(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】ファスナーストリンガー、スライドファスナー及びスライドファスナーを備えた物品
(51)【国際特許分類】
A44B 19/34 20060101AFI20220201BHJP
【FI】
A44B19/34
(21)【出願番号】P 2019172296
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】201821701099.8
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 崇
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】千田 誉治
(72)【発明者】
【氏名】葛山 満夫
(72)【発明者】
【氏名】高荷 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】下田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黄秋敏
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3179861(JP,U)
【文献】特開2000-197508(JP,A)
【文献】国際公開第2012/042595(WO,A1)
【文献】特開2004-351085(JP,A)
【文献】実開昭54-061704(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレメント取付部(201)及びテープ主体部(202)を有するファスナーテープ(101)と、
前記ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)に貼付された樹脂フィルム(102)と、
前記ファスナーテープ(101)の第2の主表面(101b)に、前記ファスナーテープ(101)のエレメント取付部(201)の側縁(103)に沿って縫合糸(109)により取着されたコイル状のエレメント列(104)とを備えたファスナーストリンガーであって、
前記エレメント取付部(201)は、1/1の織組織で構成され、
前記エレメント列(104)の各エレメントは、前記ファスナーテープ(101)の幅方向(W)に延び、前記第2の主表面(101b)と離間する上脚部(112)と、前記ファスナーテープ(101)の幅方向(W)に延び、前記第2の主表面(101b)と接触する下脚部(113)とを有し、
前記縫合糸(109)は、前記第1の主表面(101a)側に第1の縫製ラインを形成する第1の糸(109a)と、前記上脚部(112)側に第2の縫製ラインを形成し、前記第1の糸(109a)と前記各エレメントの間で交絡する第2の糸(109b)とにより構成され、
前記上脚部(112)の厚み方向(T)の上端縁(112a)から前記下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)までの距離(D)に対する、前記第1の糸(109a)と前記第2の糸(109b)との交絡点(111)から前記下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)までの距離(d)の割合(d/D)が、平均で
80%以上であるファスナーストリンガー。
【請求項2】
隣り合う二つのエレメント(104)の長手方向(L)の間隔(P)において、前記第1の糸(109a)の平均長さが前記第2の糸(109b)の平均長さよりも長い請求項
1に記載のファスナーストリンガー。
【請求項3】
前記第1の糸(109a)と前記第2の糸(109b)とが絡み合った溶融部を有していない請求項1
又は2に記載のファスナーストリンガー。
【請求項4】
前記織組織は、平織組織、うね織組織、又は両者の組み合わせである請求項1~
3の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項5】
前記織組織はうね織組織である請求項
4に記載のファスナーストリンガー。
【請求項6】
経糸は、2本以上で引き揃える請求項1~
5の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項7】
前記エレメント取付部(201)を構成する経糸及び緯糸は、モノフィラメントを60本以上束ねたマルチフィラメントである請求項1~
6の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項8】
前記経糸及び前記緯糸の繊度が、150デシテックス以上である請求項
7に記載のファスナーストリンガー。
【請求項9】
前記エレメント列(104)は、二重環縫いによって前記ファスナーテープ(101)に縫着され、
前記第1の糸(109a)が、ニードル糸(109a)であり、
前記第2の糸(109b)が、ルーパー糸(109b)である請求項1~
3、又は、請求項1に従属する請求項
4~
8の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項10】
前記第2の糸(109b)の湿熱収縮率は、前記第1の糸(109a)の湿熱収縮率よりも小さい請求項1~
3、又は、請求項1に従属する請求項
4~
9の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項11】
前記樹脂フィルム(102)は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニールアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1~
10の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項12】
エレメント取付部(201)及びテープ主体部(202)を有するファスナーテープ(101)と、
前記ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)に貼付された樹脂フィルム(102)と、
前記ファスナーテープ(101)の第2の主表面(101b)に、前記ファスナーテープ(101)のエレメント取付部(201)の側縁(103)に沿って縫合糸(109)により取着されたコイル状のエレメント列(104)とを備えたファスナーストリンガーであって、
