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特許7017024オレフィン製造システム、および、オレフィン製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】オレフィン製造システム、および、オレフィン製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/04 20060101AFI20220201BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20220201BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20220201BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20220201BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
C07C1/04
C07C11/04
C07C11/06
C07C11/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017026248
(22)【出願日】2017-02-15
(65)【公開番号】P2017155035
(43)【公開日】2017-09-07
【審査請求日】2020-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2016036805
(32)【優先日】2016-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 玉平
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博之
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220998(JP,A)
【文献】特表2007-512328(JP,A)
【文献】特表2005-517742(JP,A)
【文献】特表2006-505646(JP,A)
【文献】特表2009-519371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン、二酸化炭素、および、水蒸気を、一酸化炭素および水素に改質する改質器と、
前記改質器によって得られた前記一酸化炭素および前記水素から少なくともオレフィンを含む混合ガスを生成するFTO反応器と、
前記FTO反応器によって得られた前記混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離器と、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスから、一酸化炭素、水素、および、メタンを含む第1混合ガスと、オレフィンを含む液体とを分離する脱メタン塔とを有する分離装置と、
前記第1混合ガスを膨張させる膨張機と、
前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスの熱を、前記膨張機によって膨張さた前記第1混合ガスに移動させる熱交換器と、
を備えるオレフィン製造システム。
【請求項2】
前記改質器には、前記二酸化炭素分離器によって分離された二酸化炭素が導入される請求項1に記載のオレフィン製造システム。
【請求項3】
前記分離装置は、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスからメタンを分離し、
前記改質器には、前記分離装置によって分離されたメタンが導入される請求項1または2に記載のオレフィン製造システム。
【請求項4】
水蒸気が有するエネルギーを電力に変換する蒸気タービンを備え、
前記分離装置は、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスからメタンおよび一酸化炭素のいずれか一方または両方を分離し、
前記蒸気タービンには、前記分離装置によって分離されたメタンおよび一酸化炭素のいずれか一方または両方を燃焼させることで得られた水蒸気が導入される請求項1から3のいずれか1項に記載のオレフィン製造システム。
【請求項5】
前記分離装置は、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスから一酸化炭素を分離し、
前記FTO反応器には、前記分離装置によって分離された一酸化炭素が導入される請求項1から4のいずれか1項に記載のオレフィン製造システム。
【請求項6】
前記改質器、前記FTO反応器、および、前記分離装置は、予め定められた圧力範囲内に維持される請求項1から4のいずれか1項に記載のオレフィン製造システム。
【請求項7】
メタン、二酸化炭素、および、水蒸気を、一酸化炭素および水素に改質する工程と、
前記改質する工程において得られた前記一酸化炭素および前記水素から少なくともオレフィンを含む混合ガスを生成する工程と、
前記混合ガスを生成する工程において得られた前記混合ガスから二酸化炭素を分離する工程と、
