(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20220131BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20220131BHJP
E02D 29/02 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
E02D17/20 103Z
E02D17/18 A
E02D29/02 308
E02D17/20 103F
(21)【出願番号】P 2018062894
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松丸 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武斗
(72)【発明者】
【氏名】石垣 竜一
(72)【発明者】
【氏名】原田 道幸
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0254795(US,A1)
【文献】特開2009-167651(JP,A)
【文献】特開2002-371796(JP,A)
【文献】特開2017-025579(JP,A)
【文献】特開2014-020079(JP,A)
【文献】特開2010-255247(JP,A)
【文献】特開2017-193927(JP,A)
【文献】実開平06-067545(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0142542(US,A1)
【文献】特許第6192763(JP,B1)
【文献】特許第6186031(JP,B1)
【文献】特開2005-009146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 17/18
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の長片状の樹脂又は繊維シートからなるストリップ材によってハニカム状の複数のセルが形成されたハニカム状立体補強材に中詰材が充填された
、盛土の側面又は斜面の表層に配置されるハニカム構造体であって、
前記中詰材が、砕石にセメントを添加したセメント改良礫土であるとともに、前記砕石は粒度調整砕石であり、前記セメントの添加量が2.0-4.0重量%であること
で、繰り返し荷重の載荷に対する追従性及び抵抗特性を有することを特徴とするハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁やのり面保護工として盛土や切土の表層などに配置されたり、構造物の基礎などとして配置されたりするハニカム構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3に開示されているように、ハニカム状に形成されたセルの空隙の中に、砂、土砂又は砕石などの粒状物を充填して、擁壁やのり面保護工とする構造体が知られている。
【0003】
一方、粒状物のようにセルの中から流出し易いものではなく、コンクリート、モルタル又はソイルモルタルなどの、流動体として充填されて、充填後に固化する材料が使用できることも、特許文献1-3には記載されている。
【0004】
ここで、砂、土砂又は砕石などの粒状物を充填する場合は、作業に制約が少なく施工性に優れているうえに、植生により斜面を緑化できるなどの利点がある。
【0005】
一方、流動体として充填されて乾燥によって固化するコンクリートなどを充填する場合は、セルからの流出のおそれがなく、強固な一体構造で斜面を被覆することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平6-67545号公報
【文献】特許第6192763号公報
【文献】特許第6186031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら土砂などの粒状物を充填する場合は、長期間の使用や降雨又は浸透した地下水などの影響によって、セルに充填した土砂等が流出してしまうおそれがある。そして、土砂等が流出すると、沈下が生じたり、斜面が崩壊したりするおそれがある。
【0008】
一方において、コンクリートなどを充填して強固に固めた場合、繰り返し荷重の載荷や、気温の日単位や年単位の変化の繰り返しなどによって、表面にクラックが生じ、美観を損ねるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、流出しにくいうえに、繰り返し荷重などに対する追従性に優れたハニカム構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のハニカム構造体は、複数の長片状の樹脂又は繊維シートからなるストリップ材によってハニカム状の複数のセルが形成されたハニカム状立体補強材に中詰材が充填されたハニカム構造体であって、前記中詰材が、砕石にセメントを添加したセメント改良礫土であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明のハニカム構造体は、複数の長片状の樹脂又は繊維シートからなるストリップ材によってハニカム状のセルが形成されたハニカム状立体補強材の中詰材として、砕石にセメントを添加したセメント改良礫土を使用する。
【0012】
このため、充填後に砕石同士がセメントによって接着され、降雨や地下水などの影響を受けても、セル内からの流出を抑えることができる。また、一旦、多量の水を添加して混合したコンクリートなどと違い、砕石間の密着度が低いため、繰り返し荷重などに対する追従性に優れた構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態のハニカム構造体の構成を説明するための斜視図である。
