(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】RNA作用抑制剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220201BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220201BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20220201BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220201BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12Q1/68
A61K31/7125
A61P3/10
A61K31/713
(21)【出願番号】P 2021510484
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031513
(87)【国際公開番号】W WO2021039598
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2019153235
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラムA-STEP ステージIIシーズ育成タイプ「非環状型機能性人工核酸酸の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501394000
【氏名又は名称】北海道システム・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 浩之
(72)【発明者】
【氏名】神谷 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】村山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】坪井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】道家 智仁
(72)【発明者】
【氏名】石本 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】丸山 彰一
(72)【発明者】
【氏名】國料 俊男
(72)【発明者】
【氏名】向當 綾子
(72)【発明者】
【氏名】石丸 勇雄
(72)【発明者】
【氏名】浅井 凌一
(72)【発明者】
【氏名】中社 彩香
(72)【発明者】
【氏名】杉田 朋枝
(72)【発明者】
【氏名】西 圭介
(72)【発明者】
【氏名】湯口 基
(72)【発明者】
【氏名】松本 政憲
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-130232(JP,A)
【文献】特表2009-536664(JP,A)
【文献】ChemBioChem,2014年,Vol.15,p.2549-2555
【文献】Cancer Science,2016年,Vol.107, No.9,p.1315-1320
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的RNAに対するパッセンジャー鎖及びガイド鎖を備え、
前記パッセンジャー鎖と前記ガイド鎖とが対合した二本鎖RNAの両端はブラントエンドを構成し、
以下の(a)及び(b);
(a)前記パッセンジャー鎖の5’末端側及び3’末端側
(b)前記ガイド鎖の3’末端側
に、以下の式(2)で表されるユニット
を2個備える、RNA干渉剤。
【化18】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項2】
NeK2遺伝子の発現の抑制を目的とする、請求項1に記載のRNA干渉剤。
【請求項3】
前記パッセンジャー鎖は、配列番号9で表される塩基配列を有し、前記ガイド鎖は、配列番号10で表される塩基配列を有する、請求項2に記載のRNA干渉剤。
【請求項4】
非ヒト動物の生体内又は動物の生体外で標的RNAに対するパッセンジャー鎖及びガイド鎖を備え、
前記パッセンジャー鎖と前記ガイド鎖とが対合した二本鎖RNAの両端はブラントエンドを構成し、
以下の(a)及び(b);
(a)前記パッセンジャー鎖の5’末端側及び3’末端側
(b)前記ガイド鎖の3’末端側
に、以下の式(2)で表されるユニット
を2個備える、RNA二本鎖を用いて、標的遺伝子の発現を抑制する方法。
【化19】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項5】
標的RNAに対して相補的なオリゴ
デオキシリボヌクレオチドを含むアンチセンス鎖と、
前記アンチセンス鎖の3’末端及び5’末端に、以下
の式(2)で表されるユニットからなる群から選択される2個をそれぞれ備える2つの側鎖と、
を備え、
前記アンチセンス鎖と前記2つの側鎖を構成するヌクレオシドの全てのヌクレオシド間は、ホスホロチオエート結合で連結されている、アンチセンス核酸。
【化22】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項6】
前記標的RNAは、ヒトSGLT2遺伝子のmRNAである、請求項5に記載のアンチセンス核酸。
【請求項7】
前記アンチセンス鎖及び前記2つの側鎖は、全体として、GGCATGAGCTTCで表される塩基配列を構成する、請求項6に記載のアンチセンス核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2019年8月23日付けで出願された日本国特許出願である特願2019-153235に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容は、引用により本願に組み込まれるものとする。
本明細書は、RNAを標的としたより実用的なRNAの作用抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAを標的としたsiRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)などの小分子RNAを有効成分とするRNA薬剤の開発が進んでいる。こうしたRNA薬剤の生体内における安定性やデリバリー性等を高めるために、RNAに対する種々の化学修飾が試みられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヌクレアーゼ耐性やRNA薬剤のノックダウン効果に対して実効性のある化学修飾の態様は未だ十分に検討されているとはいえない。siRNAについては、オフターゲット効果を抑制する必要もある。本明細書は、RNA干渉やASOに基づく標的RNAの作用抑制剤等としてのより有用性のある化学修飾形態を有するオリゴヌクレオチド及びその利用等を提供する。
