(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】MnAl合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220201BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20220201BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20220201BHJP
C22C 22/00 20060101ALI20220201BHJP
C25C 3/36 20060101ALI20220201BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
B22F1/00 W
B22F1/14 100
B22F9/04 E
C22C22/00
C25C3/36
H01F1/00 109
(21)【出願番号】P 2018560388
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017046985
(87)【国際公開番号】W WO2018128152
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017000364
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】入江 周一郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 泰直
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭36-011110(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/186876(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0158749(US,A1)
【文献】G.R. STAFFORD et.al.,The electrodeposition of Al-Mn ferromagnetic phase from molten salt electrolyte,Journal of Alloys and Compounds,NL,ELSEVIER,1993年12月31日,Vol.200,p.107-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C22C 22/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも-100℃~200℃の温度範囲でメタ磁性を示すMnAl合金。
【請求項2】
組成式をMn
bAl
100-bで表した場合、45≦b≦50を満たす請求項1に記載のMnAl合金。
【請求項3】
τ-MnAl相を有する結晶粒子を含み、前記τ-MnAl相の磁気構造が、無磁場の状態において反強磁性構造を有する請求項1に記載のMnAl合金。
【請求項4】
前記τ-MnAl相の組成式をMn
aAl
100-aで表した場合、48≦a<55を満たす請求項3に記載のMnAl合金。
【請求項5】
前記τ-MnAl相の組成式をMn
aAl
100-aで表した場合、50<a<55を満たす請求項4に記載のMnAl合金。
【請求項6】
τ-MnAl相の規則度が0.85以上である請求項1に記載のMnAl合金。
【請求項7】
粉状体である請求項1に記載のMnAl合金。
【請求項8】
前記粉状体を所定の形状に成形してなる請求項7に記載のMnAl合金。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のMnAl合金を含む電子部品。
【請求項10】
少なくとも-100℃~200℃の温度範囲でメタ磁性を示すMnAl合金の製造方法であって、
Mn化合物およびAl化合物を含む溶融塩を電解することによってMnAl合金を析出させる工程と、
前記MnAl合金を400℃以上、600℃未満の温度で熱処理する工程と、を備えることを特徴とするMnAl合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMnAl合金及びその製造方法に関し、特に、メタ磁性を有するMnAl合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MnAl合金は、古くから磁性材料として知られている。例えば、特許文献1に開示されたMnAl合金は正方晶構造を有し、MnとAlの原子比を5:4とすることにより磁性を示すことが開示されている。より具体的には、MnとAlの原子比を約55.5:44.5とし、1100℃で作製されたε-MnAl相に適切な熱処理を施すことにより、正方晶構造を持ち、c/aが約1.3であり、原子座標(0,0,0)及び(1/2,1/2,1/2)をMnもしくはAlが占有したτ-MnAl相と言われる強磁性相が得られることが開示されている。
【0003】
