(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】電極-皮膚インピーダンスを使用する皮膚電極剥離の検出
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2019044566
(22)【出願日】2019-03-12
(62)【分割の表示】P 2016505616の分割
【原出願日】2014-03-31
【審査請求日】2019-03-12
(32)【優先日】2013-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506335938
【氏名又は名称】ニューロメトリックス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴザニ,シャイ
(72)【発明者】
【氏名】コン,スアン
(72)【発明者】
【氏名】アギレ,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】フェレー,トム
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-171943(JP,U)
【文献】特表2000-510726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0066209(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザにおける経皮的(transcutaneous)電気神経刺激のための装置であって、
少なくとも1つの神経を電気的に刺激するための刺激手段と、
前記刺激手段に接続可能な電極配列であって、前記少なくとも1つの神経の電気刺激のための複数の電極を備え、前記電極は、前記ユーザの皮膚に完全に接触するときに、事前形成された形状、および既知の電極-皮膚接触面積サイズを有する、電極配列と、
前記電極配列を通して、前記電気刺激のインピーダンスを監視するための、前記刺激手段に電気的に接続された監視手段と、
前記電極-皮膚接触面積内の変化を推定するために前記インピーダンスを分析するための分析手段と、を備え、
前記分析手段が、前記監視された電極-皮膚インピーダンス値が顕著に変化したと決定するとき、前記刺激手段が前記電気刺激を停止または減少させ、
所与の時刻における前記インピーダンスの変化は、その時刻における前記インピーダンス値とベースラインインピーダンス値との間のインピーダンス比によって定量化され、
前記分析手段は、前記監視された電極-皮膚インピーダンス値が顕著に変化したか否かを判定し、
前記監視された電極-皮膚インピーダンス値が顕著に変化したことは、前記インピーダンス比がインピーダンス比閾値を超えたときの変化として定義され、
前記インピーダンス比がインピーダンス比閾値を超えたことは、
(Z
t=T)/(Z
t<T)
> {1+[alfa]
(delta-1)}/2 (式8)
が成立するか否かにしたがって判断され、
Z
t=T が、時刻t=Tにおけるインピーダンス値であり、
Z
t<T が、
t<Tの範囲の全時間にわたる最小インピーダンス値であり、
alfa が、以下の比であり、
[接触面積の減少後の接触サイズ]/[ユーザの皮膚との完全な接触時の既知の電極-皮膚接触領域サイズ]
delta は、電流密度が前記接触面積の減少の影響を相殺する程度を表す因子であ
り、0<delta<1である、
装置。
【請求項2】
前記ベースラインインピーダンス値は、初期インピーダンスである、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記インピーダンスの前記監視が、前記少なくとも1つの神経を刺激するために使用されるものと同様の電気刺激にて実施される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記インピーダンスの前記監視が、前記少なくとも1つの神経を刺激するために使用されるものと異なる電気刺激にて実施される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記インピーダンスを監視するために使用される前記電気刺激が、前記ユーザの電気触覚閾値(electrotactile sensation threshold)より低い強度を有する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記インピーダンスが、前記電気刺激における特定の時刻で、
[(アノード-カソードの電圧差)/(前記監視手段の前記電気刺激の刺激電流)]
として定められる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記電極-皮膚インピーダンス値の履歴が前記監視手段によって保存される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記ベースラインインピーダンス値が、その時間インスタンスまでに取得されたすべてのインピーダンス値の実行最小インピーダンス値である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記インピーダンス比閾値が、前記電極の、前記事前形成された形状および既知の電極-皮膚接触領域のサイズに依存する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの神経を刺激するために使用される前記電気刺激の状態にかかわらず、前記インピーダンスを監視するための手段のために使用される前記電気刺激が、継続的に起動している、請求項4に記載の装置。
【請求項11】
前記インピーダンスは、Cpと並列に接続された抵抗Rpであって、両者が、抵抗Rsと直列に接続される等価回路を仮定することにより計算されるインピーダンスであり、
Rpが、角質層の抵抗に関連し、
Cpが、角質層のキャパシタンスに関連し、
Rsが、角質層を含む種々の皮膚構造の抵抗である、
請求項1に記載の装置。
【請求項12】
ユーザにおける経皮的電気神経刺激のための装置であって、
複数の電極を備える電極配列であって、前記複数の電極は、前記複数の電極がユーザの皮膚に完全に接触するときに、予め形成された形状と既知の電極-皮膚接触面積を有する、電極配列と、
前記ユーザの少なくとも1つの神経を刺激するように、前記ユーザの前記皮膚に電気刺激を提供するための前記電極配列に接続可能な刺激手段と、
電極-皮膚インピーダンス値を監視するための、前記電極配列に電気的に接続可能な監視手段と、
前記監視手段が、前記電極-皮膚インピーダンス値が所定の値だけ変更されたと決定するときに、前記ユーザの前記皮膚に提供されるべき前記電気刺激を制御するための制御手段と、を備え、
