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特許7017532ヘルメット用気流制御部材、および、ヘルメット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ヘルメット用気流制御部材、および、ヘルメット
(51)【国際特許分類】
   A42B 3/28 20060101AFI20220201BHJP
【FI】
A42B3/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019030063
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020133065
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390005429
【氏名又は名称】株式会社SHOEI
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石川 皓介
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-026908(JP,A)
【文献】国際公開第2002/100204(WO,A1)
【文献】特開2015-004147(JP,A)
【文献】実開平02-061932(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第1568850(CN,A)
【文献】国際公開第98/046095(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル外面の一部分を覆う本体裏面を有してシェルに配置される板状の本体部と、
前記本体裏面に位置する流路形成部と、を備え、
前記本体裏面の周縁は、前記シェル外面に追従した形状を有して前記本体裏面と前記シェル外面との隙間を閉じる第1縁部と、前記シェル外面から離れて前記本体裏面と前記シェル外面との隙間の開口を前記シェル外面の後側に向けて前記シェル外面と共に区切る第2縁部と、を備え、
前記流路形成部は、前記開口の一部分から前記隙間内に延在して前記隙間内から前記開口の他部分に戻る流路を前記隙間に区切り、これによって前記開口の前記一部分から前記隙間内に空気が流れ込み、当該流れ込んだ空気が前記開口の前記他部分から流れ出るように構成される
ヘルメット用気流制御部材。
【請求項2】
前記流路形成部は、突条リブである
請求項1に記載のヘルメット用気流制御部材。
【請求項3】
前記流路形成部は、前記開口を上下方向に区切る流路であって、前記開口のうち上側から前記隙間内に延在して前記隙間内から前記開口のうち下側に戻るように流路を構成する仕切板である
請求項1に記載のヘルメット用気流制御部材。
【請求項4】
前記流路形成部は、第1流路形成部であり、
前記本体裏面に位置し、前記シェルを貫通する排気孔と連通可能に構成されて、前記隙間内から前記開口に向けて延在する流路を区切る、左右で一対の第2流路形成部をさらに備え
前記左右で一対の前記第2流路形成部の間に前記第1流路形成部が位置する
請求項1から3のいずれか一項に記載のヘルメット用気流制御部材。
【請求項5】
前記ヘルメット用気流制御部材は、整流面を有して前記シェルの後頭部に固定されるスタビライザーであり、
少なくとも1つの前記第1流路形成部と、
前記第1流路形成部と隣り合う前記第2流路形成部と、を備える
請求項4に記載のヘルメット用気流制御部材。
【請求項6】
前記流路形成部が区切る流路は、前記本体裏面と対向する方向から見て、前記隙間内に向けて凸となる弧状を有する
請求項1から5のいずれか一項に記載のヘルメット用気流制御部材。
【請求項7】
シェルと、
ヘルメット用気流制御部材と、を備え、
前記ヘルメット用気流制御部材は、
シェル外面の一部分を覆う本体裏面を有して前記シェルに配置される板状の本体部と、
前記本体裏面に位置する流路形成部と、を備え、
前記本体裏面の周縁は、前記シェル外面に追従した形状を有して前記本体裏面と前記シェル外面との隙間を閉じる第1縁部と、前記シェル外面から離れて前記本体裏面と前記シェル外面との隙間の開口を前記シェル外面の後側に向けて前記シェル外面と共に区切る第2縁部と、を備え、
