(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】金属多孔体およびニッケル水素電池用の集電体
(51)【国際特許分類】
C22C 1/08 20060101AFI20220131BHJP
C25D 1/08 20060101ALI20220131BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220131BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C22C1/08 D
C25D1/08
H01M4/66 A
H01M4/80 C
(21)【出願番号】P 2019530986
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026137
(87)【国際公開番号】W WO2019017252
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017139115
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】土田 斉
(72)【発明者】
【氏名】西村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】木村 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇祐
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169429(JP,A)
【文献】特開平05-159779(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0379764(US,A1)
【文献】特開2016-048609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/08
C25D 1/00- 3/66
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
前記骨格は、その表面にNi(OH)
2が存在し、
かつX線光電子分光(XPS)を用いて前記表面を分析することによりNi、NiO、Ni
2
O
3
およびNi(OH)
2
が検出され、
10質量%以上35質量%以下の水酸化カリウム水溶液中において、水素標準電位に対して-0.10Vの下限電位と+0.65Vの上限電位との間で、前記金属多孔体に対して電位走査を少なくとも30回繰り返した場合、
前記表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出され、かつ少なくとも前記表面に水素が検出される、金属多孔体。
【請求項2】
前記表面は、Niの含有率よりもNiOの含有率が少ない、請求項1に記載の金属多孔体。
【請求項3】
前記表面は、NiOの含有率よりも、Ni
2O
3とNi(OH)
2との合計の含有率が多い、請求項1または請求項2に記載の金属多孔体。
【請求項4】
前記酸素は、オージェ電子分光法(AES)を用いて前記表面を前記骨格の深さ方向に分析することにより検出される、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の金属多孔体。
【請求項5】
前記金属多孔体は、Oの1s軌道のスペクトルにおいて前記NiOのピークがなく、かつ前記Niの2pの3軌道のスペクトルにおいて前記Ni、前記NiO、前記Ni
2O
3および前記Ni(OH)
2のピークの面積の大きさが、Ni>Ni
2O
3とNi(OH)
2との合計>NiOの関係式を満たす、請求項
1~請求項4のいずれか1項に記載の金属多孔体。
【請求項6】
前記水素は、昇温脱離ガス分析法(TDS)を用いて前記表面を分析することにより、前記表面に吸着する水の蒸発温度よりも高い温度で前記金属多孔体から脱離する水として検出される、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の金属多孔体。
【請求項7】
前記Ni(OH)
2は、X線光電子分光(XPS)を用いて前記表面を分析することにより、前記Ni(OH)
2に対応する結合エネルギー由来のピークとして検出され、かつ、
前記水素は、昇温脱離ガス分析法(TDS)を用いて前記表面を分析することにより、前記表面に吸着する水の蒸発温度よりも高い温度で前記金属多孔体から脱離する水として検出される、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の金属多孔体。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の金属多孔体を含む、ニッケル水素電池用の集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属多孔体およびニッケル水素電池用の集電体に関する。本出願は、2017年7月18日に出願した日本特許出願である特願2017-139115号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載されたすべての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、金属多孔体は、耐熱性を必要とするフィルターおよび電池用電極板、更には触媒担持体、金属複合材等の様々な用途に利用されている。金属多孔体の製造方法として、発泡樹脂等の基材の表面を導電化処理した後、当該基材の表面に金属をめっきする方法と、粉末金属をスラリーにして発泡樹脂等の基材に付着させて焼結する方法とが古くから知られている。
【0003】
めっき法により作製される金属多孔体は、例えば、三次元網目構造の骨格を有する樹脂成形体の骨格の表面を導電化処理した後にニッケルをめっきし、その後に樹脂を除去することにより得られる実質的にニッケルからなる金属多孔体のセルメット(登録商標:住友電気工業株式会社製)が知られている。セルメットは連通気孔を有する金属多孔体であり、金属不織布等の他の多孔体に比べて気孔率が非常に高い(90%以上)という特徴があるため、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の電池の電極材料として好適に利用されている。
【0004】
セルメットの製造方法は種々検討されており、例えば、特開2010-140647号公報(特許文献1)には、基材となる樹脂成形体を導電化処理前に表面処理することで品質を大幅に向上させた金属多孔体およびその製造方法が記載されている。特開2015-071804号公報(特許文献2)には、ニッケルとスズと鉄とを含有することで耐熱性および強度に優れる金属多孔体およびその製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-140647号公報