前記刺激手段は、ユーザからのマニュアル操作にしたがって前記電気刺激を加えることにより、第1治療期間を開始し、
前記第1治療期間が完了した後、前記刺激手段は、あらかじめ設定されたタイマ機能が起動することによって、第2治療期間を自動的に開始し、
前記第1治療期間を完了するとき、前記制御手段は前記インピーダンス値をベースラインインピーダンスとして記憶部に格納し、
前記第2治療期間を開始するとき、前記刺激手段は、前記格納したインピーダンス値を前記ベースラインインピーダンスの初期値として用い、
前記インピーダンス比がインピーダンス比閾値を超えたことは、
(Z
t=T)/(Z
t<T)
> {1+[alfa]
(delta-1)}/2 (式8)
が成立するか否かにしたがって判断され、
Z
t=T が、時刻t=Tにおけるインピーダンス値であり、
Z
t<T が、
t<Tの範囲の全時間にわたる最小インピーダンス値であり、
alfa が、以下の比であり、
[接触面積の減少後の接触サイズ]/[ユーザの皮膚との完全な接触時の既知の電極-皮膚接触領域サイズ]
delta は、電流密度が前記接触面積の減少の影響を相殺する程度を表す因子であ
り、0<delta<1である、
装置。
【請求項13】
前記監視手段が、刺激が与えられる間のインピーダンスを監視する、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記監視手段が、前記刺激手段が、少なくとも1つの神経を電気的に刺激した後のインピーダンスを監視する、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
係属中の先行特許出願への言及
本特許出願は、Shai Gozaniによる、係属中の先行の米国特許仮出願番号第61/806,481号(2013年3月29日出願)の「DETECTING ELECTRODE PEELING BY RELATIVE CHANGES IN SKIN-ELECTRODE IMPEDANCE」(代理人整理番号NEURO-64PROV)の利益を主張し、参考として本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は一般に、痛みの症状軽減を提供するために電極を介してユーザの無傷の皮膚に電流を送達する経皮的電気神経刺激(TENS)デバイスに関し、より詳細には、TENSデバイスの電極を、使用中にユーザの皮膚から意図せずに分離する「電極剥離」を検出することに関する。
【背景技術】
【0003】
経皮的電気神経刺激(TENS)デバイスは、疼痛を抑制するために人体の特定の領域に電流を印加する。TENSの最も一般的な形態は、従来型TENSと呼ばれる。従来型TENSでは、痛みの領域内で、痛みの領域に隣接して、または、痛みの領域に近接して、皮膚上に電極が配置される。その後、電極を介して電気刺激がユーザに送達される。この場合、電気刺激は、一般的に周波数約10~200Hzの低強度(一般的に100mA未満)、短い持続時間(一般的に50~400マイクロ秒)のパルスの形態を成す。
【0004】
TENS電極は、安定した低インピーダンス電極-皮膚インタフェースを作るために、通常はヒドロゲルを利用することで、ユーザへの電流の送達を促進し、周辺の知覚神経を刺激する。刺激電流および出力密度(接触面積単位の出力強度)が、皮膚の炎症、および極端な場合には、熱傷を避けるために、安全な閾値より低いままであることを確保するために、最小の電極-皮膚接触面積が維持されねばならない。
【0005】
従来のTENSの使用への大きな安全の懸念は、「電極剥離」の可能性であり(即ち、TENSデバイスの電極が意図せずにユーザの皮膚から分離する場合)、電極-皮膚接触面積が減少することにより、電流および出力密度が増加する結果となる。電流および出力密度が増加することで、痛みを伴う刺激につながり、極端な場合には、熱傷になり得る。アメリカ食品医薬局(FDA)は、意図しない電極剥離の危険性のため、睡眠中のかかるデバイスの使用に対する警告が必要であるとする、TENSデバイスについての指針案を発行した(Food and Drug Administration,Draft Guidance for Industry and Staff:ClassII Special Controls Guidance Document:Transcutaneous Electrical Nerve Stimulator for Pain Relief 2010年4月5日)。
【0006】
睡眠の質が悪いことは、慢性疼痛に悩む患者の中で大きな罹患原因の1つである(Fishbain DA, Hall J,Meyers AL,Gonzales J,Mallinckrodt C.Does pain mediate the pain interference with sleep problem in chronic pain?Findings from studies for management of diabetic peripheral neuropathic pain with duloxetine.J Pain Symptom Manage.Dec 2008;36(6):639-647)。したがって、患者が睡眠中にTENS治療を受ける選択肢を有することが望ましい。実際、いくつかの研究では、TENS治療は睡眠の質を改善することができることが示されている(例えば、Barbarisi M,Pace MC,Passavanti MB,et al.Pregabalin and transcutaneous electrical nerve stimulation for postherpetic neuralgia treatment.Clin J Pain.Sep 2010;26(7):567-572を参照のこと)。このような理由から、TENSデバイスが、意図しない電極剥離からユーザを保護しつつ、睡眠中に疼痛緩和の目的で使用可能なように、電極-皮膚接触面積をリアルタイムで測定する、自動化された手段を提供することは有益であろう。特に、電極-皮膚面積において、かなりの減少が検出された場合には、残りの電極-皮膚接触面積上の過剰な電流または出力密度を防止するために、TENSの刺激は停止され、または低減されるべきであり、それによって痛みを伴う刺激や極端な場合には熱傷を防ぐ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明の一実施例は、例えば、電極-皮膚インピーダンスを使用する皮膚電極剥離の検出に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ユーザの上部ふくらはぎに配置されるように設計された刺激器と、上部ふくらはぎの領域に外周刺激を提供するように設計される事前構成された電極配列で構成される、新規なTENSデバイスの提供および使用を含む。本発明の鍵となる特徴は、連続的に電極-皮膚接触面積を監視するために、TENSデバイスが電極-皮膚インピーダンスを測定するように適合されていることである。事前構成された電極配列の既知の形状は、初期の電極-皮膚接触面積を確立し、次の電極-皮膚インピーダンスの変化の分析により、電極-皮膚接触面積の予測を可能にする(即ち、電極剥離を検出するため)。電極-皮膚インピーダンスが、接触面積の減少(即ち、意図しない電極剥離の結果として)に対応して、過剰な刺激電流または出力密度という結果をもたらす限界値に達した場合、痛みを伴う刺激の危険、および極端な場合には、熱傷の危険を避けるために、TENSデバイスは自動的に、TENSの刺激を停止するか低減する。