前記流路形成部は、前記開口の一部分から前記隙間内に延在して前記隙間内から前記開口の他部分に戻る流路を前記隙間に区切り、これによって前記開口の前記一部分から前記隙間内に空気が流れ込み、当該流れ込んだ空気が前記開口の前記他部分から流れ出るように構成される
ヘルメット。
【請求項8】
前記流路形成部が、第1流路形成部であり、
前記ヘルメット用気流制御部材は、
整流面を有して前記シェルに配置されるスタビライザーであり、
前記第1流路形成部と隣り合う位置に、前記隙間内から前記開口に向けて延在する流路を区切る左右で一対の第2流路形成部をさらに備え、前記シェルには、前記シェルを貫通し、かつ、前記第2流路形成部が区切る流路に連通する排気孔が位置し、
前記左右で一対の前記第2流路形成部の間に前記第1流路形成部が位置する
請求項7に記載のヘルメット。
【請求項9】
前記スタビライザーが、左右で一対の前記第1流路形成部を備え、
前記本体裏面にて前記一対の前記第1流路形成部を左右方向で挟むように位置し、前記隙間内から前記開口に向けて延在する流路を区切る前記左右で一対の第2流路形成部を備える
請求項8に記載のヘルメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルメットのシェルに配置されるヘルメット用気流制御部材、および、ヘルメット用気流制御部材を備えたヘルメットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルメットが生じさせる気流は、着用者の装着感に大きな差異をもたらす。例えば、ヘルメットの内部から外部に向けた気流は、ヘルメットの換気性能を大きく向上させる(例えば、特許文献1から3を参照)。ヘルメットが生じさせる気流の変動の抑制は、風切り音などの騒音を低下させて静粛性能を大きく向上させる。ヘルメットが生じさせる気流の乱れの抑制は、直進走行時における姿勢の安定性能を大きく向上させる(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-26908号公報
【文献】特開平7-3516号公報
【文献】特開2000-328343号公報
【文献】国際公開第2007/144937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘルメットが備えるシェルの形状変更は、ヘルメットが生じさせる気流の新たな制御を可能にする。一方で、機械的な強度、耐衝撃性能、および耐貫通性能が求められるシェルでは、気流を制御するための細かな構造の付加自体に限りがある。
【0005】
本発明は、ヘルメットが生じさせる気流の新たな制御を可能にしたヘルメット用気流制御部材、および、ヘルメットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのヘルメット用気流制御部材は、シェル外面の一部分を覆う本体裏面を有してシェルに配置される板状の本体部と、前記本体裏面に位置する流路形成部と、を備える。前記本体裏面の周縁は、前記シェル外面に追従した形状を有して前記本体裏面と前記シェル外面との隙間を閉じる第1縁部と、前記シェル外面から離れて前記本体裏面と前記シェル外面との隙間の開口を前記シェル外面と共に区切る第2縁部と、を備える。前記流路形成部は、前記開口から前記隙間内に延在して前記隙間内から前記開口に戻る流路を前記隙間に区切る。
【0007】
上記課題を解決するためのヘルメットは、シェルと、ヘルメット用気流制御部材と、を備える。前記ヘルメット用気流制御部材は、シェル外面の一部分を覆う本体裏面を有して前記シェルに配置される板状の本体部と、前記本体裏面に位置する流路形成部と、を備える。前記本体裏面の周縁は、前記シェル外面に追従した形状を有して前記本体裏面と前記シェル外面との隙間を閉じる第1縁部と、前記シェル外面から離れて前記本体裏面と前記シェル外面との隙間の開口を前記シェル外面と共に区切る第2縁部と、を備える。前記流路形成部は、前記開口から前記隙間内に延在して前記隙間内から前記開口に戻る流路の少なくとも一部分を前記隙間に区切る。
【0008】
シェル外面と本体裏面との隙間での開口の近傍には、例えば、シェル外面の全体的な形状、シェル外面の部分的な形状、シェル外面の部分的な寸法、シェル外面に取り付けられる附属部材の形状など、様々な要因に基づいて、正圧と負圧との分布が少なからず形成され得る。ここで、上記各構成によれば、シェル外面と本体裏面との隙間に、開口から隙間内に延在して隙間内から開口に戻る流路が区画される。結果として、開口の一部分から隙間内に空気が流れ込み、当該流れ込んだ空気が開口の他部分から流れ出るため、開口の近傍での正圧と負圧との差圧を抑制することが可能となる。すなわち、シェルとは別部材であるヘルメット用気流制御部材の構造によって、気流の新たな制御が可能となる。
