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特許7017429固定用ベルト、それを用いた固定方法、及び固定用ベルト部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】固定用ベルト、それを用いた固定方法、及び固定用ベルト部材
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20220201BHJP
   A44B 11/04 20060101ALI20220201BHJP
   A44B 99/00 20100101ALI20220201BHJP
   B65D 63/10 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
A44B18/00
A44B11/04
A44B99/00 611J
B65D63/10 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018021615
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2018126515
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2017023090
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】高▲桑▼ 一則
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
(72)【発明者】
【氏名】小川 史郎
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-027981(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0201915(US,A1)
【文献】米国特許第5136759(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
A44B 11/04
A44B 99/00
B65D 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを有する固定用ベルトであって、
前記両面フック面ファスナーは、押出成形面ファスナーであって、長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定され、
前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部は前記ワニ口に挟み込まれ、そして取付対象物(B)に固定された環状部品で折り返されて、もう一方の端部は前記ワニ口の外側面に係合されることを特徴とする固定用ベルト。
【請求項2】
前記押出成形面ファスナーを形成している樹脂がポリアミドまたはポリエステルエラストマーである、請求項1に記載の固定用ベルト。
【請求項3】
前記折り返し部に補強材が挟み込まれている、請求項1または2に記載の固定用ベルト。
【請求項4】
前記補強材が両面ループ面ファスナーで構成されている、請求項3に記載の固定用ベルト。
【請求項5】
前記両面フック面ファスナーの前記取付対象物(A)への固定が、前記取付対象物(A)と両面フック面ファスナーの前記折り返し部の前後2枚の両面フック面ファスナーとその間に挟み込まれた前記補強材とを貫通するリベットによりなされている、請求項3または4に記載の固定用ベルト。
【請求項6】
前記フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、傘部が係合素子列方向に交差する方向にステム部の幅を超えて拡がり、ステム部とその左右に拡がる傘部との合計の幅が0.50~1.00mmであり、係合素子列方向には傘部が拡がりを有していないT字型係合素子である、請求項1~5のいずれかに記載の固定用ベルト。
【請求項7】
フック状係合素子を両面に有する押出成形両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを用いて、取付対象物(A)に取付対象物(B)を固定する方法であって、
長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定されている、前記両面フック面ファスナーを用いて、
前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部を前記ワニ口に挟み込み、取付対象物(B)に固定された環状部品で折り返して、もう一方の端部を前記ワニ口の外側面に係合させることによって、前記取付対象物(A)を取付対象物(B)に固定する方法。
【請求項8】
フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーが長さ方向に折り返されてワニ口となっており、折り返し部の間の奥に挿入された両面ループ面ファスナーにより折り返し状態が固定されている固定用ベルト用部材であって、
前記両面フック面ファスナーにおいて、
基板の両面にフック状係合素子が面ファスナー長さ方向に列をなして並んでおり、
前記フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、
前記傘部が係合素子列方向と交差する方向にステム部の幅を超えて突出しているT字型の係合素子であり、
さらに前記基板および前記係合素子が同一の結晶性樹脂からなり、かつ
前記基板を構成している樹脂の結晶が面ファスナー長さ方向に配向している固定用ベルト用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定用ベルトおよびそれを用いた固定方法、さらに前記固定用ベルトを構成しているベルト用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象物に物体を取り付けて固定する手段の一つとして、物体と対象物のいずれか一方の表面にフック状係合素子を有する雄型面ファスナーを固定するとともに、もう一方の表面にループ状係合素子を有するループ面ファスナーを固定し、そして両方の面ファスナーを重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、対象物に物体を取り付けて固定する方法が用いられている。
【0003】
