(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】レトルト赤飯の素及びその製造方法並びに赤飯の素セット
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20220201BHJP
【FI】
A23L7/10 E
(21)【出願番号】P 2017239986
(22)【出願日】2017-12-14
【審査請求日】2020-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2016254945
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 朋子
(72)【発明者】
【氏名】堀池 史
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-140278(JP,A)
【文献】特開2008-148598(JP,A)
【文献】特開2002-315519(JP,A)
【文献】特開2002-354989(JP,A)
【文献】特開2004-000165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱容器内にレトルト処理された豆類、乳酸カルシウム、ウェランガム及び水を含む、レトルト赤飯の素。
【請求項2】
さらにトレハロースを含む、請求項1に記載のレトルト赤飯の素。
【請求項3】
耐熱容器内にレトルト処理された豆類、0.65~1.0質量%の乳酸カルシウム、0.3~0.8質量%のグアーガム、トレハロース及び水を含み、トレハロースは固形分の10~30質量%含まれる、レトルト赤飯の素。
【請求項4】
乳酸カルシウムとウェランガムを含む調味液、豆類を耐熱容器に収容後密封し、レトルト処理を行うことを特徴とする、レトルト赤飯の素の製造方法。
【請求項5】
調味液がさらにトレハロースを含む、請求項4に記載のレトルト赤飯の素の製造方法。
【請求項6】
0.65~1.0質量%の乳酸カルシウムと、0.3~0.8質量%のグアーガム、トレハロースを含む調味液、豆類を耐熱容器に収容後密封し、レトルト処理を行う工程を含み、トレハロースは固形分の10~30質量%含まれることを特徴とする、レトルト赤飯の素の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載のレトルト赤飯の素と、生のもち米、生のうるち米、生のもち米とうるち米の混合物のいずれかを含む赤飯の素セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト赤飯の素及びその製造方法並びに赤飯の素セットに関する。
【背景技術】
【0002】
赤飯は、小豆、ささげ豆などの豆類の煮汁に食塩などの調味料を添加した調味液にもち米を漬けて火にかけて調味液を吸わせ、煮た豆類をもち米と合わせ蒸し器で蒸すことで製造されるが、調理に時間がかかるだけでなく、豆類が胴割れしないように微妙な火加減が要求され、難易度が高い。
【0003】
そこで、家庭で常備されている電気式やガス式の炊飯器を利用して簡単に赤飯を調理できるように、予め豆類を調理加工し、家庭において洗米済のもち米又はうるち米とあわせて炊飯するだけでよいレトルト赤飯の素が提案されている(特許文献1~5)。
【0004】
特許文献1は、洗浄後に水切りした豆類を水又は食塩水とともに、耐熱性容器包装に収容し、脱気、密閉した後、密閉容器内において温度100℃~135℃、加熱時間10分から30分加圧加熱処理する方法を報告している。この方法では、豆類は水又は食塩水とともに加圧加熱処理されているので、加圧加熱処理中あるいは炊飯時に豆類の胴割れが多いうえに豆類が非常に柔らかく、食感が悪い。
【0005】
特許文献2は、洗浄後に水切りした豆類を蒸し器で膨潤させ、膨潤させた豆類を耐熱性容器包装内に入れて真空包装し真空包装した豆類を加圧加熱殺菌処理する方法を報告している。この方法では、豆を蒸すという工程が必要であるため製造設備に蒸し器が必要となり製造工程が複雑になる。また、炊飯調理時に熱湯を入れて放置する、あるいは豆をいったん茹でるなどの色出し作業が必要になり炊飯時の簡便性が損なわれる。
【0006】
特許文献3は、前処理後乾燥させた小豆と、煮汁を顆粒状に乾燥させたもの、もち米をセットにした赤飯の素を提案している。この方法では、いったん吸水させた小豆を再度乾燥させねばならず、加工工程が煩雑であること、乾燥工程で煮汁の風味・色調が劣化するため好ましくない。
【0007】
特許文献4は、洗浄後に水切りした豆類を、乳酸カルシウム単独又は乳酸カルシウム及びその他調味料を含有する調味液とともに耐熱容器包装に収容した後、加熱と加圧加熱の2段階で加熱処理する方法を報告している。この方法は、胴割れを低減させる効果があるが、さらなる胴割れを低減させる効果を示す技術が求められていた。
【0008】
特許文献5は、トレハロースを添加した赤飯の実施例を記載しているが、特許文献5の目的は、でんぷん糊化食品の食味低下の抑制であり、レトルト処理に関する記載はなく、小豆の胴割れ防止の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-172991号公報
【文献】特開2003-339334号公報
【文献】特開2004-165号公報
【文献】特許4743713号
【文献】特許5118635号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、豆の胴割れが少なく、赤飯を炊いたときの食感、風味に優れ、色むらのないレトルト赤飯の素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のレトルト赤飯の素及びその製造方法並びに赤飯の素セットを提供するものである。
