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  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図1
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図2
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図3A
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図3B
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図4
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  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図7
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図8
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図9-1
  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図9-2
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  • 特許-血小板の長期貯蔵および保存の方法 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】血小板の長期貯蔵および保存の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/19 20150101AFI20220201BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220201BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220201BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20220201BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
A61K35/19 Z
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/12
A61P7/06
A01N1/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017563982
(86)(22)【出願日】2016-06-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 US2016036731
(87)【国際公開番号】W WO2016201121
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-06-07
(31)【優先権主張番号】62/173,235
(32)【優先日】2015-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】507174983
【氏名又は名称】ザ・ユナイテッド・ステイツ・ガバメント・アズ・リプリゼンテッド・バイ・ザ・デパートメント・オブ・ベテランズ・アフェアーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】タッテ ヘマント
(72)【発明者】
【氏名】シー ジアラン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】Transfusion, (2007), 47, [6], p.960-965
【文献】Transfus. Apher. Sci., (2011), 44, [3], p.277-281
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
を含み、
D-グルコース、L-アルギニン、L-シトルリンリンゴ酸塩、オロト酸、クレアチン一水和物、カルノシン、およびカルニチンのうちの1つまたは複数をさらに含み、
D-グルコースが11~25 mMの量で存在し、L-アルギニンが2~10 mMの量で存在し、L-シトルリンリンゴ酸塩が1~10 mMの量で存在し、オロト酸が0.5~2 mMの量で存在し、クレアチン一水和物が2~5 mMの量で存在し、カルノシンが5~10 mMの量で存在し、カルニチンが5~10 mMの量で存在し、
7~7.7のpHを有する、血小板貯蔵組成物。
【請求項2】
以下:
を含み、7~7.7のpHを有する、血小板貯蔵組成物。
【請求項3】
血小板を請求項1または2記載の組成物と接触させる段階を含む、血小板を保存するための方法。
【請求項4】
血小板が、前記組成物と接触させていない血小板と比べて多量の持続性の(tonic)一酸化窒素を生成する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
血小板を0~15日間貯蔵する段階をさらに含む、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
血小板を0~9日間貯蔵する段階をさらに含む、請求項35のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
1~8日間の貯蔵後に、血小板が、前記組成物と接触させていない血小板と比べて多量の高エネルギーリン酸を生成する、請求項36のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
血小板が周囲温度または室温で貯蔵される、請求項37のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
血小板が準周囲温度で貯蔵される、請求項38のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
血小板が21±2℃で貯蔵される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
血小板が4±1℃または13±3℃で貯蔵される、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年6月9日付で出願された米国仮特許出願第62/173,235号に対する優先権を主張するものであり、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、とりわけ、損傷のない機能的状態で血小板を保存し、貯蔵されたヒト血小板の貯蔵期間を引き延ばすための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
血小板輸血は、多量の失血に苦しむもしくは化学療法を受けている患者を処置するためにまたは血小板減少症の場合にしばしば用いられる。例えば、化学療法は血小板の数を低減させ、また、存在する血小板を不完全に機能させることがしばしばある。長期間血小板を貯蔵すると、損傷により修正された血小板が生成される。貯蔵後にかなりの数の血小板を回復させることができるが、その大部分は、これらの貯蔵媒介損傷のために脾臓および肝臓によって循環から迅速に排除される。貯蔵温度の低下、凍結保存技法、添加物および人工貯蔵媒体などの、貯蔵後に回復された生存可能な血小板の数を増加させるためのいくつかのアプローチが試みられている。
【0004】
血小板貯蔵に用いられる技法の最近の進歩にもかかわらず、これらの方法によって回復された血小板の、循環における機能的能力および持続性は、貯蔵損傷が存在し続けるために部分的に制限される。このように、ヒト血小板の損傷のない長期貯蔵のためのさらなる方法および組成物に対する差し迫った必要性が存在し続けている。
【発明の概要】
【0005】
概要
とりわけ、血小板における貯蔵媒介損傷を減少させるための、および止血機能の減弱なしに血小板を貯蔵できる時間を引き延ばすための組成物、方法およびキットが本明細書において提供される。周囲温度(25℃)および準周囲温度(4℃超~25℃未満)の両方で血小板を貯蔵するための組成物、方法およびキットも本明細書において提供される。
【0006】
したがって、いくつかの局面において、生理学的塩溶液、グルコース、グルタチオン、アスコルビン酸、アルギニン、シトルリンリンゴ酸、アデノシン、クレアチン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンを含む、血小板を保存するための組成物が本明細書において提供される。他の局面において、生理学的塩溶液、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンを含む、血小板を保存するための組成物が本明細書において提供される。いくつかの態様において、生理学的塩溶液は、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムからなる群より選択される1つまたは複数の塩を含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は4~5 mMの塩化カリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は100~115 mMの塩化ナトリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は10~40 mMのリン酸ナトリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は2.5~5 mMのクレアチンを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は0.001~5 mMのカルシウムキレート剤(例えば、EGTA)を含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は0.5~2 mMのオロト酸をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物はカルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は無視できる量のカルシウムイオンを含有するか、またはカルシウムイオンを含有しない。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は50 μM未満、10 μM未満、1 μM未満、0.1 μM未満、0.01 μM未満、または0.001 μM未満のカルシウムイオンを含有する。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物はジクロロアセテート、カルノシン、シトルリン、リンゴ酸、シトルリンリンゴ酸、アルギニン、クレアチン、糖(限定されるものではないが、リボース、グルコースもしくはデキストロースなど)、またはカルニチンのうち1つまたは複数をさらに含む。
【0007】
他の局面において、血小板を本明細書において開示される組成物のいずれかと接触させる段階を含む、血小板を保存するための方法も本明細書において提供される。いくつかの態様において、血小板は、組成物と接触させていない血小板と比べて多量の持続性の(tonic)一酸化窒素(NO)を生成する。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、本方法は、血小板を0~15日間貯蔵する段階をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、本方法は、血小板を0~9日間(0、1、2、3、4、5、6、7、8または9日のいずれかなど)貯蔵する段階をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、1~9日間の貯蔵後に、血小板は凝集を示さない。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、1~8日間の貯蔵後に、血小板は、組成物と接触させていない血小板と比べて多量の高エネルギーリン酸を生成する。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、1~9日間の貯蔵後に、血小板は、組成物と接触させていない血小板と比べて少ないアポトーシスを示す。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、1~9日間の貯蔵後に、血小板は、組成物と接触させていない血小板と比べて低い活性化(P-セレクチン発現)を示す。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、1~9日間の貯蔵後に、血小板は、組成物と接触させていない血小板と比べて円盤形態の喪失の減少を示す。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、血小板は周囲温度または室温で貯蔵される。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、血小板は21±2℃で貯蔵される。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、血小板は4±1℃または13±3℃で貯蔵される。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、血小板は約3℃~約18℃で貯蔵される。
【0008】
別の局面において、1つまたは複数の生理学的塩、グルコース、グルタチオン、アスコルビン酸、アルギニン、シトルリンリンゴ酸、アデノシン、クレアチン、および2 μM未満のカルシウムイオンを水と組み合わせて、生理学的水溶液を形成させる段階を含む、血小板を保存するための組成物を生成するための方法が本明細書において提供される。他の局面において、血小板を保存するための組成物を生成するための方法は、1つまたは複数の生理学的塩、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンを水と組み合わせて、生理学的水溶液を形成させる段階を含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、生理学的塩溶液は、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムからなる群より選択される1つまたは複数の塩を含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は4~5 mMの塩化カリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は100~115 mMの塩化ナトリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は10~40 mMのリン酸ナトリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は2.5~5 mMのクレアチンを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は0.5~2 mMのオロト酸をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物はカルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は約90 μM、80 μM、70 μM、60 μM、50 μM、40 μM、30 μM、20 μM、10 μM、5 μM、4 μM、3 μM、2 μM、1 μMまたはそれ以下のいずれかに満たないような、100 μM未満のカルシウムイオンを含有する。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、本方法は、ジクロロアセテート、カルノシン、シトルリン、リンゴ酸、シトルリンリンゴ酸、アルギニン、クレアチン、糖(限定されるものではないが、リボース、グルコースもしくはデキストロースなど)、またはカルニチンのうち1つまたは複数を組み合わせる段階をさらに含む。
