(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】磁気共鳴画像撮影装置の画像の分析方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20220131BHJP
【FI】
A61B5/055 376
A61B5/055 380
(21)【出願番号】P 2021536415
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2019073545
(87)【国際公開番号】W WO2020049025
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-17
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521087232
【氏名又は名称】パースペクトゥム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バーガー,アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ハットン,ドクター クロエ
(72)【発明者】
【氏名】アービング,ベン
(72)【発明者】
【氏名】ギンゲル,マイケル エル
(72)【発明者】
【氏名】ロブソン,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ブレイディー,マイケル
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107167752(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0310035(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0033605(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0214781(US,A1)
【文献】国際公開第2011/080693(WO,A1)
【文献】特開2003-061928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0167314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/20 -33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に関して任意のエコー時間において取得された画像に関する磁気共鳴撮像(MRI)データのマグニチュードを分析して、前記画像の各ボクセルへの少なくとも2つの種の相対的な信号寄与を判定する方法であって、前記方法は、
前記検体からの画像のマルチエコーMRIデータのみのマグニチュードを用いるステップであって、前記画像は非対称のエコー時間において取得されるステップと、
複数の異なる開始条件
値を用いて前記複数の
異なる開始条件
値のそれぞれに関する特定の剰余値を生成することによって、前記非対称のエコー時間において取得されたマルチエコーMRIデータのマグニチュードを単一の信号モデルに適合させて、前記モデルから前記少なくとも2つの種のそれぞれに関する相対的な信号寄与に関する複数のポテンシャル解を生成するステップであって、
前記開始条件値は、複素数値ベクトルの計算を開始するための所定のパラメータであり、前記剰余値は、前記MRIデータに関するフィールドマップの項と無関係であるステップと、
前記剰余値を分析して、前記画像の各ボクセルにおいて各種に関する相対的な信号分離寄与を計算するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記剰余値の分析が、
生成された剰余値を比較して、いずれが前記信号分離に関する正解であるかを判定するステップ
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記種の最も低い剰余値が、前記信号に関する正解であると判定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マルチエコーMRIデータのマグニチュードが、最小二乗推定を用いて前記単一の信号モデルに適合される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記最小二乗推定が正則化最小二乗推定である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記単一の信号モデルが、1つより多いスペクトル成分を有する、前記少なくとも2つの種のうちの1つのスペクトルモデルを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記単一の信号モデルが、信号減衰を補正するための緩和時間定数(T
1、T
2、T
2
*)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記緩和時間定数の開始条件値が物理的に観測可能な範囲内にある、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記緩和時間定数の開始条件値が1乃至100msの間にある、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記緩和時間定数の開始条件値が20乃至30msの間にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記種の信号寄与を用いて、各種に関する結果を示す別々の画像を生成するステップをさらに含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記別々の画像のうちの1つ以上が後処理される、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
分離された種の寄与が、フィールド不均一(「フィールドマップ」)の項を推定するのに用いられる、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
推定された緩和時間定数が、フィールド不均一(「フィールドマップ」)の項を推定するのに用いられる、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも2つの種が、水、脂肪、超偏極コントラスト要素またはそうした要素の代謝物、およびがん細胞の存在に関するマーカーのうちの少なくとも2つを含む、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
特定のボクセルにおける適合された値が、前記ボクセルにおける少なくとも1つの種の存在の尤度マップを更新するのに用いられる、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
検体に関して任意のエコー時間において取得された画像に関する磁気共鳴撮像(MRI)データのマグニチュードを分析して、前記画像の各ボクセルへの少なくとも2つの種の相対的な信号寄与を判定するように構成されている画像処理システムであって、前記画像処理システムは、
前記検体からの画像のマルチエコーMRIデータのみのマグニチュードを用いることであって、前記画像は非対称のエコー時間において取得されることと、
複数の異なる開始条件
値を用いて前記複数の
異なる開始条件
値のそれぞれに関する特定の剰余値を生成することによって、前記非対称のエコー時間において取得されたマルチエコーMRIデータのマグニチュードを単一の信号モデルに適合させて、前記モデルから前記少なくとも2つの種のそれぞれに関する相対的な信号寄与に関する複数のポテンシャル解を生成することであって、
前記開始条件値は、複素数値ベクトルの計算を開始するための所定のパラメータであり、前記剰余値は、前記MRIデータに関するフィールドマップの項と無関係であることと、
前記剰余値を分析して、前記画像の各ボクセルにおいて各種に関する相対的な信号分離寄与を計算することと、
を行うように構成されている少なくとも1つの処理デバイスを備える、画像処理システム。
【請求項18】
その中に実行可能なプログラムコードを格納している非一時的なコンピュータプログラム製品であって、前記プログラムコードは、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法により、磁気共鳴撮像(MRI)データのマグニチュードを分析するために動作可能である、非一時的なコンピュータプログラム製品。
【請求項19】
前記非一時的なコンピュータプログラム製品が、ハードディスク、CD-ROM、光学ストレージデバイス、磁気ストレージデバイス、読み取り専用メモリ(ROM)、プログラマブル読み取り専用メモリ(PROM)、消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ(EEPROM)、及びフラッシュメモリを含む群からの少なくとも1つを備える、請求項18に記載の非一時的なコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像撮影装置(MRI)の画像の分析方法に関し、詳細には、水及び脂肪及びプロトン密度脂肪率(PDFF)推定などの、様々な化学種の寄与を切り離すようにMRI信号を用いることに関する。
【背景技術】
【0002】
