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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】位相差フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220131BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220131BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220131BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20220131BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20220131BHJP
   B29C 55/04 20060101ALI20220131BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220131BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/14 A
H05B33/02
H01L27/32
G02F1/13363
B29C55/04
B32B27/36
G09F9/00 313
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021042964
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2021-03-16
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(72)【発明者】
【氏名】菅 将吾
(72)【発明者】
【氏名】大田 善也
(72)【発明者】
【氏名】沖見 克英
(72)【発明者】
【氏名】須田 康裕
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/213470(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/058396(WO,A1)
【文献】特開2016-191900(JP,A)
【文献】特開2018-151627(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044214(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/151264(WO,A1)
【文献】特開2015-25111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H01L 51/50
H05B 33/02
H01L 27/32
G02F 1/13363
B29C 55/04
B32B 27/36
G09F 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一層あるいは多層からなり、
それらの少なくとも一つの層にアリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する組成物を含み、
前記ポリエステル樹脂を含む前記層の面内方向の位相差Ro(450)と、Ro(550)との関係が、Ro(450)/Ro(550)≧1.22である、
延伸位相差フィルム。
【請求項2】
前記組成物が、負の固有複屈折を示す、
請求項1に記載の延伸位相差フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と、下記一般式(2)で表されるジオール成分(A)、下記一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び下記一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を単量体として含み、
少なくとも下記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分の一部又は全部においてkが1以上であるポリエステル樹脂を含有する、
請求項1又は2に記載の延伸位相差フィルム。
【化1】
(式中、R1a及びR1bは、各々独立して、フェニル基又はナフチル基を示し、kは、各々独立して、0~4の整数を示し、X1は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化2】
(式中、Zは、各々独立して、フェニレン基又はナフチレン基を示し、R2a及びR2bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、pは、各々独立して、0~4の整数を示し、R3は、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を示し、qは、各々独立して、0~2の整数を示し、R4は、各々独立して、C2-6アルキレン基を示し、rは、各々独立して、1以上の整数を示す。)
【化3】
(式中、R5a及びR5bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、mは、各々独立して、0~4の整数を示し、X2は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化4】
(式中、X3は、C2-8アルキレン基を示す。)
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂が、前記一般式(1)においてR1a及びR1bが2-ナフチル基であり、kが1であり、X1がエチレン基であるジカルボン酸成分と、前記一般式(2)においてZがフェニレン基であり、p及びqが0であり、R4がエチレン基であり、rが1であるジオール成分(A)、及び、前記一般式(4)においてX3がエチレン基であるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を単量体として含むポリエステル樹脂を含む、
請求項3に記載の延伸位相差フィルム。
【請求項5】
前記延伸位相差フィルムが、前記ポリエステル樹脂を含む層と、正の固有複屈折を持つ樹脂層と、を含む多層フィルムである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の延伸位相差フィルム。
【請求項6】
前記正の固有複屈折を持つ樹脂層が、ポリアミド系樹脂を含む、
請求項5に記載の延伸位相差フィルム。
【請求項7】
前記延伸位相差フィルムが1/4λ延伸位相差フィルムである、
請求項5又は6に記載の延伸位相差フィルム。
【請求項8】
前記延伸位相差フィルムの面内であって最大の屈折率を示す方向をX軸と定義し、前記延伸位相差フィルムの面内であって前記X軸と直交する方向をY軸と定義し、前記延伸位相差フィルムの厚み方向をZ軸と定義した場合に、
前記X軸の屈折率(nx)、前記Y軸の屈折率(ny)及び前記Z軸の屈折率(nz)が、下記式(5)~(7)で表されるいずれかの関係を満たす、
請求項1~7のいずれか一項に記載の延伸位相差フィルム。
nx=nz>ny (5)
nz>nx>ny (6)
nx=ny<nz (7)
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の延伸位相差フィルムの製造方法であって、
アリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する組成物を含む、一層あるいは多層からなるフィルムを、幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する延伸工程を有する、
延伸位相差フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の延伸位相差フィルムを含む、
偏光板。
【請求項11】
前記延伸位相差フィルムの視認側に、1/4λ延伸位相差フィルムをさらに含む、
請求項10に記載の偏光板。
【請求項12】
請求項11に記載の偏光板を備える、
画像表示装置。
【請求項13】
請求項12に記載の画像表示装置を備える、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の固有複屈折を示し、位相差発現性が大きく、塗工性に優れるために、薄膜のネガティブAプレート、ポジティブBプレート、ポジティブCプレートとして1/2λ板、1/4λ位相差フィルム、視野角補償フィルム、反射防止フィルム等に好適に利用することが可能な位相差フィルム、並びにそれを用いた偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置には、視野角によるコントラスト低下や色変化を防ぐ光学補償をするために、位相差フィルムが利用されている。また、有機EL表示装置には、LCDの表示装置とは異なり、外光の反射によるコントラストの低下を抑制するために、位相差フィルムが利用されている。位相差フィルムは、これらの表示装置の用途に応じて、3次元屈折率を最適に設計する必要があることから、正の固有複屈折を有する材料と負の固有複屈折を有する材料が組み合わされて用いられている。
【0003】
正の固有複屈折を有する材料は、一般的に広く材料の選択性があるところ、主にトリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィンなどの材料が用いられる。
【0004】
一方、負の固有複屈折を有する材料は、そもそも選択できる材料が少ない中、ポリメチルメタクリレート系高分子、ポリスチレン系高分子などが知られている(特許文献1、2)。しかしながら、それらの高分子は、いずれも耐熱性が十分ではなく、脆く裂けやすいことから、ハンドリングが難しいという問題がある。その中でも、ポリメチルメタクリレート系高分子は、位相差の発現性が低いため、位相差フィルムを得ることが難しい。他方で、ポリスチレン系高分子は、単層でのハンドリングが困難であることから、剛性の強いポリカーボネート系高分子との多層フィルムが提案されている(特許文献3)。しかしながら、そのような多層フィルムは、成形時に求められる靱性に課題があり、実用的な水準には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-043253号公報
【文献】特開2007-24940号公報
【文献】特開2014-149508号公報
【文献】特開平11-52131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
靱性に優れる負の固有複屈折を有する位相差フィルムとしては、側鎖にフルオレン環を有するポリエステル樹脂フィルムが考えられる。しかしながら、側鎖にフルオレン環を有するポリエステル樹脂フィルムは、位相差の発現性が不足することから、位相差フィルムを薄型にすることができなかった。
【0007】
薄型の位相差フィルムとしては、液晶層を備えた位相差フィルムが実用化されている(特許文献4)。液晶層は、基材フィルム上に液晶化合物を塗布し、それらを配向することによって、位相差を発現させることができる。しかしながら、液晶層を備えた位相差フィルムは、それらを製造するにあたり、配向処理工程や偏光板への液晶層の転写工程など、多くの複雑な工程を必要とする。さらに、これらの複雑な工程には、高価な液晶化合物を使用せざるをえないだけでなく、一般的に歩留まりに課題がある。そうすると、大量に生産されることが予定されている位相差フィルムにおいて、製造コストが非常に高くなることから、より安価でかつ、製造コストの削減にも寄与する薄型な位相差フィルムが求められている。
