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特許7017008多能性幹細胞からCD4陽性T細胞を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からCD4陽性T細胞を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20220201BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220201BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220201BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220201BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220201BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20220201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220201BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/12
C12N5/0789
C12N15/867 Z
C12N5/0784
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61K39/00 H
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017545495
(86)(22)【出願日】2016-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2016080582
(87)【国際公開番号】W WO2017065288
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2015203482
(32)【優先日】2015-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(01)、「「免疫機構をターゲットとした創薬」(がん特異抗原glypican-3を標的としたiPS細胞由来再生T細胞療法の開発)」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】上田 格弘
(72)【発明者】
【氏名】植村 靖史
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/143047(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176197(WO,A1)
【文献】特開2015-130881(JP,A)
【文献】J.Immunol.,2012,189(3),p.1228-1236 (Author Manuscript p.1-20)
【文献】J.Exp.Med.,1988,167,p.1493-1498
【文献】日本再生医療学会雑誌,2012,11(4),p.379-382
【文献】UEDA N. et al.,Generation of BCR-ABL reactive CD4 T lymphocytes by reprograming and redifferentiation,日本免疫学会総会・学術集会記録,2014,Vol.43,p.167,3-C-W40-4-P
【文献】J.Immunol.,2006,177,p.3625-3634
【文献】Cell Stem Cell,2013,12(1),p.114-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から誘導したT細胞へCD4遺伝子または遺伝子産物を導入する工程を含み、
前記多能性幹細胞からT細胞の誘導方法が、次の(1)および(2)の工程を含む、CD4陽性T細胞を誘導する方法
(1)多能性幹細胞からCD34陽性造血前駆細胞を誘導する工程、
(2)前記工程(1)で得られたCD34陽性造血前駆細胞をFLT3LおよびIL-7の存在下で培養する工程
【請求項2】
次の(3)の工程をさらに含む、請求項に記載の方法;
(3)前記工程(2)で得られた細胞をIL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核球と共培養する工程。
【請求項3】
前記工程(2)で得られた細胞をマイトジェンと接触させる工程および/または前記工程(3)で得られた細胞をマイトジェンと接触させる工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)が多能性幹細胞をC3H10T1/2と共培養した後、VEGF、FLT3LおよびSCFの存在下でC3H10T1/2と共培養する工程である、請求項からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(2)が、前記CD34陽性造血前駆細胞をストローマ細胞と共培養する工程である、請求項からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ストローマ細胞が、Delta-1を発現させたOP9細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記CD4遺伝子または該遺伝子産物の導入が、レトロウィルスを用いてCD4遺伝子を導入することによる、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記多能性幹細胞が、再構成された所望のTCR配列を有する、請求項1からのいず
れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記多能性幹細胞が所望の抗原認識するリンパ球から誘導されたヒトiPS細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記所望の抗原認識するリンパ球が、BCR/ABLを認識するリンパ球である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
in vitroで請求項1から10のいずれか1項に記載の方法で製造されたCD4陽性T細胞と単離された樹状細胞とを抗原の存在下で接触させる工程を含む、樹状細胞を活性化する方法。
【請求項12】
前記抗原が、BCR/ABLの断片である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法で製造されたCD4陽性T細胞を含む、がん治療剤。
【請求項14】
抗原をさらに含む、請求項13に記載のがん治療剤。
【請求項15】
前記抗原が、BCR/ABLの断片である、請求項14に記載のがん治療剤。
【請求項16】
請求項11または12に記載の方法で活性化された樹状細胞を含む、請求項13から15のいずれか1項に記載のがん治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD4遺伝子または該遺伝子産物を多能性幹細胞から誘導したT細胞へ導入する工程を含むCD4陽性T細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍に対する免疫監視機能は、主に直接的に腫瘍を傷害するCD8陽性細胞からなる細胞傷害性T細胞(CTL)と、主にCD4陽性細胞からなるCTLの機能を増強するヘルパーT細胞(Th細胞)によって成り立っている。一方で、樹状細胞(DC)は他の免疫細胞の動態を調整する司令塔的な役割を持つ。Th細胞はDCの活性化を介してCTLを活性化して抗腫瘍効果を発揮することができると考えられている。
【0003】
人工多能性幹(iPS)細胞などの多能性幹細胞から腫瘍抗原特異的Th細胞の誘導が可能となれば、これを生体内に投与して強い抗腫瘍免疫応答を惹起するような新規細胞免疫療法の開発につながると考えられ、これまでに抗原特異的なCD8陽性CTLからiPS細胞を作り、再びCD8陽性CTLに分化誘導する方法が報告されている(非特許文献1および特許文献1)。この方法ではCD8陽性CTLのT細胞受容体(TCR)が一貫して受け継がれるため、iPS細胞から誘導されたCD8陽性CTLも由来となった細胞と同じ抗原特異性を示す。
【0004】
T細胞共受容体(CD8陽性CTLにおいてはCD8分子、CD4陽性Th細胞においてはCD4)は、TCRが抗原を認識した際に細胞内に入力するシグナルを効果的に増強し、その結果、T細胞の抗原特異的な免疫反応が効果的に誘導される。しかし、非特許文献1に記載の方法ではCD8分子を発現した細胞の誘導は可能であるが、CD4分子を発現した細胞の作製は難しい。従って、CD4陽性Th細胞由来のiPS細胞から誘導した細胞ではCD4分子を欠くため十分なヘルパー機能を惹起できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO 2011/096482
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多能性幹細胞からCD4陽性T細胞を製造することにある。さらなる本発明の目的は、当該方法で得られたCD4陽性T細胞を用いて樹状細胞を活性化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、多能性幹細胞から従来法に従って誘導したT細胞には、CD4が発現しないことから、当該T細胞へCD4遺伝子を導入したところ、生体内から単離したCD4陽性T細胞と同等に、樹状細胞を活性化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1]多能性幹細胞から誘導したT細胞へCD4遺伝子または該遺伝子産物を導入する工程を含む、CD4陽性T細胞を誘導する方法。
[2]前記多能性幹細胞からT細胞の誘導方法が、次の(1)および(2)の工程を含む、[1]に記載の方法;
(1)多能性幹細胞からCD34陽性造血前駆細胞を誘導する工程、
(2)前記工程(1)で得られたCD34陽性造血前駆細胞をFLT3L(Flt3 Ligand)およびIL(Interleukin)-7の存在下で培養する工程。
[3]次の(3)の工程をさらに含む、[2]に記載の方法;
(3)前記工程(2)で得られた細胞をIL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核球(PBMC)と共培養する工程。
[4]前記工程(2)で得られた細胞をマイトジェンと接触させる工程および/または前記工程(3)で得られた細胞をマイトジェンと接触させる工程をさらに含む、[2]または[3]に記載の方法。
[5]前記工程(1)が多能性幹細胞をC3H10T1/2と共培養した後、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)、FLT3LおよびSCF(Stem Cell Factor)の存在下でC3H10T1/2と共培養する工程である、[2]から[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記工程(2)が、前記CD34陽性造血前駆細胞をストローマ細胞と共培養する工程である、[2]から[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]前記ストローマ細胞が、Delta-1を発現させたOP9細胞である、[6]に記載の方法。
[8]前記CD4遺伝子または遺伝子産物の導入が、レトロウィルスを用いてCD4遺伝子を導入することによる、[1]から[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9]前記多能性幹細胞が、再構成された所望のTCR配列を有する、[1]から[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10]前記多能性幹細胞が所望の抗原認識するリンパ球から誘導されたヒトiPS細胞である、[9]に記載の方法。
