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特許7017018エキノマイシン製剤、その製造法および使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】エキノマイシン製剤、その製造法および使用法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20220201BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20220201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
A61K38/12
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/69
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P35/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018543294
(86)(22)【出願日】2016-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 US2016061157
(87)【国際公開番号】W WO2017083403
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2019-10-29
(31)【優先権主張番号】62/253,257
(32)【優先日】2015-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517158728
【氏名又は名称】チルドレンズ リサーチ インスティテュート、チルドレンズ ナショナル メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ワン イン
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ツェン パン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103157112(CN,A)
【文献】特表2014-532697(JP,A)
【文献】特表2002-535267(JP,A)
【文献】国際公開第2014/159760(WO,A1)
【文献】特表2007-511505(JP,A)
【文献】特表2013-529638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0264697(US,A1)
【文献】Curr Med Chem., 2011, Vol.18, p.3168-3189
【文献】J Biol Chem., 2009, Vol.284 No.21, p.14001-14010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における疾患を治療することを目的としたPEG化リポソーム医薬製剤であって:
エキノマイシン、
PEG化リン脂質、
中性ホスホグリセリド、および
ステロールを含み、
前記製剤が前記エキノマイシンを封入する複数のPEG化リポソームを含み、
前記リポソームが医薬として許容される担体に懸濁され、
前記製剤中のリポソームの少なくとも90%が80から120nmの間の直径を有し、且つ
前記疾患がHIF-1αの過剰発現によって特徴付けられる
前記製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の前記製剤であって、前記PEG化リン脂質がジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DMPE-PEG)、ジパルミトイルグリセロサクシネートポリエチレングリコール(DPGS-PEG)、コレステリル-ポリエチレングリコール、またはセラミドベースのペグ化脂質である前記製剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記製剤であって、前記中性ホスホグリセリドがホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される前記製剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の前記製剤であって、前記製剤中の総脂質に対する前記PEG化リン脂質のモル比が3から6%であって、
前記製剤中の総脂質に対する前記中性ホスホグリセリドのモル比が45から65%の間であって、且つ
前記製剤中の総脂質に対する前記ステロールのモル比が30から50%の間である前記製剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の前記製剤であって、前記PEG化リン脂質がジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)であり、前記中性ホスホグリセリドがホスファチジルコリンであり、且つ前記ステロールがコレステロールである前記製剤。
【請求項6】
請求項5に記載の前記製剤であって、DSPE-PEG-2000、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、およびコレステロールを含む前記製剤。
【請求項7】
請求項6に記載の前記製剤であって、総脂質に対するDSPE-PEG-2000、HSPCおよびコレステロールのモル比がそれぞれ5.3%、56.3%、および38.4%である前記製剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の前記製剤であって、総脂質に対するエキノマイシンの質量比が2から10%の間である前記製剤。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1つに記載の前記製剤であって、総脂質に対するエキノマイシンの質量比が5%である前記製剤。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の前記製剤であって、前記リポソームの平均多分散性指数が<0.1であり且つ前記リポソームおよびが4℃で少なくとも12ヶ月間の有効期限を達成するのに十分安定である前記製剤。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1つに記載の前記製剤であって、前記リポソームが凍結乾燥粉末として製剤化される前記製剤。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1つに記載の前記製剤であって、前記疾患がである前記製剤。
【請求項13】
請求項12に記載の前記製剤であって、前記が白血病である前記製剤。
【請求項14】
請求項12に記載の前記製剤であって、前記が乳癌である前記製剤。
【請求項15】
請求項1に記載の前記製剤を生成するための方法であって:
極性溶媒中に前記エキノマイシンと、前記PEG化リン脂質、前記中性リン脂質および前記ステロールを含む脂質成分を含む混合物を得ること;
前記混合物を乾燥して前記極性溶媒を除去し、これにより乾燥脂質フィルムを形成すること;
前記乾燥脂質フィルムをバッファーに溶解して脂質懸濁液を形成すること;
前記脂質懸濁液をポリカーボネートフィルターから押し出して所望の粒径範囲のリポソームを達成すること;および
前記リポソームを濾過により滅菌することを含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2015年11月10日に出願された米国特許仮出願第62/253,257号明細書に対する優先権を主張する。前述の明細書の全文は参照文献として本願に援用される。
【0002】
本願は、全般的に、増殖性疾患、自己免疫疾患、および同種免疫応答の治療を目的とした、リポソームエキノマイシン製剤を調製および送達するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
低酸素誘導因子(HIF)は転写因子であり、かつ低酸素に対する細胞反応を媒介する。HIFは多くの癌、自己免疫疾患および同種免疫応答においてアップレギュレートされることが知られている。具体的には、HIFは腫瘍の代謝、血管新生、および転移に関与する(Semenza,G.L.et al.,Nature Rev.Cancer.2003;3(10):721-32)。
【0004】
エキノマイシン(NSC526417)はキノキサリンファミリーの1つであり、始めは1957年にStreptomyces echinatusから分離された。エキノマイシンは、HIF1αのDNA結合活性を阻害する小分子である。エキノマイシンは、インビトロおよびインビボで、B16黒色腫およびP388白血病移植マウス腫瘍およびヒト腫瘍増殖に対して抗腫瘍活性を呈することが示されている。さらにエキノマイシンは、異種モデルにおいて、白血病幹細胞を優先的に除去することにより、マウス急性リンパ球性白血病およびヒト急性骨髄性白血病を効果的に根絶することが示された(Wang et al.,Cell Stem Cell.2011;8(4):399-411)。
【0005】
エキノマイシンは、米国国立癌研究所によって治験に付された。しかし、これらの試験で用いられたエキノマイシンは、治療歴のある患者に対して有意な抗腫瘍活性を示さなかった。数年にわたって、固形癌に対する複数の第I相(7~11)および第II相(12~19)治験が実施されている。しかし、全ての既存の治療法に対して不応性の固形腫瘍を有する患者に対し、この薬剤は一定した効果を示さなかったので、エキノマイシンの臨床開発は停止した。当該試験は、エキノマイシンがHIF阻害剤であることが判明するはるか以前に実施されたので(Kong D.et al.,Cancer Res.2005;65(19):9047-55)、有効性試験はHIFの抑制による利益の可能性を評価するように設計されていなかった。エキノマイシンは、いくつかの第II相試験においてヒトに対して1200μg/mの用量で使用されたものの、1985年~1992年には薬物濃度を測定する方法がなかったので、薬物動態(PK)データは現れていない。しかし、最近は新たな方法が現れ、エキノマイシンはインビボ半減期が短く、そのため臨床的使用は限られることが判明した。
【0006】
エキノマイシンは水に極めて不溶性であるので、薬剤を適切な剤型に製剤化する手段を複雑にする。エキノマイシンは、水に溶かすと溶液から速やかに沈殿するので、遊離薬剤と水性溶媒の混合に依拠する製剤は、いずれも受容者に十分なバイオアベイラビリティをもたらすことができない。さらに、DMSOなどのエキノマイシンが溶解する入手可能な溶媒は、患者に対して強い刺激性があるので臨床的に許容されない。エキノマイシンの臨床試験により、重度の悪心および嘔吐などの重大な副作用の報告も判明し、その臨床的使用をさらに制限している。
【0007】
上記の制限の観点から、無毒性であり、且つ増殖性疾患、自己免疫疾患、移植片対宿主病、またはHIF-1抑制を必要とする他の任意の疾患に対して有効である、新規の有効なエキノマイシン製剤に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の1つの態様は、HIF-1αおよび/またはHIF-2αの過剰発現によって特徴付けられる、患者における疾患を治療するためのリポソーム医薬製剤に関する。リポソーム医薬製剤は、医薬として許容される担体内に複数のリポソームを含有する。リポソームはエキノマイシンを封入し、PEG化リン脂質、中性ホスホグリセリド、およびステロールから作られる。
【0009】
1つの実施形態においては、PEG化リン脂質はジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DMPE-PEG)、ジパルミトイルグリセロサクシネートポリエチレングリコール(DPGS-PEG)、コレステリル-ポリエチレングリコール、またはセラミドベースのPEG化脂質である。
【0010】
他の実施形態においては、中性ホスホグリセリドはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジルイノシトールからなる群から選択される。
【0011】
他の実施形態においては、製剤中の総脂質に対するPEG化リン脂質のモル比は3から6%であり;製剤中の総脂質に対する中性ホスホグリセリドのモル比は45から60%%の間であり;かつ製剤中の総脂質に対するステロールのモル比は30から50%%の間である。
【0012】
1つの実施形態においては、PEG化リン脂質はジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)であり、中性ホスホグリセリドはホスファチジルコリンであり、かつステロールはコレステロールである。
【0013】
具体的な実施形態においては、リポソームはDSPE-PEG-2000を5.3%、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)を56.3%、およびコレステロールを38.4%含む。
【0014】
一定の実施形態においては、総脂質に対するエキノマイシンの質量比は2から10%の間である。具体的な実施形態においては、総脂質に対するエキノマイシンの質量比は5%である。
【0015】
一部の実施形態においては、製剤中のリポソームの少なくとも90%が80から120nmの間の直径を有する。
【0016】
一部の実施形態においては、リポソームの平均多分散性指数は<0.1であり、且つリポソームおよびは4℃で少なくとも12ヶ月間の有効期限を達成するのに十分安定である。
【0017】
一部の実施形態においては、リポソームは凍結乾燥粉末として製剤化される。
【0018】
他の態様においては、本願によるPEG化リポソーム製剤を用いて、HIF-1αおよび/またはHIF-2αの過剰発現によって特徴付けられる、患者における疾患を治療するための方法は、それを必要とする患者にPEG化製剤を投与することを含み、リポソーム製剤は疾患を治療するのに十分な量のエキノマイシンを含む。
【0019】
1つの実施形態においては、疾患は増殖性疾患である。具体的な実施形態においては、増殖性疾患は白血病である。他の実施形態においては、増殖性疾患は乳癌である。
【0020】
他の実施形態においては、疾患は自己免疫疾患である。
【0021】
他の実施形態においては、疾患は移植片対宿主病である。
【0022】
さらなる態様においては、本願によるPEG化リポソーム製剤を製造するための方法は、極性溶媒中にエキノマイシンと、PEG化リン脂質、中性リン脂質およびステロールを含む脂質成分を含む混合物を形成すること;混合物を乾燥させて極性溶媒を除去し、これにより乾燥脂質フィルムを形成すること;乾燥脂質フィルムをバッファーに溶解して脂質懸濁液を形成すること;ポリカーボネートフィルターから脂質懸濁液を押し出して所望の粒径範囲のリポソームを得ること;および濾過によりリポソームを滅菌することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】リポソームエキノマイシンの物理的特性。(A)マルバーンゼータサイザーソフトウェア上で動的光散乱(DSL)により測定した典型的な製剤の粒径分布。(B)リポソームエキノマイシンの平均粒径およびゼータ電位の要約。データは、6回の独立した調製±標準偏差の要約である。測定はマルバーンゼータサイザーソフトウェアを用いて実施した。
図2】インビトロにおけるリポソームエキノマイシンからのエキノマイシンの放出。(パネルA)21℃のddHOで透析したリポソームエキノマイシンの薬剤放出曲線。データポイントはHPLCによる3回の測定の平均±標準偏差を示す。(パネルB)(パネルA)にプロットした測定時に対応するエキノマイシンピークを示す代表的なHPLCクロマトグラム。
図3】インビトロにおけるリポソームエキノマイシンの保存および安定性。(パネルAおよびパネルB)リポソームエキノマイシンを4℃で保存し、1ヶ月および3ヶ月保存した後サンプリングして安定性パラメータを測定した。0ヶ月は調製直後の測定値を示す。4℃で保存中のリポソームエキノマイシンの粒径とゼータ電位測定値の平均(パネルA)および多分散性指数(PdI)の平均(パネルB)。データはマルバーンゼータサイザーソフトウェアを用いて生成し、誤差棒は3回の測定値の標準偏差を示した。(パネルC)初期値(0ヶ月)に対する百分率として示した、4℃での保存中のエキノマイシン含有量損失のHPLC分析。誤差棒は3回の測定値の標準偏差を示す。
図4】リポソームエキノマイシンと遊離エキノマイシンの毒性および有効性の比較。(パネルA)リポソームエキノマイシン、PBSエキノマイシン(20%DMSO含有PBS)、または同等の用量の空のリポソーム担体を治療サイクルで投与した雌性NSGマウスにおける体重変動。250μg/kgのリポソームエキノマイシン(n=7)または遊離エキノマイシン(n=7)、または同等の担体(n=4)を、1日おきに合計3回マウスに静脈内投与した)。(パネルB)1mg/kgのリポソームエキノマイシンまたは遊離エキノマイシン、または同等の用量の空のリポソーム担体を静脈内単回投与したNSGマウスの生存率。
図5】リポソームエキノマイシンと遊離エキノマイシンの薬物動態の比較。0.1mg/kgリポソームエキノマイシンまたは遊離エキノマイシンの静脈内単回投与後、MSで検出した血清血漿エキノマイシンのレベル。
図6】エキノマイシンの腫瘍内蓄積。リポソームエキノマイシンおよびエキノマイシンの従来型製剤の静脈内投与(0.1mg/kg)後の乳腺腫瘍SUM159におけるエキノマイシン濃度。n=3/測定時。
図7】HIF-1αのETP-ALL内蓄積。(パネルA)ETP-ALL異種移植モデルの脾臓におけるHIF-1αタンパク質レベルを、ウェスタンブロッティングで測定した。(パネルB)異種移植マウスの脾臓から採取したETP-ALL-1細胞を抗hCD45およびCD117表面マーカーで染色し、さらにAPC-コンジュゲート化HIF-1α抗体で細胞内染色した後、FACS分析した。
