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特許7017238神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/11 20060101AFI20220201BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 36/88 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
A61K31/11
A61P25/28
A61K36/88
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018113716
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019214541
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591262779
【氏名又は名称】救心製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】井上 栄二
(72)【発明者】
【氏名】清水 康晴
(72)【発明者】
【氏名】坪野谷 智衣
(72)【発明者】
【氏名】須藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】堀 正典
(72)【発明者】
【氏名】杉本 八郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 有紀
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】Der Pharmacia Lettre,2016年,Vol. 8, No. 13,pp. 25-29
【文献】J. Agric. Food Chem.,2006年,Vol. 54,pp. 8762-8768
【文献】Journal of Natural Medicines,2017年11月17日,2018, Vol. 72,pp. 274-279
【文献】Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics,2010年,Vol. 35,pp. 581-588
【文献】PNAS,2014年,Vol. 111, No. 33,pp. 12246-12251
【文献】CNS & Neurological Disorders - Drug Targets,2018年05月15日,Vol. 17,pp. 361-369
【文献】Mol Neurobiol,2016年,Vol. 53,pp. 4094-4125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 36/00-36/9068
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(1)
【化6】

のみ有効成分として含有する、アルツハイマー型認知症の予防及び/又は治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患は、神経の変性及び神経細胞死を伴う病気の総称である。それらは一般的には進行性であり、難病である。神経変性疾患を有する患者は、認知機能又は運動機能の重篤な悪化に苦しみ、生活の質(QOL)及び平均余命はかなり減少する。ヒトにおいては、これらの疾患として、限定されるものではないが、特に、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)、パーキンソン病及び進行性核上性麻痺などが挙げられる。
【0003】
神経変性疾患に共通する特徴として、神経細胞内外に凝集した異常タンパク質の蓄積がある。例えば、アルツハイマー型認知症の患者脳における特徴的な病理変化として、アミロイドβ(Aβ)凝集体である老人斑や、リン酸化タウ(3R、4R)凝集体である神経原線維化が認められる。前頭側頭型認知症(ピック病)及び進行性核上性麻痺の患者脳における特徴的な病理変化として、それぞれリン酸化タウ(3R)凝集体であるピック球及びリン酸化タウ(4R)凝集体である房状アストロサイトが認められる。レビー小体型認知症及びパーキンソン病の患者脳における特徴的な病理変化として、α-シヌクレイン凝集体であるレビー小体が認められる。これらの異常タンパク質の蓄積が神経の変性や細胞死を引き起こす。
【0004】
神経変性疾患、例えばアルツハイマー型認知症患者は世界で4,000万人、パーキンソン病患者は1,000万人を超えている現在、治療薬の開発は喫緊の課題である。
しかしながら、現在までの神経変性疾患に対する治療薬は十分に満足できるものではない。例えば、アルツハイマー型認知症に対してドネペジルやメマンチンなどの薬剤が実用化されているが、これらの薬剤は神経賦活作用が主たるものであり、進行を遅らせることができるものの、根本から治すというものではなく、完治は望めない。また、パーキンソン病に対してL-ドーパやアマンタジンなどの薬剤が実用化されているが、これらの薬剤もドーパミン分泌細胞が変性した後の不足したドーパミン量を補充するものであり、進行を遅らせることができるものの、根本から治すというものではなく、同じく完治は望めない。
このため、神経変性疾患に対して新たな治療薬の開発が望まれており、異常タンパク質の凝集・蓄積を防ぐことのできる薬剤は、根本治療として神経変性疾患の予防や進行抑制に有効である可能性が考えられている。
【0005】
