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特許7016997摩擦調整材、摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材
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  • 特許-摩擦調整材、摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-28
(45)【発行日】2022-02-07
(54)【発明の名称】摩擦調整材、摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220131BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220131BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20220131BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520L
C09K3/14 530F
C01G23/00 B
F16D69/02 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021574320
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025561
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020132366
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 恵美子
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094115(JP,A)
【文献】特開2015-147913(JP,A)
【文献】特開2014-122314(JP,A)
【文献】特開2015-059143(JP,A)
【文献】特開2017-025286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C01G 23/00
F16D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物により構成される摩擦調整材であって、
前記チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率が、0.5ppm~400ppmであることを特徴とする、摩擦調整材。
【請求項2】
前記チタン酸塩化合物が、ATi(2-y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5~1.0、yは0.25~1.0の数〕、A0.2~0.8Li0.2~0.4Ti1.6~1.83.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2~0.8Mg0.3~0.5Ti1.5~1.73.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、及びA0.5~0.7Li(0.27-x)Ti(1.73-z)3.85~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせは除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の摩擦調整材。
【請求項3】
前記チタン酸塩化合物が、板状粒子である、請求項1又は請求項2に記載の摩擦調整材。
【請求項4】
前記チタン酸塩化合物のアルカリ金属イオン溶出率が、0.01質量%~15質量%である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の摩擦調整材。
【請求項5】
前記チタン酸塩化合物の平均粒子径が、0.1μm~100μmである、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の摩擦調整材。
【請求項6】
前記チタン酸塩化合物の比表面積が、0.1m/g~10m/gである、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の摩擦調整材。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の摩擦調整材と、熱硬化性樹脂とを含む摩擦材組成物であって、
前記摩擦材組成物の合計量100質量%中における銅成分の含有量が、銅元素として0.5質量%未満である、摩擦材組成物。
【請求項8】
前記摩擦調整材の含有量が、前記摩擦材組成物の合計量100質量%に対して1質量%~40質量%である、請求項7に記載の摩擦材組成物。
【請求項9】
前記摩擦調整材の前記熱硬化性樹脂に対する質量比(摩擦調整材/熱硬化性樹脂)が、0.1~8である、請求項7又は請求項8に記載の摩擦材組成物。
【請求項10】
さらに銅及び銅合金とは異なる金属繊維を実質的に含有しない、請求項7~請求項9のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【請求項11】
回生協調ブレーキ用摩擦材組成物である、請求項7~請求項10のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【請求項12】
請求項7~請求項11のいずれか一項に記載の摩擦材組成物の成形体である、摩擦材。
【請求項13】
請求項12に記載の摩擦材を備える、摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦調整材、該摩擦調整材を用いた摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種車両、産業機械等の制動装置を構成するディスクブレーキ、ドラムブレーキ等のブレーキ等に使用される摩擦材には、摩擦係数が高く安定し、耐摩耗性が優れていること、相手材攻撃性が低いことが求められている。このような摩擦材は、繊維基材としてのスチール系繊維を摩擦材組成物全量に対して30質量%以上60質量%未満の割合で含有するセミメタリック材;繊維基材の一部にスチール系繊維を含み、かつスチール系繊維を摩擦材組成物全量に対して10質量%以上30質量%未満の割合で含有するロースチール材;繊維基材としてのスチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維を実質的に含有しないNAO(Non-Asbestos-Organic)材の3種類に分類される。
【0003】
日本及び米国で使用される摩擦材は、相手材(ローター)への攻撃性が低く、鳴き及び耐摩耗性のバランスに優れることから、NAO材が主流となっている。また、欧州では、高速制動時の摩擦係数保持の観点でロースチール材が用いられていたが、高級志向化によりブレーキの鳴きが発生しにくいNAO材が用いられることが多くなってきている。
【0004】