図8】リポソームエキノマイシンは異種移植マウスモデルにおいてヒトETP-ALL細胞を消失させる。(パネルA)パネルBのデータを目的としたETP-ALLヒト化マウスに対するリポソームエキノマイシンの投与レジメン。0日目はヒトETP-ALL-1細胞の移植日を示す。緑の矢印はそれぞれ1回のリポソームエキノマイシン注射(0.35mg/kg/静脈内注射)を示す。赤い矢印は血液検査を示す。(パネルB)1.3Gysで照射したNSGマウスに1×10個のヒトETP-ALL-1細胞を静脈内注射した。レシピエントのPBMC中のヒトCD45細胞を、移植後34日目にFACS分析で検出した。マウスに対する投与前(34日目)および投与後(42、56、64日目)(担体およびリポソームエキノマイシン投与)のレシピエントマウスのPBMCにおけるヒトCD45の割合をFACS分析した。担体またはリポソームエキノマイシンを投与した全レシピエントマウスのPBMCにおけるヒトCD45の割合の要約(各群n=10)。(パネルC)忍容性の良好な用量では、リポソームエキノマイシンは遊離エキノマイシンの最大効果よりも有効であった。NSGマウスを1.3Gysで照射し、1×10個のヒトETP-ALL-1細胞を静脈内注射した。投与前の21日目にFACS分析を実施した。22日目は、マウスに1回目の投与を行った。レシピエントマウス群(PBS-EM、n=5)の1つに、PBS中のエキノマイシンを3サイクル投与した(合計15回投与)。サイクル毎に、マウスにPBS中のエキノマイシンを0.1mg/kgの用量で1日1回、合計5回静脈内注射した後、5日間休薬し、その後次のサイクルを開始した。もう1つのレシピエント群(Lipo-EM、n=5)は、マウスにリポソームエキノマイシン0.35mg/kgを静脈内注射した。リポソームエキノマイシンは、始めは22日目から4日おきに2回投与し、その後7日間休薬した。その後、マウスに1日おきに4回投与し、その後7日間休薬し、さらに4回隔日投与して終了した(合計10回投与)。もう1つのマウス群(n=5)には空のリポソーム担体を、リポソームエキノマイシンを投与したのと同じスケジュールにしたがって投与した。マウスにエキノマイシンを投与した後(34、50、65日目)、レシピエントのPBMCにおけるヒトCD45の割合をFACS分析で分析した。
図9】エキノマイシンはインビトロで生存乳癌細胞数を減少させた。HIF-1αレベルの高い(SUM159)または低い(MCF7)乳癌細胞を、多様な濃度のエキノマイシンでインビトロ処理した。エキノマイシン濃度と、エキノマイシンと共に培養した生存細胞の相対的な割合の相関を示す。HIF-1αの高いSUM159細胞は、HIF-1αの発現が低いMCF7よりもエキノマイシンに対する感度が高い。
図10】異種移植乳癌細胞におけるエキノマイシンの蓄積。ヒト乳癌細胞株SUM-159にルシフェラーゼを形質移入し、雌性NSGマウスの乳腺脂肪体に同所異種移植した。Dir標識リポソームまたは遊離Dir水水溶液を、図の下の概要に従って異種移植マウスに投与した。生物発光撮影を用いて、異種移植細胞のルシフェラーゼ発現(上パネル)、および生物発光撮影によるリポソームエキノマイシンの有無(下パネル)を評価した。
図11】インビボにおける乳癌細胞に対するリポソームエキノマイシンの治療効果。(パネルA)雌性NSGマウスにヒトSUM159乳癌細胞を異種移植し、遊離エキノマイシンまたは担体を投与した(各群n=10)。遊離エキノマイシン0.1mg/kgまたは担体を28日目から3日おきに合計6回静脈内注射した。SUM159の増殖動態を示す。(パネルB)雌性NSGマウスにSUM159乳癌細胞を異種移植し、リポソームエキノマイシンまたは担体を投与した(各群n=5)。担体およびリポソームエキノマイシンを投与したレシピエントマウスにおけるSUM159の増殖動態を示す。9、11、13、25および27日目に、リポソームエキノマイシン0.35mg/kgまたは担体をマウスに静脈内注射した。実験期間を通じ、平均腫瘍体積を記録した。誤差棒は±標準誤差を示す。個々の投与および用量はアスタリスクで示す。(パネルC)マウスを安楽死させ、腫瘍を切除して写真撮影した。(パネルD)担体およびリポソームエキノマイシン投与マウスから採取した乳癌の腫瘍重量の要約。重量は平均重量±標準偏差として表示し、p値はt検定で算出した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
別段の定義がない限り、本願で用いる全ての技術および科学用語は、本開示の方法および組成物が属する技術に精通した当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願および付属の請求項で用いる単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈より別段の明確な指示がない限り複数の言及を含むことに留意しなければならない。したがって、たとえば、「1つのペプチド」への言及は複数のそのようなペプチドを含み、「そのペプチド」への言及は当業者に既知の1つ以上のペプチドおよびその同等物への言及である、などである。
【0025】
本願で用いる用語「細胞増殖性疾患」は、細胞の異常な増殖によって特徴付けられる障害を指す。増殖性疾患は、細胞の成長率に関するいかなる制限も意味せず、単に増殖および細胞分裂に影響する正常な制御の喪失を示す。したがって、一部の実施形態においては、増殖性疾患の細胞は正常細胞と同じ細胞分裂速度を有することがあるが、そのような成長を制限するシグナルに反応しない。「細胞増殖性疾患」の範囲内に、組織の異常な増殖である新生物または腫瘍が存在する。「癌」は、周辺の組織に浸潤および/または新たな定着部位に転移する能力を有する、細胞の増殖によって特徴付けられる多様な悪性新生物のうち任意の1つを指し、白血病、リンパ腫、癌腫、黒色腫、肉腫、胚細胞性腫瘍、および芽細胞腫を含む。本開示の方法による治療の対象となる典型的な癌は、脳、膀胱、乳房、子宮頸部、結腸、頭頸部、腎臓、肺、非小細胞肺、中皮腫、卵巣、前立腺、胃、および子宮の癌、白血病、および髄芽腫を含む。
【0026】
用語「白血病」は、血液形成器官の進行性悪性疾患を指し、一般的には血液および骨髄における白血球およびその前駆体の歪な増殖および発生によって特徴付けられる。典型的な白血病は、たとえば急性非リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性前骨髄球性白血病、成人T細胞性白血病、非白血性白血病、白血球症性白血病、好塩基球性白血病、芽細胞性白血病、ウシ白血病、慢性骨髄性白血病、皮膚白血病、胎生細胞性白血病、好酸球性白血病、グロス白血病、ヘアリー細胞白血病、血芽球性白血病、血球始原細胞性白血病、組織球性白血病、幹細胞性白血病、急性単球性白血病、白血球減少性白血病、リンパ性白血病(lymphatic leukemia)、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、リンパ性白血病(lymphogenous leukemia)、リンパ性白血病(lymphoid leukemia)、リンパ肉腫細胞性白血病、肥満細胞性白血病、巨核球性白血病、小骨髄芽球性白血病、単球性白血病、骨髄芽球性白血病、骨髄球性白血病、骨髄性顆粒球性白血病、骨髄単球性白血病、ネーゲリ白血病、形質細胞白血病、形質細胞性白血病、前骨髄球性白血病、リーダー細胞性白血病、シリング白血病、幹細胞性白血病、亜白血病性白血病、および未分化細胞性白血病などを含む。
【0027】
用語「癌腫」は、周辺組織に浸潤し且つ転移を引き起こす傾向のある、上皮細胞の悪性増殖を指す。典型的な癌腫は、たとえば腺房癌、小葉癌、腺嚢癌腫、腺様嚢胞癌、腺癌(carcinoma adenomatosum)、副腎皮質癌、肺胞癌、肺胞上皮癌、基底細胞癌(basal cell carcinoma)、基底細胞癌(carcinoma basocellulare)、類基底細胞癌、基底扁平細胞癌、細気管支肺胞上皮癌、細気管支癌、気管支原性癌、大脳様癌、胆管細胞癌、絨毛膜癌、膠様癌(colloid carcinoma)、面皰癌、子宮体癌、篩状癌、鎧状癌、皮膚癌(carcinoma cutaneum)、円柱癌、円柱細胞癌、管癌、硬癌、胎児性癌、脳様癌(encephaloid carcinoma)、エピエノイド癌腫(epiennoid carcinoma)、腺様上皮癌(carcinoma epitheliale adenoides)、外方発育癌、潰瘍癌、線維性癌、膠様癌(gelatiniform carcinoma)、膠様癌(gelatinous carcinoma)、巨細胞癌(giant cell carcinoma)、巨細胞癌(carcinoma gigantocellulare)、腺癌(glandular carcinoma)、顆粒細胞癌、毛母組織癌、血様癌、肝細胞癌、ヒュルトレ細胞癌、硝子状癌、ハイペメフロイド癌腫(hypemephroid carcinoma)、幼児型胎児性癌、上皮内癌(carcinoma in situ)、表皮内癌、上皮内癌(intraepithelial carcinoma)、クロムペッヘル癌、クルチツキー細胞癌、大細胞癌、レンズ状癌(lenticular carcinoma)、レンズ状癌(carcinoma lenticulare)、脂肪腫様癌、リンパ上皮癌、髄様癌、(carcinoma medullare)、髄様癌(medullary carcinoma)、黒色癌、軟性癌(carcinoma molle)、粘液癌(mucinous carcinoma)、粘液分泌性癌、粘液細胞性癌、粘表皮癌、粘液癌(carcinoma mucosum)、粘液性癌、粘液腫様癌、鼻咽頭癌、燕麦細胞癌、骨化性癌、類骨癌、乳頭状癌、門脈周囲癌、前浸潤癌、有棘細胞癌、軟性癌(pultaceous carcinoma),腎細胞癌、予備細胞癌、肉腫癌、総排泄腔癌、硬性癌、陰嚢癌、印環細胞癌、単純癌、小細胞癌、バレイショ状癌、回転楕円面細胞癌腫、紡錘細胞癌、海綿様癌、扁平上皮細胞癌(squamous carcinoma)、扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)、ストリング癌腫、血管拡張性癌腫、毛細血管拡張性癌腫、移行上皮癌、結節癌(carcinoma tuberosum)、結節癌(tuberous carcinoma)、いぼ状癌、および絨毛癌などを含む。
【0028】
用語「肉腫」は、胚性結合組織様の物質から形成される腫瘍を指し、一般的に原線維物質または均一な物質に包埋された密接に圧縮された細胞から構成される。典型的な肉腫は、たとえば軟骨肉腫、線維肉腫、リンパ肉腫、黒色肉腫、粘液肉腫、骨肉腫、アベメシー(Abemethy’s)肉腫、脂肪肉腫(adipose sarcoma)、脂肪肉腫(liposarcoma)、胞巣状軟部肉腫、エナメル上皮歯牙肉腫、ブドウ状肉腫、緑色腫肉腫、絨毛膜癌(chorio sarcoma)、胎児性肉腫、ウィルンス(Wilns’)腫瘍肉腫、子宮内膜肉腫、間質性肉腫、ユーイング肉腫、筋膜肉腫、線維芽細胞性肉腫、巨細胞肉腫、顆粒球性肉腫、ホジキン肉腫、特発性多発性色素性出血性肉腫、B細胞性免疫芽球性肉腫、リンパ腫(非ホジキンリンパ腫など)、T細胞免疫芽球性肉腫、イエンセン肉腫、カポジ肉腫、クッパー星細胞肉腫、血管肉腫、白血肉腫、悪性間葉腫肉腫、傍骨肉腫、細網肉腫、ラウス肉腫、漿液嚢胞性肉腫、滑膜肉腫、および毛細血管拡張性肉腫などを含む。
【0029】
用語「黒色腫」は、皮膚および他の器官のメラニン細胞系から発生する腫瘍を指す。黒色腫は、たとえば末端黒子型黒色腫、無色素性黒色腫、良性若年性黒色腫、クラウドマン黒色腫、S91黒色腫、ハーディング-パッセー黒色腫、若年性黒色腫、悪性黒子型黒色腫、悪性黒色腫、結節型黒色腫舌下黒色腫、および表在性拡大型黒色腫などを含む。
【0030】
追加的な癌は、たとえばホジキン病、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、横紋筋肉腫、原発性血小板血症、原発性マクログロブリン血症、小細胞肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃癌、結腸癌、悪性膵インスラノーマ(insulanoma)、悪性カルチノイド、前癌性皮膚病変、精巣癌、甲状腺癌、神経芽細胞腫、食道癌、尿生殖路癌、悪性高カルシウム血症、子宮頸癌、子宮内膜癌、および副腎皮質癌などを含む。
【0031】
本願で用いる用語「自己免疫疾患」は、個体の免疫系(活性化T細胞など)がその個体自身の組織および細胞を攻撃する状態を指す。本願で用いる用語「同種免疫応答」は、個体の免疫系が移植された組織または細胞を(移植片として)攻撃する状態を指す。
【0032】
本開示の方法による治療の対象となる典型的な自己免疫性疾患は関節炎、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、ベーチェット病、クローン病、皮膚筋炎、糖尿病(1型)、糸球体腎炎、グレーヴス病、ギラン-バレー症候群、炎症性腸疾患(IBD)、ループス腎炎、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋炎、天疱瘡/類天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発筋炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、関節リウマチ、リウマチ熱、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、甲状腺炎(橋本甲状腺炎およびオード甲状腺炎など)、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、白斑、ヴェグナー肉芽腫症を含む。本開示の方法による治療の対象となる代表的な同種免疫応答は、移植片対宿主病(GVHD)および移植片拒絶を含む。
【0033】
本願で用いる「治療」は、増殖性疾患、自己免疫疾患または同種免疫応答の任意の改善を意味する。
【0034】
用語「治療する」および「治療」は、細胞増殖性疾患、自己免疫疾患、または同種免疫応答に随伴する1つ以上の症状の寛解;細胞増殖性疾患、自己免疫疾患、または同種免疫応答の1つ以上の症状の発現の予防または遅延;および/または細胞増殖性疾患、自己免疫疾患、または同種免疫応答の1つまたはそれ以上の症状の重症度または頻度の低減を指す。
【0035】
本文脈で用いる用語「改善」、「上昇」または「減少」は、本願に記載の治療を開始する前の同じ個体における測定値、または本願に記載の治療の不在下での対照個体(または複数の対照個体)における測定値などのベースライン測定値と比較した、数値またはパラメータを指す。
【0036】
「対照個体」は、治療を受けている個体と同じ疾患または障害に罹患した個体であり、治療を受けている個体とほぼ同じ年齢である(治療される個体と対照個体の病期が比較可能であることを担保するため)。治療される個体(「患者」または「対象」とも呼ばれる)は哺乳類対象、好ましくは胎児、乳児、小児、青年、または成人などのヒト対象でありうる。
【0037】
(マイクロエマルションエキノマイシン薬剤送達系)
本願は、HIF-1αまたはHIF-2αが上昇する増殖性疾患、自己免疫疾患、および同種免疫応答の治療を目的とした、マイクロエマルションエキノマイシン薬剤送達系を提供する。エマルションは、通常は不混和性(非混合性または非配合性)である2つ以上の液状物の混合物である。マイクロエマルションエキノマイシン薬剤送達系は、リポソーム、ミセルまたはリポソームとミセルの混合物を含みうる。リポソームは、脂質二重層の形態にある疎水性膜で囲まれた水性溶液コアを有する球状ベシクルである。リポソームはリン脂質、特にホスファチジルコリンで構成されることが最も多いが、脂質二重層構造に適合する限りにおいて他の脂質も含みうる。典型的なミセルは、両親媒性分子の親水性の「頭部」領域が周囲の溶媒と接し、疎水性の単一尾部領域をミセルの中心部に隔離する両親媒性分子の単層によって形成される球状のベシクルである。
【0038】
本願は、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを封入するリポソーム組成物、およびHIF-1αまたはHIF-2αが上昇する増殖性疾患、自己免疫疾患、および同種免疫応答の治療を目的としてそのような組成物を使用する方法を提供する。エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログ製剤は、好ましくはマイクロエマルション薬剤送達系を用いて患者に投与される。別段指摘されない限り、語句「エキノマイシン製剤」は、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを含有するマイクロエマルション製剤を含むと解釈すべきである。
【0039】
好ましい実施形態においては、使用されるマイクロエマルション薬剤送達系はリポソーム薬剤送達系である。他の実施形態においては、使用するマイクロエマルション薬剤送達系は、マイクロ粒子(またはマイクロスフェア)、ナノ粒子(またはナノスフェア)、ナノカプセル、ブロックコポリマーミセル、または他のポリマー薬剤送達系から構成される。さらなる実施形態においては、使用する薬剤送達系は、ハイドロゲル、フィルムまたは他の種類のポリマー薬剤送達系などのポリマーベース非マイクロエマルション薬剤送達系である。またさらなる実施形態においては、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログは脂質ベース溶媒に溶解して非経口投与される。
【0040】
本発明の方法は、全ての哺乳類対象、具体的にはヒト患者における増殖性疾患、自己免疫疾患および同種免疫応答にとって有用である。本願で用いる「患者」はヒト患者である。
【0041】
エキノマイシン(NSC526417)はキノキサリンファミリーの1つであり、はじめはStreptomyces echinatusから分離された。エキノマイシンは、HIF-1αのDNA結合活性を阻害する小分子である。エキノマイシンはエタノール、アルカリ、ケトン、酢酸およびクロロホルムに可溶性である。水に不溶性である。したがって、エキノマイシンは親油性であり、また一般に、たとえば本発明のマイクロエマルション薬剤送達系において用いられる脂質の多くなどの脂質と容易に会合する。一定の実施形態においては、エキノマイシンは金属キレートとして製剤化することもできる。
