(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】スポーツ用重衣料用織物及びスポーツ用重衣料
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20220201BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20220201BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20220201BHJP
【FI】
D03D1/00 Z
A41D31/00 502B
A41D31/00 503G
D03D15/283
(21)【出願番号】P 2018068395
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智也
(72)【発明者】
【氏名】富岡 喜昭
(72)【発明者】
【氏名】明石 國弘
(72)【発明者】
【氏名】成田 道哉
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102427(JP,A)
【文献】特開平07-150429(JP,A)
【文献】実開平02-132683(JP,U)
【文献】特開2003-301348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00
A41D 31/00
D03D 15/283
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維から成るスポーツ用重衣料用織物であって、
質量が450g/m
2以上であり、
10cm×10cm片を、気温20℃、相対湿度65%の空間で吊り干しした際に、含水率が12%から1%以下になるまでの時間が70分以内であり、
JIS L 0217 103法に準拠したタンブル乾燥した場合の寸法変化率が、縦横いずれも±1.5%以内である、ことを特徴とするスポーツ用重衣料用織物。
【請求項2】
たて方向の引張強さは3000N以上、よこ方向の引張強さは2500N以上であり、
たて方向の引裂強さは250N以上、よこ方向の引裂強さは300N以上である、ことを特徴とする請求項1に記載のスポーツ用重衣料用織物。
【請求項3】
10cm×10cm片を、気温20℃、相対湿度65%の空間で吊り干しした際に、含水率が24%から1%以下になるまでの時間が110分以内であることと特徴とする請求項1または2に記載のスポーツ用重衣料用織物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のいずれかのスポーツ用重衣料用織物を用いたことを特徴とするスポーツ用重衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔道衣等のスポーツ用重衣料用織物等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柔道衣等のスポーツ用重衣料には主として綿を多く含む材料が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。材料が主として綿を多く含むものであり、かつ生地も厚手のものであるため、スポーツ用重衣料は、洗濯後に干して乾かす際に長い時間がかかってしまう上、洗濯による寸法変化率が大きいといった欠点がある。
【0003】
柔道等のスポーツを毎日練習する学生にとっては、1着は決して安い買い物ではなく、少ない枚数を洗って着回したいであろうが、上記問題により洗うタイミング・周期に制約が生じてしまう。また、採寸に用いる柔道衣等のスポーツ用重衣料については、寸法変化が大きい為に、洗濯を重ねると正しい寸法が測れないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされた。すなわち、本発明の目的は、速乾性があり、かつ寸法変化も小さいスポーツ用重衣料織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)ポリエステル繊維から成るスポーツ用重衣料用織物であって、質量が450g/m2以上であり、10cm×10cm片を、気温20℃、相対湿度65%の空間で吊り干しした際に、含水率が12%から1%以下になるまでの時間が70分以内であり、JIS L 0217 103法に準拠したタンブル乾燥した場合の寸法変化率が縦横いずれも±1.5%以内である、ことを特徴とする。
