(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】袋ナット用の電気抵抗溶接電極
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
B23K11/30 311
(21)【出願番号】P 2019068711
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】青山 好高
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/009280(WO,A1)
【文献】特開2009-62192(JP,A)
【文献】特開2000-117456(JP,A)
【文献】特開2017-209708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット本体の片側の端面に溶着用突起が設けられ、他側の端面に円筒部を有するカバー部材が一体化され、ねじ孔の端部にテーパ孔が形成されている袋ナットが、鋼板部品に対する溶接の対象とされており、
可動電極の電極本体の端部に結合した加圧部材に、前記カバー部材の円筒部と前記ナット本体が挿入される受入孔が形成され、
前記電極本体内に摺動可能な状態で収容されたストッパ部材が、永久磁石が収容されている大径部と、永久磁石の吸引力で袋ナットのカバー部材に接触して吸引する小径部によって構成され、
前記ストッパ部材に押出し方向の弾力を作用させる圧縮コイルスプリングが設けられ、
袋ナットが前記小径部に吸引されている状態において、前記加圧部材の加圧面と袋ナットの被加圧面との間に隙間が形成され、
前記可動電極と対をなす固定電極に、載置された鋼板部品の下孔を貫通するガイドピンが設けられ、
前記ガイドピンに前記テーパ孔に合致するテーパ部が形成され、
前記ガイドピンに押出し方向の弾力を付与する圧縮コイルスプリングが設けられ、
前記固定電極における圧縮コイルスプリングの弾力は、前記可動電極における圧縮コイルスプリングの弾力よりも強く設定してあることを特徴とする袋ナット用の電気抵抗溶接電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナット本体にカバー部材が一体化されている袋ナットを溶接の対象とした電気抵抗溶接電極に関している。
【背景技術】
【0002】
特開2000-52049号公報に記載されている電気抵抗溶接電極は、固定電極のガイドピンに、ガイドピンが貫通した状態でテーパ孔付きのナットが支持され、可動電極が進出してそのガイドピンのテーパ部がナットのテーパ孔に合致し、その後、鋼板部品もナットに加圧された状態で溶接電流が通電される。本特許文献に記載されたナット溶接は、ナットをガイドピンが貫通することができるので、両電極のガイドピンを合致させて、両電極間で鋼板部品とナットを挟み付けて、ナットと下孔の同心化がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ナット本体にカバー部材が一体化されている袋ナットの場合には、ガイドピンの貫通が不可能であるから、袋ナットを電極の受入孔に挿入して、袋ナットの外側面を保持するようにしなければならない。このような外側面保持を行う場合には、袋ナットが電極から落下しないように安定した保持を行うとともに、袋ナットと鋼板部品の下孔の同心化を図って、袋ナットと鋼板部品の相対位置を正確に求めることが重要となる。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、可動電極の挿入孔に入った袋ナットのねじ孔と鋼板部品の下孔の同心化を、鋼板部品の下孔を貫通しているガイドピンにテーパ部を形成し、このテーパ部と袋ナットのテーパ孔の合致によって、上記同心化を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
ナット本体の片側の端面に溶着用突起が設けられ、他側の端面に円筒部を有するカバー部材が一体化され、ねじ孔の端部にテーパ孔が形成されている袋ナットが、鋼板部品に対する溶接の対象とされており、
可動電極の電極本体の端部に結合した加圧部材に、前記カバー部材の円筒部と前記ナット本体が挿入される受入孔が形成され、
前記電極本体内に摺動可能な状態で収容されたストッパ部材が、永久磁石が収容されている大径部と、永久磁石の吸引力で袋ナットのカバー部材に接触して吸引する小径部によって構成され、
