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特許7017229ビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/26 20060101AFI20220201BHJP
   C07C 309/65 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C07C303/26
C07C309/65
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017217052
(22)【出願日】2017-11-10
(65)【公開番号】P2019085383
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】川本 拓治
(72)【発明者】
【氏名】三井 準也
(72)【発明者】
【氏名】上村 明男
【審査官】布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】Tomita, Ren 他,Photoredox-Catalyzed Stereoselective Conversion of Alkynes into Tetrasubstituted Trifluoromethylated Alkenes,Angewandte Chemie, International Edition ,2015年,54(44),12923-12927
【文献】Wang, Xi 他,Regio- and Stereoselective Radical Perfluoroalkyltriflation of Alkynes Using Phenyl(perfluoroalkyl)iodonium Triflates,Organic Letters,2017年05月,19(11),2977-2980
【文献】Nenajdenko, Valentine G. 他,Synthesis of β-dimethylsulfonium- and β-methylthio-substituted vinyl triflates by reaction of acetylenes with dimethyl sulfide ditriflate,Synthesis,1997年,(3),351-355
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
各Rは、それぞれ独立して、
水素原子、
C1~C10アルキル基、
C3~C10シクロアルキル基、
CO(式中、Rは、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基、C6~C10アリール基又はC6~C10アリールC1~C10アルキル基を示す)、
COR(式中、Rは、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基、C6~C10アリール基又はC6~C10アリールC1~C10アルキル基を示す)、
CONR(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基又はC6~C10アリール基を示す)、
C1~C10フルオロアルキル基、
置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよいC6~C10アリール基、又は
置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよい5~10員のヘテロアリール基
を示す。
(置換基A:ハロゲン原子、C1~10アルキル基、C1~10アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、CO2基(Rは上記Rと同じ)、COR基(Rは上記Rと同じ)、OSO(RはC1~C10フルオロアルキル基を示す)及びNR(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は保護基を示す)]
で表されるアルキン化合物と式(II)
(RSOO (II)
(式中、RはC1~C10フルオロアルキル基を示す)
で表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を、次式
【化2】
(式中、Xは炭素原子又は窒素原子を示し、R はC1~C3アルキル基を示し、mは0~5のいずれかの整数を示し、n1、n2、n3は、それぞれ独立して、1~3のいずれかの整数を示す)で表される多環式三級アミン及びアセトニトリルの存在下で反応させることを特徴とする、式(III)
【化3】
(式中、
Rは式(I)における定義と同様であり、
はC1~C10フルオロアルキル基を示す。
波線はトランス又はシスのいずれか、あるいはそれらの混合物であることを示す)
で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の製造方法。
【請求項2】
多環式三級アミンが、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン又は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
マイクロリアクターを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキン化合物を出発物質とするビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の新規な製造方法、特に、アルキン化合物からフルオロアルカンスルホン酸無水物を用いてビニルフルオロアルカンスルホナート化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物はフッ素原子がもつ特異的な性質により、医薬・農薬・高分子材料、液晶材料等の様々な産業分野において重宝されている。例えば、近年上市された農薬では実に8割の化合物に何らかのフッ素置換基が含まれている。そのため、フッ素置換基をいかに効率よく分子に導入するかは重要な課題である。