【0009】
さらなる局面において、生理学的塩溶液、グルコース、グルタチオン、アスコルビン酸、アルギニン、シトルリンリンゴ酸、アデノシン、クレアチン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンを含むキットが本明細書において提供される。他の局面において、本明細書において提供されるキットは、1つまたは複数の生理学的塩、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンを含む。いくつかの態様において、生理学的塩は、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムからなる群より選択される1つまたは複数の塩を含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットは4~5 mMの塩化カリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットは100~115 mMの塩化ナトリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットは10~40 mMのリン酸ナトリウムを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットは2.5~5 mMのクレアチンを含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットは0.5~2 mMのオロト酸をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットはカルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットはカルシウムイオンを含有しない。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットはカルシウムキレート剤をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、キットはジクロロアセテート、カルノシン、シトルリン、リンゴ酸、シトルリンリンゴ酸、アルギニン、クレアチン、糖(限定されるものではないが、リボース、グルコースもしくはデキストロースなど)、またはカルニチンのうち1つまたは複数をさらに含む。
【0010】
さらに他の局面において、リアルタイムで血小板中の一酸化窒素の存在を検出するための方法であって、(a) 血小板を一酸化窒素特異的蛍光色素で標識する段階、(b) 血小板を迅速に固定する段階; および(c) 蛍光色素の存在を検出する段階を含む該方法が本明細書において提供される。いくつかの態様において、血小板は0~9日間貯蔵されている。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、血小板は、本明細書において開示される組成物のいずれかに貯蔵されている。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、一酸化窒素特異的蛍光色素は、ジアミノフルオレセインアセテート(DAF2-DA)またはジアミノフルオレセイン(DAF-2)誘導体(ジアミノフルオレセインエステル;ジアミノフルオレセイン-FM (DAF-FM)もしくはジアミノフルオレセイン-FMジアセテート(DAF-FMジアセテート)など)である。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、血小板はグルタルアルデヒドで固定される。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、蛍光色素の存在は共焦点顕微鏡法、多光子顕微鏡法および蛍光活性化細胞選別(FACS)走査/分析で検出される。
【0011】
他の局面において、4 mM塩化カリウム、0.44 mMリン酸カリウム(一塩基性)、0.5塩化マグネシウム(六水和物)、0.5 mM硫酸マグネシウム(七水和物)、100 mM塩化ナトリウム、5 mM重炭酸ナトリウム、30 mMリン酸ナトリウム(二塩基性; 七水和物)、11 mM D-グルコース、1.5 mMグルタチオン(還元)、1 mMアスコルビン酸、5 mM アルギニン、1 mM L-シトルリンリンゴ酸、2 mMアデノシン、0.5 mMオロト酸および2.5 mMクレアチン一水和物を含む血小板を保存するための組成物も本明細書において提供される。いくつかの態様において、組成物はカルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない。いくつかの態様において、組成物は100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンをさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物はカルシウムキレート剤をさらに含む。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物は50 μM未満、10 μM未満、1 μM未満、0.1 μM未満、0.01 μM未満、または0.001 μM未満のカルシウムイオンを含有する。本明細書において開示される態様の任意のいくつかの態様において、組成物はジクロロアセテート、カルノシン、またはカルニチンのうち1つまたは複数をさらに含む。
【0012】
本明細書において記述される局面および態様の各々は、態様または局面の文脈から明白にまたは明確に除外されない限り、一緒に用いることができる。
【0013】
さまざまな標準の代謝的、機能的および形態学的インビトロアッセイ法で集合的に測定される、貯蔵された血小板における品質の漸進的喪失は、血小板貯蔵損傷として知られている。血液バンクの条件下での血小板貯蔵の間に生じる生化学的、構造的および機能的変化は、血小板バイアビリティおよび止血機能に影響を与える。血小板貯蔵損傷(PSL)は、形態学的変化および血小板活性化とそれに続く微小小胞化(microvesciculation)および機能喪失と関連し、輸血の失敗に至る。そのような構造および機能の有害な変化は、血小板の貯蔵期間を5日またはそれ以下に制限しうる。
【0014】
本明細書の全体を通して、さまざまな特許、特許出願および他のタイプの刊行物(例えば、学術論文、電子データベースエントリなど)が参照される。本明細書において引用される全ての特許、特許出願、および他の刊行物の開示は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
[本発明1001]
生理学的塩溶液、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、ジクロロアセテート、および1 μM未満のカルシウムイオンを含む、血小板を保存するための組成物。
[本発明1002]
生理学的塩溶液、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、および1 μM未満のカルシウムイオンを含む、血小板を保存するための組成物。
[本発明1003]
生理学的塩溶液が、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、およびリン酸ナトリウムからなる群より選択される1つまたは複数の塩を含む、本発明1001または本発明1002の組成物。
[本発明1004]
約4~5 mMの塩化カリウムを含む、本発明1001~1003のいずれかの組成物。
[本発明1005]
約100~115 mMの塩化ナトリウムを含む、本発明1001~1004のいずれかの組成物。
[本発明1006]
約10~40 mMのリン酸ナトリウムを含む、本発明1001~1005のいずれかの組成物。
[本発明1007]
約2.5~5 mMのクレアチンをさらに含む、本発明1001~1006のいずれかの組成物。
[本発明1008]
約0.001~0.5 mMのジクロロアセテートを含む、本発明1001または1003~1007のいずれかの組成物。
[本発明1009]
約0.5~2 mMのオロト酸をさらに含む、本発明1001~1008のいずれかの組成物。
[本発明1010]
約11~25 mMの糖をさらに含む、本発明1001~1009のいずれかの組成物。
[本発明1011]
糖がグルコースまたはデキストロースである、本発明1010の組成物。
[本発明1012]
約2~10 mMのアルギニンをさらに含む、本発明1001~1011のいずれかの組成物。
[本発明1013]
約0.001~10 mMのリンゴ酸をさらに含む、本発明1001~1012のいずれかの組成物。
[本発明1014]
約1~10 mMのシトルリンをさらに含む、本発明1001~1013のいずれかの組成物。
[本発明1015]
約0.001~10 mMのシトルリンリンゴ酸をさらに含む、本発明1001~1012のいずれかの組成物。
[本発明1016]
約5~10 mMのカルノシンをさらに含む、本発明1001~1015のいずれかの組成物。
[本発明1017]
約5~10 mMのカルニチンをさらに含む、本発明1001~1016のいずれかの組成物。
[本発明1018]
カルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない、本発明1001~1017のいずれかの組成物。
[本発明1019]
カルシウムイオンを含有しない、本発明1001~1018のいずれかの組成物。
[本発明1020]
カルシウムキレート剤をさらに含む、本発明1001~1019のいずれかの組成物。
[本発明1021]
カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびクエン酸からなる群より選択される、本発明1020の組成物。
[本発明1022]
約0.001~約5 mMのカルシウムキレート剤を含む、本発明1021の組成物。
[本発明1023]
血小板を本発明1001または1003~1022のいずれかの組成物と接触させる段階を含む、血小板を保存するための方法。
[本発明1024]
血小板を本発明1002~1022のいずれかの組成物と接触させる段階を含む、血小板を保存するための方法。
[本発明1025]
血小板が、前記組成物と接触させていない血小板と比べて多量の持続性の(tonic)一酸化窒素を生成する、本発明1023または本発明1024の方法。
[本発明1026]
血小板を0~15日間貯蔵する段階をさらに含む、本発明1023~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
血小板を0~9日間貯蔵する段階をさらに含む、本発明1023~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
1~9日間の貯蔵後に、血小板が凝集を示さない、本発明1023~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
1~8日間の貯蔵後に、血小板が、前記組成物と接触させていない血小板と比べて多量の高エネルギーリン酸を生成する、本発明1023~1028のいずれかの方法。
[本発明1030]
1~9日間の貯蔵後に、血小板が、前記組成物と接触させていない血小板と比べて少ないアポトーシスを示す、本発明1023~1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
1~9日間の貯蔵後に、血小板が、前記組成物と接触させていない血小板と比べて円盤形態の喪失の減少を示す、本発明1023~1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
血小板が周囲温度または室温で貯蔵される、本発明1023~1031のいずれかの方法。
[本発明1033]
血小板が準周囲温度で貯蔵される、本発明1023~1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
血小板が21±2℃で貯蔵される、本発明1032の方法。
[本発明1035]
血小板が4±1℃または13±3℃で貯蔵される、本発明1033の方法。
[本発明1036]
1つまたは複数の生理学的塩、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、ジクロロアセテート、および1 μM未満のカルシウムイオンを水と組み合わせて、生理学的水溶液を形成させる段階を含む、血小板を保存するための組成物を生成する方法。
[本発明1037]
1つまたは複数の生理学的塩、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、および1 μM未満のカルシウムイオンを水と組み合わせて、生理学的水溶液を形成させる段階を含む、血小板を保存するための組成物を生成する方法。
[本発明1038]
生理学的塩溶液が、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムからなる群より選択される1つまたは複数の塩を含む、本発明1036または本発明1037の方法。
[本発明1039]
約4~5 mMの塩化カリウムを含む、本発明1036~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
約100~115 mMの塩化ナトリウムを含む、本発明1036~1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
約10~40 mMのリン酸ナトリウムを含む、本発明1036~1032のいずれかの方法。
[本発明1042]
約2.5~5 mMのクレアチンを組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1033のいずれかの方法。
[本発明1043]
約0.5~2 mMのオロト酸を組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1034のいずれかの方法。
[本発明1044]
約11~25 mMの糖を組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1043のいずれかの方法。
[本発明1045]
糖がグルコースまたはデキストロースである、本発明1044の方法。
[本発明1046]
約2~10 mMのアルギニンを組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1045のいずれかの方法。
[本発明1047]
約0.001~10 mMのリンゴ酸を組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1046のいずれかの方法。
[本発明1048]
約1~10 mMのシトルリンを組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1047のいずれかの方法。
[本発明1049]
約0.001~10 mMのシトルリンリンゴ酸を組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1046のいずれかの方法。
[本発明1050]
約5~10 mMのカルノシンを組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1049のいずれかの方法。
[本発明1051]
約5~10 mMのカルニチンを組み合わせる段階をさらに含む、本発明1036~1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
組成物がカルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない、本発明1036~1051のいずれかの方法。
[本発明1053]
組成物が1 μM未満のカルシウムイオンを含有する、本発明1036~1052のいずれかの方法。
[本発明1054]
約0.001~0.5 mMのジクロロアセテートを含む、本発明1036または1038~1053のいずれかの方法。
[本発明1055]