【0005】
本発明者らは、オリゴヌクレオチドにおけるリボース/デオキシリボースに替わる骨格要素として、炭素原子数が3個の鎖状部分を有するL-トレオニノールにアミド結合を介して塩基アナログを有する構成単位及び/又はセリノールにアミド結合を介して塩基アナログを有する構成単位を用いることとし、当該構成単位を、siRNAとしての二本鎖オリゴヌクレオチドの3’末端及び5’末端に導入することにより、そのヌクレアーゼ耐性を向上させると同時にオフターゲット効果を抑制し、さらにオンターゲット活性を高めることも見出した。
【0006】
また、本発明者らは、アンチmiRNAオリゴヌクレオチド(AMO)としての一本鎖RNAにおいても上記構成単位を有するオリゴヌクレオチドが、高いアンチセンス効果を発揮することも見出した。
【0007】
さらに、本発明者らは、上記構成単位を有するギャップマーとして有用であることも見出した。
【0008】
さらにまた、本発明者らは、上記構成単位等を有するビーコンプローブが、miRNAの検出に有用であることも見出した。
【0009】
本明細書は、以上の知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0010】
[1]標的RNAに対するパッセンジャー鎖及びガイド鎖を備え、
前記パッセンジャー鎖と前記ガイド鎖とが対合した二本鎖RNAの両端はブラントエンドを構成し、
以下の(a)及び(b);
(a)前記パッセンジャー鎖の5’末端側及び3’末端側
(b)前記ガイド鎖の3’末端側
に、以下の式(1)及び(2)で表されるユニットのいずれかを備える、RNA干渉剤。
【化1】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【化2】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[2]前記(a)に式(2)で表されるユニットを備え、
前記(b)に式(1)で表されるユニットを備える、[1]に記載のRNA干渉剤。
[3]前記ユニットは、RNase耐性、オンターゲット活性及びオフターゲット抑制活性からなる群から選択される1種又は2種以上を向上できる種類及び個数を備える、[1]又は[2]に記載のRNA干渉剤。
[4]NeK2遺伝子の発現の抑制を目的とする、[1]~[3]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[5]標的RNAに対するパッセンジャー鎖及びガイド鎖を備え、
前記パッセンジャー鎖と前記ガイド鎖とが対合した二本鎖RNAの両端はブラントエンドを構成し、
以下の(a)及び(b);
(a)前記パッセンジャー鎖の5’末端側及び3’末端側
(b)前記ガイド鎖の3’末端側
に、以下の式(1)及び(2)で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上を備える、RNA二本鎖を用いて、標的遺伝子の発現を抑制する方法。
【化3】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【化4】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[6]標的RNAに対するアンチセンス鎖を備え、
前記アンチセンス鎖は、
以下の式(1)及び式(2)で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上を含み、前記標的RNAと特異的にハイブリダイズ可能なハイブリダイズ領域と、
を備える、アンチセンス核酸。
【化5】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【化6】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[7]前記標的RNAは、miRNAである、[6]に記載のアンチセンス核酸。
[8]標的RNAに対するアンチセンス鎖と、
前記アンチセンス鎖の両末端に、以下の式(1)及び(2)で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上をそれぞれ含む2つの側鎖と、
を備える、アンチセンス核酸。
【化7】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【化8】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[9]以下の式(1)及び式(2)で表されるユニットから選択される1個又は2個以上を含み、標的RNAと特異的にハイブリダイズ可能なハイブリダイズ領域を有するプローブ鎖と、
を備え、
前記標的RNAに前記プローブ鎖がハイブリダイズしたことを示すシグナル要素と、
を備える、標的RNAの検出剤。
【化9】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【化10】
(ただし、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1で作製したRNA干渉剤のRNA干渉(ルシフェラーゼアッセイ)の評価結果を示す図である。
【
図3】実施例1で作製したRNA干渉剤のオフターゲット効果の評価結果を示す図である。
【
図4】実施例1で作製したRNA干渉剤のRNA干渉(NeK2タンパク質のウェスタンブロッティング)の評価結果を示す図である。
【
図5】実施例1で作製したRNA干渉剤のMTTアッセイによる細胞増殖能の評価結果を示す図である。
【
図6】実施例1で作製したRNA干渉剤の酵素耐性能の評価結果を示す図である。
【
図7】実施例2で作製したギャップマー型アンチセンス核酸を用いたマウス投与実験のプロトコールの概要を示す図である。
【
図8】実施例2で作製したギャップマー型アンチセンス核酸によるSGLT2のノックダウン活性(mRNA量)の評価結果を示す図である。
【
図9】実施例2で作製したギャップマー型アンチセンス核酸によるSGLT2のノックダウン活性(タンパク質量)の評価結果を示す図である。
【
図10】実施例2で作製したギャップマー型アンチセンス核酸によるオフターゲット効果の評価結果を示す図である。
【
図11】実施例2で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による尿糖排泄増進の評価結果を示す図である。
【
