(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-31
(45)【発行日】2022-02-08
(54)【発明の名称】カラムハードウェア及び分離カラム並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/60 20060101AFI20220201BHJP
G01N 30/56 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
G01N30/60 Z
G01N30/56 E
(21)【出願番号】P 2020532362
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028532
(87)【国際公開番号】W WO2020022226
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018138066
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390030188
【氏名又は名称】ジーエルサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100063842
【氏名又は名称】高橋 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118119
【氏名又は名称】高橋 大典
(72)【発明者】
【氏名】本川 正規
(72)【発明者】
【氏名】橋本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】加納 未夏
(72)【発明者】
【氏名】村山 希
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-131301(JP,A)
【文献】特開平10-067933(JP,A)
【文献】特開平10-282078(JP,A)
【文献】信越化学工業株式会社,珪素化合物試薬,カタログ,信越化学工業株式会社,2017年09月,p.68,72,74,https://www.silicone. jp/catalog/pdf/LS_j.pdf
【文献】WROBEL, A. M. et al.,Mechanism of Amorphous Silica Film Formation from Tetraethoxysilane in Atomic Oxygen-Induced Chemical Vapor Deposition,J. Electrochem. Soc.,1998年,Vol.145, No.8,p.2866-2876
【文献】KIM, J.-H. et al.,Control of the pore-opening size of HY zeolite by CVD of silicon alkoxide,Microporous and Mesoporous Materials,1999年,Vol.32,p.37-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/60
G01N 30/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO
2の第一の膜が設けられ、
前記第一の膜の表面には前記第一の膜の原料由来のアルキル基の一部が残っており、前記第一の膜上に、SiO
2表面のシラノール基がアルキルシリル化されて作製された第二の膜が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項2】
前記アルキル基はメチル基、エチル基、プロピル基から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項3】
前記アルキル基はメチル基、エチル基から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項4】
前記アルキル基はメチル基であることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項5】
前記第二の膜は、前記第一の膜のSiO
2表面のシラノール基がアルキルシリル化されて作製された膜で構成されていることを特徴とする
請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項6】
前記第一の膜の原料が、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ジプロピルジアルコキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンやオクタメチルシクロテトラシロキサン
であるジメチル型環状シロキサン、ジエチル型環状シロキサン、ジプロピル型環状シロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンやデカメチルテトラシロキサン
である直鎖状ポリジメチルシロキサン、直鎖状ポリジエチルシロキサン、直鎖状ポリジプロピルシロキサンから選択される1種以上であることを特徴とする
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項7】
前記第一の膜の原料が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする
請求項6に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項8】
前記第二の膜の原料が、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項9】
前記第二の膜の原料が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルプロポキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする
請求項8に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項10】
前記第二の膜は、SiO
2表面のシラノール基がメチルシリル化されて作製された膜で構成されていることを特徴とする
請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項11】
前記第二の膜は、SiO
2表面のシラノール基がエチルシリル化されて作製された膜で構成されていることを特徴とする
請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項12】
前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアを構成するカラム管の内径が1.0mm以上であり、長さは10m以下であることを特徴とする
請求項1から請求項11のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項13】
前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアを構成するカラム管の内径が2.1mm以上であることを特徴とする
請求項1から請求項12のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項14】
前記第一の膜は、1種以上の原料から構成された第一の層の一層で構成されていることを特徴とする
請求項1から請求項13のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項15】
液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO
2
の第一の膜が設けられ、前記第一の膜上に、SiO
2
表面のシラノール基がアルキルシリル化されて作製された第二の膜が設けられ、前記第一の膜は、1種以上の原料から構成された第一の層に、前記第一の層を構成する原料とは異なる種の1種以上の原料から構成された第二の層が一層以上積層されて構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項16】
前記第一の膜の表面は、ジメチルジエトキシシランを原料とする前記第二の層で構成されていることを特徴とする
請求項15に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項17】
前記第二の膜の疎水性相互作用特性は、前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填される充填剤の疎水性相互作用特性以下の強さであることを特徴とする
請求項1から請求項16のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項18】
移動相接液部がSiO
2膜で被覆された液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの
前記SiO
2
膜の表面には前記SiO
2
膜の原料由来のアルキル基の一部が残っており、前記SiO
2膜の表面
のシラノール基がアルキルシリル化されていることを特徴とする液体
クロマトグラフィー用カラムハードウェア。
【請求項19】
請求項1から請求項18のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤が充填されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用分離カラム。
【請求項20】
液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO
2の第一の膜を設け、
前記第一の膜の表面には前記第一の膜の原料由来のアルキル基の一部を残し、前記第一の膜上に、SiO
2表面のシラノール基がアルキルシリル化された第二の膜を設けることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法。
【請求項21】
液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部をSiO
2の第一の膜で被覆し、前記第一の膜のSiO
2表面のシラノール基をアルキルシリル化して前記第二の膜を作製することを特徴とする
請求項20に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法。
【請求項22】
前記第一の膜の原料が、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ジプロピルジアルコキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンやオクタメチルシクロテトラシロキサン
であるジメチル型環状シロキサン、ジエチル型環状シロキサン、ジプロピル型環状シロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンやデカメチルテトラシロキサン
である直鎖状ポリジメチルシロキサン、直鎖状ポリジエチルシロキサン、直鎖状ポリジプロピルシロキサンから選択される1種以上であることを特徴とする
請求項20又は請求項21に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法。
【請求項23】
前記第二の膜の原料が、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする
請求項20から請求項22のうちいずれか1項に記載の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェア及び分離カラムに関し、より詳細には、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)又は超高性能液体クロマトグラフィー(UHPLC)に用いるカラムハードウェア及び分離カラムに関し、更にはそれらの製造方法に関する。
【0002】
ここで、「高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)」は、最大40MPaの圧力下で実行される液体クロマトグラフィーを意味する。又、「超高性能液体クロマトグラフィー(UHPLC)」は、40MPaより大きく130MPaまでの圧力下で実行される液体クロマトグラフィーを意味する。又、「分離カラム」は、液体クロマトグラフィーにおいて使用される装置であり、以下、「分離カラム」を単に「カラム」ともいう。
【0003】
「カラムハードウェア」は、分離カラムの充填層以外の構成部分であり、試料を含む移動相が接液又は接触し、通り抜ける流路を持つ部品である、カラム管、フリット(フィルター)、エンドユニオン、分散盤、フィルターアセンブリ、フィルターインサートアセンブリの内の一部又は全部を備えて構成された、分離カラムの構成部分をいう。
【0004】
カラム管とエンドユニオンの接続は、カラム管の端部の外側と、エンドユニオンの内側にそれぞれ溝を切り、カラム管とエンドユニオンを螺合させて接続する場合がある。又、ナットとフェラルをカラム管の端部に通し、外側に溝を切ったエンドユニオンとフェラルを螺合することで、ナットで締められて固定されたカラム管とエンドユニオンを接続する場合がある。
【背景技術】
【0005】
HPLC又はUHPLCにおいて、分離の高速化、即ち、短時間に大きな理論段数を発生させて分離時間を短縮するためには、小さな充填剤が詰められたカラムを使用することが必要である。しかし、小さなカラム充填剤は、試料を含む移動相(以下単に「移動相」ともいう。)が通る流路を構成する充填剤の間隙を小さくするので、移動相の送液のために高い圧力を必要とする。そこで、充填剤が内部に入れられるカラム管をはじめとする移動相の流路を持つカラムハードウェアには、高い圧力に耐えられるように、ステンレス等の金属が用いられている。
【0006】
しかし、金属製のカラムハードウェアには、カラム管内壁やフリット表面等の移動相との接液部に金属の露出があるため、HPLC又はUHPLCでの分析中に、金属製のカラムハードウェアの金属の露出部分に、試料中の溶質が非特異的な金属配位吸着を起こし、溶質のピーク形状が崩れることがある。
【0007】
上記の金属配位吸着を防ぐため、管腔、通路又は空洞を有する金属製の部品の管腔、通路又は空洞の内面を、気相処理により保護的なコーティングとしてSiO2等の酸化金属膜を形成する技術が提案されている(特許文献1)。
【0008】
又、液体クロマトグラフィーによってサンプルを分離するため、金属シートの拡散結合により作製されたマイクロ流体デバイスにおいて、分離中にデバイスが移動相で濡れる面と分析物又はサンプルとの相互作用が低減又は防止されるように、分離中にデバイスが移動相で濡れる面に化学気相成長により無機酸化物、典型的にはSiO2等の酸化金属膜を形成し、更に所望の疎水性又は親水性を有する有機材料を含む有機コーティングを共有結合させる技術が提案されている(特許文献2)。
【0009】
又、液体クロマトグラフ用カラム管をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂で作製し、外表面を金属種の膜で被覆することで、カラムを高耐圧としながら、上記の金属配位吸着を防ぐ技術が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-21965号公報
【文献】特表2013-527432号公報