【文献】特開2015-071804号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様に係る金属多孔体は、
ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
上記骨格は、その表面にNi(OH)2が存在し、
10質量%以上35質量%以下の水酸化カリウム水溶液中において、水素標準電位に対して-0.10Vの下限電位と+0.65Vの上限電位との間で、上記金属多孔体に対して電位走査を少なくとも30回繰り返した場合、
上記表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出され、かつ少なくとも上記表面に水素が検出される。
【0007】
本開示の一態様に係るニッケル水素電池用の集電体は、上記金属多孔体を含む。
更に本開示の一態様に係るニッケル水素電池用の集電体は、
ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を含むニッケル水素電池用の集電体であって、
上記骨格は、その表面にNi(OH)2が存在し、
上記表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例における部分断面の概略を表す拡大図である。
【
図2】
図2は、発泡ウレタン樹脂の骨格の表面に導電被覆層を形成した状態の一例における部分断面の概略を表す拡大図である。
【
図3】
図3は、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の一例における発泡ウレタン樹脂の図面代用写真である。
【
図4】
図4は、発泡ウレタン樹脂の骨格の表面に形成された導電被覆層の表面に更にニッケルを主成分とする金属を形成した状態の一例における部分断面の概略を表す拡大図である。
【
図5】
図5は、金属多孔体No.2をXPSによって分析した結果を表すOの1s軌道のスペクトルである。
【
図6】
図6は、金属多孔体No.4をXPSによって分析した結果を表すOの1s軌道のスペクトルである。
【
図7】
図7は、金属多孔体No.AをXPSによって分析した結果を表すOの1s軌道のスペクトルである。
【
図8】
図8は、金属多孔体No.2をXPSによって分析した結果を表すNiの2p3軌道のスペクトルである。
【
図9】
図9は、金属多孔体No.4をXPSによって分析した結果を表すNiの2p3軌道のスペクトルである。
【
図10】
図10は、金属多孔体No.AをXPSによって分析した結果を表すNiの2p3軌道のスペクトルである。
【
図11】
図11は、金属多孔体No.1についてサイクリックボルタンメトリー測定を行なった結果を表すグラフである。
【
図12】
図12は、金属多孔体No.Aについてサイクリックボルタンメトリー測定を行なった結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1および特許文献2に記載の方法によって得られる金属多孔体は、ニッケル水素電池等の集電体として好ましく用いることができる。近年は、電気自動車またはハイブリッド自動車の電源として用いられる電池の更なる小型化および高出力化が要求されており、このため金属多孔体にも電池性能の向上に貢献できるように更なる高品質化および製法の改良が要求されていた。
【0010】
このため本発明者らは電池性能の向上に寄与する金属多孔体を提供すべく鋭意探求を重ねるなかで、次の点に着目した。すなわち、一般に、金属多孔体の骨格の表面は酸化膜で覆われており、これが気孔部に充填される活物質と骨格との接触抵抗を比較的高くし、電池の内部抵抗の要因となっていた。
【0011】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされ、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を電池の正極用集電体として使用した場合に、金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触抵抗を低下させることが可能な金属多孔体を提供することを目的とする。
【0012】
[本開示の効果]
上記によれば、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を電池の正極用集電体として使用した場合に、金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触抵抗を低下させることが可能な金属多孔体を提供することが可能となる。
【0013】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の一態様に係る金属多孔体は、
ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、
上記骨格は、その表面にNi(OH)2が存在し、
10質量%以上35質量%以下の水酸化カリウム水溶液中において、水素標準電位に対して-0.10Vの下限電位と+0.65Vの上限電位との間で、上記金属多孔体に対して電位走査を少なくとも30回繰り返した場合、
上記表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出され、かつ少なくとも上記表面に水素が検出される。
【0015】
上記(1)に記載の態様によれば、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を電池の正極用集電体として使用した場合に、金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触抵抗を低下させることが可能な金属多孔体を提供することができる。
【0016】
(2)上記表面は、Niの含有率よりもNiOの含有率が少ないことが好ましい。
上記(2)に記載の態様によれば、骨格の表面に存在するNiOが少なく、電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗が低い金属多孔体を提供することができる。
【0017】
(3)上記表面は、NiOの含有率よりも、Ni2O3とNi(OH)2との合計の含有率が多いことが好ましい。
【0018】
上記(3)に記載の態様によれば、骨格の表面に存在するNiOが少なく、電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗が低い金属多孔体を提供することができる。
【0019】
(4)上記酸素は、オージェ電子分光法(AES)を用いて上記表面を上記骨格の深さ方向に分析することにより検出されることが好ましい。
【0020】
上記(4)に記載の態様によれば、電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗が小さい金属多孔体を提供することができる。
【0021】
(5)上記金属多孔体は、X線光電子分光(XPS)を用いて上記表面を分析することによりNi、NiO、Ni2O3およびNi(OH)2が検出されることが好ましい。