カルシウムキレート剤をさらに含む、本発明1036~1054のいずれかの方法。
[本発明1056]
カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびクエン酸からなる群より選択される、本発明1055の方法。
[本発明1057]
約0.001~約5 mMのカルシウムキレート剤を含む、本発明1056の方法。
[本発明1058]
生理学的塩溶液、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、および1 μM未満のカルシウムイオンを含む、キット。
[本発明1059]
生理学的塩溶液が、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、およびリン酸ナトリウムからなる群より選択される1つまたは複数の塩を含む、本発明1058のキット。
[本発明1060]
クレアチンをさらに含む、本発明1058または本発明1059のキット。
[本発明1061]
オロト酸をさらに含む、本発明1058~1060のいずれかのキット。
[本発明1062]
糖をさらに含む、本発明1058~1061のいずれかのキット。
[本発明1063]
糖がグルコースまたはデキストロースである、本発明1062のキット。
[本発明1064]
アルギニンをさらに含む、本発明1058~1063のいずれかのキット。
[本発明1065]
リンゴ酸をさらに含む、本発明1058~1064のいずれかのキット。
[本発明1066]
シトルリンをさらに含む、本発明1058~1065のいずれかのキット。
[本発明1067]
シトルリンリンゴ酸をさらに含む、本発明1058~1064のいずれかのキット。
[本発明1068]
カルノシンをさらに含む、本発明1058~1067のいずれかの組成物。
[本発明1069]
カルニチンをさらに含む、本発明1058~1068のいずれかの組成物。
[本発明1070]
カルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない、本発明1058~1069のいずれかのキット。
[本発明1071]
カルシウムイオンを含有しない、本発明1058~1070のいずれかのキット。
[本発明1072]
カルシウムキレート剤をさらに含む、本発明1058~1071のいずれかのキット。
[本発明1073]
カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびクエン酸からなる群より選択される、本発明1072のキット。
[本発明1074]
ジクロロアセテートをさらに含む、本発明1058~1073のいずれかのキット。
[本発明1075]
リアルタイムで血小板中の一酸化窒素の存在を検出するための方法であって、
a. 血小板を一酸化窒素特異的蛍光色素で標識する段階;
b. 該血小板を迅速に固定する段階; および
c. 蛍光色素の存在を検出する段階
を含む、該方法。
[本発明1076]
血小板が0~9日間貯蔵されている、本発明1075の方法。
[本発明1077]
血小板が本発明1001~1022のいずれかの組成物に貯蔵されている、本発明1075または本発明1076の方法。
[本発明1078]
一酸化窒素特異的蛍光色素がジアミノフルオレセイン(DAF2)またはDAF2誘導体である、本発明1075~1077のいずれかの方法。
[本発明1079]
血小板がグルタルアルデヒドで固定される、本発明1075~1078のいずれかの方法。
[本発明1080]
蛍光色素の存在が共焦点顕微鏡法または多光子顕微鏡法で検出される、本発明1075~1079のいずれかの方法。
[本発明1081]
4 mM塩化カリウム、0.44 mMリン酸カリウム、0.5 mM塩化マグネシウム、0.5 mM硫酸マグネシウム、100 mM塩化ナトリウム、5 mM重炭酸ナトリウム、30 mMリン酸ナトリウム、11 mM D-グルコース、1.5 mMグルタチオン、1 mMアスコルビン酸、5 mMアルギニン、1 mM L-シトルリンリンゴ酸、2 mMアデノシン、0.5 mMオロト酸、および2.5 mMクレアチン一水和物を含む、血小板を保存するための組成物。
[本発明1082]
カルシウムイオンまたはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない、本発明1081の組成物。
[本発明1083]
約1 μM未満のカルシウムイオンをさらに含む、本発明1082の組成物。
[本発明1084]
カルシウムキレート剤をさらに含む、本発明1081~1083のいずれかの組成物。
[本発明1085]
カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびクエン酸からなる群より選択される、本発明1084の組成物。
[本発明1086]
約0.001~約5 mMのカルシウムキレート剤を含む、本発明1085の組成物。
[本発明1087]
0.5 mMのジクロロアセテートをさらに含む、本発明1081~1086のいずれかの組成物。
[本発明1088]
50 μM未満、10 μM未満、1 μM未満、0.1 μM未満、0.01 μM未満、または0.001 μM未満のカルシウムイオンを含有する、本発明1001~1017、1020~1022または1081~1087のいずれかの組成物。
[本発明1089]
カルノシンまたはカルニチンのうち1つまたは複数をさらに含む、本発明1081~1089のいずれかの組成物。
[本発明1090]
約0.001~0.5 mMのジクロロアセテートをさらに含む、本発明1081~1089のいずれかのいずれかの組成物。
[本発明1091]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
[本発明1092]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
[本発明1093]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
[本発明1094]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
[本発明1095]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
[本発明1096]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
[本発明1097]
以下:
を含む血小板貯蔵組成物。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一酸化窒素特異的蛍光色素DAF2-DAで定期的に標識され、共焦点顕微鏡法を用いて撮像された血小板を示す写真(図1A)および棒グラフ(図1B)である。n = 3の実験の代表的な画像; 倍率200倍。画像は、貯蔵5日目(x軸)の後、Aayusolの血小板は、PASIII-Mのものと比べて、緑色蛍光の明るさ(y軸)によって示されるように、多量の持続性の一酸化窒素を生成していたことを示す。
図2】長期貯蔵中の血小板における高エネルギーリン酸濃度を示す。血小板濃縮物をAayusolまたはPASIII-M (20:80)中15日間、周囲温度(21±2℃)で穏やかに振とうしながら貯蔵した。PRP (血小板が豊富な血漿)を対照として用いた。血小板をATP濃度について定期的に評価した(n =3)。CP = クレアチンリン酸。
図3A】貯蔵された血小板におけるホスファチジルセリン(PS)曝露のフローサイトメトリー分析を示す図である。血小板をAayusol (上列)またはPASIIIM (下列)のいずれかに周囲(21±2℃)温度で0、3、6および9日間貯蔵し、フローサイトメトリー分析の前に室温で10分間暗所中にてFITC-ラクトアドヘリンとともにインキュベートした。それぞれ、488 nm (励起)および530 nm (発光)の波長を用いてサンプルを分析した。3つの独立した実験の代表的な画像。
図3B】貯蔵された血小板におけるホスファチジルセリン(PS)曝露のフローサイトメトリー分析を示す図である。血小板をAayusol (上列)またはPASIIIM (下列)のいずれかに周囲(21±2℃)温度で0、3、6および9日間貯蔵し、フローサイトメトリー分析の前に室温で10分間暗所中にてFITC-ラクトアドヘリンとともにインキュベートした。それぞれ、488 nm (励起)および530 nm (発光)の波長を用いてサンプルを分析した。3つの独立した実験の代表的な画像。
図4】貯蔵中の血小板上のP-セレクチン発現のフローサイトメトリー分析を示す棒グラフである。血小板をAayusolに周囲(21±2℃)温度で0、3、5および9日間貯蔵し、フローサイトメトリー分析の前に室温で10分間暗所中にてFITC-抗P-セレクチン(CD62)抗体とともにインキュベートした。それぞれ、488 nm (励起)および530 nm (発光)の波長を用いてサンプルを分析した。広範囲の血小板活性化を示す3つの独立した実験の代表的な画像。Aayusolに貯蔵された血小板上のP-セレクチン発現は、貯蔵中に活性化の減弱を示したPASIII-Mに貯蔵されたものよりも有意に低かった。
図5】貯蔵された血小板の共焦点顕微鏡検査を示す写真である。血小板をPASIII-MおよびAayusolに0~9日間貯蔵し、FITC-ラクトアドヘリンで定期的に標識して、PS曝露(アポトーシスの誘導)を同定し、形態を評価した。細胞を、63倍の油浸対物レンズを用いZeiss LSM 710共焦点顕微鏡を使って撮像した。血小板はPS曝露の進行性の増加を示した。
図6】準周囲温度で貯蔵された血小板の形態を示す顕微鏡写真である。Aayusolに4±1℃および13±3℃で貯蔵した血小板を0、5、9および15日目に共焦点顕微鏡を用いて撮像した。
図7】貯蔵された血小板における血小板凝集体および微小粒子(MP)の定性的および定量的分析を示すドットプロットである。代表的なドットプロットのセットは、4℃(上パネル)および13℃(下パネル)で貯蔵された血小板、凝集体およびMPを示す。貯蔵中に微粒子(P; 緑色)および凝集体(P7; 青色)形成の進行性のしかし非有意性の増加が認められたが(4℃超で)、しかし、両温度での血小板集団(赤色)の分布は貯蔵中に一貫したままであった。
図8】準周囲温度でAyausolに貯蔵された血小板上の血小板マーカーの定量的分析を示すグラフ(下パネル)および形態を示す顕微鏡写真(上パネル)である。血小板を0、3、5、7、9、12および15日目に定期的にサンプリングし、蛍光的にタグ付けされた抗CD 41a、CD 42b、CD62p (p-セレクチン)抗体で標識した。PSをFITC-ラクトアドヘリンで標識した。蛍光共焦点顕微鏡法(上パネル)および定量的フローサイトメトリー(下パネル)でサンプルを撮像した; n = 5。
図9-1】貯蔵された血小板におけるNO生成を示す顕微鏡写真である。NO合成を共焦点顕微鏡により0、5、9および15日目に細胞透過性蛍光前駆体4-アミノ-5-メチルアミノ-2',7'-ジフルオロフルオレセイン(DAF-FM)ジアセテートで可視化した。代表的なデータは5回の実験からのものである。
図9-2】NO生成の定量的分析を示すグラフである。さらに、貯蔵された血小板におけるNO合成をまた、DAF-FMを負荷した血小板の蛍光分布プロットからフローサイトメーターによって定量した。代表的なデータは5回の実験からのものである。
図10】Aayusol中に準周囲温度で貯蔵された血小板における高エネルギーリン酸(HEP)レベルを示すグラフを示す。各バーは、各群についてn = 5の平均±SEMを表す。
図11】準周囲温度でAayusolに貯蔵された血小板がアゴニスト刺激時に機能的に活性を維持していることを示すグラフを示す。貯蔵された血小板を0、1、3、5、7、9、12および15日目に50 μM ADPおよび/または2 μM A23187で刺激し、FITC-ラクトアドヘリン(PSプローブ)およびAlexa 647抗CD62p Abで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。2つの独立した実験からの結果。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
さまざまな標準の代謝的、機能的および形態学的インビトロアッセイ法で集合的に測定される、貯蔵された血小板における品質の漸進的喪失は、血小板貯蔵損傷として知られている。血液バンクの条件下での血小板貯蔵の間に生じる生化学的、構造的および機能的変化は、血小板バイアビリティおよび止血機能に影響を与える。血小板貯蔵損傷(PSL)は、形態学的変化および血小板活性化とそれに続く微小小胞化および機能喪失と関連し、輸血の失敗に至る。そのような構造および機能の有害な変化は、血小板の貯蔵期間を5日またはそれ以下に制限しうる。
【0017】
本明細書において記述される発明は、とりわけ、最長で15日間までの長期貯蔵期間中に損傷のない機能的状態で血小板を保存するための組成物、ならびにそれを利用するための方法およびキットを提供する。血小板を保存するために現在利用可能な組成物および技法とは対照的に、本明細書において開示される組成物に貯蔵された血小板は、止血機能の減弱に関連する「貯蔵損傷」の顕著な減少によって特徴付けられる。本明細書において開示される組成物は、血小板貯蔵中に、(1) 血小板エネルギー状態および形態を維持および/または回復し; (2) 活性な代謝および緩衝作用を維持し; (3) 一酸化窒素生成を維持および/または促進し; ならびに(4) 貯蔵中の微粒子形成、凝集および活性化を防止する。このように、本明細書において記述される組成物における長期保存は、完全に機能的であり損傷のない血小板をもたらす。結果として、本明細書において開示される組成物および方法は、これまでに周囲温度で可能であったものと比べて、いっそう長い期間にわたり血小板を貯蔵可能にする潜在性を有する。それゆえ、本明細書において記述される発明は、少ない人口を有する遠隔地において特に、継続的な血小板不足の緩和に役立つとともに、患者罹患率を低下させることによって医療費を減少させるのに役立つであろう。さらに、本明細書において記述される血小板貯蔵組成物は、血漿濃度の低下のためにこれらの溶液中に貯蔵された血小板を受け取る個体におけるアレルギー性輸血反応(ATR)の減少をもたらす。さらに、本明細書において開示される組成物は、突然の大量失血を被った対象または化学療法を受けている対象における血液増量剤/置換剤としてまたは蘇生液としての役割を果たすことができる。この溶液はまた、血管拡張のための下地だけでなくエネルギー源も提供するであろう。
【0018】
カルノシンおよびカルニチンの組み合わせにより、これらの成分を欠く貯蔵溶液を用いて生成されたHEPの量と比べて、本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板では多量の高エネルギーリン酸が相乗的に生成される。別の態様において、カルノシン、カルニチン、グルコース、およびクレアチンの組み合わせにより、これらの成分を欠く貯蔵溶液を用いて生成されたHEPの量と比べて、本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板では多量の高エネルギーリン酸が相乗的に生成される。他の態様において、シトルリンおよびアルギニンの組み合わせにより、これらの成分を欠く貯蔵溶液を用いて生成されたNOの量と比べて、本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板では多量の亜酸化窒素(NO)が相乗的に生成される。これらの成分の組み合わせによって実証された相乗作用は、意外でもあり、驚くべきものでもある。
【0019】
さらに、本明細書において記述される発明は、周囲温度(すなわち室温)および亜周囲(すなわち約3~約18℃)温度の両方で長期貯蔵期間中に損傷のない機能的状態で血小板を保存するための組成物および方法を提供する。血小板を保存するためにこれまでに利用可能な組成物および方法では、損傷を防ぐために周囲温度でのみ貯蔵されることを要し、このことは、一旦患者に投与されたら身体により迅速に除去されることにつながる。したがって、本明細書において提供される組成物および方法は、これまでに達成できたものよりもはるかに長い期間にわたって血小板を貯蔵することを可能にするだけでなく、これまでに可能であったものに比べてはるかに広い温度範囲にわたる血小板の貯蔵も可能にする。
