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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】インプラント挿入システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/966 20130101AFI20220201BHJP
   A61F 2/90 20130101ALI20220201BHJP
【FI】
A61F2/966
A61F2/90
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017546683
(86)(22)【出願日】2016-03-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2016054692
(87)【国際公開番号】W WO2016139357
(87)【国際公開日】2016-09-09
【審査請求日】2018-12-12
(31)【優先権主張番号】102015103240.6
(32)【優先日】2015-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ローラ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】サリン,マヌエル
【審査官】伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0277361(US,A1)
【文献】特開平03-057465(JP,A)
【文献】特開2005-125102(JP,A)
【文献】特表2013-500792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0218138(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0226343(US,A1)
【文献】特開2013-248332(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0226278(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/966
A61F 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント(1)及び放出チューブ(13)を備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内に前記インプラント(1)を導入するための装置であって、前記インプラント(1)が、マイクロカテーテル(8)の縮径部を有する形状に適合し、かつ、埋め込み部位において、前記マイクロカテーテル(8)の外部拘束が無くなると膨張して、前記血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、前記放出チューブ(13)が、その中を通って挿入ワイヤ(14)が長さ方向に移動可能な態様で導かれうる、前記装置の長手方向に伸びるルーメンを有している、装置において、
前記放出チューブ(13)が前記インプラント(1)の近位端内に突出して該インプラント(1)の一部に亘って伸長し、
前記インプラント(1)の内側と前記放出チューブ(13)の外側との間に弾性接触面が存在し、それによって、前記インプラント(1)と前記放出チューブ(13)との間に摩擦係止が生じて、遠位又は近位への前記放出チューブ(13)の長さ方向の移動によって、前記マイクロカテーテル(8)内に前記インプラント(1)の長さ方向の可動性をもたらし、
前記インプラント(1)の内側と前記放出チューブ(13)の外側との間の前記弾性接触面が、弾性中間層(11)によって作られ、該弾性中間層(11)がパッドで作られる
ことを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記弾性中間層(11)が、前記放出チューブ(13)の周りに輪状に伸びることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記弾性中間層(11)が、前記放出チューブ(13)と同じ材料からなることを特徴とする、請求項又はに記載の装置。
【請求項4】
前記弾性中間層(11)および前記放出チューブ(13)が、ポリイミドからなることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項5】
前記弾性中間層(11)が、エラストマーからなることを特徴とする、請求項からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記エラストマーが、ゴム、天然ゴム、又はシリコーンであることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項7】
放出ワイヤ(17)が、前記放出チューブ(13)が前記インプラント(1)の近位端内に突出している領域の前記インプラント(1)の周りに巻かれており、前記放出ワイヤ(17)が、インプラント(1)と放出チューブ(13)との間の摩擦力の強化を生じるように、前記インプラント(1)の内側と前記放出チューブ(13)の外側との間に弾性接触面が存在しており、前記放出ワイヤ(17)が、少なくとも1つの放出部位において電食性であるか、又は熱的に分離可能である
ことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記放出チューブ(13)が前記挿入ワイヤ(14)にクランプされうることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記インプラント(1)が、複数の編組ワイヤ(6)でできた編組物であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記挿入ワイヤ(14)の遠位先端(9)が、放射線不透過性マーカ―を有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラント、挿入ワイヤ及び放出チューブを備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内にインプラントを導入するための装置に関し、ここで、インプラントは、マイクロカテーテルの縮径部を有する形状に適合し、かつ、埋め込み部位において、マイクロカテーテルの外部拘束が無くなると膨張して、血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、挿入ワイヤ上には保持要素が配置されている。代替的な実施形態によれば、本発明は、インプラント及び放出チューブを備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内にインプラントを導入するための装置に関し、ここで、インプラントは、マイクロカテーテルの縮径部を有する形状に適合し、かつ、埋め込み部位において、マイクロカテーテルの外部拘束が無くなると膨張して、血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、放出チューブは、装置の長手方向に伸びるルーメンを有しており、その中を通って挿入ワイヤが長さ方向に移動可能な態様で導かれうる。
【背景技術】
【0002】
患者における動静脈奇形は、実質的な機能障害及び重病、さらには死さえももたらしうる。これは、特に動静脈瘻及び動脈瘤について、とりわけそれらが脳の領域で起こる場合に言えることである。概して、このような奇形は、インプラントによって閉塞しようと試みらる。このようなインプラントは、通常、カテーテルを補助的に使用して血管内に留置される。
【0003】
とりわけ動脈瘤の事例では、白金螺旋の埋め込みが首尾よく機能することが証明されており、この螺旋は、動脈瘤をほぼ完全に塞ぎ、血液の流入の大部分を遮断し、局所的血栓の形成をもたらし、最終的には動脈瘤を閉塞する。しかしながら、この治療方法は、血管系に対するアクセスが比較的狭い動脈瘤、いわゆる漿果状動脈瘤にのみ適している。血管に対するアクセスが幅広い血管増生については、埋め込まれた螺旋は再度流出する傾向があり、血管系の他の領域に損傷を生じてしまう。
【0004】
このような事例では、動脈瘤の開口部を「完全に閉鎖」し、それによって閉塞螺旋の流出を防ぐ、ある種のステントの導入が、すでに提案されている。しかしながら、比較的広い網状壁を有するこのようなステントは、多くの欠点を有している。
【0005】
一方では、これは、動脈瘤内へのスムーズな血流を可能にする、粗いメッシュ(weitmaschige)構造である。しかしながら、動脈瘤が閉塞手段で十分に満たされていない場合には、圧力は血管壁上に無くならずに保持される。このような状況下では、ステントは、動脈瘤へのアクセスを損ない、追加的な閉塞手段の留置を妨げることから、さらなる処置を実現するには困難が伴う。
【0006】
別の欠点は、導入部位に対するステントの適応性が乏しいことである。最適に機能させるためには、ステントを血管壁に、過剰の圧力をかけることなく密着させるべきである。狭窄の場合に血管の拡張をもたらすことになるステントとは対照的に、これらのステントは、むしろ、ある種のカフと見なされ、血管内腔及び血管の内皮壁への影響を可能な限り少なくする。
【0007】
ワイヤの編組物からなるステントは、特に冠状領域での使用について、長きにわたって知られている。これらのステントは、概して、丸みのある編組物として作られ、その個々のワイヤフィラメントは、反対向きの螺旋又はヘリカル層でステント壁を形成する。結果的には、いずれも、半径方向に対して支持し、血液透過性でもある、メッシュ編組物が得られる。
【0008】
フィラメントからなる、このような丸みのある編組物としてのステントは、狭窄の処置に用いられる場合に、しばしば、導入部位においてバルーンを補助的に使用して液圧で膨張し、血管壁に固定される。挿入の間、挿入ワイヤに固定されたバルーンは、ステントをクリンピングする輸送媒体としての働きをする。しかしながら、脳の領域の血流に影響を及ぼす、又は血流を導く働きをするインプラントには、血管直径に自発的に適合し、血管壁に接触して位置するインプラントが有利である。
【0009】
特許文献1には、編組物がマイクロカテーテルにおいて縮径部を伴った細長い形状を有し、埋め込み部位において膨張し、血管直径に適合し、かつ、編組密度を増加させる、インプラントについて記載されており、ここで、インプラント端部において突き出るフィラメント末端が、少なくとも二つ一組でまとまって、互いに接合される。このように、フィラメント末端によって傷つけない、特定の血管直径に適合可能なインプラントが提供される。
