(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】水性インクジェット用インクに用いるバインダー樹脂
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20220201BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2020043716
(22)【出願日】2020-03-13
(62)【分割の表示】P 2016108299の分割
【原出願日】2016-05-31
【審査請求日】2020-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【氏名又は名称】大西 伸和
(74)【代理人】
【識別番号】100079614
【氏名又は名称】鈴木 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】山崎 三雄
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/175162(WO,A1)
【文献】特開2012-036251(JP,A)
【文献】特開2009-114454(JP,A)
【文献】特開2014-141672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理が施されていないインクの滲透性が低い被印刷基材にカラー印刷画像を形成するための水性インクジェット用インクに用いるバインダー樹脂であって、
メタクリル樹脂を含有してなり、
該メタクリル樹脂が、疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分としてなる親水性のポリマーブロックと、を有してなるブロックコポリマー(但し、該ブロックコポリマーと、少なくとも疎水性の付加重合性モノマーを含むモノマーを重
合させてなる、そのガラス転移温度が70℃以下のポリマーとが混在してなり、その質量比が5~80:9
5~20であるエマルジョン水溶液である場合を除く)であり、
前記疎水性ポリマーブロックが、ベンジルメタクリレート(BzMA)、イソブチルメタクリレート(IBMA)、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート(TBCHMA)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)及びジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)からなる群から選択されるモノマーAを少なくとも1種含むモノマーを形成成分としてなり、且つ、
前記親水性ポリマーブロックの酸価が50~250mgKOH/gである(但し、ブロックコポリマーの数平均分子量をMnab、疎水性ポリマーブロックの数平均分子量をMna、親水性ポリマーブロックの数平均分子量をMnb(Mnb=Mnab-Mna)とした場合に、(1)~(4)の要件を全て満たす場合を除く)ことを特徴とするバインダー樹脂。
(1)2000≦Mna≦10000
(2)1500≦Mnb≦10000
(3)5000≦Mnab≦20000
(4)Mna≧Mnb、または、Mna<Mnb≦2Mna
【請求項2】
前記疎水性ポリマーブロックの形成成分中における前記モノマーAの量が、50質量%以上である請求項1に記載のバインダー樹脂。
【請求項3】
前記疎水性ポリマーブロックの数平均分子量が、5000~70000である請求項1又は2に記載のバインダー樹脂。
【請求項4】
前記親水性ポリマーブロックの数平均分子量が、1000~20000である請求項1~3のいずれか1項に記載のバインダー樹脂。
【請求項5】
前記メタクリル樹脂の含有量が、前記水性インクジェット用インク全量に対して固形分として1~20質量%の範囲内である請求項1~4のいずれか1項に記載のバインダー樹脂。
【請求項6】
前記被印刷基材が、ポリ塩化ビニル系基材、ポリプロピレン系基材又はポリエチレン系基材のいずれかである請求項1~5のいずれか1項に記載のバインダー樹脂。
【請求項7】
前記水性インクジェット用インクが、表面温度を40~80℃に加熱された状態の前記被印刷基材にカラー印刷画像を形成するためのものである請求項1~6のいずれか1項に記載のバインダー樹脂。
【請求項8】
前記水性インクジェット用インクが、アルキル基の炭素数が1~12個であるアルキレングリコールアルキルエーテルを含む水溶性溶媒を含む請求項1~7のいずれか1項に記載のバインダー樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理が施されていないインクの滲透性が低い被印刷基材に、インクジェット印刷方法で印刷する場合に使用される水性インクジェット用インク、及び該インクを用いたインクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、事務用や家庭用のみならず広範な用途で、インクジェット印刷法による様々な印刷が行われている。例えば、産業用途では、サインディスプレーとして、インクジェット印刷法で作成した、屋外広告、施設サイン、ディスプレイ、POP広告、交通広告等がある。これらのサインディスプレーの多くは、大型の被印刷基材に、インクジェット記録装置で印刷することで作成されている。しかし、その際用いるインクは溶剤系のものがほとんどである(特許文献1)。また、画像形成に使用される被印刷基材は、インクジェット用インクで印刷しやすいように表面処理を施したものが多いが、表面処理を施した被印刷基材は当然のことながら割高である。水性インクに適した表面処理が施された被印刷基材を用いる場合は、水性インクが使用されることもある。一方、表面処理が施されてない被印刷基材を用いる場合は、インク中の溶媒成分として、被印刷基材に対する溶解力が高い溶剤を主成分とする溶剤系インクを用い、表面処理が施されてない被印刷基材にインクが浸透しやすいようにすることでインクジェット印刷を行っている。このため、表面処理が施されてない被印刷基材にインクジェット印刷を行う場合は、使用する溶剤系インクに起因する、環境面、安全面等においての問題があり、その対策として、作業場に排気ダクト等を設けるといったことが必要になる。そのため、この場合は、排気ダクト等の装置を設けると大がかりになることに加え、コスト的にも高価なものになってしまう等の問題がある。
【0003】
上記のような問題を解決するために、インクジェット印刷法で表面処理をしていない被印刷基材に印刷のできる水性インクが長らく待望されてきた。特に、ポリ塩化ビニルのように可塑剤を含む被印刷基材を用いた場合、基材中の可塑剤が表面に浮き出ているため、水性インクで印刷すると基材表面でインクが弾いてしまい、目的とする画質を得ることが困難であった。特許文献2、3に、これらの解決手段としての水性インクが提案されている。しかし、特許文献2に記載の技術では特殊な顔料誘導体を使用しており、インク中の顔料によって効果のあるものとないものがあり、汎用の技術ではなかった。また、特許文献3に記載の技術では沸点の異なる2種類の有機溶剤を必須としており、インク中の樹脂成分との相溶性が制限され、インクジェット用インクとしての安定性が損なわれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-055263号公報
【文献】特開2014-214160号公報