【0020】
I. 定義
本明細書において用いられる場合、「生理学的塩」という用語は、所与の濃度で水溶液中にある場合、細胞機能または生理学的機能を補助するかまたはそれに必要とされる任意の塩をいう。生理学的塩の例としては、非限定的に、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩化物、リン酸塩および硫酸塩、例えばKCl、NaCl、MgCl2、MgSO4およびそれらの混合物が挙げられる。
【0021】
本明細書において用いられる「血小板貯蔵損傷」という語句またはその変化形は、血小板の貯蔵に伴う生理学的、生化学的および形態学的変化の全てを含む。これらには、非限定的に、血小板細胞骨格の再構成、微小小胞化、原形質膜の外葉へのホスファチジルセリンの転移、凝集、活性化、ならびにCD62P (P-セレクチン)およびCD42b (GPIbc)を含む、さまざまな接着性血小板糖タンパク質の表面発現の変化の1つまたは複数が含まれる。いくつかの態様において、血小板貯蔵損傷は、機械的外傷、低酸素状態および/または寒冷曝露のいずれかの後の血小板の処理および/または貯蔵中に生じる。
【0022】
「対象」は、脊椎動物、哺乳動物またはヒトであることができる。哺乳動物には、家畜、競技用動物、ペット、霊長類、マウスおよびラットが含まれるが、これらに限定されることはない。1つの局面において、対象はヒトである。
【0023】
本明細書において用いられる場合、「周囲温度」または「室温」は、約19℃、20℃、21℃、22℃または23℃のいずれかなどの、約21±2℃の範囲内の任意の温度である。本明細書において用いられる「準周囲温度」は、約0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃または18℃のいずれかなどの、約0℃~約18℃の温度をいう。
【0024】
本明細書において他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0025】
本明細書において用いられる場合、単数の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに他に指示がない限り、複数の言及を含む。
【0026】
「含む(including)」、「含有する(containing)」または「によって特徴付けられる」と同義語である「含む(comprising)」という移行語(transitional term)は、包括的または無制限であり、追加の、引用されていない要素または方法の段階を除外するものではない。対照的に、「からなる」という移行句(transitional phrase)は、特許請求の範囲に明記されていない、いかなる要素、段階または成分も除外する。「本質的に~からなる」という移行句は、特許請求の範囲を、明記された材料または段階、ならびに主張される本発明の「基本かつ新規の特徴」に実質的に影響を与えないものに限定する。
【0027】
II. 本発明の組成物
血小板は、血管損傷の部位に接着することにより、および血漿フィブリン塊の形成を促進することにより、損傷した哺乳動物を失血から保護する無核の骨髄由来血液細胞である。例えば、骨髄不全により循環血小板を枯渇させたヒトは、致命的な自然出血に苦しみ、それほど極端ではない血小板の欠乏は、外傷または外科手術後の出血合併症の一因となる。
【0028】
1 μLあたり約70,000個未満までの循環血小板数の低下は、血小板数がゼロまで下がるとほぼ無限に外挿する、標準化された皮膚出血時間試験の延長を引き起こす(血小板減少症)。1 μLあたり20,000個未満の血小板数を有する対象は、特に血小板減少症が骨髄不全、化学療法または大量失血を引き起こす外傷性損傷によって引き起こされる場合に、粘膜表面からの特発性出血に対して非常に感受性が高いものと考えられる。再生不良性貧血、急性および慢性白血病、転移がんなどの骨髄障害に関連するが、しかし特に電離放射線および化学療法によるがん処置に起因する血小板欠乏は、公衆衛生上の主要な問題である。また、大手術、損傷および敗血症に関連する血小板減少症は、かなりの数の血小板輸血の投与においても起こる。
【0029】
医療における半世紀前の大きな進歩は、そのような血小板欠乏を是正するための血小板輸血の開発であり、1999年には米国のみで900万回を超える血小板輸血が行われた(Jacobs, J Am Geriatr Soc. 2001 Jan;49(1):91-4.)。しかしながら、血小板は、その他全ての移植可能な組織とは異なり、冷却を許容しない。なぜなら、非常に短時間の冷却に供されてもレシピエントの循環血中から急速に消失し、血小板の生存を短くする冷却効果は不可逆的であるからである(Berger et al., Blood. 1998 Dec 1;92(11):4446-52.)。
【0030】
結果として輸血前にこれらの細胞を室温に保つ必要性により、血小板貯蔵のために独特な一連の高価かつ複雑な物流上の要件が課せられている。血小板は室温で活発に代謝されるので、代謝性アシドーシスの毒性結果を防ぐため発生したCO2の放出を可能とするように、多孔性容器内での絶え間ない撹拌を必要とする。室温貯蔵条件は、巨大分子分解および血小板の止血機能の低下、つまり「貯蔵損傷」として知られる一連の欠陥をもたらす。貯蔵損傷を有する血小板は、脾臓により対象の一次循環から迅速に除去され、それゆえ、これらの細胞の補充を緊急に必要としている対象で用いるのに適さない。
【0031】
血小板の貯蔵のために現在利用可能な技法および組成物は、有意な貯蔵損傷の発生前に3~5日前後の貯蔵しか許容しない。
【0032】
本発明の組成物は、周囲温度でも準周囲温度でもともに、長期貯蔵中に損傷のない機能的状態で血小板を保存するための血小板添加溶液である。血小板は、貯蔵損傷の有意な蓄積もなく、一酸化窒素合成の有意な減少もなく、高エネルギーリン酸濃度の有意な減少もなく、アポトーシス状態(例えば、細胞外膜へのホスファチジルセリン(PS)転移)の有意な兆候もなく、かつ有意に減少したレベルの凝集および形態異常を伴って、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15日のいずれかなどの、最長で15日の間、本明細書において記述される組成物に貯蔵することができる。
【0033】
A. 生理学的塩溶液
本発明の組成物は、生理学的塩溶液、グルコース、グルタチオン、アスコルビン酸、アルギニン、シトルリンリンゴ酸、アデノシン、クレアチン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオン源(例えば、塩化カルシウム)を含む水溶液 (すなわち水性の溶液)であることができる。生理学的塩溶液は、所与の濃度で水溶液中にある場合、貯蔵血小板の内部および外部のイオン濃度(例えば、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、塩化物、硫酸、リン酸および重炭酸イオン濃度)を維持するような、ならびに血小板細胞膜を通り抜けることができる水の量を制御するような、生理学的機能を補助するかまたはそれに必要とされる任意の塩を含むことができる。生理学的塩溶液の成分は、血小板貯蔵溶液における適切なpHを緩衝および維持するのを補助することもできる。本発明において用いることができる特定の塩には、非限定的に、塩化カリウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムが含まれる。
【0034】
本明細書において開示される組成物のいくつかの態様において、生理学的塩溶液は、塩化カリウムなどのカリウムイオン源を含有する。血小板貯蔵組成物中の塩化カリウムの濃度は、約4~5 mM、例えば約4 mMまたは約5 mMであることができる。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約0.30 g/Lの塩化カリウムを含有することができる。
【0035】
本明細書において開示される組成物のいずれかの生理学的塩溶液は、ナトリウムイオン源を含有することができる。ナトリウムイオンは、NaAlO2、NaBO2、NaCl、NaClO、NaClO2、NaClO3、NaClO4、NaF、Na2FeO4、NaHCO3、NaH2PO4、NaHSO3、NaHSO4、NaI、NaMnO4、NaNH2、NaNO2、NaNO3、NaOH、NaPO2H2、NaSH、Na2MnO4、Na3MnO4、Na2N2O2、Na2O2、Na2SO3、Na2SO4、Na2S2O4、Na2SeO3、Na2SeO4、Na2SiO3、Na2Si2O5、Na4SiO4、Na2Ti3O7、Na2Zn(OH)4、NaH2C6H5O7およびNa3PO4からなる群より選択される1つまたは複数のナトリウム塩などの、ナトリウム塩の形態で生理学的塩溶液に添加することができる。いくつかの態様において、血小板貯蔵組成物中のナトリウムイオンは、約100~140 mMの、例えば約100 mM、約101 mM、約102 mM、約103 mM、約104 mM、約105 mM、約106 mM、約107 mM、約108 mM、約109 mM、約110 mM、約111 mM、約112 mM、約113 mM、約114 mM、約115 mM、約116 mM、約117 mM、約118 mM、約119 mM、約120 mM、約121 mM、約122 mM、約123 mM、約124 mM、約125 mM、約126 mM、約127 mM、約128 mM、約129 mM、約130 mM、約131 mM、約132 mM、約133 mM、約134 mM、約135 mM、約136 mM、約137 mM、約138 mM、約139 mM、または約140 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む、濃度であることができる。
【0036】
本明細書において開示される組成物の他の態様において、生理学的塩溶液は塩化ナトリウムを含有する。血小板貯蔵組成物中の塩化ナトリウムの濃度は、約100~115 mM、例えば約100 mM、約101 mM、約102 mM、約103 mM、約104 mM、約105 mM、約106 mM、約107 mM、約108 mM、約109 mM、約110 mM、約111 mM、約112 mM、約113 mM、約114 mM、または約115 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約5.84 g/Lの塩化ナトリウムを含有することができる。
【0037】
本明細書において開示される組成物のさらなる態様において、生理学的塩溶液はリン酸ナトリウムを含有する。血小板貯蔵組成物中のリン酸ナトリウムの濃度は、約10~40 mM、例えば約10 mM、約11 mM、約12 mM、約13 mM、約14 mM、約15 mM、約16 mM、約17 mM、約18 mM、約19 mM、約20 mM、約21 mM、約22 mM、約23 mM、約24 mM、約25 mM、約26 mM、約27 mM、約28 mM、約29 mM、約30 mM、約31 mM、約32 mM、約33 mM、約34 mM、約35 mM、約36 mM、約37 mM、約38 mM、約39 mM、または約40 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約7.9 g/Lのリン酸ナトリウムを含有することができる。非限定的に、二塩基性七水和物形態を含む、任意の形態のリン酸ナトリウムを本発明において用いることができる。
【0038】
本明細書において開示される組成物のさらなる態様において、生理学的塩溶液はクエン酸ナトリウムを含有する。血小板貯蔵組成物中のクエン酸ナトリウムの濃度は、約5~15 mM、例えば約5 mM、約6 mM、約7 mM、約8 mM、約9 mM、約10 mM、約11 mM、約12 mM、約13 mM、約14 mM、または約15 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約4.41 g/Lのクエン酸ナトリウムを含有することができる。
【0039】
本明細書において開示される組成物の別の態様において、生理学的塩溶液は重炭酸ナトリウムを含有する。血小板貯蔵組成物中の重炭酸ナトリウムの濃度は、約4~6 mM、例えば約4.5 mM、5 mM、5.5 mMまたは6 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。1つの態様において、硫酸マグネシウムの濃度は約5 mMである。別の態様において、血小板貯蔵組成物は約0.42 g/Lの重炭酸ナトリウムを含有することができる。
【0040】
本明細書において開示される組成物の別の態様において、生理学的塩溶液はカルシウムイオン(例えば、塩化カルシウムなどのカルシウム塩によって供給されるカルシウムイオン)を含有しないか、あるいは、約100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)、例えば約95 μM、約90 μM、約85 μM、約80 μM、約75 μM、約70 μM、約65 μM、約60 μM、約55 μM、約50 μM、約45 μM、約40 μM、約35 μM、約30 μM、約25 μM、約20 μM、約15 μM、約14 μM、約13 μM、約12 μM、約11 μM、約10 μM、約9 μM、約8 μM、約7 μM、約6 μM、約5 μM、約4 μM、約3 μM、約2 μM、約1 μM、約0.1 μM、約0.01 μM、約0.001 μM、または約0.0001 μM未満などの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む、カルシウムイオンを含有する。本明細書において開示される組成物の別の態様において、生理学的塩溶液はカルシウムイオン(例えば、塩化カルシウムなどのカルシウム塩によって供給されるカルシウムイオン)を含有しないか、あるいは、約100 nM未満(1 μMまたはそれ以下など)、例えば約95 nM、約90 nM、約85 nM、約80 nM、約75 nM、約70 nM、約65 nM、約60 nM、約55 nM、約50 nM、約45 nM、約40 nM、約35 nM、約30 nM、約25 nM、約20 nM、約15 nM、約14 nM、約13 nM、約12 nM、約11 nM 約10 nM、約9 nM、約8 nM、約7 nM、約6 nM、約5 nM、約4 nM、約3 nM、約2 nM、約1 nM、約0.1 nM、約0.01 nM、約0.001 nM、または約0.0001 μM未満などの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む、カルシウムイオンを含有する。別の態様において、本明細書において開示される組成物の生理学的塩溶液は、酢酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、カルシウムアルミノフェライト、アルミノケイ酸カルシウム、硝酸アンモニウムカルシウム、ヒ酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、アジ化カルシウム、安息香酸カルシウム、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸カルシウム、重炭酸カルシウム、重亜硫酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、臭素酸カルシウム、臭化カルシウム、炭化カルシウム、炭酸カルシウム、塩素酸カルシウム、クロム酸カルシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸リンゴカルシウム、チタン酸カルシウム銅、カルシウムシアナミド、グルタミン酸カルシウム、エリソルビン酸カルシウム、フッ化カルシウム、ギ酸カルシウム、フマル酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルコヘプトン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グアニル酸カルシウム、ホウ化カルシウム、水素化カルシウム、水酸化カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、イノシン酸カルシウム、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸乳酸カルシウム、酢酸カルシウムマグネシウム、リンゴ酸カルシウム、一水素化カルシウム、一リン化カルシウム、カルシウムモルフェネート、硝酸カルシウム、窒化カルシウム、亜硝酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化カルシウム、パンガミン酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、過マンガン酸カルシウム、過酸化カルシウム、リン酸カルシウム、リン化カルシウム、プロパン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物、カルシウムシリサイド、ソルビン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫化カルシウム、亜硫酸カルシウム、酒石酸カルシウム、チタン酸カルシウム、塩化カルシウムおよびシアン化カルシウムからなる群より選択されるものなどの、1つまたは複数のカルシウム塩から供給される100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオンを含有する。
