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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 23/182 20060101AFI20220201BHJP
   B65H 23/06 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
B65H23/182
B65H23/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018012580
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019131309
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】青木 和之
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-157715(JP,A)
【文献】特開2012-206790(JP,A)
【文献】特開平10-167533(JP,A)
【文献】特開2011-152670(JP,A)
【文献】特開平7-13269(JP,A)
【文献】特開2004-74642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 23/00-23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブロールを回転可能に支持するウェブロール支持軸と、
前記ウェブロール支持軸にブレーキ力を付与するブレーキ機構と、
ウェブをウェブロールから巻き出しつつ搬送する搬送ローラと、
前記搬送ローラを駆動させる搬送モータと、
前記ウェブロール支持軸にブレーキ力を付与することでウェブロールの回転にブレーキをかけてウェブに所定の設定張力を付与しながら、前記搬送ローラによりウェブをウェブロールから巻き出しつつ搬送するよう前記ブレーキ機構および前記搬送モータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記ウェブロール支持軸にウェブロールがセットされた際において、ウェブに前記設定張力が付与されてもウェブロールが回転しないブレーキ力を前記ブレーキ機構に発生させ、かつ前記設定張力に対応する駆動力を前記搬送モータに発生させた状態から、前記搬送ローラが回転し始めるまで前記ブレーキ機構のブレーキ力を低下させ、前記搬送ローラが回転し始めた時の前記ブレーキ機構のブレーキ力を、ウェブの搬送時におけるブレーキ力の初期値として決定する動作を実行することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記設定張力を、ウェブの種類および幅の少なくともいずれか一方に応じた値に設定することを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブを搬送する搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺状のウェブを印刷媒体として搬送しつつ、ウェブに画像を印刷する印刷装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような印刷装置として、ウェブがロール状に巻かれたウェブロールの回転にブレーキ機構によりブレーキをかけるとともに、搬送ローラによりウェブロールからウェブを巻き出して搬送しつつ、インクジェットヘッドによりウェブに画像を印刷するものがある。
【0004】
このような印刷装置では、ウェブロールの回転にブレーキをかけることで、良好な印刷画質を得るための適切な張力をウェブに付与している。そして、ウェブが巻き出されることで徐々に縮小していくウェブロールの外径に応じて、ブレーキ機構によるブレーキ力を変化させて、ウェブの張力が一定になるよう制御している。
【0005】
ここで、ウェブロールの外径は、ウェブの搬送速度(搬送ローラの回転数)とブレーキ機構の回転数(ウェブロールの回転数)とに基づき算出可能である。新たにウェブロールがセットされた際には、印刷装置は、初期動作としてロール径計算用のウェブの搬送を行い、その際のウェブの搬送速度とブレーキ機構の回転数とに基づき、ウェブロールの外径を算出する。
【0006】
