IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフトの特許一覧

特許7017316熱間加工銅合金およびその使用法と熱間加工銅合金の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】熱間加工銅合金およびその使用法と熱間加工銅合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/01 20060101AFI20220201BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20220201BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20220201BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
C22C9/01
C22C9/06
C22F1/08 B
C22F1/08 H
C22F1/08 P
C22F1/00 602
C22F1/00 631A
C22F1/00 631B
C22F1/00 630F
C22F1/00 641Z
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630C
C22F1/00 630D
C22F1/00 630J
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 640B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017083390
(22)【出願日】2017-04-20
(65)【公開番号】P2017218673
(43)【公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-03-03
(31)【優先権主張番号】10 2016 006 824.8
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592179160
【氏名又は名称】ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】WIELAND-WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100081570
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰芳
(72)【発明者】
【氏名】ルゴール アルテンバーガー
(72)【発明者】
【氏名】クアン ハンス アチーム
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-194141(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104685150(CN,A)
【文献】特開昭63-223137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0079378(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0229367(US,A1)
【文献】C.H.Chen,T.F.Liu,Phase transformations in a Cu-14.2Al-12.0Ni alloy,SCRIPTA MATERIALIA,Vol.47,2002年,p.515-520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/01
C22C 9/06
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で以下の組成:
Al 10.6から18%、
Ni 10.5から14.5%、
任意でさらにFe 2%まで、
任意でさらにCo 1%まで、
任意でさらにTi 0.5%まで、
任意でさらにMn 0.5%まで、
任意でさらにB 0.15%まで、
任意でさらにCa 0.1%まで、
任意でさらにC 0.1%まで、
残部銅ならびに不可避な不純物、
有し、Al量とNi量との合計が少なくとも22.1重量%である熱間加工銅合金において、前記銅合金は少なくとも800MPaの引張強さを有し、少なくとも13%IACSの導電率を有し、かつ、前記銅合金の組織内にNiAl型ニッケルアルミナイドが析出物として堆積していることを特徴とする、熱間加工銅合金。
【請求項2】
アルミニウムの量が、少なくとも12重量%かつ多くとも16重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の熱間加工銅合金。
【請求項3】
ニッケルの量が、少なくとも11重量%かつ多くとも13重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱間加工銅合金。
【請求項4】
重量%のニッケル量に対する重量%のアルミニウム量の比が、少なくとも0.95かつ多くとも1.28であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金。
【請求項5】
摺動部材のための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金の使用法。
【請求項6】
コネクタのための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金の使用法。