【文献】特開2011-106833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1で開示されているように、移動相が接液する流路である金属製の部品の管腔、通路又は空洞の内面にSiO2等の酸化金属膜を形成した管腔、通路又は空洞を有する金属製の部品では、酸化金属膜を形成しない場合に比べて、試料中の溶質の非特異的な金属配位吸着を低減することは出来るが、形成した酸化金属膜の表面に露出する複数のヒドロキシル基、例えばシラノール基、と移動相中に溶けている金属が相互作用し、試料中の溶質の金属配位吸着の原因となる。このため、溶質の金属配位吸着によるピーク形状の崩れを防ぐことは出来ない。又、上記酸化金属膜の表面に露出するヒドロキシル基と、試料中の塩基性の溶質や分子中に塩基を持つ溶質が非特異的な吸着を起こし、溶質のピーク形状が崩れることがある。
【0012】
又、特許文献2で開示されているように、移動相が接液する流路であるデバイスが移動相で濡れる面に無機酸化物、典型的にはSiO2等の酸化金属膜を形成し、更に所望の疎水性又は親水性を有する有機材料を含む有機コーティングを共有結合させた金属製のマイクロ流体デバイスでは、試料中の溶質の非特異的な金属配位吸着を低減し、酸化金属膜の表面のヒドロキシル基を低減することで、溶質の金属配位吸着や、塩基性等の溶質の非特異的吸着によるピーク形状の崩れを防げる可能性がある。
【0013】
しかし、特許文献2で開示された技術では、有機コーティングを流路に施した後、その流路にどのような充填剤が詰められるべきかについては開示も示唆もされておらず、有機コーティングの種類によっては、充填剤よりも強い相互作用特性を持つことになり、流路からの試料中の溶質の溶出を妨げてしまう可能性がある。有機コーティングの例としてC8又はC10脂肪族炭化水素鎖が挙げられているが、逆相クロマトグラフィーを行うための充填剤がブチルシリル化シリカゲルの場合は、有機コーティング層の方が充填剤よりも試料中の疎水性の溶質との疎水性相互作用特性が強くなり、充填剤に最適化された移動相では、試料中の溶質が溶出しない可能性や、試料中の溶質のピーク形状が崩れてしまう可能性がある。
【0014】
又、特許文献2で開示された技術では、酸化金属膜を作製するための原料及び有機コーティングのための原料、又はこれらの原料の組み合わせにより、移動相が接液する流路の表面に作製される膜の成分が変わり、上記ピーク形状の崩れをどれだけ防げるかが変化すると考えられるが、特許文献2には移動相が接液する流路の表面に作製される膜の具体的な原料や原料の組み合わせを始め、具体的な作製条件については開示も示唆もされておらず、上記ピーク形状の崩れを防ぐことが出来るか又は防げたとしてどれだけ防ぐことが出来るかが不明である。
【0015】
又、特許文献3で開示された技術のように、液体クロマトグラフ用カラム管をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂で作製し、外表面を金属種の膜で被覆した場合では、HPLC又はUHPLCでの分析中の、試料中の溶質の非特異的な金属配位吸着を防ぐことは出来るが、PEEK樹脂の影響で、試料中の疎水性の強い溶質が非特異的な吸着を起こし、溶質のピーク形状が崩れることがある。
【0016】
そこで、本発明は、HPLC又はUHPLCでの分析において、金属製カラムハードウェアカラムを用いて高耐圧としながら、試料中の溶質の非特異的な金属配位吸着を防ぐと共に、塩基性の溶質の非特異的な吸着及び疎水性の強い溶質の非特異的な疎水性吸着を防ぐことを目的とする。又、溶質のピーク形状を良好とすることを目的とする。又、分離カラムに、低濃度の溶質を、高速で且つ正確に定性及び/又は定量が出来る性能を付与することを目的とする。又、クロマトグラフィー用充填剤が詰められたカラムハードウェアにおいて、試料中の溶質の溶出を妨げずに使用可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための手段としての本発明は、金属製カラムハードウェアの移動相と接液する移動相接液部に、適切な材料を使用し、適切な作製条件でSiO2を含んだ膜を作製し、更に適切な材料を使用してSiO2のアルキルシリル化を行うものである。
【0018】
具体的には、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO2の第一の膜が設けられ、前記第一の膜上に、SiO2表面のシラノール基がアルキルシリル化されて作製された第二の膜が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0019】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第二の膜は、前記第一の膜のSiO2表面のシラノール基がアルキルシリル化されて作製された膜で構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0020】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第一の膜の原料が、無機ポリシラザン、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルモノアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、トリエチルモノアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ジプロピルジアルコキシシラン、トリプロピルモノアルコキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンやオクタメチルシクロテトラシロキサン等のジメチル型環状シロキサン、ジエチル型環状シロキサン、ジプロピル型環状シロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンやデカメチルテトラシロキサン等の直鎖状ポリジメチルシロキサン、直鎖状ポリジエチルシロキサン、直鎖状ポリジプロピルシロキサンから選択される1種以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0021】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第一の膜の原料が、パーヒドロポリシラザン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0022】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第二の膜の原料が、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0023】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第二の膜の原料が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルプロポキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0024】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第二の膜は、SiO2表面のシラノール基がメチルシリル化されて作製された膜で構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0025】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第二の膜は、SiO2表面のシラノール基がエチルシリル化されて作製された膜で構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0026】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアを構成するカラム管の内径が1.0mm以上であり、長さは10m以下であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0027】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアを構成するカラム管の内径が2.1mm以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0028】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第一の膜は、1種以上の原料から構成された第一の層の一層で構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0029】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第一の膜は、1種以上の原料から構成された第一の層に、前記第一の層を構成する原料とは異なる種の1種以上の原料から構成された第二の層が一層以上積層されて構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0030】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第一の膜の表面は、ジメチルジエトキシシランを原料とする前記第二の層で構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0031】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、前記第二の膜の疎水性相互作用特性は、前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填される充填剤の疎水性相互作用特性以下の強さであることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。
【0032】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、移動相接液部がSiO2膜で被覆された液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの前記SiO2膜の表面がアルキルシリル化されていることを特徴とする液体クロマトフラフィー用カラムハードウェアである。
【0033】
又、上記の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤が充填されていることを特徴とする液体クロマトグラフィー用分離カラムである。
【0034】
又、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO2の第一の膜を設け、前記第一の膜上に、SiO2表面のシラノール基がアルキルシリル化された第二の膜を設けることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。
【0035】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法において、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部をSiO2の第一の膜で被覆し、前記第一の膜のSiO2表面のシラノール基をアルキルシリル化して前記第二の膜を作製することを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。
【0036】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法において、前記第一の膜の原料が、無機ポリシラザン、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルモノアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、トリエチルモノアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ジプロピルジアルコキシシラン、トリプロピルモノアルコキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンやオクタメチルシクロテトラシロキサン等のジメチル型環状シロキサン、ジエチル型環状シロキサン、ジプロピル型環状シロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンやデカメチルテトラシロキサン等の直鎖状ポリジメチルシロキサン、直鎖状ポリジエチルシロキサン、直鎖状ポリジプロピルシロキサンから選択される1種以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。
【0037】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法において、前記第二の膜の原料が、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランから選択される1種以上であることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。
【0038】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法において、前記第一の膜の作製は、真空度-0.099MPa以上の真空中で、SiO2の第一の膜の原料を希釈したガスを拡散させて前記移動相接液部に接触させ、酸素及び/又はオゾンを導入して前記移動相接液部に接触させ、300℃以上の加熱を90分間以上行うことを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。
【0039】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法において、前記第二の膜の作製は、真空度-0.099MPa以上の真空中で、原料を希釈したガスを拡散させて第一の膜の表面に接触させ、300℃以上の加熱を1時間以上行うことを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。
【0040】
又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法で製造した液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤を充填することを特徴とする液体クロマトグラフィー用分離カラムの製造方法である。
【発明の効果】
【0041】
以上のような本発明によれば、カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO2の膜を作製し、続いてSiO2の膜上に、SiO2表面のシラノール基がアルキルシリル化された第二の膜を設けることにより、HPLC又はUHPLCでの分析において、カラムの高耐圧性を維持しながら、試料中の溶質の非特異的な金属配位吸着を防ぐと共に、塩基性の溶質の非特異的な吸着及び疎水性の強い溶質の非特異的な疎水性吸着を防ぐことが可能となった。又、溶質のピーク形状を良好とすることが可能となった。又、分離カラムに、低濃度の溶質を、高速で且つ正確に定性及び/又は定量が出来る性能を付与することが可能となった。又、クロマトグラフィー用充填剤が詰められたカラムハードウェアにおいて、試料中の溶質の溶出を妨げずに使用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】(A)コーン(分散スペース)を含むカラムハードウェア入口側構造の概略図(B)分散盤を含むカラムハードウェア入口側構造の概略図
【
図2】(A)コーン(分散スペース)を含むカラムハードウェア入口側構造の移動相接液部を示す概略図(B)分散盤を含むカラムハードウェア入口側構造の移動相接液部を示す概略図
【
図3】本発明のカラムハードウェアの移動相接液部に作製された膜の概念図
【