[11]前記所望の抗原認識するリンパ球が、BCR/ABLを認識するリンパ球である、[10]に記載の方法。
[12]in vitroで[1]から[11]のいずれか1項に記載の方法で製造されたCD4陽性T細胞と単離されたDCとを抗原の存在下で接触させる工程を含む、樹状細胞を活性化する方法。
[13]前記抗原が、BCR/ABLの断片である、[12]に記載の方法。
[14][1]から[11]のいずれか1項に記載の方法で製造されたCD4陽性T細胞を含む、がん治療剤。
[15]抗原をさらに含む、[14]に記載のがん治療剤。
[16]前記抗原が、BCR/ABLの断片である、[15]に記載のがん治療剤。
[17][12]または[13]に記載の方法で活性化された樹状細胞を含む、がん治療剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多能性幹細胞から誘導したT細胞へCD4遺伝子または遺伝子産物を導入することで、機能的なCD4陽性T細胞を製造することが可能である。さらに、本発明によれば、当該CD4陽性T細胞を用いて樹状細胞を活性化することが可能である。従って、本発明によれば、多能性幹細胞からCD4陽性T細胞を生産することが可能であり、また、多能性幹細胞由来のCD4陽性T細胞を含む免疫機能を賦活するがん治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、多能性幹細胞からT細胞を誘導するスキームを示す。
図2図2Aは、採取したTh細胞(左図)および誘導T細胞(CD4遺伝子未導入)(右図)のCD4およびTCR-Vβ22を指標としたフローサイトメトリーの結果を示す。図2Bは、誘導T細胞(CD4遺伝子未導入)(左図)および誘導T細胞(CD4遺伝子導入)(右図)のCD4およびTCR-Vβ22を指標としたフローサイトメトリーの結果を示す。
図3図3は、採取したTh細胞(左図)および誘導T細胞(CD4遺伝子導入)を抗原(b3a2)の存在下で処理したDCで活性化したCD8陽性CTLのWT1テトラマーを用いたフローサイトメトリーの結果を示す。
図4図4は、b3a2-iPS-T細胞(Mock)およびCD4-b3a2-iPS-T細胞(CD4)の増殖能を調べるため、[3H]-thymidine incorporation assayを行った結果を示す。
図5図5は、あらかじめ10μM b3a2ペプチドを呈示させた樹状細胞刺激による、b3a2-iPS-T細胞(Mock)およびCD4-b3a2-iPS-T細胞(CD4)のIFN-γ産生能について評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、多能性幹細胞から誘導したT細胞へCD4遺伝子または該遺伝子産物を導入する工程を含む、CD4陽性T細胞を誘導する方法を提供する。
【0013】
多能性幹細胞
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、少なくとも本発明で使用される造血前駆細胞に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。
【0014】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いてもよい。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat. Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0015】
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0016】
本発明では、CD4陽性T細胞を製造する目的に使用するため、T細胞受容体(T cell receptor、TCR)の遺伝子再編成が行われたリンパ球(好ましくは、T細胞)を体細胞として用いてiPS細胞を製造することが好ましい。本発明において、リンパ球を用いる場合、初期化の工程に先立ち当該リンパ球をインターロイキン-2(IL-2)の存在下にて抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激、または、所望の抗原ペプチドで刺激して活性化することが好ましい。かかる刺激は、例えば、培地中に、IL-2、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を添加して前記リンパ球を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。また、ヒトT細胞が認識する抗原ペプチドを培地中に添加することによって刺激を与えてもよい。抗原ペプチドとは、所望の抗原タンパク質を構成する少なくとも9個以上のアミノ酸配列から成るペプチドである。このようなペプチドとして、例えば、BCR/ABLキメラ遺伝子のp210のb3a2サブタイプ(単にb3a2ともいう)を構成する9個以上のアミノ酸配列から成るペプチドが例示される。このように、抗原ペプチドを添加した培地中でリンパ細胞を培養することで、当該抗原ペプチドを認識するリンパ細胞が選択的に増殖させることが可能である。
【0017】
本発明において製造されるCD4陽性T細胞は、所望の抗原特異性を有することが好ましい。従って、iPS細胞の元となるリンパ球は、所望の抗原特異性を有することが望ましく、当該リンパ球は、所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製により特異的に単離されてもよい。この精製では、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を4量体化させたもの(いわゆる「MHCテトラマー」)を用いて、ヒトの組織より所望の抗原特異性を有するリンパ球を精製する方法も採用することができる。