図12】実施例4で作製したモレキュラービーコン型プローブの標的RNAとのハイブリダイズ時の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図13】実施例4で作製したモレキュラービーコン型プローブによる標的RNAの検量を示す図である。
【
図14】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸を用いたマウス投与実験のプロトコールの概要を示す図である。
【
図15】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸によるSGLT2のノックダウン活性(mRNA量)の評価結果を示す図である。
【
図16】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸によるSGLT2のノックダウン活性(タンパク質量)の評価結果を示す図である。
【
図17】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による尿糖排せつ増進の評価結果を示す図である。
【
図18】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による肝蔵における副作用の評価結果(AST)を示す図である。
【
図19】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による肝蔵における副作用の評価結果(ALT)を示す図である。
【
図20】実施例5で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による肝蔵における副作用の評価結果(ALP)を示す図である。
【
図21】実施例6で作製したギャップマー型アンチセンス核酸を用いたマウス投与実験のプロトコールの概要を示す図である。
【
図22】実施例6で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による腎臓におけるSGLT2のmRNA量(0W)の評価結果を示す図である。
【
図23】実施例6で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による腎臓におけるSGLT2のmRNA量(1W)の評価結果を示す図である。
【
図24】実施例6で作製したギャップマー型アンチセンス核酸による腎臓におけるSGLT2のmRNA量(2W)の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書の開示は、RNAを標的としたより実用的なRNAの作用抑制剤に関する。本明細書に開示されるRNA干渉剤によれば、ヌクレアーゼ耐性とオンターゲット活性の向上と同時にオフターゲット効果を抑制するという、実用性に優れるRNA干渉剤を提供できる。
【0013】
また、本明細書に開示されるASO剤によれば、例えば、miRNAを標的RNAとするASOであるAMOやギャップマーの実用性の向上に貢献できる。
【0014】
また、本明細書に開示される標的RNAの検出剤によれば、標的のRNAを検出することに関しての実用性の向上に貢献できる。
【0015】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに開示は、さらに改善されたRNA作用抑制剤及びその利用を提供するために、他の特徴や開示とは別に、又は共に用いることができる。
【0016】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0017】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0018】
以下、本明細書の開示について詳細に説明する。
【0019】
(RNA干渉剤)
本明細書に開示されるRNA干渉剤(以下、単に、本RNA干渉剤ともいう。)は、標的RNAに対するパッセンジャー鎖及びガイド鎖を備えており、これらのハイブリダイズによる二本鎖RNAの両末端は、ブラントエンドを構成することができる。本剤としては、例えば、
図1に示す構造を採用することができる。
図1において、各サークルは、ヌクレオチドを示し、濃色のサークルは、特に、3’末端側及び5’末端側として言及されるヌクレオチドである。
【0020】
本RNA干渉剤の標的RNAは、特に限定されないで、RNA干渉によりその作用を抑制されうるRNAであればよい。典型的には、mRNA、pre-mRNA、miRNAなどのノンコーディングRNA等が挙げられる。標的RNAとの認識部位の長さも特に限定されないが、例えば、15mer~25mer程度とすることができる。なお、パッセンジャー鎖の5’末端及び3’末端並びにガイド鎖の3’末端は水酸基であり、ガイド鎖の5’末端はリン酸基又は水酸基となる。
【0021】
標的RNAとしては、例えば、ガンや種々の遺伝子疾患の原因遺伝子又は当該遺伝子の発現制御に関連する遺伝子のほか各種の領域を適宜選択することができる。例えば、ガンの治療標的となる遺伝子として、膵臓ガンに関連するNeK2遺伝子が挙げられる。
【0022】
(パッセンジャー鎖)
本RNA干渉剤のパッセンジャー鎖は、標的RNAに対して概して同一の塩基配列、すなわち、センスストランド(SS)を構成することができる。パッセンジャー鎖の鎖長は、特に限定するものではないが、例えば、17mer~27mer程度の、標的RNAに応じた鎖長を備えることができる。パッセンジャー鎖の鎖長は、また例えば、18mer~25merであり、また例えば、19mer~24merであり、また例えば、20mer~23merである。ガイド鎖とハイブリダイズしてブラントエンドを構成する場合には、ガイド鎖長と同一とすることができる。
【0023】
(パッセンジャー鎖の3’末端側)
パッセンジャー鎖の3’末端側の塩基配列は、典型的には、TT(チミン-チミン)など、チミン(T)、ウラシル(U)及びシトシン(C)などのピリミジン塩基若しくはその誘導体を塩基として備えるが、これに限定するものではなく、RNA干渉剤として機能する範囲であれば、他の種類の塩基又は修飾塩基を適宜組み合わせることもできる。本RNA干渉剤が、パッセンジャー鎖の3’末端においてブラントエンドとなる場合には、ガイド鎖の5’末端側の塩基配列との相補性が考慮される。なお、ガイド鎖の5’末端側の塩基配列については、後段で説明する。
【0024】
パッセンジャー鎖における3’末端側の骨格部分としては、例えば、以下の式(1)又は式(2)で表されるユニット(以下、双方のユニットについてまとめて言及するときには、式(1)等のユニットという。)からなる群から選択される1個又は2個以上備えることができる。
【0025】
【0026】
