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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】防火区画壁の防火措置構造
(51)【国際特許分類】
   F16L 5/04 20060101AFI20220201BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20220201BHJP
   H02G 3/22 20060101ALI20220201BHJP
   H02G 3/04 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
F16L5/04
E04B1/94 F
H02G3/22
H02G3/04 056
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017235471
(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公開番号】P2019100518
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉原 伸和
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0000806(KR,A)
【文献】特開2002-247735(JP,A)
【文献】特開2005-295696(JP,A)
【文献】特表2007-522416(JP,A)
【文献】特表2006-524736(JP,A)
【文献】特開2000-317004(JP,A)
【文献】独国実用新案第20017115(DE,U1)
【文献】特開2005-351305(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067637(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/145790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 5/00-5/04
E04B 1/94
H02G 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火区画壁に設けられた貫通孔に長尺の貫通部材が挿通されている防火区画壁の防火措置構造であって、
前記貫通部材の外面と、前記貫通孔の内面との間には、発泡体からなる基部と、前記基部の厚み方向の両端に位置する面のうちの少なくとも一方の面に貼着され、かつ表面における摩擦抵抗が前記基部の表面の摩擦抵抗よりも小さいシート材とを備え、前記基部を圧縮すると原形状へ復帰しようとする反力を備えた閉塞部材が、前記貫通部材を取り囲むとともに、前記貫通部材の外面と、前記貫通孔の内面との対面方向に複数積層された状態で収容され、
前記貫通部材の外面に接する前記閉塞部材が、自身の反力及び積層された他の閉塞部材の反力により、前記貫通部材の外面に圧接しており、
前記積層された複数の閉塞部材のうち、少なくとも一つの閉塞部材は、熱膨張性能を有し、
反力の強さ及び変形しやすさが相対的に異なる複数種類の閉塞部材が積層方向に積層されていることを特徴とする防火区画壁の防火措置構造。
【請求項2】
前記積層方向に積層された前記複数種類の閉塞部材は、原形状において前記積層方向の厚みが相対的に異なる請求項1に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【請求項3】
前記熱膨張性能を有する少なくとも一つの閉塞部材は、前記貫通部材の外面に接する閉塞部材である請求項1又は請求項2に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【請求項4】
前記貫通部材の外面と、前記貫通孔の内面との間に収容された全ての閉塞部材が熱膨張性能を有する請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【請求項5】
前記貫通部材の外面と前記貫通孔の内面との間に収容された複数の前記閉塞部材のうち、少なくとも前記貫通部材の外面に接する前記閉塞部材は、該閉塞部材における前記貫通部材に接する面から厚み方向に延びるスリットを複数備えるとともに、前記スリットによって前記基部を分割して形成された複数のブロック部を有する請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【請求項6】
前記シート材は、前記ブロック部それぞれに独立して貼着されている請求項に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【請求項7】
前記貫通部材の外面と前記貫通孔の内面との間に形成され、かつ前記閉塞部材よりも小さい隙間に、前記閉塞部材を切断して細分化された隙間用閉塞部材が収容されている請求項1~請求項のうちいずれか一項に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【請求項8】
積層方向に隣り合う前記閉塞部材同士は接合されている請求項1~請求項のうちいずれか一項に記載の防火区画壁の防火措置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火区画壁に設けられた貫通孔に長尺の貫通部材が挿通されている防火区画壁の防火措置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物における防火区画壁に、長尺の貫通部材としての配線・配管材を貫通させるために、防火区画壁には貫通孔が形成されている。そして、このような防火区画壁には、防火措置構造が設けられている。防火区画壁の防火措置構造は、例えば、防火区画壁を挟んだ一方の壁表側で火災等が発生したとき、貫通孔を経由して他方側に火炎、煙、有毒ガスが流入するのを阻止するために設けられている。防火措置構造は、火災等の発生時、貫通孔を閉鎖することで、火炎、煙、有毒ガスの火災発生側と反対側への流入を阻止するようになっている。
【0003】