前記エレメント列(104)の各エレメントは、前記ファスナーテープ(101)の幅方向(W)に延び、前記第2の主表面(101b)と離間する上脚部(112)と、前記ファスナーテープ(101)の幅方向(W)に延び、前記第2の主表面(101b)と接触する下脚部(113)とを有し、
前記縫合糸(109)は、前記第1の主表面(101a)側に第1の縫製ラインを形成する第1の糸(109a)と、前記上脚部(112)側に第2の縫製ラインを形成し、前記第1の糸(109a)と前記各エレメントの間で交絡する第2の糸(109b)とにより構成され、
前記上脚部(112)の厚み方向(T)の上端縁(112a)から前記下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)までの距離(D)に対する、前記第1の糸(109a)と前記第2の糸(109b)との交絡点(111)から前記下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)までの距離(d)の割合(d/D)が、平均で
80%以上であるファスナーストリンガー。
【請求項13】
前記第1の糸(109a)と前記第2の糸(109b)とが絡み合った溶融部を有していない請求項
12に記載のファスナーストリンガー。
【請求項14】
隣り合う二つのエレメント(104)の長手方向(L)の間隔(P)において、前記第1の糸(109a)の平均長さが前記第2の糸(109b)の平均長さよりも長い請求項
12又は13に記載のファスナーストリンガー。
【請求項15】
前記エレメント取付部(201)の織組織を構成する経糸及び緯糸は、モノフィラメントを60本以上束ねたマルチフィラメントである請求項
12~
14の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項16】
前記経糸及び前記緯糸の繊度が、150デシテックス以上である請求項
15に記載のファスナーストリンガー。
【請求項17】
前記エレメント列(104)は、二重環縫いによって前記ファスナーテープ(101)に縫着され、
前記第1の糸(109a)が、ニードル糸(109a)であり、
前記第2の糸(109b)が、ルーパー糸(109b)である請求項
12~
16の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項18】
前記第2の糸(109b)の湿熱収縮率が、前記第1の糸(109a)の湿熱収縮率よりも小さい請求項
12~
17の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項19】
前記樹脂フィルム(102)は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニールアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項
12~
18の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
【請求項20】
請求項1~
19の何れか一項に記載のファスナーストリンガーを備えたスライドファスナー。
【請求項21】
請求項
20に記載のスライドファスナーを備えた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライドファスナー用のファスナーストリンガーに関する。また、本発明はスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーは衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品の他、テントなどの産業用品において、開閉具として多用されている。スライドファスナーは一般に、一対の長尺テープの側縁に沿ってファスナーの噛合部分であるエレメント列を取り付けたファスナーストリンガーと、左右一対のファスナーストリンガーの間に挿通されてエレメント列を噛合及び分離することによりファスナーの開閉を制御するスライダーから主に構成される。
【0003】
スライドファスナー用のテープとしては、経糸及び緯糸を織成することにより得られる織物製テープが多用されている。スライドファスナー用の織物製テープの基本構造を
図8に示す。これは、実公平5-42731号公報(特許文献1)に記載されている第1図である。当該テープは、経糸(2)及び緯糸(3)で織成されたエレメント取付部(4)と、物品の本体部分に縫着されるテープ主体部(5)を備える。エレメント取付部(4)には取付糸(6)によってエレメント(1)が取り付けられる。また、テープ主体部(5)の端部はほつれ防止用の耳糸(7)を設けることができる。
【0004】
また、防水性を与えるため、ファスナーテープに防水性を有する合成樹脂フィルムを貼付し、噛合時に、左右のファスナーテープの合成樹脂フィルムが密接することで防水性を発揮するスライドファスナーが従来知られている。例えば、国際公開第2014/013616号(特許文献2)では、ファスナーテープを構成するテープ部材の外表面に熱可塑性エラストマーの合成樹脂製の防水フィルムが貼付され、当該テープ部材のエレメント取付部が2/2の織組織で構成されることが記載されている。
【0005】
一方、スライダーの耐磨耗性を向上するスライドファスナーが知られている。米国特許第5596793号明細書(特許文献3)では、本願の
図9に示すように、熱可塑性樹脂から形成されたコイル状ファスナーエレメント(11)内に芯紐(12)を挿通し、このファスナーエレメント(11)をファスナーテープ(13)の側縁上に合成繊維の縫糸による二重環縫手段で縫着し、この縫着の際ルーパー糸(14)よりもニードル糸(15)に大きなテンションをかけることによって、ルーパー糸(14)の下側ルーパー部分(16)を芯紐(12)の中に引き込んだ状態でルーパー糸(14)の上側ルーパー部分を溶融して切断することで碇着部(17)を形成し、ファスナーテープ(13)に固定したファスナーエレメント(11)の上面に縫糸が現れないタイプのスライドファスナー(10)が記載されている。
【0006】
また、特開2003-47506号公報(特許文献4)では、本願の