【0042】
エキノマイシンアナログは、そのエキノマイシンとの構造的および機能的類似性により、エキノマイシンのそれと同様にHIF-1αまたはHIF-2α活性の低下に対して影響を示す化合物を含む。典型的なエキノマイシンアナログはYK2000およびYK2005(Kim,J.B.et al.,Int.J.Antimicrob.Agents,2004 Dec;24(6):613-615);キノマイシンG(Zhen X.et al.,Mar.Drugs,2015 Nov.18;13(11):6947-61);2QN(Bailly,C.et al.,Anticancer Drug.Des.,1999 June;14(3):291-303);およびキナゾマイシン(Khan,A.W.et al.,Indian J.Biochem.,1969 Dec;6(4):220-1)を含む。
【0043】
リポソームを含むマイクロエマルション薬剤送達系を用いて、細胞、増殖性疾患または自己免疫疾患を有する患者、またはGVHDなどにおける同種免疫応答を示す患者にエキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを送達することができる。エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログは、インビトロまたはインビボで薬剤を標的細胞に送達することの可能な、任意の適切なマイクロエマルション薬剤送達担体に封入する(または組み入れる)ことができる。
【0044】
本願で用いるところのマイクロエマルション薬剤送達担体は、医薬として許容される液状媒体に懸濁されることが可能な粒子を含むものであって、粒子の粒径範囲が直径数ナノメートルから数マイクロメートルの範囲であるものである。本願で意図されるマイクロエマルション薬剤送達系は、インビボで投与するときそのマイクロエマルション的性質を相当保持するものを含む。マイクロエマルション薬剤送達系は脂質ベースおよびポリマーベース粒子を含むが、これに限定されない。マイクロエマルション薬剤送達系の例はリポソーム、ナノ粒子(またはナノスフェア)、ナノカプセル、マイクロ粒子(またはマイクロスフェア)、およびブロックコポリマーミセルを含む。
【0045】
リポソームは細胞膜と多くの類似点を有し、かつエキノマイシンおよびエキノマイシンアナログの担体として本発明と関連付けた使用を意図している。それらは水溶性および脂溶性物質のいずれも封入することが可能である、すなわちそれぞれ水性空隙内および二重層それ自体の中に封入できるため、幅広い適合性を有する。当該リポソームのリポソーム製剤は、当業者が修飾して、その疎水性に基づきエキノマイシンまたはその任意のアナログの可溶性を最大化することができる。
【0046】
エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログの送達に適したリポソームは、主としてベシクル形成性脂質から構成されるものを含む。本発明における使用に適したベシクル形成性脂質は、リン脂質によって代表されるような、水中で自然に二重層ベシクルを形成することのできる脂質を含む。
【0047】
リポソームに適した脂質の選択は:(1)リポソームの安定性、(2)相転移温度、(3)電荷、(4)哺乳類系に対する無毒性、(5)封入効率、(6)脂質混合物特性の因子に支配される。この開示の利益を有する当業者が、これらの因子を最適化するであろう本発明にしたがって、リポソームを製剤化することが可能となることが予想される。この種のベシクル形成性脂質は、好ましくは2つの炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖、および極性または非極性の頭部を有するものである。炭化水素鎖は飽和鎖であっても、または多様な程度の不飽和度を有してもよい。リン脂質、ホスホグリセリド、セレブロシドおよびガングリオシドなどの糖脂質、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール類、およびケージ化リン脂質を含む、多様な合成ベシクル形成性脂質および天然ベシクル形成性脂質が存在する。
【0048】
リポソームは、1つ以上の同心性脂質単分子膜または脂質二重層から構成されるリポソームシェルを含む。したがって、脂質シェルは単一の脂質二重層(すなわちシェルが単層でありうる)または数層の同心性脂質二重層(すなわちシェルが多層でありうる)から形成することができる。脂質は、リン脂質、トコフェロール、ステロイド、脂肪酸、アルブミンなどの糖タンパク質、陰イオン性脂質および陽イオン性脂質を含む、合成、半合成、または天然脂質とすることができる。脂質は陰イオン性、陽イオン性または両性イオン性親水性頭部を有してもよく、且つ生理学的pHで陰イオン性、陽イオン性脂質または中性となりうる。
【0049】
リポソーム製剤は、脂質の混合物を含みうる。混合物は、(a)中性と/または両性イオン性脂質の混合物;(b)陰イオン性脂質の混合物;(c)陽イオン性脂質の混合物;(d)陰イオン性脂質と陽イオン性脂質の混合物;(e)中性または両性イオン性脂質と少なくとも1つの陰イオン性脂質の混合物;(f)中性または両性イオン性脂質と少なくとも1つの陽イオン性脂質の混合物;または(g)中性または両性イオン性脂質、陰イオン性脂質、および陽イオン性脂質の混合物を含みうる。さらに、混合物は飽和脂質、不飽和脂質、またはその組み合わせを含みうる不飽和脂質が2つの尾部を有する場合、双方の尾部が不飽和であるか、または一方が飽和尾部でありもう一方が不飽和尾部であることも可能である。一部の実施形態においては、脂質の混合物は不飽和脂質を全く含まない。
【0050】
1つの実施形態においては、脂質製剤は陰イオン性脂質をほとんど含まないか、陽イオン性脂質をほとんど含まないか、またはその双方である。他の実施形態においては、脂質製剤は陰イオン性脂質を含まないか、陽イオン性脂質を含まないか、またはその双方である。1つの実施形態においては、脂質製剤は中性脂質のみを含む。典型的には、中性脂質成分は2つのアシル基を有する脂質(すなわちジアシルホスファチジルコリンおよびジアシルホスファチジルエタノールアミン)である。多様な鎖長および飽和度を有する多様なアシル鎖基を有する脂質は、市販されているか、または周知の技術によって分離または合成されうる。
【0051】
典型的な中性または両性イオン性リン脂質は、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、卵黄ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵黄ホスファチジルイノシトール(EPI)、卵黄ホスファチジルセリン(EPS)、ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、卵黄ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵黄ホスファチジルイノシトール(EPI)、卵黄ホスファチジルセリン(EPS)、ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、ホスファチジン酸(EPA)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、大豆ホスファチジルグリセロール(SPG)、大豆ホスファチジルセリン(SPS)、大豆ホスファチジルイノシトール(SPI)、大豆ホスファチジルエタノールアミン(SPE)、大豆ホスファチジン酸(SPA)、水素化卵黄ホスファチジルコリン(HEPC)、水素化卵黄ホスファチジルグリセロール(HEPG)、水素化卵黄ホスファチジルイノシトール(HEPI)、水素化卵黄ホスファチジルセリン(HEPS)、水素化ホスファチジルエタノールアミン(HEPE)、水素化ホスファチジン酸(HEPA)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、水素化大豆ホスファチジルグリセロール(HSPG)、水素化大豆ホスファチジルセリン(HSPS)、水素化大豆ホスファチジルイノシトール(HSPI)、水素化大豆ホスファチジルエタノールアミン(HSPE)、水素化大豆ホスファチジン酸(HSPA)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン(PMPC)、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、1,2-ジアラキドイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DBPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン(SPPC)、1,2-ジエイコサノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジラウリロイルホスファチジルコリン(DLPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、リソホスファチジルコリン(LPC)、ジリノレオイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、およびパルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、コレステロールおよびエルゴステロールなどのステロール;コレステロールエステル、セラミド、セレブロシド類、ジアシルグリセロール、スフィンゴシン、脳スフィンゴミエリン、卵黄スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリンおよびジステアロイルスフィンゴミエリンジヒドロスフィンゴミエリンなどのスフィンゴミエリン類;およびモノ-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(MOPE)などの1アシル化リン脂質を含むが、これに限定されない。
【0052】
両性イオン性脂質はアシル両性イオン性脂質およびエーテル両性イオン性脂質を含むが、これに限定されない。有用な両性イオン性脂質の例は1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPyPE)およびドデシルホスホコリンである。
【0053】
典型的な陰イオン性脂質はジヘキサデシルリン酸(DhP)、ホスファチジルイノシトール類、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンなどのジアシルホスファチジルセリンを含むホスファチジルセリン類;ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジラウリロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)およびリシルホスファチジルグリセロール(LPG)などのホスファチジルグリセロール類;N-ドデカノイルホスファチジルエタノールアミン、N-サクシニルホスファチジルエタノールアミン、N-グルタリルホスファチジルエタノールアミンなどのホスファチジルエタノールアミン類;ジホスファチジルグリセロールおよびジミリストイルホスファチン酸およびジパルミトイルホスファチン酸(phosphatic acid)などのジアシルホスファチジン酸類を含むホスファチジン酸類;カルディオリピン、およびヘミ酒石酸コレステロール(CHEMS)を含む。
【0054】
陽イオン性脂質は、典型的にはステロール、アシルまたはジアシル鎖などの親油性部分を有し、かつ脂質は全体的に正味の陽性電荷を有する。好ましくは、脂質の頭部は正に帯電している。典型的な陽イオン性脂質は、TAP脂質とも呼ばれるN-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩を、たとえばメチル硫酸塩として含む。適切なTAP脂質はDOTAP(ジオレオイル-)、DMTAP(ジミリストイル-)、DPTAP(ジパルミトイル-)、およびDSTAP(ジステアロイル-)を含むが、これに限定されない。他の適切な陽イオン性脂質は臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジアシルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン、N-[1-(2,3-ジオロイルオキシ)プロピル]-N,N-ジメチルアミン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、塩化N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-[N-(N’,N’-ジメチルアミノ-エタン)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol);2,3-ジオレイルオキシ-N-(2-(スペルミンカルボキサミド)-エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ-アセテート(DOSPA)、β-アラニルコレステロール、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ジC14-アミジン、N-tert-ブチル-N’-テトラデシル-3-テトラデシルアミノプロピオンアミジン、塩化N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジドデシル-D-グルタミン酸(TMAG)、塩化ジテトラデカノイル-N-(トリメチルアンモニオ-アセチル)ジエタノールアミン、1,3-ジオレオイルオキシ-2-(6-カルボキシ-スペルミル)-プロピルアミド(DOSPER)、およびヨウ化N,N,N’,N’-テトラメチル-,N’-ビス(2-ヒドロキシルエチル)-2,3-ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウム、塩化1-[2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル]-2-(8(Z)-ヘプタデセニル-3-(2-ヒドロキシエチル)-イミダゾリニウム(DOTIM)および塩化1-[2-(ヘキサデカノイルオキシ)エチル]-2-ペンタデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DPTIM)などの塩化1-[2-(アシルオキシ)エチル]2-アルキル(アルケニル)-3-(2-ヒドロキシエチル)-イミダゾリニウム誘導体、およびたとえば臭化1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORI)、臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORIE)、1,2-臭化ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシプロピルアンモニウム(DORIC-HP)、臭化1,2-ジオレイル-オキシ-プロピル-3-ジメチル-ヒドロキシブチルアンモニウム(DORIE-HB)、臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシペンチルアンモニウム(DORIE Hpe)、臭化1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、臭化1,2-ジパルミチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DPRIE)、臭化1,2-ジステリルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、1,2-ジオレイルオキシ-N,Nジメチル-3-アミノプロパン(DODMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLenDMA)などの4級アミン上にヒドロキシアルキル部分を含む2,3-ジアルキルオキシプロピル4級アンモニウム誘導体を含む。
【0055】
典型的には、本願に記載のリポソーム製剤は、PEG化されたリポソーム内に少なくとも1つの脂質を含み、すなわち脂質はポリエチレングリコール部分を含む。PEG化脂質を含むリポソームは、PEGが少なくともリポソームの外部に存在するようPEGが配向される(しかし一部のPEGはリポソームの内部、すなわち水性コアに露出しうる)。この配向はPEGを脂質の適切な部分に結合させることにより達成することができる。たとえば両親媒性脂質においては、脂質二重層の水相に面する外部に配向するのは親水性頭部であるので、PEGはこの頭部に結合されるであろう。このようなPEG化は、技術上既知の技術を用いてPEGと脂質の共有結合によって達成することができる。
【0056】
典型的なPEG化脂質はDSPE PEG(分子量1000)、DSPE PEG(分子量2000)およびDSPE PEG(分子量5000)を含むジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG);DMPE PEG(分子量1000)、DMPE PEG(分子量2000)およびDMPE PEG(分子量5000)を含むジミリストイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DMPE-PEG);DPGS-PEG(分子量1000)、DPGS(分子量2000)およびDPGS(分子量5000)を含むジパルミトイルグリセロサクシネートポリエチレングリコール(DPGS-PEG);ステアリル-ポリエチレングリコール、コレステリル-ポリエチレングリコールおよびN-オクタノイル-スフィンゴシン-1-{サクシニル[メトキシ(ポリエチレングリコール)分子量]}、分子量が750、2000または5000である指定されたC8 PEG(分子量)セラミド、またはN-パルミトイル-スフィンゴシン-1-{サクシニル[メトキシ(ポリエチレングリコール)分子量]}または分子量が750、2000または5000である指定されたC16 PEG(分子量)セラミドなどのセラミドベースのPEG化脂質を含むが、これに限定されない。追加的なPEG化脂質はアバンティポーラリピッド社(アラバマ州アラバスター)から入手することができる。