前記ストッパ部材に押出し方向の弾力を作用させる圧縮コイルスプリングが設けられ、
袋ナットが前記小径部に吸引されている状態において、前記加圧部材の加圧面と袋ナットの被加圧面との間に隙間が形成され、
前記可動電極と対をなす固定電極に、載置された鋼板部品の下孔を貫通するガイドピンが設けられ、
前記ガイドピンに前記テーパ孔に合致するテーパ部が形成され、
前記ガイドピンに押出し方向の弾力を付与する圧縮コイルスプリングが設けられ、
前記固定電極における圧縮コイルスプリングの弾力は、前記可動電極における圧縮コイルスプリングの弾力よりも強く設定してあることを特徴とする袋ナット用の電気抵抗溶接電極である。
【発明の効果】
【0007】
加圧部材の受入孔に挿入された袋ナットが可動電極とともに進出すると、袋ナットのテーパ孔が固定電極のガイドピンに形成されたテーパ部に合致して、袋ナットとガイドピンの相対位置が正確に求められる。このときには、鋼板部品の下孔とガイドピンの同軸性が正確に確保されているので、上記相対位置が高い精度で求められる。
【0008】
ついで、可動電極がさらに進出すると、固定電極側の圧縮コイルスプリングの弾力が、可動電極側の圧縮コイルスプリング弾力よりも強く設定してあるので、ガイドピンは静止したままで、加圧部材の加圧面と袋ナットの被加圧面との間の隙間が消滅する。このときに、袋ナットは可動電極側の圧縮コイルスプリングを押し縮めながら、隙間と同じ長さにわたってストッパ部材を相対的に押し込み、テーパ孔とテーパ部の合致と、隙間の消滅が完了する。この状態では、溶着用突起と鋼板部品表面との間に空隙が残されている。
【0009】
それからさらに可動電極が進出すると、この進出力は加圧部材から袋ナットを経て固定電極側の圧縮コイルスプリングに直接作用して、圧縮コイルスプリングを縮小させ、溶着用突起と鋼板部品表面との間の空隙が消滅する。
【0010】
上記空隙が消滅した状態では、可動電極と固定電極の間で袋ナットと鋼板部品が挟み付けられて、高い精度の同軸性が確保されている。その後、溶接電流が通電されて溶接が完了する。
【0011】
上述の一連の動作によって、袋ナットのねじ孔と鋼板部品の下孔の同心化を、鋼板部品の下孔を貫通しているガイドピンにテーパ部を形成し、このテーパ部と袋ナットのテーパ孔の合致によって、確保している。受入孔に挿入された袋ナットは、受入孔の直径方向に移動することが可能であるが、袋ナットのテーパ孔とガイドピンのテーパ部の合致によって、上記直径方向の移動を矯正して、袋ナットのねじ孔と鋼板部品の下孔との同心性が確保される。すなわち、袋ナットの外側面を可動電極側の受入孔で保持する場合における袋ナットの移動問題が解消される。そして、ガイドピンなどを貫通することができない、袋ナットの特質に対する問題点が解消される。
【0012】
固定電極側の圧縮コイルスプリングの弾力が、可動電極側の圧縮コイルスプリング弾力よりも強く設定してあるので、袋ナットのテーパ孔がガイドピンのテーパ部に対して強く押し付けられ、袋ナットとガイドピンの同軸性が確保される。
【0013】
電極本体内に摺動可能な状態で収容されたストッパ部材が、永久磁石が収容されている大径部と、永久磁石の吸引力で袋ナットのカバー部材に接触して吸引する小径部によって構成され、袋ナットが小径部に吸引されている状態において、加圧部材の加圧面と袋ナットの被加圧面との間に隙間が形成されている。つまり、袋ナットのカバー部材がストッパ部材の小径部に接触した状態で、加圧部材の加圧面と袋ナットの被加圧面との間に隙間が形成されている。このため、上記隙間の存在により、袋ナットのカバー部材が必ず小径部に接触するので、袋ナットは確実な磁石吸引力を受けて、可動電極に対する袋ナットの保持が安定したものとなり、袋ナットの自重や何等かの外力が作用しても、可動電極から落下するようなことがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の袋ナット用の電気抵抗溶接電極を実施するための形態を説明する。
【実施例】
【0016】
【0017】
最初に、可動電極について説明する。
【0018】
クロム銅のような銅合金製導電性金属材料で作られた電極本体1は、円筒状の形状であり、断面円形とされている。この電極本体1は、可動電極であり、エアシリンダ(図示していない)などの進退駆動手段の結合部材2に、テーパ嵌合などで一体化されている。なお、電極本体や後述の加圧部材が主要な部材になって可動電極が構成されている。よって、可動電極の符号も「1」として記載している。