図10に示すように、コイル状の連続ファスナーエレメント列(21)の上下脚部(21a、21b)間に芯材(22)を挿通し、同連続ファスナーエレメント列(21)をファスナーテープ(23)の長手方向側縁部に沿って上下縫糸(24a、24b)により取着してなり、当該芯材の構成材料の融点及び熱収縮率が、当該連続ファスナーエレメント列(21)の構成材料の融点よりも低く且つその熱収縮率よりも高いスライドファスナー(20)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実公平5-42731号公報
【文献】国際公開第2014/013616号
【文献】米国特許第5596793号明細書
【文献】特開2003-47506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、アウトドア用品の開発においては、ビジュアルやカラー等の視覚性は要望ありつつも、機能性を重視する傾向にある。例えば、防水性を有する樹脂フィルムをファスナーテープに貼付することによりファスナー部分から水が染み込むのを抑制する機能を付与することができる。しかし、樹脂フィルムがファスナーテープに貼付されたことで、スライダーの摺動抵抗が上がり、このスライドファスナーの操作性が低下するという不具合が生じやすい。そのため、スライダーの摺動抵抗を低減することが望ましい。
【0009】
特許文献2では、テープ部材のエレメント取付部が2/2の織組織であるため、テープ部材の主表面は凹凸が多い織組織となる。このテープ部材に防水フィルムを貼付すれば、テープ部材の主表面の凹凸を反映して防水フィルムが多数の窪みを有するものとなる。その結果、防水フィルムの美観が損なわれるとともに、ファスナーを開閉するためにスライダーを摺動するときの摺動抵抗が大きくなる。
【0010】
また、特許文献3では、ルーパー糸(14)よりもニードル糸(15)に大きなテンションをかけることによって、ルーパー糸(14)の下側ルーパー部分(16)を芯紐(12)の中に引き込んでいるため、更には、ルーパー糸(14)が芯材に碇着していることで、ファスナーエレメント(11)の動きに自由度が少なく、スライダーの摺動抵抗が大きくなりやすい。
【0011】
また、特許文献4に記載のファスナーチェーンの断面構造を示す本願の
図10においては、二重環縫いされた上縫糸(24a)と下縫糸(24b)とが各エレメント(21)の間で交絡する交絡点(25)は上脚部(21a)側に位置しているように見える。しかしながら、
図10の断面構造は模式図に過ぎず、実際には、各エレメント(21)をファスナーテープ(23)に縫着するため、この交絡点(25)は下脚部(21b)側に位置すると考えられる。これは、特許文献4にも記載されているように、二重環縫いでは、ファスナーテープ(23)に刺し通される上縫糸(24a)であるニードル糸(24a)により下縫糸(24b)であるルーパー糸(24b)が連続ファスナーエレメント列(21)の各エレメント(21)をファスナーテープ(23)に向けて強く締めつけるようにして縫い付けられるためである。したがって、上記特許文献3と同様に、エレメント(21)の動きに自由度が少なく、スライダーの摺動抵抗が高くなりやすい。
【0012】
このように、樹脂フィルムを備えたスライドファスナーにおいてスライダーの摺動抵抗を低減する手段は未だ改善の余地が残されている。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、樹脂フィルムを含むファスナーストリンガーであってスライダーの摺動抵抗を低減することが可能なファスナーストリンガーを提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのようなファスナーストリンガーを備えたスライドファスナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、ファスナーテープのエレメント取付部を1/1の織組織で構成すること、及び/又は、縫合糸の交絡点の位置を上脚部側に設定することが有効であることを見出し、以下によって例示される発明を創作した。
【0015】
[1]
エレメント取付部及びテープ主体部を有するファスナーテープと、
前記ファスナーテープの第1の主表面に貼付された樹脂フィルムと、
前記ファスナーテープの第2の主表面に、前記ファスナーテープのエレメント取付部の側縁に沿って縫合糸により取着されたコイル状のエレメント列とを備えたファスナーストリンガーであって、
前記エレメント取付部は、1/1の織組織で構成されるファスナーストリンガー。
[2]
前記エレメント列の各エレメントは、前記ファスナーテープの幅方向(W)に延び、前記第2の主表面と離間する上脚部と、前記ファスナーテープの幅方向(W)に延び、前記第2の主表面と接触する下脚部とを有し、
前記縫合糸は、前記第1の主表面側に第1の縫製ラインを形成する第1の糸と、前記上脚部側に第2の縫製ラインを形成し、前記第1の糸と前記各エレメントの間で交絡する第2の糸とにより構成され、
前記上脚部の厚み方向(T)の上端縁から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁までの距離(D)に対する、前記第1の糸と前記第2の糸との交絡点から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁までの距離(d)の割合(d/D)が、平均で50%以上である[1]に記載のファスナーストリンガー。
[3]
前記上脚部の厚み方向(T)の上端縁から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁までの距離(D)に対する、前記交絡点から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁までの距離(d)の割合(d/D)が、平均で60%以上である[2]に記載のファスナーストリンガー。
[4]
隣り合う二つのエレメントの長手方向(L)の間隔(P)において、前記第1の糸の平均長さが前記第2の糸の平均長さよりも長い[2]又は[3]に記載のファスナーストリンガー。
[5]
前記織組織は、平織組織、うね織組織、又は両者の組み合わせである[1]~[4]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[6]
前記織組織はうね織組織である[5]に記載のファスナーストリンガー。
[7]