【0009】
本発明の1つの好ましい形態では、ユーザにおける経皮的電気神経刺激のための装置であって、少なくとも1つの神経を電気的に刺激するための刺激手段と、前記刺激手段に接続可能な電極配列であって、少なくとも1つの神経の電気刺激のための複数の電極を備え、前記電極は、前記ユーザの皮膚に完全に接触するときに、予め形成された形状、および既知の電極-皮膚接触面積サイズを有する、電極配列と、前記電極配列を通して、電気刺激のインピーダンスを監視するための、前記刺激手段に電気的に接続された監視手段と、前記電極-皮膚接触面積内の変化を推定するために前記インピーダンスを分析するための分析手段と、を備える装置が提供される。
【0010】
本発明の別の好適な形態においては、経皮的電気神経刺激を、複数の電極を備える電極配列を通してユーザの少なくとも1つの神経へと送達する間に電極-皮膚接触面積を監視するための方法が提供され、それぞれの電極は既知の形状およびサイズを有し、前記方法は、複数の電極と皮膚との間で完全に接触することを可能にするために電極配列をユーザの皮膚の表面に適用するステップと、前記少なくとも1つのユーザの神経を、電極配列に接続された電気刺激器で電気的に刺激するステップと、電極-皮膚インタフェースのインピーダンスを監視するステップと、電極-皮膚接触面積サイズを推定するために、監視されたインピーダンスを分析するステップと、を含む。
【0011】
本発明の別の好ましい形態では、ユーザの経皮的電気神経刺激のための装置であって、複数の電極を備える電極配列であって、前記複数の電極は、前記複数の電極がユーザの皮膚に完全に接触するときに、予め形成された形状と既知の電極-皮膚接触面積を有する、電極配列と、ユーザの少なくとも1つの神経を刺激するように、ユーザの皮膚に電気刺激を提供するための前記電極配列に接続可能な刺激手段と、電極-皮膚インピーダンス値を監視するための、前記電極配列に電気的に接続可能な監視手段と、監視手段が電極-皮膚インピーダンス値が所定の値だけ変更されたと決定するときに、ユーザの皮膚に提供された電気刺激を制御するための制御手段と、を備える装置が提供される。
【0012】
本発明の別の好ましい形態では、ユーザに経皮的電気神経刺激を印加するための方法が提供され、前記方法は、刺激電流をユーザに、電極-皮膚インタフェースを有するアノードおよび電極-皮膚インタフェースを有するカソードを通して適用するステップと、電極-皮膚インピーダンスを決定するために、(i)アノードとカソードを通る刺激電流、および(ii)アノードとカソードとの間の電圧差を測定するステップと、電極-皮膚インピーダンスが所定の方法で変化するときに、刺激電流を調整するステップと、を含む。
【0013】
本発明のこれらおよび他の目的と特徴は、添付図面と共に考慮されるべき本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明によってさらに十分に開示されあるいは明らかにされる。図中、同様の数字は同様の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明によって形成され、ユーザの上部ふくらはぎに装着された新規のTENSデバイスを示す概略図である。
【
図2】さらに詳細に
図1の新規のTENSデバイスを示す概略図である。
【
図3】
図1および
図2の新規のTENSデバイスの電極配列の下面を示す概略図である。
【
図4】
図1および
図2に示された新規のTENSデバイスの刺激器に電気的にかつ機械的に接続された、
図3の電極配列を示す概略図である。
【
図5】
図1および
図2に示された、新規のTENSデバイスの電極-皮膚インタフェースの概略図であり、ヒドロゲル電極用の等価回路は皮膚に面して配置される。
【
図6】パルス持続時間が短い場合に、TENSデバイスの電流の流れが主に容量性であることを示す、オシロスコープのトレースの画面キャプチャである。
【
図7】異なるδ値の接触面積とインピーダンス比との間の予測された関係を示す概略図である。
【
図8】様々な電極剥離試験についての、「電極剥離」の条件が発生した時点、即ち、インピーダンス比(ベースラインインピーダンスによって割られた現インピーダンスであり、必要ならアップデートされる)が閾値を超えるときに残っている、電極接触面積(cm
2)の分布を示す概略図である。
【
図9】
図1および
図2の新規のTENSデバイスとその「電極剥離」検出器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明によって形成された新規のTENSデバイス100を示し、ユーザの上部ふくらはぎ140に装着されている。ユーザは、TENSデバイス100を片方または両方の足に装着し得る。TENSデバイス100は、
図2にさらに詳細に示され、好ましくは3つの構成要素、即ち、刺激器105、ストラップ110、および、電極配列120を備える。刺激器105は、好ましくは、機械的および電気的に相互接続された3つの区画室101、102、103を備える。区画室101、102、103はヒンジ機構104によって相互接続され(そのうちの1つのみが
図2に示されている)、それにより、TENSデバイス100はユーザの足の湾曲した生体構造に適合できる。好ましい実施形態において、区画室102は、TENS刺激ハードウェア(バッテリを除く)とユーザインタフェース要素106および108を収容する。好ましい実施形態において、区画室101および103は、TENSデバイス100がワイヤレスでその他の要素(例えば、遠隔サーバ)と通信することを可能にするワイヤレスインタフェースユニットなどの、TENS刺激ハードウェアおよび他の付属要素に給電するためのバッテリを収容するさらに小さな補助区画室である。本発明の別の実施形態では、1つの区画室102のみがすべてのTENS刺激ハードウェア、バッテリおよびその他の付属要素を、側面の区画室101と103を必要とせず、収納するために使用され得る。
【0016】
さらに
