(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】寿命末期後の宇宙飛行体の磁気制動
(51)【国際特許分類】
B64G 1/32 20060101AFI20220131BHJP
【FI】
B64G1/32
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020108807
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2021-04-06
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507200949
【氏名又は名称】ヨーロピアン スペース エージェンシー
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ティアゴ ソアレス
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ カイアッツォ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ヴォラハン
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/093761(WO,A1)
【文献】米国特許第3232561(US,A)
【文献】実開平1-178197(JP,U)
【文献】特開平2-18199(JP,A)
【文献】特開2018-171947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/24-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙飛行体であって、
外部磁場内で該宇宙飛行体の姿勢を変更するように動作可能な1つ以上の磁気トルカであって、各磁気トルカはコイルを備える、1つ以上の磁気トルカと、
前記磁気トルカのうちの少なくとも1つの前記コイルを短絡させ、前記外部磁場内で該宇宙飛行体のタンブリング運動を制動するための該コイルを備える閉電気回路が形成されるようにする、スイッチング回路と、
を備え、
前記スイッチング回路は、該宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況が発生すると、前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを短絡させるように構成されている、宇宙飛行体。
【請求項2】
前記スイッチング回路による前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルの前記短絡は、可逆的な方法で行われる、請求項1に記載の宇宙飛行体。
【請求項3】
前記スイッチング回路は、前記宇宙飛行体の一時的な障害が終了したことを示す第2の状況を検出すると、前記閉電気回路を開放し、それによって、前記閉電気回路を開路するように構成されている、請求項1又は2に記載の宇宙飛行体。
【請求項4】
前記スイッチング回路は、閉じられたときに、前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを短絡させるスイッチを備え、
前記スイッチは、常時閉路式スイッチである、請求項1~3のいずれか1項に記載の宇宙飛行体。
【請求項5】
前記宇宙飛行体は、該宇宙飛行体の動作を制御する制御ユニットを備え、
前記宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す前記状況は、前記制御ユニットがステータス要求に応答しない場合に検出される、請求項1~4のいずれか1項に記載の宇宙飛行体。
【請求項6】
前記スイッチング回路は、ステータス要求を前記制御ユニットに発行するとともに、前記ステータス要求に対する前記制御ユニットからの応答が所定の期間内にない場合には前記宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す前記状況を検出するように構成された検出器を備える、請求項5に記載の宇宙飛行体。
【請求項7】
前記スイッチング回路は、前記宇宙飛行体が外部制御信号を受信すると、前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを短絡させるように構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の宇宙飛行体。
【請求項8】
前記磁気トルカはそれぞれ、強磁性コアを更に備え、それぞれの前記磁気トルカのコイルは、前記強磁性コアの回りに巻回されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の宇宙飛行体。
【請求項9】
前記コイルは、単一層の巻線にされて前記強磁性コアの回りに巻回されている、請求項8に記載の宇宙飛行体。
【請求項10】
外部磁場内で宇宙飛行体の姿勢を変更するように動作可能な1つ以上の磁気トルカを有する前記宇宙飛行体を動作させる方法であって、各磁気トルカはコイルを備え、該方法は、
前記宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出することと、
前記状況を検出すると、前記磁気トルカのうちの少なくとも1つの前記コイルを短絡さ
せ、前記外部磁場内で前記宇宙飛行体のタンブリング運動を制動するための該コイルを備える閉電気回路が形成されるようにすることと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを前記短絡させることは、可逆的な方法で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記宇宙飛行体の一時的な障害が終了したことを示す第2の状況を検出すると、前記閉電気回路を開路することを更に含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを前記短絡させることは、閉じられると前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを短絡させるスイッチによって行われ、