このような防火措置構造として、貫通孔の内面と配線・配管材の外面との間に閉塞部材を複数収容し、複数の閉塞部材によって、貫通孔の内面と配線・配管材の外面との間を閉鎖するものがある。閉塞部材としては、例えば、特許文献1に開示される無機繊維マットが挙げられる。この無機繊維マットは、原料マットの表面に複数のスリットを設けて形成され、スリットにより、原料マットに複数の短冊状の分割片が形成されている。
【0004】
無機繊維は、無機繊維マットに不燃性又は難燃性を付与し、無機繊維としては、ロックウールやセラミック繊維が挙げられている。そして、貫通孔の内面と配線・配管材の外面との間に複数の無機繊維マットが配置される。無機繊維マットは配線・配管材に対して接触している。無機繊維マットに圧力を加えることで、各分割片の接触端で圧縮変形が効果的に生じ、無機繊維マットと配線・配管材との間の隙間を無くすようにしている。その結果、配線・配管材の周囲の空間を十分な防火性能を保持する状態で閉塞している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-271948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の無機繊維マットを用いた防火措置構造においては、無機繊維マットと配線・配管材との間の隙間を無くすために、無機繊維マットとは別に設けた加圧装置によって無機繊維マットに圧力を加え続ける必要がある。
【0007】
本発明の目的は、加圧装置を用いずに閉塞部材を貫通部材の外面に圧接させることができる防火区画壁の防火措置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するための防火区画壁の防火措置構造は、防火区画壁に設けられた貫通孔に長尺の貫通部材が挿通されている防火区画壁の防火措置構造であって、前記貫通部材の外面と、前記貫通孔の内面との間には、発泡体からなる基部を備え、該基部を圧縮すると原形状へ復帰しようとする反力を備えた閉塞部材が、前記貫通部材を取り囲むとともに、前記貫通部材の外面と、前記貫通孔の内面との対面方向に複数積層された状態で収容され、前記貫通部材の外面に接する前記閉塞部材が、自身の反力及び積層された他の閉塞部材の反力により、前記貫通部材の外面に圧接しており、前記積層された複数の閉塞部材のうち、少なくとも一つの閉塞部材は、熱膨張性能を有することを要旨とする。
【0009】
また、防火区画壁の防火措置構造について、前記熱膨張性能を有する少なくとも一つの閉塞部材は、前記貫通部材の外面に接する閉塞部材であるのが好ましい。
また、防火区画壁の防火措置構造について、前記貫通部材の外面と、前記貫通孔の内面との間に収容された全ての閉塞部材が熱膨張性能を有していてもよい。
【0010】
また、防火区画壁の防火措置構造について、前記貫通部材の外面と前記貫通孔の内面との間に収容された複数の前記閉塞部材のうち、少なくとも前記貫通部材の外面に接する前記閉塞部材は、該閉塞部材における前記貫通部材に接する面から厚み方向に延びるスリットを複数備えるとともに、前記スリットによって前記基部を分割して形成された複数のブロック部を有していてもよい。
【0011】
また、防火区画壁の防火措置構造について、前記閉塞部材は、前記基部の厚み方向の両端に位置する面のうちの少なくとも一方の面に貼着されたシート材を備え、前記シート材の表面における摩擦抵抗は、前記基部の表面の摩擦抵抗よりも小さい。
【0012】
また、防火区画壁の防火措置構造について、前記シート材は、前記ブロック部それぞれに独立して貼着されていてもよい。
また、防火区画壁の防火措置構造について、前記貫通部材の外面と前記貫通孔の内面との間に形成され、かつ前記閉塞部材よりも小さい隙間に、前記閉塞部材を切断して細分化された隙間用閉塞部材が収容されていてもよい。
【0013】
また、防火区画壁の防火措置構造について、積層方向に隣り合う前記閉塞部材同士は接合されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加圧装置を用いずに閉塞部材を貫通部材に圧接させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の防火区画壁における防火措置構造を示す正面図。
図2】(a)は耐火部材を示す斜視図、(b)は耐火部材を示す分解斜視図。
図3】(a)は耐火部材を示す部分正面図、(b)は耐火部材を鋏で切断する状態を示す部分正面図。
図4】耐火部材を切断し、隙間用耐火部材を形成した状態を示す斜視図。
図5】配線・配管材支持ラックに配線・配管材を支持させた状態を示す斜視図。
図6】配線・配管材を取り囲むように耐火部材を積み重ねた状態を示す正面図。
図7】隙間に耐火部材を詰め込む状態を示す斜視図。
図8】別例の耐火部材を示す斜視図。
図9】手で基部を切断した状態を示す斜視図。
図10】別例の耐火部材を示す斜視図。
図11】基部の長側縁のみにシート材が貼着された耐火部材を示す斜視図。
図12】貫通孔の別例を示す斜視図。
図13】耐火部材の収容の仕方の別例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、防火区画壁の防火措置構造を具体化した一実施形態を図1図8にしたがって説明する。
図1又は図5に示すように、コンクリート製の防火区画壁Wには、正面から見て矩形孔状の貫通孔Waが設けられている。貫通孔Waは、防火区画壁Wを厚み方向に貫通している。貫通孔Waには、貫通部材として、複数本の配線・配管材11が挿通されている。なお、配線・配管材11とは、建築物内に配設される配線(制御用ケーブル、同軸ケーブル、光ケーブル等)及び配管材(合成樹脂製可撓電線管、鋼製電線管等)の総称のことである。配線・配管材11は、長尺状である。本実施形態では、径の異なる配線・配管材11が貫通孔Waに挿通されている。
【0017】
配線・配管材11は、配線・配管材支持ラック20によって下方から支持されている。なお、配線・配管材支持ラック20は、長尺な梯子状である。配線・配管材支持ラック20は、一対の長尺部材20aと、一対の長尺部材20aに架け渡された複数の支持部材20bとを有する。配線・配管材支持ラック20は、一対の長尺部材20aが貫通孔Waに挿通され、かつ一対の長尺部材20aが左右方向に対向した状態で配設されている。貫通孔Wa内には支持部材20bは配設されず、防火区画壁Wの厚み方向両面より外側に支持部材20bが配設されている。そして、複数の支持部材20bによって配線・配管材11が支持されている。