【0018】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。本発明の方法によって調製されたCD4陽性T細胞を輸血に使用する場合、輸血される患者とヒト白血球型抗原(HLA)の型を適合させ易いという観点から、iPS細胞の元となる体細胞は、CD4陽性T細胞を輸血される対象から単離されることが好ましい。
【0019】
多能性幹細胞からT細胞の誘導方法
前記多能性幹細胞からT細胞の誘導方法は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、次の(1)から(3)の工程を含む方法が挙げられる;
(工程1)多能性幹細胞からCD34陽性造血前駆細胞を誘導する工程、
(工程2)前記工程(1)で得られたCD34陽性造血前駆細胞をFLT3LおよびIL-7の存在下で培養する工程、および
(工程3)前記工程(2)で得られた細胞をIL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核球と共培養する工程。
【0020】
本発明において、T細胞とは、TCRを細胞表面に有している細胞を意味する。例えば、さらにCD4およびCD8を細胞表面に有していてもよい。従って、本発明において、T細胞を誘導するという観点から、上記(工程1)および(工程2)を含めばよい。T細胞の含有効率を上昇させる目的にて、さらに、上記(工程3)を含むことが望ましい。
【0021】
本発明において、T細胞を誘導するとは、T細胞に加えて、他の細胞種が含まれる細胞集団として製造してもよく、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または95%以上のT細胞が含まれる細胞集団を製造することを意味する。
【0022】
(工程1)多能性幹細胞から造血前駆細胞を誘導する工程
本発明において、造血前駆細胞とは、リンパ球、好酸球、好中球、好塩基球、赤血球、巨核球等の血球系細胞に分化可能な細胞である、本発明において、造血前駆細胞と造血幹細胞は、区別されるものではなく、特に断りがなければ同一の細胞を示す。したがって、本発明において、造血前駆細胞は造血幹細胞も含む。造血前駆細胞は、例えば、表面抗原であるCD34陽性、またはCD34およびCD43が陽性であることによって認識できる。
【0023】
多能性幹細胞から造血前駆細胞を誘導する方法として、多能性幹細胞をC3H10T1/2と共培養した後、VEGF、FLT3LおよびSCFの存在下でC3H10T1/2と共培養することで得られるネット様構造物(ES-sac又はiPS-sacとも称する)から造血前駆細胞を調製することができる。このとき、さらにビタミンC類を添加して培養してもよい。ここで、「ネット様構造物」とは、多能性幹細胞由来の立体的な嚢状(内部に空間を伴うもの)構造体で、内皮細胞集団などで形成され、内部に造血前駆細胞を含む構造体である。この他にも、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法にしたがって、多能性幹細胞をVEGFの存在下でC3H10T1/2上で培養することで得られるネット様構造物から造血前駆細胞を調製することができる。 また、多能性幹細胞からの造血前駆細胞の製造方法として、胚様体の形成とサイトカインの添加による方法(Chadwick et al. Blood 2003, 102: 906-15、Vijayaragavan et al. Cell Stem Cell 2009, 4: 248-62、Saeki et al. Stem Cells 2009, 27: 59-67)または異種由来のストローマ細胞との共培養法(Niwa A et al. J Cell Physiol. 2009 Nov;221(2):367-77.)、サイトカインの添加とコーティング剤(マトリゲルまたはラミニン断片)の組み合わせによる方法(WO2011/115308)等が例示される。
【0024】
(工程2)造血前駆細胞をFLT3LおよびIL-7の存在下で培養する工程
本工程2において用いる培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へFLT3LおよびIL-7を添加して調製することができる。基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。本工程2において、好ましい基礎培地は、血清、L-グルタミン、トランスフェリン、セレンを添加したαMEM培地である。
【0025】
本工程2において用いる培養液中におけるIL-7の濃度は、通常0.1 ng/mlから50 ng/mlであり、例えば、0.1 ng/ml、0.2 ng/ml、0.3 ng/ml、0.4 ng/ml、0.5 ng/ml、0.6 ng/ml、0.7 ng/ml、0.8 ng/ml、0.9 ng/ml、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、10ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/mlまたは50 ng/mlである。好ましくは、1 ng/mlである。
【0026】
本工程2において用いる培養液中におけるFLT3Lの濃度は、通常1 ng/mlから100 ng/mlであり、例えば、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/mlまたは100 ng/mlである。好ましくは、10 ng/mlである。
【0027】
本工程2に用いる培養液へ、ビタミンC類、SCF、TPO(トロンボポエチン)からなる添加物をさらに添加して調製してもよい。
【0028】
本発明において、ビタミンC類とは、L-アスコルビン酸およびその誘導体を意味し、L-アスコルビン酸誘導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。L-アスコルビン酸の誘導体として、リン酸ビタミンC、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸アスコビルおよびアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸が例示される。好ましくは、リン酸ビタミンCであり、例えば、リン酸-L-アスコルビン酸Naまたはリン酸-L-アスコルビン酸Mgが挙げられる。