τ-MnAl相は、MnとAlが原子座標(0,0,0)もしくは(1/2,1/2,1/2)を優先的に占有しているL10型の規則合金である。(0,0,0)もしくは(1/2,1/2,1/2)をAlが優先的に占有しようと、Mnが優先的に占有しようと結晶構造としては区別がないので、以後、τ-MnAl相においてMnが優先的に占有している原子座標をMnサイト、Alが優先的に占有している原子座標をAlサイトと呼ぶこととする。完全規則化したτ-MnAlは、MnサイトにはMnのみが占有し、AlサイトにはAlのみが占有し、そのMnとAlの原子比は50:50となるが、特許文献1に記載された方法で作製されたτ-MnAl相において、Al量を超えた過剰分のMnは、ほとんどAlサイトを占有することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
加えて、非特許文献2では、電析法によって300℃以下でMnとAlの原子比におけるMn比率が50%未満のτ-MnAl相が作製され、強磁性を示すことが報告されている。
【0005】
また、特許文献2に示されているように、Mnを主たる構成元素とする磁性材料の一部は、メタ磁性を示すことが知られている。メタ磁性とは、磁場により常磁性または反強磁性から強磁性に転移する性質である。メタ磁性を示すメタ磁性材料は、磁気冷凍器やアクチュエーター、限流器への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭36-11110号公報
【文献】特開2014-228166号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y.Yang et al.,J.Appl.Phys.55(1984)2053-2054
【文献】G.R.Stafford et al.,J.Alloy Compd.200(1993)107-113.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載されたメタ磁性材料は、いずれも磁場による常磁性から強磁性への一次相転移を利用しているため、キュリー温度近傍でしかメタ磁性を発現しない。このため、現実的には限流器などへの応用が困難であった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、幅広い温度でメタ磁性を示すMn系合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し目的を達成するために、本発明者らは磁場による反強磁性から強磁性に転移するタイプのメタ磁性材料(以下、「AFM-FM転移型メタ磁性材料」という)に注目した。AFM-FM転移型メタ磁性材料は、反強磁性秩序がなくなるネール温度以下であればメタ磁性が発現するため、常磁性から強磁性に転移するタイプのメタ磁性材料(以下、「PM-FM転移型メタ磁性材料」という)のように、キュリー温度近傍という狭い温度帯に維持する必要がないからである。
【0011】
AFM-FM転移型メタ磁性を実現するには、高い結晶磁気異方性を持ち、且つ、反強磁性を有することが必要となる。そこで、AFM-FM転移型メタ磁性材料として、単体で反強磁性を示すMnを用いたMn系磁性材料に着目し、様々な合金・化合物について検討を行った。その結果、Mn系合金の中でも強磁性を示す比較的稀有であるMnAlに反強磁性的な要素を付与することで、幅広い温度でメタ磁性を示すことを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、本発明によるMnAl合金はメタ磁性を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明によるMnAl合金は、組成式をMnbAl100-bで表した場合、45≦b≦50を満たすことが好ましい。MnとAlの比率をこの範囲に設定すれば、MnAl合金にメタ磁性を付与することが可能となる。
【0013】
また、本発明によるMnAl合金はτ-MnAl相を含み、τ-MnAl相の磁気構造が反強磁性構造を持つことが好ましい。相転移前である無磁場において、反強磁性が安定となるMn系合金を用いることで、AFM-FM転移型メタ磁性材料が実現する。ここで、反強磁性状態の安定性が高すぎる場合は、磁場による強磁性への相転移を起こすことができない。一方、反強磁性の安定性が低すぎる場合は、無磁場又は非常に弱い磁場でも強磁性になる可能性がある。そして、MnAl合金は反強磁性状態の安定性が適度であることから、AFM-FM転移型メタ磁性を付与すれば、幅広い温度でメタ磁性を発現することができる。
【0014】
AlサイトのMn量を調整することでτ-MnAl相が反強磁性化するメカニズムについて第一原理計算により検討を行ったところ、AlサイトのAl原子におけるp軌道価電子を介したMnサイトのMn同士の超交換相互作用にあることがわかった。超交換相互作用とは、遷移金属原子の3d軌道価電子が、配位子と呼ばれるp軌道価電子を有した原子におけるp軌道価電子との軌道混成を通して働く交換相互作用のメカニズムの一種である。ここで、遷移金属原子と、配位子と、結合を起こす遷移金属原子とのなす角度が180°に近い場合に、反強磁性結合を起こす。つまり、τ-MnAl相におけるMnサイトのMnと、配位子であるAlサイトのAlと、Mnサイトから(1,1,0)及び(1,1,1)方向のMnのなす角度は180°に近く、反強磁性結合を起こしたことが原因であることがわかった。加えて、AlサイトにMn原子が置換した場合、MnサイトのMn同士に超交換相互作用は生じず、反強磁性的な磁気構造は取りづらくなることもわかった。これらの結果から、τ-MnAl相におけるAlサイトのMn量を調整することで、反強磁性の安定性が調整できることがわかった。
