(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220201BHJP
C02F 3/00 20060101ALI20220201BHJP
C02F 3/34 20060101ALN20220201BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 D
C12N1/20 F
C02F3/00 G
C02F3/34 Z
(21)【出願番号】P 2017119724
(22)【出願日】2017-06-19
【審査請求日】2020-05-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「難分解性化学物質1,4-ジオキサン含有排水の効率的生物処理技術の確立」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02032
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】瀧 寛則
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181802(WO,A1)
【文献】特開2016-077284(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102433272(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102168038(CN,A)
【文献】特開2017-042097(JP,A)
【文献】SEI Kazunari et al.,Isolation and characterization of bacterial strains that have high ability to degrade 1,4-dioxane as a sole carbon and energy source,Biodegradation,Vol.24, No.5,2013年,p.665-674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
C02F 3/00
C02F 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH3.
8以上5.
0未満である培地を用いて、受託番号NITE BP-02032として寄託された構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株を培養することを特徴とする培養方法
であって、
前記培地が、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれか1種以上を含有することを特徴とする培養方法。
【請求項2】
前記培地が液体培地であることを特徴とする請求項
1に記載の培養方法。
【請求項3】
液体培地を供給しながら、該液体培地の供給量と同量の培養液を取り出す連続培養であることを特徴とする請求項2に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、下記式(1)で表される環状エーテルである。1,4-ジオキサンは、水や有機溶媒との相溶性に優れており、主に有機合成の反応溶剤として使用されている。
【0003】
【0004】
2010年度の日本国における1,4-ジオキサンの製造・輸入量は、約4500t/年であり、約300t/年が環境中へ放出されたと推測される。1,4-ジオキサンは、水溶性であるため、水環境中へ放出されると広域に拡散してしまう。また、揮発性、固体への吸着性、光分解性、加水分解性、生分解性がいずれも低いため、水中からの除去が困難である。1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされている。
【0005】
また、非特許文献1には、1,4-ジオキサンを含む産業廃水には、1,4-ジオキサンの他に1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソランといった環状エーテルが含まれていることが報告されている。特に1,3-ジオキソランは、急性毒性等の毒性が確認されており、1,3-ジオキソランを含む汚染水等は適切に処理しなければならない。
【0006】
従来の活性汚泥法や活性炭吸着法等の処理方法では、水中から1,4-ジオキサン等の環状エーテルを十分に除去することができない。例えば、1,4-ジオキサンは、過酸化水素を添加してのオゾン処理(O3/H2O2)、紫外線照射下でのオゾン処理(O3/UV)、放射線や超音波照射下でのオゾン処理等、複数の物理化学的な酸化方法を併用する促進酸化法においてのみ、処理の有効性が確認されている。しかし、促進酸化法はイニシャルコスト及びランニングコストが高いことから普及に至っていない。また、非特許文献2には、1,4-ジオキサン以外の有機物が存在すると、促進酸化法による1,4-ジオキサンの処理効率が低下することが報告されている。
【0007】
低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテルを含む水を処理する方法が求められており、特許文献1、非特許文献3では、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されている。1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンを単一炭素源として分解する菌(資化菌)と、テトラヒドロフラン等の特定の基質の存在下にて1,4-ジオキサンを分解できる菌(共代謝菌)の2種類に大別される。そのため、地下水や廃水等に含まれる1,4-ジオキサンを1,4-ジオキサン分解菌で処理する場合、特定の基質を添加する必要がない資化菌を活用する方が効率的である。
【0008】
資化菌は、さらに1,4-ジオキサン分解酵素の誘導の有無によって、誘導型と構成型に分けられる。非特許文献4に記載されているように、誘導型1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンなどの誘導物質が存在することで分解酵素の生産・分泌がされるため、1,4-ジオキサン処理に用いる前に予め馴養する必要がある。一方、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、常時、分解酵素を生産しているため、馴養することなく、直ちに1,4-ジオキサン処理に用いることができる。