図2を見ると、インタフェース要素106は、電気刺激のユーザ制御のためのプッシュボタンを備え、インタフェース要素108は、刺激状態を表示し、ユーザにその他のフィードバックを提供するLEDを備える。さらなるユーザインタフェース要素(例えば、LCDディスプレイ、ポケベルまたは音声出力を介した音声フィードバック、振動モータなどの触覚デバイス等)も考えられ、それらの要素は、本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態は、
図1に示されるようにユーザの上部ふくらはぎ140に装着されるように設計される。TENSデバイス100は、刺激器105と、電極配列120と、ストラップ110とを備え、装置を所定位置に配置し、次にストラップ110を締めることによって、上部ふくらはぎ140に固定される。特に、電極配列120は、ユーザの足におけるTENSデバイス100の特定の回転位置にかかわらず電極配列が適切な電気刺激をユーザの適切な生体構造に対して印加するように、意図的にサイズ調整され、構成される。好ましい実施形態は、TENSデバイスをユーザの上部ふくらはぎに配置することを含むが、追加の位置(膝の上部、背中の下部および上肢など)も考えられ、それらも本発明の範囲内であるとみなされる。
【0018】
図3は、電極配列120の1つの好ましい実施形態の概略図を示す。電極配列120は、好ましくは、4つの別個の電極202、204、206、208を備え、それぞれが均一または同様のサイズ(例えば、表面積)である。電極202、204、206、208は、好ましくは、電極204および206(カソードに相当する)が互いに対して(例えばコネクタ205を介して)電気的に接続されるように且つ電極202および208(アノードに相当する)が互いに対して(例えばコネクタ207を介して)電気的に接続されるように、対を成して接続される。電極202、204、206および208は、ユーザの足の上の電極配列120の回転位置にかかわらず適正な皮膚被覆率を確保するように適切にサイズ調整され、対を成して接続されることを理解すべきである。さらに、電極202、204、206および208は、交互的態様で接続されず、むしろ、2つの内側電極204および206が互いに接続されるように且つ2つの外側電極202および208が互いに接続されるように接続されると理解されるべきである。この電極の接続パターンは、もし2つの外側電極202および208が意図せず、互いに接触するようになった場合、カソードからアノードへの直接流れる刺激電流の電気的短絡が起きないことを確実にする。電流(即ち、組織に対する電気刺激のための電流)は、刺激器105上の相補的なコネクタ130、132と結合するコネクタ210、212(
図3および
図4を参照)によって電極対204、206、および202、208に対して提供される。コネクタ210は電極204および206と電気的に接続され、また、コネクタ212は電極202および208と電気的に接続される。刺激器105は、コネクタ210、212をそれぞれ介して電極204、206および電極202、208に通される電流を発生させる。
【0019】
好ましい実施形態では、皮膚に接触する導電性材料は、電極202、204、206、208に作られたヒドロゲル物質である。電極上のヒドロゲルは、刺激器と、刺激される知覚神経があるユーザの体の部分との間のインタフェースとして機能する。乾電極および非接触刺激などの、他の種類の電極も考えられ、本発明の範囲内であるとみなされる。
【0020】
TENSデバイス100の前述の態様の製造および使用に関するさらなる詳細は、Shai N. Gozaniらによる、係属中の2012年11月15日出願の米国特許出願通し番号13/678,221号「APPARATUS AND METHOD FOR RELIEVING PAIN USING TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL NERVE STIMULATION」(代理人整理番号NEURO-5960)に開示され、その特許出願は本明細書により参考として本明細書に組み込まれている。
【0021】
好ましい実施形態では、電極配列120はカソードおよびアノードのそれぞれに、少なくとも28cm2の電極-皮膚接触面積を作る。
【0022】
治療期間中の意図しない電極剥離は、ユーザへの潜在的危険性を意味する。電流および出力密度が増加し、ユーザに不快感を起こし、極端な場合には、熱傷の危険を呈し得るからである。電極剥離が起こると、同じ刺激電流が電極とユーザの皮膚との間のより小さな接触面積を介して流れることによって、より大きな電流および出力密度が生じる。
【0023】
理想的には、電極-皮膚接触面積は、TENSの刺激の間、直接監視され、次に電流および出力密度が決定され、電流または出力密度のどちらか一方の閾値が超過した場合には、刺激が停止されるか低減され得る。しかしながら、実用的な観点から、電極-皮膚接触面積はリアルタイムで容易に測定されることはできない。
【0024】
前述したことを考慮すると、本発明は、電極-皮膚インピーダンスの変化を監視することにより、電極-皮膚接触面積を推定する方法を開示する。本方法は、接触面積は、経皮的電気刺激の間の電極-皮膚インピーダンスにおける変化に影響する、主要な要因であるという生体電気の原理に基づいている(Lykken DT.Properties of electrodes used in electrodermal measurement.J Comp Physiol Psychol.Oct 1959;52:629-634)(Lykken DT.Square-wave analysis of skin impedance.Psychophysiology.Sep 1970;7(2):262-275)。
電極-皮膚インタフェース
ヒドロゲル電極の機能は、経皮的電気神経刺激器(即ち、TENSデバイス)と、刺激される表在感覚神経が存在するユーザの体との間のインタフェースとしての役割を果たす。
図5は、TENSデバイスとユーザとの間の電流の流れの略図である。
図5は、また、TENSデバイスと生体構造との間のインタフェースの等価回路
図350を示す。
図5で明らかなように、定電流源310からの刺激電流315は、カソード電極320を介してユーザの皮膚330に流れる。カソード電極320は、導電性下地(例えば、シルバーハッチング)342およびヒドロゲル344で構成される。電極-皮膚インタフェース構成要素320および330(即ち、カソード320および皮膚330)は、インピーダンスを、等価回路350の入力インピーダンスZ
I352内に含まれる電流の流れに提供する。体に一旦入ると、電流は、等価回路350の生体インピーダンスZ
