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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】薬液の希釈添加方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 23/04 20060101AFI20220201BHJP
   C02F 1/00 20060101ALI20220201BHJP
   D21F 1/66 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
D21H23/04
C02F1/00 K
D21F1/66
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018076293
(22)【出願日】2018-04-11
(65)【公開番号】P2019183326
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093816
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】倉内 昭吾
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-506857(JP,A)
【文献】特開平09-313909(JP,A)
【文献】特表2002-505179(JP,A)
【文献】特開2010-255166(JP,A)
【文献】特開平05-220466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製造工程における薬液の希釈添加方法であって、
前記紙製造工程における循環水系および前記循環水系に流入する水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所に水中撹拌装置が設置され、
前記水中撹拌装置が、少なくとも壁面に吸込孔を有する中空円筒管と、
前記中空円筒管の一端に設けられ、前記中空円筒管内に向けて水または水性液体のジェット水流を噴射し、負圧を発生させるジェットノズルと、
前記中空円筒管に接続、または前記吸込孔の近辺に設置して前記ジェット水流に薬液供給管からの薬液を前記負圧を利用して供給する薬液供給部と、
前記中空円筒管の他端に設けられ、前記薬液と前記ジェット水流の水または水性液体が混合希釈された希釈薬液を前記水貯留部の水中に吐出させる希釈薬液吐出部とからなり、
前記水中撹拌装置により得られた前記希釈薬液を前記水貯留部に添加することを特徴とする薬液の希釈添加方法。
【請求項2】
前記循環水系、または前記循環水系に流入する水系の少なくとも何れかの水または水性液体を前記ジェットノズルに供給し、
前記薬液供給部から供給される予定された量の薬液を希釈して前記希釈薬液吐出部から前記水貯留部に吐出させた後、前記薬液供給管からの薬液供給を停止し、
前記水貯留部内の前記希釈薬液を含んだ水または水性液体の前記ジェットノズルへの供給、前記中空円筒管内への噴射、及び前記希釈薬液吐出部から前記水貯留部への吐出の順で行われる薬液分散サイクルを、
予定された時間中繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の薬液の希釈添加方法。
【請求項3】
前記薬液が、スライムコントロール剤、スケール防止剤、防錆剤、または消泡剤の少なくとも1種を含む液体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬液の希釈添加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製造工程における薬液の希釈添加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙製造における循環水系、および循環水系に流入する水系等の工程水系の多くにはセルロース繊維以外に、澱粉、サイズ剤、ラテックス、分散剤、染料、カゼイン等の有機物を多く含み、水温も安定で常温に近いため、細菌類、真菌類等の微生物が繁殖しやすい環境となっている。そのため、このような微生物に由来するスライムが循環水系等の水中、或いは配管や設備表面に発生しやすい。
このスライムは、製品中に混入することで製品品質や生産効率を低下させたり異臭の原因となったりする。したがって、循環水系や循環水系に流入する工程水系には、スライム防止剤が使用される。
また、循環水系の白水等には原料パルプ由来のカルシウムイオンやバリウムイオンが溶出しており、特に回収古紙パルプからは無機填料由来のカルシウムイオンの溶出量が多い。