【0010】
この先行技術によれば、接続要素は、接合したフィラメント末端に配置され、錠鍵の原理で保持要素と相互作用する。インプラントを挿入ワイヤに連結する保持要素は、接続要素を嵌合する凹部を有する。接続要素は、それらが保持要素の凹部に嵌合を形成することによって保持されるように、球状の形状などの厚みを有する。凹部での固定は、チューブを補助的に使用して行うことができ、該チューブは、嵌入接続要素を有する保持要素上に嵌合するような形態で被せられる。インプラントの端部位置に達した後、このチューブは近位方向に引き戻され、インプラントが放出される。この後、保持要素、チューブ及びカテーテルを有する挿入ワイヤは、引き戻され、体内から抜去されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2008/107172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
記載される先行技術は、基本的に首尾よく機能するが、ある特定の事例では、例えば、スキューイングが生じて、接続要素を保持要素の凹部に保持し続けてしまうために、チューブの後退後にそれらが設けられた保持要素の凹部から、接続要素の一部しか放出されない事態が起こりうる。このような場合、インプラントは、その近位端において所望される速さでは開放されず、挿入ワイヤのさらなる移動後に、保持要素から放出されるだけかもしれない。これに対して、インプラントがチューブの後退の直後に保持要素から完全に放出され、それによって解放される、放出システムが望ましい。よって、特許文献1に記載される先行技術に起因して生じる課題は、放出システムをさらに最適化することである。
【0013】
この課題は、インプラント、挿入ワイヤ及び放出チューブを備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内にインプラントを導入するための装置による、本発明の第1の実施形態によって解決され、ここで、インプラントは、マイクロカテーテルの縮径部を有する形状に適合し、埋め込み部位において、マイクロカテーテルの外部拘束が無くなると膨張して、血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、保持要素は、挿入ワイヤ上に配置され、かつ、その周辺に、該保持要素の周囲に沿って伸び、曲線形状の軌跡を形成する、保持要素内に組み込まれた、少なくとも1つ、好ましくは複数の溝を有し、インプラントは、近位端に、溝内に嵌合された、近位方向に延びる少なくとも1つ、好ましくは複数の保持ワイヤを有し、放出チューブは、保持ワイヤが摩擦係止によって溝に保持され、インプラントの放出が、放出チューブを近位方向に引き戻すことによって生じるように、保持要素と溝内に嵌合した保持ワイヤとに嵌合する形態でそれらの上に被せられている。放出チューブは、保持要素の溝及び溝内に挿入された保持ワイヤのためのチューブ状シースを構成する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、保持要素は、したがって、保持要素内に、該保持要素の半径方向外側に組み込まれた溝を有する。溝は、インプラントから近位に延びる保持ワイヤを溝内に挿入できるようになっている。保持ワイヤは、概して、インプラント自体を越えて近位に延びる。インプラントが保持要素から分離されることなく、挿入ワイヤの助力を得て、インプラントの遠位方向への進行及び近位方向への後退の両方を可能にするために、溝は、保持要素の外側に湾曲した走路を有する。装置の長手方向に真っすぐな走路の溝の場合には、挿入ワイヤの後退の際に、インプラントの保持ワイヤが溝から引き出されてしまう危険性が存在するであろう。さらには、溝と保持ワイヤの寸法は、インプラントの放出を防ぐ、溝と保持ワイヤとの間の摩擦力が、挿入ワイヤの後退又は進行の間に生じる引っ張る力又は押す力より大きくなるように、互いに順応すべきである。特に、一方では、溝の断面は、放出チューブの後退後に、放出のために、半径方向へのインプラントの膨張が容易に可能になるように保持ワイヤの断面よりごくわずかに大きくなければならないが、他方では、溝と保持ワイヤとの間の摩擦力は、軸方向における溝からの保持ワイヤの引き出しが、偏った大きい力の消費でのみ起こりうるように十分に大きくなければならない。
【0015】
接続要素と保持要素との接続が嵌め合いに依存している、先に記載の先行技術とは異なり、本発明によれば、それらに設けられた溝内における保持ワイヤの固定は、摩擦嵌合又は圧入を基礎としている。保持ワイヤと溝との間の摩擦力は、軸方向における、すなわち、装置又は挿入ワイヤ又はインプラントの長手方向における力の作用による放出が実際には実施不能になるほど、大きい。しかしながら、溝が半径方向に露出する程度まで、放出チューブが引き戻される場合、保持ワイヤが溝から半径方向外向きに移動すると同時に、インプラントは膨張することができる。このように、保持要素からのインプラントの放出が確保され、よって、インプラントは最終的に放出されて、意図される部位に埋め込まれる。この後、挿入ワイヤと、それに接続した保持要素、放出チューブ、並びにマイクロカテーテルは後退させられて、体内から抜去されうる。
【0016】
インプラントの留置のため、最初に、挿入ワイヤの助力を得て、インプラントは、マイクロカテーテルを通って所望の位置まで進行する。保持要素及び通常は挿入ワイヤ全体が、このプロセスでは、放出チューブに取り囲まれている。インプラントの放出が起こるとすぐに、初めにマイクロカテーテルが引き戻される。放出チューブが、インプラントから出る保持ワイヤを依然として保持要素の溝に保持することを確保し続けることから、これだけでは、まだ最終的な放出は起こらない。溝は、保持要素の外側領域に配置されており、したがって、マイクロカテーテルからの放出後のインプラントの膨張に起因して、保持ワイヤには、外向きに移動し、溝から放出される自発的傾向が存在する。しかしながら、これは、放出チューブも引き戻されている場合にのみ、可能である。処置を行う医師は、したがって、マイクロカテーテルの後退後に、状況を判断し、放出チューブを近位方向に引き戻すことによる最終的なインプラントの放出を行うか、あるいは、インプラントの留置が所望されるように起こらなかった場合には、挿入ワイヤを引き戻すことによってインプラントをマイクロカテーテル内に戻し、それを異なる位置に埋め込むか、あるいは、体内から再度、装置を抜去するための十分な時間を有する。一旦、インプラントが正しい位置に首尾よく放出されると、保持要素及び放出チューブを備えた挿入ワイヤは、マイクロカテーテル内に後退させられ、ともに血管系から抜去されうる。
【0017】
本説明の文脈において、用語「近位」とは、処置を行う医師の方を向くこと、すなわち、近位端が体外の方向を指し示すことを意味する。他方では、「遠位」とは、医師から離れる方向を向くこと、すなわち、遠位端が体内の方向にあることを意味する。
【0018】
典型的には、放出チューブは、保持要素から延びており、該保持要素の溝は、体の外側に対して近位では、保持ワイヤを溝に確実に保持するために覆われていなくてはならない。しかしながら、放出チューブが保持要素の溝を越えて延びるのに十分な長さである、挿入ワイヤ全体を覆わない放出チューブについても想定されている。この事例では、放出チューブの後退は、挿入ワイヤに対して平行に、かつ、近位方向において放出チューブから近位に伸びる、第2のワイヤ又は撚糸によって行われる。
【0019】
溝と保持ワイヤとの間の摩擦力を十分に大きくするためには、保持要素の周囲における溝が波形の軌跡になっていることが有利である。例えば、溝は、正弦曲線状に伸びうる。典型的には、溝は、近位から遠位方向に、保持要素の外側に、湾曲した、とりわけ波形の軌跡を形成して伸び、ここで、溝は、保持要素の全長にわたって延在する必要はない。特に、複数の波形の溝が、近位方向から遠位方向へと伸び、保持要素の周囲に分布してよく、該波形の溝は、互いに略平行に配置される。長手方向、すなわち、近位から遠位方向のみならず、保持要素の周りに長手方向に螺旋上に伸びる波形の溝も、想定されている。
【0020】
意図的に、保持ワイヤのための複数の溝、とりわけ少なくとも4本の溝が、保持要素に配置される。少なくとも8本、とりわけ8~32本の溝が好ましい。これにより、インプラントが周囲にわたって均一に保持され、かつ、放出チューブの後退後に保持要素から均一に分離されることが確保される。保持要素は、例えば、製錬鋼又はニチノールなどのニッケル-チタン合金から作られうる。
【0021】
インプラント自体は、典型的には、螺旋又はヘリックス状に伸びる、複数の編組ワイヤで作られた編組物であり、ここで、逆に伸びる編組ワイヤが互いに交差し、メッシュ状の編組物を形成する。このような編組構造は、先に既に記載した特許文献1などの先行技術から十分によく知られている。しかしながら、保持要素の溝内に嵌合するための保持ワイヤが近位端に配置された、チューブ状又はスライスしたインプラントである、インプラントもまた想定されている。
【0022】
ワイヤ編組物から組み立てられたインプラントの事例では、インプラントを形成する編組ワイヤの近位部を保持ワイヤとして使用することが望ましい。このため、個別の編組ワイヤは、近位方向に長くなっていてよい。例えば、編組ワイヤが、2本目毎、4本目毎又は8本目毎に、近位端でより長くなっていてよく、編組ワイヤの近位方向におけるこの延伸は、近位部を構成し、保持ワイヤと呼ばれる。この保持ワイヤは、この目的で設けられた溝内に設置される。64本の編組ワイヤからなるインプラントの事例では、例えば、合計で32本の保持ワイヤが存在するように、編組ワイヤは、2本目毎に近位端でより長く形成されてよく、かつ、32本の溝が、それらのために保持要素内に設けられなくてはならない。同様に、編組ワイヤの4本目毎のみ(したがって、64本の編組ワイヤの事例では、16本の保持ワイヤ及び16の溝が存在する)又は編組ワイヤの8本目毎のみ(したがって、64本の編組ワイヤの事例では、8本の溝のための8本の保持ワイヤが存在する)を、より長く形成することができる。
【0023】
さらには、放出チューブは、インプラントの放出のために近位方向に後退する前に、保持要素及び溝内に嵌合された保持ワイヤのみならず、インプラント自体の近位端も覆うことが望ましい。よって、放出チューブは、保持ワイヤを形成する目的で近位方向に延伸していない、編組ワイヤのより短い近位端も覆う。保持ワイヤのように延伸していない編組ワイヤのこれらの近位端は、典型的には緩んでいるが、これらも放出チューブによって覆われている。このような構成の利点は、インプラントが基本的には自由になるように、インプラントをマイクロカテーテルから押し出した後又はマイクロカテーテルを後退させた後であっても、放出チューブが、保持要素、並びに保持要素の溝に嵌合した保持ワイヤを覆っている限り、依然としてインプラントをマイクロカテーテル内に後退させることができることである。インプラントの大部分は、マイクロカテーテルの後退後に半径方向に膨張可能であるが、これは、放出チューブがその上を覆っている限り、インプラントの近位端には適用されない。膨張がインプラントの近位端ではまだ起こっていない場合、インプラントのすでに膨張した領域が再度しっかりと折り畳まれる場合には、マイクロカテーテル内へのインプラントの後退が可能である。