【文献】特開2014-205770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材、特に、表面処理を施してない塩化ビニル基材や、表面処理を施してないポリプロピレン系基材、或いは表面処理を施してないポリエチレン系基材に対して、インクジェット印刷法で高画質なカラー印刷をすることができ、且つ、形成したインク画像の被印刷基材への密着性が良好な水性インクジェット用インクを提供することにある。また、本発明の目的は、水性インクジェット用インクを用いたインクジェット印刷法で、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材に、高画質なカラー印刷像を現出でき、また、得られる画像は、被印刷基材への密着性が高いものとなるインクジェット印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、[1]表面処理が施されていないインクの滲透性が低い被印刷基材用の水性インクジェット用インクであって、少なくとも、顔料、顔料分散剤、アルキレン基の炭素数が2~12個で、且つ、アルキル基の炭素数が1~12個であるアルキレングリコールアルキルエーテルを含む水溶性溶媒、水及びアルカリと、さらにバインダー樹脂としてメタクリル樹脂を含有してなり、前記メタクリル樹脂が、疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分としてなる親水性のポリマーブロックと、を有してなるブロックコポリマーであり、前記疎水性ポリマーブロックが、少なくとも、ベンジルメタクリレート(BzMA)、イソブチルメタクリレート(IBMA)、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート(TBCHMA)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)及びジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)からなる群から選択される1種を含むモノマーを形成成分としてなるものであり、且つ、前記親水性ポリマーブロックの酸価が50~250mgKOH/gであることを特徴とする水性インクジェット用インクを提供する。
【0007】
なお、本発明を構成する上記特有のメタクリル樹脂は、分子量の異なる種々のポリマー分子の集合体(混合物)であるため、物としての特定を、その構造又は特性により直接特定することが不可能又はおよそ非実際的であるので、その原料となるモノマーを限定したプロセス(製法)によって特定した。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の水性インクジェット用インクの好ましい形態として、下記に挙げる水性インクジェット用インクを提供する。
[2]前記アルキレングリコールアルキルエーテルの沸点が、200℃以上250℃以下であり、その含有量が、インク全量に対して3~30質量%である上記[1]の水性インクジェット用インク。
[3]前記水溶性溶媒が、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる少なくともいずれかを含む上記[1]又は[2]に記載の水性インクジェット用インク。
[4]前記メタクリル樹脂の含有量が、インク全量に対して固形分として1~20質量%の範囲内である上記[1]~[3]のいずれかに記載の水性インクジェット用インク。
[5]前記顔料分散剤が、疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分としてなる親水性のポリマーブロックとを有してなるブロックコポリマーである上記[1]~[4]のいずれかに記載の水性インクジェット用インク。
[6]さらに、界面活性剤を含有してなる上記[1]~[5]のいずれかに記載の水性インクジェット用インク。
[7]前記界面活性剤が、フッ素系界面活性剤である上記[6]に記載の水性インクジェット用インク。
[8]前記被印刷基材が、ポリ塩化ビニル系基材、ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材から選ばれる少なくとも1種である上記[1]~[7]のいずれかに記載の水性インクジェット用インク。
【0009】
また、本発明は、別の実施形態として、[9]表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材の表面に、上記[1]~[8]のいずれかに記載の水性インクジェット用インクを用い、インクジェット記録方式で印刷する際に、前記被印刷基材の表面温度を40~80℃に加熱することを特徴とするインクジェット印刷方法を提供する。
【0010】
上記本発明のインクジェット印刷方法の好ましい形態としては、[10]前記被印刷基材が、ポリ塩化ビニル系基材、ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材から選ばれる少なくとも1種である上記[9]に記載のインクジェット印刷方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材、例えば、表面処理を施してない塩化ビニル基材や、表面処理を施してないポリプロピレン系基材、或いは表面処理を施してないポリエチレン系基材に対して、インクジェット印刷法で高画質なカラー印刷をすることができ、且つ、形成したインク画像の被印刷基材への密着性が良好なものになる水性インクジェット用インクが提供される。また、本発明によれば、水性インクジェット用インクを用いたインクジェット印刷法で、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材に、高画質なカラー印刷像を現出でき、また、得られる画像は、被印刷基材への密着性が高いものとなるインクジェット印刷方法が提供される。
【0012】
具体的には、顔料を顔料分散剤によって分散してなる水性インクジェット用インクの構成において、本発明では、特有の疎水性ポリマーブロックと、特有の親水性ポリマーブロックとからなる構造のブロックコポリマーを有するメタクリル樹脂を、バインダー樹脂として含有させ、さらに、インクの保湿剤、フィルムに付着させた際にレベリング剤や造膜助剤としても機能し得る水溶性溶媒を含有させたことで、上記の目的を達成する。また、本発明では、インクジェット印刷する際に、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材を用い、その表面温度を40~80℃に加熱した状態にして、該被印刷基材の表面に、上記した構成の水性インクジェット用インクでインクジェット印刷画像を形成することで、通常の水性インクジェット用インクでは印刷が困難な基材表面に対しても、密着性に非常に優れる高画質なカラー印刷像を現出できる、という本発明の顕著な効果を得ている。また、本発明で提供するインクジェット用インクは、水性インクであることから、環境面、安全性に優れ、さらに、画像形成に使用されるインク中の溶剤対策としての、排気ダクト等の大型設備を設ける必要がないことから、コスト的にも安価に、インクジェット記録法でカラー印刷を行うことができるという実用上の利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の水性インクジェット用インクは、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材、例えば、ポリ塩化ビニル系基材、ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材等の基材表面にインクジェット印刷を行う際にも好適に用いられる。本発明の水性インクジェット用インクは、少なくとも、顔料、顔料分散剤、アルキレン基の炭素数が2~12個で、且つ、アルキル基の炭素数が1~12個であるアルキレングリコールアルキルエーテルを含む水溶性溶媒、水及びアルカリと、さらにバインダー樹脂として特有のメタクリル樹脂を含有してなることを特徴とする。本発明の水性インクジェット用インクが、必須成分とするメタクリル樹脂は、疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分としてなる親水性のポリマーブロックと、を有してなるブロックコポリマーであり、前記疎水性ポリマーブロックが、少なくとも、ベンジルメタクリレート(BzMA)、イソブチルメタクリレート(IBMA)、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート(TBCHMA)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)及びジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)からなる群から選択される1種を含むモノマーを形成成分としてなるものであり、且つ、前記親水性ポリマーブロックの酸価が50~250mgKOH/gであることを特徴とする。以下、本発明の水性インクジェット用インクについて詳細に説明する。
【0014】
[被印刷基材]
一般的に、インクの滲透性が低いフィルムにインクジェット印刷を行う場合、フィルムの印刷面に受像層を設ける等の処理を施したインクジェット専用フィルムを使用している。また、ポリプロピレンフィルムでは、インクジェット印刷以外の、例えば、グラビア印刷を行う場合に使用するものとして、印刷面にコロナ処理等を行い、インクがのり易くしたものがある。また、ポリ塩化ビニル基材の場合は、可塑剤が表面に浮いてきて、インクジェット印刷を水性インクで行う場合は、基材表面でインクが弾かれてしまい、良好な画像が得られない。このため、通常、溶剤系インクを使用している。これに対し、本発明の水性インクジェット用インクでは、上記のような処理を施していない、インクの滲透性が低いフィルムや、ポリ塩化ビニル系基材、ポリプロピレン系基材、ポリエチレン系基材等に対しても良好なインクジェット印刷が可能である。
