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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】アルコキシシランの調製プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20220131BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C07F7/18 S
C07B61/00 300
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018564351
(86)(22)【出願日】2017-06-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 US2017036320
(87)【国際公開番号】W WO2017214252
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】62/348,436
(32)【優先日】2016-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508229301
【氏名又は名称】モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Momentive Performance Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【氏名又は名称】西山 清春
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】ルジューヌ,アラン
(72)【発明者】
【氏名】チャヴス,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ジマンダン,ティベリウ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッキ,イラリア
(72)【発明者】
【氏名】ホワン,レスリー
(72)【発明者】
【氏名】トロット,アンドレア
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-524727(JP,A)
【文献】特開2001-072689(JP,A)
【文献】特表2011-502951(JP,A)
【文献】米国特許第02820806(US,A)
【文献】特開平05-255348(JP,A)
【文献】特開昭61-155391(JP,A)
【文献】特開2008-163335(JP,A)
【文献】特表2011-500523(JP,A)
【文献】KEMMITT,DENDRIMERIC SILATRANE WEDGES,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY PERKIN TRANSACTIONS 1,英国,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,1997年03月07日,NR:5,PAGE(S):729 - 739,http://dx.doi.org/10.1039/a605135i
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C08G 77/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物の調製プロセスであって、エステル交換反応条件下に少なくとも1つの金属エステル交換触媒の存在下で、副生物アルコールおよび/または未反応アルコールの除去を伴って、少なくとも1つのエステル交換可能なアルコキシシランを少なくとも1つのエステル交換されるアルコールとエステル交換してアルコキシシランのエステル交換反応粗生成物を生成し、続いて反応生成物から触媒を少なくとも部分的に除去することを含み;触媒を加水分解して触媒金属酸化物を形成して任意選択的に触媒金属酸化物を除去することをさらに含むか、または触媒は吸着媒体上への吸着とそれに続く吸着された触媒を含有する吸着媒体の濾過によって除去されることをさらに含む、プロセス。
【請求項2】
エステル交換可能なアルコキシシランは一般式(I)のエステル交換可能なアルコキシシランであり:
Y-[R-Si(R)3-a(OR)] (I)
式中:
Yは水素、ハロゲン、メルカプト、グリシドキシ、エポキシシクロヘキシル、ウレイド、カルバメート、アクリロキシ、メタクリロキシ、アミノまたはビニル;
各々のRは独立して、1から12の炭素原子の2価の直鎖アルキレン基、2から12の炭素原子の分岐鎖アルキレン基、3から12の炭素原子のシクロアルキレン基、6から10の炭素原子のアリーレン基、7から16の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルキレン基、3から12の炭素原子のシクロアルキレン基、2から12の炭素原子のアルキニレン基、硫黄、酸素、または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から12の炭素原子の直鎖、分岐鎖、または環状アルキレン基、または化学結合、但しRが化学結合の場合には、ケイ素原子は基Yの炭素原子に結合されており;
各々のRは独立して、1から16の炭素原子を含有する1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子を含有する分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子を含有するシクロアルキル基、6から10の炭素原子を含有するアリール基、7から16の炭素原子を含有するアラルキル基;
各々のRは独立して、1から4の炭素原子の1価の直鎖アルキル基または3から4の炭素原子を有する分岐鎖アルキル基;
aは1から3の整数;そして
bは1である、請求項1のプロセス。
【請求項3】
エステル交換されるアルコールは一般式(II)のものであり:
OH (II)
式中:
は1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、2から16の炭素原子のアルケニル基、7から12の炭素原子のアラルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から16の炭素原子の直鎖アルキル基または酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、少なくとも1つのヒドロキシル基またはアミノ基で置換された2から16の炭素原子の直鎖または分岐鎖アルキル基、-NR、ここでRおよびRは独立して水素または1から16の炭素原子の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、または7から12の炭素原子のアラルキル基である、請求項1のプロセス。
【請求項4】
金属エステル交換触媒は一般式(III)のものであり:
n+(X) (III)
式中:
Mはエステル交換について触媒活性な金属であり;