【0015】
また、本発明によるMnAl合金はτ-MnAl相を含み、τ-MnAl相の組成式をMnaAl100-aで表した場合、48≦a<55を満たすことが好ましい。a<48であるτ-MnAl相は、AlサイトのMn量が少なくなり、反強磁性状態の安定性が非常に高く、磁気相転移に必要な磁場が大きくなり、応用上好ましくない。a≧55であるτ-MnAl相は、MnがAlよりも多く含まれることからAlサイトにMnが置換されやすい。Alサイトに置換したMnは、MnサイトのMnと反強磁性的に結合することで、MnサイトのMn間が強磁性的な結合を起こし、τ-MnAl相全体としてはフェリ磁性化することで、メタ磁性が得にくくなる。τ-MnAl相のMnの割合を48≦a<55、好ましくは50<a<55とし、無磁場での反強磁性状態の安定性を調整することで、AFM-FM転移型メタ磁性を実現し、幅広い温度、特に-100℃~200℃の温度範囲でメタ磁性を得ることができる。
【0016】
また、本発明によるMnAl合金におけるτ-MnAl相の規則度Sは、0.85以上であることが好ましい。規則度Sが0.85未満であるτ-MnAl相は、AlサイトへのMn置換が起こりやすい。Alサイトに置換したMnは、MnサイトのMnと反強磁性的に結合することで、MnサイトのMn間が強磁性的な結合を起こし、τ-MnAl相全体としてはフェリ磁性化することで、メタ磁性が得にくくなる。
【0017】
規則度Sとは、1を上限としたτ-MnAl相のMnとAlの結晶相内の規則的な配列を示す尺度であり、規則度S=1とはMnサイトにMnのみが、AlサイトにAlのみが占有する状態を示す。S=1未満の状態としては、MnサイトにMnがg%、Alが100-g%占有し、AlサイトにAlがg%、Mnが100-g%占有した場合、S=(g-50)×2/100で算出される。
【0018】
本発明によるMnAl合金は、粉状体であることが好ましい。これによれば、粉状体のMnAl合金を圧縮成形することによって任意の製品形状を得ることが可能となる。
【0019】
本発明によるMnAl合金の製造方法は、Mn化合物およびAl化合物を含む溶融塩を電解することによってMnAl合金を析出させる工程と、MnAl合金を400℃以上、600℃未満の温度で熱処理する工程とを備えることを特徴とする。このように、溶融塩電解法によって形成したMnAl合金を所定の温度で熱処理することにより、MnAl合金にメタ磁性を付与することが可能となる。従来のMnAl合金の製造法である、ε-MnAl相に熱処理を施す方法で作製されたτ-MnAl相は、ε-MnAlが安定となるMn比率である55at%未満にすることは困難であり、メタ磁性は得られない。また、電析法に作製されたMnAl合金に含まれるτ-MnAl相は、300℃以下の低温で生成されるため、熱処理を施さない限りτ-MnAl相の規則度Sが0.85未満であり、メタ磁性が得られない。このように、溶融塩電解法によって形成したMnAl合金内に含まれる、Mn比率が55at%未満のτ-MnAl相を所定の温度で熱処理し、τ-MnAl相の規則度Sを0.85以上にすることで、MnAl合金にメタ磁性を付与することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明によれば、幅広い温度でメタ磁性を示すMnAl合金を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、メタ磁性を有するMnAl合金の磁気特性を示すグラフである。
【
図2】
図2は、メタ磁性を有するMnAl合金の磁気特性を示すグラフであり、第1象限(I)のみを示している。
【
図3】
図3は、メタ磁性を有するMnAl合金の磁気特性を示す別のグラフである。
【
図5】
図5は、
図3に示す特性の二回微分値を示すグラフである。
【
図6】
図6は、MnAl合金を製造するための電析装置の模式図である。
【
図7】
図7は、実施例1~7および比較例1~14の製造条件及び評価結果を示す表である。
【
図8】
図8(a)~(d)は、それぞれ実施例3、比較例1、比較例5及び比較例13のサンプルの磁気特性を示すグラフである。
【
図9】
図9(a),(b)は、実施例3、比較例1、比較例5及び比較例13における中性子回折法の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下に記載の実施形態及び実施例の内容により限定されるものではない。また、以下に記載の実施形態及び実施例にて示された構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択してもよい。
【0023】