【0057】
本発明のリポソームは、典型的には同一であることも、あるいは相異なることもある多数のPEG部分を含む。本発明の1つのリポソーム中のPEGの平均分子質量は、350Da超であるが5kDa未満、たとえば0.35~5kDaの間、1~3kDaの間、1~2~6kDaの間、2~3kDaの間、または4~5kDaの間、または好ましくは2kDa(PEG2000)である。通常、PEGは直鎖ポリマー鎖を含むが、一部の実施形態においてPEGは分岐ポリマー鎖を含みうる。
【0058】
一部の実施形態においては、PEGは、たとえばポリマー中の1つ以上の炭素原子が1つ以上のアルキル、アルコキシ、アシルまたはアリール基によって置換される置換PEGでありうる。他の実施形態においては、PEGは、たとえば1つ以上のプロピレン単量体などの、PEGポリプロピレンポリマーを形成するコポリマー基を含みうる。
【0059】
一定の実施形態においては、リポソームは1つ以上のPEG化リン脂質と1つ以上の追加的中性脂質の混合物から形成される。PEG化脂質のモル百分率は0.1~20%の間でありうる。一部の実施形態においては、PEG化脂質のモル百分率は組成物中の総脂質の1~9%の間、2~8%の間、また好ましくは5~6%の間である。
【0060】
本願で用いる脂質A、BおよびCを含有する混合物中の脂質Aの「モル百分率」は:
[(Aのモル量)/(Aのモル量+Bのモル量+Cのモル量)] ×100%、
と定義される。
【0061】
他の実施形態においては、リポソームはPEG化リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、またはホスファチジルイノシトールなどの中性ホスホグリセリド;およびコレステロールまたはエルゴステロールなどの中性ステロールを含む脂質混合物から形成される。この実施形態においては、PEG化リン脂質のモル百分率は総脂質の1から10%または3から6%の範囲にあってもよく;(総脂質に対する)中性ホスホグリセリドの量は20~60%または30~50%または33~43%の範囲にあってもよく;かつ中性ステロールのモル比は35~75%または45~65%または50~60%の範囲にあってもよい。
【0062】
具体的な実施形態においては、リポソームはDSPE-PEG(2000)、HSPCおよびコレステロールの混合物から形成される。この実施形態においては、DSPE-PEG(2000)のモル百分率は約5.3%、HSPCのモル百分率は約56.3%、およびコレステロールのモル百分率は約38.4%である。
【0063】
PEG化の代替法として、PEGとは異なる部分との共有結合によって脂質を修飾することもある。たとえば一部の実施形態においては、脂質はポリホスファゼンを含みうる。一部の実施形態においては、脂質はポリ(ビニルピロリドン)を含みうる。一部の実施形態においては、脂質はポリ(アクリルアミド)を含みうる。一部の実施形態においては、脂質はポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)を含みうる。一部の実施形態においては、脂質はポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)を含みうる。一部の実施形態においては、脂質はホスファチジルポリグリセロールを含みうる。一部の実施形態においては、脂質はポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド]を含みうる。一部の実施形態においては、脂質はPEG以外のポリアルキレンエーテルポリマーを含みうる。
【0064】
静脈内注射したリポソームの運命および動態は粒径、流動性および表面電荷といったその物理的性質に依存する。その組成、および数分から数時間の範囲の血中半減期に応じて組織内に数時間または数日残存する。通常、リポソームは:多層ベシクル(MLV);小型単層ベシクル(SUV);および大型単層ベシクル(LUV)の3群に分類される。MLVは、各ベシクル内に数個の独立した水性コンパートメントを形成する多数の二重膜を有する。SUVとLVUは、1つの水性コアを封入する単一の二重層を有する。MLVは、典型的には0.5から4μmの直径を有する。MLVを超音波処理すると、コアに水性溶液を含む、50~500nmの範囲の直径を有する大型単層ベシクル、または50nm未満、典型的には200から500Åの直径を有する小型単層ベシクル(SUV)が形成される。
【0065】
MLVおよびLUVなどのより大型のリポソームは、速やかに細網内皮系の食細胞に取り込まれることができるが、大半の部位において循環系の生理学がそのような大型種の出口の障害となる。それらは、肝臓または脾臓の類洞など、毛細血管内皮に大きな開口部または小孔が存在する場所にのみ出ることができる。したがって、これらの臓器は支配的な取り込み部位である。その一方、SUVはより幅広い組織分布を示すが、それでもなお大半が肝臓および脾臓に隔離される。一般に、このインビボ挙動によって、リポソームの潜在的標的はその大きなサイズにアクセス可能な臓器および組織のみに限定される。これらは血液、肝臓、脾臓、骨髄およびリンパ系臓器を含む。
【0066】
本願のリポソームは、好ましくは60~80nm、80~160nm、または90~120nmの範囲の直径を有するSUVである。本願のリポソームは、複数のリポソーム中のリポソームが一定範囲の直径を有することができる、複数のリポソームを含むリポソーム製剤の一部であることができる。一部の実施製剤においては、リポソーム製剤は、リポソームの少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%が、60~180nm、80~160nm、90~120nmの範囲内にある平均直径を有するリポソームを含む。また、複数内での直径は多分散係数<0.2、<0.1または<0.05を有しうる。一部の実施形態においては、リポソームの平均直径はマルバーンゼータサイザー法を用いて測定する。
【0067】
リポソームの循環時間を延長するための1つの方法は、親水性ポリマー鎖またはポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキルエーテルで誘導体化したリポソームを用いることによる(たとえば米国特許第5,013,556号、第5,213,804号、第5,225,212号および第5,395,619号明細書を参照)。ポリマーコーティングは、マクロファージによるリポソームの取り込み率を低下させ、またこれにより血流中のリポソームの存在を長引かせる。またこれは、リポソームが担持する薬剤の放出延長メカニズムとして用いることもできる。したがって、本願によるリポソームエキノマイシン製剤は、好ましくは1つ以上のPEG化脂質を含む。
【0068】
当業者は、指定された流動度または堅牢度を達成するベシクル形成性脂質を選択することができる。リポソームの流動性または堅牢性は、血清中のリポソームの安定性、またはリポソームに捕捉された物質の放出速度といった因子を制御するために用いることができる。より堅牢な脂質二重層または液晶二重層を有するリポソームは、比較的堅牢な脂質の取り込みによって得られる。脂質二重層の堅牢性は、二重層中に存在する脂質の相転移温度と相関する。相転移温度とは、脂質が物理的状態を変化させかつ整然としたゲル相から乱雑な液晶相に移行する温度である。炭化水素鎖の長さおよび不飽和度、電荷および脂質の頭部の種類を含むいくつかの因子が、脂質の相転移温度に影響する。比較的高い相転移温度を有する脂質は、より堅牢な二重層をもたらす。コレステロールといった他の脂質成分も、脂質二重層構造の膜堅牢性に寄与することが知られている。コレステロールを用いて、脂質二重層の流動性、弾性および浸透性を操作しうる。脂質二重層の間隙を満たすことによって機能すると考えられる。対照的に、脂質の流動性は比較的流動性の脂質、典型的にはより低い相転移温度を有する脂質の取り込みによって得られる。アバンティポーラリピッドのカタログおよびMartin Caffrey、CRC PressのLipidatなどの多様な情報源より、多くの脂質の相転移温度が作表される。
【0069】
リン脂質は、水に分散されるとき、水に対する脂質のモル比に応じてリポソーム以外の多様な構造を形成することができる。リポソームは、低い比率では好適な構造である。リポソームの物理的特性はpH、イオン強度および二価陽イオンの存在に依存する。リポソームはイオン性物質および極性物質に対して低い浸透性を示すが、高い温度では相転移を受けることによりその浸透性が著しく変化する。相転移は、ゲル状態として知られる密に充填され、整然とした構造から、流動状態として知られる粗に充填されて規則性の低い構造への変化を包含する。これは、特徴的な相転移温度で発生し、イオン、糖、および薬剤の浸透性を高める。
【0070】
本願のリポソームは、選択された粒径範囲内でほぼ均一な粒径を有するよう調製しうる。REVおよびMLVの有効なサイズ決定法の1つは、0.03から0.2ミクロンの範囲内、典型的には0.05、0.08、0.1または0.2ミクロンの選択された均一な孔径を有する一連のポリカーボネート膜からの、リポソーム水性懸濁液の押出しを包含する。膜の孔径は、特に製剤を同じ膜から2回以上押し出す場合、その膜から押し出して生成す
るリポソームの最大粒径にほぼ相当する。ホモジナイゼーション法は、リポソームの粒径を100nm以下に縮小する場合にも有用である(Martin,F.J.,in Specialized Drug Delivery Systems-Manufacturing and Production Technology,(P.Tyle,Ed.)Marcel Dekker,New York,pp.267-316(1990))。ホモジナイゼーションは、大型のリポソームをより小型のリポソームに断片化する剪断エネルギーに依存する。リポソームの粒径を縮小するその他の適切な方法は、デオキシコール酸塩などの適切な可溶化界面活性剤の存在下で、リポソームを激しく振盪してリポソームの粒径を縮小することを含む。
【0071】
粒径範囲約0.2~0.4ミクロンとされているリポソームは、典型的には0.22ミクロンフィルターである通常の滅菌フィルターで、リポソームを高スループットで濾過することにより滅菌しうる。他の適切な滅菌法は、当業者にとって明白である。
【0072】
脂質の無毒性も本願における重要な留意事項である。臨床用途における使用に対して承認された脂質は、当業者に周知である。一定の実施形態においては、たとえば合成脂質は、採取源生物からのウイルスまたはタンパク質汚染のリスクが低いため、生物学的採取源に由来する脂質よりも好ましいことがある。
【0073】
当初のリポソーム形成法は、始めにリン脂質を有機溶媒に懸濁し、その後乾燥脂質ケークまたはフィルムが形成されるまで蒸発乾固させることを包含した。適切な量の水性媒体を添加すると、脂質は自然に多層同心性二重層ベシクル(多層ベシクル(MLV)とも呼ばれる)を形成する。これらのMLVは、その後機械的な手段により分散して粒径を小さくすることができる。
【0074】
エキノマイシンは水に不溶性であるものの、本願の発明者らは、エタノールなどの極性溶媒中でエキノマイシンと脂質を合わせ、これらの成分を乾燥してフィルムを形成し、その後リポソームを水性媒体内で分散することにより安定したリポソームを形成することができることを確認している。したがって1つの実施形態においては、エキノマイシンと脂質を有機溶媒中で完全に混合した後、たとえばロータリーエバポレーターなどを用いて溶媒を除去し、これにより乾燥脂質フィルムを得る。乾燥脂質フィルムは適切なバッファー(例:PBS、pH7.4)中で水和および可溶化し、これにより脂質懸濁液を得る。次にアバンティミニエクストルーダ-を用いて、脂質懸濁液をポリカーボネートフィルターから繰り返し押出し、所望のリポソーム粒径範囲を達成する。次に、リポソームを濾過滅菌する(0.45または0.2μm滅菌フィルター)。水溶性エキノマイシンアナログは、水溶性エキノマイシンアナログを含有する水溶液で脂質フィルムを水和することにより、受動的に捕捉させることができる。
【0075】
エキノマイシンは、脂質二重層の内部、2つの脂質二重層の小葉間、内部コア空隙内、二重層の片面上、リポソームのPEG部分の内部またはその表面、またはその組み合わせに局在しうる。大型単層ベシクル(LUV)を作成するための代替的方法は、たとえば米国特許第4,235,871号明細書などに記載される、逆相蒸発工程である。この工程は、ほぼ単層であるが典型的に多少の少層ベシクルを含有する逆相蒸発ベシクル(REV)を生成する。この手順においては、有機溶媒中の極性脂質の混合物が適切な水性媒体と混合される。均一な油中水型エマルションが形成され、有機溶媒が蒸発してゲルを形成する。次に、ゲル状混合物を水性媒体に分散して懸濁液に変換する。
【0076】
代替的な実施形態においては、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログをリポソーム二重層の表面に結合させうる。1つの実施形態においては、エキノマイシンはアミド結合によりリポソームと共有結合する。たとえば、ヒドロキシル官能基を有するリン脂質は、エキノマイシンまたはそのアナログの1つに存在するアミン基の1つと結合することができる。
【0077】
本発明によるリポソーム製剤は十分な長期安定性を有し、室温または冷蔵温度(4℃など)で少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも24ヶ月、または少なくとも48ヶ月の有効期限を達成する。
【0078】
一部の代替的実施形態においては、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログは、脂質ベースではなくポリマー性の保護壁材料に封入しうる。生物活性物質の封入に用いられるポリマーは、典型的には単一のコポリマーまたはホモポリマーである。ポリマー薬剤送達系は、マイクロエマルション性であっても、または非マイクロエマルション性であってもよい。
【0079】
マイクロエマルションポリマー封入構造はマイクロ粒子、マイクロカプセル、マイクロスフェア、ナノ粒子、ナノカプセル、ナノスフェア、ブロックコポリマーミセルなどを含む。人工的に作られた合成ポリマー、およびタンパク質および多糖を含むバイオポリマーは、いずれも本発明において用いることができる。ポリマー薬剤送達系は、生体分解性または非生体分解性ポリマー材料、またはその任意の組み合わせから構成しうる。
【0080】
本願で用いる「マイクロエマルション」は、直径約10nmから500μmの規則的または半規則的な形状のマイクロスフェアを含むエマルションを指す。一部の実施形態においては、本願のマイクロエマルションは20~400nm、30~300nm、50~200nm、60~150nmまたは80~120nmの範囲内の直径を有するリポソームを含む。
【0081】
一部の実施形態においては、本願のマイクロエマルションは両親媒性分子の単層から構成されるシェルを有するミセルを含む。ミセルの内部コアは、非極性薬剤に対して疎水性微小環境を作成する一方、親水性シェルはミセルコアと水性媒体の間の安定化境界面を提供する。親水性シェルの特性を調節して、生体適合性を最大化すると共に細網内皮系の取り込みと腎臓濾過を回避することができる。ミセルの粒径は通常10nmと100nmの間である。
【0082】
フィルム、ハイドロゲル、および「デポー」型薬剤送達系を含む非マイクロエマルションポリマー薬剤送達系も、本発明によって意図される。そのような非マイクロエマルションポリマー系は、本発明において、特に非マイクロエマルション薬剤送達系が標的癌組織の近傍に配置される場合に、非経口注射と組み合わせて用いることもできる。本願で用いるところの「ハイドロゲル」は、時にゾルと呼ばれることもあり、逆に荷電する小型イオンまたはポリマーによって、または化学的架橋によってゲル状態に変換されるポリマーの溶液を意味する。「ポリマーフィルム」は、時にコーティングとして用いられる、一般に厚さ約0.5から5mmのポリマーベースのフィルムを指す。
【0083】
一定の実施形態においては、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを含むリポソーム、マイクロ粒子、ナノ粒子、マイクロカプセル、ブロックコポリマーミセルまたは他のポリマー薬剤送達媒体は、細胞特異的標的化リガンドでコーティング、コンジュゲート化、または修飾することができる。送達媒体を細胞標的化リガンドと結合することにより、エキノマイシンの送達を、細胞標的化リガンドまたは標的化リガンドと結合する標的細胞集団に方向付けることができる。本願で用いる「標的化リガンド」は、非標的化組織を上回る程度にリポソームを標的細胞型と会合させる任意のリガンドを含む。
【0084】
抗体または抗体フラグメントなどの標的化リガンドを用いてリポソーム表面に結合させ、抗体およびその薬剤内容物を、特定の細胞型表面に位置する特定の抗原受容体に誘導することができる(Mastrobattista et al.,1999などを参照)。炭水化物決定基(細胞-細胞認識、相互作用および接着において一定の役割を果たす糖タンパク質、レクチンおよび糖脂質細胞表面成分)は、リポソームを特定の細胞型に誘導する潜在的能力を有するため、これらも標的化リガンドとして用いることができる。一定のタンパク質を、通常は標的組織の自己表面受容体として認識されるものである標的化リガンドとして用いることができる。たとえば、特定の癌細胞において過剰発現する細胞表面受容体と結合するリガンドを用いて、標的組織によるリポソームの取り込みを上昇させることも可能である。エンドサイトーシスを受ける細胞表面受容体は、一定の実施形態において好ましい。PEG化リポソームと組み合わせる場合、標的化リガンドは水性媒体に露出する親水性ポリマーの末端と結合することが多い。またその代わりに、リポソームは膜融合タンパク質、たとえばリポソームと細胞膜の融合を誘導するウイルスに由来する膜融合タンパク質などを取り込むことができる。