MRI画像を形成するデータは、k空間として知られる表現において収集される。MRI画像を生成するために、フーリエ変換として知られる数学的プロセスが次いでこのk空間表現に適用される。フーリエ変換は、実部R(x,y)及び虚部I(x,y)を備える複素数である値を生成する。しばしば、これらは組み合わされてマグニチュードM(x,y)=
【数1】
を形成するが、位相
【数2】
を用いる事前作業も大量に存在する。明らかに、マグニチュード及び位相は、実数値及び虚数値から計算することができ、逆に、実数値及び虚数値は、マグニチュード及び位相値から計算することができる。
【0003】
MRI画像は、ボクセルの集合から構成される。MRI画像データを分析して、画像のボクセルxごとの水の量w(x)及び脂肪の量f(x)(または他の種)を、それらがそのボクセルにおける唯一のタイプの組織であると仮定して、判定することができる。これらの値を用いて、比率PDFF(x)(プロトン密度脂肪率)を報告することができる。w、f、PDFFの推定は、後述するように空間的に変化するフィールドB
0(x)または
【数3】
に影響される。
【0004】
マルチエコー化学シフトエンコード(CSE)水-脂肪分離MRI法は、完全な脂肪抑制に対してかつプロトン密度脂肪率(MRI-PDFF)定量化に対して、信頼性及び再現性が高まってきている。これら方法は、水と脂肪の歳差運動周波数の差を利用して、脂肪含量を推定し、組織学的脂肪症グレーディング及び分光測定に対して検証されてきた(参照文献1-23)。
【0005】
現在まで、大部分の高度なCSE法は、複合ベースであり、MRI信号のマグニチュード及び位相の両方を用いるものであり、かつ、MRI-PDFFを、(本質的に避けられない)B0の不均一性の測定値である「フィールド マップ」または「フィールドマップ」を最初に推定することによって、間接的に計算するものである(参照文献7、10、11、13、16、17、24-30)。MRI画像のボクセルにおける水含量と脂肪含量-及びそれらの比率MRI-PDFF―は、フィールドマップ値が利用可能ならば固有に判定され得る。しかしながら、フィールドマップ推定は、複数の許容解または局所的な極小値を伴う非自明な最適化問題である。収束は、初期化の影響を受け、不正確な水及び脂肪の測定につながり得る、実際つながることが多く、しばしば優勢な種の誤同定を伴う(「脂肪-水スワップ」アーチファクト)。この問題を軽減するために、いくつかのフィールドマップ推定アルゴリズムは、空間正則化を用いるが、粗悪なシミング;局所磁化率(例えば空気-組織境界面による);または肝臓の鉄過剰の場合、平滑性を示すことが保たれない場合がある。
【0006】
Dixon(5)は、別々の脂肪と水の画像を取得するために、静磁場下における水と脂肪信号の歳差運動周波数の既知の差を利用した。これは、2つの画像:1つは、水と脂肪の信号が同位相になると予測される画像であり;もう1つは、それらが逆位相になると予測される画像を取得することによってなされた。この方法は、静磁場がどこでも同じであるという仮定(B
0の均一性と称される状況)に依存する。しかしながら、文献において広く報告されているように、臨床業務においてこの仮定は現実的ではない。不均一な(すなわち空間的に変化する)B
0は、「フィールドマップ」と称され、数学的に
【数4】
と示される。
【0007】
この実施上の難しさを克服するために、Glover(31)は、3つの取得:1つは、所望のエコー時間を中心とする取得;他の2つは、エコー時間の前後に対称的に配置された取得を行うことによって、B0の不均一性を考慮に入れた修正版「3-pt Dixon」法を提示した。しかしながら、そうした対称配置された取得はノイズ性能が悪いことが、Reederら(11)によって示された。
【0008】
Reederら(11)及び米国第7,176,683号は、非対称な取得が可能であり、水-脂肪分離のノイズ性能を高める、エコー非対称及び最小二乗推定(IDEAL)法を用いる水と脂肪の反復分解を記述している。取得画像から水と脂肪を分離するのに2つのステップが含まれる。第1に、フィールドマップが推定される。次いで、第2のステップにおいて、ピクセル単位の反復最小二乗法をまず用いて、各ピクセルにおける水と脂肪の比率を推定する。この方法は、非線形方程式を2ステッププロセスへと線形化する線形最小二乗推定プロセスを用いる。
【0009】
Reederはまた、ピクセル値は正則化された種分解を用いて空間的に組み合わせられ得ることも発見しており(米国第7,508,211号)、Yuら(24)における例示的な方法を提示した。これは、IDEAL処理の初期推定となる「信頼できる」フィールドマップを取得するために、隣接するピクセル間のフィールドマップの推定を相関付けるための領域成長スキームが続くダウンサンプリングに基づくものである。この手法は、フィールド マップが緩やかに変わっていると仮定する。
【0010】
フィールドマップ推定アルゴリズムは、始まりの「シード」の選択(Yuら(24)における領域成長手法を参照)及びノイズに非常に影響を受けることがあり、そのことは、空間を通る誤差伝搬につながり得る。Solimanら(29)は、主に様々な平滑性条件(変数投影(VARPRO)、水-脂肪分離用のグローバルセグメントアセンブリを介した合同不均一性推定(JIGSAW)、マルチエコー信号に対する脂肪尤度解析(FLAME))を課すことによって、フィールドマップを推定する他の方法を説明する。彼らは次いで、その後ひいてはIDEAL処理によって用いられる、フィールドマップの初期推定を計算する最大フローアルゴリズムに依存する、それぞれのMax-IDEALを提示する。
【0011】
Yuら(17)、Caussyら(3)、及び他の多くの文献は、可能な値の全範囲、すなわち0%(水)から100%(純脂肪)をカバーする脂肪-水率推定を取得するために、位相画像及びマグニチュード画像の両方を用いる(「複合」の場合)ことが必要であると主張している。彼らは、マグニチュード法「単独」が用いられる場合、50%を上回る真の脂肪率値を50%を下回る値にエイリアス化されるようにする不可避の脂肪-水の曖昧性が存在すると考える(3、15、17)。この主張が現在当分野で一般に受け入れられている。
【0012】
Yuら(32)及び米国第8,373,415号は、脂肪のスペクトル複雑性に関する情報を利用して、複合ソースデータならびに2つの信号モデル:単一ピークモデル及びマルチピークモデルからの計算されたフィールドマップ値を用いて「脂肪尤度」マップを判定するマルチエコー信号の脂肪尤度分析(FLAME)法を提示する。この方法は、複数解を生成する。脂肪尤度マップは、フィールドマップに関する平滑性仮定及び反復領域成長アルゴリズムと組み合わされて、水-脂肪の曖昧性を解決する。しかしながら、フィールドマップ最適化空間は、無限最小値を含み、非対称エコーの一般的場合において周期的である必要はない。さらに、ノイズが、大域的な最小値および極値を変化させるコスト関数値を破損させ得、脂肪率推定の不正確さにつながる。
【0013】
米国特許第第8,957,681 B2は、同位相および逆位相(IP/OP)エコー取得の特定の場合において、水-脂肪の曖昧性は、複数のピークを有する脂肪モデルが用いられるとき、同位相エコーのみのマグニチュードを適合することによって除去される。第2のシーケンシャルステップにおいて、逆位相エコーを用いて、同位相エコーのみを用いた第1のステップで取得された画像の信号対ノイズ比を改良かつ向上させる。しかしながら、シーケシャルIP/OP取得を用いることの欠点が存在することが知られている。とりわけ、長いスキャン時間及びそれらのノイズ性能及びそのPDFFへの依存であり、これらは、非対称エコーではそれほど懸念ではない(11)。また、シーケンシャルIP/OP取得は、少数のエコーのみがノイズに対する信号に対応するので、高速信号減衰(例えば肝臓の鉄過剰による)の場合、不良なSNRにつながる(33)。
【0014】
米国特許第10,359,488 B2、及びZhongら(34)におけるその方法の例は、脂肪-水スワップを回避することを意図しかつ複合またはマグニチュード適合のいずれかを用い得る2ステップの手順を提示する。第1のステップにおいて、測定された水及び脂肪の値(それぞれMw1及びMf1)のセットが取得される。次いで、これらの測定された量が「スワップされ」(Mw2=Mf1及びMf2=Mw1)、それらのコスト関数が評価され、より良い適合を備えた測定された水及び脂肪の値のセットが、方法の出力として選択される。
【0015】
他の研究、例えば米国特許第10,359,488 B2は、R1、R2またはPDなどの、第1のステップにおいて組織検体の緩和特性を推定しようとし、第2のステップにおいて、これらを、水と異なる組織タイプからの信号への寄与を識別するために、水 R1、R2及びPDに関する固定的仮定とともに組織モデルに供給する。米国特許第10,359,488 B2において、組織分離は、水緩和パラメータに関する経験的仮定を伴う後処理ステップである。
【0016】
図1は、様々な処理技術を用いて取得された様々な異なるMRI PDFF画像を示す。上部左側の図(a)は、画像を生成するマグニチュード及び位相データである複合データ全てを使用して、既知のIDEAL法を用い取得されたMRI画像を示す。この画像はまた、領域成長正則化アルゴリズムを用いて生成されたものであり、領域成長正則化アルゴリズムは、特定の場合、すなわち脂肪-水スワップアーチファクトの原因となる画像(a)にわたる誤差伝搬が存在し得る場合において、欠点となり得ることを示す。それらの場合、領域成長正則化のない元々のIDEAL処理(画像b)が用いられ得る。画像(c)は、マグニチュードデータのみを用いるIDEAL処理法の結果である画像を示す。画像(d)は、差画像であり、差画像(d)によって示すように、皮下脂肪推定は、50%を下回る値にエイリアス化される。このことは、マグニチュード-IDEAL法をデータ分析における最終的な好ましい選択肢とし、マグニチュードベースの方法が一般に不評である主な理由となる。