メタ磁性とは、磁場により常磁性(PM:Paramagnetic)もしくは反強磁性(AFM:Anti-Ferromagnetic)から強磁性(FM:Ferromagnetic)に一次相転移する性質を指す。磁場による一次相転移とは、磁場に関する磁化の変化が不連続になる点をもつことを指す。メタ磁性材料は、磁場により常磁性から強磁性に転移するPM-FM転移型メタ磁性材料と、磁場により反強磁性から強磁性に転移するAFM-FM転移型メタ磁性材料に分類される。PM-FM転移型メタ磁性材料は、キュリー温度の近傍でのみ一次相転移が生じるのに対し、AFM-FM転移型メタ磁性材料は、反強磁性状態が消失するネール温度以下であれば一次相転移が生じる。そして、本実施形態によるMnAl合金は、AFM-FM転移型メタ磁性材料であることから、幅広い温度でメタ磁性を発現する。
【0024】
また、本発明によるMnAl合金はτ-MnAl相を含み、そのτ-MnAl相の磁気構造は反強磁性構造を有している。反強磁性構造とは、磁性体の磁化の起源となるスピンが空間的に周期的な構造を持ち、磁性体全体としての磁化(すなわち自発磁化)を持たない構造を指し、スピンが空間的な周期性を持たず無秩序な磁気構造を持ち磁性体全体としての磁化を持たない常磁性構造とは異なる。相転移前である無磁場において、反強磁性が安定となるMnAl合金を用いることで、AFM-FM転移型メタ磁性材料が実現する。ここで、反強磁性状態の安定性が高すぎる場合は、強磁性への磁気相転移に必要な磁場が大きくなりすぎ、実質的に磁場による磁気相転移を起こすことができない。一方、反強磁性の安定性が低すぎる場合は、無磁場又は非常に弱い磁場でも強磁性になる可能性がある。そして、MnAl合金は反強磁性状態の安定性が調整し、AFM-FM転移型メタ磁性を付与すれば、幅広い温度でメタ磁性を発現することができる。
【0025】
本実施形態によるMnAl合金は、反強磁性構造を持つτ-MnAl相のみで構成されることが好ましいが一部に強磁性や常磁性、フェリ磁性構造を含んでいても構わない。また、メタ磁性を有する限り、MnAl合金におけるτ-MnAl相の反強磁性構造は、スピン軸が一定であるコリニア型反強磁性構造でも、スピン軸が一定でないノンコリニア型反強磁性構造でも構わないが、長周期の磁気構造となる反強磁性構造の方が反強磁性から強磁性に転移することに必要な磁場が小さくなり、応用上好ましい。
【0026】
本実施形態によるMnAl合金におけるτ-MnAl相に反強磁性構造を持たせるためには、τ-MnAl相におけるAlサイトがAlに占有されることが好ましいが、Alサイトを占有する原子は、p軌道価電子を持つ限りどのような原子でも構わない。具体的には、p軌道価電子を持つB、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn、Pb、N、P、As、Sb、Bi、O、S,Se、Te、Po、F、Cl、Br、I、Atがその候補となりうる。
【0027】
本実施形態によるMnAl合金は、τ-MnAl相を含み、τ-MnAl相の組成式をMnaAl100-aで表した場合、48≦a<55を満たしており、50<a<55を満たしていることが好ましい。a<48であるτ-MnAl相は、AlサイトのMn量が少なくなり、反強磁性状態の安定性が非常に高く、磁気相転移に必要な磁場が大きくなり、応用上好ましくない。a≧55であるτ-MnAl相は、MnがAlよりも多く含まれることからAlサイトにMnが置換されやすい。Alサイトに置換したMnは、MnサイトのMnと反強磁性的に結合することで、MnサイトのMn間が強磁性的な結合を起こし、τ-MnAl相全体としてはフェリ磁性化することで、メタ磁性が得にくくなる。τ-MnAl相のMnの割合を48≦a<55、好ましくは50<a<55とし、無磁場での反強磁性状態の安定性を調整することで、AFM-FM転移型メタ磁性を実現し、幅広い温度でのメタ磁性を得ることができる。
【0028】
本実施形態によるMnAl合金は、τ-MnAl相の組成式をMnaAl100-aで表した場合、50<a<55を満たす結晶粒子のみで構成されることが好ましいが、50<a≦53であることがより好ましい。aを53近傍もしくは53以下とすることで、高い最大質量磁化が得られる。また、a=53近傍が反強磁性と強磁性構造の安定性の境目であり、その53近傍もしくは53以下とすることで反強磁性から強磁性に転移することに必要な磁場が小さくなる傾向にあり、応用上好ましい。
【0029】
本実施形態によるMnAl合金は、τ-MnAl相の組成式をMnaAl100-aで表した場合、50<a<55を満たす結晶粒子のみで構成されることが好ましいが、メタ磁性を有する限り、γ2-MnAl相、β-MnAl相、アモルファス相などの異相を含んでいても構わない。また、メタ磁性を有する限り、Mnサイト又はAlサイトの一部がFe、Co、Cr又はNiで置換された多元系MnAl合金であっても構わない。
【0030】
また、本発明によるMnAl合金におけるτ-MnAl相の規則度Sが0.85以上であることが好ましい。規則度が0.85未満であるτ-MnAl相は、AlサイトへのMn置換が起こりやすい。Alサイトに置換したMnは、MnサイトのMnと反強磁性的に結合することで、MnサイトのMn間が強磁性的な結合を起こし、τ-MnAl相全体としてはフェリ磁性化することで、メタ磁性が得られない。
【0031】
図1は、本実施形態によるMnAl合金の磁気特性を示すグラフであり、第1軸である横軸(X軸)は磁場Hを示し、第2軸である縦軸(Y軸)は磁化Mを示している。