B354によって代表される、脂肪組織、筋肉、神経および骨(図示せず)などの、様々な組織要素からさらにインピーダンスを受ける。最後に、電流は、皮膚330とアノード電極332で構成される(アノード電極332も導電性下地342とヒドロゲル344を含む)、別の電極-皮膚インタフェースを通って電流源310に戻る。皮膚330とアノード電極332との間のインタフェースは、等価回路モデル350内の出力インピーダンスZ
o356によって代表される。アノードとカソード電極(および同様に入力と出力インピーダンス)の名称は単に表記のためであることを理解すべきである。二相刺激パルスがTENS刺激の第2相内で極性を反転すると、電流はインタフェース332を介してユーザの体内に流れ、インタフェース320を介して体外に流れる。
【0025】
等価回路350の電極-皮膚インタフェースZI352と電極-皮膚インタフェースZo356の挙動は、パッシブ型電気回路360によってさらにモデル化され得る(van Boxtel A. Skin resistance during square-wave electrical pulses of 1 to 10mA.Med Biol Eng Comput.Nov 1977;15(6):679-687)。パッシブ型電気回路360の平行板静電容量Cp362および抵抗RP364は、角質層と関係する。パッシブ型電気回路360の構成要素Rs366は、アグリゲート直列抵抗を表し、角質層を含め、いくつかの皮膚構造に関係する構成要素を有する。
【0026】
等価回路350の生体インピーダンスZB354は、刺激電流が中を流れる組織の種類に依存する(例えば、脂肪、筋肉、神経、骨等)。しかしながら、特定の組織経路に関係なく、等価回路350のZB354は通常、電極-皮膚インピーダンスZI352と等価回路350のZO356よりもはるかに小さい。等価回路350の3つのインピーダンスは直列であるので、全インピーダンスZは個別のインピーダンスの合計である(式1)。
【0027】
Z = Z0+ ZB+ ZI 式1
式1は、ZB<<(Zo+ZI)であるため、生体インピーダンスZBを下げることにより簡略化され得る。さらに、Z0とZIは類似した特徴を有するため(例えば、ヒドロゲルの種類、表面積、類似した皮膚の種類に適用等)、次にインピーダンス全体のZは式2に簡略化することが可能であり、ZEは一般的な電極-皮膚インタフェースインピーダンスである。
【0028】
Z = Z
O+ Z
I= Z
E+ Z
E= 2Z
E 式2
好ましい実施形態では、モデルを簡略化し、インピーダンスを実質的に測定可能な量に調整するために、電極-皮膚インピーダンスは擬似抵抗を使用して定められる。具体的には、擬似抵抗は、刺激パルスの最後に電圧と電流の比によって与えられる。2相刺激パルスの場合には、第2相に同じ結果が予想されるが、第1相の最後の電圧および電流が使用される。この矩形波分析の手法は、一般的に、電極-皮膚インピーダンスの挙動を説明し研究するために使用される。相の持続時間が電極-皮膚の充電時定数に対して十分に長い場合には、次に擬似抵抗がR
p+R
s(
図5のパッシブ型電気回路360)に近似する。
【0029】
図6は、インピーダンスZの両端のインピーダンスZおよび電圧392を通る電流390のオシロスコープトレースの見本を示す。パルス持続時間394は、本実施例では、電極-皮膚充電時定数と比較して短く、これはまた、たいていのTENS刺激の場合にあてはまる。その結果、(
図5のパッシブ型電気回路360の)直列抵抗R
s366の両端の小規模の電圧降下396と共に、擬似抵抗は主に、(
図5のパッシブ型電気回路360の)キャパシタC
p362の充電(トレース398)を示す。したがって、擬似抵抗は主に、電極-皮膚インピーダンスZの容量部を示す。
「電極剥離」モデル
電極と皮膚の間の接触面積、ヒドロゲルの物理的および生体電気的な特徴、電流密度、および皮膚の状態を含む、いくつかの要因が電極-皮膚インピーダンス(Z
E)に影響を与える(Lykken DT.Square-wave analysis of skin impedance. Psychophysiology. Sep 1970;7(2):262-275)(van Boxtel A. Skin resistance during square-wave electrical pulses of 1 to 10 mA. Med Biol Eng Comput. Nov 1977;15(6):679-687)(Keller T, Kuhn A. Electrodes for transcutaneous (surface) electrical stimulation. J Automatic Control, University of Belgrade. 2008;18(2):35-45)。ここで開発された「電極剥離」モデルにおいては、電極-皮膚インピーダンスに影響を与えるすべての要因は、接触面積と電流密度を除いて、TENS治療期間の間は安定している(典型的なTENS治療期間は30から60分の間継続する)として仮定を単純化される。この仮定は厳密ではないが、検出閾値を設定するときに、この理想的なケースからの逸脱は限定され、安全要因を組み込むことにより説明され得る(即ち、「電極剥離」の受入不可能な程度を示す電極-皮膚インピーダンスにおける変化を識別するとき)。
【0030】
電極剥離モデルは、第1に接触面積のみを考慮して開発され、次に電流密度の影響に対処されるであろう。
【0031】
本発明の目的は、電極-皮膚インピーダンスにおける変化によって決定された電極-皮膚接触面積の相対的な変化を決定することであることは、注目に値する。本発明の目的は、任意の所与のモーメントで正確な接触面積を推定することではない。
【0032】
接触面積と電極-皮膚インピーダンスとの間の関係は、逆線状のものとしてモデル化され得る(Lykken DT.Square-wave analysis of skin impedance.Psychophysiology.Sep 1970;7(2):262-275)。インピーダンスZEと接触面積Aとの間の関係は、式3によって表される。
【0033】
【0034】
式中、ρは、接触面積から、治療期間の間、安定していると仮定された各種要因の影響を組み込むインピーダンスへの変換定数である。新規な接触面積がαAであるように、接触面積が減少する場合、式中、0<α≦1,であり、式4に示されたように、インピーダンスが増加する。
【0035】
【0036】
両方の電極が剥離し(即ち、意図せずにユーザの皮膚から外れる)、そのためそれぞれの接触面積が減少する可能性があるが、1つの電極のみが剥離する可能性のほうが高い(より控えめな推定)。この条件下では、全インピーダンス(元は式2)は式5によって与えられる。
【0037】
【0038】
