IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-密着強度測定方法 図1
  • 特許-密着強度測定方法 図2
  • 特許-密着強度測定方法 図3
  • 特許-密着強度測定方法 図4
  • 特許-密着強度測定方法 図5
  • 特許-密着強度測定方法 図6
  • 特許-密着強度測定方法 図7
  • 特許-密着強度測定方法 図8
  • 特許-密着強度測定方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】密着強度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/04 20060101AFI20220131BHJP
【FI】
G01N19/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018001443
(22)【出願日】2018-01-09
(65)【公開番号】P2019120619
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
(72)【発明者】
【氏名】足立 洋介
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆志
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-265806(JP,A)
【文献】特開2014-178179(JP,A)
【文献】特開2006-275741(JP,A)
【文献】特開2011-185935(JP,A)
【文献】特開2003-254894(JP,A)
【文献】特開2010-002279(JP,A)
【文献】特開平08-334455(JP,A)
【文献】特開平05-215668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な素子本体と、該素子本体の長手方向に沿った表面の一部を覆う多孔質保護層と、を有し被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子における、該素子本体と該多孔質保護層との密着強度測定方法であって、
(a)前記素子本体のうち前記多孔質保護層が存在しない部分を保持用治具が弾性力で保持し、且つ、該素子本体の長手方向に沿った移動を許容し該長手方向に沿った該多孔質保護層の該保持用治具側への移動を阻止するように剥離用治具を前記長手方向で前記多孔質保護層と前記保持用治具との間に配置した状態にする工程と、
(b)前記工程(a)の後、前記保持用治具と前記剥離用治具とを前記長手方向に沿って互いに離れるように相対移動させることで、該剥離用治具が前記長手方向に沿って前記多孔質保護層を押圧するようにして、該多孔質保護層が前記素子本体から剥離する際の前記保持用治具と前記剥離用治具との少なくとも一方にかかる荷重に基づいて、前記多孔質保護層の密着強度を測定する工程と、
を含み、
前記剥離用治具は、前記素子本体が挿入可能な貫通孔を有しており、
前記貫通孔は、前記素子本体のうち前記多孔質保護層が存在しない部分が前記長手方向に沿って通過可能であり、且つ、前記センサ素子のうち前記多孔質保護層が存在する部分は前記長手方向に沿って通過不可能な大きさ及び形状をしており、
前記工程(a)では、前記貫通孔に前記素子本体を挿入して前記剥離用治具を配置する、
密着強度測定方法。
【請求項2】
前記剥離用治具の貫通孔は、前記工程(a)において前記素子本体が該貫通孔に挿入された状態において、隙間割合=(該貫通孔の内周面と前記素子本体との隙間の長さ)/(前記多孔質保護層の厚さ)と定義したときに、前記素子本体の表面に垂直な方向に沿って導出した該隙間割合が値0.3以上値0.7以下となるような大きさ及び形状をしている、
請求項に記載の密着強度測定方法。
【請求項3】
長尺な素子本体と、該素子本体の長手方向に沿った表面の一部を覆う多孔質保護層と、を有し被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子における、該素子本体と該多孔質保護層との密着強度測定方法であって、
(a)前記素子本体のうち前記多孔質保護層が存在しない部分を保持用治具が弾性力で保持し、且つ、該素子本体の長手方向に沿った移動を許容し該長手方向に沿った該多孔質保護層の該保持用治具側への移動を阻止するように剥離用治具を前記長手方向で前記多孔質保護層と前記保持用治具との間に配置した状態にする工程と、
(b)前記工程(a)の後、前記保持用治具と前記剥離用治具とを前記長手方向に沿って互いに離れるように相対移動させることで、該剥離用治具が前記長手方向に沿って前記多孔質保護層を押圧するようにして、該多孔質保護層が前記素子本体から剥離する際の前記保持用治具と前記剥離用治具との少なくとも一方にかかる荷重に基づいて、前記多孔質保護層の密着強度を測定する工程と、
を含み、
前記多孔質保護層及び前記剥離用治具は、前記工程(b)で互いに接触する部分に、嵌合することで前記長手方向に垂直な所定方向への互いの移動を規制する規制部を有している、
密着強度測定方法。
【請求項4】
前記保持用治具は、前記工程(a)で前記素子本体と接触する部分に、JIS K6253-3:2012に準じてタイプAデュロメータで測定した硬度が値60以上値1300以下の弾性体を有しており、
請求項1~のいずれか1項に記載の密着強度測定方法。
【請求項5】
前記工程(b)では、前記保持用治具と前記剥離用治具との離れる速度を0.8mm/sec以上1.2mm/sec以下とする、
請求項1~のいずれか1項に記載の密着強度測定方法。
【請求項6】
前記多孔質保護層は、厚みが40μm以上800μm以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の密着強度測定方法。
【請求項7】
前記多孔質保護層は、気孔率が20%以上50%以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の密着強度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着強度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサ素子が知られている。こうしたガスセンサ素子において、素子本体と、素子本体の表面を被覆する多孔質保護層と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、ガスセンサ素子において、積層体の側面で外部に露出する側面導通部の密着強度をセバスチャン法で測定することが知られている(例えば、特許文献2)。図9は、セバスチャン法で膜92の密着強度を測定する様子を示す概略説明図である。セバスチャン法で基材91に対する膜92との密着強度を測定する場合には、まず、膜92の表面に接着剤94を介してスタッドピン93を接着する(図9(a))。続いて、スタッドピン93に荷重(引っ張り荷重)を加えて上昇させて膜92の一部である膜92aを剥離させる(図9(b))。そして、膜92aが剥離したときのスタッドピン93にかかる荷重[N]として、膜92の密着強度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-109685号公報