【0008】
本発明の目的は、位相差の発現性が高くハンドリング性に優れ、より安価で薄型な位相差フィルム及びその製造方法、前記位相差フィルムを備えた偏光板、前記偏光板を備えた画像表示装置、並びに前記画像表示装置を備えた情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、側鎖にアリール化フルオレン環を含有するポリエステル樹脂が大きな負の固有複屈折性を示すことを見出し、製膜及び延伸をすることにより薄膜でハンドリングしやすい位相差フィルムを安価に成形できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
一層あるいは多層からなり、
それらの少なくとも一つの層にアリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する組成物を含む、
位相差フィルム。
〔2〕
前記組成物が、負の固有複屈折を示す、
〔1〕に記載の位相差フィルム。
〔3〕
前記ポリエステル樹脂が、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と、下記一般式(2)で表されるジオール成分(A)、下記一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び下記一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を単量体として含み、
少なくとも下記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分の一部又は全部においてkが1以上であるポリエステル樹脂を含有する、
〔1〕又は〔2〕に記載の位相差フィルム。
【化1】
(式中、R1a及びR1bは、各々独立して、フェニル基又はナフチル基を示し、kは、各々独立して、0~4の整数を示し、X1は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化2】
(式中、Zは、各々独立して、フェニレン基又はナフチレン基を示し、R2a及びR2bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、pは、各々独立して、0~4の整数を示し、R3は、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を示し、qは、各々独立して、0~2の整数を示し、R4は、各々独立して、C2-6アルキレン基を示し、rは、各々独立して、1以上の整数を示す。)
【化3】
(式中、R5a及びR5bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、mは、各々独立して、0~4の整数を示し、X2は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化4】
(式中、X3は、C2-8アルキレン基を示す。)
〔4〕
前記ポリエステル樹脂が、前記一般式(1)においてR1a及びR1bが2-ナフチル基であり、kが1であり、X1がエチレン基であるジカルボン酸成分と、前記一般式(2)においてZがフェニレン基であり、p及びqが0であり、R4がエチレン基であり、rが1であるジオール成分(A)、及び、前記一般式(4)においてX3がエチレン基であるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を単量体として含むポリエステル樹脂を含む、
〔3〕に記載の位相差フィルム。
〔5〕
前記位相差フィルムが、前記ポリエステル樹脂を含む層と、正の固有複屈折を持つ樹脂層と、を含む多層フィルムである、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
〔6〕
前記正の固有複屈折を持つ樹脂層が、ポリアミド系樹脂を含む、
〔5〕に記載の位相差フィルム。
〔7〕
前記多層フィルムが1/4λ位相差フィルムである、
〔5〕又は〔6〕に記載の位相差フィルム。
〔8〕
前記位相差フィルムの面内であって最大の屈折率を示す方向をX軸と定義し、前記位相差フィルムの面内であって前記X軸と直交する方向をY軸と定義し、前記位相差フィルムの厚み方向をZ軸と定義した場合に、
前記X軸の屈折率(nx)、前記Y軸の屈折率(ny)及び前記Z軸の屈折率(nz)が、下記式(5)~(7)で表されるいずれかの関係を満たす、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
nx=nz>ny (5)
nz>nx>ny (6)
nx=ny<nz (7)
〔9〕
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
アリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する組成物を含む、一層あるいは多層からなるフィルムを、幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する延伸工程を有する、
位相差フィルムの製造方法。
〔10〕
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムを含む、
偏光板。
〔11〕
前記位相差フィルムの視認側に、1/4λ位相差フィルムをさらに含む、
〔10〕に記載の偏光板。
〔12〕
〔11〕に記載の偏光板を備える、
画像表示装置。
〔13〕
〔12〕に記載の画像表示装置を備える、
情報処理装置。

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、位相差の発現性が高くハンドリング性に優れ、より安価で薄型な位相差フィルム及びその製造方法、前記位相差フィルムを備えた偏光板、前記偏光板を備えた画像表示装置、並びに前記画像表示装置を備えた情報処理装置を提供することができる。
【0012】
また、前記アリール化フルオレン環を側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する組成物を製膜したフィルムは、1軸延伸したときに側鎖のアリール化フルオレン環の平面が主鎖と直交することから、延伸方向に直交する方向の屈折率が延伸方向の屈折率よりも高くなり、負の位相差(負の固有屈折率)を示す。さらにアリール化フルオレン環と主鎖の屈折率差が大きいため、位相差発現性に優れる。また、その他の効果として、一般的に負の固有複屈折を示す高分子は脆性であることが多いが、本発明のポリエステル樹脂は耐熱性及び靱性に優れ、製膜が容易であるのでハンドリングしやすい。そのため、その組成物を含む位相差フィルムは、ネガティブAプレートやポジティブBプレート及びポジティブCプレートとして視野角補償に有効な薄型の位相差フィルムとして好適に利用することができる。
【0013】
また、本発明の位相差フィルムは、正の位相差を示し、本発明の位相差フィルムのより波長分散が小さい樹脂フィルムとの積層により広帯域に反射防止性能を有する円偏光板の1/4λ位相差フィルムとしても好適に利用することができる。さらに、本発明の位相差フィルムは、製膜が容易であるため、液晶塗布型の1/4λ位相差フィルムよりも安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による1/4λ位相差フィルムを概略的に図示した断面図。
図2A】本発明の一実施形態による偏光板を概略的に図示した断面図。
図2B】本発明の他の実施形態による偏光板を概略的に図示した断面図。
図3A】本発明の一実施形態による画像表示装置(OLED)を概略的に図示した断面図。
図3B】本発明の一実施形態による画像表示装置(LCD)を概略的に図示した断面図。
図4】本発明の一実施形態によるローラブルディスプレイを概略的に図示した断面図。
図5】本発明の一実施形態による情報処理装置を概略的に図示した斜視図。
図6】本発明の一実施形態によるフォルダブルスマートフォンを概略的に図示した斜視図。
図7】本発明の一実施形態によるローラブルスマートフォンを概略的に図示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
〔位相差フィルム〕
本実施形態の位相差フィルムは、アリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する組成物を含む。このようにアリール化されたフルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を用いることにより、アリール化されたフルオレン環の配向方向がポリエステル樹脂の主鎖方向に対して直交し、これによりフィルムを延伸した場合に位相差が発現しやすく、優れた位相差発現性が発揮されるものと考えられる。
【0017】
また、本実施形態のポリエステル樹脂においては、アリール化されたフルオレン環の影響により、ポリエステル樹脂の主鎖方向と直交する方向の屈折率が高く、負の固有複屈折を示す傾向にある。ここで、ポリエステル樹脂の主鎖方向とは、ポリマーフィルムを延伸した際における延伸方向となり、これと直交する方向とは、延伸方向と直交する方向となる。
【0018】
(ポリエステル樹脂組成物)
本実施形態の位相差フィルムを構成するポリエステル樹脂組成物は、上記所定のポリエステル樹脂を含み、必要に応じて、後述する他の添加剤などの位相差フィルムを構成するのに常用される他の成分を含んでいてもよい。
【0019】
(ポリエステル樹脂)
本実施形態のポリエステル樹脂は、アリール化フルオレンを側鎖に有するものであり、例えば、アリール化フルオレンを有するジカルボン酸成分と、任意のジオール成分との重合;任意のジカルボン酸成分と、アリール化フルオレンを有するジオール成分との重合;あるいは、アリール化フルオレンを有するジカルボン酸成分と、アリール化フルオレンを有するジオール成分との重合によって、得ることができる。
【0020】
なお、本実施形態において「アリール化」とは、C-C単結合によって芳香族性炭化水素及びその誘導体を導入することをいう。芳香族性炭化水素は、例えば、ナフチル基などの多環芳香族炭化水素基であってもよい。
【0021】
ジカルボン酸成分とジオール成分は、少なくともいずれかがアリール化フルオレンを有する化合物を含むものであれば、それぞれ、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本実施形態のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは90~190℃であり、より好ましくは100~180℃であり、さらに好ましくは110~170℃である。ガラス転移温度が90℃以上であることにより、ポリエステル樹脂の耐熱性がより向上する傾向にある。また、ガラス転移温度が190℃以下であることにより、ポリエステル樹脂の延伸性がより向上する傾向にある。ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0023】
本実施形態のポリエステル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは30000~200000であり、より好ましくは35000~150000であり、さらに好ましくは40000~100000である。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、ポリエステル樹脂の分子鎖が長く、破断伸びや柔軟性などの機械的特性がより向上する傾向にあり、延伸性がより向上する傾向にある。なお、本実施形態において重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレン換算で測定することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