式(1)及び式(2)における、Base(塩基)は、適宜、公知の天然又は人工的な種々の塩基を備えることができる。また、式(1)及び式(2)におけるXが酸素原子のとき、ホスホジエステル結合により3’末端側と結合し、Xがイオウ原子のとき、ホスホロチオエート結合により3’末端側と結合する。
【0027】
パッセンジャー鎖の3'末端側においては、式(1)等で表されるユニットを例えば、1個~4個、また例えば、1個~3個、また例えば、1個~2個、また例えば、2個備えることができる。当該3’末端側に備えられる2個以上のユニットは、単一種類のユニット、すなわち、全てが式(1)又は式(2)で表されるユニットであってもよいが、式(1)及び式(2)で表されるユニットの組合せであってもよいし、式(1)又は式(2)で表されるユニットと、天然のヌクレオチドや他のヌクレオシド誘導体との組合せであってもよい。
【0028】
パッセンジャー鎖の3’末端側においては、その端末において1個の式(1)等で表されるユニットを備えることができる。また、2個以上の式(1)等で表されるユニットをそなえるときには、当該末端のユニットに連続して5’末端側に、(1)等で表されるユニットを1個又は2個程度備えることができる。
【0029】
(パッセンジャー鎖の5’末端側)
パッセンジャー鎖の5’末端側の塩基配列は、特に限定するものではないが、本RNA干渉剤がパッセンジャー鎖の5’末端においてブラントエンドを構成する場合には、ガイド鎖の3’末端側の塩基配列との相補性が考慮される。ガイド鎖の3’末端側の塩基配列については、後段で説明する。
【0030】
パッセンジャー鎖の5’末端側の骨格部分としては、式(1)等で表されるユニットを1個又は2個以上備えることができる。当該5'末端側においては、式(1)等で表されるユニットを例えば、1個~4個、また例えば、1個~3個、また例えば、1個~2個、また例えば、2個備えることができる。当該5’末端側に備えられる2個以上のユニットは、当該5’末端側においては、単一種類のユニット、すなわち、全てが式(1)又は式(2)で表されるユニットであってもよいが、式(1)及び式(2)で表されるユニットの組合せであってもよいし、式(1)又は式(2)で表されるユニットと、天然のヌクレオチドや他のヌクレオシド誘導体との組合せであってもよい。
【0031】
パッセンジャー鎖の5’末端側においては、その端末において1個の式(1)等で表されるユニットを備えることができる。また、2個以上の式(1)等で表されるユニットをそなえるときには、当該末端のユニットに連続して3’末端側に、(1)等で表されるユニットを1個又は2個程度備えることができる。
【0032】
(ガイド鎖)
本RNA干渉剤のガイド鎖は、標的RNAとハイブリダイズ可能に、概して、標的RNAの塩基配列に対して相補的な塩基配列、すなわち、アンチセンスストランド(AS)を構成することができる。ガイド鎖の鎖長は、特に限定するものではないが、例えば、17mer~27mer程度の、標的RNAに応じた鎖長を備えることができる。ガイド鎖の鎖長は、また例えば、18mer~25merであり、また例えば、19mer~24merであり、また例えば、20mer~23merである。
【0033】
(ガイド鎖の3’末端側)
ガイド鎖の3’末端側の塩基配列は、典型的には、TT(チミン-チミン)など、チミン(T)、ウラシル(U)及びシトシン(C)などのピリミジン塩基若しくはその誘導体を備えることができるが、RNA干渉剤として機能する範囲であって、他の種類の塩基又は修飾塩基を適宜組み合わせることもできる。
【0034】
ガイド鎖の3’末端側の塩基配列は、標的とするmRNAに相補的な配列とすることができる。その結果、例えば、塩基としては、チミン(T)又はウラシル(U)若しくはその誘導体を有するように構成される場合がある。ガイド鎖の3’末端側では、パッセンジャー鎖の5’末端側との間で、塩基対としてTA、UA等の天然型塩基対やそれに類する塩基対が形成されるようにすることもできる。例えば、ガイド鎖の3’末端側には、T又はUを備えることができる。より具体的には、例えば、ガイド鎖の3’末端にTを備えることができ、さらに、その5’末端側にTを備えたり(TT、ただし、3’末端から2塩基を示す。)、同様にUを備えたり(TU、ただし、3’末端から2塩基を示す。)することができる。
【0035】
本RNA干渉剤のガイド鎖における3’末端側における骨格部分としては、例えば、式(1)等で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上を備えることができる。ガイド鎖の3'末端においては、式(1)等で表されるユニットを例えば、1個~4個、また例えば、1個~3個、また例えば、1個~2個、また例えば、2個備えることができる。当該3’末端に備えられる2個以上のユニットは、単一種類のユニット、すなわち、全てが式(1)又は式(2)で表されるユニットであってもよいが、式(1)及び式(2)で表されるユニットの組合せであってもよいし、式(1)又は式(2)で表されるユニットと、天然のヌクレオチドや他のヌクレオシド誘導体との組合せであってもよい。
【0036】
ガイド鎖の3’末端側においては、その端末において1個の式(1)等で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上を備えることができる。また、2個以上の式(1)等で表されるユニットをそなえるときには、当該末端のユニットに連続して5’末端側に、(1)等で表されるユニットを1個又は2個程度備えることができる。
【0037】
(ガイド鎖の5’末端側)
ガイド鎖の5’末端側の塩基配列は、特に限定するものではなく、RNA干渉剤として機能する範囲であって、他の種類の塩基又は修飾塩基を適宜組み合わせることもできる。
【0038】
ガイド鎖の5’末端側の塩基配列は、例えば、塩基としては、シトシン(C)又はウラシル(U)若しくはその誘導体を有するように構成される。ガイド鎖の5’末端側では、パッセンジャー鎖の3’末端側の塩基配列に相補的に設定される。したがって、当該5’末端側においては、塩基対としてAU、CG等の天然型塩基対やそれに類する塩基対が形成する場合がある。例えば、ガイド鎖の5’末端側には、C又はUを備えることができる。より具体的には、例えば、ガイド鎖の5’末にUを備えることができ、さらに、その3’末端側にCを備えたりすることができる(UC、ただし、5’末端から2塩基を示す。)。
【0039】
ガイド鎖における5’末端側における骨格部分としては、天然のリボヌクレオチド又はその誘導体などに由来するユニットを備えることができる。こうすることで、ガイド鎖5’末端が選択的にRISCに取り込まれやすくなり、オフタ-ゲット効果を抑制することができる。なお、3’末端側と同様に、式(1)等で表されるユニットを備えることもできる。ガイド鎖の5'末端は、リン酸化されていることが好ましい。