サフランはCrocus sativus Linne(Iridaceae)の柱頭であり、鎮痛、鎮静、及び通経を目的として漢方薬や生薬製剤に配合されている。サフランならびにその成分クロシン-1及びクロセチンにはAβ凝集を阻害又は解離する作用(非特許文献1~3)が、クロシン-1にはタウ凝集を阻害する作用(非特許文献4)が、クロシン-1、クロシン-2、及びクロセチンにはα-シヌクレイン凝集を阻害及び解離する作用(非特許文献5)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Papandreou MA, Kanakis CD, Polissiou MG, Efthimiopoulos S, Cordopatis P, Margarity M and Lamari FN: Inhibitory activity on amyloid-beta aggregation and antioxidant properties of Crocus sativus stigmas extract and its crocin constituents. J Agric Food Chem 54, 8762-8768 (2006)
【文献】Ahn JH, Hu Y, Hernandez M and Kim JR: Crocetin inhibits beta-amyloid fibrillization and stabilizes beta-amyloid oligomers. Biochem Biophys Res Commun 414, 79-83 (2011)
【文献】Ghahghaei A, Bathaie SZ, Kheirkhah H and Bahraminejad E: The protective effect of crocin on the amyloid fibril formation of Aβ42 peptide in vitro. Cell Mol Biol Lett 18, 328-339 (2013)
【文献】Karakani AM, Riazi G, Mahmood Ghaffari S, Ahmadian S, Mokhtari F, Jalili Firuzi M and Zahra Bathaie S: Inhibitory effect of corcin on aggregation of 1N/4R human tau protein in vitro. Iran J Basic Med Sci 18, 485-492 (2015)
【文献】Inoue E, Shimizu Y, Masui R, Hayakawa T, Tsubonoya T, Hori S and Sudoh K: Effects of saffron and its constituents, crocin-1, crocin-2, and crocetin on α-synuclein fibrils. J Nat Med 72, 274-279 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、サフラン抽出物の研究過程で知見を得たものであり、神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の構造を有するポリエン化合物が、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害したり、あるいはそれらの凝集体を良好に解離させたりする作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
式(I):
【化1】

(式中、
、R、R、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子又はアルキル基であり、ここで、該アルキル基は、非置換であるか又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、ニトロ基、若しくはスルホ基で置換されており;
破線部を含む結合は、互いに独立して、二重結合又は単結合を表し、
lは0~3までの整数であり、
mは0~3までの整数であり、
nは0~3までの整数であるが、
但し、lとmとnの総和は1以上である)
で示される化合物又はその薬学的に許容され得る塩を含有する、神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物に関する。
また、本発明は、神経変性疾患の予防及び/又は治療のための方法であって、それを必要とする患者に前記式(I)の化合物又はその薬学的に許容され得る塩の有効量を投与することを含む方法にも関する。
また、本発明は、神経変性疾患の予防及び/又は治療に使用するための前記式(I)の化合物又はその薬学的に許容され得る塩に関する。
また、本発明は、神経変性疾患の予防及び/又は治療用医薬の製造のための前記式(I)の化合物又はその薬学的に許容され得る塩の使用に関する。
【発明の効果】
【0010】
前記式(I)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩は、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインなどのタンパク質の凝集を良好に阻害したり、あるいはそれらの凝集体を良好に解離させたりする効果を有し、神経変性疾患、特に、これらタンパク質の異常蓄積が関与している神経変性疾患、例えば、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、又は多系統委縮症の予防、進行抑制、又は治療に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記式(I)において、R、R、R、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子又はアルキル基であり、ここで、該アルキル基は、非置換であるか又はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、ニトロ基、若しくはスルホ基で置換される。