(2)たて方向の引張強さは3000N以上、よこ方向の引張強さは2500N以上であり、たて方向の引裂強さは250N以上、よこ方向の引裂強さは300N以上である、ことを特徴とする(1)に記載のスポーツ用重衣料用織物。
(3)10cm×10cm片を、気温20℃、相対湿度65%の空間で吊り干しした際に、含水率が24%から1%以下になるまでの時間が110分以内であることと特徴とする(1)または(2)に記載のスポーツ用重衣料用織物。
(4)(1)から(3)のいずれか1つに記載のいずれかのスポーツ用重衣料用織物を用いたことを特徴とするスポーツ用重衣料。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、洗濯後に乾き易い特性を持ち、かつ収縮も少ない特性を持つ、例えば柔道等のスポーツ用重衣料用織物の実現が可能となる。この生地から作られるスポーツ用重衣料は、洗濯しても乾き易く、かつ寸法変化も少ないため、頻繁に洗濯する練習着や、寸法変化が大きな問題となる採寸用などに便利なものとなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1および比較例1の織物の含水率推移のグラフを示す図である。
【
図2】実施例2および比較例2の織物の含水率推移のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細を以下にて説明する。しかし、本発明は下記によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0010】
本発明のスポーツ用重衣料用織物は、ポリエステル繊維から成り、質量が450g/m2以上であり、10cm×10cm片を、気温20℃、相対湿度65%の空間で吊り干しした際に、含水率が12%から1%以下になるまでの時間が70分以内であり、JIS L 0217 103法に準拠したタンブル乾燥した場合の寸法変化率が縦横いずれも±1.5%以内である。
【0011】
本発明のスポーツ用重衣料用織物は、ポリエステル繊維から成り、質量が450g/m2以上であり、好ましくは600g/m2以上である。450g/m2以上であることにより、重衣料としての性能が確保しやすくなるが、重量は使用する衣料によって適切なものを用いればよい。単位面積当たりの質量は、JIS L 1096 A法を用いて測定できる。
【0012】
本発明のスポーツ用重衣料用織物は、上記含水率が12%から1%以下になるまでの時間が70分以内であり、好ましくは60分以内、さらに好ましくは55分以内である。上記含水率が12%から1%以下になるまでの時間が70分以内であることにより、速乾性に優れる。よって、本発明のスポーツ用重衣料用織物は、生地も厚手の重衣料であってもすぐ乾き、洗濯後に干して乾かす際に長い時間がかからないため、使用者の利にかなう。含水率の測定については後述する。
また、上記含水率が24%から1%以下になるまでの時間が110分以内、好ましくは、100分、より好ましくは95分である。
【0013】
本発明のスポーツ用重衣料用織物は、上記寸法変化率が縦横いずれも±1.5%以内であり、好ましくは1%以内である。寸法変化率が縦横いずれも±1.5%以内であることにより、洗濯によって寸法変化しにくく、使用者の利にかなう。寸法変化率の測定については後述する。
【0014】
本発明のスポーツ用重衣料用織物は、たて方向の引張強さは2500N以上、好ましくは3000以上、よこ方向の引張強さは2000N以上、好ましくは2500N以上である。また、本発明のスポーツ用重衣料用織物は、たて方向の引裂強さは200N以上、好ましくは250N以上、よこ方向の引裂強さは250N以上、好ましくは300N以上である。なお、引張強さは、JIS L 1096 A法 ラベルドストリップ法を用いて測定できる。また、引裂強さは、JIS L 1096 A-1法 シングルタング法を用いて測定できる。引張強さおよび引裂強さが上記範囲内であることで、スポーツに適した織物とすることができる。
【0015】
本発明のスポーツ用重衣料用織物は、例えば、柔道衣などのスポーツ用重衣料に用いられる。よって、本発明のスポーツ用重衣料用織物を用いたスポーツ用重衣料も本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0017】
初めに、後述する実施例及び比較例で得られる織物についての物性の測定について説明する。