図1において、符号AFM-FMは本実施形態によるMnAl合金の磁気特性を示し、符号SMは一般的な軟磁性材料の磁気特性を示し、符号HMは一般的な硬磁性材料の磁気特性を示している。
【0032】
図1において符号SMで示すように、一般的な軟磁性材料は、低磁場領域においては透磁率が高く容易に磁化される一方、磁場強度が所定値を超えると磁気飽和を起こし、それ以上はほとんど磁化されないという特性を示す。言い換えれば、磁気飽和しない磁場領域では、磁場Hに対する磁化Mの微分値が大きく、磁気飽和する磁場領域では、磁場Hに対する磁化Mの微分値が小さくなる。また、一般的な軟磁性材料は、ヒステリシスが無い、或いは、ヒステリシスが非常に小さいことから、符号SMで示す特性曲線は、グラフの原点又はその近傍を通る。したがって、符号SMで示す特性曲線は、グラフの第1象限(I)及び第3象限(III)に現れ、第2象限(II)及び第4象限(IV)には実質的に現れない。
【0033】
図1において符号HMで示すように、一般的な硬磁性材料は大きなヒステリシスを有しており、磁場がゼロであっても磁化された状態が維持される。このため、符号HMで示す特性曲線は、グラフの第1象限(I)~第4象限(IV)の全てに現れる。
【0034】
これらの一般的な強磁性材料に対し、本実施形態によるMnAl合金は、グラフの第1象限(I)及び第3象限(III)において符号AFM-FMで示すように、低磁場領域においては透磁率が低いためほとんど磁化されず、中磁場領域においては透磁率が高くなって容易に磁化され、さらに、強磁場領域になると磁気飽和を起こし、それ以上はほとんど磁化されないという特性を示す。後述する電析条件及び熱処理条件によっては、第1象限(I)及び第3象限(III)内において僅かにヒステリシスが存在するが、残留磁化はゼロ又は非常に小さいため、符号AFM-FMで示す特性曲線は実質的にグラフの原点を通る。符号AFM-FMで示す特性曲線が厳密にグラフの原点を通らない場合であっても、横軸又は縦軸の原点近傍を通ることになる。このことは、本実施形態によるMnAl合金が初期状態であるか、或いは、繰り返し磁場を印加した後の状態であるかにかかわらず、同じ磁気特性が得られることを意味する。
【0035】
図2は、本実施形態によるMnAl合金の磁気特性を示すグラフであり、第1象限(I)のみを示している。
【0036】
図2を用いて本実施形態によるMnAl合金の磁気特性についてより具体的に説明すると、磁場Hが無い状態から磁場を高めていくと、第1の磁場強度H1までの領域(第1の磁場領域MF1)においては透磁率が低く、このため磁化Mの増加は僅かである。グラフの傾き、つまり、磁場Hに対する磁化Mの微分値は透磁率に連動する。第1の磁場領域MF1における透磁率は非磁性材料の透磁率と同程度であり、したがって、第1の磁場領域MF1においては実質的に非磁性材料として振る舞う。
【0037】
一方、第1の磁場強度H1から第2の磁場強度H2までの領域(第2の磁場領域MF2)においては透磁率が急激に高くなり、磁化Mの値は大幅に増加する。つまり、磁場を高めていくと、第1の磁場強度H1を境として透磁率が急激に増加する。第2の磁場領域MF2における透磁率は軟磁性材料の透磁率に近く、したがって、第2の磁場領域MF2においては軟磁性的に振る舞う。
【0038】
さらに磁場を高めることによって第2の磁場強度H2を超えると(第3の磁場領域MF3)、磁気飽和を起こし、グラフの傾き、つまり透磁率は再び低下する。
【0039】
逆に、第3の磁場領域MF3から磁場を弱めていき、第3の磁場強度H3を下回ると、第4の磁場強度H4までの領域で再び透磁率が高くなる。そして、第4の磁場強度H4を下回ると透磁率が低下し、再び非磁性材料として振る舞う。このように、第1象限(I)内においてはヒステリシスを有しているものの、残留磁化はほとんど存在しないため、磁場Hを一旦ゼロ近辺に戻せば、再び上述した特性と同じ特性が得られる。
【0040】
尚、
図1及び
図2に示したグラフは縦軸が磁化Mであるが、縦軸を磁束密度Bに置き換えても、同様の関係が成り立つ。
【0041】
図3は、本実施形態によるMnAl合金の磁気特性を示す別のグラフであり、第1軸である横軸は磁場Hを示し、第2軸である縦軸は磁束密度Bを示している。
【0042】
図3に示すように、縦軸を磁束密度Bに置き換えた場合であっても、本実施形態によるMnAl合金の磁気特性は、グラフの第1象限(I)において同様の特性曲線を描く。つまり、低磁場である第1の磁場領域MF1においては傾きが小さく、中磁場である第2の磁場領域MF2においては傾きが急激に大きくなり、強磁場である第3の磁場領域MF3においては傾きが再び小さくなる。また、
図3に示すグラフにおいても、本実施形態によるMnAl合金の磁気特性を示す特性曲線は実質的に原点を通り、厳密にグラフの原点を通らない場合であっても、横軸又は縦軸の原点近傍を通る。
【0043】
図4は
図3に示す特性の微分値を示すグラフであり、
図5は
図3に示す特性の二回微分値を示すグラフである。
図4に示す特性は、本実施形態によるMnAl合金の微分透磁率に相当する。
【0044】
図4に示すように、
図3に示す特性を一回微分すると、第2の磁場領域MF2において微分値が極大となる。第1の磁場領域MF1及び第3の磁場領域MF3では、微分値は小さい値のままである。そして、