【0029】
本発明において、ビタミンC類は、培養期間中、4日毎、3日毎、2日毎、または毎日、別途添加することが好ましく、より好ましくは毎日である。当該ビタミンC類は、培養液において、通常5ng/mlから500ng/mlに相当する量を添加する。好ましくは、5ng/ml、10ng/ml、25ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、または500ng/mlに相当する量である。
【0030】
本発明において造血前駆細胞の製造に用いるSCFの培養液中における濃度は、10 ng/mlから100 ng/mlであり、例えば、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml、150 ng/ml、200 ng/ml、または500 ng/mlである。
【0031】
本発明において造血前駆細胞の製造に用いるTPOの培養液中における濃度は、10 ng/mlから100 ng/mlであり、例えば、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml、150 ng/ml、200 ng/ml、または500 ng/mlである。
【0032】
本工程2において、造血前駆細胞を接着培養または浮遊培養してもよく、接着培養の場合、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい。共培養するフィーダー細胞として、ストローマ細胞が好ましく、具体的には骨髄間質細胞株OP9細胞(理研BioResource Centerより入手可能)が例示される。当該OP9細胞は、好ましくは、Delta-like 1(Dll1)を恒常的に発現するOP9-DL1細胞であってもよい(Holmes R1 and Zuniga-Pflucker JC. Cold Spring Harb Protoc. 2009(2))。本発明において、フィーダー細胞としてOP9細胞を用いる場合、別途用意したDll1またはDll1とFc等の融合タンパク質を適宜培養液に添加することによっても行い得る。本発明において、Dll1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_005618、マウスの場合、NM_007865に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらと高い配列同一性(例えば90%以上)を有し、同等の機能を有する天然に存在する変異体が包含される。当該フィーダー細胞は培養中適宜交換することが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。当該交換は、5日毎、4日毎、3日毎、または2日毎にて行い得る。
【0033】
本工程2において、浮遊培養によって行われる場合、細胞を培養容器へ非接着の状態で凝集体(スフェアとも言う)を形成させて培養することが望ましく、このような培養は、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)、非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)またはリン脂質類似構造物(例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする水溶性ポリマー(Lipidure))によるコーティング処理した培養容器を使用することによって行うことができる。本工程2を浮遊培養で行う場合、Huijskens MJ et al, J Leukoc Biol. 96: 1165-1175, 2014を参照して行うことができる。
【0034】
本工程2において、接着培養によって行われる場合、細胞外基質をコーティング処理された培養容器を用いて培養することによって行うことができる。コーティング処理は、細胞外基質を含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。ここで、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、ポリリジン、ポリオルニチン、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、ラミニンといった物質およびこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(商標)などの細胞からの調製物であってもよい。
【0035】
本工程2における、造血前駆細胞を培養する際の培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば細胞数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、21日以上であり、好ましくは14日である。
【0036】
本工程2にて得られた細胞を、マイトジェンで刺激してもよい。本発明において、マイトジェンとは、T細胞の細胞分裂を促進する物質を意味し、このような物質として、例えば、pokeweed mitogen、抗CD3抗体、抗CD28抗体、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA (ConA)、スーパー抗原、フォールボールエステル(例えば、ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA))が挙げられる。
【0037】
(工程3)IL-7およびIL-15の存在下で末梢血単核球と共培養する工程
本工程3は、上述の工程2で得られた細胞を単離し、末梢血単核球と共培養する工程である。
【0038】