抄紙工程で用いられる硫酸バンドやpH調整の硫酸等に由来する硫酸イオン、漂白に使われる過酸化水素の安定化剤として含まれるケイ酸ナトリウムや原料パルプ等から溶出するシリカイオン等と、溶出した前記カルシウムイオン、バリウムイオンとが結合して、水に極めて難溶性の硫酸カルシウム、硫酸バリウム、及びケイ酸カルシウム等が、スケールとして生成される。
スケールは、原料のマシンチェスト、タンク、種箱、インレット、配管、ポンプ、スクリーン等の紙製造工程機器に付着して性能低下の原因になる。さらに、機器類の壁面に付着したスケールが脱落して製品に移り、紙切れや紙製品に斑点を生じさせて品質を損なう等により紙の生産性に大きな損失をもたらす。したがって、紙製造工程水系にスケール防止剤が使用される。
紙製造工程水には、上記理由によりスライム防止剤やスケール防止剤、その他、消泡剤、製造工程における製紙原料や添加薬剤に起因する無機化合物や有機化合物の汚れを防止する汚れ防止剤、また配管や設備の金属錆を防止する防錆剤等の各種薬剤が使用されている。
【0003】
従来、一般的な添加薬剤の混合装置としては、主として薬剤を添加する貯留槽水中で羽根を回転させる水中撹拌装置が使用されている。その他の混合装置としては、螺旋状のエレメントを交互に並べた管の中に流体を通すスタテッィクミキサー等の管路型撹拌装置が使用される(特許文献1、2、3)。
【0004】
近年の紙製造の高速化により、特に抄紙工程では大量の循環水系や循環水系に流入する水系へ薬液を添加して、短時間で効率よく均一に薬剤を希釈させることが要求されている。
しかしながら、上記の従来から使用されている薬液混合装置では短時間の均一混合が不十分であり、目的とする薬剤効果を得るためには過剰の薬剤添加が必要となっていた。そのため残留薬剤による紙製品特性の低下や薬剤コストが嵩むという問題があった。
【0005】
紙製造以外の分野で使用される混合技術としては、ジェット噴射を利用した粉体と液体の混合方法が特許文献4に開示され、ジェットポンプを利用した薬液混入装置については特許文献5に開示されている。
しかしながら、それらいずれの先行技術も、工程水系に供給する前工程での均一な薬液の作製に用いられており、紙製造における工程水系への薬液の希釈添加に利用することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-148172号公報
【文献】特開平9-241987号公報
【文献】特開2006-255552号公報
【文献】特開平9-313909号公報
【文献】特開平3-229691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、紙製造工程水系における上記従来技術の問題点を解決する薬液の希釈添加方法であって、特に抄紙工程水系に薬液を添加する際に水系内での迅速で均一な混合を可能とし、良好な紙製品特性と薬液添加量の削減が可能な薬液の希釈添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)
第一の発明は、紙製造工程における薬液の希釈添加方法であって、
前記紙製造工程における循環水系および前記循環水系に流入する水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所に水中撹拌装置が設置され、
前記水中撹拌装置が、少なくとも壁面に吸込孔を有する中空円筒管と、
前記中空円筒管の一端に設けられ、前記中空円筒管内に向けて水または水性液体のジェット水流を噴射し、負圧を発生させるジェットノズルと、
前記中空円筒管に接続、または前記吸込孔の近辺に設置して前記ジェット水流に薬液供給管からの薬液を前記負圧を利用して供給する薬液供給部と、
前記中空円筒管の他端に設けられ、前記薬液と前記ジェット水流の水または水性液体が混合希釈された希釈薬液を前記水貯留部の水中に吐出させる希釈薬液吐出部とからなり、
前記水中撹拌装置により得られた前記希釈薬液を前記水貯留部に添加することを特徴とする薬液の希釈添加方法である。
【0009】
(2)
第二の発明は、(1)において、
前記循環水系、または前記循環水系に流入する水系の少なくとも何れかの水または水性液体を前記ジェットノズルに供給し、
前記薬液供給部から供給される予定された量の薬液を希釈して前記希釈薬液吐出部から前記水貯留部に吐出させた後、前記薬液供給管からの薬液供給を停止し、
前記水貯留部内の前記希釈薬液を含んだ水または水性液体の前記ジェットノズルへの供給、前記中空円筒管内への噴射、及び前記希釈薬液吐出部から前記水貯留部への吐出の順で行われる薬液分散サイクルを、
予定された時間中繰り返すことを特徴とする、薬液の希釈添加方法である。
【0010】
(3)