図5に示すように、
図3に示す特性を二回微分すると、第2の磁場領域MF2において二回微分値が正の値から負の値に反転する。第1の磁場領域MF1及び第3の磁場領域MF3では、二回微分値はほぼゼロである。このように、本実施形態によるMnAl合金は、磁場Hに対して磁束密度Bを二回微分すると、二回微分値が正の値から負の値に反転するという特徴を有している。
【0045】
本実施形態によるMnAl合金は、Mn化合物とAl化合物を混合溶解した溶融塩を電解することによってMnAl合金を析出させた後、このMnAl合金を400℃以上、600℃未満の温度で熱処理することによって得られる。
【0046】
図6は、MnAl合金を製造するための電析装置の模式図である。
【0047】
図6に示す電析装置は、ステンレス製の密閉容器1の内部に配置されたアルミナ坩堝2を備えている。アルミナ坩堝2は溶融塩3を保持するものであり、密閉容器1の外部に配置された電気炉4によってアルミナ坩堝2内の溶融塩3が加熱される。アルミナ坩堝2内には、溶融塩3に浸漬する陰極5及び陽極6が設けられており、これら陰極5及び陽極6には、定電流電源装置7を介して電流が供給される。陰極5はCuからなる板状体であり、陽極6はAlからなる板状体である。アルミナ坩堝2内の溶融塩3は、攪拌機8によって攪拌することが可能である。また、密閉容器1の内部は、ガス経路9を介して供給されるN
2などの不活性ガスで満たされる。
【0048】
溶融塩3は、少なくともMn化合物およびAl化合物を含む。Mn化合物としてはMnCl2を用いることができ、Al化合物としてはAlCl3、AlF3、AlBr3又はAlNa3F6を用いることができる。Al化合物はAlCl3単独であっても構わないし、その一部をAlF3、AlBr3又はAlNa3F6によって置換しても構わない。
【0049】
溶融塩3は、上述したMn化合物およびAl化合物の他に、別のハロゲン化物を添加しても構わない。別のハロゲン化物としては、NaCl、LiCl又はKClなどのアルカリ金属ハロゲン化物を選択することが好ましく、アルカリ金属ハロゲン化物にLaCl3、DyCl3、MgCl2、CaCl2、GaCl3、InCl3、GeCl4、SnCl4、NiCl2、CoCl2、FeCl2などの希土類ハロゲン化物、アルカリ土類ハロゲン化物、典型元素ハロゲン化物、遷移金属ハロゲン化物などを添加しても構わない。
【0050】
このようなMn化合物、Al化合物及び別のハロゲン化物をアルミナ坩堝2にチャージし、電気炉4によって加熱溶融させることによって、溶融塩3を得ることができる。また、溶融塩3の組成分布が均一となるよう、溶融直後は攪拌機8によって溶融塩3を十分に攪拌することが好ましい。
【0051】
溶融塩3の電解は、定電流電源装置7を介して陰極5と陽極6との間に電流を流すことによって行う。これにより、陰極5にMnAl合金を析出させることができる。電解中における溶融塩3の加熱温度は、150℃以上、450℃以下とすることが好ましく。電気量については、電極面積1cm2当たりの電気量を15mAh以上、150mAhとすることが好ましい。電解中においては、密閉容器1の内部をN2などの不活性ガスで満たすことが好ましい。
【0052】
また、陰極5と陽極6との間に流す電流は、溶融塩3中におけるMn化合物の濃度1mass%当たり、且つ、電極面積1cm2当たりの電気量を50mAh以上とすることにより、陰極5に粉末状のMnAl合金を析出させることができる。これは、溶融塩3中におけるMn化合物の濃度が高いほど析出が促進されるとともに、単位電極面積当たりの電気量が多いほど析出が促進される結果、上記の数値範囲(50mAh以上)を満たすことによって、析出するMnAl合金が粉末状になりやすくなるからである。陰極5に析出するMnAl合金が粉末状であれば、電解を長時間行ってもMnAl合金の析出が停止することがないため、MnAl合金の生産性を高めることができる。また、得られた粉状体のMnAl合金を圧縮成形することによって、任意の製品形状を得ることも可能となる。
【0053】
溶融塩3中におけるMn化合物の初期濃度は、0.2mass%以上であることが好ましく、0.2mass%以上、3mass%以下であることがより好ましい。また、電解中にMn化合物を追加投入することによって、溶融塩3中におけるMn化合物の濃度を維持することが好ましい。追加投入するMn化合物は、粉末状あるいは粉末を成形したペレット状とし、これを溶融塩3に連続的又は定期的に追加すればよい。このように、溶融塩3の電解中にMn化合物を追加投入すれば、電解の進行に伴うMn化合物の濃度低下が抑制され、溶融塩3中におけるMn化合物の濃度を所定値以上に維持することができる。これにより、析出するMnAl合金の組成のばらつきを抑制することが可能となる。
【0054】
電解によって析出したMnAl合金に対しては、熱処理を施すことによってMnAl合金にメタ磁性を与えることができる。具体的には、熱処理の温度を400℃以上、600℃未満とすればMnAl合金にメタ磁性を与えることができる。熱処理の雰囲気は、不活性ガス中または真空中とすることが好ましい。
【0055】
