(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】未処理の精液から運動性が高く形態学的に正常な精子を選別するためのマイクロ流体装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220201BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220201BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220201BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2018534801
(86)(22)【出願日】2017-01-22
(86)【国際出願番号】 US2017014479
(87)【国際公開番号】W WO2017127775
(87)【国際公開日】2017-07-27
【審査請求日】2019-12-12
(32)【優先日】2016-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516231051
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】504231999
【氏名又は名称】ウースター・ポリテクニック・インスティテュート
【氏名又は名称原語表記】WORCESTER POLYTECHNIC INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デミルシ、ウトカン
(72)【発明者】
【氏名】トツェル、エルカン
(72)【発明者】
【氏名】キングスレー、ジェイムス・レナード
(72)【発明者】
【氏名】シンナサミー、シルッパシラハ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0140655(US,A1)
【文献】特表平07-506256(JP,A)
【文献】国際公開第2015/077333(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0079676(US,A1)
【文献】Lab on a Chip (2014) Vol.14, pp.1142-1150
【文献】Small (2013) Vol.9, No.20, pp.3374-3384
【文献】Analytical Chemistry (2003) Vol.75, No.7, pp.1671-1675
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の又は未処理の精液から高いDNA完全性を有する比較的運動性の高い形態学的に正常な精子細胞を自己選別する方法であって、
(a)流体チャネルであって、一端の入口部と、他端の出口部と、前記入口部と前記出口部との間に、隣接するもの同士
が周期的な間隔を置いて配置された
円柱形のピラー構造のアレイを備えるピラー領域とを有する、該流体チャネルを提供し、
(b)前記流体チャネルの前記入口部に精子細胞を含む生又は未処理の精液を導入し、
(c)前記流体チャネルの前記出口部で選別された精子細胞を収集することにより、
前記選別された精子細胞は、周期的に間隔を置いて配置された
円柱形のピラー構造のアレイとの相互作用を介して、前記流体チャネル内の前記ピラー領域での自己誘導運動によって、外部流れ、力又は機構を使用することなく、生の又は未処理の精子を前記流体チャネルに供給することにより自己選別され、
自己選別された出力として、非選別精子細胞と比較して、高いDNA完全性を有する、比較的運動性の高い又は形態学的に正常な精子細胞を得るようにし
、
隣接する前記ピラー構造の中心間間隔は、18~30μmであり
隣接する前記ピラー構造同士の分離間隔は、8~20μmであり、
前記ピラー構造の高さは20~80μmであり、
前記流体チャネルの長さは、8~20mmであり、
前記流体チャネルの幅は、1~2mmであり、
自己選別のためのインキュベーション時間は、10~30分であることを特徴とする方法。
【請求項2】
生の又は未処理の精液から高いDNA完全性を有する比較的運動性の高い形態学的に正常な精子細胞を自己選別するための装置であって、
流体チャネルであって、一端の入口部と、他端の出口部と、前記入口部と前記出口部との間に、隣接するもの同士
が周期的な間隔を置いて配置された
円柱形のピラー構造のアレイを備えるピラー領域とを有する、該流体チャネルを有し、
前記入口部が、精子細胞を含む生又は未処理の精液を前記流体チャネルに導入するための入口をなし、
前記出口部が、選別された精子細胞を前記流体チャネルから収集するための出口をなし、
前記選別された精子細胞は、周期的に間隔を置いて配置された
円柱形のピラー構造のアレイとの相互作用を介して、前記流体チャネル内の前記ピラー領域での自己誘導運動によって、外部流れ、力又は機構を使用することなく、生の又は未処理の精子を前記流体チャネルに供給することにより自己選別され、