NAO材に用いる組成物(以下「摩擦材組成物」ともいう)には、一般的に銅繊維や銅粉末が配合されている。これは、摩擦材と相手材との摩擦時に、銅の展延性によって相手材表面に凝着被膜(以下「トランスファーフィルム」ともいう)が形成され、この凝着被膜が保護膜として作用することで、高温時において高い摩擦係数を維持できると考えられているためである。しかしながら、銅を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖、海洋汚染等の原因になる可能性が示唆されていることから、米国のカリフォルニア州、ワシントン州では2021年以降は銅を5質量%以上、2025年以降は銅を0.5質量%以上含有する摩擦材の販売及び新車への組み付けを禁止する州法が発効されている。従って、銅を含有しない又は銅の含有量が少ない摩擦材の開発が急がれている。
【0005】
銅以外のトランスファーフィルムを担う成分としては、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩が注目されている。例えば、チタン酸リチウムカリウムと黒鉛とを含有する摩擦材組成物(特許文献1)、2種以上のチタン酸塩化合物とセラミック繊維とを含有する摩擦材組成物(特許文献2)、トンネル状結晶構造のチタン酸塩化合物と層状結晶構造のチタン酸塩化合物を含有する摩擦材組成物(特許文献3)が提案されている。
【0006】
近年、自動車のハイブリッド化や電動化にともない回生協調ブレーキの普及が進んでいる。回生協調ブレーキでは、従来通りの摩擦材による摩擦抵抗だけでなく、タイヤの回転力を電力に変換する際の抵抗も制動力として利用する。このような回生協調ブレーキを用いた自動車の摩擦材においては、摩擦負荷が減るため、ブレーキ制動によってローターの錆が落とし難くなっている。さらに、摩擦材の配合材から銅を除くと、錆落とし効果が減り、錆の問題が拡大している。
【0007】
また、パーキング機構付きディスクブレーキにおいてパーキングブレーキを作動させた状態で長時間放置するなど、摩擦材をローターに押し付けた状態で長期間維持した場合には、ローターと摩擦材とが錆によって固着(以下「錆固着」ともいう)することがある。錆固着の原因となる発錆を抑制する技術として、摩擦材にアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等のpH調整材を配合する技術(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2012/066968号パンフレット
【文献】特開2015-059143号公報
【文献】特開2015-147913号公報
【文献】特開2017-025286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の発錆の抑制技術では、ローターの発錆には改善の傾向があるものの、一方で熱硬化性樹脂の硬化阻害による摩擦材の成形性不良が問題となっている。
【0010】
本発明の目的は、摩擦材を作製する際の成形性に優れ、吸湿した摩擦材をローターに押し付けた状態で長期間維持してもローターの発錆を抑制することができる、摩擦調整材、該摩擦調整材を用いた摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の摩擦調整材、該摩擦調整材を用いた摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材を提供する。
【0012】
項1 層状結晶構造のチタン酸塩化合物により構成される摩擦調整材であって、前記チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率が、0.5ppm~400ppmであることを特徴とする、摩擦調整材。
【0013】
項2 前記チタン酸塩化合物が、ATi(2-y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5~1.0、yは0.25~1.0の数〕、A0.2~0.8Li0.2~0.4Ti1.6~1.83.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2~0.8Mg0.3~0.5Ti1.5~1.73.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、及びA0.5~0.7Li(0.27-x)Ti(1.73-z)3.85~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせは除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の摩擦調整材。
【0014】
項3 前記チタン酸塩化合物が、板状粒子である、項1又は項2に記載の摩擦調整材。
【0015】
項4 前記チタン酸塩化合物のアルカリ金属イオン溶出率が、0.01質量%~15質量%である、項1~項3のいずれか一項に記載の摩擦調整材。
【0016】
項5 前記チタン酸塩化合物の平均粒子径が、0.1μm~100μmである、項1~項4のいずれか一項に記載の摩擦調整材。
【0017】
項6 前記チタン酸塩化合物の比表面積が、0.1m/g~10m/gである、項1~項5のいずれか一項に記載の摩擦調整材。
【0018】
項7 項1~項6のいずれか一項に記載の摩擦調整材と、熱硬化性樹脂とを含む摩擦材組成物であって、前記摩擦材組成物の合計量100質量%中における銅成分の含有量が、銅元素として0.5質量%未満である、摩擦材組成物。
【0019】
項8 前記摩擦調整材の含有量が、前記摩擦材組成物の合計量100質量%に対して1質量%~40質量%である、項7に記載の摩擦材組成物。
【0020】
項9 前記摩擦調整材の前記熱硬化性樹脂に対する質量比(摩擦調整材/熱硬化性樹脂)が、0.1~8である、項7又は項8に記載の摩擦材組成物。
【0021】
項10 さらに銅及び銅合金とは異なる金属繊維を実質的に含有しない、項7~項9のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【0022】
項11 回生協調ブレーキ用摩擦材組成物である、項7~項10のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【0023】
項12 項7~項11のいずれか一項に記載の摩擦材組成物の成形体である、摩擦材。
【0024】
項13 項12に記載の摩擦材を備える、摩擦部材。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、摩擦材を作製する際の成形性に優れ、吸湿した摩擦材をローターに押し付けた状態で長期間維持してもローターの発錆を抑制することができる、摩擦調整材、該摩擦調整材を用いた摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例及び比較例におけるローターの錆発生量の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。ただし、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
【0028】
<摩擦調整材>
本発明の摩擦調整材は、層状結晶構造のチタン酸塩化合物により構成されており、チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率が、0.5ppm~400ppmであることを特徴とする。
【0029】
本明細書において、塩素イオン溶出率とは、25℃の水中においてチタン酸塩化合物等の測定サンプルから水中に溶出した塩素イオンの質量割合のことをいう。なお、詳細な測定方法は、後述の実施例で説明するものとする。
【0030】