前記スイッチは、常時閉路式スイッチである、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ステータス要求を前記宇宙飛行体の制御ユニットに発行することと、
前記ステータス要求に対する前記制御ユニットからの応答が所定の期間内にない場合には前記宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す前記状況を検出することと、
を更に含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記宇宙飛行体が外部制御信号を受信すると、前記少なくとも1つの磁気トルカの前記コイルを短絡させることを更に含む、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1つ以上の磁気トルカを備える宇宙飛行体(宇宙機、例えば衛星)と、そのような宇宙飛行体を動作させる方法とに関する。特に、本出願は、宇宙飛行体の障害後に修理されるか又は寿命末期(EOL:end-of-life)後に軌道から除去されるように設計された宇宙飛行体と、宇宙飛行体を動作させる対応する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
安全でセキュアな宇宙環境が、現在及び将来の全ての宇宙活動に必要とされており、スペースデブリの問題は、将来の宇宙持続可能性の脅威を象徴するものである。ESA及びNASAによって行われた分析によると、軌道環境を宇宙運用にとって安全なレベルに持続する唯一の手段は、能動的デブリ除去と、寿命末期の軌道離脱又は将来の宇宙資産の軌道復帰(re-orbiting)との双方を実行することによることが示されている。ESAは、そのクリーンスペースイニシアティブ(Clean Space initiative)を通じて、デブリ除去の活動を含めて、この問題に対してますます関心を寄せている。
【0003】
修理ミッション、及び、例えば、能動的デブリ除去(ADR:Active Debris Removal)等の除去ミッションは、稼働していない宇宙飛行体(例えば、衛星)のランデブー及び捕捉に関して多くの技術的な課題及び危険を有する。そのようなミッションの主なリスク源のうちの1つは、対象のタンブリング運動を考慮して、捕捉に必要な姿勢を実現することである。
【0004】
観測結果によると、動作終了後の衛星は、それらの角速度ベクトル振幅を増加させ得ることが示されている。例えば、地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)にある衛星の場合、地上観測値は、約2度/秒(度毎秒)の平均値を示すが、最大で20度/秒の角速度ベクトル振幅を有するケースが観測される。一方、角速度が大きくなると、あらゆる修理ミッション又は除去ミッションの複雑度及び危険が指数関数的に増加し、その結果、衛星自体が分解及び崩壊を起こす可能性もある。平均して約2度/秒の観測された角速度は、結局のところ、寿命末期後又は何らかの障害事象にある衛星のあらゆる修理又は軌道からの除去を大幅に妨げることになるので、タンブリング運動の制動が、そのような動作を簡単にするための鍵となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、特に宇宙飛行体の障害後又は寿命末期後における宇宙飛行体(例えば、衛星)のタンブリング運動を制動する改善された技法が必要とされている。これらの技法を実施する宇宙飛行体に付加的な制約(例えば、設計、質量、サイズ等に関する制約)を課さない技法が特に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの必要性の一部又は全てに鑑み、本開示は、それぞれの独立請求項の特徴を有する宇宙飛行体及び宇宙飛行体を動作させる方法を提案する。
【0007】
本開示の一態様は、宇宙飛行体に関する。この宇宙飛行体は、例えば、衛星とすることができる。この宇宙飛行体は、外部磁場内で当該宇宙飛行体の姿勢(例えば、方位)を変更するように動作可能な1つ以上の磁気トルカを備えることができる。すなわち、磁気トルカは、宇宙飛行体が地球の磁場等の外部磁場内に存在するときに、宇宙飛行体の姿勢を変更することが可能なものとすることができる。例えば、宇宙飛行体は、3つ以上の磁気
トルカを備えることができ、例えば、互いに垂直な3つの軸のそれぞれにつき1つの磁気トルカを備えることができる。各磁気トルカは、それぞれのコイルを備えることができる。宇宙飛行体は、磁気トルカのうちの少なくとも1つのコイルを短絡させるスイッチング回路を更に備え、外部磁場内で宇宙飛行体のタンブリング運動を制動するためのこのコイルを備える閉電気回路が形成されるようにすることができる。コイルを短絡させることは、コイルの2つの端子を互いに(直接)接続することを意味することができる。例えば、1つ以上の磁気トルカのそれぞれ(すなわち、全ての)を短絡させ、3つの全ての軸に沿った制動を達成することができる。そのような場合には、各コイルにわたるそれぞれの閉電気回路を形成することができる。スイッチング回路は、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況が発生すると、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させるように構成することができる。スイッチング回路は、スイッチ(例えば、機械式スイッチ又はリレースイッチ)から形成することもできるし、そのようなスイッチを備えることもできる。磁気トルカのコイルは、宇宙飛行体の公称動作(nominal operation:公称運用)中はショートされず、その場合に、磁気トルカは、例えば、宇宙飛行体の姿勢を制御する磁気トルカのドライバー(磁気トルカドライバー)の制御の下で動作することが理解される。
【0008】