図4】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(C)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図5】本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図6】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図7】本発明の、第二の膜の作製時間を2時間としたカラムハードウェアを用いた分析結果から得られたピーク面積値の、比較例との相対値を示したグラフ
【
図8】本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図9】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図10】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(C)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図11】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(C)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図12】本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図13】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)比較例のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図14】(A)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム(B)本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【
図15】本発明のカラムハードウェアを用いた分析結果のクロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの、試料を含む移動相と接液する部分である金属製の移動相接液部にSiO2の第一の膜が設けられ、第一の膜上にSiO2表面のシラノール基がアルキルシリル化された第二の膜が設けられた液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアである。又、前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤が充填されている液体クロマトグラフィー用分離カラムである。又、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部に、原料の酸化及び加熱により、SiO2の第一の膜を作製し、第一の膜上に、SiO2表面のシラノール基を、原料の加熱により、アルキルシリル化して、第二の膜を作製する液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法である。又、前記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤が充填されて作製される液体クロマトグラフィー用分離カラムの製造方法である。
【0044】
「カラムハードウェア」は、分離カラムの充填層以外の構成部分であり、試料を含む移動相が接液又は接触し、通り抜ける流路を持つ部品である、カラム管、フリット(フィルター)、エンドユニオン、分散盤、フィルターアセンブリ、フィルターインサートアセンブリ等の部品の内の一部又は全部を備えて構成された、分離カラムの構成部分をいう。カラムハードウェアを構成する部品が全て金属製であってもよいが、一部の部品が金属製で他の一部の部品が合成樹脂製等であって金属製でない構成のものを含む。
【0045】
「移動相接液部」とは、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアにおいて、液体クロマトグラフィーによる分析時に、試料を含む移動相(溶離液)が接液する部分をいう。具体的には、移動相接液部には、カラム管、フリット(フィルター)、エンドユニオン、分散盤、フィルターアセンブリ及びフィルターインサートアセンブリの内表面、フリット(フィルター)及び分散盤の外表面が含まれる。
【0046】
「金属製の移動相接液部」とは、金属製の部品における移動相接液部である。カラムハードウェアは、金属製の移動相接液部に第一の膜及び第二の膜が積層された構成であるが、金属製でない部品の移動相接液部には、第一の膜及び第二の膜が積層された構成でもよいが、積層されていない構成でもよい。
【0047】
図1に、第一の膜及び第二の膜を作製していない状態の、カラムハードウェア1の一端部の概略図を示す。カラムハードウェア1は、図示はしないが、更にカラム管21の他端部に同様な構成を備えて構成されている。
図1(A)は、カラム管21、フリット(フィルター)22、エンドユニオン23を備え、エンドユニオン内流路230にコーン(分散スペース)231を備えたカラムハードウェア11の入口側部分の構造の概略図であり、カラムハードウェア11の出口側の構造にも同じ部品が使用されてカラムハードウェア11が構成されている。
図1(B)は、カラム管21、フリット(フィルター)22、エンドユニオン23、分散盤24を備えたカラムハードウェア12の入口側部分の構造の概略図であり、カラムハードウェア12の出口側の構造にも同じ部品が使用されてカラムハードウェア12が構成されている。
【0048】
図2(A)は、
図1(A)に示した、コーン(分散スペース)231を備えたカラムハードウェア11の入口側構造部分の、移動相接液部3を示す概略図であり、
図2(B)は、
図1(B)に示した、分散盤24を含むカラムハードウェア12の入口側構造部分の、移動相接液部3を示す概略図である。尚、図示はしないが、夫々出口側の構造部分にも同等の移動相接液部が構成されている。
【0049】
図3に、カラムハードウェア1の金属製の移動相接液部3に作製された膜4の概念図を示す。移動相接液部3に第一の膜41を備え、第一の膜41上に、第二の膜42を備えている。詳しくは、移動相接液部3には、移動相接液部3を被覆するSiO
2の第一の膜41が設けられ、更に、第一の膜41上には、第一の膜41を被覆する、詳しくは、第一の膜41の移動相接液部3とは反対側の表面411を被覆する、SiO
2表面のシラノール基がアルキルシリル化されて構成された第二の膜42が設けられている。このようにして、カラムハードウェア1は、カラムハードウェア1の移動相接液部3に第一の膜41が積層され、第一の膜41の表面411に第二の膜42が積層された3層構造で構成されている。
【0050】
SiO2の第一の膜41及びSiO2膜は、SiO2が100質量%で構成されている場合もあるが、SiO2と不可避的不純物や他の成分を含んで構成される場合もある。第一の膜41及びSiO2膜は後述するように、SiO2を作製するための原料を移動相接液部3に接触させて処理することにより作製されるため、反応条件等によっては、SiO2以外の組成も含まれる場合があるためである。従って、第一の膜はSiO2を含む第一の膜ともいえる。
【0051】
第一の膜41はSiO2以外の成分が含まれていても、移動相接液部3を被覆可能であれば、金属製の移動相接液部3に試料が接触することを防止することが出来る。
【0052】
又、第二の膜42も、第一の膜41を被覆するSiO2表面のシラノール基をアルキルシリル化して作製されるため、反応条件等によっては、シラノール基が残存した構成となることもある。
【0053】
金属以外の部品で構成された部分の移動相接液部には、第一の膜41、更には第二の膜42を構成してもよいが、しなくてもよい。
【0054】
第一の膜41は1種の原料から構成された第一の層の一層で構成してもよいが、2種以上の原料から構成された第一の層の一層で構成してもよい。又、1種以上の原料から構成された第一の層の表面に、第一の層を構成する原料とは異なる1種以上の原料から構成された第二の層を一層以上積層して、複数層により第一の膜41を構成することとしてもよい。このように複数層を積層して第一の膜を構成する場合、第一の膜41の表面411となる最上層は、ジメチルジエトキシシランを原料として作製された膜であることが好ましい。このような構成とすることで、ジメチルジエトキシシラン由来のメチル基の一部が第一の膜の表面に残ることにより、第一の膜の表面のSiO2表面のシラノール基の量が少なくなるからである。
【0055】
第一の膜41を作製するための原料は、酸化及び加熱により、移動相接液部3にSiO2を含む膜を作製出来るものであれば特に限定はされないが、無機ポリシラザン、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルモノアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、トリエチルモノアルコキシシラン、プロピルトリアルコキシシラン、ジプロピルジアルコキシシラン、トリプロピルモノアルコキシシラン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンやオクタメチルシクロテトラシロキサン等のジメチル型環状シロキサン、ジエチル型環状シロキサン、ジプロピル型環状シロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンやデカメチルテトラシロキサン等の直鎖状ポリジメチルシロキサン、直鎖状ポリジエチルシロキサン、直鎖状ポリジプロピルシロキサンから選択される1種以上を用いることが出来る。これらの原料は入手し易く、一般的によく使用されているので、これらの使用が好ましい。
【0056】
無機ポリシラザンとしては特に限定はされないが、パーヒドロポリシラザンを用いることが出来る。
【0057】
テトラアルコキシシランとしては特に限定はされないが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第一の膜41を作製することが出来、作製条件が同一であればより厚みを厚くすることが出来るので、テトラプロポキシシランよりテトラエトキシシランが好ましく、テトラエトキシシランよりテトラメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるテトラエトキシシランが好ましい。
【0058】
メチルトリアルコキシシランとしては特に限定はされないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第一の膜41を作製することが出来、作製条件が同一であればより厚みを厚くすることが出来るので、メチルトリプロポキシシランよりメチルトリエトキシシランが好ましく、メチルトリエトキシシランよりメチルトリメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるメチルトリエトキシシランが好ましい。
【0059】
ジメチルジアルコキシシランとしては特に限定はされないが、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第一の膜41を作製することが出来、作製条件が同一であればより厚みを厚くすることが出来るので、ジメチルジプロポキシシランよりジメチルジエトキシシランが好ましく、ジメチルジエトキシシランよりジメチルジメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0060】
又、トリメチルモノアルコキシシランとしては特に限定はされないが、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第一の膜41を作製することが出来、作製条件が同一であればより厚みを厚くすることが出来るので、トリメチルプロポキシシランよりトリメチルエトキシシランが好ましく、トリメチルエトキシシランよりトリメチルメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるトリメチルエトキシシランが好ましい。
【0061】
テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシランについては、複数のアルコキシ基を持つため、複数の分子同士の脱アルコール縮合により、SiO2を主成分とする膜が作製しやすい。よってこの観点からは、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシランの順でSiO2を主成分とする膜が作製しやすい。一方で上述のように、原料由来のメチル基の一部が第一の膜の表面に残った方が、第一の膜の表面のSiO2表面のシラノール基の量が少なくなるため、この観点を合わせると、複数の分子同士の脱アルコール縮合のために分子内に複数のアルコキシ基を持ち、且つ分子内にメチル基を持つメチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシランが好ましい。
【0062】
パーヒドロポリシラザン、メチルトリエトキシシラン及びジメチルジエトキシシランでは、後述する実施例1~実施例3の結果から、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0063】
第二の膜42を作製するための原料は、第一の膜41のSiO2表面のシラノール基と原料の、加熱による縮合反応により、アルキルシリル化出来るものであれば特に限定はされない。ヘキサアルキルジシロキサン、ジアルキルポリシロキサン所謂直鎖状ポリジアルキルシロキサン、ジアルキル型環状シロキサン、アルキルトリハロシラン、ジアルキルジハロシラン、トリアルキルモノハロシラン、ヘキサメチルジシラザン、N-トリメチルシリルイミダゾール、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランから選択される1種以上を用いることが出来るが、原料をカラムハードウェアの第一の膜のSiO2表面のシラノール基と縮合させ、緻密なアルキルシリル化を行うための条件の最適化には、不活性ガスで希釈した原料を拡散させて行い、原料の濃度や加熱時間を調整する方が最適化しやすく、又、縮合の副産物がハロゲン化水素、アンモニア、イミダゾールのような、酸や塩基等の危険性の高いものではない方が良いため、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランから選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0064】
アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシとしては特に限定はされないが、原料となる分子中のアルキル基が短い方が、第一の膜41のSiO2表面のシラノール基を立体障害が少なくアルキルシリル化出来、アルキルシリル化の被覆率が高まるため、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルモノアルコキシシランが最も好ましく、次にエチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、トリエチルモノアルコキシシランが好ましい。
【0065】
メチルトリアルコキシシランとしては特に限定はされないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第二の膜42を作製することが出来、第一の膜の被覆率を増加させることが出来、これらの中ではメチルトリプロポキシシランが脱アルコール縮合の反応にエネルギーが一番必要であるので、メチルトリプロポキシシランよりメチルトリエトキシシランが好ましく、メチルトリエトキシシランよりメチルトリメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるメチルトリエトキシシランが好ましい。
【0066】