【0024】
別の有利な実施形態によれば、保持ワイヤは、該保持ワイヤと溝との間の摩擦力が増加するように変形する。これは、さらに、溝における保持ワイヤのしっかりと固定された配置を向上し、溝からの保持ワイヤの意図しない引き出しが事実上不可能になることを確実にする。例えば、保持ワイヤが引張応力下で溝から引き出されることを防ぐ、2次元又は3次元形状が保持ワイヤに付与されてもよい。このような2次元又は3次元構造は、例えば、機械加工又は加熱処理によって生成されうる。
【0025】
第2の実施形態によれば、摩擦係止(係止力)に基づいた、簡略化された放出システムも同様に提供される。この実施形態は、インプラント及び放出チューブを備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内にインプラントを導入するための装置に関し、ここで、インプラントは、マイクロカテーテルの縮径部を有する形状に適合し、埋め込み部位において、マイクロカテーテルの外部拘束がひとたび無くなると膨張して、血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、放出チューブは、その中を通って挿入ワイヤが長さ方向に移動可能な態様で導かれうる、装置の長手方向に伸びるルーメンを有し、ここで、放出チューブがインプラントの近位端内に突出しており、インプラントと放出チューブとの間に摩擦係止が生成するように、インプラントの内側と放出チューブの外側との間に弾性接触面が存在し、遠位又は近位への放出チューブの長さ方向の移動によってマイクロカテーテルの内部にインプラントの長さ方向の可動性をもたらす。
【0026】
先に記載された実施形態とは異なり、放出チューブは、インプラントの近位端又はインプラントから出る保持ワイヤを取り囲まないが、代わりに、インプラント内へと突き出している。放出チューブの進行又は後退によって、同じように遠位又は近位にインプラントを移動することができるように、放出チューブとインプラントとの間に摩擦係止連結が生成される。放出チューブのインプラント内に突出している部分が少なくとも部分的に弾性接触面を有することから、放出チューブとインプラントとの間に摩擦係止がもたらされる。好ましくは、これは、インプラント内に突出している放出チューブの部分において、放出チューブの外側に存在し、パッドとも呼ばれうる、中間層を含む。弾性接触面、好ましくは中間層は、インプラントとの摩擦係止連結を確実にする。このような実施形態は、とりわけ構築が容易であり、嵌め合いをもたらすために、その上に追加的な要素の形成を必要としない。
【0027】
インプラントの放出は、インプラントがマイクロカテーテルから押し出されるか、あるいは、マイクロカテーテルがインプラントに対して近位に後退させられることによって起こる。インプラントは、マイクロカテーテルに起因する外部拘束が無くなった後に、半径方向に膨張する自発的傾向を有することから、インプラントは、マイクロカテーテルから放出された後に、弾性パッドから分離され、血管又は中空器官の内壁に接触して位置する。次に、放出チューブ、マイクロカテーテル、及び必要に応じて、放出チューブを通って伸びる挿入ワイヤが、後退させられ、体内から抜去されうる。
【0028】
放出チューブは、挿入ワイヤがその中を通って延びうる、内部ルーメンを有する。典型的には、挿入ワイヤが所望の位置に留置された後、マイクロカテーテルは、挿入ワイヤを介して標的部位へと押される。この後、それに摩擦接合された放出チューブ及びインプラントは、マイクロカテーテルを通じて遠位に進行させられうる。挿入ワイヤの後退及び抜去は、インプラントの放出の前、最中、又は後に行うことができる。挿入ワイヤの先端による遠位に位置した血管内への移動を防止することが望ましい場合には、挿入ワイヤの後退は、インプラントの放出の前又は最中に起こりうる。
【0029】
弾性接触面/中間層は、典型的には、放出チューブの周りに輪になって伸びるか、あるいは、放出チューブを取り囲む。言い換えれば、放出チューブは、弾性接触面/中間層によって1つの領域に半径方向に囲まれる態様で取り囲まれ、それにより、インプラントへの摩擦係止連結を確実にする。インプラントは、典型的には、編組ワイヤでできた編組物であるが、チューブ状又はスライスしたインプラントなど、他の種類のインプラントも除外されない。
【0030】
インプラントとの摩擦係止連結を生じるために、1つ以上の中間層(パッド)が提供されて差し支えなく、該パッドは、インプラント内のある特定の長さまで延びうる。概して、パッドの数は1つ又は2つであり、2つのパッドを使用する場合には、これらは、それに応じて短く構成されうる。中間層が放出チューブ上に配置される場所では、該放出チューブは、中間層のない隣接する領域より大きい外径を有する。
【0031】
中間層/パッドに用いられる材料は、インプラントを放出チューブに対して長手方向に移動させることなく、又は、放出チューブから分離されることさえなしに、放出チューブを介したインプラントの進行又は後退を可能にする、十分に大きい摩擦力を放出チューブとインプラントとの間に生成するために、弾性でなくてはならない。多くのさまざまな材料が弾性中間層のための材料として考慮されてよく、特には、エラストマーでありうる。例えば、ゴム、天然ゴム、又はシリコーンが用いられうる。
【0032】
中間層はまた、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン又はポリオレフィンなどのポリマー材料でできていてもよい。ポリカーボネート系ウレタンがとりわけ好ましい。中間層は、好ましくは、電界紡糸によって生成される。このプロセスにおいて、小繊維又は繊維が、電流の助力を得てポリマー溶液から基板上に堆積する。堆積の間、小繊維は、くっつき合ってフリースを形成する。概して、小繊維は、100~3000nmの直径を有する。電界紡糸によって生成する層は、非常に均一で丈夫かつ機械的に耐久性である。電界紡糸による中間層の生成に関しては、特に、国際公開第2008/049386号、独国特許出願公開第2806030号明細書及びそれらにおいて引用されている文献を参照されたい。
【0033】
同様に、放出チューブと同じ材料、好ましくはポリイミドからなる材料から中間層を作ることも可能である。この事例では、中間層を、放出チューブを有する単片として形成することができ、ここで、放出チューブは、中間層の領域において、中間層を有しない放出チューブの隣接する領域よりも、対応して大きい外径を有する。本発明によれば、放出チューブを有する単片として形成された中間層はまた、該中間層が弾性であり、かつ、インプラントとの十分に大きい摩擦係止を生成する限り、用語「中間層」の対象となる。インプラントと放出チューブとの間に十分に強い摩擦係止が生成される限り、放出チューブが、インプラントが延びる部分において均一な断面を有することも可能である。例えば、放出チューブの遠位部は、所望の摩擦係止連結をそこに生成するために、この遠位部をインプラント内に長手方向に導入できるように、縮径部を有していてもよい。
【0034】
インプラント導入プロセスの視覚化を改善するために、放射線不透過性材料が、弾性中間層と実際の放出チューブとの間に追加的に提供されてもよい。放射線不透過性材料のコイルは、インプラントの問題のない進行を確実にするために十分に曲げ加工性であるため、とりわけ好ましい。しかしながら、放出チューブ上に設置されたスリーブの形態など、別の形態の放射線不透過性材料もまた可能である。好ましい放射線不透過性材料は、白金及び白金合金である。特に、弾性中間層には、ポリマー層、好ましくはポリカーボネート系ウレタンの1種、とりわけ好ましくは、上述のように電界紡糸によって作られたものが提供されうる。
【0035】
第2の実施形態の別のバリエーションによれば、放出ワイヤは、放出チューブがインプラントの近位端内に突出するインプラントの領域の周りに巻かれ、ここで、放出ワイヤがインプラントと放出チューブの間の摩擦力の強化を生じるように、インプラントの内側と放出チューブの外側との間に弾性接触面が存在しており、放出ワイヤは電食性である。
【0036】
このバリエーションによれば、インプラントは、マイクロカテーテルによって、又は、マイクロカテーテルのみによってではなく、むしろインプラントの周りに巻かれる放出ワイヤ、並びに、インプラントに導入される弾性接触面を有する放出チューブによって(でさえも)、圧縮形態で保持されない。放出ワイヤは、言わば、インプラント上にしっかりとレーシングされる。よって、放出ワイヤが緩まない限り、インプラントと放出チューブとの間の摩擦力が大きすぎるために、最終的なインプラントの放出は起こりえない。大きい摩擦力を生成するために、放出チューブは、弾性接触面、好ましくは上述のような弾性中間層/パッドを有する。しかしながら、先に記載されたバリエーションとは異なり、マイクロカテーテルがインプラントからすでに後退させられている場合、あるいは、インプラントがマイクロカテーテルから押し出されてしまっている場合であっても、インプラントは、放出チューブ上の摩擦係止によって依然として保持される。このように、マイクロカテーテルからのインプラントの放出後でさえも、インプラントは依然として最初に圧縮された形状のままであり、したがってマイクロカテーテル内へのインプラントの後退を可能にし続けることから、インプラントの留置において、とりわけ良好な安全性が確保される。
【0037】
放出ワイヤは、弾性接触面、好ましくは弾性中間層/パッドが位置する軸方向位置において、インプラントを取り囲む。放出ワイヤは、弾性接触面又はパッドが位置するインプラントの周りに、直接、括り付けられうる。インプラントの周りへの括り付けは、2つの弾性接触面又はパッド間に位置づけられた、インプラントの軸方向位置においても可能である。
【0038】