XはOR、ここで各々のRは独立して、1から12の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から12の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、9から12の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルケニル基、1から12の炭素原子のアシル基、または2つのOR基が炭素-炭素連結を介して相互に結合されて-O-R-R-O-基を形成し、またはXはRであり、ここでRは1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、または7から12の炭素原子のアラルキル基であり、但し少なくとも1つのXはORであり;そして
nはMの価数である、請求項1のプロセス。
【請求項5】
エステル交換可能なアルコキシシラン(I)は、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、および(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1つの要素である、請求項2のプロセス。
【請求項6】
エステル交換されるアルコールは、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびブタノールからなる群より選択される少なくとも1つの要素である、請求項2のプロセス。
【請求項7】
金属エステル交換触媒は、テトライソプロピルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラエチルジルコネート、およびテトラプロピルジルコネートらなる群より選択される少なくとも1つの要素である、請求項2のプロセス。
【請求項8】
触媒の除去の後に、アルコキシシランのエステル交換反応生成物中における金属の残存レベルがアルコキシシランのエステル交換反応生成物の合計重量に基づいて100ppm未満である、請求項1のプロセス。
【請求項9】
触媒の除去の後に、アルコキシシランのエステル交換反応生成物中における金属の残存レベルが50ppm未満である、請求項1のプロセス。
【請求項10】
触媒の除去の後に、アルコキシシランのエステル交換反応生成物中における金属の残存レベルが10ppm未満である、請求項1のプロセス。
【請求項11】
触媒金属酸化物を除去することをさらに含む、請求項1のプロセス。
【請求項12】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物を精製することをさらに含む、請求項11のプロセス。
【請求項13】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物に酸が添加される、請求項12のプロセス。
【請求項14】
酸は酢酸および/またはホウ酸である、請求項13のプロセス。
【請求項15】
吸着媒体は沈降シリカである、請求項1のプロセス。
【請求項16】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物の調製プロセスであって:
(a)金属エステル交換触媒およびエステル交換可能なアルコキシシランを組み合わせてその混合物をもたらし;
(b)ステップ(a)からの混合物を、それに対するエステル交換されるアルコールの添加に際して、エステル交換反応条件下におき;
(c)エステル交換されるアルコールを、ステップ(a)の混合物に対して、ステップ(b)の前および/または間に添加して、エステル交換反応媒体をもたらし、それによってエステル交換を開始させアルコキシシランのエステル交換反応生成物を生成し;
(d)エステル交換の間に形成された副生物アルコールをエステル交換反応媒体から除去し;
(e)金属エステル交換触媒をエステル交換反応媒体から分離して、アルコキシシランのエステル交換反応生成物を含有し触媒が低減されたエステル交換反応媒体をもたらし;そして、任意選択的に、
(f)アルコキシシランのエステル交換反応生成物をエステル交換触媒が低減されたステップ(e)のエステル交換反応媒体から分離することを含む、プロセス。
【請求項17】
エステル交換可能なアルコキシシランは一般式(I)のエステル交換可能なアルコキシシランであり:
Y-[R-Si(R)3-a(OR)] (I)
式中:
Yは水素、ハロゲン、メルカプト、グリシドキシ、エポキシシクロヘキシル、ウレイド、カルバメート、アクリロキシ、メタクリロキシ、アミノまたはビニル;
各々のRは独立して1から12の炭素原子の2価の直鎖アルキレン基、2から12の炭素原子の分岐鎖アルキレン基、3から12の炭素原子のシクロアルキレン基、6から10の炭素原子のアリーレン基、7から16の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルキレン基、3から12の炭素原子のシクロアルキレン基、2から12の炭素原子のアルキニレン基、硫黄、酸素、または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から12の炭素原子の直鎖、分岐鎖、または環状アルキレン基、または化学結合であり、但しRが化学結合の場合には、ケイ素原子は基Yの炭素原子に結合されており;
各々のRは独立して1から16の炭素原子を含有する1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子を含有する分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子を含有するシクロアルキル基、6から10の炭素原子を含有するアリール基、7から16の炭素原子を含有するアラルキル基;
各々のRは独立して1から4の炭素原子の1価の直鎖アルキル基または3から4の炭素原子を有する分岐鎖アルキル基;
aは1から3の整数;そして
は1であり、
アルコールは一般式(II)のものであり:
OH (II)
式中:
は1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、2から16の炭素原子のアルケニル基、7から12の炭素原子のアラルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から16の炭素原子の直鎖アルキル基または酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、少なくとも1つのヒドロキシル基またはアミノ基で置換された2から16の炭素原子の直鎖または分岐鎖アルキル基、-NR、ここでRおよびRは独立して水素または1から16の炭素原子の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、6から10の炭素原子のアリール基または7から12の炭素原子のアラルキル基であり、
そして金属エステル交換触媒は一般式(III)のものであり:
n+(X)(III)
式中:
Mはエステル交換について触媒活性な金属であり;
