IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立台湾大学の特許一覧 ▶ 国立成功大学の特許一覧 ▶ ディーシービー−ユーエスエー エルエルシーの特許一覧

特許7016945ディスインテグリン変異体及びその使用法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ディスインテグリン変異体及びその使用法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/46 20060101AFI20220131BHJP
   C07K 14/745 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C07K14/46 ZNA
C07K14/745
C12N15/12
A61K38/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020506765
(86)(22)【出願日】2017-08-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 US2017046086
(87)【国際公開番号】W WO2019032105
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(73)【特許権者】
【識別番号】504455908
【氏名又は名称】国立成功大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509272160
【氏名又は名称】ディーシービー-ユーエスエー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】DCB-USA LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】ファン, トゥル・フー
(72)【発明者】
【氏名】クオ, ユー・ジュー
(72)【発明者】
【氏名】チュアン, ウェイ・ジェル
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/029131(WO,A1)
【文献】American Heart Journal,1995年,Vol.130, No.4,p.877-892
【文献】The Journal of Biological Chemistry,1991年,VOl.266, No.15,p.9359-9362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
Pubmed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスインテグリン変異体であって、
(a)配列番号から選択されたアミノ酸配列を有するリンカーと、
(b)配列番号14から選択されたアミノ酸配列を有するRGDループと、
(c)配列番号21から選択されたアミノ酸配列を有するC末端と、
を具備し、
前記ディスインテグリンが、トリムクリンである、
ディスインテグリン変異体。
【請求項2】
前記ディスインテグリン変異体のN末端に結合されたエチレングリコール(EG)ユニットの2~20個の繰り返し体を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖をさらに具備する請求項1に記載のディスインテグリン変異体。
【請求項3】
血小板凝集によってもたらされる疾患を処置するための医薬品の製造のためのディスインテグリン変異体の使用法であって、前記ディスインテグリン変異体が、
(a)配列番号から選択されたアミノ酸配列を有するリンカーと、
(b)配列番号14から選択されたアミノ酸配列を有するRGDループと、
(c)配列番号21から選択されたアミノ酸配列を有するC末端と、
を具備し、
前記ディスインテグリンが、トリムクリンである、
使用法。
【請求項4】
前記ディスインテグリン変異体のN末端に結合されたエチレングリコール(EG)ユニットの2~20個の繰り返し体を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖をさらに具備する請求項に記載の使用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概略として、被検体における血小板凝集及び血小板活性化を抑制するための新規のディスインテグリン変異体及びそれらの使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は、アテローム血栓症、幹細胞輸送、腫瘍転移及び関節炎のような多数の生理学上及び病理学上のプロセスにかかわる。炎症したままの内皮の部位における血小板活性化は、血管の炎症及び血管壁の再構築に寄与する。血小板は、血管内皮と相互作用し、炎症、血栓症及びアテローム形成のプロセスを結びつけ、それは血小板と内皮細胞/白血球との間の相互作用を介してもたらされる。血小板は、単球、好中球(PMN)、内皮細胞又は内皮前駆細胞(EPC)において様々な炎症反応を誘発させ得るものであり、接着、走化作用、遊走、血栓症、又は単球細胞のマクロファージ若しくは泡沫細胞への分化などの鍵となる炎症プロセスをもたらす。
【0003】
血小板活性は、炎症のプロセス及びアテローム硬化症のイニシエーションにおいて重要な役割を果たす。アテローム血栓症のイニシエーションを含む多数の心血管疾患(CVD)は、血小板の異常かつ過剰な活性化又は血小板の活動過多につながり、これはCVDの独立した危険因子とみなされる。アセチルサリチル酸(アスピリン)は確認された最初の抗血小板剤であり、それはアラキドン酸経路におけるシクロオキシゲナーゼ1(COX1)酵素をCOX1活性部位のアセチル化を介して不可逆的に阻害する。長期間のアスピリン療法は、アテローム血栓性の疾患の中~高リスクの患者の間でその後の心筋梗塞、脳卒中又は血管死のリスクを約20%~25%低減する(Patrono他、2004 Chest126、234S~264S)。しかし、出血リスクが、抗血小板療法の実質的な制限となる。クロピドグレル及びチカグレロルを含む最近の新規の抗血小板剤はCVD療法に有望な抗血小板効果を与えるが、出血が重要な臨床課題として残っていた。科学者達は、安全な抗血小板剤について、未だに出血と効能との間のバランスについて取り組んでいる。
【0004】
上記観点から、関連技術において、出血リスクの懸念なしに血小板の凝集及び/又は活性化を抑制又は阻害する薬剤の必要があり、それは血小板凝集によってもたらされる疾患、障害及び/又は状態を治療するための医薬品の開発に対する有望な候補となる。
【発明の概要】
【0005】
以下に、基本的な理解を読者に与えるために開示の簡略化した概要を提示する。この概要は、開示の詳細な概観ではなく、本発明の鍵となる/重要な要素を特定するものでも本発明の範囲を詳述するものでもない。その専らの目的は、ここに開示される幾つかの概念を、後述のさらに詳細な説明の序章としての簡略な形態で提示することである。
【0006】
概略として、本開示は、血小板凝集、血小板活性化及び血栓形成を抑制する新規なディスインテグリン変異体の予想外の発見に関する。したがって、これらの新規なディスインテグリン変異体は、血小板凝集によってもたらされる疾患及び/又は状態を治療するための医薬品の開発に対する有望な候補となる。
【0007】
したがって、本開示の第1の態様は、血小板凝集を抑制又は阻害するディスインテグリン変異体を提供することを目的とする。ディスインテグリン変異体は、その構造において、
(a)配列番号1、4、7、8又は9のアミノ酸配列を有するリンカーと、
(b)配列番号11~20、24又は25のアミノ酸配列を有するRGDループと、
(c)配列番号3、6、21、22又は23のアミノ酸配列を有するC末端と、
を具備する。
【0008】
本開示のディスインテグリンの例は、これに限定されないが、アルボラブリン、アプラギン、バシリシン、バトロキソスタチン、ビチスタチン、セレベリン、セラスチン、クロタトロキシン、ズリシン、エレガンチン、エリスチコピン、フラボリジン、フラボスタチン、ハリシン、ハリスタチン、ジャララシン、ジャラスタチン、キストリン、ラチェシン、ルトシン、モロシン、ロドストミン、サルモシン、サキサチリン、テルゲミニン、トリメスタチン、トリムクリン、トリムターゼ、ウスリスタチン又はビリジアンを含む。
【0009】
ある好適な実施形態によると、本ディスインテグリン変異体はトリムクリンに由来する。他の実施形態によると、本ディスインテグリン変異体はロドストミンに由来する。
【0010】
ある実施形態では、ディスインテグリン変異体は、
(a)配列番号1のリンカーと、
(b)配列番号10~20のいずれかのRGDループと、
(c)配列番号3、21、22又は23のいずれかのC末端と、
を具備する。
【0011】
好適な一実施形態では、前記ディスインテグリン変異体が、配列番号1の前記リンカー、配列番号14の前記RGDループ、及び配列番号21の前記C末端を具備する。
【0012】