【文献】特開2007-101387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した多孔質保護層においても、素子本体との熱膨張係数差や外部からの機械的衝撃(例えば自動車の振動)などにより剥離しないことを確認するために、素子本体に対する密着強度を測定したい場合があった。この場合、側面導通部と同様にセバスチャン法を用いて多孔質保護層の密着強度を測定することが考えられる。しかし、セバスチャン法では、多孔質保護層の密着強度の測定値のばらつきが大きいという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、多孔質保護層の密着強度の測定値のばらつきを小さくすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の密着強度の測定方法は、
長尺な素子本体と、該素子本体の長手方向に沿った表面の一部を覆う多孔質保護層と、を有し被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子における、該素子本体と該多孔質保護層との密着強度測定方法であって、
(a)前記素子本体のうち前記多孔質保護層が存在しない部分を保持用治具が弾性力で保持し、且つ、該素子本体の長手方向に沿った移動を許容し該長手方向に沿った該多孔質保護層の該保持用治具側への移動を阻止するように剥離用治具を前記長手方向で前記多孔質保護層と前記保持用治具との間に配置した状態にする工程と、
(b)前記工程(a)の後、前記保持用治具と前記剥離用治具とを前記長手方向に沿って互いに離れるように相対移動させることで、該剥離用治具が前記長手方向に沿って前記多孔質保護層を押圧するようにして、該多孔質保護層が前記素子本体から剥離する際の前記保持用治具と前記剥離用治具との少なくとも一方にかかる荷重に基づいて、前記多孔質保護層の密着強度を測定する工程と、
を含むものである。
【0009】
この密着強度測定方法では、剥離用治具が多孔質保護層を素子本体の長手方向に沿って押圧することで多孔質保護層を素子本体から剥離させ、その際の荷重に基づいて多孔質保護層の密着強度を測定する。この密着強度測定方法は、例えば従来のセバスチャン法と比べて、密着強度の測定値のばらつきを小さくできる。この理由は以下のように考えられる。セバスチャン法では接着剤によりスタッドピンと測定対象とを接着しているが、測定対象が多孔質体(ここでは多孔質保護層)である場合には、多孔質保護層の気孔に接着剤がどの程度浸透するかによって、スタッドピンと多孔質保護層との接着面積や接着力がばらつくと考えられる。これにより、スタッドピンを上昇させる際に多孔質保護層にかかる力の大きさや力のかかる範囲がばらついてしまい、測定値がばらつくと考えられる。本発明の密着強度測定方法では、接着剤を用いずに密着強度を測定できるため、測定対象が多孔質保護層であっても測定値のばらつきが小さくなると考えられる。
【0010】
本発明の密着強度測定方法において、前記剥離用治具は、前記素子本体が挿入可能な貫通孔を有しており、前記貫通孔は、前記素子本体のうち前記多孔質保護層が存在しない部分が前記長手方向に沿って通過可能であり、且つ、前記センサ素子のうち前記多孔質保護層が存在する部分は前記長手方向に沿って通過不可能な大きさ及び形状をしており、前記工程(a)では、前記貫通孔に前記素子本体を挿入して前記剥離用治具を配置してもよい。こうすれば、剥離用治具の貫通孔に素子本体を挿入することで、素子本体の長手方向の移動を許容しつつ多孔質保護層の移動は阻止するように剥離用治具を配置できるため、比較的容易に剥離用治具を配置できる。
【0011】
この場合において、前記剥離用治具の貫通孔は、前記工程(a)において前記素子本体が該貫通孔に挿入された状態において、隙間割合=(該貫通孔の内周面と前記素子本体との隙間の長さ)/(前記多孔質保護層の厚さ)と定義したときに、前記素子本体の表面に垂直な方向に沿って導出した該隙間割合が値0.3以上値0.7以下となるような大きさ及び形状をしていてもよい。隙間割合が値0.3以上では、例えば、工程(a)において剥離用治具の貫通孔に素子本体を挿入しやすくなる効果と、工程(b)において剥離用治具と素子本体との接触による摩擦力で密着強度に誤差が生じることを抑制する効果との少なくとも一方の効果が得られる。隙間割合が値0.7以下では、剥離用治具によって多孔質保護層をより確実に素子本体から剥離させることができる。
【0012】
ここで、「前記素子本体の表面に垂直な方向に沿って導出した該隙間割合が値0.3以上値0.7以下である、」は、素子本体の表面の少なくともいずれかの位置において、その表面に垂直な方向に沿って導出した隙間割合が値0.3以上値0.7以下であることを意味する。また、多孔質保護層で覆われた素子本体の表面のいずれの位置においても、その表面に垂直な方向に沿って導出した隙間割合が値0.3以上値0.7以下であることが好ましい。すなわち、工程(a)で素子本体が貫通孔に挿入された状態において、隙間割合が値0.3以上値0.7以下の範囲から外れる部分がないことが好ましい。
【0013】
本発明の密着強度測定方法において、前記多孔質保護層及び前記剥離用治具は、前記工程(b)で互いに接触する部分に、嵌合することで前記長手方向に垂直な所定方向への互いの移動を規制する規制部を有していてもよい。こうすれば、工程(b)で多孔質保護層の規制部と剥離用治具の規制部とが嵌合して、長手方向に垂直な所定方向への互いの移動が規制されるから、工程(b)における多孔質保護層と剥離用治具とのその方向の位置ずれが抑制される。そのため、密着強度の測定値のばらつきをより小さくできる。この場合において、前記多孔質保護層の規制部及び前記剥離用治具の規制部は、一方が突出部であり他方が該突出部と嵌合する凹み部であってもよい。
【0014】
本発明の密着強度測定方法において、前記保持用治具は、前記工程(a)で前記素子本体と接触する部分に、JIS K6253-3:2012に準じてタイプAデュロメータで測定した硬度が値60以上値1300以下の弾性体を有していてもよい。硬度が値60以上では、工程(b)において保持用治具からの素子本体の抜けを抑制できる。弾性体の硬度が値1300以下では、保持用治具の保持力で素子本体が割れてしまうのを抑制できる。
【0015】