本発明では、塩素イオン溶出率を上記範囲とした層状結晶構造のチタン酸塩化合物を摩擦調整材として使用するので、ローターの発錆を抑制することができ、さらに摩擦材を作製する際の成形性も向上させることができる。
【0031】
従来の発錆の抑制技術では、ローターの発錆には改善の傾向があるものの、一方で熱硬化性樹脂の硬化阻害による摩擦材の成形性不良が問題となっていた。
【0032】
これに対して、本発明者らは、層状結晶構造のチタン酸塩化合物における塩素イオン溶出率に着目し、塩素イオン溶出率を特定の範囲とすることで、ローターの発錆の抑制と、摩擦材を作製する際の成形性の双方を改善し得ることを見出した。
【0033】
本発明において、チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率は、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは0.8ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上、好ましくは400ppm以下、より好ましくは350ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下である。チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率が上記下限値以上および上記上限値以下である場合、摩擦材を作製する際の成形性をより一層向上させることができる。また、チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率が上記上限値以下である場合、ローターの発錆をより一層抑制することができる。
【0034】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物としては、例えば、ATi(2-y)〔式中、Aはリチウム(Li)を除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5~1.0、yは0.25~1.0の数〕、A0.2~0.8Li0.2~0.4Ti1.6~1.83.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2~0.8Mg0.3~0.5Ti1.5~1.73.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.5~0.7Li(0.27-x)Ti(1.73-z)3.85~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせは除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕等を挙げることができる。
【0035】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物としては、好ましくはATi(2-y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5~1.0、yは0.25~1.0の数〕、A0.2~0.8Li0.2~0.4Ti1.6~1.83.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2~0.8Mg0.3~0.5Ti1.5~1.73.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、及びA0.5~0.7Li(0.27-x)Ti(1.73-z)3.85~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせは除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕よりなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはATi(2-y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5~1.0、yは0.25~1.0の数〕、A0.5~0.7Li0.27Ti1.733.85~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、及びA0.2~0.7Mg0.40Ti1.63.7~3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
上記リチウムを除くアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等が挙げられる。なかでも、経済的に有利であることから、ナトリウムが好ましい。
【0037】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物の具体例としては、K0.8Li0.27Ti1.73(チタン酸リチウムカリウム)、K0.7Li0.27Ti1.733.95(チタン酸リチウムカリウム)、K0.6Li0.27Ti1.733.9(チタン酸リチウムカリウム)、K0.4Li0.27Ti1.733.8(チタン酸リチウムカリウム)、K0.3Li0.27Ti1.733.7(チタン酸リチウムカリウム)、K0.8Mg0.4Ti1.6(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.7Mg0.4Ti1.63.95(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.5Mg0.4Ti1.63.9(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.4Mg0.4Ti1.63.8(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.3Mg0.4Ti1.63.7(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.7Li0.13Mg0.2Ti1.673.95(チタン酸リチウムマグネシウムカリウム)、K0.7Li0.24Mg0.04Ti1.723.95(チタン酸リチウムマグネシウムカリウム)、K0.7Li0.13Fe0.4Ti1.473.95(チタン酸リチウム鉄カリウム)等を挙げることができる。
【0038】
上記チタン酸塩化合物は、作業環境の観点から非繊維状粒子であることが好ましい。非繊維状粒子とは、例えば、球状(表面に若干の凹凸があるものや、断面が楕円状等の形状が略球状のものも含む)、柱状(棒状、円柱状、角柱状、短冊状、略円柱形状、略短冊形状等の全体として形状が略柱状のものも含む)、板状、ブロック状、複数の凸部を有する形状(アメーバ状、ブーメラン状、十字状、金平糖状等)、不定形状等の粒子形状を挙げることができ、これらの中でも板状粒子であることが好ましい。また、チタン酸塩化合物は、多孔質状の粒子であってもよい。これらの各種粒子形状は、製造条件、特に原料組成、焼成条件等により任意に制御することができる。また、粒子形状は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0039】
本明細書において「非繊維状粒子」とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/Bが5以下の粒子のことをいう。また、「複数の凸部を有する」とは、平面への投影形状が少なくとも通常の多角形、円、楕円等とは異なり2方向以上に凸部を有する形状を取り得るものをいう。具体的には、この凸部とは、走査型電子顕微鏡(SEM)による写真(投影図)に多角形、円、楕円等(基本図形)を当てはめ、それに対して突き出した部分に対応する部分をいう。
