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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】シートリクライニング装置
(51)【国際特許分類】
   A47C 1/025 20060101AFI20220201BHJP
   B60N 2/235 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
A47C1/025
B60N2/235
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017250399
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019115432
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】590001164
【氏名又は名称】シロキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲輝
(72)【発明者】
【氏名】東 伸匡
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 昇馬
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】熊本 致知
(72)【発明者】
【氏名】江崎 敦彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
【審査官】田中 佑果
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147526(JP,A)
【文献】特開2014-239721(JP,A)
【文献】特開2015-147010(JP,A)
【文献】特開2003-299544(JP,A)
【文献】特開2007-159847(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0321585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 1/025
B60N 2/22
B60N 2/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションに設けられるベース部材と、
シートバックに設けられて内歯を有し、前記ベース部材に対して回転軸線を中心として回転可能なラチェットと、
前記ベース部材に対して前記回転軸線を中心とする径方向に移動可能に支持され、前記内歯に噛合する噛合位置と該噛合を解除する噛合解除位置に移動する複数のポールと、
を備え、
前記複数のポールは、第1制限部を有する第1ポールと、第2制限部を有する少なくとも1つの第2ポールを有し、
前記ラチェットは、前記第1制限部との当接により前記噛合位置への前記第1ポールの移動を規制する第1ポール規制部と、前記第2制限部との当接により前記噛合位置への前記第2ポールの移動を規制する第2ポール規制部とを有し、
前記第2制限部は前記第1制限部よりも径方向内側に配置され、前記第2ポール規制部は前記第1ポール規制部よりも径方向内側に配置され、
前記ラチェットは前記ベース部材に対して、前記第1ポール規制部と前記第1制限部が径方向に対向するアンロック範囲において前記第1ポール及び前記第2ポールと前記内歯との前記噛合を生じずに回転可能であり、前記アンロック範囲の一部に、前記第2ポール規制部と前記第2制限部の互いの少なくとも一部が径方向に対向する特定範囲を有し、
全ての前記第2ポールの重心は前記回転軸線を通る水平線より上方に位置することを特徴とするシートリクライニング装置。
【請求項2】
前記ベース部材は、前記第2ポールを、前記回転軸線を中心とする回転方向への移動を規制しながら前記径方向へ移動可能に案内する第2ポール案内部を有し、
前記第2ポール案内部は、前記径方向で前記回転軸線に近づくにつれて下方に延びる直線状の溝状部である、請求項1に記載のシートリクライニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートバックの角度調整を行うことが可能なリクライニングシートに設けられるシートリクライング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リクライニングシートのシートクッション側フレームとシートバック側フレームの間に設けたリクライニング装置として、シートクッション側フレームに固定したベースプレート(ロアアーム)と、シートバック側フレームに固定され内周面に環状の内歯を有するラチェットプレート(アッパアーム)と、ベースプレートの半径方向に移動可能に支持されたポール(周方向に位置を異ならせて複数個設けられる)とを備え、各ポールに形成した外歯をラチェットプレートの内歯に噛合させることによってラチェットプレートとベースプレートの相対回転を規制したロック状態にさせるタイプが広く用いられている。ポールはバネなどの付勢手段によって外歯を内歯に噛合させるロック方向(径方向外側)に付勢されており、この付勢力に抗してカム部材などを用いてポールをロック解除方向(径方向内側)に移動させることで、ロック解除状態になる。
【0003】
この種のシートリクライニング装置は、ベースプレートに対してラチェットプレートが所定の角度範囲にあるときに、ロック方向へのポールの移動を規制する機構を備えたものがある(特許文献1)。ポールの移動を規制する機構として、ラチェットプレートには径方向内側に向くポール規制部が設けられ、ポールにはポール規制部に対して径方向内側から当接可能な突起状の制限部が設けられる。制限部とポール規制部が径方向に並ぶ(対向する)位置関係にあるときには、制限部がポール規制部に対して当接することによって径方向外側へのポールの移動量が制限され、ポールの外歯がラチェットプレートの内歯に噛合しない。つまり、ベースプレートに対するラチェットプレートの回転が許容される。制限部とポール規制部が径方向に並ばない(対向しない)位置関係にあるときには、制限部がポール規制部に当接することなく、ポールの外歯がラチェットプレートの内歯に噛合する位置までポールが移動可能となる。制限部とポール規制部が径方向に並ばない関係になるラチェットプレートの角度範囲をロック範囲、制限部とポール規制部が径方向に並ぶ関係になるラチェットプレートの角度範囲をアンロック範囲とする。
【0004】
ラチェットプレートがアンロック範囲において回転すると、ポール規制部に対して制限部が摺動する。ラチェットプレートがアンロック範囲からロック範囲に移行するときに、制限部がポール規制部の周方向端部に至ると、ポールに加わる付勢力によって該ポールが径方向外側に押し出される。制限部がポール規制部の周方向端部に達する手前の角度で、制限部とポール規制部の周方向における接触範囲(当接面積)が小さくなる。この状態で外部からの力などによってポールが径方向外側に押されると、制限部とポール規制部の狭い接触範囲に押圧力が集中して過大な負荷がかかるおそれがある。