更なる実施形態では、前記ディスインテグリン変異体は、
(a)配列番号7の前記リンカーと、
(b)配列番号13又は18の前記RGDループと、
(c)配列番号3、21又は22のいずれかの前記C末端と、
を具備する。
【0013】
また更なる実施形態では、前記ディスインテグリン変異体は、配列番号8の前記リンカー、配列番号14の前記RGDループ、及び配列番号21の前記C末端を具備する。
【0014】
また更なる実施形態では、前記ディスインテグリン変異体は、
(a)配列番号9の前記リンカーと、
(b)配列番号14又は20の前記RGDループと、
(c)配列番号3、21又は22のいずれかの前記C末端と、
を具備する。
【0015】
他の実施形態では、前記ディスインテグリン変異体は、配列番号4の前記リンカー、配列番号24又は25の前記RGDループ、及び配列番号6の前記C末端を具備する。
【0016】
本開示の選択的な実施形態によると、前記ディスインテグリン変異体は、前記ディスインテグリン変異体のN末端に結合されたエチレングリコール(EG)ユニットの2~20個の繰り返し体を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖をさらに具備する。
【0017】
そこで、本開示の第2の態様は、血小板凝集によってもたらされる疾患及び/又は状態を治療するための薬学的組成物を提供することを目的とする。薬学的組成物は、有効量の上述のディスインテグリン変異体のいずれかと、薬学的に許容可能な担体とを具備する。
【0018】
本開示の好適な実施形態によると、前記ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号1の前記リンカー、配列番号14の前記RGDループ、及び配列番号21の前記C末端を具備する。
【0019】
選択的な実施形態によると、前記ディスインテグリン変異体は、前記ディスインテグリン変異体のN末端に結合されたエチレングリコール(EG)ユニットの2~20個の繰り返し体を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖をさらに具備する。
【0020】
本開示の実施形態によると、血小板凝集によってもたらされる前記疾患及び/又は状態は、血管形成術又はステント留置術に続く急激な血管閉塞、アテローム血栓症、急性血栓性脳卒中、心筋梗塞、末梢血管手術によってもたらされる血栓症、不安定狭心症及び静脈血栓塞栓症からなる群から選択され得る血栓性障害である。
【0021】
本開示の好適な実施形態によると、前記血栓性障害はアテローム血栓症である。
【0022】
本開示の選択的な実施形態によると、前記薬学的組成物は、アブシキシマブ、アピキサバン、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、エドキサバン、エプチフィバチド、リバーロキサバン、チロフィバン、チクロピジン、ワルファリン及びビタミンKからなる群から選択され得る抗凝血剤をさらに具備する。
【0023】
好適な実施形態によると、前記ディスインテグリン変異体は、ステント及びカテーテルを含むがこれに限定されないインプラント可能なデバイスの表面のコーティングとして塗布される。選択的に、前記ディスインテグリン変異体及び前記抗凝血剤は、前記インプラント可能なデバイスの表面のコーティングとしてそれぞれ塗布される。
【0024】
本開示の第3の態様は、血小板凝集によってもたらされる疾患及び/又は状態を有する又は有するものと疑われる被検体を治療する方法を提供することを目的とする。方法は、血小板凝集によってもたらされる疾患及び/又は状態に関連する症状を軽減又は改善するために本薬学的組成物を前記被検体に投与するステップを具備する。
【0025】
本開示の実施形態によると、前記ディスインテグリン変異体は、0.01~100mg/Kgの量で前記被検体に投与される。好ましくは、前記ディスインテグリン変異体は、0.1~50mg/Kgの量で前記被検体に投与される。
【0026】
本開示の実施形態によると、血小板凝集によってもたらされる前記疾患及び/又は状態は、血管形成術又はステント留置術に続く急激な血管閉塞、アテローム血栓症、急性血栓性脳卒中、心筋梗塞、末梢血管手術によってもたらされる血栓症、不安定狭心症及び静脈血栓塞栓症からなる群から選択され得る血栓性障害である。
【0027】
本開示の好適な実施形態によると、前記血栓性障害はアテローム血栓症である。
【0028】
本開示の実施形態によると、前記方法は、アブシキシマブ、アピキサバン、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、エドキサバン、エプチフィバチド、リバーロキサバン、チロフィバン、チクロピジン、ワルファリン及びビタミンKからなる群から選択され得る抗凝血剤を前記被検体に投与するステップをさらに具備する。
【0029】
本開示の好適な実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、ステント及びカテーテルを含むがこれに限定されないインプラント可能なデバイスの表面のコーティングとして塗布される。選択的に、前記ディスインテグリン変異体及び前記抗凝血剤は、前記インプラント可能なデバイスの表面のコーティングとしてそれぞれ塗布される。
【0030】
本開示の実施形態によると、前記被検体はヒトである。
【0031】
本開示の付随する構成及び効果の多くは、添付図面との関連で検討される以下の詳細な説明を参照してより深く理解されることになる。
【0032】
特許又は出願は、カラーで示された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を有するこの特許公報又は特許出願公開公報の複製は、要求及び必要な料金の支払に応じて特許庁によって提供されることになる。
【0033】
明細書に含まれかつその一部を構成する添付図面は、発明の種々の態様の種々の例のシステム、方法及び他の例示の実施形態を示す。本記載は、添付図面を考慮して読まれる以下の詳細な説明からより深く理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態による生理食塩水(対照)、トリムクリンT/KRRR突然変異体(RR)又はエプチフィバチド(Ept)(ダネット検定によって対照群と比較された平均±s.e.m、誤差バー、n=8、***P<0.001)で処置されたコラーゲン誘発による血小板凝集の生体内凝集反応を示す。
図1B図1Bは、本発明の一実施形態による生理食塩水(対照)、トリムクリンT/KRRR突然変異体(RR)又はエプチフィバチド(Ept)(ダネット検定によって対照群と比較された平均±s.e.m、誤差バー、n=8、***P<0.001)で処置されたコラーゲン誘発による血小板凝集の生体外凝集反応を示す。
図1C図1Cは、本発明の一実施形態による生理食塩水(対照)、トリムクリンT/KRRR突然変異体(RR)又はエプチフィバチド(Ept)(ダネット検定によって対照群と比較された平均±s.e.m、誤差バー、n=8、***P<0.001)で処置されたコラーゲン誘発による血小板凝集の生体外凝集反応を示す。
図1D図1Dは、本発明の一実施形態によるトリムクリンT/KRRR突然変異体(RR)のFeCl誘発による頸動脈血栓症を阻害する効果を示し、マウスのFeCl誘発による閉塞血栓症の標準的な動脈血流チャートが示される(ダネット検定によって対照群と比較された平均±s.e.m、誤差バー、n=8、***P<0.001)。
図1E図1Eは、本発明の一実施形態によるトリムクリンT/KRRR突然変異体(RR)のFeCl誘発による頸動脈血栓症を阻害する効果を示し、マウスのFeCl誘発による閉塞血栓症が示される(ダネット検定によって対照群と比較された平均±s.e.m、誤差バー、n=8、***P<0.001)。
図1F図1Fは、本発明の一実施形態によるFeCl処置された頸動脈の組織学的切片の写真である。
図1G図1Gは、本発明の一実施形態によるトリムクリンT/KRRR突然変異体(RR)又はエプチフィバチドのマウスの尾出血時間(tail bleeding time)に対する効果を示す。異なる符号の各々は、個々のマウスの出血時間を示す(ダネット検定によって対照群と比較された平均±s.e.m、誤差バー、n=8、***P<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
添付図面との関連で以下に与えられる詳細な説明は、本実施例の説明としてのものであり、本実施例が構成又は利用され得る形態のみを示すものではない。その説明は、実施例の機能及び実施例を構成して動作させるためのステップのシーケンスを説明する。ただし、同一又は同等の機能及びシーケンスが、異なる実施例によっても実現され得る。
【0036】
1.定義
便宜上、本開示の背景において採用される所定の用語をここにまとめる。ここで特に断りがない限り、ここで使用する技術的及び科学的用語の全ては、本発明が属する技術の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0037】