上記固定方法を用いて、片方の面ファスナーをもう一方の面ファスナーで挟み込むことによって固定するベルトは、様々な場面で用いられている。従来、そのような固定用ベルトでは、ベルト端部に面ファスナーを取り付ける方法が用いられている。
【0004】
例えば、梱包材として、コイル状物品の梱包材であって、内面側で前記コイル状物品の外周及び側面を覆うシートと、前記シートの少なくとも一方の側縁に装着され、前記シート側縁から延出し、内面に第1の面ファスナーが取り付けられたベルト状部材と、前記シートの外面に取り付けられ、前記第1の面ファスナーと面接合する第2の面ファスナーと、を具えることを特徴とするコイル状物品梱包材が知られている(特許文献1)。これらの面ファスナーは、縫着によってベルト端部に固定されている。
【0005】
または、パチンコ玉を磨きながら揚送装置の研磨ベルトにおいて、その研磨ベルトの始端部と終端部に面ファスナーを取り付けて、始端部面ファスナーと終端部面ファスナーとの係合により連結する方法等も報告されている(特許文献2)。これらの面ファスナーは縫合によってベルト端部に取り付けられている。
【0006】
あるいは、ベルベット式ファスナーのループ面をフック面で挟み込むことによって係止するバンドの止着部も報告されている(特許文献3)。
【0007】
更に、中央にヒンジ部を有し、その左右に、表裏両面にフック状係合素子を有する2枚の両面フック面ファスナーを射出成形により製造し、得られた成形物を、ヒンジ部を中央部としてコの字状に折り曲げた連結具であって、コの字型に向かい合う2枚のフック面ファスナーの間に、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナー付のベルトを挟み込んで係合させ、ベルトを取付対象物に巻き付け、同ベルトの他端のループ状係合素子を連結具の外側のフック状係合素子と係合させることにより、取付対象物にベルトを巻き付け固定させることも報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-108033号公報
【文献】特開2011-30814号公報
【文献】実開昭52-157906号公報
【文献】国際公開第2014/196005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の先行技術のようにベルト端部にのみ面ファスナーを取り付けている場合、ベルトの長さ等の調整が困難であるという課題があった。また、長期使用や破損等により係合力が落ちた場合には面ファスナーの交換が必要となるが、これまでの技術では、雄型面ファスナーとループ面ファスナーの両方が端部に固定されているため、両方のファスナーの交換には手間もコストもかかるといった問題もあった。
【0010】
さらに、面ファスナーを用いた固定ベルトなどでは、上述のように、ベルト端部への面ファスナーの取付方法として、縫製、溶着、粘着テープなどによる貼り付けが一般的であった。しかし、例えば、義手や義足などの装具を固定するといった場合等では、前記貼り付け方法では不十分である可能性もある。
【0011】
さらに、上記の特許文献4の技術では、曲がる部分はヒンジ部分だけであることから、係合・剥離の繰り返しにより疲労がヒンジ部に集中し、その箇所で壊れ易いという問題点があった。加えて、ループ面ファスナーと係合する両面フック面ファスナーが射出成型品であることから硬く、ループ面ファスナーと密着し難く、その結果高い係合力が得られないという問題点も有していた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ベルトの調整と面ファスナーの交換が簡易かつ低コストでできる、面ファスナーを有する固定用ベルトを提供することを目的とする。さらに繰り返しの係合・剥離によっても壊れにくく、かつフック面ファスナーとループ面ファスナーが密着し易く、高い係合力が得られる固定用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記構成の固定用ベルトによって、上記目的を達することを見出し、この知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の一態様に係る固定用ベルトは、フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを有する固定用ベルトであって、前記両面フック面ファスナーは、押出成形面ファスナーであって、
長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定され、前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部は前記ワニ口に挟み込まれ、そして取付対象物(B)に固定された環状部品で折り返されて、もう一方の端部は前記ワニ口の外側面に係合されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の態様に係る固定方法は、フック状係合素子を両面に有する押出成形両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを用いて、取付対象物(A)に取付対象物(B)を固定する方法であって、
長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定されている、前記両面フック面ファスナーを用いて、前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部を前記ワニ口に挟み込み、取付対象物(B)に固定された環状部品で折り返して、もう一方の端部を前記ワニ口の外側面に係合させることによって、前記取付対象物(A)を取付対象物(B)に固定することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明のさらなる態様に係る固定用ベルト用部材は、フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーが長さ方向に折り返されてワニ口となっており、折り返し部の間の奥に挿入された両面ループ面ファスナーにより折り返し状態が固定されている固定用ベルト用部材であって、
前記両面フック面ファスナーにおいて、基板の両面にフック状係合素子が面ファスナー長さ方向に列をなして並んでおり、前記フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、前記傘部が係合素子列方向と交差する方向にステム部の幅を超えて突出しているT字型の係合素子であり、
さらに前記基板および前記係合素子が同一の結晶性樹脂からなり、かつ