【0017】
上で説明したような複合ベース(CSE)法は広く用いられるが、それらは、位相画像の利用可能性及び信頼性を仮定しており、このことは研究室において信頼できる仮定であり得るが、特定のスキャナメーカー及びモデルを含む一般臨床業務において通常、課題となる。このことは、単一の標準化されたベンダー間共通アプローチとしての、複合ベース法の使用を妨げ得る。一般に、位相情報は、臨床業務において容易に利用可能ではなく、または、利用可能である場合、それは信頼できないことがある。このことは、部分的には、データの実部及び虚部の誤差によるものである。例えば、実部R(x,y)の誤差がdRであり、虚部I(x,y)の誤差がdlである場合、位相データdPにおける相対的誤差は、マグニチュードデータdMにおける相対的誤差よりもはるかに大きいだろう。
【0018】
これらの理由により、マグニチュードベース(またはマグニチュードのみ)の方法が提案されてきた。位相誤差に影響を受けないことに加え、マグニチュードベースの方法の大きな利点は、事前フィールドマップ推定(または誤差を伝搬し得る任意の関連する過程)を必要とせず直接的なMRI-PDFF推定を可能とすることである。しかしながら、マグニチュード方法の採用は、50%を上回るMRI-PDFF値を判定することが不可能であると考えられるため、限定されてきた。このことは、マグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性として知られている。本質的に、脂肪優勢のピクセル(例えば、腹部撮像における皮下脂肪領域)は、50%を下回るMRI-PDFF値にエイリアス化され、「スワップされた」ように見え、それは、(a)撮像されている身体の以前の利用可能な情報がないときに誤診につながり得、かつ(b)肝脂肪推定を考慮している臨床医の自信をなくさせ得る。しかしながら、例えば渦電流による位相誤差はMRI-PDFF測定に臨床的に影響を与え得るので、ハイブリッド法が生み出された:複合ベースの推定がまず用いられてフルダイナミックレンジ(0~100%)にわたってMRI-PDFFを解決し得、それから、マグニチュードベースの推定が推定値を改良する。
【0019】
脂肪-水率は大抵、肝実質内のボクセルにおいて50%を下回るが、率は一般に、(例えば)内臓脂肪に対応するボクセルにおいて50%よりはるかに高い。現行の実施において、フルダイナミックレンジ(0~100%)内の脂肪率推定の計算は、位相データ及び正確なフィールドマップ推定を用いることに依存する。しかしながら、(i)臨床業務において位相ひずみが存在することが多く、かつ/または、(ii)位相情報は、信頼できない、または、多くの場合、単に利用不可能のいずれかであり得る。これに対して、マグニチュードデータは、常に利用可能であり、ほとんどの場合、信頼可能である。
【0020】
Bydderら(15)は、脂肪率を推定するのにマグニチュードデータのみを用いる、複雑レベルが増した、異なる信号モデルを提示する。これらのモデルは、既知のマグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性にさらされる。
【0021】
マルチエコー信号のマグニチュードに基づく現在の種分離法は、(a)適合の際に少なくとも2つの信号モデルを用いること;(b)実質的に同位相のエコー時間、または(c)撮像されている検体に関する事前知識のいずれかを必要とする(真の収束値とエイリアス化された推定値の混同を回避するために)。
【発明の概要】
【0022】
本発明の第1の態様の例示的な実施形態によれば、検体の取得されたMRI画像からの磁気共鳴画像撮影装置(MRI)データのマグニチュードを分析して、画像の各ボクセルへの少なくとも2つの種の相対的な信号寄与を判定する方法が提供される。この方法は、検体からの画像のマルチエコーMRIデータのマグニチュードを用いるステップであって、画像は、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーにおいて取得される、用いるステップと;複数の異なる開始条件を用いて複数の開始条件のそれぞれにおける特定のコスト関数値を生成することによって、上記の取得されたマルチエコーMRIデータのマグニチュードを単一の信号モデルに適合させて、モデルからの少なくとも2つの種のそれぞれにおける相対的な信号寄与の複数のポテンシャル解を生成するステップであって、上記コスト関数値は、MRIデータに対するフィールドマップの項と無関係である、適合させるステップと;上記コスト関数値を分析して、画像の各ボクセルにおける各種の相対的な信号分離寄与を計算するステップとを含む。
【0023】
好ましくは、上記コスト関数値の上記分析は、生成されたコスト関数値を比較して、いずれが上記信号分離における正解であるかを判定するステップを含む。
【0024】
さらに好ましくは、上記種の最も低いコスト関数値が、上記信号における正解と判定される。
【0025】
本発明の例において、上記マルチエコーMRIデータのマグニチュードは、モデル適合アルゴリズムを用いて上記単一の信号モデルに適合される。上記モデル適合アルゴリズムは、最小二乗推定、反復再重み付け最小二乗、最小トリム二乗、またはm-推定もしくはs-推定を用いる他の堅固なアプローチのインスタンスであり得る。それらはいずれも、ゼロ、1、またはより多くの正則化項と組み合わされ得る。
【0026】
本発明の例において、単一の信号モデルは、1つより多いスペクトル成分を有する少なくとも2つの種の1つのスペクトルモデルを含む。
【0027】
好ましくは、上記単一の信号モデルは、信号減衰を補正するための緩和時間量(T1、T2、T2
*)の少なくとも1つを含む。
【0028】
本発明の実施形態において、緩和時間量の開始条件値は、物理的に観測可能な範囲にある。好ましくは、T2
*緩和時間量の開始条件値は、1~100msの間にある。さらに好ましくは、T2
*緩和時間量の開始条件値は、1.5テスラにおいて20~30msの間にある。代替として、3.0テスラ動作において、T2
*緩和時間量の開始条件値は、10~15msの間にある。
【0029】
本発明の例において、方法はさらに、上記種の信号寄与を用いて、各種に対する結果を示す別々の画像を生成するステップを含む。
【0030】
好ましくは、結果として得られる画像の1つまたは複数は、後処理される。
【0031】
本発明の例において、分離された種の寄与を用いて、フィールド不均一(「フィールドマップ」)の項を推定する。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、推定された緩和量を用いて、フィールド不均一(「フィールドマップ」)の項を推定する。
【0033】
さらに好ましくは、少なくとも2つの種は、水、脂肪、超偏極コントラスト要素もしくはそうした要素の代謝物、またはがん細胞もしくは悪性細胞の存在のマーカーのうちの少なくとも2つを含む。
【0034】
本発明の例において、方法は、ファントムモデルの取得されたMRIデータに適用される。
【0035】
本発明の例において、方法は、肝臓、すい臓、腎臓、脾臓、心臓、筋肉または脂肪組織の少なくとも1つからの組織を含むヒト組織の取得されたMRIデータに適用される。
【0036】
本発明の例において、特定のボクセルにおけるコスト関数値を用いて、ボクセルにおける少なくとも1つの種の存在の尤度マップを更新する。
【0037】
本発明の別の態様によれば、検体の取得されたMRI画像からの磁気共鳴撮影装置(MRI)データのマグニチュードを分析して、画像の各ボクセルへの少なくとも2つの種の相対的な信号寄与を判定するように構成されている画像処理システムであって、検体からの、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーにおいて取得される、画像のマルチエコーMRIデータのマグニチュードを用い;複数の異なる開始条件を用いて複数の開始条件のそれぞれにおける、MRIデータに対するフィールドマップの項と無関係である特定のコスト関数値を生成することによって、上記のマルチエコーMRIデータのマグニチュードを単一の信号モデルに適合させて、モデルからの少なくとも2つの種のそれぞれにおける相対的な信号寄与の複数のポテンシャル解を生成し;上記コスト関数値を分析して、画像の各ボクセルの各種における相対的な信号分離寄与を計算するように構成されている少なくとも1つの処理デバイスを備える画像処理システムも提供される。
【0038】
本発明の態様によれば、非一時的なコンピュータプログラム製品が提供される。非一時的なコンピュータプログラム製品は、格納されている実行可能なプログラムコードを有し、プログラムコードは、上述の方法のいずれかに関連してMRIデータのマグニチュードを分析するのに動作可能である。
【0039】
非一時的なコンピュータプログラム製品は、ハードディスク、CD-ROM、光学ストレージデバイス、磁気ストレージデバイス、読み取り専用メモリ、ROM、プログラマブル読み取り専用メモリ、PROM、消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ、EPROM、電気的消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ、EEPROM及びフラッシュメモリを含む群の少なくとも1つを備える。
【0040】