【0040】
チタン酸塩化合物の平均粒子径は、好ましくは0.1μm~100μmであり、より好ましくは1μm~50μmであり、さらに好ましくは3μm~30μmである。平均粒子径が上記範囲内にある場合、摩擦材を作製したときに摩擦特性をより一層高めることができる。
【0041】
本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折法により計測される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径のことをいう。このD50は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0042】
チタン酸塩化合物の比表面積は、好ましくは0.1m/g~10m/gであり、より好ましくは0.3m/g~6m/gであり、さらに好ましくは0.5m/g~4m/gである。比表面積は、JIS Z8830に準拠して測定することができる。
【0043】
本発明において、チタン酸塩化合物のアルカリ金属イオン溶出率は、0.01質量%~15質量%であることが好ましく、0.05質量%~10質量%であることがより好ましく、0.1質量%~6質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
ところで、摩擦材組成物に用いる熱硬化性樹脂の一例としてのノボラック型フェノール樹脂の硬化反応では、硬化促進剤としての例えばヘキサメチレンテトラミンが開環することで、ノボラック型フェノール樹脂中の水酸基と結合し硬化反応が開始される。しかしながら、この際にアルカリ金属イオンが存在すると、ノボラック型フェノール樹脂における水酸基中の水素イオンとイオン交換反応を起こし、ヘキサメチレンテトラミン(硬化促進剤)とノボラック型フェノール樹脂(熱硬化性樹脂)との結合を阻害(硬化阻害)すると考えられる。
【0045】
従って、アルカリ金属イオン溶出率を上記範囲とすることで、加熱加圧成形時に熱硬化性樹脂の硬化阻害を防ぐことができ、その結果、高温高負荷時の耐クラック性をより一層向上させることができる。
【0046】
なお、本明細書において、アルカリ金属イオン溶出率とは、80℃の水中においてチタン酸塩化合物等の測定サンプルから水中に溶出したアルカリ金属イオンの質量割合のことをいう。
【0047】
チタン酸塩化合物の結晶中または表面に存在する塩素イオンが過剰に存在していても、摩擦材製造の加熱加圧成形時に熱硬化性樹脂の硬化阻害が生じることで成形性が低下する。このことからチタン酸塩化合物の結晶中または表面に存在する塩素イオンがチタン酸塩化合物からのアルカリ金属の溶出スピードに関与しているものと推測される。
【0048】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物に水が吸着すると、層間のアルカリ金属イオンが遊離し、加熱加圧成形時に熱硬化性樹脂の硬化阻害を起こす恐れがある。そのため、上記チタン酸塩化合物の吸湿率は1.5質量%以下であることが好ましい。なお、層状結晶構造のチタン酸塩化合物の製造工程または製造後に塩素を除去するために過剰な洗浄を行うとチタン酸塩化合物の層間が膨潤し、層間に水を取り込みやすくなるために過剰な洗浄は好ましくない。
【0049】
なお、本明細書において、吸湿率とは、25℃、湿度97.5%の環境下で24時間静置したときの吸湿率のことをいう。
【0050】
チタン酸塩化合物においては、分散性のより一層の向上、熱硬化性樹脂との密着性のより一層の向上を目的として、チタン酸塩化合物の表面に表面処理剤からなる処理層が形成されていてもよい。表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。これらのなかでもシランカップリング剤が好ましく、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、アルキル系シランカップリング剤がより好ましい。上記表面処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
アミノ系シランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-エトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0053】
アルキル系シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
チタン酸塩化合物の表面に表面処理剤からなる処理層を形成する方法としては、公知の表面処理方法を使用することができ、例えば、加水分解を促進する溶媒(例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒)に表面処理剤を溶解して溶液として、その溶液をチタン酸塩化合物に噴霧する湿式法等でなされる。
【0055】
表面処理剤を、上記チタン酸塩化合物の表面へ処理する際の該表面処理剤の量は、特に限定されないが、湿式法の場合、例えば、チタン酸塩化合物100質量部に対して表面処理剤が0.1質量部~20質量部となるように表面処理剤の溶液を噴霧すればよい。
【0056】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン又は加熱により酸化チタンを生成する化合物(これらを総称して「チタン化合物」と略記する)と、Liを除くアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の金属(これらを総称して「A金属」と略記する)の酸化物、加熱によりA金属の酸化物を生成する化合物又はA金属の塩(これらを総称して「A金属化合物」と略記する)と、Li、Mg、Zn、Ni、Cu、Fe、Al、Ga、Mnから選ばれる少なくとも1種の金属(これらを総称して「M金属」と略記する)の酸化物、加熱によりM金属の酸化物を生成する化合物又はM金属の塩(これらを総称して「M金属化合物」と略記する)と、必要に応じてフラックスとを混合した混合物を焼成(工程I)することで得られる。必要に応じて、工程Iで得られたチタン酸塩化合物からリチウムを除くアルカリ金属成分の一部を溶出した後、焼成(工程II)することにより得ることができる。
【0057】
従来のチタン酸塩化合物の製造方法では、融点よりも低い温度で結晶が生成し、結晶が成長しながら結晶構造を反映したフラットな結晶面で囲まれた自形を持つことで結晶方位の指定を容易にすることを目的に、塩化カリウム、フッ化カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等がフラックスとして用いられている。フラックスとして塩化カリウムを用いる場合は、ローターの発錆の観点から、チタン化合物、A金属化合物、及びM金属化合物の合計量100質量部に対して10質量部未満とすることが好ましい。
【0058】
原料(チタン化合物、A金属化合物、M金属化合物等)の混合割合は、目的とするチタン酸塩の組成式により適宜調整することができる。
【0059】
チタン化合物としては、低次酸化チタンや、酸化チタンの含水物、酸化チタンの水和物、水酸化チタン等を使用できる。ローターの発錆の観点から、チタン化合物の塩素イオン溶出率は100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましい。