経糸は、2本以上で引き揃える[1]~[6]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[8]
前記エレメント取付部を構成する経糸及び緯糸は、モノフィラメントを60本以上束ねたマルチフィラメントである[1]~[7]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[9]
前記経糸及び前記緯糸の繊度が、150デシテックス以上である[8]に記載のファスナーストリンガー。
[10]
前記エレメント列は、二重環縫いによって前記ファスナーテープに縫着され、
前記第1の糸が、ニードル糸であり、
前記第2の糸が、ルーパー糸である[2]~[4]、又は、[2]に従属する[5]~[9]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[11]
前記第2の糸の湿熱収縮率は、前記第1の糸の湿熱収縮率よりも小さい[2]~[4]、又は、[2]に従属する[5]~[10]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[12]
前記樹脂フィルムは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニールアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]~[11]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[13]
エレメント取付部及びテープ主体部を有するファスナーテープと、
前記ファスナーテープの第1の主表面に貼付された樹脂フィルムと、
前記ファスナーテープの第2の主表面に、前記ファスナーテープのエレメント取付部の側縁に沿って縫合糸により取着されたコイル状のエレメント列とを備えたファスナーストリンガーであって、
前記エレメント列の各エレメントは、前記ファスナーテープの幅方向(W)に延び、前記第2の主表面と離間する上脚部と、前記ファスナーテープの幅方向(W)に延び、前記第2の主表面と接触する下脚部とを有し、
前記縫合糸は、前記第1の主表面側に第1の縫製ラインを形成する第1の糸と、前記上脚部側に第2の縫製ラインを形成し、前記第1の糸と前記各エレメントの間で交絡する第2の糸とにより構成され、
前記上脚部の厚み方向(T)の上端縁から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁までの距離(D)に対する、前記第1の糸と前記第2の糸との交絡点から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁までの距離(d)の割合(d/D)が、平均で50%以上であるファスナーストリンガー。
[14]
前記上脚部の厚み方向(T)の上端縁と前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁との距離(D)に対する、前記交絡点から前記下脚部の厚み方向(T)の下端縁との距離(d)の割合(d/D)が、平均で60%以上である[13]に記載のファスナーストリンガー。
[15]
隣り合う二つのエレメントの長手方向(L)の間隔(P)において、前記第1の糸の平均長さが前記第2の糸の平均長さよりも長い[13]又は[14]に記載のファスナーストリンガー。
[16]
前記エレメント取付部の織組織を構成する経糸及び緯糸は、モノフィラメントを60本以上束ねたマルチフィラメントである[13]~[15]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[17]
前記経糸及び前記緯糸の繊度が、150デシテックス以上である[16]に記載のファスナーストリンガー。
[18]
前記エレメント列は、二重環縫いによって前記ファスナーテープに縫着され、
前記第1の糸が、ニードル糸であり、
前記第2の糸が、ルーパー糸である[13]~[17]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[19]
前記第2の糸の湿熱収縮率が、前記第1の糸の湿熱収縮率よりも小さい[13]~[18]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[20]
前記樹脂フィルムは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニールアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む[13]~[19]の何れか一項に記載のファスナーストリンガー。
[21]
[1]~[20]の何れか一項に記載のファスナーストリンガーを備えたスライドファスナー。
[22]
[21]に記載のスライドファスナーを備えた物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係るファスナーストリンガーを使用することで、樹脂フィルムを含むスライドファスナーにおいてスライダーの摺動抵抗を低減することができる。また、本発明の一実施形態に係るファスナーストリンガーを使用することで、樹脂フィルムを含むスライドファスナーにおいて美観を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本発明に係るスライドファスナーの一実施形態の模式的な正面図である。
【
図1B】本発明に係るスライドファスナーの一実施形態の模式的な背面図である。
【
図3】本発明で採用するファスナーテープの織組織の例を示す。
【
図4】本発明で採用するファスナーテープのエレメント取付部の織組織の変形例を示す。
【
図5】本発明に係るファスナーストリンガーの一実施形態の模式的な部分正面図である。
【
図8】実公平5-42731号公報(特許文献1)の第1図に記載されているスライドファスナー用の織物製テープの構造を示す図である。
【
図9】米国特許第5596793号明細書(特許文献3)の第6図に記載されているファスナーストリンガーの構造を示す図である。
【
図10】特開2003-47506号公報(特許文献4)の第2図に記載されているファスナーストリンガーの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
図1Aは、本発明に係るスライドファスナーの一実施形態の模式的な正面図である。