エチルトリアルコキシシランとしては特に限定はされないが、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第二の膜42を作製することが出来、第一の膜の被覆率を増加させることが出来、これらの中ではエチルトリプロポキシシランが反応にエネルギーが一番必要であるので、エチルトリプロポキシシランよりエチルトリエトキシシランが好ましく、エチルトリエトキシシランよりエチルトリメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるエチルトリエトキシシランが好ましい。
【0067】
ジメチルジアルコキシシランとしては特に限定はされないが、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第二の膜42を作製することが出来、第一の膜の被覆率を増加させることが出来るので、ジメチルジプロポキシシランよりジメチルジエトキシシランが好ましく、ジメチルジエトキシシランよりジメチルジメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0068】
ジエチルジアルコキシシランとしては特に限定はされないが、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第二の膜42を作製することが出来、第一の膜の被覆率を増加させることが出来るので、ジエチルジプロポキシシランよりジエチルジエトキシシランが好ましく、ジエチルジエトキシシランよりジエチルジメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるジエチルジエトキシシランが好ましい。
【0069】
トリメチルモノアルコキシシランとしては特に限定はされないが、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第二の膜42を作製することが出来、第一の膜の被覆率を増加させることが出来るので、トリメチルプロポキシシランよりトリメチルエトキシシランが好ましく、トリメチルエトキシシランよりトリメチルメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるトリメチルエトキシシランが好ましい。
【0070】
トリエチルモノアルコキシシランとしては特に限定はされないが、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルプロポキシシランを用いることが出来る。エトキシ基の方がプロポキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、メトキシ基の方がエトキシ基よりも第一の膜のSiO2表面のシラノール基との脱アルコール縮合の反応性が高く、脱アルコール縮合の反応性が高いほど、より容易に第二の膜42を作製することが出来、第一の膜の被覆率を増加させることが出来るので、トリエチルプロポキシシランよりトリエチルエトキシシランが好ましく、トリエチルエトキシシランよりトリエチルメトキシシランが好ましい。一方で脱アルコール縮合の副産物であるアルコールの毒性を考慮すると、エタノールが副産物であるトリエチルエトキシシランが好ましい。
【0071】
ジメチルジエトキシシラン及びトリメチルエトキシシランでは、後述する実施例3と実施例9の結果から、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0072】
次に、第一の膜の作製について説明する。第一の膜の作製にあたり、原料をカラムハードウェアの移動相接液部に接触させるためには、溶媒で希釈した原料を塗布してもよいし、不活性ガスで希釈した原料を拡散させてもよい。尚、カラムハードウェアの移動相接液部に第一の膜を作製する際に、その作製方法によっては、移動相接液部のみではなく、移動相接液部を含むカラムハードウェアの表面、例えばカラム管の外表面等に膜が作製されることもある。
【0073】
第一の膜の作製は、原料が無機ポリシラザン、テトラアルコキシシランのように、Si原子に直接共有結合したアルキル基(メチル基等)が無い場合には、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で原料を塗布して又は拡散させてカラムハードウェアの移動相接液部に接触させ、空気中での加熱のみにより、空気中の酸素による酸化と縮合をして行ってもよい。又、空気中での加熱のみの工程による酸化と縮合に替えて、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で、酸素及び/又はオゾンの供給と加熱による酸化と縮合を行ってもよい。尚、空気中での加熱をする場合、縮合反応による第一の膜の作製を促進出来るので、空気中で250℃以上の加熱を3時間以上行うことが好ましい。
【0074】
又、第一の膜の作製は、原料がメチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルモノアルコキシシランのように、Si原子に直接共有結合したメチル基がある場合には、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で原料を塗布して又は拡散させてカラムハードウェアの移動相接液部に接触させ、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で、酸素及び/又はオゾンの供給と加熱による酸化と縮合により行うことが出来る。
【0075】
更に、第一の膜の作製は、原料がエチルトリアルコキシシラン、ジエチルジアルコキシシラン、トリエチルモノアルコキシシランのように、Si原子に直接共有結合したエチル基がある場合には、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で原料を塗布して又は拡散させてカラムハードウェアの移動相接液部に接触させ、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で、酸素及び/又はオゾンの供給と加熱による酸化と縮合により行うことが出来る。
【0076】
又、第一の膜の作製は、原料がプロピルトリアルコキシシラン、ジプロピルジアルコキシシラン、トリプロピルモノアルコキシシランのように、Si原子に直接共有結合したプロピル基がある場合には、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で原料を塗布して又は拡散させてカラムハードウェアの移動相接液部に接触させ、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で、酸素及び/又はオゾンの供給と加熱による酸化と縮合により行うことが出来る。
【0077】
第一の膜の作製は、真空度-0.099MPa以上の真空中で原料を拡散させてカラムハードウェアの移動相接液部表面に接触させ、真空度-0.099MPa以上の真空中で酸素及び/又はオゾンによる酸化と300℃以上の加熱を90分間以上行うことが好ましい。このような方法とすることで、絶対真空を含まない条件下であれば第一の膜の作製が出来、酸素及び/又はオゾンによる酸化と300℃以上の加熱を行うことにより、縮合反応による第一の膜の作製を促進出来るからである。又、酸素及び/又はオゾンによる酸化と300℃以上の加熱を90分間以上行うことにより、金属製カラムハードウェアの移動相接液部の金属の影響を低減出来るからである。
【0078】
更に、内径が小さく、長さが大きいカラムハードウェアへの第一の膜の作製は、原料がメチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、トリメチルモノアルコキシシランのように、Si原子に直接共有結合したメチル基がある場合には、真空度-0.099MPa以上の真空中で、原料を拡散させてカラムハードウェアの移動相接液部表面に接触させ、酸素及び/又はオゾンによる酸化と300℃以上の加熱を4時間以上行うことにより行うことが出来る。
【0079】
第一の膜の作製において、1種の原料で第一の膜を作製することが出来るが、2種以上の原料で一層の第一の膜を作製することが出来る。更に、1種以上の原料で作製された第一の層に、第一の層の原料とは異なる種の1種以上の原料で作製された第二の層を一層以上積層して第一の膜を作製することが出来る。このように複数層を積層して第一の膜を作製する場合、第一の膜の表面となる最上層は、ジメチルジエトキシシランを原料として作製することが好ましい。このような構成とすることで、ジメチルジエトキシシラン由来のメチル基の一部が第一の膜の表面に残った方が、第一の膜の表面のSiO2表面のシラノール基の量が少なくなるからである。
【0080】
又、第一の膜の作製にあたり、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに含まれるカラム管への、不活性ガスで希釈した原料の拡散については、カラム管が円筒管であるため、カラム管の内径が小さいほど、又、カラム管の長さが大きいほど、原料の拡散がし難くなり、第一の膜の作製のための空気中での加熱、又は空気中又は真空中での酸化と加熱のための時間を長くする必要がある。例えば、内径1.0mm、長さ10mのカラム管の場合、内径2.1mm、長さ5cmのカラム管又は内径2.1mm、長さ15cmのカラム管に90分間の酸化と加熱で第一の膜を作製したカラム管と同等の性能を得る場合には、4時間の酸化と加熱を行えばよい。
【0081】
又、内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアでは、厚さ1mm、孔径は1.9μm以下のフリットを使用することが出来、このように孔径が非常に小さいフリットであっても、90分間の酸化と加熱で、所望の性能を得るための第一の膜を作製することが出来る。カラム管の内径が1.0mmのカラムハードウェアでも、充填剤径が1.9μmなら、上記内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアで使用するフリットと同じ厚さ及び孔径を備えたフリットを使用することが出来る。
【0082】
内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアでは、内部加工可能な最も小さい内径の流路を持つエンドユニオンを使用することが出来、エンドユニオン内の流路は、90分間の酸化と加熱で、所望の性能を得るための第一の膜を作製することが出来る。カラム管の内径が1.0mmのカラムハードウェアでも、上記内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアで使用するエンドユニオン内流路と同じ内径及び長さの流路を備えたエンドユニオンを使用することが出来る。
【0083】
つまり、内径1.0mm、長さ10mのカラム管の移動相接液部に、4時間の酸化と加熱を行うことにより、内径2.1mm、長さ5cmのカラム管及び内径2.1mm、長さ15cmのカラム管の移動相接液部に、90分の酸化と加熱を行った場合と同等の性能を得るための第一の膜を作製出来る。
【0084】
次に、第二の膜42の作製について説明する。第二の膜42の作製は、SiO
2を含む第一の膜41表面部分のSiO
2表面のシラノール基をメチルシリル化及びエチルシリル化を含むアルキルシリル化することにより行うことが出来る。又、第二の膜の作製のために、第一の膜41の表面411上に、第一の膜とは別にSiO
2の膜を作製することとしてもよい。例えば、第一の膜41の表面411上に、第一の膜とは別にSiO
2を含む膜を、溶媒に溶かした原料の塗布及び加熱や原料の物理蒸着等により作製し、作製したSiO
2を含む膜の表面部分のSiO
2表面のシラノール基をメチルシリル化及びエチルシリル化を含むアルキルシリル化することにより行うことが出来る。又、「第一の膜上に」とは、
図3に示すように、第一の膜41の表面411上に直接第二の膜42が設けられている他、第一の膜の表面と第二の膜の間に他の膜が設けられ、膜が3層以上積層されている構成も含まれる。例えば、第一の膜41の表面411上に、SiO
2とは別の組成の第三の膜を作製し、その第三の膜の表面上にSiO
2を含む膜を作製し、作製したSiO
2を含む膜の表面部分のSiO
2表面のシラノール基をメチルシリル化及びエチルシリル化を含むアルキルシリル化することにより、第一の膜上に第二の膜の作製を行うことが出来る。第二の膜の作製にあたり、原料をカラムハードウェアの第一の膜の表面411、第一の膜の表面411上に作製された第一の膜とは別のSiO
2を含む膜の表面、又は、第三の膜の表面上に作製されたSiO
2を含む膜の表面に接触させるためには、不活性ガスで希釈した原料を拡散させて行うことが出来、又、溶媒で希釈した原料を塗布して行うことが出来る。尚、第二の膜は移動相接液部上の第一の膜を被覆すればよいが、第一の膜の作製方法及び第二の膜の作製方法によっては、移動相接液部上のみではなく、移動相接液部を含むカラムハードウェアの表面に作製された第一の膜上に作製されることもある。
【0085】
第二の膜の作製は、空気中、不活性雰囲気下又は真空中で原料を塗布して又は拡散させて第一の膜の表面に接触させ、不活性雰囲気下又は真空中で加熱をして行うことが出来るが、真空中で原料を拡散させて第一の膜の表面に接触させ、真空中で加熱をして行うことが好ましい。このような方法によれば、原料が第一の膜の表面に接触する確率が高まり、縮合反応による第二の膜の作製を促進出来るからである。
【0086】
又、第二の膜の作製は、真空度-0.099MPa以上の真空中で原料を拡散させて第一の膜の表面に接触させ、真空度-0.099MPa以上の真空中で300℃以上の加熱を1時間以上行うことが好ましい。このような方法とすることで、絶対真空を含まない条件下であれば第二の膜の作製が出来、300℃以上の加熱により、縮合反応による第二の膜の作製を促進出来ることに加え、第一の膜の表面のシラノール基同士が脱水縮合することも促進出来るからである。又、300℃以上の加熱を1時間以上行うことにより、試料中の溶質の非特異的な吸着を低減し、試料中の低濃度の溶質の、正確な定性及び/又は定量に適したカラムハードウェアを作製出来るからである。
【0087】
更に、第二の膜の作製は、真空度-0.099MPa以上の真空中で原料を拡散させて第一の膜の表面に接触させ、真空度-0.099MPa以上の真空中で300℃以上の加熱を2時間以上行うことがより好ましい。このような方法とすることで、絶対真空を含まない条件下であれば第二の膜の作製が出来、300℃以上の加熱により、縮合反応による第二の膜の作製を促進出来ることに加え、第一の膜の表面のシラノール基同士が脱水縮合することも促進出来るからである。又、300℃以上の加熱を2時間以上行うことにより、試料中の溶質の非特異的な吸着を防ぎ、低濃度の溶質の、正確な定性及び/又は定量により適したカラムハードウェアを作製出来るからである。
【0088】
又、第一の膜及び第二の膜の作製において、クロマトグラムは示していないが、後述する実施例3の第一の膜と第二の膜の作製条件の内、第一の膜の作製時の加熱温度のみを300℃から350℃に変えてUHPLC用カラムを作製し、
図6(A)と同じ条件でクロマトグラムを採取して評価したところ、
図6(A)と同等のピーク形状、ピーク高さが得られた。
【0089】
又、第一の膜及び第二の膜の作製において、クロマトグラムは示していないが、後述する実施例3の第一の膜と第二の膜の作製条件の内、第二の膜の作製時の加熱温度のみを300℃から350℃に変えてUHPLC用カラムを作製し、
図6(A)と同じ条件でクロマトグラムを採取して評価したところ、
図6(A)と同等のピーク形状、ピーク高さが得られた。
【0090】