第三の発明は、(1)または(2)において、
前記薬液が、スライムコントロール剤、スケール防止剤、防錆剤、または消泡剤の少なくとも1種を含む液体であることを特徴とする、薬液の希釈添加方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薬液の希釈添加方法により、紙製造工程における循環水系および循環水系に流入する水系の少なくとも何れかに薬液を添加するに際して、迅速で均一な薬液と水系の混合が可能となることにより、薬液の偏在化が防止され、均質かつ良好な紙質が得られ、薬液の無駄な過剰添加が抑えられ、使用薬液削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の薬液の希釈添加方法が実施される抄紙工程の一例のモデル図である。
図2】本発明の薬液の希釈添加方法で用いる水中撹拌装置の一例のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について以下に図1を用いて説明する。図1は抄紙工程に本発明の薬液の希釈添加方法を用いた一例である。
【0014】
本発明の薬液の希釈添加方法は、製紙工場における紙製造工程、特に抄紙工程に適用されるものである。
【0015】
本発明において、「抄紙工程」とは、例えば、図1の抄紙工程Aとして示すように、原料調整系A1、白水循環系A2、白水回収系A3を包含する工程を意味し、抄紙機において多量に排出される水溶液(主として白水)の回収、再利用系までを含めた水循環工程全体であって、これら工程に流入する水系も含まれる。
ここで「白水」とは、通常抄紙時に使用する原料パルプに由来する微細繊維や、その他の製紙用薬剤等を含んだ工程水である。
【0016】
以下、紙製造工程、水の循環を概説する。まず、抄紙工程Aの原料調整槽1とマシンチェスト2とを備えた原料調整系A1で製紙の原料を調整する。
すなわち、原料調整槽1に、パルプを含む原料と水が供給され(図示なし)、さらに回収水タンク12からポンプ13より送水される水が加えられて、パルプスラリーが調整される。
調整されたパルプスラリーは、マシンチェスト2に供給され、さらに粘度調整剤や紙力増強剤等の各種製紙用薬剤等が添加される。その後、パルプスラリーは、ポンプ3により白水循環系A2に供給され、白水サイロ5からの白水と混合されて、紙料としてインレット6に供給される。
インレット6からワイヤパート7のワイヤ7aへ供給された紙料は、脱水されてシート形状となり、プレスパート8以降の製紙工程に送られて紙製品となる。
一方、ワイヤパート7に残った水は、白水として白水サイロ5に貯留され、さらにポンプ4でインレット6へ再び供給され、白水循環系A2が形成される。
【0017】
白水サイロ5に貯留された白水の一部は、白水サイロ5から白水回収系A3のシールピット9に供給される。シールピット9に供給された白水は、ポンプ10により固液分離装置11に送られて固液分離処理される。
固液分離処理された成分のうちの水は、回収水タンク12に貯留された後、その一部はポンプ13により原料調整系A1の原料調整槽1に供給されてパルプスラリーの濃度調整に利用される。
また、その水の別の一部は図示しない配管を通ってワイヤパート7のワイヤ7aやプレスパート8のフェルトを清浄に保つためのシャワー水に利用等される。固液分離処理で生じた水は、このように抄紙工程Aにおける各種用水として再利用される。
白水回収系A3は、原料調整系A1、および、白水循環系A2とともに、抄紙工程Aの循環水系を構成し、水はこの循環水系内を循環している。
なお、回収水タンク12内の他の一部の水は、濃度調整のために系外に排出され、図示しない排水処理設備等に送られる。
【0018】
図1の抄紙工程Aにおいて、本発明の水中撹拌装置Sを設置する水貯留部としては、マシンチェスト2、白水サイロ5、シールピット9、回収水タンク12、および、クッションタンク14が挙げられる。
ただし、本発明における水貯留部はこれらに限定されず、抄紙工程における循環水系および当該循環水系に流入する水系に存在して水を滞留する水貯留部は全て本発明に含まれる。
【0019】
本発明において、抄紙工程の循環水系に流入する水としては、例えば、上水、工業用水や排水処理設備の処理水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の薬液の希釈添加方法では、白水循環系A2、あるいは、白水回収系A3、あるいは、原料調整系A1(以下、これらを併せて「循環水系」と云う。)、さらには、これら水系に流入する水系(例えば、クッションタンク14、用水ライン15)に存在する水貯留部に備えられた水中撹拌装置Sによって、希釈薬液をそれらの水貯留部の水系に添加する。