【0018】
図1に示すように、防火区画壁Wの厚み方向の両面側において、貫通孔Waの内面と、配線・配管材11の外面との間には、閉塞部材としての耐火部材30が複数収容され、複数の耐火部材30によって防火区画壁Wの防火措置構造が構築されている。耐火部材30は、熱膨張性能を有する閉塞部材である。
【0019】
図2(a)、図2(b)又は図3(a)に示すように、防火措置構造を構築する耐火部材30は、矩形平板状の基部31と、基部31に貼着されたシート材41と、を有する。基部31の6つの側面のうち、最も面積が大きい矩形状の2つの面のうち一方を第1面31aとし、他方を第2面31bとする。第1面31aと第2面31bを繋ぐ直線Lが延びる方向を基部31の厚み方向とする。第1面31a及び第2面31bは、基部31の厚み方向の両端に位置する面である。言い換えると、第1面31a及び第2面31bは、基部31の厚み方向の両側の面である。図1に示すように、耐火部材30は、厚みの異なる2種類が存在し、場合によっては、厚みの薄い耐火部材30を第1耐火部材30Aと記載し、第1耐火部材30Aより厚い耐火部材30を第2耐火部材30Bと記載する。
【0020】
図2(a)又は図2(b)に示すように、基部31の第1面31a及び第2面31bに沿い、かつ長手方向に直交する方向を短手方向とする。基部31の厚み方向、長手方向及び短手方向は、耐火部材30の厚み方向、長手方向及び短手方向と合致する。第1面31a及び第2面31bにおいて、長手方向に延びる一対の側縁を長側縁31cとし、短手方向に延びる一対の側縁を短側縁31dとする。
【0021】
基部31は、熱膨張性能を有する発泡体からなり、具体的には、基部31は、母材に熱膨張材が均一に分散された発泡体からなる。このような基部31は、母材に熱膨張材と発泡剤が混練された母材材料における発泡剤のみを発泡させて得られたものである。本実施形態では、熱膨張材として膨張黒鉛が使用され、母材として、ポリマーが使用され、より具体的には、合成ゴムが使用されている。合成ゴムとしてはクロロプレンゴムが使用されている。なお、合成ゴムとしては、クロロプレンゴムの他に、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、合成天然ゴム(IR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)が挙げられる。
【0022】
また、発泡剤の発泡開始温度は130~200℃であり、膨張黒鉛の発泡開始温度は120~300℃である。本実施形態では、発泡剤として、熱膨張材(膨張黒鉛)よりも発泡開始温度が低いものを使用する。例えば、発泡開始温度が250℃の膨張黒鉛を使用した場合は、発泡開始温度が160℃の発泡剤を使用する。
【0023】
基部31の製造方法としては、例えば、クロロプレンゴムに膨張黒鉛及び発泡剤を均一に分散させて母材材料を調整した後、膨張黒鉛が膨張しないように、膨張黒鉛が膨張する温度より低い温度で母材材料を加熱し、発泡剤を発泡させる。
【0024】
基部31は、発泡剤の発泡によって形成された微細な気泡を多数有するスポンジ状であり、気泡は基部31の内部及び表面に多数存在している。また、発泡クロロプレンゴムにより、基部31はゴム弾性を有する。
【0025】
図3(a)の2点鎖線に示すように、基部31は、厚み方向に圧縮変形可能であり、図示しないが、長手方向及び短手方向にも圧縮変形可能である。基部31は、圧縮された状態から原形状に復帰しようとする反力を備える。ここで、例えば、セラミックウールや、ロックウールを基材とした閉塞部材を比較例として挙げると、セラミックウールや、ロックウールを基材とした閉塞部材が備える反力は、ほとんどなく、圧縮すると、ほぼその圧縮された形状のままとなる。これに対し、本実施形態の基部31は、反力が非常に大きく、圧縮しても直ちに原形状に戻ろうとする。
【0026】
上記した基部31は、膨張黒鉛を含むため、所定温度(例えば、250℃)以上の熱を受けると体積が加熱前の数倍以上に膨張する。よって、基部31は、発泡クロロプレンゴムによって圧縮変形可能とされ、膨張黒鉛によって熱膨張可能とされている。
【0027】
図2(a)、図2(b)又は図3(a)に示すように、耐火部材30は、基部31に複数のスリット32を備える。スリット32は、基部31の第1面31aから厚み方向に延びる。スリット32は、第1面31aの一対の長側縁31c同士を連結するように短手方向全体に亘って延びるとともに、基部31の長手方向へ等間隔おきに存在する。基部31を厚み方向から見た場合、複数のスリット32は互いに平行である。基部31の厚み方向に沿ったスリット32の寸法を深さとすると、全てのスリット32において深さは同じである。また、スリット32は、基部31の第2面31bまでは到達していない。
【0028】
基部31には、スリット32よりも第2面31b寄りの部分に連結部33が設けられている。全てのスリット32の深さは同じであるため、基部31の厚み方向に沿った連結部33の寸法も同じである。連結部33は、第1面31aの一対の長側縁31c同士を連結するように短手方向全体に亘って延びる。基部31の厚み方向に沿った連結部33の寸法である厚みは、スリット32の深さより小さい。そして、連結部33は、人の手、及び鋏、カッター等の手動切断工具で切断できる。
【0029】
基部31は、複数のスリット32によって複数のブロック部34に分割されている。スリット32は、基部31の長手方向に等間隔おきに存在し、長手方向に隣り合うブロック部34同士は、連結部33によって連結されている。スリット32の深さ及び連結部33の厚みは全て同じであるため、基部31の長手方向に沿ったブロック部34の寸法、及び厚み方向に沿ったブロック部34の寸法は、全てのブロック部34で同じである。そして、ブロック部34は、それぞれ単独で圧縮変形可能であるとともに、圧縮された状態から原形状へ復帰するための反力を備える。
【0030】