【0015】
[水性インクジェット用インクの構成成分]
<顔料>
本発明で使用できる顔料としては、従来公知のインクジェット用インクに用いられている有機顔料、無機顔料がいずれも使用でき、特に限定はない。例えば、有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、インダスレン系顔料等の有彩色顔料や、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料等が挙げられ、いずれも用いることができる。また、無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピンネル顔料等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、その目的により、顔料の種類、粒子径、処理の種類を選んで使用することが望ましい。特に、着色物に隠蔽力を必要とする場合以外は、有機系の微粒子顔料が望ましい。さらに、高精彩で透明性を望む場合には、ソルトミリング等の湿式粉砕または乾式粉砕で微細化した顔料を用いることが望ましい。その場合、印刷時におけるノズル詰まりも考慮して、1.0μmを超える大きな粒子径を有する顔料を除去し、有機顔料で平均粒子径を0.2μm以下、無機顔料で平均粒子径を0.4μm以下としたものを用いることが望ましい。
【0017】
上記のような顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーでより具体的に例示すると、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、97、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、175、180、181、185、191、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73、C.I.ピグメントレッド4、5、9、23、48、49、52、53、57、97、112、122、123、144、146、147、149、150、166、168、170、176、177、180、184、185、192、202、207、214、215、216、217、220、221、223、224、226、227、228、238、240、242、254、255、264、269、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラック7、C.I.ピグメントホワイト6等が挙げられる。また、これらの顔料は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよく、混合する方法としては、粉末顔料での混合、ペースト顔料での混合、顔料化での混合による固溶体の合成等がある。
【0018】
上記の中で、本発明の水性インクジェット用インクに好適な顔料としては、その発色性や分散性、耐候性から、黄色は、C.I.ピグメントイエロー74、83、109、128、139、151、154、155、180、181、185、赤色は、C.I.ピグメントレッド122、170、176、177、185、269、C.I.ピグメントバイオレット19、23、青色は、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6黒色は、C.I.ピグメントブラック7、白色は、C.I.ピグメントホワイト6が挙げられる。
【0019】
本発明の水性インクジェット用インクに使用する顔料の含有量は、インク全量に対して0.1~25質量%で使用可能であるが、好ましい含有量の範囲は、インク全量に対して0.2~20質量%である。
【0020】
<特定のアルキレングリコールアルキルエーテルを含む水溶性溶媒>
水性インクジェット用インクの場合、溶媒成分として水のみであるとインクが乾燥してしまい、ヘッドのノズル詰まりを起こす原因となる。このため、他に水溶性の高沸点溶媒を保湿剤として添加することが行われている。本発明の水性インクジェット用インクは、水溶性溶媒を含有してなるが、その用途が、表面処理が施されていないインクの滲透性が低い被印刷基材用であることから、本発明のインクジェット用インクを構成する水溶性溶媒は、インクの保湿剤として機能するだけでなく、基材フィルムに対する濡れ性も良好であり、好ましくは、被印刷基材表面のレベリング剤としても機能し得、さらには、インクに含有させたバインダー樹脂の造膜性を高める造膜助剤としても機能し得るものであることが好ましい。
【0021】
本発明者らは、上記の認識の下、鋭意検討した結果、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテルが、水性インクジェット用インクに用いた場合に、上記機能をいずれも発揮し得、水溶性溶媒として有用であることを見出した。すなわち、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテルは、インクの保湿剤として機能するだけでなく、フィルムに対する濡れ性も良好なことからレベリング剤としても機能する。さらに、ある程度の溶解力もあることから、例えば、ポリ塩化ビニル系の被印刷基材に対しては、ポリ塩化ビニル表面を若干溶解することにより、インクのレベリング、密着に寄与することがわかった。さらには、下記に述べるように、本発明の水性インクジェット用インクを構成するバインダー樹脂の造膜助剤としても機能し得ることがわかった。本発明でバインダー樹脂として使用されるメタクリル系樹脂は、メタクリレート系モノマーを形成成分とする疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分とする親水性ポリマーブロックとからなるブロック構造を有し、上記疎水性ポリマーブロックは、水に不溶であるため、粒子となっている。良好なバインダー樹脂として機能させるためには、この粒子部分が膜となる必要があり、このためには、バインダー樹脂の造膜性を高める、すなわち、造膜助剤としての機能を発揮し得る水溶性溶媒をインクに含有させることが好ましい。
【0022】
本発明者らは、上記した、インクの保湿性、被印刷基材に対するレベリング性、基材材料に対する溶解性、バインダー樹脂の造膜性向上の実現を考慮して鋭意検討した結果、水性インクジェット用インクを構成する水溶性溶媒として、アルキレン基の炭素数が2~12個で、且つ、アルキル基の炭素数が1~12個であるアルキレングリコールアルキルエーテルを用いることが効果的であることを見出した。より具体的には、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。より好ましくは、沸点が200℃以上250℃以下である、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
本発明の水性インクジェット用インクを構成する上記したような特定の水溶性溶媒の含有量は、インク全量に対して3~30質量%であることが好ましい。さらには、インク全量に対して5~25質量%程度であることがより好ましい。3質量%より少ないとインクが乾燥しやすくなり、さらに、基材フィルムに対するレベリング付与の効果も悪くなるので好ましくない。一方、30質量%よりも多いとインクの粘度が高くなり、インクの吐出性が悪くなる傾向があり、さらに、インクとしての安定性も悪くなる傾向がある。また、場合によっては、インク中のバインダー樹脂が析出したり、顔料が凝集したりするおそれがあるので好ましくない。また、含有量が多すぎると、水溶性溶媒が印刷した画像の膜中に残存することとなって、画像膜のブロッキングが起きるおそれや、耐水性や耐擦性などの画像としての物性が劣るおそれがあるので、この点からも好ましくない。
【0024】
<水>
本発明の水性インクジェット用インクは、必須成分として水を含有する。水は、他の構成成分を溶解、分散させ、インクジェット印刷する際に、インクに流動性を付与するために用いられる。使用される水は、イオン成分等の不純物を含まない観点から、イオン交換水や蒸留水、精製水等を用いることが好ましい。水の含有量としては、インク全量に対して30~90質量%程度であることが好ましい。
【0025】
<バインダー樹脂としてのメタクリル樹脂>
