(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】腫瘍治療のための標的化されたドキソルビシン-金ナノコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
A61K 47/54 20170101AFI20220201BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220201BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20220201BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20220201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K31/704
A61K47/52
A61K47/62
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2019536487
(86)(22)【出願日】2018-01-09
(86)【国際出願番号】 US2018012882
(87)【国際公開番号】W WO2018129501
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2017-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504238378
【氏名又は名称】ザ キュレイターズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミズーリ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(72)【発明者】
【氏名】カンナン、ラフラマン
(72)【発明者】
【氏名】ザンブレ、アジト
(72)【発明者】
【氏名】ウペンドラン、アナンディ
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/103028(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/138032(US,A1)
【文献】Bioconjugate Chemistry,2016年,27,1153-1164
【文献】European Journal of Medical Chemistry,2011年,46,1857-1860
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00 - 47/69
A61K 31/704
A61P 35/00 - 35/04
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ペプチドと、ドキソルビシンと、を含み、
前記DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して前記金ナノ粒子表面に直接連結され、
前記チオクト酸末端ペプチドが少なくとも1つのAu-S結合を介して前記金ナノ粒子表面に直接連結され、
前記ドキソルビシンが前記DTDTPAに連結されている、
ナノコンジュゲート。
【請求項2】
前記チオクト酸末端ペプチドが、チオクト酸末端ボンベシンである、請求項1に記載のナノコンジュゲート。
【請求項3】
前記チオクト酸末端ボンベシンが、配列:リポ酸-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH
2を有する、請求項2に記載のナノコンジュゲート。
【請求項4】
前記ドキソルビシンが、アミド結合を介して前記DTDTPAに連結されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項5】
AuNP-DTDTPAナノ粒子を前記チオクト酸末端ペプチドとコンジュゲートさせることを含むプロセスによって調製され、前記金ナノ粒子中の金及び前記チオクト酸末端ペプチドが、約1:0.5~約1:4の化学量論比でコンジュゲーション反応中に存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項6】
前記金ナノ粒子中の金及び前記チオクト酸末端ペプチドが、約1:2の化学量論比で前記コンジュゲーション反応中に存在する、請求項5に記載のナノコンジュゲート。
【請求項7】
前記チオクト酸末端ペプチドが、前記ナノコンジュゲートの約1重量%~約40重量%を構成する、請求項1~6のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項8】
前記チオクト酸末端ペプチドが、前記ナノコンジュゲートの約20重量%~約30重量%を構成する、請求項7に記載のナノコンジュゲート。
【請求項9】
前記ドキソルビシンが、前記ナノコンジュゲートの約0.01重量%~約0.05重量%を構成する、請求項1~8のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項10】
前記ドキソルビシンが、前記ナノコンジュゲートの約0.03重量%を構成する、請求項9に記載のナノコンジュゲート。
【請求項11】
前記ナノコンジュゲートが、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約110nm~約140nmの流体力学的直径を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項12】
前記ナノコンジュゲートが、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約120nm~約130nmの流体力学的直径を有する、請求項11に記載のナノコンジュゲート。
【請求項13】
前記ナノコンジュゲートが、約-15mV~約-30mVのゼータ電位値を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項14】
前記ナノコンジュゲートが、約-20mV~約-25mVのゼータ電位値を有する、請求項13に記載のナノコンジュゲート。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のナノコンジュゲートと、医薬的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項16】
治療有効量の
前記ナノコンジュゲートを
、治療を必要とする対象に投与することを含む、癌
の治療
に使用するための
、請求項1~14のいずれか一項に記載のナノコンジュゲート。
【請求項17】
前記癌が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄芽球性白血病(AML)、骨肉腫、乳癌、子宮内膜癌、胃癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、肝臓癌、腎臓癌、多発性骨髄腫、神経芽腫、卵巣癌、肺癌、軟部肉腫、胸腺腫、甲状腺癌、膀胱癌、子宮肉腫、前立腺癌、結腸癌、卵巣癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、ウィルムス腫瘍、及びワルデンシュトレームマクログロブリン血症からなる群から選択される、請求項16に記載の
ナノコンジュゲート。
【請求項18】
前記ナノコンジュゲートが、注射によって前記対象に投与される、請求項16又は17に記載の
ナノコンジュゲート。
【請求項19】
金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、ドキソルビシンとを含み、前記DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して前記金ナノ粒子表面に直接連結され、前記ドキソルビシンが前記DTDTPAに連結されている、ナノコンジュゲート。
【請求項20】
請求項19に記載のナノコンジュゲートと、医薬的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項21】
治療有効量の
前記ナノコンジュゲートを
、治療を必要とする対象に投与することを含む、癌
の治療
に使用するための
、請求項19に記載のナノコンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌治療に使用することができるドキソルビシン-金ナノコンジュゲートに関する。本開示はまた、ナノコンジュゲートを作製及び使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ドキソルビシン(Doxorubicin、DOX)は、現在、乳癌、卵巣癌、肝臓癌、腎臓癌などを含むいくつかの腫瘍に臨床的に使用されている化学療法薬である。
【化1】