インプラントの周りに巻かれた放出ワイヤは、少なくとも1つの放出部位において電食性である。この放出部位は、インプラントの周りにループ又は巻き線の形態で設置された、放出ワイヤの部分に位置すべきである。電食性の代わりに、熱的分離もまた想定されており、この事例では、放出部位は、放出ワイヤが切断されるように十分に加熱される。電食又は加熱もまた、電圧源を印加することによってもたらされる。このため、放出ワイヤの端部は、好ましくは、接続が生じる点に対して近位に誘導される。言い換えれば、放出ワイヤは、インプラントに導入される放出チューブの位置に対して近位に伸び、そこでインプラントの周囲にループ又は巻き線を形成し、次に、近位方向に戻るように伸びる。電圧が放出ワイヤに印加されるときに、放出ワイヤの電食が放出部位で生じ、それによって、放出ワイヤがこの位置で切断される。したがって、放出ワイヤは、もはや、放出チューブに対してインプラントを押圧することができなくなる。外部拘束が無くなった後のインプラントの膨張傾向のせいで、インプラントは、放出チューブから分離され、したがって、最終的に放出される。次に、マイクロカテーテル、放出チューブ、挿入ワイヤ及び放出ワイヤが後退させられうる。
【0039】
放出ワイヤの電食をもたらすためには、電食が好ましくはこの放出部位において生じるように、放出ワイヤを、少なくとも1つの位置において弱めておくことが望ましいであろう。この放出部位は、例えば、放出ワイヤの他の領域よりも小さい断面を有しうる。さらには、放出ワイヤの一部分を、電圧が印加されたときに、とりわけよく溶解する材料で作製することも可能である。放出部位に用いることができる材料は、例えば、電解で分離可能なインプラントにも用いられるものに対応する。これらには、鋼鉄、マグネシウム又はマグネシウム合金、並びに、コバルト-クロム合金が含まれる。後者は、この点に関して言及がなされる、国際公開第2011/147567号に記載されている。放出部位での電流の集中を実現するために、放出ワイヤは、放出部位の外側の外被によって部分的に又は完全に絶縁されてもよい。
【0040】
放出ワイヤを伴った記載されるバリエーションでは、インプラント導入のため、放出チューブを遠位に移動させることによって、放出チューブ上に固定されたインプラントを、マイクロカテーテルを通して標的部位へと進行させることによって、進められる。放出チューブとインプラントとの間の摩擦係止連結により、インプラントが、それに応じて放出チューブとともに移動することを確実にする。標的部位において、マイクロカテーテルは近位に後退させられるか、あるいは、インプラントがマイクロカテーテルから遠位に押し出される。放出ワイヤを用いたレーシングのおかげで、インプラントは、処置を行う医師が最終的なインプラントの放出を決定するまで、放出チューブ上に保持され続ける。このため、電圧が放出ワイヤに印加され、切断されるするとすぐに、インプラントが放出されて膨張する。
【0041】
インプラントの長さ方向の移動が放出チューブの進行及び後退によって可能になるまで、インプラントと放出チューブとの間の摩擦力が増大されるように、放出チューブがその弾性接触面によってインプラント内に導入される位置でインプラントを取り囲む、本明細書に記載される放出ワイヤの原理は、放出チューブよりはむしろ挿入ワイヤ自体が、弾性接触面、とりわけ弾性中間層又はパッドを有する実施形態にも適用することができる。この事例では、したがって、摩擦係止は、インプラントと放出チューブとの間には生成されず、代わりに、インプラントと挿入ワイヤとの間に生じる。これは、マイクロカテーテルを通じた挿入ワイヤの進行によるインプラントの進行を可能にする。この事例では、挿入ワイヤを取り囲む放出チューブは省かれて差し支えない。このような実施形態もまた、本発明に含まれる。
【0042】
インプラントと挿入ワイヤ(放出チューブの代わりに)との間の摩擦係止連結の生成はまた、本出願の対象となる本発明に従った第3の実施形態、すなわち、上記放出ワイヤが存在しない実施形態も構成する。このため、インプラントの移動が挿入ワイヤの進行又は後退によって可能になるように、インプラントと挿入ワイヤとの間の摩擦力を十分に高める、弾性接触面、とりわけ、弾性中間層又は弾性パッドの形態のものが、挿入ワイヤ上に設けられる。この事例では、上記放出チューブの使用は不要である。
【0043】
本発明のこのバリエーションにおける弾性中間層又は弾性パッドは、好ましくはポリカーボネート系ウレタンで、とりわけ電界紡糸によって作られている。この方法は、上に既に記載されている。
【0044】
特に、摩擦係止連結が挿入ワイヤとインプラントとの間に生成される、本発明の第3の実施形態によれば、医療技術における通称、いわゆるコイルが、挿入ワイヤ上に配置されてよく、該コイルは、弾性材料でコーティングされている。これは、前述の弾性材料、すなわち、ゴム、天然ゴム、又はシリコーン、あるいは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、又はポリオレフィンなどのポリマー材料を含みうる。ポリカーボネート系ウレタンが、とりわけ好ましい。よって、弾性材料は中間層を形成する。上記ポリマーを使用する場合、とりわけポリカーボネート系ウレタンを使用する場合には、上記実施形態に関して言及したように、この場合も、電界紡糸の適用が可能である。
【0045】
コイル自体は、好ましくは、埋め込みプロセスの視覚化を可能にする、放射線不透過性材料、好ましくは白金又は白金合金でできている。しかしながら、同時に、コイルは、進行中に、その上にインプラントが設置された挿入ワイヤも内腔の狭い血管を容易に追従できるように、十分に曲げ加工性である。原則的に、放射線不透過性材料を、金属スリーブなどの異なる形態で挿入ワイヤ上に設置することも可能であるが、この場合、コイルの事例よりも曲げ加工性は小さくなる。
【0046】
以下の所見は、文脈に他のことが明記されない限り、上述される本発明の第1の実施形態並びに第2及び第3の実施形態のいずれについても及ぶ。基本的に、第1、第2、又は第3の実施形態に関連したこの説明の過程で言及される特徴はすべて、文脈上別段の定めがない限り又は技術的に不可能でない限り、他のそれぞれの実施形態の特徴でもありうる。
【0047】
好ましい実施形態によれば、放出チューブの外径は、近位端と遠位端との間で変動し、ここで、外径の変動は、保持要素を取り囲んでいない又はインプラントの外側に位置している、放出チューブの領域に関連している。これらの後者の言及された領域は、以後、遠位部と呼ばれる。近位端と遠位端との間の放出チューブの外径の変動により、良好な可撓性及び容易で予測可能な分離の利益が互いに組み合わせられる。放出チューブの部分区間、とりわけ、保持要素を直接取り囲む、又はインプラントと係合する、遠位部に隣接した近位の領域では、導入された場合に、装置全体が微細な血管の屈曲に追従することさえ可能になるように、良好な可撓性が特に重要である。この理由から、小さい外径は、ここでは道理にかなっている。他方では、放出チューブのさらに近位に位置している部分は、不必要な延伸に対して適当な抵抗を有しているべきである。これは、放出チューブの全長の大部分を占めており、したがって長手方向のストレッチ性が少なくとも可能でなければならず、また、適当な抵抗を有していなければ、全長に沿って、不必要に大きい膨張が全体的に生じかねないことから、近位部において特に重要である。不必要な延伸に対する大きい抵抗は、遠位部自体においても有利でありえ、ここで、該遠位部は、本発明の第1の実施形態によれば、放出チューブのこの部分が、単に長手方向に延伸するだけではなく、後退の間に実際に近位に移動するように、保持要素を取り囲む。この理由から、遠位部は、中間部より大きい外径を有していてもよいが、それは必ずしも必要ではない。遠位部における望ましい外径及び内径は、取り囲まれた保持要素の寸法にも関係している。
【0048】
したがって、とりわけ保持要素を取り囲む遠位部(本発明の第1の実施形態)、又は、インプラント内に延びる遠位部(本発明の第2の実施形態)、その近位方向に続く、小さい外径を有する中間部、及び中間部の近位方向に続く、大きい外径を有する部分を有する放出チューブが、有利である。さらには、保持要素をそれに嵌合した保持ワイヤで包み込むために、大きい外径を有することも、遠位部にとって望ましいであろう。言い換えれば、保持要素の溝を覆う部分は、大きい外径を有し、したがって、その近位方向に続く中間部よりも大きい剛性を有し、その可撓性は、装置の導入のためには特に重要である。次に、本明細書では近位部と呼ばれる、群を抜いて長い部分は、放出チューブの挿入及び後退を比較的長い距離であっても可能にするように、大きい外径を有する。
【0049】
典型的には、中間部の長さは50~500mmであり、とりわけ80~120mmであり、とりわけ好ましくは約100mmである。遠位部は、2~10mmの長さを有しうる;これは、保持要素内の溝を覆うのに概ね十分である。放出チューブの全長は、例えば、1800mmなど、1000~2000mmであってよく、したがって、近位部は、通常、最長であり、500~1900mmの長さを有する。
【0050】
表現「大きい外径」及び「小さい外径」は、本発明によれば、大きい外径を有する領域では、外径は、小さい外径を有する領域より大きいことを意味するものと解されるべきである。正確な寸法は、直径の比のように、とりわけ血管系の状態及び埋め込みの特定の目的に応じて、変動しうる。しかしながら、典型的な大きい外径は、0.4~0.8mm、とりわけ0.5~0.7mm、例えば約0.6mmなどの範囲(region)にある。典型的な小さい外径は、0.3~0.55mm、とりわけ0.4~0.5mm、例えば約0.45mmなどである。
【0051】
概して大きい外径を有する放出チューブの近位部の次に、今度は比較的小さい外径を有するさらに別の近位端が続きうる。放出チューブはここで、摩擦係止を生成し、挿入ワイヤと放出チューブとの不必要な互いの位置ずれを防ぐために、例えばトルカを補助的に使用して、挿入ワイヤに意図的にクランプされる。本発明の第1の実施形態に従ったインプラントを使用する場合には、位置ずれは、インプラントの放出が必要な場合にのみ、生じるべきである。
【0052】
インプラントを放出する目的で放出チューブの後退を促進するために、把持特徴が、この領域における外径にかかわらず、放出チューブの近位端に設けられうる。これは、厚み又は、放出チューブの近位端を包み込むスリーブの形態でありうる。インプラントの放出が生じることになっている場合、挿入ワイヤ上に放出チューブをクランプするトルカは、取り扱いし易くするために、典型的には緩められて、挿入ワイヤ上に再び設置可能となる。放出チューブは、次に、把持特徴において使用者によって把持され、近位方向に後退させられうる。
【0053】
カテーテルを通る、インプラントと挿入ワイヤ及び取り囲む放出チューブの通路は、放出チューブとカテーテルとの間の摩擦を低減する、放出チューブのコーティングを外側に設けることによって促進されうる。これは、好ましくは親水性コーティングである。
【0054】
放出チューブを後退させるときには、さらに、挿入ワイヤと放出チューブとの間の摩擦力をできる限り低く維持することが望ましい。このため、摩擦低減コーティングが、挿入ワイヤの外側又は放出チューブの内側の少なくとも部分区間に用いられうる。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の使用が好ましい。これは、トルカによる把持を可能にするために、典型的には近位端の場合と同様に、とりわけ挿入ワイヤが研磨されている領域に言えることである。