【0018】
(カバーファクター)
カバーファクターは以下の式で求めた。
Cf=(Dw)1/2×W+(Df)1/2×F
上記式中、略語は以下のものを示す。
Dw:経糸の繊度(tex)
Df:緯糸の繊度(tex)
W:織物幅方向1インチ(2.54cm)あたりの経糸本数
F:織物長さ方向1インチ(2.54cm)あたりの緯糸本数
なお、上記式において、英式綿番手(Ne)は、以下の式でテックス(tex)に換算して代入する。
tex=590.54/Ne
【0019】
なお、経糸が2種類(a,b)ある場合のカバーファクターは以下の式で求めた。
CF=(Dwa)1/2×Wa+(Dwb)1/2×Wb+(Df)1/2×F
なお、上記式中、略語は以下のものを示す。
Dwa:経糸aの繊度(tex)
Dwb:経糸bの繊度(tex)
Df:緯糸の繊度(tex)
Wa:織物幅方向1インチ(2.54cm)あたりの経糸aの本数
Wb:織物幅方向1インチ(2.54cm)あたりの経糸bの本数
F:織物長さ方向1インチ(2.54cm)あたりの緯糸本数
【0020】
(単位面積当たりの質量)
単位面積当たりの質量は、JIS L 1096 A法を用いて測定した。
【0021】
(引張強さ)
引張強さは、JIS L 1096 A法 ラベルドストリップ法を用いて測定した。
【0022】
(引裂強さ)
引裂強さは、JIS L 1096 A-1法 シングルタング法を用いて測定した。
【0023】
(速乾性)
速乾性の試験は以下の手順で行った。
10cm×10cmの試料(織物)を下記に示す初期含水率に調整し、気温20℃、相対湿度25%の室内の電子天秤の上で吊り干しし、1分毎にその重量を測り1分毎の下記に示す含水率を求めた。
【0024】
初期含水率は、洗濯後の含水率と想定し、次のように求めた。10cm×10cmの試料を気温20℃、相対湿度25%の室内に6時間以上放置した時の試料の質量をWとし、10cm×10cmの試料を、水に浸し、7分間脱水を行ったときの質量をW0とし、以下の式で求めた。
初期含水率(%)=(W0-W)/W×100
【0025】
含水率は、次のように求めた。気温20℃で相対湿度25%の室内に6時間以上放置したときの10cm×10cmの試料の質量をW、初期含水率に調整した10cm×10cmの試料を、気温20℃で相対湿度25%の室内の電子天秤の上で吊り干しし、1分毎に測定した試料の質量をWtとし、以下の式で求めた。
含水率(%)=(Wt-W)/W×100
【0026】
(寸法変化率)
寸法変化率の測定は以下の手順で行った。
40cm×40cmの試料(織物)を2枚用意し、さらにダミー(同種の他の生地)を用いて合計重量が1.75kgとなるようにして洗濯を行った。洗濯方法はJIS L 0217 103法に準拠し、9分間40~50度の水で洗い、2分脱水し、その後、50度の水で2分ためすすぎを行い、2分脱水し、さらに、50℃の水で2分ためすすぎを行い、7分脱水した。その後、90℃で120分タンブル乾燥を行った。なお、器具、試験片の作成、マーキング方法、処理後の調整方法及び測定方法はJIS L 1096寸法変化に従った。
【0027】
(実施例1)
実施例1の織物Aの作成方法について説明する。
ポリエステルの原綿を用いて、10Ne(英式綿番手)、20Ne、30Neの紡績糸を得た。10Neの糸6本を合撚したもの(以下経糸A1)と30Neの糸2本を合撚したもの(以下経糸A2)とを経糸に用い、20Neの糸を2本合撚したものを緯糸として用いる。経糸A1は18本/インチ(2.54cm)、経糸A2は72本/インチ、緯糸は78本/インチとなるようにエアジェット織機を用いて製織した。また、生機巾は1144mmとした。このようにして得た生機に常法の毛焼、糊抜、精錬、漂白、仕上げの各工程を行った後、テンターを用い、柔軟剤の処理液に浸し、マングルを用いてパディング後、乾燥及びベーキングを実施した。以上により織物Aを得た。
【0028】
最終的な加工後の織物Aの密度は、経糸A1は18本/インチ、経糸A2は78本/インチ、緯糸は82本/インチとなり、その重量は654.7g/m2、巾は1091mmとなった。カバーファクターは1458であった。また、たて方向の引張強さは4864N、よこ方向の引張強さは2960Nであり、たて方向の引裂強さは309.7N、よこ方向の引裂強さは417.2Nであった。
【0029】
織物Aの速乾性の試験では、