【0005】
複数のポールのそれぞれに制限部を設けて、ラチェットプレートのアンロック範囲で当接する制限部とポール規制部の数を多くすることで、前記の押圧力を分散させてポールの変形などを防ぐことができる。その一方で、ポールの制限部とラチェットプレートのポール規制部の数が多くなると、各制限部と各ポール規制部を形成するための周方向のスペースが大きくなるため、ロック範囲とアンロック範囲を合わせたラチェットプレートの回転方向の可動範囲(シートバックの動作量)が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-42239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シートバックの動作量の制限が少なく、内部機構の強度が高く、かつ動作の確実性に優れるシートリクライニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシートリクライニング装置は、シートクッションに設けられるベース部材と、シートバックに設けられ、内歯を有しベース部材に対して回転軸線を中心として回転可能なラチェットと、ベース部材に対してラチェットの回転軸線を中心とする径方向に移動可能に支持され、ラチェットの内歯に噛合する噛合位置と該噛合を解除する噛合解除位置に移動する複数のポールとを備える。複数のポールは、第1制限部を有する第1ポールと、第2制限部を有する少なくとも1つの第2ポールを含んでいる。ラチェットは、第1制限部との当接により噛合位置への第1ポールの移動を規制する第1ポール規制部と、第2制限部との当接により噛合位置への第2ポールの移動を規制する第2ポール規制部とを有する。第2制限部は第1制限部よりも径方向内側に配置され、第2ポール規制部は第1ポール規制部よりも径方向内側に配置される。ラチェットは前記ベース部材に対して、第1ポール規制部と第1制限部が径方向に対向するアンロック範囲において第1ポール及び第2ポールと内歯との噛合を生じずに回転可能であり、アンロック範囲の一部に、第2ポール規制部と第2制限部の互いの少なくとも一部が径方向に対向する特定範囲を有する全ての第2ポールの重心は、ラチェットの回転軸線を通る水平線より上方に位置する。
【0009】
この構成によると、ラチェットのアンロック範囲の一部である特定範囲において、第1ポールの第1制限部に加えて第2ポールの第2制限部により径方向の力を受けることが可能であり、耐荷重性を向上させることができる。また、第2制限部と第2ポール規制部がそれぞれ第1制限部と第1ポール規制部よりも径方向内側に位置するため、第2制限部と第1ポール規制部が径方向に対向する位置までラチェットを回転させても第2ポールを噛合位置に移動させることができ、ラチェットの回転可能な範囲を拡大させることができる。さらに、ベース部材に対するラチェットの回転中心である回転軸線を通る水平線よりも第2ポールの重心が上方に位置することにより、第2ポールは重力による噛合解除位置側への移動力を受けるので、第2制限部と第2ポール規制部が回転方向に当接してラチェットの回転を妨げるような位置に第2ポールが留まるおそれが少なく、確実な動作を実現することができる。
【0010】
ベース部材は、回転軸線を中心とする回転方向への第2ポールの移動を規制しながら径方向へ移動可能に第2ポールを案内する第2ポール案内部を有し、第2ポール案内部は、径方向で回転軸線に近づくにつれて下方に延びる直線状の溝状部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によると、シートバックの動作量の制限が少なく、内部機構の強度が高く、かつ動作の確実性に優れるシートリクライニング装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】リクライニングシートの側面図である。
図2】シートリクライニング装置の分解斜視図である。
図3】ラチェットプレートのロック範囲で、第1ポールと第2ポールが噛合位置にある状態のシートリクライニング装置の側面図である。
図4】ラチェットプレートのロック範囲で、第1ポールと第2ポールが噛合解除位置にある状態のシートリクライニング装置の側面図である。
図5】ラチェットプレートのアンロック範囲で、第1保持突部に対して第1ポールの保持突起が当接した状態のシートリクライニング装置の側面図である。
図6】ラチェットプレートのアンロック範囲で、第2ポールの補助保持突起が第2保持突部に対向した状態のシートリクライニング装置の側面図である。
図7】ラチェットプレートがアンロック範囲からロック範囲に切り替わる直前のシートリクライニング装置の側面図である。
図8図3のVIII-VIII線に沿う断面図である。
図9】ラチェットプレートの側面図である。
図10】ベースプレートの側面図である。
図11】第1ポールの側面図である。
図12】第2ポールの側面図である。
図13】ベースプレートにより第1ポールと第2ポールを支持した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を適用した実施形態について説明する。なお、以下の説明中の左右方向は図2図8に記載した「左」、「右」の矢線方向に対応しており、実施形態の車両用のリクライニングシート10とシートリクライニング装置15では右側が車外側、左側が車内側となる。また、内周側はシートリクライニング装置15の径方向の中心側(内径側)を意味し、外周側はシートリクライニング装置15の径方向の中心側とは反対側(外径側)を意味する。図3ないし図7図10図13に記載した「上」、「下」の矢線方向は、図1のようにリクライニングシート10を車両床面上に据え付けた状態での上下方向に対応している。すなわち、車両が傾斜のない平坦な場所にある場合、図3ないし図7図10図13中の「下」方向が、重力の作用する鉛直方向となる。
【0014】
図1に示す車両用シートであるリクライニングシート10は、車両の進行方向に向かって右側の座席を構成するものであり、シートレールを介して車両の車内床面に支持されるシートクッション11と、シートクッション11の後部に対して傾動可能なシートバック12とを備えている。リクライニングシート10の内部には、シートクッション11をシートバック12に対して前方へ回転付勢する前倒付勢スプリング(不図示)が設けられている。
【0015】
シートクッション11の内部には左右一対のシートクッション側フレーム(図示略)が設けられ、シートクッション11の後部には上方に突出する後部フレーム(図示略)が固定状態で設けられている。シートバック12の内部には左右一対のシートバック側フレーム(図示略)が設けられている。左右の後部フレームの間に左右のシートバック側フレームが位置し、左右のシートバック側フレームと左右の後部フレームがそれぞれ左右方向(車幅方向)に対向する。
