(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ボールねじ装置、及び該ボールねじ装置を備えた機械設備
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20220201BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20220201BHJP
G01M 13/02 20190101ALI20220201BHJP
【FI】
F16H25/24 E
F16H25/22 Z
G01M13/02
(21)【出願番号】P 2018034360
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小椋 一成
(72)【発明者】
【氏名】荒井 義博
(72)【発明者】
【氏名】堀 伸充
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
G01M 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ軸と、前記ボールねじ軸に組みつけられるナットと、を有するボールねじ装置において、
前記ボールねじ軸に組みつけられたナットの前記ボールねじ軸上の機械座標位置を取得する座標取得手段と、
前記ナットに取り付けられ、前記ボールねじ軸に生じた剥離状態を、当該剥離位置におけるナットに生じる現象として捕らえるナット情報検出手段と、
前記ナット情報検出手段により検知した前記ナットに生じる現象に基づいて剥離状態の有無や程度を判断する剥離状態検出部と、
前記ボールねじ軸の軸方向位置毎の剥離状態の情報をボールねじ軸全体として記録するボールねじ軸状態記録部と、
前記ボールねじ軸状態記録部の情報をもとに、前記ボールねじ軸の剥離状態を評価する剥離評価部
と、
ボールねじ軸の作動状態に起因して前記ナット情報検出手段における前記ナットに生じる現象への影響または剥離状態検出部による剥離状態検出情報への影響の関係性を予め記憶させておく情報記憶装置と、
前記剥離評価部における前記ボールねじ軸の剥離状態の評価情報をもとに警報をだす警報部と、を有し、
前記ボールねじ軸の作動状態とはボールねじ軸の回転速度である、ボールねじ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のボールねじ装置であって、
前記剥離状態の評価情報は、剥離発生個所の範囲量または剥離の変化量であり、前記警報部は、前記範囲量または変化量が所定の閾値を超えた場合に警報を出す、ボールねじ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置であって、
前記ナット情報検出手段はナットの振動情報を取得するナットセンサである、ボールねじ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のボールねじ装置であって、
前記ナットの振動情報は振動の大きさである、ボールねじ装置。
【請求項5】
ボールねじ軸と、前記ボールねじ軸に組みつけられるナットと、を有するボールねじ装置において、
前記ボールねじ軸に組みつけられたナットの前記ボールねじ軸上の機械座標位置を取得する座標取得手段と、
前記ナットに取り付けられ、前記ボールねじ軸に生じた剥離状態を、当該剥離位置におけるナットに生じる現象として捕らえるナット情報検出手段と、
前記ナット情報検出手段により検知した前記ナットに生じる現象に基づいて剥離状態の有無や程度を判断する剥離状態検出部と、
前記ボールねじ軸の軸方向位置毎の剥離状態の情報をボールねじ軸全体として記録するボールねじ軸状態記録部と、
前記ボールねじ軸状態記録部の情報をもとに、前記ボールねじ軸の剥離状態を評価する剥離評価部と、
ボールねじ軸の作動状態に起因して前記ナット情報検出手段における前記ナットに生じる現象への影響または剥離状態検出部による剥離状態検出情報への影響の関係性を予め記憶させておく情報記憶装置と、を有し、
前記ナット情報検出手段はナットの振動情報を取得するナットセンサであり、