【請求項7】
シール部材のための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金の使用法。
【請求項8】
工具のための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金の使用法。
【請求項9】
ばね部材のための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金の使用法。
【請求項10】
フィルタ部材のための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金の使用法。
【請求項11】
重量%で以下の組成:
Al 10.6から18%、
Ni 10.5から14.5%、
任意でさらにFe 2%まで、
任意でさらにCo 1%まで、
任意でさらにTi 0.5%まで、
任意でさらにMn 0.5%まで、
任意でさらにB 0.15%まで、
任意でさらにCa 0.1%まで、
任意でさらにC 0.1%まで、
残部銅ならびに不可避な不純物を有し、Al量とNi量との合計が少なくとも22.1重量%である合金を溶解して鋳込む工程と、
鋳込み材を610から690℃の温度範囲で少なくとも20%の加工率で熱間加工する工程と、からなる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱間加工銅合金を製造する方法。
【請求項12】
熱間加工の後に300から600℃の温度範囲で熱処理を行なうことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムおよびニッケルを含有する銅合金、ならびに摺動部材、コネクタ、シール部材、工具、ばね部材またはフィルタ部材のためのその使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の元素を添加することにより、銅合金の特性を適切に調整することができる。その際、合金の強度が高くなると、通常、導電率は明らかに減少する。したがって、許容できる導電率と同時に高い強度に優れた銅合金に関心が向けられている。
【0003】
特許文献1から、アルミニウム10から12重量%およびニッケル2から10重量%、任意でさらに鉄1から6重量%を有する銅合金、ならびにそのような合金の熱処理方法が公知である。熱処理は、427から566℃の温度範囲で行なわれる。ニッケル4から5重量%および鉄4から5重量%を含む試料では、最大940MPaの引張強さが測定された。これらの合金の導電率に関しては、特許文献1から何の情報も得られない。
【0004】
さらに、特許文献2から、アルミニウム0.1から11重量%、ニッケル0.1から10重量%、鉄0.01から6重量%、ホウ素0.001から1.0重量%およびマンガン0.01から10重量%を有する耐食性銅合金が公知である。有利には、アルミニウム量が6から7重量%、ニッケル量が5から7重量%、鉄量が3から4重量%、およびマンガン量が5から10重量%である。この合金に、任意でさらにコバルト0.01から5重量%を添加してもよい。Ni6.5重量%、Al6重量%、Co3重量%、Fe3重量%およびMn0.2重量%を有する合金については、15から20%IACSの導電率が報告されている。コバルト不含の合金について、導電率に関する説明は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】西独国特許出願公開第1558773号明細書
【文献】米国特許第3901692号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電率が少なくとも13%IACSの際に、鋳込み状態で少なくとも700MPaの引張強さ、かつ冷間加工を行なわない熱間加工状態で少なくとも800MPaの引張強さを有する、BeおよびSnを含まない銅合金を提供するという課題に基づく。さらに、前記合金は、十分な延性を有し、500℃までは耐焼き戻し性があり、かつ通常の方法で切削可能である。その上、本発明は、これらの銅合金が適している使用法を提供するという課題に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、銅合金に関しては請求項1に記載の特徴により、および使用法に関しては請求項5~10に記載の特徴により示されている。その他の従属請求項は、発明の好適な形態および発展形態に関する。
【0008】
本発明は、重量%で以下の組成:
Al 10.6から18%、
Ni 10.5から14.5%、
任意でさらにFe 2%まで、
任意でさらにCo 1%まで、
任意でさらにTi 0.5%まで、
任意でさらにMn 0.5%まで、
任意でさらにB 0.15%まで、
任意でさらにCa 0.1%まで、
任意でさらにC 0.1%まで、
残部銅ならびに不可避な不純物、