前記基板を構成している樹脂の結晶が面ファスナー長さ方向に配向していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固定用ベルトによれば、ベルトの長さの調整を簡易に行うことができ、さらに、面ファスナーの交換も簡便かつ低コストで行うことができる。さらに繰り返しの係合・剥離によっても両面フック面ファスナー側は壊れにくく、かつ両面フック面ファスナーとループ面ファスナーが密着し易く高い係合力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態の固定用ベルトを構成する、両面フック面ファスナーからなるワニ口の一実施態様を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態の固定用ベルトを構成する、両面フック面ファスナーからなるワニ口と、それにより挟み込まれる両面ループ面ファスナーの一実施態様を示す概略図である。
図3図3は、本実施形態の固定用ベルトの一例を示す概略図である。
図4図4は、本実施形態の両面フック面ファスナーの表面に存在するフック状係合素子の配列状態の一例を示す概略図である。
図5図5は、本実施形態の両面フック面ファスナーが有するフック状係合素子の形状の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を用いて本発明の好適な実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの図面や説明等によって何ら限定されず、各構成部材は本発明の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0020】
なお、各図面における符号はそれぞれ以下を表す:1 両面フック面ファスナー、2 両面ループ面ファスナー、3 リベット、4 環状金属部品、5 補強材、6A 取付対象物(A)、6B 取付対象物(B)、7 取付対象物連結部材、11 基板、12 フック状係合素子、13 ステム部、14 傘部、W 傘部の幅、C 両面フック面ファスナーの流れ方向。
【0021】
本実施形態の固定用ベルトは、例えば、図3に示すように、フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナー1と、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナー2とを有する固定用ベルトからなり、前記両面フック面ファスナーは、長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)6Aにリベット3等で固定され、前記両面ループ面ファスナー2は、その片方の端部は前記ワニ口に挟み込まれ、取付対象物(B)6Bに固定された環状部品4で折り返され、もう一方の端部は前記ワニ口の外側面に係合される。
【0022】
このような構成によれば、ベルトの長さ等の調整を容易に行うことができる。さらに、長期使用等により面ファスナーの係合力が劣化した場合等は、両面フック面ファスナー1は固定したままで、先に劣化が生じ易い両面ループ面ファスナー2のみを簡単に交換することができる。そのため、面ファスナーの交換も効率良くかつ低コストで行うことができるという利点がある。
【0023】
通常、面ファスナーの係合力の劣化は、ループ面ファスナーのループ状係合素子を構成するフィラメントが係合・剥離を繰り返すことにより順々に切断されて係合能力を徐々に消失することにより生じる。本発明のベルトでは、両面ループ面ファスナーはフック状面ファスナーと係合していることおよび環状物品の環で折り返されていること以外は固定されていないことから、極めて簡単に交換することができる。
【0024】
さらに上述したような射出成形製の面ファスナーの場合には、係合・剥離の繰り返しにより面ファスナー同士の弱い繋ぎ部に疲労が集中して蓄積し、その部分で壊れ易いという問題点を有していた。これに対し、本実施形態の固定用ベルトでは、係合・剥離を繰り返しても、テープ状の押出成形両面フック面ファスナーをワニ口に折り返して用いているため、テープ長さ方向に均質であり、特定箇所に疲労が蓄積することがない。
【0025】
しかも、本実施形態の固定用ベルトでは、押出成形の両面フック面ファスナーテープが折り返されて使用されていることからフック面が柔軟である。加えて、押さえ付けることによりフック面ファスナーがループ面ファスナーと密着し易いことから高い係合力が得られる。
【0026】
なお、本実施形態の固定用バンドにおいて、前記両面フック面ファスナー1と前記両面ループ面ファスナー2の使用部位を上述とは逆とし、前記両面フック面ファスナー1の片側端部を前記両面ループ面ファスナー2で構成されるワニ口で挟み込んでもよいが、ループ面ファスナーが外側にくるように配置した方が、衣服などへの余計な付着を引き起こさないため好ましい。さらに上述したように、ループ面ファスナーの方がフック面ファスナーより係合・剥離の繰り返しにより優先的に劣化し易いため、交換し易い方をループ面ファスナーとすることが好ましい。
【0027】
本実施形態の固定用ベルトを構成する各構成要素について詳しく説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の両面フック面ファスナー1は、例えば、真ん中で折り返してワニ口にする。この折り返し部に補強材5が挟み込まれていることが好ましい。補強材はワニ口の奥に挟み込まれ、奥以外の部分は、間に挿入する両面ループ面ファスナーと係合できるように補強材により覆われていないようにする。本実施形態において、ワニ口の「奥」とは、係合する必要のない部分であり、例えば、両面フック面ファスナー1の折り返し部分から取付対象物(A)と固定されている部分までの領域を意味する。より具体的には、両面フック面ファスナー1の折り返し部分から固定されている部分までが好ましい。「奥」の長さとしては、折り返し部分から1~4cmが好ましい。
【0029】
補強材5としては、特に限定はなく、例えば、両面フック面ファスナーの折り返し部の前後2枚の両面フック面ファスナーに空けたリベット3等の止め具用の貫通孔の周りが補強されるようなものであれば使用することができる。従来知られている補強材としては、人工皮革や天然皮革が挙げられる。しかし、このような皮革はコストが高いという難点がある。
【0030】