【
図2】ハニカム状立体補強材の展開前の状態を説明する斜視図である。
【
図3】ハニカム状立体補強材の展開後の状態を説明する斜視図である。
【
図4】ハニカム構造体が前面に配置された擁壁の構成を説明する断面図である。
【
図5】ハニカム構造体が斜面に配置されたのり面保護工の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態で説明するハニカム構造体10の構成を示した斜視図である。このハニカム構造体10は、
図4,5に示すように、擁壁10Aやのり面保護工10Bとして設けられる。
【0015】
すなわちハニカム構造体10は、盛土の側面や切土の掘削面などを覆うように配置される。配置方法としては、盛土の側面に積み上げる方式や、のり面(斜面)の表層として敷設する方法などがある。
【0016】
本実施の形態のハニカム構造体10は、
図1に示すように、複数の長片状の樹脂又は繊維シートからなるストリップ材2,・・・によってハニカム状の複数のセル5,・・・が形成されたハニカム状立体補強材1と、セル5,・・・に充填される中詰材6,・・・とによって、主に構成される。
【0017】
ストリップ材2は、例えば高密度ポリエチレンなどの樹脂材料によって、帯状(シート状)に成形されたものが使用できる。
図2,3に示すように、複数の帯状のストリップ材2,・・・を帯面が側面となるように立てた状態で重ね、隣接するストリップ材2,2,2同士を前面側と裏面側とで交互に結合部位4で結合させる。
【0018】
このようにして結合させたストリップ材2,・・・の束を、
図2に示した矢印の方向(ストリップ材2の厚さ方向)に広げると、ハニカム状の複数のセル5,・・・が形成されることになる。
【0019】
要するに、波状に形成された隣接するストリップ材2,2同士は、谷と山とが接する箇所に結合部位4が設けられ、山と谷とが離隔して対向する平面視菱形状の空間がセル5になる。
【0020】
ストリップ材2には、セル5内に溜まる水を排出するための孔3を設けることができる。孔3の大きさや形状はどのようなものであってもよく、ストリップ材2の所望される強度が保持できる範囲で任意に設定することができる。
【0021】
また、複数の孔3,・・・を設ける場合の配置についても、直列配置であっても、千鳥配置であってもよい。
図1は、最前面が孔のないストリップ材2Aを示しており、それ以外は複数の孔3,・・・が穿孔されたストリップ材2を示している。
【0022】
ストリップ材2,2同士の結合部位4は、例えば重ねたストリップ材2,2に対して熱溶着や超音波溶着を施すことによって設けることができる。また、タッピンビスをねじ込むことによって結合部位4を設けることもできる。さらには、ストリップ材2の孔3を利用して、樹脂製バンドなどで結束することで結合部位4を設けることもできる。
【0023】
そして、このようにして組み立てられたハニカム状立体補強材1のセル5,・・・の中に、中詰材6,・・・が充填される。本実施の形態のハニカム構造体10では、この中詰材6が砕石にセメントを添加したセメント改良礫土となる。
【0024】
セメント改良礫土は、例えば粒度調整砕石に少量のセメントを添加することによって製造される。粒度調整砕石は、岩石をクラッシャーなどで破砕後にふるい分けをして、使用目的に合ったサイズの粒度分布にした粗骨材である。比較的大きめのサイズの砕石を集めたJIS A5001のM-40(粒度範囲0-40mm)、M-30(粒度範囲0-30mm)、M-25(粒度範囲0-25mm)などが使用できる。
【0025】
良質な粒度調整砕石を使用することで、セメント改良礫土の強度を高めることができる。粒度調整砕石としては、例えば粒調砕石A(比重Gs=2.71,均等係数Uc=12.1,平均粒径D50=0.54mm)、粒調砕石B(比重Gs=3.03,均等係数Uc=32.3,平均粒径D50=0.14mm)などが使用できる。
【0026】
セメント改良礫土のセメントの添加量は、0.4-0.8kN/m3又は2.0-4.0重量%程度の少量でよい。例えば、単位体積当たりのセメントの配合量を、粒調砕石Aの場合、重量%(重量比)で2.5%-2.8%(0.678 kN/m3-0.758kN/m3)としたセメント改良礫土を使用することができる。一方、粒調砕石Bの場合、重量%(重量比)で2.5%(0.758kN/m3)程度としたセメント改良礫土を使用することができる。
【0027】
添加するセメントとしては、普通ポルトランドセメントなどが使用できる。セメント改良礫土は、現場であれば、砕石とセメントとをバックホウなどで撹拌するだけで簡単に製造することができる。
【0028】
また、セメント改良礫土は、混合を充分に行ってセメントを均等に分散させることによって、安定して強度を高めることができるため、ミキサーなどを使って撹拌してもよい。
【0029】
粒度調整砕石にセメントを添加して製造されるセメント改良礫土は、時間の経過(長期養生)に伴って強度を徐々に増加させることができる。また、繰り返し載荷に伴う変形も抑えることができるようになる。
【0030】
さらに、引張部材となるハニカム状立体補強材1のセル5にセメント改良礫土を中詰材6として充填することで、ストリップ材2の張力により曲げ変形に対する靭性能が向上することも期待できる。また、繰り返し載荷に対する曲げ変形に対しても、変形をほとんど進行させない抵抗特性を発揮させることができる。
【0031】