本発明の水性インクジェット用インクには、必須成分として、メタクリレート系モノマーを構成成分とする疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを構成成分とする親水性ポリマーブロックと、を有してなるブロックコポリマーであるメタクリル樹脂を、バインダー成分として含有する。さらに、上記ブロックコポリマーは、その疎水性ポリマーブロックが、少なくとも、ベンジルメタクリレート(BzMA)、イソブチルメタクリレート(IBMA)、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート(TBCHMA)、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)、ジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)、からなる群から選択される1種を含むモノマーを形成成分とするものであり、且つ、その親水性ポリマーブロックの酸価が50~250mgKOH/gのものである。
【0026】
本発明のインクジェット用インクは、上記特有のブロックコポリマーであるメタクリル樹脂を、バインダー成分として含有したことで、表面処理が施されていない被印刷基材に画像を形成した場合であっても、被印刷基材への密着性が良好なものとなる。さらに、本発明のインクを構成するメタクリル樹脂は、特有の疎水性ポリマーブロックと、特有の親水性ポリマーブロックからなる構造のブロックコポリマーであることによると考えられるが、本発明者らの検討によれば、このようなブロックコポリマーをバインダー成分として含有させたことで、他のバインダー樹脂を含有させた場合と比較して、インクの吐出性、粘度、粒子径等の各種物性の安定性が著しく向上する。
【0027】
上記特有のブロックコポリマーを構成する疎水性ポリマーブロックは、メタクリレート系モノマーからなる水不溶の疎水性のブロック鎖の部分である。バインダー成分として含有させたメタクリル樹脂に、この水不溶性の疎水性部分が存在していることから、これを含むインクによって形成したインク画像は、その耐水性、耐擦性が向上し、造膜性がよく、強度な膜を形成したものとなり、結果として印刷物の耐久性を高めることができる。
【0028】
本発明では、この疎水性ポリマーブロックの形成成分として、水不溶の、ベンジルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートからなる群(これらのメタクリレート群をモノマーAと称す)から選択される少なくとも1種を含むモノマーを必須成分とする。本発明者らが検討した結果、バインダー成分として含有させるメタクリル樹脂の形成成分に、このようなモノマーAを含有させることによって、表面処理を施していない被印刷基材である、例えば、ポリ塩化ビニル系基材や、ポリプロピレン系基材及びポリエチレン系基材等のポリオレフィン系基材にインク画像を形成した場合にも、形成したインク画像の基材への密着性を高める働きをすることがわかった。
【0029】
また、本発明で使用するメタクリル樹脂は、その疎水性ブロックの形成成分として、前記した特有のメタクリレートの群から選択されるモノマーAを含むモノマーが使用されるが、必要に応じて他のメタクリレートを共重合させてもよい。この際に使用される他のメタクリレートとしては、従来公知のメタクリレートが使用され、下記のようなモノマーであれば、特に限定されない。すなわち、本発明で使用する特有のブロックコポリマーを構成する親水性ブロックは、少なくともメタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分としてなるので、このメタクリル酸のカルボン酸と反応しないものであれば特に問題はない。また、疎水性ブロックの形成成分中におけるモノマーAの量としては、特に限定はないが、好ましくは50質量%以上であることが好ましい。
【0030】
また、本発明で使用するメタクリル樹脂を構成するこの疎水性ブロックの分子量は、特に限定はないが、好ましくは、数平均分子量が5000~70000であるとよい。数平均分子量が5000以上であることで、このような疎水性ブロック鎖を有するメタクリル樹脂によって形成される膜としての性能として、基材への密着性などが向上する。また、上記した数平均分子量を70000以下とすることで、インクとしての粘度が最適化され、インクの吐出性などが向上する。本発明で使用するメタクリル樹脂を構成する疎水性ブロックの数平均分子量は、より好ましくは、7000~50000である。
【0031】
次に、本発明で使用するメタクリル樹脂を構成する親水性ポリマーブロックについて説明する。親水性ポリマーブロックは、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを構成成分とする親水性ポリマーブロックであり、その酸価が50~250mgKOH/gである。このメタクリル酸由来のカルボン酸が、インク中に含まれるアルカリによって中和されイオン化して、親水性のブロック鎖が水に溶解するようになる。この親水性ポリマーブロックは、すべてメタクリル酸を形成成分としたものであってもよいが、前記した酸価の範囲内になれば、メタクリレート系モノマーを共重合させてもよい。メタクリレートとしては、特に限定はなく、親水性のブロック鎖の形成に用いるメタクリル酸由来のカルボン酸と反応しないメタクリレートを使用することが好ましい。
【0032】
この本発明で使用するメタクリル樹脂を構成する親水性ポリマーブロックの分子量は、ブロックコポリマー全体の数平均分子量から、前記した疎水性のポリマーブロックの数平均分子量を引いた値で定義されるが、特に限定はされない。好ましくは、1000以上であるとよい。上記のようにして算出した数平均分子量が小さすぎると水への溶解性が不足する傾向があり、バインダー樹脂成分として添加したメタクリル樹脂が、インク中で析出したり、凝集したりするおそれがあるので好ましくない。また、分子量が大きすぎるとインクの粘度が高くなり、吐出性が悪くなる。したがって、本発明で使用するメタクリル樹脂を構成する親水性ポリマーブロックの数平均分子量は、好ましくは1000~20000であり、より好ましくは3000~15000である。
【0033】
本発明で使用する上記したような構成のメタクリル樹脂を得る方法は特に限定はない。しかし、通常のラジカル重合では、上記したように精緻に設計されたブロック構造を有するポリマーを容易に得ることができないので、リビングラジカル重合を利用することが好ましい。リビングラジカル重合であれはどのような方法でもよく、ニトロキサイドを使用したNMP法、金属錯体の酸化還元を利用したATRP法、ジチオカルボン酸エステルなどを利用したRAFT法、コバルト触媒を使用した方法、テルル化合物を使用したTERP法、ヨウ素を使用したヨウ素移動重合、さらには、ヨウ化物を開始剤として有機化合物を触媒としたRTCP法などが挙げられる。これらの中でも、RTCP法によって合成することが好ましい。
【0034】
これらの重合工程や、得られたポリマー溶液の後処理等の製造条件は特に限定はない。従来通りの任意の有機溶媒中で行う溶液重合が好ましい。特に、その後に行うインクの調製を考慮すると、本発明の水性インクジェット用インクで必須の構成成分としている、先に述べた造膜助剤としても機能する、本発明で規定する特定のアルキレングリコールアルキルエーテルを重合溶剤とすることが好ましい。この場合は、得られた樹脂溶液から、樹脂を取り出してもよいし、そのまま使用してもよい。
【0035】
本発明の水性インクジェット用インクを構成する、バインダー成分としてのメタクリル樹脂の含有量は、インク全量に対して固形分として1~20質量%で使用可能である。より好ましい含有量の範囲は、インク全量に対して2~15質量%である。1質量%よりも少ないと、バインダー樹脂としての機能が十分に発揮されずに、インクの被印刷基材に対する密着性が十分でなくなる傾向があり、20質量%超だとインクの粘度が高くなり、インクの吐出性が損なわれるおそれが生じるので好ましくない。
【0036】
<顔料分散剤>
本発明の水性インクジェット用インクを構成する顔料分散剤には、従来公知の顔料分散剤が使用できる。界面活性剤などの低分子量の分散剤でもよいし、アクリル系、スチレン系、メタクリル系、エステル系、アミド系、ポリエーテル系等の、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、グラジエントコポリマー、星形ポリマー、デンドリマー等の高次構造を有するポリマー型の分散剤が、1種以上使用できる。より好ましくは、疎水性ポリマーブロックと、メタクリル酸を含むメタクリレート系モノマーを形成成分としてなる親水性のポリマーブロックとを有してなるブロックコポリマー、さらには、本発明で規定する構造のブロックコポリマーからなると、分散剤とバインダー樹脂との相溶性を阻害することがないので、より高度な分散性や保存安定性を得ることができる。顔料に対する分散剤の量は特に限定はない。例えば、質量基準で、顔料100部に対して、5~100部使用することができる。