【0009】
上記ヘルメット用気流制御部材において、前記流路形成部は、突条リブであってもよい。この構成によれば、開口から隙間内に延在して隙間内から開口に戻る流路が突条リブによって区画されるため、流路を区切ることに要する材料の使用量を抑えることが可能ともなる。
【0010】
上記ヘルメット用気流制御部材において、前記流路形成部は、前記開口を上下方向に区切る流路であって、前記開口のうち上側から前記隙間内に延在して前記隙間内から前記開口のうち下側に戻るように構成されてもよい。
【0011】
この構成によれば、本体部の表面を通過した空気は、本体部の後端で乱流を生じるため、開口を上下方向で繋ぐことで、本体部の後端に近い上側開口部に流れ込んだ空気を下側開口部から排出することが可能となる。また、流路形成部が占有する左右方向での幅を小さくできるため、ヘルメット用気流制御部材のコンパクト化および軽量化が可能ともなる。
【0012】
上記ヘルメット用気流制御部材において、前記流路形成部は、第1流路形成部であり、前記本体裏面に位置し、前記シェルを貫通する孔と連通可能に構成されて、前記隙間内から前記開口に向けて延在する流路を区切る第2流路形成部をさらに備えてもよい。この構成によれば、開口の近傍での正圧と負圧との差圧を抑制する流路に加えて、シェルの内部とシェルの外部とを連通するための流路を、別途、第2流路形成部によって区切ることが可能ともなる。
【0013】
上記ヘルメット用気流制御部材において、当該ヘルメット用気流制御部材は、整流面を有して前記シェルに配置されるスタビライザーであり、少なくとも1つの前記第1流路形成部と、前記第1流路形成部と隣り合う少なくとも1つの前記第2流路形成部と、を備えてもよい。
【0014】
上記ヘルメットにおいて、前記ヘルメット用気流制御部材は、整流面を有して前記シェルに配置されるスタビライザーであり、少なくとも1つの前記第1流路形成部を備え、前記第1流路形成部と隣り合うように位置し、前記隙間内から前記開口に向けて延在する流路を区切る少なくとも1つの第2流路形成部をさらに備え、前記シェルには、前記シェルを貫通し、かつ、前記第2流路形成部が区切る流路に連通する孔が位置してもよい。
【0015】
上記ヘルメットにおいて、前記スタビライザーは、前記シェルの後頭部に配置され、左右で一対の前記第1流路形成部と、前記本体裏面にて前記一対の前記第1流路形成部を左右方向で挟むように位置する左右で一対の第2流路形成部をさらに備えてもよい。
【0016】
上記各構成によれば、少なくとも一つの第1流路形成部と、それと隣り合う少なくとも一つの第2流路形成部とを備える。例えば、スタビライザーをシェルの両側面に一つずつ配置した場合、シェルを貫通する孔および流路は、1つ以上であればよい。
【0017】
また、スタビライザーをシェルの後頭部の左右方向での中心に配置した場合、第1流路形成部と第2流路形成部とを左右対称に配置することにより、安定性を増すことができる。すなわち、左右で一対の第1流路形成部と、それを左右方向で挟む一対の第2流路形成部とを配置してもよい。さらに、第1流路形成部を左右方向での中央に配置した場合、左右で一対の第2流路形成部で第1流路形成部を挟んでもよい。
【0018】
このことにより、開口の近傍での正圧と負圧との差圧を、シェルの左右両側で抑制することが可能ともなる。また、シェルの内部と外部との連通による換気性能を、シェルの左右両側で高めることが可能ともなる。結果として、ヘルメット用気流制御部材による気流の制御性能が、シェルの左右両側で同様に高められるから、右側での制御性能と、左側での制御性能との均一化、ひいては、走行時の左右方向にて安定性能の向上を図ることが可能となる。
【0019】
上記ヘルメット用気流制御部材において、前記流路形成部が区切る流路は、前記本体裏面と対向する方向から見て、前記隙間内に向けて凸となる弧状を有してもよい。この構成によれば、開口から隙間内に向けて流れる気流を、隙間内から開口に向けて円滑に戻すことが可能ともなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るヘルメット用気流制御部材、および、ヘルメットによれば、ヘルメットが生じさせる気流の新たな制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヘルメットを後側上方から見た構造を示す斜視図。