【0040】
本RNA干渉剤のパッセンジャー鎖及びガイド鎖は、上記した両末端側の構造以外の部分においては、適宜、天然又は化学修飾された塩基や、天然のリボースやその2’位が化学修飾された骨格を有するヌクレオシド又はその誘導体を備えることができる。また、各ヌクレオシド又はその誘導体の結合は、ホスホジエステル結合やホスホロチオエート結合であってもよい。そのほか、パッセンジャー鎖及びガイド鎖は、公知の化学修飾を適宜備えることができる。
【0041】
本RNA干渉剤のブラントエンドを構成する3’末端側及び/又は5’末端側に、式(1)等で表されるユニットを備えることで、RNase耐性、オンターゲット活性及びオフターゲット効果の抑制活性を効果的に向上させることができる。なかでも、パッセンジャー鎖の3’及び5’末端側及びガイド鎖の3’末端側に式(1)等で表されるユニットを備えることで、効率的に上記活性をいずれも向上させることができる。
【0042】
本RNA干渉剤においては、好適には、パッセンジャー鎖及びガイド鎖が、それぞれ22mer~24merであって、両末端ブラントエンド構造を形成しており、パッセンジャー鎖の3’末端側及び5’末端側は、いずれも、その端末から、式(1)等で表されるユニット(例えば、式(2)で表されるユニットのみで構成され、また例えば、式(1)で表されるユニットのみから構成され、また例えば、式(1)で表されるユニット及び式(2)で表されるユニットの組み合わせから構成される。)を1個又は連続して2個備えている。また、パッセンジャー鎖の3’末端側の塩基配列はその端末から、例えばAGであり、5’末端側の塩基配列はその端末から、例えばAAである。また、ガイド鎖の3’末端側は、その端末から式(1)等で表されるユニットを1個又は連続して2個備えている。また、ガイド鎖の3’末端側の塩基配列はその端末から、例えばTT又はTUであり、5’末端側の塩基配列はその端末から、例えばUCである。
【0043】
また例えば、本RNA干渉剤の各鎖の末端側における式(1)で表されるユニット及び式(2)で表されるユニットについて、いずれか一方のユニットのみを備える形態のほか、双方のユニットを組み合わせた形態を採ることができる。例えば、パッセンジャー鎖及びガイド鎖間で式(1)で表されるユニット及び式(2)で表されるユニットが対合するように配置されるハイブリッド型、パッセンジャー鎖又はガイド鎖において双方のユニットが存在するキメラ型、ハイブリッド型とキメラ型とを組み合わせた混合型などの各種形態を採ることができる。
【0044】
本RNA干渉剤は、例えば、疾患に関連する遺伝子の発現を抑制するための医薬として用いることができるほか、研究用途としても用いることができる。医薬用途として用いる場合には、疾患の種類や標的部位に応じて、適宜、DDSのための要素を用いて、静脈内投与、皮下投与、脳室内投与、経鼻腔投与及び腹腔内投与等の適切な投与経路が選択される。
【0045】
(遺伝子発現の抑制方法)
本明細書によれば、本RNA干渉剤を構成する二本鎖RNAを用いて、遺伝子の発現を抑制する方法も提供される。本RNA干渉剤を、インビトロ又はインビボで投与すると、哺乳動物細胞の細胞内において、本RNA干渉剤は、標的RNAに作用して、RNA干渉により標的RNAを分解等する。これにより、当該標的RNAの作用ー典型的には、mRNAのタンパク質への翻訳-を抑制して、結果として遺伝子の発現が抑制されることになる。本抑制方法は、インビボにおいて用いられる場合には、例えば、非ヒト哺乳動物に用いられる。
【0046】
本RNA干渉剤を構成する二本鎖RNAは、公知のRNA合成方法によって取得することができる。式(1)及び式(2)で表されるユニット及び当該ユニットを有するオリゴヌクレオチドは、例えば、特開2016-130232号公報、特開2011-135824号公報等に従い合成することができる。
【0047】
(標的核酸の検出剤)
本明細書に開示される標的核酸の検出剤(以下、本検出剤ともいう。)は、式(1)等で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上含み標的核酸と特異的にハイブリダイズ可能なハイブリダイズ領域を有するプローブ鎖と、標的核酸にプローブ鎖がハイブリダイズしたことを示すシグナル要素と、を備えることができる。本検出剤によれば、感度よく細胞内の標的核酸を検出することができる。
【0048】
本検出剤の標的核酸は、特に限定されない。DNAであってもよいし、RNAであってもよい。標的核酸をDNAとするとき、特定遺伝子の特定領域、SNPsなどの変異などを標的とすることができる。標的核酸をRNAとするとき、mRNA、pre-mRNA、miRNAなどのノンコーディングRNA等が挙げられる。標的核酸の配列の長さも特に限定するものではないが、例えば、4mer~25mer程度とすることができる。
【0049】
本検出剤におけるプローブ鎖は、標的核酸に特異的にハイブリダイズするハイブリダイズ領域を有している。ハイブリダイズ領域は、標的核酸の配列に応じた長さを有することができる。プローブ鎖の全体は、例えば、15mer~35mer程度とすることができる。例えば、ハイブリダイズ領域を構成する骨格部分は、式(1)等で表されるユニットで構成されている。こうすることで、高い特異性で、標的RNAとハイブリダイズさせることができ、例えば、SNPs等の変異であっても高い精度で検出することができる。ハイブリダイズ領域に加えて、例えば、後述するように、ステム形成領域も、式(1)等で表されるユニットで構成されている。
【0050】
プローブ鎖は1種又は2種以上のシグナル要素を備えている。シグナル要素は、特に限定するものではないが、例えば、蛍光色素と消光色素との組み合わせから構成して、プローブ鎖が標的核酸にハイブリダイズしていないときには、消光色素により蛍光色素が消光され、プローブ鎖が標的核酸にハイブリダイズしたときは、蛍光色素によるシグナルが提示されるようになっている。こうした蛍光色素と消光色素との組み合わせは、例えば、特開2012-170373号公報、再表2011/105610号公報、特開2013-78298号公報等に記載の化合物ほか、公知の化合物を適宜組み合せて用いることができる。
【0051】
例えばこうした蛍光色素と消光色素とは、ハイブリダイズ領域に対して種々の形態で備えることができる。例えば、ハイブリダイズ領域の少なくとも一部をループに有し、蛍光色素と消光色素とをステム形成領域に有するモレキュラービーコンが挙げられる。なお、ハイブリダイズ領域は、ステム形成領域の一部に及んでいてもよい。この場合、一本鎖であるプローブ鎖の一方の端部のステム形成領域に蛍光色素を配し、他方の端部のステム形成領域の消光色素を配することができる。なお、ステム形成領域に蛍光色素と消光色素とを備える場合、ステム形成領域の各端末にこれらを備えることができる。