【0019】
電極本体1は、結合部材2に結合されている円筒型の基部材3と、円筒型の接続部材4がねじ部5で一体化されている。電極本体1に、ここでは接続部材4に絶縁材料製で大径孔6と小径孔7が形成された円筒型のガイド筒8が挿入されている。加圧部材9が、電極本体1の端部にねじ部10によって結合されている。この加圧部材9に貫通した状態の円形の受入孔12が形成してあり、そこに後述の袋ナット20が挿入される。加圧部材9の先端面が平坦な加圧面11とされている。電極の中心軸線O-Oは、加圧面11に直交している。なお、ガイド筒8の合成樹脂材料としては、耐熱、耐摩耗性にすぐれたものであればよく、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)を使用するのが望ましい。別の材料として、ポリアミド樹脂の中から、耐熱性、耐摩耗性にすぐれた合成樹脂を採用することも可能である。
【0020】
つぎに、袋ナットについて説明する。
【0021】
袋ナット20は鉄製であり、ナット本体13とカバー部材16によって構成されている。ナット本体13にねじ孔14が形成され、片側の端面に溶着用突起15が設けられている。溶着用突起15は、同一円周上に120度間隔で3個設けてある。他側の端面にカバー部材16が結合してある。カバー部材16は、真っ直ぐな円筒部17と、この円筒部17に滑らかに連なっている球形部18を有したもので、鋼板材料にプレス成型をしたものである。円筒部17の端部がナット本体13に溶接してある。
【0022】
図1(C)に示すように、ナット本体13の直径はカバー部材16の直径よりもわずかに大きく形成してある。ナット本体13の端部にフランジ状の拡径部が形成され、その表面が被加圧面19とされている。なお、ナット本体13は、六角形が一般的である。ここでは、被加圧面19は傾斜面とされている。
【0023】
ねじ孔14の端部に、テーパ孔14cが設けてある。
【0024】
球形部18の頂部に通孔25が開けられている。この通孔25は、袋ナット20が溶接された鋼板部品30を電着塗装の浴槽からつり上げたときに、塗料液を排出するために設けられている。
【0025】
加圧部材9の受入孔12の内径は、ナット本体13の角部間方向の直径よりもわずかに大きくなっている。こうすることによって、袋ナット20を受入孔12に挿入したときに、袋ナット20の直径方向の移動を少なくしてあり、中心軸線O-O方向の移動が許されている。
【0026】
つぎに、ストッパ部材について説明する。
【0027】
ストッパ部材21は、永久磁石22が収容されている断面円形の大径部23と、永久磁石22の吸引力で袋ナット20を吸引するための断面円形の小径部24によって構成されている。大径部23は、断面円形の器状の形とされ、その中に永久磁石22がはめ込んである。また、小径部24は、断面円形の棒状とされ、大径部23に溶接してある。大径部23は、ガイド筒8の大径孔6に摺動可能な状態で挿入されており、小径部24は、ガイド筒8の小径孔7に摺動可能な状態で挿入されている。大径部23は、ステンレス鋼のような非磁性材料で構成してある。また、小径部24は、軟鉄のような磁性材料で構成してある。
【0028】
小径部24に、その先端面にストッパ面27が形成してある。永久磁石22の吸引力が小径部24を経てカバー部材16に作用すると、球形部18の頂部がこのストッパ面27で受け止められる。
【0029】
基部材3の内側に、カップ状の断熱・絶縁材31が差し込んであり、断熱・絶縁材31とストッパ部材21の間に圧縮コイルスプリング32が配置してある。圧縮コイルスプリング32の張力によって、ストッパ部材21の大径部23の端面33が、ガイド筒8の大径孔6の内端面34に押し付けられている。この押し付けによって、ストッパ面27の待機位置が設定される。上記断熱・絶縁材31は、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)のような合成樹脂材で作られている。
【0030】
可動電極1と同軸状態で、固定電極29が配置され、その上に鋼板部品30が載置してある。
【0031】
袋ナット20を受入孔12に挿入する方法としては、作業者が手で受入孔12に差し込んだり、駆動手段で動作する供給ロッドで差し込んだりする。