よって、本実施形態(ワニ口を形成している面ファスナーが両面フック面ファスナー)の場合、補強材5として両面ループ面ファスナーを用いることが好ましい。それによりコストを抑えることができ、また、リベット3等で固定する際などにおいてフックとループで仮固定することで、仮固定できない補強材に比べて位置合わせが行いやすいという利点もある。さらに、両面フック面ファスナーに開けたリベット用貫通孔の周囲が、補強材として間に挿入された両面ループ面ファスナーによる係合により、折り返し前後の2枚の両面フック面ファスナーとその間に挿入された補強材用両面ループ面ファスナーが一体化されて補強される。それにより、貫通孔に係る力を、一体化されている両面フック面ファスナーと間に挿入されている補強材用両面ループ面ファスナーに分散させることとなるため、両面フック面ファスナーがリベット用貫通孔から裂けることを高度に防止できる。
【0031】
補強材として挿入する両面ループ面ファスナーは、補強効果を高めるために、通常のループ面ファスナーより基布層が固くて厚さの厚いループ面ファスナーであることが好ましい。具体的には2枚のループ面ファスナーを、その基布同士をホットメルト系接着剤で貼り合わせて両面ループ面ファスナーとしたものが好ましい。補強材の大きさとしては、留め具がリベットである場合には、リベット用貫通孔の周囲を囲む程度の大きさであることが好ましく、具体的には長さ1~4cm程度、幅はフック面ファスナーの幅とほぼ同一程度であるであることが好ましい。
【0032】
なお、両面フック面ファスナーを折り返し部で取付対象物(A)に固定する手段としては、リベットに限定されず、例えばホッチキスによる固定や、ボルトとナットによる固定や、取付対象物に固定した環状部品に折り返し部を通すことにより固定する方法や、接着剤や縫製により取り付け対象物(A)に固定する方法なども挙げられる。なかでも、リベットによる固定方法が、簡単かつ強固な固定が得られることから特に好ましい。
【0033】
本実施形態で使用できるリベットはプラスチックス製の物であっても、あるいは金属製の物であってもよい。またリベットは、折り返し部の1ヶ所に止まらず、固定ベルトの幅の広さによって折り返し部の複数個所に取り付けてもよい。
【0034】
本実施形態の固定用ベルトでは、上述したような両面フック面ファスナー1を折り返してなるワニ口で、図2に示すように、両面ループ面ファスナー2の片方の端部を挟み込む。この両面ループ面ファスナー2をどの程度前記ワニ口の奥まで挟み込ませるか、またワニ口の外側のフック面のどの場所で係合させるか、両面ループ面ファスナーのどの程度の長さでワニ口の外側のフック面に係合させるかでベルトの長さを容易に調整することができる。
【0035】
両面ループ面ファスナー2は、図3に示すように、取付対象物(B)6Bに固定された環状部品4を通して折り返され、折り返された端部は、前記ワニ口の外側面に係合される。なお、ここで言う端部とは、正確な意味での端部ではなく、端部から中央部寄りの部分も含み、必要により剥離の際の摘み易さを得るために端部を未係合の状態で余らすことや、さらに剥離の際の摘み易さを得るために、端部の係合素子を除去してあるような実施形態もまた本発明に含まれる。
【0036】
環状部品4の取付対象物(B)6Bへの固定方法は特に限定はされないが、例えば、取付対象物(B)6Bにリベット等により固定した部材7を介して、取付対象物(B)6Bへ固定されていてもよい。
【0037】
環状部品4は、両面ループ面ファスナー2を通すのに支障がなければどのような部品であってもよく、例えば、金属製や強化樹脂製のD環などを使用することができる。
【0038】
取付対象物(B)6Bに環状部材4を取り付けるための部材7としては、特に限定なく、金属製プレートや樹脂製成形プレート、ゴム製の成形プレート、織物の生地、天然皮革、人工皮革等を使用できる。
【0039】
両面ループ面ファスナー2の長さ等には特に限定はなく、固定したい物品の大きさ等で適宜決めることができる。本実施形態の固定用ベルトを構成する両面ループ面ファスナーは、全長に亘り両面ループ面ファスナーで形成されていることが、長さ調整が容易である点、さらに取り扱い性の点で好ましい。
【0040】
また、前記両面フック面ファスナー1および前記両面ループ面ファスナー2の幅についても特に限定はなく、重い物品や大きい物品を固定したい場合は幅を大きく、軽い物品や小さい物品を固定したい場合は幅を小さくして適宜調整すればよい。通常は2~20cm幅の範囲から選ばれる。なお、前記両面フック面ファスナー1および前記両面ループ面ファスナー2の幅は同じ幅であることが好ましい。また使用する両面フック面ファスナーの幅が広がると、それに伴って、折り返し部に取り付けるリベット等の数は面ファスナー幅方向に増やすのが好ましい。例えば両面フック面ファスナーの幅が2~3cmの場合には1ヶ所、3~6cmの場合には幅方向に均一に2~3か所、6~10cmの場合には幅方向に均一に3~4か所、8~20cmの場合には4か所以上とすることが好ましい。
【0041】
また使用する両面フック面ファスナーの長さとしては、ワニ口に折り返して、折り返し部をリベット等で固定し、そしてワニ口の間に両面ループ面ファスナーを挟み込み、充分に係合できる長さであればよい。特に、充分な係合力を得るためには、折り返す前で長さ10~60cm、特に15~40cmが好ましい。
【0042】
なお、本実施形態において、取付対象物(A)と取り付け対象物(B)は、連なった同一物であっても、連なっていない異なる物であってもよい。連なった同一物の場合には本実施形態の固定用ベルトは締め付け用のベルトとしても使用できる。
【0043】
次に本実施形態の固定用ベルトに使用する両面フック面ファスナーについて説明する。
【0044】
まず、本実施形態で用いられる両面フック面ファスナーは、押出成形により製造された面ファスナーである。このような押出成形製の面ファスナーは、樹脂製の基板の両面に、同樹脂からなり、長さ方向に平行なフック状係合素子の列を多数有している。このような押出成形製の面ファスナーは、後述するような方法により製造される。
【0045】
本実施形態では、係合力が高いこと、柔軟性に優れること、長さ方向の引張強力に優れること、手触りが優しいこと、さらに取付対象物に面ファスナーを取り付ける際のリベット穴が使用中に拡大し難いこと、長さ方向に均質であること、長さ方向に自由な長さの両面フック面ファスナーが容易に得られること、自由に折り曲げることができること等から押出成形面ファスナーが用いられる。
【0046】
本実施形態で使用する押出成形製の両面フック面ファスナーにおいて、基板およびその表面と裏面に存在しているフック状係合素子は生産性および強度の点から通常はすべて同一の樹脂から構成されている。
【0047】