図1にその結果を示すように、初期含水率は12.7%であり、試験開始50分後に含水率1%以下になった。織物Aでは、含水率が12%から1%以下になるまでの時間は、約45分であることが
図1からわかる。また、寸法変化率の測定では、織物Aは、たて方向-0.93%、よこ方向-0.67%となった。
【0030】
(実施例2)
実施例2の織物Bの作成方法について説明する。ポリエステルの原綿を用いて、10Ne、20Neの紡績糸を得た。10Neの糸4本を合撚したもの(以下経糸B1)と20Neの糸2本を合撚したもの(以下経糸B2)とを経糸に用い、20Neの糸を2本合撚したものを緯糸として用いる。経糸B1は14本/インチ、経糸B2は84本/インチ、緯糸は80本/インチとなるようにエアジェット織機を用いて製織した。また、生機巾は1096mmとした。このようにして得た生機に常法の毛焼、糊抜、精錬、漂白、仕上げの各工程を行った後、テンターを用い、柔軟剤の処理液に浸し、マングルを用いてパディング後、乾燥及びベーキングを実施した。以上により織物Bを得た。
【0031】
最終的な加工後の織物Bの密度は、経糸B1は14本/インチ、経糸B2は81本/インチ、緯糸は87本/インチとなり、その重量は622.9g/m2、巾は1043mmとなった。カバーファクターは1506であった。また、たて方向の引張強さは3653N、よこ方向の引張強さは3100Nであり、たて方向の引裂強さは415.6N、よこ方向の引裂強さは352.9Nであった。
【0032】
織物Bの速乾性の試験では、
図2にその結果を示すように、初期含水率は24.5%であり、試験開始88分後に含水率1%以下になった。織物Bでは、含水率が12%から1%以下になるまでの時間は、約45分であることが
図2からわかる。また、寸法変化率の測定では、織物Bは、たて方向-0.47%、よこ方向-0.20%となった。
【0033】
(比較例1)
構成糸全ての組成が綿70%ポリエステル30%である以外は、実施例1の織物Aと同様にして、比較例1の織物Cを作製した。
【0034】
最終的な加工後の織物Cの密度は、経糸A1は20本/インチ、経糸A2は80本/インチ、緯糸は86本/インチとなり、その重量は652.3g/m2、巾は1554mmとなった。カバーファクターは1539であった。また、たて方向の引張強さは3832.0N、よこ方向の引張強さは1691.8Nであり、たて方向の引裂強さは162.0N、よこ方向の引裂強さは120.0Nであった。
【0035】
織物Cの速乾性の試験では、
図1にその結果を示すように、初期含水率は27.9%であり、50分後の含水率は13.4%であり、織物Aの含水率を下回ることは無かった。織物Cでは、含水率が12%である時点から144分を超えても1%以下にならないことがわかる。また、寸法変化率の測定では、織物Cは、たて方向-2.80%、よこ方向-2.87%となった。
【0036】
(比較例2)
構成糸全ての組成が綿70%ポリエステル30%である事と、B1に10Neの糸を4本合撚ではなく3本合撚したものを用いた以外は、実施例2の織物Bと同様にして、比較例2の織物Dを作製した。
【0037】
最終的な加工後の織物Dの密度は、経糸A1は12本/インチ、経糸A2は96本/インチ、緯糸は47本/インチとなり、その重量は432.2g/m2、巾は1006mmとなった。カバーファクターは1259であった。また、たて方向の引張強さは2299.4N、よこ方向の引張強さは1133.4Nであり、たて方向の引裂強さは、強すぎてシングルタング法ではかぎ裂きになってしまい測定不能(JIS L 1096 D法 ペンジュラム法において640N以上)よこ方向の引裂強さは49.1Nであった。
【0038】
織物Dの速乾性の試験では、
図2にその結果を示すように、初期含水率は38.4%であり、試験開始88分後の含水率は、7.3%であり、織物Bの含水率を下回ることは無かった。織物Dでは、
図2から、含水率が12%である時点から128分を超えても1%以下にならないことが分かる。また、寸法変化率の測定では、織物Dは、たて方向-3.60%、よこ方向-1.20%となった。
【0039】
図1および
図2から分かるように、実施例1,2は、比較例1,2に対して速乾性に優れるという結果が得られた。また、実施例1,2は、比較例1,2に対して洗濯による寸法変化率が低いという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、洗濯後に乾き易く縮み難い柔道衣等のスポーツ用重衣料の製造が可能となる。よって、産業界に大きく寄与することが期待される。