前記ボールねじ軸の作動状態とはボールねじ軸の回転速度である、ボールねじ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のボールねじ装置であって、
前記ナットの振動情報は振動の大きさである、ボールねじ装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかの請求項に記載のボールねじ装置であって、
前記ボールねじ軸の剥離状態を評価する剥離評価部による評価が前記ボールねじ軸の全長に亘って剥離現象を示す評価の場合には、当該剥離評価部により前記ナットが剥離現象を生じていると評価する、ボールねじ装置。
【請求項8】
請求項1に記載のボールねじ装置を備えた機械設備であって、
請求項1に記載のボールねじ装置におけるボールねじ軸状態記録部に記録されるボールねじ軸の位置毎の剥離状態の情報がボールねじ軸全体として図形により視覚表示されるモニタを有する機械設備。
【請求項9】
請求項8に記載の機械設備であって、
前記モニタには、請求項1に記載の警報部により警報される際の情報も視覚表示される機械設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置、及び該ボールねじ装置を備えた機械設備に関する。特に、ボールねじ軸に生じる剥離現象の有無を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンター等の工作機械設備にはボールねじ装置を備える。ボールねじ装置は、ボールねじ軸と、このボールねじ軸に組みつけられるナットとを備える。ボールねじ軸の外周面及びナットの内周面にはボール循環路が形成されており、循環路にボールが配設される。ボールねじ軸の回転により循環路をボールが循環し、ナットがボールねじ軸上を軸方向に移動する。これによりナットと一体的とされている工作機械のサドル、コラム、テーブル等の移動体が移動する。
【0003】
この様に工作機械設備において直線移動要素に使用されるボールねじ装置は、回転運動を直線運動に変化する機械要素である。このボールねじ装置には、ボールとボールが接触するボールねじ軸及びナット軌道面の接触部において、疲労寿命や異物の侵入による剥離が発生する。特に、ボールねじ軸に剥離が発生する傾向が強い。剥離現象は一般的に剥離の初期状態ではピッティングと称され、剥離が進んだ状態ではフレッティングと称される。
【0004】
ボールねじ装置は、ボールねじ軸とナットの相対位置が常に変化するため、特に、ボールねじ軸に生じた剥離については発生初期状態での検出が困難になっている。このため、剥離現象により工作機械設備における加工精度不良や異音の発生が確認できた段階では、緊急でボールねじ装置の交換を実施しなければならないという問題を生じていた。
【0005】
このため従来からボールねじ装置におけるボールねじ軸に生じる剥離等の異常を検出する方法として、下記特許文献で示すような提案がある。例えば、ボールが接触するボールねじ軸の接触部位の面の変位を、検出センサにより直接に計測して検出する方法がある(下記特許文献1,2参照)。また、ナットの振動を検出し、ある範囲の周波数成分を抽出し、ボール通過周期の標準偏差に基づいて異常の有無を判断する方法がある(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-12209号公報
【文献】特開2007-333195号公報
【文献】特開2009-257806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、剥離現象は、その剥離初期には、異音や目立った加工精度不良となって現れないため、剥離の発生、進行に気づきにくい。剥離現象は発生個所周りを基点に広がっていき、異音や明らかな加工精度不良となって現れる頃には、剥離は広がっていることが多い。
【0008】
そこで、本発明者らは、剥離現象を範囲で評価することに着目して、剥離の広がり・進行を検知することによりボールねじ軸の寿命の予測や、交換のタイミングを把握することを考えた。
【0009】