提案されたように構成されると、宇宙飛行体(例えば、衛星)が外部磁場(例えば、地球の磁場)内で回転運動するとき、この回転運動の結果、短絡された磁気トルカ(複数の場合もある)に時間依存磁束がもたらされることを前提として、電流が、短絡された磁気トルカ(複数の場合もある)に誘導される。これらの電流は、外部磁場と相互作用して回転運動を減速するそれぞれの磁気トルカの磁気モーメントを生み出す。それによって、宇宙飛行体の回転運動は、短絡された磁気トルカによって制動される。その結果、提案された技法は、障害後又は寿命末期後の宇宙飛行体のタンブリング運動の磁気制動を達成する。
【0009】
提案された技法によって提供される磁気制動は、地球の磁場が比較的強いLEO上の宇宙飛行体に特に適用可能である。特に、LEOは、地球観測用及び電気通信コンステレーション用に最も密集した軌道であり、障害後又は寿命末期後の宇宙飛行体の修理又は除去に最も関係している軌道領域はこの軌道領域である。
【0010】
シミュレーションに示されているように、提案された技法によって、角速度を数カ月で0.5度/秒未満に減速するタンブリング運動の制動が可能になり、これによって、宇宙飛行体の比較的安全な修理又は除去が可能になる。
【0011】
磁気トルカが(通常のLEO宇宙飛行体の場合のように)いずれにしても宇宙飛行体に存在すると仮定すると、提案された技法は、宇宙飛行体に最小限のシステム影響しか課さない。
【0012】
その上、磁気制動は、宇宙飛行体の通常動作中は存在せず(通常動作中、磁気トルカは宇宙飛行体の姿勢制御に用いられる)、そのため、宇宙飛行体の動作効率は、提案された技法による影響を受けない。
【0013】
スペースデブリ規制は、LEO保護領域を高度2000kmまで拡張するように規定している。したがって、本開示に関して、LEOは、高度2000km以下の任意の地球周回軌道に関係していると理解することができる。
【0014】
幾つかの実施の形態では、スイッチング回路によって少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させることは、可逆的な方法で行うことができる。
【0015】
幾つかの実施の形態では、スイッチング回路は、宇宙飛行体の一時的な障害が終了した
ことを示す第2の状況を検出すると、閉電気回路を開放し、それによって、閉電気回路を開路するように構成することができる。
【0016】
したがって、例えば、宇宙飛行体が障害から復旧された後に、それぞれの磁気トルカを宇宙飛行体の姿勢の変更/制御に再び用いることができるように、コイルを必要な場合にショート解除(un-shorted)することができる。同様に、閉電気回路を開放する外部制御信号(例えば、地上から)をこれに関連して実施可能とすることができる。
【0017】
幾つかの実施の形態では、スイッチング回路は、閉じられたときに、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させるスイッチを備えることができる。このスイッチは、常時閉路式スイッチとすることができる。
【0018】
それによって、宇宙飛行体の障害又は寿命末期を示すことができる、宇宙飛行体のメインバス上に電力がもはや存在しないことが生じると、磁気トルカを短絡させ、タンブリング運動の磁気制動を開始することが確保される。この場合に、前述の状況は、スイッチを開放位置に保持する電流、電力等がもはや利用可能でないことに対応する。
【0019】
幾つかの実施の形態では、宇宙飛行体は、当該宇宙飛行体の動作を制御する制御ユニットを備えることができる。宇宙飛行体の制御ユニットは、例えば、制御コンピューターとすることができる。その場合、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況は、制御ユニットがステータス要求に応答しない場合に検出することができる。このステータス要求は、例えば、フラグ又はピングを含むことができる。
【0020】
それによって、宇宙飛行体がもはや制御ユニットの制御下にないとみなされると、磁気トルカを短絡させ、タンブリング運動の磁気制動を開始することが確保される。
【0021】
幾つかの実施の形態では、スイッチング回路は、ステータス要求を制御ユニットに発行するとともに、ステータス要求に対する制御ユニットからの応答が所定の期間内にない場合には宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出するように構成された検出器を備えることができる。ステータス要求は、例えば、フラグ又はピングを含むことができる。
【0022】
幾つかの実施の形態では、スイッチング回路は、宇宙飛行体が外部制御信号を受信すると、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させるように構成することができる。同様に、閉電気回路をショート解除する外部制御信号も同様に実施可能とすることができる。この外部制御信号は、例えば、地上からの制御信号とすることができる。
【0023】
それによって、宇宙飛行体のタンブリング運動の磁気制動に対する付加的な制御が提供される。
【0024】
幾つかの実施の形態では、磁気トルカは、それぞれ強磁性コアを更に備えることができ、それぞれの磁気トルカのコイルは、強磁性コアの回りに巻回されている。その場合、コイルは、単一層の巻線にされて強磁性コアの回りに巻回させることができる。これは、強磁性コアが従来の磁気トルカのものよりも長く、及び/又はより大きな直径を有することを意味することができ、これは、本発明の目的のための磁気トルカの最適化に対応する。更なる最適化は、強磁性コアの透磁率の増加、並びにコイルワイヤの直径の増加及び/又はその電気抵抗の削減を含むことができる。これらの全ての最適化によって、外部磁場内を移動する閉回路磁気トルカにおける電流の誘導から得られる磁気制動の効率が高められる。
【0025】
本開示のもう1つの態様は、外部磁場内で宇宙飛行体の姿勢を変更するように動作可能