図1Bは、本発明に係るスライドファスナーの一実施形態の模式的な背面図である。
図2は、
図1Bの模式的なX-X断面図である。当該スライドファスナー(100)は、左右一対のファスナーテープ(101)と、各ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)に貼付された樹脂フィルム(102)と、各ファスナーテープ(101)の第2の主表面(101b)に、エレメント取付部の側縁(103)に沿って取着されたコイル状のエレメント列(104)と、エレメント列(104)の分離及び噛合を行うための、引手(105)を取り付けたスライダー(106)とを備える。なお、エレメント列(104)の上端には上止め(107)が、下端には開離嵌挿具(108)が設けられる。
【0020】
図1のスライドファスナー(100)の具体的な構造について以下に詳述する。ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)側には、樹脂フィルム(102)が貼付されている。樹脂フィルム(102)の貼付は、接着剤の使用、或いはラミネート加工により行うことができる。樹脂フィルム(102)のエレメント列(104)側の側縁は、ファスナーテープ(101)の側縁(103)よりも突出し、対向する樹脂フィルム(102)の側縁に当接している。これにより、左右のファスナーテープ(101)の隙間からの水の侵入を防ぐことが可能となり、防水性の向上に寄与している。なお、樹脂フィルム(102)の材質としては、限定的ではないが、ポリウレタン及びポリウレタンウレアなどの熱可塑性エラストマーの合成樹脂が挙げられる。
【0021】
一方、ファスナーテープ(101)の第2の主表面(101b)側の一方の側縁(103)には、コイル状の樹脂製エレメント(104)が縫合糸によって縫工されている。
図2に示すように、エレメント列(104)内には、芯紐(110)が挿通されている。スライダー(106)は、一対のエレメント列(104)に沿って摺動可能となっており、エレメント列(104)がスライダー(106)内部を通過するときに、スライダー(106)の摺動方向に応じて、エレメント列(104)の噛合又は分離が行われる。例えば、スライダー(106)を上止め(107)の方向に摺動することでエレメント列(104)が噛合し開離嵌挿具(108)の方向に摺動することでエレメント列(104)が分離する。ここで、摺動方向は、ファスナーテープ(101)の長手方向(L)と一致している。また、ファスナーテープ(101)の主表面(101a、101b)に水平で、前記長手方向(L)に直交する方向をファスナーテープ(101)の幅方向(W)と言う。また、ファスナーテープ(101)の主表面(101a、101b)に垂直な方向をファスナーテープ(101)の厚み方向(T)と言う。
【0022】
コイル状のエレメント列(104)を構成する各エレメントとしては、エレメント同士を噛み合い易くする観点から、
図6に示すような断面扁平形状、又は断面長円状のエレメント(104)を使用することが好ましい。エレメント(104)を構成するモノフィラメントの断面形状をファスナーテープ(101)の厚み方向(T)よりも長手方向(L)に広げることで、エレメント(104)の内部を挿通する芯紐(110)との隙間が大きくなり、エレメント(104)が断面真円状と比べ、エレメント(104)がファスナーテープ(101)の幅方向(W)に動きやすくなる。その結果、スライダー(106)に負荷をかけず、スライダー(106)の摺動抵抗が低減される。なお、断面扁平形状のエレメント(104)は、例えば、国際公開2015/186200号に記載のマンドレルを備えたファスナーエレメントの製造装置を用いてモノフィラメントを押圧する工程を経て製造することができる。
【0023】
図3は、本発明で採用するファスナーテープ(101)の織組織の例を示す。ファスナーテープ(101)は、エレメント取付部(201)及びテープ主体部(202)を有する。エレメント取付部(201)は、エレメント列(104)を取り付ける部分であり、テープ主体部(202)は物品の本体部分に縫着される部分である。また、ファスナーテープ(101)は、更にテープ主体部(202)の側縁側にほつれ防止用の耳糸を設ける耳部(203)を備えることもできる。
【0024】
本発明に係るスライドファスナーの一実施形態では、エレメント取付部(201)は、1/1の織組織である。本発明において、1/1の織組織とは、引き揃えた又は引き揃えていない経糸が、2本引き揃えて1本とした緯糸の上を1本乗り、次いで1本沈む織組織を指す。エレメント取付部(201)を1/1の織組織で構成することで、ファスナーテープ(101)の主表面(101a、101b)は凹凸が少なくなって平滑化する。その結果、ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)に樹脂フィルム(102)を貼付してもスライダー(106)に大きな摺動抵抗が生じず、スライダー(106)を円滑に操作することができる。これに対して、ファスナーテープが特許文献2に記載されるような2/2の織組織をもつ場合、ファスナーテープの主表面上に凹凸が生じやすく、スライダーの摺動抵抗が増加する。1/1の織組織の例としては、
図3に示すようなうね織組織が挙げられる。うね織組織とは、2本を引き揃えて1本とした経糸が、2本を引き揃えて1本とした緯糸の上を1本乗り、次いで1本沈む組織である。
【0025】
また、エレメント取付部(201)は1/1の織組織で構成することで硬くなる。これにより、エレメントを縫合する際の縫糸のテンションを弱くしてエレメントが動きやすくすることができる。一方、エレメント取付部(201)が軟らかい織組織(例:綾織り)の場合、エレメントを縫合する際の縫糸のテンションを弱くすると、糸締まり不良といった不具合が生じやすい。
【0026】
上記のように、織組織を規定した結果、本発明に係るスライドファスナーの一実施形態では、ファスナーテープ(101)のエレメント取付部(201)の厚みは、好ましくは0.30~0.6mm、より好ましくは0.30~0.5mm、更に好ましくは0.30~0.35mmに調節することができる。なお、ファスナーテープ(101)の厚みの測定は、JIS L 1096:2010に記載のJIS方法によって行う。
【0027】