【0041】
室温/周囲温度(21±2℃)または準周囲温度(4±1℃および13±3℃)の両方での血小板貯蔵のために組成物中で用いられる生理学的塩溶液などの本明細書において開示される組成物のいずれかの生理学的塩溶液は、1つまたは複数のカルシウムキレート剤化合物をさらに含みうる。本発明において用いるのに利用可能なカルシウムキレート剤の非限定的な例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA) (1.5~5.0 mM)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、クエン酸、および薬学的に許容されるその塩の1つまたは複数が挙げられる。1つの態様において、本明細書において開示される組成物のいずれかの生理学的塩溶液は、0.001 mM、0.01 mM、0.1 mM、0.2 mM、0.3 mM、0.4 mM、0.5 mM、0.6 mM、0.7 mM、0.8 mM、0.9 mM、1 mM、1.1 mM、1.2 mM、1.3 mM、1.4 mM、1.5 mM、1.6 mM、1.7 mM、1.8 mM、1.9 mM、2 mM、2.1 mM、2.2 mM、2.3 mM、2.4 mM、2.5 mM、2.6 mM、2.7 mM、2.8 mM、2.9 mM、3 mM、3.1 mM、3.2 mM、3.3 mM、3.4 mM、3.5 mM、3.6 mM、3.7 mM、3.8 mM、3.9 mM、4 mM、4.1 mM、4.2 mM、4.3 mM、4.4 mM、4.5 mM、4.6 mM、4.7 mM、4.8 mM、4.9 mM、または5 mMのカルシウムキレート剤のいずれかなどの、0.001~5 mMのカルシウムキレート剤(例えばEGTA)を含有する。
【0042】
本明細書において開示される組成物のいずれかの生理学的塩溶液は、カリウムイオン源を含有することができる。カリウムイオンは、KAsO2、KBr、KBrO3、KCN、KCNO、KCl、KClO3、KClO4、KF、KH、KHCO2、KHCO3、KHF2、KHS、KHSO3、KHSO4、KH2AsO4、KH2PO3、KH2PO4、KI、KIO3、KIO4、KMnO4、KN3、KNH2、KNO2、KNO3、KOCN、KOH、KO2、KPF6、KCH3COO、K2Al2O4、K2CO3、K2CrO4、K2Cr2O7、K2FeO4、K2HPO4、K2MnO4、K2O、K2O2、K2S、K2SeO4、K2SO3、K2SO4、KHSO5、K2S2O5、K2S2O7、K2S2O8、K2SiO3、K3[Fe(C2O4)3]、K4[Fe(CN)6]、K3PO4およびK4Mo2Cl8からなる群より選択される1つまたは複数のカリウム塩などの、カリウム塩の形態で生理学的塩溶液に添加することができる。いくつかの態様において、血小板貯蔵組成物中のカリウムイオンは、約0.01~1 mMの、例えば約0.1 mM、約0.15 mM、約0.2 mM、約0.25 mM、約0.3 mM、約0.35 mM、約0.4 mM、約0.45 mM、約0.5 mM、約0.55 mM、約0.6 mM、約0.65 mM、約0.7 mM、約0.75 mM、約0.8 mM、約0.85 mM、約0.9 mM、または約1 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものの濃度であることができる。
【0043】
本明細書において開示される組成物の他の態様において、生理学的塩溶液は、リン酸カリウムを含有する。血小板貯蔵組成物中のリン酸カリウムの濃度は、約0.3~0.5 mM、例えば約0.35 mM、0.4 mM、0.45 mM、または0.5 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。1つの態様において、リン酸カリウムの濃度は、約0.44 mMである。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約0.06 g/Lのリン酸カリウムを含有することができる。非限定的に、一塩基性形態を含む、任意の形態のリン酸カリウムを本発明において用いることができる。
【0044】
本明細書において開示される組成物のいずれかの生理学的塩溶液は、マグネシウムイオン源を含有することができる。マグネシウムイオンは、MgB2、MgBr2、MgCO3、MgC2O4、MgC6H6O7、MgC14H10O4、MgCl2、Mg(ClO4)2、MgF2、MgH2、Mg(HCO3)2、MgI2、Mg(NO3)2、MgO、MgO2、Mg(OH)2、MgS、MgSO3、MgSO4、Mg2Al3、Mg2Si、Mg2SiO4、Mg2Si3O8、Mg3N2、Mg3(PO4)2およびMg2(CrO4)2からなる群より選択される1つまたは複数のマグネシウム塩などの、マグネシウム塩の形態で生理学的塩溶液に添加することができる。いくつかの態様において、血小板貯蔵組成物中のマグネシウムイオンは、約0.01~1.5 mMの、例えば約0.1 mM、約0.15 mM、約0.2 mM、約0.25 mM、約0.3 mM、約0.35 mM、約0.4 mM、約0.45 mM、約0.5 mM、約0.55 mM、約0.6 mM、約0.65 mM、約0.7 mM、約0.75 mM、約0.8 mM、約0.85 mM、約0.9 mM、約1 mM、約1.05 mM、約1.1 mM、約1.15 mM、約1.2 mM、約1.25 mM、約1.3 mM、約1.35 mM、約1.4 mM、約1.45 mM、または約1.5 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものの濃度であることができる。
【0045】
本明細書において開示される組成物のさらなる態様において、生理学的塩溶液は塩化マグネシウムを含有する。血小板貯蔵組成物中の塩化マグネシウムの濃度は、約0.4~0.6 mM、例えば約0.45 mM、0.5 mM、0.55 mM、または0.6 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。1つの態様において、塩化マグネシウムの濃度は、約0.5 mMである。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約0.110 g/Lの塩化マグネシウムを含有することができる。非限定的に、六水和物形態を含む、任意の形態の塩化マグネシウムを本発明において用いることができる。
【0046】
本明細書において開示される組成物の他の態様において、生理学的塩溶液は硫酸マグネシウムを含有する。血小板貯蔵組成物中の硫酸マグネシウムの濃度は、約0.4~0.6 mM、例えば約0.45 mM、0.5 mM、0.55 mM、または0.6 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。1つの態様において、硫酸マグネシウムの濃度は、約0.5 mMである。別の態様において、血小板貯蔵組成物は、約0.123 g/Lの硫酸マグネシウムを含有することができる。非限定的に、七水和物形態を含む、任意の形態の硫酸マグネシウムを本発明において用いることができる。
【0047】
B. 他の成分
生理学的塩溶液に加えて、本発明の組成物は、グルコース、グルタチオン、アスコルビン酸、アルギニン、シトルリンリンゴ酸、アデノシン、クレアチン、および100 μM未満(1 μMまたはそれ以下など)のカルシウムイオン(例えば、塩化カルシウムなどのカルシウム塩によって供給されるカルシウムイオン)を含むこともできる。
【0048】
糖、例えば、グルコース(D-グルコースもしくはデキストロースなど)などの六炭素糖または五炭素糖(リボースなど)は、高エネルギーリン酸(ATPなど)の生成のための基質としての役割を果たすことができ、約5~15 mMの、例えば約5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mM、10 mM、11 mM、12 mM、13 mM、14 mM、または15 mMのいずれかなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む濃度で、本明細書において記述される血小板保存および貯蔵組成物中に含めることができる。1つの態様において、グルコースの濃度は約1.98 g/Lである。別の態様において、グルコースは約11 mMの濃度で存在する。
【0049】
血小板貯蔵中に反応性酸素種が生成されうる; しかしながら、溶液中に存在するアスコルビン酸および還元グルタチオン(すなわち、還元剤)が、貯蔵中に酸素フリーラジカルを使い果たしうる。したがって、アスコルビン酸も還元グルタチオンもともに、約0.5 mM~3 mMの、例えば約0.5 mM、1 mM、1.5 mM、2 mM、2.5 mMまたは3 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む濃度で、本明細書において記述される血小板保存および貯蔵組成物中に存在することができる。1つの態様において、アスコルビン酸の濃度は約0.178 g/Lである。別の態様において、アスコルビン酸は約1 mMの濃度で存在する。いくつかの態様において、還元グルタチオンの濃度は約0.462 g/Lである。別の態様において、還元グルタチオンは約1.5 mMの濃度で存在する。
【0050】
本明細書において開示される血小板貯蔵組成物の他の成分は、トリカルボン酸(TCA)サイクルによるATPの生成を補助する。シトルリンリンゴ酸-アルギニンサイクルにおいて、リンゴ酸塩(シトルリンから切断された)はTCAサイクルに入り、より多くのATPを生成する。また、シトルリンリンゴ酸はアルギニンおよびフマル酸塩に変換される; フマル酸塩はTCAサイクルに入り、より多くのATP生成を促進する。TCAサイクル中のリンゴ酸塩もフマル酸塩もともに、より多くのATP生成をもたらす。したがって、アルギニン(L-アルギニンなど)およびシトルリンリンゴ酸(L-シトルリンリンゴ酸など)は、約0.5 mM~7 mMの、例えば約0.5 mM、1 mM、1.5 mM、2 mM、2.5 mM、3 mM、3.5 mM、4 mM、4.5 mM、5 mM、5.5 mM、6 mM、6.5 mMまたは7 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む濃度で、本明細書において記述される血小板保存および貯蔵組成物中に存在することができる。1つの態様において、アルギニンの濃度は約1.074 g/Lである。別の態様において、アルギニンは約5 mMの濃度で存在する。いくつかの態様において、シトルリンリンゴ酸の濃度は約0.175 g/Lである。別の態様において、シトルリンリンゴ酸は約0.175 mMの濃度で存在する。任意で、アルギニンコハク酸塩およびフマル酸塩(fumerate)サイクルを介してNO合成を促進し、また中間体フマル酸塩を介してクレブスのサイクルにおけるATP合成を促進しうるシトルリン(L-シトルリンなど)が、それぞれ約1~10 mMのシトルリン(例えば約1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのいずれかなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む)および約1~5 mMのリンゴ酸(例えば約1 mM、2 mM、3 mM、4 mMまたは5 mMのいずれかなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む)の範囲で組成物に個別に添加されてもよい。
【0051】
ATP値を維持するのに有用な別の成分はアデノシンである。アデノシンは、約1~4 mMの、例えば約1 mM、1.5 mM、2 mM、2.5 mM、3 mM、3.5 mMまたは4 mMのいずれかなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む濃度で、本明細書において開示される組成物中に存在することができる。1つの態様において、アデノシンの濃度は約0.534 g/Lである。別の態様において、アデノシンは約2 mMの濃度で存在する。
【0052】
他の態様において、オロト酸が、本明細書において開示される血小板保存および貯蔵組成物中に含まれる。オロト酸は約0.5~2 mMの、例えば約0.5 mM、1 mM、1.5 mM、または2 mMのいずれかなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む濃度で、存在することができる。1つの態様において、アデノシンの濃度は約0.274 g/Lである。別の態様において、アデノシンは約0.5 mMの濃度で存在する。
【0053】
本明細書において開示される血小板貯蔵組成物のいくつかの態様において、組成物溶液はクレアチンを含有する。血小板貯蔵組成物中のクレアチンの濃度は、約2~5 mM、例えば約2 mM、約3 mM、約4 mMまたは約5 mMなどであることができる。別の態様において、血小板貯蔵組成物は0.373 g/Lのクレアチンカリウムを含有することができる。非限定的に、クレアチン一水和物を含む、任意の形態のクレアチンを本発明において用いることができる。しかしながら、本明細書において記述される組成物の任意のいくつかの態様において、組成物中にオロト酸クレアチンは含まれない。
【0054】
本明細書において開示される組成物のいくつかの態様において、組成物溶液はカルノシン(例えば、L-カルノシン)などの、細胞内酸性度のための緩衝液を含有する。組成物中のカルノシンの濃度は、約5~10 mM、例えば約5 mM、約6 mM、約7 mM、約8 mM、約9 mM、または約10 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。別の態様において、組成物は約2.26 g/LのL-カルノシンを含有することができる。
【0055】
本明細書において開示される組成物の他の態様において、溶液は、心筋乳酸塩生成の減少を促進し、したがって酸性度を低減させるカルニチン(例えば、L-カルニチン)を含有する。組成物中のカルニチンの濃度は、約5~10 mM、例えば約5 mM、約6 mM、約7 mM、約8 mM、約9 mM、または約10 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。別の態様において、組成物は約2 g/LのL-カルニチンを含有することができる。
【0056】