【0055】
外径の他に、放出チューブの壁厚もまた変動しうる、すなわち、大きい外径を有する領域では、放出チューブは、小さい外径を有する領域よりも大きい壁厚を有する。壁厚が低下すると、放出チューブの可撓性及び曲げ加工性がさらに増加し、それによって、とりわけ、マイクロカテーテルの内側で血管系の微細な分枝に沿って容易に追従できるようになる。
【0056】
放出チューブは、少なくともその長さの大部分について一定の外径及び内径を有する、すなわち、一定の壁厚も有する、均一に構成された放出チューブから開始して、生成されうる。材料は、所望の部分においてこの放出チューブの外側から取り除かれ、それによって、外径を低下させる。内側の材料は取り除かれないため、放出チューブの壁厚は同程度に低下する。よって、放出チューブが単片として得られ、ここで、部分区間、とりわけ中間部では、外径及び壁厚は、材料の除去によって低下している。近位部及び場合により遠位部などの他の部分では、通常、材料は除去されない、すなわち、元の外径がそこにそのまま残る。
【0057】
材料の除去は、機械工具を補助的に使用して、又はレーザも補助的に使用して、旋削加工、研磨、又は削り取りなど、基本的に先行技術から知られている方法を用いて行われうる。材料はまた、近位端でのトルカによる把持を可能にするために、近位端においても除去されうる。
【0058】
放出チューブは、典型的にはプラスチックから作られる。とりわけ十分に実績があるのは、ポリイミドである。しかしながら、ポリプロピレン又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの他の材料の使用も想定されている。異なるプラスチック又は多層状の共押出しされたポリマーの組合せもまた用いられうる。さらには、放出チューブは、例えば金属繊維などの繊維が放出チューブ内に埋め込まれうることから、加えて補強も有しうる。例えば、織物又は編組物で補強された放出チューブが想定される。
【0059】
加えて、放出チューブはまた、金属でできていてもよく、その場合、放出チューブは、曲げ剛性が大きくなりすぎないようにするために、薄肉化されるべきである。特に、ニチノールなどのニッケル-チタン合金は、金属として魅力的である。
【0060】
上記材料は、それが本発明の第1又は第2の実施形態の放出チューブであるかどうか、及び放出チューブの外径が変動するかどうかにかかわらず、放出チューブに用いられうる。
【0061】
曲げ剛性をさらに低下させるために、放出チューブは、例えばスロット又は開口部の形態をした、凹部又は材料の薄肉部を有しうる。これは、放出チューブの作製に用いられる材料にかかわらず、すなわち、プラスチック及び金属のいずれにも当てはまる。凹部又は材料の薄肉部は、とりわけ、遠位領域などのわずかな曲げ剛性が特に重要な、放出チューブのある特定の領域に設けられてよく、あるいは、放出チューブの全長にわたって配置されてもよい。放出チューブの可撓性は、引張強度に悪影響を与えることなく、このように増加する。
【0062】
材料の除去は、機械加工後の放出チューブが複数の異なる外径を有するような方法で行われうる。特に、大きい外径を有する区間から小さい外径を有する区間への移行、及びその逆の移行もまた、例えば、幾つかの小さい段階にわたって、漸進的であって差し支えなく、それらの各々は、わずかに異なる外径を有する。同様に、外径が均等に低下又は増加するような連続的移行も可能である。この事例では、移行は円錐状である。縦方向断面で見ると、放出チューブの壁は、大きい外径から小さい外径へと移行する位置において、ベベル、若しくは円形又は傾いた又は湾曲した経路を有しうる。
【0063】
あるいは、放出チューブは、数片に分かれていてもよい。この事例では、異なる外径を有する放出チューブの部分区間同士は、概して一体的接合によって結合される。接着剤による部分区間同士の接続が望ましい。
【0064】
異なる外径を有する部分区間同士を連結する場合、その部分区間同士は、強固な連結、とりわけ接着剤のための十分な接着表面を確保するために、重なり合うべきである。場合により、より大きい外径を有する部分区間の内径を拡大することにより、より小さい直径を有する部分区間の部分的挿入が可能になりうる。加えて、部分区間同士間の移行ができる限り均一であって、かつ、外径が唐突に増加又は低下せずに連続的になることを確実にしうる。この目的のため、部分区間は、傾斜していてよい;異なる方法での材料除去も可能である。例えば、大きい外径から小さい外径への連続的な移行を達成するために、ある特定の添加量の接着剤を施すことも同様に可能である。
【0065】
部分区間はまた、より長い距離にわたって重なり合っていて差し支えなく、例えば、放出チューブの層は、放出チューブの長さの大部分にわたって連続的に伸びうる。放出チューブの遠位端又は遠位端に対してわずかに近位から開始して、近位端へと連続的に伸び、このように放出チューブの大部分に均一な内径を確保する層が、可能である。均一な内径は、製造技術の観点から有利である。ある特定の区間、とりわけ、放出チューブの連続層の外側の遠位部及び近位部では、放出チューブの外層に適用される。内層及び外層はともに、特に接着剤によって接合される。よって、内層及び外層がともに接合される場所では、より大きい外径及びより大きい全体的な壁厚を有する放出チューブが得られるが、外層が存在しない区間では、外径及び壁厚はより小さくなる。驚くべきことに、多層状の構成が、放出チューブの大きい外径を有する区間をも、とりわけ近位部において、より可撓性にすることが見いだされた。しかしながら、比較的大きい壁厚及び外壁の関連付けされた大きい断面のおかげで、引張強度は高くなる。よって、同じ全体的な壁厚を有する、放出チューブの壁の単層構成と比較して、可撓性はより大きくなるが、引張強度は同等である。
【0066】
この実施形態においても、大きい外径を有する区間と小さい外径を有する区間との間の移行もまた、当然ながら、連続的に、又は幾つかの小さい段階の形態で、設計されうる。さらには、放出チューブは、内層及び外層の他にさらなる層を有してよく、よって、放出チューブは、所望される数の層で基本的に構成されうる。
【0067】
距離が大きすぎる、すなわち、放出チューブの内径に対して挿入ワイヤが薄すぎる場合には、マイクロカテーテル内の進行の間に、極端な事例ではさらなる進行を不可能にする、曲げ又はバックリングが起こりうるため、放出チューブの正確な構成にかかわらず、挿入ワイヤと放出チューブの内壁との間の距離は、重要である。他方では、放出チューブの内壁と挿入ワイヤとの間の距離が小さすぎると、例えば、インプラントを放出する目的での放出チューブの後退を妨げうる、大きい摩擦力が相対運動の間に生じるため、問題である。
【0068】
放出チューブの内層が、遠位方向から近位方向まで連続的に少なくとも大部分にわたって伸びることは有利である。これは、内層が、長さの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、とりわけ好ましくは少なくとも90%にわたって延在することを意味する。内層とは、本明細書では、最初は分離しており、その後に初めて外層と接合された層のみならず、上述したような単片の放出チューブの内側部分も意味する。これは、結果的に、均一な内径を生じるだけでなく、近位の後退の間の放出チューブの不必要な延伸をも、大部分、回避する。一方では、曲げ加工性が特に重要な区間、とりわけ中間部は、放出チューブが狭い血管を容易に通り抜けることができるように、とりわけ薄く、可撓性である。他方では、他の区間、とりわけ近位部及び場合により遠位部は、放出チューブを近位に後退させる場合に、放出チューブの不必要な延伸に対して十分に抵抗性である。これにより、安全な問題のないインプラントの放出が確実になる。
【0069】
挿入ワイヤもまた、さまざまな区間においてさまざまな直径を有しうる。特に、直径は、可能な最良の手法でマイクロカテーテル内部において血管の経路を追従することができる、低い曲げ剛性もまた、遠位の挿入ワイヤにとって有利であることから、近位部よりも遠位部において小さくなりうる。他方では、しかしながら、直径が小さすぎると、その進行の間に、挿入ワイヤがバックリングし、不可能でないにしても、さらなる進行を困難にするであろう。したがって、近位部では問題のない進行が大きな懸念事項になりつつある一方で、遠位部に、より小さい直径を有する挿入ワイヤを提供することは、とりわけこの場所では、挿入ワイヤが血管の経路を追従することが必要とされることから、望ましい。直径はまた、挿入ワイヤの長さにわたって、繰り返し変動してよく、好ましくは、直径の移行において均一に増大又は減少する。よって、移行は、好ましくは円錐状である。挿入ワイヤの直径の変動はまた、放出チューブの外径の変動とは無関係に、生じうる。
【0070】
基本的に、直径が小さくなると、挿入ワイヤの遠位部において有利である一方、挿入ワイヤの個別の領域もまた、遠位部において、より大きい直径を有していてもよい。これは、とりわけ、挿入ワイヤの先端について言えることである。しかしながら、近位及び遠位への挿入ワイヤの二分割において、遠位の半分の直径が、平均で、近位の半分のものよりも小さくなることが望ましい。
【0071】
小さい直径を有する挿入ワイヤの領域は、PTFEなどのポリマーで被覆されうる。このように、挿入ワイヤと放出チューブとの間の遊びが妨げられ、それによって、進行の間の挿入ワイヤの不必要な変形を防ぐ。たとえそうであっても、ポリマーは挿入ワイヤをほとんど硬化させないことから、挿入ワイヤは、この区間において十分に可撓性かつ曲げ加工性を保持する。ポリマーはまた、挿入ワイヤを完全に又は部分領域でのみ取り囲む、螺旋コイルの形態でも提供されうる。螺旋コイルはまた、他の材料、とりわけ金属で構成されてもよい。
【0072】
放出チューブの外径と挿入ワイヤの直径が、略同調した態様で増加又は低下することは有利である。これは、一方では放出チューブ、他方では挿入ワイヤの同じ区間において、良好な可撓性が所望されることからも望ましい。さらには、これは、放出チューブの内壁と挿入ワイヤとの間の距離を比較的一定に保つことを確実にする。挿入ワイヤの直径は、放出チューブの内径も対応する区間において小さくなりうるように、遠位においてかなり大幅に縮小しうる;例えば、放出チューブが、中間部において、近位部における挿入ワイヤの直径よりも小さい内径を有することが可能である。
【0073】
