(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】布団篭の吊り上げ構造
(51)【国際特許分類】
E02B 3/08 20060101AFI20220201BHJP
【FI】
E02B3/08 301
(21)【出願番号】P 2018208029
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390019323
【氏名又は名称】小岩金網株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 茂
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-189230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0202308(US,A1)
【文献】特開平03-079592(JP,A)
【文献】登録実用新案第3116263(JP,U)
【文献】実開平01-120519(JP,U)
【文献】特開2004-263407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布団篭と、吊り線材と、前記布団篭の内部に充填した中詰材と、を備える、布団篭の吊り上げ構造であって、
前記布団篭は、
菱形金網からなる函状の篭本体と、
前記篭本体の底網の幅方向にわたって付設した複数の懸架支持材と、を備え、
前記複数の懸架支持材は、内部に線材を挿通可能な挿通路を有し、
前記懸架支持材が、前記篭本体の底網の網目を巻き込んだコイル状体であり、
前記吊り線材が、前記挿通路内を連通し、前記布団篭の設置後に前記挿通路内から抜き取り可能であって、
前記挿通路内の前記吊り線材が、前記篭本体の底網の上方を通り、
前記複数の懸架支持材が、前記布団篭の設置時に前記中詰材の荷重によって変形しない程度の剛性と、前記布団篭の吊り上げ時に前記篭本体の底面の撓み変形に追従して変形可能な可撓性とを兼備することを特徴とする、
布団篭の吊り上げ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り上げ時の安定性が高く、設置後に吊り線材を抜き出して再利用可能な布団篭の吊り上げ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
布団篭は、斜面の土留めや海岸や河川の護岸などに用いる土木資材であって、溶接金網や菱形金網からなる面材を函状に組み立ててなる。布団篭の底網の下にワイヤをかけ渡した状態で内部に中詰材を投入し、ワイヤの端部をクレーンで吊り上げて設置場所に配置する。
特許文献1には、布団篭の上部に付設した吊りガイドによって、吊り上げ時に布団篭がワイヤに絞られて変形するのを防止する技術が開示されている。特許文献2には、布団篭の上部に付設した補強フレームと底面に配置した補強材の剛性によって、吊り上げ時の布団篭の変形を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-121724号公報
【文献】特開2015-25240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術には次のような欠点があった。
<1>ワイヤを底網や立面に固定できないため、吊り上げ時のバランスが悪く、ワイヤの位置がずれて布団篭が傾くおそれがある。これを防止するためにはワイヤの本数を増やしたりワイヤを十字掛けする必要があり、作業効率が悪い。
<2>布団篭を設置場所に吊り下ろすと、ワイヤが中詰材の凹凸と地盤の間に噛み込まれて抜き出すことができない。このため、ワイヤの再利用ができず不経済である。また、残置したワイヤが劣化すると素線が断線してささくれ立ち、漁業従事者が怪我をしたり、魚網を損傷するなど周辺の設備や生物に被害を与えるおそれがある。
<3>特許文献2のように底網の下部に剛性の枠材を取り付ける構造は、枠材部分のワイヤに荷重が集中することでワイヤが損傷するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、以上のような問題点を解決できる布団篭の吊り上げ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の布団篭は、函状の篭本体と、篭本体の底網の幅方向にわたって付設した複数の懸架支持材と、を備え、複数の懸架支持材は、内部に線材を挿通可能な挿通路を有し、複数の懸架支持材が、挿通路内の線材を保護可能な剛性と、吊り上げ時の篭本体の撓みに追従可能な可撓性とを兼備することを特徴とする。
この構成によれば、懸架支持材が内部に挿通路を備えるため設置後に吊り線材を抜き取って再利用することができる。しかも懸架支持材は篭本体の撓みに追従して底網を多接点で支持可能であるため安定して吊り上げることができる。
【0007】
本発明の布団篭は、懸架支持材が、篭本体の底網の網目を巻き込んだコイル状体であってもよい。
この構成によれば、懸架支持材を底網に編み込むことで容易に組み立てできるとともに、懸架支持材が高い柔軟性・追従性・復原性を発揮することができる。
【0008】
本発明の布団篭の吊り上げ構造は、布団篭と、懸架支持材の挿通路内を連通した吊り線材と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、懸架支持材が内部に挿通路を備えるため設置後に吊り線材を抜き取って再利用することができる。懸架支持材は篭本体の撓みに追従して底網を多接点で支持可能であるため安定して吊り上げることができる。
【0009】
本発明の布団篭の吊り上げ構造は、挿通路内の吊り線材が、篭本体の底網の上方を通っていてもよい。