な1つ以上の磁気トルカを有する宇宙飛行体を動作させる方法に関する。各磁気トルカは、コイルを備えることができる。この方法は、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出することを含むことができる。この方法は、この状況を検出すると、磁気トルカのうちの少なくとも1つのコイルを短絡させ、外部磁場内で宇宙飛行体のタンブリング運動を制動するためのこのコイルを備える閉電気回路が形成されるようにすることを更に含むことができる。
【0026】
幾つかの実施の形態では、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させることは、可逆的な方法で行うことができる。
【0027】
幾つかの実施の形態では、この方法は、宇宙飛行体の一時的な障害が終了したことを示す第2の状況を検出すると、閉電気回路を開路することを更に含むことができる。
【0028】
幾つかの実施の形態では、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させることは、閉じられると少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させるスイッチによって行うことができる。このスイッチは、常時閉路式スイッチとすることができる。
【0029】
幾つかの実施の形態では、この方法は、ステータス要求を宇宙飛行体の制御ユニットに発行することを更に含むことができる。この方法は、ステータス要求に対する制御ユニットからの応答が所定の期間内にない場合には宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出することを更に含むことができる。
【0030】
幾つかの実施の形態では、この方法は、宇宙飛行体が外部制御信号を受信すると、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させることを更に含むことができる。
【0031】
装置の特徴及び方法のステップは、多くの点で交換することができることが理解されるであろう。当業者が理解しているように、特に、開示された装置(例えば、宇宙飛行体)の詳細は、この装置を動作させる対応する方法によって実現することができ、その逆も同様である。その上、装置に関してなされた上記記述のいずれも、対応する方法に同様に適用され、また、その逆も同様であることが理解される。
【0032】
以下では、添付図面を参照して本開示の例示の実施形態を説明する。添付図面は、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】宇宙飛行体の運動を制動するメカニズムの例を概略的に示す図である。
【
図1B】宇宙飛行体の運動を制動するメカニズムの例を概略的に示す図である。
【
図2】磁気トルカを装備する宇宙飛行体の地球の磁場における挙動を概略的に示す図である。
【
図3A】外部磁場において短絡された磁気トルカに作用する力の例を概略的に示す図である。
【
図3B】外部磁場において短絡された磁気トルカに作用する力の例を概略的に示す図である。
【
図4】本開示の実施形態による宇宙飛行体に用いられる磁気トルカ及び対応するスイッチング回路の一例を概略的に示す図である。
【
図5】
図4に示す磁気トルカ及びスイッチング回路を備える、本開示の実施形態による宇宙飛行体の一例を概略的に示す図である。
【
図6】本開示の実施形態による宇宙飛行体を動作させる方法の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、添付した図を参照して本開示の例示の実施形態を説明する。図における同一の要素は、同一の参照符号によって示される場合があり、それらの繰り返しの説明は、省略される場合がある。
【0035】
概略的に言えば、本開示は、宇宙システム制御の技術分野において、搭載された姿勢制御アクチュエーター及びトリガー技術を用いて、寿命末期後又は主な宇宙飛行体(例えば、衛星)障害後に自律的に起動される受動的姿勢制御技法としての姿勢軌道制御システム(AOCS:Attitude and Orbit Control System)アクチュエーター技術の枠組みに含まれる。
【0036】
本開示は、対象となる宇宙飛行体の受動的安定化を提供することによって、例えば、ADRミッション及び軌道離脱動作等の将来の修理ミッション及び除去ミッションの容易化及び危険回避を目的としている。さらに、本発明は、今日、軌道上崩壊事象の主要な要因のうちの1つである高速のタンブリング速度に起因した宇宙飛行体構造の崩壊事象及び分解の危険を緩和することができる。
【0037】
このように、本開示は、障害後/中又は寿命末期後における宇宙飛行体の受動的角速度振幅(angular rate magnitude)制動に関する。これは、宇宙飛行体のタンブリング運動を安定化/制動する磁気トルクを生成するとともに除去動作及び軌道離脱動作を容易にするために、磁気制動システムを宇宙飛行体に意図的に追加して、エネルギー散逸率及び地球の磁場内を移動するときの電流の生成能力を高めることを必然的に伴う。
【0038】
この機能は、通常の宇宙飛行体に少なくとも存在する磁気トルカと、宇宙飛行体の寿命末期時又は障害後に制動システムを起動する専用のトリガー技術とを用いることによって最適な方法で含まれる。これに関連して、磁気トルカは適切に設計され、宇宙飛行体の機内に配置されるものと仮定される。この仮定は、通常、磁気トルカが宇宙飛行体の姿勢制御に使用可能である場合に該当する。
【0039】
上述したように、障害後/中又は寿命末期後の宇宙飛行体のタンブリング運動の制動は、宇宙飛行体の修理又は除去を可能にする重要な要件である。タンブリング運動のそのような制動のための複数の方法及びシステムが実施可能である。受動的デタンブリングシステムの例を
図1A及び
図1Bに示す。
【0040】
衛星の機械振動ダンパーの一例を
図1に示す。衛星本体110は、ブーム120を通じて先端質量体130に結合されている。小質量体150が、ばね140を通じて先端質量体130に結合されている。衛星の振動は、小質量体150の運動を誘発し、それに伴って、ばね140の伸長又は圧縮を誘発する。それによって、ばね140は、これらの振動の運動エネルギーをゆっくりと散逸する。