【0022】
上記(5)に記載の態様によれば、電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗が低い金属多孔体を提供することができる。
【0023】
(6)上記金属多孔体は、Oの1s軌道のスペクトルにおいて上記NiOのピークがなく、かつ上記Niの2pの3軌道のスペクトルにおいて上記Ni、上記NiO、上記Ni2O3および上記Ni(OH)2のピークの面積の大きさが、Ni>Ni2O3とNi(OH)2との合計>NiOの関係式を満たすことが好ましい。これにより電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗をより低下させることができる。
【0024】
(7)上記水素は、昇温脱離ガス分析法(TDS)を用いて上記表面を分析することにより、上記表面に吸着する水の蒸発温度よりも高い温度で上記金属多孔体から脱離する水として検出されることが好ましい。
【0025】
上記(7)に記載の態様によれば、電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗が低い金属多孔体を提供することができる。
【0026】
(8)上記Ni(OH)2は、X線光電子分光(XPS)を用いて上記表面を分析することにより、上記Ni(OH)2に対応する結合エネルギー由来のピークとして検出され、かつ、上記水素は、昇温脱離ガス分析法(TDS)を用いて上記表面を分析することにより、上記表面に吸着する水の蒸発温度よりも高い温度で上記金属多孔体から脱離する水として検出されることが好ましい。
【0027】
上記(8)に記載の態様によれば、電池の正極用集電体として使用した場合に、骨格の表面と活物質との接触抵抗が低い金属多孔体を提供することができる。
【0028】
(9)本開示の一態様に係るニッケル水素電池用の集電体は、上記(1)から上記(8)のいずれかに記載の金属多孔体を含む。
【0029】
上記(9)に記載の態様によれば、集電体と活物質との接触抵抗を低下させることが可能なニッケル水素電池用の集電体を提供することができる。
【0030】
(10)本開示の一態様に係るニッケル水素電池用の集電体は、
ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を含むニッケル水素電池用の集電体であって、
上記骨格は、その表面にNi(OH)2が存在し、
上記表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出される。
【0031】
上記(10)に記載の態様によれば、集電体と活物質との接触抵抗を低下させることが可能なニッケル水素電池用の集電体を提供することができる。
【0032】
[実施形態の詳細]
本開示の実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)に係る金属多孔体の具体例を、以下に説明する。本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0034】
<金属多孔体>
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体である。上記「ニッケル」は、金属ニッケルを指す。「ニッケルを主成分とする」とは、金属多孔体の骨格においてニッケルの含有率が50質量%以上であることをいうものとする。金属多孔体に含まれるニッケル以外の成分として、例えば、シリコン、マグネシウム、炭素、スズ、アルミニウム、鉄、タングステン、チタン、コバルト、リン、ホウ素、銀、金などを本開示の効果を損なわない範囲で、意図的にあるいは不可避的に含んでいても構わない。
【0035】
金属多孔体の骨格においてニッケルの含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。ニッケルの含有率が高いほど、電解液に対する耐食性、電気化学的特性および機械的特性が向上する。
【0036】
図1に、本開示の実施形態に係る金属多孔体の一例の断面を拡大視した拡大模式図を示す。
図1に示すように、金属多孔体10は骨格12がニッケルを主成分とする金属11によって形成されている。骨格12の内部13は中空になっている。金属多孔体10は連通気孔を有しており、骨格12によって気孔部14が形成されている。
【0037】
本開示の実施形態に係る金属多孔体において骨格は、その表面にNi(OH)2が存在している。具体的には、少なくとも骨格12の内部13とは反対側の面、すなわち気孔部14と接している面の表面(以下、単に「骨格の表面」という)にNi(OH)2が存在している。骨格12の表面に存在するNi(OH)2は、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)を用いて金属多孔体10の骨格12の表面を分析することにより検出および定量することができる。XPSによる分析は、X線光電子分光分析装置を用いて行なえばよい。XPSによる分析は、後述するサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行なう前、および行なった後の少なくとも一方の金属多孔体を対象とすればよい。
【0038】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、骨格12の内部13と接している面の表面にもNi(OH)2が存在していてもよい。
【0039】
上記Ni(OH)2は、金属多孔体10の骨格12の表面をXPSを用いて分析することによりNi(OH)2またはNi2O3に対応する結合エネルギー由来のピークとして検出される。更に、後述するサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行なった場合、水素は、昇温脱離ガス分析法(Thermal Desorption Spectrometry:TDS)を用いて金属多孔体10の骨格12の表面を分析することにより、骨格12の表面に吸着する水の蒸発温度よりも高い温度で金属多孔体10から脱離する水として検出されるものであってもよい。TDSによる分析は、昇温脱離ガス分析装置を用いて行なえばよい。
【0040】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、以下の測定条件でサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行なった場合、骨格の表面から深さ5nmの範囲において、好ましくは骨格の表面から深さ30nmの範囲において少なくとも酸素が検出され、かつ、少なくとも骨格の表面に水素が検出される。ここで「骨格の表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出される」とは、骨格の表面(すなわち深さ0nm)から深さ5nmの範囲の任意の位置において必ず酸素が検出されることを意味する。更に、骨格の表面から深さ5nmを超える位置では、酸素が検出されてもよく、酸素が検出されなくてもよいことを意味する。酸素は、具体的には後述するようなオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた元素分析により検出される。