前記二酸化炭素を分離する工程において得られた、二酸化炭素が除去された混合ガスから、一酸化炭素、水素、および、メタンを含む第1混合ガスと、オレフィンを含む液体とを分離する工程と、
前記第1混合ガスを膨張させる工程と、
前記二酸化炭素が除去された混合ガスの熱を、膨張させた前記第1混合ガスに移動させる工程と、
を含むオレフィン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オレフィンを製造するオレフィン製造システム、および、オレフィン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンは、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム等の合成ゴムや、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene copolymer)等の合成樹脂の原料となることから、需要が高く、製造量が多い。従来オレフィンは、石油ナフサをクラッキング(接触分解)することによって製造されていた(例えば、特許文献1)。しかし、石油蒸留プラント、または、LNG蒸留プラントを設置する必要があり、製造コストが嵩むという問題があった。
【0003】
そこで、FTO(Fischer-Tropsch to olefins)反応を利用してオレフィンを合成することが考えられる。例えば、FTO反応の触媒として、鉄系の触媒が開発されている(非特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-40369号公報
【文献】特開2015-164909号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hirsa M. Torres Galvis et al. Science 335, 835 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したようにFTO反応に利用可能な触媒の開発は行われているものの、FTO反応を利用した具体的なオレフィン製造システムについては、未だ提案されていない。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑み、オレフィンを効率よく製造することができるオレフィン製造システム、および、オレフィン製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るオレフィン製造システムは、メタン、二酸化炭素、および、水蒸気を、一酸化炭素および水素に改質する改質器と、前記改質器によって得られた前記一酸化炭素および前記水素から少なくともオレフィンを含む混合ガスを生成するFTO反応器と、前記FTO反応器によって得られた前記混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離器と、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスから、一酸化炭素、水素、および、メタンを含む第1混合ガスと、オレフィンを含む液体とを分離する脱メタン塔とを有する分離装置と、前記第1混合ガスを膨張させる膨張機と、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスの熱を、前記膨張機によって膨張さた前記第1混合ガスに移動させる熱交換器と、を備える。
【0009】
また、前記改質器には、前記二酸化炭素分離によって分離された二酸化炭素が導入されるとしてもよい。
【0010】
また、前記分離装置は、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスからメタンを分離し、前記改質器には、前記分離装置によって分離されたメタンが導入されるとしてもよい。
【0011】
また、水蒸気が有するエネルギーを電力に変換する蒸気タービンを備え、前記分離装置は、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスからメタンおよび一酸化炭素のいずれか一方または両方を分離し、前記蒸気タービンには、前記分離装置によって分離されたメタンおよび一酸化炭素のいずれか一方または両方を燃焼させることで得られた水蒸気が導入されるとしてもよい。
【0012】
また、前記分離装置は、前記二酸化炭素分離器によって二酸化炭素が除去された混合ガスから一酸化炭素を分離し、前記FTO反応器には、前記分離装置によって分離された一酸化炭素が導入されるとしてもよい。
【0013】
また、前記改質器、前記FTO反応器、および、前記分離装置は、予め定められた圧力範囲内に維持されるとしてもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るオレフィン製造方法は、メタン、二酸化炭素、および、水蒸気を、一酸化炭素および水素に改質する工程と、前記改質する工程において得られた前記一酸化炭素および前記水素から少なくともオレフィンを含む混合ガスを生成する工程と、前記混合ガスを生成する工程において得られた前記混合ガスから二酸化炭素を分離する工程と、前記二酸化炭素を分離する工程において得られた、二酸化炭素が除去された混合ガスから、一酸化炭素、水素、および、メタンを含む第1混合ガスと、オレフィンを含む液体とを分離する工程と、前記第1混合ガスを膨張させる工程と、前記二酸化炭素が除去された混合ガスの熱を、膨張させた前記第1混合ガスに移動させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、オレフィンを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態にかかるオレフィン製造システムを説明する図である。