図4は、ハニカム構造体となる擁壁10Aが背面盛土7Aの前面に設けられた構成を示した断面図である。すなわち、背面盛土7Aの表面を覆う擁壁10Aを構築するに際して、例えば奥行き方向が3列となるようなハニカム状立体補強材1が最下段に配置される。
【0032】
そして、施工現場近くのピットでバックホウによって粒度調整砕石とセメントとを混ぜ合わせて、セメント改良礫土を製造する。製造されたセメント改良礫土は、中詰材6として最下段のハニカム状立体補強材1のセル5にバックホウなどを使って充填される。
【0033】
このようにして構築された1段目のハニカム構造体の上に、2段目となるハニカム状立体補強材1を積み重ね、1段目と同様にしてセル5に中詰材6を充填していく。そして、このような作業を繰り返すことによって、階段状の擁壁10Aが構築される。
【0034】
一方
図5は、ハニカム構造体となるのり面保護工10Bが、掘削された地山7Bの斜面に設けられた構成を示した断面図である。すなわち、地山7Bの斜面を覆うのり面保護工10Bを構築するに際して、例えば表層に1層となるようにハニカム状立体補強材1が敷設される。
【0035】
斜面に敷設されたハニカム状立体補強材1は、地山7Bに打ち込まれたアンカーピン8,・・・を係留させることで、斜面に固定される。そして、ハニカム状立体補強材1のセル5には、セメント改良礫土を中詰材6として充填する。
【0036】
セル5に中詰材6として充填されたセメント改良礫土は、砕石間が硬化されたセメントによって塞がれて透水性能が低下しているため、のり面保護工10Bとして適用した場合に、遮水性の高い表層とすることができる。
【0037】
次に、本実施の形態のハニカム構造体10の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のハニカム構造体10は、複数の帯状の樹脂シートからなるストリップ材2,・・・によってハニカム状のセル5,・・・が形成されたハニカム状立体補強材1の中詰材6として、粒度調整砕石にセメントを添加したセメント改良礫土を使用する。
【0038】
セメント改良礫土は、充填後に砕石同士がセメントによって接着され、降雨や地下水などの影響を受けても、セル5内からの流出を抑えることができる。例えば、擁壁10Aやのり面保護工10Bにした場合に、降雨が直接、吹き付けたり、背面盛土7Aや地山7B内部を透過した地下水などが流下したりしても、砕石同士がバラバラにならずに、流出を防ぐことができる。また、その結果、沈下の発生を防ぐことができる。
【0039】
他方、一旦、多量の水を添加して混合したコンクリートなどをセルに充填してコンクリート層を構築した場合、コンクリートが乾燥によって硬化すると強固な一体性が発揮されることになる。しかしながら、例えば背面盛土7Aに列車の通過などにより大きな繰り返し荷重が作用すると、背面盛土7Aと強固なコンクリート層とでは剛性の差が大きいことから変形量が異なり、表面にひび割れが生じることがある。このひび割れは、構造的には大きな問題にならないが、美観を損ねることにはなる。
【0040】
これに対して、本実施の形態のハニカム構造体10のように中詰材6にセメント改良礫土を使用すると、背面盛土7Aや地山7Bなどの地盤と剛性が近くなり、変形を追従させやすくなる。すなわち、砕石間の密着度がコンクリートよりも低いため、繰り返し荷重などに対する追従性に優れている。
【0041】
特に、セメント改良礫土は、砕石とセメントとを混合した当初は、ほとんど接着力が発揮されず、土砂などと同様に扱うことができるので、施工現場では、バックホウなどを使った土砂などと同様の作業によって、セル5,・・・に対して充填を行うことができる。また、セメント改良礫土を中詰材6として充填する場合は、締固め作業を行う必要がないため、効率的に施工を行うことができる。
【0042】
そして、充填後は、周囲の湿気や降雨や浸透した地下水などによってセメントが水和反応を起し、徐々に強度が上昇していく。すなわち、セメント改良礫土は、当初の荷重載荷などによって背面盛土7Aや地山7Bに馴染んだ後に強度が増加するため、その後の繰り返し荷重の載荷に対しても優れた抵抗特性を発揮させることができる。
【0043】
また、日射や気温による日単位や年単位の温度変化の繰り返しや、降雨を受けたりしても、砕石と少量のセメントとを混合させたセメント改良礫土の表面は、微小なクラックが目立つような平滑面にはならないので、クラックが入ったとしても美観を損ねることがない。
【0044】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0045】
例えば、前記実施の形態では、帯状のストリップ材2を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、少なくともセル5の一側壁となる長さを有する長片状のストリップ材であればよい。
【0046】
また、前記実施の形態では、擁壁10Aやのり面保護工10Bとなるハニカム構造体について説明したが、これに限定されるものではなく、構造物の基礎や基礎地盤、盛土などの支持地盤や路盤などとするためにハニカム構造体10を配置することができる。
【0047】
さらに、前記実施の形態では、粒度調整砕石からセメント改良礫土を製造する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、通常の砕石などに少量のセメントを添加することによって製造されたセメント改良礫土を中詰材として使用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
10 ハニカム構造体
1 ハニカム状立体補強材
2,2A ストリップ材
5 セル
6 中詰材
10A 擁壁(ハニカム構造体)
10B のり面保護工(ハニカム構造体)