【0012】
前記アルキル基として、例えば、炭素数1~18、好ましくは炭素数1~7の直鎖又は分岐のあるアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基、あるいは直鎖状又は分岐鎖状のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、又はオクタデシル基などが挙げられる。
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基である。
【0013】
前記ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子が例示される。
また、前記アルコキシ基は-O-アルキル基を意味し、前記アルキルカルボニル基は-CO-アルキル基を意味し、前記アルコキシカルボニル基は-CO-O-アルキル基を意味し、ここで、これらのアルキル基は、前記で定義されたとおりである。
【0014】
前記式(I)において、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、R、R、及びRはアルキル基、特にメチル基を表す。
【0015】
前記式(I)において、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、R、R、及びRは水素原子を表す。
【0016】
前記式(I)において、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、R、R、及びRはアルキル基、特にメチル基を表し、かつ、R、R、及びRは水素原子を表す。
【0017】
前記式(I)において、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、かつRが水素原子であってもよい。
また、Rが水素原子であり、かつRが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であってもよい。
また、Rが水素原子であり、かつRが水素原子であってもよい。
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、かつRが水素原子である。
【0018】
前記式(I)において、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、かつRが水素原子であってもよい。
また、Rが水素原子であり、かつRが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であってもよい。
また、Rが水素原子であり、Rが水素原子であってもよい。
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、Rが水素原子であり、かつRが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基である。
【0019】
前記式(I)において、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、かつRが水素原子であってもよい。
また、Rが水素原子であり、かつRが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であってもよい。
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、Rが水素原子であり、かつRが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基である。
【0020】
前記式(I)において、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であってもよい。
また、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であってもよい。
また、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であってもよい。
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基である。
【0021】
前記式(I)において、破線部を含む結合は、互いに独立して、二重結合又は単結合を表すが、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは二重結合、特に好ましくは破線部を含む結合がすべて二重結合である。
【0022】
前記式(I)において、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、破線部を含む結合がすべて二重結合あってもよい。
また、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、例えばメチル基であり、Rが水素原子であってもよい。
また、R、R、R、R、R、及びRが水素原子であり、破線部を含む結合がすべて単結合であってもよい。
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、式(I)において、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、破線部を含む結合がすべて二重結合であるのが好ましい。
【0023】