【0037】
<アルカリ>
本発明の水性インクジェット用インクは、メタクリル樹脂や顔料分散剤の酸性基を中和して、水に溶解するように、または、インクのpHを調整するためにアルカリを含有する。このアルカリとしては、下記に挙げるようなものが使用できる。例えば、アンモニア;モノ-、ジ-、又はトリ-メチルアミン、モノ-、ジ-、又はトリ-エチルアミン等の脂肪族第1~3級アミン;モノ-、ジ-、又はトリ-エタノールアミン、モノ-、ジ-、又はトリ-プロパノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルイソプロピルアミン等のアルコールアミン;ピペリジン、モルホリン及びN-メチルモルホリン等の複素環式アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が使用でき、特に限定されない。アルカリの含有量は、メタクリル樹脂や分散剤の酸性基を一部または全部以上を中和する量の添加が好ましい。本発明の水性インクジェット用インクの好ましいpH領域としては7.0~10.0であり、さらに好ましくは7.5~9.5であり、インクのpHがこのような範囲となる量で使用でき、特に限定されない。インクのpHが7.0よりも低いと、本発明の水性インクジェット用インクに含有するメタクリル樹脂が析出するおそれがあり、さらには、顔料が凝集してしまうおそれがある。一方、インクのpHが10.0よりも高いと強アルカリになるため、扱いづらく危険である。
【0038】
<他の構成成分>
上記したように、本発明の水性インクジェット用インクは、必須成分として、顔料、顔料分散剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の本発明で規定するアルキレングリコールアルキルエーテルを含む水溶性溶媒、水、アルカリ、前記した特有の構成を有するメタクリル樹脂を含有するが、下記に述べるように、好ましい実施形態として、さらに、界面活性剤を追加の構成成分として含有することができる。さらには、その他の水溶性有機溶媒や、その他の添加剤を目的に応じて配合することもできる。
【0039】
(界面活性剤)
本発明の水性インクジェット用インクには、例えば、表面張力を所定の値に保つといった目的で、さらに界面活性剤を含有させることができる。その際、好ましいインクの表面張力は、15~45mN/m、特に好ましい表面張力は、20~40mN/mである。本発明で好適に用いられる界面活性剤としては、例えば、シリコーン系、アセチレングリコール系、フッ素系、アルキレンオキサイド系、炭化水素系等のものが挙げられる。これらの中でもフッ素系界面活性剤が特に好適に用いられる。一般に界面活性剤は、発泡の原因になったり、インクを印刷した際のフィルム表面でのはじきの原因になったり、さらには顔料を凝集させたりするので、できるだけ添加量を抑えた方が好ましい。フッ素系界面活性剤は他の種類の界面活性剤に比べ、僅かな添加で表面張力を下げる効果があり、インク中への添加量も少なくて済むという利点がある。具体的には、ヘキサフルオロプロペン系や、テトラフルオロエチレン系等の、パーフルオロアルキル系及びパーフルオロアルケニル系のフッ素系界面活性剤が例示されるが、中でもパーフルオロアルキル系のものが好ましい。
【0040】
本発明の水性インクジェット用インクで使用するフッ素系界面活性剤の含有量は、質量基準で、インク全量に対して10~10000ppmの範囲で使用可能である。より好ましい含有量の範囲は20~5000ppmである。10ppm未満であると十分にインクの表面張力が下がらず、10000ppm超であるとインクの表面張力が下がりすぎてしまい、さらに発泡の原因にもなるので好ましくない。
【0041】
(その他の添加剤)
また、本発明の水性インクジェット用インクには、必要に応じて防腐剤や水溶性有機溶媒等を添加できる。この際に使用する防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ソルビタン酸カリウム、ソルビタン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、チアゾスルファミド、ピリジンチオールオキシド及びサイアベンダゾール等が有効である。本発明の水性インクジェット用インクで使用する防腐剤の含有量は、質量基準で、インク全量に対して0.05~2.0質量%の範囲で使用可能であるが、好ましい含有量の範囲は0.1~1.0質量%である。
【0042】
また、本発明の水性インクジェット用インクには、先に挙げた、インクの保湿剤として機能するだけでなく、基材フィルムに対する濡れ性も良好であり、好ましくは、被印刷基材表面のレベリング剤としても機能し得、さらには、インクに含有させたバインダー樹脂の造膜性を高める造膜助剤としても機能し得る、本発明で規定する特定のアルキレングリコールアルキルエーテルに加えて、必要に応じて、このアルキレングリコールアルキルエーテル等と相溶する水溶性有機溶媒を添加することができる。具体的には、例えば、1,2-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、チオジグリコール、グリセリン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン及び3-メチル-3-メトキシブタノール、フェノキシエタノール、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0043】
[水性インクジェット用インクの製造方法]
本発明の水性インクジェット用インクは、顔料と顔料分散剤とを含有してなり、例えば、予め従来公知の方法を用いて顔料を顔料分散剤で分散して顔料分散液を製造し、得られた顔料分散液を用いて容易に調製することができ、製造方法は特に制限されない。例えば、水、場合によっては水溶性溶媒も添加し、顔料、顔料分散剤等の混合物を調製し、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル等を用い、顔料を微分散させて顔料分散液を調製する。さらに、得られた顔料分散液に、水、本発明で規定する特有のアルキレングリコールアルキルエーテル、その他、必要に応じて使用する水溶性有機溶媒、本発明で規定する特有のメタクリル樹脂を添加して、それぞれ所望の濃度に調整し、また、アルカリを加えてpHを調整する。さらに、必要に応じて、界面活性剤、防腐剤等の各種添加剤を添加することにより製造することができる。
【0044】
本発明の水性インクジェット用インクを用いて画像を形成する場合、単色で使用してもよいし、複数のカラーインクを用いて印刷してもよい。複数のカラーインクを用いて印刷する場合は、例えば、異なる顔料を用い、上記のようにして調製した3原色のカラーインクに、黒色インクを同時に用いることにより、フルカラー印刷をすることができる。さらに、被印刷基材が白色以外の色で着色されていたり、或いは透明である場合は、白インクで印刷した後に、その上にカラー印刷をしたり、逆にカラー印刷をした後に、白インクを印刷することができる。
【0045】
[水性インクジェット用インクによる印刷方法]
以下、本発明のインクジェット印刷方法について説明する。本発明のインクジェット印刷方法は、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材を用い、該被印刷基材の表面に、前記した構成の本発明の水性インクジェット用インクを用いてインクジェット記録方式で印刷する際に、被印刷基材の表面温度を40~80℃に加熱することを特徴とする。すなわち、本発明の水性インクジェット用インクを用い、表面処理を施してない被印刷基材にインクジェット印刷法で、より高画質なカラー印刷を安定して形成するためには、表面処理を施していない被印刷基材を予め加熱しておき、その表面に本発明のインクジェット用インクを付与して画像を形成するように構成する。そして、その場合に、被印刷基材の温度を40~80℃にすることを要し、さらには、50~70℃となるようにすることが好ましい。40℃よりも低温の場合、水性インクが基材表面で弾かれてしまうおそれがあり、目的とするより高い品質の画像の印刷物を安定して得ることが難しくなるからである。一方、被印刷基材を予め加熱して80℃よりも高温にした場合は、インクジェットプリンターのヘッド周辺部が高温になり、インクの不吐出の原因となる場合がある。カラー印刷する際のデザインや模様等は、通常行われているように、電子データ化し、当該電子データをインクジェット印刷装置に送信することによりカラー印刷を行うことができる。本発明のインクジェット印刷方法で使用する、表面処理を施していないインクの滲透性が低い被印刷基材としては、例えば、表面処理を施してない、ポリ塩化ビニル系基材、或いは、ポリプロピレン系基材、或いは、ポリエチレン系基材等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、重合方法やこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは、特に断らない限り質量基準である。