用いられる樹脂に関しては、特に限定されず、通常の押出成形に用いられる樹脂、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、PC(ポリカーボネート)、PA(ポリアミド)、POM(ポリオキシメチレン)、PP(ポリプロピレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の合成樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂が挙げられる。中でも、初期性能、係合力、柔軟性、フック状係合素子や同係合素子の傘部がちぎれ難くて耐久性に優れている、さらに手触りが優しいという観点から、結晶性の樹脂、特にポリアミド系樹脂(ナイロン)およびポリエステルエラストマー樹脂が好ましく用いられる。
【0048】
本実施形態の両面フックの押出成形面ファスナー1においては、図4に示すように、基板11の表面にフック状係合素子12が列をなして並んでいる。前記フック状係合素子12の形状は特に限定されないが、例えば、ステム部とその上部に広がる傘部からなるT字型係合素子であることが好ましい。より具体的には、図5に示すように、各T字型係合素子はステム部13とその上部に広がる傘部14からなり、かつ係合素子列方向に交差する方向に傘部14はステム部13の幅を超え、はみ出して拡がっているが、係合素子列方向には傘部は拡がりを有しておらずにステム部13から傘部先端部までほぼ同一の幅を有していることが好ましい。ステム部13とその左右に拡がる傘部14との合計の幅Wは0.50~1.00mm程度である。
【0049】
このようなT字型形状のフック状係合素子を用いることにより、肌触りが優しく、他の生地に引っ掛かり難くなり傷め難く、衣類にこすれた場合などに糸くずなどが付きにくいといった利点がある。
【0050】
本実施形態に用いる両面フック面ファスナーは、ワニ口状に折り返して使用されることから、柔軟であることが必要であり、そのためには両面フック面ファスナーを構成している基体の厚さとしては0.1~0.5mm、その表面および裏面に存在しているフック状係合素子の高さとしては0.2~1.0mmが好ましい。そして、基体の両面に存在している係合素子の密度(片面の密度)としては50~100個/cm、特に60~90個/cmが好ましい。このように、微小なT字型のフック状係合素子が高い密度で存在していることにより、両面フック面ファスナーの手触りが優しいにもかかわらず、強力な係合力が得られる。
【0051】
本実施形態の両面フック面ファスナーは、前記したように押出成形法によって製造される。具体的には、例えば、本実施形態の両面フック成形面ファスナーと同一形状の空間を有するノズル(横に一直線に伸びるスリットの両面にT字型スリットが上下対称の位置に配置されているノズル)から、樹脂の溶融物を押し出し、冷却させて、基板の上下に長さ方向に連続するT字型係合素子用列条を有するテープ状物を得る。このテープ状物両面のT字型係合素子列条に、その長さ方向を横切る方向に、T字型係合素子列条の先端部から根元部分に至る切れ目を小間隔、例えば0.3~0.8mm間隔で入れ、そして該テープを1.5~5倍程度の長さに延伸すると同時に熱処理して、延伸形状を固定させることによって成形することができる。
【0052】
このようにテープを延伸することにより、係合素子列条が係合素子の列へと変換し、これにより係合力を有することとなる。さらにテープを構成する樹脂がポリアミドやポリエステルエラストマーのように結晶性の樹脂である場合には、基板の結晶が延伸方向に配向し、テープの長さ方向の強度が向上するとともにテープの厚さを薄くすることができる。同時に、係合素子のステムの根元部も基板の延伸に引きずられて延伸されることから、係合を剥離する際の引っ張りによりステムが根元部からちぎれることを防止できる。
【0053】
成形面ファスナーとしては射出成形面ファスナーが一般的であるが、射出成形の場合、溶融した樹脂を金型の表面に開けた係合素子用キャビティに流し込み、固化させた後でキャビティから係合素子を引き抜く方法で製造されている関係上、係合素子の形状は金型から引き抜くことが可能な逆J字型に限られる。しかし、押出成形面ファスナーの場合には、このような形状に限定されず、上記したようなT字型のものも容易に製造できる。T字型の係合素子は、ステムの両サイドに係合用突起が突出していることから、一方向にしか突出していない逆J字型の係合素子よりもループ状係合素子と係合する機会が多く、それだけ高い係合力が得られ、高い係合力が要求される固定用ベルト、特に義手・義足などの医療装具などの固定用ベルトに適している。
【0054】
次に、上述した両面フック面ファスナーの対となる、本実施形態の固定用ベルトに使用される両面ループ面ファスナーについて説明する。
【0055】
本実施形態で使用する両面ループ面ファスナーについては、特に限定はなく、公知のループ面ファスナーを適当な接着剤等で2枚貼り合わせて両面ループ面とした両面ループ面ファスナーを使用することができる。
【0056】
好ましくは、編地または織地を基布とするループ面ファスナーを用いることが望ましく、なかでも経編地、そのなかでも多数のループを表面に形成することが容易にできるトリコット編地のループ面ファスナーが好ましい。
【0057】
トリコット編地としては、片面にマルチフィラメントからなるループパイル層が形成されたトリコット地が挙げられ、ループパイル層を針布等で起毛処理することにより、ループパイル層を構成しているマルチフィラメントをバラけさせて係合力をより高めることができる。
【0058】
両面ループ面ファスナーを構成する繊維としては、ナイロン系やポリエステル系のものが好ましい。
【0059】
このようなループ面ファスナーのループ層を外側にして基布層同士を重ね合せ、接着剤で接合して両面ループ面ファスナーが得られる。同一のループ面ファスナーを重ね合わせてもよいし、また、種類の異なるループ面ファスナーを重ねて合わせてもよい。
【0060】
用いられる接着剤としては、溶剤系の物でも、エマルジョン系の物でも、あるいはホットメルト系のものでもよいが、作業性の点で、また表面に滲みだしてループ面ファスナーの係合性や外観を損なわないこと、さらに基布に腰を与えて面ファスナーの捩れや歪を防ぐ等の点からホットメルト系の接着剤が好ましい。
【0061】
トリコット編地からなるループ面ファスナー同士を接合して両面ループ面ファスナーとする際には、ベルトの幅方向に平行にトリコット地の基布の畝が並ぶようにトリコット編地を使用するのがベルト長さ方向の寸法安定性と腰が得られる点で好ましい。
【0062】