【0009】
ここで、1,4-ジオキサン分解菌は増殖が極めて遅く、他の微生物が混入していると他の微生物が優先的に増殖してしまう。そのため、1,4-ジオキサン分解菌を培養するには、他の微生物が混入しないように、事前に培養装置や培地を十分に滅菌する必要がある。滅菌処理には、オートクレーブを用いる蒸気滅菌、オーブン等で加熱する乾熱滅菌、ガンマ線を用いる放射線滅菌、エチレンオキサイドガスを用いる化学滅菌等の方法がある。しかし、滅菌のための設備が大規模になりすぎる、エネルギーコストがかかりすぎる、使用する薬品量が膨大となりコスト・安全性の点で問題がある等、いずれの滅菌方法も、大規模スケールで行うことは困難である。
【0010】
本発明者らは、特許文献2において、ジエチレングリコールを含む培地を用いて1,4-ジオキサン分解菌を増やす1,4-ジオキサン分解菌の培養方法を提案した。1,4-ジオキサン分解菌は、他の微生物と比較してジエチレングリコールを炭素源として利用する能力に優れているため、ジエチレングリコールを含有する培地を用いることにより、滅菌処理を行うことなく、他の微生物が生息している条件下でも優先的に増殖することができる。
【0011】
さらに、本発明者らは、特許文献3において、構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株を報告している。N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で、最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を示し、1,4-ジオキサンを始めとする環状エーテルの生分解に非常に有望である。
N23株は、1,4-ジオキサン分解能を有さない微生物と比較して、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを炭素源として利用する能力に優れている。また、上記したN23株が炭素源として利用しやすい有機物の中で、エチレングリコールは、pH5.0以下の酸性環境下においてほとんど生分解されないことが報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-306939号公報
【文献】特許第5877918号公報
【文献】特許第6117450号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】CD. Adams, PA. Scanlan and ND. Secrist: Oxidation and biodegradability enhancement of 1,4-dioxane using hydrogen peroxide and ozone, Environ. Sci. Technol., 28(11), pp.1812-1818, 1994.
【文献】K. KOSAKA, H. YAMADA, S. MATSUI, and K. SHISHIDA: The effects of the co-existing compounds on the decomposition of micropollutants using the ozone/hydrogen peroxide process, Water Sci. Technol., 42, pp.353-361, 2000.
【文献】清和成、池道彦:1,4-ジオキサン分解菌を用いた汚染地下水の生物処理・浄化の可能性,用水と廃水,Vol.53, No.7,pp.555-560, 2011.
【文献】K. Sei, K. Miyagaki, T. Kakinoki, K. Fukugasako, D. Inoue and M. Ike: Isolation and characterization of bacterial strains that have high ability to degrade 1,4-dioxane as a sole carbon and energy source, Biodegradation, 24, 5, pp.665-674, 2012.
【文献】今枝孝夫、徳弘健郎、平井正名:LLCの微生物分解システム,豊田中央研究所,Vol.34,No.3,pp.23-30,1999.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株の効率的な培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1.pH3.0以上5.5以下である培地を用いて、受託番号NITE BP-02032として寄託された構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株を培養することを特徴とする培養方法。
2.前記培地が、1,4-ジオキサン、グリオキシル酸、グリコール酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1-ブタノール、テトラヒドロフラン、グルコース、酢酸、グリセリンのいずれか1種以上を含有することを特徴とする1.に記載の培養方法。
3.前記培地が、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれか1種以上を含有することを特徴とする1.または2.に記載の培養方法。
4.前記培地が液体培地であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の培養方法。
5.液体培地を供給しながら、該液体培地の供給量と同量の培養液を取り出す連続培養であることを特徴とする4.に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の培養方法は、他の微生物による汚染(コンタミネーション)が起こりにくいため、N23株を効率的に培養することができる。本発明の培養方法は、他の微生物が活動・増殖しにくい条件下で行われるため、培養装置に他の微生物が存在していても、N23株を効率的に培養することができる。N23株が代謝しやすい有機化合物、または、N23株が他の微生物と比較して炭素源として利用する能力に優れている有機化合物を、培地中の炭素源とすることにより、他の微生物のコンタミネーションをさらに抑制することができる。