【0041】
渦電流エンハンサーの一例を
図1Bに示す。この渦電流エンハンサーは、導電性リング又は導電性バレル160を備え、絶縁体素子170がバレル170の壁に組み込まれ、バレル160の回転軸に沿って延在する。バレル160は、渦電流180をバレル壁内に形成することができ、それによって、エネルギーを散逸するように成形される。
【0042】
デタンブリングシステムの代替の解決策には、衛星の内部に搭載される受動的ダンパーとしての粒子ダンパー又は流体ダンパーが含まれる。粒子又は流体によるエネルギーの散逸は、衛星の振動性運動の制動に役立つ。衛星の章動運動は、ダンパーチューブ内の流体振動を励振し、運動エネルギーが熱に変換され、その結果、章動運動は低減される。
【0043】
上記デタンブリングシステムに共通するものは、それらのシステムが、開発コストの問題、技術の準備レベルが低いこと、並びに追加される質量及び収容制約の点でホスト衛星に与える影響が大きいことを欠点として有するということである。その上、上記デタンブリングシステムは、通常動作中に宇宙飛行体の姿勢の所望の変更の効果を打ち消すおそれもあり、それによって、宇宙飛行体の動作効率を低下させるおそれがある。
【0044】
本開示は、宇宙飛行体内に既に存在する磁気トルカを障害後又は寿命末期後にデタンブリング目的に用いることを提案する。磁気トルカは、LEO上で動作する小型、中型及び大型の宇宙機に主に用いられる確立された技術であり、局所的な外部磁場に垂直な制御トルクを与えることができる。磁気トルカは、多くの場合、過剰な運動量を除去するためにリアクションホイールと組み合わせて用いられる。
【0045】
既に機内に搭載されている磁気トルカを利用することに加えて、本開示は、宇宙飛行体の寿命末期時又は主な障害の場合に磁気トルカ(複数の場合もある)を短絡させる専用のトリガー技術を実施することを提案する。短絡された磁気トルカを有する宇宙飛行体のタンブリング運動は、磁気トルカ内に電流を誘導し、運動エネルギーを散逸するそれぞれの磁場を生み出す。この手法に従うことによって、ホスト宇宙飛行体に対する質量及びコストに関するシステムレベルの影響が代替の解決策と比較して極めて制限されたデタンブリング機能を統合することが可能になる。
【0046】
通常の磁気トルカは、コイル及び強磁性コアを備える。コイルは、磁気トルカの必要とされる性能に従って、規定の面積及び規定数のループで強磁性コアの回りに配置される(例えば、巻回される)。コイルを得る(例えば、巻回する)種々の方法があり、したがって、構築ストラテジーに応じて種々のタイプの磁気トルカが存在し得る。本開示の実施形態は、いずれのそのようなタイプの磁気トルカもコイルを備える限り、それらの磁気トルカに適用可能である。
【0047】
本開示は、宇宙飛行体(例えば、衛星)に搭載された磁石がその磁場(磁気モーメント)を局所的な外部磁場と常に整列させようとすることを活用して、磁気トルカを利用することによって受動的姿勢安定化を達成することができるということに部分的に基づいている。変化する磁場が存在する場合、ループ電流が導電性材料内に生成され、このループ電流は、当該ループ電流を最初に生み出した外部磁場に対抗する磁場を生成する。
【0048】
このように、本開示によって提案される技法は、1つ以上の磁気トルカを備える任意の宇宙飛行体(例えば、衛星)に適用可能である。通常、LEO上で動作するように設計された宇宙飛行体は、1つ以上の磁気トルカを備えるが、本開示は、LEO用に設計された宇宙飛行体に限定されるものと理解されるべきではなく、他の宇宙飛行体が1つ以上の磁気トルカを備える限り、そのような他の宇宙飛行体にも同様に適用可能である。
【0049】
通常動作中、磁気トルカは、地球の磁場等の外部磁場内で宇宙飛行体の姿勢を制御/変更するように動作可能であることは理解されている。そのような宇宙飛行体について、宇宙飛行体の磁気トルカのうちのいずれか又は全てを意図的に短絡させることが提案される。好ましくは、宇宙飛行体の磁気トルカの全てが短絡される。その場合において、宇宙飛行体が回転運動(章動及び/又は歳差運動を含む場合がある)を行う場合、ループ電流が、短絡された磁気トルカのコイルに誘導される(少なくともそれぞれのコイルを通る磁束が回転運動に起因して時間依存している磁気トルカについてはそうである)。磁気トルカ(複数の場合もある)を短絡(ショート)させるために、宇宙飛行体は、スイッチング回路を備える。その点で、磁気トルカを短絡させることは、磁気トルカのコイルを短絡させることと等価であると理解されている。宇宙飛行体は、ショートされる全ての磁気トルカについて単一のスイッチング回路を備えることもできるし、磁気トルカのそれぞれについ
て1つのスイッチング回路を備えることもできる。いずれの場合も、それらのスイッチング回路は、仮想的又は概念的に、単一のスイッチング回路に統合されているとみなすことができる。磁気制動が実際に必要とされるときに磁気制動を適用するために、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況が発生すると、スイッチング回路は、磁気トルカ(複数の場合もある)のコイル(複数の場合もある)を短絡させるように構成される。したがって、磁気トルカ(複数の場合もある)は、宇宙飛行体の公称動作中は短絡されないことに留意することが重要である。すなわち、宇宙飛行体の公称動作中、磁気トルカは、宇宙飛行体の姿勢を制御する磁気トルカ(複数の場合もある)のドライバー(又はそれぞれのドライバー)の制御の下で動作する。
【0050】
磁気トルカのうちの少なくとも1つ(場合によっては全て)のコイルを短絡させることは、当該コイルを備える閉電気回路が形成されることを意味する。この閉電気回路内に誘導される電流は、運動エネルギーを散逸し、それによって、外部磁場内で宇宙飛行体のタンブリング運動を制動する。
【0051】
この概念を
図2に概略的に示す。