本開示を通じて、ペプチド内のいずれの指定アミノ酸基の位置も、ペプチドのN末端から開始してナンバリングされる。アミノ酸がD-又はL-アミノ酸のいずれとしても指定されない場合、文脈が特定の異性体を要しない限り、アミノ酸はL-アミノ酸であるか、又はD-若しくはL-アミノ酸のいずれかとなり得る。用語「D-アミノ酸」及び「L-アミノ酸」は、面偏波光の特定方向の回転ではなく、アミノ酸の絶対配置をいうものとして使用される。ここでの使用は、関連技術における当業者による標準的な使用に従う。アミノ酸は、例えば、Handbook On Industrial Property Information and Documentationにおける標準ST.25において指定されるような標準1文字コードを用いて指定される。
【0038】
ここに記載されるように、タンパク質/ペプチドのアミノ酸配列における軽微な変形は、アミノ酸配列におけるその変形がその生理活性に無関係であることを条件として、ここに開示され又は請求項に記載される発明の概念によって包含されているものとして考慮される。例えば、あるアミノ酸は、本研究におけるペプチドの生理活性(すなわち、血小板凝集からもたらされる疾患及び/又は状態を治療するその能力)に影響を与えることなく変化及び/又は欠失し得る。特に、保存アミノ酸置換が考慮される。保存的置換は、それらの側鎖において関連するアミノ酸のファミリー内で起こるものである。遺伝的にコードされたアミノ酸は、以下のファミリー:(1)酸性のもの=アスパラギン酸、グルタミン酸、(2)塩基性のもの=リジン、アルギニン、ヒスチジン、(3)無極性のもの=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、及び(4)非帯電極性のもの=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン、に大別される。より好ましいファミリーとして:セリン及びスレオニンが脂肪族ヒドロキシファミリーであり、アスパラギン及びグルタミンがアミド含有ファミリーであり、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンが脂肪族ファミリーであり、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが芳香族ファミリーである。例えば、ロイシンをイソロイシン又はバリンで置換すること、アスパラギン酸塩をグルタミン酸塩で置換すること、スレオニンをセリンで置換すること、又はアミノ酸を構造的に関連するアミノ酸に同様に置換することは、結果として得られる分子の結合又は特性に大きな影響がないと想定するのが合理的である。アミノ酸変化が機能性ペプチドをもたらすか否かは、ペプチド誘導体の特異的な活性をアッセイすることによって直ちに判定され得る。
【0039】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、天然に発生した非組換え細胞によって、遺伝子操作若しくは組換え細胞によって、又は化学合成によって生成されたタンパク質のことをいうのに互換可能に使用され得るものであり、天然配列の1以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を有する分子を備える。本開示の実施形態によると、ディスインテグリン変異体は、インテグリンαIIbβ3活性を阻害する変性トリムクリン及び変性ロドストミン又はそのフラグメントを包含するポリペプチド又はタンパク質である。
【0040】
用語「ディスインテグリン」はヘビ毒液から精製されたタンパク質のクラスをいい、それはその構造において少なくともリンカー領域、インテグリン結合ドメインのフレキシブルループの先端に位置するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)モチーフ、及びC末端を含有する。ヘビ毒液から精製された全てのディスインテグリンはαIIbβ3インテグリンなどのフィブリノゲン受容体に選択的に結合することができ、その結合はフィブリノゲンによる血小板凝集及びフィブリノゲン受容体によってもたらされる他の生物活性の阻害をもたらす。したがって、ディスインテグリンは、フィブリノゲンによる機能を遮断し、血小板凝集阻害物質として作用する。
【0041】
用語「ディスインテグリン変異体」は、ロドストミン(Rho)若しくはトリムクリン(TMV-7)のような野生型ディスインテグリンから変性又は突然変異したアミノ酸配列を備える機能的に活性なタンパク質若しくはポリペプチド又はその任意の誘導体のことである。本開示の実施形態によると、機能的に活性のディスインテグリン変異体は、インテグリンαIIbβ3活性に特異的に結合して阻害することができる。本開示のディスインテグリン変異体は、関連技術において公知の任意の方法、例えば、部位特異的な突然変異導入又はポリメラーゼ連鎖反応によって構成可能である。変異体は、対象ペプチドとの比較において挿入、追加、欠失又は置換したものを含み得る。ポリペプチド配列の変異体は、生物活性多型変異体を含む。
【0042】
本開示のある実施形態では、ディスインテグリン変異体は、天然に発生する変性トリムクリン(TMV-7)(又は野生型TMV-7)との比較においてアミノ酸の少なくとも1個の置換、挿入又は欠失を含むTMV-7タンパク質を備える。本開示の他の実施形態では、ディスインテグリン変異体は、天然に発生するロドストミン(Rho)(又は野生型Rho)との比較においてアミノ酸の少なくとも1個の置換、挿入又は欠失を含む変性Rhoタンパク質を備える。
【0043】
用語「リンカー領域」は、RGDループのN末端に直接配置されたディスインテグリンの領域のことである。例えば、TMV-7のリンカー領域は配列番号(SEQ ID No:)1のアミノ酸配列(41KKKRT)を備える一方、Rhoのリンカー領域は配列番号4のアミノ酸配列(39SRAGK)を備える。本開示の好適な実施形態によると、ディスインテグリン変異体は、配列番号1のアミノ酸配列(41KKKRT)の1~5位において少なくとも1つの突然変異を備える突然変異体のリンカー領域を備える。好ましくは、ディスインテグリン変異体は、配列番号7、8又は9からなる群から選択されたアミノ酸配列を備える突然変異体のリンカーを備える。あるいは、本開示のディスインテグリン変異体は、突然変異体のリンカーを有するのではなく、TMV-7又はRhoの天然に発生するリンカー領域を備える。
【0044】
用語「RGDループ」は、ディスインテグリンのRGDモチーフのことである。例えば、TMV-7のRGDループは配列番号2のアミノ酸配列(50ARGDNP)を備える一方、RhoのRGDループは配列番号5のアミノ酸配列(48PRGDMP)を備える。本開示のある実施形態によると、ディスインテグリン変異体はTMV-7の突然変異体のRGDループを備え、それは配列番号2のアミノ酸配列(50ARGDNP)の1~6位における少なくとも1つの突然変異を備え、より好ましくは、ディスインテグリン変異体は配列番号11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20からなる群から選択されたアミノ酸配列を備える。本開示の他の実施形態によると、ディスインテグリン変異体はRhoの突然変異体のRGDループを備え、それは配列番号5のアミノ酸配列(48PRGDMP)の1~6位における少なくとも1つの突然変異を備え、より好ましくは、ディスインテグリン変異体は配列番号24又は25のアミノ酸配列を備える。
【0045】
用語「C末端」は、ディスインテグリンのC末端のアミノ酸配列のことである。例えば、TMV-7のC末端は配列番号3のアミノ酸配列(67PRNGLYG)を備える一方、RhoのC末端は配列番号6のアミノ酸配列(65PRYH)を備える。本開示のある実施形態によると、ディスインテグリン変異体は、TMV-7の突然変異体のC末端を備え、それは配列番号3のアミノ酸配列(67PRNGLYG)の1~7位における少なくとも1つの突然変異を備え、より好ましくは、ディスインテグリン変異体は配列番号6、21、22及び23からなる群から選択されるアミノ酸配列を備える。あるいは、ディスインテグリン変異体は、突然変異体のC末端を有するのではなく、TMV-7(すなわち、配列番号3)又はRho(すなわち、配列番号6)の天然に発生するC末端を備える。
【0046】
本開示の好適な実施形態によると、本開示のディスインテグリン変異体は、突然変異体のRGDを備える。代替的又は選択的に、本ディスインテグリン変異体は、ディスインテグリンの突然変異体のリンカー及び突然変異体のC末端の少なくとも一方をさらに備える。
【0047】
用語「IC50」は、血小板凝集又は細胞接着活性のような生物学的プロセスを50%阻害するのに必要なディスインテグリン又はその変異体の濃度のことである。
【0048】
