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特許7016894還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20220131BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20220131BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20220131BHJP
【FI】
C21C7/00 J
B09B3/00 304C
B09B3/00 ZAB
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020006850
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021113347
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000208352
【氏名又は名称】大和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 全
(72)【発明者】
【氏名】小川 佑貴
(72)【発明者】
【氏名】玉田 佳久
(72)【発明者】
【氏名】武部 博倫
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-105722(JP,A)
【文献】特開2009-84144(JP,A)
【文献】特開2008-49327(JP,A)
【文献】特開2008-127271(JP,A)
【文献】特開2002-331272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0024281(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00
B09B 3/70
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含む還元スラグと、リン酸塩ガラス、ハイドロキシアパタイト、及びハイドロキシアパタイト含有天然物からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤とを混合して還元スラグ組成物を得る工程、
前記還元スラグ組成物を溶融する工程、及び
溶融した前記還元スラグ組成物を冷却してフッ素不溶化還元スラグを得る工程を含む、還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項2】
前記リン酸塩ガラスは、CaO-P系ガラスである、請求項1に記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項3】
前記ハイドロキシアパタイト含有天然物は、動物の骨及び/又は歯である、請求項1又は2に記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項4】
前記添加剤は、ハイドロキシアパタイト、及びハイドロキシアパタイト含有天然物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記フッ素不溶化還元スラグの結晶相は、フルオロアパタイト相を含む、請求項1~3のいずれかに記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項5】
前記還元スラグ組成物中の前記添加剤の含有量は、前記還元スラグの含有量に対して80~300質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項6】
前記還元スラグ組成物を溶融する工程において、溶融温度は、1000~1650℃である、請求項1~5のいずれかに記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項7】
前記還元スラグ組成物を溶融する工程において、溶融時間は、5分~2時間である、請求項1~6のいずれかに記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【請求項8】
溶融した前記還元スラグ組成物を冷却する際の冷却速度は、3℃/分以下である、請求項1~7のいずれかに記載の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元スラグ中に含まれるフッ素の水中への溶出を抑えるための不溶化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電炉製鋼過程で大量に排出される還元スラグには、溶解促進剤や粘度調整剤として蛍石(CaF)が含まれている。還元スラグの用途は、主にセメントや路盤材であるが、フッ素含有量は土壌汚染対策基準法により4000ppm以下と定められているため、その再利用が困難になっている。再利用困難な還元スラグは、産業廃棄物として処理されるが、環境省基準に規定されたフッ素溶出量基準値(0.8ppm以下)に依存して、処理費用に関わる市場価格が大きく異なっている。
【0003】