図2】ヘルメットを側面から見た構造を示す側面図。
図3】ヘルメットを後方から見た構造を示す背面図。
図4】ヘルメット用気流制御部材の構造を示す背面図。
図5】ヘルメット用気流制御部材の構造を示す斜視図。
図6】ヘルメット用気流制御部材を裏面と対向する方向から見た構造を示す平面図。
図7】ヘルメット用気流制御部材の変更例での構造を示す背面図。
図8図7の8-8線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、ヘルメット用気流制御部材、および、ヘルメットを具体化した一実施形態を図1から図6を参照して説明する。なお、図1から図3では、ヘルメット用気流制御部材を説明する便宜上、ヘルメット用気流制御部材がシェルから取り外された状態を示す。また、ヘルメットが水平面に載置された場合のヘルメットの左右方向での中央を通る鉛直面を対称面Sとして説明する。また、前方走行時のヘルメットに対する前方を前側、前側とは反対側を後側ともいう。
【0023】
図1が示すように、ヘルメットは、シェル10と、ヘルメット用気流制御部材(以下、気流制御部材ともいう)の一例であるエアアウトレット20とを備える。
シェル10は、ヘルメットの外殻を構成する。シェル10は、対称面Sに対してほぼ面対称となる半球状を有した樹脂部材である。シェル10を構成する材料は、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、および、強化繊維を含浸させた熱硬化性樹脂などから選択される。
【0024】
シェル10は、例えば、衝撃を吸収するための内装部材である衝撃吸収ライナーを収容してもよい。また、シェル10は、例えば、頭部に対するクッション性を得るために、衝撃吸収ライナーよりも低い反発力を有した各種のパッドを収容してもよい。また、シェル10は、例えば、シールドを支持するための機構、および、シールドを操作するための機構を収容してもよい。
【0025】
シェル10の外面であるシェル外面10Sは、ヘルメットの最外面を構成する。シェル外面10Sには、複数の換気孔11が位置する。本実施形態において、複数の換気孔11は、円形孔であって、シェル10の前頭部に位置する吸気孔11Aと、シェル10の後頭部に位置する排気孔11Bとを備える。なお、吸気孔11Aは、シェル外面10Sから割愛されてもよい。また、排気孔11Bは、シェル10の後頭部、および、シェル10の側頭部の少なくとも一方に位置してもよい。
【0026】
吸気孔11Aは、シェル10の内部に走行風を導く。吸気孔11Aは、不図示のフロントインテークやアッパーインテークに覆われる。フロントインテークやアッパーインテークは、ヘルメットの前方に向けた開口を形成するように、シェル外面10Sに固定されて、走行風を吸気孔11Aまで導く。
【0027】
排気孔11Bは、シェル10の内部から熱や湿気を排出する。シェル10が衝撃吸収ライナーを収容する場合に、例えば、吸気孔11Aと排気孔11Bとを連通させる流路を、衝撃吸収ライナーが形成してもよい。また、例えば、衝撃吸収ライナーの内部と排気孔11Bとを連通させる流路を、衝撃吸収ライナーが形成してもよい。
【0028】
排気孔11Bは、吸気孔11Aから導入された走行風、あるいは、衝撃吸収ライナーの内部に滞留する空気を、シェル10の内部から排気する。排気孔11Bの直径は、例えば、6mm以上12mm以下である。
【0029】
排気孔11Bは、エアアウトレット20に覆われる。エアアウトレット20は、ヘルメットの後方に向けた開口を形成するように、シェル外面10Sに固定される。エアアウトレット20は、排気孔11Bから出る空気を、ヘルメットの後方に向けて導く。
【0030】
なお、排気孔11Bがシェル10の側頭部に位置する場合には、シェル10の側頭部に固定されたエアアウトレットが排気孔11Bを覆う。シェル10の側頭部に固定されるエアアウトレットも、ヘルメットの後方に向けた開口を形成するように、シェル外面10Sに固定されて、排気孔11Bから出る空気をヘルメットの後方に向けて導く。
【0031】
図2が示すように、シェル外面10Sには、エアアウトレット20を取り付けるための外面取付部分12が位置する。外面取付部分12は、シェル外面10Sに位置する窪みである。外面取付部分12は、シェル10の後頭部であって、シェル10の左右方向での中央に位置する。外面取付部分12は、緩やかに傾斜した傾斜面12Sを備えて、シェル外面10Sを滑らかな曲面として構成する。