【0085】
一定の実施形態においては、標的化リガンドは標的細胞によってエンドサイトーシスを受ける細胞表面受容体である。本願における使用に適した標的化リガンドは、リポソームと標的細胞の細胞表面の、非標的細胞を上回る結合または会合の増加を引き起こす任意のリガンドを含む。標的化リガンドは小型分子、ペプチド、リガンド、抗体フラグメント、アプタマーまたはシンボディとすることができる。シンボディとは、対象となる標的タンパク質との結合についてスクリーニングされた、無作為なペプチドの列からなるライブラリから生成された合成抗体であり、米国特許出願第2011/0143953号明細書に記載されている。アプタマーとは、多様な細胞表面分子、タンパク質、および/またはマクロ分子構造と高親和性結合を示す、特定の3次元構造を形成することのできるオリゴヌクレオチドのクラスを含む、抗体の核酸版である。典型的な細胞標的化リガンドは、たとえば以下にさらに記載するところの表皮樹状細胞などと結合する(かつこれを標的とする)小型分子(葉酸、アデノシン、プリンなど)および大型分子(ペプチドまたは抗体など)を含むが、これに限定されない。
【0086】
代表的な抗体または抗体由来フラグメントは:IgG、抗体可変領域;分離CDR領域;ペプチドリンカーによって連結されたVHおよびVLドメインを含みその2つのドメイン間の会合が抗原結合部位を形成することを可能とする単鎖Fv分子(scFv);二重特異性scFv二量体;CH3ドメインと結合したscFvを含む低分子抗体;二重特異性抗体(dAb)フラグメント;VHまたはVLドメインからなる単鎖dAbフラグメント;VL、FH、CLおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;抗体ヒンジ領域に由来する1つ以上のシステインを含む、H鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に少数の残基が付加されたことによりFabフラグメントと異なるFab’フラグメント;定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を担持するFab’フラグメントである、Fab’-SHフラグメント;連結された2つのFabフラグメントを含む2価フラグメントである、F(ab’);VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;その誘導体;および抗原結合機能を保持した任意の他の抗体フラグメントからなる群のうち任意の構成体を含みうる。Fv、scFv、または二重特異性抗体分子は、VHドメインとVLドメインを連結するジスルフィド架橋の組み入れによって安定化しうる。抗体由来フラグメントを用いる場合、その中の標的化ドメインのいずれかまたは全ておよび/またはFc領域を、当業者に周知である方法論を用いて「ヒト化」しうる。一部の実施形態においては、抗体を修飾してFc領域を除去しうる。
【0087】
(抗体-エキノマイシン薬剤コンジュゲート)
他の態様においては、エキノマイシンまたはそのアナログの1つを、細胞結合性物質または上記の抗癌抗体などの抗体とコンジュゲートすることができる。本願で用いる語句「抗体コンジュゲート」または「抗体薬剤コンジュゲート(ADC)」は、リンカーまたは二官能性架橋物質を介してエキノマイシンまたはそのアナログとコンジュゲート化された抗体を指す。エキノマイシン/エキノマイシンアナログ-抗体コンジュゲートの使用は、腫瘍関連抗原に対するモノクローナル抗体の高い特異性を、エキノマイシンまたはそれに由来するアナログの薬理学的効力と組み合わせる。ADCの例は、ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ;カリケアマイシンとコンジュゲート化した抗CD33 mAb;ファイザー/ワイス);ブレンツキシマブベドチン(SGN-35、アドセトリス、MMAE(モノメチルラウリスタチン)と共有結合したブレンツキシマブからなるCD30-標的化ADC、シアトルジェネティクス);およびトラスツズマブ-DM1コンジュゲート(T-DM1)を含む。
【0088】
米国特許第9,090,629号明細書に記載されるように、抗体-薬剤コンジュゲートの調製を目的として幅広い種類のリンカー技術が用いられている。本願の抗体-エキノマイシンコンジュゲートの調製において、そこに記載された方法および試薬のうち任意の1つを用いることができる。本願で用いる「二官能性架橋剤」は2つの反応性基を有する試薬を指し;その一方は細胞結合性物質または抗体と反応することが可能であり、もう一方はエキノマイシンと反応して細胞結合性物質または抗体とエキノマイシンを連結し、これによりコンジュゲートを生成することが可能である。
【0089】
リンカー試薬が、過度の毒性を伴わずに、たとえばHIF-1α阻害などの治療活性の維持および抗体の標的化特性をそれぞれ提供する限り、任意の適切な二官能性架橋試薬を本願と関連させて用いることができる。好ましくは、エキノマイシンと細胞結合性物質が互いに化学的に連結するよう(共有結合など)、リンカー分子は化学結合を介し、エキノマイシンおよび/またはエキノマイシンアナログを細胞結合性物質または抗体と(上記のように)連結する。本発明の薬剤-リンカー化合物を作成するために用いることのできる二官能性架橋剤は、サーモサイエンティフィックピアース架橋技術ハンドブックに記載されるものを含む。
【0090】
リンカーは「開裂性」リンカーであっても、または「非開裂性」リンカーであってもよい。開裂性リンカーは、たとえば標的細胞内に内部化されたときなどのように、一定の環境因子に付されるときに薬剤を放出するよう設計される。開裂性リンカーは酸不安定性リンカー、プロテアーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカーを含む。非開裂性リンカーは、標的細胞によって内部化され、その内部で分解されるとき、抗体のうち少なくとも1つのアミノ酸および薬剤との共有結合を維持する傾向がある。
【0091】
1つの実施形態においては、二官能性架橋試薬は非開裂性リンカーを含む。非開裂性リンカーは、エキノマイシンを細胞結合性物質または抗体と安定した共有結合によって連結することが可能な任意の化学的部分である。したがって非開裂性リンカーは、細胞毒性物質または細胞結合性物質が活性を維持する条件において、酸誘導性開裂、光誘導性開裂、ペプチダーゼ誘導性開裂、エステラーゼ誘導性開裂およびジスルフィド結合開裂に対して相当な抵抗性を有する。
【0092】
エキノマイシンと細胞結合性物質または抗体の間で非開裂性リンカーを形成する適切な架橋剤は、技術上周知である。1つの実施形態においては、エキノマイシンおよび/またはエキノマイシンアナログは、チオエーテル結合を介して細胞結合性物質または抗体と連結する。非開裂性リンカーの例は、細胞毒性物質と反応するためのマレイミド-またはハロアセチル-ベース部分を有するリンカーを含む。そのような二官能性架橋剤は技術上周知であり(米国特許出願第2010/0129314号明細書を参照)、かつピアースバイオテクノロジー社(イリノイ州ロックランド)から入手できるものは4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-サクシンイミジル(SMCC)、SMCCの「長鎖」アナログであるN-サクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロエート)(LC-SMCC)、κ-マレイミドウンデカン酸N-サクシンイミジルエステル(KMUA)、γ-マレイミド酪酸N-サクシンイミジルエステル(GMBS)、δ-マレイミドカプロン酸N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(EMCS)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシサクシンイミドエステル(MBS)、N-(α-マレイミドアセトキシ)-サクシンイミドエステル(AMAS)、サクシンイミジル-6-(β-マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、4-(p-マレイミドフェニル)-酪酸N-サクシンイミジル(SMPB)、およびN-(p-マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)を含むが、これに限定されない。ハロアセチルベース部分を含む架橋試薬はN-サクシンイミジル-4-(イソアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)、ヨード酢酸N-サクシンイミジル(SIA)、ブロモ酢酸N-サクシンイミジル(SBA)、および3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸N-サクシンイミジル(SBAP)、ビス-マレイミドポリエチレングリコール(BMPEO)、BM(PEO)2、BM(PEO)3、N-(β-マレイミドプロピルオキシ)サクシンイミドエステル(BMPS)、5-マレイミド吉草酸NHS、HBVS、塩酸4-(4-N-マレイミドフェニル)-酪酸ヒドラジド(MPBH)、サクシンイミジル-(4-ビニルスルホニル)ベンゾエート(SVSB)、ジチオビス-マレイミドエタン(DTME)、1,4-ビス-マレイミドブタン(BMB)、1,4-ビスマレイミジル-2,3-ジヒドロキシブタン(BMDB)、ビス-マレイミドヘキサン(BMH)、ビス-マレイミドエタン(BMOE)、4-(N-マレイミド-メチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸スルホサクシンイミジル(sulfo-SMCC)、(4-ヨード-アセチル)アミノ安息香酸スルホサクシンイミジル(sulfo-SIAB)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホサクシンイミドエステル(sulfo-MBS)、N-(δ-マレイミドブトリルオキシ)スルホサクシンイミドエステル(sulfo-GMBS)、N-(δ-マレイミドカプロイルオキシ)スルホサクシミドエステル(sulfo-EMCS)、N-(κ-マレイミドウンデカノイルオキシ)スルホサクシンイミドエステル(sulfo-KMUS)、4-(p-マレイミドフェニル)酪酸スルホサクシンイミジル(sulfo-SMPB)、CX1-1、sulfo-MalおよびPEGn-Malを含む。好ましくは、二官能性架橋剤はSMCCである。
【0093】
抗体の水性バッファー溶液は、N-サクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)などの、1モル過剰な抗体修飾剤と共にインキュベートしてマレイミド基を導入、あるいはN-サクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)とインキュベートしてヨードアセチル基を導入しうる。次に、チオールを含むエキノマイシン誘導体に修飾抗体を反応させて、チオエーテル結合抗体-エキノマイシンコンジュゲートを生成する。次に、抗体-細胞毒性コンジュゲートをゲル濾過または上記の他の方法または当業者に既知の方法で精製する。マレイミド基またはハロアセチル基を細胞結合性物質に導入するその他の架橋剤は技術上周知であり、上記のリンカーを含む。
【0094】
抗体コンジュゲートは、抗体1個あたり平均約1個、約2個、約3個、約4個、約5個、約6個、約7個、約8個、約9個、約10個、約11個、約12個、約13個、約14個、約15個、約16個、約17個、約18個、約19個、または約20個のエキノマイシン分子(および/またはアナログ)を含みうる。
【0095】
(併用療法)
一定の実施形態においては、本願のエキノマイシン製剤によるHIF-1αの阻害は、標準的な癌治療(たとえば手術、放射線、および化学療法など)と組み合わせうる。そのような手法は、HIFが放射線療法および化学療法に対する抵抗性を媒介することが知られているという事実に基づく(Semenza,Trends Pharmacol Sci.2012 Apr;33(4):207-214)。たとえば、イマチニブによる慢性骨髄性白血病の治療などの、新規標的化療法に対する耐性の発生にHIF-1活性が寄与しうることが、エビデンスで示されている。具体的には、HIF-1はトランスケトラーゼの発現を活性し、これによりペントースリン酸経路の非酸化アームからのグルコース流入を増加させることによる代謝リプログラミングを経て、イマチニブに対する耐性を媒介するとみられる。HIF-1を介した酸化的代謝から還元的代謝への切り替えは、細胞ROSレベルの減少効果を有し、これは細胞障害性化学療法への耐性を高める(Semenza, 2012)。
【0096】
一定の実施形態においては、エキノマイシンまたはそのアナログは、1つ以上の他の化学療法剤または抗癌剤との相乗的組み合わせで投与しうる。これらの場合には、投与する化学療法剤または抗癌剤の用量を減量することも可能となりうる。そのような組み合わせの例は、白血病の治療を目的としてイマチニブと組み合わせたエキノマイシン、または乳癌の治療を目的としてハーセプチンと組み合わせたエキノマイシンである。HIF-1α阻害と化学療法の併用は放射線療法、化学療法、および/またはアポトーシスに対する耐性、さらには血管新生、幹細胞維持、代謝リプログラミング、オートクリン成長因子シグナリング、上皮-間葉転移、浸潤および転移の好ましくない効果を解消することができるとされている。
【0097】
本願で用いるところの語句「抗癌剤」は、対象(たとえばヒトなど)において癌細胞の増殖速度を低下させるか、または癌細胞の死(たとえば壊死またはアポトーシスなど)を誘導または媒介することのできる「小分子薬剤」またはタンパク質または抗体を指す。語句「小分子薬剤」は、ポリマーでなく、薬剤活性を有し、かつ約2kDa未満、約1kDa未満、約900Da未満、約800Da未満、または約700Da未満の分子量を有する有機分子または有機金属分子であることの多い分子実体を指す。当該用語は、タンパク質または核酸以外の「薬剤」と称される医薬化合物の大半を包含するが、小型ペプチドまたは核酸アナログは小分子薬剤とみなすことができる。例は化学療法抗癌剤および酵素阻害剤を含む。小分子薬剤は合成的、半合成的(すなわち天然の前駆体に由来)または生物学的に誘導することができる。
【0098】
抗癌剤はアルキル化剤;アントラサイクリン系抗生物質;代謝拮抗剤;解毒剤;インターフェロン;ポリクローナルまたはモノクローナル抗体;EGFR阻害剤;HER2阻害剤;ヒストンデアセチラーゼ阻害剤;ホルモンまたは抗ホルモン剤;有糸分裂阻害剤;ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)阻害剤;Akt阻害剤;哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤;プロテアソーム阻害剤;ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤、Ras/MAPK経路阻害剤;セントロソームデクラスタリング剤;マルチキナーゼ阻害剤;セリン/スレオニンキナーゼ阻害剤;チロシンキナーゼ阻害剤;VEGF/VEGFR阻害剤;タキサンまたはタキサン誘導体;アロマターゼ阻害剤;アントラサイクリン;微小管標的化剤;トポイソメラーゼ毒剤;分子標的また酵素阻害剤(たとえばキナーゼまた他はタンパク質メチルトランスフェラーゼなど)、シチジンアナログ、またはその組み合わせでありうる。
【0099】
典型的なアルキル化剤はシクロホスファミド(Cytoxan、Neosar);クロラムブシル(Leukeran);メルファラン(Alkeran);カルムスチン(BiCNU);ブスルファン(Busulfex);ロムスチン(CeeNU);ダカルバジン(DTIC-Dome);オキサリプラチン(Eloxatin);カルムスチン(Gliadel);イホスファミド(Ifex);メクロレタミン(Mustargen);ブスルファン(Myleran);カルボプラチン(Paraplatin);シスプラチン(CDDP;Platinol);テモゾロミド(Temodar);チオテパ(Thioplex);ベンダムスチン(Treanda);またはストレプトゾシン(Zanosar)を含むが、これに限定されない。
【0100】
典型的なアントラサイクリン系抗生物質はドキソルビシン(アドリアマイシン)、リポソームドキソルビシン(ドキシル)、ミトキサントロン(Novantrone)、ブレオマイシン(Blenoxane)、ダウノルビシン(Cerubidine)、リポソームダウノルビシン(DaunoXome)、ダクチノマイシン(コスメゲン)、エピルビシン(Ellence)、イダルビシン(イダマイシン)、プリカマイシン(Mithracin)、マイトマイシン(Mutamycin)、ペントスタチン(Nipent)、またはバルルビシン(Valstar)を含むが、これに限定されない。
【0101】
典型的な代謝拮抗薬はフルオロウラシル(Adrucil);カペシタビン(ゼローダ);ヒドロキシ尿素(ハイドレア);メルカプトプリン(プリネトール);ペメトレキセド(アリムタ);フルダラビン(フルダラ);ネララビン(アラノン);クラドリビン(Cladribine Novaplus);クロファラビン(Clolar);シタラビン(Cytosar-U);デシタビン(Dacogen);リポソームシタラビン(デポサイト);ヒドロキシ尿素(Droxia);プララトレキサート(フォロチン)、フロクスウリジン(FUDR);ゲムシタビン(ジェムザール)、クラドリビン(ロイスタチン);フルダラビン(Oforta);メトトレキセート(MTX;リウマトレックス);メトトレキセート(Trexall);チオグアニン(Tabloid);TS-1またはシタラビン(Tarabine PFS)を含むが、これに限定されない。
【0102】
典型的な解毒剤はアミホスチン(Ethyol)またはメスナ(Mesnex)を含むが、これに限定されない。
【0103】