本発明の例は、マグニチュードデータのみを用い、位相情報を全く必要としない、マルチエコー信号のマグニチュードのみに基づく種分離法に関する。方法は、生物学的に正確な信号モデルを用い、多点探索最適化を具現化する。本発明のモデルは、フルダイナミックレンジ(0%~100%)にわたって優勢な種を解決可能であり、同位相エコー、または1つより多い信号モデル、または撮像されている身体に関する事前情報を用いる必要がない。
【0041】
既存の方法(導入部で説明したような)はまず、B0(x)を、それからw(x)を推定する。対照的に、本発明の方法は、w(x)を直接推定することができ、したがって、導入部で説明した既存の方法の課題を克服する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、マグニチュードのみの画像が用いられ、種(本発明の好ましい例において、種は脂肪及び水である)の推定は、フィールドマップを初めに推定することに依存しない。結果的に、脂肪及び水の推定は、任意のフィールドマップ推定プロセスによる不確実性または不正確性に対して本質的に不変である。さらに、位相画像は、フルダイナミックレンジ内の脂肪率推定を達成するのに必要とされない。しかしながら、当業者は、MRIデータのマグニチュードを適合するときに取得された画像の信号対ノイズ比を向上させるために、フィールドマップは後に推定され得ることに留意し得る。以下で説明する方法は、ユーザが、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む、エコー時間とエコー間隔の任意の組み合わせを選択することを可能とする。すなわち、本発明の方法は、特定のエコーのセットに限定されるものではない。説明したように、関心のある主の種は脂肪及び水であるが、本発明は、シリコーン、炭素-13、キセノン-19及びヘリウム-3などの偏極コントラスト要素、そうした偏極コントラスト要素の代謝物、また、腫瘍、がんまたは例えばピルビン酸塩及び乳酸塩を含む他の悪性物質のインジケータであり得る有機物質を含む他の種に対しても用いられ得る。
【0043】
本発明のさらなる詳細、態様および実施形態を、図面を参照して単なる例として説明する。図面において、同様の参照番号は、同様のまたは機能的に類似の要素を識別するのに用いられる。図の要素は、簡潔さ及び明確さのために例示されるものであり、必ずしも縮尺通りに描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】従来技術を用いて取得されたMRI PDFF画像の図である。
【
図4】スペクトルピーク及びエコーシフトを用いるマグニチュード関連の水脂肪の曖昧性の図である。
【
図5】本発明の例で用いられる例示的なコスト関数値マップの図である。
【
図6】本発明の方法を用いて取得された例示的なMRI PDFF画像の図である。
【
図7】本発明の方法を用いて取得されたMRI PDFF画像の図である。
【
図8】様々な条件下で取得された画像における測定されたPDFFと真のPDFFの関係の図である。
【
図9】本発明の方法に関わるステップを示す流れ図である。
【
図10】従来技術の測定値と本発明を用いて取得された測定値の一致度(絶対及びBland Altman)の図である。
【
図11】従来技術の方法から取得されたMRI PDFF画像と本発明の方法から取得されたMRI PDFF画像の比較の図である。
【
図12】フィールドマップ及び従来技術の方法の場合のMRI PDFF画像、及び本発明の方法を用いて取得されたMRI画像の図である。
【
図13】フィールドマップ、従来技術の方法及び本発明の方法を用いて取得されたMRI PDFF画像及び分布の図である。
【
図14】フィールドマップ、従来技術の方法及び本発明の方法を用いて取得されたMRI PDFF画像及び分布の図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーにおいて取得される、MRI画像からのマグニチュードデータのみを分析する方法及び装置の例が示される添付図面を参照して、本発明をここで説明する。この方法では、位相情報は必要とされない。しかしながら、本発明は本明細書中で説明され添付図面に示されるような具体的な例に限定されるものではないことが理解されよう。
【0046】
さらに、本発明の示された実施形態は、ほとんどは、当業者に既知の電子部品及び回路を用いて実装され得るので、本発明の基盤となる概念の理解及び認識のために、かつ本発明の教示を曖昧にしないまたは妨げないために、以下に示すような必要と考えられること以上には詳細に説明しない。
【0047】
上述のように、MRI画像における種の分離(種は好ましくは水及び脂肪である)の方法のほとんどは、複合データに基づくものであり、すなわち、それらは、画像の水及び脂肪の成分を推定するのに用いられることになるフィールドマップを推定するために、マグニチュード及び位相データの両方の利用可能性に依存する。
【0048】
水、脂肪及び鉄(または他の種)を含む単一のボクセルにおける磁気共鳴信号s
iが、緩和中、複数のエコー時間t
iにおいてサンプル化され得る。一般の複素数値信号において、以下の位相抑制モデルが提案されている。
【数5】
p
w及びp
Fはそれぞれ未知の水及び脂肪の量であり、R
*
2=1/T
*
2(s
-1)は未知の緩和量である。p
w及びp
Fは、関連する位相の項
【数6】
及び
【数7】
を有する実数値変数であり、
【数8】
と仮定され得る。
【0049】
上記の式において、siは、実際si(x)であり、pwはpw(x)であるが、空間パラメータ(x)の明確な記述は式を雑然とさせるので、そのxは式において削除されるのが慣行である。
【0050】
フィールドマップ
【数9】
は、位相シフトとしてモデル化される。信号はさらに、後続の微分で通常無視されるノイズ(n
i)に影響され、十分に高い信号対ノイズ比(SNR)取得を暗に仮定する。PDFFは、
【数10】
を用いて、水及び脂肪の量から計算され得る。
項
【数11】
は、P個のピークを備えたマルチピーク脂肪スペクトルモデルであり、
【数12】
は、水のピークの振幅に対する脂肪ピーク
【数13】
の振幅であり、
【数14】
は、Hzにおける水のピークに関する脂肪ピーク
【数15】
の歳差運動周波数の差である(16、38)。全
【数16】
に対する値
【数17】
は、経験的に知られており、画像全体にわたって一定であると仮定するのが通常手段である。
【0051】
マグニチュードベースの水-脂肪分離法は50%を上回るPDFF値を判定することができないという主張は、「脂肪-水の曖昧性」の課題として知られ、数式で説明され得る(Bydderら、2008;Yuら、2011)。マグニチュードベース法の場合、
【数18】
がaのマグニチュードを指す上記の式1は、所与のエコー信号
【数19】
のセットに対して最適化されなければならない。
【数20】
【0052】
予測通り、位相項はゼロになる。フィールドマップパラメータと同様である。
【0053】
MRI画像の個別のかつ全てのボクセルに対して式のセットが存在することに留意されたい。目的は、画像におけるボクセルごとに脂肪-水PDFF=
【数21】
×100率(%で与えられる)を推定することである。問題のマグニチュードのみの定式化において、B
0の不均一性は一般に一定位相シフトとしてモデル化される(各ボクセルにおいて)ので、フィールドマップの項(複合変動からよく知られている)は存在しない。
【0054】
根本的な問題を示すために、当面、脂肪が、単一ピーク
【数22】
を備えたスペクトルを有するとしてモデル化されると仮定し、
【数23】
は
【数24】
となり、そのマグニチュード
【数25】
=1となる。式1はここで、
【数26】
となる。
【0055】
マグニチュードベース法に固有であるとの記述がある脂肪-水の曖昧性は、
【数27】
と
【数28】
の交換により式の値が変わらないという点で、式2において直ちに明らかとなる(Yuら、2011)。両方の解は、実際は1つのみが「真の」解
【数29】
であり、他方がエイリアス化された解
【数30】
となるものの、等しく有効である。
【0056】
【数31】
のままなので、2つの解は単純に関連する。R
*
2は、両方の解に対して等しいことに留意されたい。所与の磁場強度(1.5T);任意のエコーセット({1.2、3.2、5.2、7.2、9.2、11.2}ms);及び真の値
【数32】
に対する最適化空間をシミュレーションし得る。この磁場強度は、一般に利用可能なMRIスキャナの強度として選択され、3Tが「高磁場」と見なされる。真のノイズのない信号
【数33】
を生成し次いで真の信号を空間における各可能な
【数34】
点において生成された信号と比較することによって、「コスト関数値」の連続マップが生成される。
【0057】
図2は、マグニチュードベースの推定を用いるとき、最適化空間が2次元に縮小されている場合(
【数35】
及び
【数36】
は、視覚化を可能とするのに次元縮小するためにPDFFへと組み合され得る;及びR
*
2)、様々な条件下で取得されたコスト関数値マップの例を示す。
図2(a)は、脂肪が単一ピークスペクトルとしてモデル化される最もシンプルなケースを示す。この場合、最適化空間において対称として反映される、解決不可能な脂肪-水の曖昧性が存在する。
図2(b)は、脂肪がマルチピークスペクトルとしてモデル化されるときの結果である。この画像に見られるように、曖昧性は、まだ存在し、極小値として反映されるが、画像にPDFF=50%を中心とする対称性はもはや存在しない。
図2(b)における曖昧性は、異なる初期条件で、本発明の多点探索最適化を用いて解決可能であり得、
図2(c)の画像の上部右側のドットは、選択された解を示す。
【0058】
脂肪のスペクトルが単一ピークから構成されると想定すると、2つの最小値
【数37】
及び
【数38】
が存在し、解決不可能な曖昧性が、