3,3,3-トリフルオロメチル-1-アリールアルケン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート及びその類縁体は、上記用途に用いられるフッ素置換化合物の有用なビルディングブロックであり、近年、光レドックス触媒を用いたトリフルオロメチル化反応の開発が盛んに行われるようになり、その一環として、アルキン化合物を出発物質として合成する手法が種々報告されている。
以下に、アルキン化合物から3,3,3-トリフルオロメチル-1-アリールアルケン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート及びその類縁体を合成する公知の方法を挙げる。
非特許文献1
【化1】
非特許文献2
【化2】
非特許文献3
【化3】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Tomita, R.; Koike, T.; Akita, M. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 12923-12927
【文献】Wang, X;Studer,A. Org.Lett.2017,19,2977-2980
【文献】han,H.S;Lee.Y.J;Jung,Y.S.;Han,S.B. Org.Lett.2017,1962-1965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記アルキン化合物から3,3,3-トリフルオロメチル-1-アリールアルケン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート及びその類縁体を合成する公知の方法(非特許文献1~3)は、いずれも遷移金属触媒が必須である。そして、非特許文献1及び2の方法では、高価なCF化もしくはフルオロアルキル化剤を必要とし、非特許文献3の方法では、得られた生成物からさらにCl原子を変換する段階で高価な遷移金属触媒を必要とするため、代替試薬を用いた手法の開発が求められていた。
本発明は、医薬、農薬品などの開発に有用なビルディングブロックである3,3,3-トリフルオロメチル-1-アリールアルケン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート及びその類縁化合物を、安価かつ遷移金属触媒を用いずに製造する方法の開発を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、フルオロアルカンスルホン酸無水物をフルオロアルキル源及びフルオロアルカンスルホナート化剤とするアルキンの二官能基化反応について鋭意検討の結果、アセトニトリルを溶媒とし、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン (DABCO)を塩基として添加した場合、特異的に反応が進行することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
(1)式(I)
【化4】
[式中、
各Rは、それぞれ独立して、
水素原子、
C1~C10アルキル基、
C3~C10シクロアルキル基、
CO(式中、Rは、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基、C6~C10アリール基又はC6~C10アリールC1~C10アルキル基を示す)、
COR(式中、Rは、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基、C6~C10アリール基又はC6~C10アリールC1~C10アルキル基を示す)、
CONR(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基又はC6~C10アリール基を示す)、
C1~C10フルオロアルキル基、
置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよいC6~C10アリール基、又は
置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよい5~10員のヘテロアリール基を示す。
(置換基A:ハロゲン原子、C1~10アルキル基、C1~10アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、CO2基(Rは上記Rと同じ)、COR基(Rは上記Rと同じ)、OSO(RはC1~C10フルオロアルキル基を示す)及びNR(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は保護基を示す)]
で表されるアルキン化合物と式(II)
(RSOO (II)
(式中、RはC1~C10フルオロアルキル基を示す)
で表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を、多環式三級アミン及びアセトニトリルの存在下で反応させることを特徴とする、式(III)
【化5】
(式中、
R及びArは式(I)における定義と同様であり、
はC1~C10フルオロアルキル基を示す。
波線はトランス又はシスのいずれか、あるいはそれらの混合物であることを示す)
で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の製造方法。
【0007】
(2)多環式三級アミンが、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン又は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである、(1)に記載の製造方法。
(3)マイクロリアクターを用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
医薬、農薬品などの開発に有用なビルディングブロックである3,3,3-トリフルオロメチル-1-アリールアルケン-1-イル トリフルオロメタンスルホナート及びその類縁化合物を、安価かつ遷移金属触媒を用いずに製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(アルキン化合物からビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の製造方法)
本発明の製造方法は、
式(I)
【化6】
で表されるアルキン化合物と式(II)
(RSOO (II)