【0016】
リクライニングシート10の左側(車内側)では、後部フレームとシートバック側フレームは図示を省略した回転接続軸を介して回転可能に接続している。一方、図1に表れているリクライニングシート10の右側(車外側)では、後部フレームとシートバック側フレームの間には両者を左右方向の軸回りに回転可能に接続するシートリクライニング装置15が設けられている。シートバック12はシートクッション11に対して、当該回転接続軸及びシートリクライニング装置15を中心に回転可能である。
【0017】
具体的には、シートバック12は図1に示す前傾位置12Aと後傾位置12Bとの間を傾動可能である。シートリクライニング装置15の構成については後述するが、図1に示す初段ロック位置12Cから後傾位置12Bまでは、シートリクライニング装置15がロック状態になることでシートバック12の角度保持が可能なロック範囲である。ロック範囲では、シートリクライニング装置15に対してアンロック操作を行うことで一時的にロック状態を解除して、シートバック12の角度調整を行うことができる。前傾位置12Aから初段ロック位置12Cの直前までは、シートリクライニング装置15がロック状態にならないアンロック範囲である。
【0018】
続いて図2以下を参照してシートリクライニング装置15の詳しい構造について説明する。図2に示すように、シートリクライニング装置15は主要な構成要素として、ベースプレート(ベース部材)20、第1ポール30及び第2ポール31、回転カム40、レリーズプレート50、ラチェットプレート(ラチェット)60、ロックスプリング70、押えリング80を具備している。
【0019】
金属製の円盤部材であるベースプレート20はプレス成形品であり、図2図10図13に示すように、ベースプレート20の中心部には円形の軸挿通孔21が貫通孔として形成されている。ベースプレート20の左側面の周縁部には円形の大径環状フランジ22が突設され、大径環状フランジ22の内側に収納空間が形成されている。ベースプレート20の左側面には軸挿通孔21を中心とする周方向に等角度(120°)間隔で並んだ3つの溝形成用突部23が突設されている。
【0020】
各溝形成用突部23はベースプレート20の内周側から外周側に進むにつれて周方向幅を大きくする略扇形状をなしており、各溝形成用突部23の外周面と大径環状フランジ22の間には円弧状の隙間が形成される(図2図10参照)。各溝形成用突部23の両側には案内平面23a、23bが設けられている。隣り合う溝形成用突部23の案内平面23a、23bは互いに略平行であり、その間に案内溝24が形成される。すなわち、ベースプレート20には周方向に位置を異ならせて3つの案内溝24が形成されており、これらを第1ポール案内溝24Aと第2ポール案内溝24Bと第2ポール案内溝24Cとして区別する(図2図10参照)。各溝形成用突部23には、案内平面23bの途中にバネ掛け凹部25が形成されている。
【0021】
シートリクライニング装置15は、それぞれが金属板のプレス成形品である1つの第1ポール30と2つの第2ポール31を備えており、ベースプレート20の各案内溝24内に第1ポール30と第2ポール31が1つずつ配設されている。図11図12に示すように、第1ポール30と第2ポール31は、互いの形状と配置が異なる保持突起(第1制限部)32と補助保持突起(第2制限部)33を有しており、それ以外は共通する構成を備えている。第1ポール30と第2ポール31で構成が共通する部分は同じ符号で示す。
【0022】
図11図12に示すように、第1ポール30と第2ポール31はいずれも周方向の両側に案内平面23a、23bに沿って摺動可能な面を有する。第1ポール30の左側面には保持突起32とカムフォロア34が設けられ、第2ポール31の左側面には補助保持突起33とカムフォロア34が設けられている。第1ポール30と第2ポール31のそれぞれの円弧状をなす外周面には外歯35が形成されている。第1ポール30と第2ポール31のそれぞれの内周部には、径方向内側に向けて突出する被抑制部36と被押圧部37が形成されている。
【0023】
図11図13に示すように、第1ポール30の保持突起32は、周方向(ベースプレート20に対するラチェットプレート60の回転方向)に長手方向が向く突起であり、径方向外側に向く外側面32aと、径方向内側に向く内側面32bと、周方向の両側に位置する接続面32c及び接続面32dとを有している。外側面32aは緩やかに湾曲する凸状の円弧面であり、内側面32bは緩やかに湾曲する凹状の円弧面である。保持突起32は、周方向の中央を通りベースプレート20の半径方向に延びる中心線C1(図11)に関して略対称な形状である。そのため、接続面32cと接続面32dも中心線C1に関して略対称な形状である。
【0024】
図12図13に示すように、第2ポール31の補助保持突起33は、周方向(ベースプレート20に対するラチェットプレート60の回転方向)に長手方向が向く突起であり、径方向外側に向く外側面33aと、径方向内側に向く内側面33bと、周方向の両側に位置する接続面33c及び接続面33dとを有している。外側面33aは緩やかに湾曲する凸状の円弧面であり、内側面33bは緩やかに湾曲する凹状の円弧面である。補助保持突起33は、周方向の中央を通りベースプレート20の半径方向に延びる中心線C2(図12)に関して非対称な形状である。詳しくは、接続面33cは保持突起32の接続面32cと略同じ形状であり、外側面33aから接続面33cにかけて角張った部分が存在する。これに対して接続面33dは、周方向に突出する凸状の円弧面となっており、外側面33aと内側面33bのいずれに対しても湾曲しながら滑らかに接続している。
【0025】
図11図12に示すように、第1ポール30の保持突起32よりも第2ポール31の補助保持突起33の方が、径方向内側に位置している。より詳しくは、外歯35の歯先をつないだ仮想の歯先円を設定した場合、この歯先円から保持突起32の外側面32aまでの距離よりも、歯先円から補助保持突起33の外側面33aまでの距離の方が大きい。
【0026】
側面視での第1ポール30の重心(質量中心)GP1を図11図13に示し、側面視での第2ポール31の重心(質量中心)GP2を図12図13に示している。
【0027】
第1ポール30と第2ポール31は、図3ないし図7図13に示した態様で各案内溝24内に配設されている。なお、図3ないし図7では、2つの第2ポール31のうち一方だけを図示しているが、図示を省略した他方の第2ポール31についても図示した第2ポール31と同様に案内溝24内に配設されて同様に動作する(図13参照)。第1ポール30と第2ポール31は、各案内溝24の底面(左側面)に対して面接触して支持されており、対応する案内溝24内を溝形成用突部23の案内平面23a、23bに沿ってベースプレート20の半径方向に移動可能である。
【0028】