自己選別された出力として、非選別精子細胞と比較して、高いDNA完全性を有する、比較的運動性の高い又は形態学的に正常な精子細胞を得るように構成され
、
隣接する前記ピラー構造の中心間間隔は、18~30μmであり
隣接する前記ピラー構造同士の分離間隔は、8~20μmであり、
前記ピラー構造の高さは20~80μmであり、
前記流体チャネルの長さは、8~20mmであり、
前記流体チャネルの幅は、1~2mmであり、
自己選別のためのインキュベーション時間は、10~30分であることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未処理の精液から、運動性が高く形態学的に正常で、及び/又は遺伝的に正常な精子を選別するための方法、装置、及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの不妊症は世界的に流行している疾病であり、毎年8000万のカップルが罹患していると推定されている。先進国では、すべての出生の1~3%が補助生殖、最も一般的には体外受精(IVF)及び卵細胞質内精子注入(ICSI)[参考文献1]によって妊娠を達成している。不妊症の原因のうち、3分の1は男性起源であり、そのような症例の多くは補助生殖(ART)により治療されている[参考文献2,3]。補助生殖技術は、人間の不妊を解決するための有力な手段ではあるが、成功率はあまり高くなく、米国での2014年の出生率は1サイクルあたり平均35%未満に留まっている[参考文献4]。加えて、ARTには、(a)性染色体異常のリスクの増加、(b)ゲノムインプリンティング障害のリスクの増加[参考文献5,6]、(c)先天性欠損症のリスクの増加、及び(d)父性又は母性不妊症問題の伝達[参考文献7]を含む子孫に対するいくつものリスクを伴う。ARTは、多くのカップルにとって有益であるものの、人間の不妊症の大半を克服するものとはなっていない。
【0003】
ARTが男性因子不妊に適用される場合、精子は、通常、運動的及び形態学的に正常な精子を増すために、精子は、従来の勾配洗浄又はスイムアップ技術により処理される[参考文献8-10]。ICSIを適用する場合、卵に注入するために使用されるべき精子は、訓練された発生学者によって、形態学的特徴に基づいてのために個々に選別される[参考文献7,11]。胚の品質、妊娠率及び流産率などのARTの結果に影響を与える可能性がある他の精子の属性には、精子DNA-クロマチンや、染色体の完全性、突然変異又はメチローム解析が含まれるが、これらは、一般的なICSI手順[参考文献12-13]では考慮されていない。そのため、精子に対する重要かつ影響の甚大な自然淘汰の障壁が、ICSI技術によって迂回されることになるのではないかという問題を提起する。
【0004】
現在、ICSIを採用する際に、受胎及び出生の成否に特に関連する精子の属性を非侵襲的に評価するための、信頼できる方法は知られていない。本発明は、当該技術分野におけるこれらの課題を解決せんとするものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生の又は未処理の精液から、高いDNA完全性を有する比較的運動性の高い又は形態学的に正常な精子細胞を自己選別するための方法及び装置を提供する。
【0006】
一実施形態では、本発明は、一端に入口を、他端に出口を有する流体チャネルを提供する。ピラー構造のアレイは、流体チャネルの内部に周期的に間隔を置いて配置される。隣接するピラー構造間の間隔は、1μmから250μmの範囲である。精子細胞を含む生又は未処理の精液は、流体チャネルの入口から導入される。出口では、選別された精子細胞が流体チャネルから収集される。選別される精子細胞は、周期的に間隔をおいて配列されたピラー構造のアレイとの相互作用によって流体チャネル内に於ける自己誘導運動によって、外部からの流れ、力或いは機構を使用せずに自己選別される。出口からの出力は、選別されていない精子の未処理の精液と比較して、高いDNA完全性を有する比較的運動性の高い、形態学的に正常な精子細胞からなることを特徴とする。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、生の精子を装置に導入するための1又は複数の入口と、流体チャネルの内部に周期的に間隔を置いて配置された1又は複数の幾何学的構造体又は障害物のアレイを備える。隣接するピラー構造間の間隔は、1μmから500μmの範囲である。幾何学的構造のアレイは、精子の自己誘導運動が、外部流、外力又は機構を使用せずにアレイ内で生じ、生の又は未処理の精子は、流体チャネルを通過する間に自己選別されるように構成されている。これらの幾何学的構造は、円柱形、四角柱形、六角柱形、又は他のプリズム体をなすものであってもよく、表面は、無処理であっても、精子細胞を誘引又は反発する任意の種類の化学物質でコーティングされていてもよい。構造体のアレイは、四角形、長方形、六角形又は他の任意のモザイクパターンであってもよい。
【0008】