ジクロロアセテートは、本明細書において開示される貯蔵組成物中に存在する場合、溶液中の乳酸塩値を低下させることにより酸性度を制御することができる。それはまた、PDH経路を介してクレブスサイクルへの乳酸塩の侵入を容易にすることもできる。組成物中のジクロロアセテートの濃度は、約0.5~2.5 mM、例えば約0.5 mM、約0.6 mM、約0.7 mM、約0.8 mM、約0.9 mM、約1 mM、約1.1 mM、約1.2 mM、約1.3 mM、約1.4 mM、約1.5 mM、約1.6 mM、約1.7 mM、約1.8 mM、約1.9 mM、約2 mM、約2.1 mM、約2.2 mM、約2.3 mM、約2.4 mM、または約2.5 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含むものであることができる。別の態様において、組成物は、約0.08 g/Lのジクロロアセテートを含有することができる。他の態様において、組成物中のジクロロアセテートの濃度は、約0.001 mM~0.5 mM、例えば約0.001 mM、約0.01 mM、約0.1 mM、約0.15 mM、約0.2 mM、約0.25 mM、約0.3 mM、約0.35 mM、約0.4 mM、約0.45 mM、または約0.5 mMのいずれかなどであることができる。いくつかの態様において、ジクロロアセテートは、周囲温度(例えば、約21±2℃の間)で血小板を貯蔵するための組成物中に存在する。他の態様において、ジクロロアセテートは、準周囲温度(例えば、約0℃~約18℃)で血小板を貯蔵するための組成物中には存在しない。
【0057】
本明細書において開示される血小板貯蔵組成物のいくつかの態様において、組成物はカルシウムイオン、オロト酸クレアチン、ジクロロアセテート、シトルリン(例えば、シトルリンリンゴ酸)、またはインスリンのうち1つまたは複数を含有しない。
【0058】
本明細書において開示される血小板貯蔵組成物は、例えば約pH 7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6または7.7などの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む、中性またはわずかに塩基性のpHで維持することができる。1つの態様において、血小板貯蔵組成物のpHは7.5である。
【0059】
他の態様において、血小板貯蔵組成物は、脱イオン水および/または静菌水中に混ぜ合わせた、表Iに示される通りの以下の基礎のまたは名目上の成分を含む。
【0060】
(表I)血小板貯蔵溶液のための例示的な製剤
【0061】
いくつかの態様において、表Iに示される非限定的な製剤で用いるためのリン酸カリウム塩は、一塩基性リン酸カリウムであることができる。別の態様において、表Iに示される非限定的な製剤で用いるための塩化マグネシウム塩は、塩化マグネシウム六水和物であることができる。他の態様において、表Iに示される非限定的な製剤で用いるための硫酸マグネシウム塩は、硫酸マグネシウム七水和物であることができる。さらに他の態様において、表Iに示される非限定的な製剤で用いるためのリン酸ナトリウム塩は、リン酸水素二ナトリウム七水和物であることができる。いくつかの態様において、表Iに示される非限定的な製剤で用いるためのグルタチオンは、還元グルタチオンであることができる。別の態様において、表Iに示される非限定的な製剤で用いるためのクレアチンは、クレアチン一水和物であることができる。
【0062】
さらなる態様において、表Iに示される非限定的な製剤は、約2~約10 mMの、例えば約2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMもしくは10 mMのいずれかなどの濃度のアルギニン(例えば、L-アルギニン)、約5~約10 mMの、例えば約5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMもしくは10 mM (10 mMの場合2.26 g/L)のいずれかなどの濃度のカルノシン(例えば、L-カルノシン)、約5~約10 mMの、例えば約5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMもしくは10 mM (10 mMの場合には2.26 g/L)のいずれかなどの濃度のカルニチン(例えば、L-カルニチン)、例えば、約0.5~2 mMの、例えば約0.5、1、1.5もしくは2 mMのいずれかなどの濃度のオロト酸、または約2~5 mMの、例えば約2 mM、3 mM、4 mMもしくは5 mMのいずれかなどの濃度の、クレアチン(例えば、クレアチン一水和物)のうち1つまたは複数をさらに含むことができる。
【0063】
さらに他の態様において、表Iに示される非限定的な製剤は、限定されるものではないが、約11 mM~約25 mMの、例えば約11 mM、12 mM、13 mM、14 mM、15 mM、16 mM、17 mM、18 mM、19 mM、20 mM、21 mM、22 mM、23 mM、24 mMまたは25 mMの糖の濃度の六炭素糖(例えば、アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース(D-グルコース(別名デキストロース)およびL-グルコースを含む)、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース、フコース、フクロースもしくはラムノース)または五炭素糖(例えばアラビノース、リキソース、リボース、キシロース、ケトペントース、リブロースもしくはキシルロース)などの、糖をさらに含むことができる。
【0064】
さらに他の態様において、表Iに示される非限定的な製剤は、約2~約10 mM、例えば約2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのいずれかなどの濃度の、1~10 mMのシトルリン(例えば、L-シトルリン)またはその塩を任意で含んでもよい。別の態様において、表IIに示される非限定的な製剤は、約0 mM、1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのいずれかなどの、約0~10 mMのリンゴ酸を任意で含んでもよい。別の態様において、表IIに示される非限定的な製剤は、約0 mM、1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのシトルリンリンゴ酸のいずれかなどの、約0 mM~約10 mMまたは約2 mM~約7 mMの濃度のリンゴ酸および/またはシトルリンの代わりにシトルリンリンゴ酸(L-シトルリンリンゴ酸など)を任意で含んでもよい。
【0065】
他の態様において、表Iに示される非限定的な製剤は、約0 mM~約5 mM、例えば約0 mM、1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、または5 mMのいずれかなどの濃度でカルシウムキレート剤(限定されるものではないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびクエン酸の1つまたは複数など)を任意で含んでもよい。本明細書において記述される血小板貯蔵組成物のいずれかにおけるカルシウムキレート剤の使用は、さまざまな成分を組み合わせるのに用いるための水がカルシウムイオンを完全にまたは実質的に含まないわけではない場合に必要でありうる(すなわち、水は100 μM超(または約0 μM、1 μM、2 μM、3 μM、4 μM、5 μM、10 μM、15 μM、20 μM、25 μM、30 μM、35 μM、40 μM、45 μM、50 μM、55 μM、60 μM、65 μM、70 μM、75 μM、80 μM、85 μM、90 μM、もしくは95 μMのいずれか超)のカルシウムイオン濃度を有する)。溶液中のカルシウムイオンの検出および定量は、例えば、原子吸光分光法などの、当技術分野において公知の方法によって容易に確認することができる。
【0066】
他の態様において、および非限定的な例として、血小板貯蔵組成物は、脱イオン水および/または静菌水中に混ぜ合わせた、表IIに示される通りの以下の成分を含む。
【0067】
(表II)血小板貯蔵溶液のための例示的な製剤
任意で、L-シトルリンリンゴ酸の代わりに、1~10 mMのL-シトルリンおよび1~5 mMのリンゴ酸が用いられてもよい。
【0068】
III. 本発明の方法
A. 血小板を保存するための方法
本明細書において開示される組成物を用いて血小板を貯蔵するための有効な方法も、本発明によって提供される。血小板は、血小板輸送バッグ中で周囲温度または室温(21±2℃)にて、本明細書において開示される溶液中に貯蔵することができる。いくつかの態様において、周囲温度または室温で血小板を貯蔵するための組成物は、ジクロロアセテートを含有する。別の態様において、血小板は、準周囲温度(4±1℃または13±3℃)にて本明細書において開示される溶液中に貯蔵することができる。いくつかの態様において、準周囲温度にて血小板を貯蔵するための組成物は、ジクロロアセテートを欠く(すなわち含有しない)。さらに他の態様において、約3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、または25℃のいずれかなどの、約3℃から約23℃に及ぶ温度にて本明細書において開示される溶液中に貯蔵することができる。
【0069】
いくつかの態様において、本明細書に開示される組成物中に貯蔵された血小板は、例えばフラットベッドシェーカーまたは任意の同様の撹拌装置上などで、貯蔵過程の全部または一部の間に穏やかに撹拌することができる。本明細書において提供される方法によれば、血小板は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15日のいずれかなどの、最長で15日の間、貯蔵損傷の有意な蓄積なしに、本明細書において開示される溶液中に貯蔵されることができ、例えば、血小板は5日超の貯蔵後の輸血に適している。
【0070】
一酸化窒素(NO)は、心血管恒常性、神経伝達および免疫応答における多様な機能的役割を有する生体調節分子である。実施例の項で論じられるように、本出願の発明者らは、貯蔵された血小板におけるNO生成が、健常な血小板生理機能にとって決定的に重要であり、血小板貯蔵損傷の低減および血小板凝集の阻害に関連することを発見した。したがって、理想的な貯蔵溶液は、貯蔵の過程において血小板におけるNO生成が正常のままであることを確実にするであろう。本明細書において開示される方法によって本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板は、本明細書において開示される溶液中で貯蔵されていない血小板と比べて有意に多くのNO生成(例えば約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%高いNO生成のいずれかなどの、これらの割合の範囲内にある全ての範囲および数を含む)を示す。本明細書において記述される組成物において、シトルリン(例えば、シトルリンリンゴ酸)およびアルギニン(例えば、L-アルギニン)などの成分は、貯蔵された血小板におけるNO生成を維持するのに役立つ。
【0071】
長期貯蔵中の血小板における高エネルギーリン酸濃度(ATPなど)の維持は、貯蔵損傷の低減にとっても重要である。本明細書において開示される方法によって本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板は、本明細書において開示される溶液中で貯蔵されていない血小板と比べて有意に多くの高エネルギーリン酸(例えば約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%多くの高エネルギーリン酸のいずれかなどの、これらの割合の範囲内にある全ての範囲および数を含む)を示す。
【0072】
血小板は、貯蔵されてから早ければ3日後に凝集することが多い。血小板の凝集は貯蔵損傷の始まりに関連しているので、理想的な血小板貯蔵溶液は、血小板を実質的に凝集していない状態に維持するであろう。本明細書において開示される方法によって本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板は、本明細書において開示される溶液中で貯蔵されていない血小板と比べて有意に少ない凝集(例えば約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%少ない凝集のいずれかなどの、これらの割合の範囲内にある全ての範囲および数を含む)を示す。同様に、本明細書に開示される溶液中に貯蔵された血小板は、同等の期間にわたり本明細書において開示される溶液中で貯蔵されていない血小板と比べて有意に少ない形態変化(円盤形態の喪失など)を示す。
【0073】
貯蔵された血小板において観察されることが多い別の特徴的な損傷は、血小板内膜から血小板外膜へのリン脂質ホスファチジルセリン(PS)の移行である。本明細書において開示される方法によって本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板は、本明細書において開示される溶液中で貯蔵されていない血小板と比べて有意に少ないPS移行(例えば約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%少ないPS移行のいずれかなどの、これらの割合の範囲内にある全ての範囲および数を含む)を示す。
【0074】
長期間貯蔵された血小板は乳酸塩生成の有意な増加を示し、これが貯蔵媒体のpHに悪影響を及ぼし貯蔵媒介損傷の増加をもたらしうる。本明細書において開示される方法によって本明細書において開示される溶液のいずれかに貯蔵された血小板は、本明細書において開示される溶液中で貯蔵されていない血小板と比べて有意に少ない乳酸塩生成(例えば約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%または75%少ない乳酸塩生成のいずれかなどの、これらの割合の範囲内にある全ての範囲および数を含む)を示す。
【0075】
B. 血小板貯蔵組成物を作成するための方法
本明細書において開示される組成物のいずれかなどの、血小板を保存するための組成物を作成するための方法が本明細書において提供される。本方法は、蒸留水、脱イオン水および/または静菌水中に表IIIに表示された濃度の以下の成分の1つまたは複数を混合して、非限定的な例の血小板貯蔵組成物を作成する段階を包含する。
【0076】
(表III)
【0077】
本明細書において開示される方法の1つの態様において、組成物にシトルリンリンゴ酸(L-シトルリンリンゴ酸など)を添加するのではなく、1~10 mM (例えば約1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのいずれかなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む)のシトルリン(L-シトルリンなど)を、それぞれ、1~5 mM (例えば約1 mM、2 mM、3 mM、4 mMまたは5 mMなどの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む)のリンゴ酸とともに添加することができる。
【0078】
いくつかの態様において、表IIIに示される非限定的な製剤を作成する際に用いられるリン酸カリウム塩は、一塩基性リン酸カリウムであることができる。別の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるための塩化マグネシウム塩は、塩化マグネシウム六水和物であることができる。他の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるための硫酸マグネシウム塩は、硫酸マグネシウム七水和物であることができる。さらに他の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるためのリン酸ナトリウム塩は、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物であることができる。いくつかの態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるためのグルタチオンは、還元グルタチオンであることができる。別の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるためのクレアチンは、クレアチン一水和物であることができる。別の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるためのアルギニンは、L-アルギニンであることができる。別の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるためのカルノシンは、L-カルノシンであることができる。別の態様において、表IIIに示される非限定的な製剤で用いるためのカルニチンは、L-カルニチンであることができる。