図2(a)に示すように対称的最適化空間によって反映される。これら2つの極小値のいずれが最適化アルゴリズムによって発見されるかの選択は、初期条件によって判定され、かつ、初期条件に影響を受ける。具体的には、以前に記述のあった方法のほとんどの場合のように、アルゴリズムはPDFF=0%近くに初期化された場合、50%を下回る値に常に収束する。
【0059】
例えば
図3に示すようにマルチピークスペクトルを有するとして脂肪がより現実的にモデル化される(
【数39】
=6;Hamiltonら、2011)とすると、式1において、
【数40】
は、もはや1に等しくなく、
【数41】
と
【数42】
を交換すると、式2の値が変わる(Yuら、2011)。最適化空間において、「スワップされた」解
【数43】
は、ここで、極値に見え、
【数44】
であり;収束されたR
*
2は、ここで、両方の解において異なるだろう(
図2(b)に示すように)。このマルチピーク状況において、PDFF=0%近くに初期化された最適化アルゴリズムは、50%を下回る値にいまだ収束するだろうことに留意されたい。逆に、PDFF=100%近くに初期化された同一の最適化アルゴリズムは、50%より大きい局所解に収束するだろう。この曖昧性はここで、両方の最小値におけるコスト関数値を比較し-少なくとも2つの異なる初期条件のセットで達成される-、最も低いコスト関数値を有する解(
図2(c))を選択することによって解決される。)
【0060】
本発明の例において、当方はマルチピークスペクトルモデルを用いる。好ましくは、スペクトルは脂肪に対するものであり、P=6である。なぜなら、これは、文献において最も一般に用いられる値であるためだ。しかしながら、2つの種の少なくとも1つに対するスペクトルモデル(複数可)が、モデルが1つより多いスペクトル成分を有する限り、用いられ得る。ここで、エコーサンプリングを既知のシフト
【数45】
だけシフトすることによって、同位相取得から離れ得、
【数46】
となるようにし、これはかくして逆位相取得を意味する。このことは、
図4に関して示される。この図の左側の列は、可変量Pを有する同位相エコーを用いての結果であり、一方、右側の列は、可変の任意時間のエコー及び本発明の例によるP=6を用いての結果である。すなわち、マルチエコーMRIデータのマグニチュードのみが用いられ、MRI画像は、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーにおいて取得される。上の行は、水優勢のボクセル(PDFF10%)に対するグラフを示し、真ん中の行は、脂肪優勢のボクセル(PDFF90%)に対する結果を示す。PDFFは、実質的な
【数47】
に対して0~100%範囲で解決され得るが、極小値は、
【数48】
の増大につれて出現し;一般に、エコー時間の非対称な組み合わせにおいて、PDFF及びR
*
2の物理的範囲に対して2つの極小値が存在する(
図6の右列のグラフ)。0%PDFF近くに初期化された最適化アルゴリズムは、水優勢のボクセルにおいて正解に収束する(
図5の右側の上画像及び下画像)が、脂肪優勢のボクセルにおいて極小値に収束する(
図5の右側の第2の画像及び下画像)ことに留意されたい。文献において以前に記載されたマグニチュードベースの推定法は、一貫してこの挙動を示しており、真のPDFF>50%値が、50%を下回る解にエイリアス化された。ここに開示された方法はP>1である限り機能することが理解される。1<P<6の場合、求める最小値はあまり目立たない。P>6の、非常に低い(例えば、第1のピークに対して第6のピークの高さをもたらす)余剰スペクトルピークの場合、MRIデータは離散的、相対的に粗くサンプル化され、ノイズにさらされるので、ほとんど追加的な利点はない。
【0061】
マグニチュード関連の水―脂肪の曖昧性は、ここで、提示されたマグニチュードマルチピークモデルを用いて、極小値における解はここで真の解よりも高いコスト関数値を有するので、解決され得る。両方の可能な解を探索しかつ水と脂肪が互いに同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーに対するマグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性を解決することを狙いとする多点方法を提示した。
【0062】
要約すると、古典的なマグニチュードベース関連の脂肪-水の曖昧性の課題は、
・可能な最小値を多数(マグニチュード及び位相の両方を必要とする複合ベースの手法を用いる;参照文献24を参照)から2つのみのポテンシャル最小値に減らすように、マグニチュードデータのみ;
・対称性をなくしひいては2つの可能な最小値を区別可能とするように、マルチピーク脂肪スペクトルモデリング;及び
・両方の解におけるコスト関数値を比較し、最も低いコスト関数値に関連する解を選択するように、両方の最小値が検討されることを確保する最適化技術を用いることによって、解決可能となり得る。
【0063】
当方の方法は、様々な臨床ケースの例示的な範囲に適用して、その正確さ、精度、及びアーチファクト(特に脂肪-水スワップ)に対する堅固性を評価してきた。
【0064】
本発明のマグニチュードベース法(MAGO)の正確さは、2つの異なるデータセットに対して、従来技術のIDEAL法のインハウス実装に対して、in vivoでテストされた。インハウスIDEAL(LMS IDEAL)法は、参照基準と見なされるものであった。LMS IDEALは、ファントムデータ及びin vivoデータのセットに対して、以前に検証されている。
【0065】
両方の可能な解が検討されることを確保するために、水及び脂肪の量の初期値は、アルゴリズムの少なくとも一実行において低PDFFにかつ少なくとも他の一実行において高PDFFに組み合わせられる必要がある。緩和量
【数49】
の初期値は、全動作において、生理学的に予測される範囲内に設定され得る。所与の収束解セット
【数50】
は、式
【数51】
の形の関連するコスト関数値を有し、
【数52】
は、式2において収束解セット
【数53】
を用いる、推定された信号である。
【0066】
コスト関数値のこの定義はフィールド マップの項に無関係であることに留意されたい。各ボクセルにおける解として、最も低いコスト関数値を有する解を選択するが、他の最小値が代替解として保持され得る。
【0067】
本発明のマグニチュードベース法の例は、Matlabプログラム(MathWorks,Inc.)におけるIsqcurvefit関数を用いて実装された。代替として、方法は、ITK(www.itk.org)を用いてコンパイル済みC++ルーチンを用いて実行され得る。データの非線形適合は2回、それぞれ、データに対する初期条件の異なるセットで実行された。上記で説明したように、データは、検体からの画像のマルチエコーMRIデータのマグニチュードのみであり、画像は、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーにおいて取得される。本発明の好ましい実施形態において、全エコーは、マグニチュードデータの単一の信号モデルへの適合を実行するとき、単一のステップにおいて用いられ得る。
【0068】
好ましくは、マルチエコーMRIデータのマグニチュードは、推定モデルを用いて単一の信号モデルに適合される。本発明の好ましい例において、これは、正則化最小二乗推定、反復重み付け最小二乗推定、m-推定またはs-推定のうちの1つまたは複数を用いる。代替として、他の推定モデルが、MRIデータを単一の信号モデルに適合するのに用いられ得る。
【0069】
複素数値ベクトル
【数54】
が事前に計算され、この値は、全ボクセルに対してかつ最適化の際、用いられた。3つの未知のパラメータ
【数55】
及び
【数56】
が、2つの異なる初期値のセットから推定された。信号緩和パラメータの第1の推定の両方は、生理学的に有意な範囲内で
【数57】
に設定された。本発明の例において、緩和時間量の少なくとも1つ
【数58】
は、信号減衰を補正するのに用いられ、好ましくは、1~100msの物理的に観測可能な範囲にあり、さらに好ましくは、動作フィールド強度が1.5テスラのとき、20~30msの間にある。代替として、3テスラの磁場強度において、時間量は10~15msの間にあり得る。PDFF及びR
2
*が同時に推定されない場合(既知のIDEAL法におけるときのような)、PDFFは、R
2
*減衰を補正しないので不正確となり得、またR
2
*は、脂肪の存在を補正しないので、不正確となり得る。さらに、PDFF及びR
2
*は、より堅固性がなくなり得、取得パラメータ、例えば選択された数のエコーに依存し得る。以前の研究(31)は、シミュレーション及びin vivoデータを用いてこの効果を示している。
【0070】
水の量及び脂肪の量の初期推定は、第1の実行において
【数59】
、第2の実行においてその反対
【数60】
であり、したがって、PDFF
1=0%及びPDFF
2=100%である。これら初期条件のスケーリングは、取得設定にわたっての様々なスキャナゲインを考慮に入れるように経験的に選択された。各実行において、2つの解セット
【数61】
が、
図6に示すように、各ボクセルにおいて取得された。
【0071】
第1の収束解及び第2の収束解は、2つの関連するコスト関数値を有した。コスト関数値は、式
【数62】
の形であり、
【数63】
は、式2において解セット
【数64】
を用いる推定信号であった。コスト関数値の定義もフィールド マップの項と無関係であることに留意されたい。最も低いコスト関数値を有する解セットが、各ボクセルにおいて「正」解として選択され、一方、他方の解が、代替解として保持され、
【数65】
マップが計算された。
【0072】