そして、印刷装置は、算出したウェブロールの外径に基づき、印刷実行のためのウェブの搬送の際におけるブレーキ機構によるブレーキ力の初期値を設定する。印刷実行のためのウェブの搬送中は、印刷装置は、ウェブロールの外径をリアルタイムで算出し、その算出結果に応じて、ウェブの張力が一定になるようブレーキ機構によるブレーキ力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-79651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のようにロール径計算用のウェブの搬送を行うことで新たにセットされたウェブロールの外径を算出する技術では、ウェブにおけるロール径計算のために搬送された部分は印刷に使用することができず、無駄(損紙)になる。
【0009】
これに対し、印刷装置においてセンサ等を用いて新たにセットされたウェブロールの外径を検出し、検出された外径に基づきブレーキ力の初期値を設定するようにすれば、ロール径計算用のウェブの搬送を省略できる。しかし、この場合、ウェブロールの外径を検出するためのセンサ等を印刷装置に設ける必要があり、装置構成の複雑化を招く。
【0010】
また、ユーザが印刷装置の操作入力部からウェブロールの外径を入力するようにしても、ロール径計算用のウェブの搬送を省略できる。しかし、この場合、ユーザがウェブロールの外径を入力する操作を行う必要があり、利便性が低下する。特に、使いかけのウェブロールを印刷装置にセットする場合には、そのウェブロールの外径が不明のため、ユーザがウェブロールの外径を測定する必要が生じ、より利便性が低下する。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、装置構成の複雑化およびユーザの利便性の低下を回避しつつ、無駄となるウェブを低減できる搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の搬送装置は、ウェブロールを回転可能に支持するウェブロール支持軸と、前記ウェブロール支持軸にブレーキ力を付与するブレーキ機構と、ウェブをウェブロールから巻き出しつつ搬送する搬送ローラと、前記搬送ローラを駆動させる搬送モータと、前記ウェブロール支持軸にブレーキ力を付与することでウェブロールの回転にブレーキをかけてウェブに所定の設定張力を付与しながら、前記搬送ローラによりウェブをウェブロールから巻き出しつつ搬送するよう前記ブレーキ機構および前記搬送モータを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記ウェブロール支持軸にウェブロールがセットされた際において、ウェブに前記設定張力が付与されてもウェブロールが回転しないブレーキ力を前記ブレーキ機構に発生させ、かつ前記設定張力に対応する駆動力を前記搬送モータに発生させた状態から、前記ブレーキ機構のブレーキ力を漸次的に低下させ、前記搬送ローラが回転し始めた時の前記ブレーキ機構のブレーキ力を、ウェブの搬送時におけるブレーキ力の初期値として決定する動作を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の搬送装置によれば、装置構成の複雑化およびユーザの利便性の低下を回避しつつ、無駄となるウェブを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る搬送装置を備えた印刷装置の概略構成図である。
図2図1に示す印刷装置のウェブロール保持部の要部拡大斜視図である。
図3図1に示す印刷装置の制御ブロック図である。
図4】初期動作を説明するためのフローチャートである。
図5】初期動作においてブレーキ力の初期値を決定する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0016】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る搬送装置を備えた印刷装置の概略構成図である。図2は、図1に示す印刷装置のウェブロール保持部の要部拡大斜視図である。図3は、図1に示す印刷装置の制御ブロック図である。なお、以下の説明において、図1の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、図1における紙面の上下左右を上下左右方向とする。
【0018】
図1図3に示すように、本実施の形態に係る印刷装置1は、ウェブロール保持部2と、搬送部3と、印刷部4A,4Bと、巻取部5と、制御部6とを備える。なお、ウェブロール保持部2と、搬送部3と、制御部6とが、搬送装置を構成する。
【0019】