【0079】
さらに他の態様において、血小板を保存するための組成物を作成するための方法は、蒸留水、脱イオン水および/または静菌水中に表IVに表示された濃度の以下の成分の1つまたは複数を混合して、非限定的な例の血小板貯蔵組成物を作成する段階を包含する。
【0080】
(表IV)
【0081】
いくつかの態様において、表IVに示される非限定的な製剤で用いるためのリン酸カリウム塩は、一塩基性リン酸カリウムであることができる。別の態様において、表IVに示される非限定的な製剤で用いるための塩化マグネシウム塩は、塩化マグネシウム六水和物であることができる。他の態様において、表IVに示される非限定的な製剤で用いるための硫酸マグネシウム塩は、硫酸マグネシウム七水和物であることができる。さらに他の態様において、表IVに示される非限定的な製剤で用いるためのリン酸ナトリウム塩は、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物であることができる。いくつかの態様において、表IVに示される非限定的な製剤で用いるためのグルタチオンは、還元グルタチオンであることができる。
【0082】
さらなる態様において、表IVに示される非限定的な製剤は、約2~約10 mMの、例えば約2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMもしくは10 mMのいずれかなどの濃度のアルギニン(例えば、L-アルギニン)、約5~約10 mMの、例えば約5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMもしくは10 mM (10 mMの場合2.26 g/L)のいずれかなどの濃度のカルノシン(例えば、L-カルノシン)、約5~約10 mMの、例えば約5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMもしくは10 mM (10 mMの場合には2.26 g/L)のいずれかなどの濃度のカルニチン(例えば、L-カルニチン)、例えば、約0.5~2 mMの、例えば約0.5、1、1.5もしくは2 mMのいずれかなどの濃度のオロト酸、または約2~5 mMの、例えば約2 mM、3 mM、4 mMもしくは5 mMのいずれかなどの濃度のクレアチン(例えば、クレアチン一水和物)のうち1つまたは複数をさらに含むことができる。
【0083】
さらに他の態様において、表IVに示される非限定的な製剤は、限定されるものではないが、約11 mM~約25 mMの、例えば約11 mM、12 mM、13 mM、14 mM、15 mM、16 mM、17 mM、18 mM、19 mM、20 mM、21 mM、22 mM、23 mM、24 mMまたは25 mMの糖の濃度の六炭素糖(例えば、アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース(D-グルコース(別名デキストロース)およびL-グルコースを含む)、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース、フコース、フクロースもしくはラムノース)または五炭素糖(例えばアラビノース、リキソース、リボース、キシロース、ケトペントース、リブロースもしくはキシルロース)などの糖をさらに含むことができる。
【0084】
さらに他の態様において、表IVに示される非限定的な製剤は、約2~約10 mM、例えば約2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのいずれかなどの濃度の、1~10 mMのシトルリン(例えば、L-シトルリン)またはその塩を任意で含んでもよい。別の態様において、表IVに示される非限定的な製剤は、約0~10 mM、例えば約0 mM、1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのいずれかのリンゴ酸を任意で含んでもよい。別の態様において、表IVに示される非限定的な製剤は、約0 mM、1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、5 mM、6 mM、7 mM、8 mM、9 mMまたは10 mMのシトルリンリンゴ酸のいずれかなどの、約0 mM~約10 mMまたは約2 mM~約7 mMの濃度のリンゴ酸および/またはシトルリンの代わりにシトルリンリンゴ酸(L-シトルリンリンゴ酸など)を任意で含んでもよい。
【0085】
他の態様において、表IVに示される非限定的な製剤は、約0 mM~約5 mM、例えば約0 mM、1 mM、2 mM、3 mM、4 mM、または5 mMのいずれかなどの濃度でカルシウムキレート剤(限定されるものではないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEEDTA)、ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CDTA)、l,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)、およびクエン酸の1つまたは複数など)を任意で含んでもよい。本明細書において記述される血小板貯蔵組成物のいずれかを作成するためのカルシウムキレート剤の使用は、水がカルシウムイオンを完全にまたは実質的に含まないわけではない場合に必要である(すなわち、水は0 μM超または1 μM超のカルシウムイオン濃度を有する)。
【0086】
本方法はまた、例えば約pH 7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6または7.7などの、これらの値の範囲内にある全ての範囲および数を含む、中性またはわずかに塩基性のレベルに、溶液のpHを調整する段階を含むことができる。1つの態様において、血小板貯蔵組成物のpHは7.5に調整される。
【0087】
さらに他の態様において、血小板を保存するための組成物を作成するための方法は、蒸留水、脱イオン水および/または静菌水中に表Vに表示された濃度の以下の成分の1つまたは複数を混合して、非限定的な例の血小板貯蔵組成物を作成する段階を包含する。
【0088】
(表V)血小板貯蔵溶液のための例示的な製剤
【0089】
C. 血小板における一酸化窒素の存在をリアルタイムで検出するための方法
リアルタイムで血小板における基礎一酸化窒素(NO)の存在を検出するための方法も本明細書において提供される。これらの方法は、開示された血小板貯蔵組成物および関連する方法と併用して、貯蔵期間を通じて血小板の健全性をモニタリングできる比較的迅速かつ正確な技法を提供する。
【0090】
本方法は、貯蔵された血小板を含有するサンプルを、一酸化窒素特異的蛍光色素で標識する段階を包含する。任意の一酸化窒素特異的蛍光色素を、本方法と併用することができ、それらには市販されているもの(例えば、Life Technologiesから入手可能な、DAF-FM、2,3-ジアミノナフタレン、1,2-ジアミノアントラキノンもしくはNBDメチルヒドラジンまたはEnzo Life Sciencesから入手可能なDAF-2 DAなど)が含まれる。
【0091】
一酸化窒素特異的蛍光色素で標識した後に、血小板は、限定されるものではないが、グルタルアルデヒド、ホルマリン、ホルムアルデヒド、エタノール、メタノール、四酸化オスミウム、二クロム酸カリウム、クロム酸または過マンガン酸カリウムなどの、当技術分野において公知の任意の適切な固定剤を用いて任意で固定されてもよい。固定は、例えば、顕微鏡スライド上でまたは蛍光撮像に適した他の任意の媒体上で行うことができる。
【0092】
限定されるものではないが、蛍光顕微鏡法(共焦点顕微鏡法など)、蛍光活性化細胞選別(FACS)などのフローサイトメトリー技法、または蛍光光度計などの、蛍光を検出するための当技術分野において公知の任意の手段を用いNO生成について蛍光標識した血小板を評価することができる。
【0093】
IV. キット
貯蔵/蘇生溶液を作製するための組成物は、溶液の量の2、3、5、10、20倍になるようにスケールアップするのに必要な量で、以下に列挙した成分またはその倍数でキットに任意で包装されてもよい。例示的なキットは、グルタチオン、アスコルビン酸、アデノシン、塩化カリウム、リン酸カリウム 塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、糖(リボース、グルコースまたはデキストロースなど)、アルギニン、シトルリンリンゴ酸、アデノシン、オロト酸、クレアチン、カルシウムキレート剤(例えば、EGTA)およびジクロロアセテートの1つまたは複数(例えば、約0.3 g/Lの塩化カリウム、0.06 g/Lのリン酸カリウム(一塩基性)、0.110 g/Lの塩化マグネシウム(六水和物)、0.123 g/Lの硫酸マグネシウム(七水和物)、5.84 g/Lの塩化ナトリウム、0.42 g/Lの重炭酸ナトリウム、7.9 g/Lのリン酸ナトリウム(二塩基性; 七水和物)、1.98 g/LのD-グルコース、0.462 g/Lのグルタチオン(還元)、0.178 g/Lのアスコルビン酸、1.074 g/Lのアルギニン、0.175 g/LのL-シトルリンリンゴ酸、0.534 g/Lのアデノシン、0.274 g/Lのオロト酸、0.373 g/Lのクレアチン一水和物、0.001~5 mMのEGTA、および/または0.075 gm/Lのジクロロアセテートの1つまたは複数)を含有する。キットはまた、シトルリン(L-シトルリンなど)およびリンゴ酸を任意で含有してもよい。
【0094】
これらの成分は、使用説明書とともに包装されることができ、0.01~2.0 Lの蒸留水中で混合される。キットはまた、組み合わされた血小板保存溶液(例えばTHAM)のpHを調整するための手段の溶液を含有しうる。キットは、滅菌水成分の有無にかかわらず、包装または販売されることができる。
【0095】
リアルタイムで血小板中の一酸化窒素の存在を検出するためのキットも本明細書において提供される。これらのキットは、1つもしくは複数の一酸化窒素特異的蛍光色素および/または限定されるものではないが、蛍光光度計などの、蛍光シグナルを測定するための手段を包含することができる。キットの他の成分は、固定試薬、顕微鏡スライド、および血小板一酸化窒素評価アッセイ法を行うための取扱説明書を含むことができる。
【0096】
本明細書の全体にわたって与えられたあらゆる最大数値限定は、あらゆるより低い数値限定を、こうしたより低い数値限定が本明細書において明示的に記載されているかのように含むことが意図される。本明細書の全体にわたって与えられたあらゆる最小数値限定は、あらゆるより高い数値限定を、こうしたより高い数値限定が本明細書において明示的に記載されているかのように含む。本明細書の全体にわたって与えられたあらゆる数値範囲は、こうしたより広い数値範囲の範囲内にあるあらゆるより狭い数値範囲を、こうしたより狭い数値範囲が全て本明細書において明示的に記載されているかのように含む。
【0097】
本発明は、以下の実施例を参照することによってさらに理解することができるが、これらは実例として提供されるものであり、限定することを意味するものではない。
【実施例
【0098】
実施例1
以下の実施例において、表はアラビア数字(例えば表1、表2、表3など)を用いて指定される。本実施例は、Aayusol溶液中に貯蔵された血小板が、PASIII-M中に貯蔵された血小板と比較して、一酸化窒素の生成増加および凝集レベルの減少を示したことを示す。
【0099】
材料および方法
血小板濃縮物および血小板が豊富な血漿の調製および貯蔵:
PASIII-M (Kaufman Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2006, 492-496; Alhumaidan J Clinical Apheresis 2012; 27:93-98)およびAayusol (pH 7.5)を調製した。その組成を表1に示す。血小板濃縮物はResearch Blood Components (Cambridge, MA)から入手した。同意した健常ボランティアドナー3名からの血小板が豊富な血漿(PRP)を、記述のように調製した(Hou et al. 2 Vox Sanguinis (2011) 100, 187-195; Gao et al. Thromb Haemost 2012; 107: 681-689)。簡潔には、標準的な抗凝固剤ACD-A (9:1, 体積比)を含有する試験管に、健常なボランティアから静脈血(40~60 ml)を採取した。サンプルを遠心分離し(200 gで15分)、血小板が豊富な血漿(PRP)の上部3分の2を収集した。採取した血小板(PRP)を、PASIII-MまたはAayusol (20:80 v/v)を含有する気体透過性貯蔵バッグに移入した。全てのサンプルは有意に白血球が低減され、5×106/単位未満の白血球数を有した。サンプル単位は、American Association of Blood Banks基準にしたがって3×1011個超の血小板を含有するように標準化された。
【0100】
(表1)Aayusol溶液の組成
【0101】
血小板を移入したバッグを無菌条件下、フラットベッドシェーカー(Helmer PC 100, Noblesville, IN)上で絶え間なく穏やかに撹拌しながら21±2℃で貯蔵した。貯蔵された血小板を、9~14日間の貯蔵中に一時的な評価のため穏やかにサンプリングした。血小板を自己血液輸送バッグ(容量300 ml; Medtronics, Minneapolis, MN; カタログ番号ATBAG300)に貯蔵した。
【0102】
共焦点顕微鏡法:
室温で60分間のインキュベーションにより、血小板をDAF2-DA (50 μM、一酸化窒素特異的蛍光色素)で定期的に標識した。血小板を1%グルタルアルデヒド中で素早く固定し、共焦点顕微鏡法を用いて撮像した。サンプルを488 nmのクリプトン-アルゴンレーザーで励起し、狭帯域通過フィルタを用いて発光波長の重なりを制限した。血小板をスキャンし、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss GmbH, Jena, Germany)で撮像した。
【0103】
一酸化窒素合成のフローサイトメトリー分析:
PASIII-M (Kaufman Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2006, 492-496; Alhumaidan J Clinical Apheresis 2012; 27:93-98)およびAayusol中に1~9日間貯蔵された血小板を、室温で60分間のインキュベーションによりDAF2-DAで定期的に標識した。次に、混合物をタイロード緩衝液またはAayusol溶液200 μlで希釈し、フローサイトメトリーにより評価した。直径1~6 μm未満の事象は、前方散乱および側方散乱強度ドット表現で同定された。1サンプルにつき1分間捕捉を実施し、その間にフローサイトメトリーによっておよそ60 μlの懸濁液が分析された。微粒子濃度を既述のように計算した(Hou; Gao)。結果を1 mlあたりの微粒子数として表した。全てのサンプルを少なくとも3回繰り返し、平均値を得た。BD LSR Fortessa (Becton-Dickinson, San Jose, CA)を用いてサンプルを分析した。
【0104】
結果