【0041】
(測定条件)
10質量%以上35質量%以下の水酸化カリウム水溶液中において、水素標準電位に対して-(マイナス)0.10Vの下限電位と+(プラス)0.65Vの上限電位との間で、金属多孔体に対して電位走査を少なくとも30回繰り返す。
【0042】
CV測定後の金属多孔体10の骨格12の表面から深さ方向に検出される上記酸素は、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いて金属多孔体10の骨格12の表面を、骨格12の深さ方向に分析することにより検出されるものである。AESによる分析は、走査型オージェ電子分光装置を用いて行なえばよい。
【0043】
CV測定後の金属多孔体10の骨格12の表面に検出される上記水素は、金属多孔体10の骨格12の表面を昇温脱離ガス分析法(TDS)を用いて分析することにより、骨格12の表面に吸着する水の蒸発温度よりも高い温度で金属多孔体10から脱離する水として検出されるものである。TDSによる分析は、昇温脱離ガス分析装置を用いて行なえばよい。具体的には、上記水素は、TDSにおいて水の蒸発温度よりも高い温度で金属多孔体10から脱離する水分子中の水素(元素)として検出される。
【0044】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は骨格の表面にNi(OH)2が存在していることにより、従来の金属多孔体に比べて骨格の表面におけるNiOの含有率が少なくなっている。金属多孔体を電池の集電体として用いた場合、骨格の表面に存在するNiOは、金属多孔体と活物質との接触抵抗の原因となるものであるから、骨格の表面におけるNiOの含有率が少ない本開示の実施形態に係る金属多孔体を集電体として用いることにより、内部抵抗の小さい電池を提供することができる。
【0045】
更に、ニッケル水素電池として用いた場合と同様の負荷がかかる上記CV測定を行なった場合にも、金属多孔体の骨格の表面にはNi(OH)2が存在するため、XPSおよびTDSを用いて水以外の物質に由来する水素を検出することができる。CV測定後には、酸素は金属多孔体の骨格の表面から深さ方向のより深い位置に検出できるようになる。
【0046】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、骨格12の表面において、Niの含有率よりもNiOの含有率が少ないことが好ましい。骨格12の表面のNiOの含有率がNiの含有率よりも少ないことにより、電池の集電体として用いた場合、金属多孔体の骨格12の表面と活物質との接触抵抗をより小さくすることができる。
【0047】
金属多孔体10の骨格12の表面に存在するNiおよびNiOは、XPSを用いて金属多孔体10の骨格12の表面を分析することにより検出および定量することができる。XPSによる分析は上述と同じ条件で行なえばよい。
【0048】
金属多孔体10の骨格12の表面にはNi、NiOおよびNi(OH)2の他にNi2O3が存在してもよい。金属多孔体10の骨格12の表面に存在するNi2O3は、XPSを用いて金属多孔体10の骨格12の表面を分析することにより検出および定量することができる。XPSによる分析は上述と同じ条件で行なえばよい。
【0049】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の骨格の表面においては、NiOの含有率よりも、Ni2O3とNi(OH)2との合計の含有率が多いことが好ましい。これにより、Ni(OH)2を活物質として用いる電池の正極用集電体として金属多孔体を用いた場合に、金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触抵抗が低下し、電池の内部抵抗を低下させることができる。
【0050】
金属多孔体の骨格の表面においてNiOの含有率よりもNi2O3とNi(OH)2との合計の含有率が多いことは、例えば、金属多孔体の骨格の表面をXPSを用いて分析した場合に、NiOのピークの面積よりもNi2O3とNi(OH)2との合計のピークの面積が大きく検出されることによって確認することができる。
【0051】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の骨格の表面においては、NiOの含有率がNiの含有率よりも少なくなっていることが好ましい。金属多孔体の骨格の表面においては、NiOの含有率がNi2O3とNi(OH)2との合計の含有率よりも少なくなっていることが好ましい。
【0052】
金属多孔体の骨格の表面において、NiOの含有率が、Niの含有率またはNi2O3とNi(OH)2との合計の含有率よりも少ないことにより、Ni(OH)2を活物質として用いる電池の正極用集電体として金属多孔体を用いた場合に、電池反応を促進して電池の内部抵抗を低下させることができる。
【0053】
金属多孔体の骨格の表面におけるNiOの含有率、Niの含有率およびNi2O3とNi(OH)2との合計の含有率の多寡の比較は、上述したように、金属多孔体の骨格の表面をXPSを用いて分析した場合のそれぞれのピークの面積の大きさの比較によって行なうことができる。すなわち、本開示の実施形態に係る金属多孔体の骨格の表面をXPSを用いて分析した場合、金属多孔体は、Oの1s軌道のスペクトルにおいてNiOのピークがなく、かつNiの2pの3軌道のスペクトルにおいてNi、NiO、Ni2O3およびNi(OH)2のピークの面積の大きさが、Ni>Ni2O3とNi(OH)2との合計>NiOの関係式を満たすことが好ましい。XPS分析においては、Niの2pの3軌道のNi2O3およびNi(OH)2のピークは近い結合エネルギーの位置に検出される。各ピークの面積は、ピークフィッティングを行なうことにより算出することができる。上記「Niの2pの3軌道」とは、Niのp軌道(2p)における3つ(px、py、pz)の軌道を指す。
【0054】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の骨格の表面においては、水素の含有率が、従来のニッケル多孔体の骨格の表面における水素の含有率よりも多いことが好ましい。これにより、Ni(OH)2を活物質として用いる電池の正極用集電体として金属多孔体を用いた場合に、金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触抵抗が低下し、電池の内部抵抗を低下させることができる。ただし、金属多孔体と従来のニッケル多孔体との平均孔径、気孔率、金属目付量および厚みは同じものとする。
【0055】