第1耐火部材30Aの長手方向への寸法は、第2耐火部材30Bの長手方向への寸法より短い。なお、第1耐火部材30A及び第2耐火部材30Bの長手方向への寸法は、同じでもよいし、第1耐火部材30Aの方が第2耐火部材30Bより長くてもよい。第1耐火部材30Aのスリット32の数は、第2耐火部材30Bのスリット32の数より多く、第1耐火部材30Aのブロック部34の数は、第2耐火部材30Bのブロック部34の数より多い。第1耐火部材30Aの長手方向に沿ったブロック部34の寸法は、第2耐火部材30Bの長手方向に沿ったブロック部34の寸法より小さい。また、第1耐火部材30Aの連結部33の厚みは、第2耐火部材30Bの連結部33の厚みより小さい。
【0031】
図2(a)又は図3(b)に示すように、シート材41は、スリット32を除いた第1面31aの全体、及び第2面31bの全体に貼着されている。シート材41は、不織布製である。シート材41表面の摩擦抵抗は、発泡クロロプレンゴムよりなる基部31の表面における摩擦抵抗より小さい。第1面31aに貼着されたシート材41は、スリット32に沿って分断されている。このため、ブロック部34毎に独立してシート材41が貼着されている。なお、スリット32は、基部31の第1面31aと同じ大きさのシート材41を第1面31aに貼着した後、基部31に切り込みを入れることで形成されている。よって、スリット32を形成すると同時に、シート材41が各ブロック部34に対応する大きさに切断されている。
【0032】
図4に示すように、耐火部材30は、鋏、カッター等の手動切断工具によって、スリット32のある箇所、及びスリット32のない箇所のいずれからも切断可能である。そして、耐火部材30が切断されて細分化されると隙間用閉塞部材としての隙間用耐火部材35が形成される。隙間用耐火部材35は、耐火部材30より、長手方向の寸法が小さく、直方体状である。防火措置構造を構築する際、隣り合う配線・配管材11同士の間や、隣り合う耐火部材30同士の間には、第1耐火部材30Aや第2耐火部材30Bの長手方向の寸法より小さい隙間が生じる。この隙間より若干大きい寸法となるように耐火部材30が切断され、隙間用耐火部材35が製造される。
【0033】
図4に示すように、スリット32のない箇所から耐火部材30を手動切断工具としての鋏51で切断する際、鋏51の刃51aが耐火部材30に接触する。
図3(b)に示すように、第1面31a及び第2面31bには、各長側縁31cを含む全体にシート材41が貼着されている。このため、ブロック部34に鋏51の刃51aを入れたとき、シート材41によって刃51aを入れた部位の圧縮変形が抑制され、鋏51による切断が容易となっている。
【0034】
次に、防火措置構造の形成方法について説明する。
まず、図5に示すように、防火区画壁Wに配線・配管材11を貫通させるための貫通孔Waを形成する。次に、貫通孔Waに配線・配管材支持ラック20を配設する。次に、配線・配管材支持ラック20の複数の支持部材20bに複数本の配線・配管材11を支持させるとともに、防火区画壁Wに配線・配管材11を貫通させる。
【0035】
次に、図6又は図7に示すように、貫通孔Waの内面と配線・配管材11の外面との間に複数の耐火部材30を収容する。このとき、耐火部材30の長手方向が左右方向に延び、かつ厚み方向が上下方向に延びるように耐火部材30を貫通孔Waに収容する。なお、左右方向とは、防火区画壁Wを正面から見た場合での左右方向であり、貫通孔Waの長手方向と一致する。配線・配管材11の外面に接触する耐火部材30は第1耐火部材30Aを使用し、それ以外の耐火部材30は第2耐火部材30Bを使用する。
【0036】
第1耐火部材30Aの基部31と第2耐火部材30Bの基部31は同じ発泡クロロプレンゴムである。そして、同じ材質の第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bであっても、厚みに応じて第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bとを使い分けている。基部31は、厚みが薄くなるほど変形しやすく、かつ反力は小さくなり、厚みが厚くなるほど、変形しにくく、かつ反力は大きくなる。
【0037】
よって、配線・配管材11の形状に基部31を追従させやすくするため、配線・配管材11の外面に接触する耐火部材30として第1耐火部材30Aを使用するとともに、貫通孔Wa内における内面側、すなわち第1耐火部材30Aより外側に配設される耐火部材30として第2耐火部材30Bを使用した。つまり、貫通孔Wa内において、配線・配管材11側の耐火部材30の厚みが薄くなり、貫通孔Waの内面側の耐火部材30の厚みが厚くなるように耐火部材30を使い分けている。
【0038】
貫通孔Waの下側から上に向けて第2耐火部材30Bを積み重ねていく。また、貫通孔Waの左右方向に第2耐火部材30Bを並べていく。左右方向において、第2耐火部材30Bの長手方向への寸法より短い隙間が形成された場合は、図6では、長尺部材20aと貫通孔Waの内面との間には、その隙間の寸法より若干長くなるように第2耐火部材30Bを切断して隙間用耐火部材35を形成し、その隙間用耐火部材35を隙間に詰め込む。
【0039】
左右方向に並設された第2耐火部材30B及び隙間用耐火部材35それぞれは、長手方向に圧縮されるとともに、圧縮状態から原形状に復帰しようとする反力が発生する。この反力により、左右方向に隣り合う第2耐火部材30B同士、及び隙間用耐火部材35と長尺部材20aが互いに圧接する。なお、図示しないが、左右方向に第2耐火部材30Bと隙間用耐火部材35が隣り合う場合は、それら第2耐火部材30Bと隙間用耐火部材35が互いに圧接する。つまり、左右方向に並んだ各第2耐火部材30B及び隙間用耐火部材35の反力を利用して、互いに圧接させている。なお、直方体状の隙間用耐火部材35において、発生させたい反力に応じて隙間用耐火部材35を詰め込む向きを調整する。隙間用耐火部材35は、基部31と同様に厚みが薄くなるほど変形しやすく、かつ反力は小さくなり、厚みが厚くなるほど、変形しにくく、かつ反力は大きくなる。このため、発生させたい反力の大きさに合わせて隙間用耐火部材35の向きを選択する。
【0040】
そして、配線・配管材11の外面に接触する耐火部材30には第1耐火部材30Aを使用する。このとき、図1の拡大図に示すように、配線・配管材11の外面に対し、第1耐火部材30Aの第1面31a側のシート材41を接触させる。また、上下方向に第2耐火部材30Bを積み重ねるとき、又は第1耐火部材30Aに第2耐火部材30Bを積み重ねるとき、積み重ねた方向に隣り合う第2耐火部材30B同士、及び第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bとは、両面テープTにより互いに接合する。なお、本実施形態において、配線・配管材11の外面と、貫通孔Waの内面との対面方向は上下方向であり、第1耐火部材30A及び第2耐火部材30Bは、上下方向に複数積層されている。よって、上下方向が積層方向となる。