【0024】
以下、ポリエステル樹脂を構成する各成分について詳説する。
【0025】
(ジカルボン酸成分)
本実施形態で使用するポリエステル樹脂を構成する単量体の1種であるジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式中、R1a及びR1bは、各々独立して、フェニル基又はナフチル基を示し、kは、各々独立して、0~4の整数を示し、X1は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【0026】
上記一般式(1)において、基R1a、R1bで表されるフェニル基又はナフチル基のフルオレン環上の置換位置は特に限定されないが、単量体の工業的な合成方法からは2-位又は/及び7-位に置換される。フェニル基はナフチル基より位相差発現性が小さく、位相差発現性の観点からはナフチル基が好ましい。ナフチル基は1-ナフチル基であっても2-ナフチル基であっても構わないが、2-ナフチル基のほうが位相差発現性が大きく、位相差発現性の観点からは好ましい。
【0027】
アリール化フルオレンを有するジカルボン酸成分である、基R1a及びR1bがフェニル基であるフェニル基置換体と、基R1a及びR1bがナフチル基であるナフチル基置換体の混合したものを原料の単量体として用いて、ポリエステル樹脂を重合してもよいし、それぞれの単量体を単独で重合したポリエステル樹脂を混合してもよい。また、基R1a及びR1bの一方がフェニル基であり他方がナフチル基であるジカルボン酸成分を用いてポリエステル樹脂を重合してもよい。いずれの方法であっても位相差発現性を調整する目的には有効である。
【0028】
基R1a及びR1bの置換数kは0、すなわち無置換であってもよいが、位相差発現性の観点からは両方のkが1以上であり、フルオレンの両端にアリール基が置換したものが好ましい。このような観点から、置換数kは、好ましくは1~3の整数を示し、より好ましくは1を示す。なお、アリール化フルオレンを有するジカルボン酸成分において、2つあるkのうち少なくとも一方は1以上であるが、2つあるkのうち両方が1であることが好ましい。
【0029】
ジカルボン酸成分としては、アリール基を有しない無置換体のフルオレンジカルボン酸成分と、アリール基を有する置換体のフルオレンジカルボン酸成分とを混合したものを原料の単量体として用いて、ポリエステル樹脂を重合してもよいし、それぞれの単量体を単独で重合したポリエステル樹脂を混合してもよい。いずれの方法であっても位相差発現性を調整する目的には有効である。
【0030】
上記一般式(1)において、X1で示されるC1-8アルキレン基としては、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-エチルエチレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などのC1-8アルキレン基が例示できる。このなかでも、好ましいアルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などのC1-4アルキレン基)である。
【0031】
前記一般式(1)で表される代表的な化合物としては、特に限定されないが、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレンが挙げられる。フルオレンジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0032】
このなかでも、好ましいフルオレンジカルボン酸成分としては、前記一般式(1)において、R1a及びR1bが2-ナフチル基であり、kが1であり、X1がエチレン基である9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンが挙げられる。このようなジカルボン酸成分を用いることにより、位相差発現性がより向上する傾向にある。
【0033】
なお、ジカルボン酸成分は、遊離のカルボン酸に限らず、前記ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、例えば、エステル[例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、C1-4アルキルエステル、特にC1-2アルキルエステル)など]など]、酸ハライド(例えば、酸クロライドなど)、及び酸無水物なども含む。これらのジカルボン酸成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
また、本実施形態で使用するポリエステル樹脂においては、一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と併用して、フルオレン環を有しないジカルボン酸成分を用いてもよい。
【0035】
ポリエステル樹脂に導入されるジカルボン酸成分のうち、kが1以上である一般式(1)で表されるジカルボン酸成分の割合は、好ましくは80~100モル%であり、より好ましくは90~100モル%であり、さらに好ましくは95~100モル%であり、特に好ましくは100モル%である。kが1以上である一般式(1)で表されるジカルボン酸成分、すなわちアリール化フルオレン環を有するジカルボン酸成分の割合が上記範囲内であることにより、優れた位相差発現性が発揮される傾向にある。
【0036】
(ジカルボン酸成分の製造方法)
前記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分のアルキルエステルの代表例として下記一般式(8)で表される9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(DNFDP-m)の製造方法について説明する。
【化6】
【0037】
下記反応式(9)にDNFDP-mの合成経路の1つを示す。合成経路は複数あり、これに限定されるものではない。
【化7】
【0038】
上記反応式(9)では、2,7-ジブロモフルオレンを出発原料とし、2-ナフチルボロン酸と反応(鈴木・宮浦クロスカップリング)させて、2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(DNF)を生成する。さらにDNFとアクリル酸メチルとの付加反応(マイケル付加)によりDNFDP-mを得る。
【0039】
1段目の鈴木・宮浦クロスカップリングは通常、塩基の存在下にパラジウム触媒を用いて臭素化した芳香族化合物とボロン酸基をもつ芳香族化合物とを反応させる。塩基としては、特に限定されないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、フッ化カリウム、リン酸三カリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。このなかでも、通常、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩がよく利用される。また、塩基の使用割合は、2,7-ジブロモフルオレン1モルに対し、例えば、0.1~50モル程度であり、好ましくは1~25モルである。前記反応では、炭酸カリウムを用いることができる。
【0040】
パラジウム触媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム(0)、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロリド、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)ジクロリド、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、ビス(トリ-o-トリルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリドなどが挙げられる。これらの触媒のうち、通常、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)がよく利用される。触媒の割合は、2,7-ジブロモフルオレン1モルに対し、金属換算で、例えば、0.01~0.1モル程度、好ましくは0.03~0.07モルである。前記反応では、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を用いることができる。
【0041】
カップリング反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。前記反応では、溶媒としてトルエンを用いることができる。
【0042】
カップリング反応の反応温度は、例えば、50~200℃、好ましくは60~100℃である。前記反応では、70~80℃の反応温度である。
【0043】
反応終了後、必要により、反応混合物を慣用の分離精製方法により分離精製してもよい。前記反応では、水洗した後、晶析により精製することができる。
【0044】
2段目のマイケル付加反応は、塩基性触媒の存在下でフルオレンの9位の炭素が不飽和カルボン酸エステルのβ位に付加する反応である。1段目の反応で得られたDNFを溶媒に溶かした溶液にアクリル酸メチルを触媒とともに滴下して、50~60℃で反応が行われる。
【0045】
塩基性触媒としては、フルオレンアニオンを生成可能であれば特に限定されず、慣用の無機塩基や有機塩基を使用できる。無機塩基としては、例えば、金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物など)などが挙げられる。
【0046】
有機塩基としては、金属アルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド)、第4アンモニウム水酸化物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなど)などが例示できる。なお、前記水酸化トリメチルベンジルアンモニウムは、例えば、東京化成(株)から商品名「トリトンB」(水酸化トリメチルベンジルアンモニウムの40%メタノール溶液)などとして入手することもできる。本実施形態のDNFDP-mの合成にはトリトンBを使用することができる。
【0047】
前記マイケル付加反応は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、前記触媒に対して非反応性で、かつフルオレン化合物を溶解可能であれば特に限定されず、幅広い範囲で使用できる。本実施形態のDNFDP-mの合成には、溶媒としてメチルイソブチルケトンを用いることができる。
【0048】
反応終了後、必要により、反応混合物を慣用の分離精製方法により分離精製してもよい。前記反応では、水洗した後、晶析により精製することができる。
【0049】
(ジオール成分)
本実施形態で使用するポリエステル樹脂を構成する単量体の1種であるジオール成分としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(2)で表されるジオール成分(A)、下記一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び下記一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分を用いることが好ましい。以下、各ジオール成分について詳説する。
【0050】
(ジオール成分(A))
本実施形態で使用するポリエステル樹脂を構成し得る単量体の1種であるジオール成分(A)は、下記一般式(2)で表すことができる。