【0052】
また例えば、全体として、定常時には、ヘアピン状部とその一端が延出して一本鎖領域とを有するプローブ鎖であって、ハイブリダイズ領域が標的核酸とハイブリダイズ時には、ヘアピン状部が開放されるように構成されるとき、プローブ鎖のヘアピン形成領域に、蛍光色素と消光色素とを配することもできる。
【0053】
本検出剤は、例えば、標的DNAあるいはRNAを認識する部位に、アデニン(A)に替えて、2,6-ジアミノプリンを塩基として備えるユニットを1個又は2個以上備えることができる。かかる塩基を配することにより、標的DNAあるいはRNA認識の際に二重鎖を安定化させることでヘアピンを開きやすくなり蛍光強度が上がることでシグナル(S)/バックグラウンド(B)比を向上させることができるほか、本検出剤による検出感度(検出限界)を向上させることができる。当該塩基を備える場合には、S/B比を、例えば、100以上、また例えば、150以上、また例えば、180以上、また例えば、190以上、また例えば、200以上などとすることができる。当該塩基を有するユニットは、例えば1個又は4個以下、また例えば、1個以上3個以下、また例えば、1個以上2個以下備えることができる。
【0054】
プローブ鎖が、モレキュラービーコンやヘアピン状部を有するプローブを構成するときには、蛍光色素及び消光色素を備える二つのステム形成領域やヘアピン形成領域の近傍に、当該塩基を備えることが好適である。なお、当該塩基を有するユニットは、ハイブリダイズ領域におけるハイブリダイズを妨げないように配置される。
【0055】
本検出剤は、本RNA干渉剤と同様、公知のDNA合成方法によって取得することができる。式(1)及び式(2)で表されるユニット及び当該ユニットを有するオリゴヌクレオチドは、例えば、特開2016-130232号公報、特開2011-135824号公報等に従い合成することができる。
【0056】
(ギャップマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド剤)
本明細書に開示されるギャップマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド剤(以下、単に、本アンチセンス剤ともいう。)は、標的RNAに対するアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖の両末端に、それぞれ、式(1)等で表されるユニットからなる群から選択される1個又は2個以上含む側鎖と、を備えることができる。
【0057】
本アンチセンス剤の標的RNAは、特に限定されないが、mRNA、pre-mRNA、miRNAなどのノンコーディングRNA等が挙げられる。標的核酸との認識部位の長さも特に限定するものではないが、例えば、6mer~30mer程度とすることができる。
【0058】
アンチセンス鎖は、標的RNAに対して特異的にハイブリダイズ可能な塩基配列を有することができる。かかるアンチセンス鎖の骨格部分は、DNAで構成することができる。また、このアンチセンス鎖の骨格部分のヌクレオチドは、ホスホジエステル結合を含んでいてもよいが、例えば、ホスホロチオエートで結合されていてもよい。なお、アンチセンス鎖に、CGを含む場合には、TLR9の活性化を抑制するために、C(シトシン)は、5位をメチル化することもできる。
【0059】
本アンチセンス剤は、アンチセンス鎖の両側に式(1)等で表されるユニットを1個又は2個以上含む側鎖を備えることができる。かかる側鎖の長さは特に限定するものではないが、例えば、1merから15mer程度とすることができ、また例えば、1merから10mer程度、また例えば、1merから8mer程度、また例えば、1merから6mer程度、また例えば、1merから4mer程度とすることができる。これらの側鎖における式(1)等で表されるユニットの個数は特に限定するものではなく、他のヌクレオチドユニットを備えていてもよい。
【0060】
側鎖の塩基構成は、特に限定するものではないが、例えば、標的RNAの両末端の塩基配列に相補的な塩基配列を採用することができる。また、側鎖とアンチセンス鎖との間は、ホスホロチオエートで結合されていることができるほか、側鎖におけるユニット間もホスホロチオエートで結合されていることができる。
【0061】
本アンチセンス剤は、本RNA干渉剤と同様、公知のDNA等の合成方法によって取得することができる。式(1)及び式(2)で表されるユニット及び当該ユニットを有するオリゴヌクレオチドは、例えば、特開2016-130232号公報、特開2011-135824号公報等に従い合成することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について開示するが、これらは本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定する意図で記載されるものではない。
【実施例1】
【0063】
(NeK2-RNA干渉剤の作製及び評価)
セリン-スレオニンキナーゼであるNek2は細胞増殖に関わるタンパク質であり、膵臓がん細胞で過剰発現することが知られている。このことから、NeK2は膵臓癌の治療標的として期待されている。本実施例では、Nek2遺伝子のmRNAを標的RNAとするRNA干渉剤を作製した。
【0064】
RNA干渉剤の標的RNAの配列は既報の論文(Kokuryo et al., Cancer Sci., 2016, 107, 1315-1320)で用いられている塩基配列に基づいた。RNA干渉剤の設計は、ブラントエンド型RNA干渉剤とし、ガイド鎖の5’末端以外の3ヵ所の末端を以下の式(3)で表されるユニット(SNA)及び(4)で表されるユニット(L-αTNA)で置換した。塩基配列及びユニットによる置換形態を以下の表に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
作製したRNA干渉剤を、pmiR-Nek2 プラスミドとともに、Lipofectamin2000を用いて96ウェルプレートに播種したHELA細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、Dual-Glo luciferase assay system(promega)を用いてルシフェラーゼアッセイを行った。結果を、
図2に示す。
図2に示すように、作製したRNA干渉剤は、いずれも、天然のヌクレオチドで構成したRNA干渉剤(SiNek2)と同程度のRNAi活性を示した。