典型的なインターフェロンはインターフェロンα-2b(Intron A)またはインターフェロンα-2a(Roferon-A)を含むが、これに限定されない。
【0104】
典型的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体はトラスツズマブ(ハーセプチン);オファツムマブ(アーゼラ);ベバシズマブ(アバスチン);リツキシマブ(リツキサン);セツキシマブ(アービタックス);パニツムマブ(ベクティビックス);トシツモマブ/ヨード131トシツモマブ(ベキサール);アレムツズマブ(キャンパス);イブリツモマブ(ゼヴァリン;In-111;Y-90ゼヴァリン);ゲムツズマブ(マイロターグ);エクリズマブ(ソリリス)および/またはデノスマブを含むが、これに限定されない。
【0105】
典型的なEGFR阻害剤はゲフィチニブ(イレッサ);ラパチニブ(タイカーブ);セツキシマブ(アービタックス);エルロチニブ(タルセバ);パニツムマブ(ベクティビックス);PKI-166;カネルチニブ(CI-1033);マツズマブ(Emd7200)またはEKB-569を含むが、これに限定されない。
【0106】
典型的なHER2阻害剤はトラスツズマブ(ハーセプチン);ラパチニブ(タイケルブ)またはAC-480を含むが、これに限定されない。
【0107】
典型的なヒストンデアセチラーゼ阻害剤はボリノスタット(Zolinza)、バルプロ酸、ロミデプシン、エンチノスタットアベキシノスタット、ギビノスタット、およびモセチノスタットを含むが、これに限定されない。
【0108】
典型的なホルモン剤または抗ホルモン剤はタモキシフェン(Soltamox;ノルバデックス);ラロキシフェン(エビスタ);メゲストロール(Megace);ロイプロリド(リュープロン;リュープロンデポー;エリガード;Viadur);フルベストラント(フェソロデックス);レトロゾール(フェマーラ);トリプトレリン(トレルスターLA;トレルスターデポー);エキセメスタン(アロマシン);ゴセレリン(ゾラデックス);ビカルタミド(カソデックス);アナストロゾール(アリミデックス)、フルオキシメステロン(Androxy;Halotestin);メドロキシプロゲステロン(プロベラ;デポープロベラ);酢酸アビラテロン(ザイティガ);リュープロレリン(リュープロン);エストラムスチン(Emcyt);フルタミド(Eulexin);トレミフェン(フェアストン);デガレリクス(ファーマゴン);ニルタミド(Nilandron);アバレリックス(Plenaxis);またはテストラクトン(Teslac)を含むが、これに限定されない。
【0109】
典型的な有糸分裂阻害剤はパクリタキセル(タキソール;Onxol;アブラキサン);ドセタキセル(タキソテール);ビンクリスチン(オンコビン;Vincasar PFS);ビンブラスチン(Velban);エトポシド(Toposar;Etopophos;VePesid);テニポシド(Vumon);イクサベピロン(イグゼンプラ);ノコダゾール;エポチロン;ビノレルビン(ナベルビン);カンプトテシン(CPT);イリノテカン(Camptosar);トポテカン(ハイカムチン);アムサクリン、またはラメラリンD(LAM-D)を含むが、これに限定されない。
【0110】
典型的なホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)阻害剤は不可逆的PI3K阻害剤ワートマニン、ワートマニン誘導体デメトキシビリジン、可逆的PI3K阻害剤LY294002;BKM120(ブパリシブ);イデラリシブ(PI3Kδ阻害剤);ドゥベリシブ(IPI-145、PI3Kδおよびγ阻害剤);α特異的PI3K阻害剤アルペリシブ(BYL719);経口PI3Kδ阻害剤TGR1202(旧名RP5264);およびPI3Kα、δアイソフォーム限定的阻害剤コパンリシブ(BAY80-6946)を含む。
【0111】
典型的なAkt阻害剤はミルテホシン、AZD5363、GDC-0068、MK2206、ペリホシン、RX-0201、PBI-05204、GSK2141795およびSR13668を含むが、これに限定されない。
【0112】
典型的なMTOR阻害剤はエベロリムス(アフィニトール)またはテムシロリムス(トーリセル);ラパミューン、リダフォロリムス、デフォロリムス(AP23573)、AZD8055(アストラゼネカ)、OSI-027(OSI)、INK-128、BEZ235、PI-103、トリン1、PP242、PP30、Ku-0063794、WAY-600、WYE-687、WYE-354およびCC-223を含むが、これに限定されない。
【0113】
典型的なプロテオソーム阻害剤はボルテゾミブ(PS-341)、イキサゾミブ(MLN2238)、MLN9708、デランゾミブ(CEP-18770)、カルフィルゾミブ(PR-171)、YU101、オプロゾミブ(ONX-0912)、マリゾミブ(NPI-0052)、およびジスフィラムを含むが、これに限定されない。
【0114】
典型的なPARP阻害剤はオラパリブ、イニパリブ、ベラパリブ、BMN-673、BSI-201、AG014699、ABT-888、GPI21016、MK4827、INO-1001、CEP-9722、PJ-34、Tiq-A、フェン、PF-01367338およびその組み合わせを含むが、これに限定されない。
【0115】
典型的なRas/MAPK経路阻害剤はトラメチニブ、セルメチニブ、コビメチニブ、CI-1040、PD0325901、AS703026、RO4987655、RO5068760、AZD6244、GSK1120212、TAK-733、U0126、MEK162およびGDC-0973を含むが、これに限定されない。
【0116】
典型的なセントロソームデクラスタリング剤はグリセオフルビン;ノスカピン、臭素化ノスカピン(たとえば9-ブロモノスカピン)、還元ブロモノスカピン(RBN)、N-(3-ブロモベンジル)ノスカピン、アミノノスカピンおよびその水溶性の誘導体などのノスカピン誘導体;CW069;フェナントリデン誘導化ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ阻害剤、PJ-34;N2-(3-ピリジルメチル)-5-ニトロ-2-フラミド、N2-(2-チエニルメチル)-5-ニトロ-2-フラミド、およびN2-ベンジル-5-ニトロ-2-フラミドを含むが、これに限定されない。
【0117】
典型的なマルチキナーゼ阻害剤はレゴラフェニブ;ソラフェニブ(ネクサバール);スニチニブ(スーテント);BIBW2992;E7080;Zd6474;PKC-412;モテサニブまたはAP24534を含むが、これに限定されない。
【0118】
典型的なセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤はルボキシスタウリン;エリル/塩酸イースジル;フラボピリドール;セリシクリブ(CYC202、Roscovitrine);SNS-032(BMS-387032);Pkc412;ブリオスタチン;KAI-9803;SF1126;VX-680;Azd1152;Arry-142886(AZD-6244);SCIO-469;GW681323;CC-401;CEP-1347またはPD332991を含むが、これに限定されない。
【0119】
典型的なチロシンキナーゼ阻害剤はエルロチニブ(タルセバ);ゲフィチニブ(イレッサ);イマチニブ(グリベック);ソラフェニブ(ネクサバール);スニチニブ(スーテント);トラスツズマブ(ハーセプチン);ベバシズマブ(アバスチン);リツキシマブ(リツキサン);ラパチニブ(タイケルブ);セツキシマブ(アービタックス);パニツムマブ(ベクティビックス);エベロリムス(アフィニトール)、アレムツズマブ(キャンパス);ゲムツズマブ(マイロターグ);テムシロリムス(トーリセル);パゾパニブ(ヴォトリエント);ダサチニブ(スプリセル);ニロチニブ(タシグナ);バタラニブ(Ptk787;ZK222584);CEP-701;SU5614;MLN518;XL999;VX-322;Azd0530;BMS-354825;SKI-606 CP-690;AG-490;WHI-P154;WHI-P131;AC-220;またはAMG888を含むが、これに限定されない。
【0120】
典型的なVEGF/VEGFR阻害剤はベバシズマブ(アバスチン);ソラフェニブ(ネクサバール);スニチニブ(スーテント);ラニビズマブ;ペガプタニブ;またはバンデチニブを含むが、これに限定されない。
【0121】
典型的な微小管標的化剤はパクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン類およびナベルビンを含むが、これに限定されない。
【0122】
典型的なトポイソメラーゼ毒剤はテニポシド、エトポシド、アドリアマイシン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、アムサクリン、エピルビシンおよびイダルビシンを含むが、これに限定されない。
【0123】
典型的なタキサンまたはタキサン誘導体はパクリタキセルおよびドセタキセルを含むが、これに限定されない。
【0124】
典型的な一般的化学療法、抗腫瘍、抗増殖剤はアルトレタミン(Hexalen);イソトレチノイン(アキュテイン;アムネスティーム;クララビス;Sotret);トレチノイン(ベサノイド);アザシチジン(ビダーザ);ボルテゾミブ(ベルケイド);アスパラギナーゼ(Elspar);レバミゾール(Ergamisol);マイトテイン(Lysodren);プロカルバジン(Matulane);ペグアスパルガーゼ(Oncaspar);デニロイキンジフチトクス(Ontak);ポルフィマー(フォトフリン);アルデスロイキン(Proleukin);レナリドミド(レブリミド);ベキサロテン(タルグレチン);サリドマイド(Thalomid);テムシロリムス(トーリセル);三酸化ヒ素(トリセノックス);ベルテポルフィン(ビスダイン);およびミモシン(ロイセノール)を含むが、これに限定されない。
【0125】
一部の実施形態においては、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログは、GVHDの治療を目的として、1つ以上のSOC MTX/カルシニューリン阻害剤との相乗的組み合わせで投与される。
【0126】
これらの追加的化学療法剤は、エキノマイシンまたはそのアナログを有するリポソームに装填されるか、本願のリポソーム製剤と併用投与される別個のリポソーム製剤の状態にあるか、または別段使用される他の投与形態(たとえば経口投与、静脈内注射など)によるものでありうる。
【0127】
(医薬製剤)
エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログおよびリポソームなどのマイクロエマルション薬剤送達担体を含む本発明の医薬組成物は、標準的な技術にしたがって調製される。それらは医薬として許容される担体をさらに含むことができる。本願で用いるところの用語「医薬として許容される」は、動物またはヒトに投与されるとき、有害反応、アレルギー反応、または他の不都合な反応を引き起こさない分子実体または組成物を適宜示す。本願で用いる用語「医薬として許容される担体」は、医薬として許容される物質について媒体として用いうる、任意且つ全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および/または抗真菌剤、等張化剤、および吸収遅延化剤、バッファー、賦形剤、結合剤、滑沢剤、ゲル、界面活性剤などを含む。
【0128】
代表的担体または賦形剤は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖類、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーを含むが、これに限定されない。典型的な医薬として許容される担体は、水、生理食塩水、等張水溶液、リン酸緩衝化生理食塩水、デキストロース、0.3%グリシン水溶液、グリセロール、エタノールなどのうち1つ以上、さらにはその組み合わせを含む。多くの場合、組成物にたとえば糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール類、または塩化ナトリウムなどの等張化剤、または安定性を高めるためにアルブミンなどの糖タンパク質、リポタンパク質およびグロブリンを含むことが好ましい。医薬として許容される担体は、治療物質の有効期限を延長するか、または有効性を高める湿潤剤または乳化剤、保存料またはバッファーなどの少量の補助物質をさらに含みうる。
【0129】
これらの組成物は、当業者にとって周知である通常の滅菌技術によって滅菌することができる。たとえば十分に小さなリポソームは、無菌濾過技術を用いて滅菌することができる。
【0130】
修飾することのできる製剤特性はたとえばpHおよび浸透圧などを含む。たとえば、非経口投与するときに製剤の有効性を高めるため、ヒトの血液または組織のそれと同様のpHおよび浸透圧を有する製剤を得ることが望ましいことがある。またその代わりに、他の投与経路を経て投与するときに開示された組成物の有効性を高めるため、代替的な特性を修飾することもある。
【0131】
本発明においてバッファーは、他の目的の中でもとりわけ(特に非経口投与にとって望ましい)医薬組成物の総pHの操作に対して有用である。有機または無機酸、塩基、またはアミノ酸などの多様な塩、さらにはクエン酸、リン酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、乳酸、酢酸、重炭酸、または炭酸イオンの多様な形態などを含む、技術上既知である多様なバッファーを本発明において用いることができる。本発明において、本願に開示される組成物の非経口投与形態における使用に対して特に有利なバッファーは、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、コハク酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムを含むナトリウムまたはカリウムバッファーである。
【0132】
塩化ナトリウムは、0~300mMの濃度(液状剤型には150mMが最適)で、溶液の毒性を変更するために用いることができる。凍結防止剤は凍結乾燥剤型に含めることができ、主として0~10%スクロースである(0.5~1.0%が最適)。他の適切な凍結防止剤はトレハロースおよびラクトースを含む。充填剤は凍結乾燥剤型に含めることができ、主として1~10%マンニトールである(2~4%が最適)。安定化剤は液状剤型および凍結乾燥剤型の双方に用いることが可能であり、主として1~50mMのL-メチオニンである(5~10mMが最適)。他の適切な充填剤はグリシン、アルギニンを含み、0~0.05%ポリソルベート80として含めることができる(0.005~0.01%が最適)。
【0133】
1つの実施形態においては、リン酸ナトリウムは約7.0のpHを達成するために約20mMの濃度において用いられる。特に効果的なリン酸ナトリウムバッファー系は、一塩基リン酸ナトリウム一水和物および二塩基リン酸ナトリウム五水和物を含む。この一塩基および二塩基リン酸ナトリウムの組み合わせを用いる場合、それぞれの有利な濃度は一塩基約0.5から約1.5mg/mLおよび二塩基約2.0から約4.0mg/mLであり、好ましい濃度は一塩基約0.9mg/mLおよび二塩基約3.4mg/mLである。製剤のpHは使用するバッファーの量に応じて変化する。
【0134】
剤型および意図する投与形態に応じて、異なる濃度のバッファーを用いるか、または他の添加物を用いて他の範囲を包含するよう組成物のpHを調節することが代替的に有利となりうる。本願の組成物にとって有用なpHの範囲は約2.0のpHから約12.0のpHを含む。
【0135】
一部の実施形態においては、界面活性剤が使用する薬剤送達系を阻害しない場合、本願に開示する製剤においてそれらの界面活性剤を使用することも有利となる。有用であると立証される界面活性剤または抗吸着剤はポリオキシエチレンソルビタン、一ラウリル酸ポリオキシエチレンソルビタン、Tween-20(登録商標)などのポリソルベート-20、ポリソルベート-80、ポリソルベート-20、ヒドロキシセルロース、ゲナポールおよびBRIJ界面活性剤を含む。例として、本発明において非経口投与可能な組成物を生成するために任意の界面活性剤を用いる場合、約0.01から約0.5mg/mLの濃度で用いることが有利である。
【0136】
追加的な有利な添加物は、具体的なニーズまたは組成物の意図する使用または配合者に従い、当業者によって容易に判断される。そのような特に有用な追加的物質の1つは、製剤の浸透圧を調節して所望の浸透圧を得るのに有用である塩化ナトリウムである。開示された組成物の非経口投与にとって特に好ましい浸透圧は、約270から約330mOsm/kgの範囲内である。非経口投与、具体的には注射される組成物にとって最適な浸透圧は約3000sm/kgであり、約6.5から約7.5mg/mLの濃度での塩化ナトリウムの使用によって達成可能であって、約7.0mg/mLの塩化ナトリウム濃度が特に有効である。
【0137】
エキノマイシン含有リポソームまたはエキノマイシン含有マイクロエマルション薬剤送達担体は、無菌条件下で凍結乾燥粉末として保存し、投与前に無菌水溶液と合わせることができる。リポソームを再懸濁するのに用いられる水溶液は、上記に論じられたpH調節物質および緩衝化物質、浸透圧調節剤など物理的条件を近似するのに必要とされるところの、医薬として許容される補助物質を含有することができる。
【0138】
他の実施形態においては、エキノマイシン含有リポソームまたはエキノマイシン含有マイクロエマルション薬剤送達担体は、投与前に懸濁液、好ましくは水性懸濁液として保存することができる。一定の実施形態においては、リポソームの保存のために用いられる溶液またはマイクロエマルション薬剤担体懸濁液は、保存時にフリーラジカルまたは脂質過酸化による損傷から脂質を保護する脂質保護剤を含む。適切な保護化合物は、α-トコフェロールなどのフリーラジカルクエンチャーおよびフェリオキサミンなどの水溶性鉄特異性キレート剤を含む。
【0139】