本工程3で用いる末梢血単核球は、工程1で用いた多能性幹細胞とてアロジェニック(同種)であることが望ましく、従って、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、当該末梢血単核球もヒト末梢血単核球であることが望ましい。また、当該末梢血単核球は、自己増殖を防止する措置を取ることが望ましく、このような措置として、放射線照射やマイトマイシン処理が例示される。
【0039】
本工程3において用いる培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へIL-7およびIL-15を添加して調製することができる。基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。本工程2において、好ましい基礎培地は、血清、L-グルタミン、を添加したRPMI 1640培地である。
【0040】
本工程3において用いる培養液中におけるIL-7の濃度は、1 ng/mlから100 ng/mlであり、例えば、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/mlである。好ましくは、10 ng/mlである。
【0041】
本工程3において用いる培養液中におけるIL-15の濃度は、1 ng/mlから100 ng/mlであり、例えば、1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/mlである。好ましくは、10 ng/mlである。
【0042】
T細胞の細胞分裂を促進する目的で、培養液へマイトジェンをさらに添加して調製してもよい。マイトジェンは、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0043】
本工程3における、培養温度条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。また、培養期間については、当業者であれば細胞数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、21日以上であり、好ましくは14日である。
【0044】
CD4遺伝子または遺伝子産物を導入する方法
CD4遺伝子または遺伝子産物をT細胞に導入する方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。本発明において、遺伝子産物とは、RNAまたはタンパク質が例示される。CD4遺伝子はヒトの遺伝子が好ましく、例えば、GenBank Accession No. AAH25782のアミノ酸配列(配列番号3)またはそれと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上同一なアミノ酸配列を有し、T細胞に導入されたときに樹状細胞を活性化可能なタンパク質をコードする遺伝子が例示される。
【0045】
遺伝子(DNA)の形態で導入する場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクターには、CD4遺伝子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモーター、 LTRプロモーター、CMV (cytomegalovirus)プロモーター、RSV (Rous sarcoma virus)プロモーター、MoMuLV (Moloney mouse leukemia virus) LTR、HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよびTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)が例示される。TREプロモーターを用いた場合、同一の細胞において、tetRおよびVP16ADとの融合タンパク質またはreverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を同時に発現させることが望ましい。ここで、TREプロモーターを有しreverse tetR (rtetR)およびVP16ADとの融合タンパク質を発現させることが可能なベクターを薬剤応答性誘導ベクターと称する。また、上記ベクターには、多能性細胞の染色体へプロモーターとそれに結合するCD4遺伝子からなる発現カセットを取り込み、さらに必要に応じて切除するために、この発現カセットの前後にトランスポゾン配列を有していでもよい。トランスポゾン配列として特に限定されないが、piggyBacが例示される。他の態様として、発現カセットを除去する目的のため、発現カセットの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0046】
薬剤応答性誘導ベクターを用いる場合、CD4遺伝子の導入は、多能性幹細胞において導入してもよく、この場合、対応する薬剤を培地中へ添加することでCD4遺伝子を発現することができる。従って、当該薬剤応答性誘導ベクターを用いる場合、対応する薬剤を培地中へ添加することをもって、CD4遺伝子の導入と言い換えることができる。対応する薬剤としては、ドキシサイクリンなどが例示される。LoxP配列を有するベクターを用いる場合、所望の期間経過後、Creを細胞内に導入することで発現を停止する方法などが例示される。
【0047】
RNAの形態で導入する場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
【0048】
タンパク質の形態で導入する場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
【0049】
このような遺伝子産物の形態で導入する場合、遺伝子産物の半減期が短いことから、当該導入を複数回にわたって行ってもよい、導入回数は、CD4遺伝子の発現が必要な期間から半減期を参照し、適宜算出することができる。導入回数として、3回、4回、5回、6回またはそれ以上が例示される。
【0050】