【0060】
A金属化合物としては、A金属の炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩等が使用できるが、これらのなかでもA金属の炭酸塩、水酸化物が好ましい。M金属化合物としては、M金属の炭酸塩、水酸化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩等が使用できるが、これらのなかでもM金属の炭酸塩、水酸化物が好ましい。
【0061】
工程Iの焼成は、電気炉等を用いて行われ、800℃~1100℃の温度範囲で、1時間~24時間保持することで焼成反応を完結することができる。焼成後、得られる粉体を所望のサイズに粉砕したり、篩に通してほぐしたりしてもよい。
【0062】
工程IIの溶出は、工程Iで得られたチタン酸塩化合物を水中に分散させて水性スラリーとし攪拌することにより行うことができ、必要に応じて、水性スラリーに酸を添加してもよい。水性スラリーの濃度は特に制限はなく、広い範囲から適宜選択できるが、作業性等を考慮すると、1質量%~30質量%程度とすればよい。水性スラリーを調製した後、濾過、遠心分離などにより固形分を該スラリーから分離する。分離された固形分は、必要に応じて、水洗、乾燥することができる。
【0063】
工程IIの焼成は、電気炉等を用いて行われ、500℃~850℃の温度範囲で、1時間~24時間保持することで焼成反応を完結することができる。焼成後、得られる粉体を所望のサイズに粉砕したり、篩に通してほぐしたりしてもよい。以上のようにして、本発明のチタン酸塩化合物を得ることができる。
【0064】
層状結晶構造のチタン酸塩化合物における塩素イオン溶出率は、原料としてのチタン化合物の塩素イオン溶出率や、フラックスの量、層状結晶構造のチタン酸塩化合物の製造工程又は製造後における塩素を除去するための洗浄の程度などにより調整することができる。
【0065】
<摩擦材組成物>
本発明の摩擦材組成物は、上述の本発明の摩擦調整材と、熱硬化性樹脂とを含有し、摩擦材組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%未満であることを特徴とする。必要に応じて、その他の材料を更に含有することができる。なお、本明細書において「摩擦材組成物」とは、摩擦材に用いる組成物のことをいう。
【0066】
摩擦材組成物の合計量100質量%において、銅成分の含有量を銅元素として0.5質量%未満、好ましくは銅成分を含有しないことで、従来の摩擦材組成物と比較して環境負荷の少ないものとすることができる。なお、本明細書において、「銅成分を含有しない」とは、銅繊維、銅粉、及び銅を含んだ合金(真鍮又は青銅等)、並びに化合物のいずれをも、摩擦材組成物の原材料として配合していないことをいう。
【0067】
本発明の摩擦材組成物によれば、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦材に用いたときに、摩擦係数が高く、優れた耐摩耗性を付与することができる。さらに、上述の摩擦調整材を含有していることで、ローターの発錆が抑制され、摩擦材の成形性も優れている。
【0068】
本発明の摩擦材組成物は、相手材(ローター)への低攻撃性、並びに鳴き及び耐摩耗性のバランスの観点で、さらに銅及び銅合金とは異なる金属繊維も実質的に含有しないことが好ましく、銅及び銅合金とは異なる金属繊維を含有しないことがより好ましい。なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは摩擦材組成物の合計量100質量%において0.5質量%未満のことをいう。
【0069】
(摩擦調整材)
本発明の摩擦材組成物に用いる摩擦調整材は、上述の本発明の摩擦調整材である。摩擦材組成物における本発明の摩擦調整材の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%~40質量%であることが好ましく、5質量%~35質量%であることがより好ましく、10質量%~30質量%であることが更に好ましいい。本発明の摩擦調整材の含有量を上記範囲内とすることで、より一層優れた摩擦特性を得ることができる。また、ローターの発錆がより一層抑制され、摩擦材の成形性もより一層向上させることができる。
【0070】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、チタン酸塩化合物と一体化し、強度を与える結合材として用いられるものである。従って、結合材として用いられる公知の熱硬化性樹脂のなかから任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0071】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等のエラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;ホルムアルデヒド樹脂;メラミン樹脂;エポキシ樹脂;アクリル樹脂;芳香族ポリエステル樹脂;ユリア樹脂等を挙げることができる。これらのうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、耐熱性、成形性、摩擦特性をより一層向上できる点から、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂)や、変性フェノール樹脂が好ましい。
【0072】
摩擦材組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、5質量%~20質量%であることが好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を上記範囲内とすることで配合材料の隙間に適切な量の結合材が充填され、より一層優れた摩擦特性を得ることができる。
【0073】
摩擦調整材の熱硬化性樹脂に対する質量比(摩擦調整材/熱硬化性樹脂)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。摩擦調整材の熱硬化性樹脂に対する質量比を上記範囲とすることでローターの発錆がより一層抑制され、摩擦材の成形性もより一層向上させることができる。
【0074】
(その他材料)
本発明の摩擦材組成物には上述の摩擦調整材、熱硬化性樹脂以外に、必要に応じて、その他の材料を配合することができる。その他の材料としては、例えば、以下の繊維基材、本発明の摩擦調整材以外の摩擦調整材等を挙げることができる。
【0075】
繊維基材としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、フィブリル化アラミド繊維、アクリル繊維(アクリルニトリルを主原料とした単重合体または共重合体の繊維)、フィブリル化アクリル繊維、セルロース繊維、フィブリル化セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等の有機繊維;アルミ、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維、鋳鉄繊維などの金属を主成分とするストレート形状又はカール形状の銅及び銅合金以外の金属繊維;ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、生分解性鉱物繊維、生体溶解性繊維(SiO-CaO-SrO系繊維など)、ワラストナイト繊維、シリケート繊維、鉱物繊維等の無機繊維;耐炎化繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、活性炭繊維等の炭素系繊維等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