XはOR、ここで各々のRは独立して、1から12の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から12の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、9から12の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルケニル基、1から12の炭素原子のアシル基、または2つのOR基が炭素-炭素連結を介して相互に結合されて-O-R-R-O-基を形成し、またはXはRであり、ここでRは1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、または7から12の炭素原子のアラルキル基であり、但し少なくとも1つのXはORであり;そして
nはMの価数であり;そして
吸収媒体はフュームドシリカまたは沈降シリカ、クレイ、イオン交換樹脂、または他の粒状鉱物である、請求項16のプロセス。
【請求項18】
ステップ(e)において、金属エステル交換触媒をエステル交換反応媒体から除去することは、その中の金属エステル交換触媒を加水分解して金属酸化物加水分解物をもたらし、金属酸化物加水分解物をエステル交換反応媒体から濾過またはデカンテーションによって分離して、エステル交換触媒が低減されたエステル交換媒体をもたらすことによって行われる、請求項16のプロセス。
【請求項19】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物は、エステル交換触媒が低減されたエステル交換反応媒体から蒸留によって回収される、請求項18のプロセス。
【請求項20】
ステップ(e)において、金属エステル交換触媒を除去することは、その中の金属エステル交換触媒を吸着媒体上に吸着し、金属エステル交換触媒を含有する吸着媒体をエステル交換反応媒体から濾過またはデカンテーションによって分離して、エステル交換触媒が低減されたエステル交換反応媒体をもたらすことによって行われる、請求項16のプロセス。
【請求項21】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物は、エステル交換触媒が低減されたエステル交換反応媒体から蒸留によって回収される、請求項20のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願とのクロスリファレンス
この出願は、2016年6月10日に出願された米国仮出願第62/348,436号に対する優先権を主張し、その全内容はここでの参照によって本願に取り込まれるものとする。
【0002】
本発明は、アルコキシシランを調製するための触媒されたエステル交換プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
アルコキシシランは、金属エステル交換触媒の存在下に、エステル交換可能なアルコキシシラン(反応物質)をアルコールとエステル交換し、アルコキシシランのエステル交換反応生成物を生成することによって調製されてよく、そこにおいてはエステル交換可能なアルコキシシランの少なくとも1つのアルコキシ基が、エステル化されるアルコールのアルコキシ基と交換される。エステル交換反応が進行するにつれて、エステル交換反応において生成される副生物であるアルコールは、多くの場合に反応媒体から除去されて、反応の完了が促進される。ここで述べたエステル交換プロセスでは、エステル交換触媒は蒸留によってアルコキシシランのエステル交換反応生成物から分離されてよく、或いは触媒はアルコキシシランのエステル交換反応生成物中に残置されてよい。実際のところ、ユーザーによっては、アルコキシシラン反応生成物中における金属エステル交換触媒の存在は、望ましいものでありうる。
【0004】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物を調製するための上述したプロセスにおいては、アルコキシシラン反応生成物中に存在しうる金属エステル交換触媒は、特に、例えば1か月から4年の長さの、通常のまたは予想される貯蔵期間の間に、シロキサンの形成を生じさせうる。シロキサンの形成は、生成物が使用に適さなくなる程度にまで、生成物の純度に負の影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
幾つかの場合には、残置された金属エステル交換触媒は溶液から沈殿(析出)しうるものであり、それによって後続の取り扱い、例えば後の段階の製造操業過程における貯蔵庫からのポンプ作業に対して干渉する可能性がある。
【0006】
金属エステル交換触媒は、アルコキシシラン反応生成物に近い沸点を有し、または生成物と共沸混合物を形成しうる。こうした状況のもとでは、触媒と生成物は共蒸留されうるものであり、従って金属エステル交換触媒はアルコキシシランのエステル交換反応生成物から効果的に除去されるものではない。エステル交換反応の完了に続いての、触媒とアルコキシシランのエステル交換反応生成物の共蒸留はまた、特に固形分を内部に蓄積することによって、凝縮器の適切な動作を阻害しうる。そして、上記したように、アルコキシシランのエステル交換反応生成物中に存在する触媒は、シロキサンの形成を生じ、または溶液から沈殿しうる。
【0007】
また留意すべきであるが、アルコキシシランのエステル交換反応生成物中に存在する金属エステル交換触媒は、望ましくない化学反応(単数または複数)を生じさせうるものであり、またはアルコキシシランのエステル交換反応生成物の加水分解および縮合反応生成物を加速させうる。これらの反応は、アルコキシシランのエステル交換反応生成物の性質、および例えばエポキシドとアミンの反応、シロキサンの形成またはシリル化ポリマーの架橋のような、生成物が供される具体的な使用に依存しており、これらは最終用途製品の貯蔵寿命を低減させうる。
【0008】
従って、金属エステル交換触媒の一部または実質的に全部をアルコキシシランのエステル交換反応生成物から除去し、それによって、蒸留または他の分離プロセスの間に凝縮器の適切な動作に対する何らかの干渉を排除するためのプロセスに対するニーズが存在している。
【発明の概要】
【0009】
本発明によれぱ、アルコキシシランのエステル交換反応生成物の調製プロセスが提供され、これはエステル交換反応条件下に少なくとも1つの金属エステル交換触媒の存在下で、任意選択的に副生物アルコールおよび/または未反応アルコールを除去することを伴って、少なくとも1つのエステル交換可能なアルコキシシランを少なくとも1つのアルコールとエステル交換してアルコキシシランのエステル交換反応生成物を生成すること、続いて反応生成物から触媒を少なくとも部分的に除去することを含んでいる。
【0010】
アルコキシシランのエステル交換反応生成物からの金属エステル交換触媒の除去は、(i)触媒を加水分解して金属酸化物沈殿物を形成させ、次いでろ過を行って金属酸化物沈殿物を除去すること、または(ii)金属エステル交換触媒を適切な吸収媒体上に吸着させること、のいずれかによって達成される。
【0011】