本発明の密着強度測定方法において、前記工程(b)では、前記保持用治具と前記剥離用治具との離れる速度を0.8mm/sec以上1.2mm/sec以下としてもよい。速度が0.8mm/sec以上では、多孔質保護層がごくわずかずつ破壊されるなど剥離とは異なる状態が生じることを抑制でき、測定精度が向上する。速度が1.2mm/sec以下では、速度が速すぎることによる荷重の測定誤差を抑制する効果と、保持用治具からの素子本体の抜けを抑制する効果と、の少なくとも一方の効果が得られる。
【0016】
本発明の密着強度測定方法において、前記多孔質保護層は、厚みが40μm以上800μm以下であってもよい。厚みが40μm以上では、工程(b)で剥離用治具が多孔質保護層を長手方向に沿って押圧しやすくなるため、剥離用治具で多孔質保護層を剥離させやすくなる。
【0017】
本発明の密着強度測定方法において、前記多孔質保護層は、気孔率が20%以上50%以下であってもよい。気孔率が20%以上では、セバスチャン法で密着強度を測定した場合の上述した理由による測定値のばらつきが生じやすいため、本発明を適用する意義が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】センサ素子10の斜視図。
図2図1のA-A断面図。
図3】密着強度測定機40の説明図。
図4】センサ素子10に剥離用治具50及び保持用治具60を取り付ける様子を示す説明図。
図5】多孔質保護層30を剥離させる様子を示す概略断面図。
図6】センサ素子10と剥離用治具50の内周面51aとの位置関係を示す説明図。
図7】変形例の密着強度測定方法の説明図。
図8】変形例のセンサ素子10の断面図。
図9】従来例であるセバスチャン法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。まず、本発明の密着強度測定方法を測定するセンサ素子の一例について説明する。図1はセンサ素子10の斜視図であり、図2図1のA-A断面である。センサ素子10の素子本体20は、積層構造を有しており、長尺な直方体形状をしている。この素子本体20の長手方向(図2の左右方向)を長さ方向とし、素子本体20の積層方向(図2の上下方向)を厚さ方向とする。また、長さ方向及び厚さ方向に垂直な方向を素子本体20の幅方向とする。
【0020】
センサ素子10は、例えば車両の排ガス管などの配管に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、センサ素子10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定する。センサ素子10は、素子本体20と、素子本体20の表面の一部を覆う多孔質保護層30と、を備えている。
【0021】
素子本体20は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数積層した積層体を有している。素子本体20は直方体形状であるため、図1,2に示すように、素子本体20は外表面として第1~第6面20a~20fを有している。第1,第2面20a,20bは素子本体20のうち厚さ方向の両端に位置する面であり、第3,第4面20c,20dは素子本体20のうち幅方向の両端に位置する面である。第5,第6面20e,20fは素子本体20のうち長さ方向の両端に位置する面である。第5面20eは先端面とも称する。第6面20fは後端面とも称する。また、素子本体20のうち第5面20e側を先端側,第6面20f側と後端側とも称する。素子本体20の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。
【0022】
また、素子本体20は、第5面20eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口21と、第6面20fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口22と、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する検出部23と、を有している。検出部23は、少なくとも1つの電極を備えており、第1面20aに配設された外側電極24と、素子本体20の内部に配設された内側主ポンプ電極25,内側補助ポンプ電極26,測定電極27,及び基準電極28とを備えている。内側主ポンプ電極25及び内側補助ポンプ電極26は、素子本体20の内部の空間の内周面に配設されておりトンネル状の構造を有していてもよい。検出部23が特定ガス濃度を検出する原理は周知であり例えば上述した特許文献1にも記載されているため、詳細な説明は省略する。
【0023】
多孔質保護層30は、素子本体20の長手方向に沿った表面である第1~第4面20a~20dの一部を覆う多孔質体である。本実施形態では、多孔質保護層30は、素子本体20の6個の表面のうち5面(第1~第5面20a~20e)にそれぞれ形成された第1~第5保護層30a~30eを備えている。第1~第5外側保護層30a~30eは、互いに隣接する層同士が接続されており、多孔質保護層30全体で素子本体20の先端面(第5面20e)及びその周辺を覆っている。第1,第2保護層30a,30bのうち後端側(第6面20f側)には、それぞれ凹み部33(規制部の一例)が形成されている。凹み部33は、第1,第2保護層30a,30bの幅方向の中央に近いほど深く凹むような形状をしている。多孔質保護層30は、素子本体20の一部を被覆して、その部分を保護する。多孔質保護層30は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体20にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。
【0024】
多孔質保護層30は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体,チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などの多孔質体からなるものである。本実施形態では、多孔質保護層30はアルミナ多孔質体からなるものとした。多孔質保護層30の厚みは例えば40μm以上であってもよいし、800μm以下であってもよいし、40μm以上800μm以下であってもよい。本実施形態では第1~第5保護層30a~30eはいずれも厚みが同じとしたが、異なっていてもよい。多孔質保護層30の気孔率は例えば20%以上としてもよいし、10%以上50%以下としてもよいし、20%以上50%以下としてもよい。多孔質保護層30の気孔率は、JIS R1655に準拠した水銀圧入法に基づいて測定した値とする。多孔質保護層30における素子本体20との接触面の算術平均粗さRaは、例えば0.3μm以上1.0μm以下であってもよい。素子本体20における多孔質保護層30との接触面(ここでは第1~第5面20a~20e)の算術平均粗さRaは、例えば0.3μm以上1.0μm以下であってもよい。多孔質保護層30の形成は、例えばゲルキャスト法,スクリーン印刷,ディッピング,プラズマ溶射などの種々の方法により行うことができる。