第1ポール30と第2ポール31は、後述する回転カム40とレリーズプレート50によって、ベースプレート20の軸挿通孔21から離れる径方向外側の噛合位置(図3図13)と、軸挿通孔21に近づく径方向内側の噛合解除位置(図4)の間で半径方向に移動する。第1ポール30及び第2ポール31とその両側に位置する案内平面23a、23bとの間には、ベースプレート20の半径方向への各ポール30、31の円滑な摺動を可能にし、かつ各ポール30、31を大きくガタつかせることのない程度のクリアランスが確保されている。
【0029】
回転カム40は金属板のプレス成形品であり、概ね各ポール30、31と同じ厚みを有している。図2ないし図7に示すように、回転カム40の中心部には非円形形状の中心非円形孔41が貫通孔として形成されている。回転カム40の外周部には、3つの抑制部42と3つの押圧部43がそれぞれ周方向に略等角度間隔で設けられている。回転カム40にはさらに周方向に等角度間隔で3つの回り止め突起44が形成されている。図2に示すように、回り止め突起44は左方に向けて突出している。回転カム40の中心非円形孔41内には、周方向に略等角度間隔で3つのバネ掛け凹部45が形成されている。回転カム40はベースプレート20の収納空間の中央部に配設されており、回転カム40の径方向外側に第1ポール30と第2ポール31が位置する(図3ないし図7参照)。
【0030】
レリーズプレート50は金属板のプレス成形品であり、中央開口51の周囲に周方向に略等角度間隔で3つのカム孔52が貫通形成されている。図3ないし図7示すように、中央開口51は、回転カム40の中心非円形孔41よりも大きい。各カム孔52は、中央開口51からの距離が遠い径方向外側に位置するロック許容部52aと、中央開口51からの距離が近い径方向内側に位置するロック解除部52bとを有している。レリーズプレート50にはさらに、周方向に等角度間隔で3つの回り止め孔53が形成されている。
【0031】
レリーズプレート50は、3つの回り止め孔53に3つの回り止め突起44を嵌合させて回転カム40と結合される。各回り止め突起44と各回り止め孔53の嵌合によって回転カム40とレリーズプレート50の相対回転が規制され、回転カム40とレリーズプレート50は一体的に回転する。また、レリーズプレート50の3つのカム孔52内に、第1ポール30と第2ポール31に設けたカムフォロア34がそれぞれ挿入される。図4に示す位置よりも径方向内側への第1ポール30と第2ポール31の移動は、カムフォロア34とロック解除部52bの係合によって規制される。
【0032】
金属製の円盤部材であるラチェットプレート60はプレス成形品であり、その右側面の周縁部には円形の小径環状フランジ61が突設され、小径環状フランジ61の内側には収納空間が形成される。図2図9に示すように、ラチェットプレート60の中心部には断面円形の軸挿通孔62が貫通孔として形成されている。ラチェットプレート60のうち軸挿通孔62に近い最も内周側の部分は円盤状のベース部63となっている。ベース部63と小径環状フランジ61の間の径方向位置には中間環状部64が形成されている。図8から分かるように、中間環状部64は小径環状フランジ61の一段左側に位置して小径環状フランジ61よりも小径であり、ベース部63は中間環状部64の一段左側に位置して中間環状部64よりも小径である。
【0033】
図8図9に示すように、ラチェットプレート60の小径環状フランジ61の内周面には内歯65が形成されている。中間環状部64の内周面には、周方向に位置を異ならせて、第1保持突部(第1ポール規制部)66と第2保持突部(第2ポール規制部)67と第3保持突部(第2ポール規制部)68が形成されている。第1保持突部66と第2保持突部67と第3保持突部68はいずれも中間環状部64から径方向内側に向けて突出する形状を有する。
【0034】
図9に示すように、第1保持突部66は、周方向の一端に位置する段差面66aから周方向の他端に位置する第2保持突部67までの範囲に形成されており、段差面66aと第2保持突部67を接続する内周側の面である保持面66bを有する。保持面66bはラチェットプレート60の中心点を中心とする円弧面である。
【0035】
図9に示すように、第2保持突部67は、第1保持突部66よりも周方向の長さが短く、周方向の一端と他端に段差面67aと立壁面67bを有する。段差面67aは第1保持突部66の保持面66bに接続する。段差面67aと立壁面67bは、ラチェットプレート60の径方向外側から径方向内側へ進むにつれて互いの間隔を小さくする傾斜を有しており、段差面67aよりも立壁面67bの方がラチェットプレート60の半径方向に対する傾きが大きい。第2保持突部67の内周側には、段差面67aと立壁面67bを接続する保持面67cが形成されている。中間環状部64に対する段差面67aと立壁面67bの径方向内側への突出形状によって、保持面67cは第1保持突部66の保持面66bよりも径方向内側に配置される。保持面67cはラチェットプレート60の中心点を中心とする凹状の円弧面である。
【0036】
図9に示すように、第3保持突部68は第2保持突部67と略共通の形状であり、周方向の一端と他端に段差面68aと立壁面68bを有し、内周側に保持面68cを有している。段差面68a及び保持面68cは、第2保持突部67における段差面67a及び保持面67cと共通する形状である。立壁面68bは、ラチェットプレート60の半径方向に対する傾きは立壁面67bと同じであり、立壁面67bよりも径方向外側に向けて長く形成されている点のみが異なる。中間環状部64に対する段差面68aと立壁面68bの径方向内側への突出形状によって、保持面68cは第1保持突部66の保持面66bよりも径方向内側に配置される。
【0037】
第1保持突部66の段差面66a、第2保持突部67の段差面67a、第3保持突部68の段差面68aは、周方向に略等角度(ラチェットプレート60の中心点を中心として略120°)の間隔で位置している。第1保持突部66は、段差面66aから段差面67aまでの周方向の長い範囲に亘って連続して形成されている。
【0038】
ラチェットプレート60は、小径環状フランジ61を大径環状フランジ22の内周面と溝形成用突部23の外周面の隙間に挿入した状態でベースプレート20の左側面に被せられる(図8参照)。この状態で第1ポール30と第2ポール31のそれぞれに設けた外歯35とラチェットプレート60の内歯65が径方向に対向する。
【0039】
外歯35と内歯65が噛合しない(各ポール30、31が噛合解除位置にある)とき、ベースプレート20に対するラチェットプレート60の相対回転が可能となる。大径環状フランジ22の内周面に対する小径環状フランジ61の外周面の摺接によって、ラチェットプレート60はベースプレート20に対して、左右方向(車幅方向)に延びる回転軸線RX(図10図13)を中心として回転することができる。回転軸線RXは、それぞれが円形をなす大径環状フランジ22の内周面や小径環状フランジ61の外周面の中心を通る仮想の軸線である。
