(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】防汚性シート
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20220202BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
B32B3/30
B01J35/02 J
(21)【出願番号】P 2017239123
(22)【出願日】2017-12-14
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000104412
【氏名又は名称】カンボウプラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 典昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌樹
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-086401(JP,A)
【文献】特開2001-001458(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013176(WO,A1)
【文献】特開2005-271490(JP,A)
【文献】特開平11-047610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B01J 21/00- 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、この基材シートの表面に形成された防汚層とを有し、
前記防汚層は、光触媒と、この光触媒により分解される熱可塑性樹脂とを含有して自己崩落性を有し、
前記防汚層の表面に周期構造の凹凸部が形成され、
前記周期構造の凹凸部が形成されている状態では、前記周期構造の凹凸部により撥水化され、
前記周期構造の凹凸部が崩落した状態では、防汚層が自己崩落
され、
前記防汚層の表面の凹凸部におけるピッチと凹部深さの比が10:1~1:2であること
を特徴とする防汚性シート。
【請求項2】
前記防汚層の表面の凹凸部における隣り合う凸部および/または凹部のピッチが20μm~200μmであること
を特徴とする請求項1に記載の防汚性シート。
【請求項3】
前記防汚層の表面の凹凸部における凹部の幅と凸部の幅との比(凹凸比)が100:1~7:3であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の防汚性シート。
【請求項4】
前記防汚層の表面における凹凸部がピラー形状であること
を特徴とする請求項1~3いずれかに記載の防汚性シート。
【請求項5】
前記防汚層の表面の凹凸部が角錐形状または円錐形状または半球形状であること
を特徴とする請求項1~3いずれかに記載の防汚性シート。
【請求項6】
前記防汚層の表面の凹凸部が、千鳥状に配置されていること
を特徴とする請求項1~5いずれかに記載の防汚性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚性シートに関し、特に、基材シートと、この基材シートの表面に形成された防汚層とを有し、前記防汚層の表面に周期構造の凹凸部が形成された防汚性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
基材シートと、この基材シートの表面に形成された自己崩落性の防汚層とを有する防汚性シートとして、特許文献1に記載されたものがある。この防汚性シートは、基材シートの表面に、自己崩落性の防汚層が形成されている。この自己崩落性の防汚層は、光触媒と、この光触媒の酸化還元作用により分解される熱可塑性樹脂とを含んでいる。また、防汚層は表面が平坦なものが用いられる。
【0003】
このような構成の防汚性シートを倉庫の屋根材やトラックの幌地などの屋外の用途に供した場合には、防汚層に太陽光線などが当たることにより、光触媒が光エネルギーを受けてその周囲に存在する熱可塑性樹脂を分解させながら、自らを防汚層の表面に露出させて、その酸化還元作用すなわち防汚作用を発現し、汚れを洗浄する。
【0004】