第一の膜又は第二の膜の作製に使用する真空チャンバーが複数の部品から構成される場合、真空チャンバー内の真空度を保つためにOリング(オーリング)等のシーリング材を使用することが多い。弾性、伸縮性があることから真空チャンバー内の真空度を保ち易く、且つ耐熱温度が高い市販の汎用シーリング材の樹脂素材としてはパーフルオロエラストマー等の加硫ゴムやフッ素ゴムがあるが、これらの樹脂素材の耐熱温度は330℃であるため、第一の膜又は第二の膜の作製時の加熱温度が300℃であれば、これらの樹脂素材から成るシーリング材を使用しても、シーリング材を頻繁に交換することなく、第一の膜又は第二の膜の作製を複数回数行うことが出来る。
【0091】
第一の膜又は第二の膜の作製時の加熱温度が350℃を超えた場合や400℃以上の場合、上記の樹脂素材から成る市販の汎用シーリング材を使用すると、シーリング材の熱老化が起こり易く、第一の膜又は第二の膜の作製において真空チャンバー内の真空度を保つためには、シーリング材を頻繁に交換する必要がある。又、耐熱性の高い金属素材から成るシーリング材を使用しても、金属素材は復元応力や弾力が低いため、真空チャンバー内の真空度を一度下げてしまうと、次に真空チャンバー内に第一の膜又は第二の膜を作製するためのカラムハードウェアを入れて真空度を上げるためには、上記の金属素材から成るシーリング材を新品に交換する必要がある。
【0092】
又、第一の膜の作製において、後述する実施例3の第一の膜と第二の膜の作製条件の内、第一の膜の作製時の加熱温度のみを300℃から400℃に変えてUHPLC用カラムを作製したところ、カラムハードウェアの外表面に第一の膜が作製される前に、カラムハードウェアの外表面が変色することにより、カラムハードウェアの外表面の見た目が汚くなり、外観を良くするためには研磨をする必要が生じた。
【0093】
以上のことから、第一の膜又は第二の膜の作製時の加熱温度は夫々300℃以上が好ましい。又、第一の膜の作製時の加熱温度は、300℃を大きく超える加熱温度により得られる効果と、カラムハードウェアの外表面の見栄え又は見栄えを良くするためのコスト、時間、手数を考慮すると、300℃以上400℃未満が好ましい。
【0094】
又、第一の膜又は第二の膜の作製時の加熱温度は夫々、300℃を大きく超える加熱温度により得られる効果と、シーリング材の交換にかかるコスト、時間、手数、又はエネルギー効率等を考慮すると、高くても樹脂素材から成る市販の汎用シーリング材の交換頻度があまり頻繁ではなく許容範囲の350℃以下、更には樹脂素材から成る市販の汎用シーリング材の耐熱温度である330℃以下が好ましく、300℃~320℃がより好ましい。
【0095】
次に、第二の膜の主な相互作用特性と、カラムハードウェアに詰められる液体クロマトグラフィー用充填剤の主な相互作用特性について説明する。液体クロマトグラフィー用充填剤の内、代表的なものは逆相クロマトグラフィー用充填剤であり、逆相クロマトグラフィー用充填剤には、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS化シリカゲル)がよく使用されている。ODS化シリカゲルの主な相互作用特性はオクタデシル基による疎水性相互作用特性であり、試料中の溶質の疎水性が高いものほどカラムから遅く溶出する。第二の膜の主な相互作用特性はアルキル基による疎水性相互作用特性であり、第二の膜のアルキル基はオクタデシル基であるか、もしくはオクタデシル基よりも短いアルキル基でないと、第二の膜の主な相互作用特性が充填剤(ODS化シリカゲル)の主な相互作用特性を上回ってしまい、充填剤(ODS化シリカゲル)に最適化された移動相では、試料中の一部の溶質が溶出しない可能性がある。又、第二の膜のアルキル基が短い方が充填剤のオクタデシル基による、カラムの疎水性の強さを変えてしまう影響が少ない。これらの観点からは、第二の膜のアルキル基はメチル基が最も好ましく、次にエチル基が好ましい。
【0096】
又、逆相クロマトグラフィー用充填剤には、ODS化シリカゲルの他に、メチルシリル化シリカゲル、ブチルシリル化シリカゲル、シアノプロピルシリル化シリカゲル、フェニルシリル化シリカゲル、オクチルシリル化シリカゲル、ドコシルシリル化シリカゲル、オクタコシルシリル化シリカゲル、トリアコンチルシリル化シリカゲル等の、シリカゲルを母体とする充填剤が使用されている。これらの充填剤が詰められたカラムハードウェアについても、充填剤の官能基による疎水性相互作用特性を上回ることなく、又、カラムの疎水性の強さを変えてしまう影響が少ないため、第二の膜のアルキル基はメチル基が適しており、メチルシリル化シリカゲル以外の充填剤が詰められたカラムハードウェアについては、第二の膜のアルキル基はメチル基が最も好ましく、次にエチル基が好ましい。
【0097】
又、逆相クロマトグラフィー用充填剤には、スチレンジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリレート、ブチル基が修飾されたポリビニルアルコール、オクチル基が修飾されたポリビニルアルコール、オクタデシル基が修飾されたポリビニルアルコール等の、ポリマーを母体とする充填剤が使用されている。これらの充填剤が詰められたカラムハードウェアについても、充填剤による、カラムの疎水性の強さを変えてしまう影響が少ないため、第二の膜のアルキル基はメチル基が最も好ましく、次にエチル基が好ましい。
【0098】
又、液体クロマトグラフィー用充填剤には、親水性相互作用クロマトグラフィー(Hydrophilic Interaction Chromatography、HILIC)用充填剤や順相クロマトグラフィー用充填剤があり、共通して親水性の高い充填剤(未修飾シリカゲル、ジヒドロキシプロピルシリル化シリカゲル、アミノプロピルシリル化シリカゲル等)が使用されている。又、HILIC用充填剤として、親水性の高い充填剤である、アミド基やカルバモイル基が修飾されたシリカゲル等が使用されている。親水性の高い充填剤の主な相互作用特性は親水性相互作用特性であり、試料中の溶質のうち、親水性の高いものほどカラムから遅く溶出する。第二の膜には親水性相互作用を及ぼす官能基(シラノール等)は極微量しか残っておらず、アルキル基は親水性相互作用特性を持たないため、第二の膜のアルキル基の長さに関わらず、親水性の高い充填剤の主な相互作用特性への影響は少ないが、第二の膜のアルキル基が長いと、カラムに強い疎水性相互作用特性を加えることになるため、この観点からは、第二の膜のアルキル基はメチル基が最も好ましく、次にエチル基が好ましい。
【0099】
又、液体クロマトグラフィー用充填剤には、サイズ排除クロマトグラフィー(Size
Exclusion Chromatography、SEC)用充填剤、イオン交換ク
ロマトグラフィー用充填剤、配位子交換クロマトグラフィー用充填剤、イオン排除クロマトグラフィー用充填剤等があり、いずれの充填剤でも第二の膜のアルキル基の長さに関わらず、充填剤の主な相互作用特性への影響は少ないが、第二の膜のアルキル基が長いと、カラムに強い疎水性相互作用特性を加えることになるため、この観点からは、第二の膜のアルキル基はメチル基が最も好ましく、次にエチル基が好ましい。
【0100】
上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤が充填されて液体クロマトグラフィー用分離カラムが構成される。又、上記液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの製造方法で製造した液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに充填剤を充填することで液体クロマトグラフィー用分離カラムの製造を行うことが出来る。充填剤としては特に限定されず、液体クロマトグラフィーに用いられる充填剤から適宜選択することが出来る。又、充填剤の充填方法も特に限定されず、公知の充填方法を採用することが出来る。
【実施例】
【0101】
以下、本発明のカラムハードウェア及び分離カラム並びにカラムハードウェア及び分離カラムの製造方法について、実施例として比較例と比較して説明する。
【実施例1】
【0102】
汎用のUHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。
【0103】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の膜を作製したカラムハードウェアを、カラム2本分作製した。パーヒドロポリシラザンのイソプロピルアルコール溶液(1.0%、w/v)を1000mLトールビーカーで作製し、ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管2個、フリット4個、エンドユニオン4個)を沈めた。超音波処理を3分間行い、カラムハードウェアを取り出し、産業用紙ワイパーを敷いた実験台上で12時間、室温で乾燥させた。乾燥させたカラムハードウェアを250℃で安定化させたオーブン内に移し、250℃で3時間熱処理を行った。
【0104】
ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。第一の膜の作製を終えたカラム1本分のカラムハードウェアを真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)を窒素で0.05%に希釈したガスを200sccm(sccm:standard cc/min、1atm、25℃での、1分間当たりのガス流量を示す)で真空チャンバー内に導入し、2時間反応させた。
【0105】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えたカラムハードウェアにオクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift(登録商標) C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製した。作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図4(A))。
【0106】
比較例として、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の膜のみを作製し、実施例と同一のオクタデシルシリル化シリカゲルを充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製し、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行った(
図4(B))。又、比較例として、未処理のステンレス製のカラムハードウェアに実施例と同一のオクタデシルシリル化シリカゲルを充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製し、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行った(
図4(C))。
【0107】
分析は、UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料I:アデノシン三リン酸(ATP、500μg/L)、アデノシン二リン酸(ADP、500μg/L)、アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。
【0108】
実施例のカラムで採取したクロマトグラムを
図4(A)に、比較例のカラムで採取したクロマトグラムを
図4(B)、
図4(C)に示す。
図4(A)では、ATPは溶出が不十分であったが、ADP、AMPについてはいずれもテーリングはしたものの、ピークとして溶出した。又、
図4(B)では、ATP、ADPは溶出せず、AMPはピーク形状が崩れた形で一部溶出した。又、
図4(C)では、ATP、ADPは溶出せず、AMPはピーク形状が
図4(B)よりも更に崩れた形となり、溶出も不十分であった。
【0109】
ATP、ADP、AMPはそれぞれの分子中にリン酸基を持つため、金属配位性化合物である。ATPは三リン酸基、ADPは二リン酸基、AMPは一リン酸基を持つため、金属配位性の強さはATP>ADP>AMPである。又、ATP、ADP、AMPはそれぞれの分子中にアデニンという塩基を持つ。又、ATP、ADP、AMPはそれぞれの分子中に10個の炭素原子を持つため疎水性を持つ。
図4(C)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部に露出している金属の影響で、金属配位性の強いATP、ADPは溶出せず、AMPの溶出も不十分であったことが分かる。又、
図4(B)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はパーヒドロポリシラザンを原料とし、SiO
2の第一の膜で被覆されているため、
図4(C)に比べてAMPは大きな面積値で溶出したことが分かる。しかし、パーヒドロポリシラザンを原料とし、SiO
2の第一の膜表面のシラノール基と移動相中に溶けている金属が相互作用し、試料中の溶質の金属配位吸着の原因となっているため、ATP、ADPは溶出せず、AMPのピーク形状も大きく崩れていたことが分かる。又、
図4(A)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はパーヒドロポリシラザンを原料としたSiO
2の第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、ADP、AMPはいずれもテーリングしているものの、ピークとして溶出したことが分かる。
【実施例2】
【0110】
汎用のUHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にメチルトリエトキシシラン(MTES)を原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。
【0111】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にMTESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラムハードウェアを、カラム1本分作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、MTESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0112】
続いて、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にMTESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面部分のメチルシリル化を行った。第一の膜の作製後、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)を窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0113】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えたカラムハードウェアに、オクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを1種類作製した。
【0114】
作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図5)。UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料I:アデノシン三リン酸(ATP、500μg/L)、アデノシン二リン酸(ADP、500μg/L)、アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。
【0115】
実施例のカラムで採取したクロマトグラムを
図5に示す。
図5では、ATP、ADP、AMPはいずれもテーリングはしているものの、ピークとして溶出した。
図5では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はMTESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、ATP、ADP、AMPはいずれもテーリングはしているものの、ピークとして溶出したことが分かる。