【0025】
次に、こうして構成されたセンサ素子10における多孔質保護層30と素子本体20との密着力測定方法について説明する。図3は密着強度測定機40の説明図であり、図4はセンサ素子10に剥離用治具50及び保持用治具60を取り付ける様子を示す説明図である。図5は多孔質保護層30を剥離させる様子を示す概略断面図である。
【0026】
本実施形態の密着力測定方法は、
(a)素子本体20のうち多孔質保護層30が存在しない部分を保持用治具60が弾性力で保持し、且つ、素子本体20の長手方向に沿った移動を許容しその長手方向に沿った多孔質保護層30の移動を阻止するように剥離用治具50を長手方向で多孔質保護層30と保持用治具60との間に配置した状態にする工程と、
(b)工程(a)の後、保持用治具60と剥離用治具50とを素子本体20の長手方向に沿って互いに離れるように相対移動させることで、剥離用治具50が素子本体20の長手方向に沿って多孔質保護層30を押圧するようにして、多孔質保護層30が素子本体20から剥離する際の保持用治具60と剥離用治具50との少なくとも一方にかかる荷重に基づいて、多孔質保護層30の密着強度を測定する工程と、
を含む。
【0027】
まず、密着力測定方法に用いる密着強度測定機40について説明する。密着強度測定機40は、図3に示すように、下部ベース41と、上部ベース42と、剥離用治具固定部43と、素子本体保持部44と、ロッド45と、サーボモータ46と、ロードセル47と、制御部48と、表示操作部49と、を備えている。上部ベース42は、下部ベース41から離間して上方に固定されている。剥離用治具固定部43は、下部ベース41上に配設されており、剥離用治具50を固定する。素子本体保持部44は、上部ベース42の下方に取り付けられており、保持用治具60を介して素子本体20を保持する。ロッド45は、素子本体保持部44に接続された部材である。サーボモータ46は、上部ベース42に配設されており、ロッド45を昇降させることで素子本体保持部44を昇降させる。ロードセル47は、ロッド45に取り付けられてロッド45にかかる荷重[N]を検出する。制御部48は、密着強度測定機40全体を制御する。表示操作部49は、表示部と操作部との機能を備えたタッチパネル式の液晶ディスプレイなどとして構成されている。剥離用治具50は、多孔質保護層30を剥離させるための部材である。保持用治具60は、素子本体20を弾性力で保持する部材である。
【0028】
剥離用治具固定部43は、剥離用治具50を挟持して固定する一対の挟持部材43a,43aと、一方の挟持部材43aに形成された図示しない雌ねじ部と螺合してその挟持部材43aを他方の挟持部材43aに対して接近又は離間させる雄ネジ部43bと、を備えている。素子本体保持部44は、保持用治具60を挟持して固定する一対の挟持部材44a,44aと、挟持部材44a,44aに形成された図示しない雌ねじ部と螺合して挟持部材44a,44aを互いに接近又は離間させる雄ネジ部44b,44bと、を備えている。素子本体保持部44はロッド45を介して上部ベース42からつり下げられており、サーボモータ46からの駆動力により昇降する。これにより、剥離用治具固定部43と素子本体保持部44とは互いに接近又は離間する方向に相対移動する。
【0029】
制御部48は、CPU、ROM、RAMなどからなる周知のマイクロコンピュータによって構成されている。制御部48は、サーボモータ46に制御信号を出力して、素子本体保持部44の昇降や昇降速度を制御する。制御部48は、ロードセル47からの検出信号を入力して、ロッド45及び素子本体保持部44を介して保持用治具60にかかる荷重を測定する。制御部48は、表示信号を出力して表示操作部49に画像を表示させたり、表示操作部49からの操作信号を入力したりする。
【0030】
剥離用治具50は、略円柱状の部材であり、円柱の軸方向に沿って形成され素子本体20を挿入可能な貫通孔51を備えている。剥離用治具50は、多孔質保護層30を剥離させる際の多孔質保護層30との接触面となる端面52と、端面52の一部に設けられた突出部53,53(規制部の一例)と、を備えている。貫通孔51は、素子本体20を挿入可能であり、且つ多孔質保護層30は挿入不可能となるような大きさ及び形状をしている。本実施形態では、貫通孔51は、剥離用治具50の円柱の軸方向に垂直な断面が長方形状をしている。端面52は、剥離用治具50の軸方向の一方の端面である。突出部53,53は、図3の拡大部分における上下に並べて配置されており、貫通孔51を挟むように配置されている。突出部53,53は、工程(b)において第1,第2保護層30a,30bの凹み部33,33とそれぞれ嵌合するように、凹み部33,33の形状に倣った形状をしている。剥離用治具50は、例えば金属やセラミックスなどで構成されている。剥離用治具50は、体積弾性率が低いことが好ましい。
【0031】
保持用治具60は、略直方体形状の部材であり、軸方向に沿って形成され素子本体20を挿入可能な貫通孔61を備えている。貫通孔61は、保持用治具60の軸方向に垂直な断面が長方形状をしている。保持用治具60は、素子本体20を保持する際に素子本体20と接触する部分、すなわち貫通孔61の内周面61aを含む部分が少なくとも弾性体であることが好ましい。本実施形態では保持用治具60全体が弾性体とした。弾性体としては、例えばニトリルブタジエンゴム(NBR)及びクロロプレンゴム(CR)のいずれかを主成分とするゴムが挙げられる。保持用治具60に用いる弾性体は、硬度が値60以上であることが好ましい。弾性体の硬度は70以上であることがより好ましい。弾性体の硬度は値1300以下であることが好ましい。弾性体の硬度は60以上1300以下としてもよい。弾性体の硬度は、JIS K6253-3:2012に準じてタイプAデュロメータで測定した値とする。
【0032】
次に、工程(a)について説明する。工程(a)では、まず、センサ素子10に剥離用治具50を取り付ける。具体的には、剥離用治具50の貫通孔51に素子本体20を後端側から挿入し(図4(a))、剥離用治具50を素子本体20の長手方向に沿って前端側に移動させて多孔質保護層30の後端側に接する位置に配置する(図4(b))。この状態では、多孔質保護層30の凹み部33と剥離用治具50の突出部53とが嵌合する。続いて、保持用治具60の貫通孔61に素子本体20を後端側から挿入して、センサ素子10に保持用治具60を取り付ける(図4(c))。保持用治具60は、例えば素子本体20の後端付近に配置して、素子本体20のうち多孔質保護層30が存在しない部分に取り付ける。これにより、素子本体20の軸方向(長手方向)に沿って、多孔質保護層30,剥離用治具50,保持用治具60がこの順に並んだ状態になる。
【0033】
