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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】印褥材
(51)【国際特許分類】
   B41K 1/54 20060101AFI20220201BHJP
   B41K 1/36 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
B41K1/54 G
B41K1/54 B
B41K1/36 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017189868
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064063
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】大竹 拓哉
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-103891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0102028(US,A1)
【文献】特開2001-096876(JP,A)
【文献】特開2001-246824(JP,A)
【文献】登録実用新案第3045240(JP,U)
【文献】特開2002-337471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/54
B41K 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に軸線方向の複数の凹条溝を有する0.1~5.0dtexの繊維で織られた布で形成した表布と、連続気泡を有するインキ含浸体とがホットメルト接着剤を介して接着一体化されていることを特徴とする印褥材。
【請求項2】
表布が、楔型の複数の隙間を有する断面形状の繊維を織った布で形成されている請求項1に記載の印褥材。
【請求項3】
表布が、ポリエチレンテレフタレート繊維を主成分とした複合糸を織った布で形成されている請求項1または2に記載の印褥材。
【請求項4】
複合糸が、ポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維を混合した0.1~5.0dtexの繊維である請求項3に記載の印褥材。
【請求項5】
インキ含浸体が、圧縮ウレタンで形成されている請求項1~4のいずれかに記載の印褥材。
【請求項6】
インキ含浸体が、ポリエステル繊維の不織布で形成されている請求項1~4のいずれかに記載の印褥材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続捺印した場合にも鮮明な捺印が継続できるようにインキを安定して供給することができる印褥材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば朱肉用パッドやスタンプ用パッドとして、特許文献1や特許文献2に示されるように、インキ含浸体と朱肉用表布を接着一体化したものが知られている。
特許文献1では、良好なインキ吐出し量を得るために、表布としてオープニングが40~60μ、メッシュが270~330メッシュの織物を用いる点が開示されている。また、前記表布の糸の材質として、ポリエステル繊維やナイロン繊維やステンレススチール等を用いることが開示されている。
【0003】
特許文献2では、印鑑の印影に対してインキを適量且つ均一に付着させて鮮明で高品質の印影を得ることができるように、連続起泡を有する弾性多孔質材製の朱肉含浸体と極細繊維からなる表布を用いる点が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載のパッド材では、表布に適量且つ均一なインキを長時間にわたって付着させておくことが難しく、連続捺印した場合にインキ不足で不鮮明あるいは不均一な捺印が生じるという問題点があった。そこで、長時間にわたって安定的に適量且つ均一なインキを付着させておくことができる新たな印褥材の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-103891号公報
【文献】特開平7-228031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決して、長時間にわたって安定的に適量且つ均一なインキを付着させておくことができて、連続捺印した場合にも不鮮明あるいは不均一な捺印が生じることを防止することができる印褥材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の印褥材は、表面に軸線方向の複数の凹条溝を有する0.1~5.0dtexの繊維で織られた布で形成した表布と、連続気泡を有するインキ含浸体とがホットメルト接着剤を介して接着一体化されていることを特徴とするものであり、これを請求項1に係る発明とする。
【0008】
好ましい実施形態によれば、前記表布が楔型の複数の隙間を有する断面形状の繊維を織った布で形成されているものがよく、これを請求項2に係る発明とする。
【0009】
その他の好ましい実施形態によれば、前記表布がポリエチレンテレフタレート繊維を主成分とした複合糸を織った布で形成されているものがよく、これを請求項3に係る発明とする。