本実施形態によるMnAl合金は、様々な電子部品に応用することが可能である。例えば、本実施形態によるMnAl合金を磁心として用いれば、リアクトル、インダクタ、限流器、電磁アクチュエーター、モータなどへの応用が可能である。また、本実施形態によるMnAl合金を磁気冷凍作業物質として用いれば、磁気冷凍機への応用が可能である。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例】
【0057】
<溶融塩電解法によるMnAl合金の作製>
まず、
図6に示す構造を有する電析装置を用意した。陰極5は、溶融塩3への浸漬面積が5cm×8cmとなるよう切断した厚み3mmのCu板を用い、陽極6は、溶融塩3への浸漬面積が5cm×8cmとなるよう切断した厚み3mmのAl板を用いた。
【0058】
次に、Al化合物である無水AlCl3と、別のハロゲン化物であるNaClをそれぞれ50mol%ずつ秤量し、Mn化合物として予め脱水処理したMnCl2を1mass%秤量し、総重量が1200gとなるようアルミナ坩堝2に投入した。したがって、MnCl2の量は12gである。脱水処理は、MnCl2水和物をN2ガスなどの不活性雰囲気中で約400℃、4時間以上加熱することにより行った。
【0059】
材料が投入されたアルミナ坩堝2を密閉容器1の内部に移動し、電気炉4によって材料を350℃に加熱することによって溶融塩3を得た。次に、攪拌機8の回転羽根を溶融塩3に沈降させ、400rpmの回転数で0.5時間撹拌した。その後、陰極5と陽極6の間に単位電極面積当たり60mA/cm2(2.4A)の定電流を4時間通電し、電流および加熱を停止した。そして、溶融塩3が冷却固化する前に電極を離脱し、陰極5をアセトンで超音波洗浄した。陰極5の表面には、膜状の電析物と粉状の電析物(MnAl合金)が析出していた。膜状の電析物は、陰極5を構成するCuを濃硝酸で溶解除去することによって回収し、乳鉢で粉砕して粉末状とした。粉状の電析物については、一部が陰極5に残留するものの、残りはアルミナ坩堝2の底部に堆積する。このため、溶融塩3中に沈降した粉末状の電析物をろ過回収するとともに、溶融塩をデカンテーションし、底部に残った粉末状の電析物と溶融塩の混合物を冷却固化後、アセトンで洗浄し、ろ過回収した。いずれの回収法で得られた粉末状電析物も、膜状電析物を粉砕した粉末状サンプルと合わせて混合した。
【0060】
上述の方法で得られた粉末試料を比較例1とした。
【0061】
さらに、電析温度をそれぞれ300℃及び250℃とした他は、比較例1と同様にして、比較例2及び3のサンプルを作製した。
【0062】
<MnAl合金の熱処理>
比較例1の試料粉末に対し、Ar雰囲気中で350℃~700℃、16時間の熱処理を行った。熱処理温度を350℃としたサンプルを比較例4、400℃としたサンプルを実施例1、450℃としたサンプルを実施例2、500℃としたサンプルを実施例3、550℃としたサンプルを実施例4、575℃としたサンプルを実施例5、熱処理温度を600℃としたサンプルを比較例5、熱処理温度を650℃としたサンプルを比較例6、熱処理温度を700℃としたサンプルを比較例7とした。
【0063】
さらに、比較例2及び3の試料粉末に対し、Ar雰囲気中で550℃、16時間の熱処理を行うことにより、それぞれ実施例6及び7のサンプルを作製した。
【0064】
<溶解法によるMnAl合金の作製>
純度99.9質量%以上のMnと純度99.9質量%以上のAlを、それぞれMnを46at%、Alを54at%の割合で秤量し、Ar雰囲気中でアーク溶解して原料インゴットを作製した。
【0065】
得られた原料インゴットをAr雰囲気中で1150℃にて、2時間加熱処理を行った後、水中急冷処理を行った。その後、インゴットをAr雰囲気中で600℃にて、1時間の熱処理を行った後、徐冷した。その後、スタンプミルにて粉砕を行い、100μm以下の粉末を得た。得られたサンプルを比較例8とした。
【0066】
MnとAlの比率を変えた他は、比較例8と同様にして比較例9~14のサンプルを作製した。
【0067】
<磁気特性の評価>
実施例1~7及び比較例1~14のサンプルに対し、パルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業製)を用いて室温にて0~100kOeの磁場範囲での磁気特性を測定し、得られた磁化曲線からメタ磁性の有無を判定した。さらに、100kOeにおける質量磁化を最大質量磁化σmax、0kOe付近での磁化を残留質量磁化σrとし、その比率σr/σmaxを角型比とした。そして、角型比が0.1以上の試料を残留磁化有りと判定し、角型比が0.1未満の試料を残留磁化なしと判定した。
【0068】
<結晶構造の評価>
実施例1~7及び比較例1~14のサンプルに対し、X線回折測定装置(XRD、Rigaku製)を用いてCuα1放射線により室温にて20°~80°範囲で回折強度を測定し、相同定を行った。
【0069】
<Mn濃度及びAl濃度の評価>
実施例1~7及び比較例1~14のサンプルに対し、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:発光分光分析法)を用いて、Mn及びAlの含有量を測定し、MnとAlの原子比率を評価した。
【0070】
<τ-MnAl結晶粒子のMnとAl濃度評価>