1つの電極の剥離による、全インピーダンスにおける変化は、接触面積が電極の全表面積Aであると知られている場合の治療期間の開始時におけるインピーダンス(Zt=0)と、接触面積がαAに減少したときのその後の時刻Tでのインピーダンス(Zt=T)との間の比で表現され得る。この比は式6に示されている。
【0039】
【0040】
このように、インピーダンスにおける接触面積の影響のみが原因となる。
【0041】
一定の電極-皮膚接触面積を仮定すると、前述のリサーチではインピーダンスは増加された電流密度とともに減少するであろうことが示唆される(Lykken DT.Square-wave analysis of skin impedance.Psychophysiology.Sep 1970;7(2):262-275)(van Boxtel A. Skin resistance during square-wave electrical pulses of 1 to 10 mA.Med Biol Eng Comput.Nov 1977;15(6):679-687)(Keller T, Kuhn A.Electrodes for transcutaneous (surface) electrical stimulation.J Automatic Control, University of Belgrade.2008;18(2):35-45)。電流密度は接触面積単位当たりの電流強度として定義される。固定された全体の電流強度とともに、電極-皮膚接触面積の減少により、残りの接触面積を流れる有効な電流密度が増加し、このため、単位面積当たりのインピーダンスが減少する。本質的には、接触面積の減少の結果、インピーダンスの電流密度を増加する影響は、一部にはインピーダンスの接触面積を減少する影響を相殺し得る。電流密度の影響は、本明細書ではδ>0である倍数因子αδとしてモデル化されている。δは電流強度と逆相関の関係にあるということに注意すべきである(即ち、δは低刺激電流に対して最も大きい)。この電極に使用される導電性ゲル材料の電気化学特性は、また、δ値に影響を与える可能性があり、実験的にまたは分析的に決定され得る。完全な「電極剥離」モデルは式7に示されている(倍数因子は剥離電極のみに適用されることに注意)。
【0042】
【0043】
皮膚インピーダンスの矩形波分析では、インピーダンスにおける電流密度の前述の影響は、(
図5のパッシブ型電気回路360との関係において)主に並列抵抗、R
Pを通って伝達され、一方、C
pおよびR
sはたいてい電流密度に依存しないと示されている。(Lykken DT.Square-wave analysis of skin impedance.Psychophysiology.Sep 1970;7(2):262-275)(van Boxtel A. Skin resistance during square-wave electrical pulses of 1 to 10 mA.Med Biol Eng Comput.Nov 1977;15(6):679-687)(Kaczmarek KA, Webster JG, Bach-y-Rita P, Tompkins WJ.Electrotactile and vibrotactile displays for sensory substitution systems.IEEE Trans Biomed Eng.Jan 1991;38(1):1-16)。したがって、通常のTENSデバイスと電極との電極-皮膚インピーダンスにおける電流密度の影響は低いと考えられる。新規なTENSデバイス100の好ましい実施形態では、刺激パルス相の持続時間は100μ秒であり、電極-皮膚インピーダンス時定数と比較すると小さい(通常、>1ミリ秒)。その結果、TENS刺激のインピーダンスは、主に抵抗性よりはむしろ、容量性であり、C
pおよびR
sと比較すると、そのため全体のインピーダンスへのR
pの貢献は小さい(
図6を参照)。
【0044】
δ<1の場合、電流密度は、インピーダンスにおける接触面積を減少する影響を、部分的にまたは完全に相殺する(
図6を参照)。低電流強度(例えば、10mA未満)であり、R
pが関係する長い刺激パルス(例えば、>1ミリ秒)の場合には、δは0.6から0.8の高さであり得る(van Boxtel A.Skin resistance during square-wave electrical pulses of 1 to 10mA.Med Biol Eng Comput.Nov 1977;15(6):679-687)(Keller T,Kuhn A.Electrodes for transcutaneous(surface)electrical stimulation.J Automatic Control,University of Belgrade.2008;18(2):35-45)。しかしながら、通常従来のTENSデバイスに使用されるより高い電流強度と、TENS刺激のインピーダンスはたいてい容量性(即ち、電流は、たいてい、
図5のパッシブ型電気回路360との関係において考慮すると、R
pよりむしろC
pを通って流れる)である事実を仮定すると、δに予測される値は小さい。支援として、少なくとも1つのTENSデバイスによって得られる実験データは、インピーダンスにおける電流密度の影響は小さいことを示唆しており、したがって、このモデルの目的のために、以下の分析ではδが0.1に設定される。
【0045】
図7における、3つの曲線は、パラメータ値δの影響を示す。曲線410はδ=0.0、曲線412はδ=0.1、曲線414はδ=0.7に相当する。X軸405は、絶対単位(cm
2)と、初期面積の28cm
2に対する相対的割合の、電極-皮膚接触面積を表す。Y軸407は、現インピーダンス(即ち、Z
t=T)とベースラインインピーダンス(即ち、Z
t=0)との間のインピーダンス比である。ここに示すように、インピーダンス比は、接触面積のサイズが7から10cm
2未満に減少する場合、急速に変化する。電極-皮膚接触面積の大きな減少に対して電極剥離検出器を高感度にすることにより、面積-インピーダンスの関係における、この非線形性は、安全機構を提供する。
【0046】
電極-皮膚インピーダンスは、通常、電極が皮膚にある持続時間に伴い減少するため、(van Boxtel A. Skin resistance during square-wave electrical pulses of 1 to 10 mA.Med Biol Eng Comput.Nov 1977;15(6):679-687)、式7中に具体的にモデル化されず、Zt=0をZt<Tに置き換え、すべての時刻t<Tに対して、Zt<Tが最小のインピーダンスである。したがって、最終的な電極剥離検出器は式8にて与えられる。
【0047】
【0048】
の場合、刺激を停止 式8