で表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を、多環式三級アミン及びアセトニトリルの存在下で反応させて、式(III)
【化7】
で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物を製造する方法である。
【0010】
本発明の製造方法により、フルオロアルカンスルホン酸無水物中のフルオロアルキル基(R)とフルオロアルカンスルホナート基(OSO)がアルキン化合物に位置選択的に結合する。また、本発明の製造方法により、フルオロアルキル基(R)とフルオロアルカンスルホナート基(OSO)がトランス及び/又はシスの位置に結合したビニルフルオロアルカンスルホナート化合物が得られるが、大部分はトランスの位置に結合したものであり、シスの位置に結合したものはわずかである。
【0011】
1)式(I)で表されるアルキン化合物及び式(III)で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物
上記式(I)において、
各Rは、それぞれ独立して、
水素原子、
C1~C10アルキル基、
C3~C10シクロアルキル基、
CO(式中、Rは、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基、C6~C10アリール基又はC6~C10アリールC1~C10アルキル基を示す)
COR(式中、Rは、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基、C6~C10アリール基又はC6~C10アリールC1~C10アルキル基を示す)、
CONR(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C10シクロアルキル基又はC6~C10アリール基を示す)、
C1~C10フルオロアルキル基を示し、
置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよいC6~C10アリール基、又は
置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよい5~10員のヘテロアリール基を示す。
置換基A群には、以下の置換基が包含される。
ハロゲン原子、C1~10アルキル基、C1~10アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、CO2基(Rは上記Rと同じ)、COR基(Rは上記Rと同じ)、OSO(RはC1~C10フルオロアルキル基を示す)及びNR(R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は保護基を示す)。
【0012】
上記式(III)において、Rは式(I)における定義と同様であり、RはC1~C10フルオロアルキル基を示す。
【0013】
上記各置換基について、以下に具体的に示す。
「C1~C10アルキル基」は、直鎖状または分枝状のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等を挙げることができる。
「C3~C10シクロアルキル基」としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等を挙げることができる。
「C6~C10アリール基」は、単環式または縮合多環式芳香族炭化水素基であり、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等を挙げることができる。
「C6~C10アリールC1~C10アルキル基」は、C6~C10アリール基とC1~C10アルキル基とが結合した基であり、ベンジル基、フェネチル基、3-フェニル-n-プロピル基、ナフチルメチル基等を挙げることができる。
【0014】
「5~10員のヘテロアリール基」は、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を1~4個有する5~10員の単環又は多環の芳香族複素環、及び、ベンゼン環とヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を1~4個有する複素環が縮合した10員以下の縮合環を包含する。
ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジニル基、イミダゾリル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、ピラジニル基、テトラゾリル基、フリル基、チエニル基、イソキサゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イソチアゾリル基、ピロリル基、キノリニル基、イソキノリニル基、インドリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンゾフラニル基、シンノリニル基、インダゾリル基、インドリジニル基、フタラジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、イソインドリル基、プテリジニル基、プリニル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、フラザニル基、ベンゾフラザニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、フロピリジニル基等を挙げることができる。
【0015】
「CO2」及び「CO」において、R及びRの「C1~C10アルキル基」、「C3~C10シクロアルキル基」、「C6~C10アリール基」及び「C6~C10アリールC1~C10アルキル基」は、上記定義における例示と同じものを挙げることができる。
「COR」及び「COR」において、R及びRの「C1~C10アルキル基」、「C3~C10シクロアルキル基」、「C6~C10アリール基」及び「C6~C10アリールC1~C10アルキル基」は、上記定義における例示と同じものを挙げることができる。
「CONR」において、R及びR中の「C1~C10アルキル基」、「C3~C10シクロアルキル基」及び「C6~C10アリール基」は、上記定義における例示と同じものを挙げることができる。
【0016】
「C1~C10フルオロアルキル基」は、水素原子の全てがフッ素原子により置換されたアルキル基(ペルフルオロアルキル基)であっても、水素原子の一部がフッ素原子により置換されたアルキル基であってもよい。