図2は、地球200の周回軌道上の種々の位置における宇宙飛行体(例えば、衛星)250を示している。宇宙飛行体250は、矢印によって示される磁気モーメントを有する磁気トルカを備えるものと仮定される。この磁気モーメントは、例えば、磁気トルカのショートされたコイル内に誘導されたループ電流によって生成することができる。磁気モーメントは、外部磁場210と常に整列しようとし、その結果、磁気トルクは磁気トルカに作用することができ、それによって、宇宙飛行体に作用することができる(磁気トルカは、宇宙飛行体に堅固に固定されていると仮定する)。この磁気トルクは、宇宙飛行体のタンブリング運動を制動するように作用することができる。例えば、少なくとも宇宙飛行体の角速度が、とりわけ外的影響に依存する閾値角速度未満に低減される範囲で、宇宙飛行体のタンブリング運動を安定させることができる。
【0052】
外部磁場内の短絡された磁気トルカの効果を
図3A及び
図3Bにより詳細に示す。磁気トルカ310は、外部磁場
【数1】
350内に配置されると仮定される。磁場
【数2】
に対して平行でない回転軸の回りの磁気トルカの回転(例えば、この図に示すような垂直軸に沿った回転ベクトル
【数3】
)は、コイルの内部の時間依存磁場(又は時間依存磁束φ)を意味する。磁場
【数4】
に垂直な断面積
【数5】
の変化に対する磁束の変化dφは、
【数6】
によって与えられる。磁束φの経時変化は、コイルの端子に起電力
【数7】
を生み出す。開回路コイルの場合には、これによって、端子の両端に電圧V320が得られる。一方、短絡されたコイルの場合には、この起電力は、コイルを通電する誘導電流を意味し、この誘導電流は、コイルの磁気モーメント
【数8】
を更に生成する。外部磁場
【数9】
において、コイルの磁気モーメント
【数10】
は、レンツの原理に従って、磁気トルカ310の回転運動に対抗して作用する力
【数11】
及び対応するトルク
【数12】
を生成する。ただし、
【数13】
である。それによって、生み出されたトルク
【数14】
は、磁気トルカ310の角度減速をもたらす。特に、地球の磁場は、LEO上の飛行体に対してかなりのトルクを生み出すことができる。このトルクは、地球中軌道(MEO:Medium Earth Orbit)上及び静止赤道軌道(GEO:Geosynchronous Equatorial Orbit)上ではそれぞれより低くなる場合があり、これは、提案された技法をLEO上の宇宙飛行体に特に適用可能なものにする。特に、上記による磁気制動は、角速度が大きいほど、より効果的である。
【0053】
上記を要約すれば、宇宙飛行体における磁気トルカは、寿命末期後又は障害後に短絡されると、磁気トルカのコイルにループ電流を誘導する宇宙飛行体のタンブリング運動に起因した磁場の変化からの利益を得ることができる。これらのループ電流は、磁場の変化に対抗するトルクを生み出し、それによって、タンブリング運動に対抗するトルクを生み出し、それによって、宇宙飛行体の受動的安定化をもたらす。磁気トルカが宇宙飛行体にいずれにしても設けられることを前提として、提案された技法がシステムレベルにおいて宇宙飛行体に与える影響は最低限のものである。
【0054】
本発明者らが知る限りにおいて、短絡された磁気トルカと磁気トルカを短絡させる自律的トリガーとに基づくこの方式は、宇宙飛行体の受動的安定化のためにこれまで用いられ
たことはなかった。上述したように、この方式は、受動的姿勢制御及びタンブリング運動の低減を提供し、それによって、例えば、能動的デブリ除去ミッション及び軌道離脱動作等の修理ミッション及び除去ミッションを容易にする。
【0055】
図4は、本開示の実施形態による宇宙飛行体に用いられる磁気トルカ10及び対応するスイッチング回路20の一例を示している。宇宙飛行体は、複数(例えば、3つ)の磁気トルカ10と、(少なくとも、いずれのそのようなスイッチング回路も概念的又は仮想的に単一のスイッチング回路に統合/結合することができる限りにおいて)全ての磁気トルカを使用可能にする単一のスイッチング回路20とを備えることができることが分かる。スイッチング回路20は、スイッチ25と、スイッチ25を制御するスイッチング制御ユニット30とを備える。スイッチ25は、例えば、機械式スイッチ又はリレースイッチとすることができる。スイッチング回路20は、磁気トルカ10のそれぞれについてそれぞれのスイッチ25を備えることができる。
【0056】
宇宙飛行体の通常動作中、磁気トルカ10は、磁気トルカドライバー50によって駆動される。このために、スイッチ25は、磁気トルカ10の端子(すなわち、磁気トルカ10のコイルの端子)が磁気トルカドライバー50に接続された状態にあり、これによって、コイルの端子間に電圧差を印加して、宇宙飛行体の姿勢の所望の変更を得るための適切な磁気モーメントを磁気トルカ10に誘導することができる。宇宙飛行体は、少なくとも、いずれのそのような磁気トルカドライバーも概念的又は仮想的に単一の磁気トルカドライバー50に統合/結合することができる限りにおいて、全ての磁気トルカ10を使用可能にする単一の磁気トルカドライバー50を備えることができることが理解される。
【0057】
スイッチ25は、第1の状態(例えば、閉状態)にあるときは、磁気トルカ10が短絡され、第2の状態(例えば、開状態)にあるときは、磁気トルカ10が短絡されない(そして、磁気トルカドライバー50に接続される)ように構成することができる。そのような場合には、宇宙飛行体が電力を失う場合又は主電力バスに障害を有する場合に磁気トルカ10が短絡されるように、スイッチは、通常時(起動/電力が存在しないとき)に第1の状態にあるタイプ(例えば、常時閉路式)のものである場合が有利であり得る。スイッチ25のこの実施態様例について、前述の状況は、スイッチを第2の状態(例えば、開放位置)に保持する電流又は電力等がもはや存在しないことに対応する。
【0058】