ウェブロール保持部2は、ウェブロール7を保持する。ウェブロール7は、フィルム、紙等からなる長尺状の印刷媒体であるウェブWがロール状に巻かれたものである。図1図3に示すように、ウェブロール保持部2は、ウェブロール支持軸11と、ブレーキ機構12と、中間ギア13と、ブレーキギアセンサ14とを備える。
【0020】
ウェブロール支持軸11は、ウェブロール7を回転可能に支持する。ウェブロール支持軸11は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。ウェブロール支持軸11は、例えば、エアシャフトからなる。ウェブロール支持軸11の後端部には、中間ギア13に噛合するウェブロール支持軸ギア11aが固定されている。
【0021】
ブレーキ機構12は、ウェブロール支持軸11にブレーキ力を付与する。すなわち、ブレーキ機構12は、ウェブロール支持軸11に、ウェブWの巻き出し時の回転方向(図1における時計回り方向)とは逆方向のトルク(負荷トルク)を付与する。ブレーキ機構12は、例えば、パウダーブレーキからなる。
【0022】
ブレーキ機構12は、ブレーキ力(負荷トルク)を出力する出力軸12aを有する。出力軸12aには、ブレーキギア12bが取り付けられている。ブレーキ機構12のブレーキ力が、ブレーキギア12b、中間ギア13、およびウェブロール支持軸ギア11aを介してウェブロール支持軸11へ伝達されることで、ウェブロール支持軸11にブレーキ力が付与される。
【0023】
中間ギア13は、ブレーキ機構12のブレーキ力を、ウェブロール支持軸ギア11aへ伝達する。中間ギア13は、ウェブロール支持軸ギア11aおよびブレーキギア12bに噛合している。
【0024】
ブレーキギアセンサ14は、ブレーキギア12bの歯を検出する。
【0025】
搬送部3は、ウェブWを搬送する。搬送部3は、ガイドローラ21~30と、20本のヘッド下ローラ31と、蛇行制御部32と、一対の搬送ローラ33と、搬送モータ34と、エンコーダ35とを備える。
【0026】
ガイドローラ21~30は、搬送部3において搬送されるウェブWをガイドする。ガイドローラ21~30は、搬送されるウェブWに従動回転する。ガイドローラ21~30は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。ガイドローラ21~30、ヘッド下ローラ31、搬送ローラ33、および後述する蛇行制御部32の蛇行制御ローラ36,37により、搬送部3におけるウェブWの搬送経路が形成される。
【0027】
ガイドローラ21,22は、ウェブロール7と蛇行制御部32との間でウェブWをガイドする。ガイドローラ21は、ウェブロール保持部2の右側近傍に配置されている。ガイドローラ22は、ガイドローラ21と後述する蛇行制御部32の蛇行制御ローラ36との間に配置されている。
【0028】
ガイドローラ23~29は、蛇行制御部32と搬送ローラ33との間でウェブWをガイドする。ガイドローラ23は、後述する蛇行制御部32の蛇行制御ローラ37の左方のやや上方に配置されている。ガイドローラ24は、ガイドローラ23の上方に配置されている。ガイドローラ25は、ガイドローラ24と同じ高さで、ガイドローラ24の右方に配置されている。ガイドローラ26は、ガイドローラ25の下方であって、ガイドローラ23より高い位置に配置されている。ガイドローラ27は、ガイドローラ26の左方であって、ガイドローラ23,24間のウェブWの右側近傍であり、ガイドローラ26とほぼ同じ高さである位置に配置されている。ガイドローラ28は、ガイドローラ27の右下方に配置されている。ガイドローラ29は、ガイドローラ28のやや右側の下方に配置されている。
【0029】
ガイドローラ30は、搬送ローラ33と巻取部5との間でウェブWをガイドする。ガイドローラ30は、巻取部5の左側近傍に配置されている。
【0030】
ヘッド下ローラ31は、ガイドローラ24,25間およびガイドローラ26,27間において、後述するヘッドユニット41の下でウェブWを支持する。ヘッド下ローラ31は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。ガイドローラ24,25間およびガイドローラ26,27間に、それぞれ10本ずつのヘッド下ローラ31が配置されている。そして、ヘッド下ローラ31は、各ヘッドユニット41の直下に2本ずつ配置されている。ヘッド下ローラ31は、搬送されるウェブWに従動回転する。
【0031】
蛇行制御部32は、ウェブWの幅方向(前後方向)における位置の変動である蛇行を補正するものである。蛇行制御部32は、蛇行制御ローラ36,37を備える。