有し、Al量とNi量との合計が少なくとも22.1重量%である熱間加工銅合金において、前記銅合金は少なくとも800MPaの引張強さを有し、少なくとも13%IACSの導電率を有し、かつ、前記銅合金の組織内にNiAl型ニッケルアルミナイドが析出物として堆積している熱間加工銅合金を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、アルミニウムとニッケルを添加することにより高い強度、許容できる延性と同時に良好な導電率を有する耐熱性の高い軽量な銅合金を生成することができる、という考察から始まっている。10.6から18重量%のAl量および10.5から14.5%のNi量を有する銅合金では、鋳込み状態での引張強さは少なくとも700MPaである。610から690℃の温度範囲で少なくとも20%の加工率で熱間加工することにより、引張強さは少なくとも800MPaまで高めることができる。ここでは、断面積の相対的な減少のことを加工率として定義する。このような材料の硬度は少なくとも280HVである。本発明による銅合金では、冷間加工を行なわずに高い強度を得ることができる。したがって、寸法が大きくても強度の高い状態で製造することができる。導電率は、鋳込み状態で約12%IACSであり、鍛錬用合金では、つまり熱間加工後では、少なくとも13%IACSである。本発明による銅合金の強度は、上記の熱間加工の後に前記合金を300から600℃の温度で時効処理すれば、さらに高めることができる。有利には、時効処理は300から400℃の温度範囲で、少なくとも30分かつ多くとも7時間の時効期間で行なわれる。本発明による銅合金の密度は、正確な組成に応じて6500から7000kg/mである。前記合金は、非常に耐老化性であり、通常は従来の工具で切削可能である。
【0010】
Al量が10.6重量%より少ない場合、引張強さは、熱間加工状態で800MPaより小さく、鋳込み状態では明らかに700MPaより小さい。有利には、Al量は少なくとも11重量%である。Al量が18重量%より多い場合、導電率は13%IACSよりも小さい。
【0011】
Ni量が10.5重量%より少ない場合、引張強さは、熱間加工状態で明らかに800MPaより小さく、鋳込み状態では明らかに700MPaより小さい。有利には、Ni量は少なくとも11重量%である。Ni量が大きいことにより、前記合金は、空気に対してならびに海水中で優れた耐食性を有する。Ni量が増加すると、前記合金は脆くなり、また高価になる。したがって、Ni量は14.5重量%を超えてはならない。
【0012】
本発明による銅合金では、特に高い体積分率でニッケルアルミナイドが形成されるが、これは、それ以外に銅固溶体と硬質γ相(AlCu)からなっている組織内に析出物として堆積している。これらのニッケルアルミナイドの体積分率は、50体積%以上であってよい。析出物は、NiAlの化学量論的組成を有する耐熱性の高い秩序相として形成される。析出量が高いことにより特に高い耐熱性が得られる。なぜならば、転位が析出物を迂回しなくてはならないからである。析出量が高いと、さらに室温での耐摩耗性と強度が高くなる。
【0013】
本発明による銅合金では、必要な場合、以下の元素の少なくとも1つを添加することにより、粒径の小さい組織に調整することができる:
任意でさらにFe 2重量%まで、
任意でさらにCo 1重量%まで、
任意でさらにTi 0.5重量%まで、
任意でさらにMn 0.5重量%まで、
任意でさらにB 0.15重量%まで、
任意でさらにCa 0.1重量%まで、
任意でさらにC 0.1重量%まで。
【0014】
これらの元素の1つ以上を添加することにより、鋳込み状態での粗粒形成が阻止される。細粒化の効果は、特定の下限値より大きい場合に初めて顕著に現れ、この下限値はそれぞれの元素ごとに異なっていてよい。前記の元素の1つが、この閾値より少ない量で前記合金中に存在する限り、これは不純物として考えるべきである。原則的には、しかし、本発明による銅-アルミニウム-ニッケル合金が先に挙げた元素のいずれも有していないことも可能である。
【0015】
有利には、本発明による銅合金では、アルミニウム量とニッケル量の合計が少なくとも22.1重量%、特に有利には少なくとも24重量%であってよい。これらの限界値より多い場合は、十分多いニッケルアルミナイドが形成されるので、前記合金の特性が顕著である。
【0016】
有利には、本発明による銅合金では、アルミニウム量とニッケル量の合計が多くとも29重量%、特に有利には多くとも27重量%であってよい。これらの限界値より少ない場合は、例えば脆化のような望ましくない合金元素の副作用は、取るに足らない程度にしか現れない。
【0017】
本発明の有利な実施様態では、本発明による銅合金では、アルミニウムの量は少なくとも12重量%かつ多くとも16重量%であってよい。この範囲のアルミニウム量により、強度、耐摩耗性および導電率の特に有利な関係が達成できる。
【0018】
好適には、本発明による銅合金では、ニッケルの量は少なくとも11重量%かつ多くとも13重量%であってよい。この範囲のニッケル量により、強度、延性および導電率の特に有利な関係が達成できる。
【0019】
本発明による銅合金の特に好適な実施様態では、アルミニウムの量は少なくとも12重量%、特に有利には少なくとも13重量%、かつ多くとも16重量%であり、ニッケルの量は少なくとも11重量%かつ多くとも13重量%であってよい。この組成の鍛錬用銅合金では、冷間加工を行なわずに、少なくとも15%IACSの導電率で1000MPaを超す引張強さを得ることができる。その上、この組成の合金は特に耐熱性がある。引張強さの著しい低下は、600℃で6時間の熱処理後に初めて観察される。ここで、著しい低下とは、10%を超える低下を意味する。
【0020】
さらに、本発明による銅合金では、ニッケル量(重量%)に対するアルミニウム量(重量%)の比が少なくとも0.95かつ多くとも1.28であることを好適としてよい。アルミニウム量とニッケル量が相互にこの関係にあるならば、好適なニッケルアルミナイドの形成に特に有利な条件が与えられている。化学量論的に過剰に存在するアルミニウムは、合金の母体中に組み込まれるか、あるいは耐摩耗性ではあるが脆いAlCu相を形成する。
【0021】