なお、本実施形態の固定用ベルトを構成する両面ループ面ファスナーと、上述した補強材を構成する両面ループ面ファスナーは、同一であっても異なっていてもよいが、生産工程の効率化や両面フック面ファスナーとの係合性およびコストという観点から同一の両面ループ面ファスナーを使用することが好ましい。
【0063】
本実施形態の固定用ベルトは様々な用途に使用可能である。例えば、義手・義足などの医療装具などの固定、荷造り資材等に好適に使用できる。
【0064】
義足固定の一例を挙げれば、下肢の一部を固定する樹脂製の装具本体の前側には下肢を通し易くするための切欠きが設けられ、さらに人体と装具本体を固定するため、前記切欠きの間を架け渡す様に本実施形態の固定用ベルトが複数本設けられる。この固定用ベルトのワニ口部を装具本体の切欠きの側部位置にリベツト等によって固定し、切欠きを挟んで同ベルトの固定位置と対面する側には、環状部材を取り付け、両面ループ面ファスナーの片末端を上記ワニ口部に挿入して、ワニ口の内側両面に存在しているフック状係合素子と間に挿入した両面ループ面ファスナーのループ状係合素子を係合させるとともに、同両面ループ面ファスナーを環状部品で折り返し、切欠きを締め付けて、その状態で、もう一方の端部を両面フック面ファスナーの外側のフック状係合素子と係合させることにより、装具本体を固定させることができる。
【0065】
また、本発明には、前記固定用ベルトを用いる固定方法も包含される。具体的には、フック状係合素子を両面に有する押出成形両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを用いて、取付対象物(A)に取付対象物(B)を固定する方法であって、長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定されている、前記両面フック面ファスナーを用いて、前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部を前記ワニ口に挟み込み、そして取付対象物(B)に固定された環状部品を通して折り返して、もう一方の端部を前記ワニ口の外側面に係合させることによって、前記取付対象物(A)を取付対象物(B)に固定する。
【0066】
さらに、本発明には、固定用ベルトを構成する固定用ベルト部材についても包含され、具体的には、フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーが長さ方向に折り返されてワニ口となっており、折り返し部の間の奥に挿入された両面ループ面ファスナーにより折り返し状態が固定されている固定用ベルト用部材であって、前記両面フック面ファスナーが、基板の両面にフック状係合素子が面ファスナー長さ方向に列をなして並んでおり、フック状係合素子がステム部とその上部に広がる傘部からなり、傘部が係合素子列方向と交差する方向にステム部の幅を超えて突出しているT字型の係合素子であり、さらに基板および係合素子が同一の結晶性樹脂からなり、かつ基板を構成している樹脂の結晶が面ファスナー長さ方向に配向している固定用ベルト用部材である。
【0067】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0068】
すなわち、本発明の一局面に係る固定用ベルトは、フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを有する固定用ベルトであって、
前記両面フック面ファスナーは、押出成形面ファスナーであって、長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定され、前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部は前記ワニ口に挟み込まれ、そして取付対象物(B)に固定された環状部品で折り返されて、もう一方の端部は前記ワニ口の外側面に係合されることを特徴とする。
【0069】
このような構成によれば、ベルトの長さの調整を簡易に行うことができ、さらに、面ファスナーの交換も簡便かつ低コストで行うことができる。さらに繰り返しの係合・剥離によっても両面フック面ファスナー側は壊れにくく、かつ両面フック面ファスナーとループ面ファスナーが密着し易く高い係合力が得られる。
【0070】
さらに、前記固定用ベルトにおいて、前記押出成形面ファスナーを形成している樹脂がポリアミドまたはポリエステルエラストマーであることが好ましい。それにより、初期性能、係合力、柔軟性、フック状係合素子や同係合素子の傘部がちぎれ難くて耐久性に優れている、さらに手触りが優しいという利点が得られる。
【0071】
また、前記固定用ベルトにおいて、前記折り返し部に補強材が挟み込まれていることが好ましい。それにより、折り返し部が補強され、固定用ベルトを使用する際、強い力が瞬間的に掛かる状態においても両面フック面ファスナーの貫通孔に取付けられたリベット部からの両面フック面ファスナーの裂けを防ぐことができるという利点がある。
【0072】
さらに、前記補強材が両面ループ面ファスナーで構成されていることが好ましい。それによりコストを抑えることができ、仮固定することで位置合わせが行いやすいという利点もある。
【0073】
また、前記固定用ベルトにおいて、前記両面フック面ファスナーの前記取付対象物(A)への固定が、前記取付対象物(A)と両面フック面ファスナーの前記折り返し部の前後2枚の両面フック面ファスナーとその間に挟み込まれた前記補強材とを貫通するリベットによりなされていることが好ましい。
【0074】
このとき、補強材が両面ループ面ファスナーで構成されていれば、リベット用貫通孔の周囲において、固定用ベルトを構成する両面フック面ファスナーと補強材の両面ループ面ファスナーによる係合により、それらが一体化されて補強され、両面フック面ファスナーがリベット用貫通孔から裂けることを高度に防止できるという利点もある。
【0075】
また、前記固定用ベルトにおいて、前記フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、傘部が係合素子列方向に交差する方向にステム部の幅を超えて拡がり、ステム部とその左右に拡がる傘部との合計の幅が0.50~1.00mmであり、係合素子列方向には傘部が拡がりを有していないT字型係合素子であることが好ましい。
【0076】
このような構成により、肌触りが優しく、他の生地に引っ掛かり難くなり傷め難く、衣類にこすれた場合などに糸くずなどが付きにくいベルトが得られるといった利点がある。
【0077】