ドキソルビシンに関連する主要な副作用の1つは、その心臓毒性である。心臓毒性は、標的化投与によって、又は薬物の濃度を低下させることによって最小限に抑えることができる。しかしながら、投与される薬物の量を減少させることにより、細胞毒性及び有効性が低下する。抗体-薬物コンジュゲートは標的化送達のために開発されてきたが、低心臓毒性及び/又は高有効性を有するドキソルビシン送達プラットフォームを開発する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、ドキソルビシンの標的化送達のための金ナノコンジュゲートを提供する。本開示は、金ナノ粒子(gold nanoparticle、AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(dithiolated diethylenetriamine pentaacetic acid、DTDTPA)と、チオクト酸末端ペプチドと、ドキソルビシンと、を含むナノコンジュゲートであって、DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、チオクト酸末端ペプチドが少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、ドキソルビシンがDTDTPAに連結されるナノコンジュゲートを提供する。
【0004】
いくつかの実施形態では、チオクト酸末端ペプチドはチオクト酸ボンベシンである。いくつかの実施形態では、チオクト酸ボンベシンは、配列:リポ酸-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2を有する。
【0005】
いくつかの実施形態では、ドキソルビシンは、アミド結合を介してDTDTPAに連結される。
【0006】
本開示はまた、本明細書に開示されるナノコンジュゲートを調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、AuNP-DTDTPAナノ粒子をチオクト酸末端ペプチドにコンジュゲートさせることを含み、金ナノ粒子中の金及びチオクト酸末端ペプチドは、約1:0.5~約1:4の化学量論比で存在する。いくつかの実施形態では、金ナノ粒子中の金及びチオクト酸末端ペプチドは、約1:2の化学量論比で存在する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約1重量%~約40重量%のチオクト酸末端ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約20重量%~約30重量%のチオクト酸末端ペプチドを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約0.01重量%~約0.05重量%のドキソルビシンを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約0.03重量%のドキソルビシンを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、動的光散乱(dynamic light scattering、DLS)によって測定されるとき、約110nm~約140nmの流体力学的直径を有する。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約120nm~約130nmの流体力学的直径を有する。
【0010】
いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、約-15mV~約-30mVのゼータ電位値を有する。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、約-20mV~約-25mVのゼータ電位値を有する。
【0011】
本開示はまた、本明細書に開示されるナノコンジュゲートと医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
本開示は、治療有効量の本明細書に開示されるナノコンジュゲートを、癌の治療を必要とする対象に投与することを含む、癌を治療するための方法を更に提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、癌は、急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia、ALL)、急性骨髄芽球性白血病(acute myeloblastic leukemia、AML)、骨肉腫、乳癌、子宮内膜癌、胃癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、肝臓癌、腎臓癌、多発性骨髄腫、神経芽腫、卵巣癌、肺癌、軟部肉腫、胸腺腫、甲状腺癌、膀胱癌、子宮肉腫、前立腺癌、結腸癌、卵巣癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、ウィルムス腫瘍、及びワルデンシュトレームマクログロブリン血症からなる群から選択される。
【0014】
いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、注射によって対象に投与される。
【0015】
以下は、本明細書に開示される例示的な実施形態を限定する目的ではなく、それを例示する目的で提示される、図面の簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】BBN-AuNP-DTDTPA-DOX(NP2-DOX)の合成を示す。
【
図2】BBN-AuNP-DTDTPA-DOX(NP2-DOX)の概略構造を示す。
【
図3】HPLCにより測定したときの[AuNP(DTDTPA)]に含まれるTA-BBNの量を決定するための、[AuNP(DTDTPA)]によるチオクト酸末端ボンベシン(TA-BBN)滴定のグラフを示す。Au:BBNの化学量論比を括弧内に示す。
【
図4A】ナノコンジュゲートNP1及びNP2のTEM画像をそれぞれ示す。
【
図4B】ナノコンジュゲートNP1及びNP2のTEM画像をそれぞれ示す。
【
図4C】ナノコンジュゲートNP1及びNP2のUV可視吸収スペクトルを示す。
【
図5A】ナノコンジュゲートNP2のXPS調査スペクトルを示す。
【
図5B】ナノコンジュゲートNP2のC1s領域のXPS高分解能スペクトルを示す。
【
図6A】ナノコンストラクトNP2のS2p領域のXPS高分解能スペクトルを示す。
【
図6B】ナノコンストラクトNP2のAu4f領域のXPS高分解能スペクトルを示す。
【
図7】580nmで励起され、590nmで放出するときの、ドキソルビシンの蛍光スペクトルを示す。
【
図8】蛍光分光法によるナノコンジュゲートNP1及びNP2上のドキソルビシン負荷の推定を示す。
【
図9】ナノコンジュゲートNP1及びNP1-DOXの蛍光スペクトルを示す。
【
図10】ナノコンジュゲートNP2及びNP2-DOXの蛍光スペクトルを示す。
【
図11】NP1、NP2、NP1-DOX、及びNP2-DOXのUV可視吸収スペクトルを示す。
【
図12A】UV可視吸収分光法によるナノコンジュゲートNP1及びNP2のインビトロ安定性試験を示す。
【
図12B】UV可視吸収分光法によるナノコンジュゲートNP1及びNP2のインビトロ安定性試験を示す。
【
図12C】流体力学的サイズによるナノコンジュゲートNP1及びNP2のインビトロ安定性試験を示す。
【
図12D】流体力学的サイズによるナノコンジュゲートNP1及びNP2のインビトロ安定性試験を示す。
【
図12E】様々な生物学的に適切な溶液中でインキュベートしたときのゼータ電位によるナノコンジュゲートNP1及びNP2のインビトロ安定性試験を示す。
【
図12F】様々な生物学的に適切な溶液中でインキュベートしたときのゼータ電位によるナノコンジュゲートNP1及びNP2のインビトロ安定性試験を示す。
【
図13】GRP受容体発現前立腺腫瘍PC-3細胞における、
125I-BBNに対する、AU:BBN(1:0.4、1:2、1:4)の様々な化学量論比でのナノコンジュゲートNP2のIC
50値を示す。
【
図14】GRP非発現MDA-MB-231ヒト乳癌細胞における、ドキソルビシン単独、NP1-DOX、及びNP2-DOXのインビトロ細胞毒性を示す。
【
図15】GRP非発現ヒト乳癌細胞における、NP1-DOX、NP2-DOXの効果をドキソルビシン単独と比較する。
【
図16】GRP発現PC3ヒト前立腺癌細胞における、ドキソルビシン単独、NP1-DOX、及びNP2-DOXのインビトロ細胞毒性を示す。
【
図17】GRP発現ヒト前立腺癌細胞において、NP1-DOX、NP2-DOXの効果をドキソルビシン単独と比較する。
【
図18】GRP発現(PC3)ヒト癌細胞において、ナノコンジュゲート(NP1-DOX及びNP2-DOX)中のドキソルビシンのIC
50値をドキソルビシン単独と比較する。
【
図19】GRP非発現(MDA-MB-231)ヒト癌細胞において、ナノコンジュゲート(NP1-DOX及びNP2-DOX)中のドキソルビシンのIC
50値をドキソルビシン単独と比較する。
【