この構成によれば、懸架支持材が上部で中詰材の荷重を一部負担しつつ、内面の多接点で底網を吊り上げるため、底網の素線への荷重の集中を回避して損傷を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の布団篭の吊り上げ構造は以上の構成を備えるため、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>底網に固定した可撓性の懸架支持材を介して吊り上げるため、ワイヤのずれがなく吊り上げ時のバランスが非常によい。このため、少ないワイヤ本数で安定して吊り上げることができ、作業性・安全性が高い。
<2>ワイヤの外周を懸架支持材で保護することによって、中詰材のワイヤへの噛み込みを防止し、布団篭の設置後に挿通路からワイヤを抜き出すことができる。このため、ワイヤを繰り返し利用できて経済的である。また、設置場所にワイヤを残置しないため、周辺環境への悪影響がない。
<3>懸架支持材が底網の変形に追従変形することで、懸架支持材の内側とワイヤとが多接点構造となる。このため、ワイヤの一部に荷重が集中して損傷するのを防止することができる。
<4>布団篭を護岸に利用する場合、細長く狭い挿通路を魚が好んで住み着くことで豊かな漁礁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の布団篭の吊り上げ構造について詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
[布団篭の吊り上げ構造]
<1>全体の構成(
図1)。
本発明の布団篭1は、中詰材Mごと安定して吊り上げ可能かつ設置後に吊り線材Hを抜き取り可能な篭体である。
布団篭1は、少なくとも函状の篭本体10と、篭本体10の底網に付設した複数の懸架支持材20と、を備える。
懸架支持材20は、篭本体10の底網の上面に幅方向にわたって付設する。
本例では、2本の懸架支持材20を篭本体10の長手方向の前後相対する位置に平行に付設する。ただし懸架支持材20の本数や位置はこれに限らず、布団篭1の形状や中詰材Mの重量等によって適宜選択することができる。
【0014】
<2>篭本体。
篭本体10は、中詰材Mを充填する函状体である。
本例では篭本体10として、菱形金網からなる略直方体状のパネル式布団篭を採用する。
ただし篭本体10の形状や金網の種類はこれに限らない。要は底網が金網パネルであればよい。
【0015】
<3>懸架支持材。
懸架支持材20は、吊り線材Hで篭本体10を吊り上げるとともに、布団篭1の設置時に吊り線材Hを中詰材Mの噛み込みから保護して抜き出し可能にするための部材である。
懸架支持材20は、内部に吊り線材Hを挿通可能な挿通路21を有する筒構造を呈し、長さは概ね篭本体10の底網の幅程度とする。
懸架支持材20は、中詰材Mの荷重から吊り線材Hを保護可能な程度の剛性と、吊り上げ時の篭本体10の撓みに追従可能な程度の可撓性を兼備した部材から構成する。
本例では懸架支持材20として、樹脂被覆した鉄線からなるコイル材を採用する。コイル材は、素材に由来する剛性と、構造に由来する高い柔軟性、追従性、及び復原性を兼ね備えるため、懸架支持材20に至適である。
懸架支持材20の他の例は実施例2にて詳述する。
【0016】
<4>吊り上げ構造(
図2)。
吊り上げ構造Aは、中詰材Mを充填した布団篭1を吊り上げるための構造である。
吊り上げ構造Aは、布団篭1の懸架支持材20の挿通路21内に吊り線材Hを連通してなる。
本例では吊り線材Hとしてワイヤロープを採用する。
吊り線材Hは、望ましくは挿通路21のうち底網より上方の空間に通し(
図3)、側面網の網目を通して外側に延出する。
【0017】
<5>施工方法。
引き続き、布団篭1を使った施工方法について説明する。
【0018】
<5.1>布団篭のセット。
布団篭1の懸架支持材20内に吊り線材Hを挿通する。吊り線材Hの両端は側網の網目を通して外側に出しておく。
布団篭1の内部に所定量の中詰材Mを投入する。
【0019】
<5.2>吊り上げ。
吊り線材Hの全ての端部を枠状の吊りフレームFに接続し、吊りフレームFをクレーンに玉掛けして布団篭1を吊り上げる(
図4)。
吊り上げ時、中詰材Mの荷重で篭本体10の底網は中心寄りに下方へ撓むが、可撓性の懸架支持材20も篭本体10の底網に追従して変形することで(
図2)、底網に部分的に荷重が集中して破損するのを防止することができる。
また、懸架支持材20の上部が周囲の中詰材Mと多点で接触することによって、中詰材Mの荷重を一部負担して、篭本体10の底網にかかる荷重を低減することができる。
【0020】
<5.3>設置。
布団篭1を所定の設置場所に吊り下ろす。
布団篭1の底網が地盤に接地すると、吊り上げ時の撓んでいた形状が復元する。
接地によって布団篭1底部の中詰材Mが地盤の石と噛み合う。しかし、吊り線材Hは剛性を備えた懸架支持材20内に保持されているため、中詰材Mと石との間に噛み込まれることがない。
このため、吊り線材Hの一端を引っぱるだけで挿通路21内から吊り線材Hを抜き取ることができる(
図5)。抜き取った吊り線材Hは、繰り返し使用できる。
また、この吊り線材Hは、荷重が均等に分散した状態で使用されており、中詰材Mによる噛み込み跡もないため、傷みや変形が少なく、長期間にわたって使用することができる。
【実施例2】
【0021】
[懸架支持材の他の実施例]
実施例1では懸架支持材20として鉄線からなるコイル材を採用したが、これに限られない。
懸架支持材20はコイル材の他、金属製の可撓性継手(
図6)、補強鋼線入りの樹脂製ホース、ドレーン管として用いられる樹脂成形の網状パイプ等であってもよい。
要は内部に挿通路21を備えた筒構造であって、中詰材Mの荷重に耐えうる程度の強度と篭本体10の撓みに追従可能な可撓性を備えていればよい。
これらの懸架支持材20は、番線等の適宜の固定具によって底網の上面に固定して用いる。
【符号の説明】
【0022】
1 布団篭
10 篭本体
20 懸架支持材
21 挿通路
A 布団篭の吊り上げ構造
F 吊りフレーム
H 吊り線材
M 中詰材