而して、本発明は上記した点に鑑みて創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、ボールねじ軸に生じる剥離の進行状態を把握するために、当該剥離の進行状態をナットに生じる現象から捕えて、ボールねじ軸の剥離状態を評価することを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は次の手段をとる。
【0011】
本発明の第1の発明は、ボールねじ軸と、前記ボールねじ軸に組みつけられるナットと、を有するボールねじ装置において、前記ボールねじ軸に組みつけられたナットの前記ボールねじ軸上の機械座標位置を取得する座標取得手段と、前記ナットに取り付けられ、前記ボールねじ軸に生じた剥離状態を、当該剥離位置におけるナットに生じる現象として捕らえるナット情報検出手段と、前記ナット情報検出手段により検知した前記ナットに生じる現象に基づいて剥離状態の有無や程度を判断する剥離状態検出部と、前記ボールねじ軸の軸方向位置毎の剥離状態の情報をボールねじ軸全体として記録するボールねじ軸状態記録部と、前記ボールねじ軸状態記録部の情報をもとに、前記ボールねじ軸の剥離状態を評価する剥離評価部と、を有するボールねじ装置である。
【0012】
上記第1の発明によれば、座標取得手段によりボールねじ軸に組みつけられたナットのボールねじ軸上の機械座標位置を取得する。すなわち、ボールねじ軸に嵌合するナットの位置を把握する。そして、ナットに取り付けられたナット情報検出手段により、ボールねじ軸に生じた剥離状態を、当該剥離位置におけるナットに生じる現象として捕らえる。そして、剥離状態検出部によりナット情報検出手段により検知したナットに生じる現象に基づいて剥離状態の有無や程度を判断する。そして、ボールねじ軸状態記録部によりボールねじ軸の軸方向位置毎の剥離状態の情報をボールねじ軸全体として記録する。そして、剥離評価部により剥離状態の有無や程度を判断する剥離状態検出部とボールねじ軸状態記録部との情報をもとに、ボールねじ軸の剥離状態を評価する。これにより、軸方向位置毎の剥離状態の情報を把握できるので、ボールねじ軸表面に生じた剥離現象の広がりの様子を把握でき、より適切なタイミングでの交換の判断やボールねじ軸の寿命予測が行いやすくなる。
【0013】
本発明の第2の発明は、上記した第1の発明のボールねじ装置であって、更に、ボールねじ軸の作動状態に起因してナット情報検出手段におけるナットに生じる現象への影響または剥離状態検出部による剥離状態検出情報への影響の関係性を予め記憶させておく情報記憶装置と、を有するボールねじ装置である。
【0014】
上記第2の発明によれば、更に、情報記憶装置を有し、ナット情報検出手段によるナットに生じた現象又は剥離状態検出部による剥離状態検出情報とボールねじ軸の作動状態との関係性を予め記憶させておく。これにより、ボールねじ軸の作動状態に起因する、ナットに生じた現象への影響または剥離状態検出情報への影響を考慮して剥離状態の評価ができるので、より的確に剥離状態の有無や程度を判断できる。
【0015】
本発明の第3の発明は、上記した第1の発明又は第2の発明のボールねじ装置であって、更に、前記剥離評価部における前記ボールねじ軸の剥離状態の評価情報をもとに警報をだす警報部と、を有するボールねじ装置である。
【0016】
上記第3の発明によれば、更に、警報部を備え、前述の剥離評価部におけるボールねじ軸の剥離状態の評価情報をもとに警報を出す。これにより、ボールねじ軸の剥離状態の評価が、ボールねじ装置を修理ないし交換すべき状態にある旨の異常状態にあることを知得することができる。
【0017】
本発明の第4の発明は、上記した第3の発明のボールねじ装置であって、 前記剥離状態の評価情報は、剥離発生個所の範囲量または剥離の変化量であり、前記警報部は、前記範囲量または変化量が所定の閾値を超えた場合に警報を出す、ボールねじ装置である。
【0018】
上記第4の発明によれば、ボールねじ軸の軸方向の剥離の範囲量と、剥離の変化量の少なくともいずれかにより警報の評価は行われ、且つ、これらの数値が所定の閾値を超えた場合に警報される。これにより確実に警報が行われる。なお、剥離の範囲量とは剥離が生じたと判断される面積の大きさ、すなわち軸方向長さであり、変化量とは剥離現象の進行スピードを意味する。