図20】GRP発現(PC3)ヒト癌細胞及びGRP非発現(MDA-MB-231)ヒト癌細胞において、NP1-DOX及びNP2-DOXの細胞死のパーセンテージの差を比較する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ガストリン放出ペプチド(gastrin releasing peptide、GRP)受容体は、乳癌、前立腺癌、結腸癌、及び他の癌などの様々なヒト癌細胞において過剰発現している。ボンベシンペプチド及びその類似体は、GRP受容体を標的とすることが知られている。ある特定の実施形態では、本開示は、金ナノ粒子(AuNP)と、標的化剤(例えば、ボンベシン(bombesin、BBN))と、癌治療薬としてのドキソルビシン(DOX)とを含む多成分ナノ粒子送達系(ナノコンジュゲート)を提供する。金ナノ粒子は、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)で安定化され、多層構造を有することができる。したがって、特定の実施形態では、ナノコンジュゲートはBBN-AuNP(DTDTPA)-DOXであり得る。乳癌細胞において実施されるインビトロ細胞毒性アッセイは、驚くべきことに、BBN-AuNP(DTDTPA)-DOXが遊離ドキソルビシンと比較してはるかに強力であることが実証された。
【0018】
本明細書に開示される本発明の主題の様々な実施例及び実施形態が可能であり、本開示の恩恵を受けて当業者には明らかとなるであろう。本開示において、「いくつかの実施形態」、「特定の実施形態」、及び同様の語句はそれぞれ、これらの実施形態が本発明の主題の非限定的な例であることを意味し、除外されない代替的な実施形態が存在することを意味する。
【0019】
冠詞「a」、「an」、及び「the」は、本明細書では、物品の文法的対象物の1つ又は1つより多くの(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「要素」は、1つの要素又は1つより多い要素を意味する。用語「又は」は、「及び/又は」を意味する。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含む(containing)」は、無制限の用語(すなわち、「含むが、これらに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。
【0020】
「含む(comprising)」という語は、その無制限の意味と一致する方法で使用され、すなわち、所与の製品又はプロセスが、所望により、明示的に記載されたものを超える追加の特徴又は要素も有することができることを意味する。当然のことながら、本実施形態は、「含む(comprising)」という言葉で説明されている場合、「からなる」及び/又は「から本質的になる」という用語で説明されるその他が類似の実施形態もまた企図され、本開示の範囲内であることが理解される。
【0021】
本明細書で使用するとき、「約」という用語は、記載された値の±10%を意味する。ほんの一例として、「約30重量%」の化合物を含む組成物は、27重量%の化合物から33重量%までの化合物及びそれを含む化合物を含むことができる。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「ナノコンジュゲート」は、金ナノ粒子、並びに安定化剤、標的化剤及び治療薬などの他の成分を含むナノ材料を指す。特定の実施形態では、安定化剤及び標的化剤は、1つ以上の共有結合又は非共有結合を介して金ナノ粒子表面に直接結合され得る。治療薬などのいくつかの成分は、安定化剤などの別の成分を介して金ナノ粒子に連結され得る。
【0023】
本明細書で使用するとき、「治療有効量」という用語は、患者に投与されたときに意図される治療効果をもたらすのに有効な量を意味する。「有効」である量は、個人の年齢及び全身状態などに応じて、対象間で変動し得る。
【0024】
特定の実施形態では、本開示は、金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ペプチドと、ドキソルビシンと、を含むナノコンジュゲートであって、DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、チオクト酸末端ペプチドが少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、ドキソルビシンがDTDTPAに連結されている、ナノコンジュゲートを提供する。
【0025】
特定の実施形態では、本明細書で開示されるナノコンジュゲートは、金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ペプチドと、ドキソルビシンとから本質的になり、DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、チオクト酸末端ペプチドが少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、ドキソルビシンがDTDTPAに連結されている。
【0026】
DTDTPAで安定化された金ナノ粒子、すなわち、AuNP-DTDTPAは当該技術分野において既知である。例えば、国際公開第2015/103028号及びDebouttiereet al.、Advan.Funt.Mater.2006,16:2330-39は、AuNP-DTDTPAの調製及び使用を記載し、両方の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。DTDTPAの化学構造を以下に示す。DTDTPA分子は、1つ又は2つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に連結され得る。
【化2】
【0027】
理論に束縛されるものではないが、AuNP表面を取り囲むDTDTPAループは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上のDTDTPA分子を含み得ると考えられる。例えば、いくつかの実施形態では、同様に特定の理論に束縛されるものではないが、所与のDTDTPA分子の両方のチオール基は両方ともAuNP表面にAu-S結合を形成することができ、したがって、1つのDTDTPA分子とループを形成することができると考えられる。別の実施形態では、所与のDTDTPA分子の1つのチオール基は、AuNP表面にAu-S結合を形成することができ、一方、第2のチオール基は、第2のDTDTPA分子と分子間ジスルフィド結合(S-S)を形成することができる。第2のDTDTPA分子は、ジスルフィド結合を介して更に別のDTDTPA分子に連結されてもよく、又はAu-S結合を介してAuNP表面に連結されてもよく、したがって、2つ以上のDTDTPA分子からなるループを形成することができる。DTDTPA分子自体がどのように配置されるかに応じて、安定化ナノ粒子は、AuNPの表面上に五酢酸分子の多層有機シェルを含み得る。Debouttiereet al.、Advan.Funt.Mater.2006,16:2330-39、及び
図2を参照されたい。
【0028】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約10重量%~約60重量%のDTDTPAを含む。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、ナコンジュゲートの約10重量%、約15重量%、約20重量%、約25重量%、約30重量%、約35重量%、約40重量%、約41重量%、約42重量%、約43重量%、約44重量%、約45重量%、約46重量%、約47重量%、約48重量%、約49重量%、約50重量%、約51重量%、約52重量%、約53重量%、約54重量%、約55重量%、若しくは約60重量%の、例えば、約45重量%、又は先行する値のうちの任意の2つの間の範囲、例えば、約30重量%~約60重量%、若しくは約40重量%~約50重量%のDTDTPAを含む。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約45重量%のDTDTPAを含む。
【0029】
典型的な実施形態では、及び上述のように、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、標的化剤としてチオクト酸末端ペプチドを含み得る。特定の実施形態では、標的化ペプチドは、ボンベシンペプチドであり得る。特定の腫瘍細胞を標的化するために、ボンベシンペプチドを使用して金ナノ材料を官能化することができる。Chanda et al.,Nano Lett.2009,9(5):1798-1805;Chanda et al.PNAS 2010,107(19):8760-8765;Suresh et al.,Bioconjuate Chem.2014,25,1565-1579;及びSilva et al.,Bioconjuate Chem.2016,27,1153-1164を参照されたい。これらの参考文献の全ては、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。14-アミノ酸ペプチドであるボンベシンは、両生類のボンビナ属の皮膚から単離され、関連するガストリン放出ペプチド(GRP)は、例えば、小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌、及び結腸癌における、様々な腫瘍組織において増強された応答を示す。改変された構造を有するボンベシンの類似体は、GRP受容体に対して、同様又は更に高い親和性を示したことが報告されている。例えば、Chanda et al.,Nano Lett.2009,9(5):1798-1805及びその中に引用される参考文献を参照されたい。本明細書に記載の特定の実施形態では、