好ましい実施形態では、TENSデバイス100は、定電流刺激器310によって送達される刺激電流315を測定することによって、および、定電流刺激器310のカソード320とアノード332の間の電圧差を測定することによって、TENS刺激の間、継続的に電極-皮膚インピーダンスを監視するための回路および/またはソフトウェアを備える「電極剥離」検出器を備える。刺激器310によって「見られる」全体の等価インピーダンスは、電流で電圧差を割ることにより計算され得る。全インピーダンスは、電極-皮膚インタフェース320および332と関連する(等価回路350の)インピーダンスZIおよびZOによって左右され、接触面積サイズの逆数によって概ね決定される。初期の全インピーダンスはメモリに保存され、「ベースライン」インピーダンスと称される。それぞれ、次のサンプル時刻Tにて測定された全インピーダンスは、ベースラインインピーダンスZt<T=min(Zt<T-1,ZT)をアップデートする。換言すれば、電極-皮膚インピーダンスは通常、電極が皮膚の上にある時間の長さの関数として減少するため、ベースラインインピーダンスは、その治療期間の持続時間の間、測定される最小のインピーダンスに設定されるよう、継続してアップデートされることが好ましい。全インピーダンスZTは、次に、ベースラインインピーダンス値Zt<Tと比較される。もし電極が皮膚から剥離された場合(即ち、電極が意図せずに皮膚から外れた場合)には、電極-皮膚接触面積は減少し、そのため電極-皮膚インピーダンスは増加する。全インピーダンスもまた増加する。したがって、全インピーダンス値がベースラインインピーダンス値の一定の倍数を超過するとき、電極-皮膚接触面積は全接触面積の限界のパーセントより低くなったと推定することができる。経皮的電気刺激は、次に、高い電流および出力密度のために、ユーザに過剰な不快感および/または熱傷を与えないように直ちに停止される(または低減される)。
【0049】
例えば、
図9を参照すると、TENSデバイス100は、「電極剥離」検出器500を備え、電極剥離検出器500は、刺激電流を決定するための手段505(例えば、当該技術分野において周知である電流センサのようなもの)と、アノード320とカソード332との間の電圧差を決定するための手段510(例えば、当該技術分野において周知である電圧センサのようなもの)と、経皮的電気刺激の間の電極-皮膚インピーダンスを計算するための手段515(例えば、当該技術分野において周知である、本明細書で開示された機能を提供するための適切なプログラミングを有する、マイクロプロセッサのようなもの)と、電極-皮膚インピーダンスが所定の閾値を超えた場合刺激電流を中止するための手段520(例えば、当該技術分野において周知である、本明細書にて開示された機能を提供するよう、前述のマイクロプロセッサによって制御されるスイッチのようなもの)とを含む。
【0050】
本発明の好ましい実施形態の使用は簡単である。ユーザは、電極配列120を
図4に示すように、刺激器105にスナップ留めし、それにより、2つの構成要素間に強固な機械的および電気的な接触を確立する。ストラップ110を使用して、本アセンブリは次に、ユーザの上部ふくらはぎに電極と皮膚を完全に接触させて配置される(
図1)。TENS治療を送達するための電流刺激は、押ボタン106を押すことにより開始される。新規なTENSデバイス100の「電極剥離」検出器は、治療期間の間にわたって電圧および刺激器105のアノード端子210とカソード端子212間の電流を測定することによって、電極-皮膚インピーダンスを監視する。ベースラインインピーダンスは、より小さなインピーダンス値が治療期間の間に測定されたときにアップデートされる。現在の電極-皮膚インピーダンス値とベースラインインピーダンス値との間の比が所定の閾値を超えた場合、TENSデバイスの「電極剥離」検出器は次にTENSデバイスに刺激を停止させる。LED108は、この状態、即ち、電極-皮膚接触面積が限界値より下になったため、TENSデバイスが刺激を停止する状態、になったことを知らせるために赤を点滅する。
TENS治療への電極剥離モデルの適用
本発明の有用性は、後述の「電極剥離」検出器を装備したTENSデバイスを使用する実験において証明された。TENSデバイスは100mAまでの強度を有する刺激電流を送達するよう設計されている。二相刺激パルスは230μ秒の持続時間(各相は100μ秒の持続時間で、2つの相の間には30μ秒の間隙がある)および60Hzと100Hzとの間の不規則な周波数を有する。アノードとカソードの電極は、電極配列120が皮膚に正しく配置された場合、少なくとも28cm
2の電極-皮膚接触面積を作る。したがって、最大の平均電流密度および出力密度は、それぞれ、0.5mA/cm
2および3.6mW/cm
2である。最大平均電流密度は、最大強度が100mAかつ最大パルス周波数が100Hzである、二相電流パルスの二乗平均平方根値である。出力密度は、FDA指針案に従って抵抗負荷が500Ωの同じ条件で計算されている(Food and Drug Administration, Draft Guidance for Industry and Staff:Class II Special Controls Guidance Document:Transcutaneous Electrical Nerve Stimulator for Pain Relief April 5, 2010)。TENSデバイスの「電極剥離」検出器は、87.5%を超える電極-皮膚接触面積の減少となる電極剥離の事象を検出するように設計されている(即ち、残存する電極-皮膚接触面積は当初の電極-皮膚接触面積の8分の1未満になったとき)。電極-皮膚接触面積が、当初の電極-皮膚接触面積サイズである28cm
2の8分の1になったとき、結果として最大の平均出力密度は28.5mW/cm
2であり、実質的に、FDA指針案に記述された熱傷のリスクを増加させると認識される250mW/cm
2の閾値未満となる。(Food and Drug Administration, Draft Guidance for Industry and Staff:Class II Special Controls Guidance Document:Transcutaneous Electrical Nerve Stimulator for Pain Relief April 5,2010)。
【0051】
現時点でのインピーダンスとベースラインインピーダンスとの間のインピーダンス比は、式8によって与えられる。TENSデバイスによって得られる実験データは、パラメータδに0.1の値を生じる。安全域を増加し、示されていない要因と変動の原因を説明するために、50%の安全性の調整係数がインピーダンス比閾値を決定することに取り入れられる。電極-皮膚接触面積の当初のサイズ(α=0.125)の8分の7が減少したことを検出すると、0.5*[1.0+0.125(0.1-1.0)]/2=1.87のインピーダンス比閾値になる。TENSデバイスの「電極剥離」検出器にプログラミングされた最終的な検出閾値は、端数切り捨てで1.80になった。このように、TENSデバイスの「電極剥離」検出器は、一旦、現在のインピーダンスがベースラインインピーダンスの180%以上であると決定すると、刺激を停止する。