選別プロセスは、非自己選別精子細胞と比較して、比較的運動性の高い、形態学的に正常な、又は遺伝的に正常な精子細胞を選択する。1つ又は複数の出口が、装置から選別された精子の収集に使用されるために設けられて良い。
【0009】
入口、ピラーアレイ及び出口は、線状、円状、又は他の形状に配置されていて良い。
【0010】
さらに別の実施形態では、上記のような装置を使用して、精子細胞を自己選別する方法が提供される。精子サンプルは、生のものであるか、他の方法で処理されたものであるかに関わらず、装置の入口から導入される。装置は、5分から60分の範囲の時間インキュベートされる。このインキュベーションプロセスの間に、精子細胞は、初期に未処理の精液を流体チャネルに導入するとき以外には、外部の流れ、外力又は機構を使用することなく自己選別され、それによって未処理の精液と比較して運動性が高く形態学的に正常で、DNA完全性が高く、かつエピジェネティックな精子異常が少ない細胞が出力される。
【0011】
精子の一部は、装置の出口から取り出される。これらの精子細胞は、その大半が、例えば(i)高い運動性及び線形持続性、(ii)形態学的正常性、(iii)高いDNA完全性、及び(iv)低いエピジェネティック異常性を有するなど、優れた品質について装置によって選択されたものである。未処理の精子は、出口から取り出されるものと比較して好ましい品質を有していない精子であり、廃棄される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、周期構造を有するマイクロ流体精子選別チップの概要図を示す。図示されているサンプルPDMSチップ構成は、ガラス基板上に結合され、チャネルは幅1.5mm、長さ8mm、高さ50μmである。チャネルの中央では、(この図では直径10μmの)円柱構造が周期的なアレイを形成している。
【
図2】本発明の例示的な実施形態による、運動性があり形態学的に正常な精子を選択するためのSPARTAN法(トラッピング・分離用の単純周期的アレイ法-Simple Periodic ARray for Trapping And isolatioN method)のための単純周期的アレイを示す。間隔の大きさの数値は、説明のための例示である。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、マイクロ流体装置の写真を示す(スケールバー10mm)。
【
図4】本発明の例示的な実施形態による、装置内の周期構造アレイのSEM画像を示す(スケールバーは50μm)。
【
図5】本発明の例示的な実施形態による、精子細胞をその中に保持する周期的円柱アレイのFESEM画像を示す(スケールバーは20μm)。
【
図6】本発明の例示的な実施形態による、装置の或る実施形態を設計するためのシミュレーションを行うために使用されるプロセスの概略的なフローチャートを示す。
【
図7】本発明の例示的な実施形態による、18μm×26μm(左)及び26μm×26μm(右)のアレイ形状構造が設けられた例示的なチャネルにおいて正常精子でシミュレートした軌跡を示す(n=100)。
【
図8】本発明の例示的な実施形態による、30μm×26μmのアレイ形状構造が設けられたチャネルにおいて、異常形態(頭部の大きさが3×以上)を有する精子でシミュレートした軌道を示す(n=100)。
【
図9】本発明の例示的な実施形態による、30μm×26μmのアレイ形状構造が設けられたチャネルにおいて異常な形態(18度屈曲したベントネック)を有する精子でシミュレートした軌道を示す(n=100)。
【
図10】本発明の例示的な実施形態による、曲線及び直線速度を測定する方法を示す。
【
図11】本発明の例示的な実施形態による、30μm×26μmのアレイ形状構造を有する例示的なチャネルにおいて正常精子でシミュレートした軌跡を示す(n=100)。
【
図12】本発明の例示的な実施形態による、30μm×26μmのアレイ形状構造を有する例示的なチャネルにおける精子の軌跡を示す。
【
図13】本発明の例示的な実施形態による、種々のアレイ形状構造を有する例示的なチャネルのサンプルを通過する前後の精子の直線速度(VSL)をシミュレートした結果を示している。
【
図14】本発明の例示的な実施形態による、アレイ中のピラー間の異なる間隔値について、例示的なチャネルのサンプルを通過する前後の精子の直線速度(VSL)を測定する実験結果を示す。
【
図15】本発明の例示的な実施形態による、異なるチャネル長さについての、例示的なチャネルのサンプルを通過する前後の精子の直線速度(VSL)のシミュレーション結果を示す。
【
図16】本発明の例示的な実施形態による、異なるチャネル長さについての、例示的なチャネルのサンプルを通過する前後の精子の直線速度(VSL)を測定する実験結果を示す。
【
図17】本発明の例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間についての、例示的なチャネルのサンプルを通過する前後の精子の直線速度(VSL)のシミュレーション結果を示す。
【