図1に示される7つのアミノ酸切断型ボンベシン類似体(BBN)を標的化剤として使用した。
【0030】
いくつかの実施形態では、チオクト酸末端ペプチドは、配列:リポ酸-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2を有するチオクト酸末端ボンベシン(TA-BBN、代替的に本明細書でBBNと呼ばれる)であってもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、チオクト酸末端ペプチド(例えば、TA-BBN)は、1つ又は2つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約1重量%~約40重量%のチオクト酸末端ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約1重量%、約5重量%、約10重量%、約11重量%、約12重量%、約13重量%、約14重量%、約15重量%、約16重量%、約17重量%、約18重量%、約19重量%、約20重量%、約21重量%、約22重量%、約23重量%、約24重量%、約25重量%、約26重量%、約27重量%、約28重量%、約29重量%、約30重量%、約35重量%、若しくは約40%の、例えば、約20重量%若しくは約25重量%、又は先行する値のうちの任意の2つの間の範囲、例えば、約10重量%~約30重量%、約20重量%~約30重量%、若しくは約15重量%~約25重量%のチオクト酸末端ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約20重量%又は約25重量%のチオクト酸末端ペプチドを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、続いてドキソルビシンと連結され得るAuNP-DTDTPA-BBNコンストラクトは、AuNP-DTDTPAナノ粒子をチオクト酸末端ペプチドとコンジュゲートさせることを含むプロセスによって調製することができ、金ナノ粒子中の金とチオクト酸末端ペプチドとは、約1:0.5~約1:4の化学量論比でコンジュゲーション反応中に存在し得る。本明細書で使用される化学量論比は、モル比を指す。
【0034】
いくつかの実施形態では、コンジュゲーション反応に使用される、金ナノ粒子中の金対チオクト酸末端ペプチドの化学量論比は、約1:0.75、約1:1、約1:1.5、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、若しくは約1:4、例えば、1:2、又は先行する比のいずれか2つの間の範囲、例えば、約1:1~約1:4、約1:1~約1:3、約1:1~約1:2、約1:1.5~約1:4、約1:1.5~約1:3、約1:1.5~約1:2.5、若しくは約1:1.5~約1:2であり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、コンジュゲーション反応に使用されるチオクト酸末端ペプチドの量は、金ナノ粒子中の金と少なくとも約1:1.5、少なくとも約1:2、少なくとも約1:2.5、又は少なくとも約1:3の比にある。
【0036】
いくつかの実施形態では、コンジュゲーション反応に使用される金ナノ粒子中の金の、チオクト酸末端ペプチドに対する化学量論比は、約1:2である。
【0037】
典型的には、ナノコンジュゲート中のドキソルビシンは、DTDTPAのカルボキシレート基とドキソルビシンのアミノ基との間に形成されるアミド結合を介してDTDTPAに連結される。
【0038】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約0.01重量%~約0.05重量%のドキソルビシンを含む。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約0.01重量%、約0.015重量%、約0.02重量%、約0.025重量%、約0.03重量%、約0.035重量%、約0.04重量%、約0.045重量%、若しくは約0.05重量%の、例えば、約0.03重量%、又は先行する値のうちの任意の2つの間の範囲、例えば、約0.01重量%~約0.04重量%、約0.01重量%~約0.03重量%、約0.02重量%~約0.05重量%、約0.02重量%~約0.04重量%、約0.02重量%~約0.03重量%、若しくは約0.025重量%~0.035重量%のドキソルビシンを含むことができる。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約0.03重量%のドキソルビシンを含む。
【0039】
ナノコンジュゲートは、それらの流体力学的直径(すなわち、流体力学的サイズ)によって特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約100nm~約150nm又は約110nm~約140nmの流体力学的直径を有する。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約100nm、約110nm、約115nm、約120nm、約125nm、約130nm、約135nm、約140nm、約145nm、若しくは約150nmの、例えば、約125nm、又は先行する値のうちの任意の2つの間の範囲、例えば、約120nm~約125nm、約120nm~約130nm、又は約125nm~約130nmの流体力学的直径を有する。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約125nmの流体力学的直径を有する。
【0040】
ナノコンジュゲートはまた、それらのゼータ電位によって特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、約-15mV~約-30mVのゼータ電位値を有する。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、約-15mV、約-16mV、約-17mV、約-18mV、約-19mV、約-20mV、約-21mV、約-22mV、約-23mV、約-24mV、約-25mV、約-26mV、約-27mV、約-28mV、約-29mV、若しくは約-30mV、例えば、約-23mV、又は先行する値のうちの任意の2つの間の範囲、例えば、約-15mV~約-25mV、約-20mV~約-25mV、若しくは約-20mV~約-30mVのゼータ電位値を有する。いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、約-20mV~約-25mVのゼータ電位値を有する。
【0041】
一実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ボンベシンペプチド(TA-BBN)と、ドキソルビシンとから本質的になり、DTDTPAは、少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、TA-BBNは、少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、ドキソルビシンはDTDTPAに連結され、AuNP-DTDTPA-BBNナノコンジュゲート前駆体は、AuNP-DTDTPAナノ粒子をTA-BBNとコンジュゲートさせることを含むプロセスによって調製され、金ナノ粒子中の金とチオクト酸末端ボンベシンペプチドとは、約1:2の化学量論比でコンジュゲーション反応中に存在する。
【0042】
特定の実施形態では、上記のナノコンジュゲートは、金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ボンベシンペプチド(TA-BBN)と、ドキソルビシンとを含み得、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約15重量%~約25重量%のTA-BBNと、約25重量%~約35重量%のDTDTPAと、約0.01重量%~約0.05重量%のドキソルビシンとを含む。
【0043】
別の実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ボンベシンペプチド(TA-BBN)と、ドキソルビシンとを含み得、ナノコンジュゲートは、ナノコンジュゲートの約20重量%のTA-BBNと、約30重量%のDTDTPAと、約0.03重量%のドキソルビシンとを含む。
【0044】
標的化ペプチドは、典型的には、本明細書に記載のナノコンジュゲート上に存在するが、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるナノコンジュゲートは、チオクト酸末端ペプチドを含まない。例えば、いくつかの実施形態では、ナノコンジュゲートは、金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、ドキソルビシンとを含み、DTDTPAは、少なくとも1つのAu-S結合を介して金ナノ粒子表面に直接連結され、ドキソルビシンは、本明細書のどこかに記載されるようにDTDTPAに連結される。このコンストラクトは、本明細書ではAuNP(DTDTPA)-DOXと称される。