水貯留部は、特に限定されないが、これら水系内に存在する水槽等、一時的に水の滞留する箇所が対象となる。
【0021】
本発明の水中撹拌装置Sで用いられる中空円筒管20は、図2に例示するように、ジェットノズル21を設置する側の端部近傍は拡径されており、水または水系流体のジェット噴射によって負圧20aが生じ、ジェットノズル21近傍にある薬液供給管22の薬液供給部22aから薬液22bが負圧20aにより中空円筒管20内に滑らかに流入するとともに水または水系流体のジェット水流21aによって薬液22bが混合希釈されて希釈薬液22cが製造される。
図2に例示するように、中空円筒管20にはジェットノズル近傍に吸込孔24が開口されており、ジェット噴射による負圧20aで水貯留部の水が吸い込まれ、薬液とともに中空円筒管20に供給される。吸込孔24は中空円筒管20に2か所以上設けられていてもよい。
本発明の薬液供給部22aは、図2に例示されるように中空円筒管20に直接接続されていてもよいが、吸込孔24近傍の中空円筒管20外に設けてジェット噴射による負圧20aを利用して薬液が吸込孔24から中空円筒管20内に供給される場合も本発明に含まれる。
得られた希釈薬液22cが中空円筒管20の他端に設けられた希釈薬液吐出部23から水貯留部の水系に吐出される。それにより、循環水系および当該循環水系に流入する水系の少なくとも何れかの水系に薬液22bが添加される。
好ましくは予め決められた量の薬液が水貯留部の水系へ吐出添加された後、中空円筒管20への薬液供給を停止し、水貯留部内の希釈薬液含有の水または水性液体を水中撹拌装置Sのジェットノズル21へ供給して中空円筒管20内へ噴射し、水貯留部内の水系へ吐出するという撹拌分散サイクルを予定された一定時間中繰り返す。これにより水貯留部内の水系における薬液の均一分散が図られる。この場合、中空円筒管20がジェットノズル21の近傍の壁面に少なくとも1つの吸込孔24を備えている。これにより水貯留部内の希釈薬液含有の水または水性液体の中空円筒管20への供給が加速されるので薬液の均一分散には好ましい。
【0022】
本発明で用いられるジェットノズル21は、中空円筒管20の端部を貫通した状態で、端部壁に固定され、中空円筒管20の長手軸方向に開口して、圧送ポンプ等からホースや配管等により送られてくる圧力水をジェット水流21aとして中空円筒管20内の他方端部の希釈薬液吐出部23方向である長手方向にジェット噴射することができるようになっている。ジェット水流21aの噴射量は、圧送ポンプによる圧力水量調節や、噴射ノズルの開閉量等で制御、調整することができる。
【0023】
本発明の水中撹拌装置は既存の抄紙システム等の水貯留部に大規模な改修なしに設置できると云うメリットがある。水中撹拌装置としては、横向き噴射式あるいは下向き噴射式のものを用いることが好ましい。
上向き噴射式の水中撹拌装置を用いると水流が気液界面を波立たせることにより空気を気泡として水中に巻き込むリスクが高くなって気泡による紙特性への悪影響が出る場合には好ましくない。
【0024】
本発明では、原料調整系、白水循環系、および、白水回収系により構成される循環水系、および当該循環水系に流入する水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所に水中撹拌装置を設置し、薬液の希釈添加を行う。
薬液としては、以下に挙げるスライム防止剤、スケール防止剤、汚れ防止剤、防錆剤等が挙げられるが、特に限定されず、紙製造関連で公知の薬液が使用される。
【0025】
スライム防止剤の例としては、次亜塩素酸ナトリウム、アンモニウム塩と次亜塩素酸塩から得られる結合塩素型化合物、メチレンビスチオシアネート、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。
【0026】
スケール防止剤の例としては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸などを重合したカルボキシル基を有するポリマー、カルボキシル基を有するモノマーとビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマーやアクリルアミドなどのノニオン性ビニルモノマーとのコポリマー、ヘキサメタリン酸ソーダやトリポリリン酸ソーダなどの無機ポリリン酸類、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸やホスホノブタントリカルボン酸などのホスホン酸類等が挙げられる。
【0027】
汚れ防止剤の例としては、無機汚れを防止するクエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸、または塩酸、硫酸、スルファミン酸等の無機酸、及びそれらの混合液等、有機汚れを防止するポリオキシアルキレンエーテル系溶剤、アルキルポリオキシエチレンリン酸エステル系界面活性剤等やそれらの混合液等が挙げられる。