【0047】
(合成例1:メタクリル樹脂-1)
本発明の実施例でバインダー樹脂として使用するメタクリル樹脂(ブロックコポリマー)は、国際公開第2008/139980号、国際公開第2009/136510号、国際公開第2010/027093号の文献を参考にして作製した。下記に作製手順の概略を述べる。1リッターのセパラブルフラスコに、撹拌翼、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付け、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、BDGと略記)を350.5部、ヨウ素を1.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(以下、V-70と略記)を3.7部、触媒としてアイオドスクシンイミド(以下、NISと略記)を0.1部、さらに、ベンジルメタクリレート(以下、BzMAと略記)を52.8部、イソブチルメタクリレート(以下、IBMAと略記)を99.4部、仕込んで撹拌し、45℃に加温した。
【0048】
2時間後、ヨウ素の褐色が消え、この間に、重合開始剤であるV-70が、ヨウ素と反応してヨウ素化合物である重合開始化合物となったことが確認できた。さらに、上記の温度を維持して3時間重合を行い、この時点で反応溶液の一部をサンプリングした。このサンプリング物の固形分を測定したところ30.1%であり、これに基づいて算出した重合率はほぼ100%であった。以下、重合率は、上記と同様の方法で算出した。また、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)を展開溶媒とするGPCにて分子量を測定したところ、数平均分子量(Mnと略記)が11200、分散度1.19であった。以下、分子量はTHF溶媒を展開溶媒とするGPCの示差屈折率検出器の測定値である。以上のようにして、Aのブロックコポリマー(以下、A鎖と略記する場合がある)を得た。
【0049】
次いで、上記で得たAのポリマーブロック溶液を40℃に降温した後、メタクリル酸(以下、MAAと略記)を15.1部、ベンジルメタクリレート(以下、BzMAと略記)61.6部添加して、さらに40℃で4時間重合し、Bのポリマーブロック(以下、B鎖と略記する場合がある)、を形成した。B鎖中の酸価を計算により求めると128.4mgKOH/gである。B鎖中の酸価は、以下のように算出した。
【0050】
まず、B鎖組成1部あたりのMAA量を求める。
15.1/(15.1+61.6)=0.197部
次いで、MAAの分子量を86.1、KOHの分子量を56.1として用いると、B鎖の酸価は、下記のように算出される。以下、B鎖中の酸価は、同様の方法にて算出した。
(0.197/86.1)×56.1×1000=128.4mgKOH/g
【0051】
このポリマー溶液は固形分50.0%であり、ほぼ100%の重合率であることが確認できた。また、Mnは17500、分散度は1.33であった。A鎖を形成した際よりも分子量が高分子量側にずれていることが確認されたことより、A-Bブロックコポリマーが形成されたと考えられる。B鎖の分子量は、A-Bブロックコポリマーの分子量からA鎖の分子量を引いた値として算出することができ、Mn=6300と算出された。さらに、サンプリング物を、トルエン、エタノールにて希釈した後、フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.1%エタノール性水酸化カリウム溶液を用いた酸塩基滴定によってA-Bブロックコポリマー全体の実測の酸価を求めた。その結果、実測の酸価は、43.0mgKOH/gであった。なお、以下、実測の酸価は、いずれも上記と同様の操作を行い、算出した値である。上記のA-Bブロックコポリマーを、以下、メタクリル樹脂-1と呼ぶ。
【0052】
(合成例2~4:メタクリル樹脂-2~-4)
合成例1で使用したIBMAとBzMAのモノマー混合物を、それぞれ下記のモノマーに替えた以外はすべて同様にして、メタクリル樹脂-2~-4を合成した。合成例2ではt-ブチルシクロヘクシルメタクリレート(TBCHMA)に、合成例3では、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(DCPOEMA)に、合成例4では、ジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)に替えた以外はすべて合成例1と同様にして、それぞれの樹脂を合成した。合成して得たものをそれぞれメタクリル樹脂-2~-4とした。得られたメタクリル樹脂-1~-4の詳細を表1にまとめて示した。
【0053】
【0054】
(合成例-5:メタクリル樹脂-5)
合成例4において、DCPMAの量の半分をラウリルメタクリレート(以下、LMAと省略)に替えた以外は合成例1と同様にして樹脂の合成を行った。得られた樹脂をメタクリル樹脂-5とした。
【0055】
(合成例-6:メタクリル樹脂-6)
合成例1において、IBMAの代わりにTBCHMAに、BzMAの代わりにDCPOEMAに替えた以外は合成例1と同様にして樹脂の合成を行った。得られた樹脂をメタクリル樹脂-6とした。
【0056】
(合成例-7、-8::メタクリル樹脂-7、-8)
合成例6のヨウ素の量を1.2倍、1.4倍使用した以外は、合成例6と同様にして樹脂の合成を行った。これをそれぞれ、メタクリル樹脂-7、メタクリル樹脂-8とした。
【0057】
これらの合成例5~8で得られたメタクリル樹脂-5~-8の詳細を、表2にまとめて示した。
【0058】
(合成例9:メタクリル樹脂-9)
合成例1のIBMAをBzMAに替えた以外、すなわち、A鎖はBzMAのみで構成されている以外は合成例1と同様にして樹脂の合成を行った。得られた樹脂を、メタクリル樹脂-9とし、その性状を表3にまとめた。
【0059】
【0060】
(比較合成例1:比較メタクリル樹脂-1)
合成例1と同様の装置を使用して、BDGを350.5部仕込んで、撹拌し、45℃へ加温した。次いで、別容器にBzMA114.4部、IBMA99.4部、メタクリル酸15.1部、V-70を7.0部混合し、均一化した。系が45℃に達した時、モノマー混合物の1/3を添加し、さらに2時間滴下した。45℃で2時間撹拌し、次いで、50℃に加温して2時間重合した。重合率はほぼ100%であり、Mn12600、PDI2.15であった。酸価も43.2mgKOH/gを示した。これを比較メタクリル樹脂-1とする。これは、ランダム型のメタクリル樹脂である。
【0061】
(製造例1:実施例1の赤色のインクジェット用インク-1)
イオン交換水675質量部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル50質量部に、顔料分散剤として、スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸ラウリル/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/メタクリル酸(30/20/20/15/15質量比)共重合体(数平均分子量15000)のアンモニア中和物の水溶液(固形分28.0%)の125質量部を溶解し、この中に、C.I.ピグメントレッド 122(大日精化工業製)150質量部を添加し、ディゾルバーで十分撹拌混合して、顔料と顔料分散剤とを含む混合物を得た。
【0062】