【0040】
外歯35と内歯65が噛合する(各ポール30、31が噛合位置にある)と、第1ポール30と第2ポール31に対するラチェットプレート60の回転が規制される。第1ポール30と第2ポール31はベースプレート20に対して回転軸線RXを中心とする回転が規制された(径方向のみに移動可能な)状態で支持されている。従って、外歯35と内歯65が噛合することにより、ベースプレート20に対するラチェットプレート60の相対回転が規制される。
【0041】
ラチェットプレート60とベースプレート20の間の空間に3つのロックスプリング70(図2)が配設される。各ロックスプリング70は湾曲した金属線材からなり、一端を右方に曲げて第1係止部71が形成され、他端を右方に曲げて第2係止部72が形成されている。図3ないし図7に示すように、各ロックスプリング70は、第1係止部71を回転カム40のバネ掛け凹部45に係止させ、第2係止部72をベースプレート20のバネ掛け凹部25に係止させて取り付けられる。このようにして各ロックスプリング70をベースプレート20と回転カム40に取り付けると、各ロックスプリング70は弾性変形して回転カム40を一方向に回転する付勢力を発生する。この付勢力は回転カム40を図3ないし図7の反時計方向に回転させる力であり、回転カム40と回転方向に一体化されたレリーズプレート50に対しても同方向の付勢力が働く。
【0042】
金属製の円環状部材である押えリング80は、図8に示すように、ベースプレート20の大径環状フランジ22の外周面と、ラチェットプレート60の小径環状フランジ61の左側面に対して嵌合する形で被せられ、ベースプレート20に対して固定される。この状態でベースプレート20と押えリング80の間にラチェットプレート60が挟まれて、ラチェットプレート60は、ベースプレート20及び押えリング80から脱落することなく、大径環状フランジ22の内周面に沿って回転軸線RXを中心として相対回転可能となる。
【0043】
ベースプレート20はシートクッション11を構成する後部フレーム(図示略)に対して固定され、ラチェットプレート60はシートバック12を構成するシートバック側フレーム(図示略)に対して固定される。従って、ベースプレート20は回転軸線RX(図10図13)を中心とする回転を行わず、回転方向において常に一定の位置にある。一方、ラチェットプレート60は、シートバック12の傾動に伴って、回転軸線RX(図10図13)を中心として回転する。
【0044】
後部フレームに固定されたベースプレート20では、図10に示すように、3つの案内溝24が、径方向の中心(回転軸線RX)から放射方向に延びている。より詳しくは、第1ポール案内溝24Aは、径方向の中心から下方に向けて直線状に延びている。第2ポール案内溝24Bと第2ポール案内溝24Cは、径方向の中心から斜め上方に向けて直線状に延びている。下方に延びる第1ポール案内溝24A内に第1ポール30が配置され、斜め上方に延びる第2ポール案内溝24B、24C内にそれぞれ第2ポール31が配置されている。
【0045】
回転軸線RXを通り水平方向に延びる水平線LHと、回転軸線RXを通り上下方向に延びる垂直線LVとを図10及び図13に示した。図10に示すように、第1ポール案内溝24Aは、水平線LHの下方に位置して垂直線LVに沿って延びる溝である。第1ポール30は、重心GP1を含む全体が水平線LHの下方に位置して、上下方向へ移動可能に案内されている。
【0046】
図10に示すように、第2ポール案内溝24B、24Cはそれぞれ、大部分が水平線LHの上方に位置し、垂直線LVに対して所定の角度で斜めに延びる溝である。従って、2つの第2ポール31はそれぞれ、大部分が水平線LHの上方に位置して、水平方向と垂直方向のいずれに対しても傾斜する方向へ移動可能に案内されている。第2ポール案内溝24Bと第2ポール案内溝24Cは垂直線LVに関して略対称に配置されており、これに対応して、2つの第2ポール31は垂直線LVに関して略対称に動作する。
【0047】
より詳しくは、図13に示すように、2つの第2ポール31はそれぞれ、一部が水平線LHより下方に位置するが、常に重心GP2が水平線LHより上方に位置している。この配置により、各第2ポール31に対して作用する重力は、第2ポール案内溝24B、24Cに沿って回転軸線RX側(噛合解除位置)に第2ポール31を移動させる力F1、F2(図13参照)として働く。
【0048】
シートリクライニング装置15の側部(右側)には回転操作可能な操作レバー90(図1)が設けられる。シートリクライニング装置15の径方向の中心にはシャフト91(図1)が挿入されている。シャフト91の軸線はラチェットプレート60の回転中心である回転軸線RXと略一致しており、操作レバー90を回転操作すると、シャフト91がその軸線を中心として回転する。シャフト91は、軸挿通孔21、中心非円形孔41、中央開口51、軸挿通孔62を貫通しており、このうち中心非円形孔41に対して相対回転を規制された状態で嵌合している。そのため、シャフト91が回転すると回転カム40とレリーズプレート50が共に回転する。
【0049】
主に図3から図7を参照してシートリクライニング装置15の作動を説明する。なお、図3から図7では、ラチェットプレート60に対して紙面奥側に位置するポール30、31や回転カム40を実線で示している。また、レリーズプレート50を一点鎖線で仮想的に図示している。図3から図7では2つの第2ポール31のうち1つのみを図示しており、図示されていない第2ポール31は、図示されている第2ポール31と同じ動作を行うものとする。
【0050】
シートリクライニング装置15におけるラチェットプレート60(シートバック12)の回転動作範囲は、第1保持突部66が第1ポール30の保持突起32と径方向に対向しないロック範囲と、第1保持突部66が第1ポール30の保持突起32と径方向に対向するアンロック範囲に大きく分けられる。
【0051】
ラチェットプレート60(シートバック12)のロック範囲において回転カム40とレリーズプレート50に対して操作力を加えていないとき、シートリクライニング装置15は図3に示すロック状態になる。このときの回転カム40とレリーズプレート50の位置をロック位置と呼ぶ。ロック状態では、回転カム40とレリーズプレート50はロックスプリング70の付勢力(図中の反時計方向に付勢している)によってロック位置に保持される。ロック位置にある回転カム40の押圧部43によって、第1ポール30と第2ポール31のそれぞれの被押圧部37が径方向外側(噛合位置側)に押圧される。
【0052】