C1~C10のフルオロアルキル基としてはCF、C、C、C、C11、C13、C15、C17、CFH、CFH、CFCFH、CHCF、CHCHCF、CH、CHCH、CH、CHCH、CH、CHCH等を挙げることができる。中でも、C1~C6のフルオロアルキル基が好ましく、さらにはC1~C3のフルオロアルキル基が好ましく、特にCFが好ましい。
【0017】
「ハロゲン原子」は、F、Cl、Br、I等を挙げることができる。
「C1~10アルコキシ基」は、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、アミルオキシ基、イソアミルオキシ基、t-アミルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、t-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、t-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等を挙げることができる。
NRにおいて、R及びR中の「保護基」は、アルキル基、アリール基、トシル基、t-ブトキシカルボニル基等を挙げることができる。
式(I)及び式(III)で表される化合物は、一方のRが置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよいC6~C10アリール基又は置換基A群から選ばれる少なくとも一つを有していてもよい5~10員のヘテロアリール基である化合物が好ましい。
【0018】
2)式(II)で表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物
式(II)中の、RはC1~C10フルオロアルキル基を示す。C1~C10フルオロアルキル基としては、式(I)及び式(III)におけるC1~C10フルオロアルキル基と同様である。C1~C6のフルオロアルキル基が好ましく、さらにはC1~C3のフルオロアルキル基が好ましく、特にCFが好ましい。
フルオロアルカンスルホン酸無水物の使用量は、式(I)で表されるアルキン化合物に対して、通常、モル比で1~10倍である。
【0019】
3)多環式三級アミン
本発明のビニルフルオロアルカンスルホナート化合物の製造において使用される多環式三級アミンは、以下の式で表される化合物である。
【化8】
(式中、Xは炭素原子又は窒素原子を示し、RはC1~C3アルキル基を示し、mは0~5のいずれかの整数を示し、n1、n2、n3は、それぞれ、それぞれ独立して、1~3のいずれかの整数を示す)
多環式三級アミンは、塩基として使用され、環構造によってアルキル基が後ろ手に縛られた構造をとっているために窒素上の非共有電子対まわりの立体障害が小さく、求核性が著しく高い。特に、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン又は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが好ましい。
多環式三級アミンの使用量は、式(I)で表されるアルキン化合物に対して、通常、モル比で1~10倍である。
【0020】
4)溶媒
本発明の製造方法において使用する溶媒として、アセトニトリルが必須である。アセトニトリルは、アリールアルキン化合物又はフルオロアルカンスルホン酸無水物のいずれかを溶解する溶媒として使用してもよいし、両方を溶解する溶媒として使用してもよい。
また、アセトニトリルと他の溶媒を併用してもよい。他の溶媒は、アセトニトリルと混合しないで、アセトニトリルで溶解しない原料を溶解する溶媒として使用してもよいし、アセトニトリルと混合して使用してもよい。アセトニトリルの使用量は、通常、原料化合物に対して、重量比で50~200倍である。
他の溶媒との混合溶媒として使用する場合は、アセトニトリルは、全溶媒量の少なくとも5~75重量%必要である。
併用し得る溶媒としては、反応に阻害的な影響を及ぼさない限り、限定されない。そのような溶媒としては、非極性溶媒、極性溶媒又はそれらの2種以上の混合溶媒が使用できる。非極性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、α,α,α-トリフルオロトルエン(BTF)、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。また、極性溶媒としては、アセトン、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0021】
5)その他
本発明の製造方法は、通常の反応装置のほか、マイクロリアクターを使用することができる。マイクロリアクターを使用することにより流速の上昇し、混合効率が向上するため、収率が向上する。
本発明の製造方法は、さらに、銅、ルテニウム又はイリジウムなどの遷移金属触媒を使用してもよい。
本発明の製造方法における反応温度は、通常、15℃~150℃である。反応圧力は、常圧または加圧下にて実施することができる。反応時間は、通常、30分~8時間である。なお、反応は十分な攪拌下にて行うことが望ましい。
また、ラジカル開始剤の添加や光照射を行うことも可能である。
上記反応により得られるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物は、同化合物を含む反応溶液をそのまま供することができるが、濃縮、濃縮後の洗浄、あるいは、適宜な後処理を行った後に供することもできる。後処理の具体的な方法としては、抽出、晶出、再結晶、クロマトグラフィー等の公知の精製を挙げることができる。
そして、公知の方法により、式(I)で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物及び式(II)で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物を、クロマトグラフィー等の公知の手段により分離することができる。
【0022】
(式(III)で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物のアリール化)
本発明において得られる式(III)で表されるビニルフルオロアルカンスルホナート化合物は、例えば以下の方法により、フルオロアルカンスルホナート基をアリール基に変換することができる。
【化9】