代替的に又は更に加えて、スイッチ25は、スイッチング制御ユニット30の制御の下で動作することができる。スイッチング制御ユニット30は、テレメトリーコマンドブロック32、トリガー管理ブロック34、及びEOL検出器ブロック36のうちの任意のもの又は全てを備えることができる。テレメトリーコマンドブロック32は、テレメトリーデータ(例えば、磁気計又はジャイロのようなセンサーからのデータ)に基づいて、宇宙飛行体の障害又は寿命末期が発生したか否かを示す信号(例えば、フラグ)を生成することができる。EOL検出器ブロック35は、宇宙飛行体の様々な動作パラメーターに基づいて、宇宙飛行体の障害又は寿命末期が発生したか否かを示す別の信号(例えば、フラグ)を生成することができる。例えば、EOL検出器ブロック36は、宇宙飛行体の動作を制御する制御ユニット(例えば、制御コンピューター、メインコンピューター)がステータス要求にもはや応答しない場合に、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出する検出器として動作することができる。このために、この検出器は、ステータス要求を制御ユニットに発行し、このステータス要求に対する制御ユニットからの応答が所定の期間内にない場合には、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出することができる。ステータス要求は、例えば、フラグ又はピングを含むことができる。トリガー管理ブロック34は、いずれかの信号又は双方の信号が宇宙飛行体の障害又は寿命末期を示している場合には、磁気トルカ10を短絡させるトリガー信号をスイッチ25に発行することができる。一般に、スイッチング制御ユニット30(例えば、トリガー管理ブロック34)は
、宇宙飛行体の障害又は寿命末期を示す前述の状況が検出された場合にトリガー信号を発行することができる。スイッチング制御ユニット30(例えば、トリガー管理ブロック34)は、外部制御信号60を宇宙飛行体において受信するとトリガー信号を更に発行することができる。この外部制御信号60は、例えば、地上からの制御信号とすることができる。この場合に、スイッチング回路20は、外部制御信号60を受信すると、磁気トルカ10のコイルを短絡させると考えることができる。以下で説明するように、磁気トルカ10内の閉電気回路を開路する外部制御信号に従って動作することも、同様に実施可能とすることができる。
【0059】
図5は、
図4に示す磁気トルカ10と、磁気トルカドライバー50と、スイッチング回路20(例えば、スイッチ25及びスイッチング制御ユニット30)とを備える、本開示の実施形態による宇宙飛行体100の一例を概略的に示している。宇宙飛行体100は、動作に必要な更なる要素70を備えることができ、この要素は、例えば、制御ユニットを含むが、これに限定されるものではない。
【0060】
宇宙飛行体のタンブリング運動の磁気制動のための提案された方式を適用するとき、磁気トルカの短絡は、ホスト宇宙飛行体の公称動作寿命中はトリガーされないことが好ましい。これは、寿命末期時又は障害時における短絡の可逆的なトリガーメカニズムを設けることによって確保することができる。したがって、スイッチング回路による(少なくとも1つの)磁気トルカのコイルの短絡は、可逆的な方法で行うことができる。これは、それぞれの磁気トルカ(複数の場合もある)を宇宙飛行体の姿勢の変更/制御に再び用いることができるように、コイルを必要な場合にショート解除することができることを意味する。また、スイッチング回路20は、宇宙飛行体の一時的な障害が終了したことを示す第2の状況を検出すると、(第2の状態、例えば、開状態にスイッチングすることによって)閉電気回路を開路するように構成することができる。したがって、宇宙飛行体に対する制御が回復されるとき、磁気トルカをショート解除することができ、宇宙飛行体の通常動作を再開することができる。これに関連して、磁気トルカ内の閉電気回路を開路する外部制御信号(例えば、地上から)も同様に実施可能とすることができる。
【0061】
上述したように、宇宙飛行体の寿命末期後又は障害後におけるタンブリング運動の磁気制動の目的に、宇宙機に存在する磁気トルカを用いることは、付加的な設計制約を宇宙飛行体に課さない。ただし、本開示に関して必要ではないが、磁気トルカの幾つかの変更によって、寿命末期後又は障害後における磁気制動を最適化することができることが理解される。そのような変更は、強磁性コアの透磁率の増加、並びにコイルワイヤの直径の増加及び/又はその電気抵抗の削減を含むことができる。さらに、強磁性コア上のコイル巻線の層がより少なくなるように(好ましくは、1層のみ)、使用中の磁気トルカと比較して磁気コアを伸長することができ、及び/又はその直径の増加させることができる。したがって、強磁性コイルはそのような寸法(長さ及び/又は直径)を有し、当該コイルが単一層をなして強磁性コアの回りに巻回されるようにすることが好ましい場合がある。これらの全ての最適化によって、短絡されたコイルにおける電流の誘導及び/又はそれによって生成される磁気モーメントの強化を容易にすることができる。
【0062】
次に、研究室のプロトタイプの実施及びシミュレーションによって得られた本発明の技術的結果を説明する。詳細には、高度400kmと1600kmとの間の軌道上の宇宙飛行体についてパラメトリックシミュレーションを行った(最も多く用いられる軌道は高度600kmと1300kmとの間にあることに留意されたい)。以下に提示する技術的結果を予想することなく、これらのシミュレーションは、本開示の実施形態による短絡された磁気トルカが、前述の範囲の高度全体においてタンブリング運動の十分な磁気制動を達成することを示している。
【0063】
上述したように、地球の磁場は、LEO上の宇宙飛行体に対してかなりのトルクを生み出すことができる。したがって、磁気トルカの再利用と、寿命末期又は障害の際の磁気トルカの短絡の自律的なトリガーとの提案された組み合わせは、宇宙飛行体の修理及び除去の危険回避及び容易化を行う効率的な磁気制動を提供することができる。提案された解決策は、その実施のシステム影響も更に最小にする。
【0064】
提案された解決策は、回転する宇宙飛行体に生み出される影響をモデル化する「磁気マトリックス」を求める電磁気有限要素モデルに基づくシミュレーションを通じて定量的に研究されてきた。用いられる磁場は、運用中の宇宙飛行体軌道に沿って本体軸における磁場を積分して平均値を得る地球の磁場の双極子モデルを用いて得られる。磁気マトリックス及び磁場の組み合わせは、指数関数的減衰として振る舞う角速度減衰時間の推定値を得るのに用いることができる。