ラチェットプレート60のロック範囲では、第1ポール30に設けた保持突起32は第1保持突部66に対して径方向に対向しない(周方向の位置が異なる)ため、第1ポール30は第1保持突部66に規制されずに噛合位置まで移動することができる。また、第2ポール31に設けた補助保持突起33は第1保持突部66に対して径方向に対向する位置にあるが、補助保持突起33が保持突起32よりも径方向内側に設けられているので、第2ポール31は第1保持突部66に規制されずに噛合位置まで移動することができる。こうして回転カム40により径方向外側へ押圧された第1ポール30と第2ポール31は、外歯35をラチェットプレート60の内歯65に噛合させた噛合位置に保持され、ベースプレート20とラチェットプレート60の相対回転が規制される。つまりシートクッション11に対するシートバック12の傾動が規制される。第1ポール30の噛合位置では、保持突起32の外側面32aが第1保持突部66の保持面66bよりも径方向外側に位置する。2つの第2ポール31の噛合位置では、それぞれの補助保持突起33の外側面33aが第2保持突部67の保持面67cと第3保持突部68の保持面68cよりも径方向外側に位置する。
【0053】
レリーズプレート50のロック位置では、第1ポール30と第2ポール31のそれぞれのカムフォロア34がカム孔52のロック許容部52aに位置しており、レリーズプレート50はポール30の位置設定には関与していない。また、第1ポール30と第2ポール31のロック位置への移動時、及びロック位置での保持状態において、通常は回転カム40の抑制部42は被抑制部36と当接せず、第1ポール30や第2ポール31が傾いた場合のみ抑制部42と被抑制部36が当接する。
【0054】
ラチェットプレート60(シートバック12)のロック範囲において、各ロックスプリング70の付勢力に抗して操作レバー90を図1の実線位置から二点鎖線位置へ回転させると、シャフト91(図1)を介して回転カム40とレリーズプレート50が図3の時計方向(アンロック方向)に回転する。レリーズプレート50がロック位置からアンロック方向に回転すると、第1ポール30と第2ポール31のそれぞれのカムフォロア34がレリーズプレート50に形成したカム孔52内でロック許容部52aからロック解除部52bへ位置を変化させる。すると、カム孔52の内面によってカムフォロア34がベースプレート20の径方向内側へ押圧されて、第1ポール30と第2ポール31がそれぞれ案内溝24内を径方向内側へ移動する。このとき回転カム40は、第1ポール30と第2ポール31への押圧方向と逆側に押圧部43を移動させるので、レリーズプレート50による第1ポール30と第2ポール31の径方向内側への移動を妨げない。
【0055】
回転カム40とレリーズプレート50が図4に示すアンロック位置まで回転すると、第1ポール30と第2ポール31が、それぞれの外歯35をラチェットプレート60の内歯65から完全に噛合を解除させた噛合解除位置に達する。外歯35と内歯65の噛合が解除されることで、ベースプレート20とラチェットプレート60の相対回転が可能になる。つまりシートクッション11に対するシートバック12の傾動が可能なアンロック状態になる。アンロック状態では、第1ポール30と第2ポール31のそれぞれにおける被抑制部36と被押圧部37の間の凹部に回転カム40の抑制部42が収まり、隣接する各ポール30、31の間のスペースに回転カム40の押圧部43が収まり、回転カム40に妨げられることなく第1ポール30と第2ポール31を噛合解除位置まで移動させることができる。
【0056】
図4に示すアンロック状態で操作レバー90に対する操作を解除すると、回転カム40及びレリーズプレート50が各ロックスプリング70の付勢力によってアンロック位置からロック位置(図3)へ向けて反時計方向に回転する。第1ポール30と第2ポール31は、回転カム40がロック方向へ回転すると押圧部43によって被押圧部37が適宜押圧されて、案内溝24内を外周側へ移動して噛合位置(図3)に達する。
【0057】
ラチェットプレート60(シートバック12)のアンロック範囲では、図5に示すように、第1ポール30に形成した保持突起32とラチェットプレート60に形成した第1保持突部66が径方向に対向する位置関係にあるため、保持突起32の外側面32aが第1保持突部66の保持面66bに係合して径方向外側への第1ポール30の移動が規制される。つまり、図4のようにカム孔52でカムフォロア34を径方向内側に引きこんだ場合と同様に、保持突起32と第1保持突部66の当接によって、第1ポール30は外歯35が内歯65に噛合しない噛合解除位置に保持される。第1ポール30の移動が規制されることにより、ロック方向(第1ポール30を径方向外側に押圧する方向)への回転カム40の回転が規制され、回転カム40がロック方向へ回転しないため第2ポール31も図5に示す位置(外歯35が内歯65に噛合しない噛合解除位置)で停止する。このとき、第1ポール30と第2ポール31のそれぞれのカムフォロア34は、対応するカム孔52の内面に当接しておらず、レリーズプレート50は第1ポール30と第2ポール31の位置設定には関与していない。
【0058】
図5は、アンロック範囲のうちロック範囲から所定以上離れた位置にラチェットプレート60が位置する状態を示している。このとき、図5に示す第2ポール31と図5で図示を省略している第2ポール31のそれぞれの補助保持突起33が、ラチェットプレート60の第2保持突部67と第3保持突部68に対して径方向に対向しておらず(周方向に位置を異ならせており)、各補助保持突起33が第2保持突部67と第3保持突部68に対して当接していない。
【0059】
図5に示すアンロック範囲では、第1ポール30と第2ポール31の外歯35がラチェットプレート60の内歯65に噛合しておらず、ベースプレート20に対してラチェットプレート60が常時回転可能となる。すなわちアンロック操作を継続していなくてもシートバック12の傾動が可能である。図1に示すシートバック12の前傾位置12Aから初段ロック位置12Cの直前までがアンロック範囲になり、第1ポール30の保持突起32とラチェットプレート60の第1保持突部66は、このアンロック範囲の全体で径方向の対向関係を維持するように周方向長さと相対位置が設定されている。シートバック12を初段ロック位置12Cまで引き起こすと、アンロック保持状態(保持突起32と第1保持突部66の対向状態)が解除されて、ラチェットプレート60がアンロック範囲からロック範囲に切り替わる。
【0060】
ラチェットプレート60のアンロック範囲のうち、ロック範囲との切り替え位置に近い特定範囲では、第1ポール30の保持突起32が第1保持突部66と径方向に対向することに加えて、2つの第2ポール31の補助保持突起33がそれぞれ第2保持突部67と第3保持突部68と径方向に対向する。
【0061】
図6は、ラチェットプレート60がアンロック範囲における特定範囲にある状態を示したものである。図6の状態では、第1保持突部66の段差面66aが第1ポール30の保持突起32の近くまで達しているが、図5の状態に引き続いて保持突起32は外側面32aの全体が第1保持突部66の保持面66bに当接している。このとき第2ポール31の補助保持突起33とラチェットプレート60の第2保持突部67が径方向に対向しているが、補助保持突起33の外側面33aと第2保持突部67の保持面67cとの間にわずかなクリアランスがあって補助保持突起33と第2保持突部67が当接していない。図6では省略している第2ポール31の補助保持突起33と第3保持突部68も同様の位置関係にあり、外側面33aと保持面68cが互いの間にクリアランスを有しながら(当接せずに)径方向に対向した状態にある。