第1のステップから、2つの収束データセットが取得された。データセットの1つが真の解であると推測される。2つの解のそれぞれは、コスト関数値の関連する二乗2-ノルムを有した。各ボクセルにおける最終解は、それらコスト関数値に基づいて割り当てられ、最も低いコスト関数値と関連付けられた収束セットが選択された。代替解は格納された。この時点でさらなる条件は、フィールドマップ推定問題と同様に、課されなかった(当業者は、隣接ボクセルを相関付け、決定ステップで適合をさらに向上させる多数の技術を想到し得るが)。
【0073】
図6は、典型的な場合(Uniklinik Ulmから)における本発明のマグニチュードのみの実装の例の中間結果及び最終結果を示す。いずれの場合にも、方法は、検体からの画像のマルチエコーMRIデータのマグニチュードを用いるものであり、画像は、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む任意の時間のエコーにおいて取得される。
【0074】
第1のPDFFマップ(
図6a)は、独立して各ボクセルにおける第1の収束解に関し、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を含む、任意のエコー組み合わせを備えた取得の一般的場合の2つの可能なPDFF最小値の低い方と明らかに関連する。この第1のPDFFマップは、0~20%範囲のPDFF値を含む皮下脂肪領域を示し、肝臓内のPDFF値は、尤もらしい範囲にある。解1単独によるPDFFマップは従来のマグニチュードベース法からの出力PDFFマップと類似することに留意されたい。他方、第2のPDFFマップ(
図6b)は、2つの可能なPDFF最小値の高い方と関連する。このマップは、とてつもなく高い肝臓PDFF値を示すが、皮下脂肪は正しく推定される。両方の解のコスト関数値が比較され、独立して各ボクセルにおける最も可能性のある正解を選択するのに用いられ得る。このステップは、マグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性の解決を可能とする。同様のPDFF値を有する2つの空間的に分離したボクセルは、実質的に異なる絶対コスト関数値を有することは事実であり得(
図6dの皮下脂肪を参照);比較される同一の場所における解1の解2に対するコスト関数の相対的な値である。この特定の取得の場合、コスト関数値の差は、桁違いに大きくなり得、したがって、水-脂肪の分離の堅固性は高く、結合分析を必要としない。しかしながら、本発明のいくつかの例において、画像は処理され得、結合分析または他の分析が実行され得る。
【0075】
本発明の方法はまず、28ファントム取得の公的に利用可能なデータセット(http://dx.doi.org/10.5281/zenodo.48266)を用いて評価された。ピーナッツオイルと水の混合物を有する合計11のバイアル(PDFF:0%、2.6%、5.3%、7.9%、10.5%、15.7%、20.9%、31.2%、41.3%、51.4%、100%)を備えるファントムが、1.5T及び3Tにおける2つの異なる6エコーグラジェントエコープロトコルを用いて異なるサイト(Philips、Siemens及びGE Healthcare)においてスキャンされた。プロトコル1は、ほとんど同位相/逆位相近くでの取得であり(1.5Tにおいて
【数66】
、3Tにおいて
【数67】
)、プロトコル2は、最も短い可能なエコー(1.5Tにおいて
【数68】
及び
【数69】
、3Tにおいて
【数70】
)を目指した。取得は、T
1バイアスを最小化するような小さなフリップ角(2°~3°)及び組み合わされた単極と両極の読み出しをもって設計された。
【0076】
全取得において複素数値データが利用可能であったが、本発明のマグニチュードのみの方法を評価するために、位相情報は破棄された。信号モデルは、室温効果(22°C、
【数71】
単位での相対周波数[0.50 -0.49 -2.04 -2.70 -3.50 -3.90]、相対振幅[0.048 0.039 0.004 0.128 0.694 0.087])に補正された、6ピークのピーナッツオイル脂肪スペクトルを用いた。直径15mmのROIが手動で配置され、それらは、中央スライスからファントムバイアルごとに中央値を抽出するのに用いられた。中央MRI-PDFF値が、設計されたファントム濃度に対してプロットされ、線形回帰が、利用可能なIDEAL結果と比較するために実行された。
【0077】
図7は、全サイト、取得プロトコル及び磁場強度に対する、11のファントムバイアル全てに配置されたROIからの、抽出された中央PDFF値を示す。
図7(a)は、Hernandoの従来技術の方法によるPDFF結果であり、画像(b)は、本発明の方法を用いているものであり、画像(c)は、画像間の差である。ファントム取得におけるプロトコル1及びプロトコル2の両方は、水と脂肪が互いと実質的に同位相ではない少なくとも1つのエコー時間を用いた:プロトコル1において、これらは、逆位相エコーのいずれかであり;プロトコル2において、これらは、エコーは水と脂肪の共鳴周波数シフトにしたがって時間が決められないので、存在するエコーのほとんどである。
【0078】
線形回帰結果を、
図8に定性的に示し、表1に、傾き、切片、及びグラウンドトゥルース値と設計されたファントム濃度のR-二乗一致の面から、定量的に示す。
【表1】
【0079】
線形回帰は、磁場強度(1.5T及び3T)とプロトコル(プロトコル1及びプロトコル2)を区別しサイトの平均をとって実行された。代表的取得が
図7aに示され、PDFFマップが、既存の方法から取得され本発明の方法で計算もされており、MAGOは利用可能な情報の半分(マグニチュードデータのみ)を用いているにも関わらず、方法間の優れたボクセルワイズでの一致(-1~1%のスケーリングに留意)、及び同様のノイズ性能を伝えている。表1は、ダウンロードされたPDFFマップからの結果を、計算された結果と比較し、in vitroかつ高精度で両方の方法間の両方の優れた一致を伝える(高いR-二乗係数、1に近い傾き及び0に近い切片に留意されたい)。これは、6エコー取得プロトコルに対するMAGO法の実現可能性を促す。
【0080】
本発明のこの例において、方法はまた、100%ファントムバイアル結果に主に反映され、かつ、0~50%PDFF範囲における精度を妥協することなく、全ての場合においてPDFF=50%後のマグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性を解決可能である。一般に、方法間のかつMAGOとグラウンドトゥルース値間のより高い一致は、プロトコル1のデータよりもプロトコル2のデータにおいて、また1.5Tのデータよりも3Tのデータにおいて伝えられた。
【0081】
研究対象
本発明の方法の例において、テストデータの2つの異なるセットが、in vivoテストに用いられ、テストセットのそれぞれは、異なる目的を有する。第1のテストセットは、検証セットであり、新しい方法の、参照方法として機能する標準の、複合ベースのLMS IDEALに対しての精度を評価するために、健康なボランティアからのより制御され信頼できるマグニチュード及び位相データを備えるものであった。第2のテストセットは、より信頼できないデータを出力しアーチファクトの存在につながり得る、現実的な取得条件の幅に対する、2つの方法の堅固性を検討した。
【0082】
本発明の例で用いられる初期テストセットは、Siemens 1.5T MAGNETOM Aeraを用いてUKバイオバンクからの単一スライスプロトコル取得から構成され、かつ、低い鉄分値及び低い脂肪分値が期待される、N=186の名目的に健康なボランティアから構成された。上述のプロトコルは、
【数72】
である6エコーを有した。8つのケースは、自動セグメンテーションマスクを有さない(データ分析の際問題となる)ことにより破棄された。
【0083】
図9は、テストセットに対して実行されるデータ分析パイプラインを示す。101において、マグニチュードベースのアルゴリズム実装が、各データセットにおいて各ケースに適用された。102において、肝臓セグメンテーションマスクを用いて、肝臓内のPDFF/T2
*の中央値を描画した。これは、データ分析の、手動で配置されたROIからの中央値の描画方法と同様である。報告された値は、参照処理法と比較されて、マグニチュードベースの方法のバイアス及び精度を評価した(Bland-Altmanプロット)。次いで、103において、自動肝臓セグメンテーションマスクを用いて、肝臓マスク内のPDFF及びT2
*のヒストグラムタイプ分布を描画した。データ分析によるPDFF/T2
*値の報告のされ方(3つの手動で配置されたROIの中央値)と同様に、PDFF及びT2
*の分布両方の中央値が104で報告された。次いで、それらの値が、105において、LMS IDEALからの参照、そして同一の肝臓セグメンテーションから描画された中央値と比較された。
【0084】
結果
検証(バイオバンクテストセット)
マグニチュードベースのPDFF及びT2
*出力マップから描画された中央値が、参照値と比較された。
図10は、PDFF及びT2
*の報告された値両方に対する、絶対比較(上部画像)及びBland-Altmanプロット(下部画像)を示す。結合された分析ケースにおいて、95%信頼区間(CI)が計算された。PDFFの場合、95%CIは、(0.052±0.102)%であった。T
2
*の場合、95%CIは、(-0.053±0.291)%であった。複合ベースのLMS IDEALとマグニチュードベースの方法の差は、全ての場合において0.5%未満のPDFFポイントであり、全ての場合において1ms未満のT
2
*であった。
【0085】