【0032】
図2および図3が示すように、外面取付部分12の底面12Bは、前後方向および左右方向に小さな曲率を有した三次元曲面である。外面取付部分12の底面12Bには、2つの排気孔11Bが位置する。2つの排気孔11Bは、外面取付部分12の左右方向での端部に位置する。エアアウトレット20は、例えば、底面12Bを貫通するネジや、接着剤などによって、外面取付部分12に取り付けられる。
【0033】
エアアウトレット20は、ヘルメットの最外面の一部分を構成する。エアアウトレット20は、対称面Sに対してほぼ面対称となる板状を有した樹脂部材である。エアアウトレット20を構成する材料は、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、および、ポリプロピレン(PP)などから選択される。
【0034】
エアアウトレット20は、本体部21と流路形成部22とを備える。
[本体部21]
本体部21の表面である本体表面21Sは、前後方向および左右方向に小さな曲率を有した三次元曲面である。本体部21は、本体表面21Sとシェル外面10Sとがひと続きの連続面として視認されるような、曲面板状を有する。本体表面21Sは、ヘルメットの後頭部での気流の乱れを抑える整流面である。すなわち、エアアウトレット20は、スタビライザーとして機能する。
【0035】
図4および図5が示すように、ヘルメットの前後方向および左右方向において、本体裏面21Bが有する曲率半径は、外面取付部分12の底面12Bが有する曲率半径よりも小さい。本体裏面21Bとシェル外面10Sとの間には、これらの曲率半径が異なることによる隙間が形成される。
【0036】
本体部21の周縁21Eは、第1縁部21E1と第2縁部21E2とを備える。
第1縁部21E1は、シェル外面10Sの一部分に追従した形状、例えば、外面取付部分12の傾斜面12S、あるいは、外面取付部分12の底面12Bに追従した形状を有する。第1縁部21E1は、本体部21の周縁21Eのうち前側縁および左右側縁を構成する。
【0037】
第1縁部21E1は、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間を閉じる。第1縁部21E1は、シェル外面10Sとの接触、あるいは、シェル外面10Sとの近接によって、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間を閉じる。隙間を閉じることは、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間を封止することに限らず、第1縁部21E1とシェル外面10Sとの間隙を通して、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間に走行風が入り得ることを許容する。
【0038】
なお、エアアウトレット20では、第1縁部21E1と傾斜面12Sとがスライド可能に嵌合するように構成されてもよい。この際、エアアウトレット20は、シェル10から取り外し可能に嵌合するように構成されてもよい。これによれば、エアアウトレット20は、シェル10に対する位置を変えること、および、シェル10から取り外して交換することが可能ともなる。
【0039】
第2縁部21E2は、シェル外面10Sから離れた弧状を有する。第2縁部21E2は、本体部21の周縁21Eのうち後側縁を構成する。
第2縁部21E2と外面取付部分12の底面12Bとは、開口20Pを区切る。開口20Pは、シェル外面10Sに沿う弧状を有したスリットであり、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間を開ける。隙間を開けることは、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間とその外部との間で、隙間を閉じることよりも大きい流量で気流を生じさせ得ることである。
【0040】
なお、本体部21が有する形状は、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間の前側と左右両側とが閉じられ、かつ、当該隙間の後側に開口20Pが形成される構成であれば、例えば、本体裏面21Bの曲率半径が底面12Bの曲率半径よりも大きくてもよい。また、本体裏面21Bがシェル外面10Sの一部分と同じ形状を有してもよい。