また、他の公知の防汚性シートとして、特許文献2には、シート材の外表面に光触媒粒子を含む親水性表面層が形成された屋外用シートが記載されている。この屋外用シートは、光触媒効果によってシート表面の親水性を増加させ、それにより雨水等で汚れを洗浄する。
【0005】
さらに他の公知の防汚性シートとして、特許文献3には、基材の最上層が光触媒を含有させたフッ素樹脂層で被覆された光触媒シートであって、フッ素樹脂表面が撥水性を有する光触媒シートが記載されている。この光触媒シートは、シート表面層を撥水性として汚れを付着し難くし、さらに、付着した汚れを光触媒で分解するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4531120号公報
【文献】特開平9-78454号公報
【文献】特開2005-42257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている防汚性シートの防汚層は、粉粒状の光触媒が上記のようにその周囲に存在する熱可塑性樹脂を分解し、汚れの付着した防汚層を自己崩落させて、実質的に汚れが付着していない清浄な表面状態を維持する機能を発現するものであり、防汚性に優れている利点を有する。しかしながら、防汚性シートを使用し始めた初期の段階においては、大部分の光触媒は防汚層の内部に埋設しており、その表面部には所要量の光触媒が存在しない状態となっている。このとき、防汚層表面の熱可塑性樹脂を分解させて所要量の光触媒を露出させるのに相応の時間が必要となることから、使用を開始した初期の段階では所要の防汚性能を発現させることができなくなる。
【0008】
特許文献2、3に開示されている防汚性シートは、それぞれシート表面を親水性または撥水性にして、防汚効果を得たものである。また、いずれの防汚性シートも、表面層が汚れを付着させにくくするか、シート同士の熱接合を容易に行うための構成となっている。しかしながら、これらのシートは汚れを完全に除去できず、特に砂や金属錆粉体等の光触媒で分解できない汚れが、シートの使用期間に応じて徐々に蓄積する欠点がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するもので、所要の防汚性を使用開始当初から長期にわたって維持できる防汚性シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の防汚性シートは、基材シートと、この基材シートの表面に形成された防汚層とを有し、前記防汚層は、光触媒と、この光触媒により分解される熱可塑性樹脂とを含有して自己崩落性を有し、前記防汚層の表面に周期構造の凹凸部が形成され、前記防汚層の表面に周期構造の凹凸部が形成されている状態では、前記周期構造の凹凸部により撥水化され、前記周期構造の凹凸部が崩落した状態では、防汚層が自己崩落されることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、防汚性シートを使用し始めた初期の段階においては、周期構造の凹凸部の撥水作用により、いわゆるロータス効果が発揮されて、汚れが付着し難い。また、防汚層は、光触媒により分解される熱可塑性樹脂を含有しているため、この後は自己崩落により周期構造の凹凸部も崩落することとなる。周期構造の凹凸部が崩落した後は、防汚層が自己崩落され、実質的に汚れが付着していない清浄な表面状態を使用開始当初から維持する機能を発現する。
【0012】
なお、前記防汚層の表面の凹凸部における隣り合う凸部および/または凹部のピッチが20μm~200μmであると好適である。また、前記防汚層の表面の凹凸部におけるピッチと凹部深さの比が10:1~1:2であると好適である。また、前記防汚層の表面の凹凸部における凹部の幅と凸部の幅との比(凹凸比)が100:1~7:3であると好適である。前記防汚層の表面における凹凸部をピラー形状に形成してもよい。また、これに代えて、前記防汚層の表面の凹凸部を先端ほど小さくなる形状に形成してもよく、その場合に、前記防汚層の表面の凹凸部を角錐形状または円錐形状に形成してもよい。また、これに代えて、前記防汚層の表面の凹凸部を半球形状に形成してもよい。