還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法としては、例えば、以下の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、精錬装置から回収された後、塊状に粉砕されたフッ素を含む鉄鋼スラグに、粒径が0.5mmを超え30mm未満である12CaO・7Alおよび3CaO・Alのうちの1種または2種の合計で2.5~30質量%添加することを特徴とする鉄鋼スラグから溶出するフッ素の安定化処理方法、が提案されている。
【0005】
特許文献2では、浸漬した水の到達pH値が11以上である製鋼スラグに、燐酸又は燐酸塩を添加して、燐酸、水溶カルシウムイオン及びフッ素の反応により、フッ素を不溶出化することを特徴とする製鋼スラグ中フッ素の溶出抑制方法、が提案されている。
【0006】
特許文献3では、電気炉において溶解と酸化精錬を行い、取鍋において還元精錬を行う鋼の溶解精錬方法において、電気炉の酸化精錬後に一定量の酸化性スラグを伴って出鋼された溶鋼を取鍋に移注するに際し、先行チャージにて、先行ヒートの取鍋からタンディシュへ出鋼後に残る還元性スラグと残湯の全部を先行チャージにて製造された酸化性スラグと混合する第1の混合工程と、実施チャージにて、先行チャージにて製造された混合スラグからの還元性スラグと残湯の全部を実施チャージにて製造された酸化性スラグと混合する第2の混合工程とからなることを特徴とする電気炉スラグのフッ素溶出抑制方法、が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-91590号
【文献】特開2008-49327号
【文献】特開2006-104517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で用いられる12CaO・7Alは、セメントに属するが、電気伝導性(エレクトライド)を有し、有機ELパネル、或いはアンモニア合成プロセスに用いられる高価な材料であり、還元スラグ処理のための添加剤としてはコストが合わない。
【0009】
また、特許文献2で提案されている湿式法では、リン酸を還元スラグに直接散布することによって実施されるが、還元スラグの保管場所における強酸による土壌汚染の問題がある。
【0010】
また、特許文献3では、還元スラグとともに酸化スラグを混入させて、12CaO・7Alを作製した上でフッ素の固定化をおこなうため、目的外物質の混入、及びプロセスの煩雑化の問題がある。
【0011】
本発明は、乾式かつ単純なプロセスによって、還元スラグ中に含まれるフッ素の水中への溶出を効果的に抑えるための不溶化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す不溶化処理方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、フッ素を含む還元スラグと、リン酸塩ガラス、ハイドロキシアパタイト、及びハイドロキシアパタイト含有天然物からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤とを混合して還元スラグ組成物を得る工程、
前記還元スラグ組成物を溶融する工程、及び
溶融した前記還元スラグ組成物を冷却してフッ素不溶化還元スラグを得る工程を含む、還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法、に関する。
【0014】
前記リン酸塩ガラスは、CaO-P系ガラスであることが好ましい。
【0015】
前記ハイドロキシアパタイト含有天然物は、動物の骨及び/又は歯であることが好ましい。
【0016】
前記添加剤は、ハイドロキシアパタイト、及びハイドロキシアパタイト含有天然物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記フッ素不溶化還元スラグの結晶相は、フルオロアパタイト相を含むことが好ましい。
【0017】
前記還元スラグ組成物中の前記添加剤の含有量は、前記還元スラグの含有量に対して80~300質量%であることが好ましい。
【0018】
前記還元スラグ組成物を溶融する工程において、溶融温度は、1000~1650℃であることが好ましい。
【0019】
前記還元スラグ組成物を溶融する工程において、溶融時間は、5分~2時間であることが好ましい。
【0020】
溶融した前記還元スラグ組成物を冷却する際の冷却速度は、3℃/分以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、乾式かつ単純なプロセスによって、還元スラグ中に含まれるフッ素の水中への溶出を効果的に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の還元スラグに含まれるフッ素の不溶化処理方法は、
フッ素を含む還元スラグと、リン酸塩ガラス、ハイドロキシアパタイト、及びハイドロキシアパタイト含有天然物からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤とを混合して還元スラグ組成物を得る工程、
前記還元スラグ組成物を溶融する工程、及び
溶融した前記還元スラグ組成物を冷却してフッ素不溶化還元スラグを得る工程を含む。
【0023】
前記還元スラグは、鉄スクラップを溶解・還元精錬する際に生成するものであり、一般的に、酸化珪素、酸化アルミニウム、及び酸化カルシウム等を含むものである。また、前記還元スラグには、溶解促進剤や粘度調整剤として蛍石(CaF)が、通常3~6質量%程度含まれている。
【0024】