【0032】
つぎに、固定電極29について説明する。
【0033】
上記可動電極1と対をなす固定電極29は、クロム銅のような銅合金製導電性金属材料で作られた円筒状の電極本体36に、進退式のガイドピン37が組み付けられている。電極本体36は、機枠などの静止部材38に固定されている固定円筒39に、キャップ円筒40がねじ部41を介して一体化されて構成されている。電極本体36には、大径孔42と小径孔43と通孔44が設けられている。
【0034】
ガイドピン37は通孔44を貫通しており、合成樹脂製の摺動部材45と一体化されている。摺動部材45は、大径孔42に摺動可能な状態で挿入されている。摺動部材45とガイドピン37の一体化は、摺動部材45のモールド成型時に一体化したり、ねじ構造で一体化したりすることができる。ここでは後者のねじ構造である。摺動部材45は、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)のような合成樹脂材料で構成するのが望ましい。別の材料として、ポリアミド樹脂の中から、耐熱性、耐摩耗性にすぐれた合成樹脂を採用することも可能である。
【0035】
ガイドピン37が摺動部材45に挿入され、ガイドピン37に設けたボルト46を底部材47に貫通し、ワッシャ48とロックナット49を締め込んで、一体化がなされている。大径孔42の内底部に、絶縁シート50がはめ込んである。
【0036】
ワッシャ48と絶縁シート50の間に圧縮コイルスプリング52が配置してある。圧縮コイルスプリング52の張力は、ガイドピン37を押し出す方向に作用し、摺動部材45の可動端面53が大径孔42の静止内端面54に押し付けられている。この押し付けによって、ストッパ面27の待機位置が設定され、冷却空気の流通が封鎖されている。
【0037】
固定電極29側の圧縮コイルスプリング52の弾力を、可動電極1側の圧縮コイルスプリング32の弾力よりも強く設定してある。
【0038】
電極本体36に冷却空気の通気口55が開けられている。ここから入った冷却空気は、摺動部材45に設けた空気通路56、可動端面53と静止内端面54の開閉部、ガイドピン37と通孔44の間の通気空隙57を通過して、各部の冷却やスパッタの排除などを行う。空気通路56は、摺動部材45の外周面に設けた平面部分や溝によって構成されている。
【0039】
つぎに、ガイドピンについて説明する。
【0040】
ガイドピン37は、ステンレス鋼やセラミック材料などの耐熱・耐摩耗性に優れた材料で作られている。
図1(C)に示すように、ガイドピン37は、小径ピン37aと、大径ピン37bと、小径ピン37aと大径ピン37bの間に形成したテーパ部37cによって構成されている。可動電極1の進出で袋ナット20が進出してくると、テーパ孔14cがガイドピン37のテーパ部37cに合致して、袋ナット20とガイドピン37の同軸状態が形成される。このような同軸状態を確保するために、テーパ孔14cとテーパ部37cのテーパ角度を、同じかまたはほぼ同じにしてある。
【0041】
鋼板部品30に開けられた下孔30bの内径は、ガイドピン37の大径部37bの直径よりも僅かに大きく設定してある。つまり、下孔30bの内径とガイドピン37の大径部37bの径差を、できるだけ少なくすることによって、下孔30bとガイドピン37の偏心量を少なくして、両者の同軸性を高めている。
【0042】
つぎに、動作を説明する。
【0043】
図1(A)に示すように、受入孔12に挿入された袋ナット20は、永久磁石22の吸引力によって小径部24に引きつけられる。これによって、カバー部材16の球形部18が小径部24のストッパ面27に吸着されている。この段階では、圧縮コイルスプリング32は縮むことなく、加圧部材9の加圧面11と、ナット本体13の被加圧面19の間に、隙間L1が確保されている。
【0044】
図2(A)に示すように、加圧部材9の受入孔12に挿入された袋ナット20が可動電極1とともに進出すると、袋ナット20のテーパ孔14cがガイドピン37に形成されたテーパ部37cに合致して、袋ナット20とガイドピン37の相対位置が正確に求められる。このときには、鋼板部品30の下孔30bとガイドピン37の同軸性が正確に確保されているので、下孔30bとナット本体13のねじ孔14の相対位置が高い精度で求められる。
【0045】
ついで、