【0041】
最後に、左右方向の各列において、積層方向最上段の第1耐火部材30A又は隙間用耐火部材35と貫通孔Waの内面との間に耐火部材30を挿入する。このとき、図6の2点鎖線に示すように、積層方向最上段に形成された隙間の上下方向及び左右方向への寸法は、第2耐火部材30Bの厚み及び長手方向の寸法より小さい。このため、第2耐火部材30Bを厚み方向及び長手方向に圧縮しながら、第2耐火部材30Bを隙間に詰め込む。この最後に詰め込む第2耐火部材30Bも、隙間に詰め込んだ後は、圧縮状態から原形状に復帰しようとする反力が発生する。この反力により、積層方向に隣り合う第2耐火部材30Bと隙間用耐火部材35、左右方向に隣り合う第2耐火部材30B、及び貫通孔Waの内面に第2耐火部材30Bが圧接する。
【0042】
このとき、押し込む第2耐火部材30Bは両面テープTで貼着しない。また、押し込む第2耐火部材30Bは、接触する第2耐火部材30B及び隙間用耐火部材35との間に発生する摩擦がシート材41により低減され、第2耐火部材30Bを隙間に詰め込みやすくなる。
【0043】
そして、第2耐火部材30Bを、圧縮した状態で隙間に詰め込むと、上下方向に積層された耐火部材30それぞれが、厚み方向に圧縮されるとともに、圧縮状態から原形状に復帰しようとする反力が発生する。
【0044】
また、配線・配管材11の外面と第1耐火部材30Aとの間に隙間用耐火部材35を詰め込む。隙間用耐火部材35においては、発生させたい反力に応じて隙間用耐火部材35を詰め込む向きを調整する。隙間用耐火部材35は、基部31と同様に厚みが薄くなるほど変形しやすく、かつ反力は小さくなり、厚みが厚くなるほど、変形しにくく、かつ反力は大きくなる。このため、発生させたい反力の大きさに合わせて隙間用耐火部材35の向きを選択する。
【0045】
そして、上下方向に積層された全ての第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bに発生した反力を利用して第1耐火部材30Aを配線・配管材11の外面に圧接させる。すなわち、積層方向に隣り合う第1耐火部材30A同士、第2耐火部材30B同士、隙間用耐火部材35と第2耐火部材30B、及び第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bを互いに圧接させる。このとき、上述したように、配線・配管材11の外面に接触する耐火部材30として第1耐火部材30Aを使用するとともに、第1耐火部材30Aより外側に配設される耐火部材30としての第2耐火部材30Bを使用している。
【0046】
よって、反力の大きい第2耐火部材30Bによって第1耐火部材30Aを配線・配管材11に向けて押圧し、第1耐火部材30Aの反力だけでなく第2耐火部材30Bの反力も利用して第1耐火部材30Aを配線・配管材11に圧接させている。その結果、図1の拡大図に示すように、第1耐火部材30Aには、配線・配管材11に向けて反力Fが発生し、第1耐火部材30Aが配線・配管材11に向けて付勢され、第1耐火部材30Aが配線・配管材11に圧接する。
【0047】
第1耐火部材30Aに発生した反力Fは、シート材41を介した第1面31aを、配線・配管材11の外面に押し付ける力として作用する。すると、第1耐火部材30Aの各ブロック部34は、それぞれシート材41を介して配線・配管材11の外周面の形状に合わせて変形する。配線・配管材11が大径になるほど、配線・配管材11に接触するブロック部34の厚み方向への圧縮量が大きくなり、配線・配管材11が小径になるほど、配線・配管材11に接触するブロック部34の厚み方向への圧縮量は小さくなる。また、左右方向に沿って配線・配管材11の径も異なるが、各ブロック部34は、第1耐火部材30Aの長手方向に沿って配線・配管材11の径に追従して圧縮しながら変形する。
【0048】
そして、配線・配管材11の外面に対して第1耐火部材30Aが圧接する。変形しやすい第1耐火部材30Aを配線・配管材11に接触させる位置に配置することで、配線・配管材11と第1耐火部材30Aとの間に隙間が形成されにくいようにする。また、反力の大きい第2耐火部材30Bを第1耐火部材30Aより外側に配置する。すなわち、基部31の厚みに応じて第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bを使い分けることで、配線・配管材11に耐火部材30を圧接させつつ、隙間の形成を抑制している。
【0049】
その結果、貫通孔Waの内面と配線・配管材11の外面との間が、第1耐火部材30Aと、第2耐火部材30Bと、隙間用耐火部材35と、によって隙間無く閉塞される。また、配線・配管材支持ラック20における長尺部材20aの外面に対しても隙間用耐火部材35、第2耐火部材30B又は第1耐火部材30Aが圧接する。なお、耐火部材30及び隙間用耐火部材35で閉塞できない微細な隙間は耐火パテPを充填する。その結果、防火区画壁Wの防火措置構造が完成する。
【0050】
次に、防火区画壁Wの防火措置構造の作用を記載する。
さて、防火区画壁Wの防火措置構造を備える建築物において、防火区画壁Wの一方の壁表側で火災等が発生し、配線・配管材11が燃焼したとする。このとき、配線・配管材11の外面に圧接するのは第1耐火部材30Aである。そして、配線・配管材11から発生する熱によって第1耐火部材30Aが即座に焼失してしまうことはなく、第1耐火部材30Aは熱を受けて膨張する。また、第1耐火部材30Aの周囲の第2耐火部材30B及び隙間用耐火部材35も熱を受けて膨張する。
【0051】
すると、膨張した第1耐火部材30A、第2耐火部材30B及び隙間用耐火部材35によって、配線・配管材11と貫通孔Waとの間が密封閉鎖される。すなわち、配線・配管材11の外面と貫通孔Waの内面との間の隙間が火炎、煙、有毒ガス、熱の経路となることが防止され、防火区画壁Wの他方の壁表側へ火炎、煙、有毒ガス、熱が伝わることが防止される。