【0052】
電極-皮膚接触面積における減少は、TENS刺激におけるインピーダンスの増加の主な原因である。この実験においては、電極-皮膚接触面積の減少は、制御された剥離過程を通して行われる。制御された剥離過程は、事前剥離時間および剥離速度を特徴とする。事前剥離時間は、電極-皮膚接触面積が制御された剥離で減少される前に、電極が被験者の皮膚上にある持続時間を意味する。剥離速度は、1分当たりの電極-皮膚接触面積の減少である。剥離は、徐々に被験者の皮膚から電極を持ち上げることにより行われる。それぞれの調査の被験者に、任意の片方の足を10分の事前剥離時間に、もう片方の足を40分の事前剥離時間に割り当てられた。各試験ごとに、剥離速度は1.5から60cm2/分の間で任意に選択される。これは外側の電極202および208が、約30秒から20分で完全に剥離することを意味する。
【0053】
66人の被験者(女性37人)がこの実験に参加した。平均の被験者の年齢は、51.3歳であり、標準偏差は15.0歳、19から85歳の範囲(最小から最大)であった。異なる電極がそれぞれの足に使用された。合計で132の電極剥離試験が行われた。
【0054】
各試験の初めに、電極120が被験者の選択された足に配置され、TENS治療期間が5mAの強度で開始された。事前剥離時間が経過した後、外側の電極パッド202または208のうち1つが指定された剥離速度で皮膚から剥離された。最初のパッドが皮膚から完全に取れた場合、必要に応じて、もう片方の外側のパッドが同じ剥離速度で皮膚から剥離された。刺激が自動的に停止された時点で、皮膚上に残っている全体の外側の電極面積が記録された。
【0055】
電極剥離の条件を誘発する、残りの電極接触面積422(cm
2)の分布は
図8に示されている。言い換えると、
図8は、実施された132の電極剥離試験について、「電極剥離」の条件が発生した時点、即ち、インピーダンス比(適切な場合にはアップデートされた、ベースラインインピーダンスによって割られた現インピーダンス)が閾値1.80を超える時点、で残っている電極接触面積(cm
2)の分布を示す。最小の残りの電極-皮膚接触面積424は、6.9cm
2であり、ターゲットの最小接触面積3.5cm
2の約2倍の大きさであった。132すべての実験で、電極-皮膚接触面積が最小接触面積3.5cm
2より小さくなる前に、刺激はTENSデバイスによって停止された。電極剥離が検出されたときの平均の電極-皮膚接触面積は、それぞれ、10分および40分の事前剥離時間のグループで、10.2±2.1cm
2および10.1±1.7cm
2であった。2つのグループの平均の電極-皮膚接触面積の違いは、統計的に顕著ではなかった(p>0.05、対t-検定)。すべての132の試験を統合すると、平均の接触面積は10.1±1.9cm
2であった。連続型変数(剥離速度、年齢、身長、体重、肥満度指数)およびカテゴリー変数(性別)の2つのグループのt-検定の場合において、残りの接触面積と人口統計要因との間の関係は、残りの接触面積と電極剥離速度との間の関係と同様に、一変量の直線回帰によって評価された。剥離速度およびいかなる人口統計変数も残りの接触面積を予測しなかった(すべてp>0.05)。
【0056】
実験結果は、電極剥離は電極-皮膚インピーダンスをリアルタイムで監視することによって確実に検出可能であることを示した。接触面積が試験被験者の人口統計および事前剥離時間と統計的に顕著な相関関係を有さないという事実は、インピーダンスの監視に基づく電極剥離の検出がロバストであることを示唆する。そのため、「電極剥離」検出器は、絶えずユーザおよび電極の特徴の変化に面して操作するべきである。
好ましい実施形態の変形例
本発明の別の実施形態では、その時間インスタンスまで取得されたすべてのインピーダンス値の実行最小インピーダンス値の代わりに、ベースラインインピーダンスは、初期のインピーダンス値である。
【0057】
本発明の別の実施形態においては、インピーダンス比が所定の閾値を超える場合、刺激を停止する代わりに、TENS刺激電流の強さが、推定された電極-皮膚接触面積の減少に比例して減少され得る。この手法は、電流および出力密度を安全な閾値より下のレベルに維持しつつ、治療を継続可能にするであろう。
【0058】
各治療期間は通常、約1時間継続する。1つの好適な実施形態においては、各治療期間はユーザがプッシュボタン106を作動させるときに開始される。別の好適な実施形態では、ユーザがさらに介入することなく、タイマが次の治療期間を開始するために使用される。この手法は、夜間の睡眠中に2つ以上の治療期間が望まれるときに、特に有用である。ユーザによって手動で開始された最初の治療期間が完了したとき、タイマが自動的に予め設定した時刻で開始し、ベースラインインピーダンスがその次の治療期間のために保存される。一実施形態では、タイマの期間はその前の治療期間の持続時間と同じである。タイマの満了は新しい治療期間を開始し、前回の期間からの最終のベースラインインピーダンスは、現在の治療期間のためのベースラインインピーダンスの初期値として使用される。
【0059】
本発明の好ましい実施形態においては、刺激電流の強度は、治療期間が進むにつれて増加または減少する場合がある。例えば、増加は、神経の慣れに対応するため必要とされ得る。したがって、全インピーダンスを推定するために使用される刺激電流強度は、治療期間の中で、または複数の期間にわたって異なり得る。
【0060】
別の実施形態では、全インピーダンスは、固定された特徴(例えば、刺激電流強度およびパルス持続時間)を有する専用の調査電流により評価される。強度は、調査電流が治療的電気刺激を妨げないように、電気触覚閾値の強度を下回るレベルに設定され得る。調査電流のパルスは、治療用の電流パルスよりもはるかに長い持続時間を有することができ、そのためインピーダンスの抵抗性および容量性構成要素が評価され得る。
【0061】
本発明の別の実施形態では、電極-皮膚接触面積はTENS治療期間、および治療期間と治療期間の間の期間の両方とも監視される。感覚閾値の強度より低い刺激強度を有する、同様の調査電流は、電極-皮膚インピーダンスを監視するために休止期間で使用される。
【0062】
最後に、本発明の本質を説明するために本明細書中に記載して例示してきた細部、材料、ステップ、および、部品の配置のさらなる変更は、本発明の原理および範囲内に依然としてとどまりつつ当業者によりなされてもよいということは理解すべきである。