【化8】
(式中、Zは、各々独立して、フェニレン基又はナフチレン基を示し、R2a及びR2bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、pは、各々独立して、0~4の整数を示し、R3は、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を示し、qは、各々独立して、0~2の整数を示し、R4は、各々独立して、C2-6アルキレン基を示し、rは、各々独立して、1以上の整数を示す。)
【0051】
前記一般式(2)において、基R2a及びR2bとしては、特に限定されないが、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基、(フェニル基などのC6-10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基(例えば、C1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基)などが例示できる。基R2a及びR2bの種類は互いに同一又は異なっていてもよい。基R2a及びR2bの置換位置は、例えば、フルオレンの2-位、7-位、2-及び7-位などであってもよい。置換数pは、0~4(例えば、0~2)程度であってもよく、好ましくは0又は1、特に0である。
【0052】
なお、本実施形態において、「反応に不活性」とは、ポリエステル樹脂の重合反応に不活性であることを意味する。
【0053】
前記一般式(2)において、置換基R3は、特に限定されないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6-10アリール基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基などのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5-8シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基など);ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基などが例示できる。
【0054】
好ましい基R3としては、例えば、アルキル基(C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基、特にメチル基)、アルコキシ基(C1-4アルコキシ基など)、シクロアルキル基(C5-8シクロアルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6-12アリール基)などが挙げられる。
【0055】
置換数qは、例えば、0~4(例えば、0~3)であってもよく、好ましくは0~2(例えば、0又は1)であってもよい。
【0056】
前記一般式(2)において、基R4で表されるC2-6アルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基、好ましくはC2-4アルキレン基、さらに好ましくはC2-3アルキレン基が挙げられる。
【0057】
オキシアルキレン基(OR4)の数(付加モル数)rは、1以上であればよく、例えば、1~12(例えば、1~8)、好ましくは1~5(例えば、1~4)、さらに好ましくは1~3(例えば、1又は2)、特に1であってもよい。
【0058】
代表的なジオール成分(A)には、9,9―ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、9,9―ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0059】
9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、(i)9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレン;(ii)9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-t-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシ-モノ又はジC1-4アルキルフェニル)フルオレン;(iii)9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC5-10シクロアルキルフェニル)フルオレン;(iv)9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC6-10アリールフェニル)フルオレンなど;上記化合物(ii)~(iv)において、rが2~5である化合物、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシ-モノ又はジC1-4アルキルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシC6-10アリールフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0060】
9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシナフチル)フルオレンなど];rが2~5である化合物、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシナフチル)フルオレンなどが含まれる。
【0061】
これらのジオール成分(A)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。特に好ましいジオール成分(A)として、前記一般式(2)においてZがフェニレン基であり、p及びqが0であり、R4がエチレン基であり、rが1である9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを挙げることができる。
【0062】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、一態様として、使用するジオール成分(A)の割合は、ジオール成分全体に対して、好ましくは0~80モル%であり、より好ましくは0~50モル%であり、さらに好ましくは0~20モル%である。ジオール成分(A)の割合が0モル%以上であることにより、ガラス転移温度がより向上する傾向にある。また、ジオール成分(A)の割合が80モル%以下であることにより、フィルム成形性がより向上し、光弾性係数が低くなり、位相差発現性が大きくなる傾向にある。
【0063】
(ジオール成分(B))
本実施形態で使用するポリエステル樹脂を構成し得る単量体の1種であるジオール成分(B)は、下記一般式(3)で表すことができる。
【化9】
(式中、R5a及びR5bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、mは、各々独立して、0~4の整数を示し、X2は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【0064】
前記一般式(3)において、基R5a及びR5b、mは、好ましい態様を含め、前記一般式(2)に記載のR2a及びR2b、pと同じである。また、X2は好ましい様態を含め、前記一般式(1)に記載のX1と同じである。
【0065】
前記一般式(3)で表される代表的な化合物としては、9,9-ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシC3-6アルキル)フルオレンなどが挙げられる。これらジオール成分(B)は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。好ましいジオール成分(B)としては、9,9-ビス(ヒドロキシメチル)フルオレンが挙げられる。
【0066】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、一態様として、使用するジオール成分(B)の割合は、ジオール成分全体に対して、好ましくは0~80モル%であり、より好ましくは0~50モル%であり、さらに好ましくは0~20モル%である。ジオール成分(B)の割合が上記範囲内であることにより、負の位相差発現性がより向上する傾向にある。
【0067】
(ジオール成分(C))
本実施形態で使用するポリエステル樹脂を構成し得る単量体の1種であるジオール成分(C)は、下記一般式(4)で表すことができる。
【化10】
(式中、X3はC2-8アルキレン基を示す。)
【0068】
ジオール成分(C)としては、特に限定されないが、例えば、直鎖状又は分岐鎖状アルカンジオール(エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのC2-8アルカンジオール、好ましくはC2-6アルカンジオール、さらに好ましくはC2-4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2-4アルカンジオールなど)などが例示できる。ジオール成分(C)は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0069】
このなかでも、好ましいジオール成分(C)は、前記一般式(4)においてX3がエチレン基であるエチレングリコールである。このようなジオール成分(C)を用いることにより、延伸性がより向上する傾向にある。
【0070】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、一態様として、使用するジオール成分(C)の割合は、ジオール成分全体に対して、例えば、10モル%以上(例えば、30~100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、50モル%以上(例えば、60~99モル%)、好ましくは70モル%以上(例えば、80~98モル%)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、95~97モル%)程度であってもよく、特に、100モル%、すなわち、ジオール成分が、実質的にジオール成分(C)のみで構成されていてもよい。
【0071】
また、他の態様として、使用するジオール成分(C)の割合は、ジオール成分全体に対して、好ましくは5~50モル%であり、より好ましくは5~35モル%であり、さらに好ましくは15~25モル%である。
【0072】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、上記のような割合でジオール成分(C)を用いることにより、位相差フィルムの柔軟性がより向上する傾向にある。
【0073】
(他の添加剤)
本実施形態の位相差フィルムは、必要に応じて、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、充填剤、発泡剤、消泡剤、滑剤、離型剤、易滑性付与剤が挙げられる。
【0074】
可塑剤としては、例えば、エステル類、フタル酸系化合物、エポキシ化合物、スルホンアミド類などが挙げられ、難燃剤としては、例えば、無機系難燃剤、有機系難燃剤、コロイド難燃物質などが挙げられる。
【0075】
安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられ、充填剤としては、例えば、酸化物系無機充填剤、非酸化物系無機充填剤、金属粉末などが挙げられる。
【0076】
離型剤としては、例えば、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸又はその金属塩、酸アミド類などが挙げられる。