また、前記防汚層の表面の凹凸部を千鳥状に配置してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防汚層が、光触媒と、この光触媒により分解される熱可塑性樹脂とを含有して自己崩落性を有し、前記防汚層の表面に周期構造の凹凸部が形成され、前記防汚層の表面に周期構造の凹凸部が形成されている状態では、前記周期構造の凹凸部により撥水化され、前記自己崩落性によって前記周期構造の凹凸部が崩落した状態では、汚れの付着した防汚層が自己崩落されるので、防汚性シートを使用し始めた初期の段階においては、周期構造の凹凸部による撥水作用(ロータス効果による撥水作用)により、汚れが付着し難くなり、この後、光触媒による自己崩落性が発現すると、汚れの付着した防汚層が自己崩落され、実質的に汚れが付着していない清浄な表面状態が維持される。すなわち、初期から長期にわたって、良好に汚れが付着することを最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る防汚性シートの斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態に係る防汚性シートの斜視図である。
【
図6】本発明のその他の実施の形態に係る防汚性シートの断面図である。
【
図8】前記実施形態に係る防汚性シートの防汚層とこの防汚層を製造する型とを簡略的に示す断面図である。
【
図10】前記他の実施の形態に係る防汚性シートの防汚層とこの防汚層を製造する型とを簡略的に示す断面図である。
【
図12】前記その他の実施の形態に係る防汚性シートの防汚層を製造する型を簡略的に示す断面図である。
【
図13】接触角ヒステリシスの測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る防汚性シートを図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る防汚性シートは、基材シート1と、この基材シート1の表面に形成された防汚層2とを備えている。防汚層2は、基材シート1の表面に積層するなどして直接設けてもよいが、これに限るものではなく、
図2に示すように、接着剤層3を介して設けてもよい(すなわち、基材シート1に接着剤層3を介して防汚層2を接着してもよい)。
【0016】
基材シート1は、樹脂フィルム、樹脂シート、織物、編物、不織布、ネット等の布帛などの、任意のシート材を用いることができるが、さらに積層シート材を用いてもよく、これら以外の素材を用いてもよい。
【0017】
基材シート1の表面に防汚層2を形成するための加工方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラミネート、コーティング、パディング、カレンダー、押し出しラミネート等の方法などを用いて形成することができる。
【0018】
防汚層2は、光触媒と、この光触媒により分解される熱可塑性樹脂とを含有して自己崩落性を有する。そして、防汚層2の表面には、周期構造の凹凸部(以下、単に凹凸部とも称する)4が形成されている。なお、2aは防汚層2の基台部で、この基台部2aの表面に周期構造の凹凸部4が形成されている。
【0019】
防汚層2に含有される光触媒とは、紫外線を照射すると、その表面で酸化力が生じ、その酸化還元作用により有機物を分解する材料をいうが、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂に対して酸化還元作用を発現できるものであればよい。防汚層2は熱可塑性樹脂を十分に分解できる程度に光触媒を含んでいればよい。また、光触媒は、防汚層2において、好ましくは粒径10nm~10μm、より好ましくは粒径10nm~5μm程度の粉粒体の形態で存在することができる。防汚層3は熱可塑性樹脂を十分に分解できる程度に光触媒を含んでいればよく、その平均含有量は、防汚層を構成する樹脂成分100質量部に対して、光触媒の固形分換算で0.01質量部~15質量部であることが好適であり、光触媒の固形分換算で0.01質量部~10質量部であることがより好適である。光触媒は、2以上の粒子が凝集して存在していてもよい。光触媒の含有量は、その粒径や分解作用の強度に応じて、上記範囲外の含有量としてもよい。例えば、光触媒として、比較的粒径が小さい光触媒、又は、分解作用の強い光触媒を用いる場合には、光触媒の含有量を少なくしてよく、光触媒として、比較的粒径が大きい光触媒、又は、分解作用の弱い光触媒を用いる場合には、光触媒の含有量を多くしてよい。
【0020】