【0052】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)耐火部材30の基部31は、膨張黒鉛を含む発泡クロロプレンゴム製である。このため、耐火部材30は、圧縮されると原形状に復帰しようとする反力を備える。よって、貫通孔Waの内面と配線・配管材11の外面との間に耐火部材30を圧縮させた状態で詰め込むと、配線・配管材11の外面に接する耐火部材30(第1耐火部材30A)を、自身の反力及び積層された他の耐火部材30の反力によって、配線・配管材11の外面に圧接させることができる。詳述すると、積層方向に重なり合う全ての耐火部材30の反力を利用して配線・配管材11に耐火部材30を圧接させることができる。よって、耐火部材30を配線・配管材11に圧接させるために、複数の耐火部材30をバンドで囲んだり、2枚の板材で耐火部材30を挟んだりする必要がない。すなわち、耐火部材30を、貫通孔Waの内面と配線・配管材11の外面との間に隙間無く詰め込むだけで、配線・配管材11に耐火部材30を圧接させることができる。よって、防火区画壁Wの防火措置構造を簡素にできるとともに、施工性が容易となる。
【0053】
(2)防火区画壁Wの防火措置構造を構築する際、耐火部材30を圧縮させて隙間に詰め込むと、耐火部材30が原形状に復帰する。基部31は発泡クロロプレンゴム製であり、セラミックウールやロックウールを備えた耐火部材と比べると、反力も大きいため、耐火部材30を配線・配管材11に強く圧接させることができる。
【0054】
(3)発泡体として、発泡クロロプレンゴムを採用したため、基部31をスポンジ状として圧縮変形させやすくしつつ、ゴム弾性により好適な反力を発揮させることができる。
(4)配線・配管材11の外面に接する耐火部材30(第1耐火部材30A)の厚みを、配線・配管材11に接しない耐火部材30(第2耐火部材30B)の厚みより薄くした。第1耐火部材30Aの厚みが薄くなるほど、基部31は変形しやすくなるため、第1耐火部材30Aを配線・配管材11の形状に追従させやすく、配線・配管材11と第1耐火部材30Aとの間に隙間が形成されにくくなる。
【0055】
また、圧縮変形しやすく、かつ反力の小さい第1耐火部材30Aを配線・配管材11の外周面に接触させ、圧縮変形しにくく、かつ反力の大きい第2耐火部材30Bを第1耐火部材30Aの外側に配設した。その結果、反力の大きい第2耐火部材30Bを利用して、反力の小さい第1耐火部材30Aを配線・配管材11の外面に強く圧接させることができる。よって、厚みに応じて耐火部材30を使い分けることで、隙間が形成されにくく、しかも配線・配管材11に耐火部材30を圧接させた防火措置構造を構築できる。
【0056】
(5)例えば、耐火部材として、ロックウールやセラミックウールのブロック体を、熱膨張性耐熱材で四角箱状に成形した外装部材で覆うものがある。このような耐火部材では、外装部材のコーナ部の剛性が高く、配線・配管材11の外面に追従して変形しにくい。しかし、本実施形態の耐火部材30は、発泡クロロプレンゴム製の基部31と、不織布製のシート材41とで構成されており、全体として柔軟である。このため、耐火部材30のいずれの部位、特にコーナ部であっても圧縮変形が妨げられず、耐火部材30を配線・配管材11の形状に追従させて圧接させることができる。
【0057】
(6)基部31は、スリット32に沿って各ブロック部34毎に分断されている。このため、例えば、基部31にスリット32が形成されていない場合と比べると、基部31を配線・配管材11の形状に追従させて変形させやすい。
【0058】
(7)基部31の第1面31a及び第2面31bにはシート材41が貼着され、このシート材41表面の摩擦抵抗は、基部31表面の摩擦抵抗より小さい。このため、シート材41が無く、基部31の表面が露出している場合と比べると、耐火部材30及び隙間用耐火部材35を隙間に滑り込ませやすく、耐火部材30及び隙間用耐火部材35を隙間に詰め込む作業が行いやすい。その結果として、防火措置構造を構築する際の耐火部材30の施工性を高めることができる。
【0059】
(8)シート材41は、スリット32に沿って各ブロック部34毎に分断されている。例えば、ブロック部34毎にシート材41が分断されず、1枚のシート材41が第1面31a全体に貼着されている場合のように、ブロック部34それぞれの変形がシート材41によって妨げられることを無くすことができる。よって、各ブロック部34が独立して変形しやすくなり、配線・配管材11の形状に追従させて変形させやすくなる。
【0060】
(9)積層方向に隣り合う耐火部材30同士を両面テープTで接合した。このため、耐火部材30を隙間に詰め込む際、耐火部材30の押し込みによって、既に設置された耐火部材30が位置ずれすることを抑制できる。また、防火措置構造の構築後は、両面テープTにより、耐火部材30の積層状態を維持できる。
【0061】
(10)耐火部材30は、基部31と、基部31に貼着されたシート材41とを備え、基部31は、発泡クロロプレンゴムであり、ロックウールやセラミックウール等の無機繊維を含まない。このため、隙間用耐火部材35を形成するために耐火部材30を人の手や鋏51で切断しても、その切断面から繊維等の材料が飛散することがなく、材料飛散を防止するために切断面を覆うための処理を施す必要もない。
【0062】
また、耐火部材30を切断するために、耐火部材30に鋏51の刃51aを入れたとき、シート材41により、スポンジ状の基部31の圧縮変形を抑制できる。その結果、基部31の切断が行いやすい。よって、耐火部材30によれば、耐火部材30を切断しても切断面からの材料の飛散がなく、しかも、基部31の切断を容易に行うことができるため、防火措置構造を構築する際の耐火部材30の施工性を高めることができる。
【0063】
(11)シート材41は、スリット32を除く基部31の第1面31aの全体及び、第2面31bの全体に貼着され、鋏51の刃51aが入ることとなる長側縁31cにも存在している。よって、スリット32を除いたいずれの箇所に鋏51の刃51aを入れても、シート材41によって基部31の圧縮変形を抑制でき、基部31の切断が行いやすい。
【0064】
(12)耐火部材30の基部31には、複数のスリット32が設けられるとともに、シート材41は、各スリット32に沿う部分で分断されている。このため、第1面31a側のシート材41は切断する必要がなく、隙間用耐火部材35を簡単に製造できる。