用語「治療/処置(treatment)」及び「治療する/処置する(treating)」は、ここでは互換可能に使用され、例えば、血小板凝集及び/又は血小板活性化を遅延又は阻害させる所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するものである。効果は、疾患若しくはその症状を完全に若しくは部分的に防止する観点では予防的であり、並びに/又は疾患及び/若しくはその疾患に起因する有害な影響の部分的若しくは完全な治癒の観点では治療的となり得る。ここで使用する「治療/処置(treatment)」は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の防止的(例えば、予防的)、治癒的又は一時的な緩和の処置を含み、(1)疾患に罹患しやすいが未だにそれを有しているものとは診断されていない個人において疾患又は状態(例えば、癌又は心臓疾患)が発生することの防止的(例えば、予防的)、治癒的又は一時的な緩和の処置、(2)疾患を(例えば、その進行を停止させることによって)阻害すること、又は(3)疾患を軽減すること(例えば、その疾患に関連する症状を軽減すること)を含む。
【0049】
用語「投与され」、「投与する」又は「投与」は、限定することなく、本発明の薬剤(例えば、化合物又は組成物)を静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、動脈内に、頭蓋内に、又は皮下に投与することを含む送達のモードをいうのにここでは互換可能に使用される。ある実施形態では、本開示のディスインテグリン変異体は、静脈内注入などの使用前に適切な担体(例えば、緩衝液)と混合される粉末に処方される。他の実施形態では、本開示のディスインテグリン変異体は、血管形成ステント(例えば、冠状管ステント又は脈管ステント)又は血管手術処理において使用されるステントグラフト上に直接塗布又はコーティングされる。
【0050】
ここで使用される用語「有効量」は、血小板凝集からもたらされる疾患の処置に関して所望の結果を達成するために必要な期間にわたる投与量での有効量のことである。例えば、血栓性障害の処置において、血栓性障害のいずれかの症状を減少させ、予防し、遅延させ、抑制し又は停止させる薬剤(すなわち、本ディスインテグリン変異体)が有効となる。薬剤の有効量は、疾患又は状態を治癒することは要件とされないが、疾患若しくは状態の発症が遅延、妨害若しくは予防され、又は疾患若しくは状態の症状が改善されるように、疾患又は状態に対する治療を与えることになる。具体的な有効又は充分な量は、処置されている特定の状態、患者の肉体的状態(例えば、患者の体重、年齢又は性別)、処置されている哺乳類又は動物の種類、治療の継続期間、(それがある場合には)同時に行われる処置の性質、並びに採用される具体的処方などといった要因とともに変化することになる。有効量は、例えば、活性薬剤の(例えば、グラム、ミリグラム又はマイクログラムを単位とする)合計質量又は体重に対する活性薬剤の質量比、例えばキログラムあたりのミリグラム(mg/kg)として表現され得る。有効量は、指定期間を通じて1回、2回又はそれ以上の回数で投与される適切な形態で1、2又はそれ以上の用量に分割され得る。
【0051】
用語「被検体」又は「患者」は、ここでは互換可能に使用され、本発明の化合物によって治療可能なヒト種を含む哺乳類を意味するものとする。用語「哺乳類」は、ヒト、霊長類、ウサギ、ブタ、ヒツジ及びウシのような飼育動物及び家畜、その他動物園、競技用又はペット用動物並びにマウス及びラットのような齧歯類を含む哺乳網の全てのメンバーのことである。また、用語「被検体」又は「患者」は、ある性別が具体的に示されない限り雄及び雌の両性別をいうものとする。したがって、用語「被検体」又は「患者」は、本開示の処置方法から利益を得ることができる任意の哺乳類からなる。「被検体」又は「患者」の例は、これに限定されないが、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及び家禽を含む。好適な実施形態では、被検体はヒトである。
【0052】
用語「薬学的に許容可能な」は、ヒトなどの被検体に投与された場合に有害な又は所望でない反応(例えば、毒性又はアレルギー反応)を生じさせない分子及び組成物のことである。
【0053】
用語「賦形剤」及び「担体」は、ここでは互換可能に使用されて、活性薬剤に対する媒介物/担体を形成する任意の不活性物質(粉末又は液体など)を意味する。賦形剤は、一般に、安全で非毒性であり、広義には、充填剤、希釈剤、凝着剤、結合剤、潤滑剤、滑剤、安定化剤、着色剤、湿潤剤、崩壊剤などのような薬学的組成物を調製するのに有用な製薬業において公知の任意の物質も含み得る。
【0054】
発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは概数であるものの、特定の実施例で説明される数値は可能な限り厳密に報告される。ただし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる所定の誤差を本来的に含む。また、ここで使用されるように、用語「約」は、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%内を一般に意味する。あるいは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合の平均の許容標準誤差内を意味する。有効な/効果的な実施例以外においても、明示の断りがない限り、ここに開示されるその材料の量、継続時間、温度、動作条件、量の比率などに対するものなどの数値範囲、量、値及び割合の全ては、いずれの場合においても用語「約」によって変更されるものとして理解されるべきである。したがって、逆のことが示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲で説明される数値パラメータは、所望のように変化し得る概数である。少なくとも、各数値パラメータは、報告される有効数字の数を考慮してかつ通常の四捨五入手段を適用して少なくとも解釈されるべきである。
【0055】
単数形「a」、「an」及び「the」は、そうでないことを文脈が明示しない限り、複数の参照を含むものとして使用される。
【0056】
2.好適な実施形態の詳細な説明
2.1 ディスインテグリン変異体
本開示は、TMV-7又はRhoに由来するディスインテグリン変異体が生理学的な止血に影響を与えることなく血小板凝集を抑制又は阻害し得るという予想外の発見に少なくともある程度基づく。したがって、本ディスインテグリン変異体は、血小板凝集によってもたらされる疾患、障害及び/又は状態を治療するための医薬品の開発に対する有望な候補である。
【0057】
ディスインテグリン変異体、それを備える薬学的組成物、血栓症を予防若しくは治療するための医薬品の調製、又はそれによって被検体若しくは患者においてもたらされる疾患について、以下に本発明の実施例を詳細に説明する。以下に説明するように、本研究の結果は、本ディスインテグリン変異体は出血時間に影響を与えることなく血小板の凝集又は活性化及び生体内の血栓形成を抑制し得ることを示す。
【0058】
したがって、本出願の第1の態様は、それぞれインテグリンαIIbβ3を標的とするロドストミン(Rho)及びトリムクリン(TMV-7)のようなヘビ毒液から単離されたディスインテグリンの変異体に向けられる。本ディスインテグリン変異体のインテグリンαIIbβ3への結合能力は、ディスインテグリンのリンカー領域、RGDループ及びC末端の1以上における少なくとも1つのアミノ酸基を突然変異させることによって有効化される。
【0059】
したがって、本開示のディスインテグリン変異体は、その構造において、TMV-7又はRhoに由来する少なくとも1つの突然変異体のRGDループを備える。例えば、本開示のディスインテグリン変異体は、TMV-7のRGDモチーフ(50ARGDNP、配列番号2)及びRhoのRGDモチーフ(48PRGDMP、配列番号5)のような天然に発生するRGDモチーフにおける少なくとも1つのアミノ酸が置換及び/又は欠失された突然変異体のRGDループを備え得る。そのような変異体の例は、これに限定されないが、配列番号10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、24及び25からなる群から選択されたアミノ酸配列を有する、ここに記載される突然変異体のRGDループを有するものを含む。
【0060】
追加的又は選択的に、本開示のディスインテグリン変異体は、ディスインテグリンの突然変異体のリンカー及び突然変異体のC末端の少なくとも一方をさらに備え得る。例えば、ディスインテグリン変異体は、上述の突然変異体のRGDループに加えて、TMV-7のリンカー領域(41KKKRT、配列番号1)及びRhoのリンカー領域(39SRAGK、配列番号4)のような天然に発生するリンカー領域における少なくとも1つのアミノ酸残基が置換及び/又は欠失された突然変異体のリンカーを備え得る。そのような変異体の例は、上述の突然変異体のRGDループを有するものに限定されず、配列番号7、8及び9からなる群から選択されたアミノ酸配列を有する突然変異体のリンカーを含む。
【0061】