【0010】
その他の好ましい実施形態によれば、前記複合糸がポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維を混合した0.1~5.0dtexの極細のものがよく、これを請求項4に係る発明とする。
【0011】
その他の好ましい実施形態によれば、前記インキ含浸体が圧縮ウレタンで形成されているものがよく、これを請求項5に係る発明とする。
【0012】
その他の好ましい実施形態によれば、前記インキ含浸体がポリエステル繊維の不織布で形成されているものがよく、これを請求項6に係る発明とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、表面に軸線方向の複数の凹条溝を有する0.1~5.0dtexの繊維で織られた布で形成した表布と、連続気泡を有するインキ含浸体とがホットメルト接着剤を介して接着一体化されているものとしたので、凹条溝の存在によって毛細管半径が小さくなり毛細管力が向上し、インキが常に表布に保持された状態となる。この結果、連続捺印しても印判に均一かつ十分にインキを供給することができ、鮮明な捺印を押すことが可能となる。また、凹条溝を有する繊維で織られた布で形成した表布の場合、微細な多数の隙間ができ、この隙間にホットメルト接着剤が木の根のように入り込んで接着力が高まるために表布が剥がれにくくなる。
【0014】
請求項2に係る発明では、表布が楔型の複数の隙間を有する断面形状の繊維を織った布で形成されているものとしたので、毛細管半径をより小さくして毛細管力を向上させることができ、常に表布にインキを保持された状態とすることができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、表布がポリエチレンテレフタレート繊維を主成分とした複合糸を織った布で形成されているものとしたので、強度・耐摩耗性が高く優れた耐久性を発揮することができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、複合糸がポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維を混合した0.1~5.0dtexの極細のものとしたので、ポリエチレンテレフタレート繊維により優れた耐久性を発揮し、一方、ポリアミド繊維により柔軟性を発揮して皺の発生を防止することができる。
【0017】
請求項5に係る発明では、インキ含浸体が圧縮ウレタンで形成されているものとしたので、適度なクッション性がありインキを適正な量で塗布することができ、また表面の気孔が押し潰されて接着点が増えるため剥離性能を向上させることができる。
【0018】
請求項6に係る発明では、インキ含浸体がポリエステル繊維の不織布で形成されているものとしたので、通気性が高く毛細管力が向上して、インキの流路を遮るホットメルトを多量に介しても、常に表布に適量のインキを保持することができき、捺印鮮明性と連続捺印性を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態を示す拡大断面図である。
図2】表布を構成する繊維を示す拡大図である。
図3】その他の繊維を示す拡大図である。
図4】その他の繊維を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明の印褥材は、微細な軸線方向の凹条溝を有する繊維で織られた布で形成した表布と、連続気泡を有するインキ含浸体とがホットメルト接着剤を介して接着一体化されていることを特徴とするものである。
なお、本発明でいう印褥材とは、例えば朱肉用のパッドやスタンプ用のパッド等の朱肉材や各種のインキ材を貯留するパッドを意味するものである。
【0021】
図1は、本発明に係る印褥材の実施の形態を示す拡大断面図であり、表布1とインキ含浸体2とがホットメルト接着剤3を介して接着一体化されたものである。
前記表布1は、微細な軸線方向の凹条溝を有する繊維で織られた布で形成されているが、この繊維の具体例を、図2図4に例示する。
図2は、極細の繊維10の表面に微細な軸線方向の凹条溝11を複数形成したものである。この凹条溝11の本数、形状、深さ等については任意に設計することができる。図3は、断面Y字形の繊維要素12が複数本集まって1本の繊維10が構成されており、表面に軸線方向の凹条溝11が複数形成されたものである。図4は、断面視で放射状に開いたポリアミド繊維13の各隙間にクサビ型のポリエチレンテレフタレート繊維14が配置されたもので、表面に軸線方向の凹条溝11が複数形成されたものである。
【0022】
本発明の表布1は、前記のような微細な軸線方向の凹条溝11を有する繊維10で織られた布で形成されており、微差な多数の隙間が存在することとなる。つまり、本発明の凹条溝11を有する繊維10は一般的な凹条溝がない繊維に比較して毛細管半径が小さくなるが、毛細管力は毛細管半径に反比例する。この結果、毛細管力が向上することになるため、インキが常に表布に蓄積した状態を保持できることとなる。また、凹条溝11を有する繊維10で織られた布は微細な多数の隙間が存在するので、ホットメルト接着剤による接着の際に前記隙間に接着剤が木の根のように入り込み、接着強度が高まることから表布1の剥離強度(剥がれにくさ)が向上することとなる。
【0023】