式中、R及びRは上記(III)における定義と同様である。Arは置換基を有していてもよいC6~C10アリール基,又は置換基を有していてもよい5~10員のヘテロアリール基を示す。C6~C10アリール基及び5~10員のヘテロアリール基は、式(I)における定義と同様である。
【0023】
以下に、実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0024】
(1)溶媒の比較試験(その1 SolventIIの比較)
SolventIをジクロロメタンに固定し、SolventIIについて検討した。
【化10】
[実施例1]
反応容器に1-フェニル-1-ヘキシン82.1mg(0.5mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物0.42mL(2.5mmol)及びジクロロメタン(SolventI)2.5mLを入れて溶解後、アセトニトリル(SolventII)2.5mLに溶解した1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン (DABCO)167mg(1.5mmol)を室温下で添加した。その後、4時間室温下で攪拌後、溶媒を除去した。反応生成物から目的化合物を単離して、NMRで目的化合物の生成を確認し、反応生成物に内部標準としてエチルベンゼンを加え、GC-MSにより転換率(conv.)および収率(yield)を算出した(表1)。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.41-7.49 (m, 5H), 2.48-2.52 (m, 2H), 1.60-1.66 (m, 2H), 1.46 (sext, J = 7.6 Hz, 2H), 0.99 (t, J = 7.4 Hz, 3H)
19F-NMR (470 MHz, CDCl3) δ-58.02, -74.23
【0025】
[比較例1~6]
SolventIIを表1に示す溶媒にする以外は、実施例1と同様に反応を行った(表1)。
【0026】
【表1】
【0027】
アセトニトリルの存在が必須であることが分かった。
【0028】
(2)溶媒の比較試験(その2 SolventIの比較)
SolventIIをアセトニトリルに固定し、SolventIの検討を行った。
【化11】

[実施例2~7]
反応容器に1-フェニル-1-ヘキシン82.1mg(0.5mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物0.42mL(2.5mmol)及び表2に記載の溶媒(SolventI)2.5mLを入れて溶解後、アセトニトリル(SolventII)2.5mLに溶解した1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン (DABCO)167mg(1.5mmol)を室温下で添加した。その後、4時間室温下で攪拌後、溶媒を除去した。
反応生成物から目的化合物を単離して、NMRで目的化合物の生成を確認し、反応生成物に内部標準としてエチルベンゼンを加え、GC-MSにより転換率および収率を算出した(表2)。
【0029】
【表2】
【0030】
SolventIIがアセトニトリルの場合、SolventIは特に制限を受けないことが分かった。
【0031】
(3)塩基の比較試験
SolventIをジクロロメタンおよびSolventIIをアセトニトリルに固定し、塩基の検討を行った。
【化12】
[比較例7~11]
反応容器に1-フェニル-1-ヘキシン82.1mg(0.5mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物0.42mL(2.5mmol)及びジクロロメタン(SolventI)2.5mLを入れて溶解後、アセトニトリル(SolventII)2.5mLに溶解した表3に記載の塩基(1.5mmol)を室温下で添加した。その後、4時間室温下で攪拌後、溶媒を除去した。
反応生成物から目的化合物を単離して、NMRで目的化合物の生成を確認し、反応生成物に内部標準としてエチルベンゼンを加え、GC-MSにより転換率および収率を算出した(表3)。
【0032】
【表3】
【0033】
DABCOのみ選択的に生成物を与えることが分かった。
【0034】
(4)マイクロリアクターによる製造
[実施例8]
1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン (DABCO) 及び1-フェニル-1-ヘキシンを、それぞれモル濃度が0.6M及び0.2Mとなるようにアセトニトリルに溶解させ、溶液Aとした。トリフルオロメタンスルホン酸無水物をモル濃度が1.0Mとなるようにジクロロメタンに溶解させ、溶液Bとした。溶液Aおよび溶液Bを10mLディスポーザブルシリンジに充填し、シリンジポンプ(YMC社製YSP-101)に装着した。シリンジポンプの流速を表4に記載の滞留時間となるように設定し、送液しT字型マイクロミキサー(MiChS社製α02)で混合し、black light(TOSHIBAネオボール5 EFD15BLB-T)を照射させながらリアクター(PTFEチューブ、外径1/16インチ、内径1mm、長さ5m)を通過させた。一定時間サンプリングを行った後に、エチルベンゼンを内部標準として添加しGC-MSにより転換率及び収率を算出した。
【0035】
【表4】
【0036】
流速の上昇とともに,収率が向上した。これは流速の上昇により混合効率の向上に起因している (実施例8-1、8-2、8-6)。ブラックライト非照射および室温下では非効率となった(実施例8-4)。一方、ブラックライト非照射および反応温度60℃下では収率が向上した(実施例8-5)。ミキサーの内径を大きくすると混合効率が下がり、収率も低下した (実施例8-7)。バッチ条件では、試薬混合時に発生する熱により反応が促進されるが副反応も生起する(実施例1)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
トリフルオロメチル基を有する化合物はフッ素の特異的な性質を有するため、医・農薬や液晶材料の原料等として利用期待できる。本発明により得られる化合物は例えば、エストロゲン受容体モジュレーター(PCT Int. Appl., 2012037411,PCT Int. Appl., 2012037410)の合成中間体としての使用が考えられる。