【0041】
[流路形成部22]
図4が示すように、流路形成部22は、本体裏面21Bに位置する。流路形成部22は、左右で一対の第1流路形成部22Bと、左右で一対の第2流路形成部22Aとを備える。第2流路形成部22Aは、本体裏面21Bのうち左右の両端部に位置する。一対の第2流路形成部22Aは、一対の第1流路形成部22Bを左右方向で挟む。一対の第1流路形成部22B、および、一対の第2流路形成部22Aは、対称面Sに対してほぼ面対称である。
【0042】
図5が示すように、第2流路形成部22Aは、本体裏面21Bからシェル外面10Sに向けて突出する突条リブから構成される。第2流路形成部22Aは、左右で一対の開口リブ22A1と、1つの誘導リブ22A2とを備える。
【0043】
誘導リブ22A2は、開口20Pを区切る第2縁部21E2から、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間内に向けて延在する。誘導リブ22A2は、本体裏面21Bと対向する方向から見て、第2縁部21E2から、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間内に向けて、凸となる弧状を有する。
【0044】
誘導リブ22A2の弧状における両端部は、開口20Pを区切る第2縁部21E2に近接している。誘導リブ22A2は、排気孔11Bの上方を囲い、開口20Pに向けて開放するように位置する。すなわち、誘導リブ22A2は、排気孔11Bから開口20Pに向けた流路を区切る。
【0045】
一対の開口リブ22A1は、開口20Pを区切る第2縁部21E2に近接している。一対の開口リブ22A1は、誘導リブ22A2の両端部に挟まれている。一対の開口リブ22A1は、誘導リブ22A2が形成する流路を、開口20Pにて3つの流路に分岐する。
【0046】
第1流路形成部22Bは、本体裏面21Bからシェル外面10Sに向けて突出する2つの突条リブから構成される。第1流路形成部22Bが備える突状リブは、本体裏面21Bと対向する方向から見て、第2縁部21E2から、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間内に向けて、凸となる弧状を有する。第1流路形成部22Bが備える一方の突条リブは、本体裏面21Bと対向する方向から見て、他方の突条リブの内側に位置している。
【0047】
第1流路形成部22Bが備える2つの突状リブは、開口20Pから本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間内に向けて延在し、かつ、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間内から開口20Pに戻る流路を区切る。
【0048】
相互に隣り合う第2流路形成部22Aと第1流路形成部22Bとでは、第2流路形成部22Aが備える誘導リブ22A2と、第1流路形成部22Bが備える外側の突状リブとが、第2縁部21E2で端部同士を連結している。相互に隣り合う第1流路形成部22Bでは、各第1流路形成部22Bが備える外側の突条リブが、第2縁部21E2で端部同士を連結している。これにより、流路形成部22を構成する突条リブの機械的な強度が高められている。
【0049】
[作用]
図6が示すように、シェル10の内部に存在する熱気や湿気を含む空気は、シェル外面10Sに位置する排気孔11Bから出て、誘導リブ22A2が区切る流路を通る。そして、シェル10の内部に存在した熱気や湿気などは、エアアウトレット20の第2縁部21E2と、シェル外面10Sとが形成する開口20Pから、ヘルメットの後側に向けて、排気流FAとして排出される。
【0050】
この際、開口20Pの周辺では、シェル外面10Sと本体表面21Sとの段差による乱気流が生じ、その乱気流のなかに、開口20Pに向かう気流FBが含まれる。本発明者らによる実験によれば、例えば、風速が100km/時間であって、換気孔11の直径が6mm以上12mm以下である場合に、第2縁部21E2の近傍での圧力分布は、左右方向の中央で高く、左右方向の端に近づくほど低いという傾向を有する。結果として、気流FBは、第1流路形成部22Bが区切る流路のうち、第2縁部21E2の中央に近い入口から入って、誘導リブ22A2が区切る流路に近い出口から排出される。