【0077】
易滑性付与剤としては、例えば、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、カオリンなどの無機微粒子;(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂(架橋ポリスチレン樹脂など)などの有機微粒子などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0078】
これらの添加剤の割合は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、例えば30質量部以下であり、好ましくは0.1~20質量部であり、さらに好ましくは1~10質量部である。
【0079】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
前記ポリエステル樹脂はジカルボン酸成分とジオール成分との反応により調製できる。ポリエステル樹脂の製造方法は特に限定されず、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などで調製してもよく、重合反応では、エステル交換触媒、重縮合触媒、熱安定剤、光安定剤、重合調整剤などを使用してもよい。
【0080】
エステル交換触媒としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属(マンガン、亜鉛、コバルト、チタンなど)などの化合物(アルコキシド、有機酸塩、無機酸塩、金属酸化物など)などが挙げられる。このなかでも、酢酸マンガンや酢酸カルシウムなどを好適に用いることができる。
【0081】
重縮合触媒の種類は特に限定されず、前記アルカリ土類金属、遷移金属、周期表第13族金属(アルミニウムなど)、周期表第14族金属(ゲルマニウムなど)、周期表第15族金属(アンチモンなど)などの化合物、より具体的には、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレンリコレートなどのアンチモン化合物、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物などが例示できる。これらの触媒は単独で又は2種類以上を混合して使用してもよい。
【0082】
熱安定剤としては、特に限定されないが、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが例示できる。
【0083】
反応において、ジカルボン酸成分と、ジオール成分の使用割合は、前記と同様の範囲から選択でき、必要に応じて所定の成分を過剰に用いてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどのジオール成分は、ポリエステル樹脂中に導入される単位の割合よりも過剰に使用してもよい。また、反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
【0084】
反応は、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、減圧下(例えば、1×102~1×104Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合法に応じて、例えば、溶融重合法における反応温度は、150~300℃、好ましくは180~290℃、さらに好ましくは200~280℃程度であってもよい。
【0085】
(位相差フィルムの態様)
位相差フィルムには、その材料が有する固有複屈折と延伸方法によって、ポジティブAプレート、ネガティブAプレート、ポジティブBプレート、ネガティブBプレート、ポジティブCプレート、ネガティブCプレートなどに分類される。これらのプレートは、表示装置の用途ごとに組み合わせて用いられる。負の固有複屈折を有する材料は、一軸延伸によってネガティブAプレート、ポジティブBプレート、二軸延伸によってポジティブCプレートにすることができる。
【0086】
ネガティブAプレートとは、位相差フィルムの面内の最大屈折率を示す方向をX軸、X軸と直交する方向をY軸、厚み方向をZ軸と定義した場合、X軸の屈折率(nx)、Y軸の屈折率(ny)、及び、Z軸の屈折率(nz)が下記式(5)で表される関係を満たすものをいう。
nx=nz>ny (5)
ネガティブAプレートは、例えば、有機EL表示装置において、外光反射によるコントラストの低下を抑制するために利用される。
【0087】
ポジティブBプレートは、下記式(6)で表される関係を満たすものをいう。
nz>nx>ny (6)
ポジティブBプレートは、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)方式の液晶セルを備えた液晶表示装置において、視野角によるコントラスト低下や色変化を防ぐ光学補償をするために利用される。
【0088】
ポジティブCプレートは、下記式(7)で表される関係を満たすものをいう。
nx=ny<nz (7)
ポジティブCプレートは、例えば、位相差フィルムによって調整された面内方向の位相差値(Ro)を保持したまま、厚み方向の位相差値(Rth)のみを調節するために利用される。
【0089】
式(6)におけるポジティブCプレートにおける「nx=ny」とは、面内の屈折率(nx)と屈折率(ny)が厳密に等しい場合のみならず、nxとnyが実質的に等しい場合であってもよい。式(5)における「nz=nx」の記載は、面内の屈折率(nxまたはny)と厚み方向の屈折率(nz)が必ずしも完全に一致する必要はない。一方、Nz係数は(nx-nz)/(nx-ny)と定義した場合、Nz係数が-0.1より大きく0.1未満であれば、nx=nzのネガティブAプレートとみなすことができる。また、Nz係数が-10未満であればnx=nyのポジティブCプレートとみなすことができる。
【0090】
本実施形態の位相差フィルムは、直線偏光を円偏光、もしくは円偏光を直線偏光に変換する機能を有する1/4λ位相差フィルムであってもよい。1/4λ位相差フィルムとは、所定の波長λnmにおける面内位相差Ro(λ)=λ/4(または、この奇数倍)を示す位相差フィルムである。本実施形態の位相差フィルムは、化学構造のみならず、延伸温度や延伸速度などの延伸条件、または延伸後に得られる膜厚などを制御することで用途に応じた1/4λ位相差フィルムにすることができる。
【0091】
1/4λ位相差フィルムは、偏光子と積層することで、円偏光板としても利用される。円偏光板は、有機EL表示装置の視認側に設け、外光反射によるコントラストの低下を抑制するために用いられる。有機EL表示装置は、円偏光板と有機EL素子からなる有機ELパネルを備える。有機EL表示装置は、視認側から順に、偏光子、位相差フィルム、有機ELパネルの金属電極等で配置される。
【0092】
視認側から入射される光と表示装置の関係について説明する。視認側から入射される外光は、特定方向に偏光させた光のみを透過する偏光子によって直線偏光にされたのち、位相差フィルムによって円偏光へと変換される。円偏光された入射光は、有機ELパネルの金属電極等に到達し、光を反射する性質を有する金属電極等によって反射される。この反射によって、入射光は、円偏光状態が反転された反射光へと変換される。その後、円偏光状態が反転された反射光は、位相差フィルムを再透過し、入射時よりも90°傾いた直線偏光の反射光へと変換される。90°傾いた直線偏光の反射光は、0°のみ光を透過する偏光子に到達することで偏光子に吸収され、視認側への透過が遮断される。これらの一連のステップによって、視認側から入射された外光は、有機ELパネルの金属電極等によって反射されたとしても、視認側へ再透過することができない。この作用により、表示装置は、外光を反射させることなく、視認側からのコントラストを高く維持することができる。
【0093】
視認側から入射される外光は、一般的に可視光領域λ=400~780nmのいずれの波長の光も有していることが想定されるところ、位相差フィルムは、全可視光領域に対し所定の位相差を制御することによって、より高精度な光学補償をすることができる。例えば、1/4λ位相差フィルムにおいては、全可視光領域において、位相差λ/4(nm)となることが、位相差フィルムの理想とされる。
【0094】
ここで、波長分散性とは、波長と位相差との関係性をいうが、波長の増加に伴い、位相差の絶対値が増加する特性を逆波長分散性という。例えば、全可視光領域において、位相差λ/4(nm)となる特性があれば、位相差フィルムが全可視光領域において逆波長分散性を有することになる。この逆波長分散性を有するλ/4位相差フィルムは、既存の単体の高分子材料のみで構成することが難しいこともあり、正の固有複屈折を有する高分子モノマーと負の固有複屈折を有する高分子モノマーとからなる多層フィルムを延伸することによって設計されてもよい。
【0095】
本実施形態の位相差フィルムは、少なくとも1つの層に上記ポリエステル樹脂を含むものであれば、一層の位相差フィルムであっても、多層からなる位相差フィルムであってもよい。特に、有機ELディスプレイ用途の位相差フィルムには、ポリエステル樹脂と、他の樹脂とからなる多層フィルムとすることが好ましい。これにより多層フィルムでありながら、従来の位相差フィルムよりも薄型で、逆波長分散性に優れた位相差フィルムとすることができる。
【0096】
特に、多層からなる位相差フィルムとする場合には、図1に示すように、上記ポリエステル樹脂を含む層11と、正の固有複屈折を持つ樹脂層12と、を含む多層フィルム(位相差フィルム10)とすることが好ましい。図1は、本実施形態の一態様による1/4λ位相差フィルムを概略的に図示した断面図である。このような多層フィルムとすることで、従来の配向処理をした位相差フィルムよりも総厚みが薄く、位相差の波長分散が逆分散性を示す薄膜の1/4λ位相差フィルムとすることができる。このような位相差フィルムは偏光板と積層することで視野角補償機能をもたせることができる。
【0097】
なお、図1においては、ポリエステル樹脂層11と正の固有複屈折を持つ樹脂層12をそれぞれ1層ずつ備える位相差フィルムを例示しているが、多層からなる位相差フィルム10は、図1に図示しない他の層をさらに含む3層以上の多層位相差フィルムとしてもよい。または、ポリエステル樹脂層11と正の固有複屈折を持つ樹脂層12とを個別に2層以上含む3層以上の多層位相差フィルムとしてもよい。
【0098】
基材フィルムに前記位相差フィルムを積層して、積層フィルムとして機能させる場合、基材フィルム自体が位相差フィルムであるとともに支持体として使用されることも可能である。そのような積層フィルムとしては、例えば、基材フィルムとネガティブBプレートとの積層によるIPSモード用視野角補償フィルム、及び基材フィルムとポジティブAプレートとの積層によるOLED円偏光板の1/4λ位相差フィルムなどが挙げられる。その場合の基材フィルムの材料としては、正の固有複屈折を持つ樹脂が好ましく、多くのポリマーがこれに該当するが、例えばポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、トリアセチルセルロースフィルムやセルロースアセテートプロピオネートフィルムなどのセルロースエステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂等が挙げられ、その中でも延伸性に優れていることから特にポリカーボネート系樹脂あるいはポリアミド系樹脂がより好ましく、ポリアミド系樹脂がさらに好ましい。ポリカーボネート系樹脂は製膜性と前記位相差フィルムとの密着性に優れ、ポリアミド系樹脂は耐薬品性に優れるため、ポリエステル樹脂を含む層を塗工する際に幅広い溶媒が使用可能である。
【0099】