【0045】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるナノコンジュゲートを調製するための方法を提供し、方法は、ドキソルビシンをDTDTPAで官能化されたナノ粒子とカップリングさせることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、(1)AuNP-DTDTPAを、チオクト酸末端ペプチド(例えば、TA-BBN)とコンジュゲートしてコンジュゲートを形成することと、(2)コンジュゲートをドキソルビシンとカップリングさせてナノコンジュゲートを形成することと、を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、カップリング工程は、DTDTPAのカルボキシル基とDOXのアミン基との間にアミド結合を形成する。いくつかの実施形態では、カップリング工程は、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)及びスルホNHS(N-ヒドロキシスルホスクシンイミド)などの活性化剤を使用して行われる。
【0047】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるナノコンジュゲートと医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0048】
特定の実施形態では、本開示はまた、治療有効量の本明細書に開示されるナノコンジュゲートを、癌の治療を必要とする対象に投与することを含む、癌を治療するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0049】
いくつかの実施形態では、治療される癌は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄芽球性白血病(AML)、骨肉腫、乳癌、子宮内膜癌、胃癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、肝臓癌、腎臓癌、多発性骨髄腫、神経芽腫、卵巣癌、肺癌(例えば、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌)、軟部肉腫、胸腺腫、甲状腺癌、膀胱癌(例えば、移行上皮細胞膀胱癌)、子宮肉腫、前立腺癌、結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、ウィルムス腫瘍、並びにワルデンシュトレームマクログロブリン血症からなる群から選択され得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法に従って治療される癌は、GRP過剰発現に関連する。いくつかの実施形態では、GRP過剰発現に関連する癌は、小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、卵巣癌、非小細胞肺癌、又は膵臓癌であり得る。
【0051】
本明細書に開示されるナノコンジュゲート又は医薬組成物は、当業者に既知の様々な方法によって対象に投与することができる。例えば、本開示のナノコンジュゲート又は医薬組成物は、注射又は経口投与によって投与することができる。
【0052】
以下の実施例は、本明細書に開示される組成物及び方法の単なる例示であり、本明細書の範囲を限定することを意図するものではない。
【0053】
実施例
一般的方法:金ナノ粒子(AuNP)の合成に使用される材料は、標準的な供給業者から入手した。四塩化金酸三水和物(HAuCl4.3H2O)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、無水酢酸、無水ピリジン、2-アミノエタンチオールヒドロクロリド、トリエチルアミン、氷酢酸(CH3COOH)、硝酸ガリウム(Ga(NO3)3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩酸(HCl)、メタノール(MeOH)、ジエチルエーテル(Et2O)、塩化ナトリウム(NaCl)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)をAldrichから購入し、そのまま使用した。水溶液の調製及び金ナノ粒子のすすぎのために、Milli-Q(DI)水(ρ>18MΩ)を使用した。MTT細胞増殖アッセイキットを、Promega Corporation(USA)から入手した。
【0054】
UV可視分光法:UV可視吸収スペクトルを、経路長補正を伴って、使い捨て96ウェルプレート内で、Cytation 3分光光度計(Biotek)を使用して、室温で記録した。
【0055】
電子顕微鏡:透過型電子顕微鏡画像は、JEOL LTD.,Tokyo,JapanのJEOL 1400透過型電子顕微鏡(TEM)で得た。300メッシュの炭素コーティングされた銅グリッド上に、5μLの金ナノ粒子溶液を配置することによって、TEMサンプルを調製した。余分な溶液を慎重に取り出し、グリッドを更に5分間乾燥させた。ナノ粒子の平均サイズ及びサイズ分布は、TEM画像をFOVEAプラグインを備えたAdobe Photoshopで処理することによって決定した。
【0056】
動的光散乱(DLS)及びゼータ電位分析:DLS測定は、633nmのHe-Neレーザーを装備し、173°の角度で動作する、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments Ltd.)で実施した。データを収集及び分析するために使用されたソフトウェアは、MalvernからのDispersion Technology Software(DTS)バージョン5.10であった。各サンプルの600μlを、10mmの経路長を有する少量の半マイクロ使い捨てサイジングキュベット(Fisher Scientific,USA)で測定した。3回の測定は、自動減衰器を備えたキュベット壁から4.65mmの位置で行った。各サンプルについて、15回の10秒の測定を行った。全てのナノ粒子サンプルについて「汎用モード」を用いて、自己相関関数から、サイズ分布、Z平均直径、及び多分散指数(PDI)を得た。デフォルトのフィルタ係数50%並びにデフォルト下限閾値0.05及び上限閾値0.01を使用した。分散剤としての水、及びHuckelモデルを使用して、ゼータ電位測定を3回行った。各サンプルについて、自動分析モードで20回の測定を行った。
【0057】
ナノ粒子追跡分析:AuNPの流体力学的直径は、532nm(緑色)レーザー(NanoSight Limited,Amesbury,UK)を装備した温度制御LM14Gサンプル視認ユニットを備えたNanoSight LM10-HSGFTシステムを使用して測定した。Raleigh散乱に基づくAuNPのビデオトラッキングを、モノクロームマーリンCCDカメラ(Allied Vision Technologies,Germany)でキャプチャした。1mLシリンジ(Becton Dickinson,NJ)を使用して、サンプルを視認チャンバに送達し、温度を22℃で一定に保持した。NanoSight 2.2プログラムを使用して、サンプルデータを収集及び分析した。各サイズ測定は、30秒のビデオに基づいており、平均流体力学的直径を計算するために、ストークス・アインシュタインの式を使用した。以下に記載されるように、NTA測定前に、サンプルをストックAuNP濃度に対して30倍に希釈した。この希釈は、約900の粒子が30秒間のビデオで追跡されるように選択された。これらの条件は、サンプル全体の代表的なサンプリングを提供し、著しくより多くのナノ粒子が分析されたより長いビデオで、サイズ分布が変化しなかったという事実によって確認された。各サンプルについて3回の測定を行い、平均サイズ及び標準偏差を得た。
【0058】
細胞培養:PC-3ヒト前立腺癌細胞及びMDA-MB231ヒト乳癌細胞(ATCC,USA)を、4.5g/LのD-グルコース、25mMのHepes、0.11g/Lピルビン酸ナトリウム、1.5g/L重炭酸ナトリウム、2mML-グルタミン、10%熱不活化ウシ胎児血清(Atlanta Biologicals,USA)、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質溶液を補充したRPMI 1640培地(Gibco BRL,Grand Island,NYから入手)中で増殖させた。細胞を、37℃で、95%空気及び5%CO2の加湿雰囲気(Thermo Scientific,USA)中で培養し、培地を1日おきに交換した。細胞を単層に接着させ、コンフルエントになると、トリプシン-EDTA(Invitrogen)を用いて細胞培養フラスコから採取し、間隔をあけて播種した。
【0059】