図2】分離装置を説明する図である。
図3図2の破線で囲んだ部分の温度分布を示す図である。
図4】発電装置を説明する図である。
図5】オレフィン製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図6】第1のシミュレーションの結果を説明する図である。
図7】第2の実施形態のオレフィン製造システムを説明する図である。
図8】触媒における、反応率とオレフィンの選択率との関係を説明する図である。
図9】第2のシミュレーションの結果を説明する図である。
図10】第3のシミュレーションの結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(第1の実施形態:オレフィン製造システム100)
図1は、本実施形態にかかるオレフィン製造システム100を説明する図である。図1に示すように、オレフィン製造システム100は、改質器110と、第1水分離器130と、FTO反応器150と、分離装置200と、発電装置300とを含んで構成される。
【0019】
図1に示すように、改質器110には、メタン(CH)、水蒸気、二酸化炭素(CO)が導入され、これらを、2MPa(20bar)程度の圧力下、1100℃程度の温度下で、一酸化炭素(CO)および水素(H)に改質する。本実施形態において、メタン、水蒸気、二酸化炭素の導入量は、改質器110によって得られる一酸化炭素と、水素との比が、1:1~1:1.5となるように設定される。
【0020】
メタンは、ヒータ102によって所定の温度に加熱された後、改質器110に導入される。なお、本実施形態では、天然ガスまたはシェールガスをメタンとして改質器110に導入する。水蒸気は、ヒータ104によって所定の温度に加熱された後、改質器110に導入される。また、二酸化炭素は、圧縮機106で昇圧された後、ヒータ108によって所定の温度に加熱された後、改質器110に導入される。なお、本実施形態の改質器110、FTO反応器150、分離装置200は、予め定められた圧力範囲(例えば、2MPa程度)内に維持される。したがって、圧縮機106以外の昇圧装置を設ける必要がなくなり、ガスの昇圧に要するコストを低減することができる。
【0021】
改質器110によって生成された改質ガス(一酸化炭素、水素、および、水蒸気)は、バルブ122a、熱交換器122、124を介して、第1水分離器130に導入される。熱交換器122、124は、改質ガスを所定の温度に冷却する。なお、熱交換器122において、改質ガスを冷却することで得られた水蒸気は、後述する発電装置300に導入される。
【0022】
第1水分離器130は、気液分離器で構成され、改質ガスから水(凝縮した水蒸気)を除去する。そして、第1水分離器130によって水が除去された改質ガス(一酸化炭素、および、水素)は、ヒータ142で所定の温度に加熱された後、FTO反応器150に導入される。
【0023】
FTO反応器150では、例えば、2MPa(20bar)程度の圧力下、340℃の温度下で、下記式(1)、(2)の反応が進行し、改質器110によって得られた一酸化炭素および水素から少なくともオレフィンを含む混合ガスを生成する。なお、FTO反応器150で用いられる触媒は、既存の技術を利用することができるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
nCO + 2nH → -(CH)n- +nHO …式(1)
CO + HO → CO + H …式(2)
なお、式(1)のエンタルピー変化は、ΔH=-165kJ/molであり、式(2)のエンタルピー変化は、ΔH=-39.8kJ/molである。
【0024】
なお、FTO反応器150に導入される水素が一酸化炭素の1.5倍を上回ると、パラフィンの製造量が相対的に増加してしまう。しかし、本実施形態では、FTO反応器150に導入される一酸化炭素と、水素との比を、1:1~1:1.5としているため、FTO反応器150においてC2(炭素数2)~C4(炭素数4)のオレフィンを効率よく(例えば、62.5%程度)生成することができる。
【0025】
こうしてFTO反応器150で生成された混合ガスは、熱交換器122で所定の温度に冷却された後、分離装置200に導入されることとなる。
【0026】
図2は、分離装置200を説明する図である。図2に示すように、FTO反応器150で生成された混合ガスは、まず、分離装置200を構成する第2水分離器210(気液分離器)に導入され、一部の水が分離される。そして、一部の水が分離された混合ガスは、熱交換器212で所定の温度に冷却され、第3水分離器214(気液分離器)で水が分離された後、乾燥剤(吸着剤)が充填された第4水分離器216でさらに水が除去される。