【0051】
すなわち、第1流路形成部22Bは、第2縁部21E2での負圧の分布に基づいて、シェル外面10Sと本体裏面21Bとの隙間から後方に向かう気流FBを生じさせる。これにより、排気流FAの流れは、気流FBの流れによって促進されて、シェル10の内部での換気の効率を高める。
【0052】
また、第2流路形成部22Aが区切る流路の開口20Pでの左右方向の幅WBは、開口リブ22A1によって区切られ、狭められているので、気流FBのような戻る流れは生じず、排気流FAの流れを整流させて、シェル10の内部での換気の効率を一層に高める。
【0053】
排気する流路の数量を増加させること、あるいは、排気する流路の流路断面積を増大させることは、排気の流量を高めることを可能とする。一方、排気の流路を構成する排気孔11Bは、シェル10を貫通する孔であるから、排気孔の数量を増加させること、および、排気孔を大きくして排気の流路の流路断面積を増大させることは、シェル10の機械的な強度、シェル10の耐衝撃性能、および、耐貫通性能を低下させてしまう。他方、シェル10の機械的な強度、および、シェル10の耐衝撃性能や、耐貫通性能を補うためのリブの付加、あるいは、シェル10の厚みの増大は、ヘルメットの重量や製造コストを増大させるおそれがある。
【0054】
この点、エアアウトレット20が流路形成部22を備えて、流路形成部22が排気の効率を高める構成であれば、シェル10の機械的な強度、および、シェル10の耐衝撃性能の確保が容易でもある。
【0055】
なお、排気孔11Bを開閉するシャッター機構は、排気孔11Bを通した雨水の侵入を抑制可能とする一方で、シャッター機構を別途追加することは、ヘルメットを構成する部材の点数を増加させて、ヘルメットの製造コストを増大させてしまう。この点においても、エアアウトレット20が排気孔11Bを覆う構成であるから、部材点数の増加を抑えること、また、製造コストの増大を抑えることが可能ともなる。
【0056】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)シェル外面10Sと本体裏面21Bとの隙間が有する開口20Pの近傍では、シェル外面10Sでの本体部21の位置やシェル外面10Sの形状などに基づいて、正圧と負圧との分布が形成され得る。上記構成によれば、シェル外面10Sと本体裏面21Bとの隙間に、開口20Pから隙間内に延在して隙間内から開口20Pに戻る流路が区画されるため、開口20Pの近傍での正圧と負圧との差圧を抑制することが可能となる。結果として、シェル10とは別部材であるエアアウトレット20の構造によって、気流の新たな制御が可能となる。
【0057】
(2)開口20Pから隙間内に延在して隙間内から開口20Pに戻る流路が突条リブによって区画される。そのため、例えば、本体部21の厚みを上記実施形態よりも厚くして、本体裏面21Bに流路となる凹溝を備える構成と比べて、流路を区切ることに要する材料の使用量を抑えることが可能ともなる。
【0058】
(3)開口20Pの近傍での正圧と負圧との差圧を抑制する流路に加えて、シェル10の内部と外部とを連通するための流路を第2流路形成部22Aによって区切ることが可能ともなる。そして、第1流路形成部22Bが区切る流路による気流FBが、第2流路形成部22Aが区切る流路による排気流FAの流速を高めるため、シェル10の内部での換気の効率が高められる。
【0059】
(4)左右で一対の第1流路形成部22Bと、それを左右方向で挟む一対の第2流路形成部22Aとを備えるため、開口20Pの近傍での正圧と負圧との差圧を、シェル10の左右両側で抑制することが可能ともなる。
【0060】
また、シェル10の内部と外部との連通による換気性能を、シェル10の左右両側で高めることが可能ともなる。結果として、エアアウトレットによる気流の制御性能が、シェル10の左右両側で同様に高められるから、右側での制御性能と、左側での制御性能との均一化による安定性能の向上を図ることが可能となる。
【0061】
(5)第1流路形成部22Bが区切る流路は、ヘルメットの前方へ向けて凸となるU字状を有するため、開口20Pから隙間内に向けて流れる気流を、隙間内から開口20Pに向けて円滑に戻すことが可能となる。すなわち、第1流路形成部22Bが区切る流路での圧力損失を抑制することが可能ともなる。
【0062】
(6)整流面を備えたスタビライザーが換気性能を高める機能を兼ね備えるため、単一のエアアウトレット20によって、乱流の抑制と換気性能の向上とが可能ともなる。