本発明の培養方法により、事前に完全な滅菌処理を行うことなく、N23株を培養することができるため、大規模スケールでN23株を培養することが可能であり、生分解処理に必要とされる大量のN23株を供給することができる。また、滅菌処理にかかるコストを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】N23株の初期1,4-ジオキサン濃度に対する比分解速度を示す図。
【
図3】実験1における初期pHと環状エーテル分解速度との関係を示す図。
【
図4】実験2における異なる炭素源での初期pHと菌体濃度増加量との関係を示す図。
【
図5】実験3における異なる炭素源での培養終了時の菌体濃度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
「N23株」
本発明で使用する構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株(以下、N23株という。)は、受託番号NITE BP-02032として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2015年4月10日付で国際寄託されている。N23株のSEM画像を
図1に示す。N23株は、グラム染色性が陽性、カタラーゼ反応が陽性である。
【0019】
N23株は、構成型1,4-ジオキサン分解菌であり、常時、分解酵素を生産している。一般に、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、誘導型1,4-ジオキサン分解菌と比較して低い1,4-ジオキサン最大比分解速度を示すことが知られている。N23株の初期1,4-ジオキサン濃度に対する比分解速度を
図2に示す。
【0020】
N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有し、その値は誘導型1,4-ジオキサン分解菌と同等以上である。また、N23株は、1,4-ジオキサンを0.017mg/L以下の極低濃度まで分解することができ、約5200mg/Lという高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。
N23株は、1,4-ジオキサン等を用いて馴養する必要がない。また、N23株は、高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有し、1,4-ジオキサンを極低濃度まで分解することができ、高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。そのため、N23株は、1,4-ジオキサンの処理に好適に利用することができる。
【0021】
N23株は、1,4-ジオキサンだけでなく、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテルを効率よく分解することができる。また、複数の環状エーテルを同時に処理することもできる。さらに、N23株は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールの分解性にも優れている。そのため、N23株は、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールの生分解処理に好適に利用することができる。
【0022】
N23株は、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下であっても、ほとんど活動性が低下しない。すなわち、N23株は、pH7.0付近で最も高い1,4-ジオキサン分解活性を示すが、pH7.0における分解活性に対して、pH5.0で9割以上、pH3.8で8割以上の分解活性を維持できる。また、N23株は、酸性環境下において、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれか1種以上を炭素源として利用して増殖することができる。それに対し、多くの微生物(以下、雑菌という)は、pH6.0~8.0程度の中性環境下が至適pHであり、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下で活動できる種類は少ない。
【0023】
「培養方法」
本発明の培養方法は、pH3.0以上5.5以下である培地を用いて、N23株を培養することを特徴とする。
pH3.0以上5.5以下の酸性環境下では、雑菌の活動・増殖が抑制されるため、N23株を効率的に培養することができる。より確実に雑菌のコンタミネーションを防ぐために、培養時のpHは低いほうが好ましく、pH4.9以下がより好ましく、pH4.5以下がさらに好ましい。
【0024】
N23株を培養する培地としては、液体培地、または固体培地が挙げられる。培地としては、N23株を培養できるものであれば特に限定されず、MGY培地やCGY培地等の公知の培地を使用することができる。N23株を大量に培養するためには液体培地を使用することが好ましい。液体培地を供給しながら、液体培地の供給量と同量のN23株を含む培養液を取り出す連続培養を行うことがさらに好ましい。
【0025】
本発明の培養方法は、雑菌の活動・増殖が抑制されるため、培養前に完全な滅菌処理を施さずとも、N23株を培養することができる。本発明の培養方法は、雑菌のコンタミネーションが起こりにくいため、確実に滅菌処理を施すことが困難である大容量の培養装置を用いて、N23株を大量に培養することができる。具体的には、本発明の培養方法において、N23株を液体培地で培養する場合は、培養槽の容量を10L以上1000L以下とすることができる。また、本発明の培養方法は、滅菌装置の小型化や滅菌のための薬品使用量が抑制でき、さらにはこれらの装置、薬品が不要な場合もあるため、非常に低コストである。
【0026】
N23株を培養する際には、必要な無機物質や有機物質を添加することができる。微生物の活動量は、必要な栄養素等の因子のうち、最も少ない因子によって制限されるため、不足する栄養素を添加することで、増殖を促進することができる。添加する無機物質としては特に制限されず、K2HPO4、(NH4)2SO4、MgSO4・7H2O、FeCl3、CaCl2、NaClなどが挙げられる。また、添加する有機物質としては特に制限されないが、コーンスティープリカー、カザミノ酸、酵母エキス、ペプトンなどが好ましい。
【0027】