【0027】
こうして、水が除去された混合ガスは、抽出蒸留器218に導入され、C5(炭素数5)以上のオレフィンやパラフィンが分離される。そして、C5以上のオレフィンやパラフィンが除去された混合ガスは、二酸化炭素分離器220に導入されて、二酸化炭素が分離される。なお、二酸化炭素分離器220は、例えば、Selexol(登録商標)や、アミン吸収液が充填されており、混合ガスから効率よく二酸化炭素を分離する。
【0028】
二酸化炭素分離器220によって分離された二酸化炭素は、上記改質器110に導入されて再利用される。これにより、二酸化炭素が無駄に排出されてしまう事態を回避することができ、歩留まりを向上させることが可能となる。
【0029】
二酸化炭素分離器220によって二酸化炭素が除去された混合ガスは、熱交換器222で所定の温度に冷却された後、脱メタン塔230に導入される。脱メタン塔230は、混合ガスを、一酸化炭素、水素、メタンの第1混合ガスと、第1液体と、第2液体とに分離する。第1混合ガスは、熱交換器232で所定の温度に冷却された後、膨張機234で膨張される。これにより、エネルギーを回収でき、また、膨張させることによって、第1混合ガスの温度をさらに冷却することが可能となる。そして、膨張機234によって膨張した第1混合ガスは、熱交換器236で一部の冷熱を回収された後、発電装置300に導入される。
【0030】
第1液体は、脱エタン塔240に導入され、メタンと、第3液体とに分離される。脱エタン塔240で分離されたメタンは、熱交換器242で所定の温度に冷却された後、改質器110に導入され、再利用される。これにより、メタンが無駄に排出されてしまう事態を回避することができ、歩留まりを向上させることが可能となる。
【0031】
第3液体は、リボイラ244で加熱(還流)された後、C2蒸留塔250に導入される。C2蒸留塔250は、第3液体をエチレン(C)とエタン(C)とに分離する。そして、エチレン(オレフィン)は熱交換器252で所定の温度に冷却された後、後段のプロセスに送出される。また、エタンは、リボイラ254で所定の温度(-8℃)に加熱(還流)された後、後段のプロセスに送出される。
【0032】
一方、脱メタン塔230によって分離された第2液体は、リボイラ238で所定の温度(例えば、62℃)に加熱(還流)された後、脱プロパン塔260に導入される。脱プロパン塔260は、第2液体を、第2混合ガスと、第4液体とに分離する。第2混合ガスは、熱交換器262で所定の温度に冷却された後、C3蒸留塔270に導入される。C3蒸留塔270は、第2混合ガスをプロピレン(C)とプロパン(C)とに分離する。そして、プロピレン(オレフィン)は、熱交換器272で所定の温度に冷却された後、後段のプロセスに送出される。また、プロパンは、リボイラ274で所定の温度に加熱(還流)された後、後段のプロセスに送出される。
【0033】
脱プロパン塔260で分離された第4液体は、リボイラ264で所定の温度に加熱(還流)された後、C4蒸留塔280に導入される。C4蒸留塔280は、第4液体をブテン(C)と、ブタン(C10)とに分離する。そして、ブテン(オレフィン)は、熱交換器282で所定の温度に冷却された後、後段のプロセスに送出される。また、ブタンは、リボイラ284で所定の温度に加熱(還流)された後、後段のプロセスに送出される。
【0034】
図3は、図2の破線で囲んだ部分の温度分布を示す図である。なお、図3に示すように、本実施形態において、熱交換器222は、第1熱交換器222a、第2熱交換器222b、第3熱交換器222c、第4熱交換器222dとを含んで構成される。上記したように、第1熱交換器222aには、混合ガス(例えば、30℃)が導入され、第1熱交換器222aは、混合ガスを20℃に冷却する。そして、第2熱交換器222bは20℃の混合ガスを17℃に冷却する。また、第3熱交換器222cは、17℃の混合ガスを-30℃に冷却する。さらに、第4熱交換器222dは、-30℃の混合ガスを-62℃に冷却する。こうして、-62℃に冷却された混合ガスは、脱メタン塔230に導入されることとなる。
【0035】
上記したように、脱メタン塔230は、混合ガスを、第1混合ガスと、第1液体と、第2液体とに分離する。そして、第1混合ガスは、熱交換器232で冷却されることとなる。具体的に説明すると、本実施形態において、熱交換器232は、第4熱交換器232aと、第5熱交換器232bと、第6熱交換器232cとを含んで構成される。第4熱交換器232aは、-62℃の第1混合ガスを-119℃に冷却する。第5熱交換器232bは、-119℃の第1混合ガスを-111℃に昇温する。第6熱交換器232cは、-111℃の第1混合ガスを-29℃に昇温する。
【0036】
そして、-29℃の第1混合ガスは、膨張機234によって膨張されて、-133℃に冷却された後、熱交換器236によってさらに冷却されることとなる。本実施形態において、熱交換器236は、第7熱交換器236aと、第8熱交換器236bと、第9熱交換器236cと、第10熱交換器236dとを含んで構成される。第7熱交換器236aは、膨張機234によって-133℃に冷却された第1混合ガスを-120℃に昇温する。第8熱交換器236bは、-120℃の第1混合ガスを-38℃に昇温する。第9熱交換器236cは、-38℃の第1混合ガスを16℃に昇温する。第10熱交換器236dは、16℃の第1混合ガスを27℃に昇温する。こうして、27℃に昇温された第1混合ガスは、発電装置300に導入されることとなる。