【実施例3】
【0116】
汎用のUHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。
【0117】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラムハードウェアを、カラム1本分作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0118】
続いて、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。上記第一の膜の作製後、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0119】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えたカラムハードウェアにオクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製した。作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図6(A))。
【0120】
比較例として、移動相接液部がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のカラムハードウェア(IDEX社)に、オクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製した。作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行った(
図6(B))。
【0121】
UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料I:アデノシン三リン酸(ATP、500μg/L)、アデノシン二リン酸(ADP、500μg/L)、アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。
【0122】
実施例のカラムで採取したクロマトグラムを
図6(A)、比較例のカラムで採取したクロマトグラムを
図6(B)に示す。
図6(A)では、ATP、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出し、ADP、AMPのピーク高さは比較例の
図6(B)に比べて高く、面積値は比較例の
図6(B)に比べて多い。又、
図6(B)では、ATP、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出したが、ADP、AMPのピーク高さは
図6(A)に比べて低く、面積値は
図6(A)に比べて少ない。
【0123】
図6(A)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基がとても少なくなっているため、ATP、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。又、疎水性吸着の要因もとても少ないため、ADP、AMPはPEEK製のカラムでのピーク面積値を上回り、十分に溶出したことが分かる。又、
図6(B)では、移動相接液部がPEEK製のカラムハードウェアを使用していて、金属配位性吸着の要因は無いため、ATP、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。又、PEEKは疎水性吸着の要因となるため、ADP、AMPのピーク面積値は
図6(A)に比べて小さくなったことが分かる。
【0124】
採取したクロマトグラムから計算した、実施例のカラムハードウェアを用いたカラムでの金属配位性で塩基を持つ化合物のピーク面積値を、比較例のPEEK製のカラムでの金属配位性で塩基を持つ化合物のピーク面積値で除し、比較例のPEEK製のカラムでの金属配位性で塩基を持つ化合物のピーク面積値との相対値を計算し、相対的なピーク面積値を示すグラフとして
図7に示す。上記PEEK製のカラムでのピーク面積値は相対値1.00とした。
【0125】
図7では、ステンレス製カラムハードウェアの第一の膜表面のメチルシリル化を行う時間が2時間の場合では、PEEK製のカラムでのピーク面積値より多かったことが確認出来た。
【0126】
ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部がDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面がメチルシリル化される時間が2時間を超えると、シラノール基がより少なくなり、又、PEEK製のカラムに比べて疎水性吸着の要因もとても少ないため、ATP、ADP、AMPいずれもPEEK製のカラムでのピーク面積値を上回り、十分に溶出したことが分かる。
【実施例4】
【0127】
汎用のUHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部に第一の膜を作製した。第一の膜の作製は、パーヒドロポリシラザンを原料とする第一の層を作製し、続いてパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の層の表面にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第二の層を作製して、二層に積層して行った。続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面の、詳しくはDMDESを原料とする第二の層の表面のメチルシリル化を行った。
【0128】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の層を作製し、続いてDMDESを原料とする第二の層を作製して、第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化、詳しくはDMDESを原料とする第二の層の表面のメチルシリル化を行ったカラムハードウェアを、カラム1本分作製した。
【0129】
先ず、第一の膜の作製では、第一の膜の一層目の作製として、パーヒドロポリシラザンのイソプロピルアルコール溶液(1.0%、w/v)を1000mLトールビーカーで作製し、ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を沈めた。超音波処理を3分間行い、カラムハードウェアを取り出し、産業用紙ワイパーを敷いた実験台上で12時間、室温で乾燥させた。乾燥させたカラムハードウェアを250℃で安定化させたオーブン内に移し、250℃で3時間熱処理を行った。
【0130】
更に、第一の膜の二層目の作製として、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする膜(第一の膜の一層目)の作製を終えたカラムハードウェアに、DMDESを原料とする膜(第一の膜の二層目)の作製を化学蒸着を利用して行った。パーヒドロポリシラザンを原料とする膜の作製を終えたカラム1本分のカラムハードウェアを真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0131】
そして、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にパーヒドロポリシラザンを原料とする第一の層、更にDMDESを原料とする第二の層の作製を終えたカラムハードウェアの、DMDESを原料とする層(第一の膜の二層目)表面のメチルシリル化を化学蒸着を利用して行った。上記DMDESを原料とする膜の作製に続き、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0132】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えたカラムハードウェアにオクタデシルシリル化シリカゲルを充填してカラムを作製した。詳しくは、パーヒドロポリシラザンを原料とする第一の層の作製と、DMDESを原料とする第二の層の作製と、DMDESを原料とする第二の層表面、即ち第一の膜の表面のメチルシリル化を行ったカラムハードウェアに、オクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製した。
【0133】
作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図8)。UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料I:アデノシン三リン酸(ATP、500μg/L)、アデノシン二リン酸(ADP、500μg/L)、アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。
【0134】
採取したクロマトグラムを
図8に示す。
図8では、ATP、ADP、AMPは対称性の良いピークとして溶出した。
図8では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はパーヒドロポリシラザンを原料とした層で被覆され、続いてDMDESを原料とした層で被覆され、即ち二層で構成された第一の膜で被覆され、更にDMDESを原料とした層の表面はメチルシリル化され、シラノール基がとても少なくなっているため、ATP、ADP、AMPは対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。
【実施例5】
【0135】
汎用のHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。
【0136】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラムハードウェアを、カラム1本分作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ15cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0137】
ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。上記第一の膜の作製に続き、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0138】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えたカラムハードウェアにオクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、3μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ15cmのカラムを作製した。作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析と、金属配位性で疎水性が強く、塩基を持つ化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図9(A)、
図10(A)、
図11(A))。
【0139】
比較例として、移動相接液部表面がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のカラムハードウェア(IDEX社)に実施例と同一のオクタデシルシリル化シリカゲルを充填し、内径2.1mm、長さ15cmのカラムを作製し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析と、金属配位性で疎水性が強く、塩基を持つ化合物の分析を行った(
図9(B)、
図10(B)、
図11(B))。又、比較例として、未処理のステンレス製のカラムハードウェアに実施例と同一のオクタデシルシリル化シリカゲルを充填し、内径2.1mm、長さ15cmのカラムを作製し、以下の条件で、金属配位性で疎水性が強く、塩基を持つ化合物の分析を行った(
図10(C)、
図11(C))。
【0140】
分析は、UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料II:アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。未処理のカラムハードウェアでの測定は行わなかった。
【0141】
又、作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で疎水性が高く、塩基を持つ化合物の分析を行った。UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相A:0.1%(v/v) ギ酸水溶液、移動相B:アセトニトリルを用いて、A/B=99/1-(10min)-0/100-(5min)-0/100-(0.1min)-99/1,v/vを0.2mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料III:フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD、1.0mg/L)、フラビンモノヌクレオチド(FMN、0.1mg/L)、リボフラビン(Riboflavin、1.0mg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は3μLとした。
【0142】
又、作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で疎水性が高く、塩基を持つ化合物であるリン脂質の分析を行った。UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムのメタノール溶液)を0.3mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料IV:1.リゾフォスファチジン酸(LPA、0.5mg/L)、2.フォスファチジルイノシトール(PI、0.1mg/L)、3.フォスファチジン酸(PA、0.1mg/L)、4.フォスファチジルセリン(PS、0.1mg/L)、5.フォスファチジルエタノールアミン(PE、0.1mg/L)、6.フォスファチジルコリン(PC、0.05mg/L)、7.カルジオリピン(CL、0.5mg/L)のメタノール溶液を使用した。試料注入容量は1μLとした。
【0143】
試料IIを用いて採取したクロマトグラムを
図9(A)、
図9(B)に示す。
図9(A)では、AMPは対称性の良いピークとして溶出した。又、
図9(B)では、AMPは対称性の良いピークとして溶出したが、AMPのピーク高さは
図9(A)に比べて低く、面積値は
図9(A)に比べて少ない。
【0144】
図9(A)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基がとても少なくなっているため、AMPは対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。又、
図9(B)では、移動相接液部がPEEK製のカラムハードウェアを使用していて、金属配位性吸着の要因は無いため、AMPは対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。又、PEEKは疎水性吸着の要因となるため、AMPのピーク面積値は
図9(A)に比べて小さくなったことが分かる。
【0145】
試料IIIを用いて採取したクロマトグラムを
図10(A)、
図10(B)、
図10(C)に示す。
図10(A)では、FADはテーリングしているが、14500のピーク高さで溶出し、FMN、Riboflavinは対称性の良いピークとして、それぞれ6500、5000のピーク高さで溶出した。又、
図10(B)では、Riboflavinは
