについても、140m
3N/hとした。ケーシングの外表面において温度を測定した部分は、熱交換器において断熱層が形成されている両端面を被覆しているケーシングの両側面であり、それぞれの側面を第一流体の流通方向に3分割、第二流体の流通方向に2分割し、計12箇所の温度を測定した。各測定位置におけるケーシングの外表面温度を、表1に示す。表1で測定位置を示している番号とケーシングの側面における位置との関係を、
図5(b)に示す。
【0034】
【0035】
表1から、第二流体の流入温度が400℃の場合、800℃の場合の何れも、ほぼ全ての測定位置において、熱交換器E1の方が熱交換器E2に比べてケーシングの外表面の温度が低いことが分かる。これにより、断熱層が大きいほど(積層方向の長さが大きいほど)、断熱効果が大きくなっていることが分かる。熱交換器E1と熱交換器E2それぞれのケーシングの外表面の温度差は、第二流体の流入温度が400℃の場合は最大で53℃であり、第二流体の流入温度が800℃の場合は最大で101℃であり、大きなものであった。
【0036】
また、流入温度400℃の排ガスAである第二流体が第一流体と熱交換した場合、流入温度800℃の排ガスBである第二流体が第一流体と熱交換した場合のそれぞれについて、第一流体及び第二流体の流出温度を測定し、これに基づいて熱交換の温度効率を求めた。温度効率は、次の式により算出した。結果を、表2に示す。
第一流体の温度効率
(Tair-out-Tair-in)/(Tex-in-Tair-in)
第二流体の温度効率
(Tex-in-Tex-out)/(Tex-in-Tair-in)
上式において、
Tair-in:第一流体の流入温度
Tair-out:第一流体の流出温度
Tex-in:第二流体の流入温度
Tex-out:第二流体の流出温度
【0037】
【0038】
表2から、第一流体の温度効率も第二流体の温度効率も、熱交換器E1の方が熱交換器E2より高く、断熱層が大きいほど(積層方向の長さが大きいほど)、熱交換の温度効率が高くなることが明らかである。また、熱交換器E1及び熱交換器E2の何れでも、第一流体の温度効率及び第二流体の温度効率は、第二流体の温度が400℃であるか800℃であるかによらず同程度であった。従って、第一流体が常温であり第二流体の温度が400℃~800℃の範囲であり、断熱層の積層方向の長さが13mm~20mmのとき、断熱層の大きさが同程度であれば第二流体の温度によらず同程度の温度効率で熱交換されると考えられた。なお、断熱層は積層方向の長さが大きいほど断熱効果が高くなると考えられ、20mm以上とすることが望ましいが、熱交換器の体積が一定の場合に断熱層の占める体積が増加すると、熱交換に使用される体積が減少する。そのため、断熱効果と熱交換率の双方を考え合わせ、上記の温度範囲では断熱層の積層方向の長さの上限は30mmとすることが望ましい。一方、断熱層の積層方向の長さの下限は、セルの一段分として2mmとすることができる。
【0039】
次に、第二実施形態の熱交換器2について、
図6乃至
図9を用いて説明する。熱交換器2が熱交換器1と相違する点は、熱交換体40bが平板31と細長い四角柱状のスペーサ32とを積み重ねることによって形成されており、隣接する平板31と隣接するスペーサ32との間に形成されたスリット35,36によって、それぞれ第一流路P1及び第二流路P2が構成されている点である。また、断熱層50bが、スリットの長手方向の両端部が封止材37で封止されることによって形成されている点でも、熱交換器1と相違している。
【0040】
具体的には、隣接する平板31と平板31とは、長手方向を同一とし一定の間隔をあけて並んだ複数のスペーサ32によって接合されており、長手方向が第一方向Xであるスペーサ32の段と長手方向が第二方向Yであるスペーサ32の段とが、交互となるように接合されている。これにより、隣接する平板31間と長手方向が第一方向Xであるスペーサ32間に形成されたスリット35が、第一方向Xに貫通しスペーサ32によって第二方向Yに閉塞されている第一流路P1である。一方、隣接する平板31間と長手方向が第二方向Yであるスペーサ32間に形成されたスリット36が、第二方向Yに貫通しスペーサ32によって第一方向Xに閉塞されている第二流路P2である。そして、第一流路P1であるスリット35と第二流路P2であるスリット36とが、第三方向Zに平板31を介して隣接している。従って、本実施形態では、平板31が、第三方向Zに隣接する第一流路P1と第二流路P2との間に介在する「壁体」に相当する。