前記繊維10は、0.1~5.0dtex極細繊維が好ましく、また単体繊維でも複合糸のいずれでもよい。単体繊維の場合は、ポリエチレンテレフタレート繊維のようなポリエステル繊維が好ましい。ポリエステル繊維は、皺がよりにくく、機械的強度や耐摩耗性が高くて表布に適している。また、連通性が高く、微細繊維で二層化した場合の毛細管力も高いため表布として適している。
ただし、ポリエステル繊維はストレッチ性が乏しい点が不利である。そのため、ストレッチ性を高めるように、ポリアミド繊維を混合した複合糸を用いて表布を織ることが好ましい。
【0024】
特に図4に示すように、断面視で放射状に開いたポリアミド繊維13の各隙間に、クサビ型のポリエチレンテレフタレート繊維14が配置された構造の繊維10は、皺がよりにくく、機械的強度や耐摩耗性が高く、しかもストレッチ性にも優れており表布に適している。また、ポリアミド繊維13とポリエチレンテレフタレート繊維14間の微細な隙間にインキを蓄積することができるので、連続捺印しても印判に均一かつ十分にインキを供給して不鮮明あるいは不均一な捺印が生じることを確実に防止することができる。
【0025】
前記連続気泡を有するインキ含浸体2は、一般的なスポンジや不織布を用いることができる。更に、本発明ではインキ含浸体2として、圧縮ウレタンやポリエステル繊維の不織布を用いる。圧縮ウレタンの場合は、圧縮をかけることによって適度なクッション性が生じ捺印時に適正なインキ塗布量を保持することができ好ましい。また、圧縮により表面の気孔が押し潰され接着剤の接着点が増えて表布1の剥離強度を向上させることができ好ましい。一方、ポリエステル繊維の不織布の場合は、セル形状に比べて連通性が高いため、毛細管力が向上してインキの供給能力を高められるので好ましい。なお、インキ含浸体2の気孔率は、70~90%が好ましい。
【0026】
前記インキ含浸体2に含浸させるインキ成分は、一般的なヒマシ油系の油性顔料や朱肉であるが、油性/水性、顔料/染料は問わない。油性顔料の500~5000Pas・S(60rpm・25℃)が好ましい。
【0027】
前記ホットメルト接着剤3は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ウレタン、酢酸ビニル、塩化ビニル等の熱可塑性樹脂の単体若しくは誘導体若しくはこれの樹脂変性体など、一般的なホットメルト素材を用いることができる。
また、ホットメルト接着剤3は、例えば網目形状のものを用いて、表布の縦と横の繊維の交差部等に付着させてインキの流通性を確保するように塗布するのが原則であるが、その他、接着剤が点状にプリントされた通気性のあるシートを介在させて接着することもできる。
【0028】
[実施例]
表1に示すポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維を複合した極細の複合糸(図4の繊維構造)を織った布で形成されている表布と、圧縮ウレタンからなるインキ含浸体を、ホットメルト接着剤で接着一体化した印褥材を得た(実施例1)。また、同様の表布と、ポリエステル繊維の不織布からなるインキ含浸体を、ホットメルト接着剤で接着一体化した印褥材を得た(実施例2)。また、ポリエチレンテレフタレート繊維を織った布で形成されている表布と、圧縮ウレタンからなるインキ含浸体を、ホットメルト接着剤で接着一体化した印褥材を得た(実施例3)。
一方、比較例として、ナイロン糸や綿糸を織った布で形成されている表布を用いた印褥材を得た(比較例1~3)。
【0029】
三文判等の市販の印鑑を内部に装着し、回転蓋が閉蓋状態にある時には印鑑の印面に印褥材が接触し、捺印時には捺印動作と連動して回転蓋が回転して、開蓋状態となって印面を開放する構成の印鑑ケース(シヤチハタ製:商品名「ハンコベンリ」)に、上記手法で得られた印褥材を内蔵させて捺印試験を実施した。1~50回目までの捺印を初期捺印として、得られた印影が鮮明であるか否かを目視により検査した。一方、100回連続して捺印し、それ以降に得られた印影を連続捺印として、鮮明であるか否かを目視により検査した。
また、印褥材に反りが発生しているか否か、1000回捺印後の表布に表面しわが生じているか否かを目視により検査し、更に、表布の剥離強度は十分に高いか否かを検査員が表布を引っ張った感覚で検査した。また、インキ含浸体にインキを含浸させた後に反りが生じているか否かを目視により検査した。
この結果、表1に示すように、連続捺印後において、比較例1~3のものは擦れが生じるのに対し、実施例1~3のものは鮮明な捺印が得られることが確認できた。また、実施例1~3のものは反りの発生の有無、表面しわの発生の有無、表布の剥離強度の強さ、インキ含浸体の反りの発生の有無についても全て満足できることが確認できた。
また、上記の印褥材は、回転蓋が閉蓋状態にある時に、印鑑の印面に印褥材が接触する前記の印鑑ケースのみならず、印鑑を収納したケース本体と、このケース本体に被冠する朱肉を収納したキャップとからなる朱肉付き印鑑ケースであって、必要に応じてキャップのボタンを押すことにより、朱肉を印鑑側へ移動させて印面にインキを付着させる機構を備える印鑑ケース(シヤチハタ製:商品名「印鑑式ツインネーム」)用の印褥材としても適用ができる。
【0030】
【表1】
【符号の説明】
【0031】
1 表布
2 インキ含浸体
3 ホットメルト接着剤
10 繊維
11 凹条溝
12 繊維要素
13 ポリアミド繊維
14 ポリエチレンテレフタレート繊維
図1
図2
図3
図4