本発明の摩擦調整材以外の摩擦調整材としては、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等の未加硫又は加硫ゴム粉末;カシューダスト、メラミンダスト、ゴム被覆カシューダスト等の有機充填材;硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化カルシウム(消石灰)、バーミキュライト、クレー、マイカ、タルク、ドロマイト、クロマイト、ムライト、トンネル結晶構造のチタン酸カリウム、トンネル結晶構造のチタン酸ナトリウム等の無機粉末;アルミニウム、亜鉛、鉄、錫などの金属単体又は合金形態の銅及び銅合金以外の金属粉末等の無機充填材;シリコンカーバイト(炭化ケイ素)、酸化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(二酸化ケイ素)、マグネシア(酸化マグネシウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、ケイ酸ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄(四酸化三鉄等)、クロマイト、石英等の研削材;合成又は天然黒鉛(グラファイト)、リン酸塩被覆黒鉛、カーボンブラック、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化ビスマス、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の固体潤滑材等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
摩擦材組成物におけるその他材料の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、40質量%~94質量%であることが好ましい。
【0078】
(摩擦材組成物の製造方法)
本発明の摩擦材組成物は、(1)レーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機で各成分を混合する方法;(2)所望する成分の造粒物を調製し、必要により他の成分をレーディゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて混合する方法等により製造することができる。
【0079】
本発明の摩擦材組成物の各成分の含有量は、所望する摩擦特性により適宜選択することができ、上記の製造方法により製造することができる。
【0080】
また、本発明の摩擦材組成物は、特定の構成成分を高い濃度で含むマスターバッチを作製し、このマスターバッチに熱硬化性樹脂等を添加し混合することにより調製してもよい。
【0081】
<摩擦材及び摩擦部材>
本発明においては、上記摩擦材組成物を、常温(20℃)にて仮成形し、得られた仮成形体を加熱加圧成形(成形圧力10MPa~40MPa、成形温度150℃~200℃)し、必要に応じて、得られた成形体を加熱炉内で熱処理(150℃~220℃、1時間~12時間保持)を施し、しかる後その成形体に機械加工、研磨加工を加えて所定の形状を有する摩擦材を製造することができる。
【0082】
本発明の摩擦材は、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材として用いられる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、(1)摩擦材のみの構成、(2)裏金等の基材と、該基材の上に設けられ、摩擦面を与える本発明の摩擦材とを有する構成等が挙げられる。
【0083】
基材は、摩擦部材の機械的強度をより一層向上させるために用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化樹脂等を用いることができる。例えば、鉄、ステンレス、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂等が挙げられる。
【0084】
摩擦材には、通常、内部に微細な気孔が多数形成されており、高温時の分解生成物(ガスや液状物)の逃げ道となり摩擦特性の低下防止を図るとともに、摩擦材の剛性を下げ減衰性を向上させることで鳴きの発生を防止している。通常の摩擦材においては、気孔率が好ましくは5%~30%、より好ましくは10%~25%になるように、材料の配合、成形条件を管理している。
【0085】
本発明の摩擦部材は、上記本発明の摩擦材組成物により構成されているので、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦係数が高く、耐摩耗性が優れている。さらに、塩素イオンの溶出が少なく、吸湿した摩擦材をローターに押し付けた状態で長期間維持してもローターの発錆が抑制され、摩擦材の成形性も優れている。そのため、本発明の摩擦部材は、各種車両や、産業機械等の制動装置を構成するディスクパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等のブレーキシステム全般に好適に用いることができ、特に回生協調ブレーキの摩擦部材として好適に用いることができる。
【実施例
【0086】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。
【0087】
本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。チタン酸塩化合物の物性(化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積および発熱ピーク温度)、並びに酸化チタンの物性(塩素イオン溶出率)は以下のように測定した。
【0088】
(化学組成)
結晶構造はX線回折測定装置(リガク社製、品番「UltimaIV」)により確認し、組成式はICP-AES分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジース社製、品番「SPS5100」)により確認した。
【0089】
(塩素イオン溶出率)
サンプルの質量(X)gを測定し、次いで該サンプルを超純水に加えて1質量%のスラリーを調製し、25℃で10分撹拌後、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターで固形分を除去し、抽出液を得た。得られた抽出液の塩素イオンの質量(Y)gをイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、品番「ICS-1100」)にて測定した。次いで、上記質量(X)g及び(Y)gの値を用い、式[(Y)/(X)]×10に基づいて、塩素イオン溶出率(ppm)を算出した。
【0090】
(吸湿率)
サンプルの質量(X)gを測定し、次いで該サンプルを25℃、湿度97.5%のデシケータ内に24時間静置した。24時間後のサンプルの質量(Y)gを精密天秤で測定した。次いで、上記質量(X)g及び(Y)gの値を用い、式[(Y)-(X)/(X)]×100に基づいて、吸湿率(質量%)を算出した。
【0091】
(アルカリ金属イオン溶出率)