また、防汚層2に含有される熱可塑性樹脂としては、光触媒の酸化還元作用で分解されるものであればよく、たとえば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニルコポリマー、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、これらの任意の混合物などを挙げることができる。かかる熱可塑性樹脂であると、後述の熱可塑性樹脂の自己崩落により、清浄な表面状態を維持することができる。
【0021】
周期構造の凹凸部4は、各種の形状のものを用いることができる。例えば、
図3などに示すように、凹部4aと凸部4bが所定ピッチで規則的に並んだ形状とすると好適であり、その凹凸部4は、凹部4aの縁部からそのまま鉛直方向または鉛直方向に近い方向に凸部4bが起立する(突出する)いわゆるピラー形状(柱形状)とすると好適である。また、ピラー形状の場合には、角の部分が曲線の形状であってもよい。
【0022】
また、これに代えて、周期構造の凹凸部4として、その凸部4bが先端ほど徐々に小さくなる角錐形状または円錐形状のものを用いてもよい。その一例として、
図4、
図5に示すように、周期構造の凹凸部4として、いわゆるピラミッド形状のものを用いたり、他の例として、
図6、
図7に示すように、半球状の凹部4aが所定ピッチで規則的に並んでなる形状のものを用いたりしてもよく、またこの形状が反転したものを用いてもよい。また、角錐形状または円錐形状の頂点に丸みをつけたり平坦にしたりする形状であってもよい。例えば、円錐台や角錐台などの形状であってもよい。なお、
図6、
図7においては、半球状の凹部4aが千鳥状に配置されている(すなわち、隣り合う凹部4a同士が縦横方向に対してずれて配置されている)場合を示しており、好適であるが、これに限るものではなく、ピラー形状のものと同様に縦横に並ぶように配置してもよい。
【0023】
また、図示しないが、平面視して凹部4aの形状が多角形状または円形状になるように形成してもよく、例えば、凹部4aの形状が平面視して正六角形または正八角形または円形状で、ピラー形状としてもよいし、これに代えて、先端側ほど徐々に小さくなる角錐形状または円錐形状のものを用いてもよい。また、この場合には、千鳥状に配置すると好適であるが、ピラー形状のものと同様に縦横に並ぶように配置してもよい。
【0024】
凹凸部4における隣り合う凸部4bおよび/または凹部4aのピッチは、前記に説明した凹凸部4の形状に拘らず、20μm~200μmであることが好ましい。凸部4bおよび/または凹部4aのピッチが20μmより小さいと凹凸部4の形成が困難となり、凸部4bおよび/または凹部4aのピッチが200μmより大きいと撥水性が悪くなる。
【0025】
凹凸部4におけるピッチと凹部深さの比が10:1~1:2であることが好ましい。撥水性の観点から7:1~1:1がより好ましい。ピッチと凹部深さの比とは、例えば、
図8などに示したように、凹凸部4における隣り合う凸部4bおよび/または凹部4aのピッチ(τ)と凹部4aの深さ(h2)の比である。
【0026】
また、凹凸4部における凹部4aと凸部4bの幅との比(凹凸比)は、前記に説明した凹凸部4の形状に拘らず、100:1~7:3の範囲にすることが好ましい。凹凸比がこの範囲であると水の接触角が大きくなることを確認でき、撥水性を一層向上させることが可能であるからである。すなわち、凹凸比が7:3以上に大きい方が水の接触角も大きくなる傾向があり撥水性がよくなる。一方、凹凸比が100:1よりも大きくなると水滴を支える部分が小さくなり、また、凹凸部4の形成が困難となる。
【0027】
防汚層2の表面に周期構造の凹凸部4を形成するには、紫外線硬化樹脂を使用する方法等種々あるが、表面が平らな防汚層2に周期構造の凹凸部6(
図9参照)を形成した型(金型)5を押圧(プレス)することで、周期構造の凹凸部4を形成すると好適である。この場合には、
図8、
図9に示すように、型5の形状に関しては、基台部7上に角柱状の凸部6aが縦横に並べられている型5を用いて、ピラー形状(柱形状)の凹凸部4を形成したり、
図10、
図11に示すように、基台部(マスク部)8から角錐状の凹部6bが縦横に並べられている型5を用いて、角錐形状または円錐形状の凹凸部4を形成したりするとよい。また、これに代えて、
図12に示すように、基台部7から半球状に突出する凸部6cが縦横に並べられた型5を用いて、半球状の凹部4aが所定ピッチτで規則的に並んでなる形状の凹凸部4を形成するとよい。また、表面に周期構造の凹凸部4が形成された防汚層2を接着剤層3で基材シート1に接着したり、表面に平坦面を有する防汚層を予め基材シート1に接着した後に、金型を押圧して、周期構造の凹凸部4を形成したりしてもよい。