上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施される。
【0063】
[気流制御部材]
・気流制御部材は、シェル10の後頭部に固定されるトップエアアウトレットに限らず、例えば、シェル10の側面に固定されるサイドエアアウトレットに変更可能である。
【0064】
・気流制御部材が備える流路形成部は、気流の抵抗として機能して気流を跳ね上げるスポイラーに適用可能である。すなわち、スポイラーが備える面のうちシェル外面10Sと対向する裏面に、流路形成部を備えることが可能でもある。
【0065】
・気流制御部材が備える流路形成部は、気流を分散させるディフューザーに適用可能である。すなわち、ディフューザーが備える面のうちシェル外面10Sと対向する裏面に、流路形成部を備えることが可能でもある。
【0066】
・気流制御部材は、第2流路形成部22Aを割愛された構成であってもよい。この構成であっても、気流制御部材による正圧と負圧との差圧の抑制によって、気流の変動を抑制すること、気流の乱れを抑制すること、ひいては、静粛性能を向上させるための気流の新たな制御や、姿勢の安定性能を向上させるための気流の新たな制御が可能ともなる。
【0067】
図7が示すように、第1流路形成部22Bは、開口20Pを上下方向に区切る流路であってもよい。この際、図8が示すように、第1流路形成部22Bは、開口20Pのうち上側から隙間内に延在して隙間内から開口20Pのうち下側に戻るように流路を構成する。すなわち、第1流路形成部22Bは、開口20Pの一部分を上下方向に区切り、本体裏面21Bとシェル外面10Sとの隙間内において連通する。例えば、第1流路形成部22Bが備える突状リブは、外側リブのみであって、開口20Pを上下方向に区切る仕切り板を、当該仕切板で区切られた流路が外側リブの内側で連通するように、外側リブと一体に形成される。これによって、開口20Pのうち上側から隙間内に延在して隙間内から開口20Pのうち下側に戻る流路が区切られる。
【0068】
本体表面21Sを通過した空気は、本体表面21Sの後端で乱流を生じるため、開口20Pを上下方向で繋ぐ上記変更例によれば、開口20Pのうち上側開口部に流れ込んだ空気を開口20Pのうち下側開口部から排出することが可能となる。また、第1流路形成部22Bの下側開口部から空気を取り入れ、上側開口部から排出するように、外面取付部分12やエアアウトレット20の外面形状を変えることも可能である。このように、第1流路形成部22Bを上下に構成することで、エアアウトレット20の左右方向の幅を小さくできるため、ヘルメット用気流制御部材のコンパクト化および軽量化が可能となる。
【0069】
・第1流路形成部22Bが区切る流路は、ヘルメットの前方へ向けて凸となるV字状を有してもよいし、ヘルメットの前方へ向けて凸となるコ字状を有してもよい。要は、第1流路形成部22Bが区切る流路は、開口20Pから隙間内に向けて流れる気流を、隙間内から開口20Pに向けて戻す形状であればよい。
【0070】
・排気流FAを生じさせる流路は、気流制御部材とシェルとの共同によって区切られてもよい。例えば、気流制御部材が開口リブ22A1を備え、シェル外面10Sが誘導リブ22A2を備えてもよい。この構成であっても、シェル外面10Sが流路形成部を備える構成と比べて、シェル10の機械的な強度、および、シェル10の耐衝撃性能の確保が容易でもある。
【0071】
・気流FBを生じさせる流路は、気流制御部材とシェルとの共同によって区切られてもよい。例えば、気流制御部材が内側の突条リブを備え、シェル外面10Sが外側の突条リブを備えてもよい。この構成であっても、シェル外面10Sが流路形成部を備える構成と比べて、シェル10の機械的な強度、および、シェル10の耐衝撃性能の確保が容易でもある。
【0072】
[ヘルメット]
・ヘルメットは、フルフェイス型ヘルメットに限らず、アゴ部が上昇可能なフリップアップ型ヘルメット、アゴ部の無いオープンフェイス型ヘルメットなどの各種のヘルメットに変更可能である。
【符号の説明】
【0073】
WA,WB…幅、10…シェル、10S…シェル外面、20P…開口、21…本体部、21B…本体裏面、21E…周縁、22…流路形成部、22A…第2流路形成部、22B…第1流路形成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8