【0062】
図7は、前記の特定範囲のうち、第1保持突部66が第1ポール30の保持突起32との当接を解除する直前(アンロック範囲からロック範囲に切り替わる直前)の位置までラチェットプレート60が回転した状態である。第1保持突部66の段差面66aが保持突起32の接続面32cの近くまで達しており、保持突起32の外側面32aと第1保持突部66の保持面66bが当接する面積が小さくなっている。補助保持突起33と第2保持突部67については、第2保持突部67の段差面67aが補助保持突起33の接続面33cの近くまで達して径方向に対向する範囲が図6の状態よりも小さくなっているが、図6の状態に引き続いて図7の状態でも、外側面33aと保持面67cが径方向に対向する関係にある。図7では省略している第2ポール31の補助保持突起33と第3保持突部68も同様の位置関係にあり、外側面33aと保持面68cが互いの間にクリアランスを有しながら(当接せずに)径方向に対向した状態を維持している。
【0063】
図6図7に示すラチェットプレート60の特定範囲では、第1ポール30と第2ポール31のそれぞれのカムフォロア34は対応するカム孔52の内面に当接しておらず、レリーズプレート50は第1ポール30と第2ポール31の位置設定には関与していない。
【0064】
図5から図7に示すアンロック範囲では、第1ポール30の保持突起32が第1保持突部66に当接することで外歯35と内歯65が噛合しないアンロック状態が維持される。このアンロック範囲で、回転カム40をロック方向に回転させる力など、各ポール30、31を径方向外側に移動させようとする荷重が加わる場合がある。図5図6のように保持突起32の外側面32aの全体が第1保持突部66の保持面66bに当接する状態では、互いの接触面積が広く耐荷重性が高いため、第1ポール30を径方向外側に押圧する大荷重が加わっても、保持突起32を含む第1ポール30や第1保持突部66を含むラチェットプレート60の変形が生じにくい。一方、アンロック範囲からロック範囲への切り替え直前状態を示す図7のように保持突起32と第1保持突部66の接触面積が小さくなると、第1ポール30を径方向外側に押圧する大荷重によって保持突起32周りや第1保持突部66周りに変形が生じる可能性がある。図7に示すように、この状態で第2ポール31の補助保持突起33が第2保持突部67(及び第3保持突部68)と径方向に対向するため、径方向外側に向けての大荷重によって第1ポール30又は第1保持突部66に変形が生じた場合、同じく径方向外側への荷重を受けた第2ポール31の補助保持突起33が第2保持突部67や第3保持突部68に当接して、径方向外側への第2ポール31の移動を規制する(すなわちアンロック状態を維持させる)ことができる。
【0065】
ラチェットプレート60の第2保持突部67と第3保持突部68は、アンロック範囲のうちロック範囲との切り替わりに近い特定範囲(図6図7)でのみ補助保持突起33と径方向に対向するように、周方向の長さが第1保持突部66に比して短く設定されている。そのため、アンロック範囲のうち特定範囲を除く部分では、第2ポール31の補助保持突起33が第2保持突部67の保持面67cや第3保持突部68の保持面68cの位置よりも径方向外側(補助保持突起33が第2保持突部67や第3保持突部68と径方向にオーバーラップする位置)に進出する余地がある。
【0066】
しかし、本実施形態のシートリクライニング装置15では、第2ポール31(特に重心GP2)を水平線LHより上方に位置させることにより、重力の影響で、第2ポール案内溝24B、24Cに沿って第2ポール31を斜め下方に移動させる力F1、F2が常に作用している(図13参照)。そのため、アンロック範囲では、補助保持突起33が第2保持突部67や第3保持突部68と径方向にオーバーラップする位置に第2ポール31が留まることが防止される。その結果、第2ポール31の補助保持突起33が、第2保持突部67の段差面67a又は立壁面67bや、第3保持突部68の段差面68a又は立壁面68bに対して当接して、ラチェットプレート60の回転を妨げるおそれが低減される。別言すれば、ラチェットプレート60がアンロック範囲にあるときに、重力を利用して、ラチェットプレート60の回転を妨げる径方向外側の位置に第2ポール31を留まらせないように構成している。
【0067】
以上のように、シートリクライニング装置15では、ラチェットプレート60の第1保持突部66と第1ポール30の保持突起32が径方向に対向する位置関係にある状態(図5ないし図7)がアンロック範囲となる。アンロック範囲のうちロック範囲との境界に近い(保持突起32と第1保持突部66の接触面積が小さくなる)特定範囲で、第2ポール31の補助保持突起33が第2保持突部67と第3保持突部68に対向して、耐荷重性を高めることができる。第2ポール31の補助保持突起33は、ロック範囲(図3図4)において第1保持突部66に対して径方向に対向するが、補助保持突起33を保持突起32よりも径方向内側に設けたことにより、第2ポール31は第1保持突部66に規制されずに噛合位置まで移動することができる。つまり、第1保持突部66の周方向長さがラチェットプレート60のアンロック範囲に対応しており、この第1保持突部66の周方向長さは、第2ポール31の補助保持突起33との干渉を考慮せずに設定することができる。その結果、複数のポール30、31に径方向の移動規制用の保持突起32や補助保持突起33を備えて強度を向上させつつ、ラチェットプレート60の回転方向の可動範囲(シートバック12の動作量)を拡大させることができる。
【0068】
その上で、アンロック範囲の大部分で補助保持突起33に対する径方向の移動規制を受けない第2ポール31が、重力による下方への移動力によって、噛合解除位置に向けて移動しやすくなっている。仮に、振動などによって、第2保持突部67や第3保持突部68に対して補助保持突起33を径方向にオーバーラップさせる位置まで第2ポール31が一時的に移動したとしても、第2ポール31は重力の影響によって径方向内側に戻されて、前記のオーバーラップ状態が解消される。これにより、アンロック範囲で、ラチェットプレート60の回転を妨げるような径方向位置に第2ポール31が留まることが防止され、ラチェットプレート60をアンロック範囲からロック範囲へ確実に回転させることができ、確実で円滑な動作が実現される。
【0069】