バイオバンクコホートからの画像の典型的な画像セットが、PDFF測定のBland Altmanプロットとともに
図11に示される。参照LMS IDEAL法の画像(左側画像a)は、重ね合わせられた自動セグメンテーションマスクとともに示される。本発明のマグニチュードベースの方法は、画像(b)となった。差画像が、画像(c)として示され、皮下脂肪領域における複合ベース法とマグニチュードベースの方法の小さな(<1%PDFF)差を示し、本発明のマグニチュードベースの方法はフルダイナミックレンジ(0~100%)内のPDFFを正確に推定可能であったことを示す。フィールドマップに関する事前の平滑性により、LMS IDEALの画像は、マグニチュードベースの方法の画像と比較してより平滑に見えることに留意されたい。N=178の中央PDFF測定を全て比較しているBland-Almanプロット(画像11(d))は、再構成法間の優れた偏りのない一致を示す。
【0086】
図12は、Philips Ingenia 3Tの、場合によっては信頼できない位相情報による不正確なフィールド マップ推定によって生じたLMS IDEALにおける実質的な脂肪-水スワップアーチファクトを提示した、Leidenサイトからのマルチスライスケースから取得されたMRI PDFF画像及びフィールドマップを示す。この図は、複合ベース法LMS IDEALにおけるフィールド マップ推定及びそれに続くPDFFマップ計算に関する一貫性のない位相情報の影響を示す。
極小値へのフィールド マップのピースワイズの収束(行a)は、特に肝臓領域及び皮下脂肪においてだが脾臓、脊椎及び下行大動脈においても、画像全体にわたって伝搬する、LMS IDEAL PDFFマップにおける観測可能な脂肪-水スワップアーチファクトを生じさせる(行b)。
MAGO(本発明の方法)からのPDFFマップは、脂肪-水スワップを何も示さず、さらにフルダイナミックレンジ0~100%においてマグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性を解決可能である(行c)。本発明のマグニチュードのみの方法(下の行)は、そうした誤差に対して堅固性があるように見え、全スライスにおいてマグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性を解決可能であった。
【0087】
図13は、CoimbraサイトからのSiemens TrioTim 3Tスライスから取得されたフィールドマップ、MRI PDFF画像及び分布を示す。これは、LMS IDEALにおいて皮下脂肪の後部領域に、脂肪-水スワップアーチファクトを提示した。位相誤差もまた、差画像(d)LMS IDEAL-MAGOによって示されるように、肝臓内に伝搬するように見えるが、多くの場合、感知できないほどであり得る。肝臓マスク内のPDFF値の正規分布したヒストグラム(
図13d、e)、及び中央値周りにより高い広がりを提示するノイズの多い分布が予測される。一方で、自動全肝セグメンテーションからの報告された中央PDFF値は、一致する(LMS IDEALにおいて11.11%PDFF、MAGOにおいて11.07%PDFF)。
【0088】
図13はまた、LMS IDEAL及び本発明のマグニチュードのみの方法を用いてのPDFFマップの推定に関するフィールド不均一の影響も示す。複合ベースのLMS IDEAL法からのフィールド マップ画像(a)は、後部領域にエイリアシングを示し、これは、LMS IDEAL PDFFマップ(b)において実質的な脂肪-水スワップアーチファクトとして反映され、主に皮下脂肪にではあるが個体の筋肉及び左腕にも影響を与えている(画像の右)。本発明のマグニチュードのみの方法におけるPDFFマップ(c)は、脂肪-水スワップアーチファクトを示さず、フルダイナミックレンジ0~100%におけるPDFFを解決する。高磁場強度における位相誤差は、スペックルパターンを通してPDFF差画像(d)にかつマグニチュードのみの分布(f)と比較しての肝臓マスク内のLMS IDEAL PDFF値のより広い分布(e)に反映される。中央全肝PDFF値は、この場合において観測された変動に対してやはりかなり堅固であり、2つの方法の報告されたPDFF測定によって示される(LMS IDEAL PDFF=11.11%、本発明のマグニチュードのみの方法PDFF=11.07%)。
【0089】
図14は、RADIcALケースの上位スライスの結果を示す(Uniklinik、Siemens Skyra 3T)。MRI PDFF画像は、LMS IDEAL従来技術の方法(画像a及びb)及び本発明のMAGO(マグニチュードのみの)方法(画像c)による報告されたPDFF測定に関するフィールドの不均一及び位相誤差の影響を示す。
【0090】
複合ベースのLMS IDEAL法からの高フィールドマップ値(a)は、LMS IDEAL PDDFマップ(b)において肝臓領域内にノイズの多いパターンを生じさせる。これは、MAGO PDFFマップ(c)からはそれほど明らかではない。本発明の方法は、フルダイナミックレンジ0~100%においてPDFFを解決するが、プロット(
図14(e)及び(f))は、肝臓の局地的なアーチファクトテクスチャを理解するために0~50%にスケールしなおされており、それは、差画像(d)及びボクセル強度のヒストグラム分布(e、f)にも示す。差画像(d)は、フィールド マップがより低い値に収束している場合の一致を示す。2つの分布は、同一の自動セグメンテーションマスクから描画されたので、同一の総ボクセルカウントを有することを把握することができる。自動セグメンテーションマスクの境界は、この場合手動で補正された。中央全肝PDFF値は大幅に異なる(LMS IDEAL PDFF=9.35%、MAGO PDFF=10.97%)。
【0091】
本発明のマグニチュードのみの方法は、LMS IDEALフィールド マップ推定ステップにおける平滑制約と反対に、処理の任意のステージにおいて平滑性を適用しないことに留意されたい。従来技術の方法において、曖昧性は、特定の領域に対する正則化によってアプローチされ得るのに対して、このことは、本発明の方法に必要とされない。もちろん、これは、本発明のMAGO法に関連して空間正則化が用いられるべきでないとは意味せず;例えば、信号対ノイズが低い場合に有用であり得る。本発明に対して上記で提示された結果は、性能の「ベースケース」を提供するために、空間正則化を用いていない。明らかに、より高度な空間正則化法が、例えばMarkov Random Fieldに基づいて、MAGO PDFF画像において加えられ得る。
【0092】
一般に、脂肪(または他の種)は、肝臓などの臓器で均一に分布され得る、または、不均一に分布され得る。種の分布が均一である場合、臓器を通した単一スライスのMRI PDFF画像は、臓器全体にその種を表現する。しかしながら、臓器で種が不均一に分布される場合、これは、臨床上の意義を有し得、画像が臨床または手術の決定に用いられる場合、臓器全体の正確なMRI PDFF画像を取得することが重要である。本発明の方法を用いて、脂肪(または他の種)が不均一に分布されている臓器の複数のスライスにおけるMRI PDFF画像を提供することができる。
【0093】
まとめると、本発明の方法は、以下の特徴を有する。第1に、方法は、マグニチュードデータのみを用い、これにより、推定するべき変数の数を減らし、極小値を、物理的に有意な探索空間内の2つのみにする。方法はまた、少なくとも1つの種のマルチピークスペクトルモデルを用い、これにより、エイリアスされた解を変位させその関連するコスト関数値を低減することによって、種の曖昧性の解決を可能とする。また、方法は、多点探索ステップを用い、少なくとも2つの解におけるコスト関数値を比較し、これにより、少なくとも2つの初期条件のセットを用いて、両方の解の探索が可能となる。
【0094】
MRI CSE法は、(a)-主脂肪ピーク(70%相対振幅)を標的可能であるだけの従来のFAT-Satと比較して、完全マルチピーク脂肪モデルを含む-堅固な水-脂肪分離、及び(b)多くの用途における正確な肝臓脂肪率定量化において、臨床的にますます重要となってきた。CSE法の非侵襲性は、痛みがある高額な生検の必要性を回避し、異質性疾患の撮像を可能とする。本発明は、脂肪(または他の種)に対するマルチピークスペクトルを具現化しかつダイナミックレンジ全体(0~100%)においてPDFFを推定するためにフレキシブルエコーの組み合わせを用いることができるマグニチュードのみのCSE法に関する。探索アルゴリズムが複数の極小値に対処しなければならずかつ正しくない選択が通常脂肪-水スワップを生じさせる複合ベースのPDFF推定で用いられるようなフィールド マップ推定と異なり、本方法は、一般に50%PDFF周りに配置された2つの極小値から選択をしなければならないことを示した。6点のファントム及び6~12点の臨床データを用いて、アルゴリズムの2実行、例えば1つは0%で始まり他方は100%で始まる、に対するコスト関数値から「正」解を判定することができることを示した。
【0095】