【0065】
センチネル(Sentinel)1号を、天底軸の回りに3度/秒(他の軸の回りに0度/秒)でスピンするシミュレーション(SSO軌道)のベースラインケースと考えると、このスピン速度を減少させるには、300Am2双極子磁気モーメントの磁気トルカを短絡させることで十分であることが示された。スピン速度は、約22カ月後には1度/秒に減少し、約35カ月後には0.5度/秒に減少し、約65カ月後には0.1度/秒に減少することが分かった。特に、300Am2の磁気トルカの存在は、センチネル1号のサイズを有する宇宙飛行体にはかなり控え目な仮定であり、このサイズの宇宙飛行体における通常の磁気トルカは、危険のないように、より大きなものを仮定することができる。
【0066】
天底の回りに3度/秒でスピンするセンチネル3号の場合には、300Am2に代えて800Am2磁気双極子の磁気トルカを短絡させると、衛星を1度/秒にデタンブリングする時間は、2カ月~10カ月だけ短縮される(適用事例に応じて、例えば、磁気トルカの設計が、同様の単位質量及び単位磁気双極子を維持して、使用目的に最適化されているか否かに応じて、ほぼ5カ月~19カ月から3カ月~9カ月になる)。
【0067】
さらに、上述したように、可逆的な短絡を提供することによって、短絡の不注意のトリガーの危険が緩和される。
【0068】
(準)赤道軌道上では軌道法線ベクトルの回りの制動が存在しないので、提案された方式は、好ましいことに、ADRミッションが発生する可能性が最も高い領域である高傾斜軌道(SSO)に適用可能である。それでも、シミュレーションは、非常に特殊な構成を除いて、磁気制動が準赤道軌道上で依然として効果的であることを示している。そのような準赤道軌道上では、宇宙飛行体は、いずれの初期タンブリング運動も、軌道法線ベクトルと整列されてその状態を維持する可能性が低いその主慣性軸の回りの回転に変換する傾向がある(何らかの章動を伴う場合がある)。
【0069】
定常状態では、スピン速度は、外的影響に応じて、零に制動されず、軌道速度の約2倍に制動される。しかしながら、零への制動は、例えば、ADRミッションの十分な危険回避には必要ではない。実際のところ、修理又は除去のために宇宙飛行体に接近して安全に捕捉するチェーサーにとって、約1度/秒以下のスピン速度が十分であると考えられ、そのようなスピン速度は、本開示を適用することによって容易に達成することができる。
【0070】
上述した装置の特徴は、簡潔にするために明示的に説明されていない場合があるそれぞれの方法の特徴(例えば、動作方法の特徴)に対応することができ、その逆の同様であることに留意されたい。本明細書の開示内容は、そのような方法にも及ぶものとみなされ、その逆も同様である。
【0071】
このように、本発明の実施形態による宇宙飛行体を上記で説明してきたが、本開示は、そのような宇宙飛行体を動作させる方法にも同様に関する。この宇宙飛行体は、外部磁場内で当該宇宙飛行体の姿勢を変更するように動作可能な1つ以上の磁気トルカを備えるとともに、各磁気トルカはコイルを備えることが仮定される。宇宙飛行体は、上述した特徴のうちの任意のもの又は全てを有することができることが更に理解される。この方法の目的は、宇宙飛行体が、当該宇宙飛行体の寿命末期後又は当該宇宙飛行体の障害中/後におけるタンブリング運動の磁気制動から利益を得ることである。そのような方法の一例600を
図6に示す。方法600は、ステップS610において、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況の検出を含む。これは、例えば、この状況が存在するか否かを常時監視することを含むことができる。ステップS620において、この状況が検出されると、磁気トルカのうちの少なくとも1つのコイルが短絡され、外部磁場内で宇宙飛行体のタンブリング運動を制動するためのこのコイルを備える閉電気回路が形成されるようにする。ここで、少なくとも1つの磁気トルカのコイルの短絡は、原則として磁気トルカを後に宇宙飛行体の姿勢制御に再び用いることができるように、可逆的な方法で行うことができる。これは、特に宇宙飛行体の要素の一時的な障害の場合、又は前述の状況が誤って検出された場合に関係することになり得る。
【0072】
したがって、この方法は、宇宙飛行体の一時的な障害が克服されたことを示す第2の状況を検出したときに閉電気回路を開路するステップ(
図6に図示せず)を更に含むことができる。
【0073】
ステップS620において状況を検出することは、ステータス要求を宇宙飛行体の制御ユニット(例えば、制御コンピューター)に発行するサブステップを含むことができる。その場合、上記検出することは、このステータス要求に対する制御ユニットからの応答が所定の期間内にない場合に、宇宙飛行体の寿命末期又は障害を示す状況を検出するサブステップを更に含むことができる。
【0074】
方法600は、宇宙飛行体が外部制御信号を受信すると、少なくとも1つの磁気トルカのコイルを短絡させること(
図6に図示せず)を更に含むことができる。
【0075】
上述したいずれの制御ユニット又はブロックも、コンピュータープロセッサ又はそれぞれのコンピュータープロセッサ等によって実施することができることが理解される。
【0076】
本明細書及び図面は、提案された方法及びシステムの原理を単に示しているにすぎないことに更に留意されたい。当業者であれば、本出願において明示的に説明も図示もされていないが、本発明の原理を具現化し、本発明の趣旨及び範囲に含まれる様々な構成を実施することができる。さらに、本明細書に概説された全ての例及び実施形態は、主として、提案された方法及びシステムの原理の読み手の理解を助ける説明目的のものにすぎないことが明確に意図されている。さらに、本発明の原理、態様、及び実施形態、並びにそれらの具体例を提供する本明細書における全ての記載は、それらと均等なものを包含するように意図されている。