エキノマイシン/エキノマイシンアナログの用量は、以下にさらに記載する適切な動物モデルにおいて試験することができる。一般的な提案として、エキノマイシン、エキノマイシンアナログまたは他の抗癌剤の治療上有効な量は、1回の投与であれ、それ以上の回数の投与であれ、約10ng/kg体重/日から約100mg/kg体重/日の範囲内で投与される。具体的な実施形態においては、各融合タンパク質または発現ベクターは約10ng/kg体重/日から約10mg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日から約1mg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日から約100μg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日から約10μg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日から約1μg/kg体重/日、10ng/kg体重/日から約100ng/kg体重/日、約100ng/kg体重/日から約100mg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日から約10mg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日から約1mg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日から約100μg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日から約10μg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日から約1μg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日から約100mg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日から約10mg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日から約1mg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日から約100μg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日から約10μg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日から約100mg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日から約10mg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日から約1mg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日から約100μg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日から約100mg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日から約10mg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日から約1mg/kg体重/日、約1mg/kg体重/日から約100mg/kg体重/日、約1mg/kg体重/日から約10mg/kg体重/日、約10mg/kg体重/日から約100mg/kg体重/日の範囲で投与される。
【0140】
一部の実施形態においては、エキノマイシンは10~30,000μg/m、100~30,000μg/m、500~30,000μg/m、1000~30,000μg/m、1500~30,000μg/m、2000~30,000μg/m、2500~30,000μg/m、3000~30,000μg/m、3500~30,000μg/m、4000~30,000μg/m、100~20,000μg/m、500~20,000μg/m、1000~20,000μg/m、1500~20,000μg/m、2000~20,000μg/m、2500~20,000μg/m2、3000~20,000μg/m、3500~20,000μg/m、100~10,000μg/m、500~10,000μg/m、1000~10,000μg/m、1500~10,000μg/m、2000~10,000μg/m、または2500~10,000μg/m2の体表面積(BSA)ベース用量で投与される。
【0141】
他の実施形態においては、エキノマイシンは各投与につき約10ngから約100ng/回、約10ngから約1μg/回、約10ngから約10μg/回、約10ngから約100μg/回、約10ngから約1mg/回、約10ngから約10mg/回、約10ngから約100mg/回、約10ngから約1000mg/注射、約10ngから約10,000mg/回、約100ngから約1μg/回、約100ngから約10μg/回、約100ngから約100μg/回、約100ngから約1mg/回、約100ngから約10mg/回、約100ngから約100mg/回、約100ngから約1000mg/注射、約100ngから約10,000mg/回、約1μgから約10μg/回、約1μgから約100μg/回、約1μgから約1mg/回、約1μgから約10mg/回、約1μgから約100mg/回、約1μgから約1000mg/注射、約1μgから約10,000mg/回、約10μgから約100μg/回、約10μgから約1mg/回、約10μgから約10mg/回、約10μgから約100mg/回、約10μgから約1000mg/注射、約10μgから約10,000mg/回、約100μgから約1mg/回、約100μgから約10mg/回、約100μgから約100mg/回、約100μgから約1000mg/注射、約100μgから約10,000mg/回、約1mgから約10mg/回、約1mgから約100mg/回、約1mgから約1000mg/注射、約1mgから約10,000mg/回、約10mgから約100mg/回、約10mgから約1000mg/注射、約10mgから約10,000mg/回、約100mgから約1000mg/注射、約100mgから約10,000mg/回および約1000mgから約10,000mg/回の範囲で投与される。融合タンパク質または発現ベクターは連日、2、3、4、5、6または7日毎、または1、2、3、または4週間毎投与しうる。
【0142】
他の具体的な実施形態においては、エキノマイシンの量は約0.0006mg/日、0.001mg/日、0.003mg/日、0.006mg/日、0.01mg/日、0.03mg/日、0.06mg/日、0.1mg/日、0.3mg/日、0.6mg/日、1mg/日、3mg/日、6mg/日、10mg/日、30mg/日、60mg/日、100mg/日、300mg/日、600mg/日、1000mg/日、2000mg/日、5000mg/日または10,000mg/日の用量で投与しうる。予想されるように、用量は条件、患者の体格、年齢、および病状に依存することになる。
【0143】
用量は、特定の増殖性疾患、自己免疫疾患または同種免疫応答に適したいくつかの技術上許容される動物モデルで試験することができる。
【0144】
医薬組成物中の治療物質は、「治療上有効な量」で製剤化しうる。「治療上有効な量」は、所望の治療結果を達成するのに有効な用量で且つ必要な期間内に有効である量を指す。リポソーム製剤または他のマイクロエマルション薬剤送達担体の治療的に有効な量は、治療しようとする状態、状態の重症度および経過、投与様式、個別の薬剤のバイオアベイラビリティ、送達担体が個体において所望の反応を誘発する能力、前治療、患者の年齢、体重および性別、患者の臨床履歴および抗体への応答、使用する融合タンパク質または発現ベクターの種類、主治医の裁量などに応じて変動しうる。治療的に有効な量は、治療的に有益な効果が送達担体のあらゆる毒性または有害作用を上回る量でもある。
【0145】
(エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを投与するための方法)
1つの態様においては、本発明のマイクロエマルション薬剤送達系は、増殖性疾患、自己免疫疾患を有するか、または同種免疫応答を示す哺乳類対象を治療するための方法において用いられる。
【0146】
1つの実施形態においては、哺乳類対象における増殖性疾患を治療し、かつ/またはその重症度を低下させる方法は:対象における増殖性疾患を治療し、かつ/またはその重症度を低下させるために有効な量で、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを含むマイクロエマルション薬剤送達担体を含む医薬組成物を、対象に投与することを含む。
【0147】
他の実施形態においては、哺乳類対象における自己免疫疾患を治療し、かつ/またはその重症度を低下させる方法は:対象における自己免疫疾患を治療し、かつ/またはその重症度を低下させるために有効な量で、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを含むマイクロエマルション薬剤送達担体を含む医薬組成物を、対象に投与することを含む。
【0148】
さらなる実施形態においては、同種造血幹細胞(HSC)移植を受ける哺乳類対象においてGvHDの発生を予防するかまたはGvHDの重症度を低下させる方法は:対象または移植されるHSCまたはその双方に、対象におけるGvHDを予防するかまたはその重症度を低下させるために有効な量で、エキノマイシンを含むマイクロエマルション薬剤送達担体を含む医薬組成物と組み合わせて投与することを含む。
【0149】
エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログをリポソームまたは他のマイクロエマルション薬剤送達担体に封入する場合、任意の有効量のエキノマイシンまたはエキノマイシンを投与しうる。好ましくは、エキノマイシンまたはエキノマイシンアナログを含有するリポソーム製剤または他のマイクロエマルション薬剤送達担体は、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、組織内、鼻腔内、皮内、点滴、脳内、直腸内、膣内、腹腔内、腫瘍内を含む非経口的注射によって投与される。
【0150】
リポソームエキノマイシンの静脈内投与は、約1mg/kg体重の用量でマウスに忍容され、LD50値には到達していない。対照的に、遊離エキノマイシンはLD50値0.629mg/kgを有する。
【0151】
その他の投与経路は経口、局所(鼻腔、経皮、皮内または眼球内)、粘膜(たとえば鼻腔、舌下、バッカル、直腸、膣など)、吸入、リンパ内、脊髄内、頭蓋内、腹腔内、気管内、膀胱内、髄腔内、腸内、肺内、リンパ内、体腔内、眼窩内、嚢内および経尿道、さらにはカテーテルまたはステントによる局所送達を含む。
【0152】
一定の実施形態においては、組成物はデポー製剤として製剤化することもできる。そのような長時間作用型製剤は適切な部位への埋め込みまたは非経口注射、具体的には腫瘍内注射または癌組織に隣接した部位への注射によって投与しうる。
【0153】
リポソーム製剤またはその他のマイクロエマルション送達担体は、凍結乾燥し、好ましくは真空下で無菌粉末として保存した後、注射の前に静菌水(たとえばベンジルアルコール保存料を含有)または滅菌水に再溶解することができる。医薬組成物は、たとえばボーラス注射または持続点滴などの注射による非経口投与を目的として製剤化することもある。
【0154】
送達担体は一度に、または一連の治療にわたって患者に投与され、また診断以降の任意の時点で患者に投与しうる。送達担体は単独の治療として投与することも、あるいは対象とする状態を治療する上で有用な他の薬剤または治療法と共に投与することもある。
【0155】
本発明は、制限的であると解釈すべきでない以下の実施例によってさらに例示される。本願の全体で引用された全ての引用文献、特許明細書および公開特許明細書の内容、さらに図面と表は、参照文献として本願に援用する。当業者は、本願に鑑み、開示される具体的な実施形態に多くの変更を加えることが可能であり、かつそれでも本発明の趣旨および範囲を離れることなく、類似のまたは同様の結果を得ることができることを認識すべきである。
【実施例1】
【0156】
(リポソーム-エキノマイシン製剤の調製)
化学天秤で脂質成分とエキノマイシンを秤量し、ガラスシンチレーションバイアル内でクロロホルム/メタノール2:1(v/v)などの適切な溶媒に適切な比率で溶解し、ボルテックスミキサーで混合した。低流量の窒素気流を用いて有機溶媒を蒸発させ、ガラスバイアルの壁面に均一な脂質フィルムを生成した。ゲル化を防止するため、乾燥工程は65℃で実施した。あらかじめ65℃に加熱した10%スクロース再蒸留水(ddHO)溶液を添加して脂質フィルムを水和し、総脂質の最終濃度を7.1mg/mLとした。水和した混合物は65℃より高温に維持し、フィルムが全て溶解するまでボルテックスミキサーで激しく混合した。大型多層ベシクル(LVM)の水和溶液を、アバンティミニエクストルーダ-を用い、押出し後にプールしたリポソーム混合物の平均粒径が動的光散乱(DLS)で94~99nmの範囲内と測定され、多分散係数(PdI)が0.05未満となるまで、増分を1mLとして200nm、100nm、および50nmの重層化したポリカーボネート(PC)フィルターを通して徹底的な押出しを実施した。膜の汚れを防止するため、押出し工程は65℃で遂行し、PC膜は1mL押し出す毎に交換した。1mL押出しの最小通過回数は21回であったが、押出し後混合物の分析後にDLS品質基準測定値が適合しない場合は、50nmPC膜を用いて追加的な通過を実施した。生成する小型単層ベシクル(SUV)懸濁液を、室温(21℃)で一晩安定化させた。次に、生成物を直径33mmの0.22μmPES膜(ミリポア)で1回無菌濾過して捕捉されなかったエキノマイシンを除去し、濾液をHPLCおよびDLS分析用にサンプリングし、無菌ガラスバイアルに入れ、使用時まで2~8℃で保存した。
【0157】
(1.1. DSPC-エキノマイシン製剤の調製)
丸底フラスコ内で、0.2mg/mLエキノマイシンクロロホルム溶液1.25mLに、13.75mg/mLジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)クロロホルム溶液1.25mLを加える。次に、9.8mg/mLコレステロールクロロホルム溶液1.25mLを添加し5~10秒間手で回して穏やかに混合する。次に、ロータリーエバポレーターを最大回転速度とし、フラスコの壁面にエキノマイシン含有脂質フィルムが形成され、全ての溶媒が完全に蒸発するまで、クロロホルムを減圧下で45分間蒸発させる。脂質バッファー5mLでフィルムを再水和し、ボルテックスミキサーで45分間激しく振盪して不均一なリポソーム混合物を生成する。次に、0.2ミクロンフィルターを通して混合物を押し出し、HPLCで生成した混合物の封入効率を分析する。
【0158】
(1.2. mPEG-DSPE-DOPC-エキノマイシン製剤の調製)
DSPCをDOPCで置換して封入効率を高めることができる一方で、mPEG-DSPEを加えて細網内皮系(RES)によるクリアランスを低下させ、インビボ循環時間を延長することができる。1つの実施形態においては、丸底フラスコ内で0.2mg/mLエキノマイシン1.25mLをクロロホルムに溶解し、13.75mg/mL1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)クロロホルム溶液1.25mLを加える。次に、9.8mg/mLコレステロールクロロホルム溶液1.25mLおよび1.25mg/mLポリ(エチレングリコール)-a-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)-2000クロロホルム溶液1.25mLを添加し、5~10秒間手で回して穏やかに混合する。次に、ロータリーエバポレーターを最大回転速度とし、フラスコの壁面にエキノマイシン含有脂質フィルムが形成され、全ての溶媒が完全に蒸発するまで、クロロホルムを減圧下で45分間蒸発させる。脂質バッファー5mLでフィルムを再水和し、ボルテックスミキサーで45分間激しく振盪して不均一なリポソーム混合物を生成する。次に、0.2ミクロンフィルターを通して混合物を押し出し、HPLCで生成した混合物の封入効率を分析する。
【0159】
(1.3. mPEG-DSPE-EPC-HEPC-エキノマイシン製剤の調製)
丸底フラスコ内でエキノマイシン0.25mgをクロロホルム1.25mLに溶解し、12.2mg/mL卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、2.28mg/mL水素化卵黄ホスファチジルコリン(HEPC)、2.28mg/mLコレステロールおよび5.4mg/mLメトキシポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)クロロホルム/メタノール溶液1.25mLを丸底フラスコ内のエキノマイシン溶液に加える。一旦脂質が溶媒に完全に混合したならば、減圧下で溶媒を蒸発させて除去し、丸底フラスコの壁面に脂質フィルムを形成する。脂質バッファー5mLでフィルムを再水和し、ボルテックスミキサーで45分間激しく振盪して不均一なリポソーム混合物を生成する。次に、0.2ミクロンフィルターを通して混合物を押し出し、HPLCで生成した混合物の封入効率を分析する。
【0160】
(1.4. mPEG-DSPE-HSPC-エキノマイシン製剤の調製)