【0019】
本発明の第5の発明は、上記した第1の発明から第4の発明のいずれかの発明のボールねじ装置であって、前記ナット情報検出手段はナットの振動情報を取得するナットセンサである、ボールねじ装置である。
【0020】
上記第5の発明によれば、ナットの振動情報を取得するナットセンサによりボールねじ軸の剥離状態をナットに生じる現象として検出する。これにより、ボールねじ軸の剥離状態の有無を確実に把握することができる。
【0021】
本発明の第6の発明は、上記した第5の発明のボールねじ装置であって、前記ナットの振動情報は振動の大きさである、ボールねじ装置である。
【0022】
上記第6の発明によれば、剥離状態はナットの振動情報の振動の大きさとして現われるので、振動の大きさの違いにより剥離状態の有無を把握することができる。
【0023】
本発明の第7の発明は、上記した第2の発明に従属する第3の発明から第6の発明のいずれかの発明のボールねじ装置であって、前記ボールねじ軸の作動状態とはボールねじ軸の回転速度である、ボールねじ装置である。
【0024】
上記第7の発明によれば、ボールねじ軸の作動状態とはボールねじ軸の回転速度であり、その回転速度により制御されて、ナットはボールねじ軸上を移動する。そして、ボールねじ軸に生じた剥離現象は回転速度に応じた振動振幅として検出される。すなわち、ナットの振動は剥離状態だけでなく、回転速度にも起因して変化する。このため剥離の有無、程度を判定する際に回転速度の影響を考慮して判定することで、より正確な剥離状態を判定することができる。
【0025】
本発明の第8の発明は、上記した第1の発明から第7の発明のいずれかの発明のボールねじ装置であって、前記ボールねじ軸の剥離状態を評価する剥離評価部による評価が前記ボールねじ軸の全長に亘って剥離現象を示す評価の場合には、当該剥離評価部により前記ナットが剥離現象を生じていると評価とする、ボールねじ装置である。
【0026】
上記第8の発明によれば、ボールねじ軸の全長に亘って剥離現象を示す評価の場合には、ナットが剥離現象を生じていると評価として、ナットに生じた剥離状態を把握する。すなわち、ナットの振動要因がボールねじ側の剥離に起因する場合、軸方向位置によって剥離の有無や程度に差があるため、軸方向位置が変われば振動の有無の変化となって現れる。ナット側に剥離・損傷が起きている場合、軸方向位置に関わらず振動要因となり、振動が起き続けるので、ナット側の剥離であることを推測できる。
【0027】
本発明の第9の発明は、上記した第1の発明のボールねじ装置を備えた機械設備であって、上記したボールねじ装置におけるボールねじ軸状態記録部に記録されるボールねじ軸の位置毎の剥離状態の情報がボールねじ軸全体として図形などで視覚表示されるモニタを有する機械設備である。
【0028】
上記第9の発明によれば、ボールねじ装置を備えた機械設備には図形などで視覚表示されるモニタを有するため、ボールねじ軸の位置毎の剥離状態を視覚で確認することができる。
【0029】
本発明の第10の発明は、上記した第9の発明の機械設備であって、前記モニタには、上記した第3の発明における警報部により警報される際の情報が視覚表示される機械設備である。
【0030】
上記第10の発明によれば、第3の発明における警報部により警報される際の情報は第8の発明におけるモニタによっても表示されるので、警報状態が確実に知らされる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ボールねじ軸に生じる剥離の進行状態を把握するために、当該剥離の進行状態をナットに生じる現象から捕えて、ボールねじ軸の剥離状態を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態のボールねじ装置を示す概略全体構成図である。
【
図2】ボールねじ軸とナットの組み合わせ構成を示す断面図である。
【
図3】ボールねじ軸に剥離が生じた場合のナットセンサにより検知される振動情報を示す波形図である。
【
図4】モニタに視覚表示される剥離状況マップである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態はマシニングセンター等の工作機械設備に備えられたボールねじ装置の場合である。