【0032】
蛇行制御ローラ36,37は、ウェブWをガイドするとともに、ウェブWの蛇行を補正するためのローラである。蛇行制御ローラ36,37は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。蛇行制御ローラ36,37は、搬送されるウェブWに従動回転する。蛇行制御ローラ36,37は、図示しないモータにより、左右方向から見てウェブWの幅方向に対して傾くように回動することで、ウェブWを幅方向に移動させて蛇行を補正する。蛇行制御ローラ36は、ガイドローラ22の右方に配置されている。蛇行制御ローラ37は、蛇行制御ローラ36の上方に配置されている。
【0033】
一対の搬送ローラ33は、ウェブWをニップしつつ、巻取部5へ向けてウェブWを搬送する。搬送ローラ33によるウェブWの搬送により、ウェブロール支持軸11とともにウェブロール7が回転し、ウェブロール7からウェブWが巻き出される。一対の搬送ローラ33のうちの一方の搬送ローラ33は搬送モータ34により回転駆動され、他方の搬送ローラ33は一方の搬送ローラ33に従動回転する。一対の搬送ローラ33は、ガイドローラ29,30間に配置されている。
【0034】
搬送モータ34は、一対の搬送ローラ33のうちの一方の搬送ローラ33を回転駆動させる。
【0035】
エンコーダ35は、搬送モータ34の出力軸の所定の回転角度ごとにパルス信号を出力する。
【0036】
印刷部4A,4Bは、それぞれウェブWのおもて面、うら面に画像を印刷する。印刷部4Aは、ガイドローラ24,25間のウェブWの上方近傍に配置されている。印刷部4Bは、ガイドローラ26,27間のウェブWの上方近傍に配置されている。印刷部4A,4Bは、それぞれ5つのヘッドユニット41を備える。
【0037】
ヘッドユニット41は、インクジェットヘッド(図示せず)を有し、インクジェットヘッドのノズルからウェブWにインクを吐出して画像を印刷する。印刷部4A,4Bのそれぞれにおいて、5つのヘッドユニット41は、相互に異なる色のインクを吐出する。
【0038】
巻取部5は、印刷部4A,4Bにより印刷されたウェブWを巻き取る。巻取部5は、巻取軸46と、巻取モータ47とを備える。
【0039】
巻取軸46は、ウェブWを巻き取って保持する。巻取軸46は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。
【0040】
巻取モータ47は、巻取軸46を図1における時計回り方向に回転させる。巻取軸46の回転により、ウェブWが巻取軸46に巻き取られる。
【0041】
制御部6は、印刷装置1全体の動作を制御する。制御部6は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0042】
制御部6は、印刷を行う際、ウェブロール支持軸11にブレーキ力を付与することでウェブロール7の回転にブレーキをかけてウェブWに所定の設定張力Fsを付与しながら、搬送ローラ33によりウェブWをウェブロール7から巻き出しつつ搬送し、巻取部5によりウェブWを巻き取るようブレーキ機構12、搬送モータ34、および巻取モータ47を制御する。そして、制御部6は、搬送されるウェブWに対して、印刷部4A,4Bのヘッドユニット41からインクを吐出させて画像を印刷させる。
【0043】
また、制御部6は、ウェブロール支持軸11にウェブロール7がセットされた際において、ウェブWの搬送時におけるブレーキ機構12のブレーキ力の初期値を決定するための初期動作を実行する。ブレーキ機構12のブレーキ力の初期値は、ウェブロール支持軸11にウェブロール7がセットされてから最初のウェブWの搬送開始時に設定されるブレーキ力(トルク)である。
【0044】
具体的には、制御部6は、ウェブロール支持軸11にウェブロール7がセットされた際において、後述する最大ブレーキ力をブレーキ機構12に発生させ、かつ設定張力Fsに対応する駆動力(トルク)を搬送モータ34に発生させた状態から、ブレーキ機構12のブレーキ力を漸次的に低下させる。そして、制御部6は、搬送ローラ33が回転し始めた時のブレーキ機構12のブレーキ力を、ウェブWの搬送時におけるブレーキ力の初期値として決定する。
【0045】