挿入ワイヤはまた、放出を目的とする実際のインプラントを通じて延びうる。特に、挿入ワイヤは、インプラントが圧縮状態のときに、インプラントの遠位端を越えて遠位にも延びうる。言い換えれば、挿入ワイヤの先端は、インプラントが保持要素からまだ放出されていない場合には、インプラントの遠位端よりさらに遠位にある。このように、インプラントの放出後でさえも、物体は、初めはインプラントの内側を通って、挿入ワイヤが後退するまではなおも伸びる。これにより、例えば、挿入ワイヤ及び隣接した挿入ワイヤの先端に沿ってカテーテルを導くことによって、血管又はインプラントのさらなるプロービングが可能になる。カテーテルは、このように、放出されかつ膨張したインプラントを通って移動する。挿入ワイヤの先端は、挿入ワイヤの最終的な後退によってのみ、抜去される。
【0074】
挿入ワイヤの先端は、回転対称の設計を有しうる。その断面は、円形、楕円形、矩形、又は基本的にあらゆる他の形状でありうる。さらには、例えば、挿入ワイヤの先端自体を少なくとも部分的に放射線不透過性材料で作製することによって、及び/又は、挿入ワイヤの先端がその遠位端に放射線不透過性マーカーを有することによって、挿入ワイヤの先端を可視化することが望ましい。挿入ワイヤの先端は、製錬鋼、ニチノール、白金、白金/イリジウム、白金/タングステン又は他の金属で作製されうる。
【0075】
挿入ワイヤの先端及び実際の挿入ワイヤは、単片として作製されうる、すなわち、それは、最終的に連続したワイヤである。しかしながら、挿入ワイヤの先端と挿入ワイヤとを別々に作製し、その後初めて、それらを一緒に接合することも可能である。このように、異なる材料の有利な特性を互いに組み合わせてもよく、例えば、実際の挿入ワイヤは、良好な進行能力を有する製錬鋼で構成されうる一方、挿入ワイヤの先端は可撓性を増加させるために、ニチノールなどのニッケル-チタン合金で構成されててもよい。ニッケル-チタン合金からの製造は、挿入ワイヤの先端自体に限られる必要はなく、むしろ、挿入ワイヤの遠位部全体に関与しうる。よって、挿入ワイヤは、例えば、近位部が製錬鋼で作られ、遠位部はニッケル-チタン合金で作られた、近位及び遠位部を有しうる。近位部及び遠位部間の移行は、典型的には、本発明の第1の実施形態では、ほぼ保持要素が位置している場所で生じる。ニッケル-チタン合金で作られた遠位部はまた、バックリングの危険性を最小限に抑える(「耐キンク性」)利点も有する。他方では、製錬鋼などのより硬い材料の使用は、進行能力にとって有利なトルクの伝達を可能にすることから、挿入ワイヤの近位部分では有利である。
【0076】
よって、インプラントを導入するための本明細書の残りの文脈に開示される装置とは独立して、又はそれと共に、本発明はまた、遠位部はニッケル-チタン合金、好ましくはニチノールで作られ、一方、近位部はより硬い材料、すなわち、より高い弾性率(ヤング率)を有する材料で作られた、近位部及び遠位部を有する挿入ワイヤにも関する。特に、近位部のための材料は製錬鋼でありうるが、MP35N、MP35NLT又はElgiloyなどのCo-Ni-Cr-Mo合金であってもよい。
【0077】
用語「挿入ワイヤ」は、広く理解されており、どの事例においても、古典的なワイヤを表す必要はない。例えば、内部空洞を有する細長い挿入補助具もまた想定されている。この事例では、挿入ワイヤの上述の直径は、外径に対応する。しかしながら、処置を行う医師が挿入ワイヤを掴み、動かすことができるように、挿入ワイヤが十分に離れて近位に延びることが重要である
【0078】
それ自体の放出を目的とするインプラントは、好ましくは、チューブ状の編組物を形成する、個々の交差するフィラメントからなる壁を有する。チューブ状の編組物は、通常は丸みのある編組物であり、近位端又は遠位端から見たときに円形の断面を有する。しかしながら、楕円形の断面など、円形状からの逸脱も基本的に可能である。
【0079】
編組構造を形成するフィラメントは、金属の個別のワイヤでありうるが、リッツワイヤ、すなわち、ともにフィラメントを形成する、好ましくは撚り合わせた、わずかな直径を有する幾つかのワイヤを提供することも可能である。
【0080】
動静脈奇形を血流から可能な限り封鎖することができるように、血管内の血流に影響を与えるのに適した、フローダイバータを補助的に使用したインプラントが、以下に記載される。奇形は、通常、動脈瘤である。本発明に従った装置は、しかしながら、これに限られず、基本的に、支持機能をもたらすとされている、従来のステントなど、血管内に導入されてそこに放出されるように設計された他のインプラントにも適している。
【0081】
インプラントはまた、例えばそれらが腫瘍に供給しているなどの理由で、血液循環から分離される必要のある血管を封止する役割も果たしうる。インプラントは、インプラント直径と血管直径との比の最適な選択とともに、それ自体をそれぞれの血管直径に適合できるべきである。拡張及び増生の領域では、それは、最大でその公称直径、すなわち、インプラントが外部拘束の使用なしに適合する直径を採用すべきである。
【0082】
インプラントの材料は、特に、高い復元力又はばね作用を有する材料でありうる。これらは、とりわけ、ニチノールなどの超弾性又は形状記憶特性を有する材料である。異なる直径のワイヤも、個々のフィラメントに用いられうる。このように、異なる断面を有するワイヤの利点及び不利点を組み合わせて、補償することができる。ワイヤの断面は、ほとんどの事例では円形であるが、楕円形又は多角形の断面、若しくはそれらの組合せを有するワイヤもまた可能である。
【0083】
いずれにせよ、インプラントが、一方では、マイクロカテーテルを通して導かれるために、圧縮形態をとることができ、他方では、マイクロカテーテルの外部拘束から解放されたときに自動的に膨張し、埋め込み部位の血管の内壁に接触して位置することが重要である。白金ジャケット付きのニッケル-チタンワイヤ又はニッケル-チタンジャケット付きの白金ワイヤなど、複合材料からインプラントを作製することも可能である。このように、ニッケル-チタン合金(ニチノール)の形状記憶特性は、白金の放射線不透過性と組み合わされる。
【0084】
膨張状態におけるインプラントの直径は、典型的には2.5~5.0mmである。その長さは、例えば20~40mmである。
【0085】
挿入ワイヤは、製錬鋼又は形状記憶材料、とりわけニチノールなどのニッケル-チタン合金から作製されうる。変動する直径を有する挿入ワイヤの事例では、単一のワイヤから挿入ワイヤを削ること、すなわち、より小さい直径の領域の材料を除去することが可能である。しかしながら、幾つかの個別のワイヤをともに接合して、挿入ワイヤの直径が変化する場所に挿入ワイヤを形成することも可能である。異なる材料をこれに使用してもよい。特に、遠位端にニッケル-チタン合金でできた先端を有する製錬鋼でできた挿入ワイヤを提供すること、あるいは、概して、挿入ワイヤのさらに遠位に位置した領域をニッケル-チタン合金から、かつ、さらに近位に位置している領域を製錬鋼などのより大きい弾性率を有する材料から、形作ることが可能である。
【0086】
インプラントがフローダイバータとしての役割を果たす場合には、典型的なステントの事例のように、支持機能を提供することは必ずしも必要ではない。その代わりに、インプラントは、主に、ある種のインナーカフとして、奇形の領域の血流を導く役割を果たす。例えば、動脈瘤に設置される閉塞手段が血流内に流出することも防止すべきである。さらには、動脈瘤における血液の流入及び/又は流出を防止することができる。
【0087】
インプラントは、典型的には、複数のフィラメントの編組物として作られ、該編組物は、原則的に、無端チューブを形成する。次に、特定の必要とされるインプラント長が、この無端チューブから切り出されうる。個々のフィラメントは、したがって、螺旋又はヘリックス状に巻かれ、ここで、個々のフィラメントは、互いに上下に交差しているトレリスとして導入される。概して、個々のフィラメントは、2つの方向に巻かれ、例えば90°の角度など、ある一定の角度で交差する。応力のない正常な状態において、インプラントの軸端部の方向に展開する角度に関し、90°超、とりわけ90~160°の角度が好ましい。個々のフィラメントのこのような急勾配の巻き線は、それが十分にきつい場合には、軸方向に伸長するときに引き離されて実質的により小さい直径を形成しうる、大きい表面密度又は表面被覆を有する編組物を生じうる。伸張力が停止したとき、かつ、フィラメント材料が適当な復元力を有する場合には、編組物は、再度、公称直径、すなわち、元々の応力のない状態に近づき、膨張し、埋め込み位置における血管壁と該壁に接触する高密なメッシュ構造とのきつい密着を生じる。これは特に血管膨張の領域にも言えることである。動脈瘤などの血管膨張領域の表面被覆は、よって、血管の隣接する領域より大きい。加えて又は代替的に、編組物の表面被覆は、採用される製織技術によっても変動しうる。例えば、インプラントは、動脈瘤のネックの広範囲の被覆が確実になるように、端部領域よりも、動脈瘤が典型的には覆われている中間の領域においてより高密に巻かれうる。他方では、十分な可撓性は、端部領域における、より低い表面密度によって保証される。血管の分枝(分岐)は、インプラントにおいて、例えば、より低いメッシュ密度を有する領域によって設けられうる。フィラメントの厚さは、典型的には0.01~0.2mm、とりわけ0.02~0.05mmである。各個別のフィラメントは、単一のワイヤで、あるいは、組み付けられた、好ましくは撚り合わせられた幾つかの個別のワイヤのリッツワイヤで構成されうる。個別のワイヤは、同じ直径を有していても、異なる直径を有していてもよい。ワイヤはまた、さまざまな材料(ニチノール、コバルト-クロム合金、白金合金)で構成されうる。放射線不透過性材料でできたワイヤは、例えば、インプラントの放射線不透過性を確実にする。
【0088】
編組物において、インプラント端部において突き出るフィラメント末端は、少なくとも二つ一組でまとめられ、互いに恒久的に接合されうる。これは、例えば、溶接によって、また、機械的クランプ、撚り、はんだ付け又は糊付けすることによってもなされうる。フィラメント末端の接続は、それらの上にスリーブを置くことによってもなされうる。このスリーブは、例えば、溶接によって、又は圧着によっても、フィラメント末端との一体的に接合された接続を兼ね備えることができる。別の手段は、フィラメント末端に位置する厚みによってスリーブからのすり抜けを防止するように、スリーブを寸法合わせすることである。よって、スリーブは、フィラメントに対して軸方向に移動可能であるが、完全に分離することはできない。さらには、スリーブは、軸方向に互いに対して移動可能でありうる。このように、インプラントが圧縮されるときに、インプラントが全体として、より少ない直径を有するように、スリーブは一方が他方の上に重ならない。
【0089】
フィラメント末端を一緒にまとめかつ接続することは、インプラントの近位端においてとりわけ重要である;インプラントの遠位端では、フィラメント末端が自由な状態であったとしても、問題がないことが分かっている。たとえそうであっても、当然ながら、一緒にまとめ、インプラントの遠位端にフィラメント末端を接合することも可能である。