また基材フィルムを剥離して他のフィルムに転写(貼合)して使用される場合は、基材フィルムとして光学特性は関係なく、剥離性の良好なフィルムであれば特に限定されない。このような基材フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム等、いずれも公知のものを用いることができる。なかでもポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースフィルムが好ましい。
【0100】
本実施形態の位相差フィルムの原反フィルム(延伸前のフィルム)を前記ポリエステル樹脂の単層膜として製造する場合は、製膜方法(又は製膜工程)は、特に限定されず、例えば、キャスティング法(又は溶液キャスト法、溶液流延法)、エキストルージョン法(インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出法)、カレンダー法などが挙げられる。生産性に優れるだけでなく、残留溶媒による光学特性の低下を防止できる観点から、Tダイ法などの溶融押出法が好ましい。
【0101】
前記原反フィルムを、前記ポリエステル樹脂を含む層と基材との積層フィルムとして製造する場合は、製膜方法として、例えば、共押出成形法、コーティング成形法、押出ラミネート成形法などが挙げられる。
【0102】
共押出成形法では、例えば、基材の樹脂と前記ポリエステル樹脂を個別に押し出し機で溶融押出してフィードブロックで合流させてTダイでフィルム状に共押出成形する。
【0103】
コーティング成形法では、基材フィルム上に前記ポリエステル樹脂を含む溶液を塗工し、乾燥により溶媒を揮発させて前記ポリエステル樹脂を含む層を形成する。
【0104】
押出ラミネート成形法では、基材フィルム上にフィルム状に溶融押出された前記ポリエステル樹脂と基材フィルムとを冷却ロールと圧力ロールで挟み込んで多層フィルムに成形する。
【0105】
このなかでも、製造効率の観点及びフィルム中に溶媒等の揮発性成分を残留させない観点からは共押出成形法が好ましい。界面接着性から共押出成形法は使用できる樹脂が制限されることがある。樹脂の劣化抑制、膜厚の均一性及び異物除去の観点からはコーティング成形法が好ましい。コーティング成形法は、樹脂の溶解性から使用できる溶剤が制限されることがある。
【0106】
共押出成形法の1種である共押出Tダイ法としては、フィードブロック方式、及び、マルチマニホールド方式が挙げられるが、各層の厚さのばらつきを少なくできる点で、マルチマニホールド方式が特に好ましい。共押出成形法を用いて積層フィルムを製造する場合、押し出される樹脂の溶融温度は、好ましくはTg+80℃以上、より好ましくはTg+100℃以上であり、好ましくはTg+180℃以下、より好ましくはTg+150℃以下である。また、前記の溶融温度は、例えば共押出Tダイ法においては、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度を表す。押し出される樹脂の溶融温度が、前記範囲の下限値以上である場合、樹脂の流動性を十分に高めて成形性を良好にでき、また、上限値以下である場合、樹脂の劣化を抑制できる。
【0107】
共押出成形法では、通常、ダイスリップから押し出されたフィルム状の溶融樹脂を冷却ロールに密着させて冷却し、硬化させる。この際、溶融樹脂を冷却ロールに密着させる方法としては、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
【0108】
コーティング成形法において、前記ポリエステル樹脂と基材フィルムの密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施してもよい。
【0109】
コーティング成形法において、前記ポリエステル樹脂の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン系溶媒;シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン等のシクロアルカン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン含有溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;が挙げられる。塗工液における樹脂の濃度は、塗工に適した粘度を得る観点から、1重量%~50重量%であり得る。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0110】
塗工液の塗工方法に限定はない。塗工方法としては、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法などが挙げられる。
【0111】
塗工液の乾燥方法に限定はなく、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥などの乾燥方法を用い得る。
【0112】
(位相差フィルムの延伸方法)
本実施形態の位相差フィルムは、アリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を含有する第1樹脂層を有するフィルムを、幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する延伸工程を有することが好ましい。
【0113】
偏光子と位相差フィルムが積層された円偏光板は、一般的に、偏光子が光を吸収する方向と、位相差フィルムが光に位相差を生じさせる方向を斜めになるように設計されることが多い。この偏光子は、長手方向に光を吸収する方向をもつように製造されることが多いところ、位相差フィルムが光に位相差を生じさせる方向が長手もしくは平行方向である場合、偏光子と位相差フィルムを積層する場合、位相差フィルムを斜め方向にカットしなければならなくなる。
【0114】
しかしながら、位相差フィルムを斜め方向にカットすると、位相差フィルムの端部が多く発生し大量生産時において甚大なロスとなる。
【0115】
そこで、円偏光板の一部として用いられる位相差フィルムは、幅方向に対して、45°±15°の方向に延伸し、その方向に位相差を発現させることで、偏光子との積層工程における端部のロスを大幅に削減できる。これによって、斜め方向に延伸される位相差フィルムは、長尺の連続生産をも可能にもなるため、生産性が格段に向上する。
【0116】
特に、本実施形態の位相差フィルムは、位相差の発現性が高く薄型であるため、上述した液晶層を備える位相差フィルムなどと比較してコストが安く、斜め延伸の連続生産をすることで、多工程が必要な液晶よりも製造コストを低下することが可能となる。
【0117】
また、本実施形態の位相差フィルムは一軸延伸によって、ネガティブAプレート及びポジティブBプレートにすることができる。一軸延伸は、固定端一軸延伸、自由端一軸延伸のいずれであってもよいが、ネックインが少なく、物性値の調整が容易である点から、固定端一軸延伸が好ましい。延伸方向は、フィルムの長手方向に対して延伸する縦延伸、幅方向に延伸する横延伸、斜め方向(例えば、長手方向に対し45°の角度をなす方向など)に延伸する斜め延伸のいずれであってもよい。延伸方法は特に限定されず、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法、テンター延伸方法などの慣用の方法であってもよい。
【0118】
一軸延伸の場合、延伸温度は、所望の位相差によっても異なってくるが、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃、好ましくは(Tg-5)~(Tg+10)℃、さらに好ましくは(Tg-3)~(Tg+5)℃(例えば、(Tg+2)~(Tg+5)℃)程度であってもよい。具体的な温度としては、例えば、100~150℃、好ましくは110~145℃、さらに好ましくは120~140℃(例えば、129~133℃)程度であってもよい。延伸温度が、前述の範囲であると、所望の位相差をより発現しやすくなるだけでなく、フィルムをより均一に延伸でき、破断をより抑制することができる。
【0119】
一軸延伸の場合、延伸倍率は、所望の位相差によっても異なってくるが、例えば、1.1~5倍、好ましくは1.3~3.5倍、さらに好ましくは1.5~2.5倍程度であってもよい。延伸倍率が上記下限値以上であると、所望の位相差をより得やすくなる。延伸倍率が上記上限値以下であると、位相差が高くなったりフィルムが破断したりするのをより抑制することができる。本実施形態の位相差フィルムは、延伸性が良く、靱性があるためフィルムが破断し難く、位相差発現性が高いため、薄膜であっても所望の位相差が得られる。
【0120】
一軸延伸の場合における延伸速度は、例えば、1~100mm/分、好ましくは20~80mm/分、さらに好ましくは50~70mm/分程度であってもよい。延伸速度が上記下限値以上であると、所望の位相差をより得やすくなる。
【0121】
本実施形態の位相差フィルムは二軸延伸によってポジティブCプレートにすることができる。二軸延伸は、逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸のいずれであってもよい。逐次二軸延伸は通常、ロール間延伸による縦延伸を行った後、テンター延伸による横延伸を行う。ロール間延伸ではネックインがあり、ロールとの接触による傷の転写などの欠点がある。同時二軸延伸ではフィルム両端にクリップ間のネックインが生じるなどの欠点があるが、面内位相差をほぼゼロにするためには同時二軸延伸が好ましい。
【0122】
二軸延伸の場合、延伸温度は、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃、好ましくは(Tg-5)~(Tg+10)℃、さらに好ましくは(Tg-3)~(Tg+5)℃(例えば、(Tg+2)~(Tg+5)℃)程度であってもよい。具体的な温度としては、例えば、100~150℃、好ましくは110~145℃、さらに好ましくは120~140℃(例えば、129~133℃)程度であってもよい。延伸温度が、前述の範囲にあると、所望の位相差をより発現しやすくなるだけでなく、フィルムをより均一に延伸でき、破断をより抑制することができる。
【0123】
二軸延伸の場合、延伸倍率は、所望の位相差によっても異なってくるが、面内位相差をゼロにするには縦横で等倍とするのがよい。延伸倍率は、例えば、1.1~5×1.1~5倍、好ましくは1.3~3.5×1.3~3.5倍、さらに好ましくは1.5~2.5×1.5~2.5倍程度であってもよい。延伸倍率が上記下限値以上であると、所望の位相差が得られやすくなる。延伸倍率が上記上限値以下であると、位相差が高くなったりフィルムが破断したりするのをより抑制できる。本実施形態の位相差フィルムは、延伸性が良く、靱性があるためフィルムが破断し難く、位相差発現性が高いため、薄膜であっても所望の位相差が得られる。
【0124】
二軸延伸の場合、延伸速度は、面内位相差をゼロにするには縦横で等速にするのがよい。延伸速度は、例えば、1~100mm/分、好ましくは20~80mm/分、さらに好ましくは50~70mm/分程度であってもよい。延伸速度が上記下限値以上であることにより、得られるフィルムの位相差がより大きくなる傾向にある。また、延伸速度が上記上限値以下であることにより、フィルムの破断がより抑制される傾向にある。本実施形態の位相差フィルムは、延伸性が良く、靱性があるためフィルムが破断し難く、位相差発現性が高いため、薄膜であっても所望の位相差が得られる。
【0125】
なお、位相差フィルムは、本発明の効果を害しない限り、必要に応じて、他のフィルム(又はコーティング層)を積層してもよい。例えば、位相差フィルム表面に、界面活性剤や離型剤、微粒子を含有したポリマー層をコーティングして、易滑層を形成してもよい。