エレメント取付部(201)が1/1の織組織であるため、ファスナーテープ(101)の厚みが小さいものとなる。そこで、エレメント取付形態の安定性及び取付強度を向上させるため、エレメント取付部(201)における経糸は、2本以上で引き揃えてもよい。エレメント(104)の取付形態の安定性及び取付強度を向上させる上では、引き揃え糸の本数を増やすことが好ましい。しかし、引き揃え糸の本数を過度に増やすと今度はテープが厚くなりすぎて、スライダー(106)の摺動抵抗が増加する。そこで、1つの経糸列に含まれる引き揃え糸の本数は、2~3本とするのが好ましく、2本とするのがより好ましい。そして、隣り合う経糸列の間には織位置をずらした1本の経糸を配置することにより、糸の過度な浮き上がり及び織組織のずれを防止することができる。
【0028】
スライダー(106)の摺動抵抗を低減させるためには、ファスナーテープ(101)を構成する糸として比較的細い糸を使用することが望ましい。細い糸を使用することで、ファスナーテープ(101)の主表面(101a、101b)の凹凸が小さくなるので、スライダー(106)の摺動抵抗を低減させることが可能となる。そのため、糸一本当たりの繊度が700デシテックス以下であることが好ましく、522デシテックス以下であることがより好ましい。但し、ファスナーテープを構成する糸を細くし過ぎると十分な強度をもつファスナーテープが得られなくなることから、糸一本当たりの繊度が139デシテックス以上であることが好ましく、161デシテックス以上であることがより好ましい。
【0029】
糸は、モノフィラメント及びマルチフィラメントの何れを使用しても良いが、一本の糸はモノフィラメントから構成されることもでき、2本以上のモノフィラメントを束ねてできたマルチフィラメントから構成されることもでき、更には複数のマルチフィラメントから構成されることもできる。例えば、5デシテックスのモノフィラメントを50本束ねたマルチフィラメント2本によって構成される糸は500デシテックスの1本の糸である。
【0030】
また、少なくともエレメント取付部(201)の織組織を構成する経糸及び緯糸、好ましくはファスナーテープ(101)全体を構成する経糸及び緯糸は、ファスナーテープ(101)を柔らかくしてスライダー(106)の摺動抵抗を軽減できるという観点から、モノフィラメントを好ましくは60本以上、より好ましくは70本以上、更により好ましくは80本以上、更により好ましくは90本以上束ねたマルチフィラメントであることが好ましい。当該経糸及び緯糸の繊度は、好ましくは150デシテックス以上であり、より好ましくは200デシテックス以上であり、更に好ましくは250デシテックス以上であり、より更に好ましくは300デシテックス以上であり、より更に好ましくは350デシテックス以上である。なお、上記の繊度は糸を引き揃える前の繊度である。従って、例えば、モノフィラメントを96本束ねた167デシテックスの糸を緯糸に使用する場合、緯糸は実質的にはファスナーテープ(101)で2本の引き揃えた状態になるためにモノフィラメントを192本束ねた334デシテックスの糸となる。
【0031】
本発明に係るファスナーテープに使用する糸の素材としては、従来使用されてきたポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、アクリル等を使用することができるが、縫工性が良く、材料強度が高いなどの理由からポリエステルが好ましい。
【0032】
一方、テープ主体部(202)においては、織組織は特に限定されない。
図3では、テープ主体部(202)がうね織組織と綾織組織の組み合わせで構成されている。なお、綾織組織とは、経糸が2本引き揃えて1本とした緯糸の上を2本乗り、次いで緯糸の下を2本沈む2/2の織組織である。
【0033】
図4は、本発明で採用可能なエレメント取付部(201)の織組織の変形例を示す。
図4においては、エレメント取付部(201)は平織組織で構成される。なお、平織組織とは、
図4のように、引き揃えていない1本の経糸(A)が、2本引き揃えて1本とした緯糸の上を1本乗り、次いで1本沈む組織である。
【0034】
図5は、本発明に係るファスナーストリンガーの一実施形態の模式的な部分正面図である。
図6は、
図5の模式的なY-Y断面図である。
図7は、
図5の模式的なZ-Z断面図である。エレメント列(104)は、ファスナーテープ(101)のエレメント取付部(201)の側縁(103)に沿って縫合糸(109)により取着されている。ここで、エレメント列(104)の各エレメントは、
図6に示すように、ファスナーテープ(101)の幅方向(W)に延び、第2の主表面(101b)と離間する上脚部(112)と、ファスナーテープ(101)の幅方向(W)に延び、第2の主表面(101b)と接触する下脚部(113)とを有する。また、各エレメント(104)は、上脚部(112)及び下脚部(113)を接続する噛合頭部(114)を有する。噛合頭部(114)は対向するエレメントの噛合頭部(114)と噛合又は分離することができ、これによりスライドファスナーの開閉状態を制御することができる。また、各エレメントは、噛合頭部(114)に対してファスナーテープ(101)の幅方向(W)に対向する位置に連結部(115)を有する。連結部(115)はコイル状のエレメント列(104)の隣接するエレメント同士を上脚部(112)と下脚部(113)の間で連結する。縫合糸(109)は、第1の主表面(101a)側に第1の縫製ラインを形成する第1の糸(109a)と、上脚部(112)側に第2の縫製ラインを形成し、第1の糸(109a)と各エレメントの間で交絡する第2の糸(109b)とにより構成される。
【0035】
本発明に係るファスナーストリンガーの一実施形態において、エレメント列(104)は、
図5~7に示すように、第1の糸(109a)及び第2の糸(109b)による二重環縫いによってファスナーテープ(101)に縫着することができる。第1の糸(109a)であるニードル糸(109a)は、エレメント列(104)の各エレメント間をファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)側から第2の主表面(101b)側へと芯紐(110)と共に順次刺し通され、各エレメント(104)の上脚部(112)を跨ぐ第2の糸(109b)であるルーパー糸(109b)に絡められて、エレメント列(104)がファスナーテープ(101)に縫着される。ここで、ニードル糸(109a)は、ルーパー糸(109b)のループに絡められて、各エレメントをファスナーテープ(101)に取り付けられる。