この混合物を、直径1mmのジルコニアビーズを分散メディアとし、分散メディアの容積率が40容量%であるペイントシェイカーに入れて、120分間分散させることにより顔料分散液を得た。さらに、この顔料分散液を遠心分離処理(7500回転、20分間)し、その後、10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除き、イオン交換水で調整して、顔料濃度が14%である赤色の水性顔料分散液を得た。
【0063】
次いで、イオン交換水520.8部と、アンモニア水1.4部を別容器に混合して均一化し、ディスパーで撹拌しながら、合成例1で得られたメタクリル樹脂-1を76.8部添加して、メタクリル樹脂の水溶液を作製した。この結果、半透明の白っぽいエマルジョンが得られた。これに、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを120質量部、アンモニア水1質量部、フッ素系界面活性剤であるサーフロンS-211(商品名、旭硝子社製)の1%水溶液30質量部、先に調製した赤色の水性顔料分散液250部を添加し、合計を1000質量部とした。そして、10分撹拌後、5μmのメンブランフィルターで濾過して粗粒を除き、赤色のインクジェット用インク-1を得た。得られた赤色のインクジェット用インク-1の粘度は、25℃で3.53mPa・sであった。赤色のインクジェット用インク-1について、その他の物性値を表4に示した。
【0064】
(製造例2~4:実施例2~4のインクジェット用インク-2~-4)
製造例1で使用したC.I.ピグメントレッド 122(大日精化工業製)150質量部を、それぞれ、C.I.ピグメントブルー 15:3(大日精化工業製)、C.I.ピグメントイエロー155(クラリアントジャパン製)、C.I.ピグメントブラック7(デグサ)に替えた以外は製造例1と同様にして、青色のインクジェット用インク(粘度は、25℃で3.22mPa・s)、黄色のインクジェット用インク(粘度は、25℃で3.90mPa・s)、黒色のインクジェット用インク(粘度は、25℃で3.10mPa・s)を得た。これらの各色のインクジェット用インクについて、その他の物性値を表4に示した。
【0065】
(製造例5:実施例5の白色のインクジェット用インク)
イオン交換水271質量部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル50質量部に、顔料分散剤として、スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸ラウリル/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/メタクリル酸(30/20/20/15/15質量比)共重合体(数平均分子量=15000)のアンモニア中和物の水溶液(固形分28.0%)の179質量部を溶解し、この中に、C.I.ピグメントホワイト6(石原産業業製)500質量部を添加し、ディゾルバーで十分撹拌混合して、顔料と顔料分散剤とを含む混合物を得た。
【0066】
この混合物を、直径1mmのジルコニアビーズを分散メディアとし、分散メディアの容積率が40容量%であるペイントシェイカーに入れて、120分間分散させることにより顔料分散液を得た。その後、10μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒を除き、顔料濃度が50%である白色の水性顔料分散液を得た。
【0067】
次いで、イオン交換水577部と、アンモニア水3部を別容器に混合して均一化し、ディスパーで撹拌しながら、合成例1で得られたメタクリル樹脂-1を90部添加して、メタクリル樹脂の水溶液を作製した。この結果、半透明の白っぽいエマルジョンが得られた。これに、ジエチレングリコールモノブチルエーテル120質量部、フッ素系界面活性剤であるサーフロンS-211の1%水溶液30質量部、先に調製した白色の水性顔料分散液180部を添加し、合計を1000質量部とした。そして、10分撹拌後、5μmのメンブランフィルターで濾過して粗粒を除き、白色のインクジェット用インクを得た。得られた白色のインクの粘度は、25℃で5.12mPa・sであった。得られた白色のインクジェット用インクについて、その他の物性値を表4に示した。
【0068】
(製造例6:実施例6の赤色のインクジェット用インク-2)
製造例1で使用した、顔料分散剤であるスチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸ラウリル/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/メタクリル酸(30/20/20/15/15質量比)共重合体(数平均分子量15000)のアンモニア中和物の水溶液(固形分28.0%)の替わりに、先の合成例8で得たメタクリル樹脂-8を使用した以外は同様にして、インクジェット用インクの作製を行った。これを赤色のインクジェット用インク-2とする。すなわち、この例では、顔料分散剤として、本発明で規定するブロックコポリマーを利用している。
【0069】
表4に、実施例1~6の各色のインクジェット用インクの物性をまとめて示した。
【0070】
(製造例7~14、比較製造例1:実施例7~14の赤色のインク-3~-10、比較例1の比較赤色インク-1)
製造例1で使用したメタクリル樹脂-1を、合成例2~9及び比較合成例1でそれぞれに得た、メタクリル樹脂-2~9と、比較メタクリル樹脂-1に、それぞれ替えた以外は製造例1と同様にして赤色のインクジェット用インクの調製を行った。得られた各インクを、赤色インク-3~-10と、比較赤色インク-1とし、その物性を表5にまとめて示した。
【0071】
【0072】
(製造例15~17:実施例15~17の赤色のインク-11~-13)
製造例1のインク処方時に使用したジエチレングリコールモノブチルエーテルを、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルに替えた以外は製造例1と同様にして赤色のインクジェット用インクの調製を行い、得られたインクを赤色インク-11とした。また、トリエチレングリコールジメチルエーテルに替えた以外は製造例1と同様にして得た赤色のインクジェット用インクを、赤色インク-12とし、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルに替えた以外は製造例1と同様にして得た赤色のインクジェット用インクを、赤色インク-13とした。得られた赤色インク11~13の物性を。それぞれ表6にまとめて示した。なお、顔料分散剤は、製造例1で使用したものと全て同様のものを用いた。
【0073】
(比較製造例2、3:比較例2、3の赤色の比較インク-2、-3)
製造例1のインク処方時に使用したジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)を、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)に替えた以外は製造例1と同様にして赤色のインクジェット用インクの調製を行い、得られたインクを比較赤色インク2とした。また、エチレングリコールに替えた以外は製造例1と同様にして得た赤色のインクジェット用インクを、比較赤色インク3とした。比較赤色インク2、3の物性を表6にまとめて示した。
【0074】
【0075】
(実施例18~27:インクジェット印刷方法)
表7に示した実施例の赤色インク-1~-10をそれぞれに用い、プレートヒーター付きインクジェット印刷機〔(株)マスターマインド製のMMP825H(商品名)〕を使用して、下記のようにしてインクジェット記録方式で画像を印刷した。具体的には、表面処理を施してないポリ塩化ビニルフィルム〔コントロールタック180-10(商品名)、3M社製、「塩ビ」と略記〕を、予めプレートヒーターで表面温度が50℃になるように加熱してから印刷した。この結果、実施例18~27の印刷方法では、レベリング性に問題なく、良好な画像が印刷できた。
【0076】
次いで、実施例18~27の印刷方法でそれぞれ得られた画像について、セロハンテープ剥離試験にて密着性の確認を行った。方法としては、印刷後、印刷物をドライヤーで十分に乾燥させ、ベタ部分にセロテープ(登録商標)を十分に押し当て、セロテープ(登録商標)を剥がした時の印刷物の剥がれ具合を目視で観察した。そして、以下の基準で評価した。
◎:全く剥がれない
○:僅かに剥がれる
△:剥がれる面積の方が小さい
×:剥がれる面積の方が大きい
【0077】
その結果、実施例18~27の印刷方法でそれぞれ得られた画像については、ほとんど剥離することなく、良好であった。特に、実施例19のインクはまったく剥がれていなかった。これは分散剤に本発明のメタクリル樹脂を使用したためと考えられる。