前記式(I)中において、lは、0~3までの整数であるが、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは2である。
mは、0~3までの整数であるが、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは1である。
nは、0~3までの整数であるが、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは1である。
また、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、l:m:n=2:1:1が好ましい。
【0024】
前記式(I)中の繰り返し単位:
【化2】

(以下、「繰り返し単位(A)」ともいう)
において、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、Rが水素原子であり、かつ破線部を含む結合がすべて二重結合であるのが好ましい。
また、lは、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは2である。
【0025】
前記式(I)中の繰り返し単位:
【化3】

(以下「単位(B)」ともいう)
において、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、かつ破線部を含む結合がすべて二重結合であるのが好ましい。
また、mは、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは1である。
【0026】
前記式(I)中の繰り返し単位:
【化4】

(以下「単位(C)」ともいう)
において、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、Rが水素原子であり、Rが炭素数1~7のアルキル基、特にメチル基であり、かつ破線部を含む結合がすべて二重結合であるのが好ましい。
また、nは、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、好ましくは1である。
【0027】
Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害又は解離させる点から、前記式(I)の化合物として、以下の化合物(1)~(5):
【化5】

が好ましく、化合物(1)がより好ましい。
【0028】
前記式(I)で示される化合物の薬学的に許容され得る塩は、特に制限されず、塩基性塩及び酸性塩が挙げられる。
塩基性塩として、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩若しくはマグネシウム塩等の金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;又はトリエチルアミン塩若しくはグアニジン塩等の有機アミン塩等が挙げられる。
また、酸性塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩若しくはリン酸塩等の無機酸塩;又は酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩若しくはアスパラギン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0029】
前記式(I)の化合物又は薬学的に許容され得る塩(以下「本発明化合物」ともいう)は、公知の化合物で市販されているか、あるいは公知の有機化学的合成手法によるか、又はサフランなどの植物から慣用の抽出・精製方法により得ることもできる。
例えば、化合物(1)は以下のとおり公知である。
化合物名:Crocetin dialdehyde(クロセチンジアルデヒド)
CAS番号:502-70-5、分子式:C20H24O2、分子量296.40
IUPAC Name:(2E,4E,6E,8E,10E,12E,14E)-2,6,11,15-tetramethylhexadeca-2,4,6,8,10,12,14-heptaenedial
また、化合物(2)~(5)は、それぞれ、例えば、公知のヘキサデカン二酸、ノルビキシン、trans,trans-ムコン酸、及びゼアキサンチンから、公知の手法によりヒドロキシカルボニル基などの末端部分をアルデヒド基に変換することにより得ることもできる。
【0030】
本発明化合物は、神経変性疾患、特にAβ、タウ、又はα-シヌクレインの異常蓄積が関与している神経変性疾患、例えば、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、又は多系統委縮症の予防、進行抑制、及び/又は治療に有用である。
【0031】
本発明化合物を含有する医薬組成物(以下「本発明組成物」ともいう)は、本発明化合物そのものであってもよいし、あるいはそれのみを有効成分として含むものであってもよい。
また、本発明組成物は、本発明の効果を損なわない限り、他の神経変性疾患に効果を有する物質、例えば高麗人参サポニン(ギンセノシド類),遠志サポニン(テヌイフォリンなど)などを含んでいてもよい。
本発明組成物は、これら物質と一緒に同一の製剤に含まれていてもよいし、あるいは別々の製剤に含まれていて、使用時に併用されるものであってもよい。
【0032】
本発明組成物は、本発明の効果を損なわない限り、賦形剤、甘味料、酸味料、増粘剤、香料、色素、乳化剤及びその他に医薬品や食品で一般に利用されている素材を含んでいてもよい。
【0033】