【0090】
独国出願公開第102009006180号明細書に記載されるように、フィラメントを一緒にまとめて、第1の編組端部を形成し、次に、それらを接続して第2の編組端部を形成することも可能である。
【0091】
この事例では、又は追加して、接続されたフィラメント末端は、それによって傷つけないように形成される。特に、フィラメント末端は、例えばほぼ球状の形状をした、傷つけないための厚みを、遠位及び/又は近位に有しうる。厚みは、フィラメント末端から形成されてよく、あるいは、レーザ溶接、ろう付け、糊付け、圧着、又は同様の方法によってフィラメント末端上に配置されうる。
【0092】
実際には、本発明に従ったインプラントの留置は、X線制御下で行われる。この理由から、インプラント及び必要に応じて挿入ワイヤも、それ自体が放射線不透過性材料でできていない限り、放射線不透過性マーカー材料を含んでいるべきである。このような放射線不透過性材料は、特に、タンタル、金、タングステン及び白金金属、とりわけ、白金-イリジウム又は白金-タングステンなどの白金合金である。これらのマーカーは、フィラメント末端に、知られた方法で、例えばマーカー元素として取り付けられてよく、あるいは、それらは、編組構造内にマーカーフィラメントとして織り交ぜられてもよい。個々のフィラメントを、白金などの放射線不透過性材料でできたヘリックス又はワイヤで包み込むことも可能である。ヘリックス又はワイヤは、フィラメントに溶接、糊付け又は同様に取り付けられうる。別の選択肢は、フィラメントに放射線不透過性材料をコーティング又はバラスト付けすることである。
【0093】
組み付けられたフィラメントを包み込むスリーブの形態の放射線不透過性マーキングもまた可能である。これらのスリーブは、フィラメント末端に溶接又はクリンピングされてもよい。放射線不透過性スリーブは、フィラメント末端をまとめて保持するための前述のスリーブと同一であってよく、したがって二重の役割を果たす。さらには、挿入ワイヤの遠位部にPt-コイルなどの放射線不透過性材料のコイルを設けることが可能である。好ましくは、これは、保持要素に隣接して近位に配置される。
【0094】
放射線不透過性物質を放出チューブ内に導入することもまた想定されている。これは、典型的にはX線技術において造影剤として用いられる、放射線不透過性粒子を包含しうる。このような放射線不透過性物質は、例えば、硫酸バリウムなどの重金属塩又はヨウ素化合物である。放出チューブの放射線不透過性は、インプラントの導入及び局所化に役立ち、マーカー元素に加えて又はマーカー元素に代えて、用いることができる。
【0095】
上述のように、編組物における個々のフィラメントの応力のない配置で動脈瘤を閉鎖するためには、インプラント表面は、できるだけ高密な構成を有するべきである。しかしながら、編組物の可撓性は元の状態のまま保たれなくてはならないことから、フィラメントによる100%の表面被覆は、せいぜいおおよそしか可能ではない。しかしながら、用途に応じて、さらに少ない表面被覆が結果的に生じる、又はさらに低い表面被覆が適当であることが分かっている。30~80%の範囲の表面被覆が好ましく、好ましくは35~70%である。
【0096】
表面被覆を改善するために、編組物を、テフロン(登録商標)、シリコーン、又は身体が許容する別のプラスチックなど、フィルムで包んでもよい。可撓性及びストレッチ性を高めるために、このようなプラスチックフィルムはスリットを有していてよく、該スリットは千鳥配列になっていて差し支えなく、スリットの長手方向はインプラントの輪郭に沿って伸びる。このようなフィルムは、例えば、インプラントを対応する液膜材料(分散液又は溶液)に浸漬し、次に、例えばレーザによってスリットを作製することにより、実現することができる。浸漬によって、例えば、メッシュの部分的又は完全な充足(Fuellung)を達成することも可能である。
【0097】
あるいは、インプラントの個々のフィラメントを、プラスチックの分散液又は溶液に浸漬することによって、このようなプラスチックで包み込み、それによってフィラメント断面を増加させることも可能である。この事例では、開放メッシュは依然として残るものの、メッシュサイズは、著しく低下する。
【0098】
インプラントはまた、それ自体は既知の方法でコーティングされてもよい。コーティング材料は、特に、抗増殖性、抗炎症性、抗血栓性、成長促進性及び/又は付着防止血液適合性の特性を有する材料など、ステントについて記述されるものでありうる。インプラントの内殖(Einwachsen)及び新内膜の形成を促すコーティングが好ましい。ヘパリン又は誘導体ASS、若しくは適切なオリゴ糖、及びキチン誘導体など、接着性を低減する薬剤で、このようにインプラントの外側及び内側にコーティングすることは、望ましいであろう。接着性を低減する、ポリマー性SiOの極薄層などのナノ粒子の層もまた、この目的にとって好ましい。
【0099】
先に既に述べたように、本発明の第1の実施形態では、挿入ワイヤと、保持要素、放出チューブ及びインプラントとの組合せは、マイクロカテーテルを通じて導かれる。この事例における保持要素及び放出チューブの直径は、その2つを一緒に、通常のマイクロカテーテルを通じて容易に導くことができるように、寸法合わせされる。したがって、本発明はまた、インプラント、放出チューブ及び挿入ワイヤの他に、それを通じて他の構成要素を標的位置にもたらすことができる、マイクロカテーテルも含む装置にも関する。さらには、本装置は、インプラント、並びに必要に応じて放出チューブ及び挿入ワイヤを保管しておくことができる保管スリーブを備えうる。使用の目的で、インプラントは、挿入ワイヤを補助的に使用して保管スリーブから引き出され、典型的には円錐移行部片を利用して、マイクロカテーテル内に収容される。
【0100】
以下の説明を補助的に使用しつつ、一例として、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】本発明の第1の実施形態に従った遠位挿入ワイヤ先端を有する装置
図2】本発明の第1の実施形態に従った遠位挿入ワイヤ先端を有しない装置
図3】本発明の第1の実施形態に従った保持要素の横方向及び縦方向断面
図4】本発明の第1の実施形態に従った固定インプラントを有する保持要素の縦方向断面
図5】本発明の第2の実施形態に従った装置の縦方向断面
図6】本発明の第2の実施形態に従った放出チューブのバリエーション
図7】本発明の第2の実施形態に従った放出チューブのバリエーション
図8】本発明の第2の実施形態に従った放出チューブのバリエーション
図9】本発明の第2の実施形態に従った放出チューブのバリエーション
図10】本発明の第2の実施形態に従った放出チューブのバリエーション
図11】本発明の第2の実施形態に従った放出チューブのバリエーション
図12】放出ワイヤが用いられている、本発明の第2の実施形態のバリエーション
【発明を実施するための形態】
【0102】
図1aは、本発明の第1の実施形態に従った本発明の装置の基本的配置を示しているが、保持要素の特定の特性はこの描写では見ることができない。本装置は、インプラント1、挿入ワイヤ14及び放出チューブ13で構成されている。インプラント1は、編組物からなり、インプラント1の放射線不透過性を確実にするために、放射線不透過性材料の個別のワイヤ4が織り交ぜられている。近位端において、インプラント1は、ここにはさらなる詳細は描かれていない保持要素を有する、挿入ワイヤ14に連結されている。インプラント1の近位端から出る保持ワイヤは、保持要素に固定され、ここで、放出チューブ13は保持ワイヤが保持要素から緩むのを防ぐ。挿入ワイヤ14は、インプラント1を通って遠位方向に伸び、遠位端に、挿入ワイヤ先端9を有する。インプラント1は、マイクロカテーテル8を通って進行する。近位端において、挿入ワイヤ14及び放出チューブ13はトルカ7によってともに保持される。
【0103】
図1bは、放出状態での図1aのインプラント1を示している。放出チューブ13は、保持ワイヤが挿入ワイヤ14の保持要素から緩まるように、後退されている。挿入ワイヤ先端9は、インプラント1を通ってさらに伸びるが、挿入ワイヤ14及び放出チューブ13とともに後退させることができる。
【0104】
図2a及び2bは、根本的に、図1a及び1bのものに対応するが、遠位挿入ワイヤ先端9が存在しない実施形態を示している。
【0105】
図3aは、保持要素2の断面を示している。保持要素2は、基本的には、略円筒状であり、したがって回転対称である。複数の溝3が保持要素2に凹設されており、溝3の数は、ここで選択される例では4つである。しかしながら、8~32本の溝3など、保持要素にさらに多くの溝3を設けることも可能である。溝3は、保持ワイヤ5を挿入できるように、外側に開放されている。
【0106】
溝3の走路が、保持要素2を通る縦方向断面である図3bに示されている。保持要素2は、挿入ワイヤ14に固定される。溝3は、波形の走路を有し、したがって、保持ワイヤ5が、十分に強い摩擦係止が生成するように挿入されて、インプラント1が長手方向に引き出されるのを防ぐことができる。他方では、溝3は、保持要素2と保持ワイヤ5に被せられた放出チューブ13が除去されるとすぐに、保持ワイヤ5が半径方向に容易に抜け出ることができるように、半径方向外向きに開放されている。エッジに位置する保持要素2の溝3は、図3bにのみ示されているが、それらは、他の溝3と同じ波形の走路を有している。
【0107】
放出の全体的な原理が、近位インプラント端部12を示す、図4にさらに示されている。ここで選択される描写及び図3bでは、図1a、b及び図2a、bで選択された描写とは反対に、左が遠位に対応するとともに、装置は、近位方向に右へと続いている。インプラント1は、複数の編組ワイヤ6で構成されている。編組ワイヤ6の中でも、一部の編組ワイヤ6は、延伸した近位端を有し、この延伸が、溝3内に挿入された保持ワイヤ5を生成している。保持ワイヤ5の数は、通常、溝3の数に対応する。溝3の波形の走路のおかげで、保持ワイヤ5が摩擦係止によって溝3に保持されるように、対応する波形形状が、保持ワイヤ5にも付与される。保持ワイヤ5の剛性は、典型的には埋め込みプロセスにおいて起こる、押す力又は引っ張る力による溝3からの保持ワイヤ5の意図しない引き出しが事実上不可能になるように、装置に順応すべきである。典型的には、編組ワイヤ6は、2本目毎、4本目毎、又は8本目毎に、保持ワイヤ5が生成されるように、より長く形成される。さらには、編組ワイヤ6の幾つかは、インプラント1の放射線不透過性を高める役割を果たす白金コイル10を有している。
【0108】