他の例では、ディスインテグリン変異体は、上述の突然変異体のRGDループに加えて、TMV-7のC末端(67PRNGLYG、配列番号3)及びRhoのC末端(65PRYH、配列番号6)のような天然に発生するC末端における少なくとも1つのアミノ酸残基が置換及び/又は欠失された突然変異体のC末端をさらに備える。そのような変異体の例は、上述の突然変異体のRGDループを有するものに限定されず、配列番号21、22及び23からなる群から選択されたアミノ酸配列を有する突然変異体のC末端を含む。
【0062】
また、上述の変異体のいずれかにおいて、それは、突然変異体のRGDループに加えて、対象のディスインテグリンの天然に発生するリンカー領域(すなわち、配列番号1又は4)及び/又は天然に発生するC末端(すなわち、配列番号3又は6)を備え得る。
【0063】
ある実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号7の突然変異体のリンカー、配列番号13又は18の突然変異体のRGDループ、及び配列番号3、21又は22のC末端を備える。
【0064】
更なる実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号8の突然変異体のリンカー、配列番号14の突然変異体のRGDループ、及び配列番号21の突然変異体のC末端を備える。
【0065】
更なる実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号9の突然変異体のリンカー、配列番号14又は20の突然変異体のRGDループ、及び配列番号3、21又は22のいずれかのC末端を備える。
【0066】
更なる実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号4の突然変異体のリンカー、配列番号24又は25の突然変異体のRGDループ、及び配列番号6のC末端を備える。
【0067】
好適な実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号1の天然に発生するリンカー、配列番号10~20のアミノ酸配列を有する突然変異体のRGDループ、及び配列番号21、22又は23の突然変異体のC末端を備える。あるいは、これらの実施形態におけるディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号1の天然に発生するリンカー、配列番号10~20のアミノ酸配列を有する突然変異体のRGDループ、及び配列番号3の天然に発生するC末端を備える。好ましくは、ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号1の天然に発生するリンカー、配列番号14のアミノ酸配列を有する突然変異体のRGDループ、及び配列番号21の突然変異体のC末端を備える。
【0068】
他の実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、その構造において、配列番号4の天然に発生するリンカー、配列番号24又は25のアミノ酸配列を有する突然変異体のRGDループ、及び配列番号6の天然に発生するC末端を備える。
【0069】
本開示のディスインテグリン変異体は、関連技術において公知の任意の方法で生成され得る。例えば、それは、部位特異的な突然変異導入によって構築され得る。あるいは、それは、核酸構築物をホスト細胞(例えば、大腸菌)に導入し、発現に適した条件でホスト細胞を培養してから、発現したタンパク質を培養媒体から直接に又はホスト細胞から収穫することによるなどして、当技術で公知の任意のクローニング及び発現技術によって生成され得る。本ディスインテグリン変異体は、天然配列から置換及び/又は欠失される少なくとも1つのアミノ酸残基を有する変性ディスインテグリンをコードする変性ディスインテグリン核酸によってコードされ得る。ディスインテグリン変異体のコード配列は、ヘビ毒液からの対象のディスインテグリンのコード配列を変性することによって取得され得る。本開示の使用に適したディスインテグリンの例は、これに限定されないが、アルボラブリン(albolabrin)、アプラギン(applagin)、バシリシン(basilicin)、バトロキソスタチン(batroxostatin)、ビチスタチン(bitistatin)、セレベリン(cereberin)、セラスチン(cerastin)、クロタトロキシン(crotatroxin)、ズリシン(durissin)、エレガンチン(elegantin)、エリスチコピン(eristicophin)、フラボリジン(flavoridin)、フラボスタチン(flavostatin)、ハリシン(halysin)、ハリスタチン(halystatin)、ジャララシン(jararacin)、ジャラスタチン(jarastatin)、キストリン(kistrin)、ラチェシン(lachesin)、ルトシン(lutosin)、モロシン(molossin)、ロドストミン(rhodostomin)、サルモシン(salmosin)、サキサチリン(saxatilin)、テルゲミニン(tergeminin)、トリメスタチン(trimestatin)、トリムクリン(trimucrin)、トリムターゼ(trimutase)、ウスリスタチン(ussuristatin)及びビリジアン(viridian)を含む。ある好適な実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、トリムクリン(TMV-7)変異体である。他の実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、ロドストミン(Rho)変異体である。
【0070】
あるいは、ディスインテグリン変異体は、ペプチドシンセサイザーの使用又は固相合成法によるなどして当技術において公知の技術を用いて化学的に合成され得る。
【0071】
本開示のディスインテグリン変異体は、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィーなどのような方法によって組換え細胞培養物から回収又は精製され得る。ある実施形態では、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が、精製のために採用される。
【0072】
ディスインテグリン変異体は、親水性ポリマーと結合することによってさらに変性されて溶解性又は循環半減期を増加し得る。本ディスインテグリンと結合するのに適した親水性ポリマーの例は、これに限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリビニルアルコールなどのポリアルキルエーテル、デキストラン及びその誘導体などのセルロース及びその誘導体を含む。好ましくは、本ディスインテグリン変異体は、ディスインテグリン変異体のN末端に結合されたエチレングリコール(EG)ユニットの2~20個の繰り返し体を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖をさらに備える。
【0073】
2.2 薬学的組成物
本開示の他の態様は、上記のいずれかのディスインテグリン変異体の有効量及び薬学的に許容可能な担体からなる薬学的組成物に関する。
【0074】
一般に、本ディスインテグリン変異体は、薬学的組成物の総重量を基準として、約0.01重量%~99.9重量%のレベルで薬学的組成物に存在する。ある実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、薬学的組成物の総重量を基準として、少なくとも0.1重量%のレベルで存在する。ある実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、薬学的組成物の総重量を基準として、少なくとも5重量%のレベルで存在する。さらに他の実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、薬学的組成物の総重量を基準として、少なくとも10重量%のレベルで存在する。またさらに他の実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、薬学的組成物の総重量を基準として、少なくとも25重量%のレベルで存在する。
【0075】
ある実施形態では、本発明の薬学的組成物は、血小板凝集によってもたらされる疾患、障害及び/又は状態の症状を軽減又は改善することが知られる薬剤(例えば、抗凝血剤)をさらに含む。そのような薬剤の例は、糖タンパク質IIb/IIIa拮抗剤、ヘパリン、組織プラスミノーゲン活性剤、第Xa因子阻害剤、血栓阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、シクロオキシゲナーゼ阻害剤などを含み、これに限定されない。本方法において使用され得る抗凝血剤の適切な例は、アブシキシマブ(abciximab)、アピキサバン(apixaban)、アスピリン(aspirin)、クロピドグレル(clopidogrel)、ジピリダモール(dipyridamole)、エドキサバン(edoxaban)、エプチフィバチド(eptifibatide)、リバーロキサバン(rivaroxaban)、チロフィバン(tirofiban)、チクロピジン(ticlopidine)、ワルファリン(warfarin)及びビタミンKを含み、これに限定されない。