骨格の表面における水素の含有率の多寡の比較は、例えば、TDSを用いて金属多孔体と従来のニッケル多孔体との骨格の表面を分析することにより行なうことができる。
【0056】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、骨格の表面から深さ5nmの範囲、より好ましくは骨格の表面から深さ30nmの範囲において酸素が検出され、かつ少なくとも上記骨格の表面に水素が検出されることが好ましい。これにより、Ni(OH)2を活物質として用いる電池の正極用集電体として金属多孔体を用いた場合に、電池反応を促進して電池の内部抵抗を低下させることができる。
【0057】
酸素が金属多孔体の骨格の表面から深さ方向にどの範囲まで存在するかは、上述したように、AESを用いて金属多孔体の骨格を分析することにより確認することができる。水素が金属多孔体の骨格の表面に存在することはTDS分析によって確認することができる。
【0058】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の目付量は特に限定されるものではないが、150g/m2以上500g/m2以下であることが好ましい。金属多孔体の目付量が150g/m2以上であることにより、金属多孔体の強度を保ち、更に、電池の集電体として用いた場合に集電性能を十分に発揮することができる。金属多孔体の目付量が500g/m2以下であることにより、電池の集電体として用いた場合に、単位質量を増やしすぎず、更に、十分量の活物質を気孔部に充填することができる。これらの観点から、金属多孔体の目付量は、200g/m2以上450g/m2以下であることがより好ましい。
【0059】
金属多孔体の目付量とは、金属多孔体の主面の見かけ上の単位面積当たりの質量をいうものとする。
【0060】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の厚みは0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましい。金属多孔体の厚みが0.5mm以上であることにより、活物質が充填しやすく、更に、金属多孔体の骨格本数が増えて集電性能を十分に発揮することができる。金属多孔体の厚みが2.0mm以下であることにより、電極の圧縮時の変形量が小さくなり、抵抗増加を抑えることができる。これらの観点から、金属多孔体の厚みは、0.7mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。
【0061】
本開示の実施形態に係る金属多孔体を電池の電極として用いる場合、金属多孔体の気孔部に活物質を充填した後に、電極としての厚みが0.1mm以上2.0mm以下となるようにすることが好ましく、0.3mm以上1.0mm以下となるようにすることが更に好ましい。金属多孔体および電極の厚みは、例えば、ロールプレス等により調整することができる。
【0062】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の平均孔径は、250μm以上500μm以下であることが好ましい。金属多孔体の平均孔径が250μm以上であることにより、活物質が充填しやすく、十分量の活物質を気孔部に充填することができる。金属多孔体の平均孔径が500μm以下であることにより、金属多孔体の表面積が増えて集電性能を十分に発揮することができる。これらの観点から、金属多孔体の平均孔径は、300μm以上400μm以下であることがより好ましい。
【0063】
金属多孔体の平均孔径とは、金属多孔体の表面を顕微鏡等で観察し、1インチ(25.4mm)あたりの気孔数をセル数として計数し、平均気孔径=25.4mm/セル数として算出されるものをいう。
【0064】
本開示の実施形態に係る金属多孔体は、気孔率が80%以上98%以下であることが好ましい。気孔率が80%以上であることにより、活物質が充填しやすく、十分量の活物質を気孔部に充填することができる。気孔率が98%以下であることにより、金属多孔体の強度を保ち、更に、電池の集電体として用いた場合に集電性能を十分に発揮することができる。これらの観点から、金属多孔体の気孔率は90%以上96%以下であることがより好ましい。
【0065】
金属多孔体の気孔率は次式で定義される。
気孔率=(1-(多孔質材の質量[g]/(多孔質材の体積[cm3]×素材密度[g/cm3]))×100[%]
上記素材密度とは、金属多孔体を構成する各成分の理論密度と、上記各成分の含有率とを乗じることにより算出される密度をいう。
【0066】
<集電体>
本開示の実施形態に係る集電体は、上記の本開示の実施形態に係る金属多孔体を含むニッケル水素電池用の集電体である。
【0067】
集電体とは、電池の電極において活物質との電気的接続を維持し、充放電反応に伴って移動する電子を収集し、電池外部に電流として取り出す作用を担う電池材料をいう。集電体に活物質を担持させることにより電極とすることができる。
【0068】
本開示の実施形態に係るニッケル水素電池用の集電体は、ニッケルを主成分とし、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を含むニッケル水素電池用の集電体であって、上記骨格は、その表面にNi(OH)2が存在し、上記表面から深さ5nmの範囲において、好ましくは上記表面から30nmの範囲において少なくとも酸素が検出されるものである。
【0069】
<ニッケル水素電池>
本開示の実施形態に係るニッケル水素電池は、正極用集電体にNi(OH)2を主成分とする活物質を充填した正極と、水素吸蔵合金を含む負極と、セパレーターと、電解液と、を備えるニッケル水素電池であり、正極用集電体として本開示の実施形態に係る金属多孔体を用いるものである。
【0070】
ニッケル水素電池の構成は、正極用集電体として本開示の実施形態に係る金属多孔体を用いていれば、その他の構成は特に限定されず、従来のニッケル水素電池の構成を好適に採用することができる。例えば、正極と負極との間にセパレーターを挟んで電極群を作製し、円筒形電池の場合は捲回して渦巻状とした電極群を電解槽に挿入し、電解液を注入すればよい。角形電池の場合には、正極と負極とをセパレーターを介して重ねて積層構造とした電極群を電解槽に挿入し、電解液を注入すればよい。
【0071】
正極は、本開示の実施形態に係る金属多孔体の気孔部に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填したものを用いればよい。
【0072】
<金属多孔体の製造方法>
上記の本開示の実施形態に係る金属多孔体は、例えば、次のような方法により製造することができる。
【0073】
すなわち、本開示の実施形態に係る金属多孔体は、
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の骨格の表面を導電化処理する導電化処理工程と、
導電化処理された上記樹脂成形体の骨格の表面にニッケルをめっきすることにより樹脂構造体を形成する樹脂構造体形成工程と、