図10(A)に比べて同等のピークとして溶出したが、FADは
図10(A)に比べてより強くテーリングしており、6500のピーク高さで溶出し、FMNは
図10(A)に比べてより幅の大きいピークとして、5500のピーク高さで溶出した。又、
図10(C)では、Riboflavinは
図10(A)に比べて同等のピークとして溶出したが、FAD、FMNは溶出が不十分であった。
【0146】
FADは分子中にリボフラビン(Riboflavin)とアデニンと二リン酸を持つため、塩基を含み、且つ金属配位性で、疎水性の高い化合物である。FMNは分子中にリボフラビン(Riboflavin)と一リン酸を持つため、金属配位性の化合物であり、疎水性はFAD程は高くない化合物である。リボフラビン(Riboflavin)は分子中にリン酸基は無いため、金属配位性の化合物では無く、疎水性はFMNと同等の化合物である。
【0147】
図10(A)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、又、疎水性の高い化合物が吸着する要因が少ないため、FADはテーリングしているが、14500のピーク高さで溶出し、FMNは対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。又、
図10(B)では、カラムハードウェアの移動相接液部であるPEEKは、金属配位性の化合物が吸着する要因にはならないが、疎水性の高い化合物が吸着する要因になるため、FMNは対称性の良いピークとして溶出し、FADは
図10(A)に比べてより強くテーリングしたことが分かる。又、
図10(C)では、未処理のカラムハードウェアの移動相接液部には金属が露出しているため、FAD、FMNは溶出が不十分であったことが分かる。リボフラビン(Riboflavin)は金属配位性の化合物では無く、疎水性も高くないため、
図10(A)、
図10(B)、
図10(C)のいずれでも同等のピークとして溶出したことが分かる。
【0148】
試料IVを用いて採取したクロマトグラムを
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)に示す。
図11(A)では、試料IV中のPSは少しテーリングしているが、他の全ての溶質は対称性の良いピークとして溶出した。又、
図11(B)では、
図11(A)に比べて全体的に保持時間が遅れており、PC以外の溶質は面積値が少なく溶出しているが、試料IV中の全ての溶質は対称性の良いピークとして溶出した。又、
図11(C)では、全ての溶質は溶出が不十分であった。
【0149】
リン脂質は分子中にリン酸を持ち、脂肪酸がエステル結合した構造を持つため、金属配位性で、疎水性の高い化合物である。加えて、PEは分子中にエタノールアミンという塩基を、PCは分子中にコリンという塩基を持つ化合物である。
【0150】
図11(A)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、又、疎水性の高い化合物が吸着する要因が少ないため、PSは少しテーリングしているが、他の全ての溶質は対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。又、
図11(B)では、カラムハードウェアの移動相接液部であるPEEKは、金属配位性の化合物が吸着する要因にはならないが、疎水性の高い化合物が吸着する要因になるため、
図11(A)に比べて全体的に保持時間が遅れており、PC以外の溶質は面積値が少なく溶出したことが分かる。又、
図11(C)では、未処理のカラムハードウェアの移動相接液部には金属が露出しているため、全ての溶質は溶出が不十分であったことが分かる。
【実施例6】
【0151】
汎用のHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。メチルシリル化を行う時間を1時間としてカラムハードウェアを作製した。
【0152】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラムハードウェアを、カラム1本分作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0153】
続いて、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を1時間行った。上記第一の膜の作製後、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入を止め、300℃、真空度-0.099MPaで1時間反応させた。
【0154】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を1時間行ったカラムハードウェアにオクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製した。
【0155】
作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行った。UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料I:アデノシン三リン酸(ATP、500μg/L)、アデノシン二リン酸(ADP、500μg/L)、アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。
【0156】
実施例のカラムで採取したクロマトグラムを
図12に示す。
図12では、ATPにはテーリングが見られるが、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出した。
図12では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、ATPにはテーリングが見られるが、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。
【実施例7】
【0157】
本発明の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアによる金属配位性化合物と塩基性化合物の非特異的吸着の低減を確認するために、ガスクロマトグラフに接続し、金属配位性化合物と塩基性化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した。
【0158】
ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。比較例として、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜のみを作製した。
【0159】
詳しくは、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラムハードウェアを作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0160】
続いて、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を行った。上記第一の膜の作製に続き、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0161】
比較例として、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜を作製したカラムハードウェアを、以下のように作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉じ、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0162】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えた実施例のカラムハードウェア、又、第一の膜のみの作製を行った比較例のカラムハードウェアの両端を、夫々、100%ジメチルポリシロキサンを固定相としてキャピラリー管の内壁に化学結合した低極性キャピラリーカラム(InertCap(登録商標) 1、外径0.68mm、内径0.53mm、長さ10cm、固定相膜厚1μm、ジーエルサイエンス社)と、InertCap 1(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ30m、固定相膜厚1μm、ジーエルサイエンス社)に接続した。外径1/16インチ用リムーバブルフューズドシリカアダプター(FS1R.8-5(ナット、フェラル、ライナー)、VICI社)を用いて、フェラルの内側のライナーの内側にキャピラリーカラムを通してナットを締め、カラムハードウェアとキャピラリーカラムを接続した。
【0163】
注入口にInertCap 1(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ10cm、固定相膜厚1μm)-カラムハードウェア-InertCap 1(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ30m、固定相膜厚1μm)のように接続し、InertCap 1(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ30m、固定相膜厚1μm)の出口をFID検出器(Flame Ionization Detector、水素炎イオン化型検出器)の入口に接続した。
【0164】
以下の条件で、実施例及び比較例のカラムハードウェアをガスクロマトグラフィー用カラムと接続し、金属配位性化合物と塩基性化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図13(A)、
図13(B))。
【0165】
ガスクロマトグラフGC-4000(ジーエルサイエンス社)を使用し、移動相(ヘリウム)を80kPaの圧力で送気した。温度条件は130℃とした。検出には、FID検出器(GC-4000の一部、ジーエルサイエンス社)を使用した。FID検出器の温度は250℃とした。試料には、試料V:1.n-Undecane、2.n-Nonanol、3.Naphthalene、4.n-Dodecane、5.1,7-Heptanediol、6.n-Decylamine、7.n-Tridecane、8.Methyl-n-Decanoate、9.2,4,5-Trichlorophenol、10.n-Tetradecaneを各0.1%~0.5%含有する、イソプロピルアルコール溶液(キャピラリーカラム検査試料D、ジーエルサイエンス社)をジクロロメタンで100倍希釈した溶液を使用した。試料注入容量は0.4μLとし、注入口の温度は250℃、注入口のスプリット比は1/30とした。
【0166】
実施例のカラムで採取したクロマトグラムを
図13(A)、比較例のカラムで採取したクロマトグラムを
図13(B)に示す。
図13(A)では、塩基性化合物であるn-Decylamineは少しテーリングがあるが溶出し、他の全ての溶質が形状の良いピークとして溶出した。
図13(B)では、金属配位性化合物である1,7-Heptanediolと、塩基性化合物であるn-Decylamine以外の溶質は形状の良いピークとして溶出したが、金属配位性化合物である1,7-Heptanediolと、塩基性化合物であるn-Decylamineは溶出しなかった。
【0167】
図13(A)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、試料V中のn-Decylamineは少しテーリングがあるが溶出し、他の全ての溶質が形状の良いピークとして溶出したことが分かる。
図13(B)では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜のみで被覆されているため、第一の膜表面のシラノール基の影響により、金属配位性化合物である1,7-Heptanediolは溶出しなかったことが分かる。又、塩基性化合物であるn-Decylamineは第一の膜表面のシラノール基に吸着し、溶出しなかったことが分かる。
【実施例8】
【0168】
カラムハードウェアの長さが大きく、且つ内径が小さい場合であっても、本発明の液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアとしての機能を発揮するカラムハードウェアが作製可能であるかを以下の実験を行い確認した。
【0169】
ステンレス製カラム管の移動相接液部にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第一の膜を4時間かけて作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を2時間行った。又、ステンレス製カラム管の移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜を90分間かけて作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を2時間行った。
【0170】
詳しくは、ステンレス製カラム管の移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラム管を作製した。ステンレス製カラム管(外径1/16インチ、内径1.0mm、長さ10m、ジーエルサイエンス社)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、4時間反応させた。
【0171】
続いて、ステンレス製カラム管の移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラム管の、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を2時間行った。上記第一の膜の作製に続き、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0172】
別途、ステンレス製カラム管の移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラム管を作製した。ステンレス製カラム管(外径1/16インチ、内径1.0mm、長さ10m、ジーエルサイエンス社)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉じ、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0173】
続いて、ステンレス製カラム管の移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラム管の、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を2時間行った。上記第一の膜の作製に続き、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0174】
第一の膜の4時間をかけての作製と、第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を2時間行ったカラム管、第一の膜の90分間をかけての作製と、第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を2時間行ったカラム管それぞれについて、カラム管の両端を、5%ジフェニル-95%ジメチルポリシロキサンを固定相としてキャピラリー管内壁に化学結合した低極性キャピラリーカラム(InertCap 5、外径0.68mm、内径0.53mm、長さ10cm、固定相膜厚5μm、ジーエルサイエンス社)と、InertCap 5(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ30m、固定相膜厚5μm、ジーエルサイエンス社)に接続した。外径1/16インチ用リムーバブルフューズドシリカアダプター(FS1R.8-5(ナット、フェラル、ライナー)、VICI社)を用いて、フェラルの内側のライナーの内側にキャピラリーカラムを通してナットを締め、1/16インチ用ステンレス製ユニオン(U-322、VICI社)の一端とキャピラリーカラムを接続した。又、1/16インチ用ステンレス製ユニオンのもう一端と、上記第一の膜、第二の膜を作製したカラム管を、LZN1-10(ロングナット19mm、VICI社)と、ZF1S6-10(フェラル、VICI社)を用いて接続した。1/16インチ用ステンレス製ユニオンは、移動相接液部を実施例7に記載した方法と同方法で、DMDESを原料として90分間反応させて第一の膜を作製し、続いてDMDESを原料として2時間反応させて第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を行ったものを使用した。