本発明によれば、エステル交換の完了後にアルコキシシランのエステル交換反応生成物中に残存している金属エステル交換触媒の少なくとも相当の部分を除去することにより、ゲル化、触媒沈殿、凝縮器の誤動作、および望ましくない化学反応(単数または複数)といった前述の問題点は緩和され、また反応生成物からの触媒の実質的に完全な分離、例えば反応生成物からの触媒の少なくとも約80重量パーセント、好ましくは少なくとも約90重量パーセント、そしてより好ましくは少なくとも約95重量パーセントの分離によって、殆どまたは完全に排除される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願の明細書および請求の範囲において、以下の用語および表現はそこに記載のように理解される。
【0013】
単数形「1つの」、「ある」、および「その」は複数形を含み、特定の数値に対する言及は、文脈が明らかに別のことを示すものでない限り、少なくともその特定の数値を含む。
【0014】
本願で提示されるありとあらゆる例、または例示を示す用語(例えば「のような」)の使用は、単に発明をより明らかにすることを意図したものであり、別様に特許請求されるのでない限り、発明の範囲に制限を課するものではない。
【0015】
明細書中のいかなる用語も、特許請求されていない要素が発明の実施に必須であることを示すものとして解釈されてはならない。
【0016】
用語「包含する」、「含む」、「含有する」、「特徴とする」、およびこれらの文法的等価物は、列挙されていない付加的な要素または方法的工程を排除しない、包括的または非制約的な用語であり、またより制限的な用語「からなる」および「から本質的になる」を含むものであることが理解されよう。
【0017】
全ての数値は本願において、実施例における場合または特定の値が正確であることが表明されている場合を除き、用語「約」によって修飾されるものと理解されるべきである。
【0018】
本願で列挙される任意の数値範囲は、その範囲内の全ての部分範囲およびそうした範囲または部分範囲の種々の端点の任意の組み合わせを含むことが理解されよう。
【0019】
さらに、明細書中および/または請求の範囲において、構造的、組成的、および/または機能的に関連する化合物、材料または物質の群に属するものとして、明示的または黙示的に開示された任意の化合物、材料または物質は、その群の個々の例およびそれらの全ての組み合わせを含むことが理解されよう。
【0020】
用語「アルキル」は任意の1価の、飽和した直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味し;用語「アルケニル」は任意の1価の、1つまたはより多くの炭素-炭素2重結合を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味し、ここで基の結合部位は炭素-炭素2重結合、または基中の他の場所であることができ;そして用語「アルキニル」は任意の1価の、1つまたはより多くの炭素-炭素3重結合を含み、任意選択で1つまたはより多くの炭素-炭素2重結合を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味し、ここで基の結合部位は炭素-炭素3重結合、炭素-炭素2重結合、または基中の他の場所であることができる。アルキルの例にはメチル、エチル、プロピルおよびイソブチルが含まれる。アルケニルの例にはビニル、プロペニル、アリルまたはメタリルが含まれる。アルキニルの例にはアセチレニル、プロパルギル、およびメチルアセチレニルが含まれる。
【0021】
用語「シクロアルキル」は任意の1価の、環構造を含有する炭化水素基を意味し;用語「シクロアルケニル」は任意の1価の、環構造および1つまたはより多くの炭素-炭素2重結合を含有する炭化水素基を意味し、ここで基の結合部位は炭素-炭素2重結合、または基中の他の場所であることができ;そして用語「シクロアルキニル」は任意の1価の、環構造および1つまたはより多くの炭素-炭素3重結合を含み、任意選択で1つまたはより多くの炭素-炭素2重結合を含む炭化水素基を意味し、ここで基の結合部位は炭素-炭素3重結合、炭素-炭素2重結合、または基中の他の場所であることができる。表現「シクロアルキル」、「シクロアルケニル」、および「シクロアルキニル」は、単環式、2環式、3環式、またはより高次の環構造を含み、また上記した環構造がさらにアルキル基、アルケニル基、および/またはアルキニル基で置換された構造を含む。代表的な例には、ノルボルニル、ノルボルニル、ノルボルネニル、エチルノルボルニル、エチルノルボルネニル、シクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキセニル、シクロヘキシルシクロヘキシル、シクロドデカトリエニル、エチリデンノルボルニル、エチリデニルノルボルネンおよびエチリデンノルボルネニルが含まれる。
【0022】
用語「アリール」は任意の1価の、芳香族炭化水素基を意味し;用語「アラルキル」は任意のアルキル基(本願で定義した如き)であって、その1つまたはより多くの水素原子が同じ数の同様のおよび/または異なるアリール基(本願で定義した如き)で置換されたものを意味し;そして用語「アレーニル」は任意のアリール基(本願で定義した如き)であって、その1つまたはより多くの水素原子が同じ数の同様のおよび/または異なるアルキル基(本願で定義した如き)で置換されたものを意味する。アリールの例にはフェニルおよびナフタレニルが含まれる。アラルキルの例にはベンジルおよびフェネチルが含まれる。アレーニルの例にはトリルおよびキシリルが含まれる。
【0023】
表現「エステル交換反応媒体」は本願において、形成された場合に、エステル交換の間の任意の特定の時点において存在し、またエステル交換の完了に続いて存在するような媒体を含むものとして理解されよう。
【0024】
表現「アルコキシシランのエステル交換反応生成物」本願で使用するところでは、アルコキシシランのエステル交換反応生成物のモノマー、ダイマー、またはオリゴマーを含むものとして理解され、そしてダイマーやオリゴマーであるアルコキシシランのエステル交換反応生成物の場合は、隣接するシランユニットを連結するジアルコキシ架橋基を有している。
【0025】
本発明の1つの実施形態において、アルコキシシランのエステル交換反応生成物およびそれらの混合物は、触媒化エステル交換反応条件の下において、任意選択的に副生物および/または未反応アルコールの連続的な除去を行いながら、一般式(I)の1つまたはより多くのエステル交換可能なアルコキシシランを、一般式(II)の1つまたはより多くのエステル交換されるアルコールと、触媒有効量の一般式(III)の1つまたはより多くの金属エステル交換触媒の存在下に反応させて得ることができる:
Y-[R-Si(R)3-a(OR)](I)
式中:
Yは水素、ハロゲンまたは官能基;
各々のRは独立して、1から12の炭素原子の2価の直鎖アルキレン基、2から12の炭素原子の分岐鎖アルキレン基、3から12の炭素原子のシクロアルキレン基、6から10の炭素原子のアリーレン基、7から16の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルケニレン基、3から12の炭素原子のシクロアルケニレン基、2から12の炭素原子のアルキニレン基、硫黄、酸素、または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有する2から12の炭素原子の直鎖アルキレン基、分岐鎖アルキレン基、またはシクロアルキレン基、または化学結合であり、但しRが化学結合の場合にはYは有機官能基であり、ケイ素原子は基Yの炭素原子に結合されている;