上記樹脂構造体を酸化性雰囲気下で熱処理して樹脂を燃焼除去することにより酸化された金属多孔体を形成する第一熱処理工程と、
還元性雰囲気下で上記酸化された金属多孔体を熱処理することにより金属を還元する第二熱処理工程と、
を有する金属多孔体の製造方法において、
例えば、以下の第1の方法または第2の方法のように第二熱処理工程の後に更に金属多孔体に処理を加えることによって製造することができる。
【0074】
(第1の方法)
第1の方法は、第二熱処理工程を終えた金属多孔体を酸によって表面処理し、その後に水洗、乾燥する方法である。
【0075】
第1の方法において用いる酸は特に限定されるものではないが、塩酸、硫酸、硝酸またはこれらの混合物等を用いることが好ましい。これにより効率よく金属多孔体の骨格の表面を処理し、骨格の表面におけるNiOの含有率が、Ni2O3とNi(OH)2との合計の含有率よりも少ない金属多孔体を得ることができる。酸による処理の方法は特に限定されるものではなく、例えば、金属多孔体を酸に浸漬する等の方法によって行なえばよい。酸による処理時間は短すぎると処理が不十分となり、一方、長すぎると金属多孔体の強度低下につながるため、5秒以上15分以下とすることが好ましい。より好ましくは10秒以上10分以下である。
【0076】
酸処理をした後に、金属多孔体を水洗して酸を除去し、乾燥を行う。乾燥温度が高すぎるとNi(OH)2の脱水によりNiOが形成されてしまうため、200℃以下で乾燥させることが好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥に時間がかかり、金属多孔体の変色など外観不良の原因となり得るため、35℃以上で乾燥させることが好ましい。より好ましい乾燥温度は、40℃以上150℃以下である。乾燥時間は特に限定されるものではなく、乾燥温度に応じて適宜選択すればよい。乾燥を速めるために、例えば、ブロワ―などを用いて液滴を除去する手法を用いることが好ましい。
【0077】
(第2の方法)
第2の方法は、第二熱処理工程を終えた金属多孔体を一定期間水に浸漬した後、100℃以下で乾燥する方法である。
【0078】
この方法は、第二熱処理工程後の金属多孔体の骨格の表面を改質することにより、NiOの含有率がNi2O3とNi(OH)2との合計の含有率よりも少なくなるようにする方法である。
【0079】
金属多孔体を水に浸漬する時間は特に限定されるものではないが、短すぎると処理が不十分となる。例えば、浸漬する時間は、3時間以上24時間以下とすればよく、5時間以上20時間以下とすることがより好ましく、6時間以上12時間以下とすることが更に好ましい。
【0080】
乾燥温度は高すぎるとNi(OH)2の脱水によりNiOを形成してしまうため、200℃以下が好ましい。乾燥温度は低すぎると乾燥に時間がかかって変色など外観不良の原因となるため、35℃以上が好ましい。より好ましくは40℃以上150℃以下である。乾燥時間は特に限定されるものではなく、乾燥温度に応じて適宜選択すればよいが、乾燥を速めるためにブロワ―などを用いて液滴を除去する手法を用いることが好ましい。
【0081】
以下においては、上記の本開示の実施形態に係る金属多孔体を製造する方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0082】
-導電化処理工程-
この工程は、
図2に示すように、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体15を準備し、当該樹脂成形体15の骨格の表面を導電化処理することにより導電被覆層16を形成する工程である。
【0083】
(樹脂成形体)
本開示の実施形態に係る金属多孔体を製造する際に用いる三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体15としては、樹脂発泡体、不織布、フェルト、織布などが用いられるが必要に応じてこれらを組み合わせて用いることもできる。素材としては特に限定されるものではないが、金属をめっきした後の焼却処理により除去できるものが好ましい。樹脂成形体15の取扱い上、特にシート状のものにおいては剛性が高いと折れるので柔軟性のある素材であることが好ましい。
【0084】
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体15として樹脂発泡体を用いることが好ましい。樹脂発泡体は、多孔性のものであればよく公知または市販のものを使用でき、例えば発泡ウレタン、発泡スチレン等が挙げられる。これらの中でも、特に多孔度が大きい観点から、発泡ウレタンが好ましい。
図3に発泡ウレタン樹脂の写真を示す。
【0085】
樹脂成形体15の気孔率は、例えば、80%以上98%以下であればよく、90%以上96%以下であることがより好ましい。樹脂成形体15の厚さも限定的でなく、例えば、通常0.5mm以上2.0mm以下、好ましくは0.7mm以上1.5mm以下とすればよい。樹脂成形体15の平均孔径は限定的でなく、用途に応じて適宜に設定することができる。
【0086】
(導電化処理)
導電化処理の方法は、樹脂成形体15の骨格の表面に導電被覆層16を設けることができる方法であれば特に限定されない。導電被覆層16を構成する材料としては、例えば、ニッケル、チタン、ステンレススチール等の金属の他、カーボンブラック等の非晶質炭素、黒鉛等のカーボン粉末が挙げられる。これらの中でも特にカーボン粉末が好ましい。金属以外の非晶質炭素等を用いた場合、後述する樹脂成形体除去処理において当該導電被覆層16も除去される。
【0087】
導電化処理の具体例としては、例えば、ニッケルを用いる場合、無電解めっき処理、スパッタリング処理等が好ましく挙げられる。チタン、ステンレススチール等の金属、カーボンブラック、黒鉛等の材料を用いる場合、これら材料の微粉末にバインダを加えて得られる混合物を、樹脂成形体15の骨格の表面に塗着する処理が好ましい方法として挙げられる。
【0088】
ニッケルを用いた無電解めっき処理としては、例えば、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを含有した硫酸ニッケル水溶液等の公知の無電解ニッケルめっき浴に樹脂成形体15を浸漬すればよい。必要に応じて、めっき浴浸漬前に、樹脂成形体15を微量のパラジウムイオンを含む活性化液(カニゼン社製の洗浄液)等に浸漬してもよい。
【0089】
ニッケルを用いたスパッタリング処理としては、例えば、基板ホルダーに樹脂成形体15を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(ニッケル)との間に直流電圧を印加し、イオン化した不活性ガスをニッケルに衝突させることにより、吹き飛ばしたニッケル粒子を樹脂成形体15の骨格の表面に堆積させればよい。
【0090】
導電被覆層16は樹脂成形体15の骨格の表面に連続的に形成されていればよい。導電被覆層16の目付量は限定的でなく、通常5g/m2以上15g/m2以下、好ましくは7g/m2以上10g/m2以下とすればよい。