【0028】
ここで、防汚層2の表面に本実施形態の周期構造の凹凸部4が形成されている状態とは、防汚層2が光触媒による自己崩落性を発現していない状態のことを指し、本実施形態の周期構造の凹凸部4が崩落した状態とは防汚層2が光触媒による自己崩落性を発現した状態のことを指す。
【0029】
上記の構成によれば、防汚層2が、光触媒と、この光触媒により分解される熱可塑性樹脂とを含有して自己崩落性を有し、防汚層2の表面に周期構造の凹凸部4を形成しているので、防汚性シートを使用し始めた初期の段階においては、周期構造の凹凸部4による撥水作用(ロータス効果による撥水作用)により、汚れが付着し難くなり、この後、光触媒による自己崩落性が発現すると、汚れの付着した防汚層2が自己崩落され、実質的に汚れが付着していない清浄な表面状態が維持される。つまり、初期から長期にわたって、良好に汚れが付着することを最小限に抑えることができる。
【0030】
(実施例)
周期構造の凹凸部4の材料として、光触媒を含まない比較例としてのPVC(ポリ塩化ビニル:熱可塑性樹脂の1例)と、本実施の形態に係る光触媒を含む熱可塑性樹脂との撥水性について実験した。なお、周期構造の凹凸部は表面が平らな防汚層に周期構造の凹凸部を形成した金型をプレスすることで形成した。水の接触角が大きいほど撥水性が高くて防汚性が良好となるから撥水性の評価方法として水の接触角を測定した。
【0031】
(接触角の測定方法)
接触角は
図13に示す方法により測定した。
(1)滴下式による滑落角の測定
液滴に初速度を与えたときの滑落角を測定した。
(2)測定における定義
・使用針と液量:22G(10μL)を使用。
・滑落角:1度の分解能で測定し、サンプル面下端まで止まらずに滑落する角度とする。または、着滴後20mm以上動いたら滑落有とする。
(3)測定方法
・全自動触針計DM-701(協和界面科学(株)製)を用い、固体表面の傾斜角を固定した状態で一滴滴下し、滑落の有無を検証する。滑落有の場合は傾斜角を下げ、滑落無の場合は傾斜角を上げる。そして、滑落する最低の傾斜角を接触角とし、平坦面と構造面とを比較する。
(4)測定条件
・滴下量VμL:10μLで4,5点測定
・高さhmm:10mm固定
【0032】
また、
図1~
図3、
図8、
図9に示すように、凹部4aからそのまま鉛直方向または鉛直方向に近い方向に凸部4bが起立するピラー形状の凹凸部4と、
図4、
図5、
図10、
図11に示すように、頂部が徐々に小さくなる角錐形状または円錐形状の凹凸部4(4b)とのそれぞれの構成において、その凸部4b間の距離であるピッチτや押圧する型5の凹凸部(エンボス)6の形成箇所の温度、凹部4aの幅f1、凸部4bの幅f2、深さhなどを変えて、ピッチと凹部深さの比、水の接触角について確認した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0033】
また、表1には記載していないが、比較例として、凹凸部4が形成されていない、すなわち平坦である点が異なり、材料がPVC、光触媒を含む熱可塑性樹脂である場合の水の接触角を確認したところ、水の接触角は、材料がPVCである場合が87~91度、材料が光触媒を含む熱可塑性樹脂である場合が91~97度であった。材料として、単なるPVCの場合よりも、光触媒を含む熱可塑性樹脂を用いた場合の方が、水の接触角が大きくなり、より良好な撥水性が得られることを確認できた。
【0034】
表1より、凹凸部(エンボス)6の転写温度が120度以上の場合に、材料に拘らず水の接触角が100度以上となり、良好な撥水性が得られることを確認できた。
【0035】
表1より、周期構造の凹凸部4の形状に関しては、凸部4の先端ほど徐々に小さくなる角錐形状または円錐形状のもの(防汚層2)よりも、凹部4aからそのまま鉛直方向または鉛直方向に近い方向に凸部4bが起立するピラー形状(柱状)のもの(防汚層2)の方が、水の接触角が大きくなり、より良好な撥水性が得られることを確認できた。
【0036】
表1より、凹凸部4のピッチの大きさは、20~45μmの範囲のものでは、水の接触角にあまり影響を及ぼしていない。また、型5からの転写率が大きい方が水の接触角が大きくなり、ピッチと凹部深さの比が10:1以下であると、水の接触角が大きくなり、さらに良好な撥水性が得られる。