各々のRは独立して、1から16の炭素原子を含有する1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子を含有する分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子を含有するシクロアルキル基、6から10の炭素原子を含有するアリール基、7から16の炭素原子を含有するアラルキル基;
各々のRは独立して1価の、1から4の炭素原子の直鎖アルキル基または3から4の炭素原子を有する分岐鎖アルキル基;
aは1から3の整数;そして、
bは1から4の整数
OH (II)
式中:
は、1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、2から16の炭素原子のアルケニル基、7から12の炭素原子のアラルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から16の炭素原子の直鎖アルキル基または酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、少なくとも1つのヒドロキシル基またはアミノ基で置換された2から16の炭素原子の直鎖または分岐鎖アルキル基、-NR、ここでRおよびRは独立して水素または1から16の炭素原子の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、6から10の炭素原子のアリール基または7から12の炭素原子のアラルキル基
n+(X) (III)
式中:
Mはエステル交換について触媒活性な金属;
XはORであり、ここで各々のRは独立して、1から12の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から12の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、9から12の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルケニル基、1から12の炭素原子のアシル基、または2つのOR基が炭素-炭素連結を介して相互に結合されて-O-R-R-O-基を形成し、またはXはRであり、ここでRは1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、6から10の炭素原子のアリール基または7から12の炭素原子のアラルキル基であり、但し少なくとも1つのXはORであり;そして
nはMの価数である。
【0026】
エステル交換可能なアルコキシシラン(I)において、各々のアルコキシ基ORは独立して、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基またはtert-ブトキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基であり、aは好ましくは2または3、より好ましくは3であり、bは好ましくは1であり、そしてYは好ましくは水素、ハロゲン、メルカプト、グリシドキシ、エポキシシクロヘキシル、ウレイド、カルバメート、アクリロキシ、メタクリロキシ、アミノまたはビニルである。
【0027】
本願におけるエステル交換を受けることのできる具体的なエステル交換可能なアルコキシシラン(I)は、限定するものではないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリプロポキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリプロポキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリプロポキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルジメチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルジメチルメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルジメチルメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルジメチルメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、およびビニルジメチルメトキシシランを含んでいる。
【0028】
エステル交換されるアルコール(II)において、Rは好ましくは1価の直鎖または分岐鎖アルキルである。かくして例えば、エステル交換可能なアルコキシシラン(I)におけるOR基がメトキシである場合、アルコール(II)のRは好ましくはエチルまたはより大きな炭素数のアルキルであり、ここでORがエトキシである場合、アルコール(II)のRは好ましくはプロピル、イソプロピルまたはより大きな炭素数のアルキルである、といった具合である。
【0029】
本発明のプロセスに従ってアルコキシシラン(I)をエステル交換してアルコキシシランエステル交換反応生成物をもたらすために使用可能な、具体的なエステル交換されるアルコール(II)には、限定するものではないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、その他が含まれる。
【0030】
金属エステル交換触媒(III)において、Mは好ましくはTi、Zr、Bi、Zn、Snまたはこれらの混合物であり、各々のXは好ましくはORであり、ここでRは1から6の炭素原子の直鎖または分岐鎖アルキル基または1から6の炭素原子のアシル基である。
【0031】
エステル交換反応を触媒するために本願で使用可能な具体的な金属エステル交換触媒(III)には、限定するものではないが、メチル-、エチル-、プロピル-、イソプロピル-、ブチル-、sec-ブチル-、tert-ブチル-および2-エチルヘキシルチタネートのようなチタン酸アルキル、エチル-、プロピル-およびブチルジルコネートのようなジルコン酸アルキル、ビスマス(2-エチルヘキサノエート)、ビスマスネオデカノエートおよびビスマステトラメチルヘプタンジオエートのようなビスマス酸アルキル、およびジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジネオデカノエートおよびジメチルスズジオレエートのようなスズ酸アルキルが含まれる。
【0032】
金属エステル交換触媒(III)はエステル交換反応媒体中に、少なくとも触媒有効量で存在する。触媒の量は広く変化しうるものであり、エステル交換可能なアルコキシシラン(I)の合計重量に基づいて、例えば1つの実施形態においては約0.01重量パーセントから約5重量パーセント、別の実施形態では約0.1重量パーセントから約3重量パーセント、そしてさらに別の実施形態では約0.5重量パーセントから約2重量パーセントである。