IC50測定:コンジュゲートの受容体結合親和性は、GRP特異的放射リガンドとして125I-Tyr4-ボンベシンを使用して、PC-3細胞培養における競合的細胞結合アッセイによって決定した。約30,000細胞を、20000cpmの125I-Tyr4-ボンベシン(2200Ci/mmol)の存在下で5%CO2下で37℃で40分間インキュベートし、試験したコンジュゲートの濃度を増加させた。インキュベーション後、反応培地を吸引し、細胞を冷RPMI 1640改変緩衝液で3回洗浄した。細胞に結合した放射線を、Packard Riastar γ計数システムで計数することによって決定した。IC50値は、Graph Fit 4.0グラフ化ソフトウェアを使用して計算した。細胞に結合した125I-Tyr4-ボンベシンの%を、試験したコンジュゲートの増加する濃度に対してプロットし、そのIC50値を決定した。
【0060】
インビトロ細胞毒性アッセイ:NP1、NP2、遊離ドキソルビシンなどのそれぞれの対照を有するNP1-DOX及びNP2-DOXのインビトロ細胞毒性評価を、GRP発現癌細胞及びGRP非発現癌細胞である、それぞれPC3及びMDA-MB-231で実施した。細胞毒性評価を3回実施し、プロトコールは製造業者によって記載されているように実施した。簡潔に述べると、指数増殖期の1×105ml-1細胞を、平底96ウェルポリスチレンコーティングプレートに入れ、CO2インキュベーター内で5%CO2及び37℃で12時間インキュベートした。NP1-Dox及びNP2-Doxの0~10μg/mLの範囲の一連の濃度(0、0.31、0.625、1.25、2.5、5.0、及び10μg/mL)を培地で調製した。各濃度を四重でプレートに添加した。24時間のインキュベーション後、10μL/ウェルのMTT(製造元(Promega Corporation,USA)から入手したもの)を添加し、4時間保持し、そのように形成されたホルマザン結晶を100μLの洗剤/可溶化緩衝液に溶解した。プレートを25℃で暗所で2時間保持して全ての結晶を溶解し、発色した色の強度を、570 nmの波長で動作するマイクロプレートリーダー(Epoch,BioTek,USA)によって測定した。完全培地、ナノ粒子、及びMTTを有するが、細胞を有しないウェルをブランクとして使用した。未処理細胞は、100%生存可能であると考えられた。
【0061】
インビトロ安定性試験:様々なpH条件下(2、5、7、10、及び12)でNP1及びNP2の溶液をインキュベートすることにより、インビトロ安定性試験を24時間の期間実施した。両方の安定性挙動はまた、0.2Mシステイン、0.2Mヒスチジン、0.2M HSA、及び10%生理食塩水溶液のそれぞれ0.5mLで、NP1及びNP2の水溶液(0.5mL)をチャレンジすることによってもモニターした。安定性は、0時間~96時間(0、1、24、48、72、及び96時間)でのUV可視吸光度、流体力学的半径、及びゼータ電位測定値をモニターすることによって測定した。NP1及びNP2のUV Visプラズモン帯域における無視できる変化は、システイン以外の全てのチャレンジ溶液における安定挙動を有するナノ微粒子組成物の保持を確認した。処理された溶液は、流体力学的半径の顕著な変化を示さず、したがってこれらのコンジュゲートの安定性を確認した。
【0062】
実施例1
BBN-AuNP-DTDTPAコンジュゲートの合成及び特徴付け
ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)官能化金ナノ粒子(AuNP DTDTPA;NP1)を、標的化ペプチド、ボンベシン(BBN)、及び化学療法剤DOXをナノ粒子表面上にコンジュゲートさせる前駆体として使用した。
図1を参照されたい。
【0063】
第1の工程は、標的化ペプチドをNP1にコンジュゲートさせることであった。チオオクチル末端ボンベシン(TA-BBN)を使用して、ペプチドを金-チオール結合を介してNP1にコンジュゲートさせた。AuNP:BBNの3つの異なる化学量論比を使用した(1:0.5、1:2、及び1:4)。過剰の未反応BBNを繰り返し洗浄により除去し、BBN-AuNP-DTDTPA(NP2)を純粋なナノ粒子ペレットとして単離した。TA-BBNのNP1へのコンジュゲーション後に得られた上清溶液のHPLC分析を利用して、NP2に結合したTA-BBNを定量化した。標準検量線を、異なる濃度のTA-BBNと、反応で使用された既知濃度のTA-BBNの曲線下面積(AUC)をHPLCにより測定して作成した。上清中のAUCの分析及び既知の濃度のTA-BBNを相関させて、NP2の表面上にコンジュゲートしたTA-BBNの量を決定した(
図3)。1:2比(Au:TA-BB)でAuDTDTPAコンストラクトをTA-BBNとコンジュゲートさせると、1mgのAuDTDTPA当たり約0.26mgのTA-BBNがコンストラクトに組み込まれた。
図3を参照されたい。1:2比を使用して調製したNP2は、顕著な安定性を示し、したがって更なる試験のために選択した。
【0064】
ナノコンジュゲートは、透過型電子顕微鏡(TEM)画像分析、UV可視吸収分光法、動的光散乱(DLS)、及びゼータ電位測定により詳細に特徴付けられた。TEM画像は、3~5nmのサイズ範囲を有するナノコンジュゲートの均一なサイズ分布を示した(
図4A及び4B)。NP2は、BBNへのコンジュゲーション時にNP1と比較してUV可視吸収スペクトルの変化は示さなかった。(
図4C)。BBNとコンジュゲーション(1:2、Au:BBN)すると、NP1と比較して、NP2において、流体力学的直径の20nmの変化が観察された。ゼータ電位変化は、NP1と比較して、NP2において無視できる(約3単位)。ナノ粒子トラッキング分析(NTA)を用いて決定された平均粒径は、動的光散乱測定値と良好に相関した。NP1及びNP2コンジュゲートの物理化学的特性を表1に要約する。
【表1】
【0065】
実施例2
XPS分析
AuNP-DTDTPAとTA-BBNとの間の結合及び化学的相互作用の性質を理解するために、詳細なXPS分析を実施した。NP2のXPSスペクトルは、C、N、O、S、及びAuの特徴的なピークを示す(
図5A)。C1s領域のXPS高分解能スペクトルは、コンジュゲートしたTA-BBNペプチドから予想される様々なC-C、C-H、C-O、C-N、O-C=O、N-C=O領域を示す(
図5B)。NP2の炭素種に対する相対的な元素組成及びピーク割り当ては、それぞれ表2及び3に示される。
【表2】
【表3】
【0066】
S 2p領域のXPS高分解能スペクトルの分析は、2つの異なるS種(種1及び種1)が存在し、それぞれが二重線に分割されることを示唆している。種1は、DTDTPAのAu-S結合に起因する、162.3及び163.5eVにおける2つの別個の硫黄ピークを示す。二重線硫黄ピークS 2p
3/2及びS 2p
1/2は、1.2eVのカップリングにより金表面上へのチオールの吸着を確認する。結合エネルギー及びカップリング値は、NP1について文献に報告されているものとよく相関するが、ピークは、BBNへのコンジュゲーション時に、わずかに高い結合エネルギー(0.5eV)領域にシフトする。加えて、比2:1の163.2及び164.4eVにおける種2の2つの別個の硫黄ピークは、それぞれAu-S(AuNPに配位された硫黄)及びS-CH3(BBNペプチド骨格中のメチルシステインアミノ酸中に存在する硫黄)に対応する。硫黄ピークの各クラスは、1.2eVのカップリングによって二重線S2p3/2及びS2p1/2に更に分割され、文献に報告されているようにBBNのAuNPとのコンジュゲーションを確認した。より高い結合エネルギーにおける等価領域を有する二重線のこのような存在は、AuNP表面上にAu-S結合を形成したTA-BBNの硫黄原子の両方を示す。BBNとのコンジュゲーションの際、結合エネルギー値は、文献に報告されているAuNP-BBNと比較して、より低いエネルギー領域にシフトする。これは、BBNのコンジュゲーションに使用されたナノ粒子のコアサイズの差に起因し得る。元素Sのエネルギー、及びいくつかの有機形態のSは、162~164eVの範囲内にある(
図6A)。酸化硫黄に対応するスペクトルのより高いエネルギー領域において更なるピークが観察されないため、これらの測定は、BBN-AuNP-DTDTPA(NP2)が、ナノコンジュゲーション反応中に形成された排他的な生成物であるという観察結果と一致する。
【0067】
スペクトルの4f領域は、Au 4f
7/2及びAu 4f
5/2について83.6、84.3、及び87.2、88.0eVのエネルギーを有する金の2つの異なる信号を示し、それぞれコア金原子Au(0)及び部分的にAu(I)特性を有する表面金に対応する(
図6B)。様々な最近の研究から、チオクト酸におけるジスルフィドがAuNPに酸化的に付加され、ナノ粒子の表面の部分的なAu(I)の特性が得られると広く考えられている。4f領域におけるAuピークに対する84.3及び88eVの結合エネルギーに対応するシグナルは、文献に報告されているペプチドコンジュゲートしたAuNPと類似しており、AuはDTDTPA及びTA-BBNのS原子に結合していることを示唆している。この事実と一致して、表面及びコア金原子に対応する金の2つの異なる酸化状態をXPSスペクトル中で注目した。金ナノ粒子上の様々なXPS研究の結果により、同様の所見が確認された。上記の観察結果は、NP2ナノコンジュゲートにおけるTA-BBNの結合を明確に確立した。