【0028】
防錆剤の例としては、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、クロム酸塩、ホスホン酸塩、重合リン酸塩、正リン酸塩、亜鉛塩、トリアゾール系化合物、アミン類等や、各種界面活性剤やポリマーが挙げられる。
【0029】
消泡剤の例としては、自己乳化タイプとエマルションタイプが主として使用され、自己乳化タイプの例としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノステアリルエーテル等の界面活性剤が挙げられ、エマルションタイプの例としては、ポリオキシアルキレンポリアルキルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、高級アルコール、脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0030】
以上、本発明について好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の薬液希釈添加方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、従来公知の知見に従い、本発明の薬液の希釈添加方法を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の薬液の希釈添加方法の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例
【0031】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
製紙工場における抄紙機の、白水サイロ(容量50m)、および回収水タンク(容量50m)に、図2に記載のようなジェットノズルを有する水中撹拌装置を設置し、ジェットノズル近傍の薬液供給部から、スライム防止用薬液として12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加する実機試験を実施した。
循環水系における目標添加濃度が有効全塩素濃度として10mg/Lとなるように水中撹拌装置(ジェットノズル直径4cm、ジェットノズル吐出量60L/分、水中撹拌装置からの吐出量180L/分)を用いてスライム防止用薬液を白水サイロと回収水タンクに半量ずつ添加した。
その後、白水サイロと回収水タンクの薬液添加水を上記の水中撹拌装置により10分間(ジェットノズル吐出量60L/分、水中撹拌装置からの吐出量180L/分)循環させ、希釈薬液含有の白水サイロ水と回収水タンク水を循環水系に供給した。
希釈薬液を供給して4時間後に白水サイロ、および回収水タンクから採取した試験液を用いて、液中の細菌数を次のようにして測定した。30秒間静置した後の試験液の上清を採取、その一般細菌数をJIS K0101(1998) 63.2に従って測定した。
その結果を表1に示す。希釈薬液の供給前の白水サイロ、および回収水タンクの薬液未添加水の細菌数の測定値は、それぞれ液中で1.8×10個/mL、2.0×10個/mLであった。
【0033】
<実施例2>
実施例1と同じ製紙工場における抄紙機の、実施例1と同じ回収水タンクに、図2のようなジェットノズルを有する水中撹拌装置を設置し、ジェットノズル近傍の薬液供給部から、スケール防止薬液として10質量%のポリアクリル酸ソーダ(質量平均分子量8000)含有水を添加する実機試験を実施した。
循環水系における目標添加濃度が有効成分として10mg/Lとなるように水中撹拌装置(ジェットノズル直径4cm、ジェットノズル吐出量60L/分、水中撹拌装置からの吐出量180L/分)により回収水タンクに添加した。
その後、上記の水中撹拌装置を10分間(ジェットノズル吐出量60L/分、水中撹拌装置からの吐出量180L/分)循環させ、希釈薬液含有の回収水タンク水を循環水系に供給した。
希釈薬液含有の回収水タンク水を循環水系へ供給して4時間後に循環水系のスケール評価試験を行った。
その結果を表2に示す。評価は、インレットの目視判定により、◎:スケールがない、○:微細なスケールが見られる、△:スケールが見られる、×:スケールが明確に見られる、の4段階で行った。
【0034】
<実施例3>
実施例1と同じ製紙工場における抄紙機の、実施例1と同じ白水サイロ、および回収水タンクに、図2に記載のようなジェットノズルを有する水中撹拌装置を設置し、ジェットノズル近傍の薬液供給部から、スライム防止用薬液として12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加する実機試験を実施した。