【0033】
触媒化エステル交換反応条件には、当業者に知られたところのものが含まれ、またエステル交換可能なアルコキシシラン(I)、エステル交換されるアルコール(II)、金属エステル交換触媒(III)の性質および量、および触媒濃度に基づいて大きく変化しうる。一般に、そして技術的に周知のように、エステル交換反応は、反応の進行につれて副生物および/または未反応アルコールが回収されてよい温度および圧力の範囲内において行われる。反応は通常、エステル交換可能なアルコキシシラン(I)の当初の量に基づいて、実質的に完了するまで、例えば約80重量パーセントまで、そして好ましくは約90重量パーセントまたはより多くまで行われ、そこでは完了の程度はガスクロマトグラフィーおよびNMRのような、既知の在来の分析技術によって測定される。
【0034】
反応温度は有利には、エステル交換反応の選択された圧力における、エステル交換されるアルコール(II)の沸点よりも低く維持される。副生物アルコールの除去を補助するために、分留カラムを使用してよい。反応の完了を促進させるために、この副生物はエステル交換の間に反応媒体から除去される。典型的なエステル交換反応条件には、室温から約120℃、より好ましくは約50℃から約100℃の温度、および約0.0007barから約2bar、より好ましくは約0.02barから約1barの範囲の圧力が含まれる。
【0035】
エステル交換反応に続いて、金属エステル交換触媒(III)が、部分的に、または本質的に完全な程度にまで除去される。ある実施形態において、除去技術には、触媒を加水分解した後に濾過を行って、加水分解反応から得られる金属酸化物の沈殿物を取り除くこと、または、触媒を適切な吸収媒体上に吸着することが含まれる。一般には、こうした技術およびそれらの組み合わせが使用されて金属エステル交換触媒の少なくとも相当量が最終的なアルコキシシランのエステル交換反応生成物から除去され、例えば、残存する金属エステル交換触媒の量は、アルコキシシランのエステル交換反応生成物の重量に基づいて、約100ppm未満、好ましくは約50ppm未満、そしてより好ましくは約10ppm未満に低減される。
【0036】
触媒除去技術として加水分解を用いる場合、十分な水が室温で添加されて、金属触媒は完全に加水分解される。1つの実施形態において、典型的に使用される水の量は、アルコキシシランのエステル交換反応生成物の重量に基づいて、約0.1から約10重量パーセント、そして好ましくは約1から約5重量パーセントである。加水分解された金属触媒を含有する反応混合物は濾過される。濾過は、例えば珪藻土のような典型的な濾過助剤を使用することにより補助されうる。濾過により、金属酸化物および触媒の加水分解に使用した水の殆どまたは全部が除去される。アルコキシシランは次いで蒸留されてよく、例えば残存する水および/または副生物および/または未反応アルコールを除去するために、さらに生成物が精製される。
【0037】
1つの実施形態において、金属エステル交換触媒(III)を金属酸化物に転化するための加水分解条件は、約1℃から約75℃、好ましくは約15℃から約30℃の温度、および約0.0007barから約2bar、好ましくは約0.5barから約1.2barの圧力である。
【0038】
1つの実施形態において、アルコキシシランのエステル交換反応生成物は一般式(IV)を有し:
Y-[R-Si(R)3-a(OR)a-c(OR)] (IV)
式中:
Yは水素、ハロゲンまたは官能基;
各々のRは独立して1から12の炭素原子の2価の直鎖アルキレン基、2から12の炭素原子の分岐鎖アルキレン基、3から12の炭素原子のシクロアルキレン基、6から10の炭素原子のアリーレン基、7から16の炭素原子のアラルキル基、2から12の炭素原子のアルケニレン基、3から12の炭素原子のシクロアルケニレン基、2から12の炭素原子のアルキニレン基、硫黄、酸素または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から12の炭素原子の直鎖アルキレン基、分岐鎖アルキレン基、またはシクロアルキレン基、または化学結合であり、但しRが化学結合の場合にはYは有機官能基であり、ケイ素原子は基Yの炭素原子に結合されており;
各々のRは独立して1から16の炭素原子を含有する1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子を含有する分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子を含有するシクロアルキル基、6から10の炭素原子を含有するアリール基、7から16の炭素原子を含有するアラルキル基;
各々のRは独立して1から4の炭素原子の1価の直鎖アルキル基または3から4の炭素原子を有する分岐鎖アルキル基;
各々のRは1から16の炭素原子の1価の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、3から12の炭素原子のシクロアルキル基、2から16の炭素原子のアルケニル基、7から12の炭素原子のアラルキル基、6から10の炭素原子のアリール基、酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し2から16の炭素原子の直鎖アルキル基または酸素、硫黄または窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含有し3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、少なくとも1つのヒドロキシル基またはアミノ基で置換された2から16の炭素原子の直鎖または分岐鎖アルキル基、-NR、ここでRおよびRは独立して水素または1から16の炭素原子の直鎖アルキル基、3から16の炭素原子の分岐鎖アルキル基、6から10の炭素原子のアリール基または7から12の炭素原子のアラルキル基;
aは1から3の整数;
bは1から4の整数;そして
cは1から3の整数であり;
但しaおよびbはエステル交換可能なアルコキシシラン(I)について選択された値であり、cはa-cが0または正の整数となるように選ばれる。
【0039】
1つの実施形態では、アルコキシシランのエステル交換反応生成物(IV)において、a=3、b=0およびc=3である。
【0040】
所望ならば、実施形態において、アルコキシシランのエステル交換反応生成物は、使用時におけるその加水分解および縮合の助剤として、酢酸またはホウ酸のような少量の酸と混合してよい。実施形態において、使用される酸の量は、アルコキシシランのエステル交換反応生成物の合計重量に基づいて、約1ppmから約2重量パーセント、より好ましくは約50ppmから約500ppmであってよい。
【0041】
触媒除去技術として吸着を用いる場合、吸着媒体として、フュームドシリカまたは沈降シリカ、クレイ、イオン交換樹脂、または他の粒状鉱物のような固体が使用され、ここで吸着媒体は金属触媒を吸着するように添加されてよい。エステル交換が完了したときに、吸収媒体、例えば沈降シリカが反応混合物に添加されて撹拌される。これに
続けて濾過が行われて、金属触媒を含有する吸収媒体が除去される。