実施例1~7及び比較例1~14のサンプルを樹脂に埋め研磨した後、粉末試料の一部をFIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)加工により薄片化した。得られた薄片に対し、STEM-EDS分析(Scanning Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive Spectroscopy:走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析)により、MnとAlの原子比率を評価した。
【0071】
<規則度の評価>
実施例1~7及び比較例1~14のサンプルに対し、X線回折測定装置(XRD、Rigaku製)を用いてCuα1放射線により室温にて、スキャン間隔0.020°、測定時間1.2秒で20°~80°範囲で回折強度を測定し、32.2°近傍に観測されるτ-MnAl相の(100)ピークの積分強度I(100)と、67.4°近傍に観測されるτ-MnAl相の(200)ピークの積分強度I(200)を算出した。そして、I(100)/I(200)を計算し得られた値を(I(100)/I(200))Exp.とした。一方、τ-MnAl相が完全規則化した際に得られる積分強度比率I(100)/I(200)の値を(I(100)/I(200))Theoryとし、下記の計算式によって規則度Sを計算した。
S=√(I(100)/I(200))Exp./(I(100)/I(200))Theory
ここで、(I(100)/I(200))Theoryは、回折強度のシミュレーションソフトによって得られ、ここでは、RIETAN-FPによって算出された値である1.06を用いた。
【0072】
<磁気構造の評価>
粉末試料を、飛行時間中性子回折法により面間隔dが1~40オングストロームの範囲を測定し、τ-MnAlの結晶構造よりも長周期な磁気構造が観測された場合を反強磁性の磁気構造を有する結晶粒子があると判断した。長周期な磁気構造の有無は、磁気構造に起因する回折ピークのミラー指数(h,k,l)が、τ-MnAlの結晶構造を基準として指数付けした場合に、整数とならない場合に、長周期な磁気構造があると判定できる。ここで、磁気構造に起因するピークは、中性子回折で得られた回折ピークからX線回折で得られた結晶構造起因のピークを除くことで、得られる。例えば、τ-MnAlのc軸方向に2倍周期の磁気構造を有することを示すミラー指数(1,0,1/2)は、ミラー指数lが1/2となり有理数となるために、c軸方向に2倍周期の磁気構造を有することがわかる。
【0073】
<評価結果>
評価結果を
図7~
図9に示す。
図8(a)~(d)は、それぞれ実施例3、比較例1、比較例5及び比較例13のサンプルの磁気特性を示すグラフである。また、
図9(a),(b)は、実施例3、比較例1、比較例5及び比較例13における中性子回折法の測定結果を示すグラフである。
【0074】
図7に示すように、溶融塩電解法によって得られたMnAl合金を400℃~575℃で熱処理した実施例1~7のサンプルはメタ磁性を示した。
図8(a)には、実施例3のサンプルの磁気特性が示されている。また、実施例1~7のサンプルでは、τ-MnAl相におけるMnの比率は、それぞれ51%、52%、53%、54.5%、54.8%、49%及び48%であった。一方、MnAl合金全体に占めるMnの比率は、実施例1~5では50%、実施例6では47.5%、実施例7では45%であった。
【0075】
これに対し、比較例1~14のサンプルは、いずれもメタ磁性を示さなかった。特に、比較例1~5、11~14のサンプルは、τ-MnAl相を有していたが、実施例1~7とは異なり、メタ磁性を示さなかった。比較例1~5、11~14のサンプルでは、τ-MnAl相におけるMnの比率は、45%~56%であった。比較例6~10のサンプルはγ2相であり、τ-MnAl相が認められなかった。
図8(b)~(d)に示すように、比較例1のサンプルは強磁性を示し、比較例5のサンプルは非磁性を示し、比較例13のサンプルは軟磁性を示した。
【0076】
また、中性子回折法の測定結果である
図9(a),(b)に示すように、実施例3においては中性子回折により整数ではないミラー指数である(1,0,1/6)や(1,0,1/2)が観測された。この結果は、τ-MnAlのc軸方向に2倍周期と6倍周期が同時に確認された稀有な例であり、詳細な磁気構造に関しては不明ではあるが、反強磁性構造が存在すると言える。比較例13に関しては、中性子回折により整数ではないミラー指数が確認されなかった。一方、比較例5は、τ-MnAl相が確認されなかった。比較例1に関しては、ミラー指数である(1,0,1/2)が確認されたが、実施例3と比較して弱い回折強度であった。また、実施例3にて観測された(1,0,1/6)は確認されなかった。
【0077】
次に、実施例3、比較例1及び13のサンプルに対し、温度を-100℃~200℃の温度範囲で磁気特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示すように、実施例3のサンプルは-100℃~200℃という広い温度範囲でメタ磁性を示した。
【符号の説明】
【0080】
1 密閉容器
2 アルミナ坩堝
3 溶融塩
4 電気炉
5 陰極
6 陽極
7 定電流電源装置
8 攪拌機
9 ガス経路