【0068】
実施例3
BBN-AuNP-DTDTPA-DOXコンジュゲートの合成及び特徴付け
AuNPの表面上のDTDTPAのカルボキシル基は、更なる官能化のために利用可能である。これらのカルボキシル基を、ドキソルビシンをコンジュゲートするために利用した。従来のEDC-sulfoNHS化学物質を使用して、DOXのアミン基をDTDTPAのカルボキシル基にコンジュゲートさせて、非標的化AuNP-DTDTPA-ドキソルビシン(NP1-DOX)及び標的化BBN-AuNP-DTDTPA-DOX(NP2-DOX)を得た。
【0069】
NP1及びNP2上のドキソルビシン負荷を蛍光分光法により推定した。ドキソルビシンは、485nmで励起され、590nmで放出されたときの600nmでの蛍光サインを示す(
図7)。DOXの連続希釈を行い、標準検量線を構築して蛍光強度を記録した(
図8)。上清の蛍光強度を記録し、標準検量線と相関させて、AuNPにコンジュゲートしたドキソルビシンの量を定量化した。蛍光測定により、0.53μg及び0.3μgのドキソルビシン/mgのAuNP-DTDTPA及びBBN-AuNP-DTDTPAをそれぞれコンジュゲートさせたことが見出された。更に、NP1-DOX及びNP2-DOXの連続希釈を行い、蛍光強度を記録した。蛍光強度の変動は比例し、一貫性があり、DOXのNP1及びNP2とのコンジュゲーションが確認された。蛍光測定はまた、ドキソルビシン蛍光がAuNP上でのコンジュゲートに影響を受けないままであることも示唆している(
図9及び10)。NP1-DOX、NP2-DOX及びそれらの対応する対照のUV可視スペクトルは、
図11に示されている。流体力学的直径の10~20nmの変化は、NP1とNP2の両方とDOXとのコンジュゲーションの際に観察された。ゼータ電位は、DOXとのコンジュゲーションの際に正にシフトした。NP1及びNP2についてそれぞれ-72及び-69mVの負のゼータ電位値は、粒子が互いに反発し、粒子が凝集する傾向がないことを示す、-23mVに変化した。NP1-DOX及びNP2-DOXコンジュゲートの物理化学的特性を表1にまとめる。
【0070】
実施例4
インビトロ安定性試験
NP1及びNP2コンジュゲートの安定性を、様々な生物学的に適切な溶液中で調査した。NP1及びNP2の溶液は、0.9%NaCl、0.5%システイン、0.2Mヒスチジン、0.5%ヒト血清アルブミン(HSA)、及び0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)でチャレンジした。異なる時点におけるナノコンジュゲートの安定性を3つの技術:(i)UV可視分光法を用いてプラズモン共鳴をモニターすること、(ii)流体力学的直径の変化、及び(iii)電気泳動電荷(ゼータ電位)測定によって分析した。表面プラズモン共鳴波長及びプラズモン帯域幅の変化、並びに流体力学的直径の測定の変化は、ナノ粒子の凝集挙動を理解する際に直接関連する。ゼータ電位測定は、水溶液中に存在する反発力の指標であり、ナノ微粒子分散体のインビトロ/インビボ安定性の長期的な予測に使用することができる。AU:BBNの1:2及び1:4の化学量論比で調製したナノコンジュゲートについて安定性試験を行った。Au:BBNの1:4比の使用は、24時間の期間にわたって凝集を示し、一方、コンジュゲートNP1及びNP2[1:2(Au:BBN)比]の両方は、これらの生物学的に適切な溶液中で安定であった。UV-可視吸収ピークは変化していないままであり、流体力学的直径及びゼータ電位の変化は最小限であり、コンジュゲートの構造的一体性及び堅牢性を確認する(
図12)。しかしながら、システインの存在下では、NP1とNP2の両方が、金チオール相互作用に起因してある期間(24時間)にわたって流体力学的サイズの増加を示し、増加は顕著ではなかったことが観察された。インビトロ安定性データは、NP1及びNP2が、インビボでの後続の受容体標的化の開示において使用するための最適な動的安定性を有することを示す。
【0071】
実施例5
NP2のインビトロ受容体結合親和性試験
ヒト前立腺腫瘍PC-3細胞は、細胞表面上に多数のGRP受容体を発現する。NP2の結合親和性を、競合阻害アッセイを実施し、IC
50値を決定することによって評価した。Au:BBN(1:0.5、1:2、1:4)の3つの異なる化学量論比で調製したナノ粒子を使用した。Au:BBN(1:0.5、1:2、1:4)の異なる化学量論比のIC
50値の比較をプロットした(
図13)。ナノコンジュゲートの分子量を正確に決定することができないため、コンジュゲートNP2の異なる比のIC
50値をマイクログラム単位で報告する。コンジュゲートのIC
50値又は細胞結合親和性は、AuNPの表面上のTA-BBNペプチドコーティングの程度に依存することがデータから明らかである。例えば、AU:BBN=1:4の比を有するコンジュゲートNP2は、AuNPの表面上により多くの数のTA-BBNペプチド分子を有し、他のコンジュゲートと比較してより低いIC
50値(又はより高い細胞結合親和性)を示した。しかしながら、このコンジュゲートは非常に安定ではなく、細胞研究には使用されなかった。競合阻害試験は、NP2の受容体標的化特性を確認する。
【0072】
実施例6
インビトロ細胞毒性アッセイ:
GRP発現及びGRP非発現ヒト癌細胞に対するドキソルビシンコンジュゲートAuNP、NP1-DOX及びNP2-DOXのインビトロ細胞毒性を、MTTアッセイによって適切な対照を用いて試験した。ヒト前立腺癌(PC3)細胞は、細胞表面上に多数のGRP受容体を有する。具体的には、文献は、44000のボンベシン受容体部位がヒト前立腺癌細胞の表面上に存在することを示す。ヒト乳房(MDA-MB231)癌細胞を、GRP非発現癌細胞として使用した。遊離ドキソルビシンは、PC3(
図14)において9.5μg/mlのIC
50を、MDA-MB231(
図16)癌細胞において>10μg/mlのIC
50を示した。GRP発現細胞とGRP非発現細胞の両方の細胞毒性に対する、NP1-DOX及びNP2-DOXの効果の、DOXとの比較図を
図15、17、及び20に示す。NP1-DOX及びNP2-DOXは、GRP非発現癌細胞において、それぞれ6μg/ml及び9μg/mlのIC
50を示したが、PC3細胞では、IC
50値は、それぞれ10μg/ml及び5μg/mlであることが見出された(表4)。NP1-DOX及びNP2-DOXについてここで表されるIC
50値は、ナノコンジュゲートの総重量に基づき、ナノコンジュゲート上に負荷されたDOXの量は、それぞれ0.53μg/mg及び0.3μg/mgであることに留意されたい。ドキソルビシンに関するナノコンジュゲートのIC
50値を表4並びに
図18及び19に列挙する。
【表4】
【0073】
上記で分かるように、ドキソルビシンコンジュゲートAuNPは、遊離ドキソルビシンよりもはるかに強力な細胞毒性を示した。例えば、NP2-DOXの細胞毒性は、GRP非発現癌細胞及びGRP発現癌細胞における遊離ドキソルビシンと比較して、それぞれ3000倍及び6000倍に増加した。
【0074】
実施例7
AuNP-DTDTPAの合成
ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)官能化AuNPを、Brust et.al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1995,1655-1656による修飾プロトコールによって調製した。簡潔に述べると、200mg(0.507ミリモル)のHAuCl4.3H2Oを、500ml丸底フラスコ中の120mlのメタノールに溶解した。別のフラスコ中で、482mg(0.943mmol)のDTDTPAを、40mlのMeOH及び2mlの氷酢酸に溶解した。この溶液を、金塩の水溶液に連続的に撹拌しながら添加し、橙色溶液を生成した。この混合物に、14mlのDI水中に溶解した190mg(5mmol)のNaBH4を、室温で激しく撹拌しながら添加した。NaBH4の添加直後に、溶液は暗褐色になり、続いて黒色凝集の外観が得られた。得られた混合物を室温で1時間撹拌した後、5mlの1M HCl水溶液を添加した。次いで、金ナノ粒子のこの黒色溶液を7000RPMで20分間遠心分離した。上清を除去し、粒子を0.01M HClで2回洗浄し、上記と同じ遠心分離パラメーターを維持した。粒子をDI水で十分に、連続的に更に洗浄し、続いてジエチルエーテルで洗浄した。得られたAuNP-DTDTPAの黒色粉末を真空下で乾燥させ、-20℃で保存した。必要に応じて、粒子は、0.01M NaOHに容易に分散し、1ヶ月にわたって安定であった。
【0075】
実施例8
チオクト酸-BBNペプチドの合成