また、本発明の他の態様に係る固定方法は、フック状係合素子を両面に有する押出成形両面フック面ファスナーと、ループ状係合素子を両面に有する両面ループ面ファスナーとを用いて、取付対象物(A)に取付対象物(B)を固定する方法であって、
長さ方向に折り返しワニ口とし、折り返し部で取付対象物(A)に固定されている、前記両面フック面ファスナーを用いて、前記両面ループ面ファスナーは、その片方の端部を前記ワニ口に挟み込み、取付対象物(B)に固定された環状部品で折り返して、もう一方の端部を前記ワニ口の外側面に係合させることによって、前記取付対象物(A)を取付対象物(B)に固定することを特徴とする。
【0078】
このような構成により、繰り返し使用し両面ループ面ファスナーの毛羽立ち、ループ切れにより係合力が低下したとしても、ループ面ファスナーを交換でき、メンテナンスが容易にできるといった利点がある。
【0079】
さらに、本発明のさらなる態様に係る固定用ベルト用部材は、フック状係合素子を両面に有する両面フック面ファスナーが長さ方向に折り返されてワニ口となっており、折り返し部の間の奥に挿入された両面ループ面ファスナーにより折り返し状態が固定されている固定用ベルト用部材であって、
前記両面フック面ファスナーにおいて、基板の両面にフック状係合素子が面ファスナー長さ方向に列をなして並んでおり、前記フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、前記傘部が係合素子列方向と交差する方向にステム部の幅を超えて突出しているT字型の係合素子であり、
さらに前記基板および前記係合素子が同一の結晶性樹脂からなり、かつ
前記基板を構成している樹脂の結晶が面ファスナー長さ方向に配向していることを特徴とする。
【0080】
このような構成により、両面ループ面ファスナーのループ状係合素子と係合する機会が多く、高い係合力が得られるといった利点がある。
【0081】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0082】
[試験例1:引張せん断(シアー)強度と剥離(ピール)強度]
(両面フック面ファスナー1の作製)
ナイロン-6樹脂(宇部興産社製UBESTA、曲げ弾性率:400MPa)をT字型スリットが上下対称の位置に配置されているノズル(ステム用スリットは46本基板用スリット上に等間隔で存在)から溶融押出し、冷却して、基板の表面および裏面から突出するステム、そしてステムの先端部には、基板に平行な方向に連続して伸びる突起部が存在しているようなT字型断面形状を有しているステム用および突起部用列条を表面に有しているテープを成形した。そして、このテープの列条の先端から根元までカット角度30度で0.5mmの等間隔で切れ目を入れ、そしてテープを加熱状態で長さ方向に2.2倍延伸し、両面フック面ファスナー1を製作した。
【0083】
得られた両面フック面ファスナーでは、基板の厚さが0.3mm、フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、傘部が係合素子列方向から角度60度の方向にステム部の幅を超えて拡がり、ステム部とその左右に拡がる傘部との合計の幅が0.7mmであり、係合素子列方向には傘部が拡がりを有していないT字型係合素子であった。さらに、フック状係合素子の基板からの高さが0.45mmであり、フック状係合素子の素子密度(片面での素子密度)は79個/cmであった。
【0084】
(両面フック面ファスナー2の作製)
ポリエステルエラストマー(東レデュポン社製ハイトレル、曲げ弾性率:540MPa)をT字型スリットが上下対称の位置に配置されているノズル(ステム用スリットは46本基板用スリット上に等間隔で存在)から溶融押出し、冷却して、基板の表面から突出するステム、そしてステムの先端部には、基板に平行な方向に連続して伸びる突起部が存在しているようなT字型断面形状を有しているステム用および突起部用列条を表面に有しているテープを成形した。そして、このテープの列条の先端から根元までカット角度30度で0.5mmの等間隔で切れ目を入れ、そしてテープを加熱状態で長さ方向に2.2倍延伸し、両面フック面ファスナー2を製作した。
【0085】
得られた両面フック面ファスナーでは、基板の厚さが0.3mm、フック状係合素子が、ステム部とその上部に広がる傘部からなり、傘部が係合素子列方向から角度60度の方向にステム部の幅を超えて拡がり、ステム部とその左右に拡がる傘部との合計の幅が0.7mmであり、係合素子列方向には傘部が拡がりを有していないT字型係合素子であった。さらに、フック状係合素子の基板からの高さが0.45mmであり、フック状係合素子の素子密度(片面での素子密度)は69個/cmであった。
【0086】
上記得られた両面フック面ファスナー1および2において、両面フック面ファスナーの基板は係合素子列方向に延伸されていることにより、係合素子列方向にナイロン樹脂またはポリエステルエラストマー樹脂の結晶が配向していた。したがって係合素子列方向には高い強度を有しており、繰り返しの係合・剥離や引っ張りにより基板が損傷することもない。さらに、係合素子の傘部が係合素子列方向から角度60度の方向に突出していることから、係合し易くかつループ面ファスナーの張力が弛んだ場合でも係合が外れ難く、係合力も高い。しかも係合素子がT字状であることと高さが低く高密度に存在していることから、フック面ファスナーの手触り感が極めて優しく、使用時に触れても、平滑な樹脂シートに触れた時の感触と全く相違するものではなかった。
【0087】
(両面ループ面ファスナー1の作製)
トリコット編物基布の表面にループ状係合素子となるマルチフィラメントループを形成した編物雌型面ファスナー(クラレファスニング社製E40000、目付:285±15g/m、密度[W]52±2本/2.54cm、[C]48±2本/2.54cm)の裏面に、同一のトリコット編物雌型面ファスナーのループが存在している面を外側にし、両トリコット編物の基布の畝が幅方向に平行になるようにホットメルト系接着剤により貼り合わせ、両面ループ面ファスナー1を製作した。
【0088】
(両面ループ面ファスナー2の作製)
トリコット編物基布の表面にループ状係合素子となるマルチフィラメントループを形成した編物雌型面ファスナー(クラレファスニング社製E5000C、目付:190±10g/m、密度[W]47~56本/2.54cm、[C]34±2本/2.54cm)の裏面に、同一のトリコット編物雌型面ファスナーのループが存在している面を外側にし、両トリコット編物の基布の畝が幅方向に平行になるようにホットメルト系接着剤により貼り合わせ、両面ループ面ファスナー2を製作した。
【0089】
(実施例1)