【0065】
(13)シート材41は不織布製である。不織布は、非連続繊維(短繊維)を織らずに形成されており、例えば、連続繊維を織った織物等と比べると柔軟性がある。このため、耐火部材30がシート材41を有していても圧縮変形させやすく、隙間に詰め込む作業が行いやすい。また、圧縮形状から原形状への復帰がシート材41によって妨げられることがなく、耐火部材30及び隙間用耐火部材35自身の反力によって、配線・配管材11に耐火部材30を圧接させることができる。
【0066】
(14)耐火部材30において、スリット32は基部31の長手方向に等間隔おきに設けられるとともに、スリット32同士は平行である。このため、基部31に区画された複数のブロック部34を全て同じ大きさにできる。よって、大きさの違いによって圧縮されにくいブロック部34と、圧縮されやすいブロック部34とが生じることがなく、各ブロック部34を配線・配管材11に追従して変形させることができる。
【0067】
(15)スリット32の深さは、基部31の厚み方向に沿った連結部33の寸法より大きい。すなわち、連結部33の寸法は、スリット32の深さより小さい。このため、連結部33を、人の手及び鋏51で容易に切断できる。
【0068】
(16)隙間用耐火部材35を直方体状とすることで、隙間用耐火部材35の長辺に沿った厚みと、短辺に沿った厚みとで厚みが異なり、厚みに応じて発生する反力も異なる。そして、隙間用耐火部材35を詰め込む向きを選択することで、詰め込む場所に応じた反力を隙間用耐火部材35に発生させることができる。
【0069】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態では、貫通孔Waに収容する閉塞部材の全てを耐火部材30としたが、配線・配管材11の外面に接触する閉塞部材を耐火部材30(好ましくは第1耐火部材30A)とし、その他を、熱膨張性能を有しない閉塞部材としてもよい。
【0070】
熱膨張性能を有しない閉塞部材は、発泡体からなる平板状の基部を備える。基部は、発泡体であることから、厚み方向に圧縮すると原形状へ復帰しようとする反力を備える。基部は、ポリマーを母材とし、発泡剤とともに無機系添加物を添加した母材材料から得られる。発泡体に添加される無機系添加物としては、炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0071】
そして、配線・配管材11の外面と、貫通孔Waの内面との対面方向に、耐火部材30及び閉塞部材が複数積層された状態で、耐火部材30及び閉塞部材が貫通孔Waに収容される。このとき、耐火部材30及び閉塞部材は、厚み方向に圧縮した状態で配線・配管材11の外面と貫通孔Waの内面との間に収容される。そして、配線・配管材11の外面に接する耐火部材30が、耐火部材30自身の反力、及び積層された他の閉塞部材(発泡体)の反力により、配線・配管材11の外面に圧接している。
【0072】
このように構成した場合、耐火部材30を配線・配管材11に圧接させるために、耐火部材30及び閉塞部材をバンドで囲んだり、2枚の板材で、配線・配管材11に接する耐火部材30を挟んだりする必要がない。すなわち、耐火部材30及び閉塞部材を、貫通孔Waの内面と配線・配管材11の外面との間に隙間無く詰め込むだけで、配線・配管材11に耐火部材30を圧接させることができる。よって、防火区画壁Wの防火措置構造を簡素にできるとともに、施工性が容易となる。
【0073】
火災発生時には、閉塞部材は、無機系添加物により火災時にも形状が維持される。また、配線・配管材11の焼失によって生じた隙間は、耐火部材30の膨張により閉塞される。このとき、配線・配管材11の外面に耐火部材30が接しているため、配線・配管材11の熱により耐火部材30が膨張し、隙間を速やかに閉塞できる。
【0074】
なお、閉塞部材に難燃性能を付与する難燃性添加物を添加してもよい。
また、配線・配管材11の外面に接する閉塞部材のみを耐火部材30とせず、配線・配管材11の外面に接しない閉塞部材の一部を耐火部材30としてもよい。
【0075】
さらに、無機系添加物を添加した母材材料を発泡させた閉塞部材と、熱膨張性能を有する耐火部材30とを予め積層させた状態で一体化したものを、その積層方向が、配線・配管材11の外面と、貫通孔Waの内面との対面方向に一致させて貫通孔Waに収容してもよい。
【0076】
なお、熱膨張性能を有しない閉塞部材は、基部の材質が異なる以外は、耐火部材30と同じであってもよく、スリット32、連結部33、ブロック部34、シート材41を耐火部材30と同じ態様で備えていてもよい。
【0077】
また、熱膨張性能を有しない閉塞部材をスリット32や、スリット32以外の部位から切断して得られた閉塞部材を、隙間用閉塞部材として隙間に詰め込んでもよい。
○ 実施形態において、耐火部材30同士を予め積層させた状態で一体化したものを、その積層方向が、配線・配管材11の外面と、貫通孔Waの内面との対面方向に一致させて貫通孔Waに収容してもよい。
【0078】
○ 実施形態では、貫通孔Waに収容する閉塞部材の全てを耐火部材30としたが、貫通孔Waに収容する複数の閉塞部材のうち、配線・配管材11の外面に接しない一部の閉塞部材を、熱膨張性能を有する閉塞部材である耐火部材30としてもよい。
【0079】
図8に示すように、耐火部材30は、基部31だけで構成され、シート材41を備えない構成であってもよい。この場合、基部31には、第1面31aから厚み方向に延びるスリット32が形成されるとともに、スリット32よりも第2面31b側には連結部33が形成されている。耐火部材30の厚み方向に沿うスリット32の寸法(深さ)は、連結部33の厚みより大きい。このため、図9に示すように、耐火部材30の連結部33は、人の手で容易に切断することができる。そして、スリット32で区切られた1つのブロック部34を隙間用耐火部材35とする場合は、連結部33を切断する。
【0080】
図10に示すように、耐火部材30を、ブロック状に形成された複数の基部31と、複数の基部31を並べた状態で一体化すべく、各基部31に貼着されたシート材41と、から構成してもよい。この場合、シート材41は、各基部31の片面のみに貼着される。なお、不織布製のシート材41の代わりに、樹脂プレートのような硬質材料で形成され、シート材41より柔軟性の低い材料で形成されたベース部材に複数の基部31を貼着して耐火部材としてもよい。この場合、ベース部材は人の手、及び鋏51等の手動切断工具で破断し切断できる。