血小板を標準的な300 ml輸送バッグ(Medtronics)中PASIII-MおよびAayusol (20:80)に、穏やかに振とうしながら周囲温度で9日間保存した。図1はn=5の実験の代表的な画像; 倍率200倍を示す。画像は、5日目の貯蔵後に、Aayusol中の血小板がPAS中のものと比較して、緑色蛍光の明るさにより示されるように、いっそう多量の持続性の一酸化窒素を生成していたことを示す。さらに、血小板はその形態を維持し、Aayusolにおいていかなる凝集も示さなかった。対照的に、貯蔵中にPASIII-Mにおいて、血小板は膨潤し(部分的に活性化し)ているように見え、早くも3日間で凝集体を形成し始めた(図1A (左の挿入図)参照)。対照的に、Aayusolにおいては9日間の貯蔵後にのみ血小板の部分的な凝集が観察された。これは、蛍光撮像技法を用いた血小板における一酸化窒素生成の測定の最初の実証である。図1Bに示されるように、FACSスキャナを用いてDAF標識サンプルを分析した。全蛍光(光子)カウントは任意単位で表される。一酸化窒素の生成は経時的に減少したが、Aayusolに保存された血小板では貯蔵期間にわたって有意に大きかった。PASIII-Mに貯蔵された血小板における一酸化窒素の基礎生成のほぼ瞬時の減少が認められた。対照的に、9日間の貯蔵期間の全体を通して、Aayusolに保存された血小板では、基礎的な一酸化窒素生成が強く維持されていた。これらの結果から、PASIII-Mとは対照的にAayusolにおいて観察された血小板凝集が最小限であったのは、一酸化窒素が血小板凝集および活性化を低下させることから、貯蔵された血小板による一酸化窒素の強力な生成の結果であることが実証される。(データは平均±SD, n=5, p<0.005を表す)。
【0105】
実施例2
本実施例は、高エネルギーリン酸の保存が、貯蔵された血小板における恒常性の維持を容易にすることを示す。
【0106】
材料および方法
ATPおよびクレアチンリン酸アッセイ法:
記述のように血小板抽出物においてATPおよびクレアチンリン酸(CP)を測定した(Besho et al. 1991)。簡潔には、血小板を0.4 Mの氷冷過塩素酸400 μlに懸濁し、30秒間2回ホモジナイズした。ホモジネートを0℃で10分間、1970 gで遠心分離した。上清のアリコットを等量の氷冷0.4 M KHCO3溶液で中和し、上記のように遠心分離した。上清をATP (およびCP)測定のために-80℃で貯蔵した。ペレットを等量の0.1 M NaOHに溶解し、遠心分離し、タンパク質アッセイ法に用いた。ATPおよびCPは、製造業者によって提供されたプロトコルにしたがって、生物発光アッセイキット(Sigma-AldrichおよびGloMax-Multi + Detection System, Promega)を用いて測定された。
【0107】
結果
結果を図2に示す。血小板をAayusolおよび現行標準PASIII-M中で、穏やかに振とうしながら周囲温度(21±2℃)で15日間貯蔵した。PRP (血小板が豊富な血漿)を対照として用いた。血小板を、ATPおよびクレアチンリン酸(CP)濃度について定期的に評価した。貯蔵中にATPおよびCP濃度(ピコモル)の一時的な低下が認められた。しかしながら、Aayusolに貯蔵された血小板におけるATPおよびCP濃度は、9日間の貯蔵後に、PASIII-Mに貯蔵されたPPおよび血小板におけるよりも有意に高かった。(データは平均±SD; n=3, p<0.05を表す)。
【0108】
実施例3
本実施例は、Aayusol中での血小板の保存がホスファチジルセリン(PS)曝露およびアポトーシス誘導を長期貯蔵中に減弱させることを実証する。
【0109】
材料および方法
ホスファチジルセリン(PS)曝露:
既報(Hou et al. 2 Vox Sanguinis (2011) 100, 187-195; Gao et al. Thromb Haemost 2012; 107: 681-689)のように、活性化および早期アポトーシス中に曝露されたホスファチジルセリン(PS)と相互作用するFITC-ラクトアドヘリン(Haematologic Technologies, Inc., Essex Junction, VT, USA)に結合する能力によって、活性化された血小板、その凝集体および微粒子を検出した。
【0110】
PS曝露のフローサイトメトリー分析:
血小板をAayusol中、21±2℃の周囲温度で0、1、2、3、4、5、7、8および9日間貯蔵した。血小板(50 μl)をタイロード緩衝液またはAayusol溶液に再懸濁し、暗所中で室温にて10分間FITC-ラクトアドヘリン5 μlとともにインキュベートした。次に、混合物をタイロード緩衝液またはAayusol溶液200 μlで希釈し、フローサイトメトリーにより評価した。直径1~6 μm未満の事象は、前方散乱および側方散乱強度ドット表現で同定された。1サンプルにつき捕捉を1分間実施し、その間にフローサイトメトリーによっておよそ60 μlの懸濁液が分析された。血小板、微粒子および凝集体に対するPS曝露は、ラクトアドヘリン/抗CD41によって陽性に標識された。微粒子濃度を既述のように計算した(Hou et al. 2 Vox Sanguinis (2011) 100, 187-195; Gao et. al. Thromb Haemost 2012; 107: 681-689)。結果を1 mlあたりの微粒子数として表した。全てのサンプルを少なくとも3回繰り返し、平均値を得た。BD LSR Fortessa (Becton-Dickinson, San Jose, CA)を用いてサンプルを分析した。
【0111】
共焦点顕微鏡法:
カバースリップをPBS中10 μg/mlのフィブリノゲンにより室温で2時間コーティングし、タイロード緩衝液で3回洗浄し、BSA (ウシ血清アルブミン)で30分間ブロッキングし、次にタイロード緩衝液で2回洗浄した。貯蔵血小板懸濁液200マイクロリットルをスライドに移し、室温(RT)で40分間インキュベートした。インキュベーション後、スライドを洗浄し、暗所中RTで10分間FITC-ラクトアドヘリン5 μlとともにインキュベートした。その後、インキュベートした混合物をAayusol 1 ml中で洗浄して未結合の色素を除去した。サンプルを488 nmのクリプトン-アルゴンレーザーで励起し、狭帯域通過フィルタを用いて発光波長の重なりを制限した。血小板をスキャンし、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss GmbH, Jena, Germany)で撮像した。細胞を、63倍の油浸対物レンズを用いZeiss LSM 710共焦点顕微鏡を使って撮像した。
【0112】
血液化学:
Abaxis Vetscan VS2またはi-Stat Systemを使いCG4およびCG8カートリッジを用いて、貯蔵された血小板培地中の溶解O2、CO2、重炭酸塩、ベース効率、イオン組成および乳酸塩レベルを定期的に推定した。
【0113】
結果
図3Aは、貯蔵された血小板におけるPS曝露のフローサイトメトリー分析を示す。それぞれ、488 nmの励起波長および530 nmの発光波長を用いてサンプルを分析した。この結果から、Aayusol (図3A上列)に貯蔵された血小板の7.7+/-0.5%のみが9日間の貯蔵の終わりにPS曝露を示すことが示された。対照的に、PAS-IIIM (図3A下列)に貯蔵された血小板の29.20+/-3%は、有意にPS陽性(濃青色の矢印)であり、潜在的なアポトーシス誘導を示唆していた。Aayusolにおける血小板保存は、PASIIIMにおけるものより有意に優れていた(p<0.001; n=5)。図3Bは、貯蔵された血小板における凝集体(薄青色の矢印)および微粒子(黒色の矢印)形成のフローサイトメトリー分析を示す。図3Bの上パネルにおいて、Aayusolに貯蔵された血小板は、9日間の貯蔵中に最小限の凝集および微粒子形成を示す。対照的に、PASIII-M溶液中に貯蔵された血小板によって、広範な凝集および微粒子形成が示された。これらの結果は、現在使用されているPASIII-M溶液と比べて、Aayusolにおける血小板貯蔵の優位性を明らかに示している。
【0114】
乳酸塩生成の時間的測定を表2に示す。
【0115】
(表2)貯蔵された血小板における乳酸塩生成(ミリモル/リットル)
【0116】
図4は、貯蔵中の血小板上のP-セレクチンの発現を示す。血小板を記述のように9日間、AayusolおよびPASIII-M中に貯蔵した。血小板をFITC-抗CD62抗体で一時的に標識し、FACSを用いてアッセイした。活性化のマーカーであるP-セレクチン発現は、Aayusolに貯蔵された血小板では実質的に弱められた。対照的に、9日間の全貯蔵中、PASIII-Mに貯蔵された血小板上のP-セレクチン発現の有意な増加が認められた。これらの結果から、PASIII-M中での貯蔵中に血小板は活性化されるが、Aayusolにおいては最小限に活性化され、保存の優位性を示すことが実証される(データは平均±SD; n=3, p<0.001を表す)。
【0117】
図5は、貯蔵された血小板の共焦点顕微鏡検査の画像である。血小板をPASIII-MまたはAayusolに0~9日間貯蔵し、PS曝露(アポトーシスの誘導)を同定するためにFITC-ラクトアドヘリンで定期的に標識した。血小板はPS曝露の進行性の増加を示した。0日目および1日目に、偽足を有するまたは有しない円盤状型の血小板は、ラクトアドヘリン染色を示さなかった。3~7日目までに、血小板の形態は不規則な形状に変化し、PS曝露は血小板および微粒子の散乱領域およびひだ付き領域に見られた。7~9日目までに、より多くの血小板にラクトアドヘリン陽性膜があり、これは細胞収縮、細胞縁領域の偽足および時折丸みを帯びた隆起によって特徴付けられた。9日目までに、細胞質が凝縮している間にPS曝露の強度が増加し、膜が波打ち、より多くの小胞形成/ブレブが形成され、長い糸状偽足様伸長部が大量に出現し、PASIII-Mにおいて細胞は丸くなり非接着性となった。対照的に、PS曝露は、9日間の貯蔵中Aayusolに貯蔵された血小板において散発的であった。かなりの数の血小板がその形態を維持し、いくつかは貯蔵終了時に付着したままである。
【0118】
FACS分析を用いてPS曝露を定量した(表3)。
【0119】
(表3)貯蔵された血小板におけるPS曝露(%)の時間的評価
【0120】
実施例4
本実施例は、Aayusolを用いて準周囲温度で血小板を保存できることを示す。
【0121】
血小板を4±1℃および13±3℃で穏やかに振とうしながら15日間Aayusolに貯蔵し、共焦点顕微鏡を用いて0、5、9および15日目に撮像した(図6)。血小板は、どちらの温度でも貯蔵の全体を通してその形態を維持したが、波打った縁が徐々に退縮し、細胞が丸まった。約9日目の貯蔵後に微粒子(MP)が出現し始めた。
【0122】
前方散乱光(FSC)は、細胞表面積またはサイズに比例する。したがって、FSCは、その蛍光とは無関係に所与のサイズより大きな粒子を検出する適当な方法を提供し、それゆえ、血小板を血小板凝集体および微粒子形成から区別するために用いられる。側方散乱光(SSC)は、細胞粒度または内部の複雑さに比例する。図7は、4℃(上パネル)および13℃(下パネル)で貯蔵された血小板、凝集体およびMPを示す代表的なドットプロットのセットである。貯蔵中に微粒子(P; 緑色)および凝集体(P7; 青色)形成の進行性のしかし非有意性の増加が認められたが(4℃超で)、しかし、両温度での血小板集団(赤色)の分布は貯蔵中に一貫したままであった。
【0123】
血小板を0、3、5、7、9、12および15日目に定期的にサンプリングし、蛍光的にタグ付けされた抗CD 41a、CD 42b、CD62p (p-セレクチン)抗体で標識した。PSをFITC-ラクトアドヘリンで標識した。蛍光共焦点顕微鏡法(図8上パネル)および定量的フローサイトメトリー(図8下パネル)でサンプルを撮像した。前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)ドットブロットを用いて微粒子(MP)ならびに血小板凝集体および血小板を定量した(図8に示される通り)。貯蔵時間の全体を通して、血小板は蛍光マーカーで強く標識された。血小板細胞表面マーカー(CD41および42b)は、両方の温度で15日間の貯蔵中に、インタクトかつ安定なままであった。血小板活性化マーカー(CD62p)、MP形成および血小板凝集は、両方の温度で最小であった。これらのマーカーは、有意差はなかったが、13℃より4℃で貯蔵された血小板においていっそう明白であった。対照的に、PS曝露は4℃で、しかし最低限13℃で、貯蔵された血小板において、著しく増加した。しかしながら、JC1蛍光色素を用いたミトコンドリア分極アッセイ法は、これらの血小板がアポトーシス血小板ではなく、生存可能なままであることを示した(図示せず)。理論に束縛されるわけではないが、そのような部分的に活性化された血小板は、PS曝露が凝固カスケードの活性化の既知の触媒であり、ゆえに急性出血性患者において有用であるため、患者での活発な出血部位に急速に帰着し、急速止血を引き起こしうる。
【0124】
準周囲温度でAayusol溶液に貯蔵された血小板において、いくつかの生化学的マーカーも調べられた。
【0125】
(表4)準周囲温度でAayusol溶液に貯蔵された血小板の生化学的変化
【0126】
表4から分かるように、pHおよびベース効率(BE eff)は、調査対象の全ての温度で貯蔵期間の全体を通して一貫したままであり、Aayusolの頑強な緩衝能力を示唆していた。予想されるように、強いグルコース代謝を示す乳酸塩の時間依存性の増加が認められた(観察されたHEP生成の増加から確認された; 以下に記述の図10を参照のこと)。それにもかかわらず、乳酸塩の増加は、従来の周囲温度貯蔵において報告されたものより有意に低く、pHに影響を与えなかった。
【0127】
準周囲温度で貯蔵された血小板におけるNO生成も決定した。血小板を、そのFSC/SSC分布(i)に基づいてフローサイトメトリーによりおよび表面マーカー識別により同定した(図示せず)。血小板ゲートにおいて測定された緑色蛍光シグナルの分布を図9にFSCおよびSSCと共に示す。NO合成を共焦点顕微鏡により0、5、9および15日目に細胞透過性蛍光前駆体4-アミノ-5-メチルアミノ-2',7'-ジフルオロフルオレセイン(DAF-FM)ジアセテートで可視化した(上パネル)。さらに、貯蔵された血小板におけるNO合成をまた、DAF-FMを負荷した血小板の蛍光分布プロットからフローサイトメーターによって定量した(下パネル)。血小板におけるNO発現は、貯蔵期間にわたって一貫したままであり(左パネル)、4℃で貯蔵された血小板において15日目に約35%だけNO生成が直線的に減少し、13℃で約10%減少した。これにより、貯蔵された血小板において初めてのNOの定量的撮像が成功裡に行われたことになる。
【0128】
15日間4℃および13℃でAayusolに貯蔵された血小板も、高エネルギーリン酸(HEP)レベルについて評価した。確立された手順を用いて、ATPおよびCPを含むHEPのレベルを定期的に評価した。図10に示されるように、血小板は、9日間の貯蔵にわたり両方の温度でHEPを合成し続けたが、合成はその後の貯蔵にわたって減少した; 両方の温度で15日目に約50%だけのATP; 対照的に、CPは両方のサンプルにおいて約15%だけ減少した。それにもかかわらず、貯蔵の終了時に血小板によってかなりのレベルのHEPが保持された。したがってAayusolは準周囲温度で長期貯蔵中にHEP代謝を効率的に支持する。
【0129】
さらなる実験により、準周囲温度でAayusolに貯蔵された血小板は、アゴニスト刺激により機能的に活性を維持することが示された。貯蔵された血小板を0、1、3、5、7、9、12および15日目に50 μM ADPおよび/または2 μM A23187で刺激し、FITC-ラクトアドヘリン(PSプローブ)およびAlexa 647抗CD62p Abで染色し、フローサイトメトリーによって分析した(図11)。貯蔵にわたってアゴニストに応答する血小板の割合を分析し、ベースライン(0日)時に得られた値と比較した。13℃で貯蔵された血小板の機能的活性化は、4℃で貯蔵されたものよりも優れていた。それにもかかわらず、血小板は、長期貯蔵中に両方の温度で機能的に生存可能なままである。
【0130】
これらの結果から、血小板をAayusol中に準周囲温度で生存可能かつ機能的に活性な形態で貯蔵できることが初めて明確に示される。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11