【0076】
薬学的に許容可能な賦形剤又は担体は、処方において他の成分と相溶性であり、生理学的に許容可能なものである。
【0077】
薬学的組成物は、投与の意図する経路に応じて異なるタイプの賦形剤又は担体を備え得る。本組成物は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病変内に、頭蓋内に、鼻腔内に、胸膜内に、気管内に、直腸内に、局所的に、筋肉内に、皮下に、小胞内に、心膜内に、眼内に、口内に、局所的に、局部的に、注入によって、吸入によって、点滴によって、局所潅流によって、粉末、クリーム、液体、エアロゾルなどのような任意の適切な形態で投与され得る。
【0078】
医薬品又は薬学的組成物の実際の投与量は被検体の肉体的及び生理学的因子に基づいて主治医によって決定され得るものであり、その因子は、これに限定されないが、年齢、性別、体重、治療される疾患、状態の深刻度、既往歴、他の医薬品の存在、投与の経路などを含む。本開示の非限定的実施例によると、各投与量によって、投与につき体重1Kgあたり0.01~100mgの本ディスインテグリン変異体が生じる。好ましくは、各投与量によって、投与につき体重1Kgあたり0.1~50mgの本ディスインテグリン変異体が生じる。
【0079】
本ディスインテグリン変異体を含有する薬学的組成物は、例えば、タブレット、甘味入りの錠剤、水性若しくは油性の懸濁液、分散性粉末若しくは顆粒、乳濁液、硬質若しくは軟質カプセル、又はシロップ若しくはエリキシル剤として、経口用に適した形態であり得る。経口用の組成物は、薬学的に洗練されて味の良い調製を与えるために、甘味料、香料、着色料及び防腐剤からなる群から選択される1以上の薬剤を含有し得る。タブレットは、タブレットの製造に適した非毒性の薬学的に許容可能な賦形剤との混合において本ディスインテグリン変異体を含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤、顆粒化及び崩壊剤、例えば、コーンスターチ又はアルギン酸、結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン又はアカシア及び潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであり得る。
【0080】
タブレットは無コーティングであってもよいし、消化管における消化及び吸収を遅らせる公知の技術によってコーティングされることによってより長い期間にわたる持続作用を与えるようにしてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリン又はジステアリン酸グリセリルのような時間遅延材料が採用され得る。それらは、制御された放出のために浸透性治療錠剤を形成するようにコーティングされてもよい。
【0081】
経口用の処方は、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合された硬質のゼラチンカプセルとして与えられてもよいし、活性成分がプロピレングリコール、PEG及びエタノール、又は油性媒体、例えば、ピーナッツオイル若しくはオリーブオイルのような水混和性溶媒と混合された軟質のゼラチンカプセルとして与えられてもよい。
【0082】
例えば、タブレット又はカプセルのような固体経口組成物は、1~99%(w/w)の本ディスインテグリン変異体、0~99%(w/w)の希釈剤又は充填剤、0~20%(w/w)の崩壊剤、0~5%(w/w)の潤滑剤、0~5%(w/w)の流動化剤、0~50%(w/w)の顆粒化剤又は結合剤、0~5%(w/w)の抗酸化剤、及び0~5%(w/w)の顔料を含有し得る。放出制御錠剤は、さらに、0~90%(w/w)の放出制御ポリマーを含有してもよい。
【0083】
本ディスインテグリン変異体が静脈内、皮膚又は皮下注入によって投与されるように処方される場合、ポリペプチドはパイロジェンフリーな、非経口的に許容可能な水溶液の形態となる。pH、等張性、安定性などを有するそのような非経口的に許容可能なポリペプチド溶液の調製は、当技術内のものである。静脈内、皮膚、皮下注入のための好適な薬学的組成物は、本ディスインテグリン変異体に加えて、塩化ナトリウム液、リンゲル液、デキストロース液、デキストロース及び塩化ナトリウム液、乳酸リンゲル液、又は当技術で公知の他の媒体などの等張性ビヒクルを含有すべきである。発明の薬学的組成物は、安定化剤、防腐剤、緩衝剤、抗酸化剤、又は当業者に公知の他の添加物を含有してもよい。発明の薬学的組成物を用いる静脈内治療の継続期間は、治療されている疾患の深刻度、並びに各個々の被検体の状態及び潜在的な特異的な反応に応じて変わることになる。本ディスインテグリン変異体の各適用の継続期間は連続静脈内投与の12~24時間の範囲となることが考慮される。最終的には、主治医が、静脈内治療の適切な継続期間を決定することになる。
【0084】
非経口処方は、1~50%(w/w)の本ディスインテグリン変異体、50%(w/w)~99%(w/w)の液体又は半固体の担体又はビヒクル(例えば、水などの溶媒)並びに緩衝剤、抗酸化剤、懸濁安定化剤、等張性調整剤及び防腐剤のような1以上の他の賦形剤を含有し得る。
【0085】
本ディスインテグリン変異体はまた、局所的、組織的又は局部的に投与するのに適した生理学的に許容可能な形態に処方され得る。例えば、本ディスインテグリンは、インプラント又はデバイスの表面に塗布され得る。また、組成物は、望ましくは、部位組織の損傷への送達のための粘稠性形態でカプセル化又は注入され得る。追加の有用な薬剤が、上述のように組成物に選択的に含まれてもよいし、発明の薬学的組成物とともに同時又は順次に投与されてもよい。
【0086】
本ディスインテグリン変異体は、薬剤の直腸投与のための坐薬の形態で投与されてもよい。これらの組成物は、環境温度では固体であるが直腸温度では液体であることにより直腸において溶解して薬剤を放出する適切な非刺激性の賦形剤に薬剤を混合することによって調製され得る。そのような材料は、ココアバター及びポリエチレングリコールである。
【0087】
局所的な使用について、本ディスインテグリン変異体を含有するクリーム、軟膏、ジェル、溶液又は懸濁物などが採用される。(本出願の目的のため、局所塗布はうがい薬及び含嗽剤を含むべきである。)局所用処方は、一般に、薬学的担体、溶剤、乳化剤、浸透促進剤、防腐システム及び皮膚軟化剤で構成され得る。
【0088】
2.3 使用方法
本発明はまた、血小板凝集によってもたらされる疾患、障害及び/若しくは状態を有する又は患う被検体を治療する方法を提供することを目的とする。方法は、血小板凝集によってもたらされる疾患、障害及び/又は状態に関連する症状を軽減又は改善するように、有効量の本ディスインテグリン変異体を含有する上述の薬学的組成物を、それを必要とする被検体に投与するステップを備える。
【0089】
ある実施形態では、本ディスインテグリン変異体は、インテグリンαIIbβ3の活性化を阻害することによって血小板凝集を抑制し得る。インテグリンαIIbβ3の活性化は、これに限定されないが、アテローム血栓症、深部静脈血栓症、心筋梗塞、肺血栓塞栓症、末梢動脈閉塞、脳卒中、不安定狭心症及び他の血液系血栓症を含む、特に急性血管疾患を患う被検体において、血小板の凝集をもたらす。
【0090】
他の実施形態では、本薬学的組成物は、血管手術(例えば、血管形成術又はステント留置術)に伴って血小板が凝集することを予防するなど、所定の医療手順における望まれない血小板凝集を予防又は阻害し得る。
【0091】
本開示のある実施形態によると、本薬学的組成物は、0.01~100mg/Kgの量で、好ましくは0.1~50mg/Kgの量で、本ディスインテグリン変異体を生じるように、静脈内に、皮下に又は経口で被検体に投与される。
【0092】
他の実施形態によると、本ディスインテグリン変異体を備える本薬学的組成物がインプラント可能なデバイス(例えば、ステント又は管)の表面にコーティングされ、その後にそれは再狭窄を予防して血管又は内腔壁に支持又は補強を与える目的のため、血管、尿路又は他のアクセスが困難な場所に挿入される。この点、本薬学的組成物は、好ましくは、そこに均質に分散された本ディスインテグリン変異体を有する溶液又は懸濁物の形態となる。コーティングは、好ましくは、比較的速いシーケンスで順次塗布される複数の比較的薄い層として塗布され、好ましくは、放射状に拡がった状態でステントとともに塗布される。コーティングは、所望の粘性を生じさせて迅速にコーティング層厚を確保するように、比較的高い蒸気圧の蒸発溶液材料を用いて浸漬又は噴霧することによって塗布され得る。コーティング処理は、本ディスインテグリン変異体をステント又はカテーテルの開放構造の表面全体に粘着的に適合させてそれを被覆することを可能とする。
【0093】