図2(B)に示すように、可動電極1がさらに進出すると、固定電極29側の圧縮コイルスプリング52の弾力が、可動電極1側の圧縮コイルスプリング32の弾力よりも強く設定してあるので、ガイドピン37は静止したままで、加圧部材9の加圧面11と袋ナット20の被加圧面19との間の隙間L1が消滅する。このときに、袋ナット20は可動電極1側の圧縮コイルスプリング32を押し縮めながら、隙間L1と同じ長さにわたってストッパ部材21を相対的に押し込み、テーパ孔14cとテーパ部37cの合致と、隙間L1の消滅が完了する。この状態では、溶着用突起15と鋼板部品30の表面との間に空隙L2が残されている。
【0046】
それからさらに可動電極1が進出すると、
図2(C)に示すように、可動電極1の進出力は加圧部材9から袋ナット20を経て固定電極29側の圧縮コイルスプリング52に直接作用して、圧縮コイルスプリング52を縮小させ、溶着用突起15と鋼板部品30の表面との間の空隙L2が消滅する。
【0047】
上記空隙L2が消滅した状態では、可動電極1と固定電極29の間で袋ナット20と鋼板部品30が挟み付けられて、高い精度の同軸性が確保されている。その後、溶接電流が通電されて溶接が完了する。
【0048】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0049】
上述の一連の動作によって、袋ナット20のねじ孔14と鋼板部品30の下孔30bの同心化を、鋼板部品30の下孔30bを貫通しているガイドピン37にテーパ部37cを形成し、このテーパ部37cと袋ナット20のテーパ孔14cの合致によって、確保している。受入孔12に挿入された袋ナット20は、受入孔12の直径方向に移動することが可能であるが、袋ナット20のテーパ孔14cとガイドピン37のテーパ部37cの合致によって、上記直径方向の移動を矯正して、袋ナット20のねじ孔14と鋼板部品30の下孔30bとの同心性が確保される。すなわち、袋ナット20の外側面を可動電極1側の受入孔12で保持する場合における袋ナット20の移動問題が解消される。そして、ガイドピン37などを貫通することができない、袋ナット20の特質に対する問題点が解消される。
【0050】
固定電極29側の圧縮コイルスプリング52の弾力が、可動電極1側の圧縮コイルスプリング32の弾力よりも強く設定してあるので、袋ナット20のテーパ孔14cがガイドピン37のテーパ部37cに対して強く押し付けられ、袋ナット20とガイドピン37の同軸性が確保される。
【0051】
電極本体1内に摺動可能な状態で収容されたストッパ部材21が、永久磁石22が収容されている大径部23と、永久磁石22の吸引力で袋ナット20のカバー部材16に接触して吸引する小径部24によって構成され、袋ナット20が小径部24に吸引されている状態において、加圧部材9の加圧面11と袋ナット20の被加圧面19との間に隙間L1が形成されている。つまり、袋ナット20のカバー部材16がストッパ部材21の小径部24に接触した状態で、加圧部材9の加圧面11と袋ナット20の被加圧面1との間に隙間L1が形成されている。このため、上記隙間L1の存在により、袋ナット20のカバー部材16が必ず小径部24に接触するので、袋ナット20は確実な磁石吸引力を受けて、可動電極1に対する袋ナット20の保持が安定したものとなり、袋ナット20の自重や何等かの外力が作用しても、可動電極1から落下するようなことがない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上述のように、本発明の電極によれば、可動電極の挿入孔に入った袋ナットのねじ孔と鋼板部品の下孔の同心化を、鋼板部品の下孔を貫通しているガイドピンにテーパ部を形成し、このテーパ部と袋ナットのテーパ孔の合致によって、上記同心化を確保する。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 可動電極、電極本体
6 大径孔
7 小径孔
8 ガイド筒
9 加圧部材
11 加圧面
12 受入孔
13 ナット本体
14 ねじ孔
14c テーパ孔
15 溶着用突起
16 カバー部材
17 円筒部
19 被加圧面
20 袋ナット
21 ストッパ部材
22 永久磁石
23 大径部
24 小径部
27 ストッパ面
29 固定電極
30 鋼板部品
30b 下孔
32 圧縮コイルスプリング
37 ガイドピン
37a 小径ピン
37b 大径
37c テーパ部
52 圧縮コイルスプリング
L1 隙間
L2 空隙