【0034】
図1はマシニングセンター等の工作機械設備12に備えられたボールねじ装置10の概略全体構成図を示す。ボールねじ装置10は工作機械設備12における移動体14を移動させるための装置として備えられる。工作機械設備12の移動体14としては、テーブル、コラム、サドル等である。なお、ボールねじ装置10は工作機械設備におけるX軸、Y軸、Z軸等の各軸の作動機構として複数個備えられる。
【0035】
ボールねじ装置10は、回転運動を直線運動に変化する機械要素として、ボールねじ軸16とナット18を備え、ボールねじ軸16の回転によりナット18がボールねじ軸16上を軸方向に移動する。本実施形態ではナット18の移動範囲は
図1にLの範囲として示されている。その移動範囲における左右端のナット18の位置状態が仮想線で示されている。
【0036】
ナット18には移動体14が連結部材15を介して連結されており、ナット18の軸方向移動に伴って移動する。ボールねじ軸16は、その両端に設置されたサポート軸受20,22により回転可能に支持されている。サポート軸受20,22は工作機械設備12の基盤24上に設置されている。
【0037】
図1で見て右側のサポート軸受22にはサーボモータ26が配設されており、ボールねじ軸16を回転駆動する。サーボモータ26の回転速度を制御することによりボールねじ軸16を移動するナット18の軸方向移動速度を制御する。サーボモータ26の回転速度の制御はNC装置38からの指令により行われる。
【0038】
図2は、ボールねじ軸16とナット18の組み合わせ構成の詳細を示す。ボールねじ軸16の外周面にはボール軌道V溝28が螺旋状に形成されている。これに対応してナット18の内周面にはボール軌道V溝30が螺旋状に形成されている。このボールねじ軸16のボール軌道V溝28とナット18のボール軌道V溝30との間に複数個のボール32が介在されている。そして、ボールねじ軸16の回転によりボール32が循環することにより、ナット18が軸方向に移動する。なお、ボールねじ軸16の外周面に形成されるボール軌道V溝28の範囲は、
図1にLで示すナット18の移動範囲であるが、ボールねじ軸16の全長に亘って形成してもよい。本実施形態では全長に亘って形成されている。また、ボール軌道V溝28、30の断面V形状は断面半丸形状であってもよい。
【0039】
上述のように構成されたボールねじ装置10においては、ボール32の循環によるボールねじ軸16の疲労寿命や、ナット18との間の異物の侵入により、ボールねじ軸16のボール軌道V溝28に剥離現象を生じる。剥離現象は、背景技術でも述べたように、一般にはピッティングとかフレッティングと称されるものである。なお、剥離現象はナット18のボール軌道V溝30にも生じることがあるが、ボール32に対してトルクを付与する側のボールねじ軸16側に顕著に生じる傾向がある。
【0040】
ボールねじ装置10に生じる剥離の発生状況を、本実施形態では次の様にして監視して剥離状態を評価し、製品の精度不良や、機械停止による生産の停止以前に、交換警報(交換警告、交換指示)を正確に示すようにした。
【0041】
先ず、
図1に示すように、ナット18にナット情報検出手段34を備える。ナット情報検出手段34はボールねじ軸16に生じた剥離状態を、当該剥離が生じた位置において嵌合しているナット18に生じる現象として捕らえる検出手段である。本実施形態ではナットセンサ36であり、ボールねじ軸16に生じた剥離状態を、ナット18に生じる振動現象として捕らえる。ナットセンサ36は例えばナット18に取り付けられてボールねじ軸16の表面との距離を計測する変位センサなどである。ナット18は、ボールねじ軸16の移動範囲Lを運動するため、ボールねじ軸16のボール軌道V溝28に発生する剥離箇所を必ず通過して剥離を振動の振幅の大きさとして検知する。
【0042】
ナット情報検出手段34であるナットセンサ36により検出された振動情報に基づいて、剥離状態検出部35により剥離状態の有無や程度(レベル)を判断する。
【0043】
ナットセンサ36は、