【0069】
次いで、パッセンジャー鎖(センス鎖)によるオフターゲット効果について、パッセンジャー鎖に対して相補的な配列をもつように作製したプラスミドを用いて上記と同様にしてルシフェラーゼアッセイにより確認した。結果を
図3に示す。
図3に示すように、パッセンジャー鎖によるオフターゲット効果は、天然siRNAよりも抑制されていることがわかった。なかでも、TNAを導入したRNA干渉剤が、高いオフターゲット効果の抑制能を示した。
【0070】
次いで、作製したRNA干渉剤を、KLM1細胞にLipofectamin2000を用いてトランスフェクションし、48時間後に、細胞を回収し、内在性のNek2遺伝子の発現をanti-NeK2抗体を用いてウェスタンブロッティングにより解析した。結果を
図4に示す。
図4に示すように、SNA又はTNAを導入したRNA干渉剤は、天然のsiRNAに比べて高いRNA干渉能を示すことがわかった。
【0071】
さらに、Nek2は、細胞増殖に関わるタンパク質であることから、siRNA-Nek2(10nM)を作用させた細胞の増殖能を評価することでRNA干渉剤の効果を、MTTアッセイにより評価した。すなわち、トランスフェクション後に、WST-1試薬を細胞と所定時間混合し、その後、465nmの吸光度を解析した。結果を、
図5に示す。
図5に示すように、天然のsiRNAと比較して、siNek2-T2が最も効果的であることがわかった。
【0072】
さらにまた、末端にSNAを導入したRNA干渉剤(siNek2-S2)(1μM)を、37℃下40%ヒト血清中で保存したとき、その分解物を20%変性PAGEにて解析した。結果を、
図6に示す。
図6に示すように、SNAを末端に導入したRNA干渉剤は、高い酵素耐性を有していることがわかった。
【実施例2】
【0073】
(ギャップマー型アンチセンス核酸の作製及び評価)
SGLT2(sodium glucose cotransporter2, SLC5A2)は腎・近位尿細管細胞に発現するグルコースのトランスポーターであり、原尿中に濾過されたグルコースの再吸収を担っている分子である。また、糖尿病において、その発現が亢進することが知られている。本実施例では、ヒトSGLT2遺伝子のmRNAを標的とするギャップマー型アンチセンス核酸を作製し、そのノックダウン活性、尿糖排泄および副作用(肝機能障害・オフターゲット効果(SGLT1・SGLT5などの他の近位尿細管に発現するトランスポーター)等について評価した。
【0074】
本実施例では、以下の構成のアンチセンス核酸を作製した。具体的には、大文字部分の骨格部分をホスホロチオエート結合によるデオキシリボヌクレオチドで構成し、()内の骨格部分を、ホスホロチオエート結合によって、2’MOE(2’-O-メトキシエチルリボヌクレオチド)、SNA(式(5))及びL-α-TNA(式(6))のいずれかで全て置換した合計3種類のアンチセンス核酸を作製した。
【0075】
【0076】
図7に示すプロトコールに従い、マウス(C57BL6/J、オス、9~10週齢、日本SLC株式会社より購入)に対して、作製したアンチセンス核酸を10mg/kg/回・3回/週にて計10回、皮下注射(背部)にて投与した。皮下注射はイソフルランでの吸入麻酔下に施行した。最終投与の翌日に採尿、2日後に屠殺し腎臓、肝臓、血清を採取した。
【0077】
採取したマウスの腎臓におけるSGLT2のmRNA量及び発現タンパク質量を測定した。結果を
図8及び
図9に示す。
図8及び
図9に示すように、SNA及びL-aTNAを導入したアンチセンス核酸の皮下投与は、いずれも、腎臓におけるSGLT2のmRNAレベルおよびSGLT2タンパク量を著明に低下させることがわかった。なお、同時に、SGLT1及びSGLT5のmRNAレベルについても測定した。結果を
図10に示す。いずれのアンチセンス核酸においても、これらの遺伝子のmRNAレベルが低下していないことを確認した。すなわち、使用したアンチセンス核酸について、標的としたSGLT2以外の分子に対する非特異的な(塩基配列に依存しない)発現抑制効果(オフターゲット効果)は、観察されなかった。
【0078】
採取した尿を用い、尿糖排せつを評価した。結果を
図11に示す。
図11に示すように、PBS投与群では尿糖は認めなかったが、いずれのアンチセンス核酸投与群においても尿糖の排泄を認めた。これらの結果から、SGLT2の作用が大きく減弱し、尿細管におけるグルコースの再吸収能が低下していることがわかった。
【実施例3】
【0079】
(モレキュラービーコン型プローブの作製及び評価)
本実施例では、標的RNAをEGFR遺伝子のT790を含む30mer(野生型及び変異型(一塩基置換))とし、それに対応するモレキュラービーコン型プローブを、標的RNAの認識部位の長さを14mer~18merと異なるように設計するとともに、他方のステム形成領域を含んだ全てをSNA(式(1))を骨格部分とするプローブ鎖とし、蛍光色素及び消光色素を両末端に導入して作製した(表2)。なお、蛍光色素及び消光色素は、野生型検出用モレキュラービーコンにおいては、ペリレン及びアントラキノンであり、変異型検出用モレキュラービーコン(T790M)においては、Cy3及びニトロメチルレッドとした。
【0080】
【0081】
これらの野生型検出用及び変異型検出用モレキュラービーコン型プローブを、37℃、プローブ(0.2μM)及び標的RNA(0.2μM、野生型又は異常型のEGFR遺伝子のmRNA)の存在下、100mMNaCl、10mM リン酸バッファ(pH7.0)で、励起波長440nm、発光波長472nm(以上、ペリレン)又は励起波長546nm、発光波長565nm(以上、Cy3)として、種々の温度でインキュベーション(5分)したときの蛍光強度を測定した。なお、S/Bを算出するため、標的RNAなしでプローブのみの場合の蛍光強度も測定した。以下に、37℃における蛍光強度を以下の表に示す。
【0082】
【0083】
以上の表に示すように、全てのモレキュラービーコンプローブにおいて、標的RNAとして野生型及び変異型のRNAを検出可能であり、どのプローブにおいても、S/Bは15以上を示し、野生型と変異型の識別が可能であることがわかった。
【実施例4】
【0084】
(高感度モレキュラービーコン型プローブの作製)
本実施例では、
図12に示すように、miR21を標的RNAとし、これにハイブリダイズするハイブリダイズ領域の両末端側にステム形成領域を配置して、さらに、ステム形成領域近傍のアデニンが配置される部位を2,6-ジアミノプリンとするほか、蛍光色素としてCy3を消光色素としてメチルレッドを導入したヌクレオチドをプローブ鎖とするモレキュラービーコン型プローブを作製した。なお、全ての骨格部分に、SNA(式(1))を採用した。
【0085】