【0037】
図14に簡略的に示すように、型5から、凹凸部4を有する防汚層2を成形するにあたり、型5の凸部の角部が高曲率と中曲率と低曲率のもの(正転曲率形状のもの:
図14の上列を参照)を用いて、その凹凸形状が逆になって転写されたのもの(反転曲率形状のもの:
図14の下列を参照)を作成した。この場合に試した型5のピッチ、凸部の幅、凹部の幅、深さを表2に示す。なお、
図14は、全て凹凸比(凹凸部の凸部の幅(15μm)/凹部の幅(135μm))が0.11のものの場合を示している。
【表2】
【0038】
また、この場合の、凹凸比(凸部の幅/凹部の幅)、ピッチと凹部深さの比および接触角を測定した。この場合に、みかけの接触角は液量1μLの液を(滴下)させて(液滴法を用いて)測定した。表3、表4にその結果を表す。
【表3】
【表4】
【0039】
なお、表3、表4における接触角ヒステリシスとは、凹凸部4が形成されている面と形成されていない面とをそれぞれ傾斜させた状態で水を滴下し、接触面から滑落しない場合には傾斜角を増加させ、接触面から滑落した場合には傾斜角を減少させる。そして、凹凸部4が形成されていない場合よりも、凹凸部4が形成されている場合の角度(接触角ヒステリシス)がどれだけ増加(+)または低減(-)するかを調べた。なお、落下させた水の液量は12μLであり、落下点から傾斜面までの面に直交する距離hは10mmである。
【0040】
また、表3、表4に示すように、このようにほぼ曲率が高い(大きい)ほど、みかけの接触角が高くなることが確認でき、また、曲率が高い(大きい)と、傾斜面での水が流れ易くなることを確認できた。この凹凸部4を有する防汚層2でも、非加工のものと比較すると、水の接触角が、10~38度大きくなり、十分な撥水性の向上を確認できた。なお、この凹凸部4(型5の凹凸部6)のピッチτが165μm~200μmのものも、同様な作用効果が得られると考えられる。
【0041】
図12に示すような基台部7から半球状に突出する凸部6cが縦横に並べられた型5を用いて、
図6、
図7に示すように、半球状の凹部4aが所定ピッチで規則的に並んでなる形状の凹凸部4を形成した。但し、この凹凸部4を有する防汚層2における型5の凹凸部のピッチτは165μm(すなわち、凹凸部4のピッチτも165μm)であり、型5の凹部の幅f1は150μm、凸部の幅は15μm、凹凸比は10:1である。
【0042】
防汚層2のサンプルとして、上記周期構造の凹凸部4を形成し、光触媒を含ませたものと、含ませないものを作成し、屋外で曝露した。上記周期構造の凹凸部4を形成する防汚層2を製造するにあたり、型5の押圧時の移動速度、温度を変えたときのピッチと凹部深さの比と屋外曝露後の防汚性評価を表5に示す。左側列(No.1~4)が光触媒を含ませたもの、右側列(No.5~8)が光触媒を含ませないものである。
【表5】
【0043】
本試料では、曝露期間が6週間程度においては、光触媒の効果が表れない初期状態であると考えられるが、ピッチと凹部深さの比が10:1未満(他のNo.のものよりも転写率が大きい)のNo.1、No.2、No.6、No.8は他のものに比較して汚れが付きにくくなっていることを確認できた。すなわち、ピッチと凹部深さの比が7:1未満にできると、特別な表面処理を行わずに、PVC表面に、周期構造の凹凸部4が作成された防汚層2を用いることで、ある程度の防汚性が発現することを確認できた。
【0044】
なお、曝露期間が14週間のもの(防汚層2)は、光触媒の効果が発現し始めており、汚れ自体が少なくなっていることを確認できた。また、曝露期間が4か月経過したものは、光触媒の効果が発現して、汚れの付着自体が減少していることを確認できた。一方、曝露期間が4か月経過しながら、光触媒を有しないもの(防汚層2)は、雨すじなどを含む汚れが多くなっていることを確認できた。また、曝露期間が1年経過したものは、光触媒の効果が顕著に発現して、汚れが殆どなくなっていることを確認できた。一方、曝露期間が1年経過しながら、光触媒を有しないもの(防汚層2)は、雨すじなどを含む汚れが極めて多くなっていることを確認できた。
【符号の説明】
【0045】
1 基材シート
2 防汚層
2a 基台部
3 接着剤層
4 凹凸部
4a 凸部
4b 凹部
5 型(金型)
6 凹凸部
7 基台部
8 基台部