図18】本発明の例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間について、例示的なチャネルのサンプルを通過する前後の精子の直線速度(VSL)を測定する実験結果を示す。
【
図19】本発明の例示的な実施形態による、生サンプルから高運動性精子を選択する方法の概要が示す図である。
【
図20】本発明の例示的な実施形態による、異なるチャネル長さについて、例示的なチャネルのサンプルを通過した後の精子の曲線速度及び精子回収率を求める実験結果を示す。
【
図21】本発明の例示的な実施形態による、異なるインキュベーション時間について、例示的なチャネルのサンプルを通過した後の精子の曲線速度及び精子回収率を求めた実験結果を示す。
【
図22】例示的な実施形態の装置による、形態学的欠陥を有する精子、又は有さない精子の顕微鏡画像とFESEM画像を示す図である。
【
図23】本発明の例示的な実施形態による、例示的な実施形態の装置で処理する前後での、精子サンプルにおける形態的欠陥を有する精子の割合の差を示す図である。
【
図24】本発明の例示的な実施形態による、例示的な実施形態の装置を用いて異なる方法で処理した後の、正常な形態を有する精子のパーセンテージを示す図である。
【
図25】本発明の例示的な実施形態による、精子の成熟度を示す図である。
【
図26】本発明の例示的な実施形態による、例示的な実施形態の装置で処理する前後の精子サンプルにおける精子の核成熟度の差異を示す図である。
【
図27】本発明の例示的な実施形態による、精子におけるDNAフラグメンテーションの画像を示す図である。
【
図28】本発明の例示的な実施形態による、例示的な実施形態の装置で処理する前後における精子サンプル中の精子のDFIの差違を示す。
【
図29】本発明の例示的な実施形態による、例示的な実施形態の装置で処理する前後の精子サンプル中の精子のグローバルなメチル化の差を示す図である。
【
図30】本発明の例示的な実施形態による、精子のSRDシミュレーションのために選択されたパラメータを示す図である。
【
図31】本発明の例示的な実施形態による、装置と方法の粗視化(coarse-grained)型シミュレーションを記述する方程式を示す図である。
【
図32】本発明の例示的な実施形態による、装置と方法の粗視化型シミュレーションを形成する状態の関係を示す図である。
【
図33】本発明の例示的な実施形態による、装置と方法をシミュレートするために使用されるVSLの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の目的に関して、まず何百万年もの進化及び生殖を通して胎生哺乳類において保存された現象である女性生殖器管を通しての精子の移動は、繁殖力のある精子を選択する自然の効果的な「フィルタ」であると考えられている。この経路の物理的構成要素は、流体力学を組み入れたマルチスケールコンピュータシミュレーションによって設計されるマイクロ流体を利用する方法を用いて試験管内で模倣され、それにより、この人工子宮頸部卵管経路が、精子の記述的特性とともに、DNA完全性及びメチローム状態を含む妊孕能のある精子のより微細であるが臨床的に適切な尺度にどのように影響するかについて調べられる。
【0014】
開発されたSPARTAN法(トラッピング・分離用の単純周期的アレイ法-Simple Periodic ARray for Trapping And isolatioN method)は、自然経路の基本的なフィルタリング特性を適切に模倣し、不妊治療クリニックでの使用のためにDNA完全性が高く、かつエピジェネティックな精子異常が少なく、運動性が高く、形態学的に正常な精子を単離する。
【0015】
この方法を実施可能にする装置は、自己選別効率及び形態学的な生存精子の選択を最適化するために、一連の微細加工された構造を備えることを特徴とする。マイクロ流体装置の概要を
図1に示す。装置のある部分では、入口又は一組の入口が、装置の上面を通る孔によって形成される。任意選択で、その後に表面特徴を含まないマイクロチャネルの移行領域が続く。移行領域は、装置の機能には必要ではないが、実際に製造する際に必要となる可能性がある。装置の次の部分は、主要な有効領域で、ピラー(柱状部)の規則的なアレイで構成されている。このアレイが取ることができるジオメトリの一例は、円柱の矩形格子である。周期構造アレイの後に、第2の任意の移行領域が存在し、その後に出口又は一組の出口が続くが、ここでも装置の上面の貫通孔によって出口が形成されている。
【0016】
この装置は、まず、精子細胞をサポートすることができる緩衝液で満たすことによって使用される。この緩衝液の一例は、精子洗浄媒質であろう。これに加えて、媒質の蒸発を防ぐために、入口(複数可)及び出口(複数可)は、緩衝溶液に混和しない非蒸発媒質によって覆ってもよい。そのような媒質の一例はミネラルオイル(鉱油)である。次いで、装置にはピペットのような手段を介して生の精子サンプルが入口(複数可)に導入され充填させる。次いで装置は、装置に応じて異なる5分から120分の範囲の所定の時間インキュベートされる。この時点で、選別された精子が、またピペットのような手段を用いて出口から収集可能となる。