以上、本発明を図示実施形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、様々な変形を施しながら実施可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態では2つの第2ポール31を備えているが、本発明における第2ポールの数は2つ以外でもよい。一例として、上記実施形態の第1ポール30と上下対称に動作する第2ポールを1つのみ備えるように構成してもよい。この場合、第2ポールを案内する第2ポール案内溝は、垂直線LV(図10図13)に沿って上下に延びるものとする。この変形例における第2ポールには、重力によって噛合解除位置側に移動させる力が常時働くため、上記実施形態と同様の効果が得られる。特に、噛合解除位置への第2ポールの移動方向と鉛直方向が略一致するため、より直接的に重力による移動力を第2ポールに作用させやすい。
【0071】
上記実施形態では、3つのポール(第1ポール30と2つの第2ポール31)が周方向に略等角度(120°)間隔で配置されている。これと異なり、複数のポールを周方向に不均一な間隔で配置してもよい。例えば、3つのポール(1つの第1ポールと2つの第2ポール)を120°以外の角度間隔で配置してもよいし、2つのポール(各1つの第1ポールと第2ポール)を180°以外の角度間隔で配置してもよい。いずれの形態でも、少なくとも、複数のポールのうち第2ポール(第2制限部を有するポール)の重心が、ラチェットの回転軸線より上方に位置していればよい。
【0072】
上記実施形態のように、少なくとも第2ポール31の重心CP2が水平線LHより上方に位置していれば、第2ポール31の一部が水平線LHより下方に位置していても(図13参照)、上記の効果を得ることができる。上記実施形態とは異なり、第2ポールの全体が水平線LHより上方に位置する構成を採用することも可能である。例えば、第1ポール30と上下対称に動作する第2ポールを1つのみ備えるという上記変形例では、第2ポールの全体が水平線LHより上方に位置する構成になる。
【0073】
上記実施形態では、ラチェットプレート60における第2保持突部67と第3保持突部68の径方向位置を同じにしているが、第2保持突部67と第3保持突部68の径方向位置を異ならせることも可能である。例えば、第3保持突部68を第2保持突部67よりも径方向内側への突出量を大きくさせ、第1保持突部66と第2保持突部67と第3保持突部68が径方向位置(径方向内側を向く保持面66b、67c及び68cの位置)を3段階に異ならせる構成にしてもよい。この場合、第3保持突部68の径方向位置に応じて、2つある第2ポール31の一方で補助保持突起33の位置を径方向内側に変化させる。この構成によっても、シートリクライニング装置15における前記の効果を得ることができる。
【0074】
上記実施形態の第2ポール31に設けた補助保持突起33は、ラチェットプレート60の回転方向に長手方向を向けているが、補助保持突起33の長手方向の向きを径方向などに変更することも可能である。あるいは、特定の長手方向を有さない円柱形状などに補助保持突起33を設定することも可能である。いずれの形態でも、図7のように保持突起32と第1保持突部66の接触面積が最も小さくなる状態で、第2保持突部67や第3保持突部68に対して補助保持突起33が径方向に対向するように配置を設定することが望ましい。
【0075】
本発明における各ポールの径方向移動は直線的な移動に限定されるものではない。例えば、上記実施形態における第1ポール30と第2ポール31はベースプレート20に対して径方向に直線的に移動する構成であるが、径方向の移動成分と周方向の移動成分を含む円弧状の軌跡で各ポールが移動する構成などにも本発明を適用することが可能である。
【0076】
上記実施形態のシートリクライニング装置15では、回転カム40とレリーズプレート50の組み合わせによって第1ポール30と第2ポール31を噛合位置と噛合解除位置に移動させているが、回転カム40とレリーズプレート50以外の駆動部材によって各ポール30、31を駆動してもよい。スペース効率や駆動効率の点から、回転カム40とレリーズプレート50のようにラチェットプレート60と同じ回転中心で回転する部材を用いることが好ましいが、直進移動など異なる動作形態の部材を用いることも可能である。また、回転カム40とレリーズプレート50を一体化した駆動部材を用いることも可能である。
【0077】
また、上記実施形態ではシートクッション11とシートバック12のそれぞれを構成する左右のフレームうち車両の進行方向に向かって右側のフレームの間をシートリクライニング装置15で接続しているが、進行方向に向かって左側のフレームの間をシートリクライニング装置15で接続してもよい。さらに左右両方のフレームの間をシートリクライニング装置15で接続し、左右のシートリクライニング装置15の回転カム40同士を連結パイプ等で接続して、左右のシートリクライニング装置15の動きを連動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 :リクライニングシート
11 :シートクッション
12 :シートバック
15 :シートリクライニング装置
20 :ベースプレート(ベース部材)
21 :軸挿通孔
22 :大径環状フランジ
23 :溝形成用突部
23a :案内平面
23b :案内平面
24 :案内溝
24A :第1ポール案内溝
24B :第2ポール案内溝(第2ポール案内部)
24C :第2ポール案内溝(第2ポール案内部)
25 :バネ掛け凹部
30 :第1ポール
31 :第2ポール
32 :保持突起(第1制限部)
32a :外側面
32b :内側面
32c :接続面
32d :接続面
33 :補助保持突起(第2制限部)
33a :外側面
33b :内側面
33c :接続面
33d :接続面
34 :カムフォロア
35 :外歯
36 :被抑制部
37 :被押圧部
40 :回転カム
41 :中心非円形孔
42 :抑制部
43 :押圧部
44 :回り止め突起
45 :バネ掛け凹部
50 :レリーズプレート
51 :中央開口
52 :カム孔
52a :ロック許容部
52b :ロック解除部
53 :回り止め孔
60 :ラチェットプレート(ラチェット)
61 :小径環状フランジ
62 :軸挿通孔
63 :ベース部
64 :中間環状部
65 :内歯
66 :第1保持突部(第1ポール規制部)
66a :段差面
66b :保持面
67 :第2保持突部(第2ポール規制部)
67a :段差面
67b :立壁面
67c :保持面
68 :第3保持突部(第2ポール規制部)
68a :段差面
68b :立壁面
68c :保持面
70 :ロックスプリング
71 :第1係止部
72 :第2係止部
80 :押えリング
90 :操作レバー
91 :シャフト
GP1 :第1ポールの重心
GP2 :第2ポールの重心
LH :水平線
LV :垂直線
RX :回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
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図13