【0078】
(比較例4:インクジェット印刷方法)
比較赤色インク-1を用いた以外は実施例18~27と同様の方法で、表面処理を施してない塩ビを被印刷基材とし、その表面温度が50℃になるように加熱してからインクジェット印刷した。この結果、比較例4の印刷方法では、筋が入ってしまい良好な印画物を得ることができなかった。その理由は、本比較例の印刷方法で使用した比較例1の水性インクジェット用インクの比較赤色インク-1では、バインダーとして添加したメタクリル樹脂にランダム型のポリマーを使用しており、吐出の際、液滴がスプラッシュし、吐出性が悪いためであると考えられる。また、得られた画像について、実施例18~27の場合と同様にしてセロハンテープ剥離試験を行った。その結果、比較例4の印刷方法で得られた画像では、画像がセロテープ(登録商標)で剥離し、密着性が劣るものであった。
【0079】
(比較例5:インクジェット印刷方法)
赤色インク-2を用いた実施例19で、被印刷基材に使用したポリ塩化ビニルフィルムを加熱せず、表面温度が25℃である以外は実施例19と同様にして印刷した。その結果、ポリ塩化ビニルフィルム表面でインクが弾いてしまい、充分にレベリングせず、セロハンテープ剥離試験の結果も密着性が劣るものであり、良好な画像が印刷できなかった。表7に示したように、実施例19と比較例5の評価結果から、予め被印刷基材を加温しておくことが有効であることが確認できた。
【0080】
(実施例28~30:インクジェット印刷方法)
実施例18で使用した赤インク-1を、赤色インク-11~-13にそれぞれ変えた以外は実施例18と同様にインクジェット印刷した。その結果、実施例28~30のいずれの場合も、吐出性、レベリング性、得られた画像の密着性とも良好であった。
【0081】
(比較例6、7:インクジェット印刷方法)
実施例18で使用した赤インク-1を、赤色比較インク-2、-3にそれぞれ変えた以外は実施例18と同様に印刷した。その結果、表7に示したように、比較例6の印刷方法の場合は、インク中の水溶性溶媒であるエチレングリコールモノブチルエーテルの乾燥性が速いためインクの乾燥も速くなり、ノズル詰まりを起こし、吐出性は不良であった。レベリング性、得られた画像の密着性にも劣っていた。また、比較例7は、吐出性は良好であるものの、水溶性溶媒であるエチレングリコールの溶解力が弱いために、インクが塩ビ表面ではじいてしまい、レベリング性が不良であった。
【0082】
【0083】
(実施例31:インクジェット印刷方法)
実施例1~5の5色のインクを使用しフルカラー印刷をし、実施例18と同様の方法で印刷を行い、評価したところ、インクの吐出性、レベリング性、得られた画像の密着性とも良好であった。
【0084】
(実施例32~41:インクジェット印刷方法)
実施例の赤色のインクジェット用インク-1~-10をそれぞれに用い、プレートヒーター付きインクジェット印刷機〔(株)マスターマインド製のMMP825H(商品名)〕を使用して、下記のようにしてインクジェット記録方式で画像を印刷した。具体的には、表面処理を施してないポリプロピレンフィルム〔ユポ80(UV)KV11(商品名)、リンテック社製、「PP」と略記)を、予めプレートヒーターで表面温度が50℃になるように加熱してから印刷した。この結果、実施例32~41の印刷方法では、吐出性、レベリング性とも良好な印刷ができた。
【0085】
次いで、実施例32~41の印刷方法でそれぞれ得られた画像について、先に行ったのと同様のセロハンテープ剥離試験を行った。その結果、実施例の各インクジェット用インクを用いた実施例の印刷方法で得られた画像は、すべてほとんど剥離することがなかった。特に、表8に示したように、バインダー樹脂として、TBCHMAを形成成分とするメタクリル樹脂を使用した各インクを用いた、実施例34、38~40の印刷方法で得られたに画像では全く剥離していなかった。
【0086】
(比較例8:インクジェット印刷方法)
比較赤色インク-1を用いた以外は、実施例32~41の印刷方法と同様の方法で、表面処理を施してないPPを被印刷基材とし、その表面温度が50℃になるように加熱してからインクジェット印刷した。この結果、比較例8の印刷方法では、筋が入ってしまい良好な印画物を得ることができなかった。その理由は、比較赤色インク-1の水性インクジェット用インクでは、バインダーとして添加したメタクリル樹脂にランダム型のポリマーを使用しており、吐出の際、液滴がスプラッシュし、吐出性が悪いためであると考えられる。また、得られた画像について、前記したと同様にしてセロハンテープ剥離試験を行った。その結果、比較例8の印刷方法で得られた画像では若干の剥がれが見られ、実施例の場合に比べて密着性に若干劣るものであった。
【0087】
(比較例9:インクジェット印刷方法)
赤色インク-3を用いた実施例34で、被印刷基材に使用したポリプロピレンフィルムを加熱せず、表面温度が25℃である以外は実施例34と同様にしてインクジェット印刷した。その結果、ポリプロピレンフィルム表面でインクが弾いてしまい、充分にレベリングせず、良好な画像が印刷できなかった。また、得られた画像のセロハンテープ剥離試験の結果も密着性が劣るものであった。実施例34と比較例9の印刷方法の評価結果の比較から、予め被印刷基材を加温しておくことが有効であることが確認できた。
【0088】
(実施例42:インクジェット印刷方法)
実施例1~5の5色のインクを使用しフルカラー印刷をし、実施例32と同様の方法で印刷を行い、評価したところ、インクの吐出性、レベリング性、得られた画像の密着性とも良好であった。
【0089】
【0090】
(実施例43~52:インクジェット印刷方法)
赤色水性インクジェット用インク-1~-10を用い、前記したと同様のプレートヒーター付きインクジェット印刷機で、下記のようにしてインクジェット記録方式で画像を印刷した。具体的には、表面処理を施してないポリエチレンフィルム〔LDPEフィルム、30μ、タキガワ社製、「PE」と略記)を、予めプレートヒーターで表面温度が50℃になるように加熱してから印刷した。この結果、実施例43~52の印刷方法では、良好な画像が印刷できた。
【0091】
次いで、実施例43~52の印刷方法でそれぞれ得られた画像について、先に行ったと同様のセロハンテープ剥離試験を行ったところ、実施例の各インクジェット用インクを用いた実施例の印刷方法で得られた画像は、すべてほとんど剥離することがなかった。特に、表9に示したように、バインダー樹脂として、TBCHMAを形成成分とするメタクリル樹脂を使用した各インクを用いた、実施例45、49~51の印刷方法で得られたに画像では全く剥離していなかった。
【0092】
(比較例10:インクジェット印刷方法)
赤色比較インク-1を用い、実施例43~52の印刷方法と同様の方法で、表面処理を施してないPEを被印刷基材とし、その表面温度が50℃になるように加熱してからインクジェット印刷した。その結果、比較例1の水性インクジェット用インクを用いた方法では、筋が入ってしまい良好な印画物を得ることができなかった。その理由は、メタクリル樹脂にランダム型のポリマーを使用しており、スプラッシュがあり、吐出性が悪いためであると考えられる。また、得られた画像について、前記したと同様にしてセロハンテープ剥離試験したところ、画像に若干の剥がれが見られ、実施例の場合に比べて密着性に若干劣るものであった。
【0093】
(比較例11:インクジェット印刷方法)
赤色インク-3を用いた実施例45で、被印刷基材のポリエチレンフィルムを加熱せず、表面温度が25℃である以外は実施例45と同様にしてインクジェット印刷した。この結果、ポリエチレンフィルム表面でインクが弾いてしまい、充分にレベリングせず、良好な画像が印刷できなかった。また、得られた画像のセロハンテープ剥離試験の結果も密着性が劣るものであった。実施例45と比較例11の印刷方法の評価結果の比較から、予め被印刷基材を加温しておくことが有効であることが確認できた。
【0094】
(実施例53)
実施例1~5の5色のインクを使用しフルカラー印刷をし、実施例43と同様の方法で印刷を行い、評価したところ、インクの吐出性、レベリング性、画像の密着性とも良好であった。
【0095】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、表面処理を施してないポリ塩化ビニル系基材、或いは表面処理を施してないポリプロピレン系基材、或いは表面処理を施してないポリエチレン系基材に、優れた色調を発現しつつ、目的とする色を具備した明瞭な、密着性のよいカラー印刷像を現出できる水性インクジェット用インクを提供できるので、広範な利用が期待される。