次に、図3のようにセンサ素子10を密着強度測定機40に取り付ける。すなわち、剥離用治具50を剥離用治具固定部43の挟持部材43a,43aで挟持して固定し、保持用治具60を素子本体保持部44の挟持部材44a,44aで挟持して保持する。本実施形態では、剥離用治具固定部43及び素子本体保持部44のいずれもが素子本体20の厚さ方向に沿って挟持するようにセンサ素子10を取り付けるものとした。このように工程(a)を行うと、センサ素子10,剥離用治具50及び保持用治具60は以下のような状態になる。すなわち、図3のように素子本体保持部44が保持用治具60を挟持することで、保持用治具60が素子本体20のうち多孔質保護層30が存在しない部分を弾性力で保持した状態になる。また、剥離用治具50はセンサ素子10及び保持用治具60とは独立して剥離用治具固定部43に固定されている。そのため、図3の状態では、素子本体20は貫通孔51内に挿入されており剥離用治具50に対して長手方向に沿って相対移動可能であるが、多孔質保護層30は長手方向に沿って保持用治具60側(ここでは上方)に移動すると剥離用治具50の端面52に接触してしまい移動が阻止される。
【0034】
工程(a)の後、工程(b)を行う。工程(b)では、例えば作業者が表示操作部49を操作して測定開始を指示すると、制御部48がサーボモータ46を制御して素子本体保持部44を所定の速度で上昇させる。このときの速度は、0.8mm/sec以上としてもよいし、1.2mm/sec以下としてもよいし、0.8mm/sec以上1.2mm/sec以下としてもよい。素子本体保持部44の上昇により、保持用治具60及びセンサ素子10は素子本体20の長手方向に沿って所定の速度で後端側へ移動(ここでは鉛直上方に上昇)していく(図5(a))。このとき、剥離用治具50は剥離用治具固定部43に固定されているため移動せず、保持用治具60と剥離用治具50とは長手方向に沿って互いに離れるように相対移動する。その結果、剥離用治具50の端面52が多孔質保護層30を長手方向に沿って素子本体20の前端側に押圧し、やがて多孔質保護層30は素子本体20から剥離する(図5(b))。そして、制御部48は、例えば所定時間の経過や表示操作部49を介した作業者からの終了指示の入力などの終了条件を満たしたと判定すると、サーボモータ46を停止させる。また、制御部48は、サーボモータ46によって素子本体保持部44を上昇させている間のロードセル47の検出信号を入力して、時刻と荷重[N]との関係を記憶すると共に表示操作部49に表示する。なお、制御部48は、工程(a)を行った後且つ素子本体保持部44を上昇させる前の状態での荷重[N]の値をゼロとするように予めゼロ調整を行った上で、素子本体保持部44の上昇中の荷重[N]を測定する。こうして測定された荷重に基づいて、制御部48又は作業者は、多孔質保護層30の密着強度[N]を測定する。例えば、ロードセル47が検出する荷重は、サーボモータ46の動作開始時から時間の経過と共に徐々に増加していき、その後に初めて多孔質保護層30の剥離が生じた時点で低下する傾向を示す。そのため、本実施形態では、時刻と荷重との関係に基づいて導出される荷重の最初のピークを検出し、そのピーク値を多孔質保護層30の密着強度の値とする。剥離が生じた時に荷重がどの程度低下するかを予め実験により調べて閾値を定めておき、荷重の低下幅が閾値に満たないような小さなピークを無視して、初めて多孔質保護層30が剥離したとみなせる最初のピークを検出してもよい。
【0035】
この密着強度測定方法では、例えば図9に示した従来例であるセバスチャン法と比べて、密着強度の測定値のばらつきを小さくできる。この理由は以下のように考えられる。セバスチャン法では接着剤94によりスタッドピン93と測定対象(例えば膜92)とを接着している。しかし、測定対象が多孔質体(ここでは多孔質保護層30)である場合には、多孔質保護層30の気孔に接着剤94がどの程度浸透するかによって、スタッドピン93と多孔質保護層30との接着面積や接着力がばらつくと考えられる。これにより、スタッドピン93を上昇させる際に多孔質保護層30にかかる力の大きさや力のかかる範囲がばらついてしまい、測定値がばらつくと考えられる。本実施形態の密着強度測定方法では、接着剤94を用いずに密着強度を測定できるため、測定対象が多孔質保護層30であっても測定値のばらつきが小さくなると考えられる。
【0036】
また、工程(b)で剥離用治具50の端面52が多孔質保護層30を長手方向に沿って押圧する際には、第1,第2保護層30a,30bの凹み部33,33と剥離用治具50の突出部53,53とが接触して嵌合する(図4(c)参照)。これにより、多孔質保護層30及び剥離用治具50は、長手方向に垂直な所定方向(ここでは幅方向)への互いの移動が規制されるから、工程(b)における互いの幅方向の位置ずれが抑制される。そのため、密着強度の測定値のばらつきをより小さくできる。
【0037】
ここで、剥離用治具50の貫通孔51の大きさについて詳細に説明する。図6はセンサ素子10と剥離用治具50の内周面51aとの位置関係を示す説明図である。図6は、工程(a)の終了時(=工程(b)の開始時)の状態で、センサ素子10及び剥離用治具50を長手方向に沿って素子本体20の後端側から仮想的に見た様子を示している。図6に示すように、第1~第4保護層30a~30dの各々の厚さを厚さT1~T4とする。また、素子本体20の第1~第4面20a~20dの各々と剥離用治具50の内周面51aとの距離を距離D1~D4とする。そして、多孔質保護層30の厚さに対する内周面51aと素子本体20との隙間の割合を、隙間割合=(内周面51aと素子本体20との隙間の長さ)/(多孔質保護層30の厚さ)と定義する。この隙間割合は素子本体20の表面に垂直な方向に沿って導出するものとする。そのため、本実施形態では、第1,第2面20a,20bに垂直な方向(図6の直線L1すなわち厚さ方向)に沿った隙間割合R1と、第3,第4面20a,20bに垂直な方向(図6の直線L2すなわち幅方向)に沿った隙間割合R2と、が導出される。上記の定義に基づき、隙間割合R1=(D1+D2)/(T1+T2)、隙間割合R2=(D3+D4)/(T3+T4)となる。貫通孔51は、この隙間割合R1,R2がいずれも値0超過値1未満となるような大きさに形成されている。こうすることで、貫通孔51は素子本体20が通過可能且つ多孔質保護層30が通過不可能な大きさになる。そのため、工程(a)で貫通孔51に素子本体20を挿入するだけで、素子本体20の長手方向の移動を許容しつつ多孔質保護層30の移動は阻止するように剥離用治具50を配置できる。
【0038】