他の実施例においては、以下の方法でリポソームエキノマイシンの14mLバッチを生成した:HSPC60mg、DSPE-PEG(2000)20mg、および羊毛コレステロール20mgを5mLガラスシンチレーションバイアル内でクロロホルム/メタノール2:1(v/v)4mLに溶解した。クロロホルム/メタノール2:1(v/v)中の10mg/mLエキノマイシン0.5mLを混合物に加え、ボルテックスミキサーを用いて混合物を30秒混合した。次に、混合物を水浴で65℃に加熱し、バイアルの壁面にエキノマイシンと脂質を含有する均一なフィルムが形成されるまで、バイアルを手で回しながら低流量窒素気流を用いて有機溶媒を蒸発させた。有機溶媒を蒸発させる工程においては、混合物を65℃に維持してゲル化を回避することが重要である。またその代わりに丸底フラスコを使用し、自動エバポレーターシステムで回転させながら加熱水浴中で静置してもよい;ただし小規模な実験室スケール製造ロットでは、バイアルを手で回して均一なフィルム層を形成することで十分であった。十分な体積の水和溶液を小型オーブンで65℃に予熱した。この実施例においては、水和溶液は10%スクロース(w/v)蒸留脱イオン水溶液(sucDDW)であったが、通常のDDW、0.9%DDW生理食塩水、または1×PBSなどの他の水和溶液も許容されることが指摘される。次に、脂質-エキノマイシンフィルムを、65℃のsucDDW114mLに入れ、フィルムが全て完全に溶解して(約1時間)大型多層ベシクル(LMV)の白色懸濁液を生成するまでボルテックスミキサーで激しく振盪し、水和させた。その後、アバンティミニエクストルーダ-を用い、大型多層ベシクル(LVM)の水和溶液を、押出し後にプールしたリポソーム混合物の水力学的直径の平均が動的光散乱(DLS)で94~99nmの範囲内と測定され、多分散係数(PdI)が0.05未満となるまで、増分を1mLとして200nm、100nm、および50nmの重層化したポリカーボネート(PC)フィルターを通し、徹底的な押出しを実施した。膜の汚れを予防するため、押出し工程は65℃で遂行し、PC膜は1mL押し出す毎に交換した。1mL押出し毎の最小通過回数は21回であったが、押出し後混合物の分析後にDLS品質基準測定値が適合しない場合は、50nmPC膜を用いて追加的な通過を実施した。生成する小型単層ベシクル(SUV)懸濁液を、室温(21℃)で12~15時間安定化させた。次に、生成物を33mmの0.22μmPESメンブラン(ミリポア)で1回無菌濾過して捕捉されなかったエキノマイシンおよび他の可能な汚染物質を除去した。濾液はHPLCおよびDLS分析用にサンプリングし、使用時まで2~8℃の無菌ガラスバイアルに保存した。
【実施例2】
【0161】
(リポソームエキノマイシンの粒径分布および物理的特性の解析)
マルバーンゼータサイザーソフトウェアを用いてリポソームエキノマイシン製剤の特性解析を実施し、平均粒径およびゼータ電位を測定した。図1パネルAの代表的な動的光散乱(DSL)プロフィールに示されるように、粒径分布は一貫して非常に狭い範囲内にあり、多分散係数は0.1未満であることが確認された。粒径<100nmのリポソームについて、PEG化ステルスリポソームの浸透性および滞留性の亢進(EPR)および細網内皮系(RES)による迅速取り込みからの最大免疫回避性による、腫瘍組織へのリポソームの蓄積が報告されている。リポソームエキノマイシンの水力学的直径の平均は約98d.nmであることが確認され;これはバッチ間で容易に再現された(図1パネルB)。
【0162】
リポソーム製剤のゼータ電位を測定することにより、粒子の安定性および凝集傾向を予測するための信頼度の高い方法を提供することができる。リポソームエキノマイシンのゼータ電位の平均は約-30mVであることが確認されており、生成物は安定でありかつ凝集する可能性が低いことを示唆した(図1パネルB)。リポソームエキノマイシンの異なる6製剤の、pDI、平均および標準偏差を含む追加的な物理特性の要約を表1に示す。全てのデータはマルバーンゼータサイザーソフトウェアを用いて生成した。
【0163】
【表1】
【実施例3】
【0164】
(インビトロにおけるリポソームエキノマイシンからのエキノマイシンの放出)
透析によるリポソームエキノマイシンからのインビトロ薬剤放出を、各測定時点における水中でのエキノマイシン放出速度を室温で240時間にわたってHPLC測定することによって評価した。エキノマイシン標準曲線によって、各測定時点におけるエキノマイシン濃度を算出した。放出百分率の算出は、透析開始前のリポソームエキノマイシンサンプルで検出されたエキノマイシン濃度初期値の関数として導出した。リポソームのインビトロ放出特性を、図2パネルAに示す累積放出百分率に要約した。対応する測定時におけるエキノマイシンピークを示す代表的なHPLCクロマトグラムを図2パネルBにプロットした。
【実施例4】
【0165】
(インビトロにおけるリポソームエキノマイシンの保存および安定性)
保存条件下でのリポソームエキノマイシンの安定性を試験するため、4℃でのリポソームエキノマイシンの物理特性を3ヶ月間にわたってモニタリングした。マルバーンゼータサイザーソフトウェアを用いて、保存1ヶ月目と3ヶ月目にリポソームエキノマイシンの粒径、PdIおよびゼータ電位を評価した。これらのパラメータのいずれにも、初期値からの相当な変化は認められなかった(図3、パネルAおよびパネルB)。1および3ヶ月目の測定時に、蓄積した薬剤沈殿物を0.22μPES膜で濾過して除去することにより、リポソームエキノマイシンの薬剤含有量損失を試験した。濾液をHPLC分析したところ、保存条件下でのリポソームからの薬剤漏出または沈殿のエビデンスは認められなかった。
【実施例5】
【0166】
(マウスにおけるリポソームエキノマイシンの毒性)
マウスにおけるリポソームエキノマイシンの毒性を試験するために、250μg/kg用量のエキノマイシン(リポソーム製剤化、非リポソーム製剤化、または同等の用量の空のリポソーム担体)の治療サイクルを、1日おきに計3回静脈内投与した。この期間を通じてマウスの体重をモニタリングした。この分析の結果より、リポソームエキノマイシンを投与されたマウスは、同等の用量およびスケジュールで遊離エキノマイシンを投与されたマウスと比較して、体重減少が少なくかつ減少した体重の回復が早いことが示された(図4、パネルA)。高薬剤用量(1mg/kg)では、遊離エキノマイシン投与マウスは全て1週間以内に死亡したのに対し、エキノマイシン装填リポソーム投与マウスは3+ヶ月間の観察期間全体を通じて70%が生存した(図4、パネルB)。
【実施例6】
【0167】
(マウスにおけるリポソームエキノマイシンと遊離エキノマイシンの薬物動態の比較)
「ステルス」リポソームは、リポソーム表面上のPEG部分の存在により、その遊離型薬剤と比較して、血流循環時間の延長を示すことが知られている。PEGはRESによる迅速な取り込みよりリポソームを遮蔽し、且つリポソーム粒子に立体安定性を提供する。遊離エキノマイシンと比較したリポソームエキノマイシンの血流循環時間の延長を測定するため、マウスにリポソームエキノマイシンまたは遊離エキノマイシン0.1mg/kgを単回静脈注射した後、質量分析で血漿中のエキノマイシンレベルを検出することによって、両製剤の薬物動態を評価した(図5)。この分析の結果より、リポソームエキノマイシンを投与されたマウスにおけるエキノマイシンの血液中濃度および循環時間は、同等の用量の遊離エキノマイシンと比較して有意に上昇することが示された。具体的には、遊離エキノマイシン0.1mg/kg投与よりわずか15分後に血漿濃度>1ng/mLが達成されるが、これと同用量のリポソームエキノマイシンは、投与後にこの濃度を8時間にわたって維持することがデータより示される(図5)。
【0168】
さらに、NSGマウスの乳癌組織における従来型エキノマイシンとリポソーム製剤化エキノマイシンの薬物動態を評価し、有意に上昇することが確認された。図6に示すように、従来型エキノマイシンの投与後わずか2時間で腫瘍濃度>5ng/gを達成することができる。対照的に、リポソームエキノマイシン(Lipo-EM)を同用量の0.1mg/kgで投与すると組織濃度>5ng/gを達成し、投与後10時間以上持続した(図6)。より重要なこととして、リポソームエキノマイシン投与群における薬剤レベルのピークは、遊離エキノマイシン投与群よりも6倍高かった。
【実施例7】
【0169】
(エキノマイシンによりALLを治療する根拠)
初期前駆T細胞性急性リンパ芽球性白血病(ETP ALL)は、予後が不良であるT細胞性ALL(T-ALL)の一形態として最近認識されている(Coustan-Smith et al.,Lancet Oncol.,2009 Feb;10(2):147-156)。ETP ALLは、造血幹細胞および骨髄前駆細胞と最も関連する、非常に初期の分化停止および特異な遺伝子的および転写的特性によって特徴付けられる。ETP ALLについての免疫表現型、遺伝子発現プロフィール、および遺伝子突然変異スペクトルの特性は解析されているものの、ETP ALLの病態生物学の分子的メカニズムの理解は乏しく、また有効な治療標的は特定されていない。
【0170】
これまでに、白血病幹細胞の同定に用いられるマウス天然T-ALLモデルより、マウスT-ALLおよびヒトAMLの幹細胞において、酸素正常状態であってもHIF1αシグナリングが選択的に活性化されることが判明した(Wang Y.et al.,Cell Stem Cell.2011;8(4):399-411)。最近の研究より、当該経路は、慢性骨髄性白血病幹細胞の維持においても決定的であることが確認されている。重要なこととして、HIF1α阻害剤エキノマイシンはマウス白血病を効率よく根絶し、またインビトロおよびインビボでAML幹細胞を非常に効果的かつ選択的に消失させた(Wang et al.2011)。これらの研究より、HIF1αは酸素正常状態でETP ALL細胞に存在する細胞サブセットを活性化し、またエキノマイシン投与は異種移植NSGマウスにおいてETP ALL細胞を大幅に減少させることが示された(Wang et al.2011のFig.1、2および3を参照)。これらの所見より、酸素正常環境におけるHIF1αの異常な活性化は、ETP ALLの特異な性質を表すことが証明される。ETP ALLが幹細胞および骨髄前駆細胞と最も関係する転写特性を有し、且つHIF-1αとその標的細胞の発現を亢進させている限り、これらの特性はETP ALLの治療を目的としたリポソームエキノマイシンによるHIF-1αの標的化を裏付ける。
【実施例8】
【0171】
(異種移植ETP-ALL NSGマウスにおけるリポソームエキノマイシン投与の治療効果)
実施例7の結果から予想されたように、HIF1αタンパク質は、ETP-ALL患者由来のPBMC対照サンプルと比較して、ETP ALL細胞において過剰に産生されることが確認された(図7、パネルAおよびパネルB)。ウェスタンブロッティング分析(図7、パネルA)またはHIF1αの細胞内染色後のFACS分析(図7、パネルB)により、3つのETP-ALLサンプルでHIF-1αの高度な蓄積が検出された。これらの結果より、酸素正常状態のヒト原発性ETP ALL細胞内にHIF1αの異常な活性化が存在することが確認される。
【0172】
インビボでリポソームエキノマイシン(Lipo-EM)の投与によりヒトETP-ALL細胞を消失させることが可能か試験するため、図8,パネルAに概要を示す投与スケジュールに従い、異種移植ETP-ALL NSGマウスにLipo-EMを投与した。簡単に述べると、1×10個のETP-ALL-1細胞を、1.3Gys照射NSGマウスに対して静脈内注射により移植した。ヒトETP-ALL細胞の再構成は、レシピエントマウスの末梢血hCD45の検出によってモニタリングした。この分析の結果より、移植より34日目のレシピエントマウスの血液中で、約10から20%のヒトCD45細胞が検出されることが示された。4回連続した隔日投与を1サイクルとし、サイクル間に8日間の休薬を挟む2サイクルからなる20日間Lipo-EM投与レジメンを35日目に開始した。投与後にヒトETP ALL-1細胞の割合をモニタリングした。この分析の結果より、Lipo-EMは異種移植マウスの血液中のETP-ALL細胞を著しく減少させることが示された(図8、パネルB)。具体的には、Lipo-EM投与前および投与後の3測定時におけるヒトETP ALL細胞の割合を示すFACSプロットより、担体マウスにおける血中ヒトCD45の割合の平均は34日目で10.73%、42日目に22.35%に上昇、48日目に45.61%、56日目に57.44%、そして最終的には64日目に80.18%に到達することが判明した。しかしLipo-EM投与マウスにおいては、この投与レジメンによりETP-ALL-1細胞はほぼ完全に消失し、レシピエントマウスの血中ヒトCD45細胞の割合は投与前の17.47%から投与後64日目の1.19%まで低下した。これらの結果より、リポソームエキノマイシンが異種移植マウスのETP-ALL細胞を効果的に消失させる能力が証明される。
【0173】
このマウス異種移植モデルにおいて、ETP-ALLに対するリポソームエキノマイシンの有効性を遊離エキノマイシンと比較するために、1×10個のETP ALL-1細胞を、1.3Gys照射NSGマウスに静脈内注射で移植した。21日目のFACS分析で末梢血中の%hCD45がほぼ1%に達したとき、22日目にLopo-EM投与を開始した。マウスを各群5匹の3群に分けた。全ての投与は静脈内注射により実施した。第1群は、PBS中のエキノマイシンを、合計15回の投与を3回の同一サイクルに分けて実施した。サイクル毎に、マウスにPBS中のエキノマイシン0.1mg/kgを1日1回、合計5回静脈内注射した後、5日間休薬し、その後次のサイクルを開始した。第2群はLipo-EMを合計10回投与し、はじめの2回は4日に1回投与し、その後7日間休薬し、その後1日おきに4回投与し、その後さらに7日間休薬し、その後さらに1日おきに4回投与した。もう1つのマウス群(n=5)には、空のリポソーム担体を、Lipo-EMを投与したのと同じスケジュールにしたがって投与した。34,50および65日目にFACS分析で末梢血を検査し、レシピエントのETP-APP-1細胞の増殖を投与期間にわたって比較した(図8、パネルC)。この分析の結果より、PBS中のエキノマイシンの投与はETP-ALL-1細胞の増殖率を阻害したが、Lipo-EMの投与は前者と比べて優れた効果をもたらすことが示された(図8、パネルC)。
【実施例9】
【0174】
(インビトロ乳癌細胞におけるエキノマイシンの効果)
乳癌細胞における高HIF-1α発現の重要性をよりよく理解するために、2つの乳癌細胞株MCF7およびSUM159においてエキノマイシンが乳癌細胞の生存を低下させる能力を試験した。より具体的には、MCF7とSUM159を異なる複数の濃度のエキノマイシンで48時間処理した後、MTT分析により細胞の生存度を測定した。この分析の結果より、エキノマイシンが生存SUM159細胞の個数を減少させることが示された(IC50=1nM)。対照的に、MCF7細胞はエキノマイシンに対する感受性がより低かった(図9)。これらのデータより、HIFタンパク質を過剰発現させる癌は、エキノマイシンに対する感受性がより高いことが示唆される。
【実施例10】
【0175】
(インビボ乳癌細胞におけるリポソームエキノマイシンの治療効果)
Lipo-EMが乳癌腫瘍部位へのエキノマイシンの効率的な送達を可能にするか判定するために、ルシフェラーゼ発現SUM159腫瘍異種移植片を担持したマウスにD-ルシフェリンを投与して、生物発光により腫瘍腫瘤を可視化した。さらに、Lipo-EMを蛍光色素ヨウ化1,1’-ジオクタデシルテトラメチルインドトリカルボシアニン(DiR)で標識し、インビボでのリポソームの追跡および蓄積を可能とした。腫瘍増殖は内因性発現したルシフェラーゼ活性により追跡した。この分析の結果より、蛍光標識したリポソームエキノマイシンの投与より24時間後に撮影するとき、ヒト乳癌SUM159腫瘍におけるLipo-EMの選択的蓄積が示される。対照的に、同等の用量の遊離DiR色素水溶液は、蛍光チャネルにおいて認識可能な蓄積または蛍光シグナルを生成しなかった。重要なこととして、腫瘍を全く担持しないマウスは、他の臓器に認識可能なリポソームの蓄積が見られなかった(図10)。これらのデータより、Lipo-EMはマウスにおいてヒト乳癌の異種移植片腫瘍において選択的に蓄積することができることが示される。
【0176】
インビボ乳癌細胞における遊離エキノマイシン(PBS中)、Lipo-EMおよび担体の治療的有効性を試験するために、SUM159細胞をNOD-SCIDマウスの乳腺脂肪体に異種移植した。遊離エキノマイシン0.1mg/kgを投与するとき、エキノマイシン投与群と担体対照群の間に腫瘍サイズの有意差はみられなかった(図11、パネルA)。インビボヒト乳腺腫瘍におけるLipo-EMの有効性を試験するために、SUM159乳癌細胞を10頭のNSGマウスに移植し、このうち5頭のマウスには、9、11、13、25および27日目にLipo-EMを用量0.35mg/kgの静脈内注射で投与し、これらと同じ時点で担体対象(リポソームのみ)を5頭のマウスに投与した。さらに、移植された腫瘍の増殖動態を体積(図11パネルB)および重量(図11パネルCおよびパネルD)で測定した。担体マウスの腫瘍サイズが初期切除基準に達したのち、マウス10頭を屠殺し、腫瘍を秤量した(図11パネルCおよびパネルD)。この分析の結果より、注射を合計5回のみ受けたLipo-EM投与マウスにおける腫瘍の増殖は、担体投与マウスと比較して有意に減少することが示された。
【0177】
これらの分析の結果より、リポソームエキノマイシンは、遊離エキノマイシンまたは担体対象と比較して、毒性の低下、血流循環時間の延長、およびマウスにおけるヒト固形腫瘍異種移植片への蓄積能力の上昇を示す安定した製剤であることが示される。リポソームエキノマイシンは、高レベルのHIF-1αを発現する造血系および固形腫瘍悪性新生物のヒト異種移植片を担持するマウスに投与するとき、著明な抗腫瘍効果を示す。
【0178】
上記は、当業者に本発明を実践する方法を教示することを目的としており、本記載を読むとき当業者に明らかとなるその明白な変更および変法の全てを詳述することを意図していない。しかし、そのような明白な変更および変法の全てが、以下の請求項に定義される本発明の範囲内に含まれることが意図されている。請求項は、文脈が特に反対のことを示さない限り、請求された構成要素およびステップを、そこで意図された目的を満たすのに有効な任意の順で包含することを意図している。
図1
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