【0175】
注入口にInertCap 5(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ10cm、固定相膜厚5μm)-ユニオン-第一の膜、第二の膜を作製したカラム管-ユニオン-InertCap 5(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ30m、固定相膜厚5μm)のように接続し、InertCap 5(外径0.68mm、内径0.53mm、長さ30m、固定相膜厚5μm)の出口をFID検出器(Flame Ionization Detector、水素炎イオン化型検出器)の入口に接続した。
【0176】
以下の条件で第一の膜を4時間かけて作製し、2時間のメチルシリル化を終えたカラム管の両端をガスクロマトグラフィー用カラムと接続し、金属配位性化合物と塩基性化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図14(A))。又、第一の膜を90分間かけて作製し、2時間のメチルシリル化を終えたカラム管の両端をガスクロマトグラフィー用カラムと接続し、金属配位性化合物と塩基性化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図14(B))。
【0177】
ガスクロマトグラフGC-4000(ジーエルサイエンス社)を使用し、移動相(ヘリウム)を30kPaの圧力で送気した。温度条件は150℃とした。検出には、FID検出器(GC-4000の一部、ジーエルサイエンス社)を使用した。FID検出器の温度は260℃とした。試料には、試料V:1.n-Undecane、2.n-Nonanol、3.Naphthalene、4.n-Dodecane、5.1,7-Heptanediol、6.n-Decylamine、7.n-Tridecane、8.Methyl-n-Decanoate、9.2,4,5-Trichlorophenol、10.n-Tetradecaneを各0.1%~0.5%含有する、イソプロピルアルコール溶液(キャピラリーカラム検査試料D、ジーエルサイエンス社)をジクロロメタンで100倍希釈した溶液を使用した。試料注入容量は0.2μLとし、注入口の温度は250℃、注入口のスプリット比は1/30とした。
【0178】
採取したクロマトグラムを
図14(A)及び
図14(B)に示す。第一の膜の4時間の作製と、第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を2時間行ったカラム管を使用した
図14(A)では、試料V中の全ての溶質が形状の良いピークとして溶出した。又、第一の膜の90分間の作製と、第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を2時間行ったカラム管を使用した
図14(B)では、特に金属配位性化合物である1,7-Heptanediolは一部溶出しなかった。
【0179】
図14(A)では、外径1/16インチ、内径1.0mm、長さ10mのステンレス製カラム管の移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で4時間かけて被覆され、更に第一の膜の表面は2時間メチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、試料V中の全ての溶質が形状の良いピークとして溶出したことが分かる。
図14(B)では、ステンレス製カラム管の移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で90分間かけて被覆され、更に第一の膜の表面は2時間メチルシリル化が施されているものの、
図14(A)と比べるとSiO
2の第一の膜の作製が十分でなく、ステンレス製カラム管の表面に露出している金属を被覆しきれていないため、金属配位性化合物である1,7-Heptanediolは一部溶出しなかったことが分かる。
【0180】
このことから、長さ10mという長尺のカラム管であっても、更に内径1.0mmのカラム管であっても、第一の膜の作製時間(反応時間)を増加させることにより、本発明の効果を奏することが出来ることが分かり、長さ10m以下、内径1.0mm以上のカラム管であれば、本発明のカラムハードウェアを構成可能であることが分かる。
【実施例9】
【0181】
汎用のUHPLC用カラムの、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にジメチルジエトキシシラン(DMDES)を原料とする第一の膜を作製し、続いて第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化をトリメチルエトキシシラン(TMES)を原料として行った。
【0182】
詳しくは、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とし、化学蒸着を利用して第一の膜を作製したカラムハードウェアを、カラム1本分作製した。ステンレス製のカラムハードウェア(内径2.1mm、長さ5cmのカラム管1個、フリット2個、エンドユニオン2個)を真空チャンバー内に入れ、真空チャンバーの扉を閉め、真空チャンバーを加熱し、300℃で安定させた。又、真空チャンバーの真空度を-0.099MPaで安定させた。続いて、DMDESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、又、オゾン発生機に酸素を2000sccmで導入し、酸素とオゾンの比率が98:2になったガスを真空チャンバー内に導入し、90分間反応させた。
【0183】
続いて、ステンレス製のカラムハードウェアの移動相接液部にDMDESを原料とする第一の膜の作製を終えたカラムハードウェアの、化学蒸着を利用した第二の膜の作製、即ち第一の膜表面のメチルシリル化を行った。上記第一の膜の作製後、TMESを窒素で0.05%に希釈したガスを200sccmで真空チャンバー内に導入し、酸素とオゾンの混合ガスの導入は止め、300℃、真空度-0.099MPaで2時間反応させた。
【0184】
第一の膜の作製及び第一の膜表面のメチルシリル化(第二の膜の作製)を終えたカラムハードウェアにオクタデシルシリル化シリカゲル(InertSustainSwift C18、1.9μm、ジーエルサイエンス社)を充填し、内径2.1mm、長さ5cmのカラムを作製した。作製したカラムを使用し、以下の条件で、金属配位性で塩基を持つ化合物の分析を行い、ピーク形状を確認した(
図15)。
【0185】
UHPLC装置Nexera(登録商標)(島津製作所社)を使用し、移動相(5mM ギ酸アンモニウムの水溶液)を0.4mL/minの流速で送液した。温度条件は40℃とした。検出には、MS/MS検出器(LCMS-8030 plus、島津製作所社)を使用した。検出器のイオン化はポジティブモードで行い、検出にはMRM(Multi Resolution Monitoring)を使用した。試料には、試料I:アデノシン三リン酸(ATP、500μg/L)、アデノシン二リン酸(ADP、500μg/L)、アデノシン一リン酸(AMP、500μg/L)の水溶液を使用した。試料注入容量は2μLとした。
【0186】
採取したクロマトグラムを
図15に示す。
図15では、ATPにはテーリングが見られるが、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出した。
【0187】
図15では、ステンレス製カラムハードウェアの移動相接液部はDMDESを原料とした第一の膜で被覆され、更に第一の膜の表面はメチルシリル化され、シラノール基が少なくなっているため、ATPにはテーリングが見られるが、ADP、AMPはいずれも対称性の良いピークとして溶出したことが分かる。
【0188】
以上の結果より、以下のことがわかる。即ち、実施例1、実施例2、実施例3の結果(
図4(A)、
図5、
図6(A))から、液体クロマトグラフィー用金属製カラムハードウェアの移動相接液部への、SiO
2の第一の膜の作製と、第一の膜の表面部分をメチルシリル化する第二の膜の作製では、第二の膜の原料をジメチルジエトキシシラン(DMDES)とし、反応時間を2時間とした場合、第一の膜の原料はDMDESが最も有効であり、メチルトリエトキシシラン(MTES)が次に有効であり、パーヒドロポリシラザンがその次に有効であった。
【0189】
又、実施例1、実施例3、実施例4の結果(
図4(A)、
図6(A)、
図8(A))から、第一の膜がパーヒドロポリシラザンを原料とする層とDMDESを原料とする層の積層により作製された場合、最終的にDMDESを原料とする層が第一の膜の表面となっていれば、その後作製される第二の膜の原料がDMDESの場合の結果(
図8(A))は、第一の膜の原料がパーヒドロポリシラザン、第二の膜の原料がDMDESの場合の結果(
図4(A))よりも、第一の膜の原料がDMDES、第二の膜の原料がDMDESの場合の結果(
図6(A))と近くなった。
【0190】
又、実施例3と実施例5の結果(
図6(A)、
図6(B)、
図9(A)、
図9(B))から、内径2.1mm、長さ5cmのカラム管を含むカラムハードウェアと、内径2.1mm、長さ15cmのカラム管を含むカラムハードウェアでは、第一の膜の原料をDMDESとして90分間反応させ、第二の膜の原料をDMDESとして2時間メチルシリル化する同じ作製方法により、同等の性能且つ十分な性能を得られるカラムハードウェアが作製出来た。
【0191】
又、実施例6と実施例3の結果(
図12、
図6(A))から、同じ寸法のカラムハードウェアに同じ作製方法(第一の膜の原料をDMDESとして90分間反応)で第一の膜を作製し、第二の膜の原料が同じDMDESの場合では、第二の膜を作製する反応時間が1時間よりも2時間と長い方が、金属配位性で塩基を持つ化合物の、カラムハードウェアへの非特異的吸着をより低減出来ることがわかった。
【0192】
又、実施例7、実施例8の結果(
図13(A)、
図14(A)、
図14(B))から、内径2.1mm、長さ5cmのカラム管を含むカラムハードウェアでは、第一の膜の原料をDMDESとして90分間反応させ、第二の膜の原料をDMDESとして2時間メチルシリル化する作製方法で十分な性能を得られたが、内径1.0mm、長さ10mのステンレス製カラム管では、第一の膜の原料をDMDESとして90分間反応させ、第二の膜の原料をDMDESとして2時間メチルシリル化する作製方法では内径2.1mm、長さ5cmのカラム管を含むカラムハードウェアとは同様の性能を得られず、同様の性能を得るためには、第一の膜の作製には4時間以上の反応が必要であることがわかった。
【0193】
又、実施例3、実施例9の結果(
図6(A)、
図15)から、第一の膜の原料をDMDESとして90分間反応させ、第二の膜の原料をDMDESとして2時間メチルシリル化する作製方法と、第一の膜の原料をDMDESとして90分間反応させ、第二の膜の原料をTMESとして2時間メチルシリル化する作製方法を比べると、第二の膜の原料がDMDESの方が、良い結果が得られた。
【0194】
更に、実施例3と実施例5では、内径2.1mm、長さ5cmのカラム管及び内径2.1mm、長さ15cmのカラム管で、アデノシン一リン酸(AMP)のピーク高さが比較例のPEEKカラムでのAMPのピーク高さを上回る程の性能を得るための第一の膜を90分間の酸化と加熱により作製出来たが、実施例8では、内径1.0mm、長さ10mのカラム管で、90分間の酸化と加熱では実施例3と実施例5のカラム管とは同等の性能を得られず、4時間の酸化と加熱により、実施例3と実施例5のカラム管と同等の性能を得られた。このことから、第一の膜の作製にあたり、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアに含まれるカラム管への、不活性ガスで希釈した原料の拡散については、カラム管が円筒状であるため、内径が小さいほど、又、長さが大きいほど、原料の拡散がし難くなり、第一の膜の作製のための空気中での加熱、又は空気中又は真空中での酸化と加熱に時間を要することが分かる。
【0195】
又、実施例3で使用した内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアでは、厚さ1mm、孔径は1.9μm以下のフリットを使用し、フリットの孔径が非常に小さいにも関わらず、90分間の酸化と加熱で、アデノシン一リン酸(AMP)のピーク高さが比較例のPEEKカラムでのAMPのピーク高さを上回る程の性能を得るための第一の膜を作製出来ていることが分かる。カラムハードウェアのカラム管の内径が1.0mmであった場合も、充填剤径が1.9μmなら、内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアで使用するフリットと厚さ、孔径は同じフリットを使用することが出来る。
【0196】
又、実施例3と実施例5で使用した内径2.1mmのカラム管を用いたカラムハードウェアでは、内部加工可能な最も小さい内径の流路を持つエンドユニオンを使用し、エンドユニオン内の流路は、90分間の酸化と加熱で、アデノシン一リン酸(AMP)のピーク高さが比較例のPEEKカラムでのAMPのピーク高さを上回る程の性能を得るための第一の膜を作製することが出来ている。カラムハードウェアの内径が1.0mmであった場合も、上記内径2.1mmのカラムハードウェアで使用するエンドユニオン内流路と同じ内径、長さの流路を持つエンドユニオンを使用することが出来る。
【0197】
本発明では、液体クロマトグラフィー用カラムハードウェアの金属製の移動相接液部にSiO2の第一の膜が設けられ、第一の膜上に、SiO2のシラノール基がアルキルシリル化されて作製された第二の膜が設けられていることを特徴とするが、第一の膜上に、SiO2のシラノール基がアルキル基とは別の官能基を持つシリル化剤と縮合して第二の膜が設けられる場合には、充填剤の主な相互作用特性を阻害せず、且つシリル化の被覆率が下がらないように留意する必要がある。例えば、充填剤がアミノプロピルシリル化シリカゲルの場合は、第一の膜上に、SiO2のシラノール基がアミノプロピルシリル化されて作製された第二の膜が設けられることが好ましい。又、充填剤がジヒドロキシプロピルシリル化シリカゲルの場合は、第一の膜上に、SiO2のシラノール基がジヒドロキシプロピルシリル化されて作製された第二の膜が設けられることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0198】
以上のような本発明によれば、液体クロマトグラフィーにおいて、カラムの性能の向上、即ち金属配位性化合物のカラムへの非特異的吸着の低減、及び塩基性化合物又は塩基を持つ化合物のカラムへの非特異的吸着の低減が可能となったので、物質の分析、分取効率が向上し、様々な分野の研究並びに応用において利用が可能である。
【符号の説明】
【0199】
1 カラムハードウェア
11 カラムハードウェア
12 カラムハードウェア
21 カラム管
22 フリット(フィルター)
23 エンドユニオン
24 分散盤
3 移動相接液部
4 膜
41 第一の膜
42 第二の膜