サンプルの質量(X)gを測定し、次いでサンプルを超純水に加えて1質量%のスラリーを調製し、80℃で4時間撹拌後、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターで固形分を除去し、抽出液を得た。得られた抽出液のアルカリ金属イオンの質量(Y)gをイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、品番「ICS-1100」)にて測定した。次いで、上記質量(X)g及び(Y)gの値を用い、式[(Y)/(X)]×100に基づいて、アルカリ金属イオン溶出率(質量%)を算出した。
【0092】
(粒子形状)
電界放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロージス社製、品番「S-4800」)により確認した。
【0093】
(平均粒子径)
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、品番「SALD-2100」)により測定し、得られた粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径を平均粒子径(μm)とした。
【0094】
(比表面積)
自動比表面積測定装置(micromeritics社製、品番「TriStarII3020」)により測定した。
【0095】
(発熱ピーク温度)
サンプルとフェノール樹脂(ヘキサメチレンテトラミン配合ノボラック型フェノール樹脂粉末)を、サンプル75質量%:フェノール樹脂25質量%の割合で混合し、混合物の窒素雰囲気下の発熱ピーク温度を示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、品番「DSC6220」)で測定した。
【0096】
(製造例1)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:20ppm)542.0g、炭酸カリウム216.8g、炭酸リチウム41.2gを常法により混合し、原料混合物を振動ミルに充填し、振動数1200cpm、振幅6.0mmの条件で30分間摩砕処理した。摩砕混合物に水48mlを加えて混合し、この摩砕混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Li0.27Ti1.73であった。
【0097】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0098】
得られたチタン酸塩化合物の化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積、及び発熱ピーク温度を下記の表1に示した。
【0099】
(製造例2)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:20ppm)542.0g、炭酸カリウム216.8g、炭酸リチウム41.2g、及びフラックスとして塩化カリウム48g(他の原料全量100質量部に対して6質量部)を常法により混合し、原料混合物を振動ミルに充填し、振動数1200cpm、振幅6.0mmの条件で30分間摩砕処理した。摩砕混合物に水48mlを加えて混合し、この摩砕混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Li0.27Ti1.73であった。
【0100】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0101】
得られたチタン酸塩化合物の化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積及び発熱ピーク温度を表1に示した。
【0102】
(製造例3)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:20ppm)496.9g、炭酸カリウム213.7g、水酸化マグネシウム89.4gを常法により混合し、原料混合物を振動ミルに充填し、振動数1200cpm、振幅6.0mmの条件で30分間摩砕処理した。摩砕混合物に水48mlを加えて混合し、この摩砕混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し、白色の粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Mg0.4Ti1.6であった。
【0103】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0104】
得られたチタン酸塩化合物の化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積及び発熱ピーク温度を表1に示した。
【0105】
(製造例4)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:5ppm)542.0g、炭酸カリウム216.8g、炭酸リチウム41.2gを常法により混合し、原料混合物を振動ミルに充填し、振動数1200cpm、振幅6.0mmの条件で30分間摩砕処理した。摩砕混合物に水48mlを加えて混合し、この摩砕混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Li0.27Ti1.73であった。
【0106】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0107】
得られたチタン酸塩化合物の化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積、及び発熱ピーク温度を下記の表1に示した。
【0108】
(比較製造例1)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:20ppm)542.0g、炭酸カリウム216.8g、炭酸リチウム41.2gを常法により混合し、原料混合物を振動ミルに充填し、振動数1200cpm、振幅6.0mmの条件で30分間摩砕処理した。摩砕混合物に水48mlを加えて混合し、この摩砕混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Li0.27Ti1.73であった。
【0109】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して粉末を得た。
【0110】
さらに得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過した。さらに、「分取したケーキ(固形分)を750mlの純水に分散させ、ディスパミルによる分散、及び吸引濾過」の作業を10回くり返し、110℃で1時間乾燥して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0111】
得られたチタン酸塩化合物の化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積及び発熱ピーク温度を表1に示した。
【0112】
(比較製造例2)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:450ppm)542.0g、炭酸カリウム216.8g、炭酸リチウム41.2gを常法により混合し、原料混合物を振動ミルに充填し、振動数1200cpm、振幅6.0mmの条件で30分間摩砕処理した。摩砕混合物に水48mlを加えて混合し、この摩砕混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Li0.27Ti1.73であった。