樹状細胞を活性化する方法
本発明は、上述した方法で製造されたCD4陽性T細胞をin vitroで抗原の存在下で樹状細胞と接触させる工程を含む樹状細胞を活性化する方法を提供する。
【0051】
本発明において樹状細胞とは、抗原を取り込み、MHC分子と結合して当該抗原を提示することができる機能を有する細胞である。本発明の方法で製造されたCD4陽性T細胞と接触させることで活性化できることから、未熟樹状細胞であってもよい。
【0052】
樹状細胞を活性化するとは、抗原に特異的なT細胞を活性化できる機能を獲得することを意味し、より好ましくは、抗原に特異的なCD8陽性T細胞を活性化できる機能を獲得することである。当該活性化は、CD83、またはCMRF-44の発現を確認することによっても行い得る。さらに、樹状細胞を活性化するとは、未熟樹状細胞を成熟樹状細胞へと成熟させると言い換えることもできる。
【0053】
本発明で使用する樹状細胞は、ドナーから血液成分分離装置および密度勾配遠心分離法にて単離された樹状細胞であり、CD4陽性T細胞と同一のMHC分子を所有していることが好ましい。
【0054】
本発明の樹状細胞の活性化において用いる抗原は、本発明の方法で製造されたCD4陽性T細胞によって特異的に認識されるタンパク質の少なくとも連続する9アミノ酸配列を有するペプチドである。このような抗原として、例えば、CD4陽性T細胞がb3a2ペプチドを特異的に認識するTCRを保有する場合、当該b3a2ペプチドを抗原として用いる。
【0055】
b3a2ペプチドとは、b3a2型のBCR/ABLキメラ遺伝子によってコードされるタンパク質の一部であり、少なくとも連続する9アミノ酸配列を有するペプチドである。b3a2型のBCR/ABLキメラ遺伝子とは、BCRのM-BCR部位よりのB3エクソンと、ABLよりのA2エクソンを含むBCRとABLの融合遺伝子を意味する。
【0056】
樹状細胞を活性化するために用いる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を用いることができる。当該基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。
【0057】
本発明において好ましい基礎培地は、血清、L-グルタミンを含むRPMI 1640培地である。
【0058】
樹状細胞の活性に要する時間は特に限定されないが、数時間でよく、例えば、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間などが例示される。好ましくは、5時間である。
【0059】
がん治療剤
本発明は、上述の方法によって製造されたCD4陽性T細胞、および/または上述の方法によって活性化された樹状細胞を含むがん治療剤を提供する。
【0060】
CD4陽性T細胞を含む治療剤である場合、治療対象となるがんは、がん細胞において、CD4陽性T細胞に特異的に認識される抗原を発現するがん細胞であることが望ましい。例えば、CD4陽性T細胞がb3a2を特異的に認識するTCRを保有する場合、治療対象は、b3a2を発現するがん細胞であり、BCR/ABLキメラ遺伝子を有する染色体(フィラデルフィア染色体)を原因とする白血病である。
【0061】
CD4陽性T細胞により活性化された樹状細胞は、当該CD4陽性T細胞によって認識される抗原以外であっても提示することによって当該抗原を認識するリンパ球(例えば、CD8陽性T細胞)を活性化することが可能である。従って、樹状細胞を含むがん治療剤の対象となるがんは特に限定されない。
【0062】
樹状細胞を含む治療剤である場合、活性化された樹状細胞をそのまま治療剤としてもよいが、がん治療に関しては、樹状細胞に腫瘍抗原を提示させるために、がん細胞のcell lysate (細胞溶解物) と混合、ペプチドで接触、または腫瘍抗原遺伝子を導入する方法などにより抗原を提示させた樹状細胞をがん治療剤として用いてもよい。
【0063】
当該がん治療剤の患者への投与方法としては、例えば、製造されたCD4陽性T細胞、および/または上述の方法によって活性化された樹状細胞を生理食塩水等に懸濁させ、患者の筋組織に直接移植する方法、または、樹状細胞を生理食塩水等に懸濁させ、静脈注射する方法などが挙げられる。
【実施例
【0064】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれら実施例に限定されないものとする。
【0065】
iPS細胞(b3a2-iPSC株)は、単離されたヒトb3a2-Th細胞より Nishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013に記載の方法で樹立した。詳細には、単離されたヒトb3a2-Th細胞を、hIL-2 20ng/mlを含有するRPMI1640+10%FBS+PSG(ペニシリン、ストレプトマイシン、及びL-グルタミン)で2日間培養し、センダイウイルスベクターにて、OCT4、SOX2、KLF4、及びc-MYCを遺伝子導入した。連続2日間の遺伝子導入操作後、照射MEF(マウス胎児線維芽細胞)上に1×105個を播種し、連日半量ずつiPSメディウム(ノックアウト血清代替物、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、b-FGF等を含有する、ダルベッコ変法イーグル培地/F12培地、例えば、リプロセル社から入手可能)に置換していき、播種後4日間にT細胞メディウムから完全にiPSメディウムに置換した。なお、ヒトb3a2-Th細胞は、同意を得て採取したヒト末梢血からファイコールを使用した密度勾配遠心法により分離した末梢血単核球(PBMC)をb3a2ペプチド(配列番号1:ATGFKQSSKALQRPVAS)による抗原刺激を1週間毎、合計3回の刺激を行うことでb3a2-Th細胞を増殖させ、これを限界希釈法にてb3a2-Th細胞クローンとして得た。
【0066】
樹立されたiPS細胞がb3a2-Th細胞由来であることを確認するために、TCR遺伝子の再構成をNishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013に記載の方法で確認した。