また、制御部6は、ウェブWの種類と幅と設定張力Fsとを対応付けた設定張力テーブル(図示せず)を記憶している。ここで、ウェブWの種類としては、厚紙、薄紙、ミシン目付きの用紙等がある。幅が同じであれば、コシが弱い種類のウェブWほど、設定張力Fsが小さい。また、種類が同じであれば、幅が小さいウェブWほど、設定張力Fsが小さい。ウェブWの種類および幅に応じた設定張力Fsを用いることで、過度な張力によりウェブWへのダメージが生じたり、張力不足でウェブWのたるみが生じてウェブWがインクジェットヘッドに接触したり印刷画質が低下したりすることが抑えられる。
【0046】
次に、印刷装置1のウェブロール支持軸11にウェブロール7がセットされた際に行われる初期動作について説明する。
【0047】
ウェブロール支持軸11に新たにウェブロール7がセットされると、ユーザの作業により、ウェブロール保持部2から搬送部3を経て巻取部5に至るまでの搬送経路にウェブWが引き回される。ここで、新たにセットされるウェブロール7としては、新品のものに限らず、使いかけのものの場合もある。
【0048】
ウェブWを引き回す作業の後、ユーザは、図示しない操作パネルに対して初期動作の開始を指示する入力操作を行う。また、この際、ユーザは、ウェブWの種類および幅を指定する入力操作を行う。ユーザ操作により初期動作の開始が指示されると、制御部6は、初期動作を実行する。
【0049】
図4は、初期動作を説明するためのフローチャートである。上述のようにユーザ操作により初期動作の開始が指示されると、図4のステップS1において、制御部6は、所定の最大ブレーキ力でブレーキ機構12をオンする。
【0050】
ここで、最大ブレーキ力は、ウェブWに設定張力Fsが付与されてもウェブロール7が回転しないブレーキ力(トルク)として設定されたものである。
【0051】
この最大ブレーキ力を決定する方法について説明する。
【0052】
ブレーキ機構12のトルク(ブレーキ力)をT、ウェブロール7の外径をD、ブレーキ機構12のトルクTに対応する回転張力をFm、ブレーキ機構12とウェブロール支持軸11との間の減速比(ギア比)をGbとすると、下記の式(1)が成り立つ。
【0053】
Fm=T×(2/D)×Gb …(1)
回転張力Fmは、ブレーキ機構12にトルクTを発生させた状態で、ウェブWの張力によりウェブロール7を回転させている状態におけるウェブWの張力である。換言すれば、回転張力Fmは、ブレーキ機構12にトルクTを発生させた状態で、ウェブWの張力を徐々に増大させたとした場合に、ウェブロール7が回転し始める時のウェブWの張力である。
【0054】
最大ブレーキ力に相当するトルクTを最大トルクTm、ウェブロール7の初期外径をDa、ウェブロール7の外径Dが初期外径Daでブレーキ機構12に最大トルクTmを発生させた状態における回転張力Fmを初期回転張力Fmaとすると、下記の式(2)が成り立つ。
【0055】
Fma=Tm×(2/Da)×Gb …(2)
上記式(2)は、式(1)のFm,T,DにそれぞれFma,Tm,Daを代入したものである。また、ウェブロール7の初期外径Daは、ウェブロール7のセット時の状態(初期状態)における外径Dである。
【0056】
式(2)より、初期回転張力Fmaは、ウェブロール7の初期外径Daが大きいほど、小さくなる。そこで、最大ブレーキ力に相当する最大トルクTmは、初期外径Daが印刷装置1で使用可能な最大のウェブロール7の新品の外径である場合における初期回転張力Fmaが、設定張力Fsよりも大きくなる値に決定される。
【0057】
これにより、最大ブレーキ力(最大トルクTm)は、ウェブロール7が印刷装置1で使用可能なものであれば、初期状態では、初期外径Daに関わらず、ウェブWに設定張力Fsが付与されてもウェブロール7が回転しないブレーキ力(トルク)となる。
【0058】
ここで、ブレーキ機構12に供給する電流と、ブレーキ機構12の発生トルクとの関係は、ブレーキ機構12の特性により決まっている。このため、制御部6は、最大トルクTmに対応する電流をブレーキ機構12に供給することで、ブレーキ機構12のブレーキ力を最大ブレーキ力(最大トルクTm)に設定することができる。
【0059】
次いで、ステップS2において、制御部6は、設定張力Fsに対応する駆動力(トルク)を搬送モータ34に発生させる。この際、制御部6は、ユーザ操作により指定されたウェブWの種類および幅に応じた設定張力Fsの値を設定張力テーブルから読み出し、その設定張力Fsに対応する駆動力を搬送モータ34に発生させる。
【0060】
ここで、設定張力Fsに対応する搬送モータ34の駆動力に相当するトルクTrは、下記の式(3)で表される。
【0061】
Tr=Fs×φ/(2×Gr) …(3)
ここで、φは、搬送モータ34により駆動される搬送ローラ33の直径である。Grは、搬送モータ34と搬送ローラ33との間の減速比である。