【0037】
一方、脱メタン塔230で分離された第1液体は、脱エタン塔240に導入され、-68℃に冷却されて、メタンと、第3液体とに分離される。脱エタン塔240で分離されたメタン(-68℃)は、熱交換器242によって冷却されることとなる。具体的に説明すると、熱交換器242は、第11熱交換器242aと、第12熱交換器242bとを含んで構成される。第11熱交換器242aは、-68℃のメタンを-96℃に冷却する。第12熱交換器242bは、-96℃のメタンを-30℃に昇温する。こうして、-30℃に昇温されたメタンは、改質器110に導入されることとなる。
【0038】
また、脱エタン塔240で分離された第3液体(-68℃)は、リボイラ244で-22℃に加熱された後、C2蒸留塔250に導入されることとなる。そして、C2蒸留塔250は、第3液体をエチレンとエタンに分離し、エチレンは、熱交換器252によって-29℃に冷却されることとなる。
【0039】
ここで、第1熱交換器222aと、第10熱交換器236dとの間では熱交換が行われており、第1熱交換器222aに導入される混合ガスの熱を第10熱交換器236dに導入される第1混合ガスに移動させることができ(熱交換量は、16kW)、第1熱交換器222aに導入される混合ガスを冷却するとともに、第10熱交換器236dに導入される第1混合ガスを昇温することが可能となる。
【0040】
また、第2熱交換器222bと、第9熱交換器236cとの間では熱交換が行われており、第2熱交換器222bに導入される混合ガスの熱を第9熱交換器236cに導入される第1混合ガスに移動させることができ(熱交換量は、35kW)、第2熱交換器222bに導入される混合ガスを冷却するとともに、第9熱交換器236cに導入される第1混合ガスを昇温することが可能となる。
【0041】
さらに、第4熱交換器222dと、第6熱交換器232cとの間では熱交換が行われており、第4熱交換器222dに導入される混合ガスの熱を第6熱交換器232cに導入される第1混合ガスに移動させることができ(熱交換量は、691kW)、第4熱交換器222dに導入される混合ガスを冷却するとともに、第6熱交換器232cに導入される第1混合ガスを昇温することが可能となる。
【0042】
また、第4熱交換器232aと、第7熱交換器236aとの間では熱交換が行われており、第4熱交換器232aに導入される第1混合ガスの熱を第7熱交換器236aに導入される第1混合ガスに移動させることができ(熱交換量は、101kW)、第4熱交換器232aに導入される第1混合ガスを冷却するとともに、第7熱交換器236aに導入される第1混合ガスを昇温することが可能となる。
【0043】
さらに、第11熱交換器242aと、第5熱交換器232bとの間では熱交換が行われており、第11熱交換器242aに導入されるメタンの熱を第5熱交換器232bに導入される第1混合ガスに移動させることができ(熱交換量は、69kW)、第11熱交換器242aに導入されるメタンを冷却するとともに、第5熱交換器232bに導入される第1混合ガスを昇温することが可能となる。
【0044】
また、熱交換器252と第8熱交換器236bとの間では熱交換が行われており、熱交換器252に導入されるエチレンの熱を第8熱交換器236bに導入される第1混合ガスに移動させることができ(熱交換量は、640kW)、熱交換器252に導入されるエチレンを冷却するとともに、第8熱交換器236bに導入される第1混合ガスを昇温することが可能となる。
【0045】
さらに、熱交換器252と第12熱交換器242bとの間では熱交換が行われており、熱交換器252に導入されるエチレンの熱を第12熱交換器242bに導入されるメタンに移動させることができ(熱交換量は、14kW)、熱交換器252に導入されるエチレンを冷却するとともに、第12熱交換器242bに導入されるメタンを昇温することが可能となる。
【0046】
したがって、第1冷凍機(-40℃)によって、第3熱交換器222cから635kWの熱エネルギーを回収するとともに、第2冷凍機(-120℃)によって、第4熱交換器232aから1403kWの熱エネルギーを回収すれば足りることとなる。上記のように、熱交換器222、232、236、242、252を構成することにより、熱エネルギーを効率よく利用することができ、ガスを加熱したり冷却したりするためのエネルギー(コスト)を低減することが可能となる。
【0047】
図4は、発電装置300を説明する図である。図4に示すように、発電装置300は、ボイラ310を備えている。ボイラ310には、純水と、空気と、燃料ガスとが導入され、燃料を空気で燃焼させて、純水を沸騰させて水蒸気を生成する。なお、純水は、ヒータ302で所定の温度に加熱された後、ボイラ310に導入される。また、空気は、圧縮機304で昇圧された後、ヒータ306で所定の温度に加熱された後、ボイラ310に導入される。
【0048】
燃料ガスは、ヒータ308で所定の温度に加熱された後、ボイラ310に導入される。本実施形態において、ボイラ310には、脱メタン塔230で分離された第1混合ガスが燃料ガスとして導入される。これにより、第1混合ガスで発電することができ、エネルギーを回収することが可能となる。