項1. 耐熱容器内にレトルト処理された豆類、乳酸カルシウム、グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類及び水を含む、レトルト赤飯の素。
項2. さらにトレハロースを含む、項1に記載のレトルト赤飯の素。
項3. 豆類が小豆又はささげ豆である、項1又は2に記載のレトルト赤飯の素。
項4. 乳酸カルシウムとグアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類を含む調味液、豆類を耐熱容器に収容後密封し、レトルト処理を行うことを特徴とする、レトルト赤飯の素の製造方法。
項5. 調味液がさらにトレハロースを含む、項4に記載のレトルト赤飯の素の製造方法。
項6. 豆類が小豆またはささげ豆であることを特徴とする項4又は5に記載のレトルト赤飯の素の製造方法。
項7. 項1~3のいずれかに記載のレトルト赤飯の素と、生のもち米、生のうるち米、生のもち米とうるち米の混合物のいずれかを含む赤飯の素セット。
【発明の効果】
【0012】
小豆、ささげ豆などの豆類をレトルト殺菌すると、80%以上が胴割れを起こしていたが、調味液に乳酸カルシウム及びグアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類を配合することで、胴割れを著しく軽減することができた。
【0013】
また、炊き上がりの色むらが無く、均一に色のついた赤飯を炊くことができた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
赤飯の素において使用する原料となる豆類としては、従来より赤飯用に使用されている小豆、ささげ豆等を使用することができる。これら豆類は使用に際しては十分に汚れやゴミを取り除くために水による洗浄を行い、洗浄後は直ちに水切りを行うことが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法では、豆類を調味液とともに耐熱容器に収容後に密封し、レトルト処理を行うことで、レトルト赤飯の素を得ることができる。レトルト処理の温度は、好ましくは110~135℃、より好ましくは115~130℃、さらに好ましくは120~125℃が挙げられ、レトルト処理の時間は、好ましくは5~60分間、より好ましくは10~40分間、さらに好ましくは20~30分間が挙げられる。耐熱容器に調味液とともに収容される豆類は、水による洗浄を行い、水切りをしたものが好ましく使用される。
【0016】
レトルト処理するときの調味液に乳酸カルシウム及びグアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類を配合し、レトルト処理を行う。胴割れ率をさらに低減するために調味液にはさらに、トレハロースを添加することが好ましい。
【0017】
本発明で使用する増粘多糖類としては、グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガムが挙げられ、好ましくはグアーガム、ウェランガム及びキサンタンガムであり、最も好ましくはグアーガム及びウェランガムである。本発明の1つの好ましい実施形態では、グアーガム又はウェランガムを単独で使用するか、グアーガム及び/又はウェランガムとキサンタンガム及び/又はローカストビーンガムを組み合わせて使用することができる。
【0018】
レトルト処理に使用する調味液100質量%において:
乳酸カルシウムは、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6~2.0質量%程度、さらに好ましくは0.65~1.0質量%程度含まれ、
グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2~1.0質量%程度、さらに好ましくは0.3~0.8質量%程度含まれる。
【0019】
トレハロースをさらに配合する場合、調味液100質量%中において、トレハロースは好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0~10.0質量%程度、さらに好ましくは1.5~5.0質量%程度含まれる。
【0020】
調味液には、乳酸カルシウム、グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類、トレハロースの他に調味原料を添加することが好ましい。調味原料としては、食塩、酒、蜂蜜、みりん、砂糖などの糖類、醤油などが挙げられる。これらの調味原料は単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明のレトルト赤飯の素には、豆類、乳酸カルシウム、グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類及び水が含まれ、さらに任意成分としてトレハロース及び調味原料が含まれていてもよい。レトルト赤飯の素の固形分は、豆類(レトルト処理がされていないもの、水洗し、水切りしたものは含まれる)、乳酸カルシウム、グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類が必須成分であり、任意成分としてトレハロース、調味原料を配合してもよい。
【0022】
レトルト赤飯の素の固形分の各成分の割合は、固形分全体を100質量%とすると:
小豆、ささげ豆などの豆類は、好ましくは20~90質量%程度、より好ましくは35~78質量%程度であり、
乳酸カルシウムは、好ましくは0.5~10質量%程度、より好ましくは1~7質量%程度であり、
グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類は、好ましくは0.1~10質量%程度、より好ましくは0.3~5質量%程度である。
【0023】