Fmoc化学法を用いた固相ペプチド合成を用いて合成BBNを行い、最終ペプチドをHPLCにより精製した。合成の固体支持体として4-ヒドロキシメチルフェノキシアセチル-4’-メチルベンジルヒドリルアミン樹脂を使用した。1当量の0.45M HBTU/HOBt溶液及び2当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミンを使用して、Fmoc保護アミノ酸を活性化した。アミノ酸は、ピペリジンを用いて脱保護され、NMM.HBTUを使用してカップリングした。適切な配列中の全てのアミノ酸のカップリング後、チオクト酸(リポ酸)をDIC.HOBt.を使用してカップリングした。TFAを使用して、樹脂からペプチドを切断した。この切断工程により、アミノ酸側鎖保護基も除去される。このペプチドを、Aが水中0.1% TFAであり、Bがアセトニトリル中0.1% TFAである、0%BからのAB勾配を使用して逆相HPLC/C18カラムで精製した。精製後、ペプチド質量を、液体クロマトグラフィー-質量分析又はマトリックス支援レーザー脱着/イオン化によって測定し、HPLC逆相クロマトグラフィーを用いて純度を測定した。
【0076】
実施例9
DTDTPAで安定化されたボンベシン受容体特異的金ナノコンジュゲート(BBN-AUNP-DTDTPA)の合成
チオクト酸末端ボンベシンを、1:0.25、1:0.5、1:1、1:2、及び1:4のAu:BBNの化学量論比で金ナノ粒子と反応させた。典型的には、20mlのガラスバイアル内で、0.01M NaOHの水/メタノール混合物(1:9)を使用して、AuNP-DTDTPA([Au]=2.28μmol)の溶液を調製した。チオクト酸末端ボンベシン(TA-BBN)0.64mg(0.57μmol)、1.28mg(1.14μmol)、2.56mg(2.27μmol)、5.12mg(4.54μmol)、及び10.24mg(9.08μmol)を4mLのMeOHに溶解し、次いでナノ粒子溶液に添加した。反応混合物を室温で2時間撹拌し、暗褐色の沈殿物の形成を観察した。混合物を遠心分離し(20℃で9300g、10分間)、上清を除去した。沈殿したAuNPをMeOHで2回洗浄し、水で3回洗浄した。BBN-AuNP-DTDTPAを低圧で乾燥させ、-20℃で保存した。
【0077】
実施例10
AuNP-DTDTPA-ドキソルビシン及びBBN-AuNP-DTDTPA-ドキソルビシンの合成
ボンベシンペプチドを有する及び有しないドキソルビシンコンジュゲート金ナノ粒子の合成を三重で実施した。金ナノ粒子は、超音波処理により0.5mgを1×PBS中に懸濁させた。100μlのこの溶液に、0.1M 2-(モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH4.6)中の2mgの1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)及び2mgのスルホ-NHS(N-ヒドロキシスルホスクシンイミド)を添加した。MES緩衝液を使用して、反応混合物のpHを5.3~5.4に維持した。反応物を、37℃において700RPMで3時間撹拌した。3時間後、反応混合物を25℃において20000gで20分間遠心分離した。臨床的なドキソルビシン0.7mgを、ナノ粒子とのコンジュゲートに使用した。ドキソルビシン溶液に、活性化カルボキシル基を有するナノ粒子を添加し、反応混合物をボルテックスした。カップリングは、25℃において750rpmで一晩実施した。反応混合物を25℃において20000gで20分間遠心分離し、続いてペレットを1×PBSで2回洗浄し、1×PBS溶液中に再懸濁した。ペレットと上清の両方を使用して、蛍光分光分析によってコンジュゲーション効率を試験した。
【0078】
全ての引用された特許、特許開示、及び他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、本開示における用語が、組み込まれた参考文献における用語と矛盾するか又は相反する場合、本開示の用語は、組み込まれた参考文献からの相反する用語に優先する。
【0079】
特定の実施形態について説明してきたが、本出願人ら又は当業者は、現在予見しないか、予見し得ない代替物、修正、変形、改善、及びほぼ均等物に想到し得る。したがって、出願されたままの、及び補正され得る、添付の特許請求の範囲は、そのような全ての代替物、修正、変形、改善、及びほぼ均等物を包含することが意図される。
【0080】
(付記)
(付記1)
金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、チオクト酸末端ペプチドと、ドキソルビシンと、を含み、
前記DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して前記金ナノ粒子表面に直接連結され、
前記チオクト酸末端ペプチドが少なくとも1つのAu-S結合を介して前記金ナノ粒子表面に直接連結され、
前記ドキソルビシンが前記DTDTPAに連結されている、
ナノコンジュゲート。
【0081】
(付記2)
前記チオクト酸末端ペプチドが、チオクト酸末端ボンベシンである、付記1に記載のナノコンジュゲート。
【0082】
(付記3)
前記チオクト酸末端ボンベシンが、配列:リポ酸-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2を有する、付記2に記載のナノコンジュゲート。
【0083】
(付記4)
前記ドキソルビシンが、アミド結合を介して前記DTDTPAに連結されている、付記1~3のいずれか一つに記載のナノコンジュゲート。
【0084】
(付記5)
AuNP-DTDTPAナノ粒子を前記チオクト酸末端ペプチドとコンジュゲートさせることを含むプロセスによって調製され、前記金ナノ粒子中の金及び前記チオクト酸末端ペプチドが、約1:0.5~約1:4の化学量論比でコンジュゲーション反応中に存在する、付記1~4のいずれか一つに記載のナノコンジュゲート。
【0085】
(付記6)
前記金ナノ粒子中の金及び前記チオクト酸末端ペプチドが、約1:2の化学量論比で前記コンジュゲーション反応中に存在する、付記5に記載のナノコンジュゲート。
【0086】
(付記7)
前記チオクト酸末端ペプチドが、前記ナノコンジュゲートの約1重量%~約40重量%を構成する、付記1~6のいずれか一つに記載のナノコンジュゲート。
【0087】
(付記8)
前記チオクト酸末端ペプチドが、前記ナノコンジュゲートの約20重量%~約30重量%を構成する、付記7に記載のナノコンジュゲート。
【0088】
(付記9)
前記ドキソルビシンが、前記ナノコンジュゲートの約0.01重量%~約0.05重量%を構成する、付記1~8のいずれか一つに記載のナノコンジュゲート。
【0089】
(付記10)
前記ドキソルビシンが、前記ナノコンジュゲートの約0.03重量%を構成する、付記9に記載のナノコンジュゲート。
【0090】
(付記11)
前記ナノコンジュゲートが、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約110nm~約140nmの流体力学的直径を有する、付記1~10のいずれか一つに記載のナノコンジュゲート。
【0091】
(付記12)
前記ナノコンジュゲートが、動的光散乱(DLS)によって測定されるとき、約120nm~約130nmの流体力学的直径を有する、付記11に記載のナノコンジュゲート。
【0092】
(付記13)
前記ナノコンジュゲートが、約-15mV~約-30mVのゼータ電位値を有する、付記1~12のいずれか一つに記載のナノコンジュゲート。
【0093】
(付記14)
前記ナノコンジュゲートが、約-20mV~約-25mVのゼータ電位値を有する、付記13に記載のナノコンジュゲート。
【0094】
(付記15)
付記1~14のいずれか一つに記載のナノコンジュゲートと、医薬的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【0095】
(付記16)
治療有効量の付記1~14のいずれか一つに記載のナノコンジュゲートを、癌の治療を必要とする対象に投与することを含む、癌を治療するための方法。
【0096】
(付記17)
前記癌が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄芽球性白血病(AML)、骨肉腫、乳癌、子宮内膜癌、胃癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、肝臓癌、腎臓癌、多発性骨髄腫、神経芽腫、卵巣癌、肺癌、軟部肉腫、胸腺腫、甲状腺癌、膀胱癌、子宮肉腫、前立腺癌、結腸癌、卵巣癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、ウィルムス腫瘍、及びワルデンシュトレームマクログロブリン血症からなる群から選択される、付記16に記載の方法。
【0097】
(付記18)
前記ナノコンジュゲートが、注射によって前記対象に投与される、付記16又は17に記載の方法。
【0098】
(付記19)
金ナノ粒子(AuNP)と、ジチオール化ジエチレントリアミン五酢酸(DTDTPA)と、ドキソルビシンとを含み、前記DTDTPAが少なくとも1つのAu-S結合を介して前記金ナノ粒子表面に直接連結され、前記ドキソルビシンが前記DTDTPAに連結されている、ナノコンジュゲート。
【0099】
(付記20)
付記19に記載のナノコンジュゲートと、医薬的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【0100】
(付記21)
治療有効量の付記19に記載のナノコンジュゲートを、癌の治療を必要とする対象に投与することを含む、癌を治療するための方法。
【配列表】