図3のDで示すように、剥離現象が生じたボールねじ軸16の位置では、
図3のNで示す剥離現象が生じていないボールねじ軸16の位置における振動振幅より大きな振動振幅となる。これにより剥離現象の有無を検知することができる。すなわち、振動振幅の大きさが剥離現象が生じたとみなされる閾値Kを超えたとき、剥離状態が生じたと判断する。なお、後述するように、ボールねじ軸16の回転速度によって振動振幅の大きさは変動し、それに伴って閾値Kも変動する。
【0044】
次に、NC装置38からサーボモータ26への速度(回転速度)指令に基づいて、速度情報も取得する。また、座標取得手段40によりボールねじ軸16に組みつけられたナット18のボールねじ軸16上の機械座標位置を取得する。すなわち、ナット18の位置をNC装置38の機械座標から求めることで、ボールねじ軸16のボール軌道V溝28に発生した剥離の位置が求まり、ボールねじ軸16に対するナット18の位置を検出する。また、NC装置38からの情報に基づいて、速度情報も取得する。
【0045】
なお、予め情報記憶装置によりナット情報検出手段34であるナットセンサ36とボールねじ軸16の作動状態であるボールねじ軸16の回転速度との関係性を、予め取得した情報から記憶させておく。ナットセンサ36により検出される剥離が生じた場合の振動振幅の大きさは、ボールねじ軸16の回転速度(ナット18の軸移動速度)に依存するため、予め取得した情報からその関係を記憶させておく。そして、後述する剥離評価部46における剥離状態の評価に際して、警報の評価をする際の基準値(閾値)をボールねじ軸16の回転速度に応じて変動させて決定する。
【0046】
なお、ナットセンサ36とボールねじ軸16の作動状態であるボールねじ軸16の回転速度との関係性は、例えば、回転速度と剥離の程度を変化させたときにナットの振動の大きさがどう変化するかを事前に実験で求めておき、その実験データを関係性を示すデータベースとして用いる。また、論理式やシミュレーション結果に基づくものであってもよい。
【0047】
次に、ボールねじ軸状態記録部44によりボールねじ軸16の位置毎の剥離状態の情報をボールねじ軸全体として記録する。すなわち、
図3の状態をデータとしてボールねじ軸状態記録部44に記録する。
【0048】
そして、剥離評価部46により情報記憶装置42とボールねじ軸状態記録部44との情報をもとに、ボールねじ軸16の剥離状態を評価する。剥離評価部46の評価は、ボールねじ軸16及びナット18に生じた剥離現象の異常状態のレベル評価を行う。剥離評価部46による評価は、剥離発生範囲の大きさや、時間当たりの剥離範囲の変化量や、振動振幅の大きさ等を考慮して行う。
【0049】
なお、上述の剥離評価部46の評価において、ボールねじ軸16の全長に亘って剥離現象を示す評価の場合には、ボールねじ軸16に剥離現象が生じていると評価するのではなく、当該剥離評価部46によりナット18に剥離現象を生じていると評価とする。これによりナット18に生じた剥離状態も検知することができる。
【0050】
これは、ナットの振動要因がボールねじ側の剥離に起因する場合、軸方向位置によって剥離の有無や程度に差があるため、軸方向位置が変われば振動の有無の変化となって現れる。しかし、ナット側に剥離・損傷が起きている場合、軸方向位置に関わらず振動要因となり、振動が起き続けるので、ナット側の剥離であることを推測できるためである。
【0051】
次に、剥離評価部46による評価に基づいて、警報部48により警報を出す。警報は、剥離評価部46による剥離状態の評価において、ボールねじ装置の交換を必要とする状態となったときに出される。警報は音声による警報方法や視覚表示による警報方法がある。これらの警報より、ボールねじ軸16の剥離状態の評価が異常状態にあることを知得する。なお、警報の評価は前述した剥離評価部46の評価における剥離発生範囲の大きさや、時間当たりの剥離範囲の変化量や、振動振幅の大きさ等を総合評価して、予め定められた基準値(閾値)を超えたとき出される。
【0052】