【0126】
本実施形態のポリエステル樹脂を含むフィルム(又は樹脂層)は、薄膜に成形でき、薄膜化しても大きな位相差を示す。そのため、延伸前のフィルム又は樹脂層の厚みは、例えば、3~20μm(例えば、5~10μm)程度の範囲から選択できる。延伸後の位相差フィルム(又はポリエステル樹脂を含む層)の厚みは、例えば、1~10μm(例えば、2~8μm)、好ましくは1.5~8μm(例えば、3~5μm)、さらに好ましくは2.0~5μm(例えば、2.5~3.5μm)程度であってもよい。
【0127】
また、延伸後の単層又は多層の位相差フィルムの総厚みは、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは5~40μmであり、さらに好ましくは10~35μmである。本実施形態のポリエステル樹脂を用いることにより、このようにより一層薄化した位相差フィルムを達成することができる。
【0128】
本実施形態の位相差フィルムは、負の固有複屈折を有し、位相差発現性が高いので延伸方法を変えることで薄膜の負の位相差フィルム(ネガティブAプレート、ポジティブBプレート、ポジティブCプレート)を作製できる。これらの位相差フィルムは液晶ディスプレイの視野角補償板や有機ELディスプレイの円偏光板の視野角補償に好適に利用できる。
【0129】
〔偏光板〕
次に、図2A及び2Bを参照して、本実施形態の偏光板について説明する。この偏光板は、上記の位相差フィルムを含むものである。図2A及び2Bは、偏光板の一態様を概略的に図示した断面図である。
【0130】
図2Aに示す偏光板20は、位相差フィルム10と、偏光子22と、偏光子保護フィルム24とが積層されたものである。同図に示すように、位相差フィルム10と偏光子22との間に接着剤層21を設けてもよいし、偏光子22と偏光子保護フィルム24との間に接着剤層23を設けてもよい。
【0131】
図2Bに示す偏光板30は、位相差フィルム10と、偏光子保護フィルム32と、偏光子34と、偏光子保護フィルム36とが積層されたものである。位相差フィルム10と偏光子保護フィルム32との間に接着剤層又は粘着剤層31を設けてもよいし、偏光子34と偏光子保護フィルム32,36との間に接着剤層33,35を設けてもよい。
【0132】
位相差フィルム10は、偏光子22との密着性を向上させるため、コロナ処理やプラズマ処理、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強塩基水溶液による表面改質処理に供してもよい。これらの接着剤層の形成や表面改質処理は、製膜工程を経た後に行ってもよく、延伸工程を経た後に行ってもよい。
【0133】
偏光子22としては、従来公知のものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコールフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理及び延伸処理が施されたもの;ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。また、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子なども挙げられる。
【0134】
偏光子保護フィルム24としては、偏光子22との接着性が高く、光学的に透明な材料であれば特に限定されないが、例えば、トリアセチルセルロースフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルムなどのセルロースエステル系フィルム、変性アクリル樹脂系フィルム、超高複屈折ポリエチレンテレフタレート樹脂系フィルム、シクロオレフィン系フィルムなどが挙げられる。
【0135】
さらに、本実施形態の偏光板は、上記位相差フィルムの視認側に、1/4λ位相差フィルムをさらに含んでいてもよい。このように本実施形態の位相差フィルムにさらに1/4λ位相差フィルムを積層した構成とすることで、有機EL表示装置又は液晶表示装置のバックライト(以下、「発光側」という)からの光を円偏光させることができる。
【0136】
例えば、一般的に表示装置の視認側に直線偏光させる偏光板があるところ、視認者がサングラスをしている場合、そのサングラスと偏光板の偏光方向が直交すると、視認できない問題いわゆるブラックアウトが発生することがある。これを回避するために、発光側からの光が、偏光板を通過し直線偏光にされたのち、円偏光機能を有する上記1/4λ位相差フィルムを通過させることで、視認者側が視認する光が円偏光になり、ブラックアウトが生じないようにすることができる。このような機能は、サングラスリーダブルともいう。
【0137】
位相差フィルムの視認側に積層される上記1/4λ位相差フィルムは、上記のとおり有機EL表示装置における反射光を偏光板に吸収させるために、入射光および反射光を円偏光させる機能を目的とするものとは別に、発光側からの光を円偏光させてブラックアウトを回避させる目的で備えられるものである。
【0138】
上記のように1/4λ位相差フィルムには複数の異なる機能があるため、混同を生じないように、有機EL表示装置における反射光を偏光板に吸収させるために、入射光および反射光を円偏光させる機能を目的とするものを「第1の1/4λ位相差フィルム」といい、それとは異なり、発光側からの光を円偏光させてブラックアウトを回避させる機能を目的とするものを「第2の1/4λ位相差フィルム」といってもよい。
【0139】
〔画像表示装置〕
次に、図3A及び3Bを参照して、本実施形態の画像表示装置について説明する。本実施形態の画像表示装置は、上記偏光板を備えるものであれば、特に限定されないが、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置及び液晶表示装置が挙げられる。また、画像表示装置は、それが単体として最終製品として市場に流通する装置に限らず、後述する情報処理装置、例えばスマートフォン等の一部であってもよい。図3Aは、本実施形態の一態様の有機EL表示装置を概略的に図示した断面図であり、図3Bは、本実施形態の一態様の液晶表示装置を概略的に図示した断面図である。
【0140】
図3Aに示すように、有機EL表示装置40は、有機EL表示パネル41と、本実施形態の位相差フィルム10を備える偏光板20と、前面板43とをこの順に備える。有機EL表示装置40では、1/4λ位相差フィルムを備える偏光板20を用いることにより外光の反射が抑制され、色付きのより少ない黒を表現できる。
【0141】
また、有機EL表示装置40は、必要に応じて、タッチセンサ42など他の構成を備えてもよい。タッチセンサ42を装備することにより、有機EL表示装置40は、表示装置としての機能のほか、情報の入力インターフェースとしても機能する。有機EL表示装置40を構成する各層は、粘着剤又は粘着剤を用いて各々接合されていてもよい。
【0142】
図3Bに示すように、液晶表示装置50は、光源51と、偏光板30と、液晶パネル52と、偏光板30と、前面板53をこの順に備える。光源51は、液晶パネルの直下に光源を均等に配置した直下型方式でもよいし、反射板と導光板を具備したエッジライト方式でもよい。さらに、図3Bにおいては前面板53を示したが、液晶表示装置50は前面板53を有していなくてもよい。さらに、液晶表示装置50は、タッチセンサ(不図示)をさらに有していてもよい。
【0143】
なお、画像表示装置の画面は、四角形に限定されるものではなく、円形、楕円形、または三角形や五角形のような多角形の形状を有していてもよい。さらに、画像表示装置は可撓性を有することができ、反ったり、曲がったり、巻き取られたり、折り畳まれたりするというように、その形状が変更されてもよい。例えば、図4に示すように、画像表示装置には、画像表示装置収納部62にロール状に収納された画像表示装置61を引き出して用いることのできるローラブルディスプレイが含まれる。
【0144】
〔情報処理装置〕
次に、図5を参照して、本実施形態の情報処理装置について説明する。同図は、本実施形態の情報処理装置60を概略的に示す斜視図である。情報処理装置60は、上記偏光板を有する上記画像表示装置を備える。情報処理装置60は、画像表示装置61を備えたスマートフォンである。画像表示装置61には、例えば、上述の有機EL表示装置40又は液晶表示装置50の構成を採用することができる。
【0145】
このような情報処理装置60としては、スマートフォンのほか、特に限定されないが、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末などの情報処理可能な各種の装置が挙げられる。薄型化や小型化が望まれるパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等において、本実施形態の偏光板の薄さが特に活かされる。また、屋外屋内など様々な場所へ持ち運んで使用されるパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等においては、本実施形態の偏光板が有する逆波長分散性がより活かされる。
【0146】
さらに、情報処理装置60としては、屈折可能な画像表示装置61を有し折りたたむことのできるフォルダブルスマートフォン(図6)、ロール状に収納された画像表示装置61を引き出して用いることのできるローラブルスマートフォン(図7)等の端末も挙げられる。
【0147】
また、上記画像表示装置61は、情報処理装置の入出力インターフェースとしての機能を有してもよく、情報処理装置の各種処理結果を出力する出力インターフェースや、情報処理装置に対して操作を行うタッチパネルなどの入力インターフェースとしての機能を有してもよい。情報処理装置のその他の構成として、特に限定されないが、典型的には、プロセッサ、有線又は無線の通信を制御する通信インターフェース、画像表示装置以外の入出力インターフェース、メモリ、ストレージ及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バスなどを備えることができる。
【実施例
【0148】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。評価方法及び原料を以下に示す。
【0149】
[評価方法]
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製「DSC 6220」)を用い、アルミパンに試料を入れ、JIS K 7121に準拠して、30℃から200℃の範囲でTgを測定した。
【0150】
(分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィ(東ソー(株)製、「HLC-8120GPC」)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で、重量平均分子量Mwを測定した。
【0151】
(Ro、Rth、複屈折特性)
リタデーション測定装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃で、延伸フィルムのRo(450)、Ro(550)、Rth(550)及びnx、ny、nzを測定した。
【0152】
複屈折特性における「nx=ny」とは、nxとnyが厳密に等しい場合のみならず、nxとnyが実質的に等しい場合も包含する。例えば、下記式Nz係数が-10未満であれば、nx=nyのポジティブCプレートとみなすことができる。
【0153】
また、「nx=nz」の記載は、面内の屈折率(nxまたはny)と厚み方向の屈折率nzが必ずしも完全に一致する必要はない。例えば、下記式Nz係数が-0.1より大きく0.1未満であれば、nx=nzのネガティブAプレートとみなすことができる。Nz係数は別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。