本発明組成物は、神経変性疾患の予防や治療を目的とする食品又は動物用飼料として、例えば、健康食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、及び機能性表示食品)、健康補助食品、美容食品、又は栄養補助食品(サプリメント)、特に機能性表示食品として使用することができる。これら食品及び動物用飼料は、例えば、お茶及びジュースなどの飲料水;アイスクリーム、ゼリー、あめ、チョコレート、及びチューインガムなどの形態であってもよい。また、液剤、粉剤、粒剤、カプセル剤、又は錠剤の形態であってもよい。ここで、動物用飼料の動物には、ペット動物、畜産動物、又は動物園等で飼育されている動物を含む、神経変性疾患の予防や治療を必要とする全ての動物を含む。
【0034】
また、本発明組成物は、神経変性疾患の予防及び/又は治療を目的とする医薬品又は医薬部外品として使用することができる。これら医薬品や医薬部外品は、例えば、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、硬若しくは軟ゼラチンカプセル剤、液剤、乳濁剤、又は懸濁剤の形態で経口的に投与するができる。あるいはこれら医薬品や医薬部外品は、例えば、注射剤、コーティング錠、糖衣錠、硬若しくは軟ゼラチンカプセル剤、液剤、乳濁剤、又は懸濁剤の形態で経口的に、あるいは非経口的(静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、経気道投与、皮内投与又は皮下投与等)に投与することができる。
【0035】
本発明化合物の用量は、特に制限されないが、剤型、ならびに使用者若しくは患者などの摂取者又は摂取動物の年齢、体重及び症状に応じて適宜選択することができる。例えば、有効成分量として1日あたり摂取者又は摂取動物の体重1kgにつき、経口投与の場合、0.0001~1g、好ましくは0.0001~0.5g、より好ましくは0.001~0.05gを、非経口投与の場合、0.00001~0.1g、好ましくは0.00001~0.05g、より好ましくは0.0001~0.005gを投与してもよい。
摂取期間は、使用者又は患者の年齢、症状、又は投与経路に応じて、任意に定めることができる。
【実施例
【0036】
以下に実施例を示し、本発明の詳細を説明するが、これらの実施例は本発明を限定することを意図するものではない。
【0037】
1.試料の調製
実施例で使用した試薬を以下に示す。
クロシン-1及びクロセチンジアルデヒド:Carbosynthより入手した。
クロシン-2:Adooq Bioscienceより入手した。
クロセチン:Toronto research chemicalsより入手した。
ヘキサデカン二酸及びtrans,trans-ムコン酸:東京化成工業(株)より入手した。
ノルビキシン:Leap chemより入手した。
ゼアキサンチン:Caymanより入手した。
アミロイドβ(Aβ)(1-42):(株)ペプチド研究所より入手した。
タウ:大腸菌を用いてタウのMicrotubule-binding domainである3リピート(3R)または4リピート(4R)配列のリコンビナントタンパクを発現させて、精製したもの。
リコンビナントタウ(3Rタウまたは4Rタウ)を導入したプラスミドベクターをタンパク質大量発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換したものを培養し、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシドによる発現誘導を行った。この大腸菌から得られた可溶性画分を、アフィニティークロマトグラフィー(Ni Chelating)を用いて単離精製を行った。得られたタウの溶出画分は100 mM酢酸アンモニウムで透析した後、凍結乾燥させた。
α-シヌクレイン凝集物:コスモバイオより入手した。
チオフラビンT:Sigma-Aldrichより入手した。
【0038】
2.薬理試験例
[薬理試験例1]Aβ凝集化阻害作用の測定
Aβ(1-42)を終濃度10 μMとなるよう溶解させたPhosphate buffered saline(PBS)に、被験物質を溶解させたDMSOをDMSOの終濃度が1%となるように加え、37℃で24時間静置した後、チオフラビンTを3 μMとなるように添加し、蛍光プレートリーダーで励起波長440 nm、測定波長486 nmの蛍光強度を測定した。
次いで、測定された蛍光強度から次式を用いてAβ凝集化阻害率を算出した。
Aβ凝集化阻害率(%)=[1-(A-B)/(C-D)]×100
A:Aβ(1-42)、被験物質及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
B:Aβ(1-42)及び被験物質添加時の蛍光光度
C:Aβ(1-42)、DMSO及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
D:Aβ(1-42)及びDMSO添加時の蛍光光度
そして、得られたAβ凝集化阻害率を元に常法に従い各被験物質の50%阻害濃度(IC50)を算出した。結果を表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、クロセチンジアルデヒドは、他のサフラン成分(クロシン-1、クロシン-2、クロセチン)や陽性対照であるメチレンブルーよりも高いAβ凝集阻害作用を示した。
【0041】
[薬理試験例2]タウ凝集化阻害作用の測定
3Rタウ又は4Rタウ(以下、総称して「タウ」ともいう)を終濃度10 μMとなるよう溶解させた50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.6)に、被験物質を溶解させたDMSOをDMSOの終濃度が0.5%となるように加え、またヘパリンも10 μMになるように加えてから、37 ℃で、3Rタウを用いた場合16時間、4Rタウを用いた場合144時間、静置した後、チオフラビンTを10 μMとなるように添加し、蛍光プレートリーダーで励起波長440 nm、測定波長486 nmの蛍光強度を測定した。