【0041】
そして、断熱層50bは、隣接する平板31間と隣接するスペーサ32間に形成されたスリットを、長手方向の両端部で封止材37により封止することにより形成されている。なお、断熱層50bにおけるスリットの長手方向は第一方向Xであっても第二方向Yであっても良いが、ここでは第一方向Xを長手方向とし両端部を封止されたスリットと、第二方向Yを長手方向とし両端部を封止されたスリットとの双方で、断熱層50bが構成されている場合を例示している(
図9(c),(d)参照)。
【0042】
また、熱交換体40bにおいて、第一方向Xに貫通するスリット35の段、及び第二方向Yに貫通するスリット36の段のうち、断熱層50bと隣接しているのはスリット35の段である。そして、熱交換体40bにおいて第一方向Xと交差する両端面、すなわちスリット35が開口している両端面の一方に第一流体供給管が接続され、他方に第一流体排出管が接続されると共に、第二方向Yと交差する端面、すなわちスリット36が開口している両端面の一方に第二流体供給管が接続され、他方に第二流体排出管が接続される。低温側の流体が第一流体であり、高温側の流体が第二流体である点は、第一実施形態と同様である。
【0043】
上記の構成により、第一流路P1であるスリット35に第一流体を流通させ、第二流路P2であるスリット36に第二流体を流通させることにより、第一流体と第二流体との間で平板31を介して熱交換させることができる。
【0044】
更に、熱交換体40bにおいて、第三方向Zに交差する両端面という、いわば熱交換のためには従来使用されなかった端面に断熱層50bが積層されていることにより、熱交換器1と同様に、高温の第二流体が保持している熱や、低温の第一流体が第二流体から与えられた熱が、熱交換器2の外部に放出されることが断熱層50bによって抑制されるため、熱交換率を高めることができる。また、断熱層50bの存在によって、熱交換体40b2の機械的強度が高められている点も、熱交換器1と同様である。
【0045】
加えて、熱交換器1と同様に、熱交換体40bにおいて断熱層50bと接しているのは、熱を与えられる側の第一流体を流通させる第一流路P1であるスリット35の段である。従って、与えられた熱がこれから使用される第一流体の熱を、断熱層50bによって有効に保持することができる。
【0046】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0047】
例えば、第一実施形態では、セル列10とスペーサ21とが積層されることにより、セル15が第一流路P1となりスリット25が第二流路P2となる場合を例示した。これに限定されず、複数のセル列を、隣接するセル列に属するセルの軸方向が直交するように積層することにより、第一流路及び第二流路の双方がセルである構成の熱交換器とすることができる。また、セルの形状として、軸方向に直交する断面の外形が正方形であるものを例示した。セルの形状は、軸方向に直交する方向に閉塞する隔壁を備えるものであれば特に限定されず、六角形、八角形、三角形等とすることができる。
【0048】
更に、第二実施形態では、平板31とスペーサ32とが積層されることにより、貫通方向が直交するスリット35,36がそれぞれ第一流路P1及び第二流路P2となる場合を例示した。これに限定されず、長手方向を一致させ間隔をあけて並んだ複数のリブが平板と一体となった形状に相当する“くし歯状”の構造体を積層することにより、同様に、貫通方向が直交するスリットがそれぞれ第一流路及び第二流路となる熱交換器とすることができる。
【符号の説明】
【0049】
1,1b,2 熱交換器(セラミック熱交換器)
11a 隔壁
11b 隔壁(壁体)
15 セル
17 封止材
31 平板(壁体)
32 スペーサ
37 封止材
40,40b 熱交換体
50,50b 断熱層
P1 第一流路
P2 第二流路
X 第一方向
Y 第二方向
Z 第三方向