【0154】
(平均厚み)
測厚計((株)ミツトヨ製「マイクロメーター」)を用いて、フィルムの長手方向に対して、チャック間を等間隔に3点測定し、その平均値を算出した。
【0155】
[原料]
(合成例1:FDPm:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン(又はフルオレン-9,9-ジプロピオン酸)のジメチルエステル])
1,4-ジオキサン200mL、フルオレン33.2g(0.2モル)を反応器に入れ、撹拌することによってフルオレンを溶解させた後、10℃に冷却した状態で水酸化トリメチルベンジルアンモニウムの40重量%メタノール溶液(東京化成(株)製「トリトンB40」)3.0mLを滴下し、30分撹拌した。次に、アクリル酸メチル37.9g(0.44モル)を加えて、約3時間撹拌した。反応終了後、トルエン200mL、0.5N塩酸50mLを加えて洗浄した。水層を除去した後、有機層を蒸留水30mLで3回洗浄した。溶媒を留去することにより、9,9-ビス(プロピオン酸メチル)フルオレン[9,9-ビス{2-(メトキシカルボニル)エチル}フルオレン]84.0g(収率99%)で得た。さらに、70℃のイソプロピルアルコール300mLに溶解させた後、10℃まで冷却することにより再結晶させた結果、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレンを得た。
【0156】
(合成例2:DNFDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン)
反応器内に2,7-ジブロモフルオレン192.3g(0.39mol)、2-ナフチルボロン酸200g(1.2mol)、ジメトキシエタン4.3L、および2M炭酸ナトリウム水溶液1Lを仕込み、窒素気流下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[またはPd(PPh3)4]22.4g(19.4mmol)添加し、内温71~78℃にて5時間加熱還流して反応させた。室温まで冷却後、トルエン2.0Lおよびイオン交換水500mLを加え、5回分液抽出して洗浄した。有機層は濃橙色から褐色に変化した。不溶物をろ過、濃縮し、褐色の粗結晶305gを得た。得られた粗結晶を酢酸エチル1.5kgとイソプロピルアルコール(IPA)300gとの混合液にて加熱溶解させた後、氷水で10℃以下まで冷却し、1時間撹拌して、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥させ、灰褐色結晶130gを得た。得られた灰褐色結晶をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル担体、展開溶剤 クロロホルム:酢酸エチル(体積比)=4:1)で精製した後、メタノールで再結晶し、減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(DNFDP-m)116g(白色結晶、収率54.9%)、HPLC純度99.4面積%)を得た。
【0157】
以下の説明における略称は、それぞれ下記のものを示す。
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製。
EG:エチレングリコール。
PA:ポリアミド、トロガミドCX7323、ダイセル・エボニック(株)製。
【0158】
[製造例1]
DNFDP-m1.00モル、EG2.20モルに、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物2×10-4モル及び酢酸カルシウム・1水和物8×10-4モルを加え、撹拌しながら徐々に加熱溶融した。230℃まで昇温した後、トリメチルホスフェート14×10-4モル、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、270℃、0.13kPa以下に到達するまで、徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを調製した。
【0159】
得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の100モル%がDNFDP-m由来であり、導入されたジオール成分の100モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは138℃、重量平均分子量Mwは90,000であった。本樹脂を樹脂Aと称する。
【0160】
[製造例2]
原材料をDNFDP-m1.00モル、BPEF0.80モル、EG2.20としたこと以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル樹脂を調製した。得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の100モル%がDNFDP-m由来であり、導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来、20モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは162℃、重量平均分子量Mwは90,000であった。本樹脂を樹脂Bと称する。
【0161】
[製造例3]
原材料をDNFDP-m0.50モル、BPEF0.80モル、FDPm0.50モル、EG2.20モルとしたこと以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル樹脂を調製した。得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の50モル%がDNFDP-m由来、50モル%がFDPm由来であり、導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来、20モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは142℃、重量平均分子量Mwは90,000であった。本樹脂を樹脂Cと称する。
【0162】
[製造例4]
原材料をDNFDP-m0.75モル、BPEF0.2モル、FDPm0.25モル、EG2.80モルとしたこと以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル樹脂を調製した。得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の75モル%がDNFDP-m由来、25モル%がFDPm由来であり、導入されたジオール成分の20モル%がBPEF由来、80モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは127℃、重量平均分子量Mwは90,000であった。本樹脂を樹脂Dと称する。
【0163】
[製造例5]
原材料をFDPm1.00モル、BPEF0.80モル、EG2.20モルにとしたこと以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル樹脂を調製した。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは126℃、重量平均分子量Mwは43,600であった。本樹脂を樹脂Eと称する。
【0164】
[実施例1~6、比較例1]
上記製造例1~5で作製した各樹脂ペレット約1gを乾燥後、ポリイミドフィルムを敷いた縦12cm、横12cm、厚さ0.1mmのスペーサー2枚に挟み、真空加熱プレス装置((株)井元製作所製 「11FD型」)を用いて樹脂のガラス転移温度Tgより20℃~40℃高い温度で5MPaの圧力下で10分間真空加圧し、その後スペーサーごと取り出し、冷却して未延伸フィルムを作製した。
【0165】
この各種未延伸フィルムを、それぞれテンター延伸装置を用いて表1に記載の延伸条件で自由端一軸延伸した。得られた延伸フィルムの各種物性測定を行い、その結果を表1に示す。
【0166】
[実施例7~11、比較例2~3]
上記製造例1~2,5で作製した各樹脂ペレットをそれぞれテトラヒドロフランで30%の濃度になるよう溶解させ、これらをPAフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で8時間乾燥することで、表2に記載の通りの未延伸積層フィルムを作製した。
【0167】
この各種未延伸フィルムを、それぞれテンター延伸装置を用いて表2に記載の延伸条件で自由端もしくは固定端一軸延伸した。得られた延伸フィルムの各種物性測定を行い、その結果を表2に示す。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
表1から明らかなように、本発明のポリエステル樹脂は、従来の側鎖にフルオレン環を有するポリエステル樹脂と比較して非常に高い位相差値と波長分散性を有することが確認された。また、いずれの材料も厚み方向の位相差Rthが負の値になり、これらがネガティブAプレート、ポジティブBプレート及びポジティブCプレートとして表示装置の視野角補償に利用可能な材料であることが示された。
【0171】
表2から明らかなように、本発明のポリエステル樹脂を含む層を正の位相差を持つフィルムと積層することにより位相差の波長分散が逆分散性を示す位相差フィルムとすることができた。これらの位相差フィルムは従来知られていた延伸によって配向処理をした1/4λ位相差フィルムを、より薄膜化できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の位相差フィルムは、厚み方向の位相差Rthが負の値になり、薄膜で十分な位相差が得られ、脆さがなくハンドリングしやすいものであるので、好適なネガティブAプレートやポジティブBプレートやポジティブCプレートとすることができる。さらに、正の固有複屈折を持つ樹脂層と積層したフィルムとすることにより、位相差の波長分散が逆分散性を示す薄膜の1/4λ位相差フィルムとすることも可能である。これらの位相差フィルムは偏光板と積層することで視野角補償機能をもたせることができ、前記偏光板を備えた画像表示装置(例えば、反射型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、有機EL表示装置など)に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0173】
10…位相差フィルム、11…ポリエステル樹脂層、12…正の固有屈折を持つ樹脂層、20,30…偏光板、21,23,31,33,35…接着剤層、22,34…偏光子、24,32,36…偏光子保護フィルム、40…有機EL表示装置、41…有機EL表示パネル、42…タッチセンサ、43…前面板、50…液晶表示装置、51…光源、52…液晶パネル、53…前面板、60…情報処理装置、61…画像表示装置、62…画像表示装置収納部。
【要約】
【課題】位相差の発現性が高くハンドリング性に優れ、より安価で薄型な位相差フィルム及びその製造方法、前記位相差フィルムを備えた偏光板、前記偏光板を備えた画像表示装置、並びに前記画像表示装置を備えた情報処理装置を提供する。
【解決手段】アリール化フルオレンを側鎖に有するポリエステル樹脂を成膜及び延伸することで薄膜の負の位相差板とするほか、該樹脂を正の固有複屈折を有する樹脂と積層後に延伸することで逆波長分散性を有する1/4λ位相差フィルムを製造する。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7