選択的な実施形態によると、本ディスインテグリン変異体は、血小板の活性化又は凝集によってもたらされる疾患、障害及び/又は状態を治療する他の抗凝血剤と接合して使用され得る。本ディスインテグリン変異体との使用に適した抗凝血剤又は血小板阻害剤は、例えば、糖タンパク質IIb/IIIa拮抗剤、ヘパリン、組織プラスミノーゲン活性剤、第Xa因子阻害剤、血栓阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、シクロオキシゲナーゼ阻害剤などである。本方法において使用され得る抗凝血剤の適切な例は、アブシキシマブ(abciximab)、アピキサバン(apixaban)、アスピリン(aspirin)、クロピドグレル(clopidogrel)、ジピリダモール(dipyridamole)、エドキサバン(edoxaban)、エプチフィバチド(eptifibatide)、リバーロキサバン(rivaroxaban)、チロフィバン(tirofiban)、チクロピジン(ticlopidine)、ワルファリン(warfarin)及びビタミンKを含み、これに限定されない。
【0094】
以下の実施例は、本発明の所定の態様を説明して本発明の実施の際に当業者を補助するために提供される。これらの実施例は、いかなる態様においても発明の範囲を限定するものとしてみなされるべきではない。更なる詳述なしに、当業者であれば、ここでの説明に基づいて、本発明をその最大の範囲で利用することができるはずである。
【実施例
【0095】
材料及び方法
ディスインテグリン及びその変異体の発現及び精製
P.パストリス(P.pastoris)におけるディスインテグリン(すなわち、トリムクリン(TMV-7)及びロドストミン)及びその変異体の発現が、前述したプロトコルに従って達成された(Guo他、Proteins.2001 43(4)、499-508;Shiu他、Plos One.2012 7(1):e28833)。
【0096】
発現キット及び酵母トランスファーベクターpPICZαAをインビトロジェン社から購入した。オーバーラップエクステンションPCRを用いて突然変異を生成するのに野生型構築物を用いた。構築物を、インビトロジェン社からのPichiaEasyCompキットを用いてピキア菌株X33に形質導入した。
【0097】
トリムクリン、ロドストミン及びそれらの変異体を、前述したプロトコルに従って生成した(Guo他、Proteins.2001 43(4)、499-508;Shiu他、Plos One.2012 7(1):e28833)。組換えタンパク質を、以下のように生成した:100μLの細胞ストックを、100μg/mLのゼオシンを含有する100mLの酵母ニトロゲンベース(YNB)培地(1%酵母抽出物、2%ペプトン及び2%デキストロース)において30℃で48時間成長させた。そして、細胞を、900mLのYNB培地に移した。さらに48時間後に、細胞を遠心分離によって収集し、1Lの最小メタノール培地(アミノ酸不含の硫酸アンモニウム1.34%YNB及び4×10-5%ビオチン)において成長させた。タンパク質発現を誘発するようにメタノール(1%w/v)を12時間毎に2日間添加した。
【0098】
上清を遠心分離によって収集し、10LのHOに対して2回及び5Lの結合緩衝液(50mMのpH8.0のTris-HCI緩衝液)に対して1回透析した。透析された溶液を、CaptoMMCカラムに充填し、500mMのNaClを含有する溶出緩衝液を用いてタンパク質を溶出させた。そして、タンパク質を、アセトニトリルの20~30%の勾配でC18逆相HPLCを用いて精製した。組換えタンパク質は、トリシンSDS-PAGEを用いて測定すると95%超の純度であった。
【0099】
細胞接着(Cell adhesion)アッセイ
細胞接着アッセイが、Rho、TMV及びそれらの変異体の阻害活性を測定するのに使用され、前述のプロトコルに従って行われた。96ウェルのマイクロタイタープレート(Costar、Corning)を、200μg/mLのフィブリノゲン又は50μg/mLのフィブロネクチンを含有する100μLのPBS緩衝液でコーティングし、一晩4℃でインキュベートした。非特異的タンパク質結合部位を、200μLの熱変性された1%のウシ血清アルブミン(BSA)(Calbiochem)を有する各ウェルを室温で1.5時間にわたってインキュベートすることによってブロックした。熱変性されたBSAを廃棄し、各ウェルを200μLのPBSで2回洗浄した。
【0100】
インテグリンαvβ3(CHO-αvβ3)及びαIIbβ3(CHO-αIIbβ3)を発現したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が、Y.Takada博士(Scripps Research Institute)の好意によって提供され、ダルベッコ変法イーグル培地(18、27)において保存された。ヒト赤白血病K562細胞をATCCから購入し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するRoswell Park Memorial Institute(RPMI)-1640培地において培養した。収穫したK562細胞を、5%FBSを含有するRPMI-1640培地において再懸濁した。CHO及びK562細胞を、それぞれ3×10及び2.5×10個の細胞/mLにそれぞれ希釈し、100μLの細胞をアッセイのために用いた。
【0101】
CHO-αIIbβ3細胞のフィブリノゲンへの接着、CHO-αvβ3のフィブリノゲンへの接着、及びK562細胞のフィブロネクチンへの接着を用いて、インテグリンαIIbβ3、αvβ3及びα5β1に対してテストしたタンパク質の阻害活性を測定した。阻害剤として用いたRho突然変異体(0.001~500μM)を細胞に添加し、5%CO雰囲気において37℃で15分間インキュベートした。そして、処置された細胞を、コーティングされたプレートに添加し、37℃(5%CO)で1時間反応させた。そして、反応液を廃棄し、非接着細胞を、それらを200μLのPBSで2回洗浄することによって除去した。ウェルを100μLの10%ホルマリンで10分間定着させてから乾燥した。50μLの0.05%クリスタルバイオレットの溶液を室温で20分間ウェルに添加した。そして、各ウェルを200μLの蒸留水で4回洗浄し、乾燥した。そして、着色液(150μLの50%アルコール及び0.1%酢酸)を添加した。結果として得られる吸光度を600nmで読み取り、読取り値を接着細胞数と相関付けた。阻害率(Inhibition)を、以下の式を用いて定義した:%阻害率=100-{OD600(Rho及びTMVタンパク質処置済み試料)/OD600(未処置試料)}}×100。報告された半数阻害計算(IC50)値は、少なくとも3つの独立した実験の平均値を表す。
【0102】
ヒト血小板懸濁液(PS)の調製
調査前に2週間にわたっていずれの医薬品も服用していない健常な志願者から採血した。インフォームドコンセントは各全ての参加者から得られ、調査は国立台湾大学付属病院の施設内審査委員会によって承認された。ヒトPSの調製を、前述の手順に従って実行した(Huang他、Experimental haemtology.2008 36(12)、1704-1713)。
【0103】
安全性指標の計算
「安全性指標」は、AP2の存在下で血小板活性化を誘発する際のディスインテグリンの濃度、αIIbβ3に対して作られた阻害剤mAb、及びコラーゲン誘発による血小板凝集についてのIC50の間の比率として定義される。
【0104】
安全性指標=(4μg/mlのAP2と混合する)血小板を活性化するディスインテグリンの最小濃度/コラーゲン誘発による血小板凝集についてのディスインテグリンのIC50
【0105】
動物
体重20~30gの雄ICRマウスを全ての調査において使用した。動物は、管理された温度(20±1℃)及び湿度(55%±5%)の下で食料及び水に随時アクセスできるようにした。動物実験プロトコルは、国立台湾大学医学部の実験動物委員会(Laboratory Animal Use Committee)によって承認された。
【0106】
FeCl誘発による動脈血栓症モデル
雄ICRマウスを腹腔内注入によってペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔した後、右総頸動脈上を直接メスによって切開し、2mmの切片の頸動脈を露出させた。小型ドップラーフロープローブを動脈の周囲に載置して血流をモニタリングした。マウスにRR(0.125又は0.25mg/kg)を静脈内投与した。5分後、FeCl損傷を、塩化第二鉄溶液(7.5%)で飽和させたろ紙によって誘発した。3分の曝露後、ろ紙を除去し、血栓閉塞症が形成されるまで又は80分間にわたって頸動脈の血流を連続的にモニタリングした。
【0107】
尾出血時間
雄ICRマウスに、マウスの側尾静脈を介して薬剤を静脈内注入した。注入5分後に、末端尾から2mmの断片の鋭利な切断を行った。切断された尾を、37℃の等張生理食塩水で満たされた管に即座に挿入した。出血時間を最大10分間記録し、終了時点を出血の停止とした。
【0108】
統計的解析
結果を平均±SEMとして表現した。統計的解析を一元配置分散分析(ANOVA)及びニューマン-コイルス多重比較検定によって行った。0.05未満のP値(P<0.05)を顕著な差異としてみなした。