【0062】
搬送モータ34に供給する電流と、搬送モータ34の発生トルクとの関係は、搬送モータ34の特性により決まっている。このため、制御部6は、上述のトルクTrに対応する電流を搬送モータ34に供給することで、設定張力Fsに対応する駆動力(トルクTr)を搬送モータ34に発生させることができる。
【0063】
ここで、ブレーキ機構12の最大ブレーキ力(最大トルクTm)が上述のように設定されているので、設定張力Fsに対応する駆動力(トルク)を搬送モータ34に発生させても、この時点ではウェブロール7は回転開始しない。
【0064】
次いで、ステップS3において、制御部6は、ブレーキ機構12のブレーキ力(トルク)の低下を開始させる。この後、制御部6は、ブレーキ機構12のブレーキ力を漸次的に低下させていく。
【0065】
ここで、式(1)から分かるように、ブレーキ機構12のトルクT(ブレーキ力)が徐々に低下すると、図5に示すように、回転張力Fmが徐々に低下する。
【0066】
なお、図5では、ウェブロール7の外径Dが「大」の場合と「小」の場合とにおける回転張力Fmの推移を示している。式(2)から分かるように、外径Dが「大」の場合の初期回転張力Fma1は、外径Dが「小」の場合の初期回転張力Fma2よりも小さくなる。
【0067】
一方、上述のように、搬送モータ34は、設定張力Fsに対応する駆動力(トルク)を発生している。
【0068】
このため、ブレーキ機構12のトルクTの低下に伴って回転張力Fmが徐々に低下し、やがて回転張力Fmが設定張力Fsにまで低下すると、搬送モータ34の駆動力により、搬送ローラ33およびウェブロール7が回転を開始する。すなわち、図5の例において、ウェブロール7の外径Dが「大」の場合は時刻t1で搬送ローラ33およびウェブロール7が回転し始め、ウェブロール7の外径Dが「小」の場合は時刻t2で搬送ローラ33およびウェブロール7が回転し始める。
【0069】
図4に戻り、ブレーキ機構12のブレーキ力の低下開始後、ステップS4において、制御部6は、搬送ローラ33の回転が開始されたか否かを判断する。ここで、制御部6は、エンコーダ35から規定パルス数のパルス信号が入力されると、搬送モータ34の出力軸の回転が開始されるとともに、搬送ローラ33の回転が開始されたと判断する。ここで、規定パルス数は、ウェブロール7の回転を検出できる範囲で、その回転角度(ウェブWの搬送量)を最小限に抑えられる値に設定されている。搬送ローラ33の回転が開始されていないと判断した場合(ステップS4:NO)、制御部6は、ステップS4を繰り返す。
【0070】
搬送ローラ33の回転が開始されたと判断した場合(ステップS4:YES)、ステップS5において、制御部6は、搬送モータ34を停止させる。
【0071】
次いで、ステップS6において、制御部6は、搬送ローラ33の回転開始時におけるブレーキ機構12のブレーキ力(トルク)を、ブレーキ力の初期値Taとして決定し、これを保持する。また、制御部6は、ブレーキ機構12をオフとする。これにより、初期動作が終了となる。
【0072】
ここで、初期値Taは、初期動作において上述のように決定されたものであるため、ウェブロール7の初期外径Daおよび設定張力Fsに応じたトルクTの値になっている。具体的には、初期値Taは、下記の式(4)で表される。
【0073】
Ta=Fs×Da/(2×Gb) …(4)
次に、ウェブロール支持軸11に新たにウェブロール7がセットされて初期動作が終了してから最初に行われる印刷動作について説明する。
【0074】
上述した初期動作が終了した状態で、パーソナルコンピュータ等の外部装置から印刷ジョブが入力されると、制御部6は、印刷動作を実行する。
【0075】
印刷ジョブが入力されると、まず、制御部6は、ブレーキ機構12をオンし、そのブレーキ力(トルク)を、上述した初期動作で決定した初期値Taに設定する。
【0076】
次いで、制御部6は、搬送モータ34および巻取モータ47の駆動を開始させて、印刷のためのウェブWの搬送を開始させる。
【0077】
ウェブWの搬送を開始させると、制御部6は、搬送開始時点から、搬送ローラ33によるウェブWの搬送速度を所定の加速度で加速させる。
【0078】
その後、搬送ローラ33によるウェブWの搬送速度が所定の印刷搬送速度Vgに到達すると、制御部6は、その時点から、印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送へ移行するよう搬送モータ34および巻取モータ47を制御する。
【0079】