次いで、測定された蛍光強度から次式を用いてタウ凝集化阻害率を算出した。
タウ凝集化阻害率(%)=[1-(A-B)/(C-D)]×100
A:タウ、被験物質及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
B:タウ及び被験物質添加時の蛍光光度
C:タウ、DMSO、及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
D:タウ及びDMSO添加時の蛍光光度
そして、得られたタウ凝集化阻害率を元に常法に従い各被験物質の50%阻害濃度(IC50)を算出した。3Rタウを用いた場合の結果を表2に示し、4Rタウを用いた場合の結果を表3に示した。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表2及び表3に示すように、クロセチンジアルデヒドは、他のサフラン成分(クロシン-1、クロシン-2、クロセチン)やヘキサデカン二酸、ノルビキシン、trans,trans-ムコン酸、ゼアキサンチン、さらには陽性対照であるメチレンブルーよりも強力にタウ凝集阻害作用を示した。
【0045】
[薬理試験例3]Aβ凝集物解離作用の測定
Aβ(1-42)を37 ℃、24時間振とうして作製したAβ(1-42)凝集物を終濃度10 μMとなるよう溶解させたPBSに、被験物質を溶解させたDMSOをDMSOの終濃度が0.5%となるように加え、37 ℃で15分間振とう(731 cpm、直線)した後、チオフラビンTを3 μMとなるよう添加し、蛍光プレートリーダーで励起波長450 nm、測定波長486 nmの蛍光強度を測定した。
次いで、測定された蛍光強度から次式を用いてAβ凝集物解離率を算出した。
Aβ凝集物解離率(%)=[1-(A-B)/(C-D)]×100
A:Aβ凝集物、被験物質及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
B:被験物質及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
C:Aβ凝集物、DMSO及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
D:DMSO及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
そして、得られたAβ凝集物解離率を元に常法に従い各被験物質の50%効果濃度(EC50)を算出した。結果を表4に示した。
【0046】
【表4】
【0047】
表4に示すように、クロセチンジアルデヒドは、他のサフラン成分(クロシン-1、クロシン-2、クロセチン)やヘキサデカン二酸、ノルビキシン、trans,trans-ムコン酸、ゼアキサンチンよりも強力にAβ凝集物解離作用を示した。
【0048】
[薬理試験例4]α-シヌクレイン凝集物解離作用の測定
α-シヌクレイン凝集物を終濃度3.5 μMとなるよう溶解させたPBSに、被験物質を溶解させたDMSOをDMSOの終濃度が0.5%となるように加え、37 ℃で15分間振とう(731 cpm、直線)した後、チオフラビンTを3 μMとなるように添加し、蛍光プレートリーダーで励起波長450 nm、測定波長486 nmの蛍光強度を測定した。
次いで、測定された蛍光強度から次式を用いてα-シヌクレイン凝集物解離率を算出した。
α-シヌクレイン凝集物解離率(%)=[1-(A-B)/(C-D)]×100
A:α-シヌクレイン凝集物、被験物質及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
B:被験物質及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
C:α-シヌクレイン凝集物、DMSO及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
D:DMSO及びチオフラビンT添加時の蛍光光度
そして、得られたα-シヌクレイン凝集物解離率を元に常法に従い各被験物質の50%効果濃度(EC50)を算出した。結果を表5に示した。
【0049】
【表5】
【0050】
表5に示すように、クロセチンジアルデヒドは、他のサフラン成分(クロシン-1、クロシン-2、クロセチン)やヘキサデカン二酸、ノルビキシン、trans,trans-ムコン酸、ゼアキサンチンよりも強力にα-シヌクレイン凝集物解離作用を示した。
【0051】
3.試験結果
以上の結果から、クロセチンジアルデヒドは、アミロイドβ(Aβ)、タウ、及びα-シヌクレインの凝集を、他のサフラン成分などよりも強力に阻害又は解離させることが分かった。したがって、クロセチンジアルデヒドは、これらアミドロイドβなどのタンパク質の異常蓄積が関与している疾患、例えば、Aβやタウが異常蓄積しているアルツハイマー型認知症、又はα-シヌクレインが異常蓄積しているレビー小体型認知症、パーキンソン病、若しくは多系統委縮症などの神経変性疾患の予防、進行抑制、及び/又は治療に有効であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の式(I)の化合物は、Aβ、タウ、又はα-シヌクレインの凝集を良好に阻害及び/又は解離させるので、神経変性疾患、特に、これらタンパク質の異常蓄積が関与している神経変性疾患、例えば、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、又は多系統委縮症の予防、進行抑制、及び/又は治療に有効な医薬品、医薬部外品、又は機能性若しくは健康食品として利用することができる。