【0017】
概念の証明のために、標準的なソフトリソグラフィを使用して、円柱構造を有する例示的なマイクロ流体精子選別装置を製作した。簡潔に記せば、厚さ50μmのSU-8フォトレジスト層をコーティングし、4インチのシリコンウェハ上に現像し、マイクロチャネルを作成した。続いて、Sylgard 184(Dow Corning、Midland、MI、USA)を用い、基材対硬化剤を1:10体積比でシリコンウェハ上に注ぎ、脱気し、70℃で2時間硬化させた精子選別マイクロ流体チップを作製した。硬化後、Acu Punch(チップ1.0mm及び2.0mm)を使用して、入口及び出口チャンバを打ち抜いた。得られたチャネルは酸素プラズマを用いてスライドガラス上に密封し、使用前に60℃で30分間焼成した。この特定の装置の概要図を
図2に示す。実際の装置の写真が
図3に示されている。微細加工された周期構造のFESEM画像が
図4に示され、この構造内に精子細胞が存在するのが
図5である。
【0018】
本装置の目的は、微細加工されたチャネルにおける周期的構造によって誘導される、精子細胞に対する流体力学的効果を利用して、効率的な手段によって運動性を有する健康な精子細胞を選別することである。周期構造の寸法や形状、構造要素間の間隔、チャネル長、収集時間など、多くの変数が含まれているため、チャネル設計を最適化するためにマルチスケールのコンピュータ計算モデルが開発された。
【0019】
[マルチスケールコンピュータモデルを用いる装置設計]
[方法]
流体泳動カップリングの非線形性という性質、複雑な形状の存在のために、自己選別装置の幾何学的特徴をどのように選択可能であるかが自明ではないので、本発明者らは、マルチスケールモデルを作成し、装置内の精子細胞の動きをシミュレートした。このモデルは、2つの要素で構成される。非粗視化型(fine-grained)の粒子ベースのモデルと、周期アレイによって形成された格子に沿った確率的な動きを使用する粗視化型(coarse-grained)のモデルである。簡潔に言えば、非粗視化型のモデルは、10年以上にわたり多数のソフト関連システムで有効に使用されている粒子ベースのメソスケールのソリューションである確率的回転ダイナミクス(Stochastic Rotation Dynamics、SRD)を使用している。SRDでは、流体は粗視化型でモデル化され、精子細胞はビーズ及びスプリング構造として埋め込まれ、ピラーは貫入不可能な障壁として埋め込まれ、これらはすべて、熱変動の存在下で流体力学的相互作用によって相互作用する。このモデルは、微視的な軌道を生成し、確率的な規則ベースの格子モデルを仕込み、現実の時間及び長さのスケールで与えられたピラーの形状に対する精子の動きを記述するために使用される。より具体的には、粗視化型モデルは、回転を伴う離散時間格子モデルである。各時間ステップにおいて、精子は、右又は左側に回転する方向依存性の確率を有し、続いて格子に沿って一段移動する確率を有する。このモデルは、SRDモデルから生成された確率的規則を与えることによって、多数の精子及び多数のステップについて精子の挙動を複製することができる。モデル化方法の概要を
図6に示す。さらなる詳細については、「モデル化方法の詳細」、「インフラ」のセクションを参照されたい。
【0020】
[速度と回収率に関するシミュレーション結果]
いくつかのシミュレーション用ジオメトリ(形状)が、マルチスケールモデルを用いた精子の挙動に対する障害物の周期的集合の影響を調べるために構築された。精子は、表面近傍で流体力学的相互作用を有することが知られているので、このような相互作用の一つの妥当な結果は、様々な配置が、衝突する精子の速度を上げ得ることであり、遅くし得ることであり、精子の方向転換させ得ることである。本発明者らのシミュレーションは、シミュレートされた精子の剛性のために、ピラー間隔が十分に小さいと精子が詰まるような挙動を示した。しかし、この緊密な閉じ込め状態を超えると、精子が幾何学的形状において非常に永続的な軌道を保持することを本発明者らは見出した(
図7参照)。
【0021】
加えて、格子が一方向で小さなアスペクト比を有し、他方向のアスペクト比が(概ね精子の長さレベルで)大きい場合、精子は優先的に長い間隔軸に沿って泳動することになる。この効果は、単純に考えれば精子が最も抵抗の少ない経路(すなわち幅広のチャネル)をとることが予想されるので、その面では逆説的である。しかしながら、ピラーがかなり接近している場合、それらはある程度は多孔性の壁のように作用し、精子はそれらに引き付けられる。あらゆる推進型の泳動体のように、精子の泳動形状は、それに逆行して泳動している表面の方向に向かう。平らな表面と相互作用するとき、精子はこれに従う。しかしながら、表面に十分な大きさで良好な形状のギャップがあるとき、精子はギャップに入り込み泳動する。正味の効果は、精子の方向転換である。
【0022】