【0036】
本発明に係るファスナーストリンガーの一実施形態においては、
図6に示すように、第1の糸(109a)と第2の糸(109b)との交絡点(111)は、上脚部(112)と下脚部(113)の間のファスナーテープ(101)の厚み方向(T)の中心点(C)よりも上脚部(112)側に位置する。交絡点(111)がこのような位置にあるというのは、第1の糸(109a)が各エレメントをファスナーテープ(101)に向けて締め付ける力が弱いことを意味し、各エレメントが動きやすくなるという効果が得られる。これにより、スライダー(106)の摺動抵抗を低減することができる。
【0037】
好ましい実施形態においては、前記上脚部(112)の厚み方向(T)の上端縁(112a)と前記下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)との距離(D)に対する、前記交絡点(111)から前記下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)との距離(d)の割合(d/D)は、ファスナーテープ(101)に対するエレメント列(104)の取付強度を確保する観点から、平均で110%以下であり、より好ましくは平均で100%以下であり、更に好ましくは平均で90%以下である。但し、スライダーの摺動抵抗を低減する観点から、d/Dは好ましくは平均で40%以上であり、より好ましくは平均で50%以上であり、更に好ましくは平均で60%以上であり、更に好ましくは平均で80%以上である。なお、交絡点(111)とは、隣接する二つのエレメント(104)間で第1の糸(109a)が第2の糸(109b)と交絡している箇所のうち、ファスナーテープ(101)の第2の主表面(101b)側から厚み方向(T)に最も離間した第1の糸(109a)の位置を言う。
【0038】
隣り合う二つのエレメント(104)の長手方向(L)の中心同士の間隔(P)(ピッチ間距離)においては、第1の糸(109a)の平均長さが第2の糸(109b)の平均長さよりも長いことが好ましい。すなわち、第1の糸(109a)の締め付け具合を弱めることで摺動時におけるスライダー(106)とのファスナーテープ(101)又は各エレメント(104)との摩擦が抑制されるので、スライダー(106)の摺動抵抗を低減することができる。ファスナーテープ(101)の長さ方向と厚み方向の両者に平行な断面をCT画像で観察したとき、第1の糸(109a)の平均長さは、第2の糸(109b)の平均長さに対して1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。但し、ファスナーテープ(101)に対するエレメント列(104)の取付強度を確保する観点から、第1の糸(109a)の平均長さは、第2の糸(109b)の平均長さに対して2倍以下であることが好ましく、1.9倍以下であることがより好ましい。ここで、第1の糸(109a)及び第2の糸(109b)の長さは、CT画像で観察したときの糸の中心線に沿ってそれぞれ測長することとする。また、平均値は10箇所以上の測長結果に基づいて算出する。
【0039】
また、二重環縫いを行う場合には、エレメント列(104)の取付強度を補完するため、
図7に示すように、コイル状のエレメント列(104)が2本のニードル糸(109a)と1本のルーパー糸(109b)によってエレメント取付部(201)に縫着されることが好ましい。
【0040】
第2の糸(109b)の湿熱収縮率は、第1の糸(109a)の湿熱収縮率よりも小さいことが望ましい。そうすることで、第2の糸(109b)は第1の糸(109a)に比べて収縮が少ないものとなり、各エレメント(104)が動きやすくなるので、スライダー(106)の摺動抵抗を低減することができる。湿熱収縮率を小さくする方法としては、例えば第2の糸(109b)はファスナーテープ(101)を糸で縫製する前に、糸を染色した先染糸を使用する方法が挙げられる。一方、第1の糸(109a)は、先染糸又は後染糸のどちらでもよい。
ここで、湿熱収縮率は、下記式(1)に基づいて算出する。
湿熱収縮率(%)={1-(湿熱処理後の糸の長さ/湿熱処理前の糸の長さ)}×100・・・式(1)
また、湿熱処理条件及び糸の長さの測定方法は以下のとおりとする。
<湿熱処理条件>
0.2MPaGの加圧水中での湿熱処理
水温:130℃
時間:30分
<糸の長さ測定方法>
10mg/デシテックス荷重
【0041】
スライダー(106)の摺動抵抗を軽減するため、本発明に係るスライドファスナーの一実施形態では、エレメント列(104)の表面全体に柔軟剤を付着していることが好ましい。柔軟剤としては、パラフィン系、カチオン系、ノニオン系、複合系、シリコン系などを挙げることができる。
【0042】
本発明に係るスライドファスナーは、各種の物品に縫着することで、物品の開閉具として使用することができ、例えば衣服、ポケット、鞄、靴(例:ブーツ、シューズ)、テント、ベッドのマット、車両用シートなどの開口部に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0044】
(実施例1)
エレメント取付部(201)及びテープ主体部が何れも表1に記載の織組織を有するポリエステル製のファスナーテープ(101)(厚さ:0.35mm)を用意した。ファスナーテープ(101)を構成する経糸及び緯糸として、モノフィラメントを96本束ねた167デシテックスのマルチフィラメントを使用した。次いで、ファスナーテープ(101)の第2の主表面(101b)に、エレメント取付部(201)側の側縁(103)に沿って、芯紐(110)が挿通されたエレメント列(104)を二重環縫いミシン機で二重環縫いにより縫着した。縫合糸(109)は、ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)側に第1の縫製ラインを形成するポリエステル製のニードル糸(109a)(344デシテックス)と、エレメントの上脚部(112)側に第2の縫製ラインを形成するポリエステル製のルーパー糸(109b)(344デシテックス)で構成した。
【0045】
得られたエレメント列について、隣り合う二つのエレメント(104)の長手方向(L)の間隔(P)(ピッチ間距離)が1.25mmであった。また、上脚部(112)の厚み方向(T)の上端縁(112a)と下脚部(113)の厚み方向(T)の下端縁(113a)との距離(D)は1.35mmであった。