また、隙間割合R1,R2は、それぞれ、値0.3以上が好ましく、値0.4以上がより好ましい。また、隙間割合R1,R2は、それぞれ、値0.7以下が好ましく、値0.6以下がより好ましい。隙間割合R1,R2は、それぞれ、値0.3以上値0.7以下が好ましい。隙間割合R1が値0.3以上では、貫通孔51が小さすぎることによる不具合を抑制できる。例えば、工程(a)において剥離用治具50の貫通孔51に素子本体20を挿入する際の両者の厚さ方向の位置ずれがより多く許容されて挿入しやすくなる効果が得られる。あるいは、工程(b)において剥離用治具50と素子本体20の厚さ方向の両端面(第1,第2面20a,20b)との接触による摩擦力で密着強度に誤差が生じることを抑制する効果が得られる。隙間割合R1が0.7以下では、貫通孔51が大きすぎることによる不具合を抑制できる。ここで、隙間割合R1が小さいほど、厚さ方向の両端面に配設された第1,第2保護層30a,30bのうち剥離用治具50の端面52に押圧される領域(図6の剥離用治具50のハッチングと多孔質保護層30のハッチングとの重複部分参照)が多くなる。そのため、隙間割合R1が0.7以下では、例えば剥離用治具50によって多孔質保護層30をより確実に素子本体20から剥離させることができる。すなわち、貫通孔51が大きすぎると、剥離用治具50が多孔質保護層30を素子本体20から剥離させずに多孔質保護層30の表面付近のみを破壊させてしまう場合があるが、隙間割合R1が0.7以下とすることでそのような不具合を抑制できる。隙間割合R2についても、幅方向に関して同様の効果が得られる。また、隙間割合R1,R2が共に値0.3以上であることが好ましく、共に値0.4以上であることがより好ましい。隙間割合R1,R2が共に値0.7以下であることが好ましく、共に値0.6以下であることがより好ましい。隙間割合R1,R2が共に値0.3以上値0.7以下であることが好ましい。距離D1~D4の各々は、例えば125μm以上としてもよく、175μm以下としてもよい。
【0039】
なお、保持用治具60の貫通孔61は、素子本体20が挿入でき素子本体保持部44からの押圧力によって自身の弾性力で素子本体20を保持できればよい。そのため、例えば貫通孔61に素子本体20が挿入され且つ素子本体保持部44に保持される前の状態では、内周面61aと素子本体20との間に隙間があってもよいし、隙間がなくてもよい。
【0040】
以上詳述した本実施形態の密着強度測定方法では、工程(b)における保持用治具60と剥離用治具50との相対移動時に剥離用治具50が素子本体20の長手方向に沿った移動は許容し多孔質保護層30の長手方向に沿った移動は阻止するように、工程(a)で多孔質保護層30と保持用治具60との間に剥離用治具50を配置しておく。そして、工程(b)では、剥離用治具50が多孔質保護層30の移動を阻止するため、剥離用治具50が多孔質保護層30を素子本体20の長手方向に沿って前端側に押圧することになり、これにより多孔質保護層30を素子本体20から剥離させる。そして、その際の保持用治具60にかかる荷重に基づいて多孔質保護層30の密着強度を測定する。この密着強度測定方法は、例えば図9に示したような従来のセバスチャン法と比べて、密着強度の測定値のばらつきを小さくできる。
【0041】
また、剥離用治具50は、素子本体20が挿入可能な貫通孔51を有している。貫通孔51は、素子本体20のうち多孔質保護層30が存在しない部分が長手方向に沿って通過可能であり、且つ、センサ素子10のうち多孔質保護層30が存在する部分は長手方向に沿って通過不可能な大きさ及び形状をしている。そして、工程(a)では、貫通孔51に素子本体20を挿入して剥離用治具50を配置する。貫通孔51が上記のような大きさ及び形状であれば、剥離用治具50の貫通孔51に素子本体20を挿入することで、素子本体20の長手方向の移動を許容しつつ多孔質保護層30の移動は阻止するように剥離用治具50を配置できる。そのため、比較的容易に剥離用治具50を配置できる。
【0042】
さらに、剥離用治具50の貫通孔51は、素子本体20の表面(ここでは第1~第4面20a~20d)に垂直な方向に沿って導出した隙間割合R1,R2がいずれも値0.3以上値0.7以下となるような大きさ及び形状をしている。隙間割合R1,R2が値0.3以上では、例えば、工程(a)において剥離用治具50の貫通孔51に素子本体20を挿入しやすくなる効果と、工程(b)において剥離用治具50と素子本体20との接触による摩擦力で密着強度に誤差が生じることを抑制する効果との少なくとも一方の効果が得られる。隙間割合R1,R2が値0.7以下では、剥離用治具50によって多孔質保護層30をより確実に素子本体20から剥離させることができる。
【0043】
さらにまた、多孔質保護層30及び剥離用治具50は、工程(b)で互いに接触する部分に、嵌合することで素子本体20の長手方向に垂直な所定方向(ここでは幅方向)への互いの移動を規制する凹み部33及び突出部53を有している。これにより、工程(b)における多孔質保護層30と剥離用治具50との幅方向の位置ずれが抑制される。そのため、密着強度の測定値のばらつきをより小さくできる。
【0044】
そして、保持用治具60の硬度が値60以上であるため、工程(b)において保持用治具60からの素子本体20の抜けを抑制できる。保持用治具60の硬度が値1300以下では、保持用治具60の保持力で素子本体20が割れてしまうのを抑制できる。
【0045】
そしてまた、工程(b)における保持用治具60と剥離用治具50との離れる速度を0.8mm/sec以上とすることで、多孔質保護層30がごくわずかずつ破壊されるなど剥離とは異なる状態が生じることを抑制でき、測定精度が向上する。速度を1.2mm/sec以下とすることで、速度が速すぎることによる荷重の測定誤差を抑制する効果と、保持用治具60からの素子本体20の抜けを抑制する効果と、の少なくとも一方の効果が得られる。
【0046】
そしてさらに、多孔質保護層30(ここでは特に第1~第4保護層30a~30d)の厚みが40μm以上であることで、工程(b)で剥離用治具50が多孔質保護層30を長手方向に沿って押圧しやすくなるため、剥離用治具で多孔質保護層30を剥離させやすくなる。
【0047】
そしてさらにまた、多孔質保護層30は、気孔率が20%以上であり、この場合にはセバスチャン法で密着強度を測定した場合の上述した理由による測定値のばらつきが生じやすいため、上述した実施形態の密着強度測定方法を適用する意義が高い。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0049】
例えば、上述した実施形態では、工程(b)での剥離用治具50と保持用治具60との相対移動方向は鉛直方向としたが、これに限らず水平方向などとしてもよい。
【0050】