精子を再配向する選択があるので、アクティブな泳動体(健康な精子)が優先的に移動し、残骸や死んだ精子は阻害され散逸する経路を与えることができる。これによって、健康な精子の分離と選択のための装置を大幅に小型化、高速化せることが可能となる。
【0023】
[形態学的選択に関するシミュレーション結果]
本発明者らは、加えて、形態学的欠損を伴う精子に関し、ピラー構造の差異効果を研究した。首部の曲がった、ベントネック及びx2倍に肥大した頭部を有する精子についてシミュレートされた軌道のサンプルを
図8及び9に示す。これらの両方の場合が示すように、本発明者らは、周期的な幾何学的障害が精子の転回挙動を促進し、精子を単純なチャネルよりも効果的に閉じ込めることを見出した。
【0024】
[実験結果]
シミュレーションからの予測をガイドとして使用して、高アスペクト比の円柱形周期アレイを特徴とする概念実証用のマイクロ流体チャネルを製作した。より具体的には、製作されたマイクロ流体チップにおける寸法は、長さが8mm、幅が1.5mmであり、入口及び出口チャンバ直径はそれぞれ1mm及び2mmである。流路の途中で、直径10μmの円柱形構造体が互いに所定の距離をおいて配置される。
【0025】
精子選別分析は、スタンフォード大学医学部のIVF検査室から採取された、非特定化された廃棄される精液サンプルを用いて行った。最初に、精子を選別するマイクロ流体チップに精子洗浄媒質を予め充填し、精液選別分析中の媒質の蒸発を防ぐために、ミネラルオイル(鉱油)の薄層を媒質出口の上に形成した。容積0.5μL~2μL(4000~6000精子数/pL)の非特定化された廃棄される精液サンプルを注入口リザーバーに加え、次いで注入口をミネラルオイル層で覆った。続いて、精子選別チップを37℃のインキュベーターに15分間入れた。最後に、選別チップは画像化され、光学顕微鏡(Carl Zeiss、Axio Vision 4.8.2 SP3)を用いて、高運動性精子のパーセンテージ、精子の軌道、及び出口での回収率を解析した。
【0026】
精子運動性、曲線速度(VCL)、直線速度(VSL)などの精子軌道の運動学的パラメータを測定した。VCLは、観察時間中に精子頭部がカバーする距離を指す。VSLは、精子軌道の開始点と終了点との間の直線距離を指す(
図10参照)。運動性精子のパーセンテージは、総精子数に対する運動性精子の割合として定義された。
【0027】
本発明者らのシミュレーションと実験結果が一致していることは、どのようにしてコンピュータシミュレーションを用いて設計パラメータが上手く得られるかを示している。
図11及び
図12は、30μm×26μmアレイ周期に対するコンピュータシミュレーション及び試験管内の実験での精子軌道を示す。異なるアレイ周期について、30分のインキュベーション後の入口と出口における直線速度(VSL)値を比較し、
図13にはマルチスケールシミュレーションの場合の値、
図14には実験結果の値が示されている。
図15は、異なるチャネル長について、30μm×26μmアレイ周期を有するチャネルの場合の、入口及び出口での(30分のインキュベーション後の)精子軌道のマルチスケールシミュレーションから得られた直線速度(VSL)値を示す。
図16は、異なるチャネル長について、30μm×26μmアレイ周期を有するチャネルの場合の、(30分のインキュベーション後の出口での)VSLの実験的測定値を示す。異なるインキュベーション時間について、ブランクチャネルと比較した出口での精子選別に関するVSL分析は、
図17にシミュレーションの場合、
図18に実験的測定による場合が示されている。
【0028】
図19は、精子選別プロセスの概要を示し、最初に精子が装置に導入され、インキュベートができるようにされ、次に出力で精子が回収されて、入口での、ピラー領域での、及び出口での精子軌道の顕微鏡画像と共に分析される。
図20は、異なるチャネル長についての、SPARTANチップの精子回収効率に関するVCLの実験測定値を示す。
図21は、異なるインキュベーション時間についての、SPARTANチップの精子回収効率に関するVCLの実験測定値を示す。
【0029】
図22は、(i)正常、(ii)ベントネック及び(iii)肥大した頭部(スケールバー10μm)という異なる形態学的欠陥を有するDiff-Quick染色された精子の顕微鏡画像及びFESEM画像を示す。
図23は生精液(矢印は異常精子を示す)を示し、これはSPARTANチップ(スケールバー50μm)を用いて選別された精子である。
図24は、スイムアップ技術、ブランクチップ及びSPARTANチップによって処理された精子のSK形態学分析を示す。全体的なこれらの結果は、装置が形態的欠陥を有する精子をどれだけフィルリング可能であるかを示す。
【0030】
図25は、酸性アニリンブルー染色の顕微鏡画像を示し、精子の核成熟の異なる段階が示されている。
図26は、生精液サンプルと比較した、SPARTANチップを用いて選別した精子の核成熟率の分析結果を示す(精液サンプル数n=5)。
図27は、TUNNELアッセイを用いた精子DNAフラグメンテーションの分析で用いられる蛍光染色像を示す。