【0091】
-樹脂構造体形成工程-
この工程は、
図4に示すように、導電化処理工程を経ることによって骨格の表面が導電化された樹脂成形体15にニッケルをめっきすることにより電気めっき層、すなわちニッケルを主成分とする金属11を積層する工程である。
【0092】
(電気めっき処理)
上述した無電解めっき処理およびスパッタリング処理の両方またはいずれか一方によってめっき膜の厚みを増す場合、電気めっき処理の必要性は特にない。しかしながら、生産性、コストの観点からは、上述したような方法により、まず樹脂成形体15を導電化処理し、次いで電気めっき法によりニッケルの電気めっき層を形成する方法を採用することが好ましい。
【0093】
電気めっき処理は、常法に従って行えばよい。例えばニッケルめっき浴としては、公知または市販のものを使用することができ、例えば、ワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴等が挙げられる。上述の無電解めっきまたはスパッタリング等により表面に導電被覆層16が形成された樹脂成形体15をめっき浴に浸し、樹脂成形体15を陰極に、めっき金属の対極板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、導電被覆層16上に、更に電気めっき被覆を形成することができる。
【0094】
電気めっき層は導電被覆層16が露出しない程度に当該導電被覆層16上に形成されていればよい。電気めっき層の目付量は限定的でなく、通常150g/m2以上500g/m2以下であればよく、200g/m2以上450g/m2以下であることがより好ましい。上述した導電被覆層16と電気めっき層との合計量は、200g/m2以上500g/m2以下であることが好ましい。導電被覆層16と電気めっき層との合計量を200g/m2以上とすることにより金属多孔体の強度を良好に保つことができ、更に500g/m2以下とすることによりコスト的に有利に製造することができる。
【0095】
-第一熱処理工程-
この工程は、上記で得られた樹脂構造体を熱処理し、基材として用いた樹脂成形体15を除去することにより、電気めっき層のみを残す工程である。
【0096】
具体的には、樹脂構造体を600℃以上800℃以下、好ましくは600℃以上700℃以下の大気等の酸化性雰囲気で熱処理することにより樹脂成形体15を燃焼除去すればよい。
【0097】
-第二熱処理工程-
この工程は、第一熱処理工程によって得られた酸化された金属多孔体を還元処理する工程である。
【0098】
還元性ガスは水素ガス、または水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを主成分とするガスを、必要に応じて組成を変えて用いる。当該混合ガスを主成分とするとは還元性ガスに占める水素ガス、または水素ガスと不活性ガスとの混合ガスの割合が50体積%以上であることを意味する。
【0099】
還元性ガスとして不活性ガスを加えることにより酸化還元性の効率が良くなる。不活性ガスとしては、N2、アルゴン、ヘリウム等を好ましく用いることができる。原料ガスとしてアンモニアガスを用いてこれを分解させることによって得られるH2とN2の混合ガスであるアンモニア分解ガスを還元性ガスとして用いても良い。
【0100】
(熱処理温度)
第二熱処理工程は、900℃以上で行なえばよい。コスト的に不利となる観点、還元炉の炉体材質の観点から1000℃以下で行なうことが好ましい。
【0101】
以上の工程に続いて、更に、前述の第1の方法または第2の方法を適用することにより本開示の実施形態に係る金属多孔体を得ることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本開示の金属多孔体はこれらに限定されるものではない。本開示の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0103】
[実施例1]
<樹脂成形体の導電化処理>
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体として1.5mm厚のポリウレタンシートを用いた。樹脂成形体の気孔率は96%であり、平均孔径は450μmであった。
【0104】
粒径0.01~0.2μmの非晶性炭素であるカーボンブラック100gを0.5Lの10%アクリル酸エステル系樹脂水溶液に分散し、この比率で粘着塗料を作製した。
【0105】
次に、樹脂成形体を上記粘着塗料に連続的に漬け、ロールで絞った後乾燥させて樹脂成形体の骨格の表面に導電被覆層を形成することにより樹脂成形体を導電化処理した。
【0106】
<電気めっき処理>
導電化処理を施した樹脂成形体の骨格の表面に、ニッケルを電気めっきにより500g/m2付着させ、骨格の表面に電気めっき層を有する樹脂構造体を作製した。
【0107】
<樹脂成形体の除去>
次いで、上記により得られた導電被覆層および電気めっき層を形成した樹脂成形体から樹脂成分を除去するため、700℃の大気の酸化性雰囲気下で加熱する第一熱処理工程を行った。
【0108】
続いて、第二熱処理工程を行なう熱処理室に、1000℃のH2とN2の混合気体(アンモニア分解ガス)を用いた還元性ガスからなる還元性雰囲気を形成し、当該第二熱処理工程を行なう熱処理室中に上記金属多孔体を導入した。これにより、ニッケルを還元するとともにアニールすることによりシート状の金属多孔体を得た。
【0109】
<酸処理>
得られた金属多孔体を、60%硝酸と35%塩酸とを体積比5:1で混合した酸に5秒間浸漬した後、水洗した。その後、45℃の温風高温槽で30分間乾燥させることにより金属多孔体No.1を得た。
【0110】
[実施例2]
実施例1において、金属多孔体を酸に浸漬する時間を10秒にした以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.2を作製した。
【0111】
[実施例3]
実施例1において、金属多孔体を酸に浸漬する時間を10分にした以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.3を作製した。
【0112】
[実施例4]
実施例2において、60%硝酸と35%塩酸とを体積比5:1で混合した酸を30%硫酸に替えた以外は実施例2と同様にして金属多孔体No.4を製造した。
【0113】
[比較例1]
実施例1において、金属多孔体の酸処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.Aを作製した。
【0114】
[比較例2]
実施例1において、金属多孔体を酸に浸漬する時間を1秒にした以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.Bを作製した。
【0115】
[比較例3]
実施例2において、金属多孔体を酸に浸漬して水洗した後、乾燥を240℃の温風高温槽で60分間行なった以外は実施例2と同様にして金属多孔体No.Cを作製した。