【実施例1】
【0109】
実施例1 ディスインテグリン及びその変異体のクローニング及び単離
この実施例では、トリムクリン及びロドストミン並びにそのそれぞれ突然変異体を、「材料及び方法」の章で説明した手順に従ってクローニング及び単離した。各突然変異体は、天然タンパク質(すなわち、トリムクリン(TMV-7)又はロドストミン)のリンカー領域、RGD領域又はC末端において少なくとも1つの突然変異したアミノ酸残基を含有していた。各変異体の突然変異した配列を表1及び2にまとめる。
【0110】
表1 リンカー領域(Linker region)、RGD領域(RGB region)及びC末端領域(C-terminus)におけるトリムクリン(trimucrin)及びその突然変異体のそれぞれのアミノ酸配列(amino acid sequences)
【表1A】
【表1B】

太字は、天然トリムクリンの対応するアミノ酸残基から突然変異した又は異なるアミノ酸残基を示す。
【0111】
表2 リンカー領域(Linker region)、RGD領域(RGB region)及びC末端領域(C-terminus)におけるロドストミン(rhodostomin)及びその突然変異体のそれぞれのアミノ酸配列(amino acid sequences)
【表2】
太字は、天然ロドストミンの対応するアミノ酸残基から突然変異した又は異なるアミノ酸残基を示す。
【実施例2】
【0112】
実施例2 実施例1のディスインテグリン及び/又はその変異体による血小板凝集の阻害
αIIbβ3によってもたらされる血小板凝集(Platelet aggregation)を抑制する際のそれらの能力について、実施例1のディスインテグリン(Disintegrin)及びその変異体をテストした。簡単に説明すると、健常なドナーから静脈血試料を採取し、そこから血小板が豊富な血漿を調製した。そして、血小板が豊富な血漿を、プラグ形成をトリガした刺激物(例えば、コラーゲン(Collagen)又はAP2)とともにインキュベートし、その後に実施例1のディスインテグリン及び/又はその変異体とともにインキュベートした。結果を表3にまとめる。
【0113】
表3のデータが示すように、天然のC末端(C-tuminus)配列(67PRNGLYG)が67PRNRLYGに変化し、天然のRGDループ配列(50ARGDNP)が50AKGDWP(T/KW)、50AKGDYP(T/KY)、50AKGDHP(T/KH)及び50AKGDRPにそれぞれ変化したトリムクリン変異体について、これらの変異体の安全性指標値(Safety index)の増加を観察し(各変異体についての安全性指標はそれぞれ8、9、12及び26であった)、一方、RGDループ配列(50ARGDNP)が50AKGDRRに変化した場合には、安全性指標が1300超まで劇的に増加し、突然変異体のT/KRRR(すなわち、41KKKRT-50AKGDRR-67PRNRLYG)が抗凝血剤としての今後の開発に対して良好な候補となるであろうことを示唆した。
【0114】
さらに、データはまた、天然のC末端配列(67PRNGLYG)が67PRNRLYGに変化したトリムクリン変異体について、天然のリンカー領域配列(41KKKRT)が41IEEGT(T/IEEGR)に変化し、安全性指標及び抗血小板凝集活性の双方での減少が見られ、リンカー領域は、その抗血小板凝集活性に対して変化させないままとする必要があることを示唆することを示した。
【0115】
表3 実施例1のディスインテグリン及びその変異体の抗血小板機能
【表3A】
【0116】
表3(続き)
【表3B】

太字は、天然タンパク質の対応するアミノ酸残基から突然変異した又は異なるアミノ酸残基を示す。「-」は、未測定を表す。
【実施例3】
【0117】
実施例3 血小板凝集及び血栓形成に対するトリムクリンT/KRRR突然変異体及びエプチフィバチド(eptifibatide)の効果
実施例1から同定されるトリムクリンT/KRRR突然変異体の抗血小板機能を、実験動物の微小血管におけるコラーゲン誘発による凝集反応、尾出血時間(Tail bleeding time)及び血栓の形成を計測することによって調査した。結果を図1に示す。
【0118】
コラーゲン誘発による血小板凝集に対する(図1においてRRとして示す)トリムクリンT/KRRR突然変異体の効果を、他の公知の抗血小板剤-エプチフィバチド、南東部ピグミーガラガラヘビの毒液にみられるタンパク質に由来する環状ヘプタペプチドのものと比較した。コラーゲン誘発による血小板凝集反応は、T/KRRR突然変異体によって、同様にエプチフィバチドによって大幅に抑制され(図1B及びC)、その抑制は投与量に依存し、その際、T/KRRR突然変異体及びエプチフィバチドのIC50値はそれぞれ0.25μg/mL及び0.75μg/mLであった(図1A)。
【0119】
FeCl誘発による血栓形成に対するT/KRRR突然変異体の効果も、頸動脈(Carotid Artery)での閉塞時間(Occlusion time)の計測によって調査した。図1D~Fに示すように、動脈閉塞は、FeCl損傷後10分以内に未処置の動物において発生した。これに対して、T/KRRR突然変異体(0.125及び0.25mg/Kg)は、FeCl損傷後80分にわたって閉塞血栓症を防止し、血栓形成後に血流(Blood Flow)を回復さえさせた。T/KRRR突然変異体によって処置された動物の血管腔内に形成された血栓のサイズは、未処置の動物においてみられるものよりも非常に小さかった(図1F)。
【0120】
出血テストでは、エプチフィバチド(0.18mg/Kg)は出血時間を大幅に長引かせるが、0.125mg/Kgの濃度又はさらに高い濃度(すなわち、2.5mg/Kg)において静脈内投与されたT/KRRR突然変異体は出血時間を長引かせなかった。結果は、T/KRRR突然変異体は血小板凝集及び血栓形成を効果的に抑制し得る上に出血時間に影響しないことを示した。
【0121】
実施形態の上記説明は例示のみのために与えられること及び種々の変形が当業者によってなされ得ることが理解されるはずである。上記仕様、実施例及びデータは、発明の例示的実施形態の構造及び使用の完全な説明を与える。発明の種々の実施形態がある程度の特殊性で又は1以上の個別の実施形態を参照して上述されたが、当業者であれば、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく開示の実施形態に対して多数の変更を行うことができるはずである。
【実施例4】
【0122】
実施例4 インテグリンαIIbβ3、αvβ3及びα5β1の阻害
この実施例では、それらのリガンドに対するインテグリンαIIbβ3、αvβ3及びα5β1を抑制する際のRho、TMV-7及びそれらの突然変異体のそれぞれの能力を測定した。結果を表4にまとめる。
【0123】
表4のデータが示すように、Rho及びそのR/KWN突然変異体(48ARGDWN-65PRYH)は、それぞれ52.2±8.2及び162.8±7.2nMのIC50値の固定化されたフィブリノゲンに対する、インテグリンαIIbβを発現させたCHO細胞の接着を阻害した。これに対して、Rho及びその48ARGDWN-65PRYH変異体は、それぞれ13.0±5.7及び246.6±66.8nMのIC50値の固定化されたフィブリノゲンに対する、インテグリンαvβ3を発現させたCHO細胞の接着を阻害した。Rho及びそのR/KWN突然変異体(48ARGDWN-65PRYH)は、それぞれ256.8±87.5及び8732.2±481.8nMのIC50値の固定化されたフィブロネクチンに対するインテグリンα5β1の接着を阻害した。インテグリンαIIbβ、αvβ3及びα5β1を阻害する際のそれらの相違は、3.1倍、19.0倍及び34.0倍であった。これらの結果は、48ARGDWN配列を含有するRhoは、インテグリンαIIbβ3との結合に対する選択性を呈したことを示した。トリムクリン突然変異体-T/KRRR突然変異体(50AKGDRR-67PRNRLYG)は、それらのリガンドに対して細胞発現インテグリンαIIbβ3、αvβ3及びα5β1を阻害する際の低い活性を呈した。これに対して、それは血小板凝集を阻害する際の高い活性を有する。
【0124】
表4 Rho、その48ARGDWN突然変異体及びトリムクリンT/KRRR突然変異体によるインテグリンαIIbβ3、αvβ3及びα5β1の阻害
【表4】
【0125】
実施形態の上記説明は例示のみのために与えられること及び種々の変形が当業者によってなされ得ることが理解されるはずである。上記仕様、実施例及びデータは、発明の例示的実施形態の構造及び使用の完全な説明を与える。発明の種々の実施形態がある程度の特殊性で又は1以上の個別の実施形態を参照して上述されたが、当業者であれば、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく開示の実施形態に対して多数の変更を行うことができるはずである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
【配列表】
0007016945000001.app