【0049】
蒸気タービン314は、ボイラ310で生成された水蒸気および熱交換器122で生成された水蒸気(高圧スチーム)が有するエネルギーを電力に変換する。熱交換器122で生成された水蒸気を蒸気タービン314に導入する構成により、エネルギーを回収することができる。
【0050】
こうして、蒸気タービン314によって生成された電力は、圧縮機106、304の駆動および分離装置200の冷却に利用されることとなる。例えば、圧縮機106の消費電力は3700kW程度であり、圧縮機304の消費電力は900kW程度であり、分離装置200の消費電力は2300kW程度であるのに対し、蒸気タービン314の発電力は10300kW程度である。したがって、オレフィン製造システム100全体の消費電力を削減することができる。
【0051】
そして、ボイラ310において余剰の水蒸気は、熱交換器312で冷却された後、外部に排出され、また、蒸気タービン314を通過した水蒸気は、熱交換器316で冷却された後、外部に排出されることとなる。
【0052】
(オレフィン製造方法)
続いて、上記オレフィン製造システム100を用いたオレフィン製造方法について説明する。図5は、オレフィン製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。図5に示すように、オレフィン製造方法は、改質器110において、メタン、二酸化炭素、および、水蒸気を、一酸化炭素および水素に改質する工程(ステップS110)と、FTO反応器150において、一酸化炭素および水素から少なくともオレフィンを含む混合ガスを生成する工程(ステップS120)と、分離装置200において、得られた混合ガスから少なくともオレフィンを分離する工程(ステップS130)とを含む。
【0053】
以上説明したように、本実施形態のオレフィン製造システム100およびこれを用いたオレフィン製造方法によれば、オレフィンを効率よく製造することができる。
【0054】
(第1のシミュレーション)
オレフィン製造システム100において、二酸化炭素分離器220によって分離された二酸化炭素を改質器110で再利用しない場合(実施例1)の生産量と、再利用した場合(実施例2)の生産量と、をシミュレーションで推定した。
【0055】
図6は、第1のシミュレーションの結果を説明する図である。図6中、実施例1を黒色で、実施例2を白色で示す。図6に示すように、実施例1においては、パラフィン(C2~C4)以上にオレフィン(C2~C4)を生産できることが分かった。また、実施例2においても、パラフィン(C2~C4)以上にオレフィン(C2~C4)を生産できることが確認され、さらに、実施例1と比較して、オレフィン(C2~C4)の生産量が65%程度向上することが分かった。
【0056】
(第2の実施形態:オレフィン製造システム400)
上記第1の実施形態において、脱メタン塔230によって分離された第1混合ガスが発電装置300に導入される構成について説明した。なお、第1混合ガスを再利用することで、オレフィンの製造率をさらに向上することができる。本実施形態では、第1混合ガスを再利用して、オレフィンの製造率を向上させたオレフィン製造システム400について説明する。
【0057】
図7は、第2の実施形態のオレフィン製造システム400を説明する図である。図7に示すように、オレフィン製造システム400は、改質器110と、第1水分離器130と、FTO反応器150と、分離装置200と、発電装置300とを含んで構成される。なお、上記オレフィン製造システム100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
オレフィン製造システム400のFTO反応器150で用いられる触媒は、反応率が相対的に低いものの、オレフィンの選択率が相対的に高い触媒である。図8は、触媒における、反応率とオレフィンの選択率との関係を説明する図である。図8に示すように、FTO反応器150で利用可能な触媒の反応率およびオレフィンの選択率は、種類によって異なるが、反応率は5%以上90%以下の範囲内であり、オレフィンの選択率は25%以上90%以下の範囲内である。本実施形態において、FTO反応器150は、反応率が相対的に低いものの、オレフィンの選択率が相対的に高い触媒(図8中、ハッチングで示す)を用いる。これにより、製造率は低いものの、高純度のオレフィンを製造する(不純物を少なくする)ことができる。
【0059】
また、オレフィン製造システム400において、分離装置200を構成する脱メタン塔230(図2参照)によって分離された第1混合ガス(一酸化炭素、水素、メタン)の少なくとも一部は、ヒータ142を介して、FTO反応器150に導入される。これにより、第1混合ガスに含まれる一酸化炭素を再利用することができる。したがって、触媒の反応率が相対的に低いものの、高純度のオレフィンを効率よく製造することが可能となる。つまり、オレフィンの製造率を向上させることができる。
【0060】
(第2のシミュレーション)