【0116】
<評価>
上記のようにして得られた金属多孔体No.1~金属多孔体No.4、金属多孔体No.A~金属多孔体No.Cの骨格の表面を以下のようにして分析した。
【0117】
-CV測定-
10質量%以上35質量%以下の水酸化カリウム水溶液中において、水素標準電位に対して-0.10Vの下限電位と+0.65Vの上限電位との間で、各金属多孔体に対して電位走査を30回繰り返した。
【0118】
-AES分析-
CV測定後の各金属多孔体の骨格の表面を、AESを用いて深さ方向に元素分析することにより、酸素が検出される深さを調べた。AES分析は走査型オージェ電子分光装置(ULVAC PHI社製の「PHI700」)を用いて、以下の条件により行なった。
【0119】
電子線 :10kV、10nA
試料傾斜 :30°
スパッター:1kV。
【0120】
-XPS分析-
CV測定前の各金属多孔体の骨格の表面を、XPSを用いて分析することにより、Oの1s軌道およびNiの2pの3軌道のピークの挙動を比較した。XPS分析はULVAC PHI社製の「QuanteraSXM」を用いて、以下の条件により行なった。
【0121】
X線条件 :ビーム径100μm、25W、15kV
透過エネルギー :55,112eV
帯電中和 :電子+Ar
X線入射角 :90°
光電子取り出し角:45°。
【0122】
-TDS分析-
CV測定後の各金属多孔体の骨格の表面をTDSを用いて分析することにより、水の蒸発温度よりも高い温度で金属多孔体から脱離する水として検出される水素由来のピークが検出されるか否か、および上記水素由来のピークが検出された場合にそのピークの大きさを調べた。TDS分析は電子科学社製の「TDS1200」を用いて、以下の条件により行なった。
【0123】
加熱温度 :50℃から1400℃(ステージ温度)
昇温速度 :30℃/min(ステージ温度制御)
測定質量数範囲:M/z=1~200(定量モードで測定)
試料前処理 :10mm×10mmに切断したものを測定試料とした。
【0124】
以上のAES分析、XPS分析、TDS分析の結果を表1に示す。更に金属多孔体No.2、金属多孔体No.4および金属多孔体No.AをXPSによって分析し、これらのOの1s軌道のスペクトルを
図5から
図7に、Niの2pの3軌道のスペクトルを
図8から
図10にそれぞれ示す。
図5から
図10において縦軸は吸収強度を表し、横軸は結合エネルギー(eV)を表す。
【0125】
【0126】
XPS分析の結果(
図5~
図10参照)によれば、実施例1~実施例3の金属多孔体No.1~金属多孔体No.3は、比較例1の金属多孔体No.Aに比べて酸化ニッケル(NiO)のピークが検出されず、かつ水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)および三酸化ニッケル(Ni
2O
3)のピークが高くなっていた。実施例4の金属多孔体No.4も、酸化ニッケル(NiO)のピークが見えるが、比較例1の金属多孔体No.Aに比べて、酸化ニッケル(NiO)のピーク高さが低くなっており、水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)および三酸化ニッケル(Ni
2O
3)とのピークの面積の大きさが逆転していた。
【0127】
実施例1~実施例4の金属多孔体No.1~金属多孔体No.4はTDS分析の結果、水の蒸発温度よりも高い温度で検出される水素由来のピークが大きいため、骨格の表面の水酸化ニッケル(Ni(OH)2)量が増えていると考えられる。
【0128】
実施例1~実施例4の金属多孔体No.1~金属多孔体No.4はAES分析の結果、骨格の表面から深さ5nmの範囲において少なくとも酸素が検出された。比較例1の金属多孔体No.Aおよび比較例2の金属多孔体No.Bは、それぞれ骨格の表面から深さ4.3nm、4.7nmの範囲に限り酸素が検出された。
【0129】
比較例2の金属多孔体No.Bは、XPS分析で水酸化ニッケル(Ni(OH)2)のピークがわずかに見られたが、ピークの面積の大きさの順位は金属多孔体No.Aと同じであった。TDS分析の結果も、水の蒸発温度よりも高い温度で検出される水素由来のピークの高さは低く、骨格の表面の水酸化ニッケル(Ni(OH)2)量は少ないと考えられる。
【0130】
比較例3の金属多孔体No.Cは、金属多孔体No.2の乾燥温度を240℃にした例であるが、AES分析で酸素検出深さが大幅に深くなっており、XPSのピークの面積の大きさの順位も酸化ニッケル(NiO)と、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)および三酸化ニッケル(Ni2O3)のピークの面積がニッケル(Ni)のピークの面積よりも大きくなっていた。TDS分析では水の蒸発温度よりも高い温度で水素由来のピークがなく、金属多孔体No.Cの表面は、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)ではなく、酸化ニッケル(NiO)と三酸化ニッケル(Ni2O3)になっていると考えられる。
【0131】
図11および
図12に、実施例1の金属多孔体No.1および比較例1の金属多孔体No.AのCV測定30回目におけるIV曲線を示す。
図11および
図12では、横軸に電位(V vs SHE)を、縦軸に電流(mA/cm
2)を表す。
【0132】
実施例1では、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の充放電に対応する電位の電流値が大きく、骨格の表面に水酸化ニッケル(Ni(OH)2)が多く生成していることを示唆している。一方、比較例1では当該電位での電流値は実施例1の1/10以下と非常に小さく、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)はほぼ生成していない。このことから、比較例1のような骨格の表面が酸化膜で覆われている従来の金属多孔体では、ニッケル水素電池の集電体として用いた場合に金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触が、ニッケル(骨格の表面)/酸化ニッケル/水酸化ニッケル(活物質)と、酸化ニッケル(NiO)被膜越しの接触となって抵抗が高いと考えられる。一方、実施例1の金属多孔体は比較例1とは異なり、骨格の表面が水酸化ニッケル(Ni(OH)2)で覆われているため、金属多孔体の骨格の表面と活物質との接触は、ニッケル/水酸化ニッケル(骨格の表面)/水酸化ニッケル(活物質)となり、酸化ニッケル(NiO)を介さない接触となる。以上から、本開示の実施形態に係る金属多孔体をニッケル水素電池の集電体として用いることにより、金属多孔体と活物質との接触抵抗が大幅に低減され、電池の内部抵抗を低減させることができる。
【符号の説明】
【0133】
10 金属多孔体、11 ニッケルを主成分とする金属、12 骨格、13 骨格の内部、14 気孔部、15 樹脂成形体、16 導電被覆層。