上記で得られた両面フック面ファスナー1と、両面ループ面ファスナー1とを用いて、JIS-L-3416(2000年改正)に準じて、引張せん断(シアー)強度と剥離(ピール)強度を、それぞれ、初回、剥離回数1万回後、剥離回数2万回後において測定した。結果を表1に示す。
【0090】
なお、下記表1並びに後述の表2において、シアーの平均値とは、N=3回で測定した結果の平均値である。また、シアーの測定結果については、フックとループの重なり合う面積を20mm×50mm(10cm)として平均値を算出し、それをN/cmに換算した値をそれぞれ平均値の右隣に記載した。
【0091】
さらに、ピールの平均値についても、N=3回で測定した結果の平均値である。また、ピールの測定結果については、測定幅を20mmとして平均値(N/20mm)を算出し、それを2で割ってN/cmに換算した値をそれぞれ平均値の右隣に記載した。
【0092】
【表1】
【0093】
(実施例2)
上記で得られた両面フック面ファスナー2と、両面ループ面ファスナー2とを用いて、JIS-L-3416(2000年改正)に準じて、引張せん断(シアー)強度と剥離(ピール)強度を、それぞれ、初回、剥離回数5000回後、剥離回数1万回後、剥離回数1万5千回後、及び剥離回数2万回後において測定した。結果を表2に示す。
【0094】
(実施例3)
上記で得られた両面フック面ファスナー2と、両面ループ面ファスナー1とを用いて、JIS-L-3416(2000年改正)に準じて、引張せん断(シアー)強度と剥離(ピール)強度を、それぞれ、初回、剥離回数5000回後、剥離回数1万回後、剥離回数1万5千回後、及び剥離回数2万回後において測定した。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
(考察)
測定の結果、いずれの実施例においても、2万回ピール剥離後の拡大写真で確認しても、ループの大きな毛羽立ち、および、フックの飛びや欠けは見られず、係合素子傘端部に変形が見られるという程度の損傷で抑えることができた。特に、実施例1では2万回剥離後の各強度保持率が初回値の80%を上回る結果となり、ポリアミド樹脂を使用するとさらに優れた結果が得られることもわかった。
【0097】
[試験例2:リベット部の強度]
下記表3に示す挟み込みパーツの組み合わせで、図1に示すような形状のワニ口を、2種類のベルト幅(25mm幅・リベット直径3mm1箇所および50mm幅・リベット直径3mm2箇所)で作製した。なお、ワニ口のリベット穴を補強するために、ワニ口部分に補強材として両面ループ面ファスナー1(長さ25mmで幅25mm)を挿入し、リベット取付け穴は、ワニ口の折り返し前後の2枚の両面フック面ファスナーと補強材として間に挿入した両面ループ面ファスナーを貫通するように空けた。そして、ワニ口部材のリベット取付け穴にリベットを取付け、リベット部にワイヤーを掛けて引っ張るリベット部のファスナー強度測定試験において、ワニ口部材を下方向にワイヤーを上方向にオートグラフ試験機で速度300mm/分で引っ張るリベット部強度測定を行い評価した。なお、表3には、補強材を挿入しなかった場合のデータも併記する。
【0098】
リベットを取り付ける際の作業性は、補強材として用いた両面ループ面ファスナーにより両面フック面ファスナーの折り返し状態が固定されていることから、補強材が挿入されていない場合と比べて、位置ずれを生じることがなく、はるかに優れていた。
【0099】
合否判定は、引張り測定値がピークに達した時にリベットが外れ、ファスナーが裂けていない状態(リベット飛び)を合格とした。
【0100】
【表3】
【0101】
(考察)
表3からわかるように、本発明の固定ベルトに補強材としてループ面ファスナー1を用いた場合には、天然皮革と同等のリベット部強度を示していた。
【0102】
なお、天然皮革の場合には、天然皮革がフック面ファスナーと係合する能力を有していないことから、リベット穴を開ける際やリベットを挿入する際に、位置ずれを生じ易く、作業性に劣っていた。
【0103】
[義足への使用例]
下肢の一部を固定するポリプロピレン製の装具本体の固定用ベルトとして使用した使用例を示す。すなわち、装具本体の前側には下肢を通し易くするための切欠きが設けられ、さらに人体と装具本体を固定するため、前記切欠きの間を架け渡すように本発明の固定用ベルトを3本取り付けた。
【0104】
具体的には、上記試験例2で作製したのと同様の、50mm幅で長さ250mmの両面フック面ファスナー1を長さ方向に二つ折りして折り返してワニ口とし、折り返し部から10mmの幅方向に平行な30mm離れた箇所2か所に直径3mmのリベット穴を空け、さらに折り返し部に補強材となる両面ループ面ファスナー1(長さ25mmで幅50mm)を挟み込むとともに、この両面ループ面ファスナーにも、フック面ファスナー1のリベット穴の箇所と同一箇所にリベット穴を設け、これらの穴を貫通させるリベットを用いて装具本体の切欠きの側部位置に固定した。そして、切欠きを挟んで同ベルトの固定位置と対面する側には、環状部材を取り付けた。
【0105】
次に、両面ループ面ファスナー1の片末端を上記ワニ口部に挿入して、ワニ口内側のフック状係合素子と挿入した両面ループ面ファスナー1のループ状係合素子を係合させることにより両面ループ面ファスナー1を、片端部をワニ口に固定するとともに、同両面ループ面ファスナーを上記環状部品で折り返し、切欠きを締め付けて、その状態で、同両面ループ面ファスナーのもう一方の端部を前記両面フック面ファスナー1の外側のフック状係合素子と係合させることにより、装具本体を固定させた。
【0106】
その結果、ベルトの長さの調整および締め付け状態の調整を容易に行うことができ、さらに、両面ループ面ファスナーが損傷した際の交換も容易に行うことができた。さらに繰り返しの係合・剥離によってもフック面ファスナー側は、フック状係合素子や面ファスナーの基体層、さらにリベット部に、いずれも裂けや壊れがなく、かつフック面ファスナーが柔軟であることから、ループ面ファスナーと密着し易く常に高い係合力が得られた。しかも、両面フック面ファスナーの表面に存在している係合素子が小さく、かつ高密度であり、さらにフック面ファスナー自体が柔軟であることから、手や肌に優しく、係合・剥離の際に強く触れても何ら刺激を与えるものではなかった。
【0107】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、固定用ベルトや固定用ベルト用部材等の技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5