循環水系における目標添加濃度が有効全塩素濃度として10mg/Lとなるように水中撹拌装置(ジェットノズル直径4cm、ジェットノズル吐出量60L/分、水中撹拌装置からの吐出量180L/分)を用いてスライム防止用薬液を白水サイロと回収水タンクに半量ずつ添加した。
その後、希釈薬液含有の白水サイロ水と回収水タンク水を循環水系に供給した。
希釈薬液を供給して4時間後に白水サイロ、および回収水タンクから採取した試験液を用いて、液中の細菌数を次のようにして測定した。30秒間静置した後の試験液の上清を採取、その一般細菌数をJIS K0101(1998) 63.2に従って測定した。
その結果を表1に示す。希釈薬液の供給前の白水サイロ、および回収水タンクの薬液未添加水の細菌数の測定値は、それぞれ液中で1.9×10個/mL、2.0×10個/mLであった。
【0035】
<実施例4>
実施例1と同じ製紙工場における抄紙機の、実施例1と同じ回収水タンクに、図2のようなジェットノズルを有する水中撹拌装置を設置し、ジェットノズル近傍の薬液供給管の薬液供給部からスケール防止薬液として10質量%のポリアクリル酸ソーダ(質量平均分子量8000)含有水を添加する実機試験を実施した。
循環水系における目標添加濃度が有効成分として10mg/Lとなるように水中撹拌装置(ジェットノズル直径4cm、ジェットノズル吐出量60L/分、水中撹拌装置からの吐出量180L/分)により回収水タンクに添加した。
その後、希釈薬液含有の回収水タンク水を循環水系に供給した。希釈薬液含有の回収水タンク水を循環水系へ供給して4時間後に循環水系のインレットの目視判定によるスケール評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0036】
<比較例1>
実施例1と同じ製紙工場における抄紙機の、実施例1と同じ白水サイロ、および回収水タンクの底部に、プロペラ羽根型撹拌装置を設置、稼動(羽根径/サイロ径=0.2、回転速度100rpm)させながら、スライム防止用薬液として12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を循環水系における目標添加濃度が有効全塩素濃度として10mg/Lとなるように添加した。その後、羽根型撹拌装置を稼働させながら循環水系へ供給した。
白水サイロ、および回収水タンクの希釈薬液含有水を循環水系へ供給して4時間後に白水サイロ、および回収水タンクから採取した試験液を用いて、液中の細菌数を次のようにして測定した。30秒間静置した後の試験液の上清を採取、その一般細菌数をJIS K0101(1998) 63.2に従って測定した。
その結果を表1に示す。希釈薬液の供給前の白水サイロ、および回収水タンクの薬液未添加水の細菌数の測定値は、それぞれ液中で1.7×10個/mL、2.1×10個/mLであった。
【0037】
<比較例2>
実施例1と同じ製紙工場における抄紙機の、実施例と同じ回収水タンクの底部にプロペラ羽根型撹拌装置を設置、稼動(羽根径/タンク径=0.2、回転速度100rpm)させながら、スケール防止薬液として10質量%のポリアクリル酸ソーダ(質量平均分子量8000)含有水を循環水系における目標添加濃度が有効成分として10mg/Lとなるように添加した。その後、羽根型撹拌装置を稼働させながら循環水系へ供給した。
希釈薬液含有の回収水タンク水を循環水系へ供給して4時間後に循環水系のインレットの目視判定によるスケール評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1のデータにおける実施例1、実施例3と比較例1のスライム防止剤試験の比較、および表2のデータにおける実施例2、実施例4と比較例2のスケール防止剤試験の比較より、本発明の実施例1から実施例4が比較例1、比較例2よりも薬剤効果の点で優れていること、特に実施例1、実施例2が格段に優れていることが判る。
【符号の説明】
【0041】
A 抄紙工程
A1 原料調整系
A2 白水循環系
A3 白水回収系
S 水中撹拌装置
1 原料調整槽
2 マシンチェスト
3 ポンプ
4 ポンプ
5 白水サイロ
6 インレット
7 ワイヤパート
7a ワイヤ
8 プレスパート
9 シールピット
10 ポンプ
11 固液分離装置
12 回収水タンク
13 ポンプ
14 クッションタンク
15 用水ライン
16 ポンプ
20 中空円筒管
20a 負圧
21 ジェットノズル
21a ジェット水流
22 薬液供給管
22a 薬液供給部
22b 薬液
22c 希釈薬液
23 希釈薬液吐出部
24 吸込孔
25 水貯留部の水流
図1
図2