前記リン酸塩ガラスは、ガラス形成成分としてPを含むものであり、修飾成分としては、例えば、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、BaO、ZnO、TiO、Fe、V、及びCeO等が挙げられる。
【0025】
前記リン酸塩ガラスは、結晶構造中にフッ素イオンを効果的に閉じ込める観点から、CaO-P系ガラスであることが好ましい。前記CaO-P系ガラスとしては、具体的には、50CaO-50Pガラス、及び60CaO-40P等が挙げられる。
【0026】
前記ハイドロキシアパタイトは、化学式Ca10(PO(OH)で表される化合物である。
【0027】
前記ハイドロキシアパタイト含有天然物としては、例えば、豚、牛、鳥、羊、馬等の動物の骨や歯等が挙げられ、好ましくは、豚骨、牛骨、及び鶏骨である。これらは1種用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらハイドロキシアパタイト含有天然物を用いることにより、処理コストを大幅に抑えることができる。使用するハイドロキシアパタイト含有天然物の大きさは特に制限されないが、通常2mm以下であり、好ましくは0.1mm以下である。
【0028】
還元スラグ組成物を得る工程において、還元スラグ組成物中の前記添加剤の含有量は、還元スラグに含まれるフッ素の含有量を考慮して適宜調整する。例えば、還元スラグが蛍石(CaF)を3~6質量%含有する場合、還元スラグ組成物中の前記添加剤の含有量は、フッ素溶出量が少ないフッ素不溶化還元スラグを得る観点、及び処理コストを抑える観点から、前記還元スラグの含有量に対して80~300質量%であることが好ましく、より好ましくは100~250質量%であり、更に好ましくは150~200質量%である。
【0029】
還元スラグ組成物を溶融する工程において、溶融温度は、通常1000~1650℃であり、フッ素を前記添加剤の結晶構造中に効果的に固定化する観点、及び処理コストを抑える観点から、好ましくは1100~1600℃、より好ましくは1200~1550℃、更に好ましくは1300~1500℃である。
【0030】
還元スラグ組成物を溶融する工程において、溶融時間は、通常5分~2時間であり、フッ素を前記添加剤の結晶構造中に効果的に固定化する観点、及び処理コストを抑える観点から、好ましくは15分~1時間であり、より好ましくは25分~1時間である。
【0031】
溶融した前記還元スラグ組成物を冷却する際の冷却速度は特に制限されないが、フッ素を前記添加剤の結晶構造中に効果的に固定化する観点から、好ましくは3℃/分以下、より好ましくは1.5℃/分以下である。
【0032】
得られたフッ素不溶化還元スラグは、フッ素溶出量が低減されたものである。本発明の不溶化処理方法によれば、環境庁告示第46号に準拠したフッ素溶出試験におけるフッ素溶出量を0.8mg/L以下にすることも可能であり、さらには0.65mg/L以下、さらには0.5mg/L以下、さらには0.4mg/L以下、さらには0.2mg/L以下、さらには0.1mg/L以下にすることも可能であり、環境省基準に規定されたフッ素溶出量基準値を満たすフッ素不溶化還元スラグを得ることもできる。添加剤としてリン酸塩ガラスを用いた場合、還元スラグに含まれているフッ素は、リン酸塩ガラスのアパタイト結晶構造内に包接されて固定化されると考えられる。また、添加剤としてハイドロキシアパタイトやハイドロキシアパタイト含有天然物を用いた場合、還元スラグに含まれているフッ素は、フルオロアパタイト(Ca10(PO)の結晶相に取り込まれて固定化されると考えられる。
【実施例
【0033】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0034】
実施例1~16、比較例1~2
蛍石(CaF)を3質量%含有する還元スラグ(スラグ(1):Ca12Al1433結晶を3質量%以上含み、かつCaSiOを主成分とするスラグ、スラグ(2):CaSiOを主成分とするスラグ)20gと、表1に記載の各添加剤を表1に記載の配合量(還元スラグの質量に対する質量%)で混合した還元スラグ組成物を、アルミナるつぼに入れ、1450℃に保持された電気炉内で1時間溶融させた。その後、1450℃から3℃/分の速度で徐冷してフッ素不溶化還元スラグを得た。
【0035】
フッ素溶出量の測定
作製したフッ素不溶化還元スラグを粉砕し、粒径2mm以下に調整したのち、環境庁告示第46号に準拠したフッ素溶出試験(毎分200回振とう、6時間、粒径≦2mm)を行った。フッ素溶出量は、イオンクロマトグラフィーを用いた検量線法に基づいて算出した。結果を表1に示す。なお、フッ素不溶化処理前の還元スラグのフッ素溶出量は、18mg/Lであった。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から、還元スラグにリン酸塩ガラス、ハイドロキシアパタイト、又はハイドロキシアパタイト含有天然物(豚骨)を添加した実施例1~16は、フッ素溶出量が大きく低下していることがわかる。一方、還元スラグにCaO-Al系ガラスを添加した比較例1~2は、添加量を増やしてもフッ素溶出量がほとんど低下していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のフッ素の不溶化処理方法によれば、電炉製鋼過程で排出される還元スラグ中のフッ素の水中への溶出を効果的に抑えることができる。本発明のフッ素の不溶化処理方法によって得られるフッ素不溶化還元スラグは、水中へのフッ素溶出量が少ないため、路盤材、仮設路盤材、埋め立て材、及び地盤改良材等に好適に用いられる。