【0081】
このように構成した場合、耐火部材30は複数の基部31に予め分割されているため、基部31を隙間用耐火部材35として使用する場合は、シート材41又はベース部材を切断するだけでよく、隙間用耐火部材35を容易に形成できる。
【0082】
図11に示すように、シート材41は、基部31の第1面31a及び第2面31bの一方の長側縁31cに沿って貼着されていてもよい。このように構成した場合、耐火部材30に鋏51の刃51aを入れるとき、刃51aは最初に基部31の長側縁31cに入る。このため、長側縁31cのみにシート材41が貼着されていても、シート材41により、刃51aを入れた部位の圧縮変形が抑制されるため、切断が容易となる。
【0083】
図12に示すように、防火区画壁Wの外面に、防火区画壁Wの貫通孔Waの周縁に沿う筒状部材50を固定し、筒状部材50によって囲まれた空間及び貫通孔Waを含めて、防火区画壁Wに設けられた貫通孔50aとしてもよい。そして、防火区画壁Wの防火措置構造について、筒状部材50の内面を貫通孔50aの内面とし、その貫通孔50aの内面と配線・配管材11の外面との間に耐火部材30を収容して形成してもよい。なお、耐火部材30は、筒状部材50内のみに収容されていてもよいし、筒状部材50と防火区画壁Wに跨って収容されていてもよい。
【0084】
○ 実施形態では、対面方向となる上下方向に耐火部材30を積み重ねて、複数の耐火部材30を積層したが、図13に示すように、配線・配管材11の外面と貫通孔Waの内面との対面方向を左右方向とした場合、耐火部材30の厚み方向が左右方向に合致するように複数の耐火部材30を収容し、左右方向を耐火部材30の積層方向としてもよい。この場合、シート材41は両面テープが好ましく、シート材41によって左右方向(積層方向)に隣り合う基部31同士を接合する。
【0085】
なお、防火区画壁Wの防火措置構造は、全ての耐火部材30を左右方向に積層して構築してもよい。
○ 実施形態では、基部31の厚みに基づく反力と変形しやすさに応じて耐火部材30を使い分けたが、基部31における発泡度や合成ゴムの密度に基づく反力と変形しやすさに応じて耐火部材30を使い分けてもよい。
【0086】
○ 基部31の表面における摩擦抵抗よりもシート材41表面の摩擦抵抗が低くなれば、シート材41は不織布以外の材料で形成されていてもよい。例えば、シート材41は、織物や編み物、樹脂シートで形成されていてもよい。
【0087】
○ 実施形態では、積層方向に隣り合う耐火部材30同士を両面テープTで接合したが、両面テープTによる接合はなくてもよい。
○ 実施形態では、積層方向に隣り合う耐火部材30同士を両面テープTで接合したが、積層方向に隣り合う耐火部材30同士を、両面テープP以外の方法、例えば接着剤で接合してもよい。
【0088】
○ 基部31の第1面31aに貼着されたシート材41は、スリット32に沿って分断されておらず、スリット32を覆うように第1面31aの全体に貼着されていてもよい。このように構成した場合、スリット32を覆うようにシート材41が貼着されていても、シート材41を分断する際、スリット32を、鋏51の刃51aを入れる箇所として利用できる。また、施工前はシート材41は分断されていないが、施工時に、スリット32に沿ってシート材41を切り込んで、実施形態の耐火部材30と同様な態様にしてもよい。
【0089】
また、配線・配管材11に接触させる第1耐火部材30Aのシート材41は、スリット32に沿って分断し、配線・配管材11に接触させない第2耐火部材30Bのシート材41は、分断しなくてもよい。
【0090】
○ 耐火部材30及び閉塞部材は、基部31のみで構成され、シート材41はなくてもよい。
○ シート材41は、基部31の第2面31bのみに貼着されていてもよいし、第1面31aのみに貼着されていてもよい。
【0091】
○ 実施形態では、第1耐火部材30Aと第2耐火部材30Bを併用したが、耐火部材30の厚みを1種類だけとしてもよい。
○ 耐火部材30及び閉塞部材のスリット32は無くてもよい。この場合であっても、基部31は配線・配管材11の外面形状に追従して変形し、反力によって配線・配管材11の外面に圧接する。
【0092】
○ 耐火部材30及び閉塞部材のスリット32の数は、適宜変更してもよい。
○ 耐火部材30及び閉塞部材のスリット32は、長手方向に等間隔おきに形成されていなくてもよい。
【0093】
○ 耐火部材30及び閉塞部材の複数のスリット32の深さは、全て同じでなく、異なっていてもよい。
○ スリット32の深さは、基部31の厚みの半分より小さくてもよい。
【0094】
○ 耐火部材30及び閉塞部材のスリット32は、基部31の短手方向に延びる形状以外であってもよい。例えば、スリット32は、基部31の長手方向に延びていてもよいし、短手方向及び長手方向に延びる十字状であってもよい。
【0095】
○ 耐火部材30及び閉塞部材の厚みを3種類以上設定してもよい。この場合であっても、配線・配管材11の外周面に接する耐火部材30及び閉塞部材の厚みを最も薄くするのが好ましい。
【0096】
○ 耐火部材30及び閉塞部材は、施工前はスリット32を備えておらず、施工時に、シート材41及び基部31を同時に切り込んで基部31にスリット32を形成してもよい。
【0097】
○ 耐火部材30及び閉塞部材は矩形平板状でなくてもよい。例えば、耐火部材30及び閉塞部材は、第1面31a及び第2面31bが正方形状をなす平板状であってもよいし、第1面31a及び第2面31bが長楕円状をなす平板状であってもよい。
【0098】
○ 防火区画壁Wの貫通孔Waは矩形孔状でなく、円孔状や、楕円孔状であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
W…防火区画壁、Wa,50a…貫通孔、11…貫通部材としての配線・配管材、30…熱膨張性能を有する閉塞部材としての耐火部材、31…基部、32…スリット、34…ブロック部、35…隙間用耐火部材、41…シート材。
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