上記で説明した理論及びシミュレーションされたデータから示してきたように、本発明のMAGO法が機能するために3つの必要条件が求められる。第1の必要条件は、複合ベース(位相及びマグニチュード)法による複数の極小値を一般に2つの極小値に減らすために、マグニチュードデータのみの使用を指す。複合ベース法からのフィールドマップ探索空間はフィールドマップ値の尤もらしい範囲において必ずしも周期的とは限らないことが示されており(24)、したがって、複合ベース法において多点法を用いることは、一般に有効性が低下し得る。さらに、報告されたPDFF値が正しくないが実現可能な範囲にいまだある「二重の脂肪-水スワップ」が記載されたように、間違ったフィールドマップ解への収束が、PDFFマップにおいて容易に明らかでない場合がある。一般に、マグニチュードデータ単独で用いることは、2つの極小値のみが探索されなければならないことを確保し、可能な誤同定の出現がより明らかである。また、マグニチュードデータの使用は、常に保持されるとは限らないフィールド マップ推定ステップや通常用いられる平滑性仮定を必要とせずに(29)、PDFFの直接的な推定を可能とする。第2の必要条件は、探索空間における対称性を破棄するために、種の1つ(この場合、脂肪)に対するマルチピークスペクトルモデルを用いることを含み、したがって、2つの極小値は異なるコスト関数値を有し、マグニチュード関連の水-脂肪の曖昧性は解決され得る(17)。第3の必要条件は、2つの最小値を探索するために探索空間法を用いることに関する。多点探索技術が、ここで、最適化空間に関する事前情報が利用可能であるので、用いられた。一般的な場合、50%を下回るPDFFの極小値及び50%を上回るもう1つの極小値が存在することになる。これは、実際のPDFF値が高いときの正しい収束を確保し、かつ、従来のマグニチュードベースの方法で観測された極小値への収束を防ぐ。用いられ得る多数の他の潜在的な探索空間技術が存在することに留意されたい。
【0096】
公的なファントムデータの利用可能性及び結果により、新しい方法の、従来技術のIDEAL法の実装との比較が可能となった。これらの実験はまた、新しいマグニチュードベースの方法の、グラウンドトゥルースファントム濃度に対する、精度の直接的な評価も可能とした。結果は、従来技術のIDEAL法に対する、MAGO方法の比較可能な精度を、傾き、切片及びr-二乗一致の点から示し、またPDFF値のフルダイナミック範囲に対する全体的な再現性も示す。本発明のMAGO法は、51.4%PDFFでかつ100%PDFFで、バイアルにおけるマグニチュード関連の脂肪-水の曖昧性を正確に解決可能である。これらの再現性の結果は、スキャナメーカーにわたってのin-vivo標準化、取得プロトコル及び磁場強度におけるMAGO法の潜在性を示唆する。
【0097】
高磁場MRIのSNRの有益性が、本発明の方法において、より堅固かつ正確なPDFF推定へと変換されることを、実験を通して述べた。このことは、位相誤差及び高磁場変化により臨床業務においてより高いSNRが見たところ見つからない複合ベースのPDFF推定法と対照的なようだ。より高い磁場強度が本発明の方法に有益である理由の1つは、それが、より多くのエコーが用いられることを可能とし、0%及び100%で初期化された動作に対するコスト関数値の差のより高い信頼がもたらされるからである。これはひいては、PDFF推定のより大きな解決性及び正確さをもたらす。
【0098】
上記で説明したように、位相及びマグニチュードデータを用いる以前の方法は、フィールドマップ推定を必要とするものであり、複合データを用いフィールドマップを推定するときに多くの極小値が存在し(24)、したがって、多点探索アプローチを実行しづらい。さらに、しらみつぶし探索ステップが用いられない場合、水及び脂肪推定の収束解は、反復最適化においてそれらの初期値に依存する。PDFF=0が初期条件として用いられる場合、結果は、PDFF<50%値を常にとる(15)。最終的に、単一ピークモデルを用いることは、脂肪成分と水成分の間の解決不可能な曖昧性を生じさせる。
【0099】
50%を上回るPDFFの脂肪-水の曖昧性の解決に有効性を示す新しいマグニチュードのみの方法が提示され、その正確さが、マグニチュード情報及び位相情報の両方を用いる参照的な複合ベース法に対して、複数のバイオバンクケースで検証される。新しいマグニチュードのみをベースとした方法は、より負荷の高いコホートに対してテストされ、位相情報が信頼できるケースにおける複合ベースに対して、同様の正確さ及び精度を示す。さらに、新しい方法は、複合ベース法に一般に臨床業務における失敗をしばしば引き起こす誤差(それらの大部分は位相画像における)に対して、堅固性が高められていることを示す。
【0100】
本発明の方法はまた、空間正則化も可能とする。一般に、本出願の方法を用いて種(例えば、脂肪、水)の推定に続いて推定され得るフィールドマップは、平滑に変化する。フィールドマップを用いて、任意のアーチファクトの定量化を含む、画像の質を評価することができる。
【0101】
本発明の方法は、MRIの種の分離を提供した。式(1)で説明された定式化は、多くの実施上のケースに適用され、その重要なほとんどは、脂肪/水(プロトン密度脂肪率推定)である。説明された方法はまた、アーチファクト検出及び推定にかつ肝臓の鉄分の推定にも用いることができる。
【0102】
本発明は、添付図面を参照して説明してきた。しかしながら、本発明は、本明細書中に説明したかつ添付図面に例示した具体的な例に限定されるものではないことが理解されよう。さらに、本発明の示された実施形態は大部分において当業者に既知の電子部品及び回路を用いて実装され得るので、本発明の基盤となる概念の理解及び認識のために、かつ本発明の教示を曖昧にしないまたは妨げないために、上記で示すような必要と考えられること以上には詳細に説明しない。
【0103】
発明は、コンピュータシステムなどの、プログラマブル装置で動作するとき、本発明による方法のステップを実行するためのコード部分を少なくとも含む、コンピュータシステムで動作するために、またはプログラマブル装置が本発明によるデバイスもしくはシステムの機能を実行することを可能にするために、コンピュータプログラムに実装され得る。
【0104】
コンピュータプログラムは、特定のアプリケーションプログラム及び/またはオペレーティングシステムなどの命令のリストである。コンピュータプログラムは、例えば、サブルーチン、機能、手順、オブジェクトメソッド、オブジェクト実装、実行可能なアプリケーション、アプレット、サーブレット、ソースコード、オブジェクトコード、共有ライブラリ/ダイナミックロードライブラリ及び/またはコンピュータシステムで実行するように設計されている他の命令シーケンスのうちの1つまたは複数を含み得る。
【0105】
コンピュータプログラムは、有形のかつ非一時的なコンピュータ可読ストレージ媒体に内部的に格納され得またはコンピュータ可読伝送媒体を介してコンピュータシステムに伝送され得る。コンピュータプログラムの全部または一部は、コンピュータ可読媒体に永続的に提供され得、情報処理システムに取り外し可能にまたは遠隔的に結合され得る。
【0106】
コンピュータプロセスは、通常、実行中の(動作中の)プログラムまたはプログラムの一部、現在のプログラム値及び状態情報、ならびに、オペレーティングシステムによってプロセスの実行を管理するために用いられるリソースを含む。オペレーティングシステム(OS)は、コンピュータのリソースの共有を管理しかつプログラマにそれらリソースにアクセスするのに用いられるインターフェースを提供するソフトウェアである。オペレーティングシステムは、システムデータ及びユーザ入力を処理し、タスク及び内部システムリソースをサービスとしてシステムのユーザ及びプログラムに割り当てることによって応答する。
【0107】
コンピュータシステムは、例えば、少なくとも1つの処理ユニット、関連するメモリ及びいくつかの入力/出力(I/O)デバイスを含み得る。コンピュータプログラムを実行する際、コンピュータシステムは、コンピュータプログラムにしたがって情報を処理し、I/Oデバイスを介して結果として得られる出力情報を生成する。
【0108】
前述の明細書において、発明は、発明の実施形態の具体的な例を参照して説明されてきた。しかしながら、様々な変更例及び変形例が、添付の特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが明らかとなろう。当業者は、論理ブロック間の境界は単に例示的なものであること、及び代替実施形態は論理ブロックもしくは回路要素を統合し得または様々な論理ブロックもしくは回路要素に関する機能の代替的な分解を課し得ることを理解するだろう。かくして、本明細書中に記述されたアーキテクチャは単に例示的であること、及び実際、同一の機能を達成する他の多数のアーキテクチャを実装することができることが理解されよう。
【0109】
同一の機能を達成する構成要素の配置は、所望の機能が達成されるように有効に「関連付けられる」。したがって、特定の機能を達成するように本明細書中で組み合わされた任意の2つの構成要素は、アーキテクチャまたは中間構成要素に関係なく、所望の機能が達成されるように互いに「関連付けられる」として把握され得る。同様に、そのように関連付けられた任意の2つの構成要素はまた、所望の機能を達成するように、互いに「動作可能に接続されている」または「動作可能に結合されている」としても見ることができる。
【0110】
さらに、当業者は、上記の動作の境界は単に例示的であることを理解するだろう。複数の動作は単一の動作に組み合わせられ得、単一の動作は、追加の動作において分散され得、動作は時間的に少なくとも部分的に重なって実行され得る。さらに、代替実施形態は、特定の動作の複数の例を含み得、動作の順序は、他の様々な実施形態において変更され得る。
【0111】
しかしながら、他の変更例、変形例及び代替例も可能である。したがって、明細書及び図面は、制限的ではなく例示的に見なされる。特段に別途の記載がない限り、「第1の」及び「第2の」などの用語は、そうした用語が説明する要素を任意に区別するのに用いられる。かくして、これらの用語は、そうした要素の時間的なまたは他の優先を示すことを必ずしも意図しない。特定の測定値が互いに異なる請求項で記述されるという単なる事実は、これらの測定値の組み合わせが有利に用いられ得ないことを示さない。
【0112】