上述した実施形態では、剥離用治具50は素子本体20を挿入可能な貫通孔51を有していたが、これに限られない。貫通孔を有さない剥離用治具であっても、工程(a)で素子本体20の長手方向に沿った移動を許容し多孔質保護層30の長手方向に沿った移動を阻止するように剥離用治具を長手方向で多孔質保護層30と保持用治具60との間に配置して、工程(b)で剥離用治具により多孔質保護層30を剥離させることはできる。図7は、この場合の密着強度測定方法の説明図である。図7(a)は工程(a)を行った状態を示し、図7(b)は工程(b)を行う様子を示す。図7(a)では、載置台141の上にセンサ素子10の素子本体20を長手方向が水平になるように配置し、素子本体20の上(ここでは第1面20a上)に貫通孔のない剥離用治具150を配置している。また、上述した実施形態と同様に、素子本体20の後端側に保持用治具60を取り付けて、素子本体20の長手方向で多孔質保護層30と保持用治具60との間に剥離用治具150を配置している。剥離用治具150は素子本体20とは独立して固定された状態にしておく。剥離用治具150の第1面20aからの距離(図6のD1に相当)は、第1保護層30aの厚さT1未満であり、値0μm以上であればよいが、さらに値0μm超過とすることが好ましい。工程(a)でこのような状態にした後、工程(b)では、剥離用治具150と保持用治具60とを素子本体20の長手方向(ここでは水平方向)に沿って互いに離れるように相対移動させることで、剥離用治具150の端面152により第1保護層30aを押圧して第1面20aから剥離させる(図7(b))。そして、このときの保持用治具60と剥離用治具150との少なくとも一方にかかる荷重に基づいて、多孔質保護層30(ここでは特に第1保護層30a)の密着強度を測定する。こうしても、上述した実施形態と同様に接着剤を用いずに密着強度を測定できる。ただし、上述した実施形態では多孔質保護層30のうち特に第1~第4保護層30a~30dの密着強度を測定することになるが、図7の例では多孔質保護層30のうち特に第1保護層30aの密着強度を測定することになり、測定される密着強度の値は異なる。図7の例では、測定される荷重には載置台141と素子本体20との動摩擦力が含まれるが、この値が小さい場合には無視してもよいし、動摩擦力を予め測定しておき荷重の測定値から動摩擦力を引いた値を密着強度としてもよい。
【0051】
上述した実施形態において、多孔質保護層30が厚さ方向に複数の層を備えていてもよい。例えば、図8に示すように、多孔質保護層30が外側保護層31と内側保護層32とを備えていてもよい。外側保護層31と内側保護層32とは、厚さ,気孔率,又は材質などが異なっていてもよい。
【0052】
上述した実施形態では、素子本体20は直方体形状としたが、これに限られない。例えば素子本体20は円筒状であってもよい。
【0053】
上述した実施形態では、多孔質保護層30と剥離用治具50とは互いの移動を規制する規制部として機能する凹み部33,突出部53を備えていたが、これらの少なくとも一方を備えなくてもよい。また、上述した実施形態では、凹み部33及び突出部53は幅方向への移動を規制したが、厚さ方向への移動を規制するように多孔質保護層30と剥離用治具50とが規制部を有していてもよい。
【0054】
上述した実施形態では、工程(b)では剥離用治具50を固定して保持用治具60を移動させたが、剥離用治具50と保持用治具60とが素子本体20の長手方向に沿って互いに離れるように相対移動させればよい。例えば剥離用治具50を移動させてもよいし、剥離用治具50及び保持用治具60を移動させてもよい。
【0055】
上述した実施形態では、保持用治具60に係る荷重をロードセル47で測定したが、これに限らず保持用治具60と剥離用治具50との少なくとも一方にかかる荷重に基づいて密着強度を測定すればよい。
【0056】
上述した実施形態では、工程(a)の終了時に剥離用治具50の端面52と多孔質保護層30とが接触していたが、これに限られない。工程(b)において保持用治具60の移動開始後に端面52と多孔質保護層30とが接触してもよい。
【0057】
上述した実施形態では、多孔質保護層30は第1~第5保護層30a~30eを備えていたが、これに限られない。多孔質保護層30は、素子本体20の長手方向に沿った表面(図1では第1~第4面20a~20d)のいずれかの面の一部を、少なくとも覆っていればよい。例えば多孔質保護層30は第5保護層30eを備えなくてもよいし、第1保護層30aのみを備えていてもよい。
【0058】
上述した実施形態では、保持用治具60は全体が弾性体であってあったが、これに限らず保持用治具60は素子本体20を弾性力で保持できればよい。例えば、保持用治具60は、全体が弾性体ではなく、素子本体と接触する部分に弾性体を備えていてもよい。上述した実施形態では、保持用治具60は素子本体20を囲んで保持する1つの部材としたが、これに限らず素子本体20を挟持する複数の部材としてもよい。例えば、密着強度測定機40の挟持部材43a,43aのうち少なくとも素子本体20と接触する部分が弾性体であってもよい。この場合、挟持部材43a,43aが保持用治具60に相当する。
【0059】
上述した実施形態では、剥離用治具50の貫通孔51に素子本体20を挿入してから剥離用治具固定部43によって固定したが、これに限らず剥離用治具50を先に剥離用治具固定部43で固定しておいてもよい。また、剥離用治具50は、剥離用治具固定部43と一体化しているなど、密着強度測定機40に一体的に設けられた部材であってもよい。
【0060】
上述した実施形態では、剥離用治具50は略円柱状の部材としたが、これに限らず非円柱状の部材であってもよい。例えば、剥離用治具50は四角柱状など多角柱形状の部材であってもよい。
【実施例
【0061】
以下には、密着強度の測定方法を具体的に行った例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
[センサ素子A~Eの作製]
まず、密着強度を測定する対象となるセンサ素子10を作製して、センサ素子A~Eとした。センサ素子A~Eは、図8に示したように外側保護層31と内側保護層32との2層を備えた態様とした。センサ素子Aは、以下のように作製した。まず、長さが67.5mm、幅が4.25mm、厚さが1.45mmの図1,2に示した素子本体20を作製した。素子本体20は、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚作製し、各々のグリーンシートに各電極等のパターンを印刷し、積層して積層体を得た。また、グリーンシート上に内側保護層32となるスラリーの層をスクリーン印刷にて印刷形成した。スラリーは原料粉末(アルミナ粉末),バインダー溶液,溶媒(アセトン),及び造孔材を混合して調合した。その後、積層体を焼成して、内側保護層32を備えた素子本体20を作製した。続いて、エリコンメテコ社製のSinplexPro-90を使用してプラズマ溶射により内側保護層32の外側に外側保護層31を作製した。溶射材料はアルミナ粉末とした。内側保護層32の厚みは0.05mmとし、多孔質保護層30の厚みT1~T4(外側保護層31と内側保護層32との合計厚み)はいずれも0.3mmとした。外側保護層31の気孔率は20%とし、内側保護層32の気孔率は40%とした。素子本体20の第5面20eから多孔質保護層30の後端までの距離は12.0mmとした。第1,第2保護層30a,30bが有する凹み部33の凹みの深さは0.5mmとした。センサ素子B~Eは、内側保護層32用のスラリー中の造孔材の添加量及び粒径を適宜変更して、内側保護層32の気孔率を20%~50%の範囲内で適宜変化させた点以外は、センサ素子Aと同様に作製した。