このモレキュラービーコン型プローブを、20℃、プローブ(1μM)及び標的RNA(2μM)の存在下、100mMNaCl、10mM リン酸バッファ(pH7.0)で、励起波長546nm、発光波長565nmとして、80℃から1℃/分で降温したときの蛍光スペクトルを測定した。プローブ濃度を0.5μM及び標的RNA濃度を0~2000pMとし、発光波長を564nmとする以外は、同様の条件で、各標的RNA濃度にて蛍光強度を測定した。結果を
図12及び
図13に示す。
【0086】
図12に示すように、S(シグナル)/B(バックグランド)比は、205倍となり、100倍を超えたものとなった。また、
図13に示すように、標的RNAの検出限界は、200pMであった。以上のように、SNAを骨格部分とし、ステム形成領域の近傍に2,6-ジアミノプリンを備えるモレキュラービーコン型プローブは、優れた検出性能を発揮できることがわかった。なお、2,6-ジアミノプリンに変更しない以外は上記と同様にして作製したモレキュラービーコンについて、同様にS/B比及び検出限界を確認したところ、いずれも、2,6-ジアミノプリンを備えるモレキュラービーコンよりは低いものの良好な数値を示した。
【実施例5】
【0087】
(ギャップマー型アンチセンス核酸の作製及び評価その2)
実施例2に準じてヒトSGLT2遺伝子のmRNAを標的とするギャップマー型アンチセンス核酸を作製し、そのノックダウン活性、尿糖排泄および副作用(肝機能障害)について評価した。
【0088】
本実施例では、以下の構成のアンチセンス核酸を作製した。具体的には、大文字部分の骨格部分をホスホロチオエート結合によるデオキシリボヌクレオチドで構成し、()内の骨格部分を、ホスホロチオエート結合によって、2’MOE(2’-O-メトキシエチルリボヌクレオチド)、SNA、5メチルdCのいずれかで全て置換した合計4種類のアンチセンス核酸を作製した。
【0089】
【0090】
これらのアンチセンス核酸につき、
図14に示すプロトコールに従い、マウス(C57BL6/J、オス、9~10週齢、日本SLC株式会社より購入)に対して、作製したアンチセンス核酸を10mg/Kg/回・3回/週にて皮下注射より計10回投与した。最終投与の翌日に採尿、2日後に屠殺し、血液・腎組織を採取した。
【0091】
実施例2に準じて、採取したマウスの腎臓におけるSGLT2のmRNA量及び発現タンパク質量を測定した結果を
図15及び
図16に示す。
図15及び
図16に示すように、SNAを両端に1個だけ導入したアンチセンス核酸の皮下投与は、いずれも、腎臓におけるSGLT2のmRNAレベルおよびSGLT2タンパク量を低下させることがわかった。一方で、両端それぞれより2つ目のホスホロチオエートをリン酸ジエステル結合としたSNAのアンチセンス核酸では、15%程しか腎臓におけるSGLT2のmRNAレベルが低下せず、SGLT2タンパク量は10%程しか低下しなかった。
【0092】
また、実施例2に準じて、採取した尿を用い、尿糖排泄を評価した結果を
図17に示す。
図17に示すように、PBS投与群では尿糖を認めなかったが、最端から2つ目のホスホロチオエートをリン酸ジエステル結合としたSNAのギャップマーを除き、いずれのアンチセンス核酸投与群においても尿糖の排泄を認め、SGLT2の作用が減弱し、尿細管におけるグルコースの再吸収能が低下していることがわかった。
【0093】
また、採取した血液を用い、AST、ALT、ALPを評価した。結果を
図16及び
図19及び
図20に示す。
図19及び
図20に示すように、実施例2の結果と比較して、肝機能に対する副作用はいずれも軽減されていることがわかった。
【実施例6】
【0094】
(ギャップマー型アンチセンス核酸の作製及び評価その3)
実施例2に準じて、SGLT2遺伝子のmRNAを標的とするギャップマー型アンチセンス核酸を作製し、そのノックダウン活性と効果の持続性について評価した。本実施例では、以下の構成のアンチセンス核酸を作製した。具体的には、大文字部分の骨格部分をホスホロチオエート結合によるデオキシリボヌクレオチドで構成し、()内の骨格部分をホスホロチオエート結合によってSNAですべて置換した合計3種類のアンチセンス核酸を作製した。
【0095】
DNA:G*G*c*A*T*G*A*G*c*T*T*C
大文字 = DNA
c = 5メチルdC
* = S化
SNA2:(G)*G*c*A*T*G*A*G*c*T*T*(C)
( ) = SNA
c = 5メチルdC
* = S化
SNA4:(G*G)*c*A*T*G*A*G*c*T*(T*C)
( ) = SNA
c = 5メチルdC
* = S化
【0096】
これらのアンチセンス核酸につき、
図21に示すプロトコールに従い、マウス(C57BL6/J、オス、9~10週齢、日本SLC株式会社より購入)に対して、作成した各アンチセンス核酸をDay0において、10mg/Kgで2回皮下注射により投与した。最終投与の2日後、9日後、16日後に屠殺し、腎組織を採取した。実施例2に準じて、採取したマウスの腎臓におけるSGLT2のmRNA量を測定した結果を、それぞれ
図22、23、24に示す。
【0097】
図22に示すように、最終投与から2日後では、SNAを両側に1個ずつ、または2個ずつ導入したアンチセンス核酸、およびDNAにより構成されたアンチセンス核酸の皮下投与は、いずれも腎臓におけるSGLT2のmRNAレベルを低下させることがわかった。さらに、
図23に示すように、最終投与から9日後では、SNAを両側に1個ずつ、または2個ずつ導入したアンチセンス核酸の皮下投与は、SGLT2のmRNAレベルがそれぞれ70%、75%低下し、一方でDNAにより構成されたアンチセンス核酸の皮下投与は30%しか低下しなかった。さらに、
図24に示すように、最終投与から16日後では、SNAを両側に1個ずつ、または2個ずつ導入したアンチセンス核酸の皮下投与は、SGLT2のmRNAレベルがともに63%低下し、一方でDNAにより構成されたアンチセンス核酸の皮下投与は42%しか低下しなかった。
【0098】
これらの結果から、SNAを両側に1個ずつ、または2個ずつ導入したアンチセンス核酸の皮下投与は、DNAにより構成されたアンチセンス核酸の皮下投与と比較して、SGLT2の作用の減弱を持続していることがわかった。以上のことから、こうしたアンチセンス核酸は、ヌクレアーゼ耐性やノックダウン効果に対して実効性のある薬剤となることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0099】
配列番号1~10:siRNA
配列番号11:Gapmer Type Antisense Nucleic acid
配列番号14~21: Molecular Beacon Probe
【配列表】