FTO反応器150で用いられる触媒を、図8中黒丸で示した、反応率およびオレフィンの選択率の触媒とし、一酸化炭素の回収比を0.5として、FTO反応器150で生成される物質の選択率のシミュレーションを行った。なお、一酸化炭素の回収比は、「脱メタン塔230からFTO反応器150に返送される一酸化炭素の量/脱メタン塔230で分離された一酸化炭素の量」で定義される。
【0061】
図9は、第2のシミュレーションの結果を説明する図である。一酸化炭素の回収比を0.5とした場合、二酸化炭素(CO)の選択率(Cmol%(炭素のモル百分率))は、25Cmol%となった。メタン(C1)の選択率は、9Cmol%となった。エチレン(Ethylene)の選択率は、10.22Cmol%となった。エタン(Ethane)の選択率は、3.78Cmol%となった。プロピレン(Propylene)の選択率は、15.12Cmol%となった。プロパン(Propane)の選択率は、1.82Cmol%となった。ブチレン(Butylene)の選択率は、10.22Cmol%となった。ブタン(Butane)の選択率は、4.48Cmol%となった。炭素数が5以上の化合物(C5+)の選択率は、20.36Cmol%となった。
【0062】
以上の結果から、一酸化炭素の回収比を0.5とした場合には、オレフィン(エチレン、プロピレン、ブチレン)の選択率が相対的に高いことが確認された。
【0063】
(第3のシミュレーション)
一酸化炭素の回収比が大きくなるほど(1に近づくほど)、オレフィンの製造率は向上する。これに対し、一酸化炭素の回収比が大きくなるほど、FTO反応器150、分離装置200(脱メタン塔230)で処理するガスの量が増加する。このため、一酸化炭素の回収比が大きくなるほど、装置が大きくなり、装置のコストが増加する。
【0064】
そこで、FTO反応器150で用いられる触媒を、図8中黒丸で示した、反応率およびオレフィンの選択率の触媒とし、一酸化炭素の回収比と、内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)との関係をシミュレーションした。
【0065】
図10は、第3のシミュレーションの結果を説明する図である。図10に示すように、一酸化炭素の回収比が0.9になるまでは、回収比が高くなるに従ってIRRが大きくなる。しかし、一酸化炭素の回収比が0.9を上回ると、回収比が高くなるに従ってIRRが低下する。したがって、一酸化炭素の回収比を0.75以上0.95以下とすることにより、IRRを0.2以上とすることができる。また、一酸化炭素の回収比を0.9とすることにより、IRRを0.36まで向上させることが可能となる。
【0066】
以上の結果から、一酸化炭素の回収比を0.75以上0.95以下とすることで、オレフィン製造システム400自体のコスト、および、ランニングコストを抑えつつ、オレフィンの製造率を向上できることが確認された。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0068】
例えば、上記実施形態において、改質器110に二酸化炭素分離器220で分離された二酸化炭素が導入される構成を例に挙げて説明した。しかし、二酸化炭素分離器220で分離された二酸化炭素を改質器110に導入せずともよく、他のプロセスで利用してもよい。
【0069】
また、上記実施形態において、改質器110に脱エタン塔240で分離されたメタンが導入される構成を例に挙げて説明した。しかし、脱エタン塔240で分離されたメタンを改質器110に導入せずともよく、他のプロセス、例えば、発電装置300のボイラ310で利用してもよい。
【0070】
また、上記実施形態において、第1混合ガスを燃料ガスとして発電装置300で利用する構成を例に挙げて説明した。しかし、第1混合ガスを改質器110に導入して再利用してもよい。また、圧力スウィング吸着(PSA)法を利用して、第1混合ガスから水素を分離し、水素を改質器110に導入するとともに、メタンおよび一酸化炭素を発電装置300で利用してもよい。また、水素を発電装置300で利用するとともに、メタンおよび一酸化炭素を改質器110に導入してもよい。また、オレフィン製造システム100が発電装置300を備える構成を例に挙げて説明したが、発電装置300は必須の構成ではない。
【0071】
また、上記実施形態において、改質器110、FTO反応器150、分離装置200が予め定められた圧力範囲内に維持される構成を例に挙げて説明した。しかし、改質器110、FTO反応器150、分離装置200それぞれが異なる圧力であってもよい。
【0072】
なお、本明細書のオレフィン製造方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的な処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示は、オレフィンを製造するオレフィン製造システム、および、オレフィン製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
100 オレフィン製造システム
110 改質器
130 第1水分離器
150 FTO反応器
200 分離装置
314 蒸気タービン
400 オレフィン製造システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10