【0046】
次いで、ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)に、2液硬化型のポリウレタン樹脂を塗布し、次いで硬化させることで、ポリウレタン製の樹脂フィルム(102)(厚さ:0.05mm)を形成し、ファスナーストリンガーを得た。このとき、ファスナーテープ(101)の第1の主表面(101a)側に第1の縫製ラインを形成するポリエステル製のニードル糸(109a)は、樹脂フィルムと接触することによって固定された。得られたファスナーストリンガーを用いて
図1及び
図2に示す構成の防水性スライドファスナー(100)を組み立てた。
【0047】
<交絡点の位置>
得られたスライドファスナー(100)をファスナーテープ(101)の長手方向(L)に断面が露出するように切断し、
図6に示すスライドファスナー(100)の断面をX線CTスキャン装置で観察し、先述した定義に従って10箇所の交絡点の位置に関するパラメータ(d/D)を測定し、それらの平均値を測定値とした。結果を表1に示す。
【0048】
<縫合糸の長さ>
得られたスライドファスナー(100)から、X線CTスキャンによって隣り合う二つのエレメント(104)の間のニードル糸及びルーパー糸の長さ(断面上の長さ)の平均値を先述した方法で測定し、隣り合う二つのエレメント(104)の長手方向(L)の間隔(P)における、ルーパー糸の平均長さに対するニードル糸の平均長さの比率を求めた。
【0049】
<摺動抵抗試験>
摺動抵抗試験をJIS 3015:2007に準拠して行い、下記の方法で摺動抵抗値を算出した。
各試験例に係るスライドファスナー(100)のスライダー(106)の引手(105)をファスナーテープ(101)の長手方向(L)に引き上げてスライドファスナー(100)を閉とした。そして、引張試験機のクランプにスライドファスナー(100)を固定し、引手(105)を引張速度1000mm/minの定速で引っ張り、ストロークを100mmに設定し、スライドファスナー(100)を開ける方向の摺動抵抗の安定値(100mmの間の最大値及び最小値を除いた値の平均値)を測定した。次に、得られたスライドファスナー(100)のスライダー(106)の引手(105)をファスナーテープ(101)の長手方向(L)に引き下げてスライドファスナー(100)を開とした。そして、当該引張試験機のクランプにスライドファスナー(100)を固定し、引手(105)を引張速度1000mm/minの定速で引っ張り、ストロークを100mmに設定し、スライドファスナー(100)を閉める方向の摺動抵抗の安定値(100mmの間の最大値及び最小値を除いた値の平均値)を測定した。これらの摺動抵抗の安定値を平均した値を、摺動抵抗値とした。結果を表1に示す。
【0050】
<樹脂フィルムの外観>
得られたスライドファスナー(100)の樹脂フィルム(102)の評価平面(投影平面)を、目視で下記評価基準に従って、観察した。結果を表1に示す。
評価基準
5点:白濁が見られないか、又は0.2mm2未満の大きさの白濁が不連続に発生
4点:0.2mm2以上0.4mm2未満の大きさの白濁が不連続に発生
3点:0.2mm2以上0.4mm2未満の大きさの白濁が連続に発生
2点:0.4mm2以上0.8mm2未満の大きさの白濁が連続に発生
1点:0.8mm2以上の大きさの白濁が連続に発生
【0051】
(実施例2)
ファスナーテープのエレメント取付部及びテープ主体部のうね織組織を平織組織に変更した他は実施例1と同様に、スライドファスナーを製造し、実施例1と同様の特性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例3)
ファスナーテープのエレメント取付部及びテープ主体部のうね織組織を綾織組織に変更した他は実施例1と同様に、スライドファスナーを製造し、実施例1と同様の特性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
(参考例1)
実施例1よりもニードル糸によるエレメントの締め付け具合を強めて、交絡点の位置を変更した他は実施例1と同様に、スライドファスナーを製造し、実施例1と同様の特性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0054】
(参考例2)
実施例2よりもニードル糸によるエレメントの締め付け具合を強めて、交絡点の位置を変更した他は実施例2と同様に、スライドファスナーを製造し、実施例2と同様の特性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
実施例3よりもニードル糸によるエレメントの締め付け具合を強めて、交絡点の位置を変更した他は実施例3と同様に、スライドファスナーを製造し、実施例3と同様の特性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
(考察)
表1の結果から分かるように、エレメント取付部を1/1の織組織とすることにより、スライダーの摺動抵抗を有意に低減することが理解できる。また、樹脂フィルムが平滑化されて美観が向上することが分かる。更に、交絡点の位置を上脚部側に設定することでスライダーの摺動抵抗を低減できることも分かる。
その他、上糸が短い場合、摺動抵抗は織組織の違いによって大差がなかったが(参考例1、参考例2及び比較例1)、エレメント取付部が1/1の織組織である参考例1及び参考例2は、比較例1に比べて経糸が動きにくい為、針で刺した時の穴が広がりにくく、ニードル糸がテープに食い込みにくいという利点が得られた。
【符号の説明】
【0058】
100 スライドファスナー
101 ファスナーテープ
101a 第1の主表面
101b 第2の主表面
102 樹脂フィルム
103 側縁
104 エレメント列(エレメント)
105 引手
106 スライダー
107 上止め
108 開離嵌挿具
109 縫合糸
109a 第1の糸(ニードル糸)
109b 第2の糸(ルーパー糸)
110 芯紐
111 交絡点
112 上脚部
112a 上端縁
113 下脚部
113a 下端縁
114 噛合頭部
115 連結部
201 エレメント取付部
202 テープ主体部
A 経糸
C 中心点
W ファスナーテープの幅方向
T ファスナーテープの厚み方向