図28は、生の精液サンプル由来のものと比較して、SPARTANチップによって選別された精子のDNAフラグメンテーション指数(DFI)の分析結果を示す(精液サンプル数n=5)。
図29は、SPARTAN法により選別された精子と未選別精子のグローバルメチル化分析結果を示す。
【0031】
[追加の注意事項]
精子細胞は、自己誘導流動場と同様に、周期構造内でより高速で移動する。本システムの新規性の1つは、チャネルの内部に周期的に配置される構造が、精子の移動経路を変化させることである。例えば、奇形形態の精子は、相互作用して、正常形態とは異なる経路をたどる。これは、精子と周期構造との間の流体力学的相互作用によって促進される。入口又は出口の対応データの比較から、精子細胞は、流体力学的相互作用を含むピラー形状の影響により、ピラー形状内でより高速で移動することが観察され、これは精子細胞によって生成される自己誘導流動場と考えることができる。このように精子細胞が、より狭い経路を選好するような方法で、チャネル中の周期的な障害物と実際に相互作用することは自明ではない。精子の遺伝的な及びエピジェネティックな品質と、精神の形態及び運動性との間には関連性があり、従って、その機能に影響を及ぼすことについては証拠がある。従って、これらの幾何学的構造の正味の効果は、機能的な精子を選別することであり、これは新規で独特な知見であり、自明な結果ではない。
【0032】
本発明者らはまた、特定の周期の場合、精子細胞が、チャネルの周期的な障害領域において外部よりも高速で移動することを観察している。この効果を利用して、チャネル障害の幾何形状、及び精子の尾の動き及び精子の形態に応じて精子細胞をより効果的に選別することができる。最適な構成を開発するためにコンピュータシミュレーションが使用されており、初期実験とプロトタイプの開発のために使用されている。この効果は新規で独特な知見であり、予想外のものである。一般的で単純な予想では、これらの周期的な障害は精子細胞が通過する際に精子細胞を減速させると予測されるが、精子細胞は、所定の幾何形状に応じて、異なる方向にスピードアップ又は方向転換されことが判明した。これにより、予想外の自己選別現象がもたらされる。
【0033】
本発明で使用される流路は、移動又は流れがなく、内部の流体は能動的に駆動されない。選別の全過程は、チャネルからの外部の流れや姿勢により生じる外力なしに実現される。精子細胞の運動の源は、自身の運動性に起因するものであり、精子はその運動性に独自のパターンを有し、それは精子ごとに異なり、特に形態学的に問題のあるサンプル又は臨床的に問題のあるサンプルでは独特である。この独特の自己誘導性精子の運動により、周期的構造の存在下で従来は知られていなかった自己選別行動がもたらされる。本発明者らが行ったように、精子の前に配置する障害の周期性と形状を調整することによって、選別効果を変化させることができるという知見はとりわけ衝撃的である。所定の選別能力を誘導するために、これらの特性を、行及び/又は列の異なるグループ間で変えることができる。
【0034】
周期性の例示的な範囲については、我々のコンピュータシミュレーションで観察されたように、選別を可能にするこれらの効果は1μmから500μmの範囲の周期間隔で顕著である。
【0035】
[自己選別装置の寸法]
例示的な装置では、自己選別装置の寸法及び周期的に間隔を置いて配置されたアレイの構造は、以下の通りである。
・アレイ内のピラー間の幅又は長さの間隔:1μmから250、5μmから200μm又は5μmから30μm。
・アレイ内のピラーの高さ:約50μm、範囲は20μmから80μm。
・入口の長さ:約2mm、最大4mmまでの範囲。
・チャネルの長さ:約4mm、最大20mmまでの範囲。
・出口の長さ:約2mm、最大4mmまでの範囲。
【0036】
[モデル化の詳細]
非粗視化型シミュレーション(Fine-grained simulations)によって捕捉された動作の詳細度の強みと、同時に粗視化型モデル(coarse-grained models)の計算効率の強みを組み合わせた方法を使用した。本発明者らは、検討対象の所定の幾何形状下における精子の微視的な挙動を特性化することからまず始める。この幾何学形状における精子の運動に関する十分なデータが得られれば、その情報を用いてより大きな軌道に迅速に外挿し、長時間の全集団の挙動を調べることが可能となる。
【0037】
非粗視化型精子モデル(Fine-grained Sperm Model):我々は伸びや曲がりに抗するものとして、フックのポテンシャルを使用し、ばねに繋いだビーズとして精子をモデル化する。非直線的な結合のモデル化は、結合を形成するセグメントのうちの第2のセグメントを、その結合の最小エネルギーの所望の角度だけ回転させることによって達成される[参考文献14]。
【0038】