放出チューブ13は、保持要素2と近位インプラント端部12の両方に被せられる。これは、一方では、放出チューブ13が保持要素2から溝3のすべてが露出するように十分に引き下ろされる前に、インプラント1の放出が起こりえないことを確実にする。他方では、放出チューブ13が近位インプラント端部12にも被せられるという事実により、インプラントがマイクロカテーテルから放出された後でさえも、編組ワイヤ6がともに近位端12に保持されることが確実となり、放出チューブ13を後退させていない限り、マイクロカテーテル8内への後退は、必要に応じて依然として可能に保たれる。
【0109】
図5~11は、本発明の第2の実施形態を示している。放出チューブ13は、その遠位端に、1つ以上のパッド11を備えており、これは、弾性材料でできており、インプラント1の進行及び後退が放出チューブ13の移動によって可能になるように、パッド11とインプラント1との間に十分に強い摩擦係止を生成する。ここで選択される描写におけるインプラント1は、マイクロカテーテル8の内部に位置する、すなわち、圧縮された形態をしている。挿入ワイヤ14は、挿入ワイヤ先端9がインプラントの遠位端に対して遠位にあるように、ここではインプラント全体を通って延びているが、挿入ワイヤ先端9は必須ではない。図3a、3b及び4で選択された描写とは対照的に、図5~11の描写では、左側が近位であり、右側が遠位である。装置の近位端において、挿入ワイヤ14及び放出チューブ13はトルカ7によって保持されている。
【0110】
インプラント1が標的位置に到達すると、インプラント1が半径方向に膨張し、血管の内壁に適合するように、インプラント1をマイクロカテーテル8から遠位に押し出すことができる、あるいは、マイクロカテーテル8を近位に後退させることができる。本発明の第1の実施形態のように、放出の原理は、よって、十分に大きい摩擦力が軸方向に生じて軸方向におけるインプラント1の放出を防止する一方、放出は、インプラント1の半径方向の膨張によって起こるという事実に基づいている。
【0111】
図6~11は、放出チューブ13のさまざまなバリエーションを示している。図6に示される実施形態では、放出チューブ13の近位部15は、より大きい断面を有しており、一方、さらに遠位に位置した中間部16は、より小さい断面を有している。これは、一方では、放出チューブ13の中間部16が非常に可撓性であり、狭い血管内腔を通る輸送の間に容易に進行することができると同時に、他方では、近位部15がより大きい断面を有しており、それによって放出チューブ13の長さ方向のストレッチ性を制限することから、放出チューブ13は、近位方向に容易に後退させることができることを意味する。図6によれば、パッド11はチューブ材料自体でできている、すなわち、パッド11を放出チューブ13上に追加的に配置する必要はない。
【0112】
図7は、中間部16が、同様に、放出チューブ13の近位部15より小さい断面を有する、同様の実施形態を示している。しかしながら、図6に示される描写とは対照的に、放出チューブ13を輪のように取り囲む、2つのパッド11が分離して配置されている。
【0113】
図8は、近位部15が、同様に、放出チューブ13のさらに遠位に位置した中間部16より大きい断面を有しているが、ここでは、図7の個別のパッドより長く構成された、1つのパッド11のみが、放出チューブ13の周りに輪のように配置されている、さらなるバリエーションを示している。
【0114】
図9、10及び11は、図6、7及び8に対応しているが、放出チューブ13には肩がなく、遠位端から見て、均一な断面を有する。
【0115】
図12は、インプラント1の周りに放出ワイヤ17を巻きつけることによって、インプラント1と放出チューブ13との間に摩擦係止が生成されるバリエーションを示している。放出ワイヤ17は、放出チューブ13上へのインプラント1の固定が生じるように、2つのパッド11の間にインプラント1を括り付ける。よって、マイクロカテーテルがなくても、インプラント1は、電圧が印加され、指定された放出部位において放出ワイヤ17の電食が生じ、かつ、放出ワイヤがインプラント1から分離されるまで、放出チューブ13上に依然として固定されたままである。この後、インプラント1は膨張でき、マイクロカテーテル、放出チューブ13、挿入ワイヤ14、並びに放出ワイヤ17の残りの端部は後退させられる。電圧源を放出ワイヤ17に印加可能にするため、放出ワイヤ17の2つの端部は近位方向に伸びている。
最後に、本発明の好ましい実施態様を項分け記載する。
実施態様1
インプラント(1)、挿入ワイヤ(14)及び放出チューブ(13)を備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内に前記インプラント(1)を導入するための装置であって、前記インプラント(1)が、マイクロカテーテル(8)の縮径部を有する形状に適合し、かつ、埋め込み部位において、前記マイクロカテーテル(8)の外部拘束が無くなると膨張して、前記血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、保持要素(2)が前記挿入ワイヤ(14)上に配置されている、装置において、
前記保持要素(2)が、その周辺に、前記保持要素(2)の周囲に沿って伸び、曲線形状の軌跡を形成する、前記保持要素(2)内に組み込まれた少なくとも1つ、好ましくは複数の溝(3)を有し、
前記インプラント(1)が、近位端に、近位方向に延びる、少なくとも1つ、好ましくは複数の、前記溝(3)内に嵌合した保持ワイヤ(5)を有し、
前記保持ワイヤ(5)が、摩擦係止によって前記溝(3)に保持され、かつ、前記インプラント(1)の放出が、前記放出チューブ(13)を近位方向に引き戻すことによって生じるように、前記放出チューブ(13)が、前記保持要素(2)と前記溝(3)内に嵌合した前記保持ワイヤ(5)とに嵌合する形態でそれらの上に被せられている
ことを特徴とする、装置。
実施態様2
前記保持要素(2)の周囲の前記溝(3)が、波形の軌跡を形成することを特徴とする、実施態様1に記載の装置。
実施態様3
前記保持要素(2)の周囲の前記溝(3)が、近位方向から遠位方向へと伸び、曲線形状の軌跡を形成することを特徴とする、実施態様1又は2に記載の装置。
実施態様4
前記保持要素(2)の前記溝(3)の数が≧4であることを特徴とする、実施態様1から3のいずれか一項に記載の装置。
実施態様5
前記保持要素(2)の前記溝(3)の数が≧8であることを特徴とする、実施態様4に記載の装置。
実施態様6
前記保持要素(2)の前記溝(3)の数が8~32であることを特徴とする、実施態様5に記載の装置。
実施態様7
前記溝(3)の断面が、前記保持ワイヤ(5)の断面よりわずかに大きいことを特徴とする、実施態様1から6のいずれか一項に記載の装置。
実施態様8
前記インプラント(1)が、複数の編組ワイヤ(6)でできた編組物であることを特徴とする、実施態様1から7のいずれか一項に記載の装置。
実施態様9
前記保持ワイヤ(5)が、前記インプラント(1)を形成する編組ワイヤ(6)の近位部であることを特徴とする、実施態様8に記載の装置。
実施態様10
前記編組ワイヤ(6)の幾つかが、前記近位方向に延長されていることを特徴とする、実施態様9に記載の装置。
実施態様11
前記放出チューブ(13)が、前記近位方向に後退する前に、前記インプラント(1)の前記近位端を覆っていることを特徴とする、実施態様1から10のいずれか一項に記載の装置。
実施態様12
前記保持ワイヤ(5)が、該保持ワイヤ(5)と前記溝(3)との間の摩擦力が増加する態様で変形することを特徴とする、実施態様1から11のいずれか一項に記載の装置。
実施態様13
インプラント(1)及び放出チューブ(13)を備えた、ヒト又は動物の体の血管又は中空器官内に前記インプラント(1)を導入するための装置であって、前記インプラント(1)が、マイクロカテーテル(8)の縮径部を有する形状に適合し、かつ、埋め込み部位において、前記マイクロカテーテル(8)の外部拘束が無くなると膨張して、前記血管又は中空器官の直径に適合するように変形可能であり、前記放出チューブ(13)が、その中を通って挿入ワイヤ(14)が長さ方向に移動可能な態様で導かれうる、前記装置の長手方向に伸びるルーメンを有している、装置において、
前記放出チューブ(13)が前記インプラント(1)の前記近位端内に突出し、
前記インプラント(1)の内側と前記放出チューブ(13)の外側との間に弾性接触面が存在し、それによって、前記インプラント(1)と前記放出チューブ(13)との間に摩擦係止が生じて、遠位又は近位への前記放出チューブ(13)の長さ方向の移動によって、前記マイクロカテーテル(8)内に前記インプラント(1)の長さ方向の可動性をもたらす
ことを特徴とする、装置。
実施態様14
前記インプラント(1)の内側と前記放出チューブ(13)の外側との間の前記弾性接触面が、弾性中間層(11)によって作られることを特徴とする、実施態様13に記載の装置。
実施態様15
前記中間層(11)が、前記放出チューブ(13)の周りに輪状に伸びることを特徴とする、実施態様14に記載の装置。
実施態様16
前記中間層(11)が、前記放出チューブ(13)と同じ材料、とりわけポリイミドからなることを特徴とする、実施態様14又は15に記載の装置。
実施態様17
前記中間層(11)が、エラストマーからなることを特徴とする、実施態様14又は15に記載の装置。
実施態様18
前記エラストマーが、ゴム、天然ゴム、又はシリコーンであることを特徴とする、実施態様17に記載の装置。
実施態様19
放出ワイヤ(17)が、前記放出チューブ(13)が前記インプラント(1)の前記近位端内に突出している領域の前記インプラント(1)の周りに巻かれており、前記放出ワイヤ(17)が、インプラント(1)と放出チューブ(13)との間の前記摩擦力の強化を生じるように、前記インプラント(1)の内側と前記放出チューブ(13)の外側との間に弾性接触面が存在しており、前記放出ワイヤ(17)が、少なくとも1つの放出部位において電食性であるか、又は熱的に分離可能である
ことを特徴とする、実施態様13から18のいずれか一項に記載の装置。
実施態様20
前記放出チューブ(13)の外径が、前記近位端と遠位端との間で変動することを特徴とする、実施態様1から19のいずれか一項に記載の装置。
【符号の説明】
【0116】
1 インプラント
2 保持要素
3 溝
4 個別のワイヤ
5 保持ワイヤ
6 編組ワイヤ
7 トルカ
8 マイクロカテーテル
9 挿入ワイヤ先端
11 パッド
12 近位インプラント端部
13 放出チューブ
14 挿入ワイヤ
15 近位部
16 中間部
17 放出ワイヤ
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a-3b】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12