【0113】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0114】
得られたチタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、化学組成、粒子形状、平均粒子径、比表面積及び発熱ピーク温度を表1に示した。
【0115】
(比較製造例3)
酸化チタン(塩素イオン溶出率:20ppm)542.0g、炭酸カリウム216.8g、炭酸リチウム41.2g、フラックスとして塩化カリウム160g(他の原料全量100質量部に対して20質量部)、及び水48mlを定法により混合し、この混合物の15gを油圧プレス機にて圧力10MPaでペレット形状に成形した。このペレットを電気炉中にて1000℃で4時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を粉砕し粉末を得た。得られた粉末の組成式はK0.8Li0.27Ti1.73であった。
【0116】
得られた粉末の15質量%水性スラリー750mlを調製し、ディスパミルにて15分間分散させ、この水性スラリーを吸引濾過し、分取したケーキ(固形分)を110℃で1時間乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した後、徐冷し、得られた焼成物を20メッシュの篩に通して目的とするチタン酸塩化合物の粉末を得た。
【0117】
得られたチタン酸塩化合物の化学組成、塩素イオン溶出率、吸湿率、アルカリ金属イオン溶出率、粒子形状、平均粒子径、比表面積及び発熱ピーク温度を表1に示した。
【0118】
【表1】
【0119】
(実施例1~4及び比較例1~3)
<摩擦部材の製造>
表2に記載の配合比率に従って各材料を配合し、アイリッヒミキサーを用いて3分間混合を行った。得られた混合物を、常温(20℃)にて15MPaの圧力で5秒間加圧し、仮成形体を作製した。150℃に温めた加熱成形用金型のキャビティー部に、上記の仮成形体をはめ込み、その上にバックプレート(材質:鋼)を載せたまま、成形体の気孔率が15%となるように15MPa~40MPaの圧力で300秒間加圧した。加圧開始から計測し60秒~90秒の間に、5回のガス抜き処理を行った。得られた成形体を220℃に熱した恒温乾燥機に入れて2時間保持し、完全硬化を行うことにより、摩擦部材を得た。
【0120】
なお、表2中の「フェノール樹脂」はヘキサメチレンテトラミン配合ノボラック型フェノール樹脂粉末であり、「酸化ジルコニウム」は平均粒子径5μmの酸化ジルコニウムであり、「硫酸バリウム」は平均粒子径1.6μmの硫酸バリウム(堺化学工業社製、「硫酸バリウムBMH-100」)であり、「ロックウール」は平均繊維長125μmのロックウールである。また、表2には、銅元素としての銅含有量や、摩擦調整材(チタン酸塩化合物)の熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)に対する質量比(チタン酸塩化合物/フェノール樹脂)を併せて示している。
【0121】
<摩擦部材の評価>
上記で作製した摩擦部材の気孔率、ロックウェル硬度及びローターの発錆量は以下のように評価し、結果を表2に記載した。
【0122】
(気孔率)
摩擦部材のバックプレートを剥離したものを測定サンプルとし、JIS D4418の方法に従い測定した。
【0123】
(ロックウェル硬度)
摩擦部材の表面のロックウェル硬度をJIS D4421の方法に従い測定した。硬さのスケールはSスケールを用いた。
【0124】
(ローターの発錆量)
摩擦部材のバックプレートを剥離したものを15mm×20mm×厚み9mmの試験片に切削し、脱イオン水20ml中に1時間浸漬させた後、予め15mm×20mmにカットしたローター試験片を重ね合わせ、サンプル対とした。該サンプル対を2.0MPaに加圧し、25℃、湿度50%の環境下で72時間静置した。試験後、図1に示すように、パッド試験片に接触していたローター試験片1の表面1aにおける錆が発生した面積(図1に斜線で示す部分)を下記指標にて判定した。
【0125】
A:錆が発生した面積が5%未満
B:錆が発生した面積が5%以上30%未満
C:錆が発生した面積が30%以上
【0126】
【表2】
【0127】
表2より、塩素イオン溶出率が小さいチタン酸塩化合物を使用した実施例1~4及び比較例1の摩擦部材はローターの発錆が抑制されていることがわかる。
【0128】
また、表2より、塩素イオン溶出率が特定の範囲に制御されたチタン酸塩化合物を使用した実施例1~4の摩擦部材は、比較例1~3の摩擦部材と比較し、摩擦部材の気孔率が同じでありながらロックウェル硬度が大きいことから、熱硬化性樹脂の硬化反応の阻害が小さいことが分かる。このことから、摩擦部材の成形時間を短く、または成形温度を低くできるなどの成形条件に幅をもたせることが可能であるため、成形性が優れていることがわかる。また、熱硬化性樹脂の硬化反応の阻害が小さいことから、摩擦部材の耐摩耗性が向上することが期待できる。
【0129】
上記で作製した実施例1及び実施例3の摩擦部材について、摩擦部材の表面を1.0mm研磨し、JASO C406に基づいてブレーキ効力試験を行い、平均摩擦係数、パッド摩耗量(摩擦材摩耗量)及びローター摩耗量(相手材摩耗量)を求めた。なお、ローターはASTM規格におけるA型に属する鋳鉄ローターを用いた。
【0130】
また、上記で作製した実施例1及び実施例3の摩擦部材について、摩擦部材の表面を1.0mm研磨し、摩耗粉塵捕集装置を設置したスケールダイナモを用いて摩耗粉塵量を測定した。摩耗粉塵捕集装置には東京ダイレック社製、MCIサンプラー(PM10-2.5及びPM2.5を捕集するフィルター設置)とTSI社製、CPC3772(PN計測器)を取り付けた。予め65km/h、3.5m/s、500回の制動条件で摺合せを行った摩擦部材とローター(ASTM規格におけるA型に属する鋳鉄ローター)を用いて、表3の摩擦条件にて摩耗粉塵計測試験を2回実施し、粒子状物質の質量(PM10-2.5及びPM2.5)はフィルター捕集量の平均値、PN(粒子個数)はトータル個数濃度の平均値として算出した。
【0131】
【表3】
【0132】
実施例1の摩擦部材の平均摩擦係数は0.38、パッド摩耗量は0.25mm、ローター摩耗量は0.06gであり、実施例3の摩擦部材の平均摩擦係数は0.38、パッド摩耗量は0.30mm、ローター摩耗量は0.06gであった。また、実施例1の摩擦部材の摩耗粉塵は、PM10-2.5が241μg、PM2.5が122μg、PNが643,794個/cmであった。実施例3の摩擦部材の摩耗粉塵は、PM10-2.5が278μg、PM2.5が125μg、PNが715,794個/cmであった。即ち、摩擦部材は、本発明の摩擦調整材(チタン酸塩化合物)を配合することで摩擦係数が高く安定し、耐摩耗性に優れ、さらに微細な摩耗粉塵も低減されていることを確認した。
【符号の説明】
【0133】
1…ローター試験片
1a…表面
【要約】
摩擦材を作製する際の成形性に優れ、吸湿した摩擦材をローターに押し付けた状態で長期間維持してもローターの発錆を抑制することができる、摩擦調整材を提供する。
層状結晶構造のチタン酸塩化合物により構成される摩擦調整材であって、前記チタン酸塩化合物の塩素イオン溶出率が、0.5ppm~400ppmであることを特徴とする、摩擦調整材。
図1