N23株は、1,4-ジオキサン、グリオキシル酸、グリコール酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1-ブタノール、テトラヒドロフラン、グルコース、酢酸を、炭素源として利用する能力に優れている(特許文献3参照)。また、グリセリンを炭素源として利用する能力にも優れている。そのため、雑菌の活動が抑制されるpH3.0以上5.5以下の酸性環境下で、上記した有機化合物のいずれか1種以上を含有する培地を用いることにより、早い増殖速度でN23株を培養することができる。培地中の上記有機化合物の総濃度は特に限定されないが、1.0×10-8wt%以上10.0wt%以下が好ましい。総濃度の下限値は、0.1wt%以上であることがより好ましく、0.5wt%以上であることがより好ましく、1.0wt%以上であることが最も好ましい。総濃度の上限値は9.0wt%以下であることがより好ましく、8.0wt%以下であることがさらに好ましく、7.0wt%以下であることが最も好ましい。また、上記有機化合物の総計が、培地中の全有機化合物量に対して、60.0wt%以上であることが好ましく、80.0wt%以上であることがより好ましく、95.0wt%以上であることがさらに好ましく、99.9wt%以上であることが最も好ましい。
【0028】
さらに、N23株は、雑菌と比較して、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを炭素源として利用する能力に優れている。そのため、培地が、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを主たる炭素源として含むことがさらに好ましい。pH3.0以上5.5以下の酸性環境下で、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを主たる炭素源として含有する培地を用いることにより、雑菌のコンタミネーションをさらに防止することができる。1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールの総量は、培地中の全有機化合物量に対して、60.0wt%以上であることが好ましく、80.0wt%以上であることがより好ましく、95.0wt%以上であることがさらに好ましく、99.9wt%以上であることが最も好ましい。
【実施例】
【0029】
「N23株」
N23株は、MGY培地(Malt Extract:10g/L、グルコース:4g/L、Yeast Extract:4g/L、pH7.3)を用いて2週間培養した。この培養液を、10000×g、4℃、3分間遠心分離して集菌し、無機塩培地(組成:
1g/L K2HPO4、1g/L (NH4)2SO4、50mg/L NaCl、20mg/L MgSO4・7H2O、10mg/L FeCl3、50mg/L CaCl2、pH7.3)を用いて二回洗浄した菌体を用いた。
【0030】
「実験1」
N23株の1,4-ジオキサンによる培養
100mL容量のバッフル付三角フラスコに、液体培地(組成:500mg/L 1,4-ジオキサン、1g/L K2HPO4、1g/L (NH4)2SO4、50mg/L NaCl、200mg/L MgSO4・7H2O、10mg/L FeCl3、50mg/L CaCl2)を19mL添加し、N23株の菌体濃縮液を1mL加え(菌体終濃度:200mg-cell/L)、28℃にて回転振盪培養(120rpm)を行った(n=3)。液体培地のpHは塩酸溶液及び水酸化ナトリウム溶液を用いてpH3.8、5.0、5.9、7.0、8.2に調整した。
【0031】
培養開始2.5時間後、10時間後及び12時間後にサンプリングを行い、溶液中の1,4-ジオキサン濃度をヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所:GC/MS-QP2010 PLUS、TURBOMATRIX HS40)を用いて測定した。各時間ごとの1,4-ジオキサン濃度の減少速度に直線性があることを確認し、1,4-ジオキサン分解速度を算出した。また、培養前後における溶液中のpHを測定した。
図3に初期pHと分解速度の関係を、表1に培養前後のpHを示す。
【0032】
【0033】
N23株が、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下において、1,4-ジオキサンを炭素源として培養できることが確かめられた。また、培養後にpHが低下していることが確認できた。これは、1,4-ジオキサンの分解により、中間代謝物であるグリオキシル酸が生じたためであると考えられる。
【0034】
「実験2」
N23株の他の炭素源による培養1
300ml容量のフラスコに、pH3.6~7.9に調整した栄養塩培地(組成:0.5g/L K
2HPO
4、1g/L 5g/L 酵母エキス)を加えた後、炭素源を4g/Lになるように添加し、液量を100mLとした。その後、N23株を70mg-cell/Lになるように添加し、28℃、120rpmにて、回転振盪培養を行った(n=1)。炭素源としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを用いた。
図4に、7日間の培養により増加した菌体濃度を示す。
【0035】
N23株が、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下において、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを炭素源として培養できることが確かめられた。
【0036】
「実験3」
N23株の他の炭素源による培養2
300ml容量のフラスコに、炭素源を4g/L含む栄養塩培地(組成:0.5g/L K2HPO4、5g/L 酵母エキス、pH7.0)を100mL添加した後、N23株を100mg-cell/Lになるように添加し、28℃、120rpmにて、回転振盪培養を行った(n=2)。炭素源としては、グルコース、グリセリン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールを用いた。
【0037】
7日間培養後、ガラス繊維ろ紙(GF/B、Whatman、直径47mm)を用いて、培養液中の固形分を回収し、105℃にて乾燥させて菌体濃度を測定した。
図5に7日間の培養により増加した菌体濃度を示す。
【0038】
N23株が、グルコース、グリセリン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールを炭素源として増殖できることが確かめられた。