本発明の別の側面は、滑り軸受のための、本発明による銅合金の使用法を包含する。NiAl析出物の体積分率が高いことに基づき、本発明による銅合金は高い耐熱性および大きい耐摩耗性を有する。これらの特性は、滑り軸受に好適である。本発明による銅合金からなる滑り軸受は、過負荷下でも、乾燥運転の際でも、あるいは200℃を超える温度でも、損傷することなく作動することができる。
【0022】
本発明の別の側面は、コネクタのための、本発明による銅合金の使用法を包含する。コネクタに使用するために、材料は、強度、導電性および耐応力緩和特性の特別な組み合わせを有していなくてはならない。本発明による銅合金の強度は、銅材料として極めて高い水準にある。本発明による銅合金の導電率は、最小値が13%IACSで、コネクタに十分な水準である。本発明による銅合金の高い耐熱性と高い軟化温度により、良好な耐応力緩和特性が生じる。
【0023】
本発明の別の側面は、シール部材のための、本発明による銅合金の使用法を包含する。これについての例として、シリンダヘッドガスケットおよびコンタクトリングがある。シール部材は、耐摩耗性で、高温でも耐酸化性かつ耐クリープ性でなくてはならない。本発明による銅合金は、その組成およびその特性に基づいて、これらの条件を見事に満たしている。
【0024】
本発明の別の側面は、工具のための、本発明による銅合金の使用法を包含する。工具は、高い硬度と、高温時でも高い耐摩耗性を有していなくてはならない。したがって、本発明による銅合金は、工具用の材料として特に良く適している。本発明による銅合金の別の使用法は、ボーリングロッドである。
【0025】
本発明の別の側面は、ばね部材のための、本発明による銅合金の使用法を包含する。ばねは、高い弾力性を有し、耐緩和特性を有していなくてはならない。弾力性とは、大きな弾性変形後に初期状態に戻る材料の能力のことである。弾力性が高い材料は、多くのエネルギーを弾性形状に蓄積し、再び放出することができる。本発明による銅合金は、引張荷重下で高い降伏点を、もしくは圧力荷重下で高い圧縮降伏点を有する。塑性変形は、これらの限界値までは生じない。したがって、本発明による銅合金からなるばね部材は、多くのエネルギーを弾性的に蓄積することができる。6500から7000kg/mという低い密度により、比較的軽量なばね部材の構造が可能になる。
【0026】
本発明の別の側面は、フィルタ部材、特に抗菌性フィルタ部材のための、本発明による銅合金の使用法を包含する。抗菌性フィルタは、細菌および大部分のウイルスを機械的に遮断すると同時に、液体または空気の流れを保証しなくてはならない。このためには、通過幅が20から50nmの導管が必要である。このような導管を有する構造は、鋳込み状態の本発明による銅合金をエッチング処理することにより得ることができる。エッチング処理により、組織から銅固溶体が除去され、NiAl析出物が層状に残る。隣接する層間では、銅固溶体の除去により通過幅が約20から50nmの導管が形成される。このような構造は、細菌種全部および公知の全ウイルスの約80%に対する効果的な機械的バリアになる。
【実施例
【0027】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0028】
表1は、合金試料No.1から8の一覧を示している。それぞれに試料について、重量%で示した合金組成、硬度、導電率および引張強さが記載されている。鋳込み状態でのみ存在するNo.6の試料を除いて、前記試料は、600から800℃の温度範囲で20%の加工率で熱間加工した直後の状態である。試料No.1から6は、比較用試料であり、試料No.7および8は、本発明による組成を有している。
【0029】
【表1】
【0030】
試料No.1から4は、比較的少ない量のアルミニウムおよび/またはニッケルを有している。これらの試料の引張強さは、アルミニウムおよびニッケルの量が増加するとともに大きくなるが、明らかに750MPaより小さい。試料No.2から4の導電率は同じ水準にある。試料No.5は、試料No.2から4に比べて高い引張強さと硬度を有しているが、その導電率は減少している。試料No.6では、17.9重量%という非常に高いニッケル量が選択された。硬度は、試料No.3および4の値とほぼ同じであるが、導電率は8%IACSという低い水準にある。
【0031】
本発明による試料No.7および8は、予想外に良好な特性に優れている。試料No.7を試料No.5と比較すると、アルミニウムおよび特にニッケルの量の増加により、強度が再び上昇し、驚くべきことに導電率も高くなったことが確認できる。試料No.7での導電率の上昇は、試料No.1から6の特性からは予想できない。最良の結果は、試料No.8で達成された。アルミニウム約14重量%およびニッケル約12重量%で、熱間圧延した状態で約1000MPaの引張強さを得ることができた。導電率は、ほぼ15%IACSで、調査した全ての試料の最高値である。試料No.8の導電率は、330℃で3時間の焼なまし処理により、さらに約16%IACSまで高めることができた。
【0032】
試料No.8は、合計で26重量%の合金元素AlおよびNiを有している。試料No.6は、合計で約27重量%の合金元素AlおよびNiを有している。したがって、両試料は、合計でおよそ同じ重量分率の合金元素を有している、しかし、試料No.8の特性は、試料No.6のものより明らかに良好である。これは、合金元素AlおよびNiを相互に特定の関係で選択しなくてはならない、ということを示している。試料No.8では、AlとNiの重量分率の比は約1.15である。Niに対するAlの比が少なくとも0.95かつ多くとも1.28である場合に、有利な特性を有する合金が得られる。