トレハロースをさらに配合する場合、レトルト赤飯の素の固形分において、トレハロースは好ましくは0.5~50質量%程度、より好ましくは10~30質量%程度含まれる。
【0024】
食塩を配合する場合、レトルト赤飯の素の固形分において、食塩は、好ましくは1~20質量%程度、より好ましくは2~10質量%程度含まれる。
【0025】
砂糖などの糖類を配合する場合、レトルト赤飯の素の固形分において、糖類は、好ましくは2~50質量%程度、より好ましくは10~40質量%程度含まれる。
【0026】
乳酸カルシウム、グアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類、トレハロースを除く調味原料(食塩、砂糖を含む)は、レトルト赤飯の素の固形分において、好ましくは3.0~78.9質量%程度、より好ましくは12~77.7質量%程度含まれる。
【0027】
レトルト赤飯の素に含まれる水の量は、上記の調味液中の乳酸カルシウムとグアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類の濃度になるように適宜決定できる。
【0028】
グアーガムとは、グアープラントの種子の胚乳部分から得られる水溶性多糖類であり、増粘、乳化、安定、結着、保水等の目的で使用される食品添加物である。
【0029】
ウェランガムとは、微生物(Sphingomonas sp.)から得られる水溶性多糖類であり、増粘、乳化、安定、結着、保水等の目的で使用される食品添加物である。
【0030】
キサンタンガムとは、微生物(Xanthomonas campestris)から得られる水溶性多糖類であり、増粘、乳化、安定、結着、保水等の目的で使用される食品添加物である。
【0031】
ローカストビーンガムとは、カロブ樹の種子から得られる水溶性多糖類であり、増粘、乳化、安定、結着、保水等の目的で使用される食品添加物である。
【0032】
豆類と、乳酸カルシウム及びグアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類、必要に応じてさらにトレハロース、調味原料を含む調味液との質量比は、好ましくは洗浄前の豆類の1に対して好ましくは2~20倍程度、より好ましくは3~15倍程度が挙げられる。
【0033】
豆類を密封する耐熱容器としては、耐熱性のプラスチック袋やプラスチック容器類、あるいはアルミパックのような金属製の袋又は容器類が使用されるが、このうちプラスチック袋やプラスチック容器類は、適度の遮光性を有する非通気性および非透湿性のものであることが好ましい。
【0034】
耐熱容器に収容された後、密封する際には、酸素による風味・色調の劣化を抑制するため、できるだけ空気を含まないように密封することが望ましい。容器包装を収容したチャンバー内を真空引きして脱気包装する方法、真空引き後窒素ガス、炭酸ガスなどを吹き込んで空気を置換する方法など定法に従えばよい。
【0035】
脱気包装された豆類と乳酸カルシウムとグアーガム、ウェランガム、キサンタンガム及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる少なくとも1種の増粘多糖類、必要に応じてさらにトレハロース、調味原料を含む水または調味液は、耐熱容器ごと密閉容器内で加圧加熱処理(レトルト処理)される。この加圧加熱処理に使用される密閉容器としてはレトルト釜などの使用が好ましい。
【0036】
家庭においては、本発明のレトルト赤飯の素と米(うるち米及び/又はもち米)をあわせ、適宜水を加え、家庭で常備されている電気式やガス式の炊飯器を利用して、誰にでも簡単に赤飯を失敗することなく炊くことができる。また、この赤飯の素と、生の米(うるち米及び又はもち米)をセットで販売すれば、家庭において他の原料を準備する手間もなく、赤飯を炊くことも可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
18.5gの小豆(カナダ産えりも種)を計量し、十分に水洗いしてゴミ、汚れを取り除いた後、直ちに水切りしたものをレトルト袋内に乳酸カルシウム0.74質量%、トレハロース濃度2.0質量%、グアーガム濃度0.33質量%の調味液183.5gと共に投入し、袋を脱気、密封した。この袋をレトルト釜で120℃25分間加圧加熱殺菌を行った。
【0038】
得られたレトルト赤飯の素を袋から出して観察したところ、艶のある、胴割れの少ない小豆を得ることができた。
【0039】
胴割れの評価は次のように行った。得られたレトルト赤飯の素から小豆を取り出し、胴割れを起こしているものと割れていないものの粒数を測定し、胴割れ率を算出した。結果を表2に示す。
【0040】
得られたレトルト赤飯の素と、無洗米450gと、水460gを炊飯器に入れ、スイッチを入れて炊き上げた。得られた赤飯は、小豆の胴割れが少なく、色むらがほとんど或いは全くなく、食感及び風味も良いものであった。
【0041】
色むらの評価は次のように行った。炊飯器で炊き上げた後、炊飯器のふたを開けた状態で、炊き上がった赤飯を上から目視し、下記4段階で色むらの状態を評価した。(表3)。
◎色むらが全くない。
〇ほとんど色むらがない。
△一部に色の濃い部分がある。
×全体に色素の粒が散らばっている。
【0042】
得られた赤飯の食感、風味については、表3の備考欄に記載した。
実施例2~8及び比較例1~4
実施例1と同様にしてレトルト処理された赤飯の素を調製して胴割れの評価を行った(表2)。また、実施例1と同様にレトルト赤飯の素と、無洗米450gと、水460gを炊飯器に入れ、スイッチを入れて炊き上げて赤飯を得、色むら、食感、風味を評価した。結果を表3に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
表1~3の結果から、本発明のレトルト赤飯の素は豆の胴割れが少なく、それを用いて炊きあげた赤飯は、色むらがほとんど或いは全くなく、食感と風味に優れたものであった。