溶媒モデル:精子は、確率的回転ダイナミクス(Stochastic Rotation Dynamics:SRD)として知られる技術を用いてシミュレートされたメソスケールの溶媒に結合される。この技術は、流体を点粒子の集合としてモデル化し、離散時間ステップで時間進行させ、各時間ステップは2つのプロセスからなる。最初の(ストリーミング)ステップでは、粒子は弾道学的に移動し、2番目の(衝突)ステップでは、粒子群は1回の集団衝突において粒子集団の局所近傍と運動量を交換する[参考文献15-18]。
【0039】
精子モデルをこの溶媒に結合するために、精子のビーズが集合的衝突に含まれると、流体と運動量を交換可能である。この結合は、周期構造アレイをシミュレーションに組み込むためにも使用される。アレイ構造は、動くことができないように固定された粒子からなる。加えて、精子のビーズ及び障害物のビーズは、切断されたレナード・ジョーンズポテンシャルと相互作用し、確実な斥力相互作用を提供し、精子が障害物を横切ることを防止し、SRD液によって媒介される流体力学的相互作用を補う[14]。SRD溶媒は、温度に依存する粘度を含む多くの特性を有するので、システムの温度が時間とともに全体として一定であることを確実にする必要がある。これを達成するために、サーモスタットプロセスが衝突ステップに組み入れられる[19]。このモデルのすべてのパラメータを
図30に示す。
【0040】
粗視化型格子モデル:長い時間の幅に亘わたって動く多数の精子をモデル化するために、本発明者らは、格子を通過する精子の運動のための粗視化型モデルを開発した。このモデルでは、精子は、格子を通過するときに、有限数の可能な方向に向かって移動し、その運動が方向に依存すると考えている。すべてのステップで、精子が左又は右に旋回し、その状態を次の状態に切り替える可能性がある。これは、精子の方向に関する状態のマルコフモデルによって表される。状態の関数として、精子が基本的な方向の1つに移動する可能性もある。
【0041】
ここで、移動確率をP(i,d)、回転確率をQ(e,d)で表す、ここでiは方向{左、上、右、下}の集合要素であり、dは精子が現在向いている方向、そしてeはその次に向く方向である。状態の遷移は、
図31に数学的に示され、
図32にグラフに示されるように、2つの部分からなる。精子の位置及び向かう方向を経時的に進めるために、運動及び回転ステップが交互に行われる。
【0042】
モデル間の遷移:SRDシミュレーションは、(頭部の質量中心によって定義される)精子の軌跡と、その角度(頭部の質量中心と首の取り付け点とを結ぶベクトルとして定義される)を時間の関数として生成する。このデータはSRDパラメータの単位である。しかし、格子モデルは、柱と尾部のユニットを必要とする。これを変換するために、位置データは、まず、ピラーによって定義された格子上の整数座標に粗視化される。時間は、泳動サイクルごとに1ポイントとなるようにブロック平均を行って離散化される。移動確率を決定するための必要となる計算量を制限するために、システムの対称性を使用して、すべての軌道をその軌道自体として及びその軌道が180度回転したものとして1つの軌道にカウントする。つまり、精子が左に向かって出てから上に上がる軌道は、右に向かい始めてから下降する軌道と等価である。
【0043】
しかし、格子モデルは、軌道を直接には使用せず、各ステップで精子の移動及び回転のための遷移確率を必要とする。精子が直面し得る異なる方向を分類するために、角度の分布のヒストグラムが作成され、その最小値がカテゴリーを分離するために使用される。各カテゴリーは、精子が格子モデルで採用することができる離散面を形成する。この粗い粒度の軌跡は、移動及び回転遷移の確率を計算するために使用される。すべてのステップで、精子が角度カテゴリー又は格子位置を切り替える場合にそれが記録される。各カテゴリーの結果は、すべての精子がとるステップごとに平均化されて、最終的な確率の配列が得られる。次にこれらの確率を使用して、格子モデルを提供する。
【0044】
最初に、精子の泳動速度を実験結果に対して較正する。較正は、最初のSRD結果を用いて、SRDユニット内のシミュレートされた精子細胞のVSL及びVCLを測定することによって行われる。ピラーの間隔が、SRDと物理長単位との間の変換を確定し、テール波形のSRDパラメータは、SRD単位とテールサイクルとの間の変換を確定する。格子シミュレーション試験において、各精子の目標速度は、
図33に示すように実験的に測定された速度分布から導き出される。この速度にその試験のインキュベーション時間を乗じて、総有効距離を得る。この全経路長に、長さ(μm)を乗じてテールサイクルへの変換係数を得て、それぞれの精子のテールサイクルの総数が得られるが、このテールサイクルの総数は、それぞれの精子の各格子シミュレーションステップに対応する。この時点において、シミュレーションが前述したように多数のステップを実行することによって進められる。すべてのステップで、精子の位置が記録され、最後の位置は、どの精子が出口に達して収集されるかを決定するために使用される。収集されたものについては、それらの速度が記録され、すべてが平均化されて全体的な結果が生成される。
【0045】
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