【0063】
[実施例1]
センサ素子A~Eに対して、上述した工程(a),(b)を行って密着強度を測定し、実施例1とした。まず、剥離用治具50及び保持用治具60を用意した。剥離用治具50は直径が8.7mmとし、貫通孔51の寸法は縦1.7mm,横4.6mm,軸方向の長さ10mmとした。剥離用治具50の材質はSKD11とした。剥離用治具50の突出部53,53は、突出高さが凹み部33と同じ0.5mmとし、凹み部33に倣う形状とした。保持用治具60の寸法は3辺がそれぞれ3.45mm,6.25mm,14.5mmの直方体形状とし、貫通孔61の寸法は縦1.45mm,横4.25mm,軸方向の長さ14.5mmとした。保持用治具60の材質はNBR70とした。JIS K6253-3:2012に準じてタイプAデュロメータで測定した保持用治具60の硬度は値70であった。
【0064】
工程(a)では、図4と同様にセンサ素子10に剥離用治具50及び保持用治具60を取り付けた後、引張試験機(INSTRON製,INSTRON5566)に剥離用治具50及び保持用治具60を取り付けて、図3と同様に剥離用治具50を固定し保持用治具60を昇降可能な状態にした。上述した素子本体20及び剥離用治具50の貫通孔51の寸法からわかるように、この状態では図6で説明した距離D1,D2はいずれも値0.125mm,距離D3,D4はいずれも値0.175mmとなった。そのため、隙間割合R1=(0.125mm+0.125mm)/(0.3mm+0.3mm)=0.42であった。隙間割合R2=(0.175mm+0.175mm)/(0.3mm+0.3mm)=0.58であった。
【0065】
工程(b)では、保持用治具60を1mm/secの速さで上昇させた。これにより、剥離用治具50が多孔質保護層30を押圧して多孔質保護層30が剥離した。このときの保持用治具60にかかる荷重[N]と時刻との関係を測定し、荷重の最初のピーク値を多孔質保護層30の密着強度[N]の値として測定した。以上の工程(a),(b)を、センサ素子A~Eそれぞれについて行った。センサ素子Aは7本作製して各々について密着強度の測定を行い、測定値のばらつきを示す値として、変動係数(=標準偏差/算術平均)を導出した。センサ素子B~Eについても同様に、8本,6本,6本,14本作製して各々について密着強度の測定を行い、センサ素子B~Eの各々の変動係数を導出した。実施例1では、工程(b)において保持用治具60から素子本体20が抜けることはなかった。
【0066】
[比較例1]
比較例1では、図9に示したセバスチャン法を用いてセンサ素子A~Eの多孔質保護層30の密着強度を測定した。スタッドピン93のうち多孔質保護層30と接着される下面の直径は3.2mmとし、スタッドピン93の材質はアルミナとした。接着剤94はエポキシ接着剤を用いた。比較例1では、まず、スタッドピン93の下面に接着剤94を塗布し、第1保護層30aの表面に200℃で30分間押圧してスタッドピン93と第1保護層30aとを接着した。続いて、引張試験機(SHIMADZU製,AG250kN)に素子本体20及びスタッドピン93を取り付け、スタッドピン93を1mm/secの速度で上昇させた。これにより、スタッドピン93と共に第1保護層30aの一部が引っ張られて第1面20aから剥離した。そして、このときのスタッドピン93にかかる荷重[N]と時刻との関係を測定し、荷重の最初のピーク値を多孔質保護層30の密着強度[N]の値として測定した。以上の工程をセンサ素子A~Eそれぞれについて行った。センサ素子A~Eはそれぞれ5本ずつ作製して、各々について密着強度の測定を行い、測定値のばらつきを示す値として、変動係数を導出した。
【0067】
[実施例1と比較例1の測定値のばらつきの比較]
素子A~Eの各々について、比較例1に対する実施例1の変動係数の減少率[%]を、減少率=((比較例1の変動係数)-(実施例1の変動係数))/(比較例1の変動係数)×100%として導出した。結果を表1に示す。表1から分かるように、センサ素子A~Eのいずれの場合でも、実施例1では比較例1と比べて変動係数が60%以上減少しており、測定値のばらつきが小さかった。ここで、比較例1では、同じセンサ素子であっても、スタッドピン93と共に引っ張られて剥離する多孔質保護層30の大きさに変動があった。これは、多孔質保護層30の気孔に接着剤94がどの程度浸透するかによって、スタッドピン93と多孔質保護層30との接着面積や接着力がばらついているためと考えられる。そして、これにより比較例1では変動係数が比較的大きくなっていると考えられる。実施例1では、接着剤を用いていないためそのようなばらつきが抑制されて変動係数が小さくなっていると考えられる。
【0068】
【表1】
【0069】
[実施例2,比較例2]
保持用治具60の材質を変更した点以外は、実施例1と同様にして密着強度の測定を行って、実施例2,比較例2とした。実施例2では保持用治具60の材質をCR65とし、比較例2では保持用治具60の材質をCR45とした。JIS K6253-3:2012に準じてタイプAデュロメータで測定した保持用治具60の硬度は、実施例2では値60,比較例2では値45であった。実施例2を10回行ったところ、実施例1と同様に保持用治具60から素子本体20が抜けることなく密着強度を測定できた。一方、比較例2では、保持用治具60を介して素子本体20を保持する押圧力を、素子本体20が割れない範囲で強くしても、工程(b)で保持用治具60から素子本体20が抜けてしまった。この結果から、保持用治具60の硬度は値60以上が好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
10 センサ素子、20 素子本体、20a~20f 第1面~第6面、21 被測定ガス導入口、22 基準ガス導入口、23 検出部、24 外側電極、25 内側主ポンプ電極、26 内側補助ポンプ電極、27 測定電極、28 基準電極、30 多孔質保護層、30a~30e 第1~第5保護層、31 外側保護層、32 内側保護層、33 凹み部、40 密着強度測定機、41 下部ベース、42 上部ベース、43 剥離用治具固定部、43a 挟持部材、43b 雄ネジ部、44 素子本体保持部、44a 挟持部材、44b 雄ネジ部、45 ロッド、46 サーボモータ、47 ロードセル、48 制御部、49 表示操作部、50 剥離用治具、51 貫通孔、51a 内周面、52 端面、53 突出部、60 保持用治具、61 貫通孔、91 基材、92 膜、93 スタッドピン、94 接着剤、141 載置台、150 剥離用治具、152 端面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9