【0042】
1つの実施形態において、アルコキシシランのエステル交換反応生成物の調製プロセスは:
(a)金属エステル交換触媒を、エステル交換可能なアルコキシシランの重量に基づいて、例えば約0.005から約5重量パーセント、好ましくは約0.01から約1重量パーセントの量で、エステル交換可能なアルコキシシランと組み合わせてその混合物をもたらし;
(b)ステップ(a)からの混合物を、それに対するエステル交換されるアルコールの添加に際して、例えば雰囲気温度から約120℃の温度および約0.0007barから約2bar、好ましくは約0.02barから約1barの圧力であるエステル交換反応条件下におき;
(c)エステル交換されるアルコールを、金属エステル交換触媒およびエステル交換可能なアルコキシシランの混合物に対して、ステップ(b)の前および/または間に添加して、エステル交換反応媒体をもたらし、それによってエステル交換を開始させアルコキシシランのエステル交換反応生成物を生成し;
(d)エステル交換の間に形成された副生物アルコールをエステル交換反応媒体から除去し;
(e)金属エステル交換触媒をステップ(d)のエステル交換反応媒体から分離して、アルコキシシランのエステル交換反応生成物を含有し触媒が低減されたエステル交換反応媒体をもたらし、この分離が例えば、(i)金属エステル交換触媒を、約1℃から約75℃、好ましくは約15℃から約40℃の温度、約0.01barから約2bar、好ましくは約0.5barから約1.2barの圧力、およびアルコキシシランのエステル交換生成物の重量に基づいて約0.1から約10重量パーセント、好ましくは約0.2から約8重量パーセントの水量のような加水分解有効条件の下で加水分解して金属酸化物含有加水分解物をもたらし、これをその後エステル交換反応媒体から、例えば濾過またはデカンテーションによって除去すること、または(ii)金属エステル交換触媒を吸着媒体上に吸着し、エステル交換触媒を含有する吸着媒体をその後エステル交換反応媒体から、例えば濾過またはデカンテーションによって除去することによって達成され;そして、任意選択的に、
(f)アルコキシシランのエステル交換反応生成物をエステル交換触媒が低減されたステップ(e)のエステル交換反応媒体から、蒸留などによって分離することを含んでいる。
【実施例
【0043】
以下の例は、本発明のプロセスを例示する。
実施例1
3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランの調製
【0044】
この例は、チタンイソプロポキシド(TPT)を金属含有エステル交換触媒として使用した、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランエステル交換反応生成物の生成を例証する。
【0045】
メカニカルスターラー、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、ショートパス蒸留ヘッドを装着し、窒素ブランケット下に維持された、5リットルのフラスコに、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(2587.0グラム、10.95モル)およびTPT触媒(31.5グラム、0.11モル)を仕込んだ。この混合物を290rpmで撹拌し、温度を100℃に、そして圧力を約barに設定した。温度になったら、エタノール添加(6783.4グラム、147.25モル)を開始した。エタノールはピストンポンプを通じて、約12時間かけて反応器に添加し、供給速度は所望の値に調節した。エタノールの添加の間、副生物のメタノールおよび過剰のエタノールをショートパス蒸留手順を使用して除去した。形成された粗生成物の量は3295.0グラムであり、チタンの量は1611ppmであった。
【0046】
エステル交換反応が所望とする転化状態に達した後、粗反応混合物を雰囲気温度まで放冷した。次いで、約5重量パーセントの脱塩水を粗3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランに転化し、1.5から2時間にわたって撹拌した。水を添加した直後に、TPTの加水分解および酸化チタン加水分解物の沈殿に起因して、粗反応混合物の外観は、黄色の透明な液体から白色の曇った溶液へと変化した。
【0047】
約1重量パーセントの濾過助剤である珪藻土を、濾過に先立って反応器に添加した。1μmの孔径のPTFE膜(5barの圧力)を通じて濾過を行った後、粗生成物の外観は僅かに黄色い透明であった。
【0048】
粗生成物は次いでバッチ蒸留で蒸留した。この材料は、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、マグネチックスターラーおよびスターラーバー、複数のレシーバーとコールドトラップを有するショートパス蒸留ヘッドを装着した、5リットルの丸底フラスコに仕込んだ。蒸留条件は:6mmHgおよび138℃オーバーヘッドであった。軽質分は主に水およびエタノールであり、一方重質分は主にシロキサンおよび213ppmのTiであった。蒸留物の外観は僅かに黄色で透明であった。純度はGCによれば97.0パーセントであり、チタン金属の量はチタンで10ppm未満であった。これらのデータを、仕込み量および加水分解前の粗生成物と共に、表1に示す。
実施例2
3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランの調製
【0049】
この例は、実施例1に類似の条件の下で行われたが、仕込み量は僅かに異なっていた。グリシドキシプロピルトリメトキシシランの量は3512.5グラム、TPTは40.0グラム、そしてエタノールは9500.8グラムであった。形成された粗生成物の量は4496.9グラムであり、チタンの量は1499ppmであった。
【0050】
GCによって測定された純度は97.2パーセントであり、チタンは10ppm未満であった。これらのデータを、仕込み量および加水分解前の粗生成物と共に、以下の表1に示す。
実施例3
加水分解および濾過による3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランエステル交換反応媒体からのTPTの除去
【0051】
この例は、エステル交換反応媒体からのTPTの除去についての加水分解および濾過の有効性、およびTPT低減反応媒体からの3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン反応生成物の回収のためのその後の蒸留について例証する。
【0052】
メカニカルスターラー、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、ショートパス蒸留ヘッドを装着し、窒素ブランケット下にある0.5リットルのフラスコに、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(264.9グラム、1.12モル)およびTPT(3.2グラム、0.01モル)を仕込んだ。混合物は290RPMで撹拌し、そして温度は100℃および約1barに設定した。温度に達したら、エタノール(577.8グラム、12.5モル)の添加を開始した。エタノールはピストンポンプを通じて反応器に添加し、供給速度は実験の直前に所望の値に調節した。エタノールの添加には約11時間を要した。エタノールの添加の間に、副生物のメタノールおよび過剰のエタノールをショートパス蒸留手順を使用して除去した。形成された粗生成物の量は338.10グラムであり、チタンの量は2445ppmであった。