【0067】
C3H10T1/2細胞およびDelta-like 1が発現するOP9細胞(OP9-DL1細胞)は、理化学研究所・理研 BioResource Center より入手して用いた。
【0068】
iPS細胞からT細胞への分化誘導は、Nishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1):114-126, 2013に従って行った。詳細には、以下の通り(図1)。
【0069】
10cm dishにおいてコンフルエントなC3H10T1/2細胞上にiPS細胞の小塊を播種し(Day0)、EB培地(15%ウシ胎児血清(FBS)、10μg/mL ヒトインスリン、5.5μg/mL ヒトトランスフェリン、5ng/mL 亜セレン酸ナトリウム、2mM L-グルタミンと、0.45mM α-モノチオグリセロール、および50μg/mL アスコルビン酸を添加したIMDM)中で、低酸素条件下(5% O2)にて7日間培養した(Day7)。
【0070】
続いて、20ng/mL VEGF、30ng/mL SCF及び10ng/mL FLT-3L(Peprotech社製)を添加し、常圧酸素条件下にて7日間培養した(Day14)。
【0071】
得られたネット様構造物(iPS-SACともいう)に含まれている造血細胞(CD34+造血幹/前駆細胞)を回収し、OP9-DL1細胞上に播種した。10ng/mL FLT-3L、および1ng/mL IL-7を添加したOP9培地(15% FBS、2mM L-グルタミン、100U/ml ペニシリン、100ng/ml ストレプトマイシン、5.5μg/mL ヒトトランスフェリンおよび5ng/mL 亜セレン酸ナトリウム添加したαMEM)中で、常圧酸素条件下にて14日間培養し、2μg/mlのフィトヘマグルチニン(PHA)を添加した(Day28)。なお、細胞は、3-4日毎に新たなOP9-DL1細胞上へ播種した。
【0072】
得られた細胞を40GyのX線を照射済みのアロジェニック(同種)のPBMCと混合し、2μg/ml PHA、10ng/mlI L-7および10ng/ml IL-15を添加したRH10培地(10% ヒトAB血清、2mM L-グルタミン、100U/ml ペニシリン及び100ng/ml ストレプトマイシンを添加したRPMI-1640)中で14日間培養し、T細胞(b3a2-iPS-T細胞)を得た(Day42)。
【0073】
得られたT細胞へCD4遺伝子を導入するため、得られた細胞へ2μg/mlのPHAを添加し、PHA添加後3日目と4日目にレトロウイルスウイルスベクターを用いて、CD4遺伝子を導入した。当該レトロウイルスベクターは、pDON-AI2(タカラバイオ)へCD4遺伝子を組み込んで作成した。
【0074】
上記の方法で得られたCD4遺伝子を導入した誘導T細胞(CD4-b3a2-iPS-T細胞)を抗TCR-Vβ22抗体および抗CD4抗体を用いてフローサイトメーターを用いて測定したところ、採取したヒトb3a2-Th細胞と同様に、TCR-Vβ22陽性CD4陽性の細胞が確認された(図2AおよびB)。一方、CD4を導入しなかったb3a2-iPS-T細胞は、CD4陰性であることが確認された。
【0075】
10μM b3a2ペプチド(配列番号1:ATGFKQSSKALQRPVAS)を添加したRH10培地中で、1×104個の樹状細胞(DC)および5×103個のCD4-b3a2-iPS-T細胞を5時間共培養した。得られた細胞培養物に30GyのX線を照射し、DCおよびCD4-b3a2-iPS-T細胞の細胞増殖を抑制した。続いて、WT1ペプチド(配列番号2:CYTWNQMNL)と5×104個のCD8陽性T細胞を添加し、1週間培養した。得られた細胞を抗CD8抗体およびWT1テトラマーで処理して、フローサイトメーターを用いて解析した。その結果、採取したヒトb3a2-Th細胞と同様に、CD4-b3a2-iPS-T細胞にはb3a2ペプチド特異的なDCを介した抗原特異的CTL誘導能が確認された(図3)。
【0076】
b3a2-iPS-T細胞およびCD4-b3a2-iPS-T細胞の増殖能を調べるため、[3H]-thymidine incorporation assayを行った。[3H]-thymidine incorporation assayはBennett SR et al, J Exp Med. 1997;186(1):65-70.の方法に基いて実施した。その結果を図4に示す。CD4-b3a2-iPS-T細胞は抗原刺激に応答した良好な増殖能を示すことが示された。
【0077】
得られたCD4-b3a2-iPS-T細胞のIFN-γ産生能を評価するため、あらかじめ10μM b3a2ペプチドを呈示させた樹状細胞で刺激したb3a2-iPS-T細胞およびCD4-b3a2-iPS-T細胞に、ELISA法(ELISA; hIFNγ: eBioscience)およびbead-based multiplex immunoassay(BD Cytometric Beads Array; BD Biosciences)を用いて、b3a2-Th細胞またはCD4-b3a2-iPS-T細胞の培地上清に放出されるIFN-γ量を測定した。その結果を図5に示す。得られたCD4-b3a2-iPS-T細胞は、b3a2-iPS-T細胞と比較し、抗原刺激に応答した非常に高いIFN-γ産生能を持つことが示された。
【0078】
以上より、多能性幹細胞から誘導したT細胞へCD4遺伝子を強制発現させることで、所望の腫瘍抗原特異的CD4陽性Th細胞からCD4導入iPS由来T細胞の誘導が可能となった。誘導したCD4陽性Th細胞は効果的な抗原特異的な抗腫瘍ヘルパー機能を誘導することが期待でき、新たな免疫細胞療法開発の有効なツールとなると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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