なお、ボールねじ軸16に生じる剥離は、通常狭い範囲で発生し、運転の継続により成長し広がる。実務上は、この剥離の広がりの進行状態を考慮して警報が出される。工作機械設備12におけるボールねじ装置10の交換等の修理には、交換部品の入手・調達に必要な日数と、交換作業に必要な作業時間などで、通常数日要する。警報を出すタイミングは、交換部品の入手・調達に必要な日数と、交換作業に必要な作業時間を考慮し、交換作業を行うタイミングが工場の非稼働日になるようにすることで、交換作業が生産計画に与える影響を小さくできて好ましい。この様に必要に応じて予兆管理も行われる。
【0053】
本実施形態の警報は、
図4に示すように視覚表示で行われており、
図1の工作機械設備12に備えられるNC装置38のモニタ50に表示されて行われる。本実施形態では、
図4に示すようにボールねじ軸装置10の「交換警告」又は/及び「交換指示」の表示を点灯させることにより行われる。
【0054】
なお、モニタ50には、本実施形態では、ボールねじ軸状態記録部44に記録されるボールねじ軸16の軸方向位置毎の剥離状態の情報がボールねじ軸全体として図形などで視覚表示される。すなわち、ボールねじ軸16の剥離状態の評価状態が視覚表示される。
図4の視覚表示は、ボールねじ軸16の剥離状況マップを示す。当該マップはボールねじ軸16の全長が図示されており、剥離が生じた位置に対応する個所が線図として図示されている。これにより剥離が生じた位置と範囲の大きさ(ボールねじ軸に生じた剥離の軸方向長さ)、及び剥離の進行スピード(変化量)を知ることができる。
【0055】
また、モニタ50には、剥離状態の観測経緯が表示される。観測経緯は、観測1、観測2、観測3として順次表示される。例えば、観測1は工作機械設備の設置の6か月後、観測2は1年後、観測3は1年半後の状態を示す。なお、観測3では新たに剥離が生じたことも示されている。この観測経緯によりそれぞれの時期における剥離範囲の大きさ及び進行スピード(変化量)を知ることができる。そして、観測3で剥離の大きさ(範囲面積)が所定の面積(閾値)を超えたとき警報を発する。また、観測3までの剥離を生じる進行スピード(変化量)が次の工場休暇の前に閾値を超えると判断されるときにも警報を発する。
【0056】
なお、軸方向部位毎の剥離の有無だけでなく、色の濃淡で軸方向部位毎の剥離の進行具合を表示してもよい。例えば、剥離初期の機械動作へあまり影響しない段階の軽微な剥離は薄い色で表示し、剥離が進行し機械動作に影響が懸念されたりボールネジ交換を検討する段階の大きな剥離は濃い色で表示する。また、図表示でなく、数字表示で剥離の程度を表示してもよい。
【0057】
以上、本発明を特定の実施形態について説明したが、本発明はその他各種の形態でも実施できる。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、ナット情報検出手段34はナット18の振動情報を検出するナットセンサ36であるが、ボールねじ軸16に生じた剥離現象をナット18に生じる現象として捕らえることのできる手段であればよい。例えば、ナットに加わるボールからの荷重などであってもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、ボールねじ装置をマシニングセンター等の工作機械設備12に適用された場合について説明したが、工作機械以外の設備に適用する場合であってもよい。
【0060】
また、上述した実施形態において、情報記憶装置42におけるボールねじ軸16の作動状態との関係性は必ずしも必要ではない。すなわち、ボールねじ軸16の回転数(回転速度)が一定であれば、回転数の影響を受けずにナットセンサ36が検知した振動情報から剥離状態を推定することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 ボールねじ装置
12 工作機械設備
14 移動体
15 連結部材
16 ボールねじ軸
18 ナット
20 サポート軸受
22 サポート軸受
24 基盤
26 サーボモータ
28 (ボールねじ軸側の)ボール軌道V溝
30 (ナット側の)ボール軌道V溝
32 ボール
34 ナット情報検出手段
35 剥離状態検出部
36 ナットセンサ
38 NC装置
40 座標取得手段
42 情報記憶装置
44 ボールねじ軸状態記録部
46 剥離評価部
48 警報部
50 モニタ