【0053】
反応が所望とする転化状態に達したならば、粗反応混合物を雰囲気温度まで放冷した。次いで、約2重量パーセントの脱塩水が粗3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランに添加されて、撹拌下に1.5から2時間にわたって保持された。水の添加の直後に、TPTの加水分解および酸化チタンの沈殿に起因して、粗反応混合物の外観は、黄色の透明な液体から白色の曇った溶液へと変化した。約1%の濾過助剤が、濾過の前に反応器へと添加された。1μmの孔径のPTFE膜(5barの圧力)を通じて濾過を行った後、粗反応生成物の外観は僅かに黄色い透明であった。
【0054】
粗反応生成物は次いでバッチ蒸留で蒸留した。この材料は、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、マグネチックスターラーおよびスターラーバー、複数のレシーバーとコールドトラップを有するショートパス蒸留ヘッドを装着した、0.5リットルの丸底フラスコに仕込んだ。蒸留条件は:6mmHgおよび138℃オーバーヘッドであった。軽質分は主に水およびエタノールであり、一方重質分は主にシロキサンおよび213ppmのTiであった。蒸留物の外観は僅かに黄色で透明であった。純度はGCによれば95.9パーセントであり、チタン金属の量はチタンで3.5ppm未満であった。これらのデータを、仕込み量および加水分解前の粗生成物と共に、表1に示す。
比較例1
TPTを事前に除去しない3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランの調製および回収
【0055】
この比較例は、エステル交換反応媒体から反応生成物を回収する前に、少なくとも実質的な量、例えば少なくとも90重量パーセント、好ましくは少なくとも95重量パーセント、そしてより好ましくは少なくとも99重量パーセントのTPTが除去されないのであれば、TPTは蒸留された3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランエステル交換反応生成物を汚染することを示す。
【0056】
メカニカルスターラー、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、ショートパス蒸留ヘッド、および窒素源を装着した1リットルのフラスコに、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(300.2グラム、1.27モル)およびTPT(3.7グラム、0.013モル)を仕込んだ。この混合物を290rpmで撹拌し、温度は100℃に、そして圧力は約1barに設定した。温度に達したら、エタノール(552.3グラム、12.0モル)の添加を開始した。エタノールはピストンポンプを介して反応器に添加し、供給速度は所望の値になるよう操作を行う直前に調節した。エタノールの添加には約11時間を要した。形成された粗生成物の量は339.8グラムであり、チタンの量は2049ppmであった。
【0057】
粗反応生成物は次いでバッチ蒸留で蒸留した。この材料は、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、マグネチックスターラーおよびスターラーバー、10プレートのオルダーショウ蒸留カラム、複数のレシーバーとコールドトラップを有する可変還流蒸留ヘッドを装着した、1リットルの丸底フラスコに仕込んだ。蒸留条件は:6mmHgおよび138℃オーバーヘッドであった。軽質分は主にメタノールおよびエタノールであり、一方重質分は主にシロキサンであった。蒸留物は透明な液体であり、白色固形分が分散していた。TPTは3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランと共に蒸留され、10プレートのカラムおよび約10の還流比の使用では、これらの2つの材料を分離することはできなかった。その結果、TPTは蒸留された3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランをかなり汚染していた。TPT(融点=15~17℃)は冷却によって蒸留ヘッド内で結晶化し、これがユニット内部における塞栓を生じさせた。
【0058】
以下の表1は、実施例1~3および比較例1について、反応物質、触媒の仕込み、そして触媒除去および蒸留の前後におけるエステル交換反応生成物の組成を示している。
【表1】

実施例4
吸着によるTPTの3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランエステル交換反応媒体からの除去
【0059】
この例は、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン含有エステル交換反応媒体から、金属エステル交換触媒を除去するための吸着手順を例証する。
【0060】
メカニカルスターラー、加熱マントル、温度コントローラに接続された温度プローブ、ショートパス蒸留ヘッド、および窒素源を装着した0.5リットルのフラスコに、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランおよびTPTを仕込んだ。この混合物を撹拌し、温度を100℃に設定した。温度に達したら、エタノールの添加を開始した。エタノールはピストンポンプを通じて反応器へと約12時間かけて添加し、供給速度を所望の値に調節した。反応物質の量は実施例3のものに類似していた。
【0061】
反応が所望の転化状態に達した後に、8グラムの沈降シリカが粗反応混合物に添加されて、100℃で1時間にわたり撹拌された。反応混合物は次いで冷却し、濾過して固形分を除去した。得られた生成物である3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランは、ICPにより測定したところでは100ppm未満のTiを含有していた。
【0062】
本発明は特定の実施形態に関連して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなしに、種々の変更を行ってよく、またその要素について均等物を置換してよいことが、当業者には理解される。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなしに、特定の状況または材料に適合するため、本発明の教示に対して多くの修正を行ってよい。従って本発明は、本発明を実施するために考慮されている最適な態様として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲に包含される全ての実施形態を含むものであることが意図されている。