印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送の開始後、制御部6は、印刷ジョブに基づく印刷部4A,4Bによる印刷を開始させる。
【0080】
印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送の開始後は、制御部6は、エンコーダ35の出力パルス信号に基づき、ウェブWの搬送速度を印刷搬送速度Vgで一定に維持するよう搬送モータ34を制御する。ウェブWの搬送速度を一定に維持するのは、ヘッドユニット41からウェブWへ吐出されるインクの着弾ずれを防止して良好な印刷画質を得るためである。
【0081】
具体的には、制御部6は、エンコーダ35の出力パルス信号に基づき、搬送モータ34の回転数を算出し、その回転数に応じたウェブWの搬送速度を算出する。そして、制御部6は、算出した搬送速度と印刷搬送速度Vgとの差がなくなるよう搬送モータ34を制御する。これにより、搬送モータ34によるウェブWの搬送速度が印刷搬送速度Vgに合うように制御される。
【0082】
ここで、印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送の開始時点では、ウェブWの搬送開始時点からのウェブロール7の外径Dの減少量は小さい。すなわち、印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送の開始時点までは、ウェブロール7の外径Dはほぼ一定である。このため、印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送の開始時点まで、ブレーキ機構12のブレーキ力(トルク)は、初期値Taに設定されている。
【0083】
ただし、ウェブWの搬送開始からの時間の経過とともに、徐々にウェブロール7の外径Dは小さくなっていく。これに対し、制御部6は、印刷搬送速度VgでのウェブWの定速搬送の期間において、ウェブロール7の外径Dをリアルタイムで計算し、その計算結果に応じたトルクTをブレーキ機構12にリアルタイムで設定する。
【0084】
具体的には、制御部6は、ブレーキギアセンサ14の出力信号に基づき、ブレーキ機構12の回転数(ブレーキギア12bの回転数)をリアルタイムで算出し、その回転数を、ウェブロール7の回転数Nに換算する。次いで、制御部6は、ウェブロール7の回転数Nと印刷搬送速度Vgとを用いて、下記の式(5)により、ウェブロール7の外径Dを算出する。
【0085】
D=Vg/(N×π) …(5)
そして、制御部6は、ウェブロール7の外径Dに応じたトルクTを下記の式(6)により算出し、そのトルクTをブレーキ機構12に設定する。
【0086】
T=Fs×D/(2×Gb) …(6)
このようにして、ウェブロール7の外径Dの縮小に応じて、ブレーキ機構12のトルクTをリアルタイムで変化させることで、ウェブWの張力が設定張力Fsに維持される。
【0087】
印刷ジョブに基づく印刷が終了すると、制御部6は、搬送モータ34および巻取モータ47を停止させて、ウェブWの搬送を終了させる。これにより、一連の印刷動作が終了となる。
【0088】
ここで、印刷ジョブに基づく印刷動作がウェブロール7の途中で終了することがある。そして、そのウェブロール7を取り外さずに引き続き用いて、次の印刷ジョブに基づく印刷動作を行うことがある。この場合は、次の印刷ジョブに基づく印刷動作におけるウェブWの搬送開始時のブレーキ機構12のブレーキ力は、引き続き前の印刷ジョブの終了時におけるブレーキ力と同じ設定とすればよい。次の印刷ジョブに基づく印刷動作の開始時におけるウェブロール7の外径Dが、前の印刷ジョブの終了時におけるウェブロール7の外径Dと同じだからである。
【0089】
なお、ウェブロール支持軸11に新たにウェブロール7がセットされた後、ユーザ操作による初期動作の開始指示が行われないまま印刷ジョブが入力された場合は、制御部6は、自動的に初期動作を実行し、その後、印刷動作を実行する。
【0090】
以上説明したように、印刷装置1では、制御部6は、ウェブロール支持軸11にウェブロール7がセットされた際において、最大ブレーキ力をブレーキ機構12に発生させ、かつ設定張力Fsに対応する駆動力を搬送モータ34に発生させた状態から、ブレーキ機構12のブレーキ力を漸次的に低下させ、搬送ローラ33が回転し始めた時のブレーキ力を、ウェブWの搬送時におけるブレーキ力の初期値として決定する初期動作を実行する。
【0091】
これにより、新たなウェブロール7がセットされた際のウェブWの搬送開始時において、ロール径計算用のウェブWの搬送を行うことなく、ウェブロール7の初期外径Daに応じたブレーキ力をブレーキ機構12に設定できる。このため、無駄となるウェブW(損紙)を低減できる。
【0092】
また、センサ等を用いて新たにセットされたウェブロール7の外径を検出することもなく、ウェブロール7の初期外径Daに応じたブレーキ力をブレーキ機構12に設定できる。このため、ウェブロール7の外径を検出するためのセンサ等を設ける必要がないため、装置構成の複雑化を回避できる。
【0093】
また、ユーザ操作によりウェブロール7の初期外径Daを入力することもなく、ウェブロール7の初期外径Daに応じたブレーキ力をブレーキ機構12に設定できる。このため、ユーザの利便性の低下を回避できる。
【0094】
したがって、印刷装置1によれば、装置構成の複雑化およびユーザの利便性の低下を回避しつつ、無駄となるウェブを低減できる。
【0095】
ところで、本実施の形態とは異なり、ロール径計算用のウェブWの搬送を行って算出したウェブロール7の初期外径Daからブレーキ力の初期値を設定する場合、ロール径計算用のウェブWの搬送時は、ウェブロール7の外径Dは不明の状態である。このため、ロール径計算用のウェブWの搬送は、ウェブロール7の外径Dに対して不適切なブレーキ力の設定で行われることになる。このことから、ロール径計算用のウェブWの搬送時に過度な張力によりウェブWへのダメージが生じたり、張力不足でウェブWのたるみが生じてウェブWがインクジェットヘッドに接触したりするおそれがある。
【0096】
これに対し、本実施の形態では、ロール径計算用のウェブWの搬送を行わないため、上述のようなロール径計算用のウェブWの搬送が不適切なブレーキ力の設定で行われることによる不具合を回避できる。
【0097】
また、本実施の形態では、制御部6は、設定張力FsをウェブWの種類および幅に応じた値に設定する。これにより、ブレーキ力の初期値およびウェブWの搬送中におけるブレーキ力を、ウェブWの種類および幅に応じた値に設定できる。この結果、ウェブWの搬送時において、過度な張力によりウェブWへのダメージが生じたり、張力不足でウェブWのたるみが生じてウェブWがインクジェットヘッドに接触したりすることを低減できる。
【0098】
なお、上述した実施の形態では、設定張力FsをウェブWの種類および幅に応じた値に設定したが、設定張力FsをウェブWの種類および幅のいずれか一方に応じた値に設定するようにしてもよい。
【0099】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0100】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0101】
(付記1)
ウェブロールを回転可能に支持するウェブロール支持軸と、
前記ウェブロール支持軸にブレーキ力を付与するブレーキ機構と、
ウェブをウェブロールから巻き出しつつ搬送する搬送ローラと、
前記搬送ローラを駆動させる搬送モータと、
前記ウェブロール支持軸にブレーキ力を付与することでウェブロールの回転にブレーキをかけてウェブに所定の設定張力を付与しながら、前記搬送ローラによりウェブをウェブロールから巻き出しつつ搬送するよう前記ブレーキ機構および前記搬送モータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記ウェブロール支持軸にウェブロールがセットされた際において、ウェブに前記設定張力が付与されてもウェブロールが回転しないブレーキ力を前記ブレーキ機構に発生させ、かつ前記設定張力に対応する駆動力を前記搬送モータに発生させた状態から、前記ブレーキ機構のブレーキ力を漸次的に低下させ、前記搬送ローラが回転し始めた時の前記ブレーキ機構のブレーキ力を、ウェブの搬送時におけるブレーキ力の初期値として決定する動作を実行することを特徴とする搬送装置。
【0102】
(付記2)
前記制御部は、前記設定張力を、ウェブの種類および幅の少なくともいずれか一方に応じた値に設定することを特徴とする付記1に記載の搬送装置。
【符号の説明】
【0103】
1 印刷装置
2 ウェブロール保持部
3 搬送部
4A,4B 印刷部
5 巻取部
6 制御部
7 ウェブロール
11 ウェブロール支持軸
11a ウェブロール支持軸ギア
12 ブレーキ機構
12b ブレーキギア
13 中間ギア
14 ブレーキギアセンサ
34 搬送モータ
35 エンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5